ここで、一般に、陽極酸化皮膜の成長速度は電流密度(単位面積あたりの電流量)に依存することが知られている。処理対象の部位の面粗度が比較的小さい場合(例えば、切削加工された面)には、当該部位(以下、第1部位と呼ぶ)の表面積が比較的小さい。よって、第1部位の電流密度が比較的大きく、第1部位の陽極酸化皮膜の成長速度が比較的速い。
これに対し、処理対象の部位の面粗度が比較的大きい場合(例えば、鋳肌面)には、当該部位(以下、第2部位と呼ぶ)の表面積が比較的大きい。よって、第2部位の電流密度が比較的小さい。よって、陽極酸化皮膜形成処理の開始直後においては、第2部位の陽極酸化皮膜の成長速度は比較的遅い。なお、第2部位に陽極酸化皮膜がある程度形成されて、当該部位の面粗度が比較的小さくなると、第2部位での陽極酸化皮膜の成長速度が速くなる。
したがって、面粗度が異なる複数の部位(第1部位及び第2部位)を電解液に浸漬させた状態で前記複数の部位に対して同時に陽極酸化皮膜形成処理を開始し、所定時間が経過したとき、第1部位では、膜厚が比較的大きく、第2部位では、膜厚が比較的小さい。したがって、第1部位の電気抵抗が第2部位の電気抵抗に比べて大きく、第1部位で発生するジュール熱が、第2部位で発生するジュール熱より大きい。そのため、第2部位及びその周辺の電解液の温度よりも、第1部位及びその周辺の電解液の温度が高くなる。これにより、第2部位からの金属物質の単位時間当たりの溶解量よりも、第1部位からの金属物質の単位時間当たりの溶解量が多い。したがって、第2部位よりも、第1部位の陽極酸化皮膜の成長速度がさらに速められる。このようにして、面粗度の異なる部位間に膜厚差が生じる。しかし、従来の陽極酸化皮膜形成方法では、面粗度に起因する膜厚の差が考慮されていない。
本発明は上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、面粗度の異なる複数の部位に対して陽極酸化皮膜を同時に形成する陽極酸化皮膜の形成方法であって、形成される陽極酸化皮膜の膜厚差を減少させることができる陽極酸化皮膜の形成方法を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、金属製部材の第1部位(P1a,P1b)と、前記金属製部材の第2部位(P2)であって、第1部位よりも面粗度の大きい第2部位とに対して同時に陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化皮膜の形成方法であって、第1部位及び第2部位を電解液(EL)に浸漬させるとともに、電極部材を電解液に浸漬させておき、第1部位に向かって電解液を噴射しつつ、陽極としての前記金属製部材と陰極としての前記電極部材とに通電する工程を含む陽極酸化皮膜の形成方法としたことにある。
この場合、電解液を第1部位に向かって噴射する前に、電解液を冷却する工程を含むとよい。
また、この場合、第1部位へ向けられた1つ又は複数のノズル(N1a,N2a,N3a,N1b,N2b,N3b)を用いて、第1部位に向かって電解液を噴射するとよい。
本発明によれば、第1部位を局所的に冷却することにより、ジュール熱に起因する、第1部位での金属物質の溶解を抑制できる。よって、第1部位での陽極酸化被膜の成長速度を、従来よりも小さくできる。これにより、第1部位の膜厚と第2部位の膜厚との差を、従来よりも減少させることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記第1部位をマスキングしておき、前記第2部位のみを前記電解液に接触させた状態で、陽極としての前記金属製部材と陰極としての前記電極部材とに通電する第1工程と、前記第1部位のマスキングを解除して、前記第1部位と前記第2部位とを前記電解液に接触させた状態で、前記第1部位に向かって前記電解液を噴射しつつ、陽極としての前記金属製部材と陰極としての前記電極部材とに通電する第2工程と、を含む陽極酸化皮膜の形成方法としたことにある。
第1部位に電解液を噴射したとしても、依然として第1部位における陽極酸化皮膜の成長速度が、第2部位における陽極酸化皮膜の成長速度よりも大きい場合がある。そこで、本発明では、第1部位への陽極酸化皮膜の形成開始タイミングを第2部位への陽極酸化皮膜の形成開始タイミングよりも遅く設定している。これにより、第1部位及び第2部位に対して同時に陽極酸化皮膜の形成を開始した場合に比べて、成膜工程終了時における第1部位の陽極酸化皮膜の膜厚と第2部位の陽極酸化皮膜の膜厚との差が小さくなる。
以下、本発明の一実施形態に係る陽極酸化皮膜の形成方法を実施するための陽極酸化皮膜形成装置1について説明する。まず、本実施形態の陽極酸化皮膜の形成方法を適用する処理対象の一例としてのエンジンのピストンPの構成について簡単に説明しておく。ピストンPの上側部は、図1に示すように、略円柱状に形成されている。ピストンPの下側部は略円筒状に形成されている。ピストンPの外径dpは、80mmである。ピストンPの外周面には、ピストンリングが嵌め込まれる3本の溝GLが形成されている。また、ピストンPの下部には、ピストンピンが挿入される孔THが形成されている。また、ピストンPの頂面には、吸気バルブとの干渉を避けるための凹部RIa,RIb及び排気バルブとの干渉を避けるための凹部ROa,RObが形成されている。凹部RIa及び凹部RIbは、吸気バルブ側(図2において左側)にて、孔THの軸線方向(図2において上下方向)に平行に整列配置されている。凹部ROa及び凹部RObは、排気バルブ側(図2において右側)にて、孔THの軸線方向(図2において上下方向)に平行に整列配置されている。
ピストンPはアルミニウム合金製である。ピストンPは鋳造される。ピストンPの頂面は切削(研磨)されず、鋳肌がそのまま露出している。ただし、図2に示すように、ピストンPの頂面の外周縁部の一部であって、凹部RIaと凹部ROaとの間に位置する円弧状の帯状部分(以下、第1部位P1aと呼ぶ)、及び凹部RIbと凹部RObとの間に位置する円弧状の帯状部分(以下、第1部位P1bと呼ぶ)のみが切削(研磨)されている。よって、ピストンPの頂面のうち切削(研磨)された第1部位P1a,P1b(図2において斜線を付した部分)に比べて、鋳肌が露出した部分(以下、第2部位P2と呼ぶ。)の面粗度が大きい。具体的には、第1部位P1a,P1bの中心線平均粗さRAP1は、1〜1.5であり、第2部位P2の中心線平均粗さRAP2は、4〜6である。
つぎに、上記のように構成したピストンPの頂面に陽極酸化皮膜を形成する陽極酸化皮膜形成装置1の構成について説明する。陽極酸化皮膜形成装置1は、図3に示すように、支持装置10、電解槽20、ポンプ30、タンク40、容器50、噴射治具60、及び電源装置70を備える。
ピストンPは、支持装置10によって支持される。支持装置10は、台座11と、台座11に固定された多関節アーム12とを有する。ピストンPは、その頂面が鉛直下方を向くようにして、多関節アーム12の先端に組み付けられる。なお、ピストンPの側周面は、非導電材(ゴム)で構成されたシートSでマスキングされている。また、ピストンPと支持装置10とは、電気的に絶縁されている。
電解槽20は、上方へ開放された箱状に形成されている。電解槽20は、導電材で構成されている。電解槽20の底壁部21の中央部には電解液EL(例えば、硫酸)の供給口211が設けられている。電解槽20(供給口211)は、パイプIPを介してポンプ30に接続されている。ポンプ30は、電解液ELを貯留しているタンク40から電解液ELを汲み上げて電解槽20に供給する。なお、ポンプ30の吐出量は、9リットル/minである。また、供給口211の出口付近における電解液ELの流速は、約6600mm/secである。電解槽20内に電解液ELが供給されることにより、電解槽20内は電解液ELで満たされ、電解液ELが電解槽20の上端から溢れ出る。電解槽20は、容器50内に収容されている。電解槽20から溢れ出た電解液ELは、容器50によって受容される。容器50の底壁部51には電解液ELの排出口511が設けられている。容器50(排出口511)は、パイプOPを介してタンク40に接続されている。容器50によって受容された電解液ELは、タンク40へ戻される。タンク40は、電解液ELの温度を0±2℃に設定する冷却機能を備える。電解槽20内に供給された電解液ELの温度は、陽極酸化皮膜形成処理中に上昇するが、タンク40に戻されて冷却される。
電解槽20に満たされた電解液ELに、支持装置10によって支持されたピストンPの頂面が浸漬される。なお、上記のように、ピストンPの側周面はマスキングされているので、ピストンPの側周面には、電解液ELが接触しない。
電解槽20の底壁部21の上面には、噴射治具60が組み付けられている。噴射治具60は、図4に示すように、円筒状の側壁部61と、側壁部61の上端を塞ぐ円板状の上壁部62を備える。つまり、噴射治具60は、下方へ開放された箱状に形成されている。側壁部61の高さh61は、50mmである。側壁部61の下端面が電解槽20の底壁部21の上面に密着している。上壁部62の上面は、ピストンPの頂面に対向している。上壁部62には、ノズルN1a,N2a,N3aとノズルN1b,N2b,N3bが設けられている。ノズルN1a,N2a,N3a,N1b,N2b,N3bの構成は同一である。ノズルN1a,N2a,N3a,N1b,N2b,N3bは、上壁部62の上面から上方へ突出している。ノズルN1a,N2a,N3a,N1b,N2b,N3bの上下方向に垂直な断面は円形を呈する。ノズルN1a,N2a,N3a,N1b,N2b,N3bの外径dNOは、10mmである。ノズルN1a,N2a,N3a,N1b,N2b,N3bの内径dNIは、1.8mmである。また、ノズルN1a,N2a,N3a,N1b,N2b,N3bの突出高さhNは、15mmである。
ピストンPの頂面のうちの第1部位P1aの下方にノズルN1a,N2a,N3aが位置し、第1部位P1bの下方にノズルN1b,N2b,N3bが位置するように、ノズルN1a,N2a,N3a,N1b,N2b,N3bが上壁部62の上面に配置されている。具体的には、図5に示すように、ノズルN1a,N2a,N3a,N1b,N2b,N3bは、ピストンPの外径dPよりも少し小さい直径dCLを有する円CLの外周に沿って配置されている。円CLの直径dCは、77mmである。ノズルN2a及びノズルN3aは、ノズルN1aの両側にそれぞれ位置している。ノズルN1aとノズルN2aとの間隔は、ノズルN1aとノズルN3aとの間隔と同一である。具体的には、ノズルN1aと円CLの中心Oを結ぶ直線と、ノズルN2aと中心Oを結ぶ直線との間の角度θは、22.5°であり、ノズルN1aと円CLの中心Oを結ぶ直線と、ノズルN3aと中心Oを結ぶ直線との間の角度θも、22.5°である。ノズルN1aとノズルN1bとは、円CLの周方向に180°ずれている。また、ノズルN2aとノズルN2bとは、円CLの周方向に180°ずれており、ノズルN3aとノズルN3bとは、円CLの周方向に180°ずれている。
ノズルN1aは、第1部位P1aの周方向における中央部の下方に位置している。ノズルN2a,N3aは、第1部位P1aの周方向における両端部の下方にそれぞれ位置している(図6参照)。ノズルN1bは、第1部位P1bの周方向における中央部の下方に位置している。ノズルN2b,N3bは、第1部位P1bの周方向における両端部の下方にそれぞれ位置している。ノズルN1a,N2a,N3aと第1部位P1aとの距離Δha、及びノズルN1b,N2b,N3bと第1部位P1bとの距離Δhbは、それぞれ10mmである(図3参照)。
供給口211から噴射治具60の内部に供給された電解液ELは、ノズルN1a,N2a,N3a及びノズルN1b,N2b,N3bから第1部位P1a及び第1部位P1bに向かってそれぞれ噴射される。ノズルN1a,N2a,N3a及びノズルN1b,N2b,N3bの先端付近での電解液ELの流速は、約9800mm/secである。
電源装置70は、一定の電流を供給する定電流源である。電源装置70の陽極端子が、ピストンPに電気的に接続される。また、電源装置70の陰極端子が、電解槽20に電気的に接続される。なお、電解槽20は、本発明の電極部材に相当する。電源装置70により、陽極としてのピストンPと陰極としての電解槽20とに通電される。これにより、約80μmの膜厚の酸化被膜がピストンPの頂面に形成される。
つぎに、ピストンPに従来の陽極酸化被膜形成方法を適用した場合と、本実施発明に係る陽極酸化被膜形成方法を適用した場合の酸化被膜の性状(各部の酸化被膜の膜厚)を比較する。
まず、従来の陽極酸化被膜形成方法を実施する装置としては、図7に示す陽極酸化被膜形成装置2を用いる。この陽極酸化被膜形成装置2においては、本実施形態に係る陽極酸化被膜形成装置1の噴射治具60を省略している。供給口211の出口は、ピストンPの中央(第2部位P2)へ向けられている。また、供給口211の出口付近での電解液ELの流速は約6600mm/secである。よって、電解液ELが電解槽20内へ供給されることにより、電解槽20内の電解液ELは攪拌されるが、電解液ELは第1部位P1a,P1bに直接的には噴射されない。
上記のように構成された陽極酸化被膜形成装置2の電解槽20の電解液EL(硫酸)にピストンPが浸漬されて、ピストンP及び電解槽20に通電されることにより、ピストンPの頂面が溶解する。そして、電解液EL中に溶出したアルミニウムイオンが、陽極としてのピストンPに引き寄せられた硫酸イオンと結合する。これにより、ピストンPの頂面に陽極酸化皮膜が形成されていく。陽極酸化皮膜の電気抵抗は比較的大きいので、陽極酸化皮膜の成長過程において、陽極酸化皮膜に電気が流れることにより、ジュール熱が発生する。このようなジュール熱により、ピストンPの頂面及びその付近の硫酸の温度が上昇する。これにより、ピストンPの頂面でのアルミニウムの溶解が促進される。
ここで、陽極酸化被膜処理の初期段階(通電開始直後)において、第1部位P1a,P1bの電流密度が、面粗度の大きい第2部位P2の電流密度に比べて大きいので、第1部位P1a,P1bでの陽極酸化皮膜の成長速度が第2部位P2での陽極酸化皮膜の成長速度よりも速い。したがって、第1部位P1a,P1bの電気抵抗が第2部位P2の電気抵抗に比べて大きく、第1部位P1a,P1bで発生するジュール熱が、第2部位P2で発生するジュール熱より大きくなる。そのため、第2部位P2及びその周辺の硫酸の温度よりも第1部位P1a,P1b及びその周辺の硫酸の温度が高くなる。よって、第2部位P2からのアルミニウムの単位時間当たりの溶解量よりも第1部位P1a,P1bからのアルミニウムの単位時間当たりの溶解量が多い。したがって、第2部位P2よりも第1部位P1a,P1bの陽極酸化皮膜の成長速度がさらに速められる。その結果、陽極酸化皮膜形成処理の終了時において、図8A乃至図8G(断面写真)、及び図9(グラフ)に示すように、第1部位P1a,P1bの膜厚が、第2部位P2の膜厚に比べて30μmほど大きくなった。
つぎに、本発明の陽極酸化被膜形成方法を実施する装置として、陽極酸化被膜形成装置1を用いた場合の酸化被膜の性状について説明する。この場合であっても、陽極酸化被膜処理の初期段階(通電開始直後)において、第1部位P1a,P1bの電流密度が、面粗度の大きい第2部位P2の電流密度に比べて大きいので、第1部位P1a,P1bでの陽極酸化皮膜の成長速度が第2部位P2での陽極酸化皮膜の成長速度よりも速い。したがって、第1部位P1a,P1bの電気抵抗が第2部位P2の電気抵抗に比べて大きく、第1部位P1a,P1bで発生するジュール熱が、第2部位P2で発生するジュール熱より大きくなる。ここで、本実施形態では、タンク40にて冷却された電解液ELが噴射治具60のノズルN1a,N2a,N3a及びノズルN1b,N2b,N3bから第1部位P1a及び第1部位P1bへ向かって噴射される。これにより、第1部位P1a及び第1部位P1bが局所的に冷却される。そのため、陽極酸化被膜装置2を用いた場合に比べて、第1部位P1a,P1bからのアルミニウムの単位時間当たりの溶解量が抑えられる。したがって、陽極酸化被膜装置2を用いた場合に比べて、第2部位P2と第1部位P1a,P1bとの陽極酸化皮膜の成長速度の差が小さい。その結果、陽極酸化皮膜形成処理の終了時において、図10A乃至図10G(断面写真)、及び図11(グラフ)に示すように、第1部位P1a,P1bの膜厚と、第2部位P2の膜厚との差を10μm程度に抑えることができた。
上記のように、本実施形態によれば、第1部位P1a,P1bを局所的に冷却することにより、第1部位P1a,P1bでの陽極酸化被膜の成長速度を、従来よりも小さくできる。これにより、第1部位P1a,P1bの膜厚と第2部位P2の膜厚との差を、従来よりも減少させることができる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、以下説明するように、第1工程(マスキング工程)と第2工程(アンマスキング工程)とを含む陽極酸化皮膜の形成方法としてもよい。第1工程は、第1部位P1a,P1bをマスキングして電解液ELに接触させないようにしておき、第2部位P2のみを電解液ELに接触させて陽極酸化皮膜を形成する工程である。この場合、図12に示すように、ノズルN1a,N2a,N3a及びノズルN1b,N2b,N3bの上面に、非導電材で構成されたマスキング部材Ma,Mbがそれぞれ固定されるとよい。同図に示すように、マスキング部材Ma,Mbは、略板状に形成されている。マスキング部材Ma,Mbは、その平面視において略円弧状を呈する。マスキング部材Ma,Mbの下面は、ノズルN1a,N2a,N3a及びノズルN1b,N2b,N3bの上面に平行な平面状に形成されている。また、マスキング部材Ma,Mbの上面は、第1部位P1a,P1bに密着可能なように、マスキング部材Ma,Mbの下面に対して傾斜している。すなわち、マスキング部材Ma,Mbの径方向における内側端から外側端へ向かうに従って、その板厚が徐々に大きくなっている(図12参照)。また、マスキング部材Ma,Mbには、ノズルN1a,N2a,N3a及びノズルN1b,N2b,N3bの孔にそれぞれ対応した貫通孔THMが設けられている。貫通孔THMの内径は、ノズルN1a,N2a,N3a及びノズルN1b,N2b,N3bの孔の内径dNIと略同一である。
第1工程では、図13に示すように、ピストンPの頂面が噴射治具60の上面に押し当てられる。つまり、第1部位P1a,P1bが、マスキング部材Ma,Mbの上面(傾斜面)に密着している。この状態で、電解槽20内に電解液ELが供給される。なお、この例において、上記実施形態の供給口211に加え、電解槽20の底面における、噴射治具60の外側に位置する部分に、電解液ELの供給口212がさらに設けられている。供給口211及び供給口212は、パイプIPを介してポンプ30に接続されている。ポンプ30から吐出された電解液ELは、供給口211及び供給口212から電解槽20内へ供給される。上記のように、第1工程においては、第1部位P1a,P1bが、マスキング部材Ma,Mbの上面に密着している。つまり、ピストンPによって、貫通孔THMが塞がれている。よって、供給口211から噴射治具60内に供給された電解液ELは、ノズルN1a,N2a,N3a及びノズルN1b,N2b,N3bから噴射されない。すなわち、噴射治具60内が電解液ELで満たされた後、電解液ELは、それ以上、噴射治具60内へは供給されない。一方、供給口212から電解槽20内(噴射治具60の外側)へ電解液ELが供給されることにより、電解槽20は、電解液ELで満たされ、電解槽20の上端から溢れ出る。電解槽20から溢れ出た電解液ELは、上記実施形態と同様に、容器50によって回収されてタンク40に戻される。そして、電源装置70により、陽極としてのピストンPと陰極としての電解槽20とに通電される。
第1工程では、第1部位P1a,P1bがマスキングされているので、第1部位P1a,P1bは電解液ELに接触しない。一方、第2部位P2は、上記実施形態と同様に電解液ELに接触している。そのため、第2部位P2にのみ陽極酸化皮膜が形成されていく(図15参照)。この第1工程において、第2部位P2の陽極酸化皮膜の膜厚が目標値の約1/2に達する。
第1工程が終了すると、第2工程が開始される。第2工程では、前記第1部位P1a,P1bのマスキングが取り外されて、第1部位P1a,P1b及び第2部位P2に同時に陽極酸化皮膜が形成される。具体的には、図14に示すように、ピストンPが少し持ち上げられる。これにより、第1部位P1a,P1bが電解液ELに接触し、第1部位P1a,P1bの陽極酸化皮膜の形成が開始される。上記のようにピストンPが持ち上げられることにより、貫通孔THMが開放され、上記実施形態と同様に、電解液ELが第1部位P1a,P1bに噴射される。なお、第1工程に引き続き、第2部位P2への陽極酸化皮膜の形成は継続される。第2工程は、第1工程と同程度の時間だけ継続される。同図に示す例では、第1部位P1a,P1bに電解液ELを噴射したとしても、依然として第1部位P1a,P1bにおける陽極酸化皮膜の成長速度が、第2部位P2における陽極酸化皮膜の成長速度よりも大きい。そこで、本変形例では、第1部位P1a,P1bへの陽極酸化皮膜の形成開始タイミングを第2部位P2への陽極酸化皮膜の形成開始タイミングよりも遅く設定している。これにより、第1部位P1a,P1b及び第2部位P2に対して同時に陽極酸化皮膜の形成を開始した場合に比べて、成膜工程終了時における第1部位P1a,P1bの陽極酸化皮膜の膜厚と第2部位P2の陽極酸化皮膜の膜厚との差が小さくなる。
また、例えば、ノズルN1a,N2a,N3a,N1b,N2b,N3bと第1部位P1a,P2bとの距離Δha,Δhb、ノズルN1a,N2a,N3a,N1b,N2b,N3bから噴出される電解液ELの流速、ノズルの数、及び各ノズルの外径dNO、各ノズルの内径dNIなどは、上記実施形態に限られず、処理対象の部位の面積、目標の膜厚などに応じて適宜変更可能である。また、上記実施形態では、電解液ELとして硫酸を用いているが、これに代えて、シュウ酸を用いてもよい。また、上記実施形態では、ピストンPを陽極酸化皮膜処理の対象としているが、本発明は、ピストンPに限られず、他の部品にも適用可能である。