本発明の空気入りタイヤは、所定のゴムを含むゴム成分と、シリカと、グリセリン脂肪酸エステルと、水添テルペン系樹脂とを所定配合で含有するゴム組成物を用いたトレッドを有する。所定のゴム成分・シリカを含む配合に、グリセリン脂肪酸エステルと水添テルペン系樹脂の両成分を所定量配合することで、低燃費性、ウェットグリップ性能の性能バランスが顕著に(相乗的に)改善される。このような作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
テルペン系樹脂を水素化して極性を低下させることで、グリセリン脂肪酸エステルの分散性が向上し、これに起因して良好なシリカ分散性が実現できる。そして、このようにシリカ分散性が向上することで、低燃費化を進めると同時に、テルペン系樹脂の水素添加により、ウェットグリップ性能の改善も実現できる。従って、本発明により、低燃費性、ウェットグリップ性能の性能バランスが顕著に(相乗的に)改善されると推察される。
(トレッド用ゴム組成物)
以下、トレッドに用いるゴム組成物について説明する。
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムの合計含有量が80質量%以上である。低燃費性、ウェットグリップ性能の性能バランスの点から、該合計含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
前記性能バランスの点から、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)のうち、BR、SBRが好ましく、BR及びSBRを併用することがより好ましい。
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRは、SIR20、RSS♯3、TSR20等、IRは、IR2200等、タイヤ工業で一般的なものを使用できる。改質NRは、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRは、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRは、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ゴム組成物は特にイソプレン系ゴムを含まないものでもよいが、ゴム成分がイソプレン系ゴムを含む場合、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは1〜10質量%である。
BRとしては特に限定されず、非変性BR、変性BRのいずれも使用可能である。例えば、高シス含量のBR、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム(希土類系BR)、スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)等、タイヤ工業において一般的なものが挙げられる。BRは、市販品としては、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。該含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。上記範囲内であると、低燃費性、ウェットグリップ性能の性能バランスが顕著に改善される。
BRのシス含量は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上である。
なお、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等を使用できる。SBRは、非変性SBR、変性SBRのいずれでもよいが、前記性能バランスの観点から、変性SBRが好ましい。市販品としては、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されている製品等を使用できる。
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%である。上記含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。上記範囲内であると、低燃費性、ウェットグリップ性能の性能バランスが顕著に改善される。
SBRのスチレン量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。下限以上にすることで、良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。上記スチレン量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。上限以下にすることで、発熱が小さくなり、良好な低燃費性が得られる傾向がある。
なお、スチレン量は、H1−NMR測定により算出される。
SBRのビニル量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。下限以上にすることで、良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。上記ビニル量は、好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。上限以下にすることで、良好な耐摩耗性が得られる傾向がある。
なお、本明細書において、ビニル量(1,2−結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
SBRの重量平均分子量Mwは、好ましくは15万以上、より好ましくは30万以上である。下限以上にすることで、良好な低燃費性が得られる傾向がある。該Mwは、好ましくは150万以下、より好ましくは120万以下、更に好ましくは100万以下である。上限以下にすることで、良好な加工性が得られる傾向がある。
なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算値として測定できる。
前記のとおり、本発明では変性SBRを好適に使用できるが、このような変性SBRとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するSBRであればよく、例えば、SBRの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性SBR(末端に上記官能基を有する末端変性SBR)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性SBRや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性SBR(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性SBR)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性SBR等が挙げられる。
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1〜6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1〜6のアルコキシシリル基)が好ましい。
変性SBRとして、特に下記式で表される化合物(変性剤)により変性されたSBRが好適である。
(式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(−COOH)、メルカプト基(−SH)又はこれらの誘導体を表す。R
4及びR
5は、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を表す。R
4及びR
5は結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。nは整数を表す。)
上記式で表される化合物(変性剤)により変性された変性SBRとしては、なかでも、溶液重合のスチレンブタジエンゴム(S−SBR)の重合末端(活性末端)を上記式で表される化合物により変性されたSBR(特開2010−111753号公報に記載の変性SBR等)が好適に用いられる。
R1、R2及びR3としてはアルコキシ基が好適である(好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)。R4及びR5としてはアルキル基(好ましくは炭素数1〜3のアルキル基)が好適である。nは、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、更に好ましくは3である。また、R4及びR5が結合して窒素原子と共に環構造を形成する場合、4〜8員環であることが好ましい。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基等)も含まれる。
上記変性剤の具体例としては、2−ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−ジメチルアミノエチルトリエトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、2−ジエチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。なかでも、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
変性SBRとしては、以下の化合物(変性剤)により変性された変性SBRも好適に使用できる。変性剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル;ジグリシジル化ビスフェノールA等の2個以上のフェノール基を有する芳香族化合物のポリグリシジルエーテル;1,4−ジグリシジルベンゼン、1,3,5−トリグリシジルベンゼン、ポリエポキシ化液状ポリブタジエン等のポリエポキシ化合物;4,4’−ジグリシジル−ジフェニルメチルアミン、4,4’−ジグリシジル−ジベンジルメチルアミン等のエポキシ基含有3級アミン;ジグリシジルアニリン、N,N’−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル−p−フェニレンジアミン、ジグリシジルアミノメチルシクロヘキサン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等のジグリシジルアミノ化合物;
ビス−(1−メチルプロピル)カルバミン酸クロリド、4−モルホリンカルボニルクロリド、1−ピロリジンカルボニルクロリド、N,N−ジメチルカルバミド酸クロリド、N,N−ジエチルカルバミド酸クロリド等のアミノ基含有酸クロリド;1,3−ビス−(グリシジルオキシプロピル)−テトラメチルジシロキサン、(3−グリシジルオキシプロピル)−ペンタメチルジシロキサン等のエポキシ基含有シラン化合物;
(トリメチルシリル)[3−(トリメトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(トリエトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(トリプロポキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(トリブトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(メチルジメトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(メチルジエトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(メチルジプロポキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3−(メチルジブトキシシリル)プロピル]スルフィド等のスルフィド基含有シラン化合物;
エチレンイミン、プロピレンイミン等のN−置換アジリジン化合物;メチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン;4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−N,N−ジ−t−ブチルアミノベンゾフェノン、4−N,N−ジフェニルアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)ベンゾフェノン、N,N,N’,N’−ビス−(テトラエチルアミノ)ベンゾフェノン等のアミノ基及び/又は置換アミノ基を有する(チオ)ベンゾフェノン化合物;4−N,N−ジメチルアミノベンズアルデヒド、4−N,N−ジフェニルアミノベンズアルデヒド、4−N,N−ジビニルアミノベンズアルデヒド等のアミノ基及び/又は置換アミノ基を有するベンズアルデヒド化合物;N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−フェニル−2−ピロリドン、N−t−ブチル−2−ピロリドン、N−メチル−5−メチル−2−ピロリドン等のN−置換ピロリドンN−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、N−フェニル−2−ピペリドン等のN−置換ピペリドン;N−メチル−ε−カプロラクタム、N−フェニル−ε−カプロラクタム、N−メチル−ω−ラウリロラクタム、N−ビニル−ω−ラウリロラクタム、N−メチル−β−プロピオラクタム、N−フェニル−β−プロピオラクタム等のN−置換ラクタム類;の他、
N,N−ビス−(2,3−エポキシプロポキシ)−アニリン、4,4−メチレン−ビス−(N,N−グリシジルアニリン)、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン類、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルマレイミド、N,N−ジエチル尿素、1,3−ジメチルエチレン尿素、1,3−ジビニルエチレン尿素、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1−メチル−3−エチル−2−イミダゾリジノン、4−N,N−ジメチルアミノアセトフェン、4−N,N−ジエチルアミノアセトフェノン、1,3−ビス(ジフェニルアミノ)−2−プロパノン、1,7−ビス(メチルエチルアミノ)−4−ヘプタノン等を挙げることができる。なかでも、アルコキシシランにより変性された変性SBRが好ましい。
なお、上記化合物(変性剤)による変性は公知の方法で実施可能である。
イソプレン系ゴム、BR、SBR以外に使用可能なゴム成分としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記ゴム組成物は、低燃費性、ウェットグリップ性能の性能バランスの点から、シリカを含むことが好ましい。シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。市販品としては、例えば、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以上、好ましくは70質量部以上、より好ましくは80質量部以上である。下限以上にすることで、良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。該含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下、更に好ましくは110質量部以下である。上限以下にすることで、良好な加工性、シリカ分散性が得られる傾向がある。
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは80m2/g以上、更に好ましくは150m2/g以上である。下限以上にすることで、良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。該N2SAは、好ましくは280m2/g以下、より好ましくは240m2/g以下である。上限以下にすることで、良好な分散性、低燃費性等が得られる傾向がある。
なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037−93に準じてBET法で測定される値である。
前記ゴム組成物がシリカを含む場合、シランカップリング剤を含むことが好ましい。
シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT−Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。市販品としては、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品が挙げられる。
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。3質量部以上であると、添加による効果が得られる傾向がある。また、上記含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。20質量部以下であると、配合量に見合った効果が得られ、良好な混練時の加工性が得られる傾向がある。
前記ゴム組成物は、前記性能バランスの観点から、カーボンブラックを含むことが好ましい。カーボンブラックとしては、特に限定されないが、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱化学(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上である。下限以上にすることで、十分な補強性を得ることができ、良好なウェットグリップ性能が得られる傾向がある。また、上記含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは30質量部以下である。上限以下にすることで、良好な転がり抵抗が得られる傾向がある。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、20〜200m2/gが好ましく、30〜60m2/gがより好ましい。下限以上にすることで、良好なウェットグリップ性能等が得られる傾向がある。上限以下にすることで、充分な低燃費性、加工性が得られる傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
前記ゴム組成物では、カーボンブラック及びシリカの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上であり、また、好ましくは180質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは120質量部以下である。上記範囲内であれば、良好なウェットグリップ性能が得られるとともに、優れた低燃費性も得られ、本発明の効果が充分に発揮される。
前記ゴム組成物には、カーボンブラック、シリカ以外の無機充填剤や有機充填剤を配合してもよい。前記無機充填剤としては、タルク、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、チタン白、チタン黒、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化アルミニウムマグネシウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭化ケイ素、ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。前記有機充填剤としては、セルロースナノファイバー等が挙げられる。
前記ゴム組成物は、グリセリン脂肪酸エステルを含有する。グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの持つ3つのOH基のうちの少なくとも1つに脂肪酸がエステル結合した化合物であり、脂肪酸の結合した数によって、グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、グリセリン脂肪酸トリエステルがある。
グリセリン脂肪酸エステルの含有量は、シリカ100質量部に対して、該エステルの分散性向上の観点から、1質量部以上、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。該含有量は、加硫後ゴム物性の低下抑制の観点から、20質量部以下、好ましくは12質量部以下、より好ましくは9質量部以下である。
グリセリン脂肪酸エステルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、該エステルの分散性向上の観点から、1質量部以上、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。該含有量は、加硫後ゴム物性の低下抑制の観点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは11質量部以下、更に好ましくは8質量部以下である。
グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、前記性能バランスの観点から、好ましくは炭素数8〜28、より好ましくは炭素数8〜22、更に好ましくは炭素数10〜18、特に好ましくは炭素数12〜18の脂肪酸である。脂肪酸は飽和、不飽和、直鎖、分岐鎖いずれでもよいが、特に、直鎖状飽和脂肪酸が好ましい。脂肪酸の具体例としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。好ましくは、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸であり、特に、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましい。
グリセリン脂肪酸エステル100%(質量%)中のグリセリン脂肪酸モノエステル含有率(グリセリン脂肪酸エステルの全量100質量%中のグリセリン脂肪酸モノエステルの含有率)は、前記性能バランスの観点から、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。上限は特に限定されず、100%でもよい。
グリセリン脂肪酸エステルは、油脂等を分解したグリセリンと脂肪酸から製造するエステル化法と、油脂等とグリセリンとを原料としたエステル交換法などにより製造できる。油脂や脂肪酸などの原料として天然物から由来のものを用いることで、環境負荷等も低減したグリセリン脂肪酸エステルとできる。グリセリン脂肪酸エステルの市販品も使用可能であり、花王社製のレオドールMS−60、エキセルP−40、エキセル200等が挙げられる。これらのグリセリン脂肪酸エステルは、1種又は2種以上を任意に選択して配合できる。
なお、本発明において、グリセリン脂肪酸エステル中のモノグリセライド含有量(グリセリン脂肪酸モノエステル含有量)とは、GPC分析(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、下記式に従って求めたものをいい、グリセリン、モノグリセライド、ジグリセライド(グリセリン脂肪酸ジエステル)及びトリグリセライド(グリセリン脂肪酸トリエステル)の合計に対するモノグリセライドのGPC分析における面積割合を意味する。
(式中、GはGPCのグリセリン面積、MGはGPCのモノグリセライド面積、DGはGPCのジグリセライド面積、TGはGPCのトリグリセライド面積である。)
GPCの測定条件は、下記の通りである。
〔GPCの測定条件〕
GPCの測定は下記測定装置を用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を毎分0.6ml/分の流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させた。そこにTHFに溶解した1質量%の試料溶液10μlを注入して測定を行った。
標準物質:単分散ポリスチレン
検出器:RI−8022(東ソー(株)製)
測定装置:HPLC−8220 GPC(東ソー(株)製)
分析カラム:TSK−GEL SUPER H1000 2本及びTSK−GEL SUPER H2000 2本を直列に連結(東ソー(株)製)
前記ゴム組成物は、水添テルペン系樹脂(水素添加テルペン系樹脂)を含有する。水添テルペン系樹脂は、テルペン系樹脂を水添した樹脂である。
水添テルペン系樹におけるテルペン系樹脂としては、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、ジペンテンなどのテルペン原料から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂、テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂、テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂など(水素添加されていないテルペン系樹脂)が挙げられる。ここで、芳香族変性テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエンなどが挙げられ、テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。
テルペン系樹脂の水添は、公知の方法で実施できる。また、水添テルペン系樹脂は、市販品も使用可能である。これらの水添テルペン系樹脂は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
水添テルペン系樹脂の含有量は、シリカ100質量部に対して、シリカ分散性向上、ウェットグリップ性能向上の観点から、3質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上である。該含有量の上限は特に限定されないが、加硫後ゴム物性の低下抑制の観点から、好ましくは25質量部以下、より好ましくは18質量部以下、更に好ましくは13質量部以下である。
水添テルペン系樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、シリカ分散性向上、ウェットグリップ性能向上の観点から、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上である。該含有量の上限は特に限定されないが、加硫後ゴム物性の低下抑制の観点から、好ましくは25質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは12質量部以下である。
水添テルペン系樹脂の水添率(水素添加率)は、シリカ分散性の向上、前記性能バランスの観点から、10%(モル%)以上が好ましい。上限は特に限定されず、適宜選択すればよい。
なお、水添率は、1H−NMR(プロトンNMR)による二重結合由来ピークの各積分値から、下記式により算出される値であり、二重結合の水素添加率を意味する。
(水添率〔%〕)={(A−B)/A}×100
A:水素添加前の二重結合のピークの積分値
B:水素添加後の二重結合のピークの積分値
水添テルペン系樹脂の軟化点は、ハンドリングの容易性の観点から、75℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上が更に好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーの分散性向上の観点から、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下が更に好ましい。なお、本発明における樹脂の軟化点は、フローテスター((株)島津製作所製、CFT−500D)を用い、試料として1gの樹脂を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出し、温度に対するフローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度とした。
水添テルペン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ゴム組成物のガラス転移温度が高くなり、耐久性が悪化することを防ぐという観点から、90℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下が更に好ましく、50℃以下が特に好ましく、40℃以下が最も好ましい。また、Tgの下限は、揮発性を確保できるという観点から、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上が更に好ましい。
水添テルペン系樹脂のSP値は、グリセリン脂肪酸エステルとの併用により、シリカ分散性向上効果、前記性能バランスの改善効果が得られるという観点から、8.00〜13.00が好ましく、8.00〜11.00がより好ましく、8.00〜10.00が更に好ましい。なお、SP値は、化合物の構造に基づいてHoy法によって算出された溶解度パラメーター(Solubility Parameter)を意味する。Hoy法とは、例えば、K.L.Hoy “Table of Solubility Parameters”, Solvent and Coatings Materials Research and Development Department, Union Carbites Corp.(1985)に記載された計算方法である。
前記ゴム組成物は、前記性能バランスの観点から、グリセリン脂肪酸エステル及び水添テルペン系樹脂と共に、オイルを配合することが好ましい。
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物を用いることができる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。パラフィン系プロセスオイルとして、具体的には出光興産(株)製のPW−32、PW−90、PW−150、PS−32などが挙げられる。また、アロマ系プロセスオイルとして、具体的には出光興産(株)製のAC−12、AC−460、AH−16、AH−24、AH−58などが挙げられる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生湯、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。市販品としては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果が好適に得られるという理由から、パラフィン系プロセスオイルが好ましい。
オイル、グリセリン脂肪酸エステル及び水添テルペン系樹脂の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上である。該合計含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは30質量部以下である。上記範囲内とすることにより、前記性能バランスが顕著に改善される。
前記ゴム組成物には、耐クラック性、耐オゾン性等の観点から、ワックスを配合することが好ましい。
ワックスとしては特に限定されず、石油系ワックス、天然系ワックスなどが挙げられ、また、複数のワックスを精製又は化学処理した合成ワックスも使用可能である。これらのワックスは、単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
石油系ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。天然系ワックスとしては、石油外資源由来のワックスであれば特に限定されず、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス、ホホバろうなどの植物系ワックス;ミツロウ、ラノリン、鯨ろうなどの動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、ペトロラクタムなどの鉱物系ワックス;及びこれらの精製物などが挙げられる。市販品としては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。下限以上にすることで、充分な耐オゾン性が得られる傾向がある。該含有量は、好ましくは6.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下である。上限以下にすることで、耐オゾン性、コストのバランスが良好になる傾向がある。
前記ゴム組成物は、耐クラック性、耐オゾン性等の観点から、老化防止剤を含有することが好ましい。
老化防止剤としては特に限定されないが、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′−ビス(α,α′−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N−イソプロピル−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン等のp−フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス−[メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。なかでも、p−フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤が好ましく、N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物がより好ましい。市販品としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上、更に好ましくは2.0質量部以上である。下限以上にすることで、充分な耐オゾン性が得られる傾向がある。該含有量は、好ましくは7.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下である。上限以下にすることで、良好なタイヤの外観が得られる傾向がある。
前記ゴム組成物は、ステアリン酸を含むことが好ましい。ステアリン酸の含有量は、前記性能バランスの観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部以上、より好ましくは0.5〜5質量部である。
なお、ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、NOF社、花王(株)、和光純薬工業(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
前記ゴム組成物は、酸化亜鉛を含むことが好ましい。酸化亜鉛の含有量は、前記性能バランスの観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部である。
なお、酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
前記ゴム組成物には、ポリマー鎖に適度な架橋鎖を形成し、良好な前記性能バランスを付与するという点で、硫黄を配合することが好ましい。
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上である。該含有量は、好ましくは6.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下、更に好ましくは3.0質量部以下である。上記範囲内にすることで、本発明の効果が充分に得られる傾向がある。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。市販品としては、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ゴム組成物は、加硫促進剤を含むことが好ましい。
加硫促進剤の含有量は特に制限はなく、要望する加硫速度や架橋密度に合わせて自由に決定すれば良いが、ゴム成分100質量部に対して、通常、0.3〜10質量部、好ましくは0.5〜7質量部である。
加硫促進剤の種類は特に制限はなく、通常用いられているものを使用可能である。加硫促進剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT−N)等のチウラム系加硫促進剤;N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、前記性能バランスの観点から、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
前記ゴム組成物には、前記成分以外にも、タイヤ工業において一般的に用いられている配合剤、例えば、離型剤等の材料を適宜配合してもよい。
前記ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常50〜200℃、好ましくは80〜190℃であり、混練時間は、通常30秒〜30分、好ましくは1分〜30分である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常100℃以下、好ましくは室温〜80℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫などの加硫処理が施される。加硫温度としては、通常120〜200℃、好ましくは140〜180℃である。
(空気入りタイヤ)
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造できる。
すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成できる。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤが得られる。
本発明の空気入りタイヤは、例えば、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、高性能タイヤ(競技用タイヤ等)として使用できる。
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス含有量:97質量%)
変性SBR:製造例1
カーボンブラック:キャボットジャパン社製のショウブラックN550(N2SA:42m2/g)
シリカ:エボニックデグッサ社製のウルトラジルVN3(N2SA:175m2/g)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi75(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
オイル:出光興産(株)製のプロセスオイルPW−32(パラフィン系プロセスオイル)
AMS樹脂:アリゾナケミカル社製のSA85(SP値9.1、軟化点85℃、Tg43℃)
水添ポリテルペン樹脂1:ヤスハラケミカル(株)製のP85(水添率10%以上、SP値8.36、軟化点85℃、Tg43℃)
水添ポリテルペン樹脂2:ヤスハラケミカル(株)製のP105(水添率10%以上、SP値8.36、軟化点105℃、Tg55℃)
水添ポリテルペン樹脂3:ヤスハラケミカル(株)製のP125(水添率10%以上%、SP値8.36、軟化点125℃、Tg67℃)
水添ポリテルペン樹脂4:ヤスハラケミカル(株)製のP150(水添率10%以上、SP値8.36、軟化点150℃、Tg90℃)
水添芳香族変性テルペン樹脂1:ヤスハラケミカル(株)製のM105(水添率10%以上、SP値8.52、軟化点105℃、Tg:55)
水添芳香族変性テルペン樹脂2:ヤスハラケミカル(株)製のM125(水添率10%以上、SP値8.52、軟化点125℃、Tg65℃)
非水添ポリテルペン樹脂:ヤスハラケミカル(株)製のPX800(水添率0%、SP値8.42、軟化点80℃、Tg42℃)
グリセリン脂肪酸エステル1:花王(株)製エキセルP−40S(モノエステル含有率50〜60質量%、脂肪酸:C16含有率30〜40%、C18含有率50〜60%)
グリセリン脂肪酸エステル2:花王(株)製エキセル200(C18F1モノエステル含有率79質量%、脂肪酸:C16含有率20〜30%、C18含有率50〜60%、)
グリセリン脂肪酸エステル3:花王(株)製レオドールMS−60(グリセロールモノステアレート、モノエステル含有率100質量%)
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
老化防止剤2:大内新興化学工業(株)製のノクラック224(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
加硫促進剤TBBS:大内新興化学社製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3−ジフェニルグアニジン)
(製造例1)
窒素雰囲気下、100mlメスフラスコに3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン)(アヅマックス(株)製)を入れ、更に無水ヘキサン(関東化学(株)製)を加え、末端変性剤を作製した。
充分に窒素置換した耐圧容器に、n−ヘキサン、スチレン(関東化学(株)製)、ブタジエン、テトラメチルエチレンジアミンを加え、40℃に昇温した。次に、ブチルリチウム(関東化学(株)製)を加えた後、50℃に昇温し、撹拌した。続いて、四塩化ケイ素/ヘキサン溶液を加え、撹拌を行った。更に、上記末端変性剤を追加し、撹拌を行った。反応溶液に2,6−tert−ブチル−p−クレゾール(大内新興化学工業(株)製)を溶かしたメタノール(関東化学(株)製)を添加後、反応溶液をメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性SBRを得た。
得られた変性SBRのスチレン量は35質量%、ビニル量は50質量%、重量平均分子量Mwは70万であった。
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を180℃になるまで混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。次に、得られた未加硫ゴム組成物を160℃で15分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃で12分間加硫し、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を製造した。
得られた加硫ゴム組成物を下記により評価し、結果を表1に示した(基準比較例:比較例1)。
<硬度測定>
JIS K6253に準拠し、25℃の温度で硬度計を用いて各加硫ゴム組成物の硬度を測定(ショア−A測定)し、基準比較例の硬度を100とした指数(各配合の硬度/基準比較例の硬度×100)を計算した。指数が大きいほど、操縦安定性に優れることを示す。なお、硬度指数は98以上を目標とした。
<転がり抵抗>
転がり抵抗試験機を用い、試験用タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)、荷重(3.43kN)、速度(80km/h)で走行させたときの転がり抵抗を測定し、基準比較例を100とした時の指数で表示した。数値が大きいほど転がり抵抗が小さく、低燃費性に優れることを示している。なお、転がり抵抗指数は100以上を目標とした。
<ウェットグリップ性能>
試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を求めた。結果は基準比較例を100とした指数で表し、数字が大きいほどウェットグリップ性能が良好である。指数は次の式で求めた。なお、ウェットグリップ性能指数は105以上を目標とした。
ウェットグリップ性能=(基準比較例の制動距離)/(各配合の制動距離)×100
<破断時伸び>
各加硫ゴム組成物から3号ダンベル型を用いて試験片を作成し、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、室温にて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定し、基準比較例のEBを100とした指数(各配合のEB/基準比較例のEB×100)を計算した。指数が大きいほど、破壊強度に優れることを示す。なお、EB指数は100以上を目標とした。
所定のゴム成分及びシリカを含む配合でグリセリン脂肪酸エステルと水添テルペン系樹脂の両成分を併用した実施例のゴム組成物では、操縦安定性、低燃費性、ウェットグリップ性能、破壊強度(EB)の性能バランスが顕著に改善された。また、実施例1、比較例2〜4から、グリセリン脂肪酸エステルと水添テルペン系樹脂の併用により、これらの性能バランスが相乗的に改善されることも明らかとなった。