JP6889473B2 - 着色材料の配合量の算出方法 - Google Patents
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Description
しかし、実際には見本と同一性のある再現色を調整することは難しい。その理由としては、例えば、見本の素材と実際に製造する物品との素材の違いがあること、新しいカラーの種類ができたり、染料の種類が変わったりすること、見本がどのような染料や素材を用いているのかまったく不明であること、等が挙げられる。
そのため、見本の色に合わせて物品に着色を施すことを簡単に行う技術が求められていた。
しかしながら、分光反射率パターンを似せても、観察条件の不安定さがあるため、必ずしも同じ色に見えるとは限らないものである。「観察条件の不安定さ」とは、例えば人間が対象物に相対して観察するため、眼と対象物と照明の位置関係が毎回変動すること。見本物体と目的物体の配置(どちらを右側に置いて見るか)。光源となるランプの劣化に伴う分光強度の経時的な変化。色の見え方(感じ方)が人によって微妙に異なること等である。
例えば、眼鏡レンズを例に取ると、眼鏡レンズにおける規格化された見本カラーレンズは、例えば数十種類から、百種類以上もある。それらのカラーを適当な色空間、例えばCIE1976 (L*、a*、b*) 色空間に配置することで、各カラーのL*a*b*座標からRYB設定量を得るための近似関数を作ることができる。例えば、見本カラー注文の見本レンズの分光透過率を測定し、その結果をもとにL*a*b*座標を求め、さらに近似関数によってRYB設定量を算出する方法が考えられる。
しかし、実際にその方法では、見本レンズと加工レンズの見た目の色を一致させることはできない。色空間の領域によってL*a*b*座標からRYB設定量を写像する近似関数が大きく異なるためである(非線形性が大きいためである)。この場合に、十分に有用な近似関数を得るためには、極めて膨大な数のデータが必要になる。さらに上記した観察条件の不安定性があるので、バラツキを含むデータをもとにするので、非常に多くのデータが必要となる。
これらのような課題から、観察条件の不安定さや写像の非線形性という条件があったとしても、見本の色に合わせて物品に着色を施すことを簡単に行うことができる技術が求められていた。
このような手法であれば、物体を目視する際の照明光源が多種類であっても、あるいは反射率や透過率が角度によって変わる影響で色の見え方が変わったとしても、着色材料の配合量のデータは妥当なものとなる。
手段1における「第1の分光数値データと第1の配合数値データの複数のセットに基づいて分光数値データと配合数値データの近似関数を最適化計算によって作成」することをわかりやすく模式化すると図4における左上Aからのデータセットによる最適化に相当する。
ここに、「近似関数」とは、本発明では着色材料の配合量を算出するために必要な精度を持った関数であって、新たなデータ又はデータセットを適用して最適化する計算をすることで精度を上げることができる。近似関数は例えば機械学習、特に深層学習により得られる非線形的な計算手段を含んでいる。
「第1の分光数値データと第1の配合数値データ」のセットは、複数セットが必要である。この発明は近似関数を最適化するための計算を行うために複数の見本物体の色を前提としているためである。見本物体は多いほど計算上精度が増す。
実際に目的物体をある1つの見本物体と同じ色に見えるように着色する場合においては、過去に同じ見本を着色した経緯があれば過去の配合量のデータを使用することができるが、まったく過去にデータがない場合や、材質も使用した着色材料の種類も不明な場合等では、目的物体を見本物体と同じ色に見えるように着色することはなかなか困難である。最適化計算の初期段階では精度を上げるために、そのような場合には見本物体と同じ色に見えるものを得るまで(つまり、第1の配合数値データを取得できるまで)何度も着色を繰り返すことも必要となる。見本物体と同じ色に見えない目的物体を得た場合には、手段2〜5において最適化の計算に使用することが可能である。
ここに「見本物体」とは製品の発注者と受注者が同一物(またはその複製)として参照するサンプルをいう。「見本物体の色」が必ずしも実際の製品に着色されているとは限らない。単に色見本である場合もある。見本物体の色は毎回異なり、過去に使用した見本物体であってもよい。
また「目的物体」は、基本的に「見本物体」と同じ色になるように着色したものであり、透明であっても非透明であってもよい。また、手段2のように「見本物体」と同じ色にならない場合であっても近似関数を最適化する計算に使用することができる。
また「複数の着色材料を配合して目的物体を色付け」する際の前提条件として複数の着色材料のそれぞれの配合量がデータとして把握できる必要がある。つまり、複数の着色材料は数値化できなければならない。複数の着色材料は複数であればいくつであってもよい。見本物品と同じ着色材料でもよく、異なる着色材料であってもよい。
発明に使用される「コンピュータ」はCPU(中央処理装置)及びROMやRAM等の周辺装置によって構成される。CPUは各種プログラムやオペレータの操作に従って入力装置(例えば、キーボードや、マウス)からのデータ入力に基づいて計算を行う。
手段1では「見本物体を測色した複数の第1の分光数値データと見本物体の色を目標として着色した際の第1の配合数値データのセット」を複数セット取得することで分光数値データと配合数値データの近似関数を最適化計算によって算出するようにしていたが、手段2では、「色付けした目的物体を測色した複数の第2の分光数値データとその色付けした目的物体を着色した際の第2の配合数値データのセット」を手段1の近似関数の最適化計算のために手段1のセットに追加して加えるというものである。このようなセットのデータを加えることで、データ数が増えて近似関数を最適化する計算に貢献し、近似関数の精度が増すこととなる。「色付けした目的物体」は「見本物体」と同じ色であってもよく、違う色であってもよい。
手段2における最適化計算をわかりやすく模式化すると図4における左下Bからのデータセットによる最適化に相当する。
第1の色付け処理と第2の色付け処理では着色材料の配合量が別個独立であって、このように2つの処理を行うことで、追加的に色付けした目的物体を測色して第3の分光数値データを得ることはできるが、第1の色付け処理と第2の色付け処理の処理方法が異なる場合では色付けに使用したトータルの配合数値データを得ることはできない。
しかし、このように追加的に着色した目的物体を測色して得た第3の分光数値データを近似関数に入力した場合に出力される配合量と、見本物体を測色して得た第1の分光数値データを近似関数に入力した場合に出力される配合量は近似しているものである。そのため、この段階で第3の分光数値データを現段階で最適化して得ている近似関数に適用することで第3の配合数値データを算出し、第1の分光数値データとこの第3の配合数値データをセットとして、更に前記近似関数を最適化する計算に用いるようにして近似関数の精度を上げることができる。
手段3における最適化計算をわかりやすく模式化すると図4における右下Cからのデータセットによる最適化に相当する。
手段3は、例えば見本物体と同じ色に見えるように着色してみたところ、見本物体と同じ色に見えない目的物体を得てしまった場合に活用できる手法である。
ここに、第1の色付け処理とは例えば後述する手段11ではドライ染色が相当し、ウェット染色が第2の色付け処理に相当する。
また、手段5では、第1の色付け処理で、ある1つの前記見本物体と同じ色に見えるように色付けしたにも関わらず前記目的物体の色が前記ある1つの前記見本物体と同じ色には見えないとき、第2の色付け処理として、前記ある1つの前記見本物体と同じ色に見えるように追加的に色付けしその追加的な色付けをした前記目的物体を測色することで第3の分光数値データを得、前記近似関数に前記ある1つの前記見本物体を測色することで得られる前記第1の分光数値データを適用することで新たな前記見本物体と同じ色に見える新たな前記目的物体のための前記着色材料の配合量のデータ(以下、第4の配合数値データ)量を算出し、前記第3の分光数値データと前記第4の配合数値データをセットとして、前記近似関数を最適化する計算に用いるようにした。
追加的に着色した目的物体を測色して得た第3の分光数値データを近似関数に入力した場合に出力される配合量と、見本物体を測色して得た第1の分光数値データを近似関数に入力した場合に出力される配合量は近似しているものである。そのため手段4及び手段5において、第1の分光数値データを現段階で最適化して得ている近似関数に適用することで、第4の配合数値データを算出し、第3の分光数値データとこの第4の配合数値データをセットとして、更に前記近似関数を最適化する計算に用いるようにして近似関数の精度を上げることができる。
手段4又は5における最適化計算をわかりやすく模式化すると図4における右上Dからのデータセットによる最適化に相当する。
また、手段7では、前記第1又は第2の分光数値データは分光透過率データ又は分光反射率データであるようにした。
第1〜第3の分光数値データとして分光透過率データ又は分光反射率データを使用することは正確な分光数値データの取得手段として望ましい。
また、手段8では、数値データとして分光数値データ以外の前記見本物体の数値データを用いるようにした。
上記第1〜第3の分光数値データ以外の前記見本物体の数値データを用いることで近似関数の精度を上げることができるからである。例えば、基材の種類などのカテゴリデータやレンズであればレンズの度数等の数値データである。
また、手段9では、前記近似関数は、機械学習により得られる非線形的な計算手段を含むようにした。
機械学習の推定アルゴリズムは、線形回帰、ボルツマンマシン、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、ベイジアンネットワークを用いた統計的推定、強化学習、深層学習の内の1つまたは複数を含む。
機械学習とは、学習用データセットを使ってコンピュータプログラムを訓練した後に、未知の例について正確に判断できるようにすることである。本発明においてはコンピュータに分光数値データ(加えて、基材の種類などのカテゴリデータやレンズの度数等の)その他の数値データ)を近似関数に入力したときに出力される値が配合数値データに近づくよう機械学習をさせるようにすることがよい。
機械学習により得られる非線形写像を用いて近似関数を更新していくことが可能となる。機械学習では第1の分光数値データと第1の配合数値データのデータセット又は/及び第2の分光数値データと第2の配合数値データのデータセットによる教師あり学習によって近似関数を収束させることができ、更に手段3〜5のように第1の分光数値データと第3の配合数値データのデータセット又は/及び第3の分光数値データと前記第4の配合数値データのデータセット(これらは完全な教師あり学習ではなく、一部のみ教師ありの半教師あり学習となる)を組み合わせることによって、さらに好ましい推定値に収束させることができる。
また、手段10では、近似関数としてニューラルネットワークを用いるようにした。
ニューラルネットワークとは、脳機能に見られるいくつかの特性を計算機上のシミュレーションによって表現することを目指した数学モデルである。てニューラルネットワークは機械学習の一種である。ニューラルネットワークとしては3層以上のニューロンを重ねるディープニューラルネットワーク(以下、DNN)がよりよい。ニューラルネットワークを最適化する計算には誤差逆伝播法を用いることがよい。以下の実施の形態ではDNNを一例とした。
また、手段12では、前記見本物体及び前記目的物体は眼鏡用レンズであるようにした。
特に眼鏡用レンズでは、次のような課題があるため、本発明を適用することが非常に適している。
眼鏡レンズを色付けして納品する「カラー注文」には、規格カラー注文と見本カラー注文がある。以後これらに対応する染色加工のことをそれぞれ規格染色・見本染色と呼ぶ。各種の規格カラーを表す見本レンズを眼鏡店とレンズメーカーが所持し、各カラーを表す名前または番号を用いて受発注を行い、製造時はメーカー側が、納品後は眼鏡店側がそれぞれの所持する見本レンズと色を比較する。これに対して見本染色用の見本レンズは、毎回異なるものが眼鏡店側から提示される。
規格染色のドライ染色条件を数値的に設定することは比較的容易である。ドライ染色後のレンズの色を所定の照明環境で見本と比較観察して、同じ色に見えるようにRYBの各設定量を定めれば良い。これは設定量を変えながら何回も加工を繰り返すことで、カラーごとの条件を決定することができる。ただし、レンズ基材の種類は屈折率別などで複数種類を扱うので、それぞれの基材に対応する条件を定めなくてはならない。だから「見本レンズがどこかのメーカーで加工されたのだから、それを作った条件で加工すれば良い」ということではない。また、レンズの厚さや色の付きやすさは度数や厚さによって少しずつ異なるので、それらに対応した条件を決定することは難しい。そのため、標準的なレンズ(たとえば度数の無いレンズ)で定めた条件をすべての度数のレンズに適用するなどして、妥協している。見本染色に関してこのようなことを行うと、受注するごとに何枚もレンズを無駄にすることになる。
一方、ウェット染色は再現性に劣るので、加工条件を数値で確定することは難しい。また、染色液を一定温度で維持する設備のコストがかかる。加工枚数が少なければ、1枚あたりコストが高くなる。加工枚数が多ければ、同じカラーのレンズを多く加工するのであればドライ染色のほうが有利になる。しかし、規格染色において加工したレンズの色の仕上がり具合が悪い場合などは、さらにウェット染色を追加で行って色を整える。これを調色という。
このような状況から、眼鏡店から提示される毎回カラーが異なる見本レンズに関して、そのドライ染色条件を簡単に決定する方法が望まれていた。しかし、上記のように観察条件の不安定さがあることや、写像の非線形性が大きいこと等からドライ染色条件を簡単に決定することは困難であった。更に、レンズでは入力データとしてL*a*b*座標または分光透過率データだけでなく、レンズの度数や厚さを含める必要がある。
本発明を眼鏡用レンズに適用すれば、基材・度数・厚さ・ハーフカラー(ハーフカラーについては後述する)などの多様な条件に対応し、近似関数に求められる非線形性にも対応し、観察条件の不安定性に由来するデータのバラツキを統計的に処理することで、見本レンズを測色したデータに基づいて最適なドライ染色条件を算出することができる。
また、この発明を眼鏡用レンズに適用すれば、規格カラーの条件を決定することもできる。カラーの規格が一斉に変わるときは、新しい見本レンズのセットに切り替えるが、その新しい見本レンズと同じ色に見えるようなレンズを加工するための近似関数は、見本染色の加工を行ううちに高い精度レベルで最適化されるからである。
ここに、「ドライ染色」とは、所定の用紙に染料をインックジェットでプリントし、用紙をレンズに近接させた状態で保持して電気炉に入れて熱することで、染料をレンズに付着させて、基材中に侵入させる色付け方法である。「ウェット染色」とは溶媒に染料を溶かしこんだ液体に透明な目的物体を浸漬して染料を染みこませる方法である。
これは、例えば、物体表面に印刷するようなケースである。物体表面が白いことがよいが、色素を付着させることができれば必ずしも白くなくともよい。
本実施の形態では、眼鏡店を通じてユーザーが選択した見本レンズをレンズメーカーに送付し、レンズメーカーにてこの見本レンズと同じ色になるようにドライ染色する場合のドライ染色用のR(赤)Y(黄)B(青)の三色の配合量を算出するものとする。レンズ情報としてはその他、基材の種類や処方等が提供されるものとする。近似関数としてDNNを用いる。
1.着色材料の配合量の算出について
DNNでは入力値を設定し、それに重みを乗じてノード(ニューロン)の値を算出し、最終段階でRYBの配合量を出力値として得る。出力値が適切になるように近似関数を最適化する点については後述する。まず、ここで使用する入力値の種類について説明する。入力値の一般形を次の数1のように表示する。 この一般形では入力の順序を表すkを下に添えて表す。本実施の形態では4種類41個の入力値を設定するが、これらは適宜変更可能である。
例えば測定装置である分光透過率計を使用して分光透過率を測定することができる。図1は、横軸を波長、縦軸を透過率×100%としたカラーレンズの分光透過率の一例である。この図1ではa.見本レンズを測定した測色データ、b.見本レンズと同じ色に見えるようにドライ染色した新たなレンズを測定した測色データ、c.ドライ染色したが見本レンズと同じ色に見えなかったためウェット調色した新たなレンズを測定した測色データの3種類のレンズ特性が表示されたグラフである。本発明では、入力値としてはa.の見本レンズの分光透過率を使用するわけである。そして、出力値としてb.のようなレンズを作製するためのRYBの配合量を正確に計算で求めるというものである。本実施の形態では390〜730nmの帯域において10nm間隔で、35個の波長の分光数値データを取得したa.の見本レンズの35個の波長の分光数値データを取得する。この間隔や取得する波長帯域や取得個数は一例であって変更可能である。
眼鏡店を通じて預かった見本レンズの度数をレンズメーターにて測定する。
3)加工するレンズの度数
ユーザーの処方に基づいてレンズメーカーで加工するレンズの度数。この値は眼鏡店からの発注情報にて指定される。
4)基材の種類を表すカテゴリ値
基材の種類は眼鏡店からの発注情報にて指定される。加工するレンズの種類はコートのバリエーションを加えると数が多くなるが、本実施の形態では4種類で例示する。定数を4個設定し、1番目の基材を{1,0,0,0}、2番目の基材を{0,1,0,0}・・・として表わす。例えば下記式のように1番目の基材のデータは表される。
まず、41個の入力層の各ノードから第1層のノード20個のうち、第1〜19番目の19個のノードに対して41×19=779個の重みを設定する。入力ノードの値に重みの値を乗じて合計した値を第1層の各ノードの値とする。ただしマイナスの値は0にする。第1層の20番目のノードの値は常に1とする。
各層の重みの一般形は下記数6で示す。重みの値wに対して上の層を表すiを上に、下の層の順序を表すkと上の層の順序を表すjを下に添える。下記数7において関数fはReLUを表す。
重みはこの段階までの近似関数(つまり、ここではDNN)の最適化の計算において更新された最新の重みが適用される。
第1層のj番目の出力値を表す式ではi=1、入力層のノード数Ni−1=41とする。
ここで、数10に示すように第2層より上の第i層の出力の一般形は、入力yをzにおきかえて表す。第i−1層(下の層)のノード数をNi−1で表わす。
3個の出力値の指数から1を引けば、数18のようにRYBの設定量(配合量)を得る。出力値の指数をとって1を引く理由は段落0047で後述する。
この計算では重みの数は779(第1層)+280(第2層)+135(第3層)+60(第4層)+21(第5層)=1275個であった。
次に、上記のようなDNNの計算を行う際に用いる重みを更新して計算精度を向上させる手法について説明する。出力された値がRYBの参照値に近似するように、すべての重みの値を最適化するようにした。本実施の形態ではバックプロパゲーション(誤差逆伝播法)を用いて最適化を行った。バックプロパゲーションでは出力値と参照値との差の二乗和が最小になるような最適化計算を行う。下記数19で最小化すべき残差2乗和の一般式を示す。nはデータの総数。係数1/2は計算の都合で付してある。opjはp番目のRYB配合量の出力値j(但し、j=1〜3)であり、下記数20のように上記「1.着色材料の配合量の算出について」の出力と等価である。tpjは同じくp番目のRYB配合量の参照値jである。
一方、参照値は近似関数の出力すべき目標値であって、以下の1)〜4)のいずれかに属するものである。
1)見本レンズAと同じ色に見えるようにドライ染色したレンズに使用したRYBの配合量
2)任意のある色にドライ染色した際のそのレンズのドライ染色に使用したRYBの配合量
3)見本レンズAを目標にドライ染色したが同じ色に見えなかったのでウェット調色して見本レンズAと同じ色に見えるように調色したレンズについて分光数値データ及びその他の数値データを入力値として上記「1.着色材料の配合量の算出について」でDNNによって算出したRYBの配合量
4)見本レンズAの分光数値データ及びその他の数値データを入力値として上記「1.着色材料の配合量の算出について」でDNNによって算出したRYBの配合量
図5〜図8に、本実施の形態で扱う具体的な入力値データの一例を示す。図5〜図7はDNNに必要な項目のみを表示するようにして、計算に無関係なデータは割愛した。また、このようなデータは近似関数の更新については多ければ多いほど精度が上がる。図5は上記の参照値1)のケースでの入力値データの例である。また、図6は上記の参照値2)のケースでの入力値データの例である。これらは実際に測色しているためRYBの配合量をデータとして使用している。図7は上記の参照値3)の図8は4)のケースでの入力値データの例である。図7及び図8ではRYBの配合量は計算で得られた出力値を使用しているため、データ情報としては使用していない。
RYB設定量(配合量)に1を加えるのは、設定量を0とすることもあるので、対数関数の引数が0になることが無いようにするための、便宜上の処理である。また、1を加えた後でその対数をとる理由は次の通りである。まず1つは、ランベルト・ベールの法則から、ある物質の透過率は exp(−αx)で表わされるためである。ここでαは吸収係数でxは経路長である。レンズの染色においては染色の程度を表す量がxに相当するので、対数をとることによって設定量と透過率の関係を線形に近くできる。その結果、近似関数をより精度よく作ることができる。もう1つの理由は、設定量の数値が大きいデータと小さいデータに関して、誤差の比率を平等にして最適化するためである。もし対数をとらなければ、数19の式で与えられるEへの寄与は、設定量の数値が大きいデータのほうが大きくなってしまうため、設定量の小さいデータに関して誤差の割合が大きくなり、うまく最適化することができない。
以上の理由から参照値はRYB設定量に1を加えた値の対数とするので、近似関数の3個の出力値の指数から1を引いてRYBの設定量を得る。
右辺第1項の左側は「第5層1番目のノードの値」と「第1番目のノードが出力するべき目標値」との差である。その値を得るための式を数30として示す。
・上記実施の形態では物体の例として透明な眼鏡レンズを挙げたが、非透明な物体の表面に着色するようにしてもよい。図3はそのような場合のDNNによるネットワーク図である。ここでは上記実施の形態と同様に入力値を決めて、出力値としての4つの色C(シアン)M(マゼンタ)Y(イエロー)K(ブラック)のプリンターで使用する着色剤の配合量を算出するというものである。ここでは、実施の形態に倣って見本について波長ごとの35個の分光反射率(分光反射率は分光反射率測定装置によって測定)と、紙やインクの種類等のカテゴリ値(変数)を数値データとして入力値とし、重みを適用してDNNを行って出力値としてC、M、Y、Kの各色の配合量を算出する。また、上記実施の形態に倣ってDNNの重みを更新する。また、上記実施の形態ではドライ染色(第1の色付け処理)に対して追加的な調色(第2の色付け処理)としてウェット調色を採用したが、印刷においての追加的な調色では、例えばプリント後に追加印刷で調色するようにする。
尚、印刷装置を制御する条件を表す量的変数を入力に追加してもよい。
・上記実施の形態で使用した近似関数では、重みの値を合計で1295個とした。これは若干多いため適宜重みを減らすようにしてもよい。しかし、パラメタの最適化を無理なく行うには、参照データは少なくとも500〜1000個は必要である。少ないデータを用いて近似関数を作ると過学習を生じるが、その場合は参照データとの違いが大きい特殊な入力値(参照データに含まれないような分光透過率パターン)から、異常な値が出力されてしまうことがあるためである。この問題に対応するためには、使用可能なデータが少ないうちは重みの数が少ないような近似関数を作るとよい。すなわち、5層よりも少ない層数にしたり、あるいは測定波長を20nm間隔にして18個とする方法が考えられる。初期は小さなモデルで受注・加工・測定を行い、データが蓄積されたらモデルを変えて計算の精度を高めればよい。
・上記実施の形態ではDNNは5層で計算したが、5層よりも多層にしてもよい。
・上記実施の形態の入力値の条件は適宜変更可能である。例えば、レンズ基材のカテゴリ数を増やすこと、カテゴリをレンズ基材に限定せずに、コート別に設定することなども自由である。
・実施の形態のレンズの染色におけるドライ加工は赤(R)黄(Y)青(B)の3色で行う例を示したが、黒(K)緑(G)シアン(C)マゼンタ(M)などを加えて4色以上で色付けを行ってもよい。
また、図6〜図8の入力値データを近似関数の入力として使用する際、見本レンズの度数を加工するレンズの度数と同じ値としても良い。それは、前回のドライ染色によってできたレンズと同じ色に見える同度数のレンズを新たな加工において製造するとしたら、前回のドライ染色によってできたレンズを見本レンズとするので、前回の図6の入力値データをそのまま図5の入力値データとして用いればよく、前回のドライ染色加工にて用いたRYB設定量を参照値とするべきという考え方に基づく。
・実施の形態ではレンズ全面を同じ色に染める全面加工の例を示したが、部分的な加工に適用するようにしてもよい。部分的な加工とは例えばハーフ加工がある。これは一般にレンズ上部を濃いカラーに、レンズ下部を薄いカラーに染める方法である。色の濃さが上部から下部にかけて徐々に変わる(グラデーション)効果がある。これをドライ染色で行うには、用紙の領域別に色の濃さを変えてプリントする。徐々に変える方法や、3〜5段階程度に分けて数値を設定する方法により加工できる。ウェット染色で行うには、レンズを上部のみを染色液につけた状態で、上下に揺動する方法により加工できる。
ハーフ加工に本発明を適用するには、レンズの上部と下部の所定の位置でそれぞれ分光透過率測定を行い、分光透過率から加工条件を算出する近似関数の最適化を、上部と下部それぞれで行うとよい。ある見本レンズについて所定位置2ヶ所を分光透過率測定し、2組のRYB設定量を算出する。そして上中下の3領域にプリントするのであれば、2組の値を上部と下部に適用し、中部は中間的な値とする方法が考えられる。中間的な値とは、たとえば平均値であり、あるいは2つの値の対数の平均値のさらに指数を用いる方法が考えられる。
本願発明は上述した実施の形態に記載の構成に限定されない。上述した各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
Claims (13)
- 所定の照明環境で人が目視によって観察したときに見本物体と同じ色に見えるように複数の着色材料を配合して目的物体を色付けする際の前記着色材料の配合量を算出するためのコンピュータで実行される算出方法であって、
ある1つの前記見本物体を測色することで得られる第1の分光数値データと、前記目的物体を前記ある1つの前記見本物体と同じ色に見えるように前記複数の着色材料を配合して色付けした際の前記複数の着色材料の配合量のデータ(以下、第1の配合数値データ)とを含む数値データを1セットとして、複数の前記見本物体と対応する複数の前記目的物体について第1の分光数値データと第1の配合数値データの複数のセットを取得し、得られた第1の分光数値データと第1の配合数値データの複数のセットに基づいて分光数値データと配合数値データの近似関数を最適化計算によって作成し、得られた前記近似関数に新たな前記見本物体を測色することで得られる第1の分光数値データを適用することで新たな前記見本物体と同じ色に見える新たな前記目的物体のための前記着色材料の配合量のデータを算出するとともに、
第1の色付け処理で、ある1つの前記見本物体と同じ色に見えるように色付けしたにも関わらず前記目的物体の色が前記ある1つの前記見本物体と同じ色には見えないとき、第2の色付け処理として、前記ある1つの前記見本物体と同じ色に見えるように追加的に色付けしその追加的な色付けをした前記目的物体を測定することで第2の分光数値データを得、
前記近似関数に前記第2の分光数値データを適用することで追加的に色付けした前記見本物体と同じ色に見える新たな前記目的物体のための前記着色材料の配合量のデータ(以下、第2の配合数値データ)量を算出し、
前記ある1つの前記見本物体を測色することで得られる前記第1の分光数値データと前記第2の配合数値データとを含む数値データをセットとして、このセットを更に前記近似関数を最適化する計算に用いるようにしたようにしたことを特徴とする着色材料の配合量の算出方法。 - 所定の照明環境で人が目視によって観察したときに見本物体と同じ色に見えるように複数の着色材料を配合して目的物体を色付けする際の前記着色材料の配合量を算出するためのコンピュータで実行される算出方法であって、
ある1つの前記見本物体を測色することで得られる第1の分光数値データと、前記目的物体を前記ある1つの前記見本物体と同じ色に見えるように前記複数の着色材料を配合して色付けした際の前記複数の着色材料の配合量のデータ(以下、第1の配合数値データ)とを含む数値データを1セットとして、複数の前記見本物体と対応する複数の前記目的物体について第1の分光数値データと第1の配合数値データの複数のセットを取得し、得られた第1の分光数値データと第1の配合数値データの複数のセットに基づいて分光数値データと配合数値データの近似関数を最適化計算によって作成し、得られた前記近似関数に新たな前記見本物体を測色することで得られる第1の分光数値データを適用することで新たな前記見本物体と同じ色に見える新たな前記目的物体のための前記着色材料の配合量のデータを算出するとともに、
第1の色付け処理で、ある1つの前記見本物体と同じ色に見えるように色付けしたにも関わらず前記目的物体の色が前記ある1つの前記見本物体と同じ色には見えないとき、第2の色付け処理として、前記ある1つの前記見本物体と同じ色に見えるように追加的に色付けしその追加的な色付けをした前記目的物体を測色することで第2の分光数値データを得、
前記近似関数に前記ある1つの前記見本物体を測色することで得られる前記第1の分光数値データを適用することで新たな前記見本物体と同じ色に見える新たな前記目的物体のための前記着色材料の配合量のデータ(以下、第3の配合数値データ)量を算出し、
前記第2の分光数値データと前記第3の配合数値データをセットとして、前記近似関数を最適化する計算に用いるようにしたことを特徴とする着色材料の配合量の算出方法。 - 所定の照明環境で人が目視によって観察したときに透明体に着色した見本物体と同じ色に見えるように着色材料として複数の染料を使用して透明な目的物体を色付けする際の前記着色材料の配合量を算出するためのコンピュータで実行される算出方法であって、
ある1つの前記見本物体を測色することで得られる第1の分光数値データと、前記目的物体を前記ある1つの前記見本物体と同じ色に見えるように前記複数の染料を配合して色付けした際の前記複数の染料の配合量のデータ(以下、第1の配合数値データ)とを含む数値データを1セットとして、複数の前記見本物体と対応する複数の前記目的物体について第1の分光数値データと第1の配合数値データの複数のセットを取得し、得られた第1の分光数値データと第1の配合数値データの複数のセットに基づいて分光数値データと配合数値データの近似関数を最適化計算によって作成し、得られた前記近似関数に新たな前記見本物体を測色することで得られる第1の分光数値データを適用することで新たな前記見本物体と同じ色に見える新たな前記目的物体のための前記染料の配合量のデータを算出するようにしたことを特徴とする着色材料の配合量の算出方法。 - 前記見本物体及び前記目的物体は眼鏡用レンズであることを特徴とする請求項3に記載の着色材料の配合量の算出方法。
- 前記見本物体及び前記目的物体は非透明体であり、表面に色素を付着させて色付けすることを特徴とする請求項1又は2に記載の着色材料の配合量の算出方法。
- 前記近似関数に前記ある1つの前記見本物体を測色することで得られる前記第1の分光数値データを適用することで新たな前記見本物体と同じ色に見える新たな前記目的物体のための前記着色材料の配合量のデータ(以下、第3の配合数値データ)量を算出し、
前記第2の分光数値データと前記第3の配合数値データをセットとして、前記近似関数を最適化する計算に用いるようにしたことを特徴とする請求項1、2及び5のいずれかに記載の着色材料の配合量の算出方法。 - 前記目的物体に色付けをし、その色付けをした前記目的物体を測色することで得られる第4の分光数値データと、前記目的物体を色付けした際の第4の配合数値データとを含む数値データを1セットとして、このセットを更に前記近似関数を最適化する計算に用いるようにしたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の着色材料の配合量の算出方法。
- 前記第4の分光数値データは分光透過率データ又は分光反射率データであることを特徴とする請求項7に記載の着色材料の配合量の算出方法。
- 前記第2の分光数値データは分光透過率データ又は分光反射率データであることを特徴とする請求項1、2又は6のいずれかに記載の着色材料の配合量の算出方法。
- 前記第1の分光数値データは分光透過率データ又は分光反射率データであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の着色材料の配合量の算出方法。
- 数値データとして分光数値データ以外の前記見本物体の数値データを用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の着色材料の配合量の算出方法。
- 前記近似関数は、機械学習により得られる非線形的な計算手段を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の着色材料の配合量の算出方法。
- 前記近似関数としてニューラルネットワークを用いることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の着色材料の配合量の算出方法。
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