アルツハイマー病(AD)に罹患している人の脳にプラークが存在することは以前から知られていた。しかし、アルツハイマー病の病因におけるプラークの役割は明らかになっていない。
1980年代に、プラークがベータアミロイド(Aβ)を含有し、Aβの配列が親分子であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のクローン化につながることが発見された。可溶形態のAβは、いくつかの生物学的機能を実現する単量体の形およびオリゴマーの形の双方で存在すると考えられる多機能性ペプチドである。ごく少数のADの症例は、APPからβアミロイドを生成させるAPPの変異、あるいは酵素または酵素錯体の変異が原因であると考えることが可能であった。Aβ自体は脳脊髄液(CSF)および血液中で見ることができ、驚くべきことに、アルツハイマー病に罹患した患者のCSFでは減少していた。大量のAβまたはAβオリゴマーは神経毒性を有するが、神経細胞の生存には通常量が必要であった。2003年に、生存する患者の脳内のプラークを可視化できることが初めて報告された。後に、プラークは無症候性の患者で見られ、解剖学的低下および認知低下と相関していた。脳内で可視化されたAβ沈着物はCSF中のAβ濃度と逆相関関係にあり、従って、脳内のAβ沈着またはCSF中のAβの減少は相関関係が高く、診断上、互いに代用することができるため(非特許文献1)、アルツハイマー型病理学的カスケードの始まりを示すことが可能だろう。その時点で、利用可能な生物学的情報の膨大な増加を反映する分類と、長く制定されてきたAD病基準を置き換えることが重要になり、そのような分類は研究目的および潜在治療目的に有用だろう。
1984年に、国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病・関連障害協会の作業グループ(Workgroup of the National Institute of Neurological and Communicative Disorders and the Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association)により制定されたアルツハイマー病の可能性(possible)、疑い(probable)および確定(definite)の診断基準が公表された。McKhann基準として知られるこれらの基準では、ADの疑いと診断するには、生存している患者に認知症があることが必要とされ、アルツハイマー病確定の診断には生検または剖検による組織確認が必要であった(非特許文献2)。「軽度認知障害」および「アルツハイマー型老人性認知症」という用語が使用され始めたが、患者がADに罹患しているか否かの確定的判定には剖検または生検が必要であるという見解であった。後に、Petersen他は軽度認知障害(MCI)に関する臨床的定義を提供した(非特許文献3)。ADに転化するMCI被験者と転化しないMCI被験者の区別は、バイオマーカー、特に、PETスキャンで可視のアミロイドプラークのリガンドであるピッツバーグ化合物B(PIB)の出現によって顕著に改善された。脳脊髄液(CSF)中のバイオマーカーは、ADを発病すると考えられるMCI罹患患者に関するCSF βアミロイドタンパク質1−42とリン酸化タウの比(Aβ1−42/pタウ)のように予測的でもある(非特許文献4)。
健康な高齢者で実施されたPIBスキャンは、約三分の一がPIB陽性であることを明らかにした。剖検により、他の原因で死亡した認知症ではない高齢者でアミロイドプラークが示されることは以前から知られていたため、これは驚くべきことではない。近年のデータは、認知に関して正常であり、PIB摂取が多い高齢者は、摂取量の少ない高齢者と比較してエピソード記憶に欠損が見られ、記憶系統と関連する脳の領域にPIB貯留により示されるAβ沈着物を有する場合に難易度の高い顔−名前検索に欠損が見られることを示す(非特許文献5;非特許文献6)。正常な高齢者の記憶に関する信頼度の低下は、前頭葉皮質、前帯状回および後帯状回ならびに楔前部におけるPIB摂取の増加と関連していた(非特許文献7)。PIB貯留は解剖学的相関も有し、これは正常な被験者の皮質菲薄化に比例していた(非特許文献8)。正常者におけるPIB陽性は前兆の示唆である。PIB貯留の初期上昇を伴う人は、18〜20か月で再スキャンした場合に低結合の人と比較して速い速度でPIB貯留を増加させ、MRIでは萎縮の加速を示した。PIB陽性の健康な対照例の25パーセントは3年でMCIまたはADを示し、これに対し、PIB陰性の人の中でMCIに進行したのは僅か2%であった(非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。したがって、研究者は、「大脳Aβ沈着物を伴う個体に対しては早期の介入試験が正しいと認められる」および「PIBの発症前の個体で神経変性過程を低減することを目的とする治療を開始すべきである」と述べた(非特許文献5;非特許文献11)。
したがって、1984年のアルツハイマー病に関する疑わしいおよび確定の定義はもはや実用向きではない。確定的ADの診断に組織病理学的確認を必要とするNINCDS−ADRDA(非特許文献2)基準は、画像化およびCSF分析におけるバイオマーカーとして生存中に識別可能になっている。
非特許文献12は、アルツハイマー病のバイオマーカーの近年の進歩を考慮し、「前認知症段階および認知症段階」の双方を含むレキシコンを提供するためにアルツハイマー病の定義の改訂を提案した。
非特許文献13は、更なる研究が必要であると述べる一方で、「アルツハイマー病の生体内証拠を提供するADのバイオマーカー」を考慮に入れ、「アルツハイマー病の病理学的カスケードに介在する薬剤の潜在能力」の研究を支援できる基準を提供するだろうと考えられる新たな定義を提案した。臨床的障害としての「アルツハイマー病」という用語は、患者が「CSF アミロイドβ、総合タウおよびリン酸タウ(pタウ)、特定のPETアミロイドトレーサーの貯留、MRIにおける内側側頭葉萎縮および/またはフルオロデオキシグルコースPETにおける側頭/頭頂代謝低下」の形の生物学的証拠を有する場合に限り、NINCDS−ADRDAで「アルツハイマー病の疑いあり」ならびにMCIとされていた臨床的症状を含むだろう。「アルツハイマー病」の診断の中で臨床的には古典的MCIに対応するが、手段的日常生活動作は失われておらず、認知症ではない患者は、「前駆的AD」または「ADの前認知症段階」と呼ぶことができるだろう。
「前臨床アルツハイマー病」という用語は2つの群を含む。PETスキャンでアミロイドベータが明白であるかまたはCSF Aβ、タウおよびリン酸タウの変化を伴う認知に関しては正常な個体は、「ADの無症候罹病危険状態」にあると定義される。このような個体は、ADを発病する危険状態にある間、ApoE状態、血管状態、食事、糖尿病などの因子が認知症になるか否かに影響を及ぼすかもしれず、その一部は症状なく死亡するだろう。第2の群は、家族性アルツハイマー病に関して完全浸透優性常染色体変異を伴う個体である。遺伝子ApoE型を有する人と区別するために、第2群の人には「単一遺伝子AD」という用語が提案され、第2群の人は「発症前のAD」を有すると言われる。
MCIという用語は、バイオマーカーという形の症状を識別できる基準を持たないかまたはADで特徴的である記憶症状を持たない人を表すだろう。
別の用語であるアルツハイマー病因は、臨床的発病であるか否かにかかわらず、プラーク、もつれ、「大脳皮質の中のシナプスの損失および血管アミロイド沈着物」を表すだろう。
NINCDS−ADRDA基準が考案されて以来起こっていた膨大な知識の増加を確認することに加えて、潜在進行経路変更研究を容易にするために新たな基準が立案された。今日まで実施されてきた研究の大半は、脳内Aβ沈着物を減少させることを試みていた。ごく稀な単一遺伝子形態のアルツハイマー病は全てベータアミロイド経路に影響を与える。剖検でプラークおよびもつれにより確認されるように、アミロイド前駆体タンパク質(APP)に関する遺伝子が常駐する第21染色体の第3コピーを有するダウン症候群がアルツハイマー病に移行することは不可避であり、ダウン症候群に特徴的な知的障害に認知症が重なる。APP分子の変異も、アルツハイマー病の原因となるのに十分である。スウェーデン変異は、Aβ種を生成するのに必要な2つの酵素切断の一方であるβセクレターゼによる切断を増加させ、それによりAβの生成を増加させる。新たに説明されたアイスランド変異は、βセクレターゼ部位におけるAPPの切断を阻害し、生涯にわたりAβを低レベルに維持し、ApoE4+の個体であっても認知症の発病を防止する(非特許文献14)。北極変異は、Aβ配列の中央でAPPを切断することによりAβの形成を阻止する酵素であるαセクレターゼによる切断を減少させる。Aβ種の生成および生成欠如に関連する第3の酵素はγセクレターゼであり、これは、カルボキシ末端で様々な長さの断片を生成する。プレセニリン(PS)1および2はγセクレターゼ錯体の一部を形成する。PS1またはPS2における変異は、Aβ1−42の量またはオリゴマー化して、毒性Aβオリゴマーを形成しようとするAβ1−42の傾向を増加させるかもしれず、アルツハイマー病の完全浸透性原因である(非特許文献15および非特許文献16)。したがって、遺伝に基づくAβ種の量の増加または特性の変化は十分に古典的アルツハイマー病の原因になり、Aβを目標とする多数の臨床試験の論理的根拠を提供している。
遅発性ADを伴うアルツハイマー患者の大部分は、Aβに影響を及ぼす優性突然変異を持たない。患者は対照例と同じ速度でAβ1−40およびAβ1−42を生成する。しかし、患者のペプチドのクリアランス速度は30%遅い(非特許文献17)。遅発性ADまたは散発性ADの主要な危険因子は、アポリポタンパク質E(ApoE)の変異体の存在である。単一ヌクレオチド多形はApoE4、ApoE3およびApoE2アレルを形成する。ApoE4の1つのコピーは、ADを発病する危険を約3倍に増加させ、2つのコピーは危険を約12倍に増加させる(非特許文献18)。逆に、ApoE2は、ApoE3と比較してオッズ比を0.63に減少させる。ApoEはAβペプチドに結合し、凝集を促進すると考えられる。E4陽性の個体は、認知症であるかまたはまだ認知に関して正常であるかにかかわらず、より大量のプラークを形成し、CSF Aβを減少させた。アミロイドを生成するトランスジェニックマウスでは、ApoE3を付与したマウスと比較してヒトのApoE4遺伝子を付与したマウスでアミロイド沈着が多くなり、ApoE2を付与したマウスでアミロイド沈着は最小である(非特許文献18)。これらのデータは、ApoEがAβ単量体の重合を促進することを示唆する。凝集を促進するのに加えて、ApoEはAβのクリアランスに影響するように見える。ヒトのAPPおよびヒトのApoE4を付与したトランスジェニックマウスでは、ApoE3またはE2を付与したマウスと比較してクリアランスは減少する(非特許文献19)。逆に、マウスのApoEの増加を誘発する治療によって、トランスジェニックマウスにおけるAβクリアランスは劇的に改善されていた(非特許文献20)。したがって、多数連の証拠は、単一遺伝子および散発性の遅発性アルツハイマー病の病因にAβがあることを暗示している。
Aβの生成または凝集の増加、あるいはクリアランスの減少がアルツハイマー病と関連しているという証拠があるため、Aβを減少させる多様なアプローチが実施されてきた。それらのアプローチは非特許文献21により検討され、その概要をここに示す。アミロイドを除去しようとする最初の試みは、AN1792による能動免疫付与であった。髄膜脳炎の発生によって、この研究は中止された。抗体レスポンダはプラセボ患者と比較してCSFタウを減少させたが、CSF Aβまたはpタウに変化はなかった。脳容積の損失および脳室拡張は増加したが、複合認知機能試験は幾分かの改善を示した(非特許文献22)。何年かの後、それらの患者のうち数人は剖検に付され、その一部では広範囲にわたりプラークが排除されていたが、その低下の軌跡に影響はなかった(非特許文献23)。AN1792の髄膜脳炎の原因であると考えられる細胞の免疫応答を回避するための抗原として、Aβ1−6を使用してCAD106が開発された。CAD106は安全であり、抗体応答を発生したが、それ以上の結果はわかっていない(非特許文献24)。
γセクレターゼを阻害する化合物によって、Aβの形成を減少させることが試みられてきた。それらの中で最初の化合物である非ステロイド性抗炎症性薬剤フルルビプロフェンのタレンフルルビルおよびエナンチオマーは、多様な細胞分化過程には決定的である重要なγセクレターゼ基質であるNOTCHとの干渉を回避することに関して選択的であった(非特許文献21)。第2相の結果は勇気づけられるものであったが、タレンフルルビルは第3相で失敗した。非選択的γセクレターゼ阻害薬であり、CSF Aβを減少させる効能に優れたセマガセスタットによるその後の研究は、γセクレターゼの阻害が悪影響を発生する可能性があることを実証した。2回の大規模な第3相臨床試験は、プラセボ患者と比較して治療患者における成績が振るわなかったことおよび皮膚癌の発症が増加したことによって終了した(非特許文献21)。BMS708163、アバガセスタットは、Notchと比較してAPPに対する選択性が高く、CSF Aβ40を効果的に減少させるγセクレターゼ阻害薬である。第2相の研究で、Notchに関連すると考えられる皮膚癌が発生し、それに伴って皮疹、掻痒および胃腸潰瘍も発生した。受動的免疫療法研究で見られるようなアミロイド関連画像化異常(ARIA、以前は「脳浮腫」と呼ばれていた)も起こった(http://www.news−medical.net/news/20110721/Bristol−Myers−Squibb−announces−results−of−BMS−708163−Phase−II−study−on−Alzheimers.aspx)。高用量の患者で、認知はプラセボ患者と比較して悪化の傾向を示した(http://alzforum.org/therapeitics/avagascestat)。CSF Aβ42が減少していた患者に対する前駆的アルツハイマー病におけるBMS708163の試験でも、非黒色腫皮膚癌を含む同様の副作用が見られた。認知症の転化に対する減少はなかった。アバガセスタットは、CSFアミロイドを僅かに低下させ、僅かに多くの脳萎縮を発生させた。この薬剤の開発は中止された(http://www.alzforum.org/therapeutics/avagasestat)。
臨床的アッセイにおいてCSF中で測定されるAβ1−42は単量体であるが、二量体および可溶性オリゴマーは毒性Aβ種であるかもしれないという証拠が存在する(非特許文献25)。したがって、Aβの凝集を阻止することがもう1つの治療戦略である。トラミプロセート(AlzhemedTM)は、通常はアミロイド原線維の形成を促進する分子を模倣することにより、トランスジェニック動物でプラークおよびCSF Aβを減少させ、ヒトでCSF Aβを減少させた(非特許文献26)。78週間にわたる研究により、ADAS−cogでは改善に向かう傾向があり、臨床的認知症重症度評価尺度(CIDR−SB)では効果がなく、海馬容積損失は減少することがわかった。凝集阻害の別の方法は、金属とAβとの会合を遮断して、トランスジェニック動物におけるプラーク沈着を減少させかつ生体外でAβの毒性を低下させる化合物の使用である(非特許文献27)。この特性を備えた抗生物質であるクリオキノールは、36週間の研究の中で、中等度アルツハイマー病の患者においてはADAS−cogにおける劣化を減少させたが、軽度アルツハイマー病の患者では減少させなかった。第2世代の化合物PBT2を中等度ADの63人の患者に対して12週間試験した。PBT2の最高用量で、神経心理学テストバッテリ(NTB、より軽度のAD患者向けバッテリ)の8つの要素のうちの実行機能の2回の試験は著しい改善を見せたが、統計で多数の比較を修正することはなかった(非特許文献28)。ADAS−cogおよびMMSEは治療の方向に数値的に変化したが、大幅ではなかった。CSF Aβ42は大きく減少したが、CSF Aβレベルは事後再分析における認知効果と相関していなかった(非特許文献29)。シロイノシトールELND005はAβ42と結合して、非毒性錯体を形成する。これは生体外でAβオリゴマーの毒性作用を阻害する。軽度から中等度のアルツハイマー患者の78週間にわたる研究において、どの認知試験または行動試験でも有益な結果はなかった。CSF Aβの著しい減少および脳室容積の増加が起こった(非特許文献30)。研究を終了した軽度患者の事前指定分析は、NTBでプラセボと比較して改善を示し、数値的によいアルツハイマー病共同研究−日常生活動作(ADCS−ADL)成績を残した。
抗Aβ抗体の投与により、トランスジェニックマウスでAβ神経病因の阻害が実現されたため、Aβを排除するする試みのために受動免疫付与も使用されていた。最初の肯定的報告に続いて、8人の患者にヒト貯留免疫グロブリンが6か月にわたり毎週〜2週間に1回ずつ付与された。CSF Aβ42は減少し、MMSE(ミニメンタルステート検査)のスコアに増加があり、最低用量で最大であった。治療から3か月後、CSF Aβ42はベースラインに戻った。無治療期間中に、最良のレスポンダ、高用量の患者でのみ、IVIgの用量が低い場合に認知は劣化しなかった。低IVIg用量での治療を再開すると、CSF Aβ42は再度低下し、9か月間にわたり認知は維持された。血漿中で達成されたAβ抗体レベルは用量と相関していたが、成果との関連はなかった(非特許文献31)。さらに最近の第2相レポートは、血漿Aβには影響がなく、認知力または機能にも影響がないことを示した(http://.alzforum.org/new/detail.asp?id=3400)。アルツハイマー病共同研究により大規模第3相プロトコルでIVIgを試験した(http://adcs.org/studies/igiv.aspx)。最高用量で血漿Aβ42は低下し、原線維アミロイド(フロルベタピルにより測定)は減少したが、ADAS−cogおよびADCS−ADLに大きな変化はなかった(http://www.alz.org/aaic/releases2013/tues830amivig.asp)。
Aβ1−42の異なる部分に対して盲検として処理される2つの抗体が第3相臨床試験を完了した。ソラネズマブはAβの中央部分を指向する。前臨床的研究では、ソラネズマブはトランスジェニック動物のプラークを排除した。1回用量研究では、ソラネズマブは、用量に依存してCSF Aβ42を35%まで上昇させ、血漿Aβ42を大きく増加させた(非特許文献32)。CSFタウおよびpタウは変化しなかった(非特許文献33)。12週間にわたる第2相臨床試験で、ソラネズマブはCSF Aβ42を増加させたが、プラーク断面面積比率またはADAS−cogに影響はなかった(非特許文献34)。低発症率の脳浮腫(ARIA)が報告されている(http://bmartinmd.com/2011/07/icad−2011.html)。中等度から軽度のADにおけるソラネズマブの2回の大規模第3相臨床試験は、調査Iおよび調査IIのそれぞれで中等度の患者のADAS−cogにおけるロスが42%(p=.008)および20%(p=.012)減少したことを示している。ADCS−ADLにより測定される機能低下は調査Iでは大きな影響を受けず、調査IIでは19%の減少(p=.076)の傾向を示した。中等度の部分群を組み合わせると、認知喪失は34%遅くなり(p=.001)、日常生活動作の喪失は17%減少した(p=.057)(newsroom_Lilly_com、2012年10月8日)。神経精神目録(NPI)およびCDR−SBは共に影響を受けなかった。中等度の患者のみでアミロイド除去の傾向があった。ソラネズマブは、おそらくは、結合した抗体がその半減期を延ばしたことによって、血漿AβおよびCSF Aβを上昇させた。CSF中の遊離Aβ40は減少し、遊離Aβ42は変化せず、タウまたはpタウも変化しなかった(http://www.alzforum.org/new/detail.asp?id=3313)。CSF Aβの量は減少する傾向にあり、治療群では更なる脳萎縮の暗示があった。ソラネズマブは、ADCSのA4研究では70歳を超えるアミロイド陽性の非認知症患者に投与されるべく選択されていた(http://www.alzforum.org/new/detail/asp?id=3379)。アミロイド陽性である中等度のAD患者に限定された第3相研究が開始されている(Alzforum.org/therapeutics/solanezumab)。
AβのN末端に対する抗体であるバピネオズマブも12週間では臨床的効果を示さず、78週間で、234人の患者の研究において、ADAS−cogおよび認知症機能障害評価(DAD)は、事前指定分析基準に従って効果を示さなかった。しかし、事後完了者分析はバピネオズマブの好結果を示し、ApoE4ノンキャリアの分析でも同様であった。相対的なMRIの変化はなかったが、ApoE4ノンキャリアは、プラセボと比較して、薬品による脳容積収縮が少なく、これに対し、キャリアは、プラセボと比較して薬品による脳室拡張が大きかった(非特許文献35)。バピネオズマブは、プラセボに対して、CSFタウを大きく減少させかつ1年でpタウを減少させる傾向を示したが、CSF Aβに変化はなかった(非特許文献36)。時間の経過と共に皮質アミロイド減少が進み、治療患者で、78週間で未治療患者と比較して25%の低下が見られたが、E4状態またはバピネオズマブ用量の影響はなかった(非特許文献37)。バピネオズマブ患者が順調に生活してゆくことはなかった。MRIの後向き検討によれば、用量およびApoE4アレルに関連する血管原生浮腫の発症率は17%であることがわかった(非特許文献38)。バピネオズマブの第3相研究は、0.5mg/kgを服用したApoE4キャリアと、0.5、1.0または2.0mg/kgを服用したノンキャリアとに分割されたが、アミロイド関連画像化異常(ARIA)に関して最高用量は降下した(非特許文献39)。ApoE状態にかかわらず、中等度の患者では、個別でも、混合でも、認知的効果はなかった。APoE4−である中等度の患者(MMSE≧20)はDADで著しい改善を見せたが、ApoE状態にかかわらず、認知的効果はなかった。SCF pタウは減少したが、タウにほとんど変化はなかった。CSF Aβは変化しなかった(非特許文献40)。複合研究では薬品によって脳容積損失および脳室容積拡張の双方が増加し、ApoE4−の患者では左海馬の損失が見られた。低用量のApoE4+患者の約20%および高用量のApoE4−の患者でARIAが起こった(非特許文献41)。ApoE4+ホモ接合体の約1/3がARIAを有していた。認知検定および機能検定のスコアはARIAによる影響を受けなかった。ApoE4キャリアの死亡率は、バピネオズマブ患者で、プラセボ患者の1.1%と比較して2.2%であり、ノンキャリアでは2.1%対1.3%の比率であった。E4+患者における相違は、主に、治療中に発生したものではないと思われる癌によるものであった。薬品投与群では発作も増加した。バピネオズマブは、主に中等度の患者でアミロイドの蓄積を減少させた。
免疫抗Aβ治療の中でソラネズマブのみが認知に関して利点を示したが、1回目の研究より2回目の研究で効果は低下し、プラークを排除することが意図される中等度の患者で機能的利点を示す傾向が見られた。どの薬剤によっても、遊離CSF Aβは回復されなかった。全ての治療で、脳萎縮の増加の何らかの証拠が示された。バピネオズマブは、最も有効な用量でプラークを排除し、ARIAを発生させた。中等度の患者で利点は最大になるように見える。
先に説明した健康な高齢者で見られるPIB陽性から推測できるように、Aβの沈着は、臨床的アルツハイマー病(AD)の発症の何十年も前から始まっている。脳の変化は、認知症の発症の何十年も前から起こっている。海馬のCA1領域の錐体細胞はブラークステージIIで影響を受け始める(非特許文献42)。早期のADでは、放線状層が特に影響を受け、その幅は遅延想起の尺度と相関する(非特許文献43)。樹状突起棘は、前頭前野皮質および海馬で示されるように、アルツハイマーの脳におけるアミロイド沈着物の近傍で減少することが示されている(非特許文献44)。AD遺伝子に関してトランスジェニックであるマウスでは、ADのモデルで見られる長期抑制と矛盾せずに、放線状層の樹状突起棘で小頭の割合が増加しているが、これは驚くべきことではない(非特許文献45)。アルツハイマーの過程の時間的経過の現在の概念を図1に示す(非特許文献13)。左側の赤色の線は、互いに強い逆関係にあるPETリガンドの結合またはCSF Aβの減少により評価されるアミロイドβ蓄積の尺度である(非特許文献1)。臨床的アルツハイマー病の診断に至った後は、Aβ沈着にほとんど変化がないことがわかる。オレンジ色で示される第2の線は、脳の代謝活動の尺度であるフルオロデオキシグルコース(FDG)摂取のような画像化における異常の時間的経過を表す。PS1変異キャリアであるか、またはApoE4キャリアである人では、顕著な認知症状を呈する前にFDG摂取が減少することがわかる(非特許文献46;非特許文献47)。
非特許文献46は、アルツハイマー病の発病に関する常染色体優性遺伝子を持つ家族の人々から抽出したデータに基づいて、図2に示されるように、最初にCSF中のAβ42が減少し、続いて、原線維AB沈着が起こり、次に、CSF中のタウが増加し、続いて、海馬萎縮および代謝低下、認知変化および臨床的変化が起こると結論付けた。生物学的測定の大半は、予測されるアルツハイマー病発症時点の10〜15年前に群間で統計的に大きく大きな差異を示すが、その変化は、数値的には、研究の最も早い時点である予測アルツハイマー病発症の25年前から始まっていることがわかる。
したがって、アルツハイマーコホートにおける抗アミロイド治療が成功しなかった説明として可能であるのは、Aβがどのような損傷を与え始めたとしても、その損傷は、あからさまに認知症が現れる時点までにほとんど終わってしまっているということである。したがって、原線維βアミロイドに関するCSF測定またはPETリガンドによって、アルツハイマー病の発症が運命づけられている患者を識別できることによって現在は可能になっている早期の介入はさらに効果的だろうと感じられる。多くの抗Aβ治療は、現在、前アルツハイマー病の研究にある。2012年5月15日、Reutersは、コロンビア州Medellinにおいて、予測される症状の発現の5年前にクレネズマブが疾患を防止できるかまたは遅らせることができるかを知る試みとしてPSI変異を持つ血縁群に対して試験が実施されていると報告した(非特許文献48)。
抗アミロイド治療が今日まで成功を収めていない別の理由は、生理量のAβペプチドの生物学的効果が欠落していることだろう。図1から明らかなように、皮質におけるPIB結合の増加またはCSF Aβ1−42濃度の減少として現れるAβの変化は、主に、古典的MCIの発症により確定され、認知症段階を通して継続する。非特許文献46は、アルツハイマーの原因となる完全浸透性変異を持つ患者において、CSF Aβ1−42は、予測される認知症発症の25年も前に減少し始めることを示した。変異キャリアは高いレベルで始まり、25年前のごく初期の研究時点から非キャリアのレベルより低くなるまで降下するので、予測される認知症発症の10年前まで変異キャリアと非キャリアとの間にCSF Aβ1−42レベルにさほど大きな差はない。
認知症の発症時、アルツハイマー患者のCSF Aβ1−42は対照例より約45%低く、その後、ほとんど変化はない(非特許文献46)。CSFは、脳の神経細胞を取り囲む間質液(ISF)と平衡状態にある(非特許文献49)。APP変異に起因するプラークを有するトランスジェニックマウスでは、CSF AβレベルはISF Aβレベルと相関する(Aβ1−28以上として測定される)(非特許文献50)。それらのAPPトランスジェニックマウスでは、ISF Aβ1−42レベルは、脳実質にAβが沈着するにつれて降下し、沈着物中の抽出可能Aβが大きく増加する前であっても50%の降下が発生する(非特許文献51)。このトランスジェニックマウスのデータは、PETリガンドによってプラークを可視化できるようになる前にCSF Aβ1−42の降下を生じる常染色体優性アルツハイマー遺伝子を持つ患者における状況に類似している。トランスジェニック動物のデータおよびヒトのデータを共に考慮すると、アルツハイマー病の発病が運命づけられている患者では、CSF中のAβレベルを介して表されるISF中のAβは長年にわたり生理レベルから減少していると推定できる。
ISF中の生理レベル以下のAβに対する例外は、プラークを取り囲む「ハロー」だろう。プラーク中の原線維のAβは非可逆的に結合(固定)されるが、アミロイド核は、解離または連合(ドッキング)することが可能な単量体Aβ種およびオリゴマーAβ種により取り囲まれている(非特許文献50、非特許文献51)。Aβの生成を停止させるためのγセクレターゼ阻害薬の投与後、プラークが存在する場合に、ISF Aβは、プラークが存在しない場合よりゆっくりと降下し、これは、プラークがISFにAβを寄与していることを示す(非特許文献50、非特許文献51)。逆に、標識を付したAβ1−40の投与後、プラークなしのマウスのISFからの標識の回収はプラークの多いマウスの2分の1のみであり、プラークの多いマウスの組織抽出物で標識を付したAβ1−40を発見できる。したがって、プラークは、Aβを除去し、放出でき、ISFとの平衡状態を維持することができ、プラークから離れたISF Aβを低レベルに保持する貯蔵タンクである。そこで、アルツハイマーの脳は、ジストロフィー性神経細胞が存在するプラークの近傍では過剰なAβ種を有し、健康な組織では正常以下濃度を有するとみなすことができる。
Aβ欠乏の機能面での帰結は、最初に、1990年にYankner他により示唆された(非特許文献52)。生理濃度のAβ1−40(60pM)は、培養中の未分化海馬神経細胞の生存率を向上させ、顕著な超生理濃度(100nM)は、成熟海馬神経細胞を「樹状突起分枝の崩壊、瀰漫性軸索退縮・・・および細胞体樹状突起領域における空胞封入」の状態にさせた。それらの退行性変化は、プラークを取り囲むハローで見られるものを連想させる。γセクレターゼ阻害またはβセクレターゼ阻害を介してAβ機能をはく奪された培養ラット皮質神経細胞は、収縮、粒状化および生存能力の低下を示す。これに匹敵する生存能力の減少は、N末端Aβ抗体3D6の適用後に起こる(なお、これはバピネオズマブのラット等量である)。1nMのAβ1−40により神経細胞を救助できる(非特許文献53)。皮質培養に適用される老化した、すなわち、オリゴマーを含有するAβ1−42調製物に曝される樹状突起伸長およびシナプスの損失を、オリゴマーの形成を阻害する特定の小さなペプチドが遮断したので、高濃度のAβ1−42の毒性は、オリゴマー形成に起因するものかもしれない(非特許文献54)。二量体およびそれより大きなAβ種の除去も、APP生成細胞からの媒体を生体内でラットの海馬に適用すること(非特許文献25)によって起こるLTPの損失およびヒトのAD脳からの抽出物の同様の毒性作用(非特許文献55)を阻止していた。しかし、あらゆる濃度のオリゴマーが毒性であるかは定かではない。一連のエレガント実験において、APPに対するSiRNAまたはマウスAβ1−15に対する特定の抗体を介してAβ1−42を生理濃度未満に降下させることにより、マウスの海馬スライスにおけるLTPは阻害され、同様に、内因性Aβ1−42の除去は、マウスにおける空間記憶および文脈的恐怖記憶を阻害することが示された。これらは、それぞれ、生理濃度のAβ1−42により救助可能であり、これは、学習および記憶にはこのペプチドが必要であることを示す。しかし、LTPを救助するAβ1−42調製物の能力は、調製物の単量体濃度が高くなると失われた(非特許文献56)。したがって、特定のAβ濃度を形成するオリゴマーは、その生理学的効果に関与することが可能である。要するに、神経細胞の生存および動作に関するAβの生理濃度に必要とされる条件は、多様なアプローチによって繰り返し実証されてきたのである。
野生型マウスの海馬にカニューレを介してAβ1−42を注入し、モーリスの水迷路で水中プラットフォームを発見するまでの時間に関してマウスを試験した場合にも、同様のパターンが示された。2pM〜2nMのAβ濃度で治療したマウスは、20μMまでの濃度で治療したマウスより迅速にプラットフォームを発見した(非特許文献57)。
生理量範囲での記憶の向上および高濃度での阻害は、プラットフォームを除去したプールに訓練済みの動物を投入した場合にも同様に実証された。正常な量のAβペプチドを有する動物は、プラットフォームが配置されていたターゲット象限でより多くの長さの時間を費やす。したがって、Aβ1−42は、学習および記憶に必要であるが、過剰になると神経細胞の機能および生存を阻害する可能性がある脳間質液の通常の成分である。
先に検討した通り、アルツハイマーの脳は、プラークの近傍で非常に高いレベルのAβ種を有し、CSF中の低Aβにより立証されるように、ISF中で正常以下のAβ濃度を有する。したがって、プラーク近傍の神経細胞は過剰なAβにより損傷され、プラークから離れた神経細胞は最適に動作するのに十分なAβを有していないと予測できるだろう。事実、プラーク近傍の神経細胞はAβ種の毒性を明示するが、プラークから離れた神経細胞は異常なほど静穏である。野生型マウスの前頭前野皮質の神経細胞からの記録は、88%が活動電位を表す正常頻度のカルシウム移行を実証し、その一方で、10.7%が活動低下であり、1.3%が活動過多であった。これに対し、6〜8か月の年齢では、Appswe/PS1マウスがプラーク沈着を有する場合、正常範囲のカルシウム移行を示したのは細胞の僅か50%であり、29%が活動低下であり、21%が活動過多であった(非特許文献58)。活動過多神経細胞の発現は、プラーク沈着ならびに水迷路(空間記憶)およびY迷路(作業記憶)における成績の低下と厳密に相関していた。特に、Aβプラークのすぐ近傍で活動過多神経細胞が発見され、異常に静穏な神経細胞はプラークからの距離が増すにつれて増加した。
プラークの近傍の可溶性Aβオリゴマー種は活動過多神経細胞の原因となりうることが示唆された。発明者は、プラークから離れた健康な神経細胞を取り囲むISF中の不十分な濃度のAβが活動過多の理由になるかもしれないと示唆するだろう。
アルツハイマーの脳、および認知症を伴う古典的アルツハイマー病を発病しようとしているが、まだその段階に達していない脳が、プラークの領域の過剰なAβおよびプラークから離れた健康な組織を浸しているISF中の正常以下のAβ濃度の双方により損傷されるという考え方は、治療の上で重要な示唆である。ADの進行を変化させるように計画される介入を評価するために使用される臨床成果尺度は、無傷の健康なシナプスの機能に従って決まる。抗アミロイド剤はプラークおよび予備健康組織を対象にせず、むしろ、ADまたは古典的MCIを伴う患者で既に正常の約半分まで減少しているISF Aβをさらに減少させると予測されるだろう。PuzzoおよびArancioは、Aβ降下治療に関連する場合、シナプス可塑性および記憶に対するピコモル濃度のAβの役割を考慮に入れるべきであると示唆した(非特許文献59)。バピネオズマブのラット等価量の3D6は、神経細胞の生存能力を損なわせ、大量の用量のγセクレターゼ阻害薬およびβセクレターゼ阻害薬も同様であった。これらの化合物は、バピネオズマブがそうであったようにプラークを変成させるかもしれないが、それと同時に、学習および日常生活における成果尺度の成績を損なわせ、健康な神経細胞を危険にさらすこともあり、これは、免疫療法の研究で見られる脳の収縮によって立証されている。複合ソラネズマブ第3相研究は、コリンエステラーゼ阻害薬の投与およびメマチン治療(標準治療と呼ばれる)を伴う患者と伴わない患者におけるソラネズマブの成績に関して分析された(非特許文献60)。以下の表4に示されるように、ソラネズマブ治療を受けた場合、コリンエステラーゼ阻害薬を服用していない患者は、ADAS−cogで、プラセボを服用した患者より認知に関して3.6ポイント多く劣化し、メマンチンのみの患者は4.1ポイント多く劣化した。なお、ChEIを服用しなかった患者はほとんどおらず、これが統計的有意性の欠如の原因になるかもしれない。(コリンエステラーゼ阻害薬なしの群を併合すると、ソラネズマブによる過剰な効果は大きさが類似しており、標準治療(SOC)なしの群の結果はほぼ有意であったため、有意性のある結果を生成すると期待してもよいだろう。)コリンエステラーゼ阻害薬を服用したが、メマンチンなしの患者は、ソラネズマブから2.1ポイントという大きな効果を得た。ChEIが同時投与されない限り、ソラネズマブ患者における数字的に損なわれた成績のパターンは、日常生活動作(ADCS−ADL)で持続した。これらの結果は、ソラネズマブが可溶性Aβと結合し、認知および機能をつかさどる健康な神経細胞の機能を損傷させたことと矛盾しないだろう。ChEIは正常な細胞の機能を改善し、Aβが毒性であるところでAβと結合することにより抗体に本来の利点を発揮させるだろう。これらのデータは、コリンエステラーゼ阻害薬を服用していない前認知症被験者の母集団におけるソラネズマブの投与がその機能を損なわせ、正常な神経細胞の健全性をもおそらくは損なわせて、認知症の発症を進ませる可能性があることを示唆する。
表4:ADAS−Cog14スコアにおけるベースラインから80週までの変化−総合
aSOC部分群内におけるソラネズマブとプラセボとの差異、
bSOC部分群間のソラネズマブとプラセボとの差異
太線はp<.05を示す
アルツハイマーの進行過程を変化させるためには、高濃度および/または過剰なオリゴマー化によって毒性となったAβと、正常な神経完全性および神経機能を支援するAβとを区別できる治療法が必要とされる。事実、凝集しているが、単量体ではないAβに対する抗体であるアデュカヌマブ(BIIB037)の効果は、そのような薬剤によってアルツハイマーの進行過程を変化できることを示唆する。全てフロルベタピル(アミロイド)陽性である患者の母集団は、25.60%の平均MMSEを有し、60%が中等度ADであり、60%がApoE4+であった。36、28、30、27または28の群は、当初、6か月から1年にわたり1か月に1回、0mg、1mg、3mg、6mgまたは10mgを服用した。10mgの群におけるアミロイド測定値は、1年でアミロイド陽性のカットオフ近くまで減少し、それより低い用量では減少分は少なかった。10mgの群で、MMSEの低下は約80%減少し、CDR−sbの低下は約75%減少した。しかし、10mg用量の患者の41%は、この群のApoE4+患者の55%を含めて、ARIAを発症した。それより少ない用量のアデュカヌマブは、成果尺度で小さいが、有意性のある変化を生み出し、ARIAは少なかった。この研究は、生理形態を損なわずに病因アミロイド種に対抗するための戦略がアルツハイマーの進行過程を変化させることができるという証拠を提供する。この薬剤を最も効果的な形で使用できるか否かは明らかではない(非特許文献61で発表)。本発明の1つの態様は、抗体の毒性を増加させずに効能を向上させるための安全な低用量のアデュカヌマブと、以下に説明されるSDL11349のような異なる作用メカニズムを有する薬剤との組み合わせである。
特許文献1で、発明者は、既知のコリンエステラーゼ阻害薬であるガランタミンのアルツハイマー病治療における使用を説明した。特許文献2で、発明者は、同様の目的でのガランタミンおよびリコラミンの使用を説明した。特許文献3で、発明者は、ニコチン性受容体の修飾作用ならびにアルツハイマー病およびパーキンソン病の治療および進行遅延、神経変性障害に対する神経保護におけるガランタミンおよびリコラミンの類似体の効果を説明した。これらの特許の時点では、アルツハイマー病は、認知症として明らかに現れる症状であると理解され、その基礎にある原因は理解され始めたばかりであった。発明者の初期の特許で説明された治療は、そのような認知症に関連する因子に対処するものであり、すなわち、アセチルコリンエステラーゼの作用およびそのアロステリック修飾によるニコチン性受容体の間接的刺激から起こる神経伝達物質アセチルコリンの可用度の減少を制限して、その機能を改善するようにアセチルコリンエステラーゼの活性を低下させることであった。
ガランタミンは以下の構造を有する。
ガランタミンは、軽度から中等度のアルツハイマー病の患者の治療薬として承認されている。ガランタミンは、16mg〜24mg/日の用量で投与される。ガランタミンはトランスジェニックマウスにおいて沈着Aβを減少させることができ、それらのマウスの可溶性Aβのレベルを変化させないことが報告されている(非特許文献62)。さらに、ガランタミンは生体外で様々な毒性傷害から神経細胞を保護する。AD患者におけるヒトの臨床データは、AD患者におけるガランタミンの神経保護効果と矛盾しないが、MCI患者の2つの個別の研究の間にガランタミンは死亡率を増加させ、MCIにガランタミンを使用することに関してラベルには警告が示されている。
スウェーデン家族性APPならびにプレセニリン変異を伴うAPdE9マウスは、9か月で始まるAβプラークを発現させる。9か月から始めて、その後2か月にわたり、1mg/kg/日または5mg/kg/日の用量の生理食塩水またはガランタミンによってマウスを治療した。1mg用量はマウスの脳の不溶性(原線維)Aβ1−40を大きく減少させ、5mg用量はAβ1−40およびAβ1−42の双方を減少させた。いずれの用量も可溶性Aβ種には大きな影響を与えなかった。生体外実験に基づいて、不溶性Aβ排除のメカニズムは、ガランタミン陽性アロステリック修飾(PAM)部位を介するガランタミンのミクログリアのα7ニコチン性受容体の刺激であることが示唆された(非特許文献62)。2mg/kg/日で10日間というガランタミンの短期の投薬では、非特許文献62により使用されたマウスとは異なる単一のスウェーデンAPP変異に関してトランスジェニックであるマウスの不溶性Aβ種または可溶性Aβ種は減少しなかったが、この短期の投薬はシナプトフィシンのレベルを大きく上昇させ、これは、トランスジェニック動物における神経栄養効果を示唆する(非特許文献63)。さらに、ADのいくつかの面の第3のモデルでは、抗NGF(神経成長因子)抗体に対してトランスジェニックであるマウスは、海馬にリン酸タウを沈着させ、細胞外Aβ蓄積がありかつ基底核のコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を損失する(非特許文献64)。3.5mg/kg/日のガランタミンはChAT活性を回復させ、15日後に細胞内Aβ沈着物を減少させ、2か月の治療後も類似の結果が得られた。したがって、トランスジェニック動物または培養ミクログリアに対するガランタミンの適用により、アミロイド沈着は減少したように見え、クリアランスは増加した。これは、Aβ1−42がα7ニコチン性アセチルコリン受容体に選択的に結合するという非特許文献65の以前の示唆と矛盾しないだろう。
アミロイド処理に対する効果に加えて、ガランタミンは、細胞培養でAβ毒性から神経細胞を保護できる。初代ラット培養皮質神経細胞は、超生理濃度のAβ1−40(10nM)およびAβ1−42(1.0nM)で培養した場合に死滅しないが、低用量のグルタミンを添加すると毒性が発生する(非特許文献66)。1.0μMのガランタミンは、Aβ+グルタミンから神経細胞を保護するが、治療範囲未満の0.1μMは、統計的には有意でない中間的効果を有する。ガランタミン救助は、一般的なニコチン遮断薬であるメカミラミンにより、あるいはα7またはα4β2受容体の特定遮断薬により大幅には減少しないが、ガランタミンアロステリック部位に対する抗体であるFK−1により覆される。ニコチンは、Aβにグルタミンの毒性が加わった場合にも保護効果を示し、これは、α7およびα4β2双方の遮断により覆される。閾値以下用量のガランタミン+ニコチンも共に非常に効果的であった。しかし、1000倍の高さの用量である10μMのAβ1−40は、副腎髄質クロマフィンおよび培養中のヒト神経芽細胞種細胞には毒性である(非特許文献67)。100〜300nMの臨床濃度のガランタミンは、Aβ1−40誘発性アポトーシス、ならびにADの脳における神経細胞変性に寄与すると考えられるメカニズムであるERストレスの原因となるSERCA(筋小胞体カルシウムATPアーゼ)阻害薬であるタプシガルギンによる治療の結果としてのアポトーシスを減少させた。ガランタミンの神経保護効果は、α7ニコチン性受容体の遮断薬であるαブンガロトキシンにより遮断され、これは、ニコチンアロステリック修飾特性を持たないコリンエステラーゼ阻害薬であるタクリンでは起こらなかったため、この遮断はα7nAChRsを通して発生したことが示唆される。したがって、ガランタミンは、アルツハイマーの脳においてニコチン伝達を改善することによって毒性経路から神経細胞を直接保護すると考えられる。
アミロイドプラークは、アルツハイマーの脳における神経変性に寄与すると考えられる炎症性サイトカインの放出と関連すると考えられる。ガランタミンは、動物の生体内ならびに培養中のミクログリアで抗炎症特性を示す。エンドトキシンの前に投与される1mg/kgのガランタミンは血清腫瘍壊死因子(TNF)を大きく減少させる(非特許文献68)。これは、一部で迷走神経を通して中枢ムスカリン性シナプスにより仲介され、α7ノックアウトマウスでは起こらないので、α7ニコチン性受容体を必要とする。4mg/kgでのみ、生存率は大きく改善する。
500nMのガランタミンも、顕著な超生理濃度である50μMのAβ1−40の蓄積を減少させることがわかっている(非特許文献69)。加えて、神経芽細胞種細胞からのAβ1−40およびAβ1−42の放出は、300nMのガランタミンにより減少し、それらのペプチドの生成に関連するβセクレターゼの活性も同様である(非特許文献70)。
これらの結果の研究から、発明者は、ガランタミンは、CSF Aβを低下させることなくAβ沈着を減少させ、おそらくは凝集ならびにADにつながる可能性があるいくつかの経路の神経毒性を減少させることにより、アルツハイマー病因の出現を阻害することの前臨床的証拠を示すと結論付けた。これらの効果のうちいくつかは、大部分がガランタミン陽性アロステリック修飾部位に関連するニコチン性受容体により媒介される。
ガランタミン群における過剰な死亡率によってMCI患者の研究が中止したのに続き、軽度から中等度のAD患者で、ガランタミンの安全性を評価するために、ガランタミン(n=1028)およびプラセボ(n=1023)の2年間にわたる無作為試験が実施された。MMSEにおいて、ガランタミン患者は、6か月(プラセボで−.28;GALで0.15;差=0.43;p<0.001)および24か月(プラセボで−2.14:GALで−1.41;差=0.73;p<0.001)でプラセボ患者よりよい成績を示し、その差は34%であった(非特許文献71)。母集団の21%に当たるメマンチン服用患者を分析から排除すると、ガランタミン患者は、24か月でプラセボ患者の2.15と比較して1.12ポイントの劣化を示し、減少は48%であった。母集団全体で、ガランタミンの効果は、ガランタミンの効果がないメマンチン患者を含めることにより低下した。メマンチンは効能のあるニコチン性受容体阻害薬である(非特許文献72;非特許文献73)。認知症機能障害評価により測定した場合、日常生活動作も、12か月(プラセボの−6.50対GALの−4.55;差=1.95;p〜.009)および24か月(プラセボの−10.81対GALの−8.16;差=2.65;p=0.002)で、プラセボ患者よりガランタミン患者で低下が少なく、その差は24%であった。ガランタミン患者の死亡率はプラセボ患者より42%低かったため、それを受けて、研究は早々に終了し、全ての患者はガランタミン治療への移行を勧告された。死亡率、認知欠損および機能欠損の減少は、全て、時間の経過と共に増加するように見えた。MCI患者の2年間にわたるプラセボ対照例無作為研究の部分母集団で、ガランタミンの神経保護効果に匹敵する解剖学的証拠が見られた(Scheltens他、国際アルツハイマー病学会で発表、アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィア、2004年7月17〜22日)。連続MRIにより評価される広域萎縮は、プラセボ患者と比較して、ガランタミン患者で33%減少した。したがって、ガランタミンはアルツハイマーの経過の進行を緩和するかもしれない。
注目すべきことに、軽度から中等度のアルツハイマー患者における認知低下の減少の大きさは、2つのソラネズマブ研究に基づく軽度AD患者の複合計算の減少の大きさに匹敵し、バピネオズマブの研究結果に勝る。ガランタミンの日常生活動作の変化の減少は、その他の研究の減少より大きく、皮質容積を維持したが、Aβ抗体を服用する患者は、プラセボ患者と比較して皮質容積を欠損する傾向にあった。
ガランタミンはCSF Aβを低下させず、これは、ガランタミンが間質液Aβを低下させないことを示唆する(非特許文献74)。先に述べたように、AD患者では、CSF
Aβは既に正常値より減少しており、生理レベルのAβは重要な生物学的機能を有する。新たな治療を評価するために使用される成果尺度は、おそらくは、プラークの領域の死滅した細胞および死滅しかけている細胞ではなく、アルツハイマー病の脳の健康な細胞の活動の結果だろう。プラークから離れた場所の細胞は、アルツハイマーモデルトランスジェニックマウスの脳の中で異常に静穏な細胞である(非特許文献58)。それらの細胞は、学習および生存のためにAβを要求するので、可溶性Aβを減少させる抗アミロイド治療は、細胞から栄養支援および機能支援を奪ってしまう可能性があり、治療患者の認知成果および機能成果に影響を及ぼすだろう。
MCIの治療のためにガランタミンを使用する2つの研究で過剰な死亡率が出た後、ガランタミンのラベルは、MCIへの使用に対する警告を含むように変更され、研究結果刊行物に添付された解説は、ガランタミンを使用しないよう勧告した(非特許文献75;非特許文献76)。ガランタミンの服用を停止してから30日以内に、14人のガランタミン患者が死亡し、3人のプラセボ患者が死亡した。MCIの研究は中止された。参加した全ての患者の24か月間の研究期間の死亡率追跡では、ガランタミン群で34人が死亡し、プラセボ群で20人が死亡したことが明示され、RR[95%CI]、1.70[1.00,2.90]、p=0.051である。CSR−SBにおける劣化は、研究1では24か月で減少し、研究2では減少の傾向を示した。一方の研究では、24か月の効果は12か月の効果より高いように見え、他方の研究では逆であった。前述の広域萎縮の減少は、MRIスキャンを繰り返した研究1の患者の亜群で起こった。
MCI患者を治療するための2年間にわたるガランタミンの使用における一貫しない結果は、アルツハイマー患者で見られた持続的で相当に大きな効果とは異なり、アルツハイマー病のコリン作動性欠乏を持たない人々に、ADの患者を治療するために必要とされる用量である24mgを使用した結果であるかもしれない。中等度ADでは、24mgは最良の結果を生み出すが、軽度アルツハイマー病では、一日16mgが最良の用量である(非特許文献77)。動物研究でも、効能のあるコリンエステラーゼ阻害薬の用量はコリン作動性欠乏の程度に相関し、高用量または低用量は効能を低下させ、さらには障害を引き起こすこともわかっている(非特許文献78)。MCI患者は軽度ADでも見られるコリン作動性欠乏を持たないので、効果的であると考えられるガランタミン用量は、一日16mg未満であったことが予測されるだろう。24mgの用量の投与は、シナプスアセチルコリンを過剰にさせ、MCI段階での認知に障害を引き起こし、その結果、シナプスに最適な量のアセチルコリンを回復するために拮抗的アセチルコリンエステラーゼ分泌が起こる。ガランタミンを服用するAD患者ではCSF中で穏当な量のアセチルコリンエステラーゼの増加が起こるが、MCI患者ではそれより多い量が発生してしまうかもしれない。しかし、ガランタミン治療を受けるMCI患者における広域萎縮の減少は、薬剤のニコチン活性に起因するものと思われ、認知成果に最適な低用量では起こらなかったかもしれない。アルツハイマー病に対して指示される16mgおよび24mgの使用用量は、過剰なコリン作動性活性に対する保護に必要とされるコリン作動系に拮抗的変化を発生させ、認知成果および機能成果に影響を及ぼしたかもしれない。遺伝的に増加するAChEレベルはアミロイド沈着を促進する可能性がある(非特許文献79)。大きなコリン作動性欠乏を発現していない患者でガランタミン分子のニコチン活性を使用するさらによい方法は、アセチルコリンエステラーゼ活性を低下させるためにガランタミン分子を変性させることである。
ニコチンメカニズムは、臓器移植と関連する急性免疫疾患および慢性免疫疾患;急性肺損傷;コカイン、ニコチン、MDMA、カンナビノイド、アルコール、アヘン剤の嗜癖、使用または離脱、あるいは消費量の減少;年齢に関連する認知低下;AIDS関連性認知症複合;同種移植拒絶;無痛覚症;アルツハイマー病;駆虫効果;食欲抑制;多動を伴うまたは伴わない注意欠陥;不安;関節炎;喘息、聴覚感度;自閉症;頭部外傷;セリアック病;概日リズム変化および時差ぼけ;閉鎖性頭部外傷;認知障害;うつ病、双極性障害、発作、脳外傷と関連する認知障害;皮質可塑性増加(例えば、発作後、マルチタスク障害、耳鳴り);クローン病;うつ病;ダウン症候群の認知障害;ジスレクシア;電気痙攣療法−うつ病誘発性記憶障害;エンドトキシン中毒症およびエンドトキシンショック;癲癇;外面化行為;心不全;ハンチントン病;多動;衝動行為;炎症性腸疾患および胆汁疾患;殺虫効果および抗寄生虫効果;血行不足;シナプス後ニコチン性受容体の鉛遮断;学習障害;レビー小体型認知症;黄体形成ホルモン放出因子の放出;マニア;躁うつ病;記憶喪失;軽度認知障害;多発脳梗塞性認知症;多発性硬化症;神経障害性疼痛;パーキンソン病、アルツハイマー病及脳溢血における神経保護;成人の脳における神経新生;眼球優位性可塑性;オリーブ橋小脳変性症;疼痛(急性、慢性、炎症性、術後、神経因性を含む);膵炎;パーキンソン病(認知、レポドバ誘発性ジスキネシアおよび発症の遅れを含む);歯周炎;ピック病;術後腸閉塞;発作後神経保護;回腸嚢炎;乾癬;レット症候群;リューマチ性関節炎;リューマチ性脊椎炎;サルコイドーシス;統合失調症(認知、注意機能、陰性症状);敗血症;禁煙;社会的相互作用;乳児突然死症候群;遅発性ジスキネシア;耳鳴り;毒素性ショック症候群;チックを含むトゥレット症候群;潰瘍性大腸炎;蕁麻疹;血管性認知症;皮膚移植の血管新生および創傷治癒;人工呼吸器誘発性肺損傷および視力を含むが、それらに限定されない多種多様な生理学的過程および病理学的過程で示唆されている。これらの症状の多くについて長年治療が必要であったにもかかわらず、市場に出ている薬剤は、ニコチン部分作動薬であるバレニクリンただ1つであり、これは禁煙に使用される。
広い概念では、本発明は、認知症、特にアルツハイマー型認知症を発病する危険に関する基準に当てはまる特定の人を認知症の症状が観察される前に認知症の発症を遅らせるという目的で治療する方法を提供する。
第1の態様によれば、本発明は、CSF中のAβ42の減少を示すが、認知症の症状を示していない患者のCSF中のAβ42の効果を減少させる方法であって、
以下の化学式で示される組成物
又はその薬剤として許容される塩の化合物を治療上許容される用量で患者に投与することを含む。組成中、R
1はカルバメート基、カーボネート基またはカルボキシレート基であり、R
2はアルコキシ基、ヒドロキシル基、水素、アルカノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基または置換ベンゾイルオキシ基またはカルバメート基であり、R
3は水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、ベンジル基、シクロプロピルメチル基または置換ベンゾイルオキシ基または非置換ベンゾイルオキシ基である
。
の
R 2 は、通常、炭素原子数2〜10のアルカノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基または置換ベンゾイルオキシ基、炭素原子数1〜10のカーボネート基、あるいはモノアルキルまたはジアルキルまたはアリルカルバメートなどのカルバメート基であり、アルキル基またはアリル基は1〜10個の炭素原子を含有する。炭素原子数2〜8、例えば、3〜6のモノアルキルカルバメート基が特に有用である。
カルボキシレート基およびカルバメート基は特に有用である。
R2は、通常、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、水素、炭素原子数2〜10のアルカノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基または置換ベンゾイルオキシ基、炭素原子数1〜10のカーボネート基、あるいはモノアルキルまたはジアルキルまたはアリルカルバメートなどのカルバメート基であり、アルキル基またはアリル基は1〜10個の炭素を含有する。
置換ベンゾイルオキシ基は、水素、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アルキル、アリル、アラルキル、アルコキシ、チオアルコキシ、アリルオキシ、チオアリルオキシ、アルカルオキシ、チオアルカリルオキシ、ニトロ、アミノ、N−アルキルアミノ、N−アリルアミノ、N−アルカリルアミノ、フルオロ、クロロ、ブロモヨードおよびトリフルオロメチルから独立して選択される1〜3つの置換基を含む。
一般に、R2およびR3は、それぞれ、メトキシとメチルである。先に説明したような化合物は、以下に説明される本発明の実施形態で使用するのに適する薬剤として許容される塩を形成してもよい。そのような塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、メタンスルホン酸塩、シュウ酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩および他の既知の薬剤として許容される酸塩を含む。
本明細書において使用される場合のAβ42はAβ1−42およびAβx−42を含む。
本発明のこの第1の実施形態では、225pg/ml未満のCSF Aβ42レベルを有する患者に対して、特に、例えば、Luminex INNO−BIA AlzBio3検定により測定したときに濃度が192pg/ml未満であるか、またはElisa INNO−BiA AlzBio3などの異なる検定に関して、例えば、650mg/mlまでの範囲内の対応する値である場合に、CSF Aβ42の低下を減少させるために投与される(非特許文献80)。非特許文献81は、<6.16のAβ42:pタウ比がMCI患者のアルツハイマー型認知症への転化を予測することを発見した。使用される手順および特定の検定に関しては刊行物を参照のこと。使用可能な別のバイオマーカー比は、非特許文献82の6ページの図1に示されるようなhTAU−Ag(Innogenetics(現在はFujirebio、ベルギー、Ghent)ベルギーサンドイッチELISA)およびINNOTEST β−amyloid(1−42)サンドイッチELISA(Innogeetics(現在はFujirebio)、ベルギー、Ghent)を使用して、Aβ42=240+1.18xタウにより判定される弁別ライン未満のCSF Aβ42対タウ比、あるいは他の検定により判定される同様の比である。
したがって、非特許文献83により説明されるようなアルツハイマーの症状を表すCSF Aβ1−42と対数変換P−タウ181Pとの比、あるいは非特許文献82または非特許文献81により説明されるような他のバイオマーカー比は、アルツハイマー型認知症の最終的な発症を予測することが可能であり、認知症の発症を遅らせるための治療の基準でもある。一日用量は、例えば、1回用量、分割用量または放出制御処方として、0.1〜100mg、好ましくは1〜50mg、または2〜10mgまたは10〜30mgである。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜0.1mg/kgのように体重に基づいて計算することも可能である。
第2の実施形態では、1回以上の標準試験(MMSE、ADAS−cog、論理的記憶遅延パラグラフ想起、WAIS−R数字記号置換、CDR−global、CDR−SB、NTB、論理的記憶IIA(遅延)および1A(即時)、カテゴリ流暢性、遅延および即時単語リスト想起、漸進的マトリクス、ELSMEM、CogSate、トレイルメーキング、実行機能、神経運動速度、ADCS−ADL、DADなど)、あるいはそれらの試験の要素から構成される複合試験により、認知障害または機能障害はあるが、認知症を示してはおらず、認知障害または機能障害の唯一の原因であると考えることができるようなアルツハイマー病因と関連する症状を有していないと評価された患者に対して、認知および/または機能の劣化を遅らせるように、先に説明したような指定化合物の治療用量が投与される。指定化合物の一日用量は、例えば、1回用量、分割用量または放出制御処方として、0.1〜100mgであり、好ましくは1〜50mgまたは2〜10mgまたは10〜30mgである。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜0.1mg/kgのように体重に基づいて計算することも可能である。
第3の実施形態では、非特許文献13により説明されるように、構造的MRIで内側側頭葉、傍辺縁系および/または側頭頭頂葉の委縮を示すか、あるいはPETスキャンで側頭頭頂皮質におけるフルオロデオキシグルコース摂取の減少を示す患者に対して、劣化を遅らせるように、指定化合物の治療用量が投与される。指定化合物の一日用量は、例えば、1回用量、分割用量または放出制御処方として、0.1〜100mg、好ましくは1〜50mgまたは2〜10mgまたは10〜30mgである。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜0.1kg/kgのように体重に基づいて計算することも可能である。
第4の実施形態では、例えば、同じ日付で腰椎穿刺を実施した場合に1年で1%の降下により判定されるか、あるいはベースラインからの10%の降下、または少なくとも3か月あけて実施された2回の連続するベースライン後標本採取における減少により判定される場合にCSF Aβ42が減少している患者に対して、減少の速度を低下させるために、指定化合物の知治療用量が投与される。一日用量は、例えば、1回用量、分割用量または放出制御処方として、0.1〜100mg、好ましくは1〜50mgまたは2〜10mgまたは10〜30mgである。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜0.1mg/kgのように体重に基づいて計算することも可能である。
第5の実施形態では、例えば、一日用量、分割用量または放出制御処方として0.1〜100mg、好ましくは1〜50mgまたは2〜10mgまたは10〜30mgの一日用量の投与により、脳からのAβ種のクリアランスを増加させるために指定化合物の治療用量が使用されてもよい。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜01mg/kgのように体重に基づいて計算することも可能である。
そのような実施形態では、未治療の患者の脳と比較して、脳内のβアミロイドの蓄積は遅くなる。前述のように、そのようなクリアランスは、バイオマーカーの使用により、特に、ピッツバーグ化合物B(PIB)Amyvid(フロルベタピル)、Vizamyl(フルテメタモール)、Neuroseq(フロルベタベン)および18F−NAV4694ならびに開発される可能性がある他の薬剤のような、PETスキャンで可視のアミロイドプラークのリガンドの使用により判定されてもよい。通常、そのような治療は、認知症の症状を示していないが、例えば、Luminex INNO−BIA AlzBio3試験キットにより、皮質にAβが蓄積しているか、またはCSF Aβ42のレベルが192pg/ml未満であるか、または1年で1%を超える大きさで減少しているか、またはベースラインから10%降下しているか、または少なくとも3か月あけて実施された2回の連続ベースライン後標本採取で減少を示すと判定された患者に対して実施される。
第6の実施形態では、プラークの沈着を阻害するかまたはAβのプラークの除去を助けるため、CSF中のAβ42の減少を防止するかまたはCSF中のAβ42を増加させるため、アルツハイマー型認知症への進行を遅らせるため、あるいは日常生活の認知および/または動作の喪失を低減するために、指定化合物の治療用量はニコチン作動薬と組み合わせて使用されてもよい。そのような実施形態では、指定化合物の一日用量は、例えば、1回用量、分割用量または放出制御処方として、0.1〜100mg、好ましくは1〜50mgまたは2〜10mgまたは10〜30mgである。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜0.1mg/kgのように体重に基づいて計算することも可能である。
適切な作動薬は、ニコチン、バレニクリン、シチシン、ジアニクリン、ABT−594、DMXB−A、TC1734、ABT107、Mem3454(RG3487)、ABT894,5−IA−85380、GTS21、A−582941、EVP6124、SKL A4R、AZD1446、TC5619、AZD0328などを含む。
第7の実施形態では、アポリポタンパク質EのApoE4アイソフォームを有することが判定されているが、認知症の症状を示していない患者に対して、プラークの沈着を阻害するかまたはAβのプラークの除去を助けるか、CSF Aβ42の降下を減少させるか、認知および/または機能の低下の進行を防止するか、あるいはアルツハイマー型認知症への進行を防止するのに十分な量で、指定化合物の治療用量が投与される。そのような実施形態では、指定化合物の一日用量は、例えば、1回用量、分割用量または放出制御処方として、0.1〜100mg、好ましくは1〜50mgまたは2〜10mgまたは10〜30mgである。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜0.1mg/kgのように体重に基づいて計算することも可能である。
第8の実施形態では、ダウン症候群の個体に、脳内のβアミロイドプラークの沈着を阻害するため、またはCSF Aβ42の降下を減少させるため、または認知能力および機能的能力の喪失を減少させるため、またはアルツハイマー型認知症への進行を防止するために、先に説明したような指定化合物の治療用量が投与される。そのような実施形態では、指定化合物の一日用量は、例えば、1回用量、分割用量または放出制御処方として、0.1〜100mg、好ましくは1〜50mgまたは2〜10mgまたは10〜30mgである。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜0.1mg/kgのように体重に基づいて計算することも可能である。
第9の実施形態では、アルツハイマー型認知症を引き起こす完全浸透性変異を持つと判定されている患者に対して、指定化合物の治療用量が投与される。そのような実施形態では、指定化合物の一日用量は、例えば、1回用量、分割用量または放出制御処方として、0.1〜100mg、好ましくは1〜50mgまたは2〜10mgまたは10〜30mgである。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜0.1mg/kgのように体重に基づいて計算することも可能である。
そのような変異の存在の判定は、遺伝子検査により判定されてもよい。
第10の実施形態では、アルツハイマー型認知症をまだ発症していないが、第1の実施形態で説明したようなCSF Aβ42の低下または降下、第2の実施形態で説明したような認知能力または機能的能力の低下、第3の実施形態で説明したようなMRIまたはフルオロデオキシグルコースPETによるアルツハイマー型変化、第4の実施形態で説明したようなCSF中のAβ42の減少、第5の実施形態で説明したような脳内のAβアミロイドの増加、あるいは第7の実施形態で説明したようなアポリポタンパク質EのApoE4アイソフォームの存在に基づいてアルツハイマー病の可能性ありと判定されている患者に対して、あるいは第9の実施形態で説明したようにアルツハイマー型認知症と相関することがわかっている浸透性変異を有する患者に対して、Aβのクリアランスを改善するため、認知能力および/または機能的能力を向上させるため、またはアルツハイマー型認知症への転化を遅らせるために、Aβ抗体を投与することによりまたは抗体生成を刺激することにより、あるいはAβ種を結合することによりまたはAβ種の結合に至らしめることによりクリアランスを促進するソラネズマブ、アデュカヌマブまたはガンテレヌマブなどの薬剤と同時に指定化合物の治療用量が投与される。そのような実施形態では、指定化合物の一日用量は、例えば、1回用量、分割用量または放出制御処方として、0.1〜100mg、好ましくは1〜50mgまたは2〜10mgまたは10〜30mgである。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜0.1mg/kgのように体重に基づいて計算することも可能である。
第11の実施形態では、軽度の認知異常または僅かな認知の欠損が見られるが、アルツハイマー型認知症または他の疾患が認知の問題の唯一の原因ではない患者に対して、MMSE、ADAS−cog、論理的記憶遅延パラグラフ想起、WAIS−R数字記号置換、CDR−global、CDR−SB、NTB、論理的記憶IIA(遅延)および1A(即時)、カテゴリ流暢性、遅延および即時単語リスト相違、漸進的マトリクス、ELSMEM、CogState、トレイルメーキング、実行機能、神経運動速度、ADCS−ADL、DADなどの試験、好ましくはCDR−SB、カテゴリ流暢性およびADCS−ADL、またはMMSE、ADAS−cog、パラグラフ想起、数字記号置換、NTBおよび他の試験からの問題の合成で成績を改善するためまたは低下を遅らせるために、指定化合物の治療用量が投与される。一日用量は、例えば、1回用量、分割用量または放出制御処方として、0.1〜100mg、好ましくは1〜50mgまたは2〜10mgまたは10〜30mgである。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜0.1mg/kgのように体重に基づいて計算することも可能である。
認知症またはアルツハイマー型認知症をまだ発症していない人という場合、それは、1984年に発表されたNINCDS−ADRDAまたはMcKhann基準に従ってアルツハイマー病の疑いがあると診断されなかったか、あるいは生検による組織が存在するかまたは死亡した患者に対して剖検が実施された場合に確実にアルツハイマー病に罹患していると診断されなかったと考えられる人を意味する。通常、ミニメンタルステート検査で26以下のスコアを示した場合に認知症であると考えられる(非特許文献84)。臨床医が患者の認知状態を等級付けする実際の方法(Journal of Psychiatric Research 12(3))では、MMSEの場合の標準認知症カットオフは26以下であり、CDR−SBの場合は1.0である。しかし、認知症に関するカットオフが認知予備力、年齢、学歴などの因子を考慮に入れていることは重要である。国勢調査データから選択された米国の成人サンプルでは、中央値MMSEは、9年間の学校教育を受けた人で29、5〜8年間の学校教育を受けた人で26、4年以下の教育を受けた人で22であった(非特許文献85)。75〜85歳のフィンランド人の511人の被験者のうち、446人はCDRスコアに基づいて認知症と判定されなかったが、社会集団と相関する年齢および学歴に従ってMMSEスコアを修正した。低学歴群および高学歴群における認知症のMMSEカットポイントは、75歳の人々ではそれぞれ25と26であり、80歳の人々ではそれぞれ23と26であり、85歳の人々ではそれぞれ22と23であった(非特許文献86)。したがって、認知症の有無を判定する場合に、最良の利用可能データを採用する人口統計学的因子が考慮に入れられてもよい。
前述のように、Aβは、正しい形態で、正しい位置に、正しい濃度で存在している場合には脳内で重要な機能を果たす。しかし、Aβのオリゴマー化および凝集は毒性をもたらし、Aβ42が存在することが望まれる領域のAβ42の濃度を低下させる。したがって、本発明の化合物は、Aβ単量体の濃度に重大な悪影響を及ぼすことなくオリゴマーの除去を実現するために脳内のAβの濃度を最適化する量で利用されるべきである。0.2〜1.5μMの脳内濃度、例えば、約1μMのような0.5〜1.0μMの脳内濃度がこの目的に最も適すると思われる。以下に説明されるように、治療用量は、この脳内濃度を実現する用量である。
特に有用な化合物の1つは、以下の構造
を有する化合物である。
SDL11349のアセチルコリンエステラーゼ阻害のためのIC50は、ガランタミンの3.97x190−7Mと比較して10.9x10−7Mである。
この化合物がコリンエステラーゼ阻害薬として最初に説明されたのは、非特許文献87の中であった。
ガランタミンがAβを排除し、Aβ、グルタミン酸およびSERCA阻害毒性に対して神経細胞を保護した経路を、コリンエステラーゼ阻害を顕著に減少させる一方で分子のニコチン陽性アロステリック修飾特性を維持する類似体により作動させることができる。ガランタミンブチルカルバメートはガランタミンの酵素活性の約36%を有する。
初代培養ラット神経細胞を1.5mMのコリンの適用により脱分極できる(非特許文献88)。これは、メチルリカコニチンおよびαブンガロトキシンにより遮断可能であったので、α7ニコチン性受容体により媒介される。1μMのガランタミンn−ブチルカルバメートは、コリンにより引き起こされる脱分極を向上させた(15.9±2.1%)。これは、同じ濃度のガランタミンの効果(20.6±4.2%)と大きく異ならなかった。n−ブチルカルバメートにより生み出される向上は、ニコチン性受容体FK−1のガランタミン認識部位に対する抗体により遮断され、それがガランタミン陽性アロステリック修飾部位により媒介されたことを示す。したがって、ガランタミンn−ブチルカルバメートはガランタミン部位で陽性アロステリック修飾薬であり、ガランタミンの効果に類似する効果を有する。
ブチルカルバメートは、悪影響に関してガランタミンとは異なっていた(非特許文献89)。ガランタミンで治療した動物において5mg/kgで現れた運動性の低下は、類似体では30g/kgまで観察されなかった。n−ブチルカルバメートを50〜100mg/kgの用量で投与した場合、マウスはぐらつき、バランスを崩し、4時間にわたり急速な心拍数が残ったが、24時間で回復した。100mg/kgまでは死亡に至らなかった。ガラタミンのLD50は10mg/kgである。10mg/kg、15mg/kgおよび20mg/kgのガランタミンを輸液注入したマウスは、それぞれ平均8分、6分および4分で発作を起こす(非特許文献90)。
以下に示すように、ガランタミンn−ブチルカルバメートは、ヒトの結腸直腸癌に由来するCaCo−2細胞の層の生体外浸透性に基づいて80%の経口バイオアベイラビリティを示すと予測される。
肝臓ミクロソームの生体外調製では、ガランタミンn−ブチルカルバメートの半減期は60分を超えていた。
以下に示すように、これは、化合物が肝臓で相当程度まで代謝されることがなかったことを示唆する。
ガランタミンn−ブチルカルバメートは、マウス血漿中で2時間を超えて安定している。2時間の濃度はガランタミンの濃度より僅かに低く、ヒトの患者で約7時間の血漿半減期を有する。マウス血漿データは図3および図4に示される。薬物動態データは、Apredica(313プリーザントストリート、ウォータータウン、マサチューセッツ州02472)により作成された。
基底核大細胞部(nBm)の病変を伴うマウスは、照明された区画からマウスが好む暗い区画へ渡る場合に床グリッドを介してショックを受けることによって記憶力が劣化する。訓練中にガランタミンn−ブチルカルバメートを与えると、マウスは、生理食塩水を与えられたマウスより約100秒長く照明された区画にとどまる(非特許文献89)。図5に示されるように、この記憶力向上に最良の用量は0.5mg/kgである。
ガランタミンでも類似の効果が見られる。しかし、最高の成績は約125秒の増加であり、最良の用量は3mg/kgであって、n−ブチルカルバメートの6倍である。
要するに、動物および生体外の研究に基づくSDL11349は、十分な耐容性を有し、安全であり、経口バイオアベイラビリティを有し、血漿中で安定し、ガランタミンより低い用量で学習を向上させるのに効果的であると思われる。SDL11349は、ニコチン性受容体のガランタミン陽性アロステリック修飾部位を介して神経細胞の電気生理学的活性を改善する。SDL11349は、遅発性AD患者で識別されるクリアランス欠乏より大きくなる程度まで、ミクログリア細胞による毒性Aβ42オリゴマーのクリアランスを大幅に改善する(図6)。さらに、SDL11349は、アルツハイマーの脳で見られる特性である樹状突起のAβ42オリゴマー誘発損失を阻害することができ、これは、「黄金律」であるBDNF(脳由来神経栄養因子)の効果に匹敵する保護効果である(図7)。このことは顕微鏡写真から容易に理解される(図8)。アルツハイマーの脳では樹状突起棘が減少する(非特許文献44)。これらの樹状突起、特により頻繁に大頭を伴う成熟期の樹状突起は、若い成体のマウスにおいて、CA1の放線状層で亜慢性SDL11349治療により大きく増加する。この領域は早期にADに冒され、その幅は認知機能と相関する(非特許文献91)(図9〜図11)。したがって、SDL11349は、AB42オリゴマーのクリアランスを相当程度まで増加させると共に、残留オリゴマーの毒性を防護し、ADに最も早期に冒されていた領域の1つで栄養効果を有する。本発明は、約0.05〜1.8μM、さらに一般的には0.2〜1.5μM、例えば、約0.5〜1.0μNの脳内濃度で利用する。個別の化合物に関する適切な用量範囲の判定は、生体外でAβオリゴマーのクリアランスを促進する類似体の濃度を評価し、残留オリゴマーによる損傷から神経突起網を保存する濃度との間で加減することにより実施できる。その後、血漿および脳の濃度を判定するために類似体は実験動物に投与され、有効脳内濃度と関連する血漿濃度がヒトの被験者に適用される。通常、ヒトの被験者でいくつかの濃度が試され、それに伴って、脳内Aβ種またはCSF中のAβ42の測定が実施され、臨床結果が得られる。
本発明による治療に使用するのに適する組成は、通常、化合物の活性および半減期に応じて活性化合物を0.1〜40mg含有するタブレット、カプセルまたはロゼンジのような経口投与に適している。SDL11349を使用する組成は、通常、例えば、用量ごとに0.5〜10mgまたは1〜8mgの範囲内を含む。
経口投薬形態は、程度の異なる被膜を有する粒子が異なる時点で放出されるように、例えば、ポリビニルピロリドンなどの胃液で溶解する薬剤として許容される重合体によって被覆し、次に、粒子にサイズ剤を塗布し、特定の大きさの粒子を特定の比でタブレット、カプセルまたはロゼンジの中に封入することにより、あるいは浸透などを利用する放出制御の仕掛けを使用することにより、血流への放出を遅らせるように活性化合物の粒子が被覆される持続投薬処方であってもよい。この場合、被膜または遅延技術によって、活性化合物の大半が投与から12時間以内に放出される結果となるのが望ましい。これに代わる適用手段は、例えば、1時間当たり.01〜10mgの割合で用量を投与することを目的とする経皮パッチを含んでもよい。
希望に応じて他の投薬形態が使用されてもよい。例えば、血液脳関門の通過を助けるための投薬処方を含む点鼻または非経口がある。
点鼻または非経口による治療投与を目的として、本発明の活性化合物は溶液または懸濁液に取り込まれてもよい。それらの調合は、通常、溶液または懸濁液の重量の少なくとも0.1%、例えば0.5〜約30%の活性化合物を含む。本発明による好適な組成および調合は、点鼻または非経口による投与量単位が0.1〜10mgの活性化合物を含有するように調製される。
溶液または懸濁液は、注入用の水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの滅菌希釈剤、ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化薬、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤、酢酸塩などの緩衝剤、クエン酸塩またはリン酸塩ならびに塩化ナトリウムまたはブドウ糖などの毒性調節剤のような成分をさらに含んでもよい。非経口多人数用バイアルはガラス製またはプラスチック製であってもよい。
活性成分の投与における典型的な投与速度は、使用される化合物の性質によって異なり、静脈内投与の場合、患者の身体状態および他の投薬治療に基づいて、一日当たりおよび体重1Kg当たり0.01〜2.0mgの範囲内である。
点鼻投与または脳室内投与のための液体処方は、0.1〜5mgの活性成分/mlの濃度である。本発明による化合物は経皮システムでも投与可能であり、その場合、0.1〜10mg/日が放出される。経皮投薬システムは、遊離塩基または遊離塩として0.1〜30mgの活性物質を含有する蓄積層から構成されてもよく、浸透加速剤、例えば、ジメチルスルホキサイド、またはカルボン酸、例えば、オクタン酸、およびポリアクリレート、例えば、ミリステン酸イソプロピルなどの柔軟剤を含むアクリル酸ヘキシル/酢酸ビニル/アクリル酸共重合体などが共に使用される。被覆として、活性成分不浸透性外側層、例えば、厚さ0.35mmの金属被覆シリコン処理ポリエチレンパッチを使用可能である。接着剤層を製造するために、例えば、有機溶媒中のメタクリル酸ジメチルアミノ/メタクリル酸塩共重合体を使用可能である。
所定の患者に対する特定の用量の判定は、その患者を治療する医師の判断の問題である。しかし、SDL11349を使用する場合、0.4〜1.2μMの範囲の脳内濃度を実現するために、用量は一日当たり1.0〜10mgまたは2〜8mgの範囲内である。
本発明で使用するいくつかの化合物はアセチルコリンエステラーゼ阻害薬である。この薬剤の使用者の中には、アセチルコリンエステラーゼの阻害によって、所期の睡眠期間中に過剰な精神活動が起こり、不眠症に至る人もいる。そのような患者の場合、所期の睡眠期間中に脳内の活性化合物のレベルが高くなるのを回避するように投薬処方を選択すべきである。本発明の化合物の身体内での半減期は、通常、12時間未満であり、6時間程度の短さであってもよい。したがって、夕方に薬剤を摂取するのを回避することにより、例えば、一日の用量を2回分、3回分または4回分に分割して、一日を通して摂取し、通常、食事の時間に摂取することにより、所期の睡眠期間中の活性化合物が高濃度になるのを回避できる。あるいは、遅延薬剤放出処方または持続薬剤放出処方が使用されてもよい。
他のユーザでは、睡眠障害は問題にならず、グリンパ系を介して脳からのβアミロイド種のクリアランスを補助するために睡眠中に本発明の薬剤のレベルを維持することが有用だろう。
個別の患者に関して、0.1mgまたは1〜2mgのような低い一日用量から始めて、反応が不十分であれば用量を増やすことにより、適切な投与量を判定してもよい。本発明により要求される活性化合物の量は、CSF Aβ42の低下を減少させつつ、皮質におけるAβ沈着の除去を促進するかまたはその蓄積を遅らせるような量である。コリンエステラーゼ阻害薬およびニコチン作動薬としての化合物の相対的効果に応じて、これは、アセチルコリンエステラーゼの阻害が重要な条件であるアルツハイマー病と関連する認知症を治療するために要求される用量より低くてもよい。この特性は、本発明に関して用量を選択する際の望ましい因子ではない。
本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に係る処理は、CSF中のAβ42と呼ばれるAβ1−42またはAβx−42単量体のレベル、あるいは皮質におけるβアミロイド沈着物を反映する尺度の判定を必要とする。この判定は、ピッツバーグ化合物B(PIB)、Amyvid(フロルベタピル)、Visamyl(フルメタモール)、Neuroseq(フロルベタベン)、18F−NV4694または開発される可能性がある他の薬剤のようなβアミロイドに対するリガンドによる腰椎穿刺およびPETスキャンのような標準的な方法により実施可能である。治療を開始すべきであるCSF Aβ42のレベルの判定は、年齢、学歴、ApoE4の状態、糖尿病、ADおよび他の疾患の原因となる遺伝子のような多様な因子に従属する。Aβ42濃度のカットオフは、脳内Aβ沈着を示すCSF中のCSF Aβ42の濃度およびアルツハイマー病の患者と健康な高齢者とを区別する類似の値に基づく(非特許文献1、非特許文献83)。しかし、通常、CSF
Aβ42のレベルが225pg/ml未満まで降下した場合、例えば、PET追跡子ならびに皮質領域および基準領域に応じて、INNO−BIA AlzBio3試験キットLuminexアッセイを使用して判定した場合で192pe/ml未満、またはInnotest βアミロイド(1−42)ELISAアッセイを使用して判定した場合で450〜650pg/ml未満まで降下した場合、あるいは1年で1%を超えて降下するか、ベースライン測定以降に10%降下するか、または少なくとも3か月の間隔で実施された2回の連続するベースライン後測定で降下していた場合に、治療は開始される。皮質Aβ沈着に対応する現在利用可能なSCF Aβ42レベルの概要は、非特許文献92の表2で利用できる。この測定に関して、アルツハイマー研究組織の中で規格化の努力が続けられている。
本発明の第3の実施形態に係る治療は、非特許文献38により述べられているように、容積測定MRスキャンまたはPETスキャンによるフルオロデオキシグルコース摂取の判定を含んでもよい。
本発明の第6の実施形態に係る治療は、先に指定したような薬剤の1つと共に、EVP6124、DMSB−A、AZD1446、ABT894または前述の他のニコチン作動薬のようなニコチン作動薬を投与することを含む。作動薬は、プラークからのAβのクリアランスを助け、従って、アミロイドまたはCSF Aβに関してPETスキャンで、異常の進行を遅らせるような応答が見られるまで、最初は低用量から始め、必要に応じて用量を増やしていくように有効レベルは確定される。本実施形態に係る薬剤とニコチン作動薬との組み合わせは、心臓に副作用を引き起こすかもしれないので、この組み合わせは極めて慎重に使用されるべきである。作動薬の一日用量は、例えば、1回用量、分割用量または放出制御処方として0.1〜100mg、好ましくは1〜50mgまたは2〜10mgまたは10〜30mgである。一日用量は、0.001〜0.15mg/kgまたは0.01〜0.1mg/kgのように体重に基づいて計算することも可能であり、作動薬に関しては0.5〜50mgと計算できる。各薬剤の実際の投与量は、脳内アミロイドレベルおよびCSF中のAβ42のレベルに従って判定され、0.2mg〜100mgの範囲内、好ましくは2〜10mgまたは1〜50mgの範囲であり、作動薬の場合で0.5mg〜50mg、好ましくは2〜30mgである。
本発明の第7の実施形態に係る治療は、患者がアポリポタンパク質EのApoE4アイソフォームを有するか否かの判定を必要とする。これは遺伝子検査により実施されてもよい。患者がこのカテゴリに含まれることが判明した場合、適切な投与量レベルは、第1の実施形態および第2の実施形態と同様にして判定されてもよい。
第8の実施形態に係る治療は、すなわち、ダウン症候群の治療は、第6の実施形態に関して説明したようなアミロイド沈着ならびに第1の実施形態および第2の実施形態に関して説明したようなCSF Aβ42の指針に従うことになるだろう。
本実施形態に係る薬剤は、他のコリン作動性薬剤と同じ禁忌を共有する。したがって、思春期前の子供ならびに、例えば、喘息、癲癇、除脈、心臓ブロック、出血性潰瘍などの疾患がある患者に本発明を適用する場合には注意を払うべきである。さらに、動物実験によれば、コリン作動性薬剤は、閉経前の女性の子宮および卵巣の過度刺激を引き起こす可能性があることもわかっている。
以下の実施例により本発明を例示する。(オリゴマークリアランスの測定)(手順)
American Peptide社のベータ−アミロイド(1−42)(製品番号62−0−80)を使用してAベータオリゴマーを調製した。1アリコートを適切な体積のTBS(50mMのトリスバッファ、150mMのNaCl、pH=7.4)に溶解させて、最終濃度を1.7mg/ml(340μMに相当する)とした。その溶液を2分間超音波処理し、次に、水中で1:2の割合で希釈して、170μMの最終濃度を得た。次に、48時間にわたり、Aベータを4℃で凝集させた。適用前に、さらに1分間、溶液を超音波処理した。
Bv−2ミクログリア細胞を培地(DMEN媒体、10%FBS、2mMグルタミン、1%Penc/Strep)に80〜90%の密集度になるまで保持した。37℃、湿度95%およびCO25%で細胞を維持した。その後、24ウェルプレートの培地にウェルごとに1x105細胞の細胞密度で細胞を播種した。24時間後、培地を処理培地(DMEM媒体、5%FBS、2mMグルタミン)と交換した。Aβオリゴマーの適用前に、24時間にわたり図6に示されるように細胞を異なる濃度のSDL11349で処理した。オリゴマー化Aβ1−42(10μM)を6時間にわたり細胞に適用した。その後、細胞培養上清(媒体)を回収した。媒体を親和力により分離し(単量体を除去する)、貧食されていないオリゴマーをHFIP処理により離解させ、MSDにより測定した(MSD(R)96ウェルMULTI−SPOT(R)6E10 Aベータトリプレクスアッセイ(Mesoscale Discovery社))。
マニュアルに従って免疫アッセイを実施し、Sector Imager(MSD)によりプレートを読み取った。適切なAβペプチド標準(MSD)に従って分析物レベルを評価した。9回の(図6)反復で実験を実施した。データを平均±標準誤差(SEM)として提示した。一元配置ANOVAにより群差を評価した。
(結果)
24時間にわたり適用されたSDL11349は、媒体中のβアミロイドオリゴマー濃度を0.11〜.67mMの濃度範囲で大きく約38〜40%減少させた。ANOVAはp=.009と大きかった。
この実験は、QPS Austria(Parkring12、A−8074 Grambach、オーストリア)で実施された。(神経突起評価)(手順)
非特許文献93により説明される通りに、ラットの皮質神経細胞を培養した。培養の11日目に、Aβオリゴマー溶液20μMを適用した。非特許文献93により説明される通りに調製した平均重量90kDaのAβオリゴマー調製物は、微小線維または前原線維を含有せず、拡散性種のみを含有していた。簡単に言えば、40μMの濃度のAβ1−42ペプチドを培地に溶解させ、暗中で3日間、37℃で緩やかに撹拌し、希釈後直ちに使用した。SDL11349およびBDNF(50ng/ml)を培地に溶解させ(最大で0.1%のDMSO最終濃度)、次に、Aβ1−42オリゴマー溶液適用前に24時間にわたり一次皮質神経細胞と共にプレインキュベートした。
神経細胞および様々な濃度のSDL11349、すなわち、BDNF,50ng/ml、陽性対照例と共に24時間にわたり、条件ごとに6回の反復で培養した。次に、上清を除去し、低温エタノールおよび酢酸溶液によって神経細胞を定着させた。細胞に0.1%サポニンを浸透させ、次に、マウスの単クローン抗体および微小管関連タンパク質2(MAP−2)と共に2時間にわたり細胞を培養した。その後、Alexa−Fluor488抗マウスヤギIgGを適用し、画像を取得し、自動的に分析した。
(結果)
Aβオリゴマー調製物により神経突起網は40%減少していた。図7に示されるように、1μMのSDL11349は、陽性対照例の保護効果に匹敵するレベルでAβオリゴマーの毒性作用を阻害した。重大な有益効果は0.66〜4.0μMのSDL11349で見られた。データを平均±標準誤差として提示した。星印は*p<.05を示し、一元配置ANOVAの後にPLSDフィッシャー検査が続いた。
1μMのSDLの効果は図8で理解できる。図8(a)に示されるような正常な神経突起網は、Aβオリゴマーで処理されると、図8(b)に示されるように疎らになる。このアッセイの「黄金律」であるBDNFは神経突起網を維持し(パネル(c))、SDL11349はBDNFに匹敵し(パネル8(d))、対照例に十分匹敵する(パネル8(a))結果を生成する。
この作業はNeuro−Sys(410CD60、Parc de l‘Oratoire de Bouc、F−13120、Gardanne、フランス)で実施された。
(樹状突起棘評価)
樹状突起棘は認知過程にとって基本的なものであり、アルツハイマー病の脳の原線維アミロイド沈着物の領域では減少する(非特許文献44)。
(方法)
成体のC57B16マウス(生後8週間)に、供犠前の5日間、イソフルオランによる急速麻酔の後に一日に賦形剤またはSDL11349を.005、.03、.07,0.1または0.2mg/kg、ip投与した。前端から後端に向かって、脳組織を300μMのスライスに切断した。
バリスティックダイのラベリングを実行し、その後、63倍の対物レンズ(1.42NA)を使用するレーザー走査共焦点顕微鏡検査(Olympus FV1000)により、高分解能(0.103x0.103x0.33μmボクセル)で個別にラベリングされた神経細胞をスキャンした。関心脳領域で、解剖学的位置および細胞の形態によりターゲット神経細胞を識別した。実験条件を隠して顕微鏡検査を実施した。各セグメントに関して、動物ごとに最低でも5つの標本を測定した。
(Afraxis ESP神経突起棘分析および神経突起膜完全性の評価)
3次元生デジタル画像にブラインドデコンボリュ―ション(AutoQuant)を適用し、次に、熟練した分析者により棘密度および形態に関して画像を分析した。カスタム内蔵Afraxis ESPソフトウェアを使用して、画像Zスタックから(a)棘頭、(b)長さおよび(c)頸太さに関して手動操作により個別の棘を測定した。各樹状突起を3人の独立した分析者により分析した。
自動化画像割り当てソフトウェア(C++)は分析者に無作為に画像を配布し、各分析者が群ごとにほぼ等しい数の樹状突起の測定を実施するようにした。分析者には全ての実験条件が隠された。樹状突起ごとの分析者間のばらつきの統計的分析をオンラインで検査し、分析者間信頼性基準に適合しない樹状突起を排除するために使用し、3つの尺度の全てに関する測定分布が分析者間で大きく異なることがなかった場合に限り、樹状突起を最終分析に取り入れた。棘密度および棘形態分類に関して、全ての分析者にわたるデータを平均して、樹状突起ごとのデータを報告した。全てのマウスから均等に回収された樹状突起からデータ母集団値(N)を報告した。
(統計的分析)
値は、表およびグラフで群平均±標準誤差(SEM)として報告される。パラメータ値の全ての群比較に関して、分散分析検定を使用して統計的有意性を判定した(ANOVA;SPSS)。ステューデントのt検定(2テール)を使用して自己比較を評価した。全てのAfraxis実験者に対して、データの収集、組み立ておよび解釈の間、治療条件は完全に隠された。2標本コルモゴロフ−スミルノフ検定(α=.0001)を使用して、個別の尺度母集団分布のノンパラメトリック比較を実施した。
背側海馬のCA1錯体神経細胞の二次尖端樹状突起および二次基底樹状突起から取り出された標本から樹状突起棘形態を分析した。標本採取位置を示す図9に、代表的なレーザー走査共焦点顕微鏡写真が示される。各動物から3つの断面を収集し(前頂から−1.4mm〜−2.9mmの間で取り出された)、個別にラベリングした5つの神経細胞を識別した。各位置から50μmセグメントを分析した。
群ごとの総棘密度が図10で説明される。全ての治療群は、尖端樹状突起標本の賦形剤対照例と比較して統計的に有意な差(p<.05、2テールt検定)または傾向(p<.01)を表した。基底標本に影響はなかった。SDL11349治療の全ての用量レベルにわたり、影響の大きさおよび信頼性は著しいものである。対照例と比較したときの影響の大きさに基づいて、検査した範囲内でSDL11349による棘の用量依存変異は存在しないように見える。
樹状突起棘の成熟度カテゴリが図10で説明され、図10および図11に示される。未処理の樹状突起棘形態計測値(棘長さ、棘頭直径および頸太さ)を、高粒度化樹状突起表現型を記述する12カテゴリ分類スキームに組み立てる。未成熟スコア、中間スコアおよび成熟スコアを表すために、それらのカテゴリを崩す。最後に、12ポイントスキームから独立した評価を使用して、伝統的な棘表現型(例えば、キノコ、切り株など)を記述する。尖端樹状突起標本における総棘密度効果は、成熟棘表現型への変化により大きく促進された。全ての治療群は、賦形剤対照例に対して大きく増加した成熟棘密度を表していた。これは、切り株型棘およびキノコ型棘の全般的な増加に移行した。
この作業は、Afraxis(6605 Nabcy Ridge Drive、Suite224、サンディエゴ、カリフォルニア州92121)により実施された。