JP6911835B2 - 微生物の培養方法、および有機化合物の製造方法 - Google Patents

微生物の培養方法、および有機化合物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、糖類を含有する培養液を用いた微生物の培養方法、および当該培養方法によって得られる微生物を用いた有機化合物の製造方法に関するものである。
糖類を原料とした有機化合物の発酵生産プロセスおよび化学変換プロセスは、広く利用されており、また前記各プロセスを経て得られた生産物は、種々の工業原料として利用されている。
発酵生産プロセスおよび化学変換プロセスの原料として使用される糖は、現在はサトウキビ、デンプン、テンサイ、とうもろこし、いも、キャッサバ、サトウカエデなどの可食原料に由来するものが挙げられる。
しかしこれらの可食原料由来の糖は、今後の世界人口増加による可食原料価格の高騰、および天候不順や気候変動による可食原料の供給不足といった懸念がある。また食料不足の際に、可食原料を食用用途と競合して工業原料に利用することに対する懸念もある。そこで非可食原料や不純物を含有するより低純度の糖などから効率的に糖液を製造するプロセス、あるいは得られた糖液を原料として効率的に有機化学品に変換するプロセスの構築が今後の課題となっている。
非可食原料から糖液を得る方法としては、非可食原料中のセルロースやヘミセルロースを、濃硫酸を用いてグルコースに代表されるヘキソースやキシロースに代表されるペントースといった単糖まで加水分解する方法(特許文献1)や、非可食原料の反応性を向上させる前処理を施した後に、酵素反応により加水分解する方法(特許文献2)が挙げられる。
しかし、これらの手法を用いた場合、非可食原料中のセルロース、ヘミセルロースが加水分解され、グルコースやキシロースといった糖が得られると共に、これらの糖の分解反応も進行するだけでなく、リグニンも加水分解される。糖の分解反応やリグニンの加水分解によって、糖類以外のカルボニル化合物が生成し、具体的には例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキサール等の水溶性のアルデヒド化合物やフルフラール、ヒドロキシメチルフルフラールといったフラン誘導体のアルデヒド化合物、ギ酸等の脂肪族のアルデヒド化合物、バニリン等の芳香族のアルデヒド化合物や、ベンゾキノン等のケトン化合物といったカルボニル化合物が生成する。
糖類以外のカルボニル化合物のうち、ホルムアルデヒドやフルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール等のアルデヒド化合物は、微生物を利用した発酵生産プロセスでは、生産効率を低下させる性質を有し、具体的には微生物の増殖阻害や発酵生産阻害を引き起こし、発酵生産の収率を低下させる。これらの化合物は、増殖阻害物質、および発酵阻害物質と呼ばれ(以下、両者を合わせて「阻害物質」と呼ぶ)、非可食原料の糖液を原料として利用する際の大きな課題となる。
これに対し、糖液に含まれる阻害物質を除去する方法として、過剰の水酸化カルシウムを添加する方法(非特許文献1)や還元剤による還元除去法(例えば特許文献3)といった方法が提唱されている。しかしながら、これらの方法は水酸化カルシウムや還元剤といった追加的な原料を添加するためコストがかかるほか、製造プロセスにおいて添加した物質や処理によって生成される不純物等を除去するコストがかかるといった問題がある。一方、追加的な原料を使用せず、発酵に使用する微生物を、阻害物質を含む糖液で培養することで、発酵阻害を低減する方法も提案されている(非特許文献2〜4)。
特表平11−506934号公報 特開2001−95594号公報 国際公開2011/080129号公報
Biotechnology and Bioengineering, vol. 69, No. 5, P526, 2000 Enzyme and Microbial Technology, vol. 38, P279, 2006 Bioresource Technology, vol. 128, P716, 2013 Applied Biochemistry and Biotechnology, vol. 175, No. 6, P3173, 2015
阻害物質を含む糖液を用いて培養を行う方法では、微生物が阻害物質に順応することが考えられる。しかしながら、非特許文献2および3では糖化処理の前処理工程で阻害物質の副生を抑える効果がある亜硫酸ガスまたはリン酸を使用しており、培養培地中の阻害物質濃度が低く阻害物質に十分順応していない可能性がある。
非特許文献4では阻害物質であるヒドロキシメチルフルフラールの濃度が比較的低く、培養によって得た微生物が阻害物質に十分順応していない可能性がある。
これらの文献のように、阻害物質濃度を低くして培養を行うと、増殖速度を高く維持し、発酵に用いる菌体を効率よく得ることは可能であるが、阻害物質に順応できず、発酵阻害を十分に低減できないという問題がある。
本発明の課題は、微生物を阻害物質に順応させ、発酵阻害が十分に軽減されるための微生物の培養方法を提供、および得られた微生物またはその処理物を用いた有機化合物の製造方法を提供するものである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ある特定の条件で培養を行うことで、発酵阻害が顕著に軽減されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]〜[15]に存する。
[1]糖類を含有する培養液中で微生物を培養する方法であって、該培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、該培養液1gに対して175μmol eq以上であることを特徴とする、微生物の培養方法。
[2]前記カルボニル価が、前記培養液1gに対して175μmol eq以上であることを特徴とする、[1]に記載の微生物の培養方法。
[3]前記カルボニル価が、前記培養液1gに対して175μmol eq以上であることを特徴とする、[1]に記載の微生物の培養方法。
[4]前記培養液の、波長260nmにおける吸光度が75以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載の微生物の培養方法。
[5]前記培養液が、ヒドロキシメチルフルフラールを該培養液1gあたり195μg以上含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の微生物の培養方法。
[6]前記培養液が、水溶性アルデヒドを該培養液1gあたり35μg以上含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の微生物の培養方法。
[7]前記培養液がリグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類を含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の培養方法。
[8]前記培養液中の阻害物質が、微生物の生育速度を該阻害物質非存在下の60%以下に低下させる濃度で存在する、[1]〜[7]のいずれかに記載の培養方法。
[9]前記阻害物質が芳香族化合物、フラン誘導体、および脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[8]に記載の培養方法。
[10]前記の微生物が、コリネ型細菌、大腸菌、ザイモモナス(Zymomonas)属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[1]〜[9]のいずれかに記載の培養方法。
[11][1]〜[10]のいずれかに記載の方法で培養した微生物またはその処理物を用意する工程、及び前記微生物または処理物を糖類を含有する発酵原料に作用させる工程を含む、有機化合物の製造方法。
[12]前記発酵原料が、リグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類を含む、[11]に記載の有機化合物の製造方法。
[13]前記発酵原料における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、前記培養液のカルボニル価の40%以上である、[11]または[12]に記載の有機化合物の製造方法。
[14]前記有機化合物が、アルコール類、アミン類、カルボン酸類、およびフェノール類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、[11]〜[13]のいずれかに記載の有機化合物の製造方法。
[15]前記有機化合物が、炭素数4以下のアルコールである、[11]〜[14]のいずれかに記載の有機化合物の製造方法。
本発明の培養方法によれば、増殖阻害物質および/または発酵阻害物質を含む糖液を用いた有機化合物の発酵生産に用いた場合に、前記有機化合物の生産速度を向上させる微生物を得ることができる。
また、本発明の製造方法によれば、増殖阻害物質および/または発酵阻害物質を含む糖液を用いた有機化合物の発酵生産において、前記有機化合物の生産速度を向上させることができる。
以下、本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内であれば種々に変更して実施することができる。
本発明は、阻害物質を含む糖類を含有する培養液を用いた微生物の培養方法(以下、「本発明の培養方法」)、および当該培養方法によって得られた微生物またはその処理物を用いた有機化合物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」)である。以下、本発明の培養方法、および製造方法について、詳細に説明する。
<微生物の培養方法(培養工程)>
本発明の培養方法は、糖類を含有する培養液中で微生物を培養する際に、該培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、該培養液1gに対して100μmol eq以上、好ましくは175μmol eq以上、より好ましくは220μmol eq以上、さらに好ましくは250μmol eq以上であることを特徴とする。
本発明の培養方法は、後述する発酵工程により有機化合物の製造する際に、発酵に供する微生物菌体を調製するために行なうものであり、本発明の製造方法における培養工程と位置づけることができる。本発明の培養方法は主として発酵原料に含まれる増殖阻害物質、および発酵阻害物質に菌体を順応させることを目的とする。後述の種培養を行う場合は、種培養により得られた菌体を用いて培養工程を行う。
本発明の培養方法(培養工程)に用いる培養液は、微生物の増殖阻害物質、および/または発酵阻害物質を一定以上の濃度で含むことで、前記微生物を阻害物質に順応させることができる。培養工程における阻害物質濃度が低い場合、阻害物質に十分順応することができず、続く発酵工程での発酵阻害を顕著に改善することができない。
具体的には、糖類を除く化合物に由来するカルボニル価の値が、培地1gあたり100μmol eq以上、好ましくは175μmol eq以上、より好ましくは220μmol eq以上であり、さらに好ましいのは250μmol eq以上である。ただし、あまりにもカルボニル価が高い場合、微生物の増殖が著しく悪化もしくは停止し、微生物またはその処理物を必要量確保することが困難になるという理由から、通常、2200μmol eq以下であることが好ましい。
本発明において、カルボニル価とは培養液中のカルボニル成分の総量を示す指標であり、後述する阻害物質以外に、還元性を持つ糖類に由来するカルボニル成分も含まれる。そのため、還元性を持つそれぞれの糖類について、既知の濃度の溶液を用いてあらかじめカルボニル価を測定し、糖の濃度からカルボニル価を算出する係数を求めておく必要がある。得られた係数と糖液中の糖濃度を用いて、前記糖類由来のカルボニル価を差し引くことで、糖液に含まれる糖類を除く化合物に由来するカルボニル価を求めることができる。この糖類を除く化合物に由来するカルボニル価は、主として、阻害物質として働くカルボニル成分の量に相関すると考えられる。よって、本発明の培養方法では、糖類を除く化合物に由来するカルボニル価を上記範囲とすることによって、微生物を阻害物質に十分順応させることができる。
(阻害物質)
本発明の培養方法(培養工程)に用いる培養液は、糖類の原料から糖類を抽出する際に、該原料の分解などにより副生物として生じる種々の成分のうち、微生物の増殖阻害や発酵生産阻害を引き起こす阻害物質を含む。
培養液に含まれる阻害物質は、当該阻害物質を含まない条件と比較して微生物の増殖や発酵速度および生産量を低下させる作用をもつカルボニル化合物であれば特に限定されない。具体的にはクマル酸やバニリンなどの芳香族化合物、フルフラールやヒドロキシメチルフルフラール等のフラン誘導体、ギ酸や酢酸といった脂肪族の弱酸(脂肪酸)、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキサール等の水溶性アルデヒド類が挙げられる。
水溶性アルデヒドとは、アルデヒド基を持つ、親水性の性質を持つ有機化合物であれば特に限定されない。一般に水溶性アルデヒドとはアルデヒド基1に対して炭素3以下の化合物であることが多く、具体的にはホルムアルデヒド、ヒドロキシアルデヒド、グリオキサール、メチルグリオキサール、アセトアルデヒド等が挙げられる。水溶性アルデヒドは水への溶解度が高いため、水溶性アルデヒド以外のカルボニル化合物と比較して、低濃度であっても水系である培養液中での微生物への生育阻害、および発酵阻害を引き起こす。
(糖類)
本発明の培養方法では、糖液を含有する培養液で微生物を培養する。使用する糖類は、特に限定はされず、いわゆる一般的な糖類を用いることができるが、微生物が炭素源としても活用することができる糖が好ましい。具体的には、グリセルアルデヒド等の炭素数3の単糖(トリオース);エリトロース、トレオース、エリトルロース等の炭素数4の単糖(テトロース);、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、デオキシリボース、キシルロース、リブロース等の炭素数5の単糖(ペントース);アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース、フコース、フクロース、ラムノース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等の炭素数6の単糖(ヘキソース);セドヘプツロース等の炭素数7の単糖(ヘプトース);スクロース、ラクトース、マルトース、トレハノース、ツラノース、セロビオース等の二糖類;ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース等の三糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナオリゴ糖などのオリゴ糖類;デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グルカン、ペントサン等の多糖類等が挙げられる。本発明で用いる培養液および発酵原料には上記の糖類1種類を単独で含有していてもよいし、2種類以上を含有していてもよい。
上述した糖類の中でも、炭素数3以上7以下の単糖を構成成分として含む糖類が好ましい。これらの中でも、ヘキソース、ペントース、およびこれらを構成成分とする二糖類からなる群から選ばれる少なくとも一種がより好ましい。これらは自然界、植物の構成成分となっていることから豊富に存在し、原料の入手が容易なためである。
ヘキソースとしては、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトースが好ましく、グルコースがより好ましい。ペントースとしてはキシロース、アラビノースが好ましく、キシロースがより好ましい。ヘキソース、およびペントースを構成成分とする二糖類としては、スクロースが好ましい。グルコース、キシロース、スクロースは、自然界、植物の主な構成成分となっているため、原料の入手が容易なためである。
(糖類の由来、製法)
本発明の培養方法で用いる糖類の由来について特に限定はされないが、例えば1種類以上の前記糖類を構成成分として含む植物体またはその一部を糖類まで分解したものや1種類以上の前記糖類を構成成分として含む植物体またはその一部から糖類を抽出したものが挙げられる。具体的には、リグノセルロース分解物や、スクロース含有物、デンプン分解物等が挙げられる。
好ましい糖類の原料として、リグノセルロース原料が挙げられる。リグノセルロース原料とは、構造性多糖のセルロース、ヘミセルロース、および芳香族化合物の重合体のリグニンから構成されるリグノセルロースを含む有機物である。リグノセルロース原料は、通常、食用にはできず、通常であれば廃棄、焼却処理をされるものが多いため、安定して供給でき、資源を有効利用できる点で好ましい。
リグノセルロース原料としては、バガス、コーンストーバー、麦わら、稲わら、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、ササ、ススキ等の草本系バイオマスや、廃木材、オガ粉、樹皮、古紙等の木質系バイオマス等を好適に用いることができる。中でも、バガス、コーンストーバー、麦わらが好ましく、得られる糖化液に含まれる阻害物質の構成の点でバガスがより好ましい。
上述のリグノセルロース原料から糖類を得る方法(以下、「糖化方法」)は、特に限定されないが、例えば、リグノセルロース原料に対して必要に応じて前処理を施した後、酵素、酸、亜臨界水、超臨界水等による加水分解、または熱分解を行う方法等が挙げられる。
本発明の培養方法で用いる培養液中の糖類としては、リグノセルロース原料から糖類を得る効率が高く、また、微生物を順応させるための阻害物質が糖化液中に副生物として含まれることから、リグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類が好ましく、培養液に該糖類を含む糖化液をそのまま使用することが特に好ましい。
(糖化方法)
前述の糖化方法の中でも、コストの点から酸性物質で浸漬したリグノセルロース原料を高温下で前処理を施し、セルラーゼ等の加水分解酵素を用いて糖化する方法が好ましい。酸性物質はリグノセルロース分解原料のpHを下げることができれば特に制限はなく、硫酸、リン酸のほか、亜硫酸ガス等を用いることができるが、後段の反応であるセルラーゼ等による加水分解反応を進みやすくするために、酸化力の強い硫酸が好ましい。
酸性物質の添加量はリグノセルロース原料の重量に対して、通常0.1wt%以上、10wt%以下であり、好ましくは1wt%以上、5wt%以下である。前処理の温度と時間条件は、後段の反応であるセルラーゼ等による加水分解反応を進みやすくする条件であれば特に制限はないが、温度条件は通常150℃以上200℃以下であり、好ましくは165℃以上、190℃以下であり、時間は通常1分以上、30分以下であり、好ましくは3分以上20分以下である。前記範囲内の温度と時間で前処理を実施すれば、後段のセルラーゼ等による加水分解反応を促進しつつ、過剰な阻害物質の生成を抑え、培養液のカルボニル価を前記範囲内に収めることができる点で好ましい。
本発明の培養方法に用いる糖類を含む培養液は、当業者によって広く行われうる公知の方法によって滅菌処理を行って、本発明で使用する目的の微生物のみとなるような環境で培養することが好ましい。
例えば、加熱による滅菌処理では、滅菌処理の効果が十分に得ることができれば加熱条件は特に制限はされないが、加熱温度は通常100℃以上180℃以下であり、下限として好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上であり、上限として好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下である。前記範囲内の温度で加熱することにより、滅菌効果を十分に得ることができ、かつ加熱による糖の分解を抑制し、阻害物質の増加を抑えることができるためである。
また、加熱処理を行う場合は、加熱前に培養液のpHを調整することが好ましい。好ましいpHの範囲は6〜8であり、適宜、塩酸や硫酸などの酸やアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等の塩基を添加して上記範囲に調整することが好ましい。上記範囲であれば、糖の分解が促進されず、糖濃度を維持し、また過剰な阻害物質の生成を抑制することができる点で好ましい。
前記加熱処理の処理時間は前記滅菌処理の効果が得られれば、特に制限はされないが、通常1分以上、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上であり、通常5時間以下、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分以下である。前記範囲内であれば、十分な滅菌処理の効果が得られるためである。前記処理時間は前記滅菌処理の効果が十分に得られる条件を適宜選択することができる。
培養液を加熱する手段は、前記の加熱温度に加熱できれば特に限定されず、培養液の処理量や組成に応じ、適宜選択することができる。具体的にはタンク等を使用して培養液を回分式で加熱する方法や、連続殺菌器等を使用して培養液を通液しながら連続式で加熱する方法がある。また、加熱の方法としては、熱媒体、例えば蒸気をタンクや連続殺菌器等の装置内に直接導入して培養液を加熱する方法や、装置内に備えた熱交換器を使用して熱媒体、例えば蒸気などと間接的に接触させることで培養液を加熱する方法などがある。このうち大量処理をする際には連続式で加熱する方法が処理の効率が良い点で好ましい。
(培養液)
本発明の培養方法(培養工程)に用いる培養液の260nmの吸光度は、微生物を阻害物質に十分順応させるために必要な阻害物質が含まれていれば特に制限はないが、75以上が好ましく、より好ましくは80以上であり、更に好ましくは85以上である。波長260nmはカルボニル化合物以外の影響を抑えながらカルボニル化合物の濃度を把握することに適しており、培地の260nmの吸光度が前記範囲内にあれば、微生物が阻害物質に十分順応できるカルボニル化合物濃度となる。ただし、あまりにも260nmの吸光度が高い場合、微生物の増殖が著しく悪化もしくは停止し、微生物またはその処理物を必要量得ることが困難になるという理由から、通常、970以下であることが好ましい。
本発明の培養方法(培養工程)に用いる培養液に含まれるヒドロキシメチルフルフラールの濃度は、微生物を阻害物質に十分順応させるために必要な阻害物質が含まれていれば特に制限はないが、培養液1gあたり195μg以上が好ましく、より好ましくは220μg以上であり、さらに好ましくは250μg以上である。ヒドロキシメチルフルフラールは六炭糖の過分解によって生成される代表的な阻害物質であり、ヒドロシキメチルフルフラールが前記範囲内にあれば、微生物は阻害物質に十分順応することができる。ただし、あまりにもヒドロキシメチルフルフラールの濃度が高い場合、微生物の増殖が著しく悪化もしくは停止し、微生物またはその処理物を必要量得ることが困難になるという理由から、通常、2600μg以下であることが好ましい。
本発明の培養方法(培養工程)に用いる培養液に含まれるフルフラールの濃度は、微生物を阻害物質に十分順応させるために必要な阻害物質が含まれていれば特に制限はないが、培養液1gあたり380μg以上が好ましく、より好ましくは390μg以上であり、さらに好ましくは400μg以上である。フルフラールは五炭糖の過分解によって生成される代表的な阻害物質であり、フルフラールが前記範囲内にあれば、微生物は阻害物質に十分順応することができる。ただし、あまりにもフルフラールの濃度が高い場合、微生物の増殖が著しく悪化もしくは停止し、微生物またはその処理物を必要量得ることが困難になるという理由から、通常、2300μg以下であることが好ましい。
本発明の培養方法(培養工程)に用いる培養液に含まれる水溶性アルデヒドの濃度は、微生物を阻害物質に十分順応させるために必要な阻害物質が含まれていれば特に制限はないが、培養液1gあたり、35μg以上が好ましく、より好ましくは40μg以上であり、特に好ましいのは45μg以上である。水溶性アルデヒドは水への溶解度が高いため、水溶性アルデヒド以外のカルボニル化合物と比較して、低濃度であっても水系である培養液中での微生物への生育阻害、および発酵阻害を引き起こす。水溶性アルデヒドの濃度が前記の範囲内にあれば、微生物は阻害物質に十分順応することができる。ただし、あまりにも水溶性アルデヒドの濃度が高い場合、微生物の増殖が著しく悪化もしくは停止し、微生物またはその処理物を必要量確保することが困難になるという理由から、通常、460μg以下であることが好ましい。
本発明の培養方法(培養工程)に用いる培養液は前記糖類以外に窒素源や無機塩などを含む培地であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本微生物が資化して増殖できる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、培養時の発泡を抑えるために、培地には市販の消泡剤を適量添加しておくことが好ましい。
本発明の培養方法(培養工程)に用いる培養液に含まれる前記糖類の使用濃度は特に限定されないが、培養液に対して、通常0.1〜20%(W/V)、好ましくは0.5〜10%(W/V)の範囲内で用いることができる。また、増殖に伴う前記糖類の減少にあわせ、糖類を追加で添加してもよい。
また、本発明で用いる糖類を含む培養液は、本発明の効果が得られる範囲内で、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、糖類の原料から糖類を得た際に生じる、糖類および阻害物質以外の副生成物や不純物等が挙げられる。具体的には、脂肪族共役アルコール等のアルコール化合物、キシリトール、リビトール、ソルビトール、イノシトール、グリセロール等の糖アルコール、リグニン由来のフェノール化合物、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、窒素化合物、硫黄化合物、ハロゲン化合物、硫酸イオン等の無機化合物等が挙げられる。但し、リグニン等に由来する固形物に関しては、取扱い性を考慮して濾過や吸着等を用いて除去することが好ましい。
(培養条件)
本発明の培養方法(培養工程)、一般的な生育至適温度で行なうことが好ましい。具体的な培養温度としては、通常25℃〜40℃であり、30℃〜37℃が好ましい。酵母菌の場合は、通常25℃〜40℃であり、25℃〜35℃がより好ましく、約30℃が特に好ましい。
また、本発明の培養方法(培養工程)は、一般的な生育至適pHで行なうことが好ましい。具体的な培養pHとしては、通常pH4〜10であり、酵母菌の場合は、pH4〜6が好ましい。
また、本発明の培養方法(培養工程)の培養時間は、一定量の菌体が得られる時間であれば特段の制限はないが、通常6時間以上120時間以下である。また、本培養においては、通気したり攪拌したりして、酸素を供給することが好ましい。
本発明の培養方法(培養工程)で得られた菌体は、後述する発酵工程に用いることができるが、培養液を直接用いてもよいし、遠心分離、膜分離等によって菌体を回収した後に用いてもよい。
(種培養)
本発明の培養方法を行うに当たっては、寒天培地等の固体培地で培養したものを直接用いてもよいが、培養工程に先立ち、必要に応じて上記微生物を予め液体培地で培養したものを用いてもよい。即ち、種培養を行なうことで、微生物を予め増殖させた後に、本発明の培養方法(培養工程)を行なうこともできる。
種培養は、本発明の培養方法(培養工程)に供する微生物の菌体を調製するために行なうものである。種培養に用いる培地は、微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができるが、窒素源や無機塩などを含む培地であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本微生物が資化して増殖できる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物等が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。
種培養においては、必要に応じて、前記培地に炭素源を添加してもよい。種培養に用いる炭素源としては、前記微生物が資化して増殖し得るものであれば特に限定されないが、通常、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、キシロース、アラビノース、スクロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセロール、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース、スクロース、またはフルクトースが好ましく、特にグルコースまたはスクロースが好ましい。これらの炭素源は、単独で添加してもよいし、組み合わせて添加してもよい。
種培養は、一般的な生育至適温度で行なうことが好ましい。一般的な生育至適温度とは、有機化合物の生産に用いられる条件において最も生育速度が速い温度のことを言う。具体的な培養温度としては、通常25℃〜40℃であり、30℃〜37℃が好ましい。酵母菌の場合は、通常25℃〜40℃であり、25℃〜35℃がより好ましく、約30℃が特に好ましい。
種培養は、一般的な生育至適pHで行なうことが好ましい。一般的な生育至適pHとは、有機化合物の生産に用いられる条件において最も生育速度が速いpHのことを言う。具体的な培養pHとしては、通常pH3〜10であり、酵母菌の場合は、通常pH4〜6が好ましい。
また、種培養の培養時間は、一定量の菌体が得られる時間であれば特段の制限はないが、通常6時間以上120時間以下である。また、種培養においては、通気したり攪拌したりして、酸素を供給することが好ましい。
種培養後の菌体は、本発明の培養方法(培養工程)に用いることができるが、種培養については省略してもよく、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接培養工程に用いてもよい。また、必要に応じて、種培養を何度か繰り返し行ってもよい。
(増殖速度)
本発明の培養方法(培養工程)における微生物の増殖速度は、微生物を阻害物質に十分順応させることができれば特に制限はないが、通常、糖源として精製糖や結晶糖を用いた培地条件下、すなわち、増殖阻害物質非存在下での増殖速度に対し、本発明の培養方法(培養工程)に用いる培地で培養した際の増殖速度は、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。更に好ましくは55%以下であり、特に好ましいのは52%以下である。ただし、増殖速度を比較する場合には、培地に含まれる糖類以外の培養条件、例えば培養温度や酸素供給およびpHは、同等の条件下で比較した値である。ただし、あまりにも微生物の増殖が悪化もしくは停止した場合、微生物またはその処理物を必要量得ることが困難になるという理由から、通常5%以上に維持することが好ましい。
ここで、本明細書中で増殖速度とは、培養開始時の菌体濃度と、定常期に至る前の任意の時点での菌体濃度の値を用い、下式(1)から求めたものをいう。
増殖速度 ={ln(Xt/X0)}/t ・・・(1)
(Xt:定常期に至る前の任意の時点での菌体濃度、X0:培養開始時の菌体濃度、t:任意の時点までの培養時間)
また、菌体濃度の測定は当業者による公知の方法によって実施することができるが、例えば波長660nmの吸光度を菌体濃度とすることができる。
(微生物)
本発明の培養方法で用いる微生物は、後続の発酵工程で目的とする有機化合物を生産する能力を有する微生物であれば、特に限定はされない。
本発明で用いる微生物の種類としては、特に限定されないが、コリネ型細菌、大腸菌、アナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、マンヘミア(Mannheimia)属細菌、バスフィア(Basfia)属細菌、ザイモモナス(Zymomonas)属細菌、ザイモバクター(Zymobacter)属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選択される微生物であることが好ましい。これらの中でも、コリネ型細菌、大腸菌、アナエロビオスピリラム属細菌、アクチノバチルス属細菌、マンヘミア属細菌、バスフィア属細菌、ザイモモナス属細菌、ザイモバクター属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、より好ましくはコリネ型細菌、大腸菌、ザイモモナス属細菌、糸状菌、酵母菌であり、特に好ましくは酵母菌である。
本発明で使用可能な酵母菌としては、サッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Shizosaccharomyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、ヤロウィア属(Yarrowia)、チゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)が挙げられる。
上記サッカロミセス属(Saccharomyces)としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ウバラム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・バイアヌス(Saccharomyces bayanus)等が挙げられる。また、上記シゾサッカロミセス属(Shizosaccharomyces)としては、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等が挙げられる。また、上記カンジダ属(Candida)としては、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・ソノレンシス(Candida sonorensis)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)等が挙げられる。また、上記ピキア属(Pichia)としては、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)等が挙げられる。
また上記クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)としては、クルイウェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイウェロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイウェロマイセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)等が挙げられる。また上記ヤロウィア属(Yarrowia)としては、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)等が挙げられる。また上記チゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)としては、チゴサッカロミセス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailii)、チゴサッカロミセス・ロウキシ(Zygosaccharomyces rouxii)等が挙げられる。
本発明で使用可能な酵母菌の特に好ましい具体例としては、サッカロミセス・セレビシエS288C株、同PE−2株等が挙げられる。サッカロミセス・セレビシエPE−2株は、National Collection of Yeast Cultures(NCYC)に受託番号3233として寄託されている。
また、本発明で使用可能なコリネ型細菌は、これに分類されるものであれば特に制限されないが、コリネバクテリウム属に属する細菌、ブレビバクテリウム属に属する細菌、アースロバクター属に属する細菌などが挙げられ、このうち好ましくは、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属に属するものが挙げられ、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)またはブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に分類される細菌である。
また、本発明で使用可能な大腸菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等が挙げられる。また、本発明で使用可能なアナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属細菌としては、アナエロビオスピリラム・サクシニシプロデュセン(Anaerobiospirillum succiniciproducens)等が挙げられる。
また、本発明に使用可能なアクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌としては、アクチノバチルス・サクシノジェネス(Actinobacillus succinogenes)等が挙げられる。また、本発明に使用可能なマンヘミア(Mannheimia)属細菌としては、バスフィア・サクシニシプロデュセン(Mannheimia succiniciproducens)等が挙げられる。
また、本発明で使用可能なバスフィア(Basfia)属細菌としては、バスフィア・サクシニシプロデュセン(Basfia succiniciproducens)等が挙げられる。また、本発明で使用可能なザイモモナス(Zymomonas)属細菌としては、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)等が挙げられる。また、本発明で使用可能なザイモバクター(Zymobacter)属細菌としては、ザイモバクター・パルメ(Zymobacter palmae)等が挙げられる。
また本発明で使用可能な糸状菌としては、Aspergillus属、Penicillium属、Rhizopus属等が挙げられる。このうち、Aspergillus属では、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)等が挙げられ、Penicillium属では、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)等が挙げられる。また、Rhizopus属では、リゾパス・オリゼー(Rhizopus oryzae)等が挙げられる。
上記微生物は、野生株だけでなく、UV照射やNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合もしくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
本発明で用いる微生物は、本来的に有機化合物生産能を有する微生物であっても、育種により有機化合物生産能を付与したものであってもよい。
例えば、上述した微生物にエタノールやブタンジオール、ブタノール等の脂肪族アルコール生産能を付与したい場合は、アルコールデヒドロゲナーゼ活性を増強する改変などを必要に応じて行なう。
本発明で用いる微生物は、本来的に本発明で使用する糖類の資化能を有する微生物であっても、育種により糖類の資化能を付与したものであってもよい。
例えば、上述した微生物にキシロース等の五炭糖資化能を付与したい場合には、ペントースイソメラーゼ活性を増強する改変などを必要に応じて行う。
なお、本発明に用いる微生物は、有機化合物生産能を付与するための改変、および糖類の資化能を付与するための改変のうちの2種類以上の改変を組み合わせて得られる微生物であってもよい。複数の改変を行う場合、その順番は問わない。
<有機化合物の製造方法>
本発明の製造方法は、上述の培養方法によって培養する培養工程で得られた微生物、またはその処理物を用意し、糖類を含有する発酵原料に作用させる発酵工程を経て、有機化合物を製造する方法である。よって、培養工程で増殖阻害物質、および発酵阻害物質に順応した微生物を用いることによって、発酵工程における有機化合物の生産速度を向上させることができる。
本発明の製造方法においては、培養工程で得られた微生物と同様に、該微生物の処理物を使用することもできる。微生物の処理物としては、例えば、上述した本発明の微生物の菌体をアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した固定化菌体、菌体を破砕した破砕物、その遠心分離上清、またはその上清を硫安処理等で部分精製した画分等が挙げられる。
(発酵原料)
本発明の製造方法で用いられる発酵原料は糖類を含有する。ここで、糖類としては、前述の培養工程の培養液で使用される糖類と同じものが好ましい態様として挙げられる。また、糖類の由来、製法としても、同じものが好ましい態様として挙げられる。これは、培養工程において微生物が順応した阻害物質の組成が発酵原料に含まれる阻害物質の組成と近いほうが、順応による発酵阻害の軽減効果をより強く得られるという点で好ましい。よって、発酵原料はリグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類を含むことが好ましく、発酵原料中に該糖類を含む糖化液をそのまま使用することが特に好ましい。
本発明の製造方法で用いられる発酵原料は、本発明の効果を顕著に奏するために、培養工程の培養液と同様の阻害物質を含むことが好ましい。
例えば、発酵原料における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、前記培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価の40%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは100%以上、通常250%以下とする。
発酵原料としては、例えば、微生物の培養に適した培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよいが、反応液は窒素源や無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本微生物が資化して有機化合物を生成させうる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、反応時の発泡を抑えるために、反応液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが好ましい。
発酵工程における発酵原料のpHは、用いる上記微生物の種類に応じて、その活性が最も有効に発揮される範囲に調整されることが好ましい。具体的には、酵母菌を用いる場合には、反応液のpHを、通常3以上、好ましくは4.0以上とし、一方、通常7以下、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.5以下とすることが好ましい。
発酵原料のpHは、生産される有機化合物が酸性物質である場合には、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アンモニア(水酸化アンモニウム)、またはそれらの混合物等を添加することによって調整することができる。生産される有機化合物が塩基性物質である場合には、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸等の有機酸、それらの混合物等を添加すること、または二酸化炭素ガスを供給することによって調整することができる。
発酵原料に含まれる前記糖類の使用濃度は特に限定されないが、有機化合物の生成を阻害しない範囲で可能な限り高くすると生産性の点で有利であり、好ましい。発酵原料中の糖濃度は通常5%(W/V)以上、好ましくは10%(W/V)以上であり、一方、通常30%(W/V)以下、好ましくは20%(W/V)以下である。また、有機化合物の生産反応の進行に伴う前記糖類の減少にあわせて、糖類を追加で添加してもよい。
(有機化合物)
本発明の製造方法で、微生物が生産する有機化合物としては、微生物が培地中に生成蓄積することができる有機化合物であれば特に限定されないが、具体的には、エタノール、プロパノール、ブタノール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール等のアルコール類;1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン等のアミン類;酢酸、酪酸、グリコール酸、乳酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、ピルビン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、シス−アコニット酸、クエン酸、イソクエン酸、2−オキソグルタル酸、2−オキソイソ吉草酸、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、レブリン酸、キナ酸、シキミ酸、アクリル酸、メタクリル等のカルボン酸類;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、アルギニン、メチオニン、ヒスチジン、システイン、セリン、トレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、トリプトファン等のアミノ酸類;フェノール、カテコール、ハイドロキノン等のフェノール類;安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、プロトカテク酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族カルボン酸類;イノシン、グアノシン等のヌクレオシド類、イノシン酸、グアニル酸等のヌクレオチド;イソブチレン、イソプレン、ブタジエン等の不飽和炭化水素化合物等が挙げられる。
これらの中でも、発酵生産を行なう際に公知の方法を採用でき、かつ、樹脂原料として使用可能であることから、アルコール類、アミン類、カルボン酸類、フェノール類が好ましく、炭素数4以下のアルコール類がより好ましい。
(その他の条件)
有機化合物生産反応(発酵工程)に用いる微生物の菌体量は、特に限定されないが、湿菌体重量として、通常1g/L以上、好ましくは10g/L以上、より好ましくは20g/L以上であり、一方、通常400g/L以下、好ましくは300g/L以下、さらに好ましくは200g/L以下である。
有機化合物生産反応(発酵工程)の時間は、特に限定はないが、通常1時間以上、好ましくは3時間以上であり、一方、通常168時間以下、好ましくは72時間以下である。
有機化合物生産反応(発酵工程)の温度は、用いる前記微生物の生育至適温度と同じ温度で行ってもよいが、生育至適温度より高い温度で行うことが有利であり、通常2℃〜20℃、好ましくは7℃〜15℃高い温度で行う。具体的には、酵母菌の場合には、通常33℃以上、好ましくは35℃以上であり、一方、通常40℃以下、好ましくは38℃以下である。有機化合物生産反応の間、常に33℃〜40℃の範囲とする必要はないが、全反応時間の50%以上、好ましくは80%以上の時間において、上記温度範囲にすることが望ましい。
有機化合物生成反応における、通気、攪拌については特段の制限はない。
本発明の有機化合物の製造方法は、特段の制限はないが、回分反応、半回分反応もしくは連続反応のいずれにも適用することができる。
<回収工程>
本発明の製造方法では、上記の有機化合物生成反応(発酵工程)により有機化合物が生成し、反応液中に蓄積させることができる。蓄積させた有機化合物は、常法に従って、水性媒体より回収する工程をさらに含んでいてもよい。具体的には、例えば、蓄積させた有機化合物がエタノール、ブタノール、ブタンジオール等のアルコールである場合には、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除去した後、蒸留等で濃縮し、その溶液を膜脱水するなどして、アルコールを回収することができる。蓄積させた有機化合物がコハク酸、フマル酸、リンゴ酸等のカルボン酸である場合には、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除去した後、イオン交換樹脂等で脱塩し、その溶液から結晶化(晶析)あるいはカラムクロマトグラフィーにより精製するなどして、カルボン酸を回収することができる。
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
<液相クロマトグラフ(LC)分析>
以下の製造例、実施例および比較例の糖液中のグルコース、キシロース、フルクトース、スクロース、エタノール、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール存在量は、液相クロマトグラフ(LC)分析により、絶対検量線法を用いて求めた。分析条件は以下の通りである。
(LC分析条件1:エタノール、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラールの分析条件)
カラム:ULTRON PS−80H 8.0ID×300mmL(信和化工社製)
温度:60℃
溶離液:0.18重量%過塩素酸溶液 1.0mL/分
検出方法:UV(280nm),RI
注入量:10μL
(LC分析条件2:グルコース、キシロース、フルクトース、スクロースの分析条件)
カラム:Cosmosil Sugar−D 4.6mm×250mm (ナカライテスク社製)
温度:40℃
溶離液:75%アセトニトリル水溶液
流速:1.0mL/分
検出方法:RI
注入量:10μL
<ガスクロマトグラフ(GC)分析>
以下の製造例、実施例および比較例の糖液中の水溶性アルデヒドである、ホルムアルデヒド(FAL)、アセトアルデヒド(AAL)、ヒドロキシアルデヒド(HAL)、グリオキサール(GO)、メチルグリオキサール(MGO)の存在量は、ガスクロマトグラフ(GC)分析により、絶対検量線法を用いて求めた。分析手順、および条件は以下の通りである。
(前処理)
まず、ペンタフルオロベンジルヒドロキシルアミン塩酸塩(PFBOA)0.40gをイソプロパノール35gに溶解させた後、蒸留水を加えて液量を100mLとし、PFBOA溶液を調製した。次に、0.02wt%のトルエン(試薬特級)を含むヘキサン溶液を、重量を正確に秤量して調製し、これを内部標準液とした。次に、試料1mLを5mLガラス容器にとり、前記PFBOA溶液2mLを加え、容器を密閉後、30分間撹拌した。その後、ヘキサン(試薬特級)を1mL加え、さらに30分間撹拌した。ヘキサン層を分液し、前記内部標準液を0.1mL加えた。この溶液を以下に示すGC分析条件で分析を行った。
(標準液の調製)
水溶性アルデヒド濃度を算出するために用いた検量線を作製するにあたり、次の方法で各水溶性アルデヒドの標準液を調製した。FAL、AALの標準液はPFBOA−FAL標準液(和光純薬工業社製)およびPFBOA−AAL標準液(和光純薬工業社製)をヘキサンに溶解し、この溶液に前記内部標準液を0.1mL加えて調製した。HAL、GO、MGOの標準液はそれぞれの試薬(試薬特級)を前記前処理で調製した。この標準液を以下に示すGC分析条件で分析を行った。
(GC分析条件)
カラム:Agilent J&W GCカラム DB−1 長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm(Agilent Technologies社製)
カラム温度:100℃から10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、300℃で5分間保持
キャリアガス:He
流速:24.1mL/分
圧力:19.5psi
注入法:スプリット比11.2
スプリットフロー:16.8mL/分
注入口温度:300℃
試料注入量:1μL
<糖類を除く化合物に由来するカルボニル価>
糖類を除く化合物に由来するカルボニル価の分析方法を以下に示す。
カルボニル価は非可食糖化液を塩酸ヒドロキシルアミンと反応させ、生じた塩酸の中和に要した水酸化カリウム量を測定することで、試料中のカルボニル成分の総量を求めることができる。ただし、この方法では試料に元来含まれる酸を含んだ中和滴定になるだけでなく、還元性を持つ糖類に由来するカルボニル成分も含まれる。そのため、まず塩酸ヒドロキシルアミンと反応させる前の試料について中和滴定を行い、試料に含まれる酸を中和するために必要な水酸化カリウム量を求めた。次に前記LC分析で求めたグルコース、フルクトース、キシロースの濃度と、あらかじめ求めた糖濃度からカルボニル価を算出する係数を用い、糖類に由来するカルボニル価を求めた。これらの値を差し引くことで試料中の糖類を除く化合物に由来するカルボニル価を求めた。
まず塩酸ヒドロキシルアミン(試薬特級)をエタノール(試薬特級)に溶解させた5重量%塩酸ヒドロキシルアミン液を調製した。次に試料10gをビーカーにとり、塩酸ヒドロキシルアミン液10mLを加え、室温で1時間反応させた。この反応液にメタノール(試薬特級)50mLを加えた後、撹拌しながら自動滴定装置(三菱化学アナリテック社製 GT−200型)を用いて滴定した。滴定液は0.5M水酸化カリウムエタノール溶液を用いた。また、塩酸ヒドロキシルアミンとの反応前に元々試料に含まれていた水素イオンを定量するため、試料をビーカーに取り、50重量%のメタノール水溶液50mLを加えた後、撹拌しながら自動滴定装置(三菱化学アナリテック社製 GT−200型)を用いて滴定した。滴定液は0.1M水酸化カリウムエタノール溶液を用いた。滴定終了後、下記式(2)を用いてカルボニル価を算出した。
カルボニル価={(A1×500/S1)−((G1+F1)×7.6)−(X1×38)}−(A2×100/S2)(μmoleq/g)・・・(2)
(ここで、A1は塩酸ヒドロキシルアミンと反応させた試料の中和に要した0.5Mの水酸化カリウムの滴定量(mL)、A2は未反応試料の中和に要した0.1Mの水酸化カリウムの滴定量(mL)、S1は塩酸ヒドロキシルアミンと反応させた試料量(g)、S2は未反応試料の中和滴定に供した試料量(g)、G1は試料中に含まれるグルコースの重量%濃度、F1は試料中に含まれるフルクトースの重量%濃度、X1は試料中に含まれるキシロースの重量%濃度である。)
[製造例1]
非可食原料として、バガスを使用した。まずバガスに硫酸および水を加えて混合し、バガス混合物を得た。硫酸の添加量は、バガスの乾燥重量に対して2重量%であり、水の添加量は、前記バガス混合物の合計重量に対する含水率が60重量%となるように調製した。次にドラムミキサー(杉山重工株式会社製)にて前記バガス混合物を20分間混合、撹拌の後に取り出し、希硫酸処理混合物を得た。前記希硫酸処理混合物を加水分解装置(株式会社ヤスジマ社製)にて蒸気を投入し、180℃で15分間蒸煮処理した。得られた蒸煮処理物の含水率は64.6重量%であった。前記蒸煮処理物を乾燥重量200g/Lとなるように糖化装置に仕込み、10N−NaOH水溶液を添加し、pHを6.0に調整した。そこに糖化酵素として15FPU分のCTec2(novozyme社製)を添加し、温度50℃、撹拌速度200rpmにて72時間撹拌しながら加水分解を行った。その後、遠心分離(8000×g、10分間)を行い、未分解セルロースおよびリグニンを分離除去し、バガス糖化液を作成した。得られたバガス糖化液の組成を表1に記した。
Figure 0006911835
[製造例2]
前記バガス糖化液を、48重量%NaOH水溶液を用いてpHを8に調整し、さらに121℃で20分間加熱して、加熱による滅菌処理をした糖化液1を作製した。得られた糖化液1の組成を表2に示した。
Figure 0006911835
<糖液を用いた増殖阻害評価>
[実施例1]
(A)培養用菌液の調製
以下の組成の平板寒天培地[酵母エキス:10g、ポリペプトン:20g、グルコース:20g、寒天:40g、蒸留水1000mLに溶解、121℃、20分で加熱]にSaccharomyces cerevisiae PE−2株を塗沫し、30℃で49時間から74時間静置培養した。得られた菌体を白金耳でかきとり、菌体濃度であるO.D.660nmの値が20となるように、滅菌蒸留水30mLに懸濁した。これを培養用菌液とした。
(B)本培養
500mLの三角フラスコに、製造例2で得た糖化液1を88mL、滅菌蒸留水90mLを入れ、あらかじめ121℃、20分で加熱した200g/L酵母エキス溶液を20mL入れて混合した。ここに培養用菌液を2mL接種し、振とう幅70mm、振とう速度160rpm、30℃で振とう培養を行った。
この際の培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価は、224μmol eq/gであった。
[実施例2]
500mLの三角フラスコに、糖化液1を177mL、滅菌蒸留水1mLを入れて本培養を行った以外は実施例1と同様に行った。
この際の培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価は、449μmol eq/gであった。
[比較例1]
実施例1の(A)と同様にして、培養用菌液を準備した。次いで、(B)本培養として、500mLの三角フラスコに、あらかじめ121℃、20分で加熱した50重量%グルコース溶液を80mL、滅菌蒸留水100mLを入れ、あらかじめ121℃、20分で加熱した200g/L酵母エキス溶液を20mL入れて混合した。ここに培養用菌液を0.5mL接種し、振とう幅70mm、振とう速度160rpm、30℃で振とう培養を行った。
この際の培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価は、0μmol eq/gであった。
[比較例2]
500mLの三角フラスコに、糖化液1を35mL、滅菌蒸留水143mLを入れて本培養を行った以外は実施例1と同様に行った。
この際の培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価は、90μmol eq/gであった。
実施例1、2および比較例1、2の結果として、菌体濃度であるO.D.(660nm)の結果を表3に、この結果から算出されるそれぞれの条件の増殖速度と非可食糖由来の阻害物質を含まない条件である比較例1の増殖速度に対するそれぞれの増殖速度の比を表4に示した。なお、増殖速度は誘導期と対数増殖期を合わせた期間における菌体濃度の推移から算出したものである。
Figure 0006911835
Figure 0006911835
表4より、阻害物質を含まない培養液を用いた比較例1に対し、カルボニル価が高い実施例1および2では増殖速度がそれぞれ51%、23%に低下した。一方、カルボニル価が低い比較例2では、増殖速度は90%と高く維持されていた。増殖速度の低下は阻害物質が一定以上含まれていることを示すものである。
<糖液を用いた発酵阻害軽減評価>
[実施例3]
まず、全容150mLジャーファーメンター(株式会社バイオット社製)に製造例1で得たバガス糖化液を66mL、蒸留水を3mL、消泡剤(LG−294 株式会社ADEKA社製)0.015gを加え、発酵原料液を調製した。
次に、実施例1の(B)本培養で得られた培養液を1000×g、10分、20℃で遠心分離により菌体と培養上清に分離した。培養上清を除去し、湿菌体が0.5g/mLとなるように滅菌水を添加して再懸濁し、発酵用菌液を調製した。
これを発酵原料液に4.5mL接種した。通気はせず、温度35℃、撹拌200rpmで行い、pHは1M硫酸、または5.4重量%アンモニア水で4.5に調整しエタノール発酵を行った。
[実施例4]
発酵用菌液の調製に実施例2で得た培養液を用いたこと以外は、すべて実施例3と同様にエタノール発酵を行った。
[比較例3]
発酵用菌液の調製に比較例1で得た培養液を用いたこと以外は、すべて実施例3と同様にエタノール発酵を行った。
[比較例4]
発酵用菌液の調製に比較例2で得た培養液を用いたこと以外は、すべて実施例3と同様にエタノール発酵を行った。
実施例3、4および比較例3、4の結果として、LC分析で得たエタノール濃度の推移を表5に示した。
Figure 0006911835
表5より、阻害物質を含まない培養液で培養した比較例1の菌体を用いた比較例3と比べ、カルボニル価が高い培養液で培養した実施例1および2の菌体を用いた実施例3および4では、顕著なエタノール生産速度の改善が見られた。一方、カルボニル価が低い培養液で培養した比較例2の菌体を用いた比較例4では、比較例3とほぼ同程度のエタノール生産速度であった。以上より、カルボニル価が高い培養液で培養した菌体を用いると、有機化合物の生産速度が向上することが明らかとなった。これはカルボニル価が低い培養液で培養した菌体を用いた場合には得られない効果である。
本発明の培養方法によれば、増殖阻害物質および/または発酵阻害物質を含む糖液を用いた有機化合物の発酵生産に用いた場合に、前記有機化合物の生産速度を向上させる微生物を得ることができる。
また、本発明の製造方法によれば、増殖阻害物質および/または発酵阻害物質を含む糖液を用いた有機化合物の発酵生産において、前記有機化合物の生産速度を向上させることができる。

Claims (11)

  1. 糖類を含有する培養液中で微生物を培養する方法で培養した微生物またはその処理物を用意する工程、及び前記微生物または処理物を糖類を含有する発酵原料に作用させる工程を含む、有機化合物の製造方法であって、
    該培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、該培養液1gに対して175μmol eq以上であること、及び前記培養液が水溶性アルデヒドを該培養液1gあたり35μg以上含むことを特徴とし、
    前記培養液中に阻害物質を含み、該阻害物質非存在下での微生物の生育速度に比べて、生育速度を60%以下に低下させる濃度で阻害物質が存在する、有機化合物の製造方法
  2. 前記カルボニル価が、前記培養液1gに対して220μmol eq以上である、請求項1に記載の有機化合物の製造方法。
  3. 前記培養液の、波長260nmにおける吸光度が75以上である、請求項に記載の有機化合物の製造方法。
  4. 前記培養液が、ヒドロキシメチルフルフラールを該培養液1gあたり195μg以上含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
  5. 前記培養液がリグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
  6. 前記阻害物質が芳香族化合物、フラン誘導体、および脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
  7. 前記微生物が、コリネ型細菌、大腸菌、ザイモモナス(Zymomonas)属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
  8. 前記発酵原料が、リグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類
    を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
  9. 前記発酵原料における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、前記培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価の40%以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
  10. 前記有機化合物が、アルコール類、アミン類、カルボン酸類、およびフェノール類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
  11. 前記有機化合物が、炭素数4以下のアルコールである、請求項10のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
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