JP6911835B2 - 微生物の培養方法、および有機化合物の製造方法 - Google Patents
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Description
発酵生産プロセスおよび化学変換プロセスの原料として使用される糖は、現在はサトウキビ、デンプン、テンサイ、とうもろこし、いも、キャッサバ、サトウカエデなどの可食原料に由来するものが挙げられる。
非特許文献4では阻害物質であるヒドロキシメチルフルフラールの濃度が比較的低く、培養によって得た微生物が阻害物質に十分順応していない可能性がある。
本発明の課題は、微生物を阻害物質に順応させ、発酵阻害が十分に軽減されるための微生物の培養方法を提供、および得られた微生物またはその処理物を用いた有機化合物の製造方法を提供するものである。
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]〜[15]に存する。
[1]糖類を含有する培養液中で微生物を培養する方法であって、該培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、該培養液1gに対して175μmol eq以上であることを特徴とする、微生物の培養方法。
[2]前記カルボニル価が、前記培養液1gに対して175μmol eq以上であることを特徴とする、[1]に記載の微生物の培養方法。
[3]前記カルボニル価が、前記培養液1gに対して175μmol eq以上であることを特徴とする、[1]に記載の微生物の培養方法。
[4]前記培養液の、波長260nmにおける吸光度が75以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載の微生物の培養方法。
[5]前記培養液が、ヒドロキシメチルフルフラールを該培養液1gあたり195μg以上含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の微生物の培養方法。
[6]前記培養液が、水溶性アルデヒドを該培養液1gあたり35μg以上含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の微生物の培養方法。
[7]前記培養液がリグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類を含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の培養方法。
[8]前記培養液中の阻害物質が、微生物の生育速度を該阻害物質非存在下の60%以下に低下させる濃度で存在する、[1]〜[7]のいずれかに記載の培養方法。
[9]前記阻害物質が芳香族化合物、フラン誘導体、および脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[8]に記載の培養方法。
[10]前記の微生物が、コリネ型細菌、大腸菌、ザイモモナス(Zymomonas)属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[1]〜[9]のいずれかに記載の培養方法。
[11][1]〜[10]のいずれかに記載の方法で培養した微生物またはその処理物を用意する工程、及び前記微生物または処理物を糖類を含有する発酵原料に作用させる工程を含む、有機化合物の製造方法。
[12]前記発酵原料が、リグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類を含む、[11]に記載の有機化合物の製造方法。
[13]前記発酵原料における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、前記培養液のカルボニル価の40%以上である、[11]または[12]に記載の有機化合物の製造方法。
[14]前記有機化合物が、アルコール類、アミン類、カルボン酸類、およびフェノール類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、[11]〜[13]のいずれかに記載の有機化合物の製造方法。
[15]前記有機化合物が、炭素数4以下のアルコールである、[11]〜[14]のいずれかに記載の有機化合物の製造方法。
また、本発明の製造方法によれば、増殖阻害物質および/または発酵阻害物質を含む糖液を用いた有機化合物の発酵生産において、前記有機化合物の生産速度を向上させることができる。
本発明は、阻害物質を含む糖類を含有する培養液を用いた微生物の培養方法(以下、「本発明の培養方法」)、および当該培養方法によって得られた微生物またはその処理物を用いた有機化合物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」)である。以下、本発明の培養方法、および製造方法について、詳細に説明する。
本発明の培養方法は、糖類を含有する培養液中で微生物を培養する際に、該培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、該培養液1gに対して100μmol eq以上、好ましくは175μmol eq以上、より好ましくは220μmol eq以上、さらに好ましくは250μmol eq以上であることを特徴とする。
本発明の培養方法は、後述する発酵工程により有機化合物の製造する際に、発酵に供する微生物菌体を調製するために行なうものであり、本発明の製造方法における培養工程と位置づけることができる。本発明の培養方法は主として発酵原料に含まれる増殖阻害物質、および発酵阻害物質に菌体を順応させることを目的とする。後述の種培養を行う場合は、種培養により得られた菌体を用いて培養工程を行う。
具体的には、糖類を除く化合物に由来するカルボニル価の値が、培地1gあたり100μmol eq以上、好ましくは175μmol eq以上、より好ましくは220μmol eq以上であり、さらに好ましいのは250μmol eq以上である。ただし、あまりにもカルボニル価が高い場合、微生物の増殖が著しく悪化もしくは停止し、微生物またはその処理物を必要量確保することが困難になるという理由から、通常、2200μmol eq以下であることが好ましい。
本発明の培養方法(培養工程)に用いる培養液は、糖類の原料から糖類を抽出する際に、該原料の分解などにより副生物として生じる種々の成分のうち、微生物の増殖阻害や発酵生産阻害を引き起こす阻害物質を含む。
培養液に含まれる阻害物質は、当該阻害物質を含まない条件と比較して微生物の増殖や発酵速度および生産量を低下させる作用をもつカルボニル化合物であれば特に限定されない。具体的にはクマル酸やバニリンなどの芳香族化合物、フルフラールやヒドロキシメチルフルフラール等のフラン誘導体、ギ酸や酢酸といった脂肪族の弱酸(脂肪酸)、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキサール等の水溶性アルデヒド類が挙げられる。
本発明の培養方法では、糖液を含有する培養液で微生物を培養する。使用する糖類は、特に限定はされず、いわゆる一般的な糖類を用いることができるが、微生物が炭素源としても活用することができる糖が好ましい。具体的には、グリセルアルデヒド等の炭素数3の単糖(トリオース);エリトロース、トレオース、エリトルロース等の炭素数4の単糖(テトロース);、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、デオキシリボース、キシルロース、リブロース等の炭素数5の単糖(ペントース);アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース、フコース、フクロース、ラムノース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等の炭素数6の単糖(ヘキソース);セドヘプツロース等の炭素数7の単糖(ヘプトース);スクロース、ラクトース、マルトース、トレハノース、ツラノース、セロビオース等の二糖類;ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース等の三糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナオリゴ糖などのオリゴ糖類;デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グルカン、ペントサン等の多糖類等が挙げられる。本発明で用いる培養液および発酵原料には上記の糖類1種類を単独で含有していてもよいし、2種類以上を含有していてもよい。
ヘキソースとしては、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトースが好ましく、グルコースがより好ましい。ペントースとしてはキシロース、アラビノースが好ましく、キシロースがより好ましい。ヘキソース、およびペントースを構成成分とする二糖類としては、スクロースが好ましい。グルコース、キシロース、スクロースは、自然界、植物の主な構成成分となっているため、原料の入手が容易なためである。
本発明の培養方法で用いる糖類の由来について特に限定はされないが、例えば1種類以上の前記糖類を構成成分として含む植物体またはその一部を糖類まで分解したものや1種類以上の前記糖類を構成成分として含む植物体またはその一部から糖類を抽出したものが挙げられる。具体的には、リグノセルロース分解物や、スクロース含有物、デンプン分解物等が挙げられる。
本発明の培養方法で用いる培養液中の糖類としては、リグノセルロース原料から糖類を得る効率が高く、また、微生物を順応させるための阻害物質が糖化液中に副生物として含まれることから、リグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類が好ましく、培養液に該糖類を含む糖化液をそのまま使用することが特に好ましい。
前述の糖化方法の中でも、コストの点から酸性物質で浸漬したリグノセルロース原料を高温下で前処理を施し、セルラーゼ等の加水分解酵素を用いて糖化する方法が好ましい。酸性物質はリグノセルロース分解原料のpHを下げることができれば特に制限はなく、硫酸、リン酸のほか、亜硫酸ガス等を用いることができるが、後段の反応であるセルラーゼ等による加水分解反応を進みやすくするために、酸化力の強い硫酸が好ましい。
例えば、加熱による滅菌処理では、滅菌処理の効果が十分に得ることができれば加熱条件は特に制限はされないが、加熱温度は通常100℃以上180℃以下であり、下限として好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上であり、上限として好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下である。前記範囲内の温度で加熱することにより、滅菌効果を十分に得ることができ、かつ加熱による糖の分解を抑制し、阻害物質の増加を抑えることができるためである。
本発明の培養方法(培養工程)に用いる培養液の260nmの吸光度は、微生物を阻害物質に十分順応させるために必要な阻害物質が含まれていれば特に制限はないが、75以上が好ましく、より好ましくは80以上であり、更に好ましくは85以上である。波長260nmはカルボニル化合物以外の影響を抑えながらカルボニル化合物の濃度を把握することに適しており、培地の260nmの吸光度が前記範囲内にあれば、微生物が阻害物質に十分順応できるカルボニル化合物濃度となる。ただし、あまりにも260nmの吸光度が高い場合、微生物の増殖が著しく悪化もしくは停止し、微生物またはその処理物を必要量得ることが困難になるという理由から、通常、970以下であることが好ましい。
また、本発明で用いる糖類を含む培養液は、本発明の効果が得られる範囲内で、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、糖類の原料から糖類を得た際に生じる、糖類および阻害物質以外の副生成物や不純物等が挙げられる。具体的には、脂肪族共役アルコール等のアルコール化合物、キシリトール、リビトール、ソルビトール、イノシトール、グリセロール等の糖アルコール、リグニン由来のフェノール化合物、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、窒素化合物、硫黄化合物、ハロゲン化合物、硫酸イオン等の無機化合物等が挙げられる。但し、リグニン等に由来する固形物に関しては、取扱い性を考慮して濾過や吸着等を用いて除去することが好ましい。
本発明の培養方法(培養工程)、一般的な生育至適温度で行なうことが好ましい。具体的な培養温度としては、通常25℃〜40℃であり、30℃〜37℃が好ましい。酵母菌の場合は、通常25℃〜40℃であり、25℃〜35℃がより好ましく、約30℃が特に好ましい。
また、本発明の培養方法(培養工程)の培養時間は、一定量の菌体が得られる時間であれば特段の制限はないが、通常6時間以上120時間以下である。また、本培養においては、通気したり攪拌したりして、酸素を供給することが好ましい。
本発明の培養方法(培養工程)で得られた菌体は、後述する発酵工程に用いることができるが、培養液を直接用いてもよいし、遠心分離、膜分離等によって菌体を回収した後に用いてもよい。
本発明の培養方法を行うに当たっては、寒天培地等の固体培地で培養したものを直接用いてもよいが、培養工程に先立ち、必要に応じて上記微生物を予め液体培地で培養したものを用いてもよい。即ち、種培養を行なうことで、微生物を予め増殖させた後に、本発明の培養方法(培養工程)を行なうこともできる。
また、種培養の培養時間は、一定量の菌体が得られる時間であれば特段の制限はないが、通常6時間以上120時間以下である。また、種培養においては、通気したり攪拌したりして、酸素を供給することが好ましい。
種培養後の菌体は、本発明の培養方法(培養工程)に用いることができるが、種培養については省略してもよく、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接培養工程に用いてもよい。また、必要に応じて、種培養を何度か繰り返し行ってもよい。
本発明の培養方法(培養工程)における微生物の増殖速度は、微生物を阻害物質に十分順応させることができれば特に制限はないが、通常、糖源として精製糖や結晶糖を用いた培地条件下、すなわち、増殖阻害物質非存在下での増殖速度に対し、本発明の培養方法(培養工程)に用いる培地で培養した際の増殖速度は、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。更に好ましくは55%以下であり、特に好ましいのは52%以下である。ただし、増殖速度を比較する場合には、培地に含まれる糖類以外の培養条件、例えば培養温度や酸素供給およびpHは、同等の条件下で比較した値である。ただし、あまりにも微生物の増殖が悪化もしくは停止した場合、微生物またはその処理物を必要量得ることが困難になるという理由から、通常5%以上に維持することが好ましい。
増殖速度 ={ln(Xt/X0)}/t ・・・(1)
(Xt:定常期に至る前の任意の時点での菌体濃度、X0:培養開始時の菌体濃度、t:任意の時点までの培養時間)
また、菌体濃度の測定は当業者による公知の方法によって実施することができるが、例えば波長660nmの吸光度を菌体濃度とすることができる。
本発明の培養方法で用いる微生物は、後続の発酵工程で目的とする有機化合物を生産する能力を有する微生物であれば、特に限定はされない。
本発明で用いる微生物の種類としては、特に限定されないが、コリネ型細菌、大腸菌、アナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、マンヘミア(Mannheimia)属細菌、バスフィア(Basfia)属細菌、ザイモモナス(Zymomonas)属細菌、ザイモバクター(Zymobacter)属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選択される微生物であることが好ましい。これらの中でも、コリネ型細菌、大腸菌、アナエロビオスピリラム属細菌、アクチノバチルス属細菌、マンヘミア属細菌、バスフィア属細菌、ザイモモナス属細菌、ザイモバクター属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、より好ましくはコリネ型細菌、大腸菌、ザイモモナス属細菌、糸状菌、酵母菌であり、特に好ましくは酵母菌である。
また、本発明で使用可能なコリネ型細菌は、これに分類されるものであれば特に制限されないが、コリネバクテリウム属に属する細菌、ブレビバクテリウム属に属する細菌、アースロバクター属に属する細菌などが挙げられ、このうち好ましくは、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属に属するものが挙げられ、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)またはブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に分類される細菌である。
また、本発明に使用可能なアクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌としては、アクチノバチルス・サクシノジェネス(Actinobacillus succinogenes)等が挙げられる。また、本発明に使用可能なマンヘミア(Mannheimia)属細菌としては、バスフィア・サクシニシプロデュセン(Mannheimia succiniciproducens)等が挙げられる。
本発明で用いる微生物は、本来的に有機化合物生産能を有する微生物であっても、育種により有機化合物生産能を付与したものであってもよい。
本発明で用いる微生物は、本来的に本発明で使用する糖類の資化能を有する微生物であっても、育種により糖類の資化能を付与したものであってもよい。
なお、本発明に用いる微生物は、有機化合物生産能を付与するための改変、および糖類の資化能を付与するための改変のうちの2種類以上の改変を組み合わせて得られる微生物であってもよい。複数の改変を行う場合、その順番は問わない。
本発明の製造方法は、上述の培養方法によって培養する培養工程で得られた微生物、またはその処理物を用意し、糖類を含有する発酵原料に作用させる発酵工程を経て、有機化合物を製造する方法である。よって、培養工程で増殖阻害物質、および発酵阻害物質に順応した微生物を用いることによって、発酵工程における有機化合物の生産速度を向上させることができる。
本発明の製造方法で用いられる発酵原料は糖類を含有する。ここで、糖類としては、前述の培養工程の培養液で使用される糖類と同じものが好ましい態様として挙げられる。また、糖類の由来、製法としても、同じものが好ましい態様として挙げられる。これは、培養工程において微生物が順応した阻害物質の組成が発酵原料に含まれる阻害物質の組成と近いほうが、順応による発酵阻害の軽減効果をより強く得られるという点で好ましい。よって、発酵原料はリグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類を含むことが好ましく、発酵原料中に該糖類を含む糖化液をそのまま使用することが特に好ましい。
例えば、発酵原料における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、前記培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価の40%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは100%以上、通常250%以下とする。
発酵原料のpHは、生産される有機化合物が酸性物質である場合には、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アンモニア(水酸化アンモニウム)、またはそれらの混合物等を添加することによって調整することができる。生産される有機化合物が塩基性物質である場合には、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸等の有機酸、それらの混合物等を添加すること、または二酸化炭素ガスを供給することによって調整することができる。
本発明の製造方法で、微生物が生産する有機化合物としては、微生物が培地中に生成蓄積することができる有機化合物であれば特に限定されないが、具体的には、エタノール、プロパノール、ブタノール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール等のアルコール類;1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン等のアミン類;酢酸、酪酸、グリコール酸、乳酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、ピルビン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、シス−アコニット酸、クエン酸、イソクエン酸、2−オキソグルタル酸、2−オキソイソ吉草酸、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、レブリン酸、キナ酸、シキミ酸、アクリル酸、メタクリル等のカルボン酸類;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、アルギニン、メチオニン、ヒスチジン、システイン、セリン、トレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、トリプトファン等のアミノ酸類;フェノール、カテコール、ハイドロキノン等のフェノール類;安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、プロトカテク酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族カルボン酸類;イノシン、グアノシン等のヌクレオシド類、イノシン酸、グアニル酸等のヌクレオチド;イソブチレン、イソプレン、ブタジエン等の不飽和炭化水素化合物等が挙げられる。
これらの中でも、発酵生産を行なう際に公知の方法を採用でき、かつ、樹脂原料として使用可能であることから、アルコール類、アミン類、カルボン酸類、フェノール類が好ましく、炭素数4以下のアルコール類がより好ましい。
有機化合物生産反応(発酵工程)に用いる微生物の菌体量は、特に限定されないが、湿菌体重量として、通常1g/L以上、好ましくは10g/L以上、より好ましくは20g/L以上であり、一方、通常400g/L以下、好ましくは300g/L以下、さらに好ましくは200g/L以下である。
有機化合物生産反応(発酵工程)の温度は、用いる前記微生物の生育至適温度と同じ温度で行ってもよいが、生育至適温度より高い温度で行うことが有利であり、通常2℃〜20℃、好ましくは7℃〜15℃高い温度で行う。具体的には、酵母菌の場合には、通常33℃以上、好ましくは35℃以上であり、一方、通常40℃以下、好ましくは38℃以下である。有機化合物生産反応の間、常に33℃〜40℃の範囲とする必要はないが、全反応時間の50%以上、好ましくは80%以上の時間において、上記温度範囲にすることが望ましい。
有機化合物生成反応における、通気、攪拌については特段の制限はない。
本発明の有機化合物の製造方法は、特段の制限はないが、回分反応、半回分反応もしくは連続反応のいずれにも適用することができる。
本発明の製造方法では、上記の有機化合物生成反応(発酵工程)により有機化合物が生成し、反応液中に蓄積させることができる。蓄積させた有機化合物は、常法に従って、水性媒体より回収する工程をさらに含んでいてもよい。具体的には、例えば、蓄積させた有機化合物がエタノール、ブタノール、ブタンジオール等のアルコールである場合には、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除去した後、蒸留等で濃縮し、その溶液を膜脱水するなどして、アルコールを回収することができる。蓄積させた有機化合物がコハク酸、フマル酸、リンゴ酸等のカルボン酸である場合には、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除去した後、イオン交換樹脂等で脱塩し、その溶液から結晶化(晶析)あるいはカラムクロマトグラフィーにより精製するなどして、カルボン酸を回収することができる。
<液相クロマトグラフ(LC)分析>
以下の製造例、実施例および比較例の糖液中のグルコース、キシロース、フルクトース、スクロース、エタノール、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール存在量は、液相クロマトグラフ(LC)分析により、絶対検量線法を用いて求めた。分析条件は以下の通りである。
カラム:ULTRON PS−80H 8.0ID×300mmL(信和化工社製)
温度:60℃
溶離液:0.18重量%過塩素酸溶液 1.0mL/分
検出方法:UV(280nm),RI
注入量:10μL
カラム:Cosmosil Sugar−D 4.6mm×250mm (ナカライテスク社製)
温度:40℃
溶離液:75%アセトニトリル水溶液
流速:1.0mL/分
検出方法:RI
注入量:10μL
以下の製造例、実施例および比較例の糖液中の水溶性アルデヒドである、ホルムアルデヒド(FAL)、アセトアルデヒド(AAL)、ヒドロキシアルデヒド(HAL)、グリオキサール(GO)、メチルグリオキサール(MGO)の存在量は、ガスクロマトグラフ(GC)分析により、絶対検量線法を用いて求めた。分析手順、および条件は以下の通りである。
まず、ペンタフルオロベンジルヒドロキシルアミン塩酸塩(PFBOA)0.40gをイソプロパノール35gに溶解させた後、蒸留水を加えて液量を100mLとし、PFBOA溶液を調製した。次に、0.02wt%のトルエン(試薬特級)を含むヘキサン溶液を、重量を正確に秤量して調製し、これを内部標準液とした。次に、試料1mLを5mLガラス容器にとり、前記PFBOA溶液2mLを加え、容器を密閉後、30分間撹拌した。その後、ヘキサン(試薬特級)を1mL加え、さらに30分間撹拌した。ヘキサン層を分液し、前記内部標準液を0.1mL加えた。この溶液を以下に示すGC分析条件で分析を行った。
水溶性アルデヒド濃度を算出するために用いた検量線を作製するにあたり、次の方法で各水溶性アルデヒドの標準液を調製した。FAL、AALの標準液はPFBOA−FAL標準液(和光純薬工業社製)およびPFBOA−AAL標準液(和光純薬工業社製)をヘキサンに溶解し、この溶液に前記内部標準液を0.1mL加えて調製した。HAL、GO、MGOの標準液はそれぞれの試薬(試薬特級)を前記前処理で調製した。この標準液を以下に示すGC分析条件で分析を行った。
カラム:Agilent J&W GCカラム DB−1 長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm(Agilent Technologies社製)
カラム温度:100℃から10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、300℃で5分間保持
キャリアガス:He
流速:24.1mL/分
圧力:19.5psi
注入法:スプリット比11.2
スプリットフロー:16.8mL/分
注入口温度:300℃
試料注入量:1μL
糖類を除く化合物に由来するカルボニル価の分析方法を以下に示す。
カルボニル価は非可食糖化液を塩酸ヒドロキシルアミンと反応させ、生じた塩酸の中和に要した水酸化カリウム量を測定することで、試料中のカルボニル成分の総量を求めることができる。ただし、この方法では試料に元来含まれる酸を含んだ中和滴定になるだけでなく、還元性を持つ糖類に由来するカルボニル成分も含まれる。そのため、まず塩酸ヒドロキシルアミンと反応させる前の試料について中和滴定を行い、試料に含まれる酸を中和するために必要な水酸化カリウム量を求めた。次に前記LC分析で求めたグルコース、フルクトース、キシロースの濃度と、あらかじめ求めた糖濃度からカルボニル価を算出する係数を用い、糖類に由来するカルボニル価を求めた。これらの値を差し引くことで試料中の糖類を除く化合物に由来するカルボニル価を求めた。
(ここで、A1は塩酸ヒドロキシルアミンと反応させた試料の中和に要した0.5Mの水酸化カリウムの滴定量(mL)、A2は未反応試料の中和に要した0.1Mの水酸化カリウムの滴定量(mL)、S1は塩酸ヒドロキシルアミンと反応させた試料量(g)、S2は未反応試料の中和滴定に供した試料量(g)、G1は試料中に含まれるグルコースの重量%濃度、F1は試料中に含まれるフルクトースの重量%濃度、X1は試料中に含まれるキシロースの重量%濃度である。)
非可食原料として、バガスを使用した。まずバガスに硫酸および水を加えて混合し、バガス混合物を得た。硫酸の添加量は、バガスの乾燥重量に対して2重量%であり、水の添加量は、前記バガス混合物の合計重量に対する含水率が60重量%となるように調製した。次にドラムミキサー(杉山重工株式会社製)にて前記バガス混合物を20分間混合、撹拌の後に取り出し、希硫酸処理混合物を得た。前記希硫酸処理混合物を加水分解装置(株式会社ヤスジマ社製)にて蒸気を投入し、180℃で15分間蒸煮処理した。得られた蒸煮処理物の含水率は64.6重量%であった。前記蒸煮処理物を乾燥重量200g/Lとなるように糖化装置に仕込み、10N−NaOH水溶液を添加し、pHを6.0に調整した。そこに糖化酵素として15FPU分のCTec2(novozyme社製)を添加し、温度50℃、撹拌速度200rpmにて72時間撹拌しながら加水分解を行った。その後、遠心分離(8000×g、10分間)を行い、未分解セルロースおよびリグニンを分離除去し、バガス糖化液を作成した。得られたバガス糖化液の組成を表1に記した。
前記バガス糖化液を、48重量%NaOH水溶液を用いてpHを8に調整し、さらに121℃で20分間加熱して、加熱による滅菌処理をした糖化液1を作製した。得られた糖化液1の組成を表2に示した。
[実施例1]
(A)培養用菌液の調製
以下の組成の平板寒天培地[酵母エキス:10g、ポリペプトン:20g、グルコース:20g、寒天:40g、蒸留水1000mLに溶解、121℃、20分で加熱]にSaccharomyces cerevisiae PE−2株を塗沫し、30℃で49時間から74時間静置培養した。得られた菌体を白金耳でかきとり、菌体濃度であるO.D.660nmの値が20となるように、滅菌蒸留水30mLに懸濁した。これを培養用菌液とした。
500mLの三角フラスコに、製造例2で得た糖化液1を88mL、滅菌蒸留水90mLを入れ、あらかじめ121℃、20分で加熱した200g/L酵母エキス溶液を20mL入れて混合した。ここに培養用菌液を2mL接種し、振とう幅70mm、振とう速度160rpm、30℃で振とう培養を行った。
この際の培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価は、224μmol eq/gであった。
500mLの三角フラスコに、糖化液1を177mL、滅菌蒸留水1mLを入れて本培養を行った以外は実施例1と同様に行った。
[比較例1]
実施例1の(A)と同様にして、培養用菌液を準備した。次いで、(B)本培養として、500mLの三角フラスコに、あらかじめ121℃、20分で加熱した50重量%グルコース溶液を80mL、滅菌蒸留水100mLを入れ、あらかじめ121℃、20分で加熱した200g/L酵母エキス溶液を20mL入れて混合した。ここに培養用菌液を0.5mL接種し、振とう幅70mm、振とう速度160rpm、30℃で振とう培養を行った。
この際の培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価は、0μmol eq/gであった。
500mLの三角フラスコに、糖化液1を35mL、滅菌蒸留水143mLを入れて本培養を行った以外は実施例1と同様に行った。
この際の培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価は、90μmol eq/gであった。
実施例1、2および比較例1、2の結果として、菌体濃度であるO.D.(660nm)の結果を表3に、この結果から算出されるそれぞれの条件の増殖速度と非可食糖由来の阻害物質を含まない条件である比較例1の増殖速度に対するそれぞれの増殖速度の比を表4に示した。なお、増殖速度は誘導期と対数増殖期を合わせた期間における菌体濃度の推移から算出したものである。
[実施例3]
まず、全容150mLジャーファーメンター(株式会社バイオット社製)に製造例1で得たバガス糖化液を66mL、蒸留水を3mL、消泡剤(LG−294 株式会社ADEKA社製)0.015gを加え、発酵原料液を調製した。
これを発酵原料液に4.5mL接種した。通気はせず、温度35℃、撹拌200rpmで行い、pHは1M硫酸、または5.4重量%アンモニア水で4.5に調整しエタノール発酵を行った。
発酵用菌液の調製に実施例2で得た培養液を用いたこと以外は、すべて実施例3と同様にエタノール発酵を行った。
[比較例3]
発酵用菌液の調製に比較例1で得た培養液を用いたこと以外は、すべて実施例3と同様にエタノール発酵を行った。
発酵用菌液の調製に比較例2で得た培養液を用いたこと以外は、すべて実施例3と同様にエタノール発酵を行った。
実施例3、4および比較例3、4の結果として、LC分析で得たエタノール濃度の推移を表5に示した。
また、本発明の製造方法によれば、増殖阻害物質および/または発酵阻害物質を含む糖液を用いた有機化合物の発酵生産において、前記有機化合物の生産速度を向上させることができる。
Claims (11)
- 糖類を含有する培養液中で微生物を培養する方法で培養した微生物またはその処理物を用意する工程、及び前記微生物または処理物を糖類を含有する発酵原料に作用させる工程を含む、有機化合物の製造方法であって、
該培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、該培養液1gに対して175μmol eq以上であること、及び前記培養液が水溶性アルデヒドを該培養液1gあたり35μg以上含むことを特徴とし、
前記培養液中に阻害物質を含み、該阻害物質非存在下での微生物の生育速度に比べて、生育速度を60%以下に低下させる濃度で阻害物質が存在する、有機化合物の製造方法。 - 前記カルボニル価が、前記培養液1gに対して220μmol eq以上である、請求項1に記載の有機化合物の製造方法。
- 前記培養液の、波長260nmにおける吸光度が75以上である、請求項2に記載の有機化合物の製造方法。
- 前記培養液が、ヒドロキシメチルフルフラールを該培養液1gあたり195μg以上含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
- 前記培養液がリグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
- 前記阻害物質が芳香族化合物、フラン誘導体、および脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
- 前記微生物が、コリネ型細菌、大腸菌、ザイモモナス(Zymomonas)属細菌、糸状菌、および酵母菌からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
- 前記発酵原料が、リグノセルロース原料の熱分解または加水分解によって得られた糖類
を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。 - 前記発酵原料における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価が、前記培養液における糖類を除く化合物に由来するカルボニル価の40%以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
- 前記有機化合物が、アルコール類、アミン類、カルボン酸類、およびフェノール類からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
- 前記有機化合物が、炭素数4以下のアルコールである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の有機化合物の製造方法。
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