A.第1実施形態:
(A−1)高圧タンクの全体構成:
図1は、本発明の第1実施形態の高圧タンク10の外観の概略を表わす斜視図である。また、図2は、高圧タンク10の断面の様子を表わす断面模式図である。
高圧タンク10は、本実施形態では、流体として圧縮水素を貯蔵し、燃料電池車両に搭載される。高圧タンク10は、タンク本体11と、タンク固定部材14と、プロテクタ20と、を備える(図1参照)。
タンク本体11は、図1に示すように,略円筒状に形成されており、図2は、このようなタンク本体11の軸線方向に垂直な断面の様子を表わす。図1、図2、および後述する図3、図6、図7では、水平方向のうち、タンク本体11の軸線方向に平行な方向はX軸方向として表わし、上記軸線方向に垂直な方向はY軸方向として表わしている。また、鉛直方向はZ軸方向と表わしている。タンク本体11は、図2に示すようにライナ50および補強層52を備えると共に、図1に示すようにバルブ12を備える。
ライナ50は、流体を密封するための空間を内部に形成する。ライナ50は、例えば、ナイロン系樹脂(ポリアミド系樹脂)やポリエチレン系樹脂等の合成樹脂、あるいは、アルミニウム合金等の金属によって形成することができ、本実施形態ではナイロンによって形成している。また、ライナ50は、軸線方向に延びる形状を有し、円筒状に形成された部位の両側に、端部に近づくほど縮径する部位を備えている。一方の端部には、図示しない口金が設けられており、この口金には、バルブ12が取り付けられている。
補強層52は、ライナ50の外表面を覆うように形成されており、ライナ50を補強して高圧タンク10の強度(タンク内圧に対する強度)を向上させる。補強層52は、ライナ50の外表面全体を覆うように設けられており、ライナ50側の内層54と、内層54の外側に設けられた外層56とが、積層された構造となっている。
内層54は、流体が充填されるタンク本体11の内圧に対する強度を確保するための層であり、繊維強化プラスチック(FRP)によって形成される層である。具体的には、樹脂を含浸させた長繊維をライナ50の表面上で巻回した後に樹脂を硬化させた層である。
外層56は、内層54を保護すると共に、後述するように、高圧タンク10の外部から衝撃が加えられたときに、衝撃に起因する瘢痕を付されることにより、加えられた衝撃の程度を認識可能にするための層である。本実施形態では、外層56も、内層54と同様にFRPによって形成している。
FRP層に用いる繊維としては、例えば、金属繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、アルミナ繊維等の無機繊維、アラミド繊維等の合成有機繊維、又は、綿等の天然有機繊維の各種繊維が挙げられる。これらの繊維は、単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。本実施形態では、内層54および外層56の各々を構成するFRPに含まれる繊維の種類を異ならせている。内層54および外層56の各々を構成するFRPの種類は、各々の層の既述した機能を果たす観点から、適宜選択すればよい。
本実施形態では、内層54は、繊維としてカーボン繊維を含むカーボン繊維強化プラスチック(CFRP)によって形成している。これにより、内層54をより薄く形成しつつ、タンク内圧に対する十分な強度を確保することを容易にしている。また、本実施形態では、外層56は、繊維としてガラス繊維を含むガラス繊維強化プラスチック(GFRP)によって形成している。CFRPよりも柔らかいGFRPによって外層56を構成することで、後述するように、タンク外部から加えられた衝撃に起因する瘢痕を外層56に付すことが容易になる。
内層54および外層56の各々を構成するFRPに含まれる樹脂としては、熱硬化性樹脂を用いることができ、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等を用いることができる。本実施形態では、内層54および外層56の双方で、エポキシ樹脂を用いているが、内層54と外層56とでは用いる樹脂を異ならせてもよい。
FRPによって構成される内層54および外層56は、フィラメントワインディング法(FW法)によって形成されている。フィラメントワインディング法とは、熱硬化性樹脂が含浸された繊維をマンドレル(本実施例では、ライナ50)に巻き付けて、熱硬化性樹脂を熱硬化させる方法である。樹脂の硬化は、例えば、加熱炉を用いた加熱や、高周波誘導加熱を誘起する誘導加熱コイルを用いた誘導加熱手法により行なうことができる。
バルブ12は、金属(本実施形態ではアルミニウム)によって形成される部材であり、既述した口金の開口部に取り付けられて、この開口部を開閉する。具体的には、バルブ12は、ライナ50に対して水素を供給するための流路、および、ライナ50から取り出した水素を導くための流路と、ライナ50内と、を接続するための部材である。バルブ12は、これらの流路とライナ50内とを連通させるためのバルブ内流路と、バルブ内流路における連通状態を調節するための各種の弁と、を備えている。
タンク固定部材14は、タンク本体11を燃料電池車両の車体に固定するための部材である。図1に示すように、本実施形態では、タンク固定部材14は帯状に形成されており、タンク本体11の外周に沿うように湾曲されて、両端部が車体に固定された取り付け金具16に締結されている。タンク固定部材14は、タンク本体11を固定するための十分な強度を有していればよく、例えば金属製とすることができる。本実施形態では、2本のタンク固定部材14を用いているが、1または3以上のタンク固定部材14を用いてもよい。また、タンク固定部材14は、帯状以外の形状としてもよい。
プロテクタ20は、タンク本体11を保護するための部材である。図1に示すように、本実施形態では、プロテクタ20は、薄板状部材によって構成され、タンク本体11の補強層52の表面の少なくとも一部に対向して配置される。プロテクタ20は、補強層52の表面を覆う領域では、タンク本体11の表面形状に沿うように湾曲されている。本実施形態では、プロテクタ20の取り付けは、タンク固定部材14において行なわれる。具体的には、タンク固定部材14には、タンク本体11の径方向外側に向かって突出するように複数のボルト15が設けられている。プロテクタ20には、上記複数のボルト15に対応する位置に複数の締結穴が設けられており、これらの締結穴を対応するボルト15にはめ込んで、ナットにより締結されている。なお、プロテクタ20は、タンク固定部材14への締結以外の方法により、タンク本体11に対して固定してもよい。本実施形態では、プロテクタ20は、金属によって形成されている。具体的には、プロテクタ20は、例えば、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属によって形成することができる。所望の強度を確保可能であれば、金属以外の材料によりプロテクタ20を構成してもよい。
プロテクタ20を配置する箇所(プロテクタ20によって補強層52の表面を覆う範囲)は、例えば、燃料電池車両における高圧タンク10の配置箇所に応じて適宜定めればよい。例えば、高圧タンク10を車両後方に配置する場合には、補強層52における車両の後端に面する領域を覆うようにプロテクタを配置すればよい。これにより、車両後方から加えられる衝撃から高圧タンク10を保護することができる。また、プロテクタ20は、補強層52(タンク本体11の表面)の表面の一部に対向して設けるのではなく、タンク本体11の表面全体に対向して、すなわち、タンク本体11の表面全体を覆うように配置してもよい。また、プロテクタ20は、タンク本体11における比較的強度が低いと考えられる領域を覆う部分をより厚くして、強度を高めてもよい。
図2に示すように、プロテクタ20は、基板部25と、基板部25上においてタンク本体11側に積層されたマーキング板30と、を備える。マーキング板30は、補強層52に対向する面において、補強層52に向かって突出する複数の凸部32を備える。基板部25およびマーキング板30を金属製とする場合には、両者は、例えば溶接により一体化することができる。
(A−2)マーキング板の構成:
図3は、タンク本体11上に配置されたプロテクタ20が備えるマーキング板30を、Y軸方向から見た様子を表わす説明図である。マーキング板30は、基板部25と一体化されて、プロテクタ20の裏面側(タンク本体11に対向する側)に配置されているため、図3では、マーキング板30およびマーキング板30に設けられた複数の凸部32は、破線で示している。
本実施形態のマーキング板30は、図1および図3に示すように、タンク固定部材14と重なる位置で分断されて、3つの部分に分かれている。各々のマーキング板30は、既述したように、補強層52に向かって突出する複数の凸部32を備える。本実施形態では、複数の凸部32は、X軸方向とZ軸方向の各々において、隣り合う凸部32間の間隔が特定の長さとなるように設けられており、規則的に配置されている。複数の凸部32を規則的に配置することで、後述するように凸部32が外層56に形成する瘢痕によってタンク本体11に加えられた衝撃の程度を判定する際に、より精度良い判定が可能になる。ただし、複数の凸部32の配置は、不規則的な配置とすることも可能である。
凸部32は、後述するように、高圧タンク10に対してプロテクタ20の外側から衝撃が加えられたときに、外層56に衝突して外層56を傷つけ、外層56において上記衝撃の大きさに応じた瘢痕を生じさせるための構造である。凸部32の形状は、上記のように外層56に瘢痕を生じさせることができればよく、種々の形状を採用可能であり、特に限定されない。ただし、衝撃を受けた際に外層56に刺さる(食い込む)ことによって瘢痕を生じさせることを容易にする観点から、凸部32は、タンク本体11に向かって突出する先端が尖っていること、あるいは、先端が開放端形状であることが望ましい。
図4および図5は、それぞれ、凸部32の外観形状の一例を示す斜視図である。図4の凸部32は、マーキング板30にバツ印状の切れ込みを設け、切れ込みによって形成される4つの三角形状を立ち上げる曲げ加工(切り起こし)を施すことにより形成している。この場合、凸部32の先端は、上記4つの三角形状の各々の頂点となる。このような形状の凸部32を設けるならば、視認性に特に優れた瘢痕を外層56に形成することが可能になる。図5の凸部32は、マーキング板30において、凸部32を形成すべき位置に円形の穴を打ち抜き加工により形成し、その後、バーリング加工により略円筒状の凸部を形成することにより設けられている。この場合、凸部32の先端は、略円形の開放端となる。高圧タンク10に対して衝撃が加えられたときに、タンク本体11の各領域に加えられた衝撃の大きさを瘢痕の状態(深さ)から判別可能にする観点から、複数の凸部32の形状は、マーキング板30全体で、同じ形状とすることが望ましい。
本実施形態のプロテクタ20は、プロテクタ20としての剛性を確保するための基板部25と、凸部32を有するマーキング板30とを、別部材として備えている。そのため、プロテクタ20において十分な剛性を確保するために、プロテクタ20全体の厚みをより厚くする必要があっても、より薄いマーキング板30を用いることにより、所望の形状の凸部32を、プロテクタ20全体で容易に形成することが可能になる。
プロテクタ20において、基板部25と、複数の凸部32を設けるためのマーキング板30とを別部材とする必要はなく、プロテクタ20において複数の凸部32が形成されていればよい。例えば、マーキング板30を別途用いることなく、基板部25に直接凸部32を形成することとしてもよい。この場合には、例えば、先端が尖った形状(例えば円錐形状)の複数の部材を用意し、これらの部材を基板部25の表面に埋め込むこととすればよい。ただし、生産効率を向上させる観点から、基板部25とは別部材のマーキング板30を加工することにより、複数の凸部32を一括で形成することが望ましい。
(A−3)衝突時の動作
以下に、車両の衝突時などに高圧タンク10に衝撃が加えられて、マーキング板30の凸部32によって、外層56に瘢痕が形成される際の動作について説明する。
図6は、高圧タンク10に衝撃が加えられたときの高圧タンク10の様子を表わす断面模式図であり、図2と同様に、高圧タンク10の軸線方向に垂直な断面の様子を表わす。図2は高圧タンク10に衝撃が加えられる前の状態を示し、図6は衝撃が加えられた後の状態を示す。
車両の衝突時などには、車体が変形し、これにより、例えば高圧タンク10の周囲に配置された他の部材が、干渉物60として高圧タンク10に衝突する。図2では、干渉物60が高圧タンク10に向かって移動する様子を、白抜き矢印により表わしている。干渉物60が高圧タンク10に衝突すると、衝撃によりプロテクタ20が変形し、衝撃がプロテクタ20を介してタンク本体11に伝えられる。このとき、プロテクタ20の変形により、プロテクタ20の内側に形成された凸部32が外層56に刺さる(図6参照)。
プロテクタ20を介してタンク本体11に加えられる衝撃の強さは、干渉物60が衝突する箇所が最も強くなり、干渉物60が衝突する箇所から周囲に向かって次第に弱くなる。衝撃の強さは、干渉物60が衝突する箇所を中心として次第に変化するが、図3では、タンク本体11の表面上であってマーキング板30に覆われている部分を、衝撃の強さに応じて便宜的に3段階に分けて示している。具体的には、干渉物60が衝突する箇所を含み、衝撃が最も強い領域を領域Aとして示し、領域Aの外側であって領域Aよりも衝撃が弱い領域を領域Bとして示し、領域Bの外側であって衝撃が最も弱い領域を領域Cとして示している。そして、各領域、および各領域に形成された凸部32において、受けた衝撃力が強いほど、濃いハッチングを付している。干渉物60が高圧タンク10に衝突する際には、衝撃が大きい領域ほど、凸部32がタンク本体11により深く刺さり、より深い瘢痕を外層56に形成する。
本実施形態では、プロテクタ20(凸部32)を金属で形成し、タンク本体11の外層56をGFRPで形成し、内層54をCFRPによって形成している。GFRP製の外層56は、凸部32が衝突する際には凸部32が刺さることによって瘢痕が形成される。図4および図5では、マーキング板30の表面から突出する凸部32の高さを、高さhとして示している。本実施形態では、凸部32の高さhと、外層56の厚みとは、ほぼ同じとなっている。そのため、プロテクタ20を介してタンク本体11に対してある程度大きな衝撃が加わると、凸部32の先端が内層54に達する瘢痕が、外層56に形成される。なお、より硬いCFRP製の内層54は、凸部32が衝突してもほとんど傷が付かない。
車両の衝突があったときなど、高圧タンク10に対して衝撃が加えられた後には、タンク本体11からプロテクタ20を取り外して外層56に形成された瘢痕を調べることにより、タンク本体11に加えられた衝撃の程度を判定することができる。本実施形態では、凸部32がその高さ全体にわたって外層56に食い込む衝撃が加えられたときには、タンク本体11の外観上、凸部32による瘢痕以外に特に大きな損傷が認められなくても、内層54の内部において、層間剥離や繊維断裂等のダメージが生じている可能性が比較的高いと判断する。具体的には、内層54であるCFRP層は、炭素を含んで黒色であるため、例えば、タンク本体11の外観上、黒色の瘢痕が認められれば、凸部32による傷が内層54に達していることが分かる。そのため、外層56の表面において黒色の瘢痕が確認された場合には、高圧タンク10(タンク本体11)を交換すべきと判断する。これに対して、タンク本体11の外観上、黒色の瘢痕が認められなければ、凸部32による傷が内層54に達しておらず、タンク本体11に加えられた衝撃が比較的小さいと判定することができる。この場合には、内層54が受けたダメージが許容範囲であると判断することができる。
なお、内層54に達する瘢痕が一つでも認められればタンク本体11を交換することとすれば、内層54が損傷しているにもかかわらずタンク本体11の使用を継続する可能性をより低くすることができる。これに対して、高圧タンク10に加えられた衝撃の程度と、外層56に形成される瘢痕の状態との相間を求める等により、タンク本体11の交換のための異なる基準を設けてもよい。たとえば、内層54に達する瘢痕が形成される範囲が、予め定めた基準の範囲を超える場合には、タンク本体11を交換することとしてもよい。
以上のように構成された本実施形態の高圧タンク10によれば、プロテクタ20の内側の面に設けた凸部32によって外層56に形成される瘢痕の状態によって、タンク本体11に加えられた衝撃の程度を判定することができる。そのため、タンク本体11の外観上は大きな損傷が認められない場合であっても、内層54の内部に生じた損傷の可能性を、より適切に判断することができる。その結果、タンク本体11に対してある程度大きな衝撃が加えられた場合には、その事実を認識し、高圧タンク10を交換すべきことを判断できる。また、タンク本体11に加えられた衝撃が許容できる範囲であれば、タンク本体11を継続使用可能と判断して、必要のないタンク交換を抑制することができる。このように、高圧タンク10の継続使用の可否に係る判断を適切に行なうことが、より容易になる。
なお、本実施形態では、プロテクタ20の裏面側において、複数の凸部32を設けている。そのため、プロテクタ20に複数の凸部32を設けた範囲にわたって、外部から加えられた衝撃によってタンク本体11に発生した損傷の可能性を判断することができる。さらに、複数の凸部32によって外層56に形成された複数の瘢痕に基づいて、タンク本体11に加えられた衝撃の分布を判断することも可能になる。また、本実施形態では、プロテクタ20の裏面側において、複数の凸部32を規則的に設けている。そのため、プロテクタ20において、比較的狭い範囲に衝撃が加えられる場合であっても、加えられた衝撃によってタンク本体11に発生した損傷の可能性を、精度良く判定することができる。
また、本実施形態では、凸部32の高さhと外層56の厚さとを、ほぼ同じとしている。そのため、タンク交換を要しない程度の比較的弱い衝撃が加えられて、凸部32の一部のみが補強層52に食い込む場合には、凸部32の先端は内層54に達しない。したがって、衝撃によって内層54内部に生じるダメージ(層間剥離や繊維断裂)が許容範囲であり、タンクの使用を継続する場合に、凸部32によって内層54の表面が傷つけられることに起因してタンク強度(タンク内圧に対する強度)が低下することを抑えることができる。
タンク本体11に加えられた衝撃の強さの判定は、外層56の外側からの瘢痕の目視以外の方法により行なってもよい。例えば、外層56における瘢痕が形成された領域を撮像し、得られた画像を解析することにより、黒色のCFRP層に達する瘢痕が形成されているか否かを判定してもよい。あるいは、デプスゲージを用いて、形成された各瘢痕の深さを測定し、内層54に達する瘢痕が形成されたか否かを判定してもよい。また、外層56表面における瘢痕が形成された箇所に粘土等を押し当てて瘢痕形状を写し取り、瘢痕に対応する写し取られた凸部の高さを測定することにより、瘢痕の深さを測定してもよい。これらの方法を用いるならば、目視など外観により瘢痕が内層54に達したか否かを判定できない場合、例えば、内層54に明確な色が付されていない場合や、外層56の厚みが凸部32の高さよりも厚い場合であっても、瘢痕の深さに基づく適切な判断が可能になる。また、凸部32の高さ全体が外層56に食い込んでいない場合であっても、タンク本体11の交換が必要であるとする判断基準を採用することが可能になる。
なお、凸部32の高さおよび外層56の厚さは、凸部32が外層56に刺さる深さによって衝撃の程度が判定できるように(例えば、衝撃が小さいときにはタンク本体11の交換が不要であると判定できるように)、十分な大きさとすることが望ましい。例えば、外層56が薄すぎる場合には、比較的小さな衝撃が加えられた場合であっても、外層56を貫通する瘢痕が形成されて、タンク本体11の交換の要否の判定を十分な精度で行なうことが困難になり得るためである。
また、外層56の厚みは、タンク本体11の交換が必要になる程度の衝撃が加えられるまでは、凸部32が内層54に達しないように、十分に厚く形成することが望ましい。すなわち、外層56の厚みは、凸部32の高さ以上とすることが望ましい。これにより、比較的小さい衝撃が加えられた場合には、内層54が損傷することに起因するタンク強度(タンク内圧に対する強度)の低下を抑えることができる。
凸部32の高さおよび外層56の厚さは、例えば、法律等の種々の規則の規定により定められた、タンク表面の傷の深さとして許容された値に基づいて設定することとしてもよい。例えば、高圧ガス保安法に基づく容器保安規則に関連する「国際圧縮水素自動車燃料装置用容器の技術基準の解釈」において、繊維強化プラスチック複合容器における繊維強化プラスチック部分の許容傷深さは1.25mm以下であることが規定されている。そのため、凸部32の高さおよび外層56の厚さは、例えば、1.25mm以下とすることができる。
B.第2実施形態:
図7は、第2実施形態の高圧タンク110の、軸線方向に垂直な断面の様子を表わす断面模式図である。図7は、図2と同様に、衝撃が加えられる前の状態を表わす。
第2実施形態の高圧タンク110は、プロテクタ20のマーキング板30と、タンク本体11の外層56との間に、スペーサ層40を備える点において、第1実施形態の高圧タンク10とは異なっている。スペーサ層40は、外層56よりも柔らかい層であって、弾性を有している。そのため、プロテクタ20を介してタンク本体11に衝撃が加えられる際には、スペーサ層40は圧縮されて、凸部32によって貫通され得る。このように、スペーサ層40は、衝撃の大きさに応じた外層56における瘢痕形成を妨げない層であればよい。スペーサ層40は、例えば、ポリウレタンなどの樹脂やゴムによって形成することができる。
このような構成とすれば、スペーサ層40の硬さ(凸部32の貫通を妨げる硬さ)や厚さを適宜設定することにより、凸部32が外層56に瘢痕を形成する下限荷重を制御することができる。これにより、高圧タンク110に衝撃が加えられる際の荷重が、タンク交換を要しない軽荷重である場合に、外層56における瘢痕形成を抑え、タンク本体11を継続使用可能であると適切に判定し易くすることができる。
また、本実施形態によれば、高圧タンク110に衝撃が加えられたときに、スペーサ層40によって衝撃を分散させることができる。そのため、限られた狭い面積に荷重が集中することにより内層54が損傷されることを抑え、高圧タンク110の耐久性を向上させることができる。
さらに、第2実施形態の高圧タンク110によれば、スペーサ層40によって、外層56とマーキング板30との隙間を塞ぐことができる。そのため、上記隙間への、車両走行時の飛び石等の異物の侵入を抑えることができる。飛び石等の異物が上記隙間に侵入する場合には、高圧タンク110に衝撃が加えられる際に、上記異物が存在する小さな面積において加重が伝達される。その結果、比較的小さな衝撃であっても、より大きな荷重が限られた面積に加えられ、内層54において、より大きなダメージを発生させ易くなる。スペーサ層40によって上記隙間を塞ぐことにより、このような不都合を抑えることができる。
C.他の実施形態:
(C−1)外層について:
第1および第2実施形態では、外層56は、GFRPなどのFRPによって形成することとしたが、異なる構成としてもよい。外層56をFRPによって構成する場合であっても、長繊維を巻回したFRPではなく、短繊維を含むFRPによって外層56を形成してもよい。また、FRP以外の材料、例えば、樹脂やゴムによって外層56を形成してもよい。衝撃が加えられたときに、プロテクタ20に設けた凸部32によって、衝撃の大きさに応じた瘢痕を形成可能であり、瘢痕の状態に基づいて、タンク本体11の交換の要否を判定可能であればよい。
ただし、内層54が露出することなく、内層54上において所望の厚みの外層56をより均一に形成する観点から、外層56は、FRPにより形成することが望ましい。また、外層56が、強化繊維を含まず樹脂やゴムによって形成される場合には、衝撃が加えられる際には、凸部32の衝突箇所において、凸部32の形状に対してより広い範囲で外層56が剥がれる等、加えられた衝撃力に対して外層56に生じる痕跡がより大きくなる可能性がある。この場合には、加えられた衝撃力が過大に評価される可能性がある。また、強化繊維を含まないことにより、外層56に食い込んだ凸部32が内層54にまで到達し易くなる。その結果、凸部32によって内層54が損傷されて、タンク強度(タンク内圧に対する強度)が低下し、高圧タンクの耐久性が低下する可能性が高まる。このような不都合を抑える観点からも、外層はFRPによって構成することが望ましい。
(C−2)内層について:
内層54は、CFRP以外によって形成してもよく、長繊維を巻回して形成するFRP層であればよい。CFRP層は、衝撃が加えられる際に凸部32が衝突してもほとんど傷が付かない硬さ(凸部32の貫通を妨げる硬さ)を有しているが、カーボン繊維よりも柔らかい繊維を用いて、より柔らかい内層54を形成してもよい。
このように、より柔らかいFRPによって内層54を形成する場合であっても、内層54の内部におけるダメージ(層間剥離や繊維断裂)が許容範囲となる衝撃が加えられるときに、凸部32による内層54の損傷が抑えられていればよい。これにより、衝撃に起因する上記ダメージが許容範囲であるときに、凸部32による損傷によって、内層54の内圧に対する強度(タンク強度)が低下することを抑えることができる。凸部32による内層54の損傷を抑えるには、例えば、外層56やスペーサ層40の硬さ(凸部32の貫通を妨げる硬さ)や厚さを調節すればよい。具体的には、例えば、外層56の厚さを凸部32の高さよりも厚くすれば、凸部32全体が外層56に食い込んで、衝撃の大きさが許容範囲を超えると判断される場合であっても、凸部32による内層54の損傷を抑えることができる。ただし、内層54の厚みをより薄くして、高圧タンク全体を小型化する観点からは、引っ張り強度が極めて強いカーボン繊維を用いたCFRP層によって内層54を構成することが望ましい。
(C−3)高圧タンクの適用対象:
第1および第2実施形態では、高圧タンクは加圧水素の貯蔵に用いたが、水素以外の他の加圧流体の貯蔵に用いてもよい。
また、第1および第2実施形態では、高圧タンクを燃料電池車両に搭載し、燃料電池に供給する燃料ガスとしての水素ガスを貯蔵するために用いたが、異なる構成としてもよい。例えば、燃料電池車両以外の移動体に搭載して、駆動燃料であるガスを貯蔵する燃料タンクにおいて、本願発明を適用する場合であっても、同様の効果が得られる。また、移動体以外の装置で用いるガスを貯蔵する高圧ガスタンクにおいて、本願発明を適用してもよい。高圧タンクにおいて外部から加えられると予想される衝撃に応じた箇所に、複数の凸部32を備えるプロテクタ20を配置することで、衝撃の大きさに応じた瘢痕が外層56に形成され、高圧タンクの交換の要否を判定可能であればよい。
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。