<廃棄物焼却設備の全体構成>初めに、図1を参照して、本実施形態の焼却炉(廃棄物焼却炉)10を含む廃棄物焼却設備(廃棄物焼却施設)100について説明する。図1は、本発明の方法を行う対象の焼却炉10を含む廃棄物焼却設備100の概略構成図である。なお、以下の説明では、単に上流、下流と記載したときは、廃棄物、燃焼ガス、排ガス、一次空気、二次空気、循環排ガス等が流れる方向の上流及び下流を意味するものとする。
図1に示すように、廃棄物焼却設備100は、焼却炉10と、ボイラ30と、蒸気タービン発電設備35と、を備える。焼却炉10は、供給された廃棄物を焼却する。なお、焼却炉10の詳細な構成は後述する。
ボイラ30は、廃棄物の燃焼によって発生した熱を利用して蒸気を生成する。ボイラ30は、流路壁に設けられた多数の水管31及び過熱器管32で、炉内で発生した高温の燃焼ガスと水との熱交換を行うことにより蒸気(過熱蒸気)を生成する。水管31及び過熱器管32で生成された蒸気は、蒸気タービン発電設備35へ供給される。
蒸気タービン発電設備35は、図略のタービン及び発電装置を含んで構成されている。タービンは、水管31及び過熱器管32から供給された蒸気によって回転駆動される。発電装置は、タービンの回転駆動力を用いて発電を行う。
ここで、安定した発電を行うには、ボイラ30での蒸気(過熱蒸気)の生成量を安定化させることが必要である。ボイラ30での蒸気(過熱蒸気)の生成量を安定化させるためには、ボイラ30への入熱を安定させる必要がある。つまり、発電量を一定に保つには、焼却炉10からボイラ30へ供給される燃焼ガスの保有熱量を安定させて、ボイラ30への入熱を安定に保つ必要がある。
<焼却炉10の構成>焼却炉10は、廃棄物を炉内に供給するための給じん装置40を備える。給じん装置40は、廃棄物投入ホッパ41と、給じん装置本体42と、を備える。廃棄物投入ホッパ41は、炉外から廃棄物が投入される部分である。給じん装置本体42は、廃棄物投入ホッパ41の底部分に位置し、水平方向に移動可能に構成されている。給じん装置本体42は、廃棄物投入ホッパ41に投入された廃棄物を下流側に供給する。この給じん装置本体42の移動速度、単位時間あたりの移動回数、移動量(ストローク)、及びストローク端の位置(移動範囲)は、制御装置90によって制御されている。なお、給じん装置は水平方向に対し多少の角度をもって移動する型式でもよい。
給じん装置40によって炉内に供給された廃棄物は、搬送部20によって、乾燥部11、燃焼部12、及び後燃焼部13の順に供給されていく。搬送部20は、乾燥部11に設けられた乾燥火格子21と、燃焼部12に設けられた燃焼火格子22と、後燃焼部13に設けられた後燃焼火格子23と、で構成されている。従って、搬送部20は複数段の火格子から構成されている。それぞれの火格子は、各部の底面に設けられており、廃棄物が載置される。
火格子は、廃棄物搬送方向に並べて配置された可動火格子と固定火格子とから構成されており、可動火格子が前進、停止、後進、停止等の順で動作することで、廃棄物を下流側へ搬送するとともに、廃棄物を攪拌することができる。可動火格子の動作速度を増速(減速)させることで、廃棄物の搬送速度を増速(減速)させることができる。また、可動火格子の停止時間を短く(長く)することで、廃棄物の搬送速度を増速(減速)させることができる。また、火格子は、気体が通過可能な大きさの隙間を空けて並べて配置されている。
乾燥部11は、焼却炉10に供給された廃棄物を乾燥させる部分である。乾燥部11の廃棄物は、乾燥火格子21の下から供給される一次空気及び隣接する燃焼部12における燃焼の輻射熱によって乾燥する。その際、熱分解によって乾燥部11の廃棄物から熱分解ガスが発生する。また、乾燥部11の廃棄物は、乾燥火格子21によって燃焼部12に向かって搬送される。
燃焼部12は、乾燥部11で乾燥した廃棄物を主に燃焼させる部分である。燃焼部12では、廃棄物が主に火炎燃焼を起こし火炎が発生する。燃焼部12における廃棄物及び燃焼により発生した灰及び燃焼しきれなかった未燃物は、燃焼火格子22によって後燃焼部13に向かって搬送される。また、燃焼部12で発生した燃焼ガス及び火炎は、絞り部17を通過して後燃焼部13に向かって流れる。なお、燃焼火格子22は、乾燥火格子21と同じ高さに設けられているが、乾燥火格子21よりも低い位置に設けられていてもよい。
後燃焼部13は、燃焼部12で燃焼しきれなかった廃棄物(未燃物)を燃焼させる部分である。後燃焼部13では、燃焼ガスの輻射熱と一次空気によって、燃焼部12で燃焼しきれなかった未燃物の燃焼が促進される。その結果、未燃物の殆どが灰となって、未燃物は減少する。なお、後燃焼部13で発生した灰は、後燃焼部13の底面に設けられた後燃焼火格子23によってシュート24に向かって搬送される。シュート24に搬送された灰は、廃棄物焼却設備100の外部に排出される。なお、本実施形態の後燃焼火格子23は、燃焼火格子22よりも低い位置に設けられているが、燃焼火格子22と同じ高さに設けられていてもよい。
上述したように、乾燥部11、燃焼部12、及び後燃焼部13では、生じる反応が異なるため、それぞれの壁面等は、生じる反応に応じた構成となっている。例えば、燃焼部12では火炎燃焼が生じるため、乾燥部11よりも耐火レベルが高い構造が採用されている。
再燃焼部14は、燃焼ガスに含まれる未燃ガスを燃焼させる部分である。再燃焼部14は、乾燥部11、燃焼部12、及び後燃焼部13から上方に向かって延び、その途中に二次空気が供給される。これにより、燃焼ガスは二次空気と混合及び撹拌され、燃焼ガスに含まれる未燃ガスが再燃焼部14で燃焼される。なお、燃焼部12及び後燃焼部13で生じる燃焼を一次燃焼と称し、再燃焼部14で生じる燃焼(つまり、一次燃焼で残存した未燃ガスの燃焼)を二次燃焼と称する。
気体供給装置50は、炉内に気体を供給する装置である。本実施形態の気体供給装置50は、一次空気供給部51と、二次空気供給部52と、排ガス供給部53と、を有している。それぞれの供給部は、気体を誘引又は送出するための送風機によって構成されている。
本明細書では、一次燃焼のために供給する気体を一次燃焼用気体と称する。一次燃焼用気体としては、一次空気、循環排ガス、それらの混合ガスが含まれる。一次空気とは、外部から取り込んだ空気であって、燃焼等に用いられていない(即ち、循環排ガスを除く)気体である。従って、一次空気には、外部から取り込んだ空気を加熱等した気体も含まれる。同様に、本明細書では、二次燃焼のために供給する気体を二次燃焼用気体と称する。二次燃焼用気体としては、二次空気、循環排ガス、それらの混合ガスが含まれる。二次空気の定義は一次空気と同様である。
一次空気供給部51は、一次空気供給経路71を介して炉内に一次空気を供給する。一次空気供給経路71は、第1供給経路71aと、第2供給経路71bと、第3供給経路71cと、に分岐されている。なお、一次空気供給経路71にヒータを設け、各部に供給する一次空気の温度を調整できるようにしてもよい。
第1供給経路71aは、乾燥火格子21の下方に設けられた乾燥段風箱25に一次空気を供給するための経路である。第1供給経路71aには第1ダンパ81が設けられており、乾燥段風箱25に供給する一次空気の供給量を調整することができる。また、第1ダンパ81は制御装置90によって制御されている。
第2供給経路71bは、燃焼火格子22の下方に設けられた燃焼段風箱26に一次空気を供給するための経路である。第2供給経路71bには第2ダンパ82が設けられており、燃焼段風箱26に供給する一次空気の供給量を調整することができる。また、第2ダンパ82は制御装置90によって制御されている。
第3供給経路71cは、後燃焼火格子23の下方に設けられた後燃焼段風箱27に一次空気を供給するための経路である。第3供給経路71cには第3ダンパ83が設けられており、後燃焼段風箱27に供給する一次空気の供給量を調整することができる。また、第3ダンパ83は制御装置90によって制御されている。
二次空気供給部52は、二次空気供給経路72を介して、焼却炉10の空気ガス保有空間16にその上部(天井部)から二次空気を供給するとともに、絞り部17によって燃焼ガスが方向を転換する部分(絞り部17の近傍)に二次空気を供給する。また、二次空気供給経路72には、制御装置90によって制御される第4ダンパ84が設けられており、各部への二次空気の供給量を調整することができる。
排ガス供給部53は、循環排ガス供給経路73を介して、廃棄物焼却設備100から排出された排ガスを炉内に供給する(再循環させる)。廃棄物焼却設備100から排出された排ガスはろ過式の集じん器60で浄化され、その一部が排ガス供給部53によって燃焼部12の両側面(紙面手前側及び紙面奥側の面)から焼却炉10へ供給される。なお、排ガスが供給される位置は、特に限定されない。例えば、排ガスは焼却炉10の上方(天井部)から供給されてもよく、一方の側面のみから供給されていてもよい。排ガスを焼却炉10に供給することで、焼却炉10内の酸素濃度が低下し、燃焼温度の局所的な過上昇を抑えることができる。その結果、NOxの発生を抑えることができる。循環排ガス供給経路73には、制御装置90によって制御される第5ダンパ85が設けられており、循環排ガスの供給量を調整することができる。
焼却炉10には、図1及び図2に示すように、燃焼状態等を把握するための複数のセンサが設けられている。具体的には、焼却炉内ガス温度センサ91と、焼却炉出口ガス温度センサ92と、COガス濃度センサ93と、NOxガス濃度センサ94と、赤外線カメラ95と、が設けられている。
焼却炉内ガス温度センサ91は、焼却炉10内(例えば空気ガス保有空間16よりも下流かつ後燃焼部13よりも上流)に配置されており、焼却炉内ガス温度を検出して制御装置90へ出力する。焼却炉出口ガス温度センサ92は、焼却炉10の出口近傍(例えば再燃焼部14よりも下流かつボイラ30よりも上流)に配置されており、焼却炉出口ガス温度を検出して制御装置90へ出力する。COガス濃度センサ93は、集じん器60の下流に配置されており、排ガスに含まれるCOガス濃度(焼却炉排出COガス濃度)を検出して制御装置90へ出力する。NOxガス濃度センサ94は、集じん器60の下流に配置されており、排ガスに含まれるNOxガス濃度(焼却炉排出NOxガス濃度)を検出して制御装置90へ出力する。
本実施形態では、赤外線カメラ95が2つ設けられている。それぞれの赤外線カメラ95は同じ構造である。また、赤外線カメラ95は、3つ以上設けられていてもよい。赤外線カメラ95は、3次元熱画像(温度分布を3次元的に示す画像)を作成することを目的として、複数設けられている。そのため、複数の赤外線カメラ95の相対位置は予め記憶されている。なお、赤外線カメラ95は、静止画を撮像することを主目的とする機器であってもよいし、動画を撮像することを主目的とする機器であってもよい。動画は連続する複数の静止画であるため、何れの機器であっても、熱画像を取得するという機能は同じである。
赤外線カメラ95は、炉内の物体から放射される赤外線を検出することで、炉内の熱画像を取得する。個々の赤外線カメラ95が取得する熱画像は、赤外線カメラ95の視点から見た炉内の温度分布を示す画像である。視点とは、計測器である赤外線カメラ95が配置されている位置を示す。また、本実施形態の赤外線カメラ95は、選択透過フィルタ(フィルタ)95aを介して、炉内の熱画像を取得する。選択透過フィルタ95aは、火炎が放射しない波長(例えば3.9μm帯)の光を選択的に透過させるフィルタである。なお、ここでの「火炎が放射しない」という文言は、火炎が放射する他の波長の光と比較して大幅に光強度が低い(殆ど照射しない)という意味であり、火炎が全く放射しないことを示すものではない。選択透過フィルタ95aを介して炉内の熱画像を取得することで、火炎以外の物体についての熱画像を取得できる。言い換えれば、火炎を透過して、その奥にある物体の熱画像を取得できる。なお、本実施形態において、選択透過フィルタ95aは、赤外線カメラ95と一体的に構成されているが、別体であってもよい。つまり、炉内の光が通る経路上に選択透過フィルタ95aを配置し、この選択透過フィルタ95aを透過した透過光を通常の赤外線カメラで処理してもよい。
本実施形態では、赤外線カメラ95は、主として燃焼部12の熱画像を取得することを目的としている。更に言えば、燃焼火格子22に堆積している廃棄物の熱画像が主たる観察対象である。ここで、図3に示すように、廃棄物の搬送方向と上下方向(鉛直方向)の両方に垂直な方向を炉幅方向と称する。また、炉幅方向の端部に設けられている壁を側壁と称する。燃焼部12又は後燃焼部13の側壁に赤外線カメラ95を設けることで、燃焼部12の廃棄物を観察することは可能である。しかし、燃焼部12の側壁は非常に高温になり易いため、赤外線カメラ95の設置が困難であるか、高コストの耐熱構造が必要となる。そのため、本実施形態では、後燃焼部13よりも搬送方向の下流側にある壁である奥壁13aに赤外線カメラ95が設けられている。赤外線カメラ95は、奥壁13aに形成された窓部13bを介して、赤外線を取得する。ここで、後燃焼部13よりも搬送方向の下流側とは、廃棄物がシュート24に落下する経路ではなく、廃棄物が後燃焼火格子23によって搬送される方向に引いた延長線に沿う方向である。つまり、奥壁13aは、後燃焼部13を起点として、この搬送方向の下流側に延ばした直線と交差する。
更に、赤外線カメラ95は、燃焼部12の廃棄物の表面(上面)を観察できるように、燃焼火格子22よりも上方であって、燃焼火格子22に堆積される廃棄物よりも上方に配置されることが好ましい。また、絞り部17が存在する場合は、絞り部17が邪魔とならない位置(例えば、絞り部17と同じか、それよりも低い位置、あるいは、再燃焼部14よりも低い位置)に赤外線カメラ95を設けることが好ましい。更に、燃焼部12の廃棄物の表面を一層的確に観察するために、視点方向を斜め下向きにすることが好ましい。
なお、奥壁13aは、燃焼部12の側壁と比較して低温であるため、比較的簡易な耐熱構造(例えば、比較的安価な耐熱ガラス)を設ければよい。また、赤外線カメラ95の主たる観察対象は、燃焼部12の廃棄物であるが、後燃焼部13の廃棄物を更に観察できることが更に好ましい(理由は後述)。この観点においても、赤外線カメラ95を奥壁13aに設けることが好ましい。なお、奥壁13aに赤外線カメラ95を設けることは必須ではなく、例えば炉内の天井部に設けてもよい。また、十分な耐熱構造を設けることが可能であれば、燃焼部12又は後燃焼部13の側壁に赤外線カメラ95を設けてもよい。また、2つの赤外線カメラ95のうち、一方のみを奥壁13a以外に設けてもよい。また、赤外線カメラ95は、熱画像の撮像範囲を変更可能な構成であってもよい。なお、この赤外線カメラ95は、焼却炉10を停止させること無しに、撮像範囲を変更可能であってもよい。
<制御装置が行う処理>制御装置90は、CPU、RAM、ROM等によって構成されており、種々の演算を行うとともに、廃棄物焼却設備100全体を制御する。画像処理装置96も同様に、CPU、RAM、ROM等によって構成されており、2つの赤外線カメラ95が取得した熱画像に基づいて3次元熱画像を作成する処理(画像合成処理)を行うことができる。本実施形態では、制御装置90と画像処理装置96は、個別のハードウェアであるが、1つのハードウェアが制御装置90と画像処理装置96の両方の機能を有していてもよい。以下、制御装置90が行う燃焼制御であって、特に3次元熱画像を解析して行う制御について、図4及び図5のフローチャートに沿って説明する。図4及び図5は、燃焼を安定させるために制御装置90が行う制御を示すフローチャートである。
<S101>初めに、制御装置90は、複数(2つ)の赤外線カメラ95が取得した熱画像に基づいて画像処理装置96が作成した3次元熱画像を記憶する(S101)。複数の熱画像から3次元熱画像を作成する処理は公知の技術なので簡単に説明する。ここでは、2つの赤外線カメラ95を区別するために第1及び第2を付けて説明することがある。本実施形態の赤外線カメラ95が取得する熱画像には、火炎は含まれないため、第1赤外線カメラが取得する熱画像には、第1赤外線カメラの位置から見た廃棄物の表面の温度分布が表れている。第2赤外線カメラについても同様である。そして、廃棄物の表面の特定箇所Aが、2つの熱画像のそれぞれ何処に表示されるかを特定する。上述したように第1赤外線カメラと第2赤外線カメラの位置関係は既知なので、三角法等に基づいて、第1又は第2赤外線カメラから、廃棄物の特定箇所Aまでの距離を計算できる。この処理を廃棄物の表面の他の部分についても行うことで、廃棄物の表面の位置(3次元座標)を特定できる。
なお、赤外線カメラではなく、可視画像(色画像)や輝度画像を取得するカメラを用いる場合、燃焼部12の廃棄物の表面には火炎が存在するため、火炎が邪魔となって、廃棄物の表面の位置を特定できない。また、選択透過フィルタ95aを用いずに赤外線カメラだけを用いる場合も、廃棄物の表面から放出された赤外線ではなく、火炎から放出された赤外線が検出されるため、廃棄物の表面の位置を特定できない。従って、本実施形態の選択透過フィルタ95a及び赤外線カメラ95を用いることで、燃焼部12の廃棄物の位置を的確に特定できる。
<S102>次に、制御装置90は、3次元熱画像の廃棄物の表面を複数の要素(分割単位)にメッシュ分割して、その要素毎に(1)廃棄物の厚みと(2)表面移動速度を算出して制御値と関連付けて記憶する(S102)。メッシュ分割とは、所定の条件で3次元熱画像の廃棄物を複数の領域に分割することである。本実施形態では、図6に示すように、搬送方向の平行線と炉幅方向の平行線をそれぞれ複数引くことで、廃棄物を格子状に分割している。本実施形態では、メッシュ分割された要素は四角形であるが、別の形状であってもよい。なお、複数の要素の形状や面積はそれぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、重要と考えられる部分だけを細かくメッシュ分割してもよい。また、廃棄物の厚みと表面移動速度は、後述のように燃焼制御の制御値を補正するために用いられるため、これらの値を補正データと称する。
上記の(1)に関し、廃棄物の厚みとは、図6に示すように、火格子から廃棄物の表面までの上下方向に沿う長さである。火格子の表面(上面)の位置は、予め制御装置90等に記憶されている。また、3次元熱画像に基づいて、廃棄物の表面の位置を特定できる。従って、この2つの位置(座標)を比較することで、廃棄物の厚みを要素毎に算出できる。以上のようにして、1枚の3次元熱画像に基づいて、ある一時刻における、要素毎の廃棄物の厚みの分布を算出できる。なお、3次元熱画像は順次作成されるので、新たに作成された3次元熱画像に対しても同様に廃棄物の厚みが算出される。このようにして、制御装置90は、要素毎の廃棄物の厚みを算出し、所定の記憶部に時系列で記憶する。
廃棄物の厚みを算出する意義は以下のとおりである。即ち、燃焼部12に堆積した廃棄物は、燃焼火格子22の燃焼操作(送り操作)に伴い、熱分解が生じて熱分解ガスが排出されることで、質量及び体積が低減する。つまり、廃棄物の厚みの時間変化は、廃棄物が熱分解していく経過を示すものであり、燃焼操作の進行の程度の一種の指標となる。
上記の(2)に関し、廃棄物の表面移動速度とは、図6に示すように、廃棄物の表面が搬送方向に移動する速度である。図6では、分かり易くするために比較的厚みが大きい部分に太線を描き、この部分が移動する様子を示している。3次元熱画像には、廃棄物の表面の形状が表れているため、時系列で作成された3次元熱画像に基づいて、廃棄物の表面がどのように動いているかを得ることができる。従って、廃棄物の表面の特定部分の移動距離と、3次元熱画像が取得された時間間隔等と、に基づいて、メッシュ分割された要素毎の表面移動速度を算出できる。以上のようにして、要素毎の廃棄物の表面移動速度の分布を算出できる。なお、3次元熱画像は順次作成されるので、新たに作成された3次元熱画像及びその過去の3次元熱画像を用いて、廃棄物の新たな表面移動速度が算出される。このようにして、制御装置90は、廃棄物の表面移動速度を算出し、所定の記憶部に時系列で記憶する。
廃棄物の表面移動速度を算出する意義は以下のとおりである。即ち、廃棄物の表面移動速度は、燃焼部12に堆積した廃棄物が燃焼火格子22の燃焼操作(送り操作)により、体積を減少させながら、送り方向に送られていく実速度を示すものであり、燃焼操作によって、廃棄物がどう「動かされてきた」かの指標である。なお、廃棄物の表面以外がどのように移動するかは3次元熱画像からは算出できないため、本実施形態では、「廃棄物の表面移動速度」が「廃棄物全体の移動速度」を示すとみなして、以降の計算を行う。
制御値とは、焼却炉10の燃焼状態を制御するために変更される値であり、例えば、各火格子の搬送速度、一次燃焼用気体の供給量、及び二次燃焼用気体の供給量等を定めるための値である。廃棄物の厚み、表面移動速度、及び後述の体積流量は、この制御値の影響を受ける。そのため、制御値の影響を考慮して評価及び制御を行うために、制御装置90は、廃棄物の厚み及び表面移動速度を、焼却炉10に設定した制御値と関連付けて記憶している。また、メッシュ分割された要素に応じて制御値が異なる場合(例えば燃焼火格子22上の要素と、後燃焼火格子23上の要素と、では火格子の搬送速度が異なる)、制御装置90は、対応する要素に応じた制御値と関連付けて廃棄物の厚み及び表面移動速度を記憶する。
<S103>次に、制御装置90は、要素毎の廃棄物の厚みと表面移動速度に基づいて、要素毎の厚み経過情報を算出して制御値と関連付けて記憶する(S103)。厚み経過情報とは、図7に示すように、前記要素に位置する前記廃棄物が当該要素に位置するまでに、厚みが時系列でどのように変化したかを示す情報である。図7には、各要素の厚み経過情報がそれぞれグラフで模式的に示されている。このグラフに示すように、厚み経過情報は、「厚み」と「時間経過に伴う搬送方向位置」を対応付けた情報である。つまり、厚み経過情報とは、例えば要素Aに着目した場合、現時点で要素Aにある廃棄物が、過去に上流側の位置に存在していた時点でどのような厚みであったかを示す情報である。なお、厚み経過情報は、厚みと時刻を対応付けた情報であってもよい。
厚み経過情報は、例えば以下のようにして算出できる。例えば、ある要素Aに着目した場合、現時点で要素Aの位置にある廃棄物の搬送経過(つまり、どの時刻にどの要素に位置していたか)は、要素A及びその上流側の要素の現在及び過去の表面移動速度に基づいて算出できる。また、要素毎かつ時刻毎の廃棄物の厚みは、ステップS102で算出されて記憶されている。従って、廃棄物の搬送経過が示す時刻及び要素と、廃棄物の厚みと、を対応付けることで、厚み経過情報を算出できる。このようにして、制御装置90は、廃棄物の厚み及び表面移動速度に基づいて、厚み経過情報を算出する。なお、3次元熱画像は順次作成されるので、新たに作成された3次元熱画像を用いて同様の計算を行うことで、廃棄物の新たな厚み経過情報が算出される。制御装置90は、算出した厚み経過情報を所定の記憶部に時系列で記憶する。なお、厚み経過情報を制御値と関連付ける処理及び理由は、ステップS102と同様である。
厚み経過情報を得る意義は以下のとおりである。即ち、厚み経過情報は、燃焼部12に堆積した廃棄物が燃焼火格子22の燃焼操作(送り操作)により、火格子上を堆積して通過していくなかで、どのように体積を減少させながら、送り方向に送られていく過程を示すものであり、燃焼操作によって、廃棄物がどう体積を減らしてきたのかの指標である。
<S104>次に、制御装置90は、要素毎の廃棄物の表面移動速度と厚み経過情報に基づいて、要素毎の体積流量経過情報を算出して制御値と関連付けて記憶する(S104)。体積流量経過情報とは、図8に示すように、前記要素に位置する前記廃棄物が当該要素に位置するまでに体積流量が時系列でどのように変化したかを示す情報である。図8には、各要素の体積流量経過情報がそれぞれグラフで模式的に示されている。このグラフに示すように、体積流量経過情報は、「体積流量」と「時間経過に伴う搬送方向位置」を対応付けた情報である。つまり、体積流量経過情報とは、例えば要素Aに着目した場合、現時点で要素Aにある廃棄物が、過去に上流側の位置に存在していた時点でどのような体積流量であったかを示す情報である。なお、体積流量経過情報は、体積流量と時刻の対応関係を示す情報であってもよい。
体積流量は、単位時間に移動する廃棄物の体積である。従って、体積流量は、「廃棄物の厚み」、「廃棄物の表面移動速度」、「炉幅長さ」をそれぞれ掛け合わせることで、算出できる。また、要素毎の体積流量を算出する場合の炉幅長さは、各要素の炉幅長さである。従って、体積流量経過情報は、「厚み経過情報が示す廃棄物の厚み」と「廃棄物の表面移動速度」を要素(位置)及び時刻を合わせて掛け合わせた値に、「各要素の炉幅長さ」を掛けることで算出できる。このようにして、制御装置90は、要素毎の体積流量経過情報を算出し、所定の記憶部に記憶する。なお、3次元熱画像は順次作成されるので、新たに作成された3次元熱画像を用いて同様の計算を行うことで、廃棄物の新たな体積流量経過情報が算出される。制御装置90は、算出した体積流量経過情報を制御値と関連付けて所定の記憶部に時系列で記憶する。なお、体積流量経過情報を制御値と関連付ける処理及び理由は、ステップS102と同様である。また、炉幅長さは定数なので、体積流量経過情報は、廃棄物の厚み及び表面移動速度のみの関数である。言い換えれば、体積流量経過情報は、廃棄物の厚みだけでなく、移動速度も含む概念の情報である。
なお、各火格子の炉幅長さが一定であって各要素の炉幅長さが一定である場合は、体積流量経過情報を算出する際に、炉幅長さを掛ける処理を省略してもよい。なぜなら、燃焼制御に必要となるのは、体積流量の具体的な値ではなく、その変化態様だからである。言い換えれば、図8の上側の図のグラフの縦軸は、具体的な体積流量に限られず、体積流量に比例する(相関する)値であってもよい。
体積流量経過情報を取得する意義は以下のとおりである。即ち、燃焼部12に堆積した廃棄物は、燃焼火格子22の燃焼操作(送り操作)に伴い、熱分解が生じて熱分解ガスが排出されることで、質量及び体積が低減する。つまり、体積流量経過情報は、廃棄物が熱分解していく経過を示すものであり、燃焼操作の進行の程度の直接的な指標である。特に、廃棄物燃焼反応が進行するに連れて、廃棄物の熱分解ガス化反応(廃棄物の体積変化の程度が大きい反応)が減少し、残留する未燃炭素の後燃焼反応(廃棄物の体積変化の程度が小さい反応)に移行する。従って、体積流量経過情報は、「燃え切り状態」の程度を評価するのに最も適した指標である。
<S105>次に、制御装置90は、要素毎の体積流量経過情報に基づいて、要素毎に現在が燃え切り状態か否かを判定して判定結果を記憶する(S105)。なお、各要素にある廃棄物が「燃え切り状態」か否かを判定する際には、以下の何れかの方法を選択して用いる。
(1)各要素について、体積流量経過情報のうち、最新の体積流量のみを用いる簡易的な判定方法
(2)各要素について、体積流量経過情報が示す全ての時間の(複数の時点の)体積流量を用いる高精度な判定方法
(1)、(2)の何れの方法を用いる場合であっても、体積流量の変化が小さくなっている要素(後燃焼に移行している要素)については、燃え切り状態と判定する。ただし、体積流量の変化の程度は、焼却炉10の制御値に応じて異なるため、制御値に応じた条件(例えば閾値)を用いて判定を行うことが好ましい。
また、焼却炉10の燃焼状況が安定している場合は、(1)の方法を用いても十分高い精度で燃え切り状態か否かを判定できる。一方で、焼却炉10の燃焼状況が安定しておらず、燃焼状況が変化している場合は、(1)の方法では燃え切り状態か否かを適切に判定できない可能性がある。そのため、このような場合は、判定精度を確保するために(2)の方法を用いることが好ましい。なお、制御装置90の演算能力が高い場合は、常に(2)の方法を用いてもよい。
<S106>次に、制御装置90は、燃え切り状態であるか否かの要素毎の判定結果に基づいて、燃え切り評価位置を特定する(S106)。燃え切り評価位置とは、焼却炉10全体として火炎燃焼が終了した位置の指標であって燃焼を評価するための位置である。言い換えれば、燃え切り評価位置とは、廃棄物の焼却処理において「どこで燃え切り状態となったか」を焼却炉10全体で代表させる位置である。多様な性状の物質の混合物である廃棄物を焼却する場合、それぞれの物質が「燃え切り状態」となるまでの時間も多様であるため、「燃え切り状態」となる位置も多様となる。詳細に説明すると、それぞれの物質が「燃え切り状態」となる位置と、実際に火炎が発しなくなる条件(温度や酸素等の条件)は多様であるため、実際の「燃え切り状態」位置も多様となる。そのため、燃え切り状態となる位置は、搬送方向で一致するとは限らない。例えば、図9に示すような分布が生じる可能性がある。なお、図9は、搬送部20を上下方向で見た模式図であり、図9に示す正方形の1つ1つがメッシュ分割された要素である。図9に示すように、燃え切り状態となる位置はバラツキがあるため、要素毎の燃え切り状態か否かの判定結果を総括的に評価して、焼却炉10全体としての燃え切り位置を特定する。
また、この方法は、廃棄物の「塊り」内のそれぞれが含有する多様な性状の物質の性状・混合比率が変化した場合であっても同様の挙動を示す「体積流量経過情報」を用いて燃え切り状態の判定を行うため、燃え切り状態の判定を高い信頼性で行うことができる。燃え切り評価位置は、搬送方向の位置を示すものであるが、例えば、炉幅方向に伸びる直線又は曲線として取り扱うこともできる。
なお、従来(特許文献7)では、熱画像等を解析して得られた廃棄物層高さ(廃棄物の厚み)の廃棄物搬送方向の差異から、「燃え切り状態」の場所を特定することによって燃え切り位置が算出されることがあった。
しかし、この従来の方法では、以下の問題があった。即ち、廃棄物は多様な性状の物質の集合体であるため、「燃え切り状態」での廃棄物の体積は、含有されていた物質に応じて異なる。焼却炉内に入れられた廃棄物において、各位置にあるそれぞれの廃棄物の「塊り」が含有する物質の性状及び混合比率は様々であり、かつその情報を得ることはできない。従って、「燃え切り状態」であるか否かを判定するための廃棄物層高さの閾値の情報を得ることはできない。以上により、この閾値は、予め一定の仮定を行って決めておかざるを得ない。
しかし、このような信頼性が高くない閾値を用いて「燃え切り状態」であるか否かを判定する場合、判定精度が低くなり易い。しかも、一般に、「燃え切り位置が変化する状態」は、焼却炉の中に現にある廃棄物の性状が、それまでに燃焼させてきた廃棄物の性状から変化した場合である。このような場合は、それまで使っていた閾値が適正ではなくなっている可能性が高い。即ち、判定の重要性が高まる状態のときに、判定の誤差がより大きくなるために、制御の信頼性が落ちるおそれがあった。
この点、本実施形態では、廃棄物の「塊り」内の物質の性状・混合比率が変化した場合であっても、常に類似の挙動を示す「体積流量経過情報」を用いて燃え切り評価位置の特定を行う。そのため、燃え切り評価位置の特定を高い信頼性をもって行うことができる。
なお、燃え切り評価位置は、燃焼部12ではなく後燃焼部13に存在している可能性もある。その場合であっても燃え切り評価位置を特定するため、上述した、ステップS101からS106の処理は、燃焼部12だけでなく後燃焼部13の廃棄物に対しても行うことが好ましい。この点、上述したように、本実施形態では赤外線カメラ95を奥壁13aに設けているため、後燃焼部13の廃棄物の熱画像を含めて取得することが可能である。なお、燃え切り評価位置が後燃焼部13の下流端及びその近傍に位置している可能性は低いため、例えば後燃焼部13のうち搬送方向の中央よりも上流側の部分のみについて行えば十分である。
<S107>次に、制御装置90は、燃え切り評価位置の時間変化に基づいて、燃え切り評価位置が上流側に移動しているか否かを特定する(S107)。この判定は、過去に算出した燃焼開始評価位置と、現在の燃焼開始評価位置を比較すること等によって行われる。例えば、焼却炉10に供給される廃棄物に含まれるガス化熱分解成分量(熱分解によりガス化する成分の量)が少なくなった場合、燃焼部12で廃棄物が火炎燃焼するために実際に必要な時間(実燃焼時間)が短くなる。従って、実燃焼時聞が、予め想定されている廃棄物の想定燃焼時間よりも短くなる(差異が生じる)。この場合、図10に示すように、燃焼部12の中途部で燃焼が完了するため、燃焼部12の中途部で燃え切り状態になる(燃え切り位置が上流側に移動する)。この状態を放置していると、燃焼部12での燃焼が行われる位置、後燃焼部13での後燃焼が行われる位置がそれぞれ上流側へ徐々に移動していくこととなり、安定な燃焼を維持できなくなる。
<S108>これを防止するため、制御装置90は、基本的には燃え切り評価位置が上流側に移動していると特定した場合(S107でYesの場合)、燃焼火格子22の廃棄物の搬送速度(以下、単に搬送速度)を増速させる(S108)。上述のように、搬送速度を増速させるためには、燃焼火格子22の可動火格子の動作速度を増速させるか、それに代えて又は加えて、燃焼火格子22の可動火格子の停止時間を短くする。可動火格子の動作速度又は停止時間は、搬送速度の制御における制御値の一例である。これにより、火格子上の燃焼、後燃焼のそれぞれの位置が上流側に移動する事態を防止することができる。従って、燃え切り位置を適切な範囲に収めることができるので、安定な燃焼を維持することができる。
ただし、燃焼火格子22の搬送速度を増速させた際の判定に用いた燃え切り評価位置の情報は、既に燃焼が終了した廃棄物に関する情報(過去の情報)であることを踏まえ、現に燃焼部12にある廃棄物の性状に関する情報である上記の補正データに基づいて、搬送速度の増速の程度を補正することで、更に安定な燃焼を維持できる。なお、ステップS108の処理及び他の処理において、補正データに基づく補正を行う際は、廃棄物の厚みの時間変化、廃棄物の表面移動速度の時間変化の少なくとも何れかを使用して補正を行う。
具体的には、廃棄物の厚みの減少が加速している場合(即ち、単位時間あたりの厚みの減少量(正)が大きくなっている場合)、実燃焼時間が想定燃焼時間よりも更に短くなる傾向にあるため、搬送速度を更に増速させることが好ましい場合がある。また、廃棄物の表面移動速度が加速している場合も同様に、実燃焼時間が想定燃焼時間よりも更に短くなる傾向にあるため、搬送速度を更に増速させることが好ましい場合がある。
なお、焼却炉10で生じる燃焼は、焼却炉10の形状や構造、及び投入される廃棄物によって大きく異なる。また、要求される処理量、焼却炉10の耐久性、及び排ガスに関する法規制等によっても、目標とする燃焼状態が大きく異なる。そのため、燃え切り評価位置が上流側に移動していても搬送速度を増速させる制御が行われない場合も考えられる。同様に、補正データに基づく搬送速度の補正についても、上記とは逆の補正が行われる可能性もある。なお、制御装置90は、燃焼火格子22の搬送速度の増速の要否及びその程度について、燃え切り評価位置が上流側に移動しているか否か、及び補正データだけでなく、更に別の検出データ(例えば焼却炉内ガス温度センサ91からNOxガス濃度センサ94等の検出データ)に基づいて決定することが好ましい。
<S109>制御装置90は、燃え切り評価位置が上流側に移動していないと特定した場合(S107でNoの場合)、燃え切り評価位置の時間変化に基づいて、燃え切り評価位置が下流側に移動しているか否かを特定する(S109)。この判定は、上記と同様に、過去に算出した燃え切り評価位置と、現在の燃え切り評価位置を比較すること等によって行われる。例えば、焼却炉10に供給される廃棄物に含まれるガス化熱分解成分量が多くなった場合、燃焼部12で廃棄物を燃焼させるための実燃焼時間が長くなる。従って、実燃焼時間が、予め想定されている廃棄物の想定燃焼時間よりも長くなる(差異が生じる)。この場合、図11に示すように、燃焼部12の下流側の端部でも燃焼が完了していないため、後燃焼部13の中途部で燃え切り状態になる(燃え切り位置が下流側に移動する)こととなる。この状態を放置していると、火格子上の燃焼、後燃焼のそれぞれの位置が全体的に、下流側へ徐々に移動していくこととなり、安定な燃焼を維持できなくなる。
<S110>これを防止するため、制御装置90は、基本的には燃え切り評価位置が下流側に移動していると特定した場合(S109でYesの場合)、燃焼火格子22の搬送速度を減速させる(S110)。上述のように、搬送速度を減速させるためには、燃焼火格子22の可動火格子の動作速度を減速させるか、それに代えて又は加えて、燃焼火格子22の可動火格子の停止時間を長くする。これにより、火格子上の燃焼、後燃焼のそれぞれの位置が下流側に移動する事態を防止することができる。従って、燃え切り位置を適切な範囲に収めることができるので、安定な燃焼を維持することができる。また、搬送速度を減速させる場合においても、上記と同様の理由により、補正データに基づいて補正を行うことが好ましい。
具体的には、廃棄物の厚みの減少が加速している場合、実燃焼時間が想定燃焼時間よりも短くなる傾向にあるため、搬送速度の減速させる程度を小さくすることが好ましい場合がある。また、廃棄物の表面移動速度が加速している場合も同様に、実燃焼時間が想定燃焼時間よりも短くなる傾向にあるため、搬送速度の減速させる程度を小さくすることが好ましい場合がある。なお、搬送速度の増速時の補正において説明した理由により、環境等の状況によっては、補正データに基づく搬送速度の補正について、上記とは逆の補正が行われる可能性もある。また、搬送速度の減速時の制御においても、更に別の検出データに基づいて制御値を決定することが好ましい。
また、実燃焼時間と予め想定されている廃棄物の想定燃焼時間とに差異が生じたとして、燃焼火格子22の搬送速度を変更させることは、現に乾燥火格子21から燃焼火格子22に供給されている廃棄物の性状は既に従来の想定と異なっていることを意味する。その結果、その状態で乾燥火格子21及び後燃焼火格子23の搬送速度を従来と同じにしていると、既に乾燥、後燃焼に必要な時間は変化しているため、安定な燃焼を維持できない。
<S111>これを防止するため、制御装置90は、燃焼火格子22の搬送速度を変更した場合(S107又はS109でYesの場合)、燃焼火格子22の搬送速度の変更の原因である廃棄物の性状の変化の状態に応じて、乾燥火格子21及び後燃焼火格子23の搬送速度を変更する(S111)。なお、制御装置90は、乾燥火格子21及び後燃焼火格子23の搬送速度の変更の要否及び変更すべき量について、燃焼火格子22の搬送速度の変更量だけではなく、他の検出データにも基づいて決定することが好ましい。
また、乾燥火格子21及び後燃焼火格子23の搬送速度を変更する場合においても、上記と同様の理由により、補正データに基づいて補正を行うことが好ましい。基本的には、燃焼火格子22と同様に、乾燥火格子21と後燃焼火格子23の搬送速度を変更することが好ましいが、乾燥火格子21に存在する廃棄物が後燃焼火格子23に到達するまでのタイムラグ(言い換えれば、各部の廃棄物の性状の違い)、乾燥部11での乾燥時間、燃焼部12での燃焼時間、後燃焼部13での後燃焼時間に相関関係、があるとは言い切れない等の理由により、上記とは異なる制御を行うことが好ましい場合も考えられる。
<S112>次に、制御装置90は、燃焼火格子22の搬送速度の変更の原因である廃棄物の性状の変化の状態に応じて、第1ダンパ81から第5ダンパ85の少なくとも何れかを調整することで、一次燃焼用気体及び二次燃焼用気体の供給量を調整する(S112)。即ち、この第1ダンパ81から第5ダンパ85の開度が制御値の一例である。従来では、例えば焼却炉内ガス温度センサ91からNOxガス濃度センサ94の検出データ等を用いて、一次燃焼用気体及び二次燃焼用気体の供給量を調整している。
これに対し、本実施形態では、他の検出データに加えて、燃え切り評価位置の移動方向(上流側に移動しているか、下流側に移動しているか)に基づいて、一次燃焼用気体及び二次燃焼用気体の供給量を調整する。ここで、燃え切り評価位置が上流側に移動していて各火格子の搬送速度を増速させた場合、廃棄物の性状にも関係するが一般的には、熱分解ガスの時間あたりの発生量が少なくなるとともに、一次燃焼が行われることで生じる時間あたりの一次燃焼ガス量(CO等の未燃焼ガスを含む)が少なくなる。従って、一次燃焼用気体及び二次燃焼用気体の供給量を減少させる必要がある。一方で、燃え切り評価位置が下流側に移動していて各火格子の搬送速度を減速させた場合、廃棄物の性状にも関係するが一般的には、時間あたりの熱分解ガスの発生量が多くなるとともに、一次燃焼が行われることで生じる時間あたりの一次燃焼ガス量が多くなる。従って、一次燃焼用気体及び二次燃焼用気体の供給量を増加させる必要がある。
また、一次燃焼用気体及び二次燃焼用気体の供給量を変更する場合においても、上記と同様の理由により、補正データに基づいて補正を行うことが好ましい。具体的には、廃棄物の厚みの減少が加速している場合、燃焼時間が短くなる傾向(燃え切り評価位置が上流側に移動する傾向)にあるため、一次燃焼用気体及び二次燃焼用気体の供給量を減少させることが好ましい場合がある。また、廃棄物の表面移動速度が加速している場合も同様に、燃焼時聞が短くなる傾向にあるため、一次燃焼用気体及び二次燃焼用気体の供給量を減少させることが好ましい場合がある。なお、搬送速度の増速時の補正において説明した理由により、環境等の状況によっては、一次燃焼用気体及び二次燃焼用気体の供給量の補正について、上記とは逆の補正が行われる可能性もある。
また、廃棄物の性状は常に変化する可能性があるため、制御装置90は、ステップS109でNoの場合、及びステップS112の処理の後に、再びステップS101以降の処理を行う。これにより、廃棄物の性状が変化した場合であっても、廃棄物の乾燥及び燃焼の進行状況が適正になるように修正することができるため、燃え切り評価位置を適切な範囲に収め、安定な燃焼を維持することができる。
以上に説明したように、本実施形態の燃焼状況評価方法は、乾燥部11と燃焼部12と後燃焼部13とに区分されており、廃棄物が堆積した状態で間欠的に動作することで当該廃棄物を搬送する火格子を備える焼却炉10に対して行われる。この燃焼状況評価方法は、作成工程と、分割工程と、第1算出工程と、第2算出工程と、第3算出工程と、判定工程と、評価工程と、を含む。作成工程では、複数の赤外線カメラ95を用いて、火炎が放射しない波長の光を選択的に透過させる選択透過フィルタ95aを介して、少なくとも燃焼部12に堆積した廃棄物を観測して、視点が異なる複数の熱画像を取得し、当該複数の熱画像に基づいて、3次元熱画像を作成する。分割工程では、3次元熱画像の廃棄物を複数の要素にメッシュ分割する。第1算出工程では、3次元熱画像に基づいて、廃棄物の厚み、及び、廃棄物の表面移動速度を要素毎に算出する。第2算出工程では、第1算出工程の算出結果に基づいて、要素に位置する廃棄物が当該要素に位置するまでに厚みが時系列でどのように変化したかを示す厚み経過情報を、要素毎に算出する。第3算出工程では、第1算出工程及び第2算出工程の算出結果に基づいて、要素に位置する廃棄物が当該要素に位置するまでに体積流量が時系列でどのように変化したかを示す体積流量経過情報を、要素毎に算出する。
これにより、廃棄物の体積流量経過情報は、例えば燃焼部にある廃棄物の熱分解の進行状況を示すものであるため、燃焼状況を評価するための指標となる。更に、廃棄物をメッシュ分割して評価することで、体積流量の変化が平均化されにくいため、体積流量の変化傾向を適切に把握することができる。
また、本実施形態の燃焼状況評価方法において、判定工程では、体積流量経過情報を解析して、廃棄物が燃え切り状態であるか否かを要素毎に判定する。評価工程では、判定工程の判定結果に基づいて、焼却炉10全体として火炎燃焼が終了した位置の指標であって燃焼を評価するための位置である燃え切り評価位置を特定する。
これにより、廃棄物の体積流量が時系列でどのように変化してきたかに基づいて燃え切り評価位置を特定するため、廃棄物の厚みのみを用いる方法等と比較して、高い信頼性で燃え切り評価位置を特定できる。更に、廃棄物をメッシュ分割して評価することで、炉幅方向の端部のみを評価する方法と比較して、より高い信頼性で燃え切り評価位置を特定できる。
また、本実施形態の燃焼状況評価方法において、後燃焼部13から、当該後燃焼部13における廃棄物搬送方向の下流側(図1の右側)へ延ばした直線と交差する奥壁13aに、少なくとも1つの赤外線カメラ95が設けられている。
これにより、燃焼部12の側壁に赤外線カメラ95を配置する構成と比較して、耐熱構造を簡易にすることができる。また、燃焼部12だけでなく後燃焼部13の廃棄物も同時に観測することが可能になる。
また、本実施形態の燃焼状況評価方法において、判定工程では、体積流量経過情報のうち、要素毎の最新の体積流量に基づいて、廃棄物が燃え切り状態であるか否かを要素毎に判定する(1)の方法を実行可能である。
これにより、演算量が少ない簡単な方法で燃え切り状態であるか否かの判定を行うことができる。
また、本実施形態の燃焼状況評価方法において、判定工程では、体積流量経過情報のうち、要素毎の体積流量の時系列の変化に基づいて、廃棄物が燃え切り状態であるか否かを要素毎に判定する(2)の方法を実行可能である。
これにより、信頼性が高い方法で燃え切り状態であるか否かの判定を行うことができる。また、(1)の方法と(2)の方法を選択して用いることで、演算量の少なさと信頼性の高さを両立させることができる。
また、本実施形態の燃焼状況評価方法において、燃え切り評価位置が搬送方向上流側に移動していることが特定された場合は、燃焼火格子22による廃棄物の搬送速度を増速させる制御を行う。燃え切り評価位置が搬送方向下流側に移動していることが特定された場合は、燃焼火格子22による廃棄物の搬送速度を減速させる制御を行う。
これにより、燃え切り位置が適切になるように調整することができるため、安定な燃焼を維持することができる。
また、本実施形態の燃焼制御方法では、第1算出工程で算出した、廃棄物の厚み、及び、廃棄物の表面移動速度の少なくとも何れかに基づいて、燃焼火格子22による廃棄物の搬送速度を変速させるための制御値を補正する。
これにより、燃焼が終了した廃棄物に関する情報である燃え切り評価位置に加え、現に燃焼部12にある廃棄物の性状に関する情報を用いて制御値を補正できるので、補正をしないときと比較して、現に燃焼領域にある廃棄物により合致した安定な燃焼を維持することができる。
また、本実施形態の燃焼状況評価方法では、燃焼火格子22の搬送速度を変更するとともに、燃焼火格子22の搬送速度の変更の原因である廃棄物の性状の変化の状態に応じて、乾燥火格子21及び後燃焼火格子23の搬送速度を変更する。
これにより、燃焼火格子22の搬送速度のみならず、乾燥火格子21、後燃焼火格子23の搬送速度を変更することで、燃焼状態の全体の変動を修正できる。
また、本実施形態の燃焼制御方法では、燃え切り評価位置が搬送方向上流側に移動しているか搬送方向下流側に移動しているかに基づいて、乾燥部11、燃焼部12、及び後燃焼部13の少なくとも何れかへ供給する一次燃焼用気体の供給量を調整する。
これにより、廃棄物の搬送速度を変更したことに起因する一次燃焼用気体の過不足を修正することができるので、乾燥、燃焼、及び後燃焼をより適切に行うことができる。
また、本実施形態の燃焼制御方法において、焼却炉10では、乾燥部11、燃焼部12、及び後燃焼部13で行われる一次燃焼と、当該一次燃焼で発生した未燃焼ガスを含む一次燃焼ガスを燃焼させる二次燃焼と、が行われる。燃え切り評価位置が搬送方向上流側に移動しているか搬送方向下流側に移動しているかに基づいて、二次燃焼用気体の供給量を調整する。
これにより、燃え切り位置の移動方向に基づいて一次燃焼の進行状況(即ち一次燃焼ガスの発生量等)を推測することができるので、それに応じて二次燃焼用気体の供給量を調整することで、二次燃焼において一次燃焼ガスに含まれる未燃焼ガスを十分に燃焼させることができる。
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
上記実施形態では、燃焼部12の搬送方向の全体(上流端から下流端まで)の3次元熱画像を作成する処理を説明した。これに代えて、制御装置90は、燃焼部12の搬送方向の一部(例えば上流端及びその近傍を除いた部分、あるいは、搬送方向の中央よりも下流側の部分)の3次元熱画像を作成する構成であってもよい。
上記実施形態では、炉内の熱画像を取得する装置として、燃え切り位置を含む熱画像を取得する赤外線カメラ95のみを備える構成である。これに代えて、従来から存在する撮像装置(具体的には、燃焼火格子22の搬送方向の中央よりも下流側の範囲の通常の可視画像を撮像する撮像装置)を更に備えていてもよい。
上記実施形態では、燃え切り評価位置の移動方向に基づいて、乾燥火格子21から後燃焼火格子23(特に燃焼火格子22)の搬送速度と、一次燃焼用気体と二次燃焼用気体の供給量と、を変更する処理を行ったが、燃え切り評価位置の移動方向に加えて、移動速度を用いて、これらの値を変更する処理を行ってもよい。
上記実施形態で示したフローチャートは一例であり、一部の処理を省略したり、一部の処理の内容を変更したり、新たな処理を追加したりしてもよい。例えば、上記実施形態では、ステップS108,S110,S111,S112の全てにおいて補正データに基づいて補正を行うが、これらの処理の少なくとも1つについて、補正データに基づく補正を省略してもよい。また、ステップS108において、乾燥火格子21及び後燃焼火格子23の両方ではなく一方のみに対して、補正データに基づく補正を行ってもよい。また、ステップS110において、一次燃焼用気体と二次燃焼用気体の両方ではなく一方のみに対して、補正データに基づく補正を行ってもよい。
上記実施形態では、燃焼制御で用いる検出データとして、焼却炉内ガス温度センサ91、焼却炉出口ガス温度センサ92、COガス濃度センサ93、及びNOxガス濃度センサ94の検出データを挙げて説明したが、少なくとも1つの検出データを省略して燃焼制御を行ってもよいし、上記とは別の検出データを加えて燃焼制御を行ってもよい。別の検出データとしては、例えば、排ガスからの熱量回収に伴うボイラ蒸発量、又は、水噴霧により冷却を行う場合は水噴霧冷却用水量等を用いることができる。