図1は本発明の掘削チップの一実施形態を示す断面図であり、図2はこの実施形態の掘削チップを取り付けた本発明の掘削工具の一実施形態を示す断面図である。本実施形態の掘削チップはチップ本体1を有しており、このチップ本体1は超硬合金等の硬質材料よりなる基体2と、この基体2の少なくとも先端部(図1における上側部分)の表面を被覆する、基体2よりも硬度(ビッカース硬さ)の高い硬質層3とを備えている。
チップ本体1は、その後端部(図1において下側部分)がチップ中心線Cを中心とした円柱状または円板状をなしているとともに、先端部は、本実施形態では後端部がなす円柱または円板の半径と等しい半径でチップ中心線C上に中心を有する半球状をなしていて、先端側に向かうに従いチップ中心線Cからの外径が漸次小さくなる先細り形状に形成されている。すなわち、本実施形態の掘削チップはボタンチップである。
本実施形態では、図1に示すようにチップ本体1の先端部だけに硬質層3が被覆されており、この硬質層3を含めたチップ本体1の先端部が上述のような半球状をなすように形成されている。また、本実施形態では、図1に示すように硬質層3が、最外層4と、この最外層4と基体2との間に介装される中間層5とを備えた2層構造とされている。
このような掘削チップが先端部に取り付けられる掘削工具の一実施形態である掘削ビットは、鋼材等により形成されて図2に示すように軸線Oを中心とした概略有底円筒状をなすビット本体11を有し、その有底部が先端部(図2において上側部分)とされて、この先端部に掘削チップが取り付けられる。また、円筒状の後端部(図2において下側部分)の内周には雌ネジ部12が形成され、掘削装置に連結された掘削ロッド(不図示)がこの雌ネジ部12にねじ込まれる。掘削ロッドから雌ネジ部12を介して軸線O方向先端側に向けての打撃力と推力、および軸線O回りの回転力が伝達されることにより、掘削チップによって岩盤を破砕して掘削孔を形成する。
ビット本体11の先端部は後端部よりも僅かに外径が大径とされている。この先端部の外周には軸線Oに平行に延びる排出溝13が周方向に間隔をあけて複数条形成されている。上記掘削チップにより岩盤が破砕されて生成された破砕屑が、この排出溝13を通してビット本体11の後端側に排出される。また、有底とされたビット本体11の雌ネジ部12底面からは軸線Oに沿ってブロー孔14が形成されている。このブロー孔14はビット本体11先端部において斜めに分岐してビット本体11の先端面に開口している。上記掘削ロッドを介して供給される圧縮空気のような流体をブロー孔14から噴出させることにより、破砕屑の排出を促進する。
さらに、ビット本体11の先端面は、内周側の軸線Oに垂直な軸線Oを中心とした円形のフェイス面15と、このフェイス面15の外周に位置して外周側に向かうに従い後端側に向かう円錐台面状のゲージ面16とを備えている。ブロー孔14はフェイス面15に開口するとともに、排出溝13の先端はゲージ面16の外周側に開口している。また、これらフェイス面15とゲージ面16には、それぞれブロー孔14と排出溝13の開口部を避けるようにして、断面円形の複数の取付孔17がフェイス面15とゲージ面16に対して垂直に形成されている。
このような取付孔17に、上記掘削チップは、図2に示すようにチップ本体1の上記後端部が埋没させられた状態で圧入や焼き嵌め等によって締まり嵌めされたり、ロウ付けされたりすることにより固定され、すなわち埋設されて取り付けられる。さらに、硬質層3が形成されたチップ本体1の先端部がフェイス面15およびゲージ面16から突出して、上述した打撃力、推力および回転力により岩盤を破砕する。
次に、この硬質層3の最外層4の構成について図3〜図18を用いて説明する。最外層4は、主結合相がセラミックスの立方晶窒化ホウ素焼結体(以下、「cBN焼結体」ともいう)からなる。このcBN焼結体は、cBN焼結体全体に対する含有量が70〜95vol%の立方晶窒化ホウ素粒子(以下、「cBN粒子」ともいう)と、各cBN粒子を互いに結合する結合相とを備える。また、最外層4の任意の断面を観察したとき、この断面組織において、隣り合うcBN粒子の間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在する。かつ、隣り合うcBN粒子の間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子の存在割合は0.4以上である。
また、隣り合うcBN粒子の間の幅が1nm以上30nm以下の結合相が、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)のいずれか一方、あるいは、両方を含む炭化物、ホウ化物、酸化物およびこれらの固溶体の中から選ばれる2種以上により構成されている。
また、隣り合うcBN粒子間の幅が1nm以上30nm以下の結合相における結合相成分の炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比が0.8以上である。
そのため、cBN粒子−cBN粒子間の結合相中においてホウ化物が少なく、結合相が強固であり、また、cBN粒子と結合相との界面付着強度が高い。また、上記の結合相を有するcBN焼結体は、cBN粒子同士が接触して結合相と十分反応できない未焼結部分が少ない。そのため、このようなcBN焼結体は高い硬度を有する。このようなcBN焼結体で上記最外層4を形成することにより、掘削チップに多結晶ダイヤモンド焼結体に匹敵する硬さを付与でき、掘削チップの耐摩耗性を確保できる。一方、上記の結合相が隣り合うcBN粒子間に存在しない場合、cBN粒子を十分に結合できず、最外層4の硬さが低くなったり、結合相内部を起点とした破壊が生じやすくなったりする。
なお、cBN焼結体中に形成される結合相のうち、隣接するcBN粒子の間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相以外の結合相の構成は主結合相がセラミックスであり、例えば、Tiの炭化物、ホウ化物、Alの窒化物、ホウ化物、酸化物およびこれらの2種以上の固溶体の中から選ばれる1種または2種以上と不可避不純物とで構成されることが好ましい。
最外層4のビッカース硬さは、3750〜4200であることが好ましい。ビッカース硬さが3750未満の場合、最外層4に十分な耐摩耗性を付与することが難しい。また、ビッカース硬さが4200超の場合、最外層4が欠損し易くなる。
最外層4におけるcBN粒子の含有量は70〜95vol%となっているので、上述の断面組織を形成でき、最外層4のビッカース硬さを上記範囲とすることができる。cBN粒子の含有量が70vol%未満の場合、cBN粒子の量が少ないので、cBN粒子同士が接触し結合相と十分に反応できない未焼結な部分は少なくなるが、その一方で、最外層4のcBN焼結体の硬さが低下し、耐摩耗性が劣化する。また、cBN粒子の間に幅が1nm以上30nm以下の結合相を形成することが難しくなる。一方、cBN粒子の含有量が95vol%を超える場合には、焼結体中にクラックの起点となる空隙が生成しやすくなり、耐欠損性が低下する。cBN粒子の含有量は、好ましくは70〜90vol%であり、より好ましくは75〜85vol%であるがこれに限定されない。
cBN粒子の平均粒径は0.5〜8.0μmであることが好ましい。このようなcBN粒子がcBN焼結体内に分散することにより、最外層4に高い耐欠損性を付与することができる。具体的には、掘削時に最外層4表面からcBN粒子が脱落することにより生じる凹凸を起点としたチッピングの発生を抑制することができる。それに加え、掘削時に最外層4に加わる応力により引き起こされるcBN粒子と結合相との界面から進展するクラック、またはcBN粒子を貫通して進展するクラックの伝播を、cBN焼結体中に分散したcBN粒子により抑制することができる。cBN粒子の平均粒径は0.5〜3.0μmであることがより好ましいが、これに限定されない。
最外層4の任意の断面を観察したとき、隣接するcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子の数(q)の全cBN粒子の数(Q)に対する割合(q/Q)が0.4以上であることが好ましい。それに加え、幅が1nm以上30nm以下であり、上述の面積比((C+O)/(C+O+B))が0.8以上である結合相が隣接するcBN粒子との間に存在するcBN粒子の数(n)の、幅が1nm以上30nm以下である結合相が隣接するcBN粒子との間に存在するcBN粒子の数(N)に対する割合(n/N)が0.5以上であることが好ましい。割合q/Qおよび割合n/Nが多いことは、cBN粒子が結合相により強固に結合されていることを意味する。したがって、割合q/Qを0.4以上とし、割合n/Nを0.5以上とすることにより、最外層4の硬さを向上できる。なお、割合q/Qの値の上限値は好ましくは1であり、q/Qの値は0.6以上1以下であることがより好ましい。また、割合n/Nの値は0.6以上1以下が好ましく、0.8以上1以下がさらに好ましい。
なお、隣り合うcBN粒子の間に存在する幅が1nm以上30nm以下であり、上述の面積比((C+O)/(C+O+B))が0.8以上である結合相は、隣り合うcBN粒子の間に点在していても良く、cBN粒子間に1つの結合相が延在していても良い(cBN粒子が上述の結合相1つを介して他のcBN粒子と隣接していても良い)。
ここで、本実施形態の掘削チップの最外層4について、上記の構成を特定する手順について、以下に説明する。
<cBN粒子の平均粒径>
cBN粒子の平均粒径は、以下のように求めることができる。
まず、cBN焼結体の断面組織をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察し、二次電子像を得る。二次電子像の大きさは、例えば、焼結前のcBN粒子の平均粒径が3μmの場合、15μm×15μm(焼結前のcBN粒子の平均粒径の5倍角)とする。
次に、0を黒、255を白とする256階調のモノクロでこの二次電子像を表示する。cBN粒子部分の画素値と結合相部分の画素値との比が2以上となる画素値の画像を用いて、cBN粒子が黒となるように二値化処理を行う。この画像において、cBN粒子部分や結合相部分の画素値は、0.5μm×0.5μm程度の領域内の平均値から求められる。同一画像において少なくとも3領域の画素値の平均値を求め、得られた値を各々のコントラストとすることが望ましい。これにより、cBN粒子と結合相とを区別する。上記のような二値化処理の後、cBN粒子同士が接触していると考えられる部分を切り離す処理を行う。例えば、画像処理操作の1つであるwatershed(ウォーターシェッド)を用いて、接触していると思われるcBN粒子を分離する。このように、二次電子像を二値化処理した画像から、cBN粒子に相当する部分を画像処理により抜き出す。
上記の処理により抜き出されたcBN粒子に相当する部分(黒の部分)をそれぞれ粒子解析し、cBN粒子に相当する部分の最大長をそれぞれ求める。求めた最大長を各cBN粒子の最大長とし、それを各cBN粒子の直径とする。各cBN粒子を球とみなし、得られた直径から各cBN粒子の体積を計算する。各cBN粒子の体積を基に、cBN粒子の粒径の積算分布を求める。詳細には、各cBN粒子について、その体積、およびその直径以下の直径を有するcBN粒子の体積の総和を積算値として求める。各cBN粒子について、全cBN粒子の体積の総和に対する各cBN粒子の上記積算値との割合である体積百分率[%]を縦軸とし、横軸を各cBN粒子の直径[μm]としてグラフを描画する。体積百分率が50%となる直径(メディアン径)を1画像におけるcBN粒子の平均粒径とする。
少なくとも3つの二次電子像に対し上記の処理を行うことにより求めた平均粒径の平均値を、最外層4におけるcBN粒子の平均粒径[μm]とする。なお、このような粒子解析を行う際には、あらかじめSEMにより分かっているスケールの値を用いて、1ピクセル当たりの長さ(μm)を設定しておく。また、粒子解析の際、ノイズを除去するために、直径0.02μmより小さい領域は粒子として計算しない。
<cBN粒子の含有量>
cBN粒子の含有量は、最外層4の形成時にcBN粒子粉末と結合相形成用原料粉末との混合比率を調整することにより調整できる。また、この含有量は、次のように確認することもできる。すなわち、SEMを用いて最外層4の任意の断面を観察して、二次電子像を得る。得られた二次電子像内のcBN粒子に相当する部分を、上述と同様の画像処理によって抜き出す。画像解析によってcBN粒子が占める面積を算出し、1画像内のcBN粒子が占める割合を求める。少なくとも3画像を処理して求めたcBN粒子の含有量の平均値を、最外層4に占めるcBN粒子の含有量とする。なお、cBN粒子の平均粒径の5倍の長さの一辺をもつ正方形の領域を画像処理に用いる観察領域とすることが望ましい。例えば、cBN粒子の平均粒径3μmの場合、15μm×15μm程度の視野領域が望ましい。
<隣接するcBN粒子の間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相を占める元素の特定、および、(C+O)/(C+O+B)の測定>
隣接するcBN粒子の間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相を占める元素の特定、および、(C+O)/(C+O+B)の測定は、次のように行うことができる。
まず、最外層4の任意の断面を研磨し、STEM(走査透過電子顕微鏡)を用いて、図3に示す隣接する2つのcBN粒子の界面を観察する。図3は、STEMを用いてcBN粒子とcBN粒子との界面を観察したHAADF(高角散乱環状暗視野)像(80000倍)である。観察試料の厚さは、3nm〜70nmが好ましい。3nmより薄い場合、元素マッピングの際に、検出される特性X線の量が少なくなり測定に時間がかかり、また試料が損傷しやすいので好ましくない。一方、70nmより厚い場合、画像の解析が困難になるため好ましくない。観察画像のサイズを縦120nm×横120nmから縦約500nm×横約500nm程度とし、解像度を512×512ピクセル以上とする。
次に、同一の観察領域について、ホウ素(B)、窒素(N)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、炭素(C)および酸素(O)の元素マッピング像(図4〜9参照)を取得する。これらの元素マッピング像は、バックグラウンドを除去するために、これらの6元素の含有量の合計に対する各元素の含有量の割合(atm%)に換算した画像である。atm%は、原子%である。また、各観察像においては、元素が存在している部分を黒色とした二値化処理像をする(黒=0、白=255の値とする)。
これらの画像をもとに、以下の手順で、隣接するcBN粒子間に幅が1nm以上30nm以下で結合相が存在するか否か、および、cBN粒子間の結合相を占める元素の検出と当該結合相における炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比((C+O)/(C+O+B))を求める。
ここで、「炭素と酸素とホウ素含有領域」とは、当該結合相のうち、炭素と酸素とホウ素の少なくとも一つが含有される領域を意味し、「炭素と酸素含有領域」とは、当該結合相のうち、炭素と酸素の少なくとも一つが含有される領域を意味する。
本実施形態における隣り合うcBN粒子間の結合相を占める元素としてはTi、Alのいずれかを含む炭化物、ホウ化物、酸化物及びこれらの固溶体であり、この結合相成分のCとOとB含有面積に対するCとO含有面積が占める面積比は0.8以上であることが必要である。前記面積比が0.8以上であると、cBN粒子はTi、Alのいずれかを含む炭化物、酸化物及びこれらの固溶体により強固に付着するため、隣り合うcBN粒子は、この結合相を介して強固に付着されるため、高硬度なcBN焼結体を得ることができる。前記面積比が0.8未満であると、隣り合うcBN粒子間の結合相においてTiやAlのホウ化物が占める割合が多くなる。このホウ化物自体は硬いが脆い性質のため、反応生成物として生じる際に当該cBN粒子間で占める割合が多くなるほど粗大となり、隣り合うcBN粒子は強固に付着されなく、高硬度なcBN焼結体が得られないため、好ましくない。なお、本実施形態におけるcBN粒子との付着強度による効果とはcBN焼結体の硬さとしてあらわれるが、得られたcBN焼結体を工具として使用した際に、隣り合うcBN粒子間の結合相が破壊の起点となりにくくすることや工具使用時に焼結体中を進行してきたクラックの進展をしにくくすることができる。
まず、BとNのマッピング像(図4、図5)から、観察している領域が、cBN粒子同士を観察すべき場所(cBN粒子が複数存在している領域)であることを確認する。
ついで、BとNのマッピング像が重なる部分をcBN粒子と認識し、認識したcBN粒子間の幅を、隣接するcBN粒子とcBN粒子の距離とする。
間隔の測定は、隣り合うcBN粒子のどちらか一方、例えば、図15に示すB元素とN元素マッピング像が重なる部分の二値化像の場合、向かって左側のcBN粒子の任意の点Aから、右側のcBN粒子に向かう最短距離長さを距離w1とし、少なくとも5ヶ所以上で測定したそれぞれの最短距離長さの距離w1の最小値を求め、その値を隣り合うcBN粒子の相互の間隔Wとする。
本実施形態において、隣り合うcBN粒子間の相互の間隔は1nm以上30nm以下の結合相があると、Ti、Alのいずれかを含む炭化物、ホウ化物、酸化物及びこれらの固溶体の中から選ばれる2種以上により構成され、この結合相成分のCとOとB含有面積に対するCとO含有面積が占める面積比は0.8以上である場合、隣り合うcBN粒子は強固にこの結合相を介して付着し、高硬度なcBN焼結体が得られるためが望ましい。1nm未満であると、cBN粒子間を十分に付着する強度が得られなく、30nmより大きいと結合相内部を起点とした破壊が生じやすくなり、結果として硬さの低いcBN焼結体が得られるため、好ましくない。
なお、観察する部位によっては、STEM観察の試料の特性上、厚み方向の情報も含むため、N元素が存在していない部分が点在しているように観察できる個所もあるが、連続してN元素が存在していない長さは30nm以上であることが必要である。連続してN元素が存在していない長さが30nm未満であると、粗大なホウ素化合物がないためクラックの起点となることを防ぐことは可能であるが、隣り合うcBN粒子の界面の付着強度の向上効果が得られないため、連続してN元素が存在していない長さは30nm以上が好ましい。なお、連続してN元素が存在していない長さとは、隣り合うcBN粒子を結ぶ最短距離長さ方向に対する垂直方向、例えば、図15に示す長さw1に対して垂直方向であり、この垂直方向の長さの最短距離である。
隣接するcBN粒子間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相における炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比((C+O)/(C+O+B))の測定は、次の手順で行う。
図4、図5、図8、図9に示すように、BとNとCとO元素のマッピング像から、各元素が存在している部分を黒とした二値化像を得る。
測定する領域は次のように測定する。B元素とN元素の各マッピング像が重なる部分をcBN粒子と認識する。ここで、隣り合うcBN粒子のどちらか一方のcBN粒子界面に任意の点Aを設定する。その点から、隣り合うcBN粒子界面に対して最短距離となるように線を引き、この線と隣り合うcBN粒子界面とが交わる点を点Bとし、この点Aと点Bを結ぶ線の長さを距離w2とする。この距離の測定を繰り返すことで決定される隣り合うcBN粒子間の相互の間隔が1nm以上30nm以下である範囲を、隣接するcBN粒子間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相における炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比((C+O)/(C+O+B))を測定するための測定領域とする。
具体的には、図16に示すように、B元素とN元素の各マッピング像より、両元素が存在する部分を黒とした二値化像を得る。図16における向かって左側のcBN粒子の界面に任意の点aを設定し、その点から図16における向かって右側のcBN粒子の界面に対して最短距離となるように線を引き、この線と図16における向かって右側のcBN粒子の界面とが交わる点を点bとする。これらの点aと点bを結ぶ線の長さを距離wabとし、1nm以上30nm以下の範囲であるか確認する。この測定を繰り返し行い、図17では、点線の矢印で示す方向における距離が1nm以上30nm以下となる最端の線のみ残し、この最端の2本の線とcBN粒子界面で囲まれる領域を、隣接するcBN粒子間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相における炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比((C+O)/(C+O+B))を測定するための測定領域S1として決定する。ここで、「最端の線」とは、測定領域S1となる幅が1nm以上30nm以下の結合相の境界となり得る線、すなわち、結合相の幅が1nm又は30nmとなる線である。
画像処理にて、図10に示すように、N元素のマッピング像からB元素のマッピング像を差し引いた像aを得ることで、cBN粒子以外のBの分布を得る。ただし、この場合、Bが存在する部分は白色になる。
同様にして、図11に示すように、N元素のマッピング像からC元素のマッピング像を差し引いた像bと、図12に示すように、N元素のマッピング像からO元素のマッピング像を差し引いた像cを各々作成する。
次に、図13に示すように、像bと像cを足し合わせることによって、N元素が存在していない部分におけるC元素とO元素が存在している像dを得る。ただし、この場合、N元素が存在していない部分におけるC元素とO元素が存在している部分は白色であらわされる。ここで、「C元素とO元素が存在している部分」とは、C元素とO元素の少なくとも一つが存在している部分を意味する。
さらに、図14に示すように、像dに像aを足し合わせることによって、N元素が存在していない部分におけるC元素とO元素とB元素が存在している像eを得る。ただし、この場合もN元素が存在していない部分におけるC元素とO元素とB元素が存在している部分は白色であらわされる。ここで、「C元素とO元素とB元素が存在している部分」とは、C元素とO元素とB元素の少なくとも一つが存在している部分を意味する。
像dの中で、先に決定した測定領域S1に対応する領域における白色部分の面積割合を算出し、cBN粒子間に存在する結合相部におけるC元素とO元素の合計が占める面積割合SCO1とする。
同様に、像eの中で、先に決定した測定領域S1に対応する領域における白色部分の面積割合を算出し、cBN粒子間に存在する結合相部におけるC元素とO元素とB元素の合計が占める面積割合SCOB1とする。
SCO1をSCOB1にて除した値を、隣接するcBN粒子間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相における炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比((C+O)/(C+O+B))とする。
<隣接するcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子の割合(q/Q)>
隣接するcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子の数(q)の全cBN粒子の数(Q)に対する割合(q/Q)は、次のように測定できる。まず、最外層4の任意の断面において、図18の模式図に示すように、一辺の長さLがcBN粒子10の平均粒径の5倍である正方形領域を一つの測定視野範囲Aと定める。例えば、cBN粒子の平均粒径が1μmの場合には、5μm×5μmの正方形の領域を一つの測定視野範囲とする。
次いで、正方形をなす測定視野範囲Aの頂部から対角線Dを引き、該対角線Dと重なるcBN粒子10の数Q1をカウントする。また、対角線D上に存在する個々のcBN粒子10について、隣接するcBN粒子10との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相20が存在するか否かを、上述の方法により特定する。そして、隣接するcBN粒子10との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相20が存在すると特定されたcBN粒子10の数q1をカウントする。得られたcBN粒子10の数q1、Q1からq1/Q1の値を算出する。少なくとも5視野についてq1/Q1を算出し、これらの平均値を上記割合q/Qとする。
上記方法によって、隣接するcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子を特定し、該cBN粒子が存在する割合(q/Q)を求めることができる。本実施形態では、上記q/Qの値は0.4以上であることが必要である。
<隣接するcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子のうち、当結合相における((C+O)/(C+O+B))が0.8以上となるcBN粒子の数およびその割合(n/N)>
隣接するcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子のうち、当結合相における((C+O)/(C+O+B))が0.8以上となるcBN粒子の数およびその割合の測定は、以下の手順で行う。
まず、図18の模式図において、上述のように、隣接するcBN粒子相互の間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子を特定した後、cBN粒子相互間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相において、((C+O)/(C+O+B))が0.8以上であるcBN粒子の数およびその割合を求める。言い換えると、隣接するcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子のうち、この結合相の((C+O)/(C+O+B))が0.8以上となっているcBN粒子の数(n)と、当該cBN粒子の、隣接するcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子の数(N)に対する割合(n/N)を求める。その数の測定およびその割合の算出は、次のように行うことができる。
例えば、一辺の長さLがcBN粒子1の平均粒径の5倍である一つの正方形の測定視野領域Aの頂部から引いた対角線Dと重なるcBN粒子10のうち、隣接するcBN粒子10との間に幅が1nm以上30nm以下である結合相20が存在するcBN粒子10を特定し、その数N1をカウントする。次いで、隣接するcBN粒子10との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相20が存在するcBN粒子10のうち、当結合相20における((C+O)/(C+O+B))が0.8以上(但し、面積比)であるcBN粒子10を、上述の方法により特定し、その数n1をカウントする。得られたcBN粒子10の数n1、N1からn1/N1の値を算出する。少なくとも5視野についてn1/N1を算出し、これらの平均値を上記割合n/Nとする。
上記方法によって、隣接するcBN粒子との間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相において、((C+O)/(C+O+B))が0.8以上となるcBN粒子の数(n)および存在割合(n/N)を求めることができる。本実施形態では、上記n/Nの値は0.5以上であることが望ましい。即ち、隣り合うcBN粒子との間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相において、((C+O)/(C+O+B))が0.8以上となるcBN粒子の数(n)は、隣り合うcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子の数(N)に対して、0.5以上の平均割合で存在することが望ましい。
そして、平均領域数割合(n/N)が0.5以上である場合には、cBN粒子−cBN粒子間に強固な結合相を形成することができ、高硬度を示す。なお、n/Nの値は0.6以上が好ましく、0.8以上1以下がさらに好ましい。
隣り合うcBN粒子の間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相であって、かつ、当結合相中の((C+O)/(C+O+B))の値が0.8以上であるcBN粒子の存在が、全観察視野数の60%以上の視野で観察されることが望ましい。詳細には、cBN焼結体の断面について、cBN粒子の平均粒径の5倍角の視野を観察視野として5視野以上を観察する。各視野において、上述のように特定された隣接するcBN粒子間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相であって、且つ上述のように測定されたその領域に存在する結合相中の((C+O)/(C+O+B))の値が0.8以上となる領域の有無を観察する。当該結合相が少なくとも1箇所観察された視野数が全観察視野数の60%以上であることが好ましい。全観察視野数の80%以上の視野で観察されることがより好ましく、全観察視野で当該領域が観察される(全観察視野数の100%で観察される)ことがさらに好ましい。
なお、隣り合うcBN粒子の間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相であって、かつ、当結合相中の((C+O)/(C+O+B))の値が0.8以上となる領域が多いと、隣り合うcBN粒子とcBN粒子とが強固な結合相で十分に付着したネットワークが多く形成でき、硬さに優れる。なお、((C+O)/(C+O+B))の上限値は1である。
以上のような最外層4と基体2との間には、少なくとも1層の中間層5が設けられている。これにより、最外層4の剥離を防止できる。すなわち、上述のcBN焼結体からなる最外層4を基体2に直接形成した場合、超硬合金等の硬質材料からなる基体2と最外層4との収縮率の違いにより、焼結後に応力が残留し、基体2と最外層4との界面にクラックが生じる。本実施形態では、最外層4と基体2との間に中間層5を設けているので、中間層5が応力緩和層として機能する。その結果、クラックの発生を抑制でき、最外層4の剥離を防止できる。
中間層5の構成は、その硬さ(ビッカース硬さ)が最外層4より小さく基体2より大きいこと以外は特に限定されない。例えば、中間層5はAlと、Co、Ni、Mn、Feのうち少なくとも1種とを含む触媒金属により焼結したcBN焼結体であってもよい。また、上記金属触媒に、W、Mo、Cr、V、Zr、Hfのうち少なくとも1種を含む金属添加物が添加されていてもよい。さらに、中間層5をダイヤモンド、コバルト、および炭化タングステンからなる多結晶ダイヤモンド焼結体で構成することもできる。
ここで、中間層5は、30〜70vol%のcBN粒子またはダイヤモンド粒子を含有していることが好ましい。硬質粒子であるcBN粒子またはダイヤモンド粒子の含有量が30vol%以下の場合は硬さが基体2より小さくなる。また、70vol%以上の場合は最外層4と同等の硬さとなる。そのため、応力緩和層として機能するためには、中間層5におけるcBN粒子またはダイヤモンド粒子の含有量を30〜70vol%とすることが好ましい。
なお、本実施形態では、中間層5が単層構造とされているが、2層以上の多層構造でもよい。ただし、中間層5を3層以上の多層構造とした場合には、最外層4側から基体2側に向かうに従い中間層5のcBN粒子またはダイヤモンド粒子の含有量が漸減してビッカース硬さが小さくなることが望ましい。
チップ中心線C上における最外層4の厚さは、0.3mm以上1.5mm以下とすることが好ましい。最外層4の厚さが0.3mm以下の場合、掘削チップがすぐに摩滅して短寿命となる虞がある。一方、最外層4の厚さが1.5mm以上の場合、焼結時の残留応力によるクラックが発生しやすくなり、掘削時の突発欠損を招く虞がある。最外層4の厚さはより好ましくは0.4mm以上1.3mm以下である。また、チップ中心線C上における中間層5全体の厚さは、0.2mm以上1.0mm以下とすることが好ましい。中間層5の厚さが0.2mm以下の場合、均一な層が形成され難く、焼結時の残留応力が吸収され難くなり、チップの応力緩和の役割が果たせなくなる虞がある。一方、中間層5の厚さが1.0mm以上の場合、硬質層3(最外層4および中間層5)全体の厚さが大きくなり、焼結時の残留応力によるクラックが発生しやすくなって、掘削時の突発欠損を招く虞がある。中間層5全体の厚さはより好ましくは0.3mm以上0.8mm以下である。
次に、上述の最外層4および中間層5を備える掘削チップの製造方法を説明する。
本実施形態の掘削チップの製造方法は、cBN粒子の表面に前処理を行う工程と、最外層4の結合相の原料粉末と前処理したcBN粒子とを混合した混合粉末を得る工程と、混合粉末と中間層5の原料粉末と基体2とを焼結する工程とを備える。
cBN粒子表面の前処理は、表面清浄度の高いcBN粒子を得るために、次のように行う。まず、例えば、cBN粒子の表面に、第1層として厚み1〜5nmのTiO2を成膜し、次いで、第2層として厚み5〜10nmのTiCを成膜する。成膜方法として、例えば、ALD法(Atomic Layer Deposition)を用いることができる。ALD法はCVD法の一種であり、真空チャンバ内の基材に、原料化合物の分子を一層ごとに反応させ、Arや窒素によるパージを繰り返し行うことで成膜する方法である。
成膜にあたっては、流動層炉内に基材となるcBN粒子を装入し、炉内を250℃程度に昇温する。次いで、Ti元素供給用原料ガス流入工程、Arガスパージ工程、O元素供給用原料ガス流入工程、およびArガスパージ工程を1サイクルとして、このサイクルを所望のTiO2膜厚になるまで繰り返し行う。例えば、30分かけて成膜することにより、膜厚5nm程度のTiO2膜を、cBN粒子表面に被覆形成することができる。
次いで、前記と同様にして、炉内を400℃程度に昇温し、Ti元素供給用原料ガス流入工程、Arガスパージ工程、C元素供給用原料ガス流入工程、Arガスパージ工程を1サイクルとして、このサイクルを所望のTiC膜厚になるまで繰り返し行う。
次に、所定の厚さの第1層としてTiO2膜、第2層としてTiC膜をその表面に形成したcBN粒子を、真空下で約1000℃で加熱する。これにより、cBN粒子表面の酸素等の不純物元素をTiO2膜、TiC膜中に拡散させて捕捉する。最後に、cBN粒子をボールミル混合することにより、TiO2膜、TiC膜に切れ間を形成し、TiO2膜、TiC膜がcBN粒子を不連続に被覆するような膜にしたのち、このcBN粒子を、cBN焼結体製造用の原料として使用する。
次に、前処理を施したcBN粒子を最外層4の結合相の原料粉末と所定の組成となるように混合し、混合粉末を得る。最外層4の結合相の原料粉末として、TiC粉末、TiN粉末、TiCN粉末、WC粉末、Al粉末、TiAl3粉末、およびAl2O3粉末を用いることができる。
その後、得られた混合粉末と中間層5の原料粉末と基体2とを、通常の超高圧焼結装置に装入し、例えば、5GPa以上の圧力、かつ、1600℃以上の温度の焼結条件で所定時間、超高圧高温焼結する。このようにして、最外層4、中間層5および基体2を一体に焼結することにより、本実施形態の掘削チップのチップ本体1を製造することができる。そして、前記の前処理によりTiO2膜、TiC膜をその表面に形成し、また、切れ間を形成したcBN粒子を用いてcBN焼結体を作製することにより、cBN粒子の界面付着強度が向上した本実施形態に係る硬さの高いcBN焼結体の最外層4を得ることができる。
本実施形態の製造方法によれば、最外層4のcBN粒子として前処理したcBN粒子を用いると共に、これを超高圧高温焼結することにより、上述の構成を備える最外層4を形成できる。また、ダイヤモンドおよび立方晶窒化ホウ素の安定領域である圧力5.0GPa以上、温度1500℃以上で焼結することが好ましい。これにより、最外層4と中間層5とを基体2上に同時に形成できる。なお、焼結圧力は5.5GPa以上8.0GPa以下がより好ましく、焼結温度は1600℃以上1800℃以下がより好ましい。なお、上記工程は原料粉末の酸化を防止するように行われることが好ましく、具体的には非酸化性の保護雰囲気下で原料粉末や成形体を取り扱うことが好ましい。
以上、本発明の実施形態の掘削チップ、掘削工具および掘削チップの製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。本実施形態では、上述のようにチップ本体1の先端部が半球状をなすボタンタイプの掘削チップに本発明を適用した場合について説明したが、チップ本体1の先端部が砲弾状をなす、いわゆるバリスティックタイプの掘削チップや、先端部の後端側が円錐面状をなして先端側に向かうに従い縮径するとともに、その先端がチップ本体1の円柱状の後端部よりも小さな半径の球面状をなす、いわゆるスパイクタイプの掘削チップに本発明を適用することも可能である。
また、本実施形態では掘削チップを掘削バイトに適用した場合について説明したが、本発明の掘削チップは、露天採掘や長壁式採掘に用いられるドラム式掘削装置の回転ドラムの外周に取り付けられるピックに適用することもできる。
なお、本実施形態のcBN焼結体は、上述のようにcBN粒子と結合相とからなる。この結合相において、隣接するcBN粒子の間に存在する幅が1nm以上30nm以下の結合相以外で焼結体中に形成される結合相の主体はTiC相であるが、焼結によって生成するTiの窒化物、炭化物、炭窒化物、ホウ化物、Alの窒化物、ホウ化物、酸化物およびこれらの2種以上の固溶体の中から選ばれる1種または2種以上と不可避不純物を含有することは許容される。
次に、本発明の掘削チップおよび掘削ビットの実施例を挙げて、本発明の効果について実証する。
(実施例1)
まず、実施例1として、最外層を構成するcBN焼結体の実施例を挙げて、本発明の効果について実証する。
表1に示すメディアン径(D50)を有するcBN粒子を基材とし、ALD法により、cBN粒子に、第1層としてTiO2膜を成膜し、次いで、第2層としてTiC膜を被覆した。具体的には、まず、cBN粒子を炉内に装入し、炉内を250℃に昇温した。次いで、成膜用ガスとして、Ti元素供給用原料ガス、および、O元素供給用原料ガスを用いて、以下の(1)〜(4)を1サイクルとして、このサイクルをTiO2膜が目標膜厚になるまで繰り返した。
(1)Ti元素供給用原料ガス流入工程
(2)Arガスパージ工程
(3)O元素供給用原料ガス流入工程
(4)Arガスパージ工程
次いで、炉内を400℃程度に昇温した。成膜用ガスとして、Ti元素供給用原料ガス、および、C元素供給用原料ガスを用いて、以下の(5)〜(8)を1サイクルとして、このサイクルをTiC膜が目標膜厚になるまで繰り返した。
(5)Ti元素供給用原料ガス流入工程
(6)Arガスパージ工程
(7)C元素供給用原料ガス流入工程
(8)Arガスパージ工程
なお、上記のTiO2膜およびTiC膜でコーティングされたcBN粒子をSEMで観察することにより、cBN粒子の表面に表1に示される平均膜厚のTiO2膜およびTiC膜が被覆されていることを確認した。
次いで、TiO2膜およびTiC膜をその表面に形成したcBN粒子を、真空下で約1000℃、30分加熱処理して、cBN粒子表面の酸素等の不純物元素をTiO2膜およびTiC膜中に拡散させた。加熱処理されたcBN粒子を炭化タングステン製の容器とボールを用いてボールミル混合して、TiO2膜およびTiC膜に切れ間を形成することにより、不連続なTiO2膜およびTiC膜でコーティングされているcBN粒子を作製した。
0.3〜0.9μmの範囲内の平均粒径を有するTiC粉末を結合相の原料粉末として用意した。このTiC粉末と、上述のように前処理を行ったcBN粒子の粉末とを、これらの合量を100vol%としたときのcBN粒子の粉末の含有量が70〜95vol%となるように配合し、湿式混合し、乾燥した。その後、油圧プレスにて成形圧1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形して成形体を得た。次いで、この成形体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、1000〜1300℃の範囲内の所定温度に30〜60分間保持して熱処理した後、超高圧焼結装置に装入して5GPa、1600℃で30分間超高圧高温焼結した。これにより、表2に示す本発明cBN焼結体1〜17を作製した。
比較のため、次のように、比較例cBN焼結体1〜10を用意した。まず、表4に示すメディアン径(D50)を有するcBN粒子a〜iを用意した。cBN粒子a、b、f〜iについては、ALD法による第1層のTiO2膜および第2層のTiC膜をコーティングしなかった。cBN粒子c、dについては、第1層のTiO2膜および第2層のTiC膜のいずれか一方の膜のみをcBN粒子表面に形成した。cBN粒子eについては、本発明cBN焼結体1〜17と同様に、cBN粒子表面に第1層のTiO2膜および第2層のTiC膜を成膜した。cBN粒子c〜eのTiO2膜およびTiC膜は、表4に示す平均膜厚を有する。
なお、第1層のTiO2膜および第2層のTiC膜のいずれか一方の膜のみをコーティングしたcBN粒子粉末に対しては、TiO2膜あるいはTiC膜へのボールミル混合による切れ間を形成した。上記で準備したcBN粒子と、上述の本発明cBN焼結体1〜17と同じ結合相の原料粉末である0.3〜0.9μmの範囲内の平均粒径を有するTiC粉末を結合相形成用原料粉末として用意し、その合量を100vol%としたときのcBN粒子の粉末の含有量が55〜98.2vol%となるように配合した。次いで、上記本発明cBN焼結体1〜17と同様な手順で、表5に示す比較例cBN焼結体1〜10を製造した。
本発明cBN焼結体1〜17および比較例cBN焼結体1〜10について、cBN粒子の平均粒径(μm)、cBN粒子の含有量(vol%)を、上述の方法で測定した。なお、画像処理に用いた観察領域は、15μm×15μmとした。これらの結果を表2、5に示す。
さらに、本発明cBN焼結体1〜17および比較例cBN焼結体1〜10の研磨面上の10点について、荷重5kgでビッカース硬さ(HV)を測定した。これらの平均を平均ビッカース硬さとして表2、5に示す。なお、各値について1桁目を四捨五入した。
さらに、隣り合うcBN粒子間における幅が1nm以上30nm以下の結合相の有無、成分の検出、および、面積比((C+O)/(C+O+B))の算出を上述の方法で行った。この割合((C+O)/(C+O+B))は5カ所について測定し、その平均値を算出した。この結果を表2、3、5、6に示す。
また、隣接するcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子の特定および該cBN粒子の存在割合(q/Q)の測定を、上述のように行った。合計10視野について同様の測定を行い、これらの平均値をq/Qの値として求めた。この値を、隣接するcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子の平均粒子数割合(q/Q)として表3、6に示す。
また、隣接するcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するcBN粒子の数(N)に対する、当該cBN粒子の結合相の((C+O)/(C+O+B))が0.8以上(但し、面積比)となっているcBN粒子の数(n)との割合(n/N)を、上述のように求めた。合計10視野について同様の測定を行い、これらの平均値として、n/Nの値を求めた。その結果を表3、6に示す。表中の「0」は、隣り合うcBN粒子との間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するが、当該結合相における((C+O)/(C+O+B))が0.8未満のため、nが0である結果を意味する。
表2、3、5、6に示される結果から、本発明cBN焼結体1〜17は、cBN粒子に前処理を行ったので、隣接するcBN粒子相互の間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在し、且つ該結合相における炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比((C+O)/(C+O+B))は0.8以上であって、cBN粒子同士が接触して結合相と十分反応できない未焼結部分が少ないことが確認された。また、本発明cBN焼結体1〜17は、cBN粒子表面での粗大なホウ化物の生成はなく、そのため、cBN粒子含有割合が70〜95vol%の範囲において、3760以上のビッカース硬さ(HV)を有することが確認された。
これに対して、cBN粒子表面に前処理を施していない比較例cBN焼結体1、2、7〜10は、隣接するcBN粒子相互の間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するが、該結合相における炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比((C+O)/(C+O+B))は0.8未満であり、cBN粒子周囲のホウ化物の生成が多いため、隣り合うcBN粒子は強固に付着されなく、得られたcBN焼結体の硬さは低い。
また、cBN粒子表面にTiO2膜のみを形成した比較例cBN焼結体3は、TiO2の上にTiC膜がないため、焼結中にTiO2が結合相成分として投入したAl成分と反応し、TiがcBNと過剰に反応し、粗大なホウ化物が生成するため、隣接するcBN粒子相互の間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するが、該結合相における炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比((C+O)/(C+O+B))は0.8未満であり、隣り合うcBN粒子は強固に付着されなく、得られたcBN焼結体の硬さは低い。
また、cBN粒子表面にTiC膜のみを形成した比較例cBN焼結体4は、TiC膜の下にTiO2膜がないため、cBN粒子との反応が十分になされず、隣接するcBN粒子相互の間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在するが、該結合相における炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比((C+O)/(C+O+B))は0.8未満であり、隣り合うcBN粒子は強固に付着されなく、得られたcBN焼結体の硬さは低い。
cBN粒子表面に1層目にTiO2膜、2層目にTiC膜を形成しているが、cBN粒子の含有量が本実施形態で規定する範囲より少ない比較例cBN焼結体5は、隣接するcBN粒子相互の間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在し、該結合相における炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比((C+O)/(C+O+B))は0.8以上であるが、ビッカース硬さは3160と低硬度であった。
また、比較例cBN焼結体6は、比較例cBN焼結体5と同様に、cBN粒子表面に1層目にTiO2膜、2層目にTiC膜を形成しており、隣接するcBN粒子相互の間に幅が1nm以上30nm以下の結合相が存在し、該結合相における炭素と酸素とホウ素含有領域の合計面積に対する炭素と酸素含有領域の合計面積が占める面積比((C+O)/(C+O+B))は0.8以上であり、cBN粒子の含有量が本実施形態で規定する範囲より高いにも関わらず、ビッカース硬さは3680にとどまった。ちなみに、本発明cBN焼結体4や6は、比較例cBN焼結体6よりcBN粒子の含有量は少ないが、ビッカース硬さ4080、3860であって、比較例cBN焼結体6に比してはるかに高い硬度を示した。
(実施例2)
次に、実施例2として、上述のcBN焼結体を最外層に適用した掘削チップの実施例を挙げて、本発明の効果について実証する。
実施例1と同様の前処理を行った粒径4.1μmのcBN粒子の粉末と、結合相の原料粉末である粒径0.5μmのTiC粉末と、粒径0.3μmのAl粉末と、粒径0.5μmのTiAl3粉末と、粒径0.8μmのWC粉末とを、これらの合量を100vol%としたときのcBN粒子の含有量が表7の割合となるように配合し、湿式混合し、乾燥した。このようにして本発明例1〜5の最外層の原料粉末を得た。
また、粒径9.6μmの前処理しないcBN粉末と、粒径4μmのW粉末と、粒径0.9μmのAl粉末と、粒径3μmのCo粉末とを、これらの合量を100vol%としたときのcBN粒子の含有量が表8の割合となるように配合し、湿式混合し、乾燥した。これにより、本発明例1〜3、5の中間層の原料粉末を得た。
また、粒径8μmのダイヤモンド粒子と、粒径3.7μmのCo粉末と、粒径2.1μmのWC粉末とを、これらの合量を100vol%としたときのダイヤモンド粒子の含有量が表8の割合となるように配合し、湿式混合し、乾燥した。これにより、本発明例4の中間層の原料粉末を得た。
本発明例1〜5の最外層の原料粉末と中間層の原料粉末とを、WC:94wt%、Co:6wt%の超硬合金よりなる基体とともに、焼結圧力6.0GPa、焼結温度1600℃、焼結時間20分の条件下で一体に焼結した。これにより、半径5.5mm、チップ中心線方向の長さ16mmの、本発明例1〜5に係るボタンチップ(掘削チップ)を製造した。なお、チップ本体先端部がなす半球の半径は5.75mmであった。また、チップ中心線方向における最外層および中間層を表7、8の層厚とした。
また、本発明例1〜5に対する比較例として、最外層の硬質粒子をcBN粒子ではなくダイヤモンド粒子としたボタンチップ(比較例1)、最外層の結合相として金属触媒を用いたボタンチップ(比較例2)、最外層に含まれるcBN粒子の含有量を70vol%未満としたボタンチップ(比較例3)、中間層を設けないボタンチップ(比較例4)、および最外層に含まれるcBN粒子の含有量を95vol%超としたボタンチップ(比較例5)を製造した。比較例1〜5のボタンチップをいずれも本発明例1〜5と同じ寸法とした。
ここで、比較例1、2のボタンチップの最外層には、前処理しない硬質粒子(ダイヤモンド粒子またはcBN粒子)を用いた。詳細には、比較例1のボタンチップは、粒径8μmのダイヤモンド粒子と、粒径3μmのCo粉末と、粒径2.7μmのWC粉末とを、これらの合量を100vol%としたときのダイヤモンド粒子の含有量が表7の割合となるように配合し、湿式混合し、乾燥した。このようにして最外層の原料粉末を得た。そして、この最外層の原料粉末と本発明例1〜5と同じ中間層の原料粉末とを、本発明例1〜5と同じ超硬合金よりなる基体とともに、焼結圧力5.4GPa、焼結温度1450℃、焼結時間5分の条件下で一体に焼結した。
比較例2のボタンチップは、粒径4.1μmの前処理していないcBN粒子粉末と、粒径1.5μmのW粉末と、粒径0.3μmのAl粉末と、粒径3μmのCo粉末とを、これらの合量を100vol%としたときのcBN粒子の含有量が表7の割合となるように配合し、湿式混合し、乾燥した。このようにして最外層の原料粉末を得た。そして、この最外層の原料粉末と本発明例1〜5と同じ中間層の原料粉末とを、本発明例1〜5と同じ超硬合金よりなる基体とともに、焼結圧力5.0GPa、焼結温度1600℃、焼結時間30分の条件下で焼結した。
比較例3、5のボタンチップは、本発明例1〜5と同様に作製した。比較例4のボタンチップは、中間層を設けないことを除いて、本発明例1〜5と同様に作製した。また、比較例1〜5のチップ中心線方向における最外層および中間層を表7、8の層厚とした。
本発明例1〜5および比較例3〜5の前処理したcBN粒子、または比較例1、2の前処理していない硬質粒子を用いて形成した最外層のチップ中心線Cを通る断面について、隣り合う硬質粒子(ダイヤモンド粒子またはcBN粒子)間における幅が1nm以上30nm以下の結合相の有無、この結合相の成分の検出を上述の方法で確認すると共に、この結合相における面積比((C+O)/(C+O+B))、q/Qおよびn/Nを上述の方法で算出した。この結果を、最外層のビッカース硬さとともに表7に示す。なお、表7中の「−」は、未測定であることを意味する。比較例4、5のボタンチップでは、後述のように焼結時にクラックが発生したため、最外層のビッカース硬さを測定することができなかった。
さらに、これら本発明例1〜5および比較例1〜5の掘削チップをそれぞれ1種ずつ、図2に示したようなビット径45mmのビット本体におけるフェイス面に2つ、ゲージ面に5つの、合わせて7つ取り付けた7種の掘削ビットを製造した。そして、これらの掘削ビットにより、ニッケル鉱石の鉱山に1つの掘削長が4mの掘削孔を複数掘削する掘削作業を行い、掘削チップが寿命に至るまでのトータル掘削長(m)を測定するとともに、掘削チップが寿命に達したときのチップ破損状態を確認した。なお、ボタンチップがチッピング等の欠損を生じることなく最外層が徐々に摩耗した場合は正常摩耗と判断した。これらの摩耗領域(摩耗量)が大きくなり、最終的にゲージ径がビット本体の外径と等しくなったときにビットが寿命に達したと判断した。一方、チップ本体が2つ以上欠損し、その影響で掘削速度が低下したときもビットが寿命に達したと判断した。
なお、掘削条件は、掘削装置がTAMROCK社製型番H205D、打撃圧力は160bar、フィード(送り)圧力は80bar、回転圧力は55bar、ブロー孔からは水を供給してその水圧は18barであった。この結果を表8に示す。
硬質層が多結晶ダイヤモンド焼結体の比較例1の掘削チップを取り付けた掘削ビットでは、掘削長が124mであり、欠損により掘削チップは寿命に達した。また、金属触媒を用いて最外層のcBN焼結体を形成した比較例2の掘削チップを取り付けた掘削ビットでは、掘削長が100mに及ばず、欠損により掘削チップは寿命に達した。最外層のcBN粒子の含有量が少ない比較例3の掘削チップを取り付けた掘削ビットでは、正常摩耗により掘削チップが寿命に達したものの、掘削長が100mに及ばなかった。中間層を設けなかった比較例4では焼結時にクラックが発生したため、比較例4の掘削チップを用いて掘削を行うことができなかった。最外層のcBN粒子の含有量が多い比較例5では、最外層内における焼結時の不均一性を原因として焼結時にクラックが発生したため、比較例5の掘削チップを用いて掘削を行うことができなかった。
これに対して、本発明例1〜5の掘削チップを取り付けた掘削ビットでは、掘削長が最も短い本発明例5でも500m以上の掘削が可能であった。