JP7460122B2 - 光学レンズのクラス判別方法 - Google Patents
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また、主として需要の点からある特定のクラスに属するレンズについてのみ光学特性の測定が行われるような場合では、それらのレンズデータのみを取得する結果となることが多い。例えば、眼鏡レンズでは、特に累進屈折力レンズにおいては、製造ラインの中ですべての製造品に関してそれぞれがどのクラスに属するかを判定しないことが一般的である。すべての累進屈折力レンズの光学性能分布をマッピング測定等するには多大なコストを要するためである。そのような場合は、必ずしも多クラスのデータを実測して得ていないことになる。そのため、実測したデータが多く存在する特定商品の設計と、ほとんどあるいはまったく実測していない商品の設計とを判別したいという要請があった。
また、光学生能分布のマッピング測定と違い、レンズの分光透過率を測定することは、比較的低コストでほとんど全生産品に対して生産ライン上で実施することができる。しかしながら光学レンズ、特に眼鏡レンズにおいては、基材の種類、ハードコートの種類、反射低減コートの種類、カラーの種類によって1000種類を優に超えるほどのクラスがあり、それぞれに様々な分光透過率のパターンがある。分光透過率はレンズの度数によっても異なるため、1つのクラスの中においてもデータごとに分光透過率は異なる。ここで、特許文献1に開示された方法を応用して特定の2クラスの判別を行うとしても、2クラスの組み合わせの数はクラス数の2乗に比例して数十万~数百万となってしまうため、合理的な管理体制の元にクラス判別を行うことが困難となる。つまり、せっかく多くの分光透過率データが得られても、そのデータをもとに効率的にクラス判別をすることができなかった。そのため、実測した多くのデータをもとにして、多数のクラス間の判別を行いたいという要請があった。
これによって、多種類のクラスが混在した状態で、新たに振り分け対象とする光学レンズが、ある1つのクラスに属するかどうかについて判別する際の確度が向上する。また、実測していないデータをあるクラスに含めてクラスの領域を拡大した状態で新たに振り分け対象とする光学レンズを判別することも可能となる。
「尺度」は、例えばレンズ面のS度数やC度数等のレンズ度数、非点収差、乱視軸方向、プリズム等のレンズ形状を評価する基準となるものや分光透過率等である。これら尺度は標準化したり次元削減してデータ量を減らして使用することがよい。次元削減は公知の次元削減手法によって求めることがよい。次元削減手法としては、例えば主成分分析がよく、代表的には主成分分析が一般的であるが例えばICA(独立成分分析)、Truncated SVD(特異値分析)、LDA(線形判別分析)等を使用するようにしてもよい。尺度は任意の一のクラスに属するデータ群に基づいて設定される必要がある。任意のクラスに属するデータ以外のデータ群を同時に用いて尺度を算出しないことが計算量を減らすとともに任意の一のクラスの判別の確度を上げるために必要である。
「判別関数」とは本発明において便宜的に使用する用語であって、複数の教師データとしての第1の尺度データと第1の尺度に前記任意のクラスに属するデータ以外のデータ群を適用して得たデータ群(以下、判別対象データ群とする)をパラメータとしてあるクラスに属するかどうかを判別するための関数である。
「レンズを透過する光を検出して得られるデータ群」は、例えばマッピング測定して得られるマッピングデータ、分光透過率データ、装用者固有の通常の度数検査におけるS度数やC度数等のレンズ度数データ、レンズの色のデータ、レンズを透過した光の偏光度データ、レンズ内部に生じている応力データ、レンズを透過した光の散乱度合と対応するヘイズ(曇り)データ等を含む。
判別関数の値によって判別可能であるが、確率を算出することでどのくらいの確度で一のクラスに属するかどうかを判断することができる。具体的には確率関数を設定して算出することがよい。
「確率関数」とは本発明において便宜的に使用する用語であって、判別対象データ群をパラメータとしてあるクラスに属するかどうかを判別するための関数である。
確率関数を決定するためには、クラス判別の妥当性が極大となるように判別関数を決定することがよい。判別関数の具体的な例として、尤度を表す関数を用いることが考えられる。例えば判別対象データ群をパラメータとする関数を多項式で示し、尤度が最大となるようにそれらの多項式の係数と定数項を設定する(最適化する)ことが考えられる。
尤度が最大となるように判別関数の形式を決定し、確率関数に新規対象物の判別対象データ群を適用することで、新規対象物があるクラスに属する確率が算出される。
より具体的には次のように計算が行われる。
(1)確率関数の関数形式を何らかの理論にもとづくモデルに基づいて設定する。その理論は仮説であってもよい。例えば、ロジスティック回帰式で表される関数において、exp関数の引数(eの乗数)部分に判別関数を代入する形式とすることがよい。
(2)各教師データについての確率関数の値を求める。
(3)上記(2)で求めた値をすべて掛け合わせて得られた値が尤度である。
(4)尤度が最大となるように、判別関数を最適化する。これは非線形関数を最適化する計算である。具体的な計算方法としてニュートン法や共役勾配法などが知られている。
確率値は0~1の数値で表されることがよい。また、ある広い領域ではほとんど0で、また別の広い領域ではほとんど1で、両者の中間では0~1の間を自然に変化するような関数が望まれる。しかもクラス判別が想定する変量データは、判別精度を高めるためには一般に2個よりもはるかに多くあるので、それにともなってパラメータが多くなる。そのため、上記のようなロジスティック回帰式を用いることがよい。ロジスティック回帰式は2つの集合体を判別するために好適である。
手段3は、判別関数を算出するための、より具体的な手法を示したものである。このように第1の尺度に基づいて算出される第1の尺度データと第2の尺度データを使用して判別関数を算出すると、判別制度が向上することとなる。また、判別の手順がクラス数の2乗ではなくクラス数に比例する規模に抑えられることとなる。
また、手段4では、新たに振り分け対象とする光学レンズに対して任意の一のクラスに属する前記データ群に基づく複数の前記第1の尺度を適用して第3の尺度データを算出し、前記第1の尺度データと前記第3の尺度データを使用して算出された前記判別関数に適用することで得られた数値に基づいて前記新規対象レンズが前記一のクラスに属するかどうかを判定するようにした。
手段4は、判別関数を使用した判別の、より具体的な手法を示したものである。このような手法で判別すれば簡単かつ高い確度で新規対象物が一のクラスに属するかどうかを判定することができる。
分析対象の基準となるレンズを透過する光を検出して得られるデータは、大変多くの数値から構成されるため主成分分析によって効率よく次元削減することができるためである。また、多数の第1の尺度を創成することができ、より確度の高い判別ができるようになるからである。
また、手段6では、前記判別関数の算出においては複数の前記第1の尺度と複数の前記第1の尺度とは異なる尺度が用いられ、複数の前記異なる尺度は、レンズ固有のmdp、J00、J45及び加入度数(add)の少なくとも1つであるようにした。
これらはレンズの固有データであり、クラスを判別する際のレンズの性格を反映する尺度として重要となるからである。
実測していないデータをあるクラスに含めるための具体的手法である。これによって実測していないデータを含めたクラスについて新たに振り分け対象とする光学レンズを判別することが可能となる。
また、手段8では、前記ダミーデータ群は前記教師データの存在する領域の外方に設定されるようにした。
ダミーデータは教師データの存在する領域の外方に分布している方が、より実測していないデータの特性を判別関数に反映することができるからである。
また、手段9では、レンズを透過する光を検出して得られるデータ群はレンズをマッピング測定して得られるようにした。
マッピング測定して得られるデータ群は、レンズを透過する光を検出して得られるデータとしてレンズの特性をよく表すからである。
また、手段10では、レンズを透過する光を検出して得られるデータ群は分光透過率データであるようにした。
分光透過率データは、レンズを透過する光を検出して得られるデータとしてレンズの特性をよく表すからである。
また、手段11では、前記光学レンズは累進屈折力眼鏡レンズであるようにした。
1.判別対象と尺度
判別対象とするレンズ群は、図7に示す2つのタイプとする。Aレンズは遠用領域と近用領域との視線移動において収差による違和感の少ないソフトタイプであり、Bレンズは収差による違和感がソフトタイプとの比較で大きいタイプである。この2種類に属するレンズ群に基づいて判別関数、更に確率関数を求める手法を説明する。
各レンズに固有のS度数・C度数・乱視軸については規格化するためにJCC3成分に変換して得た値と加入度数を用いる。それに主成分分析を実行することで得られた12の主成分ベクトルごとの主成分得点とを合わせた16成分を尺度とする。
a.ここではA設計のレンズを測定したデータ(正データ)474個とB設計のレンズを測定したデータ(異データ)479個を元にA設計のレンズとB設計のレンズについて同時に主成分分析を行い、12個の主成分を抽出する。そして、それぞれのデータに関してそれぞれ12個の主成分得点を算出する。
各データは、4389個の要素を持つ。その内訳は、半径20mm円内の2mm間隔の格子点が317個あり、そのそれぞれにJCC3成分があるので、全部で317×3=951個である。次に、上下方向と左右方向に隣あう格子点間についてJCC3成分のそれぞれについて差分をとり、これらを要素に加える。さらにそれら差分についても、上下方向と左右方向に隣あう値の差分(2階差分)をとり、これらを要素に加える。差分をもって要素とする理由は、それぞれの部位における値だけでなく、上下方向と左右方向の単位距離あたりの変化率、さらには変化率の変化率を個々のデータの特徴として判別に利用することが有利だからである。951個のデータに関して上下差分と左右差分、さらにそれぞれの2階差分を加えると951個の5倍になるが、端の領域では差分を作ることができないので、実際はそれより少ない4389個となる。
主成分分析を行う目的は、扱うデータの次元(要素の数)が非常に多いときにそれを少なくし、データ相互の違いをわかりやすくするように定量化することである。図7の2つのタイプでは固有値が大きい順に第12主成分ベクトルまで求め、各データの第1~第12主成分得点を算出する。主成分ベクトルを12個としたのは、判別に使用するのに十分なだけ求めればよいためである。下記表1は判定基準レンズのS度数、C度数、乱視軸に基づく固有のmdp、J00とJ45、add(加入度数)の値と第1~第12主成分得点の一部を表示した表である。固有のmdp等の4成分の値を平均0分散1に基準化している。
(1)各データについて317個の格子点での測定点におけるmdp、J00とJ45それぞれの平均値を求め、元のデータから、それら平均値をそれぞれ減じる。この減算は加工のクセをキャンセルするためである。加工のクセとは、加工するレンズの度数が全体的にプラス側になったりマイナス側になったり、あるいは乱視成分がついてしまったりしてバラついた結果である。その成分は設計との特徴とは直接関係しないので、キャンセルするとよい。
(2)1つの教師データは上記のように4389個の数値を持つが、その一つ一つをデータの1要素とする。各要素について教師データ全部の平均値を求める。次いで、各要素について教師データ全部の標準偏差を求める。その計算によって平均値と標準偏差が各要素について1つずつ得られるので、結果として4389個の平均値と4389個の標準偏差が得られる。
(3)各データについて得られた4389個の数値それぞれから、対応する要素のデータ全部の平均値を引いて、その結果を対応する要素のデータ全部の標準偏差で割る。この操作を規格化という。(基準化ともいう)1つのデータについて、4389個の要素それぞれについて引き算と割り算を行うことになるが、その操作を953個すべてのデータについて行う。このようにして、データを規格化する。
(4)以上の手順で規格化したデータ群をもとに共分散行列を作る。そして、共分散行列の固有値と固有ベクトルを求める。共分散行列を作成する手法は、例えば特開2009-025432に記載があるように周知である。理論的には最大4389個の固有ベクトルを求めることができるが、ここでは固有値の絶対値が大きい順に12個の対応する固有ベクトルの各要素の値を算出する。こうして求めた固有ベクトルが第1~12主成分ベクトルである。各主成分ベクトルは4389個の数値の組として表される。第1~12主成分ベクトルの得点が主成分得点となる。
新規レンズについては上記の主成分分析は行わない。新規レンズについては次のような計算をして4.で算出される判別関数及び確率関数を適用して尺度を作成する。新規レンズについてはそれらの固有のmdp、J00とJ45のみを使用して尺度とする。この手法は新規レンズ以外の他のレンズにも適用ができる。
(1)各データについて317個の測定点におけるmdp、J00とJ45それぞれの平均値を求め、元のデータから、それら平均値をそれぞれ減じる。上記と同様加工のクセをキャンセルするためである。
(2)次いで、得られた4389個の数値それぞれから、判定基準レンズの教師データ全部の平均値を引いて、その結果を教師データ全部の標準偏差で割る(規格化)。
(3)上記求めた4389個の数値それぞれに、第1主成分の重みベクトルの各要素(4389個)を乗じて、それらの合計を求める。こうして得られた値が、測定対象レンズの第1主成分得点である。同様に第2~第12主成分の重みベクトルを用いて、検査対象レンズの第2~第12主成分得点を求める。
主成分得点および個々の製品の固有の属性であるmdp、J00とJ45、add(加入度数)および12個の主成分得点を変数とする四次多項式の判別関数fを設定する。この式は四次多項式として適宜自由に設定する。そして、確率関数p(f)=1/(1+exp(-f))から確率値pを求める。この式はロジスティック回帰式でありpの値は0~1の間に収まることとなる。
ここで、fは下記数1の式の一般式で表す多項式とする。尚、この多項式は一例である。四次多項式としたが、二次多項式等他の多項式としてもよい。また、ここではx16までの判別関数で設定したが、例えば製品の固有の属性と12個の主成分得点それぞれで複数の判別関数f1、f2を作ってf=f1+f2を算出するようにしてもよい。
これらの式ではa0が定数項でbi、cij、di、eiが係数となる。ここでiは1~16の値をとるので、係数bi、di、eiは各16個、jはそれぞれのiに対してi~16の値をとるので、係数cijは136個である。係数biは16個の要素それぞれの1次の項の係数、diは3次、eiは4次の項の係数である。また、係数cijは16個の要素それぞれの2次の項16個の係数と2次の交互項16×15/2=120個の係数を表わす。3次や4次の交互項を設定することもできるが、最適化するパラメータの数が多くなると計算コストが増大したり、最適化計算が収束しなくなったり、過学習が起きたりするので省略した。実施例の中には2次の交互項および3次と4次の項を省略する例もある。
上記のようにfの多項式が決定されることで新規レンズを含めて他のレンズの各数値をfに代入してfの値を算出することができる。つまり、新規レンズについては新たに主成分分析を行って尺度を求める必要はない。また、得られた判別関数fの値を確率関数p(f)に適用して確率値pを求めることができる。この前提として新規レンズは「3.新規レンズへの援用」おいて
以上のような手法で新規レンズについてクラス1かクラス2のどちらに入るかを判別できることとなる。以下の各実施例では本発明に応じた判別関数による結果を示しているが、個々の実施例において上記の算出手法に対応する部分については詳しい説明を省略する。
本発明の範囲は、明細書に明示的に説明された構成や限定されるものではなく、本明細書に開示される本発明の様々な側面の組み合わせをも、その範囲に含むものである。本発明のうち、特許を受けようとする構成を、添付の特許請求の範囲に特定したが、現在の処は特許請求の範囲に特定されていない構成であっても、本明細書に開示される構成を、将来的に特許請求の範囲とする意思を有する。
本願発明は以下の実施の形態に記載の構成に限定されない。各実施の形態や実施例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
まず、本発明においてクラス判別のための判別関数や確率関数を計算するための周辺装置の一例の概略構成について説明する。
図1に示すように、算出用コンピュータ1にはモニター2とキーボード3が接続されている。キーボード3は注文度数やレンズの作成条件を決定するレンズの基本的なレンズデータを入力するための入力手段とされる。
尚、出力手段としてはモニター2以外にプリンタや他の装置へデータを転送する出力手段等が挙げられる。また、入力手段としてはキーボード3以外にバーコードのような2次元コードやLAN接続された他のコンピュータやデータ記憶装置等の他の装置から転送されたデータを入力する手段等が挙げられる。
算出用コンピュータ1には測定装置4が接続されている。測定装置4はそれ自身コンピュータ装置を備えデータ出力機能を有する。測定装置4は実施例1、実施例2では分光透過率計であり、実施例3ではレンズの度数分布を測定する度数分布測定装置(マッピング測定装置)である。測定装置4から算出用コンピュータ1へのデータ出力は直接的でなく他のメディア(例えばフレキシブルディスク等のメモリ)を介して間接的に行うようにしてもよい。
(実施例1)
実施例1では分光透過率データに基づいて判定基準レンズである2つの内面累進屈折力レンズ「A商品」と「B商品」をそれぞれクラスAとクラスBとし、クラスAのデータのみで主成分分析を行い得られたクラスAの尺度(主成分ベクトルと主成分得点)をクラスBの商品に適用して判別を行った。これは基材・コート・カラーが異なる商品同士を判別する例となる。各レンズの分光透過率は分光透過率計で測定した。クラスAとクラスBに属する判定基準レンズ(直径50mm)をそれぞれ1000枚ずつ用意してデータを取得した。
各レンズについて中心付近で光をレンズに透過させて測定し分光透過率データをサンプリングした。その結果として図3(a)にクラスAを、図3(b)にクラスBのレンズ群の分光透過率特性のグラフを示す。図3において実線は各波長の平均値、上下の破線は平均値±2σの値を表す。計算に使用したサンプリング数(取得数値データ数)は5nmステップで85個であった。そして、上記「2.主成分分析」に準じてクラスAのレンズについてのみ85個の要素をもつ1000個のデータについて主成分分析を行う。下記表2は主成分分析に使用する第1~第12主成分得点の一部を表示した表である。主成分分析におけるデータ群をもとに共分散行列を作る。そして、共分散行列の固有値と固有ベクトルを求める。これらはクラスAの尺度となる。表3に固有ベクトルとしてクラスAの第1~第12主成分ベクトルを示す。
このようにして判別関数を決定すると、上位10個程度の主成分が比較的近い重みでクラスAの元データの再構成に貢献することがわかった。表4に一例として第8主成分得点までの分布図を示す。薄いグレーがクラスAとなる。この分析結果から、クラスBの元データをよく再構成するためには主成分得点の値がクラスAのデータにくらべて極端になりがちであることがよいのがわかる。表4において薄いグレーで表わしたクラスAのデータは平均0分散1に規格化されているため、±3以内の範囲に大半がおさまっている。それに比べるとクラスBのデータの第2主成分は広い範囲に散らばっていて、第3~4主成分にもその傾向がある。さらに下位の第5~8主成分は、クラスAのデータの主成分得点とは異なる値をとる傾向が極端である。以上のことから、結果として商品の判別能が高くなることがわかる。
次いで、新規レンズについて「3.新規レンズへの援用」と「5.判別関数への他のレンズの適用」に準じて新規レンズの第1~第12主成分得点を求め、これを判別関数fに代入してf値を求めることでクラスAかクラスBかいずれに属するかを判別することができる。また、クラスA及びクラスBに属する確率値pを算出することができる。その結果を表5に示す。表5は縦軸を確率関数の尤度としたグラフである。クラスAかクラスBのどちらかに属する新規レンズについて極めて誤差のない判別が可能となることがわかる。左側がクラスA、右側がクラスBである。
比較例として表6にクラスAとクラスBを同時に使用して主成分分析を行い、第1~第12主成分得点を取得した場合の第8主成分得点までの分布図を示す。この場合にはクラスAとそれ以外を区別するような極端なデータ分布とはなりにくい。その理由は、クラスAとクラスBの違いが上位の主成分(この例ではほとんどが第1主成分)に反映されるので、下位の主成分にはクラスAとクラスBの違いが現れないためである。こうして求めた主成分得点を用いて判別関数を作り、縦軸を確率関数の尤度とした比較例のグラフを表7に示す。表5と比べると表7では0~0.3近辺でクラスAとクラスBがかなりかぶってしまい、実施例1に比べて判別能力が劣ることがわかる。
複数データ群の相違をなるべく少ない数の尺度で表わすことが、主成分分析をはじめとする次元削減手法が用いられる一般的な目的である。そのためには複数クラスのデータを同時に使用して主成分分析を行うことが望ましい。しかし、たとえ尺度の数を多く使用することになっても、複数データ群を明確に判別したい場合は、単一クラスのデータのみを使用して主成分分析を行うことが有利となる。また、この方法によれば、準備する判別方法をクラス数の2乗ではなくクラス数に比例する規模に抑えることが可能となるので、クラスの数が非常に多い場合に有利となる。
実施例2では分光透過率データに基づいて特定の1種類のC商品のみで主成分分析を行い、得られたC商品の尺度(主成分ベクトルと主成分得点)を他の複数のクラスの商品に適用して判別を行った。他の複数のクラスにはC商品も含む。以下、C商品を「クラスC」とし、他の複数のクラスの商品は単一のクラスではないが便宜的に「複数クラスCx」とする。各レンズの分光透過率は分光透過率計で測定した。
判定基準レンズ(直径50mm)としてクラスCを2000枚用意し、複数クラスCxとしてトータルで2000枚用意してデータを取得した。実施例1と同様、各レンズについて中心付近で光をレンズに透過させて測定し分光透過率データをサンプリングした。クラスCのレンズ群の分光透過率特性のグラフを図4に示す。図中の実線は各レンズにおける各波長の平均値、上下の破線は平均値±2σの値を表す。計算に使用したサンプリング数(取得数値データ数)は各レンズとも5nmステップで85個であった。
上記「2.主成分分析」や実施例1に準じてクラスCのレンズについて2000×85=17000の要素について主成分分析を行う。そして、主成分分析におけるデータ群をもとに共分散行列を作る。そして、共分散行列の固有値と固有ベクトルを求める。これらはクラスCの尺度となる。
このようにして得られた判別関数fを他の全種類の商品に適用して判別を行った。その結果を表8に示す。薄いグレーで表わした方がクラスCである。上位の主成分でクラスCと複数クラスCxが判別可能に主成分平面上記に分布していることがわかる。
次いで、新規レンズについて「3.新規レンズへの援用」と「5.判別関数への他のレンズの適用」に準じて新規レンズの第1~第12主成分得点を求め、これを判別関数fに代入してf値を求めることでクラスCか複数クラスCxかいずれに属するかを判別することができる。また、クラスC及び複数クラスCxに属する確率値pを算出することができる。新規レンズとしてクラスC及び複数クラスCxに属するレンズを2000枚ずつ使用した。
表9と表10は新規レンズについてこの実施例2を適用した結果である。表9では左側がクラスC、右側が複数クラスCxである。これらより非常に高い確率で(特にクラスCに属することが)判別できていることがわかる。
また、実施例2ではレンズの入れ違いを効率良く検出することができた。「入れ違い」とはレンズとそのレンズの情報が表記された伝票が他のレンズのものと取り違えてしまうことである。図5に示すような、C商品とは分光透過特性が大きく異なるレンズがC商品に入れ違った場合、分光透過率を測定することによって入れ違いを発見しやすい。すなわち「C商品であるとされるレンズを測定した分光透過率データ」をもとに「C商品ではなく、別のレンズが入れ違ったものだ」ということを検知できる。分光透過率データに関しては、基材別・コート別・商品別・カラー別のデータが豊富にある。そこで、正データと別データを判別する仕組みを作り、その仕組みが「ある特定の正データ」を「別データである可能性が高い」と判定したもの、すなわち尤度が0に近いものを「入れ違い品」として検出することができる。実際、C商品として測定されたデータのうち「C商品ではない」と判定された9枚のうち、いくつかはC商品の特性とは異なっており、入れ違いまたは測定上の不具合が考えられる。
実施例3は度数分布測定装置(マッピング測定装置)で測定したマッピング測定データ(以下、「正データ」とする)に基づいて判定基準レンズである2つの内面累進屈折力レンズであってソフトタイプに相当する「D商品」とハードタイプに相当する「E商品」をそれぞれクラスDとクラスEとし、クラスDについてマッピング測定データに適当な変位を加えることで「クラスDとは少し異なるデータ」である「ダミーデータ」をランダムに作った。このようなレンズ群の関係のイメージ図を図6に示す。図6では更に「クラスDとは大きく異なるレンズでダミーレンズには近いレンズデータ(他の商品のデータ)」を配置する。
ダミーデータは実際にはない仮想的な「ダミーレンズ」にクラスDの尺度を適用することで得られるデータである。ダミーデータの作成手法については後述する。
クラスDのレンズ群をそれぞれマッピング測定したデータ(正データ)474個を元に主成分分析を行う。各データは次のような手順で4389個の要素を持つこととなる。
クラスDのレンズの各レンズについて半径20mm円内の2mm間隔の格子点が317個あり、そのそれぞれにJCC3成分があるので、全部で317×3=951個である。次に、上下方向と左右方向に隣あう格子点間についてJCC3成分のそれぞれについて差分をとり、これらを要素に加える。さらにそれら差分についても、上下方向と左右方向に隣あう値の差分(2階差分)をとり、これらを要素に加える。差分をもって要素とする理由は、それぞれの部位における値だけでなく、上下方向と左右方向の単位距離あたりの変化率、さらには変化率の変化率を個々のデータの特徴として判別に利用することが有利だからである。951個のデータに関して上下差分と左右差分、さらにそれぞれの2階差分を加えると951個の5倍になるが、端の領域では差分を作ることができないので、実際はそれより少ない4389個となる。
この4389個の要素について上記「2.主成分分析」に準じてクラスDのレンズについてのみ主成分分析を行う。
表11は判別関数fを構成するための係数の表である。実施例3では判別関数fは関数1~16より構成されており、関数1~16の最大値をもって判別関数fの値を決定する。例えば関数1には1次の係数16個と2次の係数16個がある(定数項は-1に固定しているため表には含まれていない)。クラスDでもクラスEでもダミーレンズでも、その度数要素のデータ(4個)と主成分得点のデータ(12個)を関数1に適用すると関数1の値が決まることとなる。同様にして、関数1~16のすべての値を求め、その最大値を判別関数fの値とする。
表10及び表11は新規レンズについてこの実施例3を適用した結果である。ダミーレンズもその他のレンズもクラスDに属さないというような判別が正確にされている。
(1)実施例1でクラスAのデータとクラスBのデータを判別するための判別関数を求めたのと同様に、クラスDのデータとダミーデータを判別するための判別関数を考えることができる。以下、その関数を分離関数とする。分離関数はダミーレンズの16個の成分による判別関数と同様の関数を設定することができる。まず、実測した正データ群はマッピングデータを主成分分析して得られた上位の12主成分と度数の固有の4要素(JCCと加入度)=合計16の成分があると考えられるため、データは16次元空間を4個の自由度をもって分布する。分離関数はこれを取り囲む超曲面を作るという考えである。曲面上で分離関数の値は0、正データはすべて分離関数のマイナスになる領域に存在するようにして、ダミーデータをできるだけ多く分離関数のプラス領域に存在するように決定する。
また、定数は-1で固定とした。固定とした理由は、定数の値を自由に変化させると、判別関数の絶対値がいくらでも大きくなって最適化計算が収束しないことがあるためである。変数の値がすべて0となる原点は、ほとんどの場合は対象データ群の分布する範囲に含まれる。それは平均が0になるように規格化しているためである。こうした理由から、定数項はマイナスとした。
(3)また、ダミーを配置する方向を適切に限定することがよい結果となった。
「ダミーを配置する方向を限定する」ことは、次のように考えることができる。まず、2次元空間をxy座標で表わし、ある領域を4本の直線で囲むことを考える。このとき、直線のうち2本はx軸に平行でもう2本はy軸に平行であるとする。正データの位置からx軸またはy軸方向に関しては±1離れた位置までが領域内であるが、x軸方向に+1離れてさらにy軸方向に+1離れた位置は、正データから√2だけ離れていることになる。そのため、その方向に離れた異データを判別する性能が劣ることとなる。これを防ぐには、斜めの直線も用いて図8に示すように8本の直線で囲む方法が考えられる。このように8方向にするとある程度分離できるようになる。16方向や32方向にするとさらに改善するが、ここではいったん8方向までで考える。8方向の単位ベクトルをxとyの値の組で表わすと(1,0),(1/√2,1/√2),(0,1),(-1/√2,1/√2),(-1,0),(-1/√2,-1/√2),(0,-1),(1/√2,-1/√2)の8個である。これは原点(0,0)を取り囲む格子点8個の座標(1,0),(1,1),(0,1),(-1,1),(-1,0),(-1,-1),(0,-1),(1,-1)に向かう単位ベクトルである。2次元空間内で原点を囲む格子点は8個あるが、それはx座標とy座標がそれぞれ-1,0,1の3通りずつあるが(0,0)は除くので、3×3-1=8となるからである。
そのため、まず、16次元空間でランダムな方向を指す単位ベクトルを多数生成する。それらのベクトルを方向の片寄りなく均一に生成するには、多少の工夫が必要である。例えば、16個の成分を一様乱数で決定すると片寄りを生じることは2次元の例で考えればわかる。x軸とy軸に平行な方向のベクトルよりも、斜め方向のベクトルが√2倍の割合で多く生成されてしまう。16次元空間では偏りが4倍になる。そこで、まず適当な成分の単位ベクトルを作り、これを16ある軸のうち2個を取り出した組み合わせの2次元平面の中でランダムな角度だけ回転させる。この回転をすべての組み合わせに関して多数回行うことで方向に偏りのないベクトルのセットを生成することができた。得られたベクトルのセットをk-平均法によって16組に分けた。
1.グループ分けする対象のデータからランダムにk個(ここでは16個)を選び、その要素を各グループの中心座標とする。その他のデータはランダムにいずれかのグループに属するようにする。
2.すべての対象データそれぞれについて、もっとも距離が近い中心座標のグループに所属するものとする。ここで距離は、データと中心座標に16個ある要素それぞれの差の2乗和の平方根として計算する。
3.各グループの要素の平均を求め、それを新しい中心座標とする。
4.こうして得た新しい中心座標を用いて2.と3.を繰り返す。最初のうちは2.のステップにおいて、所属グループが変わるが、やがて変わらなくなる。
5.2.と3.を繰り返しても2.のステップにおいて、所属グループが変わるデータが無くなればルーチンを終了する。
ここで、1つの分離関数を作るにあたって、ある1組に属する単位ベクトルのうちどれをどの正データに適用するかという問題がある。単位ベクトルをランダムに選択して割り付ける方法も考えられるが、本実施例3では1組の単位ベクトルの中から最適な方向の単位ベクトルを選択することとした。これによって分離効率が改善するからである。具体的には、ある正データから近傍に存在する別の正データに向かうベクトルを10個ほど求め、それらのベクトルと成す角度が90度に近い方向であるようにした。具体的には候補となる方向を表すベクトルと、上で求めた10個程度の各ベクトルとの内積を求め、その値を各ベクトルの長さで割ることで角度の余弦(コサイン)を得、その絶対値の平均が最も小さい方向を選択した。
新規レンズについて判別関数を適用した結果を表12に示す。また、この比較として16の方向を正データに対してランダムに配置した場合の判別関数を適用した結果を表12に示す。また、表13に対応する表15を示す。この実施例3ではダミーを判別した割合は、ダミーを16方向それぞれの中でランダム配置する方法と同じになったが、正データを正しく判定する精度が高い。ハードデータを判別する割合は、ランダム配置する方法が58.5%に対して73.7%に改善しているが、正データをより正しく判別していることを考え合わせると、58.5%→73.7%の差以上に判別能が高いものと言える。また、他の商品についても正データを正しく判定する精度は高い。
・実施例1や実施例2ではレンズを透過する光を検出して得られるデータ群として分光透過率データを使用する例であったが、マッピングデータに適用してもよい。
・実施例3のダミーデータを作成する内容は、レンズを透過する光を検出して得られるデータ群としてマッピングデータを取得したものであったが、例えば実施例1や実施例2のような分光透過率データを使用する例に適用するようにしてもよい。
・実施例3ではダミーデータの方向を16方向とする例を示したが、より細かく例えば32方向として実施するようにしてもよい。
・上記判別関数fや確率関数pの例は一例である。また、判別関数fについても次数の異なる様々な関数が使用可能である。
・光学レンズとしては眼鏡レンズ以外のレンズにも適用可能である。眼鏡レンズとしては累進屈折力レンズ以外のレンズにも適用可能である。
Claims (10)
- レンズを透過する光を検出して得られるデータ群によって複数の光学特性の異なるクラスに分類される光学レンズ群の存在を前提とし、分類対象とすべき光学レンズがいずれのクラスに振り分けられるかを判別するための光学レンズの判別方法であって、
任意の一のクラスに属する前記データ群を第1の教師データとして、前記第1の教師データに基づいて複数の第1の尺度を設定し、それらの第1の尺度に応じた第1の尺度データを前記第1の教師データに基づいて算出するとともに、前記第1の教師データに基づく複数の前記第1の尺度を前記任意の一のクラス以外のクラスに属するデータ群としての第2の教師データに適用して第2の尺度データを算出し、前記第1の尺度データと前記第2の尺度データを使用してある光学レンズが前記任意の一のクラスに属するかどうかを判別する関数(以下、判別関数とする)を算出し、新たに振り分け対象とする光学レンズ(以下、新規対象レンズ)を透過する光を検出して得たデータ群を前記判別関数に適用することで得られた数値に基づいて前記新規対象レンズが前記任意の一のクラスに属するかどうかを判定するようにしたことを特徴とする光学レンズのクラス判別方法。 - 前記判別関数の値を変数としてあるクラスに属する確率を算出することを特徴とする請求項1に記載の光学レンズのクラス判別方法。
- 新たに振り分け対象とする光学レンズに対して前記任意の一のクラスに属する前記データ群に基づく複数の前記第1の尺度を適用して第3の尺度データを算出し、前記第1の尺度データと前記第3の尺度データを使用して算出された前記判別関数に適用することで得られた数値に基づいて前記新規対象レンズが前記任意の一のクラスに属するかどうかを判定するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の光学レンズのクラス判別方法。
- 前記データ群に基づいて設定される複数の前記第1の尺度は、主成分分析における主成分ベクトルであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の光学レンズのクラス判別方法。
- 前記判別関数の算出においては複数の前記第1の尺度と複数の前記第1の尺度とは異なる尺度が用いられ、複数の前記異なる尺度は、レンズ固有のmdp、J 00 、J 45 及び加入度数(add)の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1~4のいずれに記載の光学レンズのクラス判別方法。
- 前記判別関数の算出においては、前記第1の教師データに基づいてダミーデータ群を作成し、前記第1の教師データとともにダミーデータ群を使用することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の光学レンズのクラス判別方法。
- 前記ダミーデータ群は前記第1の教師データの存在する領域の外方に設定されることを特徴とする請求項6に記載の光学レンズのクラス判別方法。
- レンズを透過する光を検出して得られるデータ群はレンズをマッピング測定して得られることを特徴とする1~7のいずれかに記載の光学レンズのクラス判別方法。
- レンズを透過する光を検出して得られるデータ群は分光透過率データであることを特徴とする1~8のいずれかに記載の光学レンズのクラス判別方法。
- 前記光学レンズは累進屈折力眼鏡レンズであることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の光学レンズのクラス判別方法。
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