JP6901388B2 - 高速炉の燃料要素および高速炉の炉心 - Google Patents

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Description

本発明は、高速炉の燃料要素および高速炉の炉心に関する。
高速炉は、原子炉容器内に炉心を擁して構成され、原子炉容器内には、冷却材である液体ナトリウムなどが充填されている。この炉心には、複数の燃料集合体が装荷され、それぞれの燃料集合体は、プルトニウム(Pu)などの核分裂性物質や劣化ウラン(U)などの燃料親物質が被覆管に封入された複数の燃料要素により構成される。具体的には、燃料集合体は、複数の燃料要素と、その複数の燃料要素を取り囲むラッパ管と、これらの燃料要素の下端部および下方に位置する中性子遮蔽体を支持するエントランスノズルと、燃料要素の上方に位置する冷却材流出部と、を備えて構成される。
燃料要素に収納される核燃料物質の化学形態としては、固体酸化物や固体金属合金が一般的であり、実績も豊富であるが、液体金属合金や溶融塩のような液体燃料の使用例もある。ちなみに、固体酸化物燃料が装荷された燃料要素としては、ペレット状の酸化物燃料を被覆管に封入した例が非特許文献1に示されている。この燃料要素の例では、炉心燃料としてU−Pu混合酸化物が配置され、炉心燃料領域の上下には燃料親物質からなるブランケット燃料(劣化ウラン酸化物)が配置されている。
例えば、特許文献1には、プルトニウム(Pu)−ウラン(U)−ビスマス(Bi)合金などからなる液体金属燃料を被覆管内に封入した燃料要素の例が開示されている。また、特許文献2には、トリウム(Th)および核分裂性物質(ウラン235(235U), プルトニウム239(239Pu)など)を含むフッ化物溶融塩を被覆管内に封入した燃料要素の例が開示されている。ただし、これらの燃料要素では、ブランケット燃料については記載されていない。
特開昭64−32189号公報 特開2014−10022号公報
Alan E. Waltar、他2名、監訳:高木直行、「高速スペクトル原子炉」、ERC出版、2016年11月、p.583
高速炉の運転により、炉心燃料の主成分である核分裂性物質(239Puなど)は、核分裂反応(燃料の燃焼)により消費される。一方、高速炉の炉心燃料は、燃料親物質(238Uなど)を含んでおり、燃料親物質の中性子捕獲により核分裂性物質(239Puなど)が新たに生成される。また、炉心燃料領域の上部、下部または上下部にブランケット燃料が配置されている場合には、ブランケット燃料の主成分である燃料親物質(238Uなど)が炉心から漏れてきた中性子を捕獲することにより核分裂性物質(239Puなど)が生成される。
ここで、ブランケット燃料とは、239Puなどの核分裂性物質をほとんど含まず、代わりに238Uなどの燃料親物質を多く含んだ燃料をいう。燃料親物質(238Uなど)は、そのままでは高速炉の燃料とはならないが、中性子を捕獲する中性子捕獲反応により核分裂性物質(239Puなど)に変化する。そして、この核分裂性物質(239Puなど)が高速炉の燃料となる。
高速炉における核分裂性物質の生成量の消費量に対する比は、しばしば転換比または増殖比と呼ばれる。ここでは、核分裂性Puについての転換比を以下の3通りに定義する。
(1)炉心燃料の転換比
=炉心燃料のPu生成量/炉心燃料のPu消費量
(2)ブランケット燃料の転換比
=ブランケット燃料のPu生成量/炉心燃料のPu消費量
(3)全体の転換比
=炉心燃料の転換比+ブランケット燃料の転換比
一般に、高速炉では、炉心燃料の転換比<1であるが、ブランケット燃料の転換比を追加することにより、全体の転換比≧1とすること(すなわち燃料増殖)が可能である。この場合、燃料の燃焼が進むと、ブランケット燃料を含めた全体のPuの量は増加するが、炉心燃料内に残存するPuの量は次第に減少していく。そのため、炉心燃料は、一定の燃焼期間(運転サイクル長)経過後に新しい燃料と交換される。炉心燃料の経済性を向上させるためには、燃料交換頻度が少なくて済む長寿命の燃料要素が必要とされる。
また、ブランケット燃料で生成されたPuを再利用するためには、使用済み燃料として原子炉から取り出して、炉外に設けた再処理施設でPuを回収し、さらに、それを炉心燃料に加工するといった一連のリサイクル処理が必要となる。
非特許文献1に示された燃料要素では、炉心燃料領域の上部および下部にブランケット燃料が配置されている。この場合、全体の転換比は1をわずかに超えるが、炉心燃料の転換比<1であるため、燃料交換を頻繁に行うことが必要となる。また、ブランケット燃料で生成される239Puを回収・再利用するためのリサイクル処理工程が必要である。
特許文献1および2に記載の燃料要素は、ブランケット燃料を有していない。したがって、非特許文献1に記載の燃料要素と同様に、炉心燃料の転換比<1となるため、燃料交換を頻繁に行うことが必要となる。
本発明の目的は、炉心に装荷される燃料要素の長寿命化を図るとともに、使用済みの燃料要素のリサイクル処理工程を簡素化することが可能な高速炉の燃料要素および高速炉の炉心を提供することにある。
本発明に係る高速炉の燃料要素は、核分裂性物質と燃料親物質とを含有した液体燃料が装荷されてなる高速炉の燃料要素であって、溶融塩燃料が装荷された上部燃料領域と液体金属燃料が装荷された下部燃料領域とからなる2段構造の燃料物質装荷領域を有することを特徴とする。
本発明によれば、炉心に装荷される燃料要素の長寿命化を図るとともに、使用済みの燃料要素のリサイクル処理工程を簡素化することが可能な高速炉の燃料要素および高速炉の炉心が提供される。
本発明の実施形態に係る高速炉の炉心の概略の構成を模式的に示した図であり、(a)は、炉心の概略構造を斜視図で示した例、(b)は、炉心を構成する燃料集合体の水平断面構造の例を示した図、(c)は、燃料集合体を構成する燃料要素の垂直断面構造の例を示した図である。 第1の実施例に係る燃料要素および炉心の垂直断面構造を模式的に示した図であり、(a)は、燃料要素の垂直断面構造の例、(b)は、炉心全体の垂直断面構造の例である。 第2の実施例に係る燃料要素および炉心の垂直断面構造を模式的に示した図であり、(a)は、燃料要素の垂直断面構造の例、(b)は、炉心全体の垂直断面構造の例である。 図4は、第3の実施例に係るブランケット燃料要素および炉心の垂直断面構造を模式的に示した図であり、(a)は、炉心で用いられるブランケット燃料要素の垂直断面構造の例、(b)は、炉心全体の垂直断面構造の例である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面において、共通する構成要素には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
図1は、本発明の実施形態に係る高速炉の炉心1の概略の構成を模式的に示した図である。図1において、(a)は、炉心1の概略構造を斜視図で示した例、(b)は、炉心1を構成する燃料集合体2の水平断面構造の例を示した図、(c)は、燃料集合体2を構成する燃料要素10の垂直断面構造の例を示した図である。なお、図1(a)には、炉心1の中に数体の燃料集合体2しか描かれてないが、炉心1は、数10から数100体に及ぶ複数の燃料集合体2によって構成され、その全体は、円筒形状を呈する。
ここで、燃料集合体2とは、炉心1への装荷および取り出しに際して、一体として取り扱うことが可能な燃料要素10の集合体をいう。燃料集合体2は、図1(b)に示すように、ラッパ管4によって束ねられた数10ないし数100の複数の燃料要素10によって構成される。そして、ラッパ管4の中では、互いに隣接する燃料要素10同士の間には所定の大きさの間隙が設けられており、その間隙には液体ナトリウムなどの冷却材5が充填されている。
燃料要素10は、被覆管17の中に燃料となる核分裂性物質および燃料親物質が装荷されて構成されたいわゆる燃料棒ということができる。この円筒状の被覆管17の中は、とくに仕切りがあるわけではないが、ガスプレナム14と燃料物質装荷領域11とに分けられる。さらに、燃料物質装荷領域11は、上部燃料領域12と下部燃料領域13との2段構造となっている。
このとき、上部燃料領域12には、核分裂性物質(239Puなど)を含んだ溶融塩からなる炉心燃料が装荷され、下部燃料領域13には、燃料親物質(238Uなど)を含んだ液体金属からなるブランケット燃料が装荷される。そして、これらの燃料物質が装荷され、さらにガスプレナム14に不活性ガスが充填されたうえで、被覆管17の上端および下端が上部端栓15および下部端栓16によって密封される。
続いて、燃料要素10の上部燃料領域12および下部燃料領域それぞれに装荷される炉心燃料およびブランケット燃料のいくつかの実施例について説明する。
≪第1の実施例≫
図2は、第1の実施例に係る燃料要素10aおよび炉心1aの垂直断面構造を模式的に示した図であり、(a)は、燃料要素10aの垂直断面構造の例、(b)は、炉心1a全体の垂直断面構造の例である。なお、図2(b)中に示された一点鎖線は、炉心1aの中心軸を示す。また、図2(b)では、燃料集合体2aおよび燃料要素10aの概念は捨象されており、図示が省略されている。
本実施例では、燃料要素10aの上部燃料領域12には、炉心燃料としてPuCl,UCl,NaCl,MgClなどからなる溶融塩燃料12aが装荷されている。また、下部燃料領域13には、ブランケット燃料としてU−Bi合金などからなる液体金属燃料13aが装荷されている。なお、炉心燃料の溶融塩燃料12aは、所定の期間は交換されることなく炉心燃料として燃え続ける必要がある。そのため、溶融塩燃料12aは、核分裂性物質(239Puなど)の富化度が高められたものが用いられる。
高速炉の運転時において、燃料要素10aの上部燃料領域12では、溶融塩燃料12aの主成分である核分裂性物質の239Puは、自らの核分裂反応(すなわち、燃料の燃焼)により消費される。さらに、この溶融塩燃料12aには、燃料親物質である238Uが含まれている。そのため、この238Uが239Puの核分裂反応で発生した中性子を捕獲する中性子捕獲反応により、核分裂性物質(239Puなど)が新たな生成される。すなわち、上部燃料領域12では、238Uは、239Puに核変換され燃料となる。
また、燃料要素10aの下部燃料領域13では、液体金属燃料13aの主成分である燃料親物質の238Uは、上部燃料領域12から漏れてくる中性子を捕獲し、その中性子捕獲反応によって核分裂性物質(239Puなど)に核変換する。すなわち、燃料要素10aの下部燃料領域13では、核分裂性物質(239Puなど)が生成される。
ところで、上部燃料領域12と下部燃料領域13との境界では、溶融塩燃料12aと液体金属燃料13aとが溶融状態で互いに接することとなる。このような場合、溶融塩燃料12aと液体金属燃料13aとが接した領域では、液体金属燃料13aに含まれる238Uから核変換した金属の239Puと、溶融塩燃料12aに含まれる塩化物の238Uとの間で、次の式(1)に示す化学反応が起きる。

Pu(金属)+UCl(塩化物)→PuCl(塩化物)+U(金属) (1)
すなわち、液体金属燃料13aに含まれる金属の239Puは、塩化物の239Puとなり、溶融塩燃料12aに含まれる塩化物の238Uは、金属の238Uとなる。このような化学反応が起きるのは、ウラン(U)とプルトニウム(Pu)では、Puのほうが塩素(Cl)に結合し易いからに他ならない。
以上のようにして生成された塩化物の239Puは、液体金属燃料13aよりも比重が小さく、逆に、金属の238Uは、溶融塩燃料12aよりも比重が大きい。そのため、塩化物の239Puは、炉心燃料である溶融塩燃料12aの中に拡散してゆき、金属の238Uは、ブランケット燃料である液体金属燃料13aの中に拡散していく。
そして、溶融塩燃料12aと液体金属燃料13aとの境界では、式(1)に示した化学反応は、この化学反応に関わる各物質の濃度などが所定の平衡条件に達するまで継続して起きる。したがって、式(1)の化学反応が続く限り、液体金属燃料13a(ブランケット燃料)側から溶融塩燃料12a(炉心燃料)側に、燃料である239Puが次々に供給されることとなる。
その結果として、本実施例では、炉心燃料の実効的な転換比は、次の式(2)のようにブランケット燃料の転換比相当分だけ大きくなる。

(炉心燃料の実効的な転換比)
=(炉心燃料の転換比)+(ブランケット燃料の転換比相当分) (2)
したがって、本実施例に係る炉心1aでは、燃料要素10の長寿命化を実現することができる。その結果、炉心1aにおいて燃料要素10または燃料集合体2を新しいものと交換する頻度を少なくすることができる。したがって、本実施例では、高速炉における燃料の経済性を大きく向上させることができる。
ところで、ブランケット燃料(液体金属燃料13a)では、式(1)の化学反応の結果として、炉心燃料(溶融塩燃料12a)と平衡する量の239Puが残る。そして、この残った239Puの核分裂反応や、わずかではあるがブランケット燃料に含まれる238Uなどの核分裂反応も起きる。
これらのブランケット燃料の中での核分裂反応により生じた核分裂生成核種(以下、FP(Fission Products)核種という)のうち、白金族FP核種を除く大部分のFP核種は、ブランケット燃料の液体金属燃料母材もより比重が小さい。そのため、これらのFP核種は、ブランケット燃料と炉心燃料の境界まで浮き上がり、さらに、炉心燃料の溶融塩との間で、次の式(3)に示す化学反応を起こしてFP塩の形態で炉心燃料側に拡散する。
これらのFP核種は、ブランケット燃料と炉心燃料の境界まで浮き上がり、さらに、炉心燃料の溶融塩との間で、次の式(3)に示す化学反応を起こしてFP塩の形態で炉心燃料側に拡散する。

FP(単体)+(3/2)MgCl(塩化物)
→FPCl(塩化物)+(3/2)Mg(金属) (3)
つまり、使用済みのブランケット燃料には、白金族FP核種を除き、FP核種はほとんど残らないことになる。したがって、使用済みのブランケット燃料からFP核種を回収する処理は、ほとんど不要となる、すなわち、使用済みのブランケット燃料の再処理において、FPを分離するプロセスがほぼ不要となる。よって、使用済みの燃料要素10aの再処理工程が大幅に簡素化されることとなる。
以上、本発明に係る燃料要素10aおよび炉心1aによれば、ブランケット燃料(液体金属燃料13a)側から炉心燃料(溶融塩燃料12a)側に燃料となる239Puが供給されるので、炉心燃料の実効的な転換比を向上させることができる。その結果、炉心1aにおける燃料要素10aや燃料集合体2の交換頻度を少なくすることができ、高速炉の実効的な運転サイクル長を伸ばすことができる。
よって、炉心1aを備えた高速炉の稼働率が高くなり、その経済性を大きく向上させることができる。また、使用済みの燃料要素10aの再処理工程が大幅に簡素化され、このことも炉心1aを備えた高速炉の経済性の向上に寄与する。
なお、ブランケット燃料から炉心燃料側に移行する239Puの量は、ブランケット燃料の転換比で調整することができる。また、ブランケット燃料の転換比は、ブランケット燃料および炉心燃料それぞれの仕様や配置に基づき、炉心燃料からブランケット燃料への中性子の漏洩量を適切に設定し、制御することにより調整することができる。
≪第2の実施例≫
図3は、第2の実施例に係る燃料要素10bおよび炉心1bの垂直断面構造を模式的に示した図であり、(a)は、燃料要素10bの垂直断面構造の例、(b)は、炉心1b全体の垂直断面構造の例である。なお、図3(b)中に示された一点鎖線は、炉心1bの中心軸を示す。また、図3(b)では、燃料集合体2bおよび燃料要素10bの概念は捨象されており、図示が省略されている。
図3に示すように、本実施例に係る燃料要素10bおよび炉心1bにおける燃料物質の配置構成は、第1の実施例(図2参照)とほとんど同じである。以下、両者の相違点についてのみ説明する。
第1の実施例との相違は、上部燃料領域12および下部燃料領域13のそれぞれに装荷される燃料にある。本実施例では、上部燃料領域12には、炉心燃料として核分裂性物質濃度の高い高富化度溶融塩燃料12bが装荷され、下部燃料領域13には、ブランケット燃料として核分裂性物質濃度の低い低富化度液体金属燃料13bが装荷される。すなわち、上部燃料領域12には、PuCl,UCl,NaCl,MgClなどからなる高富化度溶融塩燃料12bが装荷され、下部燃料領域13には、Pu−U−Bi合金などからなる低富化度液体金属燃料13bが装荷される。
ここで、上部燃料領域12に装荷される高富化度溶融塩燃料12bは、第1の実施例で上部燃料領域12に装荷される溶融塩燃料12aと実質的には同じであってもよい。また、下部燃料領域13に装荷される低富化度液体金属燃料13bは、第1の実施例で下部燃料領域13に装荷される液体金属燃料13aとほとんど同じともいえるが、核分裂性物質である239Puが含まれている点で相違している。ただし、その富化度は低いものであってもよい。
本実施例でも、第1の実施例と同様に、炉心燃料(高富化度溶融塩燃料12b)には239Puが含まれ、ブランケット燃料(低富化度液体金属燃料13b)には238Uが含まれている。したがって、炉心燃料で239Puの核分裂反応が起きることや、ブランケット燃料での238Uの中性子捕獲反応により239Puが生成されることは、第1の実施例の場合と同じである。
さらには、炉心燃料とブランケット燃料との境界において式(1)の化学反応が起きることも、第1の実施例の場合と同じである。そのため、この化学反応によって塩化物となった239Puが炉心燃料の高富化度溶融塩燃料12bの中に拡散し、金属となった238Uがブランケット燃料の低富化度液体金属燃料13bの中に拡散することも第1の実施例の場合と同じである。
したがって、本実施例でも第1の実施例とほとんど同様の効果を得ることができる。すなわち、本実施例でも、炉心燃料の実効的な転換比を向上させることができ、炉心1bにおける燃料要素10bや燃料集合体2bの交換頻度を少なくすることができる。そして、その結果として、高速炉の運転サイクル長を伸ばすことができるので、炉心1bを備えた高速炉の稼働率が高くなり、その経済性を大きく向上させることができる。
なお、本実施例では、第1の実施例と異なり、ブランケット燃料の低富化度液体金属燃料13bには、予め239Puが含まれている。そのため、低富化度液体金属燃料13bから炉心燃料である高富化度溶融塩燃料12bへの239Puの移行は、運転開始後、早く開始され、また、移行する量は、第1の実施例の場合よりも多くなる。したがって、本実施例では、炉心燃料の実効的な転換比を第1の実施例より大きくすることができる。
また、本実施例では、下部燃料領域13に装荷された低富化度液体金属燃料13bの再処理では、239Puを低富化度液体金属燃料13bに残したまま白金族FP核種のような少種類のFP核種だけを除去すればよい。すなわち、低富化度液体金属燃料13bは、再処理ではなく精製すればよいので、リサイクル工程が大きく簡素化される。
≪第3の実施例≫
図4は、第3の実施例に係るブランケット燃料要素10cおよび炉心1cの垂直断面構造を模式的に示した図であり、(a)は、ブランケット燃料要素10cの垂直断面構造の例、(b)は、炉心1c全体の垂直断面構造の例である。なお、図4(b)中に示された一点鎖線は、炉心1cの中心軸を示す。また、図4(b)では、燃料集合体2c、ブランケット燃料要素10cのなどの概念は捨象されており、図示が省略されている。
図4(b)に示すように、本実施例に係る炉心1cは、第1の実施例で用いられた燃料要素10a(図2(a)参照)が配置される中央領域51と、図4(a)に示されたブランケット燃料要素10cが配置される外周領域52とに分けられる。すなわち、本実施例に係る炉心1cは、いわば、第1の実施形態に係る炉心1a(図2(b)参照)の外周部に複数のブランケット燃料要素10cがさらに配置されたものとなっている。なお、ブランケット燃料要素10cの配置も、図1を用いて説明したように、数10ないし数100の複数のブランケット燃料要素10cが束ねられて構成された燃料集合体2を単位として行われる。
ブランケット燃料要素10cは、燃料親物質は装荷されるが、核分裂性物質は装荷されないブランケット専用の燃料棒である。図4(a)に示すように、ブランケット燃料要素10cは、上部燃料領域12に燃料親物質を含んだ溶融塩ブランケット燃料12cが装荷され、下部燃料領域13に燃料親物質を含んだ液体金属ブランケット燃料13cが装荷されて構成される。すなわち、上部燃料領域12には、UCl,NaCl,MgClなどからなる溶融塩ブランケット燃料12cが装荷され、下部燃料領域13には、U−Bi合金などからなる液体金属ブランケット燃料13cが装荷される。
図4(b)に示した炉心1cにおいて、最初から核分裂性物質(239Puなど)が含まれているのは、中央領域51に配置された燃料要素10aの上部燃料領域12の溶融塩燃料12aだけである。したがって、炉心1cの運転の開始時には、核分裂性物質(239Puなど)の核分裂反応は、まず、中央領域51の燃料要素10aの上部燃料領域12で開始される。
これに対し、燃料要素10aの液体金属燃料13aには、燃料親物質(238Uなど)が含まれており、この燃料親物質(238Uなど)は、燃料要素10aの上部燃料領域12から漏れてくる中性子を捕獲して、核分裂性物質(239Puなど)に核変換する。こうして生成された核分裂性物質(239Puなど)は、核分裂することにより燃焼する。これらの反応は、第1の実施例の場合と同じである。
同様に、ブランケット燃料要素10cの溶融塩ブランケット燃料12cおよび液体金属ブランケット燃料13cにも、燃料親物質(238Uなど)が含まれている。この燃料親物質(238Uなど)も、燃料要素10aの上部燃料領域12から漏れてくる中性子を捕獲して、核分裂性物質(239Puなど)に核変換する。こうして生成された核分裂性物質(239Puなど)は、核分裂することにより燃焼する。
図4(b)に示すように、本実施例に係る炉心1cでは、核分裂性物質(239Puなど)を含んだ液体金属燃料13aは、液体金属燃料13aだけでなく、溶融塩ブランケット燃料12cおよび液体金属ブランケット燃料13cによって取り囲まれている。そのため、炉心1cの炉心燃料の全体の転換比は、液体金属燃料13aの転換比相当分だけでなく、溶融塩ブランケット燃料12cおよび液体金属ブランケット燃料13cの転換比相当分が加算されたものとなる。
よって、本実施例では、実施例1に比べても、実効的な転換比を大きく増大させることができ、さらには、燃料要素10aを長寿命化させることができるので、高速炉の燃料経済性の向上を図ることができる。
なお、ブランケット燃料要素10cでも、液体金属ブランケット燃料13cにおける核分裂性物質(239Puなど)の核分裂反応により、多くの核分裂生成核種(FP核種)が生成される。これらのFP核種は、白金族FP核種を除き、液体金属ブランケット燃料13cの比重よりも小さい。そのため、溶融塩ブランケット燃料12cと液体金属ブランケット燃料13cとの境界まで浮き上がる。
溶融塩ブランケット燃料12cと液体金属ブランケット燃料13cとの境界まで浮き上がったFP核種は、溶融塩ブランケット燃料12cとの間で、式(3)と同様の化学反応を起こしFP塩となる。そして、このFP塩は、溶融塩ブランケット燃料12cの中に拡散していく。
したがって、使用済みの液体金属ブランケット燃料13cには、白金族FP核種を除き、FP核種はほとんど残らないことになる。したがって、使用済みのブランケット燃料からFP核種を回収する処理は、ほとんど不要となるため、使用済みの液体金属ブランケット燃料13cの再処理工程が大幅に簡素化されることとなる。
なお、以上に説明した第3の実施例では、炉心1cの中央領域51には、第1の実施例で説明した燃料要素10aが配置されるものとしたが、第2の実施例で説明した燃料要素10bが配置されるものとしてもよい。その場合には、第2の実施例の場合と同様に、炉心燃料の実効的な転換比を増加させるなどの効果を期待することができる。
また、第3の実施例では、ブランケット燃料要素10cに事前に装荷される溶融塩ブランケット燃料12cおよび液体金属ブランケット燃料13cのいずれにも、核分裂性物質(239Puなど)は含まれないものとしたが、多少の量が含まれるものであってもよい。
なお、本発明は、以上に説明した実施形態および実施例に限定されるものではなく、さらに、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態および実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態や実施例の構成の一部を、他の実施形態や実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態や実施例の構成に他の実施形態や実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態や実施例の構成の一部について、他の実施形態や実施例に含まれる構成を追加・削除・置換することも可能である。
1,1a,1b,1c 炉心
2 燃料集合体
4 ラッパ管
5 冷却材
10,10a,10b 燃料要素
10c ブランケット燃料要素
11 燃料物質装荷領域
12 上部燃料領域
12a 溶融塩燃料
12b 高富化度溶融塩燃料
12c 溶融塩ブランケット燃料
13 下部燃料領域
13a 液体金属燃料
13b 低富化度液体金属燃料
13c 液体金属ブランケット燃料
14 ガスプレナム
15 上部端栓
16 下部端栓
17 被覆管
51 中央領域
52 外周領域

Claims (6)

  1. 核分裂性物質と燃料親物質とを含有した液体燃料が装荷されてなる高速炉の燃料要素であって、
    溶融塩燃料が装荷された上部燃料領域と液体金属燃料が装荷された下部燃料領域とからなる2段構造の燃料物質装荷領域を有すること
    を特徴とする高速炉の燃料要素。
  2. 前記上部燃料領域には、前記核分裂性物質を富化した溶融塩燃料が装荷され、
    前記下部燃料領域には、前記燃料親物質を含んだ液体金属燃料が装荷されていること
    を特徴とする請求項1に記載の高速炉の燃料要素。
  3. 前記上部燃料領域には、前記核分裂性物質を富化した溶融塩燃料が装荷され、
    前記下部燃料領域には、前記上部燃料領域に装荷された溶融塩燃料よりも富化度の低い液体金属燃料が装荷されていること
    を特徴とする請求項1に記載の高速炉の燃料要素。
  4. 前記上部燃料領域には、前記燃料親物質を含んだ溶融塩燃料が装荷され、
    前記下部燃料領域には、前記燃料親物質を含んだ液体金属燃料が装荷されていること
    を特徴とする請求項1に記載の高速炉の燃料要素。
  5. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の高速炉の燃料要素をそれぞれ複数本束ねて構成された複数の燃料集合体からなり、前記複数の燃料集合体が全体として円筒形状を呈するように配置されて構成されることを特徴とする高速炉の炉心。
  6. 請求項4に記載の高速炉の燃料要素がそれぞれ複数本束ねられて構成された複数の燃料集合体が請求項5に記載の高速炉の炉心の外周部を取り囲むように配置されていることを特徴とする高速炉の炉心。
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