前記コーティング剤に含まれる成分について説明する。
・A成分:イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレート
前記コーティング剤中には、必須成分として、イソシアヌル環骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートからなるA成分が含まれている。A成分は、前記コーティング剤を硬化させることにより得られるコーティング膜の耐候性を向上させる作用を有している。
前記コーティング剤中のA成分の含有量は、3〜30質量部とする。かかる組成を有するコーティング剤を硬化させることにより、基材との密着性、耐候性及び耐衝撃性に優れたコーティング膜を得ることができる。
A成分の含有量が3質量部未満の場合には、コーティング膜の耐候性の悪化を招き、コーティング膜の割れが比較的早期に発生するおそれがある。A成分の含有量が30質量部を超える場合には、B成分及びC成分のうち少なくとも一方の含有量が不足するおそれがある。その結果、コーティング膜の基材に対する密着性の低下、耐候性の低下及び耐衝撃性の低下などの問題が生じるおそれがある。
A成分としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物を採用することができる。下記一般式(1)で表される化合物は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはそのε−カプロラクトン変性体との付加反応によって合成することができる。A成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
なお、前記一般式(1)におけるR1、R2及びR3は炭素数2〜10の2価の有機基である。R1、R2及びR3は同一の有機基であってもよいし、互いに異なる有機基であってもよい。ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体が付加された場合には、前述した2価の有機基に−COCH2CH2CH2CH2CH2−または−OCOCH2CH2CH2CH2CH2−のいずれかの部分構造が含まれる。
R1、R2及びR3は、例えばエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の、炭素数2〜4のアルキレン基であることが好ましく、テトラメチレン基であることがより好ましい。この場合には、コーティング膜の耐摩耗性及び耐候性をより向上させることができる。
前記一般式(1)におけるR4、R5およびR6は水素原子またはメチル基である。R4、R5及びR6は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。R4、R5およびR6は、水素原子であることが好ましい。この場合には、前記コーティング剤の硬化性をより向上させることができる。
ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはそのε−カプロラクトン変性体との付加反応は、触媒を用いずに行ってもよいし、反応を促進させるために触媒を用いて行ってもよい。触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウリレート等のスズ系触媒や、トリエチルアミン等のアミン系触媒を使用することができる。
・B成分:イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレート
前記コーティング剤中には、必須成分として、イソシアヌル環骨格を有し、ウレタン結合を有しないトリ(メタ)アクリレートからなるB成分が含まれている。B成分は、硬化後のコーティング膜と基材との密着性を向上させるとともに、コーティング膜の耐候性を向上させる作用を有している。
前記コーティング剤中のB成分の含有量は、35〜45質量部とする。かかる組成を有するコーティング剤を硬化させることにより、基材との密着性、耐候性及び耐衝撃性に優れたコーティング膜を得ることができる。
B成分の含有量が35質量部未満の場合には、コーティング膜と基材との密着性の悪化を招き、コーティング膜が基材から剥離しやすくなるおそれがある。B成分の含有量が45質量部を超える場合には、A成分及びC成分のうち少なくとも一方の含有量が不足するおそれがある。その結果、耐候性の低下及び耐衝撃性の低下などの問題が生じるおそれがある。
B成分としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物等を使用することができる。下記一般式(2)で表される化合物は、例えば、イソシアヌル酸のアルキレンオキサイド付加体と(メタ)アクリル酸またはそのε−カプロラクトン変性体との縮合反応によって合成することができる。B成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
なお、前記一般式(2)におけるR7、R8及びR9は炭素数2〜10の2価の有機基である。また、n1=1〜3であり、n2=1〜3であり、n3=1〜3であり、n1+n2+n3=3〜9である。n1+n2+n3の値は、前記一般式(2)で表される化合物1分子当たりのアルキレンオキサイドの平均付加モル数を表す。
R7、R8及びR9は同一の有機基であってもよいし、互いに異なる有機基であってもよい。また、n1、n2、n3は同一の値であってもよいし、互いに異なる値であってもよい。イソシアヌル酸に(メタ)アクリル酸のε−カプロラクトン変性物が縮合した場合には、前述した2価の有機基に−COCH2CH2CH2CH2CH2−または−OCOCH2CH2CH2CH2CH2−のいずれかの部分構造が含まれる。
R7、R8及びR9は、例えばエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の、炭素数2〜4のアルキレン基であることが好ましく、エチレン基であることがより好ましい。この場合には、コーティング膜の耐摩耗性及び耐候性をより向上させることができる。
また、n1=1であり、n2=1であり、n3=1であることが好ましい。この場合には、基材に対するコーティング膜の密着性をより向上させることができる。
前記一般式(2)におけるR10、R11およびR12は水素原子またはメチル基である。R10、R11およびR12は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。R10、R11およびR12は、水素原子であることが好ましい。この場合には、前記コーティング剤の硬化性をより向上させることができる。
・C成分:(メタ)アクリル当量80〜200の多官能(メタ)アクリレート
前記コーティング剤中には、必須成分として、(メタ)アクリル当量80〜200の多官能(メタ)アクリレートからなるC成分が含まれている。C成分は、1分子中に複数の(メタ)アクリロイル基を有しているため、A成分等に含まれる(メタ)アクリロイル基がC成分の(メタ)アクリロイル基と重合することにより、1分子のC成分に対して2分子以上の(メタ)アクリロイル基を有する成分を結合させることができる。それ故、C成分を含む前記コーティング剤を硬化させることにより、各成分が三次元的に架橋してなる網状構造を形成し、表面被覆部材の耐衝撃性を向上させることができる。
前記コーティング剤中のC成分の含有量は、5〜50質量部とする。かかる組成を有するコーティング剤を硬化させることにより、基材との密着性、耐候性及び耐衝撃性に優れたコーティング膜を得ることができる。コーティング膜の密着性、耐候性及び耐衝撃性をバランスよく向上させる観点からは、前記コーティング剤中のC成分の含有量を10〜50質量部とすることが好ましく、15〜45質量部とすることがより好ましく、20〜45質量部とすることがさらに好ましい。
C成分の含有量が5質量部未満の場合には、衝撃を受けた際にコーティング膜にクラックが発生しにくくなる。それ故、クラックが発生した時点で表面被覆部材に加わっているひずみが大きくなり、基材に加わる応力の増大を招きやすい。その結果、表面被覆部材の耐衝撃性の低下を招くおそれがある。C成分の含有量が50質量部を超える場合には、A成分及びB成分のうち少なくとも一方の含有量が不足するおそれがある。その結果、基材に対するコーティング膜の密着性の低下及び耐候性の低下などの問題が生じるおそれがある。
C成分としては、1分子当たり3個以上の(メタ)アクリロイル基を備え、かつ、(メタ)アクリル当量、つまり、(メタ)アクリロイル基1個当たりの分子量が80〜200である化合物を使用することができる。C成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
C成分の(メタ)アクリル当量が80未満の場合には、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基の数が過度に多くなるため、硬化後のコーティング膜中に含まれる未反応の(メタ)アクリロイル基の量が多くなりやすい。その結果、コーティング膜を形成した後に、コーティング膜内で意図しない架橋反応が進行し、クラックの発生が起こりやすくなるおそれがある。
C成分の(メタ)アクリル当量が200よりも大きい場合には、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基の数が少なくなるため、硬化後のコーティング膜中に含まれる架橋点の数が不足しやすい。この場合、コーティング膜が伸びやすくなり、衝撃を受けた際にコーティング膜にクラックが発生しにくくなる。その結果、表面被覆部材の耐衝撃性の低下を招くおそれがある。
・D成分:重量平均分子量10000〜30000の(メタ)アクリレート
前記コーティング剤中には、任意成分として、重量平均分子量10000〜30000の(メタ)アクリレートからなるD成分が含まれていてもよい。D成分としての(メタ)アクリレートは、1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有していてもよいし、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有していてもよい。D成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
D成分の含有量が過度に多い場合には、必須成分としてのA成分〜C成分の含有量が不足し、コーティング膜の基材に対する密着性の低下、耐候性の低下及び耐衝撃性の低下などの問題が生じるおそれがある。D成分の含有量を20質量部以下、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下とすることにより、かかる問題を回避することができる。
・E成分:マレイミド基を備えたコロイダルシリカ
前記コーティング剤は、任意成分として、マレイミド基を備えたコロイダルシリカからなるE成分を含有していてもよい。E成分は、硬化後のコーティング膜の耐摩耗性を向上させる作用を有している。前記コーティング剤中のE成分の含有量を1質量部以上、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上とすることにより、硬化後のコーティング膜の耐摩耗性をより向上させることができる。
しかし、コーティング剤中のE成分の含有量が過度に多い場合には、コーティング膜の収縮や、コーティング膜中に存在する有機成分の分解の促進などの問題が生じるおそれがある。また、この場合には、必須成分としてのA成分〜C成分の含有量が不足し、コーティング膜の基材に対する密着性の低下、耐候性の低下及び耐衝撃性の低下などの問題が生じるおそれもある。コーティング剤中のE成分の含有量を50質量部以下、好ましくは35質量部以下、より好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下とすることにより、これらの問題を回避しつつコーティング膜の耐摩耗性をより向上させることができる。なお、E成分の含有量に関する、前述した「50質量部以下」の概念には、E成分が含まれていない(つまり、0質量部)場合が包含される。
E成分としては、下記一般式(3)で表される化合物(e1)とコロイダルシリカ(e2)との反応生成物に含まれる不揮発性成分や、コロイダルシリカ(e2)を下記一般式(3)で表される化合物(e1)によって化学的に修飾した物質等を使用することができる。
なお、前記一般式(3)におけるR13は水素原子または1価の有機基であり、R14は炭素数1〜14の2価の飽和炭化水素基である。また、zの値は0.1以上3以下である。E成分中の化合物(e1)に由来する構造単位が2個以上のR13を有している場合、これらのR13は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
前記一般式(3)中のR13が1価の有機基である場合、当該有機基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシアルキル基等を採用することができる。また、R13としては、これら以外にも、C原子、O原子及びH原子からなる炭素数1〜6の有機基を採用することができる。化合物(e1)を合成する際の反応性の観点からは、R13は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または酸素原子を含む炭素数1〜6の1価の有機基であることが好ましく、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましい。
前記一般式(3)中のR14は、2価の直鎖状飽和炭化水素基であってもよいし、2価の分岐状飽和炭化水素基であってもよい。直鎖状飽和炭化水素基としては、例えば、エチレン基、1,3−プロパンジイル基(トリメチレン基)、1,4−ブタンジイル基(テトラメチレン基)、1,5−ペンタンジイル基(ペンタメチレン基)、1,6−ヘキサンジイル基(ヘキサメチレン基)等を採用することができる。分岐状飽和炭化水素としては、例えば、1,2−プロパンジイル基、1,2−ブタンジイル基、1,3−ブタンジイル基、2,3−ブタンジイル基、1,3−ペンタンジイル基、2,4−ペンタンジイル基、2,5−ヘキサンジイル基、2−メチル−1,3−プロパンジイル基、2−エチル−1,3−プロパンジイル基、3−メチル−1,5−ペンタンジイル基等を採用することができる。
前記一般式(3)中のR14は、炭素数1〜6の2価の飽和炭化水素基であることが好ましく、炭素数3〜6の2価の直鎖状飽和炭化水素基であることがより好ましい。この場合には、硬化後のコーティング膜の耐摩耗性及び耐候性をより向上させることができる。
前記一般式(3)におけるzの値は、Si原子1モル当たりに含まれるアルコキシ基の平均モル数を表す。前記一般式(3)におけるzの値が3の場合、E成分の合成過程において、化合物(e1)は単量体として存在していることを示す。また、前記一般式(3)におけるzの値が3未満の場合、E成分の合成過程において、化合物(e1)には、二量体以上の縮合体が含まれていることを示す。
前記一般式(3)におけるzの値を0.1以上とすることにより、E成分の合成過程において、コロイダルシリカ(e2)中のシリカ粒子の表面を化合物によって効率よく修飾することができる。その結果、硬化後のコーティング膜の耐摩耗性をより向上させることができる。また、E成分の合成過程における反応性をより向上させる観点からは、zの値を0.4以上とすることが好ましく、0.8以上とすることがさらに好ましい。なお、zの値は、前記一般式(3)で表される化合物の1H−NMRスペクトルにおける水素原子の積分比に基づいて算出することができる。
化合物(e1)は、例えば、以下の方法によって合成することができる。まず、下記化学式(4)で表される二重結合を有するカルボン酸無水物に下記一般式(5)で表されるアミノアルキルトリアルコキシシランを付加してアミック酸を合成する。
H2N−R14−Si−(OR13)3 ・・・(5)
次いで、得られたアミック酸を加熱する。これにより閉環反応を進行させ、マレイミド基を形成することができる。この閉環反応において生成した水は、アルコキシ基の加水分解縮合反応を進行させる。以上により、化合物(e1)を得ることができる。かかる方法は、容易に入手可能な原料を用いて化合物(e1)を1段階で製造することができるため、化合物(e1)の製造方法として好適である。
前述の方法において、アミック酸の閉環反応が完全に進行し、発生した水が全てアルコキシシランの加水分解縮合反応に消費される場合、理論上、前記式(3)におけるzの値は1となる。zの値は、反応系内の水の量を調節することによって1よりも小さくし、または1よりも大きくすることができる。例えば、反応系に水を添加することにより、zの値を1よりも小さくすることができる。また、反応系から水を除去する、あるいは脱水剤を使用するなどの方法により、zの値を1よりも大きくすることができる。
前述した化合物(e1)の製造方法は、有機溶媒の存在下で行われるとよい。有機溶媒としては、アミック酸を溶解し、かつ原料と反応しないものが好ましい。具体的には、トルエン、キシレン等の芳香族化合物が好ましい。なお、酸無水物とアミノ基との反応は非常に速いため、アルコールやエステル等の極性溶媒も使用することができる。
閉環反応の温度としては、70〜150℃の範囲が好ましい。有機溶媒として芳香族化合物等の水をほとんど溶解しない化合物を使用する場合、反応終了後に反応系から溶媒を除去することが好ましい。二重結合を有するカルボン酸無水物とアミノアルキルトリアルコキシシランとの割合としては、等モルが好ましい。二重結合を有するカルボン酸無水物およびアミノアルキルトリアルコキシシランとしては、それぞれ複数種を併用することもできる。
前記の方法において、アミノアルキルトリアルコキシシランに替えて、アミノアルキルメチルジアルコキシシランやメチルトリアルコキシシラン等の、ラジカル重合性ではないアルコキシシランを用いることも可能である。
化合物(e1)と反応させるコロイダルシリカ(e2)は、例えば、アルコール系分散媒と、この分散媒中に分散した球状のシリカ一次粒子とを有している。分散媒中のシリカ一次粒子は、互いに分離した状態で存在していてもよいし、複数個のシリカ一次粒子が凝集してなる二次粒子として存在していてもよい。
シリカ一次粒子の平均一次粒子径は、1〜100nmであることが好ましく、5〜60nmであることがより好ましく、5〜30nmであることがさらに好ましい。シリカ一次粒子の平均一次粒子径を1nm以上とすることにより、硬化後のコーティング膜の耐摩耗性をより向上させることができる。また、シリカ一次粒子の平均一次粒子径を100nm以下とすることにより、コロイダルシリカの分散安定性をより向上させることができる。
なお、シリカ一次粒子の平均粒子径は、BET法によって測定された比表面積に基づいて算出することができる。例えば、シリカ一次粒子の平均一次粒子径が1〜100nmである場合、BET法によって測定された比表面積は30〜3000m2/gである。
E成分を合成するに当たっては、例えば、化合物(e1)とコロイダルシリカ(e2)とを水を含む有機溶媒の存在下で加熱し、両者を縮合させる方法を採用することができる。有機溶媒中には、必要に応じて酸触媒やアルカリ触媒を添加してもよい。なお、化合物(e1)とコロイダルシリカ(e2)とを縮合させる際には、副反応として、化合物(e1)同士の縮合反応が起こることがある。
縮合反応における加熱温度は、例えば、40〜140℃であることが好ましく、60〜120℃であることがより好ましい。縮合反応における加熱時間は、0.5〜20時間であることが好ましい。反応終了後、反応系中に含まれる水を除去するとよい。反応後の溶液を加熱する、または減圧するなどの方法により、反応系から水、さらには有機溶媒を留去するとよい。このとき、反応後の溶液に水よりも高沸点の有機溶媒を加えることが好ましい。
化合物(e1)として、前記化学式(4)で表される化合物と前記一般式(5)で表されるアミノアルキルトリアルコキシシランとの反応生成物を使用する場合、化合物(e1)及びコロイダルシリカ(e2)の仕込み量は、質量比において、化合物(e1):コロイダルシリカ(e2)=1:9〜9:1の範囲から適宜設定することができる。この場合には、硬化後のコーティング膜の耐摩耗性及び耐候性をより向上させることができる。
耐摩耗性及び耐候性をさらに向上させる観点からは、化合物(e1)及びコロイダルシリカ(e2)の仕込み量は、化合物(e1):コロイダルシリカ(e2)=2:8〜7:3の範囲から設定することが好ましく、2:8〜6:4の範囲から設定することがより好ましい。
化合物(e1)として、前記化学式(4)で表される化合物と、前述したラジカル重合性ではないアルコキシシランとの反応生成物を使用する場合には、当該化合物(e1)の仕込み量は、前述した仕込み量の半分以下とすることが好ましい。
有機溶媒としては、水を均一に溶解可能な溶媒を使用することが好ましい。有機溶媒としては、例えば、沸点100℃〜200℃のアルコール系溶媒を使用することが好ましく、エーテル結合を有する沸点100℃〜200℃のアルコール系溶媒を使用することがより好ましい。具体的には、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテルおよびエチレングリコールモノブチルエーテル等から選択された1種または2種の化合物を有機溶媒として使用することができる。
有機溶媒中には、アルコキシシランに含まれるアルコキシ基1モルに対し、0.3〜10モルの水が含まれていることが好ましく、0.5〜5モルの水が含まれていることが好ましい。有機溶媒中の水の含有量を前記特定の範囲とすることにより、コロイダルシリカのゲル化を抑制しつつアルコキシシランをシリカ一次粒子に縮合させ、シリカ一次粒子の表面に効率よくマレイミド基を結合させることができる。
・F成分:ラジカル重合開始剤
前記コーティング剤中には、必須成分として、ラジカル重合開始剤からなるF成分が含まれている。F成分は、コーティング剤中にラジカルを発生させることができる。そして、このラジカルによってA成分等に含まれる(メタ)アクリロイル基同士の重合反応を開始させることができる。
前記コーティング剤中のF成分の含有量は、A成分〜E成分の合計100質量部に対して0.1〜10質量部とする。前記コーティング剤中のF成分の含有量を0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上とすることにより、基材上に配置した前記コーティング剤を硬化させてコーティング膜を形成することができる。
F成分の含有量が0.1質量部未満の場合には、重合反応の開始点となるラジカルの量が不足するため、コーティング剤を十分に硬化させることが難しくなる。その結果、コーティング膜の硬度が低くなり、傷に対する耐久性が低下するおそれがある。また、この場合には、コーティング膜の基材に対する密着性の低下、耐候性の低下及び耐衝撃性の低下などの問題が生じるおそれもある。
一方、F成分の含有量が過度に多くなると、コーティング剤の保管中に意図しないラジカル重合反応が開始されやすくなる等、コーティング剤の保存安定性の低下を招くおそれがある。また、この場合には、硬化後のコーティング膜中に未反応の重合開始剤が残存しやすくなる。コーティング膜中に残存する未反応の重合開始剤の量が過度に多くなると、コーティング膜の劣化が促進されるおそれがある。更に、この場合には、材料コストの増大を招くおそれもある。
F成分の含有量を10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下とすることにより、前述した問題を回避しつつ重合反応の開始点となるラジカルの量を十分に多くし、コーティング剤を十分に硬化させることができる。
F成分としては、例えば、特定の波長の光を照射することによってラジカルを発生させる光ラジカル重合開始剤や、熱を加えることによってラジカルを発生させる熱ラジカル重合開始剤等を使用することができる。
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕プロパノン}および2−ヒドロキシ−1−{4−〔4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノンおよび4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルファイド等のベンゾフェノン系化合物;メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2−(2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステルおよびオキシフェニル酢酸の2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステル等のα−ケトエステル系化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルおよびベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン化合物;チタノセン系化合物;1−〔4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルフィニル)プロパン−1−オン等のアセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤;2−(O−ベンゾイルオキシム)−1−〔4−(フェニルチオ)〕−1,2−オクタンジオン等のオキシムエステル系光重合開始剤;並びにカンファーキノン等を使用することができる。
熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物およびアゾ系化合物等を使用することができる。
有機過酸化物としては、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス〔4,4−ジ(t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)〕プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイドおよびt−ブチルハイドロパーオキサイド等を使用することができる。
アゾ系化合物としては、例えば、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾジ−t−オクタンおよびアゾジ−t−ブタン等を使用することができる。
F成分としては、これらの化合物から選択された1種の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を併用してもよい。
・G成分:紫外線吸収剤
前記コーティング剤は、任意成分として、紫外線吸収剤からなるG成分を含有していてもよい。G成分は、紫外線によるコーティング膜の劣化を抑制する作用を有している。G成分の含有量は、A成分〜E成分の合計100質量部に対して1〜12質量部の範囲から適宜設定することができる。前記コーティング剤中のG成分の含有量を1質量部以上、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上とすることにより、硬化後のコーティング膜の耐候性をより向上させることができる。
一方、G成分の含有量が過度に多い場合には、コーティング膜の耐摩耗性の低下を招くおそれがある。さらに、この場合には、かえってコーティング膜の耐候性が低下するおそれもある。G成分の含有量を12質量部以下、好ましくは10質量部以下とすることにより、これらの問題を回避することができる。
G成分としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、紫外線を吸収する無機微粒子を使用することができる。
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−[4−{(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシプロピル)オキシ}−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−{(2−ヒドロキシ−3−トリデシロキシプロピル)オキシ}−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−{(2−ヒドロキシ−3−(2−エチルヘキシロキシ)プロピル)オキシ}−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチロキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブチロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン等を使用することができる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−5−{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等を使用することができる。
ベンゾフェノン系紫外線としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等を使用することができる。シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、オクチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等を使用することができる。無機微粒子としては、例えば、酸化チタン微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化錫微粒子等を使用することができる。
G成分としては、前述した化合物及び無機微粒子から選択された1種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。G成分としては、(メタ)アクリロイル基を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を使用することが好ましい。この場合には、コーティング膜の耐候性及び耐摩耗性をバランスよく高めることができる。
・H成分:シリコーン系表面調整剤及びフッ素系表面調整剤
前記コーティング剤は、任意成分として、シリコーン系表面調整剤及びフッ素系表面調整剤のうち1種以上の化合物からなるH成分を含有していてもよい。H成分の含有量は、A成分〜E成分の合計100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲から適宜設定することができる。前記コーティング剤中のH成分の含有量を0.1質量部以上とすることにより、硬化後のコーティング膜の耐摩耗性をより向上させることができる。
一方、コーティング剤中のH成分の含有量が過度に多い場合には、硬化後にコーティング膜の表面が粗くなる等の外観の悪化を招くおそれがある。更に、H成分の含有量が多くなると、材料コストの増大を招くおそれもある。H成分の含有量を10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下とすることにより、かかる問題を回避することができる。
H成分としては、シリコーン系表面調整剤及びフッ素系表面調整剤から選択される1種または2種以上の化合物を使用することができる。
シリコーン系表面調整剤としては、例えば、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びシリコーン系オリゴマー、シリコーン鎖とポリエステル鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びシリコーン系オリゴマー、EBECRYL(登録商標)350、EBECRYL1360(以上、ダイセル・オルネクス株式会社製)、BYK(登録商標)−315、BYK−349、BYK−375、BYK−378、BYK−371、BYK−UV3500、BYK−UV3570(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、X−22−164、X−22−164AS、X−22−164A、X−22−164B、X−22−164C、X−22−164E、X−22−174DX、X−22−2426、X−22−2475(以上、信越化学工業株式会社製)、AC−SQTA−100、AC−SQSI−20、MAC−SQTM−100、MAC−SQSI−20、MAC−SQHDM(以上、東亞合成株式会社製)、8019additive(東レ・ダウコーニング株式会社製)、ポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン等を使用することができる。
フッ素系表面調整剤としては、例えば、パーフルオロアルキル基とポリアルキレンオキサイド基とを有するフッ素系ポリマー及びフッ素系オリゴマー、パーフルオロアルキルエーテル基とポリアルキレンオキサイド基とを有するフッ素系ポリマー及びフッ素系オリゴマー、メガファック(登録商標)RS−75、メガファックRS−76−E、メガファックRS−72−K、メガファックRS−76−NS、メガファックRS−90(以上、DIC株式会社製)、オプツール(登録商標)DAC−HP(ダイキン工業株式会社製)、ZX−058−A、ZX−201、ZX−202、ZX−212、ZX−214−A(以上、株式会社T&KTOKA製)等を使用することができる。
H成分としては、分子構造中に炭素−炭素二重結合を含む化合物を使用することが好ましく、分子末端に炭素−炭素二重結合を有する化合物を使用することがより好ましい。H成分中の炭素−炭素二重結合は、ラジカル重合中にA成分等に含まれる(メタ)アクリロイル基と重合することができる。それ故、H成分として炭素−炭素二重結合を含む化合物を使用することにより、H成分に由来する構造単位を含む網状構造を形成することができる。その結果、硬化後のコーティング膜の耐摩耗性をより向上させることができる。
・有機溶媒
前記コーティング剤は、前述した各成分を溶解または分散させるための有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、例えば、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノエーテル;トルエンおよびキシレン等の芳香族化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン;ジブチルエーテル等のエーテル;ジアセトンアルコール;N−メチルピロリドン等を使用することができる。前記コーティング剤は、これらの有機溶媒のうち1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
前記コーティング剤は、有機溶媒としてのアルキレングリコールモノエーテルを含んでいることが好ましい。アルキレングリコールモノエーテルは、前述した各成分の分散性または溶解性に優れているため、基材上に前記コーティング剤を塗布した後に、均一な塗膜を形成することができる。また、基材がポリカーボネートから構成されている場合には、有機溶媒としてアルキレングリコールモノエーテルを使用することにより、基材を溶かすことなく塗膜を形成することができる。
・その他の添加剤
前記コーティング剤中には、必須成分としてのA成分〜C成分及びF成分の他に、コーティング剤の硬化を損なわない範囲で、コーティング剤用として公知の添加剤が含まれていてもよい。例えば、前記コーティング剤中には、添加剤として、ラジカル捕捉剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の、コーティング膜の劣化を抑制するための添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤を使用することにより、コーティング膜の耐候性を向上させる効果を期待することができる。
前記コーティング剤を透明樹脂からなる基材の表面に塗布した後硬化させることにより、透明樹脂からなる基材と、前記コーティング剤の硬化物からなり、基材の表面を被覆するコーティング膜と、を有する表面被覆部材を得ることができる。基材が板状である場合には、コーティング膜は、基材の片面にのみ形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。コーティング膜の膜厚は特に限定されることはないが、例えば、5〜40μmの範囲から適宜設定することができる。
前記コーティング剤の硬化物は透明であるため、透明樹脂からなる基材の表面に前記コーティング膜を形成することにより、窓ガラスに比べて軽量な窓用透明部材を得ることができる。更に、前記表面被覆部材は、前記コーティング膜の存在により、衝撃が加わった際に基材に加わる応力を小さくすることができる。それ故、外部から衝撃を受けた際の割れ等の発生を抑制することができる。前記表面被覆部材は、例えば車両に組み込まれる窓用透明部材として好適である。
基材を構成する透明樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、ポリカーボネートを採用することができる。ポリカーボネートは耐候性、強度、透明性等の窓用透明部材に要求される諸特性に優れているため、ポリカーボネートからなる基材の表面に前記コーティング膜を形成することにより、窓用透明部材として好適な表面被覆部材を得ることができる。
前記表面被覆部材を作製するに当たっては、例えば、基材を準備する準備工程と、
基材の表面上にコーティング剤を塗布する塗布工程と、
コーティング剤中のF成分からラジカルを発生させ、基材の表面上においてコーティング剤を硬化させる硬化工程と、
を有する製造方法を採用することができる。
上記製造方法において、塗布工程でのコーティング剤の塗布には、スプレーコーター、フローコーター、スピンコーター、ディップコーター、バーコーター、アプリケーター等の公知の塗布装置の中から、所望する膜厚や機材の形状等に応じて適切な装置を選択して使用することができる
塗布工程の後、必要に応じてコーティング剤を加熱して乾燥させる工程を行ってもよい。
硬化工程においては、F成分の性質に応じて適切な処理を行うことにより、F成分からラジカルを発生させ、ラジカル重合反応を進行させることができる。例えば、F成分として熱ラジカル重合開始剤が含まれている場合には、コーティング剤を加熱することにより、F成分からラジカルを発生させることができる。また、F成分として光ラジカル重合開始剤が含まれている場合には、コーティング剤に適切な波長の光を照射することにより、F成分からラジカルを発生させることができる。
硬化工程の後、必要に応じてコーティング膜を加熱し、硬化を促進させる工程を行ってもよい。
前記コーティング剤及び表面被覆部材の実施例について説明する。なお、本発明に係るコーティング剤及び表面被覆部材の態様は、以下に示す態様に限定されるものではなく、その趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
本例において使用した化合物は以下の通りである。
・A成分
HDI3−HBA:ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの付加生成物
・B成分
M−315:イソシアヌル酸エチレンオキシド変性トリアクリレートを含む混合物(東亞合成株式会社製)
・C成分
UA−1100H:ウレタンアクリレート(新中村化学工業株式会社製、(メタ)アクリル当量116〜133)
UA−53H:ウレタンアクリレート(新中村化学工業株式会社製、(メタ)アクリル当量153)
A−DPH:ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業株式会社製、(メタ)アクリル当量96)
・D成分
AX−4−HC:多官能アクリレートポリマー(株式会社日本触媒製、重量平均分子量 22000)
アクリット(登録商標)8BR−930M:アクリロイル基含有ポリウレタン(大成ファインケミカル株式会社製、重量平均分子量 16000)
アクリット8UH−1006:メタクリロイル基含有ポリウレタン(大成ファインケミカル株式会社製、重量平均分子量20000)
・E成分
表面修飾コロイダルシリカ マレイミド基を備えたアルコキシシランとコロイダルシリカとの縮合生成物
・F成分
Irgacure(登録商標)754:フォスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤(BASF社製)
Irgacure819:α−ケトエステル系化合物を含む光ラジカル重合開始剤(BASF社製)
・G成分
RUVA−93:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(大塚化学株式会社製)
・H成分
8019additive:シリコーン系表面調整剤(東レ・ダウコーニング株式会社製)
・その他の添加剤
O−1:Tinuvin(登録商標)123:ヒンダードアミン系光安定剤(BASF社製)
本例においては、まず、有機溶媒中に表1に示す質量比で各成分を溶解または分散させてコーティング剤(試験剤1〜9)を調製した。また、試験剤の調製とは別に、基材として、ポリカーボネートからなる板厚5mmの板材を準備した。
フローコーターを用いて基材の片面上に試験剤を塗布した後、基材を100℃の温度で10分間加熱してコーティング剤を乾燥させた。その後、試験剤に紫外光を照射することにより基材中のF成分からラジカルを発生させた。なお、本例においては、紫外光の光源として、ピーク照度300mW/cm2の高圧水銀ランプを使用した。
以上により、基材の片面上に試験剤の硬化物からなるコーティング膜を形成し、表面被覆部材を得た。得られた表面被覆部材を用い、以下の方法によりコーティング膜と基材との初期密着性、表面被覆部材の初期の透明度、耐摩耗性、耐候性及び表面被覆部材の耐衝撃性の評価を行った。
・コーティング膜と基材との初期密着性
JIS K5600−5−6:1999(ISO 2409:1992)の規定に準じ、クロスカット法による付着性試験を行った。具体的には、カッターナイフを用いてコーティング膜を1mm間隔で格子状に切断し、コーティング膜に100か所の正方形小片を形成した。これらの正方形小片に付着テープとしてのセロハンテープ(ニチバン株式会社製)貼り付けた。その後、コーティング膜から付着テープを剥離し、基材上に残存した正方形小片の数を数えた。
各試験剤を用いた表面被覆部材における、基材上に残存した正方形小片の割合(%)は表1に示す通りであった。初期密着性の評価においては、基材上に残存した正方形小片の割合が大きいほど、初期密着性が高く、コーティング膜が基材から剥離しにくいことを示す。
・表面被覆部材の初期の透明度
濁度系(日本電色工業株式会社製「NDH−2000」)を用い、JIS K7136:2000(ISO 14782:1999)に準じた方法により表面被覆部材のヘイズ値H(%)を測定した。各試験剤を用いた表面被覆部材の初期のヘイズ値H(%)は表1に示す通りであった。初期の透明度の評価においては、ヘイズ値Hが2%以下の場合を十分に高い透明度を有しているため合格と判定し、2%を超える場合を透明度が低いため不合格と判定する。
・耐摩耗性
テーバー式摩耗試験機を用いて表面被覆部材上のコーティング膜を摩耗させた後、ヘイズメーターを用いて摩耗後の表面被覆部材のヘイズ値を測定した。なお、テーバー式摩耗試験機の摩耗輪にはCS−10Fを使用した。また、摩耗試験における荷重は500gfとし、回転数は500回とした。
各試験剤を用いた表面被覆部材における、摩耗によるヘイズ値の増加量ΔH(%)、つまり、摩耗後のヘイズ値から初期のヘイズ値を差し引いた値は表1に示す通りであった。ヘイズ値の増加量ΔHは、値が小さいほど摩耗量が小さく、耐摩耗性に優れていることを示す。耐摩耗性の評価においては、ヘイズ値の増加量ΔHが10%以下の場合を十分に高い耐摩耗性を有しているため合格と判定し、10%を超える場合を耐摩耗性に劣るため不合格と判定する。
・耐候性
超促進耐候性試験機(ダイプラ・ウィンテス株式会社製「メタルウェザー(登録商標)」を用い、促進耐候性試験を行った。促進耐候性試験においては、メタルハライドランプから発生させた紫外光を表面被覆部材に照射するステップと、照射を休止し、表面被覆部材を結露させるステップとからなるサイクルを1サイクルとし、前記のサイクルを繰り返し実施した。
コーティング膜の剥離の有無は、JIS K5600−5−6:1999(ISO 2409:1992)の規定に準じた付着性試験の結果に基づいて評価した。また、コーティング膜のクラックの有無は、目視により評価した。
各試験剤を用いた表面被覆部材における、コーティング膜の基材からの剥離またはクラックの発生が起きた時のサイクル数(回)は表1に示す通りであった。なお、表1の「耐候性」欄において記号「>」を付して示した数値は、当該サイクルではコーティング膜の剥離またはクラックの発生が起こらなかったことを示す。
・耐衝撃性試験
コーティング膜が下方を向くようにして表面被覆部材を水平に配置した。この表面被覆部材の上方から質量10kgの頭部模型を自由落下させ、表面被覆部材の基材側に衝突させた。頭部模型を衝突させた後の表面被覆部材を目視観察し、基材の割れの有無を評価した。
各試験剤を用いた表面被覆部材における、基材の割れの有無は表1に示す通りであった。
表1に示したように、試験剤1〜6は、必須成分としてのA成分、B成分、C成分及びF成分を含んでいる。また、これらの含有量は前記特定の範囲内である。表1に示した結果から、試験剤1〜6を用いて作製された表面被覆部材は、必須成分のうち少なくとも1種を含まない試験剤7〜9に比べて耐候性及び耐衝撃性に優れていることが理解できる。
また、試験剤1〜6の中でも、特に、A成分〜C成分の含有量のバランスがよい試験剤3〜6は、A成分の含有量が少ない試験剤1、2よりも更に優れた耐候性を有していることが理解できる。