JP6909576B2 - CaF2結晶及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は蛍光発光体に関するもので、紫外線を吸収することにより蛍光を発するCaF結晶及びその製造方法に関するものである。
紫外線はそのエネルギーを生かして、樹脂硬化、殺菌、フォトリソグラフィなど様々な産業分野で利用されている。しかし、紫外線は人間の目で検知できる波長よりも短い電磁波であるため、産業に応用する際には、何らかの方法で紫外線を感知し、さらに人間が認識できる形に変換させる必要がある。
CaFは紫外から赤外までの広い波長領域において透過率が大きい物質であるが、これにEuイオンを添加して、紫外線を吸収すると蛍光を発する蛍光発光材料として用いることが知られている。
特許文献1では、発光波長420〜430nmにピークを持つ、青色発光するフッ化カルシウム結晶が記載されている。
また、特許文献2では、ユーロピウムがドープされたフッ化カルシウムが記載されており、ユーロピウムの濃度を変えることで、青色又は赤色の蛍光が得られることが記載されている。
特開2006−36618号公報 特開2009−51966号公報 特開2006−206359号公報
Eu(ユーロピウム)は、透明材料中に添加物として含有させる場合において、紫外線照射によって赤色や青色の蛍光を発することが知られている。特許文献2のように、Euの添加量などを調整して目的の色を発色する蛍光発光体を得ることが行われてきた。
近紫外線は波長毎に、概ね400nm〜315nmを紫外線A波(UV−A)、315nm〜280nmを紫外線B波(UV−B)、280nm未満を紫外線C波(UV−C)として区別される。しかし、従来の蛍石にEuを添加した蛍光発光体においては、蛍光色は吸収される波長によらず、通常は青色や赤色といった単色である。特許文献3では、赤色又は青色に発光する焼結体が知られているが、3種類以上の蛍光を発する材料は知られていない。
一方、紫外線の照射により複数の蛍光色を発する有機材料も存在するが、母材の有機材料自体の紫外線に対する耐久性が低く、短期間の使用で劣化してしまうという問題があった。
本発明は上記従来技術に鑑みてなされたものであり、紫外線の励起波長により複数の異なる波長の蛍光を発し、耐久性の高い蛍光発光体を提供することを目的とする。
本発明は、Euを含むCaF結晶であって、
波長365nmの光を吸収して励起されたときと、波長285nmの光を吸収して励起されたときと、波長254nmの光を吸収して励起されたときで、それぞれ異なる蛍光を発することを特徴とする。
また、本発明は、Euを含むCaF結晶であって、
440nmよりも短い波長の励起光を吸収すると400nm〜500nmの範囲にピークのある蛍光を発し、
300nmよりも短い波長の励起光を吸収すると400nm〜500nmの範囲にピークのある蛍光、並びに560nm〜590nmの範囲にピークのある蛍光及び/又は600nm〜630nmの範囲にピークのある蛍光を発することを特徴とする。
また、本発明は、Euを含む化合物を含有するCaFの原料を溶融させて、冷却し結晶を得る結晶成長工程を含むCaF結晶の製造方法であって、
以下の(1)〜(4)の少なくともいずれかの方法を含むことを特徴とするCaF結晶の製造方法に関する。
(1)該結晶成長工程において、酸素を含む原料を該CaFの原料中に混合させる方法。
(2)該結晶成長工程において、該CaF結晶から酸素を取り除くのに十分な量に満たない量のスカベンジャーを用いて真空中で該CaF原料を溶融させる方法。
(3)該結晶成長工程後にアニール工程を含み、該アニール工程において、該CaF結晶から酸素を取り除くのに十分な量に満たない量のスカベンジャーを用いて真空中で該CaF結晶のアニールを行う方法。
(4)該結晶成長工程後にアニール工程を含み、該アニール工程において、CaF結晶を大気雰囲気中にてアニールを行う方法。
本発明により、紫外線の励起波長により複数の異なる波長の蛍光を発し、耐久性の高い蛍光発光体を得ることができる。
実施例の蛍光発光体の励起波長と蛍光波長の測定結果を示す図 実施例の蛍光発光体の励起波長と蛍光波長の測定結果を示す図 実施例の蛍光発光体の可視光に対する透過率を示す図 比較例の焼結体の励起波長と蛍光波長の測定結果を示す図
本発明において、数値範囲を表す「○○以上××以下」や「○○〜××」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
Euをドープした光透過材料は、紫外線を照射することにより蛍光を発することが知られている。材料中のEuイオンは紫外線の照射により励起され、その後基底状態に戻る際に蛍光を発する。材料中のEuのイオン価の状態により、紫外線により励起されたときの状態が異なると考えられるため、一つの材料中に複数の状態のEuイオンが存在すれば、複数の蛍光を発する材料が得られると考えられる。
そこで本発明者らは、鋭意検討を行った結果、CaF結晶を製造する際の結晶成長の条件や、アニール条件を制御することで、紫外線の励起波長により異なる蛍光色を発する結晶が得られることを見出した。Euを含むCaF結晶の酸化状態を制御することで、結晶中にEuイオンを複数の状態で存在させることができるため、紫外線の励起波長により異なる蛍光色を発することが可能になると本発明者らは考えている。
本発明のCaF結晶は、波長365nmの光を吸収して励起されたときと、波長285nmの光を吸収して励起されたときと、波長254nmの光を吸収して励起されたときで、それぞれ異なる波長域の蛍光を発する。
波長365nmの光を吸収して励起されたときは、好ましくは400nm〜500nmの範囲、より好ましくは410nm〜440nmの範囲にピークのある蛍光を発する。
波長285nmの光を吸収して励起されたときは、好ましくは400nm〜500nm(より好ましくは410nm〜440nm)の範囲にピークのある蛍光、並びに560n
m〜590nm(より好ましくは570nm〜580nm)の範囲にピークのある蛍光及び/又は600nm〜630nm(より好ましくは610nm〜620nm)の範囲にピークのある蛍光を発する。
波長254nmの光を吸収して励起されたときは、好ましくは400nm〜500nm(より好ましくは410nm〜440nm)の範囲にピークのある蛍光、並びに560nm〜590nm(より好ましくは570nm〜580nm)の範囲にピークのある蛍光及び/又は600nm〜630nm(より好ましくは610nm〜620nm)の範囲にピークのある蛍光を発する。
また、本発明のCaF結晶は、440nmよりも短い波長(好ましくは300nm〜420nm)の励起光を吸収すると400nm〜500nm(好ましくは410nm〜440nm)の範囲にピークのある蛍光を発する。
また、300nmよりも短い波長(好ましくは230nm〜300nm)の励起光を吸収すると400nm〜500nm(好ましくは410nm〜440nm)の範囲にピークのある蛍光、並びに560nm〜590nm(好ましくは570nm〜580nm)の範囲にピークのある蛍光及び/又は600nm〜630nm(好ましくは610nm〜620nm)の範囲にピークのある蛍光を発する。
また、より好ましくは、270nm〜300nmの励起光を吸収すると400nm〜500nm(好ましくは410nm〜440nm)の範囲にピークのある蛍光及び560nm〜590nm(好ましくは570nm〜580nm)の範囲にピークのある蛍光を発し、230nm以上270nm未満の励起光を吸収すると400nm〜500nm(好ましくは410nm〜440nm)の範囲にピークのある蛍光及び600nm〜630nm(好ましくは610nm〜620nm)の範囲にピークのある蛍光を発する。
本発明のCaF結晶は、Euを含む蛍光ガラスとは配位子が異なり、また透光性を有するCaF焼結体にみられるような結晶欠陥が多く存在していないため、Euイオンの結晶場が従来の蛍光体とは異なる状態にあると考えられる。そのためEuイオンのエネルギー順位が変化して電子遷移による発光する波長が変化し、蛍光ガラスや特許文献3に記載のような透光性CaF焼結体では見られない、赤や青以外の575nm付近にピークを有する黄緑の光を発光しうるものと考えている。
なお、本発明のCaF結晶は、波長300〜440nm(好ましくは320〜420nm)の励起光又は波長365nmの励起光を吸収したとき、530nm〜590nm及び600nm〜630nmの範囲にピークのある蛍光が、実質的に観察されないことが好ましい。例えば、530nm〜590nm及び600nm〜630nmの範囲にピークのある蛍光のピーク強度が、400〜500nmの範囲にピークのある蛍光のピーク強度の、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下である。
蛍光の測定には日立ハイテクノロジーズ製分光蛍光光度計F―7000を用いることができる。なお、波長400nm〜500nm程度の蛍光は人の目には青色の蛍光として観察される。また、波長530nm〜590nm程度の蛍光は緑色〜黄緑に、600nm〜630nm程度の蛍光は赤色に観察される。
本発明のCaF結晶は、組成が均一な結晶であることが好ましい。すなわち、構成する組成が同一でない結晶の混合物でないことが好ましい。
本発明のCaF結晶は、一般的なCaF結晶の製造方法に基づいて製造することができる。
一般的なCaF結晶の製造方法について、例えば、ブリッジマン法を例に説明する。なお、以下、ブリッジマン法による結晶製造の例について説明するが、CaF結晶の製造方法はこれに限定されない。例えばCZ法やフローティングゾーン法など他の結晶育成方法を用いた場合においても、本発明と同様の特徴を持たせることが可能である。
ブリッジマン法によるCaF結晶の作製方法では、CaFの顆粒や粉末を原料として用いる。さらに、得られる結晶の白濁の原因となる原料表面に吸着している水分や酸素を除去する目的で、スカベンジャーと呼ばれるCaFよりも低温で昇華しやすいZnFなどの添加物を混合する。これらを混合したものを、るつぼに投入したのち真空加熱装置に投入し、真空中(例えば、真空度5×10−4Pa〜5×10−2Pa)にて加熱溶融を行う(例えば、1400〜1450℃、5〜20時間)。これを徐冷していくと溶融されたCaF原料はるつぼ内で結晶として成長する(結晶成長工程)。
スカベンジャーとしては、ZnF、PbF、BiF、NaF、LiFからなる群から選択される少なくとも一つを用いることができる。
次に、室温まで冷却したCaF結晶をるつぼから取り出し、再度真空装置内に投入し、結晶のひずみを緩和させるために、溶融時よりも低い温度(例えば、700〜1100℃)で真空加熱したのち徐冷することによりアニールを行う(アニール工程)。アニールにおいても結晶表面の酸化による失透を防ぐために、スカベンジャーを真空装置内に結晶と共に投入する。以上の工程にてCaFの結晶が得られるが、通常は、結晶中の酸素を除去してより高い透明性を得るために、十分な量のスカベンジャーを用いることと、より高真空な条件つまりより低い圧力雰囲気中における溶融及びアニールのプロセスが行われている。
本発明のCaF結晶は、例えば、上記製造方法において、以下のような手段を用いることで得ることができる。Euをドープさせるほかにも、意図的に十分な光透過性を維持できる程度の微量の酸素を結晶中に含有させうる方法が好ましい。
本発明は、Euを含む化合物を含有するCaFの原料を溶融させて、冷却し結晶を得る結晶成長工程を含むCaF結晶の製造方法であって、
以下の(1)〜(4)の少なくともいずれかの方法を含むことを特徴とする。
(1)該結晶成長工程において、酸素を含む原料を該CaFの原料中に混合させる方法。
(2)該結晶成長工程において、該CaF結晶から酸素を取り除くのに十分な量に満たない量のスカベンジャーを用いて真空中で該CaF原料を溶融させる方法。
(3)該結晶成長工程後にアニール工程を含み、該アニール工程において、該CaF結晶から酸素を取り除くのに十分な量に満たない量のスカベンジャーを用いて真空中で該CaF結晶のアニールを行う方法。
(4)該結晶成長工程後にアニール工程を含み、該アニール工程において、CaF結晶を大気雰囲気中にてアニールを行う方法。
結晶成長工程又はアニール工程の際に、スカベンジャーの量を少なく抑える又はスカベンジャーを用いない方法が挙げられる。当該方法は上記(2)又は(3)に該当する。このような方法により、意図的にフッ化物の原料表面に吸着していた酸素をCaF結晶中に残留させることができるため、紫外線の励起波長により異なる波長の蛍光を発する結晶が得られると考えられる。
結晶成長工程時における、CaF結晶から酸素を取り除くのに十分な量に満たない量のスカベンジャーとしては、結晶成長工程でのスカベンジャーの添加量が、CaFの原料100質量部に対して、好ましくは0質量部以上0.3質量部未満であり、より好ましくは0質量部以上0.2質量部以下である。結晶成長工程でスカベンジャーを用いなくてもよい。
アニール工程時における、CaF結晶から酸素を取り除くのに十分な量に満たない量のスカベンジャーとしては、アニール工程のスカベンジャーの添加量(g)が、アニール工程に使用する装置内容積1Lに対し、好ましくは0g以上0.01g以下であり、より好ましくは0.003g以下である。アニール工程でスカベンジャーを用いなくてもよい

アニール時の加熱時間としては、好ましくは0.5時間以上であり、より好ましくは1時間以上である。上限は特に制限されないが、1時間の結果と6時間の結果ではおおきな差はなく、好ましくは10時間以下、より好ましくは6時間以下である。
また、アニールを真空雰囲気中ではなく大気雰囲気中で行う方法が挙げられる。当該方法は上記(4)に該当する。当該方法では、表面が薄く白濁した結晶が得られるが、その表面を研削して白濁部分を除去することで、本発明のCaF結晶を得ることができる。
さらに、上記(1)、酸素を含む原料をCaFの原料中に混合させる方法としては以下の通り。結晶成長工程においてEuをドープする際に、Eu粉末をCaF原料に混合して結晶成長させる方法が挙げられる。またEuF原料とCaF原料と他の酸化物(例えば、Ca(PO、CaOなど)を添加して結晶成長させる方法が挙げられる。
CaF原料にEuなどの酸化物を加える場合、酸化物の添加量は、酸化物の種類によっても異なるため特に制限されないが、CaF原料及び酸化物の合計を基準として、好ましくは0.001mol%以上10mol%以下であり、より好ましくは0.01mol%以上1mol%以下である。
酸素を含む原料としては、Eu、Ca(PO、CaOからなる群から選択される少なくとも一つ以上が挙げられる。なお、当該(1)の方法では、結晶成長工程後にアニールを行ってもよいし、行わなくてもよい。
CaF結晶において、Euの含有量は、Euを含むCaF結晶中に30cat%以下であることが好ましく、8.5cat%以下がより好ましく、3.0cat%以下であることがさらに好ましく、1.0cat%以下であることが特に好ましい。下限についてはICP発光分析で検出できない程度の微量でもよいため特に制限されないが、0.001cat%以上が好ましく、0.005cat%以上がより好ましい。なお本発明においてEuのカチオン%(cat%)とは結晶中に含まれるCaイオンとEuイオンの個数の合計に対する、Euのカチオンの個数の割合を%で示したものである。
結晶成長工程において、CaFの原料にEuを含む化合物を含有させる方法としてはEuFやEuを、CaF原料と混合させる方法が挙げられる。ほかにも、Euを含むCaF結晶の原料を結晶成長させたるつぼを洗浄せずに、Euを混合させないCaF原料を投入して結晶成長させて、るつぼに付着していたEuをCaF結晶中に取り込ませる方法も挙げられる。このような方法でも添加される量としては十分である。
Euを含む化合物としては、EuF、Eu、EuO、EuCO、Eu(COからなる群から選択される少なくとも一つ以上が挙げられる。
結晶中のEuの含有量は、例えば、ICP発光分光分析法で測定できる。
ICP発光分光分析法での測定にはVISTA−PRO(バリアン製)を用いる。RFパワーは1.25kwとし、プラズマガス(Ar)の流量は18.0l/min、キャリアガス(Ar)の流量は1.5l/minとする。測定用試料は、粉末にした結晶0.1gを硝酸水溶液(硝酸:水=1:1)10mlに入れ、ホットプレートで150℃に加熱して溶解させた後、純水で100mlに希釈することにより作製する。濃度の算出には検量線法を用いる。
本発明のCaF結晶は、透明であることが好ましい。結晶が透明とは、400nm〜800nmの可視領域での透過率を測定したとき、420nm以上のいずれの波長においても(好ましくは420nmの波長において)75%以上、好ましくは80%以上の透過率を有することを基準とする。透過率の測定は、日立ハイテクノロジーズ製分光光度計U―3300を用いて行うことができる。
透過性はアニールの際のスカベンジャーの量や、アニール温度、アニール時間、真空度、アニール後の結晶表面の研削の程度、などにより制御することができる。
本発明のCaF結晶は、酸素を含むことが好ましい。結晶が酸素を含むか否かは、結晶のFT−IR測定により、酸素に起因する吸収が確認できるかどうかで判断できる。
FT―IRの測定はサーモフィッシャーサイエンティフィック製NICOLET6700を用いる。酸素に起因する吸収としては、3640cm−1付近のCa―O―H結合に起因する振動による吸収や、1410cm−1付近のCa―O結合に起因する振動による吸収、などが挙げられる。
FT―IRの測定方法は透過法で行うことが出来る。
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。実施例及び比較例の結果を表1に示す。ただし、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
〈実施例1〉
CaFの顆粒(粒径サイズ0.1mm〜10mm)に、EuF粉末原料(粉末粒径サイズ1μm〜5μm)をEuのカチオン%で0.05cat%、さらに、CaFから酸素を除去する目的のスカベンジャーとしてZnFを、CaFの原料100質量部に対して0.3質量部混合した。混合物を、カーボン製のるつぼに投入し、これを真空焼成装置内にセットし、真空度5.0×10−3Paまで排気を行った。
その後100℃/hのスピードで昇温させ、ピーク温度1450℃において5時間保持し、融液を得た。ここから6℃/hのスピードで温度を150℃降下させたのち、100℃/hのスピードで温度を室温まで降下させ、真空装置を大気開放し、CaFの結晶を得た。
得られたCaFの結晶とスカベンジャーとしてZnFとを再度真空焼成装置に投入して排気し、1.0×10−3Paの真空中で900℃の温度にて1時間保持したのち50℃/hのスピードで温度を降下させることによりアニールを行った。アニール時に使用したZnFは、装置内容積1Lに対して0.0015g用いた。
アニールを行った後のCaF結晶をヘキ開することで厚さ4mmに加工し、分光蛍光光度計で測定したところ、315nm〜400nm付近の励起光では波長430(400〜500nm)nm近辺の青色の蛍光が測定された。
285nmの励起光では、波長430(400〜500nm)nm近辺の青色の蛍光と、575nm付近の緑色の蛍光が観察された。
また、254nmの励起光では波長430(400〜500nm)nm近辺の青色の蛍光と、615±10nm付近の赤色の蛍光が観察された。この測定結果を図1に示す。蛍光測定には日立ハイテクノロジーズ製分光蛍光光度計F―7000を用いた。
また、得られた結晶の処方及び物性を表1に示す。
このCaF結晶中のEu濃度をICP発光分光分析法にて測定したところ、投入した時の濃度0.05cat%に対して得られた結晶中のEu濃度は0.06cat%であった。これは、原料を溶融した際にCaFが揮発により一部失われたために、相対的にEu濃度が増加したためと考えられる。
さらに、このCaF結晶をFT−IR測定を行ったところ、3640cm−1付近にてCa―O―H結合に起因する振動による吸収が確認され、この結晶中に酸素が含まれることがわかった。FT―IRの測定はサーモフィッシャーサイエンティフィック製NICOLET6700を用いた。
このCaF結晶から酸素が検出されたのは、アニール時に酸素を除去する目的で用いたスカベンジャーのZnFの使用量が少ないため、結晶の表面や装置内部に吸着していた水分や酸素が除去されずにCaF結晶内に残留したものであると推測される。また、
この微量な酸素の影響で、複数の状態のEuイオンが存在し、複数の蛍光を発するようになったと考えられる。
このCaF結晶にアズワン製SLUV−4紫外線ランプを用いて254nmの紫外線を15cmの距離から200時間照射し、耐久試験を行ったところ、透明性や蛍光発光強度などの変化は認められなかった。
さらに、真空装置によるアニールを、1000℃の条件で行った場合も、同様の結晶を得ることができた。
〈実施例2〉
実施例1と同様に、CaFの顆粒とEuF粉末原料とスカベンジャーのZnFを混合したものをカーボン製のるつぼにて溶融して結晶を得た。その後、真空装置は用いずに大気雰囲気にて900の温度にて1時間保持したのち、室温まで徐冷することによってアニールを行った。
得られた結晶の表面が薄く白濁していたため、表面を研削して白濁部分を除去した後に、内部の透明なCaF結晶を厚さ5mmに加工し、分光蛍光光度計で測定した。結果を表1に示す。
さらに、このCaF結晶をFT−IR測定を行ったところ、3640cm−1付近にCa―O―H結合に起因する振動による吸収と1410cm−1付近にCa―O結合に起因する振動による吸収が確認され、この結晶中に酸素が含まれることがわかった。さらに、大気雰囲気でのアニールを、700℃、1100℃の条件で行ったが、いずれの温度で行った場合も、同様の結晶を得ることができた。
〈実施例3〉
CaFの顆粒(粒径サイズ0.1mm〜10mm)にEu粉末原料(粉末粒径サイズ1μm〜5μm)を、0.01cat%で混合し、スカベンジャーのZnFは混合せずにカーボン製るつぼに投入した。実施例1と同様にこれを真空焼成装置内にセットし、真空度5.0×10−3Paまで排気を行った。その後100℃/hのスピードで昇温させ、ピーク温度1450℃において5時間保持し、融液を得た。ここから6℃/hのスピードで温度を150℃降下させたのち、100℃/hのスピードで温度を室温まで降下したら、真空装置を大気開放し、CaFの結晶を得た。
このCaFの結晶をアニールせずに厚さ7mmに加工し、分光蛍光光度計で測定した結果を図2に示す。また、得られた結晶の処方及び物性を表1に示す。
このCaF結晶は目視観察において透明であり、400nm〜800nmの可視領域での透過率を測定した結果420nm以上のいずれの波長においても80%以上の透過率であった。光透過率の測定結果を図3に示す。透過率の測定は、日立ハイテクノロジーズ製分光光度計U―3300を用いた。
〈実施例4〉
CaFの顆粒(粒径サイズ0.1mm〜10mm)にEuF粉末原料(粉末粒径サイズ1μm〜5μm)を、CaF顆粒及びEuFの総量を基準として0.05cat%混合し、さらにCa(POをCaFの原料及びCa(POの合計を基準として0.013mol%添加して混合し、スカベンジャーのZnFは混合せずにカーボン製のるつぼに投入した。
これを真空焼成装置内にセットし、真空度5.0×10−3Paまで排気を行った。その後100℃/hのスピードで昇温させ、ピーク温度1450℃において5時間保持し、融液を得た。ここから6℃/hのスピードで温度を150℃降下させたのち、100℃/hのスピードで温度を室温まで降下したら、真空装置を大気開放し、CaFの結晶を得た。アニールは行わなかった。
このCaF結晶を厚さ4mmに加工し、分光蛍光光度計で測定した。結果を表1に示
す。
〈実施例5〉
CaFの顆粒(粒径サイズ0.1mm〜10mm)にEuF粉末原料(粉末粒径サイズ1μm〜5μm)を、8.5cat%混合するほかは実施例1と同様に、CaFの顆粒、EuF粉末原料及びZnFを混合し、結晶を得た。
得られた結晶は透明であったが、やや赤褐色を帯びていた。蛍光測定の結果を表1に示す。
〈実施例6〉
実施例6では、実施例3で使用したカーボンるつぼを洗浄せずに用いた。CaFの顆粒(粒径サイズ0.1mm〜10mm)とスカベンジャーとしてZnFをCaFの原料100質量部に対して0.3質量部添加して混合し、るつぼに投入した。EuF原料やEuは添加しなかった。るつぼを真空焼成装置内にセットし、真空度5.0×10−3Paまで排気を行った。その後100℃/hのスピードで昇温させ、ピーク温度1450℃において5時間保持し、融液を得た。ここから6℃/hのスピードで温度を150℃降下させたのち、100℃/hのスピードで温度を室温まで降下したら、真空装置を大気開放し、CaFの結晶を得た。アニールは実施例2と同様に行った。
このCaFの結晶も分光蛍光光度計で測定した。結果を表1に示す。
また、このCaF結晶をICP発光分析にて測定したところ、定量は不可能であったが微量のEuが検出された。このEuは実施例3での実験において、るつぼ内に付着していたものが混入したと考えられ、蛍光発光に起因するCaF中のEuはきわめて微量であっても有効であることがわかった。
〈比較例1〉
実施例1と同様に、CaFの顆粒とEuF粉末原料とZnFを混合したものをカーボン製のるつぼにて溶融して結晶を得た。その後、得られたCaFの結晶とスカベンジャーのZnFを再度真空焼成装置に投入して排気し、7.0×10−4の真空中で1000℃の温度にて20時間保持した。その後−7℃/hのスピードで温度を降下させることによりアニールを行った。アニール時に使用したスカベンジャーのZnFは、装置内容積1Lに対して0.18g用いた。
アニールを行った後のCaF結晶を厚さ6mmに加工し、分光蛍光光度計で測定したところ、いずれも430(400〜500nm)nm近辺の青色の蛍光のみが観察された。結果を表1に示す。他の波長の蛍光はノイズ程度のものに限られ、複数の波長の蛍光は確認できなかった。これはCaF結晶を作製する際に一般的に用いられる量のスカベンジャーを使用しているため、CaF結晶中の酸素が除去されて、Euは単一のイオン価のみが存在しているためと考えられる。
〈比較例2〉
CaFの顆粒(粒径サイズ0.1mm〜10mm)に添加するEuF粉末原料(粉末粒径サイズ1μm〜5μm)を、30cat%とするほかは、実施例1と同じ条件にてCaF結晶を得た。アニールの条件も実施例1と同じくしてCaF結晶を得た。しかしこのCaF結晶は透明ではなく全体が白濁していた。
また、このCaF結晶を分光蛍光光度計で測定したところ、いずれも615±10nm付近の赤色の蛍光のみが観察された。他の波長の蛍光はノイズ程度のものに限られ、複数の波長の蛍光は確認できなかった。結果を表1に示す。
〈比較例3〉
CaFの顆粒(粒径サイズ0.1mm〜10mm)にEu粉末原料(粉末粒径サイズ1μm〜5μm)を、0.05cat%混合し、さらにスカベンジャーとしてZn
をCaFの原料100質量部に対して0.3質量部添加して混合し、カーボン製のるつぼに投入した。実施例1と同様にこれを真空焼成装置内にセットし、真空度5.0×10−3Paまで排気を行った。その後100℃/hのスピードで昇温させ、ピーク温度1450℃において5時間保持し、融液を得た。ここから6℃/hのスピードで温度を150℃降下させたのち、100℃/hのスピードで温度を室温まで降下したら、真空装置を大気開放し、CaFの結晶を得た。
このCaFの結晶をアニールせずに厚さ4mmに加工し、分光蛍光光度計で測定したところ、いずれも430(400〜500)nm近辺の青色の蛍光のみが観察された。他の波長の蛍光はノイズ程度のものに限られ、複数の波長の蛍光は確認できなかった。結果を表1に示す。
これは原料としてEuの酸化物を用いているが、同時に添加したスカベンジャーのZnFの働きにより、Euに含まれていた酸素が除去され、CaF結晶中のEuは単一のイオン価のみが存在するようになったためと考えられる。
〈比較例4〉
実施例3で得られた、Euと酸素を含むCaF結晶を粉末状(粉末粒径サイズ1μm〜5μm)に粉砕し、これを金型に投入して1000kg/cmの圧力にてタブレット状に成形した。その後、ZnFと真空焼成装置に投入して排気し、1.0×10−3Paの真空中で900℃の温度にて1時間保持してCaFの焼結体を得た。真空焼成に使用したスカベンジャーのZnFは、装置内容積1Lに対して0.0015g用いた。
得られた焼結体を分光蛍光光度計で測定したところ、315nm〜400nm付近の励起光では波長430(400〜500nm)nm近辺の青色の蛍光が測定された。
285nmの励起光においては、波長430(400〜500nm)nm近辺の青色の蛍光のみが観察され、575nm付近の緑色の蛍光は観察されなかった。
また、254nmの励起光では波長430(400〜500nm)nm近辺の青色の蛍光と、615±10nm付近の赤色の蛍光がわずかに観察された。この測定結果を図4に示す。
これは、焼結体は相対密度が低いため、相対密度100%である結晶体とはEuイオンの結晶場が異なる状態にあると考えられ、結晶の時とEuイオンのエネルギー順位が変化し、電子遷移による発光の波長が変化したものと考えている。
Figure 0006909576

※表中、(青)、(赤)は目視における色を示す。
UV−Aとしては波長365nmの光を用い、UV−Bとしては波長285nmの光を用い、UV−Cとしては波長254nmの光を用いた。
表中蛍光発光の数字1,2及び3は以下のことを示している。
1:400nm〜500nmの範囲にピークのある発光がある
2:560nm〜590nmの範囲にピークのある発光がある
3:600nm〜630nmの範囲にピークのある発光がある
以上、本発明のCaF結晶は、紫外線により励起されて蛍光を発し、紫外線の波長により蛍光の波長が変化するため、照射した紫外線の波長領域を区別することが可能となる。また、発光素子として用いると一つの素子で複数の発色が可能な光源として利用できる。本発明のCaF結晶は十分な光透過性を持ち、長期間の使用においても劣化しないため、長期間安定した性能を維持することができる。また、十分な光透過性を持ち加工も容易であるため種々の光学素子としての利用が可能であり、紫外線を利用する産業分野において有用である。

Claims (6)

  1. Eu及び酸素を含むCaF結晶であって、
    該CaF 結晶のFT−IR測定において、該酸素に起因する吸収が確認され、
    波長365nmの光を吸収して励起されたときと、波長285nmの光を吸収して励起されたときと、波長254nmの光を吸収して励起されたときで、それぞれ異なる波長の蛍光を発することを特徴とするCaF結晶。
  2. Eu及び酸素を含むCaF結晶であって、
    該CaF 結晶のFT−IR測定において、該酸素に起因する吸収が確認され、
    440nmよりも短い波長の励起光を吸収すると400nm〜500nmの範囲にピークり、かつ該励起光よりも長い波長の蛍光を発し、
    300nmよりも短い波長の励起光を吸収すると400nm〜500nmの範囲にピークのある蛍光、並びに560nm〜590nmの範囲にピークのある蛍光及び/又は600nm〜630nmの範囲にピークのある蛍光を発することを特徴とするCaF結晶。
  3. 前記400nm〜500nmの範囲にピークがあり、かつ該励起光よりも長い波長の蛍光は、315nm〜400nmの波長の励起光を吸収すると発せられる、請求項2に記載のCaF 結晶。
  4. 前記Euの含有量が、前記結晶中に8.5cat%以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のCaF結晶。
  5. Euを含む化合物を含有するCaFの原料を溶融させて、冷却し結晶を得る結晶成長工程を含むCaF結晶の製造方法であって、
    以下の(1)〜(4)の少なくともいずれかの方法を含むことを特徴とするCaF結晶の製造方法。
    (1)該結晶成長工程において、酸素を含む原料を該CaFの原料中に混合させ、スカベンジャーを混合しない方法。
    (2)該結晶成長工程において、該CaFの原料100質量部に対して、0質量部以上0.3質量部未満のスカベンジャーを用いて真空中で該CaF原料を溶融させる方法。
    (3)該結晶成長工程後にアニール工程を含み、該アニール工程において、該CaF結晶から酸素を取り除くのに十分な量に満たない量のスカベンジャーを用いて真空中で該CaF結晶のアニールを行う方法。
    (4)該結晶成長工程後にアニール工程を含み、該アニール工程において、CaF結晶を大気雰囲気中にてアニールを行う方法。
  6. 前記(3)のアニール工程における、前記CaF結晶から酸素を取り除くのに十分な量に満たない量のスカベンジャーの添加量が、前記アニール工程に使用する装置内容積1Lに対し、0g以上0.01g以下である請求項5に記載のCaF結晶の製造方法。
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