JP6882391B2 - 肺臓の組織工学 - Google Patents
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Description
毎年400,000人のアメリカ人が肺臓疾患で死亡する。さらに憂慮されることに、他の主要疾患カテゴリについては死亡率が減少しつつあるのに(心臓疾患、がんおよび脳卒中)、肺臓疾患による死亡率は増加しつつある。嚢胞性線維症、気腫/COPD、および特発性肺線維症を含むいくつかの肺臓疾患については、肺臓移植(lung transplantation)が今なお唯一の根治的処置である。しかし、肺臓移植後の患者生存率は、5年時点で50%、10年時点で24%しかない[Mondrinos et al., 2008, Tissue Eng 14:361-8(非特許文献1)]。したがって、移植に使用することができる人工(engineered)肺臓組織の開発が、強く求められている。人工肺臓組織の利点の一つは、患者自身の細胞を使って組織を成長させることができ、そうすることによって、現在の肺臓移植で要求されるような強い免疫抑制の必要を回避することができるという点である。免疫抑制は移植された器官の拒絶を防ぐために必要であるが、感染、悪性疾患、腎機能障害、心血管障害、および神経障害を含む広範な問題につながり得る[Pietra et al., 2000, J Clin Invest 106:1003-10(非特許文献2);Christie et al., 2009, J Heart Lung Transplant 28:1031-49(非特許文献3)]。
本発明は、細胞成長を支持する能力を有する脱細胞化組織を提供する。好ましくは、脱細胞化組織は、脱細胞化前の対応する天然組織の特徴を示す。より好ましくは、組織は肺臓である。
[本発明1001]
細胞成長を支持する能力を有する脱細胞化組織であって、脱細胞化前の対応する天然組織の特徴を示す、脱細胞化組織。
[本発明1002]
肺臓である、本発明1001の脱細胞化組織。
[本発明1003]
他の点では同一な脱細胞化前の組織の形態と実質的に類似する形態を示す、本発明1001の脱細胞化組織。
[本発明1004]
対応する天然組織の細胞外マトリックスを保持する脱細胞化組織であって、該細胞外マトリックスが、実質的にインタクトな外面を含む、本発明1001の脱細胞化組織。
[本発明1005]
免疫原性マーカーが実質的に除去されている、本発明1001の脱細胞化組織。
[本発明1006]
対応する天然組織の機械的性質と実質的に類似する機械的性質を示す、本発明1001の脱細胞化組織。
[本発明1007]
肺臓細胞の分化状態を支持し維持する能力を有する、三次元スキャフォールドと細胞の集団とを含む組成物。
[本発明1008]
三次元スキャフォールドが脱細胞化組織である、本発明1007の組成物。
[本発明1009]
インタクトな気道樹および血管網を示す、本発明1007の組成物。
[本発明1010]
前記集団が幹細胞を含む、本発明1007の組成物。
[本発明1011]
前記集団が上皮細胞および内皮細胞を含む、本発明1007の組成物。
[本発明1012]
前記細胞が遺伝子改変されている、本発明1007の組成物。
[本発明1013]
肺胞上皮細胞の分化状態を支持し維持する能力を有する、本発明1007の組成物。
[本発明1014]
スキャフォールドが、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、糖タンパク質、トロンボスポンジン、エラスチン、フィブリリン、ムコ多糖、糖脂質、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラチン硫酸、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、ビトロネクチン、ポリ-D-リジン、多糖、およびそれらの組合せからなる群より選択される生体適合性材料を含む、本発明1007の組成物。
[本発明1015]
分枝形態形成の誘導に関連する遺伝子発現を示す細胞を含む、本発明1007の組成物。
[本発明1016]
前記遺伝子がCFTRである、本発明1007の組成物。
[本発明1017]
分枝形態形成、遠位肺臓上皮細胞分化、上皮成長、血管発生、およびそれらの組合せからなる群より選択される肺臓組織の特徴を含む、本発明1007の組成物。
[本発明1018]
播種済スキャフォールドを作製するために脱細胞化スキャフォールドに細胞の集団を播種する工程を含む、肺臓細胞の分化状態を支持し維持する能力を有する人工三次元組織を製作する方法。
[本発明1019]
脱細胞化スキャフォールドがインタクトな気道樹および血管網を示す、本発明1018の方法。
[本発明1020]
前記集団が幹細胞を含む、本発明1018の方法。
[本発明1021]
前記集団が上皮細胞および内皮細胞を含む、本発明1018の方法。
[本発明1022]
前記細胞が遺伝子改変されている、本発明1018の方法。
[本発明1023]
脱細胞化スキャフォールドが肺胞上皮細胞の分化状態を支持し維持する能力を有する、本発明1018の方法。
[本発明1024]
スキャフォールドが、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、糖タンパク質、トロンボスポンジン、エラスチン、フィブリリン、ムコ多糖、糖脂質、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラチン硫酸、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、ビトロネクチン、ポリ-D-リジン、多糖、およびそれらの組合せからなる群より選択される生体適合性材料を含む、本発明1018の方法。
[本発明1025]
分枝形態形成の誘導に関連する遺伝子発現を示す細胞を含む、本発明1018の方法。
[本発明1026]
前記遺伝子がCFTRである、本発明1018の方法。
[本発明1027]
人工三次元組織が、分枝形態形成、遠位肺臓上皮細胞分化、上皮成長、血管発生、およびそれらの組合せからなる群より選択される肺臓組織の特徴を示す、本発明1018の方法。
[本発明1028]
試験作用因子を人工三次元肺臓組織モデルに接触させる工程と、該試験作用因子が該モデルに及ぼす効果を測定する工程とを含む、肺臓組織の健康状態を調整する試験作用因子の能力に関して試験作用因子をスクリーニングするためのインビトロ方法であって、該モデルに加えられるいずれの変更も、試験作用因子が肺臓組織の健康状態を調整できることを示す、インビトロ方法。
[本発明1029]
人工三次元組織が脱細胞化スキャフォールドに由来する、本発明1028の方法。
[本発明1030]
試験作用因子が、化学剤、医薬、ペプチド、核酸、および放射線からなる群より選択される、本発明1028の方法。
[本発明1031]
試験作用因子が治療剤のための送達媒体である、本発明1028の方法。
[本発明1032]
細胞数、面積、体積、形状、形態、マーカー発現、または染色体断片化に対する試験作用因子の効果を決定する工程を含む、本発明1028の方法。
[本発明1033]
肺臓組織モデルに対して所望の効果を持つ作用因子を選択する工程をさらに含む、本発明1028の方法。
[本発明1034]
肺臓細胞の分化状態を支持し維持する能力を有する三次元構築物を含む組成物の治療有効量を哺乳動物に投与し、それによって哺乳動物における肺臓欠陥を軽減または処置する工程を含む、哺乳動物における肺臓欠陥を軽減または処置する方法。
[本発明1035]
細胞成長を支持する能力を有する脱細胞化組織を含む埋植可能な組成物であって、脱細胞化組織が脱細胞化前の対応する天然組織の特徴を示す、組成物。
[本発明1036]
細胞の集団を含み、肺臓細胞の分化状態を支持し維持する能力を有する、本発明1035の組成物。
[本発明1037]
前記集団が幹細胞を含む、本発明1036の組成物。
[本発明1038]
前記集団が上皮細胞および内皮細胞を含む、本発明1036の組成物。
[本発明1039]
前記細胞が遺伝子改変されている、本発明1036の組成物。
本発明は人工肺臓組織を提供する。本発明は、一つには、天然肺臓組織の特徴を示すように三次元肺臓組織を生成させることができるという発見に基づいている。
別段の定義がない限り、本明細書において使用する技術用語および科学用語は全て、一般に、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解しているものと同じ意味を持つ。一般に、本明細書において使用する用語体系、ならびに細胞培養、分子遺伝学、有機化学、ならびに核酸化学およびハイブリダイゼーションにおける実験手法は、当技術分野において周知であり、通常使用されているものである。
本発明は、人工三次元肺組織、およびその三次元肺組織を製作する方法を提供する。好ましくは、肺組織は肺臓組織である。ある態様において、人工肺組織は、天然肺組織によって例示される分枝形態形成を示す。したがって本発明は、天然肺組織を模倣するインビトロモデルを提供する。インビトロ三次元肺組織モデルは、例えば創薬、毒性試験、疾患病理学などに役立つ。
本発明は、当技術分野において公知の組織工学的技法を上回る進歩を提供する。具体的には、本発明は、脱細胞化組織(好ましくは哺乳動物から得られる脱細胞化天然組織)を出発源として使用して、人工組織スキャフォールドを製作する方法を提供する。
本発明は、組織を脱細胞化しかつ/または再細胞化するためのシステム(例えばバイオリアクタ)を提供する。バイオリアクタは、細胞生存性、細胞の分化状態、および肺臓形態の維持を可能にする。脱細胞化スキャフォールドは、適切な細胞源と共にバイオリアクタ中で培養すると、肺の内皮、上皮、および間葉細胞を含む広範な細胞タイプの接着および増殖を支持することができる。本発明のバイオリアクタには、生体(vivo)環境の重要な特質が組み込まれている。本バイオリアクタは、脱細胞化および/または再細胞化プロセスを最適化するための変更が可能なように設計された。ある態様では、バイオリアクタが、使用者の指定した流量かつ哺乳動物の生理的流量レベルおよび生理的圧力レベル内で、脈管構造を通して培地を灌流させる能力を有する。別の態様では、バイオリアクタが、気管を通して空気または培地で組織(例えば肺臓)を換気する能力を有する。好ましくは、正常な生理学的条件と合致するように陰圧換気法が使用されるが、陽圧を使った換気を行うこともできる。さらに別の態様において、バイオリアクタは、組織の血管コンパートメントと気道コンパートメントを異なる培地タイプで浸すことを可能にする能力を有する。別の態様において、バイオリアクタは、培養培地へのガス交換を可能にすると同時に、換気に関する所望の要件を満たす。別の態様では、バイオリアクタが、圧力測定(例えば肺動脈圧および気管圧の測定)を可能にするためのポート(port)を持つ。好ましくは、圧力は正常な生理学的値の範囲内にある。別の態様では、バイオリアクタが、定期的な培地交換を可能にする手段を持つ。
本発明の組成物は、人工肺臓組織を含む。好ましくは、人工肺臓組織は、以下に挙げる性質の任意の1つまたは複数を示す:1)開存性の灌流された脈管構造と、換気することができる開存性の気道樹とが存在する、脈管構造および気道;2)人工肺臓が、レシピエントの生理学的必要を支えるために、気道と血管コンパートメントとの間で十分な気体を交換する能力を有し、最も好ましくは、肺静脈中の酸素分圧が少なくとも50mmHgであるような、ガス交換;3)人工組織が、必要とされる全ての動き(特に呼吸運動および血管灌流)にも外科的埋植中の操作にも耐え得るほど十分に強いような、力学的性質;4)レシピエントに埋植された時に人工肺臓組織が免疫応答を惹起しないような、免疫原性。
本発明は、哺乳動物における肺臓細胞治療を容易にするために本発明の脱細胞化組織を使用することができるという発見に関する。
本発明では、インビトロ環境とインビボ環境の両方での人工組織の使用が考えられる。したがって本発明は、研究目的および治療目的もしくは医学的/獣医学的目的での人工組織の使用を提供する。研究環境では、この技術に関して、数多くの実用的応用が存在する。そのような応用の一例は、エクスビボがんモデル(例えばさまざまなアブレーション技法(例えば放射線処置、化学療法処置、またはそれらの組合せを含む)の有効性を実験室で調べ、そうすることによって処置方法を最適化するために病気の患者を使用することを避けるためのものなど)における人工組織の使用である。例えば、新しく摘出した肺臓をバイオリアクタに取り付け、その肺臓を処理して組織をアブレートすることができる。インビボ使用の別の例は、組織工学のための使用である。
本発明は、肺臓の疾患または障害に関して、試験化合物の治療活性の評価を可能にするのに適したインビトロ法を提供する。好ましくは、本方法は、人工三次元肺臓組織の使用を含む。
a)正常肺臓組織をモデル化することを意図した少なくとも1つの三次元肺臓組織モデルを用意する工程;
b)試験作用因子を肺臓組織モデルと接触させる工程;および
c)試験作用因子が肺臓組織モデルに対して持つ効果を観察する工程。
以下に実験例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、例示のために記載するに過ぎず、別段の指定がない限り、限定を意図するものではない。したがって本発明は、決して、以下の実施例に限定されると解釈されるべきではなく、本発明は、本明細書が提供する教示の結果として明白になる、ありとあらゆる変形を包含すると解釈すべきである。
脱細胞化器官は、組織工学スキャフォールドとしての使用に、いくつかの利点をもたらす。ある局面において、脱細胞化スキャフォールドは、肺臓の場合であれば血管系および気道網を含む組織機能のための適当な三次元構成を持つ。また、細胞外マトリックス(ECM)構成要素は、種を超えて広く保存されているので、異種埋植時に脱細胞化スキャフォールドが免疫応答を誘導する可能性は低い[Bernard et al., 1983, Biochemistry 1983;22:5213-23]。別の局面において、未変性ECMは、細胞の付着、伝播、成長および分化にとって、最適な基質を提供する。
器官収集
肺臓を若年成体(3ヶ月齢)雄フィッシャー344ラットから収集した。動物実験の作業は全て、イェール大学施設内動物実験委員会(Yale University Institutional Animal Care and Use Committee)からの承認を受けて行われた。動物をペントバルビタールナトリウム(Sigma、40mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔した。麻酔の誘導後に、肋骨縁の直下で横切開によって腹部に入った。横隔膜を穿刺し、胸郭を切って、肺臓を露出させた。50U/mlヘパリン(Sigma)を含有するPBSで右心室を通して肺臓を灌流した。灌流が完了した後、心臓、肺臓および気管を切り離し、ひとまとめにして取り出した。
バイオリアクタ構成要素はCole-Parmer(イリノイ州バーノンヒルズ)から入手した。シリコーン栓と500mlのガラス製広口瓶とがバイオリアクタの基礎をなした。灌流ループおよび空気換気を含む、肺臓への必要な接続が可能になるように、シリコーン栓を通して、サイズL/S14およびL/S16のPharMedチューブ(オハイオ州ウェストレーク)を挿入した。圧力は、灌流ポンプと肺動脈への接続との間のTruWave圧変換器(Edwards Lifesciences、カリフォルニア州アービン)を使って監視した。灌流はMasterflex L/S可変速ローラーポンプ(Masterflex、イリノイ州バーノンヒルズ)を使って達成した。
脱細胞化に使用した流体は、PBS中の8mM CHAPS、1M NaCl、25mM EDTAだった。化学薬品は全てSigmaから入手し、PBSはGibcoから入手した。バイオリアクタを脱細胞化流体で満たし、バイオリアクタを37℃に保たれたインキュベータに移した。灌流圧は肺動脈幹への流入時に監視し、30または20mmHg未満に維持した。脱細胞化流体は以下の時点で新鮮な流体と交換した:30分、1時間、2時間、4時間、6時間。大半の条件について、4時間後または6時間後に脱細胞化を停止した。
Quant-iT PicoGreen dsDNAアッセイキット(Invitrogen、オレゴン州ユージーン)を、製造者の説明書に従って使用することにより、組織のDNA含量を定量した。簡単に述べると、組織試料を重量測定し、凍結乾燥し、TE緩衝液で希釈し、Quant-iT PicoGreen試薬と混合した。蛍光を485nmで励起して535nmで測定し、標準曲線を使ってDNA含量を定量した。未変性試料と脱細胞化試料の両方について、少なくとも4つの試料を測定した。
ウェスタンブロッティング用の組織を、プロテアーゼ阻害剤(Sigma)を添加した冷RIPA緩衝液(Boston Bioproducts)中で消化し、15,000rpmで30秒間ホモジナイズした。4℃で1時間インキュベートした後、14,000gで25分間の遠心分離によって、不溶性粒子を除去した。タンパク質濃度をBradfordアッセイ[Bradford, 1976, Anal Biochem 72:248-54]によって定量した後、Laemmli還元緩衝液(Boston Bioproducts)中、65℃で25分間、煮沸した。試料を分析まで-80℃で保存した。25〜30μgのタンパク質を使って、さまざまなパーセンテージのポリアクリルアミドゲルで、試料を泳動した。電気泳動後に、タンパク質をニトロセルロース膜に転写した。膜をTBS中ですすいだ後、0.05%Tween-20を含むTBS(TBS-T)中の5%脱脂粉乳(NFDM)または3%ウシ血清アルブミン中で、1時間ブロッキングした。一次抗体を、TBS-T中の2%NFDMまたは3%BSA中で、一晩適用した。二次抗体は、ロバまたはヤギにおいて産生させたものを、Santa Cruzから入手し、1:2000の希釈度で室温において1時間適用した。Supersignal West Picoから得た基質(これを5分間適用してから、フィルム現像した)を使ってタンパク質を検出した。
組織ブロックを3.7%ホルムアルデヒド(Sigma)中で4時間固定した後、70%エタノールに移し、パラフィンに包埋した。イェール大学組織学中核施設(Yale University Histology core facility)によって薄い(5μm)切片が調製された。組織切片をキシレン中で脱パラフィンし、エタノール勾配によって再水和し、緩衝液(PBS+0.2%Triton-X)中で15分間すすいだ。抗原回復(antigen retrieval)を0.01Mクエン酸、pH6.0中、70℃で20分間行った。室温まで冷却した後、切片を緩衝液中ですすぎ、次にPBS中、5%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.75%グリシンで、室温において1時間ブロッキングした。一次抗体を、ブロッキング緩衝液中、適当な濃度で、4℃において一晩適用した。スライドを緩衝液中で3回すすいだ後、二次抗体をブロッキング緩衝液中、1:500希釈で、室温において1時間適用した。二次抗体は、Invitrogenから入手したAlexFluor555ロバ抗ヤギまたは抗ウサギ抗体およびAlexaFluor488ニワトリ抗ウサギ抗体とした。DAPI含有封入剤(Vector Labs)を使ってスライドを封入し、Zeiss Axiovert 200M倒立蛍光顕微鏡を使って画像を取得した。
0.1Mカコジル酸緩衝液(EMD Biosciences、ニュージャージー州ギブスタウン)中の2%グルタルアルデヒドおよび2.5%パラホルムアルデヒドを使って試料を室温で2時間固定した後、カコジル酸緩衝液中ですすぎ、薄切し、エタノール勾配によって脱水した。試料をヘキサメチルジシラザン中で10分間さらに脱水し、一晩乾燥した後、金でスパッタコーティングし、イェール大学地質学および地球物理学施設(Yale University Geology and Geophysics facility)においてJOEL JXA-8600を使って分析した。
PBS中の4%パラホルムアルデヒドを使って試料を固定した後、0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝固定剤(pH7.4)中の2%グルタルアルデヒドおよび2.5%パラホルムアルデヒドに、室温で2時間入れておいた。試料を0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液中で3回すすぎ、1%四酸化オスミウム中で1時間、後固定し、次に、マレイン酸緩衝液(pH5.2)中の2%酢酸ウランにおいて、さらに1時間、一括して染色した。次に、試料をすすぎ、段階的エタノール系列によって脱水し、エポン樹脂を浸透させ、60℃で一晩ベーキングした。硬化したブロックを、Leica UltraCut UCTを使って切断し、ニッケルグリッド上に60nm切片を集め、2%酢酸ウランおよびクエン酸鉛を使って染色した。80kVのFEI Tencai Biotwin TEMで試料を観察した。Morada CCDデジタルカメラを使用し、iTEM(オリンパス)ソフトウェアを使って、画像を撮影した。
脱細胞化肺臓または未変性肺臓を、本明細書の他の項で説明するように、カニューレに取り付け、その肺臓を、気管を通して、5μmのマイクロスフェアを含有するPBSで膨らませた。次に、脈管構造を、PBS各10mlのすすぎ液で3回フラッシングした。マイクロスフェアをdH2O中で2回洗浄して、細片を除去し、溶解しなければ未変性肺臓の読みに影響を及ぼすであろう細胞を全て溶解した。4.9μm〜5.1μmの粒子を測定するように設定したCoulter計数器を使って、各試料中のマイクロスフェア濃度を定量し、マイクロスフェア注入前に測定したベースラインの読みと比較した。
未変性肺臓または脱細胞化肺臓を10%中性緩衝ホルマリン(Sigma)中で固定し、気道または脈管構造を通して造影剤を注入した。造影剤はPBS中の20%ビスマスおよび5%ゼラチン(Sigma)とした。造影剤の注入後、肺臓を氷浴で冷却してゼラチンを重合させた。
本発明に提示する結果は、インタクトな齧歯類肺臓の完全な葉から細胞材料を除去する脱細胞化方法を証明している。1M NaCl、8mM CHAPSおよび25mM EDTAを使った脱細胞化は、細胞材料を除去するのに最適であり、しかもコラーゲンまたはエラスチン線維を除去せず(組織像に基づく)、マトリックスの構造的完全性も損傷しないらしい(機械的試験に基づく)ことが観察された。これに比して、SDSを含有する溶液による脱細胞化は、マトリックスの機械的強度を損なうことが見いだされた。他の条件は、細胞材料を効率よく除去しないか、マトリックスの完全性の著しい低下を引き起こすことが見いだされた。
組織学的検査を使って数多くの脱細胞化肺臓スキャフォールドを特徴付けた。核およびDNAに関するH&E染色およびDAPI染色によれば、脱細胞化肺臓は、インタクトな細胞をただ一つも示さなかった。時折、巻き戻されたDNAまたは細胞抗原が観察されたが、インタクトな細胞は観察されなかった。図1は、未変性肺臓および脱細胞化肺臓のH&E染色を示し、一方、図2は、残存DNAに関するDAPI染色を示している。標準的組織切片では肺胞中隔がインタクトに見え、大きい気道および血管もそうであったという事実に基づいて、肺構造の保存も観察された。
細胞材料の完全な除去は、いくつかの理由で重要である。第1に、スキャフォールドを組織工学的応用に使用するつもりである場合は、スキャフォールドに新しい細胞源を播種する前に、全ての細胞がスキャフォールドから除去されることを確実にしなければならない。人工組織がインビボ応用に使用される場合は、いかなる残存細胞材料も、再播種済スキャフォールドの評価を複雑にするだけでなく、免疫合併症を引き起こすだろう[Conconi et al., 2005, Transpl Int 18:727-34;Macchiarini et al., 2008, Lancet 372(9655):2023-30;Alexander et al., 2009, Cell Transplant 18:255-9]。そのため、本発明のスキャフォールドは、MHCクラスIおよびII抗原がどちらも脱細胞化スキャフォールド中に存在しないことが確認された。第2に、細胞外マトリックスの肺臓力学への寄与を個別に評価するために、全ての細胞構成要素を除去すべきである。末梢肺臓力学に寄与し得る2クラスの構成要素は、細胞材料と細胞外マトリックスである。細胞外マトリックスはさらに、主としてコラーゲン、エラスチン、およびプロテオグリカンに分割することができる[Cavalcante et al., 2005, J Appl Physiol 98:672-9;Dunsmore et al., 1996, Am J Physiol 270:L3-27;Ito et al., 2005, J Appl Physiol 98:503-11;Suki et al., 2005, J Appl Physiol 98:1892-9]。脱細胞化スキャフォールドからの細胞構成要素の除去を確実にすることにより、スキャフォールドの機械的性質を評価することができる。
脱細胞化スキャフォールドの免疫原性を、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIおよびII抗原に関する染色によって特徴付けた。MHCクラスIおよびIIタンパク質は、抗原-特異的免疫応答において重要な膜糖タンパク質である。MHCクラスI抗原は全ての有核細胞において発現し、MHCクラスII抗原は免疫系の特殊化した細胞上に見いだされる。MHCクラスI抗原は生物が「自己」を「非自己」と識別することを可能にするので、将来的に動物モデル中に人工肺臓組織を埋植した際の免疫問題を回避するには、脱細胞化スキャフォールドから除去することが重要である。図3に、MHCクラスIおよびII抗原ならびにβ-アクチンに関するウェスタンブロッティングの結果を図示する。免疫ブロッティングによってMHCクラスIおよびII抗原の両方の完全な喪失が観察されたことから、脱細胞化スキャフォールドは、組織工学的応用に使用しても、著しい免疫応答を惹起しないと予想されることが確認された。β-アクチンも失われたことは、細胞材料の非存在と合致する。宿主に埋植された場合にスキャフォールドが免疫応答を惹起する可能性は低いと考えられる。
コラーゲン:コラーゲンは、肺臓の最も重要な構造的構成要素であり、組織の総合的な機械的強度を、主に担っている。免疫蛍光を使って、図4に示すように、未変性肺臓および脱細胞化肺臓におけるコラーゲンIおよびIVの分布を特徴付けた。コラーゲンIおよびIVはどちらも脱細胞化マトリックスによって保持されており、コラーゲンIは主により大きな気道および脈管構造付近に認められ、コラーゲンIVは実質全体に認められる。類似する染色パターンが、未変性肺臓にも脱細胞化肺臓にも認められた。これらのコラーゲンサブタイプがそれぞれ解剖学上適切な場所に保存されることにより、人工肺臓組織の開発時に、細胞タイプの選択的沈着が可能になるだろう。
走査型電子顕微鏡法(SEM)を使って、脱細胞化肺臓スキャフォールドの微細構造を評価した。図5に、細胞が除去され、しかも肺胞アーキテクチャが全体的に維持されていることを証明するサンプル画像を示す。脱細胞化肺臓中の肺胞はわずかにしぼんでいるように見えたが、これは固定の人為的結果である。未変性肺臓は、固定剤で肺臓を膨らませることによって固定したが、脱細胞化肺臓は、加圧時に肺胞コンパートメント内に固定剤流体を含有することができないので、しぼんだ外観の肺臓を与える。しかし、肺胞アーキテクチャは概して類似しており、肺胞中隔が保存されている。これらの結果は、組織学的研究による知見と共に、全体的な肺の気道アーキテクチャおよび肺胞中隔を含む肺胞構造が、脱細胞化スキャフォールドにおいてインタクトであったことを示している。
走査型EM研究に加えて、透過型EM(TEM)も使って、毛細管-肺胞基底膜を調べた。インタクトな毛細管網の存在は、脱細胞化スキャフォールドが、肺胞腔への高分子の移行に対抗することを可能にし、人工肺臓組織における毛細管内皮の成長にとって適切な基質にもなるので、これは、脱細胞化スキャフォールドの決定的に重要な特質である。
齧歯類の肺血管系における典型的な圧力は15mmHg未満であり[Lee et al., 1999, Cell 99:301-12]、これは上記の研究で利用した30mmHgよりもかなり低い。灌流圧を下げるために灌流の流量を低下させ、血管拡張剤を使用したにもかかわらず、脱細胞化灌流圧を30mmHg未満に維持することは困難だった。しかし、脱細胞化プロトコールをわずかに変更すれば脱細胞化時の灌流を約20mmHg未満の圧力で行うことが可能になることが、発見された。重要なことに、これは毛細管構造の保持を可能にした。この変更には、脈管構造を通して脱細胞化流体の灌流を始める前に、気道コンパートメントを脱細胞化流体で洗浄することが含まれた。その結果、血管灌流圧が、特に脱細胞化プロセスの開始時において、有意に低下した。図8に示すように、この技法は、脱細胞化スキャフォールドにおける毛細管構造の保持を可能にした。毛細管の保持は、脱細胞化肺臓スキャフォールドの作出における重要な進展であると考えられる。
肺臓がインビボで機能するには、肺胞および間質腔への大量の血液損失を回避するために、肺臓が、開存性で漏出しにくい連続した脈管構造を持たなければならない。5μmマイクロスフェアを気道コンパートメント中に保持して脈管構造へのこれらの高分子の輸送を許さない脱細胞化肺臓スキャフォールドの能力を評価した。脈管構造中に保たれる必要があるであろう血液の主要構成要素である赤血球のサイズを模倣するために、5μm粒子を使用した。したがって、気道から脈管構造への5μm粒子の漏出を、脱細胞化膜を横切るそのような粒子の移動に著しい指向性はないという仮定の下で評価した。
マイクロCTイメージングを使って、脱細胞化肺臓スキャフォールドの気道および血管コンパートメントの開存性を評価した。この技法により、肺臓スキャフォールドの三次元像を得ることが可能になり、気道および血管コンパートメントの開存度の同定が容易になる。
スキャフォールドの機械的性質に焦点を絞って脱細胞化スキャフォールドの組成をさらに詳しく評価するために、以下の実験を計画した。いかなる特定の理論にも束縛されることは望まないが、脱細胞化肺臓スキャフォールドは、主にコラーゲンおよびエラスチンからの寄与によって、未変性肺臓の顕著な機械的特質を保っていると考えられる。本明細書に提示する結果は、細胞の寄与には依存しない肺臓力学を研究するためのプラットフォームとしての脱細胞化肺臓組織の有用性を証明している。
器官収集および脱細胞化
本明細書の他の項で説明したように肺臓組織を収集し、脱細胞化した。
組織学的検査を使って数多くの脱細胞化肺臓スキャフォールドを特徴付け、細胞材料の除去を確認した。組織を固定し、パラフィン包埋し、薄切りした。分析は、標準的なヘマトキシリンおよびエオシン染色(H&E)、コラーゲンに関するMassonのトリクローム染色、エラスチンに関するVerhoff van Gieson染色、およびプロテオグリカンに関するアルシアンブルー染色、ならびに4'6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を用いるDNAの染色によって行った。
改変されたGrantの方法[Grant 1964, 1964, J Clin Pathol 17:685-6]を使ってOH-プロリンを検出する比色アッセイで、コラーゲンを定量した。肺臓試料を凍結乾燥し、重量測定した後、パパイン(140μg/ml)中、60℃で一晩インキュベートした(Sigma)。パパイン消化した試料を6N HCl中、115℃で18時間インキュベートし、中和し、クロラミンTで酸化し、p-ジメチルアミノベンズアルデヒドと反応させた。吸光度を波長550nmで測定し、1:10(w/w)というヒドロキシプロリン対コラーゲンの比を使って、組織のコラーゲン含量を算出した。未変性試料および脱細胞化試料について少なくとも4つの試料を測定した。
Fastinエラスチン・アッセイ・キット(Biocolor、北アイルランド・ベルファスト)を使ってエラスチンを定量した。肺臓試料をまず凍結乾燥し、重量を測定してから、Foronjy et al.[Foronjy et al., 2008, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 294:L1149-57]に記載の方法に従って、エラスチンを抽出した。試料を0.25Mシュウ酸と共に100℃でインキュベートした後、10,000gで遠心分離し、上清を取り置いた。5回の抽出から得られた上清をプールし、6回目の抽出から得られた上清も、組織中にもうエラスチンが残っていないことを確かめるために測定した。10,000分子量カットオフフィルタ(Millipore)を使ってシュウ酸を除去した後、dH2Oに再懸濁し、Fastinエラスチンキットを使って、製造者の説明書に従って分析した。未変性試料および脱細胞化試料について、少なくとも4つの試料を測定した。
Blyscan GAGアッセイキットを使って、コンドロイチン、デルマタン、ヘパランおよびケラタン硫酸を含む硫酸化グリコサミノグリカン(sGAG)を定量した。パパイン消化した試料(上記コラーゲンアッセイについて説明したように調製したもの)を、製造者の説明書に従ってアッセイした。簡単に述べると、硫酸化GAGを1,9-ジメチル-メチレンブルー色素で標識し、吸光度を650nmで測定した。
10Nロードセルを装着したInstron 5848を使って未変性肺臓および脱細胞化肺臓試料を分析した。既知寸法の組織切片を20%歪みまで10サイクルにわたって周期的にプレ伸張して弾性的性質を調べた後、破損するまで伸張して、極限引張強さ(UTS)を評価した。試験プロトコールの図解については図11を参照されたい。組織寸法を使って、工学応力および工学歪みを力と距離から算出した。
図12Cに示すように、脱細胞化スキャフォールド中のコラーゲン含量は、未変性肺臓と識別できなかった。コラーゲンは肺臓の機械的強度に重要な役割を果たすので、コラーゲンのこの保存は重要である。コラーゲン含量は、図12に示すMassonのトリクロームによる組織化学的染色でも維持されていた。同様に図12Cに示すように、適切でないことがわかった脱細胞化法の一つであるSDSで脱細胞化したスキャフォールドでは、コラーゲン含量が減少した。コラーゲンのこの喪失は、SDS脱細胞化スキャフォールドにおける低下した機械的完全性と相関すると考えられる。
プロテオグリカンは、1つまたは複数のグリコサミノグリカン(GAG)鎖に連結したコアタンパク質からなる。大半のGAGは硫酸化されており、それが定量的アッセイによるそれらの検出を可能にする。その結果を図14に示す。脱細胞化スキャフォールドのGAG含量は、未変性肺臓より有意に低かった(未変性肺臓レベルの約6%)。プロテオグリカンは、細胞表面上または細胞外マトリックス内に見いだされ[Ferdous et al., 2007, Tissue Engineering 13:1893-904]、それらの除去は、一つには、細胞結合型GAGの除去によるものである。しかし、ECM内に見いだされるGAGも、脱細胞化溶液によって可溶化され得る。図14は、プロテオグリカンに関するアルシアンブルー組織染色であり、これは、脱細胞化肺臓スキャフォールド中に残っているGAGの量が未変性肺臓と比較して減少したことを示しており、定量的アッセイの結果が確認された。
末梢肺臓条片の機械的試験を使って、未変性肺臓試料および脱細胞化肺臓試料の両方の準静的力学を評価した。応力-歪み曲線の弾性域は、未変性試料と脱細胞化試料がどちらも履歴挙動を表したことを示している。履歴現象は肺臓が粘弾性材料であることを証明しており、拡大曲線と弛緩曲線の間の相違は、弛緩中に回復されないエネルギーを表す。また、図15に示すように、試料はクリープを起こさなかった。仮に肺臓組織がクリープを起こすとすると、拡張後に元の位置に収縮することはなく、それゆえに肺臓は決して完全には収縮せず、ガス交換が損なわれるであろう。この適当な弾性肺臓挙動の保存は、肺臓スキャフォールドにとって重要である。なぜなら、肺弾性の喪失は、いくつかの疾患状態、とりわけ肺気腫に見られるからである[Gelb et al., 2002, Chest 121:715-21]。
バイオリアクタを使って3次元肺臓組織をインビトロで培養することができる。そのようなバイオリアクタの開発は、人工肺臓組織の成長に関する研究を行うのに有益であるばかりでなく、肺生物学の研究にも有益であるだろう。成人肺臓細胞の長期インビトロ培養を可能にするシステムは、今のところない。
全肺臓培養
肺臓を若年成体(3ヶ月齢)雄フィッシャー344ラットから収集した。動物実験の作業は全て、イェール大学施設内動物実験委員会からの承認を受けて行われた。動物をペントバルビタールナトリウム(Sigma、40mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔した。麻酔の誘導後に、胸部および腹部にエタノールを噴霧し、肋骨縁の直下で横切開を施し、腹腔に入った。横隔膜を穿刺し、肺臓に触れないように注意しながら肋骨を後退させた。下大静脈を切断し、50U/mlヘパリン(Sigma)および1μg/mlニトロプルシドナトリウム(Sigma)を含有する20〜30mlのPBSで右心室を通して肺臓を灌流した。次に気管を切り離し、できるだけ高く切った。心臓および肺臓への残りの接続を全て切り離して、心臓、肺臓および気管をひとまとめにして動物から取り出せるようにした。
器官の除去後に、気管と、心臓の右側を通して肺動脈幹とに、カニューレを接続した。心尖を円刃刀で切り落とし、直角カニューレを右心室を通して肺動脈幹へと挿入した。このカニューレにシリンジを取り付け、漏出を伴わない適正なカニューレ設置と肺臓の十分な灌流とを確かめるために、5〜10mlのヘパリン化食塩水を注入した。次に、このカニューレを心臓に縫合糸で固定した。別の真っ直ぐな返し付(barb-end)カニューレを気管に挿入し、縫合糸で固定した。次に、肺臓をバイオリアクタに接続し、本明細書の他の項で説明するプロトコールに従って、脱細胞化した。
バイオリアクタの構成要素は、別段の注記がない限り、Cole-Parmer(イリノイ州バーノンヒルズ)から入手した。シリコーン栓と500mlのガラス製広口瓶とがバイオリアクタの基礎をなした。灌流ループ、気管接続、空気換気、および培地交換ポートを含む肺臓への必要な接続が可能になるように、シリコーン栓を通して、サイズL/S14およびL/S16のPharMedチューブ(オハイオ州ウェストレーク)を挿入した。圧力は、灌流ポンプと肺動脈への接続との間のTruWave圧変換器(Edwards Lifesciences、カリフォルニア州アービン)を使って監視した。灌流はMasterflex L/S可変速ローラーポンプ(Masterflex、イリノイ州バーノンヒルズ)を使って達成した。換気は、多チャンネルプログラマブルシリンジポンプ(Cole Parmer)を使って行い、吸気と呼気をそれぞれ10mlの体積で30秒間かけて行った。バイオリアクタの略図を図17に示す。
所望の培養期間後に、肺臓を固定し、パラフィン包埋し、薄切りした。所定の組織学的検査(H&E)を、アクアポリン5(I型上皮)、サーファクタントタンパク質C(II型上皮)、CCSP(クララ細胞)、およびPECAM-1(内皮)に関する免疫蛍光法と共に行った。切片をキシレン中で脱パラフィンし、再水和し、0.2%Triton-Xを含むPBS(緩衝液)と共に15分間インキュベートした。PBS中の0.02Mクエン酸を使って、75〜85℃で20分間、抗原回復を行った後、切片を緩衝液中ですすいだ。ブロッキングは、PBS+1%ウシ血清アルブミンおよび0.75%グリシンを使って室温で1時間行った。一次抗体を緩衝液ですすぎ落とし、二次抗体を1:500の希釈度で室温において1時間適用した。二次抗体はInvitrogenから入手した(AlexaFluor555またはAlexaFluor488x)。画像はZeiss Axiovert 200M倒立蛍光顕微鏡を使って取得した。
バイオリアクタにおける肺臓の換気が、培地の移動を誘発して脈管構造を灌流するのに十分であるかどうかを決定するために、5μmポリスチレンマイクロスフェア(SPI Supplies、ペンシルバニア州ウェストチェスター)を使って簡単なアッセイを開発した。肺臓を、本明細書の他の項で説明するように、バイオリアクタに接続し、換気したが、灌流はしなかった。バイオリアクタチャンバを、1000万個のマイクロスフェアを含有する100mlの培地(培地1mlあたり10万個のマイクロスフェア)で満たした。培養を換気だけで3時間続けた。次に肺臓を固定し、パラフィン包埋し、薄切し、所定の組織学的検査(H&E)を使って分析した。
バイオリアクタには、齧歯類インビボ環境の重要な特質を組み入れると共に、所望する条件に応じて使用者がいくつかの重要なパラメータを調整できるようにも設計した。設計目標は次のとおりである。
・システムは、使用者が指定した、生理的レベルの範囲内にある速度で、脈管構造を通して培地を灌流させる能力をもたなければならない。
・システムは、空気または培地を使って気管を通して肺臓を換気する能力をもたなければならない。正常な生理的条件と合致するように、陰圧換気が好ましく、肺臓を絶えず換気できることが好ましい。
・バイオリアクタは、好ましくは、肺臓の血管コンパートメントと気道コンパートメントとを異なる培地タイプで浸すことを可能にするべきである。
・バイオリアクタは、換気に関する上記の要件を満たすと同時に、培養培地へのガス交換も可能としなければならない。
・バイオリアクタは、肺動脈および気管圧の圧力測定を可能にするポートを持たなければならない。圧力は、理想的には、正常な生理学的値の範囲内にあるべきであり、肺動脈圧は15〜30mmHg未満である[Li et al., 2004, Proc Natl Acad Sci USA 101:11488-93]。
・バイオリアクタは、定期的な培地交換を可能にする手段を持たなければならない。
・バイオリアクタは、標準的な組織培養インキュベータの物理的境界内に収まり得るように、小さくかつ自給式でなければならない。
・全てのバイオリアクタ構成要素は、安価かつ入手が容易でなければならない。
・バイオリアクタおよび全ての構成要素は(好ましくはオートクレーブによる)滅菌が、可能でなければならない。
肺臓への灌流は、バイオリアクタ本体から肺動脈へと培地を循環させるローラーポンプによって行った。使用者は灌流量を指定することができる。心臓の右心室を通した肺動脈幹へのカニューレの接続が容易になるように、ラットの心臓を肺臓に取り付けたままにしておく。ただし肺静脈は灌流ループに直接的には接続しなかった。むしろ肺静脈は心臓の左側からメインバイオリアクタリザーバに直接的に排液した。肺臓の静脈排出路はメインバイオリアクタ中に直接出る。
バイオリアクタは陽圧換気と陰圧換気がどちらも可能だった。インビボでは、呼吸は通常、陰圧換気によって達成される。横隔膜が収縮し、胸郭が拡大して、胸腔内に陰圧を生じ、それが、この圧力不均衡を緩和するべく肺臓内に空気を流入させる。吸気後に、呼吸筋が弛緩し、肺臓は受動的にしぼむ。
図17に図示するように、気管への接続には、Y字連結器と、バイオリアクタ本体に向かって開く一方向弁が必要である。このタイプの接続は、流体の気道コンパートメントからの漏出ゆえに必要になる。吸気時は、ある体積の培地が肺臓に入る。しかし、この培地の一部は肺胞膜を横切って間質腔または脈管構造へと漏出する。それゆえ、吸気時に肺臓に進入した培地の全てが、呼気時に気管リザーバに戻ることができるわけではない。図17に示す設計には、吸気時には全ての培地が肺臓に進入することを許すという特徴が組み込まれている。しかし呼気時には、培地は肺臓から、またはバイオリアクタ本体から一方向弁を通して、気管リザーバに戻ることができる。
バイオリアクタに関して、換気時に、肺臓気道コンパートメントに十分な新鮮培地が供給されないことが観察された。いかなる特定の理論にも束縛されることは望まないが、これは、主として、気管と別個の気管リザーバとの間のチューブ内に含まれる培地の体積ゆえに、同じ培地が気管を出入りして、気管に進入する新鮮培地が不十分になっているからであったと考えられる。気道培地流ループ中の「死腔」が、呼吸時に新鮮培地が肺臓組織に到達することを妨げた。そのため、図17に概説するように、換気時に培地が異なる経路を辿って肺臓に出入りするように、バイオリアクタを改造した。この改造により、各吸息と共に気管に入る培地の大半は気管リザーバから直接供給される(したがって気管から出てくる培地と比較して「新鮮」である)ことになった。
十分な酸素含量があることを保証するために、肺臓培養中のバイオリアクタにおける組織培養培地の酸素含量を測定した。特に、陰圧換気(この間、バイオリアクタ本体は気密であり、酸素進入のための唯一の入口は気管リザーバを介したものである)中に、十分な酸素送達があることを保証する必要がある。酸素分圧は、培養の間、著しくは低下せず、正常組織培養培地におけるレベルと同じ6.0〜7.0mg/Lを保つことがわかった。これらのレベルは、80〜100mmHgという正常な生理的レベルを上回っている(6〜7mg/Lは分圧137〜159mmHgに相当する)。
圧力が予想限度内または生理学的限度内にあることを保証するために、バイオリアクタ中で培養されている人工肺臓組織の気管および肺動脈における圧力プロファイルを測定した。図18に代表的プロファイルを示す。灌流圧は、典型的には、約2〜30mmHgに保たれた。記載の例では、ベースライン灌流圧が10〜17mmHgで変動した。しかし、陰圧換気の効果がこのプロファイルに重ね合わされて、陰圧「吸息」時には灌流圧が0〜7mmHgまで低下した。この効果は生理学的に見られ、肺脈管構造の圧力は息の吸い込みに伴って低下する。バイオリアクタでは、肺静脈がメインチャンバに直接排液し、このメインチャンバは、「胸腔」としても機能し、肺臓を換気するために陰圧を生じさせた場所である。これが、バイオリアクタから灌流脈管構造への陰圧の伝達を増加させる役割を果たした。
以下の結果は、バイオリアクタ中で培養される齧歯類肺臓に要求される培地および空気の体積の決定に役立たせることを目的とした一連の計算を示す。
インビトロ組織培養時は、500万個の細胞に、3日ごとに12mlの培地を供給することが一般的である。成体齧歯類肺臓が1億個の細胞を含有すると仮定すると、これは、3日ごとに多くて240mlという培地要求量に相当する。しかしこれは過剰評価であるだろう。というのも、組織培養中の細胞が一般に活発に複製するのに対して、インタクトな齧歯類肺臓中の多く細胞は休止状態にあり、それゆえに培地要求量が低いからである。
灌流ラット肺臓のグルコース消費量は、1時間あたり乾燥重量1グラムあたり43μmolであることが証明されている[Kerr et al., 1979, Am J Physiol 236:E229-33]。成体ラットの肺臓は約150〜250mgの乾燥重量を持ち[Inokawa et al., 2006, Ann Thorac Surg 82:1219-25]、組織培養培地は、典型的には、5.5mmol/Lのグルコースを含有する。それゆえに、成体ラットの肺臓は、そのグルコース消費要求量を供給するために、1日あたり28〜47mlの組織培養培地を要求するだろう。
肺動脈内皮細胞は、1分あたり細胞100万個あたり6nmolの酸素を消費し[Xu et al., 2007, Proc Natl Acad Sci USA 104:1342-7]、一方、ラットII型上皮細胞は1分あたり1.25nmolを消費する[Dobbs et al., 1980, Biochim Biophys Acta 618:510-23]。成体ラット肺臓には1億個の細胞があり、肺臓中の全ての細胞が高い方の速度で酸素を消費すると仮定すると、ラット肺臓は1日あたり多くて26mgの酸素を要求するだろう。組織培養培地は、1リットルあたり約6mgの酸素を含有し、バイオリアクタは約300mlの培地を含有する。したがって培地は、新鮮培地の交換1回(3日ごと)につき1.8mgの酸素を供給することができる。さらに、酸素はバイオリアクタ中の空気にも含まれる。バイオリアクタ本体には約200mlの空気がある。培養器中の空気は約20%のO2を含有し、これは海面位、37℃で、空気1リットルあたり約260mgの酸素に相当する。したがってバイオリアクタ中の空気は約52mgの酸素を含有する。
肺臓バイオリアクタの設計を検証し最適化するために、全未変性齧歯類肺臓のインビトロ培養を使用した。肺臓をバイオリアクタ中で最長7日間培養した。バイオリアクタは細胞の生存および分化ならびに肺臓形態を維持するのに十分な栄養素供給および機械的刺激を提供することが証明された。
バイオリアクタ中で培養される肺臓を培地または大気(約20% O2)で換気する効果を評価した。培地による換気は、改善された栄養素送達(これは、バイオリアクタでは、大きな気道に供給する灌流された気管支循環がないので、より一層重要になり得る)を提供するだろうから、改善された細胞生存をもたらすだろうと考えられる。しかし、空気による換気は、成体肺臓が条件づけられている条件であり、肺上皮は気液界面の存在下で培養されることが多く、それはラット胎児肺臓における適当な肺発生を可能にすることが示されている[Funkhouser et al., 1976, Biochem Biophys Res Comm 70:630-7]。そこで、培地による換気が、気液界面の欠如による上皮分化状態の喪失をもたらすかどうかを調べるための実験も計画した。
インビトロ肺臓培養を灌流だけで支持することができるか、そしてもしそうなら、どの灌流圧が最適であるかを決定するために、バイオリアクタ中の培養未変性肺臓における細胞生存および細胞分化に対する血管灌流の効果を調べた。これらの実験を複雑にするのは、肺臓の外植後に血管透過性が急速に増加するという事実だった。10mmHgの圧力を使った単離肺臓の灌流は、10分以内に肺臓水腫を引き起こし得る[Wierup et al., 2005, J Heart Lung Transplant 24:379-85]。外植から5〜10分以内に血管漏出が観察され、小粒子(半径28nm)の3〜4%が肺胞-毛細管膜を横切って漏出した。広範な肺微小血管漏出は、遠位毛細管および静脈構造への培地送達を減少させるか、無くしてしまうことさえあり得る。したがって、流れを遠方まで送達し、遠位毛細管を開存させておくには、約1〜10mmHgという生理的レベルより高い血管灌流圧が要求されるだろう[Li et al., 2004, Proc Natl Acad Sci USA 101:11488-93]。
培地による換気は肺臓形態および細胞分化の維持を可能にしたが、換気培養肺臓では、未変性肺臓と比較して、有意に高いアポトーシス細胞率が観察された(図23および28参照)。これは、新鮮培地の送達が不十分であったためと考えられるので、換気中の気道コンパートメントへの新鮮培地の送達を増加させるためにバイオリアクタを改造する実験を計画した。図17に示し、本明細書の他の項で説明するように、バイオリアクタ本体を気管リザーバに接続する1本のラインがある。このチューブの長さは約40〜45cmであり、3〜3.5mlの培地を含有する。換気中は、陰圧吸気時に約2.5〜3.0mlの培地が肺臓に引き込まれ、同じ体積の培地がチューブを通って気管広口瓶に戻る。それゆえに、各「吸息」時に肺臓に進入する培地のうち、この約2.5〜3.0mlは新鮮ではなく、ただ単にチューブから肺臓へと戻るにすぎない。したがって、肺臓への実際の培地送達は、新鮮な培地を使った換気によって送達されるであろうものよりはるかに少ない。
バイオリアクタの設計をさらに詳しく検証するために、未変性肺臓の7日間培養を行った。これらの培養では、本明細書の他の項で説明する「ループ」改造を施した、培地による換気を利用し、いかなる血管灌流も行わなかった。血管灌流は利用しなかったが、今後の研究では、「ループ」換気を使った長期換気培養への灌流の付加を探究するかもしれない。
換気は単独で、内皮を含むいくつかの重要な肺臓細胞タイプの細胞生存と細胞表現型の維持とを、7日間まで可能にできることが証明された。しかしこれは、脈管構造を通した能動的灌流が存在しない状態でのことであり、それが最初は意外であった。灌流の欠如が内皮の生存または分化に影響を及ぼさない理由を調べるために、5μmマイクロスフェアを使って、脈管構造への流体の移動に換気が及ぼす影響を調べる実験を行った。換気によって誘発される物理的動きは、バイオリアクタ中の培地に向かって開いている脈管構造に入ったり出たりする培地の受動的移動を引き起こすのに十分であったと考えられる。この実験では、5μmマイクロスフェアを含有する培地で満たしたバイオリアクタ中で肺臓を3時間換気した。もし肺臓の脈管構造内にマイクロスフェアが観察されたら、それは、換気によって受動的灌流が誘導されたことを示す。図26に示すように、マイクロスフェアは大血管にも一部の毛細管にも見いだされた。これらの結果は、灌流はそれだけで、脈管構造における培地の移動を誘発するのに十分であり、したがって灌流の欠如にもかかわらず内皮の維持を可能にすることを示している。
本明細書に提示する結果は、血管灌流だけでは、細胞生存や、II型上皮によるサーファクタント産生を含む細胞分化を支持するには、十分でないことを証明した。しかし、培地による陰圧換気は、広範な細胞生存(未変性レベルの95.1%まで)を支持し、上皮および内皮の分化を維持するのに十分であった。
本明細書に提示する結果は、脱細胞化スキャフォールドが細胞毒性を持たず、上皮、内皮、および間葉細胞を含む広範な肺細胞タイプの接着と増殖を支持することを証明している。いくつかの例では、肺臓組織のエンジニアリングに、幹細胞を使用することができる。人工肺臓組織が有用であるためには、それを脈管構造および気道に接続することができなければならない。気道は肺胞とつながっていなくてはならず、血管接続は肺胞を取り巻く緻密な毛細管網に通じなくてはならない。
スキャフォールド調製
成体Fischer 344ラットの肺臓を収集し、本明細書の他の項で説明するように脱細胞化した。脱細胞化操作に続いて、スキャフォールドを滅菌水(10回交換)中ですすぎ、次に、PBS中の10%ペニシリン/ストレプトマイシンにおいて少なくとも12時間すすいだ。後の培養では、DNA残存物の除去を助けるために、10%FBS中でもすすいだ。次に、完全な灌流および呼吸システムを取り付けた新しい滅菌バイオリアクタに、肺臓を移した。次に肺臓をPBSで2回すすぎ、培養に使用する培地で1回すすいだ。
肺臓を本明細書の他の項で論じるように新生児(約7日齢)ラットから単離した。次に肺臓を70%エタノール中で10秒間すすぎ、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Gibco)中で2回すすいだ後、滅菌乾燥ペトリ皿に移した。肺臓を円刃刀で5分間切り刻んでから、エラスターゼ消化用の円錐管に移した。DNアーゼ、コラゲナーゼおよびエラスターゼはWorthington Biochemical(ニュージャージー州レークウッド)から入手した。エラスターゼ消化は、DMEM中の4U/mlエラスターゼを100U/ml DNアーゼと共に使用し、撹拌しながら室温で20分間行った。次に、組織塊を70μmナイロンフィルタで濾過し、DMEMですすいだ。消化されなかった塊を新しいチューブに移し、Ca2+およびMg2+を含む1:1 DMEM:PBS中の1mg/mlコラゲナーゼ溶液において、撹拌しながら室温で1時間、コラゲナーゼ消化した。コラゲナーゼ消化組織を再び70μmフィルタで濾過し、消化されなかった断片をシリンジプランジャーを使って物理的に破砕した。残った組織をDMEMですすぎ、70μmフィルタで濾過した。コラゲナーゼ消化およびエラスターゼ消化から得た細胞を合わせてから、DMEM中で3回洗浄し、培養に使用する培地中で1回洗浄した。トリパンブルー色素排除法を使って細胞の生存性を評価した後、本明細書の他の項で説明するように、細胞を脱細胞化スキャフォールドに播種した。
肺細胞単離と脱細胞化スキャフォールドの調製後に、単離された細胞を、培養に使用する培地に懸濁した。気道コンパートメントの播種には、バイオリアクタあたり15mlの細胞懸濁液を気管リザーバに注入し、陰圧換気で肺臓の気道コンパートメント中に細胞を移動させることによって、細胞を播種した。脈管構造の播種には、バイオリアクタあたり3mlの細胞懸濁液を肺動脈中に注入した。灌流も換気も行わずに細胞を終夜付着させた後、実験条件に応じて、灌流および/または換気を開始した。
播種後、肺臓を一晩静置培養してから、灌流または換気を開始した。灌流および換気は、実験条件に応じて変更した。培養培地は週に2回入れ換えた。換気条件については、バイオリアクタ中の空気を手作業で交換できるように毎日1回、短時間停止した時間を除けば、肺臓を絶えず換気した。人工組織の断片の培養については、一晩播種した後、スキャフォールドをバイオリアクタから取り出し、滅菌剪刀を使って小さい(1〜3mm)断片に切断した。その断片を培養用ペトリ皿に移し、表示がある場合には、後に、気液界面培養のための0.4μmフィルタインサートを含むペトリ皿に移した。
細胞単離後に、細胞を緩衝液(2mM EDTAおよび0.5%ウシ血清アルブミンを含むPBS)中ですすいだ。細胞内抗原を染色するために、細胞を室温において1%ホルムアルデヒドで15分間固定し、次にPBS中の0.2%Triton-Xで透過処理した。一次抗体を、1:100の希釈度で、室温にて30分間、緩衝液中で適用した。緩衝液中で3回すすいだ後、二次抗体を1:100の希釈度で室温にて20分間適用した。細胞は、イェール大学医学部細胞選別施設(Yale School of Medicine Cell Sorting Facility)のBecton-Dickinson FACSCalibur装置で分析した。
まず最初に、腫瘍由来肺臓上皮細胞株MLE-12を、脱細胞化肺臓スキャフォールドにおける予備培養実験に使用した。これらの実験は、スキャフォールドに細胞毒性がないことを証明するため、および脱細胞化スキャフォールドを利用する培養のためのバイオリアクタシステムの一階妥当性(first-order validity)を証明するために行った。MLE-12細胞株は、脈管構造を通した培地の灌流を伴うバイオリアクタにおける脱細胞化スキャフォールド上での10日までの培養期間中、ロバストな細胞成長を示すことが観察された。組織像を図27に示す。細胞は、3日の時点では極めて原始的な肺胞構造を形成するようだったが、その後は著しく増殖し、7日までに無制御な細胞成長を示す。腫瘍由来の細胞株であるから、これは予想される帰結である。これらの実験は、バイオリアクタおよび脱細胞化肺臓スキャフォールドの検証における予備段階であり、これにより、新鮮単離新生児肺細胞を使った以後の実験が正当化された。
齧歯類肺臓上皮はインビトロで培養することが難しいので、また新生児ラットの肺細胞は若く比較的可塑性が高いので[Massaro et al., 1985, J Clin Invest 76:1297-305;Meyrick et al., 1982, Am Rev Respir Dis 125:468-73]、肺細胞タイプの不均質な混合物を表す多数の細胞を単離できることを含むいくつかの理由から、新生児肺細胞を選択した。
主に、組織学的検査による細胞密度、生存性および形態、ならびにいくらかのタンパク質発現評価に基づいて、さまざまな変量および適切な条件を探究するために、実験を計画した。評価した条件を以下に簡単に述べる。
以下の実験は、発生工学的(development engineered)肺臓組織にとっての、脱細胞化スキャフォールド、肺臓バイオリアクタ、および単離新生児肺細胞集団の妥当性を証明するために計画した。これらの人工組織の培養に使用した詳細な条件を表1に示す。表には、これらの条件が人工組織の成長に及ぼす効果を評価するために具体的に調べた条件も記載する。ただし本発明はこれらの条件に限定されるわけではない。むしろ、本発明には、適用可能な条件であれば、その条件がバイオリアクタとの関連で人工肺臓の生成を促進する限り、いずれも包含される。
本明細書に提示する結果は、脱細胞化肺臓スキャフォールドへの上皮細胞の接着および増殖を証明する。これらの実験には、DMEM+10%FBS培地、2ml/分での脈管構造の灌流、1日1回の換気、非被覆(uncoated)脱細胞化スキャフォールド、および無選別新生児肺細胞集団(本明細書の他の項で説明する「最適化された」条件)を使用した。
脱細胞化スキャフォールドにおける2タイプの肺上皮前駆細胞の成長が観察された。CCSPとSPCについて二重に陽性である細胞は、気管支肺胞幹細胞と呼ばれる局所前駆細胞であると報告されており、これはクララ細胞にもII型肺細胞にも分化することができ、気管支肺胞管接合部に見いだされる[Lane et al., 2007, Regenerative Medicine 2:407-15;Kim et al., 2005, Cell 121:823-35]。図35に、これらの細胞の予想される生理学的位置である末端細気管支の外観と合致する構造中に見いだされる、そのような二重陽性細胞を示す。
培地タイプは、細胞の成長と分化に、したがって人工肺臓組織の発生に、著しい影響を持つことができる。これらの相違の一部をより詳しく調べるために、上皮分化に関して無血清培地(BGJb)と血清含有培地(DMEM+10%FBS)を使って人工肺臓培養の成長を比較した。これらの実験では、まず最初に、細胞をDMEM+10%FBS中のスキャフォールド上に播種し、この培地中で2日間培養した後、BGJb(無血清)に4日間かけて徐々に移行し、最後に純粋なBGJb培地中で2日間培養した。無血清培地への移行は、サーファクタントの発現に対する実質的な影響を引き起こした。無血清培地は、DMEM+10%FBSと比較して、より多くのサーファクタント(SPC)の頂端部発現につながることが観察された(図39Cおよび39D)。これは、無血清培地(BGJb)では、ウェスタンブロット上で、サーファクタントの発現が有意に増加することと一致する(図40;「DMEM」および「BGJb」と記したレーンを比較のこと)。さらにまた、サーファクタントの形態が、未変性肺臓と、はるかによく合致していた(BGJb培地では大半のサーファクタントが21kDaプロSPC形として認められた)。
気液界面を作り出すために、人工肺臓をまず、培地による換気下で4日間培養して、細胞を付着させ増殖させた。培養の最後の4日間は換気を培地から濾過大気に切り換えた。
灌流および換気は、バイオリアクタにおける肺臓組織の培養に著しい影響を及ぼすことができる。換気は、I型およびII型肺細胞の分化を含む肺臓上皮発生にも著しい影響を持つ[Inanlou et al., 2005, Histol Histopathol 20:1261-6;Inanlou et al., 2005, Dev Dyn 233:772-82;Inanlou et al., 2005, Dev Dyn 232:43-54]。そこで、バイオリアクタにおける8日間の培養中に灌流および換気が人工肺臓発生に及ぼす効果を比較した。これらの実験では、条件を、他の項で論じる換気実験時に利用したものと同じ条件とし、DMEM+10%FBSの培養培地、非被覆スキャフォールド、および無選別新生児肺細胞集団を使用した。ただし、培養物は、脈管構造を通して2ml/分で灌流するか、培地を使って1吸息/分で連続的に換気した。
脱細胞化スキャフォールドが人工肺臓内皮の成長を支持することができるかどうかを決定するために、また、いくつかの具体的因子が人工内皮の発生に及ぼす効果を、血管コンパートメントと気道コンパートメントの間の機能的な内皮障壁の形成に影響を及ぼすそれらの因子の能力に焦点を絞って評価するために、以下の実験を計画した。
スキャフォールドの調製
脱細胞化スキャフォールドは、本明細書の他の項で説明するように調製した。
新生児ラット肺細胞は、本明細書の他の項で説明するように単離した。細胞を、本明細書の他の項で説明するように、スキャフォールドに播種した。
ラット肺臓微小血管内皮細胞をVEC Technologies(ニューヨーク州レンセリア)から入手し、フィブロネクチン被覆(約1μg/cm2、Gibco)組織培養器上、10%FBSと追加成長因子(supplemental growth factors)(VEC Technologies)を含むMCDB-131完全培地中で成長させた。
スキャフォールドを1mgのフィブロネクチン(Gibco)で被覆し、37℃のPBS 60ml中、脈管構造を通して灌流した後、PBSおよび培地ですすいだ。培養0日目と培養2日目または3日目の2回、各回800万〜1000万個のラット肺臓微小血管ECを播種した(2回の播種のそれぞれについて、肺臓1つあたり2つのT150培養フラスコを使用した)。0.25%トリプシン(Gibco)を使って細胞を組織培養プレートからトリプシン処理し、細胞塊を除去するために40μmフィルタで濾過し、約3mlの培地に入れた単回ボーラス注射として、肺動脈に注入した。細胞を1時間接着させた後、脈管構造を通して約1.5ml/分で灌流を開始した。1〜2時間後に、7〜10日の培養期間の残りの部分は、灌流量を3ml/分に増加させた。培地は3〜4日ごとに換えた。
本明細書の他の項で説明するように、組織試料を調製し、染色した。
本明細書の他の項で説明するように、試料を調製し、分析した。
巨大高分子程度のサイズを持つ小さな粒子に対する全ラット肺臓の透過性を評価するために、アッセイを開発した。このアッセイでは、気道-血管障壁を横切って起こるFITC標識デキストラン溶液の漏出を定量した。2,000,000Daの分子量を持つFITC標識デキストランをSigma(ミズーリ州セントルイス)から入手した。未変性肺臓および0.025%トリプシンで2分間処理した未変性肺臓の透過性を測定することによってアッセイの検証を行った。肺臓をヘパリン化PBSで灌流し、通常のバイオリアクタカニューレに接続した。ベースライン洗浄液試料を得た後、トリプシン処理肺臓は、PBS中の0.025%トリプシン10mlで灌流し、室温で2分間留まらせてから、10mlのPBSですすいだ。FITC標識デキストラン溶液(1mg/ml)を肺動脈に注入し、次に20mlのPBSでフラッシングした。次に、2つの洗浄液試料を直ちに、気管から連続して採取した。蛍光プレートリーダーを使って蛍光を測定し、データを標準曲線に当てはめた。脱細胞化肺臓または人工肺臓で行う場合は、マイクロスフェアアッセイ(3.2.9章参照)の場合と同様に、このアッセイを気道によって行った。したがって、FITC-デキストランを気道に注入し、脈管構造をPBSでフラッシングした。
巨大高分子程度のサイズを持つ小さな粒子に対する全ラット肺臓の透過性を評価するためのアッセイを開発した。このアッセイでは、気道-血管障壁を横切って起こるFITC標識デキストラン溶液の漏出を定量した。このアッセイは、培養の過程で繰り返し使用することができ、細胞培養に害を及ぼさない材料を使用し、全肺臓の透過性の測定をもたらす。さらにまた、アッセイを固定直前に行えば、FITC-デキストランを、抗FITC抗体を使って組織切片上で同定することができるだろう。
具体的条件が人工内皮組織の発生に及ぼす効果を、機能的内皮障壁の形成に焦点を絞って評価するために、以下の実験を計画した。灌流しながら人工肺臓内皮を培養することの効果と換気しながら人工肺臓内皮を培養することの効果を比較した。換気と灌流の両方を、内皮細胞の生存および増殖に関して評価し、透過型EMを使って細胞間結合の形成についても評価した。
血管床と気腔の間に機能的障壁を形成する人工肺臓内皮の能力を評価するために以下の実験を計画した。これは、肺胞への流体漏出を減少させ、よってガス交換を可能にするために重要であり、人工肺臓組織にとっての目標の重要な構成要素である。肺臓内皮によって提供される障壁機能を評価するために、透過性アッセイを使って、気腔から脈管構造への小さい(55nm)FITC-デキストラン粒子の移動を測定した。このアッセイは、本明細書の他の項で説明するように開発され、検証された。
本明細書に提示する結果は、哺乳動物における肺臓細胞治療を達成するための脱細胞化肺臓組織の使用を証明する。一般に、工程には、気管の脱細胞化、脱細胞化気管組織内の細胞外マトリックス構成要素の検出、脱細胞化気管マトリックスにおけるヒト気管支(大気道)および小気道肺上皮細胞の培養、所望の遺伝子によるヒト肺上皮細胞の遺伝子治療、および点滴注入による肺臓へのヒト肺上皮細胞の点滴注入が含まれ、レシピエント肺臓における細胞の付着および生存が確認される。
ブタ気管を収集し、血液を除去するためにPBS中ですすいだ。断片を切断し、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋し、5mm切片に切断した。残りを5つの環に切断し、CHAPS緩衝液(pH13.5)中で撹拌しながら、2時間、4時間および8時間の時点でCHAPS緩衝液を交換して、2〜24時間インキュベートした。表示した時点において、組織をCHAPS緩衝液から取り出し、PBSですすいだ。断片を切断し、10%ホルマリンで固定し、脱細胞化を確認するための組織学的分析用に加工した。
脱細胞化組織上で細胞を成長させるために、次の一組の実験を計画した。簡単に述べると、ヒト気管支/気管上皮細胞(NHBE)を気管支上皮成長培地(BEGM)中で培養した。脱細胞化気管(6時間CHAPS緩衝液インキュベーション)を、滅菌PBSで十分に(少なくとも24時間は)すすいだ。軟骨層(ならびに外膜層)をはがして、後続の細胞播種のために気管粘膜および粘膜下層を残した。組織を約5×5cm2のサイズに切断し、6ウェルプレート中のトランスウェルインサート(孔径0.4μm)上に、上皮面を上向きにして置いた。
肺臓細胞の遺伝子治療に脱細胞化組織を使用することの実現可能性を決定するために、次の一組の実験を計画した。遺伝子改変は次のように行った。Phoenixパッケージング細胞株を使ってEGFP(強化GFP)レトロウイルス上清を調製した。EGFP DNAをLZRSpBMNベクターに挿入した。NHBEおよびSAECを80%コンフルエントを超えるまで成長させた。感染当日に細胞を数回すすぎ、ウイルス上清(8μg/mlポリブレンを含有するもの)を37℃で6時間接種した。細胞を数回すすぎ、新鮮培地中で一晩インキュベートした。次に、フローサイトメトリーを使ってGFPについて分析した。感染細胞はGFPについて陽性に染色されることが観察された。例えばNHBE細胞は非感染細胞と比較してGFPについて18.5%の陽性染色を示した。SAEC細胞は、非感染細胞と比較してGFPについて16%の陽性染色を示した。本明細書に提示する結果は、レトロウイルスを使ってこの培養系でヒト肺上皮細胞に関心対象の遺伝子を感染させ得ることを証明している。しかし、導入遺伝子を送達するための他の手段も本発明には包含される。例えば、レンチウイルス系を使用することの実現可能性を調べるために、次の一組の実験を計画した。
哺乳動物の肺臓中に気道上皮細胞を注入することの実現可能性を決定するために、次の実験を計画した。簡単に述べると、5μmマイクロスフェアとPBSの1:1混合物100μlをC57BL/6Jマウス、雌、約10週齢(Jackson Lab)に、気管を通して注入した。マウスは注入後数分間生き続けた。肺臓を直ちに収集し、ホルマリンで固定した。5μmパラフィン包埋切片をH&Eで染色した。この試験は、気道への点滴注入によって送達された細胞サイズの粒子が哺乳動物の肺臓内に検出されるかどうかを決定するために、最初の実現可能性試験として行われた。マイクロスフェアが注入されたマウス肺臓のH&E像からの結果は、かなりの数のマイクロスフェアがマウス肺臓の全ての葉に存在することを証明した。図60参照。これらの結果は、気管アプローチを使った注入を細胞点滴注入に使用できることを証明している。
生きているラットレシピエントに脱細胞化人工肺臓を埋植することの実現可能性を示すために、この実験を計画した。先の実施例に従って脱細胞化人工ラット肺臓を調製した。成体雄ラットを、ケタミンとキシラジンの腹腔内注射で麻酔した。次に、ラットの気管に挿管し、麻酔を維持するためにフォーレンと混合した100%酸素で換気した。滅菌条件下で、胸骨正中切開によって胸郭を開いた。肋骨を両側に後退させて、正常に膨らんでいる肺臓と拍動している心臓を暴露した。全身ヘパリン化後に、未変性左肺臓をまとめて(in toto)切除した。次に、手術用顕微鏡下で、脱細胞化人工肺臓を、レシピエントの肺動脈、肺静脈および左主気管支に、10-0縫合糸を使って吻合した。
Claims (2)
- 肺臓細胞の分化状態を支持し維持する能力を有する三次元構築物を含む、哺乳動物における肺臓欠陥を軽減または処置するための薬学的組成物であって、該三次元構築物は脱細胞化肺臓組織を含み、ここで、該脱細胞化肺臓組織はインタクトな気道樹および血管網を含み、さらにここで、該脱細胞化肺臓組織は、対応する天然組織の機械的性質と実質的に類似する機械的性質を示し、さらにここで、該肺臓細胞は、新生児肺細胞、幹細胞、胚性幹細胞、成人幹細胞、間葉系細胞、間葉系幹細胞、気管支肺胞幹細胞、臍帯血細胞、血管前駆細胞、肺前駆細胞、およびそれらの組合せからなる群より選択される1もしくはそれ以上の再生性細胞に由来する、薬学的組成物。
- 前記肺臓欠陥が嚢胞性線維症である、請求項1記載の組成物。
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