以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。但し、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
<実施形態1>
実施形態1に係る部品及び部品の製造方法を説明する。まず、部品を説明する。その後、部品の製造方法を説明する。
(部品)
図1は、実施形態1に係る部品を例示した断面図である。図1に示すように、部品1は、例えば、内部に空洞部10を有する円筒形状である。部品1の内部の空洞部10に接する円周面を内面11という。部品1の外側の円周面を外面21という。円筒形状をした部品1は、中心軸C1を有している。部品1は、中心軸C1を回転軸として回転するように形成されてもよい。例えば、部品1は、中心軸C1を回転軸として回転するような入力トルクTによって回転する。
部品1は、外面21に開口22を有する孔30が形成されている。図1に示す例において、孔30は、複数設けられている。なお、図1においては、簡略化のため、複数の孔30のうち、1つの孔30に対してのみ符号が付されている。孔30は、例えば、部品1の内面11から外面21に貫通してもよい。すなわち、孔30は、開口22から空洞部10まで貫通する。なお、孔30は、非貫通孔として形成された凹みでもよい。孔30は、部品1の中心軸C1を始点とし、中心軸C1に直交する部品1の径方向の中心軸C2を有してもよい。中心軸C1に直交する面内において、中心軸C1を中心に回る方向を周方向という。また、中心軸C2に直交する面内において、中心軸C2を中心に回る方向も周方向という。
なお、部品1は、内部に空洞部10を有する円筒形状としたが、これに限らない。部品1は、外面21に開口22を有する孔30が形成されていれば、角筒形状、円柱形状等でもよい。孔30は、部品1の所定の位置に所定の径で形成されている。
例えば、部品1は、自動車の駆動ユニット等で使用されるシャフトである。部品1の空洞部10は、中空潤滑油流路として機能する。産業機械や自動車は、回転トルクTにより動力を伝達する軸構造としてシャフトを含んでいる。シャフトは、疲労強度に対して高い信頼性を要求されている。その一方で、シャフトは、小型軽量化を要求されている。シャフトは、軽量化を目的として、空洞部10を有する中空構造とされる場合がある。
さらに、空洞部10から外面21に貫通した孔30が、潤滑油の油路として利用される場合がある。例えば、自動車の自動変速機においては、外径がφ12〜40[mm]程度であり、空洞部10の内径が10[mm]程度の円筒形状のシャフトに対し、孔径φ1〜3[mm]程度の潤滑油用の孔30が形成されている。中心軸C1を回転軸として回転することにより、空洞部10に供給された潤滑油は、遠心力によって、孔30を通ってシャフトの周囲へ供給される。このように、空洞部10及び孔30を、潤滑油の油路として利用される場合には、潤滑油を、部品1の周囲に所定の流量で供給することができる。
一方、孔30を形成した部分において、シャフトの強度が最弱になる場合がある。シャフトに対して、中心軸を中心に回転させるトルクTを作用させると、シャフトの中心軸に直交する断面には、せん断応力が発生する。シャフトに発生した応力は、孔30の周辺に集中する場合がある。このとき、孔30の周辺の所定の部分には、引張応力が発生する。このような場合には、孔30の周辺における強度の劣化が、シャフト全体の寿命を制約することとなる。
そこで、本実施形態では、部品1の孔30に、レーザピーニング加工を施している。例えば、部品1の孔30の内壁32に対してレーザピーニング加工が施されている。これにより、孔30の内壁32に圧縮残留応力が付与される。よって、部品1の強度を向上させ、部品1の寿命を向上させることができる。
図2は、実施形態1に係る部品1のレーザピーニング加工された孔30を例示した断面図である。図2に示すように、孔30の内面31に対しては、レーザ光40を垂直に照射することが困難である。そこで、レーザ光40の光軸C3の内面31に対する入射角度は、0[°]よりも大きく、90[°]よりも小さい角度となる。角度の単位として、[deg]を用いる場合もある。孔30の内面31に対して、外面21側から孔30の開口22を通してレーザ光40は照射されている。
孔30の内壁32におけるレーザピーニング加工箇所は、レーザ光40の内面31に対する入射角度、及び、外面21と孔30の内面31との間の面取り形状に基づいて設定される。また、孔30の内壁32におけるレーザピーニング加工箇所は、図2に示すように、トルクTを作用させた場合に、許容強度を超えるような応力が発生する高応力部である。このような加工箇所にレーザピーニング加工を施す。これにより、孔30の内壁に圧縮残留応力を付与する。ここで、内壁32とは、孔30の内面31を含んだ孔30を囲む部分であって、内面31から中心軸C2に直交する径方向に所定の深さだけ厚みを有する部分をいう。
図3は、実施形態1に係る部品1の孔30の内壁32に付与された残留応力を例示したグラフであり、横軸は、内面31からの深さを示し、縦軸は、残留応力を示す。縦軸の+側は引張応力であり、縦軸の−側は圧縮応力である。横軸の内面31からの深さとは、内壁32における内面31から中心軸C2に直交する径方向の長さである。なお、図3には、参考として、部品1の外面21を含む部分(外壁)の残留応力も示している。
図3に示すように、BL1(○印)は、孔30の内壁32における浸炭及びレーザピーニング加工の処理BL1を行った場合の結果を示し、内面31からの深さに対する残留応力を示す。B2(□印)は、孔30の内壁32における浸炭加工のみの処理B2を行った場合の結果を示し、内面31からの深さに対する残留応力を示す。B3(◇印)は、外面21を含む部分(外壁)における浸炭加工のみの処理B3を行った場合の結果を示し、外面21からの深さに対する残留応力を示す。外面21からの深さとは、外面21を含む部分の外面21から中心軸C1に向かう方向の長さである。浸炭加工とは、表層を強化させるための炭素を添加する加工である。部品1に残留した応力は、X線回析(X−Ray Diffraction:XRD)によって、測定することができる。
図3に示すように、孔30の内壁32に対して、浸炭及びレーザピーニング加工の処理BL1を行った場合には、内面31から200[μm]の深さまで、圧縮残留応力が付与されている。内面31は応力が解放されて、残留応力は0程度である。内面31の直下数10[μm]まで、圧縮残留応力は大きくなっている。内面31の直下数10[μm]を、内面31近傍ともいう。例えば、内面31近傍において、850[MPa]程度まで、圧縮残留応力が大きくなっている。内壁32の圧縮残留応力は、内面31近傍において、極大値をとる。
内面31からの深さが内面31近傍よりも深くなるにつれて、圧縮残留応力は連続的に小さくなっている。例えば、内面31からの深さが50[μm]の断面において、圧縮残留応力は、600[MPa]である。内面31からの深さが100[μm]の断面において、圧縮残留応力は、450[MPa]である。そして、内面31からの深さが200[μm]の断面において、圧縮残留応力は、350[MPa]である。
このように、部品1は、孔30の内壁32における孔30の内面31近傍から所定の深さH1まで連続して圧縮残留応力が減少する領域R1を有している。所定の深さH1は、例えば、200[μm]である。所定の深さH1よりもさらに深い部分には、圧縮残留応力が略一定となる領域を含んでいるものと考えられる。
領域R1においては、連続して圧縮残留応力が減少している。したがって、領域R1に着目すれば、内面31近傍〜100[μm]の深さの圧縮残留応力は、100〜200[μm]の深さの圧縮残留応力よりも大きい。
一方、孔30の内壁32に対して、浸炭加工のみの処理B2を行った場合には、内面31近傍から100[μm]程度の深さまで、処理BL1の場合よりも圧縮残留応力は小さい値である。例えば、内面31からの深さが50[μm]の断面において、圧縮残留応力は、450[MPa]である。内面31からの深さが100[μm]の断面において、圧縮残留応力は、400[MPa]である。内面31からの深さが150[μm]の断面において、圧縮残留応力は、450[MPa]である。そして、内面31からの深さが200[μm]の断面において、圧縮残留応力は、350[MPa]である。
このように、孔30の内壁32に対して、浸炭加工のみの処理B2を行った場合には、孔30の内壁32における孔30の内面31近傍から所定の深さH1まで連続して圧縮残留応力が減少していない。したがって、浸炭加工のみ行う処理B2の場合には、内面31近傍〜100[μm]の深さの圧縮残留応力は、100〜200[μm]の深さの圧縮残留応力よりも、必ずしも大きくなっていない。
さらに、部品1の開口22の周辺の外面21を含む部分(外壁)に対して、浸炭加工のみの処理B3を行った場合には、外面21の直下から200[μm]程度の深さまで、処理BL1の場合及び処理B2の場合よりも圧縮残留応力は小さい値となっている。例えば、外面21からの深さが50[μm]の断面において、圧縮残留応力は、300[MPa]である。外面21からの深さが100[μm]の断面において、圧縮残留応力は、280[MPa]である。外面21からの深さが150[μm]の断面において、圧縮残留応力は、400[MPa]である。そして、外面21からの深さが200[μm]の断面において、圧縮残留応力は、350[MPa]である。
図3に示すように、処理BL1の場合、処理B2の場合及び処理B3の場合を比較すると、処理BL1の場合は、内面31近傍において、最も大きな圧縮残留応力が付与されている。また、処理BL1の場合における内面31近傍から200[μm]までの圧縮残留応力は、処理B3の場合における外面21から200[μm]までの圧縮残留応力よりも大きい。
さらに、処理BL1の場合においては、孔30の内壁32における孔30の内面31近傍から200[μm]まで連続して圧縮残留応力が減少する領域R1を有している。これに対して、処理B2の場合及び処理B3の場合には、内面31近傍から200[μm]まで連続して圧縮残留応力が減少する領域を有していない。また、処理BL1の場合には、領域R1において、内面31近傍から100[μm](所定の深さH1の半分)までの圧縮残留応力は、100[μm]から200[μm]までの圧縮残留応力よりも大きい。
なお、所定の深さH1は、200[μm]の深さに限らない。所定の深さH1は、例えば、領域R1と、内壁32の圧縮残留応力が略一定の値となる領域と、の境界の深さである。また、所定の深さH1は、処理BL1の場合の圧縮残留応力が、処理B3の場合の圧縮残留応力よりも大きい部分の深さでもよい。
図4は、部品1に発生する応力を解析する解析計算モデルを例示した図である。図4に示すように、解析モデルとして、部品1は、外面21に開口22を有する孔30が形成された円筒形状を有する。例えば、部品1は、シャフトである。部品1の全長Lの中間の位置に孔30が形成されている。孔30の開口22の周縁には、面取りが形成されてもよい。部品1の中心軸C1方向における一端23を固定する。そして、中心軸C1を回転軸として回転するような捩りトルクTを、部品1の他端24に対して作用させる。このような計算モデルにより、部品1に発生する応力を解析する。部品1の内径D1は、例えば、φ10[mm]、外形D2は、例えば、φ12〜40[mm]である。孔30の内径D3は、例えば、1〜3[mm]である。
図5は、部品1に発生した応力の解析結果を例示した図である。図5に示すように、円筒形状の部品1に対して捩りトルクTを作用させた場合には、部品1の中心軸C1に直交する断面には、せん断応力が発生する。発生した応力によって、例えば、図5に示すように、引張応力が孔30の内壁32に形成される。グレースケールの色が濃くなるほど、引張応力が大きいことを示している。引張応力は、孔30を拡げるように発生する。また、孔30の内壁32は、開口22の周辺の外面21を含んだ部分よりも引張応力が大きい。
部品1に形成される引張応力は、部品1の強度を劣化させる原因になっていると考えられる。本実施形態では、引張応力が大きくなる孔30の内壁32に対して、レーザピーニング加工を施している。これにより、孔30の内壁32に圧縮残留応力を付与することができる。よって、部品1の強度を向上させることができる。特に、部品1に対して捩りトルクTを作用させた場合に発生する引張応力の分布に対抗させるように、圧縮残留応力を付与している。これにより、部品1の強度をさらに向上させることができる。そして、部品1の寿命を向上させることができる。
(部品の製造方法)
次に、部品1の製造方法を説明する。図6は、実施形態1に係る部品1の製造方法を例示したフローチャート図である。図7は、実施形態1に係る部品1の製造方法により製造する様子を例示した図である。図6に示すように、部品1の製造方法は、加工前部品61の準備工程(ステップS11)及びレーザピーニング加工工程(ステップS12)を備えている。以下で、部品1の製造方法を、加工前部品61の準備工程及びレーザピーニング加工工程に分けて説明する。
(加工前部品の準備工程)
まず、図6のステップS11及び図7に示すように、加工前部品61を準備する。加工前部品61は、部品1がレーザピーニング加工される前の状態のものである。加工前部品61がレーザピーニング加工されることによって部品1となる。加工前部品61は、部品1と同形状である。すなわち、加工前部品61は、外面21に開口22を有する孔30が形成されている。また、加工前部品61は、内部に空洞部10を有している。孔30は、開口22から空洞部10まで貫通している。加工前部品61には、複数の孔30が設けられてもよい。加工前部品61は、中心軸C1を有する円筒形状でもよいし、孔30は、中心軸C1を始点とし、中心軸C1に直交する加工前部品61の径方向の中心軸C2を有してもよい。
(レーザピーニング加工工程:加工装置)
次に、図6のステップS12に示すように、レーザピーニング加工工程を実施する。レーザピーニング加工工程は、外面21に開口22を有する孔30が形成された加工前部品61の孔30の内壁32に対して、流体55中でレーザ光40を照射することにより、レーザピーニング加工を施す工程である。レーザピーニング加工工程を説明するために、まず、レーザピーニング加工装置を説明する。その後、レーザピーニング加工装置を用いたレーザピーニング加工の詳細を説明する。
図7に示すように、レーザピーニング加工は、例えば、レーザピーニング加工装置50を用いて実施される。図7に示すように、レーザピーニング加工装置50は、水槽51、レーザ発振機52、光学部材53、ステージ54を備えている。
水槽51は、レーザピーニング加工を施すために、加工前部品61を浸す流体55を貯えている。流体55は、例えば、水である。なお、流体55は、レーザピーニング加工ができない程度までレーザ光40が吸収されなければ、水に限らない。水槽51には、加工前部品61の位置制御を行うステージ54が設けられてもよい。
ステージ54は、加工前部品61の水平方向の位置、深さ方向の位置を制御する。また、ステージ54は、部品1の中心軸C1及び孔30の中心軸C2を回転軸として、回転させてもよい。レーザ光40の照射位置を、ステージ54によって制御してもよい。
レーザ発振機52は、レーザ光40を発振する。レーザ発振機52は、加工前部品61におけるレーザピーニング加工が施される部分にレーザ光40を照射する。例えば、加工前部材61の孔30の内面31に対して、レーザ光40を照射する。内面31における予め設定される照射箇所にレーザ光40を照射する。レーザ発振機52は、レーザ光40をパルス状に発振してもよい。よって、加工前部品61に対して、レーザ光40を照射する際に、パルス状にレーザ光40を照射してもよい。
レーザ光40を所定の照射箇所に導く光学部材53を備えてもよい。光学部材53を用いることにより、レーザ光40のスポット径、入射角度等の照射条件を調整してもよい。また、光学部材53は、加工前部品61の孔30の中心軸C2を検出するためのカメラ等の機構を有していてもよい。
このようなレーザピーニング加工装置50を用いて、加工前部品61に対してレーザピーニング加工を施す。
(レーザピーニング加工工程:詳細)
次に、レーザピーニング加工の詳細を説明する。図8は、実施形態1に係るレーザピーニング加工工程を例示したフローチャート図である。まず、図8のステップS21に示すように、加工前部品61を流体55中に配置させる。具体的には、加工前部品61を流体55が充填された水槽51の内部に配置させる。そして、ステージ54を制御して加工前部品61を適切な位置に配置させる。
次に、図8のステップS22に示すように、孔30の内面31におけるレーザ光40の照射箇所の設定を行う。なお、照射箇所の設定は、加工前部品61を流体55中に配置させる前でもよい。その後、レーザ光40が照射箇所に照射できるように、光学部材53を所定の位置に配置させ、または、ステージ54を制御する。
次に、図8のステップS23に示すように、照射箇所に対してレーザ光40を照射する。具体的には、流体55中において、外面21側から開口22を通して照射箇所にレーザ光40を照射させる。例えば、内径1〜3[mm]程度の孔30の内面31に対してレーザ光40を照射する。例えば、開口22から孔30の奥側3[mm]までの内面31に対して入射角度55[°]でレーザ光40を照射する。レーザ光40のスポット径を、例えば、200〜600[μm]とする。レーザ光40をパルス状にしてもよい。このようにして、加工前部品61の孔30の内壁32をレーザピーニング加工する。
図9は、レーザピーニング加工の原理を例示した図である。図9に示すように、レーザピーニング加工は、例えば、流体55中で加工前部品61に対して、高出力なパルスレーザ光40(数[GW/cm2]程度)を照射する。これにより、加工前部品61の表面をプラズマ化する。そして、発生したプラズマ57の膨張を周囲の流体55の水圧58で抑え込み、高圧化する。そして、プラズマの圧力の反力を加工前部品61の表面に作用させる。これにより、衝撃波及び塑性変形として圧縮残留応力59を発生させる。このようにして、加工前部品61に対して、圧縮残留応力59を付与することができる。これにより、部品1の強度を向上させることができる。
次に、図8のステップS24に示すように、他に、レーザ光40の照射箇所があるか判断する。他にレーザ光40の照射箇所がある(Yesの)場合には、ステップS22に戻る。そして、ステップS22、ステップS23を繰り返す。
一方、他にレーザ光40の照射箇所がない(Noの)場合には、図8のステップS25に示すように、部品1を流体55中から取り出す。このようにして、加工前部品61に対してレーザピーニング加工を施すことにより、部品1を製造することができる。
次に、本実施形態の効果を説明する。
本実施形態の部品1の製造方法は、レーザピーニング加工工程を備えている。よって、部品1の孔30の内壁32に圧縮残留応力を付与し、部品1の強度を向上させることができる。
図10は、ショットピーニング加工とレーザピーニング加工とを比較した図である。ショットピーニング加工とは、加工前部品61の表面に対して、金属または非金属の微小球体状のショット粒を高速で衝突させ、部品1の表面に残留応力を付与する方法である。
図10に示すように、ショットピーニング加工及びレーザピーニング加工ともに部品1の表面に圧縮残留応力を付与することができる(A評価)。しかしながら、ショットピーニング加工では、狭い孔30を加工する狭小孔加工性に劣っている(B評価)。まず、孔30が狭小孔の場合には(例えば、内径1〜3[mm])、ショット粒が内壁32まで届かない。ショット粒が孔30の内壁32に届いても、内壁32に対する速度の垂直成分が小さい。そもそもショット粒を孔30の内壁32に垂直に衝突させることができない。よって、付与できる圧縮残留応力は小さいものとなる。
これに対して、レーザピーニング加工は、孔30の内壁32にレーザ光40を照射することができれば、内壁32からプラズマ57が発生する。レーザ光40を孔30の内壁32に対して垂直に照射しなくてもよい。よって、孔30の内壁32に対して、圧縮残留応力59を付与することができる。このように、レーザピーニング加工は、狭い孔30を加工する狭小孔加工性に優れている(A評価)。
本実施形態では、引張応力が大きくなっている孔30の内壁32に対して、レーザピーニング加工を施すことができる。これにより、孔30の内壁32に圧縮残留応力を付与することができる。これに対して、ショットピーニング加工では、孔30の内壁32に圧縮残留応力を付与することができない。
また、レーザ光40を照射させる際には、図3に示すように、例えば、孔30の内壁32における内面31近傍から所定の深さH1まで連続して圧縮残留応力が減少する領域を有するようにレーザ光40を照射させる。例えば、所定の深さH1は200[μm]である。このようにするためには、例えば、孔30の内面31を照射させるレーザ光40のエネルギー密度を十分大きくする。または、孔30の内面31を照射させるレーザ光40のスポットの送り速度を十分遅くする等の照射条件を調整する。
また、レーザピーニング加工は、孔30の内壁32における内面31から100[μm](所定の深さH1の半分)の深さまでの部分の圧縮残留応力が、100[μm]の深さから200[μm](所定の深さH1)の深さまでの部分の圧縮残留応力よりも、大きくすることができる。これにより、捩るようなトルクTを作用させた時に発生する引張応力に対抗させることができ、部品1の強度を向上させることができる。このような圧縮残留応力の分布は、レーザピーニング加工によって形成可能である。浸炭加工では、このような圧縮残留応力の分布を形成することができない。
また、本実施形態のレーザピーニング加工は、部品1の外面21側から開口22を通してレーザ光40を照射するので、光学部材53の構成を容易にすることができる。これに対して、特許文献1のレーザピーニング加工は、加工対象物の内部からレーザ光を照射させるので、光学部材の構成が複雑なものとなっている。
<変形例>
次に、実施形態1の変形例を説明する。本変形例のレーザピーニング加工装置は、ポンプを備えている。まず、変形例で用いられるレーザピーニング加工装置を説明する。その後、変形例のレーザピーニング加工工程を説明する。
図11は、実施形態1の変形例に係るレーザピーニング加工装置を例示した図である。図11に示すように、レーザピーニング加工装置50aは、流体55を吸引または吐出するポンプ56を備えている。
本変形例では、ポンプ56を加工前部品61の空洞部10に接続している。よって、ポンプ56は、空洞部10に流体55の流れを形成する。孔30は、開口22から空洞部10まで貫通している。したがって、ポンプ56を作動させることにより、流体55が孔30に沿って流れるように流体55の流れを形成する。
ポンプ56が流体を吸引する場合には、孔30の内部に負圧が形成される。これにより、流体55が開口22から空洞部10に流れるような方向の流れを形成する。ポンプ56が流体55を吐出する場合には、孔30の内部に正圧が形成される。これにより、流体55が空洞部10から開口22に流れるような方向の流れを形成する。
ポンプ56を用いることにより、レーザピーニング加工によって発生する気泡等が孔30に沿って流れるように流体55の流れを形成する。したがって、気泡等をレーザ光40の照射箇所から移動させることができる。よって、気泡等が、次の照射箇所を照射するレーザ光40と干渉することを抑制することができる。また、気泡等は、次のレーザ光40で発生させたプラズマ圧を吸収することはないので、スポットの位置ごとに、圧縮残留応力がばらつくことを抑制することができる。
次に、変形例に係るレーザピーニング加工装置50aを用いたレーザピーニング加工工程を説明する。図12は、実施形態1の変形例に係るレーザピーニング加工工程を例示したフローチャート図である。
図12のステップS31に示すように、加工前部品61を流体55中に配置させる。次に、図12のステップS32に示すように、流体55の流れを形成する。例えば、レーザピーニング加工によって発生する気泡等が孔30に沿って流れるように流体55の流れを形成する。具体的には、流体55を吸引または吐出するポンプ56を空洞部10に接続する。そして、ポンプ56を作動させることにより、流体55が孔30に沿って流れるようにする。流体55の流量を所定量に制御する。
なお、気泡等が孔30に沿って流れるように、流体55の流れを形成することができれば、ポンプ56以外の他の方法、例えば、スクリュー等によって、流体55の流れを形成してもよい。また、気泡等が孔30に沿って流れるように、流体55の流れが形成されれば、孔30が貫通孔でない場合でもよい。例えば、非貫通孔の凹みに開口22を通して流体55が流入及び流出するような流れを形成してもよい。
次に、図12のステップS33に示すように、レーザ光40の照射箇所の設定を行う。そして、図12のステップS34に示すように、照射箇所に対してレーザ光40を照射させる。変形例の場合には、流れが形成された流体55中において、開口22を通して照射箇所にレーザ光40を照射させる。
その後、図12のステップS35に示すように、他にレーザ光40の照射箇所があるか判断する。他にレーザ光40の照射箇所がある(Yesの)場合には、ステップS33に戻る。そして、ステップS33、ステップS34を繰り返す。図12のステップS33〜S35は、図6のステップS22〜S24と同様であるので、詳細な説明は省略する。
一方、他にレーザ光40の照射箇所がない(Noの)場合には、図12のステップS36に示すように、流体55の流れを停止させる。具体的には、例えば、ポンプ56を停止させ、ポンプ56を空洞部10から取り外す。
次に、図12のステップS37に示すように、部品1を流体55中から取り出す。このようにして、加工前部品61に対してレーザピーニング加工を施すことにより、部品1を製造することができる。
次に、本変形例の効果を説明する。
本変形例では、レーザピーニング加工により発生した気泡等を、照射箇所から中心軸C2方向に沿って移動させることができる。これにより、気泡等がレーザ光40の光路に入ることを抑制することができる。
特に、流体55の流れを形成する際に、例えば、ポンプ56が流体を吸引する状態にする。これにより、流体55の流れを、外面21側から空洞部10へ向かうようにする。この場合には、気泡等は、外面21側から開口22を通して照射されるレーザ光40から逃げる方向に流される。このため、レーザ光40の光路に入ることをさらに抑制することができる。よって、レーザ光40の強度低下やレーザ光40の照射箇所ごとに強度がバラつくことを抑制することができる。
また、流体55の流れを形成するポンプ56を、部品1の内部の空洞部10に接続している。よって、流体55の流れを形成するポンプ56は、孔30以外の部分に対して密閉に近い状態で接続される。よって、孔30の内部において、十分な流速を得ることができる。
これに対して、特許文献2のような流体の流れを形成する方法では、シャフト等の部品1の外部から、ノズル等で孔30の内部に流体を噴射させている。特許文献2の方法では、ノズルが孔30から遠い位置に配置されている。よって、孔30の内部に十分な流速を形成することができない。よって、気泡等をレーザ光40のスポット位置から十分に移動させることができない。その他の効果は、実施形態1の記載に含まれている。
<実施形態2>
次に、実施形態2を説明する。図13は、実施形態2に係る部品の製造方法を例示した図である。図13に示すように、本実施形態の加工前部品62は、複数の孔30を有している。そして、流体55の流れを形成する際に、レーザ光40が照射される孔30a以外の少なくとも一つの孔30cをマスクする。
例えば、加工前部品62は、レーザピーニング加工が施される孔30aと、ポンプ56が接続される孔30bと、それら以外の少なくとも一つの孔30cを含む複数の孔30を有している。そして、レーザピーニング加工は、少なくとも一つの孔30cをマスク39によってマスクした状態で実施される。
次に、本実施形態の効果を説明する。
本実施形態によれば、複数の孔30を有する加工前部品62に対して、レーザピーニング加工を施す場合に、少なくとも一つの孔30cからのポンプ56による流体エネルギーの損失を低減することができる。ポンプ56による空洞部10内の圧力が逃げないように、孔30cをマスクしている。よって、ポンプ56の効率を向上させ、ポンプ56を小型化することができる。この他の効果は、実施形態1及び変形例の記載に含まれている。
<実施形態3>
次に、実施形態3を説明する。本実施形態は、孔30の内壁32に対してレーザ光40を照射させる際に、レーザ光40のスポットの間隔を空けて照射する。図14は、実施形態3に係るレーザピーニング加工におけるレーザ光40のスポットの位置を例示した図であり、図15は、比較例に係るレーザピーニング加工におけるレーザ光40のスポットの位置を例示した図である。
例えば、レーザ光40の照射箇所を設定する際に、図15に示すように、レーザ光40の複数のスポット41〜46の位置が、孔30の内面31において部分的に重なり、かつ、所定量ずらして孔30の周方向71に沿って配置されるように照射箇所を設定する。そして、レーザ光を照射させる場合には、図14に示すように、設定された各スポットの位置にレーザ光40を照射する際に、直前に照射したスポット41の位置と重ならないスポット42の位置にレーザ光40を照射させる。なお、所定量ずらす場合の所定量は一定量に限らない。スポット径、スポットの送り速度等の照射条件に基づいて、所定量は設定される。
例えば、図15に示すように、孔30の内面31の周方向71において、360[°]の全周を照射箇所と設定した場合に、72個のスポットを用いて、レーザ光40を照射することを検討する。その場合には、スポットピッチMは、360[°]/72=5[°]となる。よって、複数のスポットの位置が、5[°]のスポットピッチMで、周方向71にずらして、部分的に重なるように照射箇所を設定する。
このような照射箇所に対して、レーザ光40を照射する際に、比較例においては、図15に示すように、スポット41〜46を、スポットピッチM=5[°]ずつ周方向71へずらして送っている。各スポットは、部分的に重なっている。一方、本実施形態では、図14に示すように、直前に照射したスポットの位置と重ならないように、n個に分割した領域に代わる代わるレーザ光40を照射させる。
具体的には、図14に示すように、n個を3個とする。この場合に、2番目のスポット42の位置を、(360[°]/3)=120[°]のスポットピッチM2で周方向71へずらす。3番目のスポット43の位置も120[°]のスポットピッチM2で周方向71へずらす。そして、4番目のスポット44を、スポットピッチM+スポットピッチM2=5[°]+120[°]=125[°]のスポットピッチで周方向71へずらす。5、6番目のスポット45及び46を、それぞれ120[°]のスポットピッチM2で周方向71へずらす。
このように、本実施形態では、n個の分割した領域に代わる代わるレーザ光40を照射する。よって、n+1、2n+1、3n+1・・番目のスポットピッチを、M+(360[°]/n)とする。それ以外のスポットピッチを、(360[°]/n)とする。このようにすることで、直前に照射したスポット(例えば、スポット41)の位置と重ならないスポット(例えば、スポット42)の位置にレーザ光40を照射させることができる。そして、全てのスポットの位置を照射すれば、設定されたレーザ光40の照射箇所を照射することができる。
次に、本実施形態の効果を説明する。
本実施形態では、直前に照射したスポットの位置と重ならないように、レーザ光40を照射させている。よって、直前に照射したスポットから発生した気泡等が移動する時間を確保することができる。これにより、レーザ光40と気泡等とが干渉することを抑制することができる。
これに対して、図15に示すように、比較例においては、周方向71に沿った方向に複数のスポットをずらしつつ部分的に重なるように照射している。比較例の場合には、直前に照射したスポットの位置と重なるスポットの部分に対してレーザ光40を照射している。よって、直前に照射したスポットから発生した気泡等が移動する前にレーザ光40が照射される。
すなわち、時系列で連続した複数のスポット41〜46が重なるため、次に、レーザ光40が照射されるまでに気泡等が移動することができない。よって、レーザ光40と気泡等とが干渉する。これにより、内壁32に照射されるレーザ光40の強度が低減し、付与される圧縮残留応力にばらつきが発生する。その他の効果は、実施形態1、変形例及び実施形態2の記載に含まれている。
なお、本実施形態を実施する際には、実施形態1の流体55の流れを形成しない方法を用いてもよいし、実施形態1の変形例の流体55の流れを形成する方法を用いてもよい。実施形態1の変形例を用いる場合には、流体55の流れの方向が孔30の中心軸C2方向とである。よって、直前のスポットが、中心軸C2方向に直交する周方向71上にあることが好ましい。これにより、流体55の流れによって気泡等が中心軸C2方向に移動したとしても、レーザ光40は、気泡等と干渉することを抑制することができる。
また、本実施形態は、実施形態2の複数の孔30の少なくとも1つの孔30がマスクされた状態で実施されてもよい。
<実施形態4>
次に、実施形態4を説明する。本実施形態は、レーザ光40を照射させる際に、内面31に照射されるレーザ光40のスポット径等の照射条件を、孔30の周方向71において変化させるものである。まず、本実施形態の部品4を説明する。その後、本実施形態のレーザピーニング加工工程を説明する。
図16は、実施形態4に係る部品4に発生した応力の解析結果を例示した図である。図16は、孔30を外面21側から見た図となっている。グレースケールの色が濃くなるほど、引張応力が大きいことを示している。図17は、実施形態4に係る部品4の孔30を例示した拡大図である。
図16及び図17に示すように、シャフトのような円筒形状の部品4に対して、中心軸C1を回転軸とした捩りトルクTを作用させたとき、部品4の中心軸C1に直交する断面には、せん断応力が発生する。そして、発生した応力により、孔30の内壁には、孔30を拡げるような引張応力が発生する。なお、中心軸C1を有する部品4を軸部品という。
引張応力は、孔30の内壁32の所定の高引張部分33及び高引張部分34に集中する。内壁32の高引張部分33及び高引張部分34は、以下の通りである。すなわち、中心軸C2を始点とし、中心軸C2に直交する孔30の径方向のうち、中心軸C1に平行な一方の径方向を、径方向81とする。また、中心軸C2を中心に回転する一方の周方向を、周方向82とする。この場合に、高引張部分33は、径方向81から周方向82へ、45[°]の回転角度をなす径方向の内壁32の部分である。また、高引張部分34は、径方向81から周方向82へ、225[°]の回転角度をなす径方向の内壁32の部分である。なお、周方向82の回転の向きは、トルクTの回転の向きによって決定される。
一方、径方向81から、周方向82へ、135[°]の回転角度だけ回転させた径方向の内壁32の部分を、低引張部分35という。径方向81から、周方向82へ、315[°]の回転角度だけ回転した径方向の内壁32の部分を、低引張部分36という。低引張部分35及び低引張部分36の引張応力は、高引張部分33及び高引張部分34の引張応力よりも小さい。そこで、本実施形態では、捩りトルクTを作用させた場合に発生する引張応力が大きい高引張部分33及び高引張部分34に対して、レーザピーニング加工を施す。これにより、部品4の強度を向上させている。
図18は、実施形態4に係る部品4の内壁32に付与された残留応力を例示したグラフであり、横軸は、孔30の周方向82における回転角度で示した内壁32の位置を示し、縦軸は、内面31から10[μm]の深さの部分の残留応力を示している。縦軸の上向きは、引張応力を示し、縦軸の下向きは、圧縮応力を示す。圧縮応力が付与された方が、長寿命である。
図18に示すように、本実施形態の部品4において、高引張部分33及び高引張部分34における圧縮残留応力は、低引張部分35及び低引張部分36における圧縮残留応力よりも大きい。なお、高引張部分33及び高引張部分34は、径方向81から周方向82へ、45[°]及び225[°]の回転角度をなす径方向の内壁32の部分である。低引張部分35及び低引張部分36は、135[°]及び315[°]の回転角度をなす径方向の内壁32の部分である。
部品4に対して、捩りトルクTを作用させた場合に、孔30の内壁32には、孔30の周方向82において、引張応力が大きい高引張部分33及び34と、引張応力が小さい低引張部分35及び36とが形成されている。すなわち、孔30の周方向82において、引張応力の大きさに分布が生じている。そこで、本実施形態の部品4は、孔30の周方向82における引張応力の大きさの分布に対抗させるように、圧縮残留応力の大きさを孔30の周方向82において変化するような分布としている。例えば、孔30の周方向82において、引張応力の大きさが周期的に変化するような分布である場合には、内壁32の圧縮残留応力の大きさを、孔30の周方向82において周期的に変化するような分布としている。このように、本実施形態の部品4は、発生した引張応力に対抗することができるので、部品4の強度を向上させることができる。
次に、本実施形態のレーザピーニング加工工程を説明する。本実施形態のレーザピーニング加工工程は、内壁32に付与する圧縮残留応力の大きさが、孔30の周方向82において変化するような分布となるように行う。
図19は、実施形態4に係るスポット径と残留応力との関係を例示したグラフであり、横軸は、スポット径を示し、縦軸は、残留応力を示す。図20は、実施形態4に係るレーザピーニング加工工程におけるレーザ光40のスポット径を例示したグラフであり、横軸は、孔30の周方向82における回転角度で示した内壁32の位置を示し、縦軸は、レーザ光のスポット径を示す。
図19に示すように、レーザピーニング加工において、スポット径を小さくするほど、内壁32に付与される圧縮残留応力を大きくすることができる。そして、図20に示すように、レーザ光40を照射させる際に、内面31に照射されるレーザ光40のスポット径を、孔30の周方向82において変化させる。例えば、内面31に照射されるレーザ光40のスポット径を、孔30の周方向82において周期的に変化させる。
具体的には、高引張部分33及び高引張部分34を照射する際のレーザ光40のスポット径を、低引張部分35及び低引張部分36を照射する際のレーザ光40のスポット径よりも小さくしている。このように、照射箇所に応じて、スポット径を変化させることにより、高引張部分33及び高引張部分34の圧縮残留応力が、低引張部分35及び低引張部分36よりも大きくなるように変化させる。
シャフト等の部品4を、例えば、自動変速機において使用する場合には、中心軸C1を回転軸とすることに関して、主に2つのパターンがある。1つのパターンは、部品4がエンジンと実質的に直列で連結されているために、中心軸C1を回転軸として一方向のみに回転するパターンである(Aのパターン)。もう1つのパターンは、動力伝達経路上で後進機能を持ったギアの下流にあり、中心軸C1を回転軸として、正転逆転の二方向で回転するパターンである(Bのパターン)。
Aのパターンの場合には、エンジンブレーキ(タイヤがエンジンを回す)の状況において、圧縮残留応力が小さい低引張部分35及び低引張部分36に、大きな引張応力が発生する。しかし、主駆動時に付加されるトルクTに対して無視できるレベルの低負荷である。このため、部品4の逆回転のトルクは無視できるレベルである。
Bのパターンの場合には、後進時に圧縮残留応力が小さい低引張部分35及び低引張部分36に、大きな引張応力が発生する。しかしながら、後進方向に回転することは、主駆動方向に対して低頻度である。このため、部品4の逆回転のトルクは無視できるレベルである。
したがって、上述のように、引張応力が低負荷または低頻度で発生する低引張部分35及び低引張部分36には、レーザピーニング加工を省くか、または、加工しても低い圧縮残留応力にすることにより、加工時間を短縮することができる。よって、内壁32の高引張部分33及び高引張部分34の圧縮残留応力を、内壁32の低引張部分35及び低引張部分36の圧縮残留応力よりも大きくすることにより、部品4の強度を向上させつつ、レーザピーニング加工時間を短縮することができる。
なお、加工時間を要するが、引張応力が低負荷または低頻度で発生する低引張部分35及び低引張部分36に対しても大きな圧縮残留応力を付与してもよい。すなわち、径方向81から周方向82へ、45[°]、135[°]、225[°]及び315[°]の回転角度をなす径方向の内壁32の部分の圧縮残留応力を、径方向81から周方向82へ、90[°]、180[°]、270[°]及び360[°]の回転角度をなす径方向の内壁32の部分の圧縮残留応力よりも大きくしてもよい。このように、孔30の周方向82において圧縮残留応力の大きさが周期的に変化するように分布させることにより、中心軸C1を回転軸としたトルクTの両方向の回転に対して、強度を向上させることができる。
図21は、実施形態4に係るレーザピーニング加工工程におけるレーザ光40のスポットの送り速度を例示したグラフであり、横軸は、孔30の周方向82における回転角度で示した内壁32の位置を示し、縦軸は、レーザ光40のスポットの送り速度を示す。
図21に示すように、高引張部分33及び高引張部分34を照射する際のレーザ光40のスポットの送り速度を、低引張部分35及び低引張部分36を照射する際のレーザ光40のスポットの送り速度よりも小さくしている。これにより、高引張部分33及び高引張部分34の圧縮残留応力を、低引張部分35及び低引張部分36の圧縮残留応力よりも大きくすることができる。
このように、内面31を照射する際のレーザ光40の送り速度を、孔30の周方向82において変化させることにより、内壁32に付与される圧縮残留応力の大きさが周方向82において変化するように分布させてもよい。例えば、レーザ光40の送り速度を、孔30の周方向82において周期的に変化させてもよい。
内壁32の圧縮残留応力の大きさが孔30の周方向82において変化するように分布させる方法として、スポット径を小さくする方法、及び、スポットの送り速度を遅くする方法を説明したが、この他にも、内面31に対する入射角度を小さくする方法、レーザ光40のエネルギー密度を大きくする方法、パルス状のレーザ光40のパルスの重ね打ちの回数を大きくする方法等が挙げられる。
図22は、実施形態4に係るレーザ光の入射角度と残留応力との関係を例示したグラフであり、横軸は、入射角度を示し、縦軸は、残留応力を示す。図22に示すように、レーザピーニング加工において、レーザ光40の内面31に対する入射角度を小さくするほど、内壁32に付与される圧縮残留応力を大きくすることができる。
図23は、実施形態4に係るレーザ光のエネルギー密度と残留応力との関係を例示したグラフであり、横軸は、エネルギー密度を示し、縦軸は、残留応力を示す。図23に示すように、レーザピーニング加工において、レーザ光40のエネルギー密度を大きくするほど、内壁32に付与される圧縮残留応力を大きくすることができる。
図24は、実施形態4に係るレーザ光のパルスの重ね打ちの回数と残留応力との関係を例示したグラフであり、横軸は、パルスの重ね打ちの回数を示し、縦軸は、残留応力を示す。図24に示すように、レーザピーニング加工において、レーザ光40のパルスの重ね打ちの回数を大きくするほど、内壁32に付与される圧縮残留応力を大きくすることができる。
このように、内面31に照射されるレーザ光40において、スポット径、送り速度、入射角度、エネルギー密度、及び、パルスの重ね打ち回数を含んだ照射条件のうちの少なくとも一つを、孔30の周方向82において変化させる。これにより、内壁32の圧縮残留応力の大きさが孔30の周方向82において変化するように分布させることができる。例えば、これらの照射条件のうちの少なくとも一つを、孔30の周方向82において周期的に変化させる。これにより、内壁32の圧縮残留応力の大きさを、孔30の周方向82において周期的に変化するような分布とすることができる。
図25は、レーザピーニング加工における制御因子、合成パラメータ、加工原理及び特性値を例示した図である。図25に示すように、レーザピーニング加工の制御因子としては、1パルスのパルスエネルギー[mJ/pls]、スポット径[mm]、スポットピッチ[mm]、パルスインターバル[pls/sec]及び加工面積[mm2]等が挙げられる。
レーザピーニング加工の合成パラメータとしては、パルスエネルギー密度[GW/cm2]及び送り速度[mm/sec]等が挙げられる。パルスエネルギー密度は、パルスエネルギー及びスポット径と関係づけられる。送り速度は、スポットピッチ及びパルスインターバルと関係づけられる。
レーザピーニング加工の加工原理としては、プラズマ圧[GPa]、重なり率[pls/area]及び加工速度[mm2/sec]等が挙げられる。プラズマ圧は、パルスエネルギー密度と関係づけられる。重なり率は、スポット径及びスポットピッチと関係づけられる。加工速度は、スポット径及び送り速度と関係づけられる。
レーザピーニング加工の特性値としては、残留応力[MPa]及び加工時間[sec]等が挙げられる。残留応力は、プラズマ圧及び重なり率と関係づけられる。加工時間は、加工速度及び加工面積と関係づけられる。
制御因子を制御することにより、孔30の内壁32における圧縮残留応力の大きさを、孔30の周方向82において変化するような分布としてもよい。また、制御因子を組み合わせた合成パラメータを制御することによって、孔30の内壁32における圧縮残留応力の大きさを、孔30の周方向において変化するような分布としてもよい。さらに、加工原理に関係するパラメータを用いてもよい。これらのパラメータを制御することにより、孔30の内壁32における圧縮残留応力の大きさを、孔30の周方向において変化するような分布とすることができ、残留応力及び加工時間の特性値を向上させることができる。
本実施形態の内壁32の周方向82において、スポット径等の照射条件を変化させる際には、実施形態1の流体55の流れを形成しない方法を用いてもよいし、実施形態1の変形例の流体55の流れを形成する方法を用いてもよい。また、実施形態2の複数の孔30を形成した場合に、レーザ光40が照射される孔30以外の少なくとも一つの孔30をマスクしてもよい。さらに、高引張部分33及び34等の照射箇所にレーザ光40を照射させる際に、実施形態3の直前に照射したスポットの位置と重ならないように、レーザ光40を照射させる方法を用いてもよい。その際に、実施形態2の複数の孔30におけるレーザ光40が照射される孔30以外の少なくとも一つの孔30をマスクしてもよい。
次に、本実施形態の効果を説明する。
本実施形態によれば、部品4に発生する引張応力に対抗するように、圧縮残留応力を付与することができるので、部品4の強度を向上させることができる。また、引張応力が大きくならない内壁32の部分に対しては、比較的小さな圧縮残留応力を付与するか、または、レーザピーニング加工を省くことにより、レーザピーニング加工に要する時間を短縮することができる。
このように、本実施形態は、内壁32における捩り強度が大きくかかる箇所にレーザピーニング加工が施され、軸部品のねじり強度を確保することができる。他方、内壁32における捩り強度が大きくかからない箇所へのレーザピーニング加工の時間をかけないようにするため製造時間を短縮できる。その他の効果は、実施形態1及び変形例、実施形態2〜3の記載に含まれている。
以上、本発明に係る実施の形態を説明したが、上記の構成に限らず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、変更することが可能である。また、実施形態1、変形例、実施形態2〜4を組み合わせた部品及び部品の製造方法も、本発明の技術的思想の範囲である。