以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
(構成)
図1は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の全体構成を示すブロック図である。磁気共鳴イメージング装置1は、磁石架台100、寝台500、制御キャビネット300、コンソール400、及びRF(Radio Frequency)コイル20を備える。
磁石架台100は、静磁場磁石10、傾斜磁場コイル11、及びWB(Whole Body)コイル12を有しており、これらの構成品は円筒状の筐体に収納されている。寝台500は、寝台本体50と天板51を有している。
制御キャビネット300は、静磁場用電源30、傾斜磁場電源31(X軸用31x、Y軸用31y、Z軸用31z)、RF受信器32、RF送信器33、及びシーケンスコントローラ34を備えている。
磁石架台100の静磁場磁石10は、概略円筒形状をなしており、被検体、例えば患者、が搬送されるボア内に静磁場を発生させる。ボアとは、磁石架台100の円筒内部の空間のことである。静磁場磁石10は超電導コイルを内蔵し、液体ヘリウムによって超電導コイルが極低温に冷却されている。液体ヘリウムは、熱シールド(図示せず)と呼ばれる容器に収納されており、冷凍機(図示せず)によって冷却される。
静磁場磁石10は、励磁モードにおいて静磁場用電源30から供給される電流を超電導コイルに印加することで静磁場を発生する。その後、永久電流モードに移行すると、静磁場用電源30は切り離される。一旦永久電流モードに移行すると、静磁場磁石10は長時間、例えば1年以上に亘って、大きな静磁場を発生し続ける。被検体の胸部にある黒丸は、磁場中心を示している。
傾斜磁場コイル11も概略円筒形状をなし、静磁場磁石10の内側に固定されている。この傾斜磁場コイル11は、傾斜磁場電源(31x、31y、31z)から供給される電流によりX軸,Y軸,Z軸の方向に傾斜磁場を被検体に印加する。
寝台500の寝台本体50は天板51を上下方向及び水平方向に移動することができる。撮像前に天板51に載置された被検体を所定の高さまで移動させる。その後、撮影時には天板51を水平方向に移動させて被検体をボア内に移動させる。
WBコイル12は全身用コイルとも呼ばれ、傾斜磁場コイル11の内側に被検体を取り囲むように概略円筒形状に固定されている。WBコイル12は、RF送信器33から伝送されるRFパルスを被検体に向けて送信する一方、また、水素原子核の励起によって被検体から放出される磁気共鳴信号、即ちMR(Magnetic Resonance)信号を受信する。
磁気共鳴イメージング装置1は、WBコイル12の他、図1に示すようにRFコイル20を備える。RFコイル20は、被検体の体表面に近接して載置されるコイルである。RFコイル20は複数のコイル要素を備えている。これら複数のコイル要素は、RFコイル20の内部でアレイ状に配列されるため、PAC(Phased Array Coil)と呼ばれることもある。
RF送信器33は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいてRFパルスを生成する。生成したRFパルスはWBコイル12に伝送され、被検体に印加される。RFパルスの印加によって被検体からMR信号が発生する。このMR信号をRFコイル20又はWBコイル12が受信する。
RFコイル20で受信したMR信号、より具体的には、RFコイル20内の各コイル要素で受信したMR信号は、天板51及び寝台本体50に設けられたケーブルを介してRF受信器32に出力される。RF受信器32は、MR信号をAD(Analog to Digital)変換して、シーケンスコントローラ34に出力する。デジタルに変化されたMR信号は、生データ(Raw Data)と呼ばれることもある。また、このMR信号は、フーリエ変換によって実空間データに変換される前の空間周波数データであるため、k空間データと呼ばれることもある。
シーケンスコントローラ34は、コンソール400による制御のもと、傾斜磁場電源31、RF送信器33及びRF受信器32をそれぞれ駆動することによって被検体のスキャンを行う。スキャンによってRF受信器32から生データを受信すると、シーケンスコントローラ34は、その生データをコンソール400に送信する。
シーケンスコントローラ34は、処理回路(図示を省略)を具備している。この処理回路は、例えば所定のプログラムを実行するプロセッサや、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで構成される。
コンソール400は、処理回路40、記憶回路41、ディスプレイ42、入力デバイス43、及び外部I/F(Interface)44を備えている。コンソール400は、ホスト計算機として機能する。
記憶回路41は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の他、HDD(Hard Disk Drive)や光ディスク装置等の外部記憶装置を含む記憶媒体である。記憶回路41は、各種の情報やデータを記憶する他、処理回路40が具備するプロセッサが実行する各種のプログラムを記憶する。
入力デバイス43は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル等であり、各種の情報やデータを操作者が入力するための種々のデバイスを含む。ディスプレイ42は、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELパネル等の表示デバイスである。
処理回路40は、例えば、CPUや、専用又は汎用のプロセッサを備える回路である。プロセッサは、記憶回路41に記憶した各種のプログラムを実行することによって、後述する各種の機能を実現する。処理回路40は、FPGAやASIC等のハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても後述する各種の機能を実現することができる。また、処理回路40は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組わせて、各種の機能を実現することもできる。
外部I/F44は、LAN(Local Area Network)やインターネット等のネットワークを介して、外部の機器や、カスタマーサービスセンタ等の施設と情報の授受を行う。
図2は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の詳細構成を示すブロック図である。図2の左側に示す構成は、図1に示した磁石架台100及び制御キャビネット300の夫々の内部構成、及びRFコイル20に該当する。磁石架台100及び制御キャビネット300の夫々の内部構成、及びRFコイル20で、撮像部600を構成する。
図2の右側は、コンソール400の、より具体的な機能構成を示す。コンソール400は、前述したように、処理回路40、記憶回路41、ディスプレイ42、入力デバイス43、及び外部I/F44を備えている。
処理回路40は、異常検出/取得機能401、入力受付機能402、撮像条件変更機能(縮退モード設定機能)403、撮像条件設定機能404、再構成機能405、表示制御機能406、の各機能を実現する。処理回路40は、例えば、処理回路40が具備するプロセッサが、記憶回路41に記憶される所定のプログラムを実行することによって、上記の各機能を実現する。以下、各機能について説明する。
異常検出/取得機能401は、撮像部600から出力される信号やデータに基づいて、撮像部600の内部で異常が発生したことを検出する。また、異常検出/取得機能401は、撮像部600から出力される信号やデータに基づいて、撮像部600内部の異常箇所を特定したり、異常箇所を推定したりしてもよい。
撮像部600から出力される信号やデータには、異常の発生や異常の発生箇所を間接的に示す信号やデータ、例えば、シーケンスコントローラ34から出力されるMR信号や、各構成品から出力される温度モニタ信号等が含まれる。異常検出/取得機能401は、例えば、MR信号に対しては、所定の解析等を行って、異常発生の有無や、異常箇所の推定を行う。また、例えば、温度モニタ信号に対しては、所定の閾値判定等を行って、異常箇所の推定を行う。例えば、後述する実施例1〜実施例3では、シーケンスコントローラ34から出力されるMR信号に基づいて異常を検出する。また、実施例4、実施例8では、傾斜磁場コイルの温度や、熱シールドの温度等から異常を検出する。
一方、撮像部600から出力される信号やデータには、異常の発生や異常の発生箇所を直接的に示す信号やデータも含まれる。例えば、撮像部600内部の個々の構成品自体が異常検出機能を有している場合、各構成品で異常が検出されると、該当する構成品から、異常が発生したことや異常部位を示す異常情報が出力される。この場合、異常検出/取得機能401は、該当する構成品から異常情報を取得して、異常の有無や異常箇所を特定する。例えば、後述する実施例5、実施例6では、傾斜磁場電源31やRF送信器33の内部のモジュールの異常を夫々が自己点検で検出し、検出した異常情報に関するモニタ信号を異常検出/取得機能401が取得している。また、実施例7では、RFコイル20の内部のPINダイオードの異常を検出し、検出した異常情報に関するモニタ情報を異常検出/取得機能401が取得している。
このように、異常検出/取得機能401は、装置自体が、異常箇所を検出或いは推定する機能である。
一方、入力受付機能402は、操作者が推定した異常箇所を受け付ける機能である。装置が異常を検出しない場合であっても、操作者が、ディスプレイ42に表示された画像から、装置に何らかの異常が発生していると判断することが可能である。装置が異常を検出するためには何らかの閾値判定が必要であるが、閾値判定をくぐり抜けるような異常であっても、操作者が、画像の歪み具合や、画像に生じているアーティファクトの状況から、装置に何らかの異常が発生していると判断することができる場合がある。そして、操作者は、過去の経験等に基づいて、画像の異常状態から装置の異常箇所を推定できる場合もある。
撮像条件変更機能(縮退モード設定機能)403は、異常が発生しうる複数の箇所から検出される少なくとも1つの異常箇所に応じて撮像条件を変更する。
撮像条件の変更機能、即ち、縮退モードの設定機能について説明する前に、変更前の撮像条件及びその設定方法について簡単に以下に説明しておく。変更前の撮像条件は、撮像条件設定機能404で設定される。撮像条件設定機能で設定される撮像条件は、装置に異常が無いという前提の下で設定される。
ここでの撮像条件とは、撮像部位や診断内容に応じて、T1強調画像、T2強調画像、拡散強調画像等の画像を生成するのに適したパルスシーケンスの種類や各パルスシーケンスのパラメータ等を含むものである。各パルスシーケンスの実行順序も撮像条件に含まれる。また、パルスシーケンスの種類とは、SE(Spin Echo)法、GRE(Gradient Echo)法、FSE(Fast Spin Echo)法、EPI(Echo Planar Imaging)法等の各種の撮像法に対応するパルスシーケンスの種類のことである。
また、パルスシーケンスのパラメータとは、パルスシーケンスを構成するRFパルスや傾斜磁場パルスに関するパラメータのことである。例えば、励起パルス、再収束パルス、反転パルス等RFパルスのフリップ角、繰り返し時間TR、実効エコー時間TE、拡散強調イメージングにおけるb値、FSE法やEPI法におけるエコー間隔ESP(Echo Spacing)、傾斜磁場強度等がパルスシーケンスのパラメータに該当する。さらに、FOV(Field of View)の大きさ、分解能、スライスの厚み、数、間隔、及び向き、といったパラメータも、パルスシーケンスのパラメータに含まれる。
上記の撮像条件は、例えば、記憶回路41に予め保存されている。最像条件設定機能404は、記憶回路41から保全されている撮像条件を読み出し、表示制御機能406を用いてディスプレイ42に表示する。操作者は、所望のパルスシーケンスの種類や順序を、入力デバイス43を介して選択することによって、或いは必要に応じてパラメータの値を変更することによって、撮像条件を決定する。決定された撮像条件は、撮像条件設定機能404により、シーケンスコントローラ34に対して設定される。
その後、設定された撮像条件にしたがった撮像が撮像部600によって実行される。そして、この撮像によって収集されたMR信号は、再構成機能405によって再構成される。さらに、再構成された画像は、表示制御機能406によってディスプレイ42に表示される。
撮像条件設定機能404で設定される撮像条件は、前述したように、あくまで装置に異常がないことを前提とするものである。装置によって異常が検出された場合、或いは、操作者によって推定異常箇所入力された場合には、撮像条件変更機能403によって撮像条件が変更される。
変更される撮像条件は、異常箇所を有する状態であっても撮像可能な撮像条件である。ここで、「異常箇所を有する状態であっても撮像可能」とは、正常な状態での撮像に比べると、何らかの制約を受けるものの、システムダウンにすることなく撮像を続行することができる、という意味である。正常な状態での撮像に対して、ある程度縮退した撮像となるため、異常箇所を有する状態であっても撮像可能な動作モードを、縮退モードと呼ぶものとする。したがって、異常箇所に応じて撮像条件を変更することと、異常箇所に応じて縮退モードを設定することとは、実質的に同義である。
(動作)
図3は、縮退モードに関連する磁気共鳴イメージング装置1の全体動作例を示すフローチャートである。より具体的な縮退モードの例として、実施例1〜実施例8を後に説明するが、図3は、各実施例に共通する処理を示している。以下、本実施形態の縮退モードの全体動作について、図3のフローチャートにしたがって説明する。
ステップST10で、磁気共鳴イメージング装置1が起動される。装置の起動後、ステップST11で、撮像条件変更機能403は、異常が検出されたか否か、或いは、異常箇所が入力デバイス43を介して入力されたか否かを判定する。異常箇所の検出自体は上述したように異常検出/取得機能401が行う。また、異常箇所の入力受付自体も入力受付機能402が行う。ステップST11の判定は、装置の異常が検出される前に設定された撮像条件にしたがった撮像(以下、非縮退モードでの撮像と呼ぶ)の途中でもよいし、非縮退モードでの撮像前でもよい。
ステップST11で、装置で異常が検出されず、かつ、操作者による異常箇所の入力が行われなかったと判定された場合、ステップST19に進んで、非縮退モードでの撮像が開始、又は続行される。
一方、装置の異常が検出された場合、或いは、装置の推定異常箇所が操作者によって入力された場合、撮像条件変更機能403は、異常箇所や異常状態に応じた縮退モードを設定する(ステップST12)。具体的な縮退モードの例については後述するが、例えば、異常が発生した場合、その異常の影響を受けやすい撮像法の使用を避けて、その異常の影響を受けにくい撮像法に変更することも縮退モードの一例である。この段階では、設定された縮退モードでの撮像は未だ実行されない。
次に、撮像条件変更機能403は、設定された縮退モードに自動移行するか否かを判定する(ステップST13)。例えば、入力デバイス43を介して、縮退モードへの自動移行を許可するか禁止するかの設定を操作者が予めしておく。自動移行を許可する設定がなされている場合には、ステップST16に進む。一方、自動移行を禁止する設定が行われている場合は、ステップST14に進む。
ステップST14で、撮像条件変更機能403は、検出された異常箇所や異常状態、及び設定された縮退の内容をディスプレイ42に表示する。
操作者は表示された内容を確認し、(a)表示された縮退モードを承認する場合は、入力デバイス43を介して、そのまま縮退モードへの移行指示をする、(b)表示された縮退モードを必要に応じて修正した後、或いは、縮退モードが複数ある場合は所望の縮退モードを選択した後、入力デバイス43を介して、縮退モードへの移行指示をする、(c)表示された縮退モードを承認せず、あえて非縮退モードのまま撮像する、(d)表示された縮退モードを承認せず、撮像の続行自体を断念する、等の行動を起こすことになる。
上記の(c)、(d)のケースは、縮退モードの動作とは直接関係しないため、図3には図示していない。一方、上記の(a)、(b)のケースは、図3のステップST15に進むことになる。
ステップST15で、縮退モードへの移行指示の入力を待ち、移行指示を受け付けると、ステップST16に進む。
ステップST16では、ステップST12で設定された縮退モード、或いは、上記のケース(b)で修正された縮退モードにしたがった撮像が行われる。具体的には、撮像条件変更機能403が、非縮退モードの撮像条件から縮退モードの撮像条件に変更し、変更した撮像条件をシーケンスコントローラ34等に設定した後、撮像を行う。
ステップST17では、撮像条件変更機能403は、必要に応じて、縮退モードの内容を記憶回路41に保存する。縮退モードを保存しておくことにより、縮退モードで行った当該撮像を、後の撮像でも確実に再現することができる。
ステップST18で、撮像条件変更機能403は、必要に応じて、異常箇所や異常状態を、外部I/F44を介して、他のユーザや、外部のカスタマーサービスセンタ、保守センタ等に通報する。縮退モードは、システムダウンさせることなく、異常箇所の影響を極力避けた状態で行う一時的な動作モードであり、異常箇所の早期の復旧が望ましいことに変わりはないからでる。
次に、より具体的な縮退モードの動作について、8つの実施例(実施例1から実施例8)について、順次説明していく。
(実施例1)
図4は、実施例1の縮退モードの処理例を示すフローチャートである。また、図5は、実施例1の縮退モードの動作概念を示す図である。
実施例1は、k空間上のスパイクノイズに基づいて異常の有無を検出する。スパイクノイズは、画像上のアーティファクトとなり、画質の劣化の要因となるからである。
図4のステップST10で装置を起動した後、非縮退モードで撮像条件を設定し(ステップST100)、点検用スキャン、又は、通常スキャンを実施する(ステップST101)。点検用スキャンは、例えばファントム等に対して行うスキャンであり、通常スキャンは、患者等の被検体に対して行うスキャンである。
ステップST102では、これらのスキャンの実施によってk空間データとしてのMR信号を収集する。そして、ステップST103で、k空間上にスパイクノイズが存在するか、また、存在する場合は、そのスパイクノイズが所定値よりも大きいか否かを判定する。
図5の下の図に例示するように、k空間上の端部、例えば、k空間上の高周波領域を判定領域として設定し、この判定領域においてスパイクノイズのピーク値とバックグランドノイズとの大きさを比較する。k空間上の高周波領域を判定領域とする理由は、低周波領域では、ファントムや被検体の信号強度が支配的となるため、スパイクノイズが存在しても、その検出が高周波領域に比べて困難となるからである。
判定領域において、スパイクノイズのピーク値とバックグランドノイズとの比が所定値以上、例えば100倍以上あったとき異常と判定し、縮退モードの設定(ステップST104)に進む。ステップST104で否の判定の場合は、図3のステップST19に進み、非縮退モードでの撮像が実行される。
ステップST104では、異常箇所の推定と縮退モードの設定が行われる。スパイクノイズが生じているときは、傾斜磁場コイルの内部で微弱な放電が発生している可能性が疑われる。そこで、異常箇所として、傾斜磁場コイル等を推定する。
また、縮退モードとして、スルーレートの高いパルスシーケンス、例えばEPI法やGRE法で使用されるパルスシーケンスの使用を避ける撮像条件を設定する。傾斜磁場コイルの内部の放電は、スルーレートの高いパルスシーケンスによって発生しやすいからである。
上述した実施例1に係る縮退モードによれば、例えば傾斜磁場コイルを異常箇所として推定することにより、スパイクノイズなどの画像上のアーティファクトが発生しない撮像条件を設定することができる。
(実施例2)
図6は、実施例2の縮退モードの処理例を示すフローチャートである。また、図7は、実施例2の縮退モードの動作概念を示す図である。
実施例2は、磁場の変動に起因する周波数誤差(又は位相誤差)に基づいて異常の有無を検出する。周波数誤差(又は位相誤差)は、画像歪みの要因となるからである。
図6のステップST10で装置を起動した後、MT(Maxwell Term)値測定用のパルスシーケンスを実施し(ステップST200)、MT値を測定する(ステップST201)。ここで、磁場の変動に起因する周波数誤差に関する指標をMT値と呼ぶものとしている。
磁気共鳴周波数(ω=2πf)と磁場強度Bとの間には、ω=γ*B、の関係がある。したがって、理想的な磁場強度と実際の磁場強度とのずれを、理想的な磁気共鳴周波数と、実際の磁気共鳴周波数とのずれ(周波数誤差)として表すことができる。
図7は、磁場の一例としてX方向の傾斜磁場Gxを挙げ、Xに対する磁場Gx・X(傾斜磁場Gxと磁場中心からの位置Xの積)の振舞いを示す図である。理想的な状態では、磁場Gx・XはXに比例して直線的に変化するが、実際の磁場Gx・Xは、渦電流等の種々の要因によって直線からずれることになる。傾斜磁場強度の0次から2次の成分に起因する磁場のずれを、周波数として表した指標が上記のMT値である。
図7に示すように、理想的な磁場Gx・Xと実際の磁場Gx・Xとのずれは、Xの位置によって異なっている。図7に示す例では、Xが大きくなるほどずれの量も大きくなっている。上記のMT値は、理想的な磁場Gx・Xと実際の磁場Gx・Xとのずれの大きさを、Xの位置に依存しない、統合的な1つの値の指標値として表したものである。
ステップST200で行われるMT値測定用のパルスシーケンスは、例えば、毎日の初期点検の際に、ファントムに対して傾斜磁場を印加して行われるものである。図7において破線で示す理想的な直線は、MT値測定用のパルスシーケンスで使用されるパラメータの情報から求めることができる。一方、図7において実線で示す曲線は、ファントムからのMR信号をWBコイル12で受信し、受信したMR信号に基づいて2次関数で近似したものである。MT値は、図7に示す破線と実線との乖離の大きさを表す指標である。そして、このMT値が、理想的な磁気共鳴周波数と実際の磁気共鳴周波数とのずれの大きさを表わす指標となる。
なお、図7において、Xに対する磁場Gx・Xの振舞いを例示したが、静磁場B0の影響を加味して、磁場(Gx・X+B0)を縦軸にとってもよい。
図6のステップST202では、MT値が所定値よりも大きいか否かが判定される。MT値が所定値以下、例えば2Hz以下であれば、図3のステップST19に進み、非縮退モードでの撮像が実行される。
一方、MT値が所定値よりも大きい場合には、ステップST203に進み、異常箇所の推定と縮退モードの設定が行われる。
推定される異常箇所の例としては、傾斜磁場コイルが挙げられる。経年変化等によって、傾斜磁場コイルの断面形状が変形して真円からずれてしまい、その結果、MT値が大きくなることが考えられるからである。
また、縮退モードとして、高分解能撮像用のシーケンスやパラメータの使用を避けた撮像条件を設定する。MT値が大きい状態で、高分解能画像(例えば、ピクセルサイズが0.5mm以下の高分解能画像)を得ようとすると、SN比の低下が顕著となるからである。
また、毎日の初期点検においてMT値が大きいことが検出された場合には、本スキャンの前に位相補正用のプリスキャンを必ず実施することも、有効な縮退モードとなり得る。位相補正用のプリスキャンで収集した補正データによって、本スキャンで収集したデータの位相を補正することにより、画像の歪みを低減することができるからである。
上述した実施例2に係る縮退モードによれば、例えば傾斜磁場コイルを異常箇所として推定することにより、例えば画像歪みの低減やSN比の低下を抑制する撮像条件を設定することができる。
(実施例3)
図8は、実施例3の縮退モードの処理例を示すフローチャートである。また、図9は、実施例3の縮退モードの動作概念を示す図である。
実施例3は、実施例2で説明したMT値の温度変化を示す指標(即ち、ΔMT)に基づいて異常の有無を検出する。MT値が1つのパルスシーケンス内で温度によって変化した場合、即ち、1つのパルスシーケンス内で磁気共鳴周波数(或いは位相)が変化した場合、N/2アーティファクトと呼ばれるアーティファクトが発生しやすくなるからである。
図8のステップST10で装置を起動した後、温度TAで、MT値測定用の1回目のパルスシーケンスを実施し、MT値を測定する(ステップST300)。さらに、温度TBで、MT値測定用の2回目のパルスシーケンスを実施し、MT値を測定する(ステップST301)。各MT値測定用のパルスシーケンスは、毎日の初期点検時に行われ、傾斜磁場コイルが常温時(温度TA)(例えば20℃)と、加熱時(温度TB)(例えば40℃)で行われる。
ステップST302で、MT値の差(ΔMT)を算出し、ステップST303で、ΔMTが所定値、例えば0.5Hz、よりも大きいか否かを判定する。ΔMTが所定値以下であれば、図3のステップST19に進み、非縮退モードでの撮像が実行される。
一方、ΔMTが所定値よりも大きい場合には、ステップST304に進み、異常箇所の推定と縮退モードの設定が行われる。
推定される異常箇所は、例えば、傾斜磁場コイルの冷却系等である。また、例えば、縮退モードとして、ΔMTの影響が大きいと考えられるパルスシーケンス、例えば、EPI等、の使用を避ける撮像条件を設定する。N/2アーティファクトが発生しやすくなることを表示して、操作者に注意を喚起することも有効である。
上述した実施例3に係る縮退モードによれば、例えば傾斜磁場コイルの冷却系などを異常箇所として推定することにより、例えば、パルスシーケンス内で磁気共鳴周波数が変化した場合に生じる、N/2アーティファクト等のアーティファクトを抑制する撮像条件を設定することができる。
(実施例4)
図10は、実施例4の縮退モードの処理例を示すフローチャートである。また、図11は、実施例4の縮退モードの動作概念を示す図である。
実施例4の縮退モードは、傾斜磁場コイルの温度が温度制限値を超えることによって使用不可となることを避けるための動作モードである。図11に示すように、傾斜磁場コイルの温度は、パルスシーケンスの印加中には温度が上昇し、パルスシーケンスの停止期間は温度が下降する。パルスシーケンスの停止後、次のパルスシーケンスを開始するまでの時間が短いと、傾斜磁場コイルの温度は十分に下がりきらず、次のパルスシーケンスの印加中に温度制限値に達してしまい、その時点で撮像を停止せざるを得なくなる。
そこで、実施例4では、装置起動後(ステップST10)、非縮退モードで撮像を開始後、傾斜磁場コイルの温度を測定する(ステップST400)。そして、測定した温度と、温度制限値(例えば、60℃)との差が所定値以下か否かを判定する(ステップST402)。
測定した温度と温度制限値との差が所定値よりも大きい場合、即ち、温度制限値までの間に十分余裕がある場合には、図3のステップST19に進み、非縮退モードでの撮像を継続する。
一方、測定した温度と温度制限値との差が所定値以下の場合には、ステップST403に進み、縮退モードの設定を行う。例えば、縮退モードとして、デューティ比の高いパルスシーケンスの使用を避けた撮像条件を設定する。
また、複数のパルスシーケンスを順次行うプロトコルを操作者が設定する際に、傾斜磁場コイルの温度が温度制限値を超えないような待ち時間を、各パルスシーケンスの間に設けるように操作者に促す表示を行ったり、具体的な待ち時間を表示したりすることも有効である。また、傾斜磁場コイルの温度が温度制限値を超えないように、パルスシーケンスの実行順序を変更することも有効な方法である。
上述した実施例4に係る縮退モードによれば、例えば傾斜磁場コイルの温度上昇を抑制し、傾斜磁場コイルの温度が温度制限値に達するのを事前に防止する撮像条件を設定することができる。
(実施例5)
図12は、実施例5の縮退モードの処理例を示すフローチャートである。また、図13は、実施例5の縮退モードの動作概念を示す図である。
実施例5の縮退モードは、傾斜磁場電源を構成する複数の増幅モジュールのうち、少なくとも1つの増幅モジュールが故障した場合、傾斜磁場電源全体を使用不可とするのではなく、正常な増幅モジュールを活かして、傾斜磁場コイルへの電源供給を継続させる動作モードである。
図13の左の図に示すように、非縮退モードでは、複数の(例えば5つの)増幅モジュールが直列接続されて、所定の電圧を傾斜磁場コイルに印加している。この場合、増幅モジュールの右側に示す各スイッチは、全てオープンとなっている。
ここで、図13の右の図に示すように、例えば、上から2番目と3番目の増幅モジュールが故障したとする。この故障は傾斜磁場電源内の制御回路が検出する。そして、制御回路は、故障した増幅モジュールをバイパスするように、該当するスイッチをクローズにして、正常な増幅モジュールのみを直列接続して傾斜磁場コイルに電圧を印加する。このような動作モードが、実施例5の縮退モードである。
縮退モードでの印加電圧は、非縮退モードにおける所定の電圧よりも低くなるものの、撮像を完全に停止させることなく、継続することが可能となる。
実施例5の処理の流れは、図12に示すように、装置起動後(ステップST10)、まず、傾斜磁場電源の自己点検を実施する(ステップST500)。傾斜磁場電源内の全ての増幅モジュールが正常な場合(ステップST501のNO)は、図3のステップST19に進み、非縮退モードでの撮像を行う。
一方、傾斜磁場電源内の少なくとも1つの増幅モジュールが異常であることが検出された場合(ステップST501のYES)には、ステップST502に進み、縮退モードを設定する。
まず、縮退モードとして、前述したように、正常な増幅モジュールを直列接続するように、スイッチを設定する。この場合、正常時にくらべて傾斜磁場電源の出力電圧は低下することになる。
そこで、さらに縮退モードとして、高電圧を必要とするパルスシーケンス、即ち、スルーレートの高いパルスシーケンス(例えば、EPI等)の使用を避ける撮像条件を設定する。
この他、出力電圧の低下に伴って必要となる、傾斜磁場電源内部の制御パラメータ(例えば、フィードバック制御のパラメータ)を適宜変更する。
上述した実施例5に係る縮退モードによれば、例えば傾斜磁場電源の増幅モジュール等を異常箇所として検出することにより、傾斜磁場電源を継続的に使用可能な状態に設定することが可能となり、また、正常時よりも低い出力電圧でも動作可能な撮像条件を設定することができる。
(実施例6)
図14は、実施例6の縮退モードの処理例を示すフローチャートである。また、図15は、実施例6の縮退モードの動作概念を示す図である。
実施例6の縮退モードは、RF増幅器を構成する複数のRF増幅モジュールのうち、少なくとも1つのRF増幅モジュールが故障した場合、RF増幅器全体を使用不可とするのではなく、正常なRF増幅モジュールを活かして、WBコイルへのRF出力を継続させる動作モードである。
図14の左の図に示すように、非縮退モードでは、複数の(例えば5つの)RF増幅モジュールが、電力合成器に並列接続されて、所定のRF電力をWBコイルに印加している。この場合、RF増幅モジュールの右側に示す各スイッチは、全てクローズとなっている。
ここで、図15の右の図に示すように、例えば、上から2番目と4番目のRF増幅モジュールが故障したとする。この故障はRF送信器内の制御回路が検出する。そして、制御回路は、故障したRF増幅モジュールを切り離すように、該当するスイッチをオープンにして、正常なRF増幅モジュールのみを並列接続してWBコイルにRF電力を印加する。このような動作モードが、実施例6の縮退モードである。
縮退モードでのRF電力は、非縮退モードにおける所定のRF電力よりも低くなるものの、撮像を完全に停止させることなく、継続することが可能となる。
実施例6の処理の流れは、図14に示すように、装置起動後(ステップST10)、まず、RF送信器の自己点検を実施する(ステップST600)。RF送信器内の全てのRF増幅モジュールが正常な場合(ステップST601のNO)は、図3のステップST19に進み、非縮退モードでの撮像を行う。
一方、RF送信器内の少なくとも1つのRF増幅モジュールが異常であることが検出された場合(ステップST601のYES)には、ステップST602に進み、縮退モードを設定する。
まず、縮退モードとして、前述したように、正常なRF増幅モジュールを並列接続するように、スイッチを設定する。この場合、正常時にくらべてRF送信器のRF出力は低下することになる。
そこで、さらに縮退モードとして、RFピーク電力が小さいパルスシーケンスやパラメータの撮像条件を設定する。例えば、RFパルスのフリップ角が小さな撮像条件を設定する。或いは、フリップ角を維持するために、RFパルスのパルス長を伸ばしてRFピーク電力を低下させるような撮像条件を設定する。
この他、出力電圧の低下に伴って必要となる、傾斜磁場電源内部の制御パラメータ、例えば、フィードバック制御のパラメータや、SAR算出のためのパラメータを適宜変更する。
上述した実施例6に係る縮退モードによれば、例えばRF増幅器のRF増幅モジュール等を異常箇所として検出することにより、RF増幅器を継続的に使用可能な状態に設定することが可能となり、また、正常時よりも低いRF電力でも動作可能な撮像条件を設定することができる。
(実施例7)
図16は、実施例7の縮退モードの処理例を示すフローチャートである。また、図17は、実施例7の縮退モードの動作概念を示す図である。
実施例7の縮退モードは、RFコイルの中のPINダイオードの故障が検出されたときに設定される動作モードである。PINダイオードは、RFコイルの中のデカップリング回路に使用されるものである。
図17に示すように、RFコイルのPINダイオードが故障すると、RFコイルとWBコイルとのデカップリングが不良となる。この結果、WBコイルの感度パタンが、本来の感度パタンとは異なったものとなってしまう。
パラレルイメージングでは、展開処理に感度マップを使用するが、感度マップは、RFコイルの受信信号と、WBコイルの受信信号とを用いて生成している。このため、デカップリングの不良によってWBコイルの感度パタンが異常になると、感度マップの感度分布も異常となり、結果的に展開処理後の画像が異常となる。
また、WBコイルの受信信号を用いて輝度補正を行うこともあり、この場合には、輝度補正が異常となる。
そこで、実施例7の縮退モードは、RFコイルのPINダイオードの故障した場合でも、その影響を受けないようにするものである。
実施例7の処理の流れは、図16に示すように、装置起動後(ステップST10)、まず、RF送信器の自己点検を実施する(ステップST700)。そして、RFコイル内のPINダイオードが異常か否かを判定する(ステップST701)。例えば、RFコイルを寝台のコネクタに接続し、PINダイオードの順方向電流をモニタする。順方向電流が流れていなければ、そのPINダイオードは異常であると判定することができる。
接続されているRFコイルのすべてのPINダイオードが正常であれば(ステップST701のNO)、図3のステップST19に進み、非縮退モードでの撮像を行う。
一方、接続されているRFコイルの少なくとも1つのPINダイオードが異常であることが検出された場合(ステップST701のYES)には、ステップST702に進み、縮退モードを設定する。
例えば、縮退モードとして、パラレルイメージングを用いない撮像条件に設定する。また、非縮退モードとしてWBコイルの画像を用いた輝度補正を行っている場合には、WBコイルの画像を必要としない輝度補正方法に変更する。
上述した実施例7に係る縮退モードによれば、例えばRFコイルのPINダイオ―ド等を異常箇所として検出することにより、例えば、WBコイルの感度パタンが正常時の感度パタンから変化したとしても、その影響を受けにくい撮像条件を設定することができる。
(実施例8)
図18は、実施例8の縮退モードの処理例を示すフローチャートである。また、図19は、実施例8の縮退モードの動作概念を示す図である。
実施例8の縮退モードは、超電導静磁場磁石の熱シールドの温度をモニタし、この温度が所定値以上となったときに設定される動作モードである。図19に示すように、熱シールドの温度が上昇すると渦電流磁場の振舞いが変化する。渦電流磁場による静磁場への影響は、例えば、傾斜磁場パルスの形状を補正する等の方法を用いた渦調整によって、事前に補正されている。しかしながら、熱シールドの温度が想定以上に上昇すると、渦調整がずれ、結果的に画像の歪みが生じることになる。
そこで、実施例8の縮退モードは、熱シールドの温度が想定以上に上昇した場合でも、その影響を極力受けないようにするものである。
実施例8の処理の流れは、図18に示すように、装置起動後(ステップST10)、静磁場磁石の熱シールドの温度を測定する(ステップST800)。熱シールドの温度測定は、例えば、静磁場磁石の動作監視ユニットから出力されるモニタ信号を利用することができる。
そして、ステップST801で、熱シールドの温度が所定値以上か否かを判定する。所定値よりも小さければ(ステップST801のNO)、図3のステップST19に進み、非縮退モードでの撮像を行う。
一方、熱シールドの温度が所定値以上の場合(ステップST801のYES)には、ステップST802に進み、縮退モードを設定する。
例えば、縮退モードとして、渦電流磁場の影響の少ない撮像条件を設定する。逆に、渦電流磁場の影響の大きい、fMRI等の撮像条件を避ける。また、熱シールドの温度が所定値以上の場合、画像歪みの可能性が有る旨のアラーム表示等を行っても良い。
上述した実施例8に係る縮退モードによれば、例えば超電導静磁場磁石の冷却系を異常箇所として検出することにより、例えば、渦電流磁場の影響の少ない撮像条件を設定することができる。
ここまで、実施例1乃至実施例8を用いて、装置が判定或いは検出した異常に関する情報に基づいて、或いは、ユーザが入力した異常の情報に基づいて、非縮退モード(即ち、通常モード)から縮退モードに移行する例を説明してきた。以下では、縮退モードの設定方法、特に、縮退モードにおけるパルスシーケンスの設定方法について、具体的に説明する。
縮退モードにおけるパルスシーケンスの設定の説明に先立ち、図20を用いて、通常モードでのパルスシーケンスの設定方法について説明しておく。図20は、通常モードにおけるパルスシーケンスの設定画面SCの一例を示す図である。
設定画面SCは、その右側から、撮像部位を指定するウィンドW1、PAS名を指定するウィンドW2、指定されたPASに含まれるパルシーケンス群を表示するウィンドW3、及びパルシーケンス群の中から選択されたパルスシーケンスを実行順に表示するウィンドW4を有している。
ここで、PAS(Programmable Anatomical Scan)とは、様々な解剖学的撮像部位(例えば、頭部や脚部等)に応じた複数のパルスシーケンス群を記憶するデータベースである。例えば、図20に例示するように、ウィンドW1において、撮像対象部位としてユーザが「頭部」を選択すると、ウィンドW2に、「頭部」に対応する複数のPAS名(即ち、複数のパルスシーケンス群の夫々に付された識別名)が表示される。ユーザが、複数のPAS名の中から、例えば、「HEAD MRA」を指定すると、指定されたPASに含まれるパルスシーケンス群がウィンドW3に表示される。
ユーザが、ウィンドW3に表示されたパルスシーケンス群の中から、所望のパルスシーケンスを選択すると、選択したパルスシーケンスが、選択した順序に従ってウィンドW4に表示される。そして、撮像が開始されると、ウィンドW4に配列された順序で、各パルスシーケンスが順次実行されることになる。
なお、パルスシーケンスは「プロトコル」と呼ばれ、パルスシーケンス群は「プロトコル群」と呼ばれることもある。
以上は、非縮退モード(即ち、通常モード)におけるパルスシーケンスの設定方法であるが、本実施形態の縮退モードにおけるパルスシーケンスの設定方法においても、類似した手法を用いる。但し、上述した各実施例からも判るように、磁気共鳴イメージング装置1で発生しうる異常の種類は様々である。したがって、設定する縮退モードのパルスシーケンスも、異常の種類に対応したものである必要がある。
そこで、本実施形態の磁気共鳴イメージング装置1では、異常の種類に応じたパルシーケンス群を予めデータベースとして保有しておくものとしている。そして、装置が検出した異常箇所に対応する異常の種類に応じて、縮退モード用のパルスシーケンス群を装置が自動的にユーザに提供するようにしている。
図21は、縮退モード用のパルスシーケンス群をユーザに提供するためのデータベースDBRの一例を示す図である。このデータベースDBRでは、複数の異常種別(例えば、異常種別(1)から異常種別(N)までのN種の異常種別)と、これら複数の異常種別の夫々に対応する複数の縮退モード(例えば、縮退モード(1)から縮退モード(N)までのN種の縮退モード)のパルスシーケンス群(及びその識別名であるPAS名)とが互いに関連付けられている。データベースDBRは、例えば、記憶回路41に記憶される。
そして、図3のステップST11において、装置が異常を検出すると(或いは、推定異常箇所がユーザによって入力されると)、装置はデータベースDBRを参照し、検出された(或いは入力された)異常の種類に応じたパルスシーケンス群がデータベースDBRから抽出される。
抽出されたパルシーケンス群は、例えば、図22に例示するように、パルスシーケンスの設定画面SCに表示される。例えば、検出された異常が異常種別(n)であった場合には、この異常種別に関連付けられた縮退モード(n)のパス名とパルスシーケンス群とが、ウィンドW2とウィンドW3に夫々表示される。
例えば、実施例1で説明したように、異常の種別が、傾斜磁場コイルの異常に起因するスパイクノイズの発生であった場合には、EPIやGREのようにスルーレートの高いパルスシーケンスが含まれないパルスシーケンス群がデータベースDBRから抽出され、ウィンドW3に表示される。
或いは、例えば、実施例6で説明したように、異常の種別が、RF増幅モジュールの異常に起因する送信電力の低下であった場合には、フリップ角が通常モードよりも小さく設定されたパルスシーケンス群がデータベースDBRから抽出され、ウィンドW3に表示される。
ここまで、縮退モードにおけるパルスシーケンスの設定方法について、異常の種類に応じたパルスシーケンス群を予めデータベースとして保有しておく例を示したが、パルスシーケンスの設定方法はこれに限られず、装置が異常を検出した時(或いは、推定異常箇所がユーザによって入力された時)に、異常の種類と程度に応じて非縮退モード(即ち、通常モード)のプロトコルの撮像条件を設定し直す手法を用いても良い。言い換えれば、異常箇所の情報に夫々対応する複数の異常種別と、複数の異常種別の夫々に関連付けられたパルスシーケンス変更方法とをデータベースに記憶しておき、異常種別に関連付けられたパルスシーケンス変更方法をデータベースから抽出し、抽出した前記パルスシーケンス変更方法に基づいて、縮退モードにおける撮像条件を設定する手法を用いてもよい。
例えば、実施例5で説明したように、異常の種別が、傾斜磁場電源を構成する複数の増幅モジュールのうち、少なくとも1つの増幅モジュールが故障した場合、正常時に比べて傾斜磁場電源の出力電圧は低下するため、傾斜磁場パルスのスルーレートは低下する。例えば、正常時に5つの増幅モジュールで最大スルーレートが150(mT/m/ms)であった場合に、5つのうち2つの増幅モジュールの故障が検出されてバイパスされると、最大スルーレートは90(mT/m/ms)程度まで低下する。装置が異常を検出すると、装置はデータベースDBRを参照し、パルスシーケンスが90(mT/m/ms)以上のスルーレートを使用している場合には、エコー時間TEを延長したり、空間分解能を低下させたりするなどの手段により、低下したスルーレート90(mT/m/ms)で実現できる新しいプロトコルを生成し、非縮退モードのプロトコルと置き換える。この処理を撮像に使用する全てのプロトコルについて行う。新しいプロトコルへの置き換えは、異常を検出した時にデータベースDBR内の全てのPASについて行っても良く、また、検査の前に、その検査に使用するPASについてその都度行っても良い。
ユーザが、異常状態を理解して、その異常状態に応じた適切なパルスシーケンスを設定することは容易ではない。特に、急患等でとにかく撮像を急ぎたいような状況のなかで、ユーザに、異常状況に応じた適切なパルスシーケンスの修正を強いるのは現実的とは言えない。
これに対して、本実施形態では、上述したように、ユーザの知識に依存することなく、異常の種別に対応した縮退モードのパルスシーケンス群を、装置が自動的に判断し、ユーザに提供することができる。
以上、いくつかの実施例を説明してきたが、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1は、上述した実施例に限定されるものではなく、他の縮退モードへの展開も可能であることは言うまでもない。また、パルスシーケンスの設定方法は、一例として説明した、PAS名の指定を経てパルスシーケンス群が表示されるという形態に限らない。つまり、検出された装置の異常に応じて、異常がある状況下であっても実行可能なパルスシーケンス群を表示したり、異常がある状況下でも実行可能なようにパラメータ設定されたパルスシーケンス群に置き換えて表示したりすることができる構成であればよい。
以上説明してきた少なくとも1つの実施形態の磁気共鳴イメージング装置によれば、装置のダウンタイム、即ち、装置の使用不可期間を最小限にし、また、装置の故障による影響を極力低減させることができる。
なお、各実施形態の説明における撮像条件変更機能(縮退モード設定機能)は、請求項における変更部の一例である。各実施形態の説明における入力受付機能は、請求項における入力部の一例である。各実施形態の説明における異常検出/取得機能は、請求項における検出部の一例である。また、傾斜磁場電源及びRF送信機の夫々の制御回路も検出部の一例である。各実施形態の説明における外部I/Fは、請求項における通報部の一例である。各実施形態の説明における入力デバイスは、請求項における入力部の一例である
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。