JP6885232B2 - 熱間プレス用めっき鋼板とその製造方法、ならびに熱間プレス成形部材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
寸法精度よく成形することが可能である。さらに、熱間プレス法によれば、鋼板をオーステナイト域に加熱しておき金型内で急冷(焼入れ)することにより、マルテンサイト変態
による鋼板の高強度化も同時に達成できる。
(1)鋼板1、鋼板2と、これら鋼板1、2の突き合わせ溶接部からなる範囲における硬度と板厚の積HTの分布において、溶接部およびHAZにかけてのHTと鋼板1および鋼板2におけるHTとの比を1に近づけ、かつ、当該範囲における最大硬度と上記鋼板1、鋼板2のより硬い側の硬度との硬度差を小さくすること;
(2)さらに、鋼板1、鋼板2と、これら鋼板1、2の突き合わせ溶接部からなる範囲の有効結晶粒径の分布において、溶接部およびHAZにかけての有効結晶粒径の最大値と、上記鋼板1、鋼板2の有効結晶粒径の平均値のうち粗大な方の有効結晶粒径の平均値との比を小さくすること。
前記異なる鋼板のうち少なくとも1種の鋼板の化学組成が式(1)を満たし、
前記突き合わせ溶接部および溶接熱影響部を含む鋼板全体において、表面にめっき層を有することを特徴とする熱間プレス用めっき鋼板。
(2)前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の硬度と板厚の積HTの分布における最小値HTminが、前記異なる鋼板のうち1つの鋼板における平均値HT1と前記異なる鋼板のうち他の鋼板における平均値HT2とを比較したときの小さい方の値の0.80倍以上であり、
前記HTの分布における最大値HTmaxが前記HT1とHT2のうち大きい方の値の1.50倍以下であり、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の硬度の最大値Hmaxと前記1つの鋼板における硬度H1と前記他の鋼板における硬度H2のうち大きい方の値との差ΔHが100Hv以下であり、
かつ、Hmaxが400Hv以下であり、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の有効結晶粒径の分布において、前記1つの鋼板の有効結晶粒径の平均値と前記他の鋼板の有効結晶粒径の平均値のうち大きい方の有効結晶粒径dと、前記有効結晶粒径の最大値dmaxとの比(dmax/d)が5.0以下であり、
さらに、突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域において、前記異なる鋼板のうち前記1つの鋼板の炭化物の短径の平均値と前記異なる鋼板の炭化物の短径の平均値のうち大きい方の短径rと、炭化物の短径の最大値rmaxとの比(rmax/r)が3.0以下であることを特徴とする、(1)に記載の熱間プレス用めっき鋼板。
(3)前記めっき層がアルミめっき層であることを特徴とする(1)または(2)に記載の熱間プレス用めっき鋼板。
(4)前記めっき層が亜鉛めっき層であることを特徴とする(1)または(2)に記載の熱間プレス用めっき鋼板。
(5)前記めっき層が合金化亜鉛めっき層であることを特徴とする(4)に記載の熱間プレス用めっき鋼板。
(6)質量%で、
C:0.050%〜0.800%、
Si:0.001%〜3.00%、
Mn:0.01%〜13.0%、
P:0.100%以下、
S:0.0100%以下、
Al:0.001%〜2.500%、
N:0.0150%以下、
O:0.0050%以下、
を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる1つの鋼板と、
前記鋼板とは化学組成および/または板厚の異なる1種以上の他の鋼板とを突き合わせ溶接し、
溶接後にめっき処理を施すことを特徴とする、熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
(7)前記1つの鋼板の化学組成が、
Feの一部に替えて、更に質量%で、
Cr:0.03〜5.00%
Mo:0.03〜5.00%
Ni:0.03〜5.00%
Cu:0.03〜5.00%
W:0.03〜5.00%
B:0.0004〜0.0100%
Nb:0.005〜0.200%
Ti:0.010〜0.500%
V:0.05〜2.00%
Sb:0.003〜1.000%
Sn:0.005〜1.000%
Ca:0.0010〜0.0100%
Ce:0.0010〜0.0100%
Mg:0.0010〜0.0100%
Zr:0.0010〜0.0100%
La:0.0010〜0.0100%
Hf:0.0010〜0.0100%
REM:0.0010〜0.0100%
のいずれか1種以上を含むことを特徴とする(6)に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
(8)前記鋼板とは化学組成および/または板厚の異なる1種以上の他の鋼板とを、溶接部における板厚比を3.0以下として突き合わせ溶接し、
溶接した全ての鋼板のうち少なくとも1つの鋼板の(Ac1−50)℃を上回る温度まで加熱する熱処理を行い、
前記熱処理は、加熱開始から冷却開始までの温度履歴が式(2)を満たし、
冷却開始から冷却完了までの温度履歴が式(4)を満たし、且つ
熱処理中または熱処理後にめっき処理を施すことを特徴とする(6)または(7)に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
(9)前記熱処理は、予熱バーナーに用いる空気と燃料ガスの混合ガスにおいて、単位体積の混合ガスに含まれる空気の体積と、単位体積の混合ガスに含まれる燃料ガスを完全燃焼させるために理論上必要となる空気の体積との比である空気比:0.7〜1.2とされた条件の酸化帯において加熱し、次いで、水蒸気(H2O)と水素(H2)との分圧比P(H2O)/P(H2):0.0001〜2.0とされた還元帯において最高加熱温度まで加熱することを特徴とする、(8)に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
(10)突き合わせ溶接後に溶接部を研削することを特徴とする(6)〜(9)のうちいずれかに記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
(11)前記1つの鋼板及び他の鋼板のうち少なくともいずれかの鋼板が、熱延鋼板に0.01〜85%の冷間圧延を施した冷延鋼板であることを特徴とする(6)〜(10)のうちいずれかに記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
(12)前記めっき処理が溶融アルミ浴への浸漬であることを特徴とする、(6)〜(11)のいずれかに記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
(13)前記めっき処理が溶融亜鉛浴への浸漬であることを特徴とする、(6)〜(11)のいずれかに記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
(14)前記溶融亜鉛浴への浸漬の後、合金化処理を施すことを特徴とする、(13)に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
(15)前記めっき処理が電気めっき処理であることを特徴とする、(6)〜(11)のいずれかに記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
(16)異なる鋼板およびそれらの突き合せ溶接部を有し、
前記異なる鋼板のうち1つの鋼板における硬度H1と前記異なる鋼板のうち他の鋼板における硬度H2のうち大きい方の値が300Hv以上であり、
溶接部表面を含む部材表面全体にめっき層が存在することを特徴とする、
熱間プレス成形部材。
(17)前記熱間プレス成形部材において、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の硬度と板厚の積HTの分布における最小値HTminが、前記異なる鋼板のうち1つの鋼板における平均値HT1と前記異なる鋼板のうち他の鋼板における平均値HT2とを比較したときの小さい方の値の0.80倍以上であり、
前記HTの分布における最大値HTmaxが前記HT1とHT2のうち大きい方の値の1.20倍以下であり、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の硬度の最大値Hmaxと前記1つの鋼板における硬度H1と前記他の鋼板における硬度H2のうち大きい方の値との差ΔHが50Hv以下であり、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の母相オーステナイト粒径の最大値Dmaxと前記1つの鋼板における母相オーステナイト粒径D1と前記他の鋼板における母相オーステナイト粒径D2のうち大きい方の値との比が5.0倍以下であり、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部における粒子径1.0μm以上の炭化物の平均密度が1.0×1.0×1010m−2以下であることを特徴とする(16)に記載の熱間プレス成形部材。
(18)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱間プレス用めっき鋼板を用い、
最高加熱温度が式(1)を満たす鋼板におけるAc3温度以上とし、
550℃から加熱終了までの温度履歴が式(5)を満たす熱処理を行うことを特徴とする、
熱間プレス成形部材の製造方法。
(19)熱間プレス後に焼戻処理を施すことを特徴とする、(18)に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
本発明の熱間プレス用めっき鋼板は、化学組成および/または板厚の異なる2種以上の鋼板およびそれらの突き合わせ溶接部からなり、熱間プレス用めっき鋼板が熱間プレス成形によって十分な強度を発揮するには、十分な量のCを含み、かつ十分な焼入性を有する必要がある。具体的には、熱間プレス用めっき鋼板を構成する母材としての鋼板(以下、「母材鋼板」ともいう。)の少なくとも1つは下記の式(1)を満たす必要がある。
本発明の熱間プレス用めっき鋼板を構成する母材鋼板の少なくとも1種以上の母材鋼板は、本発明の熱間プレス成形部材が硬度300Hv以上の部位を有するよう、下記の化学組成を有する鋼板を用いることが好ましい。なお、化学組成に関して%は質量%を表わす。
Cは、強度の向上に寄与する元素である。C含有量が0.050%未満であると、熱間プレス後の硬度が300Hvに到達しないため、含有量は0.050%以上とすることが好ましい。Cは0.090%以上含有することが好ましく、0.140%以上含有することがより好ましい。一方、C含有量が0.800%を超えると、鋳造スラブが脆化して割れやすくなるため、含有量は0.800%以下とすることが好ましい。また、突き合わせ溶接における溶接性が劣化するため、Cの含有量は0.550%以下とすることが好ましい。熱間プレス用めっき鋼板の溶接性を確保するため、Cの含有量は0.400%以下とすることがより一層好ましい。
Siは、鉄系炭化物を微細化し、強度と成形性の向上に寄与する元素であるが、鋼を脆化する元素でもある。Si含有量が3.00%を超えると、鋳造スラブが脆化して割れ易くなり、また、溶接性が低下するので、Si含有量は3.00%以下とすることが好ましい。耐衝撃性を確保する点で、2.20%以下が好ましく、1.70%以下がより好ましい。一方、Siの含有量を0.001%未満に低減するには特別な処理が必要となるため、Si含有量は0.001%以上とすることが好ましい。鋼を強化するには、Siの含有量は0.010%以上が好ましく、0.030%以上とすることがより好ましい。
Mnは、焼入れ性を高めて、強度の向上に寄与する元素であるが、鋼を脆化する元素でもある。Mnの含有量が13.0%を超えると、鋳造スラブが脆化して割れ易くなり、また、溶接性が劣化するため、Mnは13.0%以下とすることが好ましい。鋳造スラブの脆化を防ぐには、Mn含有量は10.0%以下とすることが好ましく、7.00%以下とすることが更に好ましい。一方、Mnの含有量を0.01%未満とするには特殊な処理が必要となるため、Mnの含有量は0.01%以上とすることが好ましい。鋼を強化するには、Mnは0.10%以上含有することが好ましく、0.50%以上添加することが更に好ましい。
Alは、脱酸材として機能するが、一方で、鋼を脆化する元素でもある。Al含有量が0.001%未満であると、脱酸効果が十分に得られないので、Al含有量は0.001%以上とすることが好ましい。一方、Alの含有量が2.500%を超えると、粗大な酸化物が生成し、鋳造スラブが割れ易くなるため、Al含有量は2.500%以下とすることが好ましい。良好なスポ溶接性を確保する点で、Alの含有量は2.000%以下が好ましい。
Crは、焼入れ性を高め、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、C及び/又はMnの一部に替わり得る元素である。Cr含有量が5.00%を超えると、熱間加工性が低下して生産性が低下するので、Cr含有量は5.00%以下が好ましい。下限は0%を含むが、Crの強度向上効果を十分に得るには、0.03%以上含有することが好ましい。
Moは、熱間プレス工程における高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、C及び/又はMnの一部に替わり得る元素である。Mo含有量が5.00%を超えると、熱間加工性が低下して生産性が低下するので、Mo含有量は5.00%以下が好ましい。下限は0%を含むが、Moの強度向上効果を十分に得るたには、0.03%以上含有することが好ましい。
Niは、熱間プレス工程における高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、C及び/又はMnの一部に替わり得る元素である。Niが5.00%を超えると、溶接性が低下するので、Ni含有量は5.00%以下が好ましい。下限は0%を含むが、Niの強度向上効果を十分に得るには、0.03%以上含有することが好ましい。
Cuは、微細な粒子で鋼中に存在し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、C及び/又はMnの一部に替わり得る元素である。Cuが5.00%を超えると、溶接性が低下するので、Cu含有量は5.00%以下が好ましい。下限は0%を含むが、Cuの強度向上効果を十分に得るには、0.03%以上含有することが好ましい。
Wは、熱間プレス工程における高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、C及び/又はMnの一部に替わり得る元素である。Wが5.00%を超えると、熱間加工性が低下して生産性が低下するので、W含有量は5.00%以下が好ましい。下限は0%を含むが、Wの強度向上効果を十分に得るには、0.03%以上含有することが好ましい。
Bは、熱間プレス工程における高温での相変態を抑制し、鋼板強度の向上に寄与する元素であり、C及び/又はMnの一部に替わり得る元素である。B含有量が0.0100%を超えると、熱間加工性が低下して生産性が低下するので、B含有量は0.0100%以下が好ましい。下限は0%を含むが、Bの強度向上効果を十分に得るには、0.0004%以上含有することが好ましい。
Nbは、熱間プレス工程における母相オーステナイト結晶粒の成長抑制による靭性の向上に寄与する元素であり、0.200%を上限として含有しても構わない。Nbの含有量が0.200%を超えると、炭窒化物が多量に析出して、成形性が低下するため、好ましくない。下限は0%を含むが、HAZにおける有効結晶粒の微細化効果を得るには、0.005%以上含有することが好ましい。
Tiは、熱間プレス工程における母相オーステナイト結晶粒の成長抑制による靭性の向上に寄与する元素であり、0.500%を上限として含有しても構わない。Tiの含有量が0.500%を超えると、炭窒化物が多量に析出して、成形性が低下するため、好ましくない。下限は0%を含むが、HAZにおける有効結晶粒の微細化効果を得るには、0.010%以上含有することが好ましい。
Vは、熱間プレス工程における母相オーステナイト結晶粒の成長抑制による靭性の向上に寄与する元素であり、2.00%を上限として含有しても構わない。Vの含有量が2.00%を超えると、炭窒化物が多量に析出して、成形性が低下するため、好ましくない。下限は0%を含むが、HAZにおける有効結晶粒の微細化効果を得るには、0.05%以上含有することが好ましい。
Sbは、熱間プレス工程における母相オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制し、熱間プレス成形部材の靭性の向上に寄与する元素である。一方、Sb含有量が1.000%を超えると、鋼板が脆化し、圧延時に破断することがあるので、Sb含有量は1.000%以下が好ましい。下限は0%を含むが、Sbの添加効果を十分に得るには、0.003%以上含有することが好ましい。
Snは、熱間プレス工程における母相オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制し、熱間プレス成形部材の靭性の向上に寄与する元素である。一方、Sn含有量が1.000%を超えると、鋼板が脆化し、圧延時に破断することがあるので、Sn含有量は1.000%以下が好ましい。下限は0.000%を含むが、Snの添加効果を十分に得るには、Sn含有量は0.005%以上が好ましい。
本発明の熱間プレス用めっき鋼板の成分組成において、上記元素を除く残部は、Fe及び不可避的不純物である。不可避的不純物は、鋼原料から及び/又は製鋼過程で不可避的に混入する元素である。本発明において、不可避的不純物のうち、P、S、N及びOの含有量は、下記のように規定される。
Pは、鋼を脆化する元素である。Pが0.100%を超えると、鋳造スラブが脆化して割れ易くなるので、Pは0.100%以下とする。下限は0%を含むが、Pを0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
Sは、MnSを形成し、耐衝撃性を損なう元素である。S含有量が0.0100%を超えると、溶接部およびHAZの耐衝撃性が著しく低下するため、S含有量は0.0100%以下とする。下限は0%を含むが、0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
Nは、窒化物を形成し、耐衝撃性を阻害する元素であり、また、溶接時、ブローホール発生の原因になり、溶接性を阻害する元素である。N含有量が0.0150%を超えると、耐衝撃性と溶接性が低下するので、N含有量は0.0150%以下とする。N含有量は0.0100%以下とすることが好ましく、0.0075%以下とすることがより好ましい。N含有量の下限は0%を含むが、0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
Oは、酸化物を形成し、耐衝撃性を阻害する元素である。O含有量が0.0050%を超えると、耐衝撃性が著しく低下するので、O含有量は0.0050%以下とする。下限は0%を含むが、Oを0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
加工時の割れにはひずみ集中による割れと靭性不足による割れがあり、溶接部およびHAZにおいて、ひずみ集中による割れの発生しやすさは、当該箇所における硬度と板厚の積HTによって整理できる。HTは当該箇所における耐荷重に相当するので、鋼板に変形を加えると、周辺と比べてHTの低い箇所、すなわち耐荷重の低い箇所には変形が集中しやすい。そのため、溶接影響を受けない鋼板部分に比べて溶接部あるいはHAZにおけるHTが著しく小さい場合、プレス成形時にHTの小さい箇所にひずみが集中し、割れる場合がある。
一方、靭性不足による成形時の割れの発生しやすさは、硬度によって整理できる。溶接部およびHAZにおける硬度が周辺の鋼板と比べて極端に高い場合、当該箇所は鋼板に比べて大きく脆化している危険性が有り、成形時に割れる場合がある。具体的には、図1に示される突き合わせ溶接のような場合、突き合わせ溶接部及びHAZを含む領域の鋼板1から鋼板2にかけての硬度の最大値Hmaxと鋼板1における硬度H1と鋼板2における硬度H2のうち大きい方の値との差ΔHが100[Hv]を超えると、プレス成形時に割れが発生する場合があるため、ΔHの上限を100[Hv]とする。ΔHは小さいほど好ましく、50[Hv]以下とすることが好ましく、30[Hv]以下とすることが更に好ましい。
熱間プレス後の部材の耐衝撃性を高めるには、破壊の伝播を抑制するために熱間プレス加工時の母相オーステナイトの結晶粒径を細かくする必要がある。この母相オーステナイトの結晶粒径は、加熱前、すなわち熱間プレス用めっき鋼板における結晶粒径に大きく影響され、熱間プレス用めっき鋼板の結晶粒径が粗大であると、当該オーステナイト粒径も粗大化する。熱間プレス用めっき鋼板において、特にHAZでは、溶接時にミクロ組織が粗大化し、有効結晶粒径が周辺の鋼材と比べて著しく大きくなる場合があり、それに伴って熱間プレス後の母相オーステナイト粒径が粗大化し、熱間プレス成形部材の耐衝撃性が劣化しやすい。
熱間プレス成形部材の耐衝撃性を高めるには、破壊の起点として働く粗大な炭化物の形成を抑制することが効果的である。特にHAZでは、粗大な炭化物の周辺におけるミクロ組織が粗大化するため、粗大な炭化物を起点とする破壊が伝播しやすい。熱間プレス工程における鋼板中の炭化物の溶存挙動は、加熱前、すなわち熱間プレス用めっき鋼板における炭化物のサイズに大きく影響される。特に、長径が1.0μmを超える炭化物の短径が粗大で有る場合、炭化物は熱間プレス工程において溶存する傾向にある。これは、炭化物の破壊の起点としての影響度合が炭化物の長径に、加熱中の溶解挙動が同じく短径に依存するためである。
母材鋼板の製造方法については特に規定しないが、生産コストの観点からは、鋳造スラブを熱間圧延し、必要に応じて冷間圧延して製造することが好ましい。熱間圧延に供するスラブは、連続鋳造スラブや薄スラブキャスターなどで製造したものを用いることができる。鋳造後のスラブは、一旦常温まで冷却しても構わないが、高温のまま直接熱間圧延に供することが、加熱に必要なエネルギーを削減できるため、より好ましい。
また、形状矯正のほか、製品に要求される板厚を容易に得るために、母材鋼板に冷間圧延を施しても構わない。しかしながら、冷延率が85%を超えると圧延中に鋼板が破断する可能性があるため、冷延率は85%以下とすることが好ましく、75%以下とすることが更に好ましい。
続いて、溶接を施した鋼板または鋼帯コイルを溶融金属浴相当の温度まで再加熱し、溶融金属浴に浸漬することで、Zn、Al、Znを主体とする合金あるいはAlを主体とする合金のいずれかを鋼板表面に付着した、溶融めっき鋼板が得られる。
めっき処理の前あるいはめっき処理と合わせて、熱処理を施し、鋼板、HAZおよび溶接部のミクロ組織を作り込むことで、熱間プレス用めっき鋼板の加工性を高めるとともに、熱間プレス成形部材の耐衝撃性を改善することができる。熱処理は、後述する条件が達成できる任意の熱処理装置において施せばよい。
続いて、本発明の熱間プレス成形部材において、式(1)を満たす鋼板を含む突き合わせ溶接部について、溶接部を挟む鋼板1、鋼板2、溶接継手および鋼板1と鋼板2におけるHAZの限定理由について説明する。
衝突時の割れにはひずみ集中による割れと靭性不足による割れがあり、溶接部およびHAZにおいて、ひずみ集中による割れの発生しやすさは、当該箇所における硬度と板厚の積HTによって整理できる。HTは当該箇所における耐荷重に相当するので、熱間プレス成形部材に変形を加えると、周辺と比べてHTの低い箇所、すなわち耐荷重の低い箇所には変形が集中しやすい。そのため、溶接影響を受けない鋼板部分に比べて溶接部あるいはHAZにおけるHTが著しく小さい場合、部材が衝突した時にHTの小さい箇所にひずみが集中し、割れる場合がある。
一方、靭性不足による衝突時の割れの発生しやすさは、硬度によって整理できる。溶接部およびHAZにおける硬度が周辺の鋼板と比べて極端に高い場合、当該箇所は鋼板に比べて大きく脆化している危険性が有り、衝突時に割れる場合がある。具体的には、図1に示される突き合わせ溶接のような場合、突き合わせ溶接部及びHAZを含む領域の鋼板1から鋼板2にかけての硬度の最大値Hmaxと鋼板1における硬度H1と鋼板2における硬度H2のうち大きい方の値との差ΔHが50[Hv]を超えると、プレス成形時に割れが発生する場合があるため、ΔHの上限を50[Hv]とする。ΔHは小さいほど好ましく、35[Hv]以下とすることが更に好ましい。
熱間プレス後の部材の耐衝撃性の溶接部およびHAZにおいて、衝突時の破壊の伝播を抑制するために熱間プレス加工時の母相オーステナイトの結晶粒径を細かくする必要がある。この母相オーステナイトの結晶粒径は、加熱前、すなわち熱間プレス用めっき鋼板における結晶粒径に大きく影響され、熱間プレス用めっき鋼板の結晶粒径が粗大であると、当該オーステナイト粒径も粗大化し、熱間プレス成形部材の耐衝撃性が劣化しやすい。
溶接部及び溶接熱影響部において、粗大な炭化物は脆性破壊の起点および/または伝播経路として働くため、熱間プレス成形部材の耐衝撃特性を改善するため、粗大な炭化物を低減する必要がある。粒子径1.0μm以上の炭化物が、破壊の起点および/または伝播経路として働くため、溶接部及び溶接熱影響部における当該炭化物の平均密度を1.0×1010m−2以下とする。熱間プレス成形部材の耐衝撃特性を改善するため、当該炭化物の平均密度は5.0×109m−2以下とすることが好ましい。
続いて、本発明の熱間プレス成形部材の製造方法について説明する。
本発明の熱間プレス成形部材は、本発明の熱間プレス用めっき鋼板に、適正な条件で熱間プレスを施すことで得られ。熱間プレス用めっき鋼板を構成する2つ以上の鋼板のうち少なくとも1つの鋼板の化学組成が前記式(1)を満たすことで、熱間プレス成形部材の少なくとも一部の硬度は300Hv以上となる。
熱間プレス成形部材における耐食性は、以下の塗装後耐食性によって評価した。まず、熱間プレスによって図7の形状を有するハット型部材を準備し、日本パーカライジング(株)社製化成処理液(PB−SX35)で化成処理後、日本ペイント(株)社製電着塗料(パワーニクス110)を、厚みが20μmとなるように塗装し、170℃で焼付け、塗装後耐食性試験材とする。
また、4枚以上の鋼板を溶接し、熱間プレス用めっき鋼板を得ても構わない。
Claims (18)
- 異なる鋼板およびそれらの突き合わせ溶接部からなり、
前記異なる鋼板のうち少なくとも1種の鋼板の化学組成が、
質量%で、
C:0.050%〜0.800%、
Si:0.001%〜3.00%、
Mn:0.01%〜13.0%、
P:0.100%以下、
S:0.0100%以下、
Al:0.001%〜2.500%、
N:0.0150%以下、
O:0.0050%以下、
Cr:0〜5.00%、
Mo:0〜5.00%、
Ni:0〜5.00%、
Cu:0〜5.00%、
W:0〜5.00%、
B:0〜0.0100%、
Nb:0〜0.200%、
Ti:0〜0.500%、
V:0〜2.00%、
Sb:0〜1.000%、
Sn:0.000〜1.000%、
Ca:0.0000〜0.0100%、
Ce:0.0000〜0.0100%、
Mg:0.0000〜0.0100%、
Zr:0.0000〜0.0100%、
La:0.0000〜0.0100%、
Hf:0.0000〜0.0100%、及び
REM:0.0000〜0.0100%、
を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、且つ、下記式(1)を満たし、
前記突き合わせ溶接部および溶接熱影響部を含む鋼板全体において、表面にめっき層を有することを特徴とする、
熱間プレス用めっき鋼板。
- 前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の硬度と板厚の積HTの分布における最小値HTminが、前記異なる鋼板のうち1つの鋼板における平均値HT1と前記異なる鋼板のうち他の鋼板における平均値HT2とを比較したときの小さい方の値の0.80倍以上であり、
前記HTの分布における最大値HTmaxが前記HT1とHT2のうち大きい方の値の1.50倍以下であり、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の硬度の最大値Hmaxと前記1つの鋼板における硬度H1と前記他の鋼板における硬度H2のうち大きい方の値との差ΔHが100Hv以下であり、
かつ、Hmaxが400Hv以下であり、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の有効結晶粒径の分布において、前記1つの鋼板の有効結晶粒径の平均値と前記他の鋼板の有効結晶粒径の平均値のうち大きい方の有効結晶粒径dと、前記有効結晶粒径の最大値dmaxとの比(dmax/d)が5.0以下であり、
さらに、突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域において、前記異なる鋼板のうち前記1つの鋼板の炭化物の短径の平均値と前記異なる鋼板の炭化物の短径の平均値のうち大きい方の短径rと、炭化物の短径の最大値rmaxとの比(rmax/r)が3.0以下であることを特徴とする、
請求項1に記載の熱間プレス用めっき鋼板。 - 前記めっき層がアルミめっき層であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の熱間プレス用めっき鋼板。 - 前記めっき層が亜鉛めっき層であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の熱間プレス用めっき鋼板。 - 前記めっき層が合金化亜鉛めっき層であることを特徴とする、
請求項4に記載の熱間プレス用めっき鋼板。 - 質量%で、
C:0.050%〜0.800%、
Si:0.001%〜3.00%、
Mn:0.01%〜13.0%、
P:0.100%以下、
S:0.0100%以下、
Al:0.001%〜2.500%、
N:0.0150%以下、
O:0.0050%以下、
Cr:0〜5.00%、
Mo:0〜5.00%、
Ni:0〜5.00%、
Cu:0〜5.00%、
W:0〜5.00%、
B:0〜0.0100%、
Nb:0〜0.200%、
Ti:0〜0.500%、
V:0〜2.00%、
Sb:0〜1.000%、
Sn:0.000〜1.000%、
Ca:0.0000〜0.0100%、
Ce:0.0000〜0.0100%、
Mg:0.0000〜0.0100%、
Zr:0.0000〜0.0100%、
La:0.0000〜0.0100%、
Hf:0.0000〜0.0100%、及び
REM:0.0000〜0.0100%、
を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる化学組成を有し、且つ、前記化学組成が下記式(1)を満たす、1つの鋼板と、
前記鋼板とは化学組成および/または板厚の異なる1種以上の他の鋼板とを突き合わせ溶接し、
溶接後に熱処理を施し、
前記熱処理中又は前記熱処理後にめっき処理を施し、
前記熱処理は、溶接した全ての鋼板のうち少なくとも1つの鋼板の(A c1 −50)℃を上回る温度まで加熱するものであり、且つ、
前記熱処理は、
露点が−35℃以下に制御された雰囲気で加熱するものであるか、又は、
予熱バーナーに用いる空気と燃料ガスの混合ガスにおいて、単位体積の混合ガスに含まれる空気の体積と、単位体積の混合ガスに含まれる燃料ガスを完全燃焼させるために理論上必要となる空気の体積との比である空気比が0.7〜1.2とされた条件の酸化帯において加熱し、次いで、水蒸気(H 2 O)と水素(H 2 )との分圧比P(H 2 O)/P(H 2 )が0.0001〜2.0とされた還元帯において最高加熱温度まで加熱するものである、
熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
- 前記1つの鋼板の化学組成が、質量%で、
Cr:0.03〜5.00%、
Mo:0.03〜5.00%、
Ni:0.03〜5.00%、
Cu:0.03〜5.00%、
W:0.03〜5.00%、
B:0.0004〜0.0100%、
Nb:0.005〜0.200%、
Ti:0.010〜0.500%、
V:0.05〜2.00%、
Sb:0.003〜1.000%、
Sn:0.005〜1.000%、
Ca:0.0010〜0.0100%、
Ce:0.0010〜0.0100%、
Mg:0.0010〜0.0100%、
Zr:0.0010〜0.0100%、
La:0.0010〜0.0100%、
Hf:0.0010〜0.0100%、
REM:0.0010〜0.0100%、
のいずれか1種以上を含むことを特徴とする、
請求項6に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。 - 前記1つの鋼板と、前記鋼板とは化学組成および/または板厚の異なる1種以上の前記他の鋼板とを、溶接部における板厚比を3.0以下として突き合わせ溶接し、
溶接した全ての鋼板のうち少なくとも1つの鋼板の(Ac1−50)℃を上回る温度まで加熱する前記熱処理を行い、
前記熱処理は、加熱開始から冷却開始までの温度履歴が式(2)を満たし、
冷却開始から冷却完了までの温度履歴が式(4)を満たすことを特徴とする、
請求項6または7に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。
- 突き合わせ溶接後に溶接部を研削することを特徴とする、
請求項6〜8のうちいずれか1項に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。 - 前記1つの鋼板及び他の鋼板のうち少なくともいずれかの鋼板が、熱延鋼板に0.01〜85%の冷間圧延を施した冷延鋼板であることを特徴とする、
請求項6〜9のうちいずれか1項に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。 - 前記めっき処理が溶融アルミ浴への浸漬であることを特徴とする、
請求項6〜10のうちいずれか1項に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。 - 前記めっき処理が溶融亜鉛浴への浸漬であることを特徴とする、
請求項6〜10のうちいずれか1項に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。 - 前記溶融亜鉛浴への浸漬の後、合金化処理を施すことを特徴とする、
請求項12に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。 - 前記めっき処理が電気めっき処理であることを特徴とする、
請求項6〜10のうちいずれか1項に記載の熱間プレス用めっき鋼板の製造方法。 - 異なる鋼板およびそれらの突き合せ溶接部を有し、
前記異なる鋼板のうち少なくとも1種の鋼板の化学組成が、
質量%で、
C:0.050%〜0.800%、
Si:0.001%〜3.00%、
Mn:0.01%〜13.0%、
P:0.100%以下、
S:0.0100%以下、
Al:0.001%〜2.500%、
N:0.0150%以下、
O:0.0050%以下、
Cr:0〜5.00%、
Mo:0〜5.00%、
Ni:0〜5.00%、
Cu:0〜5.00%、
W:0〜5.00%、
B:0〜0.0100%、
Nb:0〜0.200%、
Ti:0〜0.500%、
V:0〜2.00%、
Sb:0〜1.000%、
Sn:0.000〜1.000%、
Ca:0.0000〜0.0100%、
Ce:0.0000〜0.0100%、
Mg:0.0000〜0.0100%、
Zr:0.0000〜0.0100%、
La:0.0000〜0.0100%、
Hf:0.0000〜0.0100%、及び
REM:0.0000〜0.0100%、
を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、且つ、下記式(1)を満たし、
前記異なる鋼板のうち1つの鋼板における硬度H1と前記異なる鋼板のうち他の鋼板における硬度H2のうち大きい方の値が300Hv以上であり、
溶接部表面を含む部材表面全体にめっき層が存在することを特徴とする、
熱間プレス成形部材。
- 前記熱間プレス成形部材において、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の硬度と板厚の積HTの分布における最小値HTminが、前記異なる鋼板のうち1つの鋼板における平均値HT1と前記異なる鋼板のうち他の鋼板における平均値HT2とを比較したときの小さい方の値の0.80倍以上であり、
前記HTの分布における最大値HTmaxが前記HT1とHT2のうち大きい方の値の1.20倍以下であり、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の硬度の最大値Hmaxと前記1つの鋼板における硬度H1と前記他の鋼板における硬度H2のうち大きい方の値との差ΔHが50Hv以下であり、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部を含む領域の母相オーステナイト粒径の最大値Dmaxと前記1つの鋼板における母相オーステナイト粒径D1と前記他の鋼板における母相オーステナイト粒径D2のうち大きい方の値との比が5.0倍以下であり、
前記突き合わせ溶接部及び溶接熱影響部における粒子径1.0μm以上の炭化物の平均密度が1.0×1.0×1010m−2以下であることを特徴とする、
請求項15に記載の熱間プレス成形部材。 - 熱間プレス後に焼戻処理を施すことを特徴とする、
請求項17に記載の熱間プレス成形部材の製造方法。
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