JP6867215B2 - 酸化劣化臭、老化臭及び老化味が減感された麦芽飲料 - Google Patents

酸化劣化臭、老化臭及び老化味が減感された麦芽飲料 Download PDF

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Description

本発明は麦芽飲料に関し、特に、アルコールを含有する麦芽飲料に関する。
麦芽飲料は、原料に麦芽を使用して製造される飲料をいう。例えば、麦芽由来の糖液を発酵させて得られる飲料、麦芽由来の糖液を混合して得られる飲料などは麦芽飲料に該当する。麦芽飲料の具体例には、ビール及びビール風味麦芽飲料等が該当する。
ビールとは、麦芽、ホップ、及び水を原料として、これらを、酵母を用いて発酵させて得られる飲料をいう。ビール風味麦芽飲料は、味及び香りがビールと同様になるように設計された麦芽飲料をいう。ビール風味麦芽飲料は発酵させたものであっても、発酵させないものであってもよい。発泡酒、及び麦芽由来の糖液、ホップ、香料及び炭酸ガス等を混合させた飲料はビール風味麦芽飲料に含まれる。
麦芽飲料の原料としての麦汁は、麦芽を含む穀類を粉砕し、副原料及び水と混合して加熱することによりデンプンを糖化し、得られる糖液にホップを加えて更に煮沸して製造される。麦芽等を水と共に加熱する過程は、一般に、糖化と呼ばれ、糖液を煮沸する過程は麦汁煮沸と呼ばれる。麦汁という文言の意味には、糖化後に得られる糖液も含まれることがある。麦汁は、麦芽及びホップに由来する味及び穀物香を有し、そのために、麦芽飲料にはビール特有の香気が実現される。
一般に、麦芽飲料は、製造してから時間が経つにしたがって酸化し、酸化劣化臭あるいは老化臭、老化味と呼ばれる不快な香り及び味感を生成する。その結果、麦芽飲料には、製品を流通させ、保管する間に、本来のおいしさが損なわれる問題がある。
特許文献1には、麦芽アルコール飲料(例えばビール、発泡酒)の製造方法において、吸着剤を用いて雑味成分の少なくとも一部を除去することにより、製造後の香味の老化を抑制し、製造直後の香味を長期間にわたって維持できることが記載されている。
麦芽飲料本来の香味に影響を与えることなく老化臭のみを抑制するためには、雑味の中で香味が老化する原因物質を特定し、その原因物質を選択的に除去しなければならない。しかしながら、かかる処理は実質的に困難であり、麦芽飲料本来の香味まで除去され易い。また、使用する原料の種類に対応して、老化の原因物質、その吸着条件等を決定しなければならず、厳密かつ複雑な作業が要求される。したがって、特許文献1の方法は、実生産に使用する場合、コストが高くなる。
酸化劣化臭、老化臭、老化味とは別に、麦芽飲料は、紫外線を含む光に曝されると日光臭と呼ばれる不快臭を生成する。特許文献2には、上記日光臭の原因物質は3−メチル−2−ブテン−1−チオール等の含硫化合物であることが記載されている。また、特許文献2には、これらの含硫化合物が非発酵ビールテイスト飲料に添加された場合、不快臭は発生せず、逆に良好なビール風味感が付与されることが記載されている。
国際公開WO2002/04593号公報 国際公開WO2013/080357号公報
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、製造してから時間が経った場合の酸化劣化臭、老化臭及び老化味を減感することが可能であり、結果としてビールらしいおいしさを維持した麦芽飲料を提供することにある。本明細書において「減感」とは、人間の嗅覚及び味覚において感じにくくすることをいう。文言「減感」の意味には、対象物にその本来の香気とは別の香気を加えることで、対象物本来の香気を包み隠すこと、即ち、マスキングが含まれる。
本発明は、3−メチル−2−ブテン―1−チオール、3−メチル−2−ブタンチオール、及びベンゼンメタンチオールからなる群から選択される少なくとも一種の含硫化合物を10ppt以上の濃度で含有する麦芽飲料を提供する。
ある一形態においては、上記麦芽飲料は、上記含硫化合物を500ppt以下の濃度で含有する。
ある一形態においては、上記麦芽飲料は、トランス−2−ノネナールを0.06ppb以上の濃度で含有する。
ある一形態においては、上記麦芽飲料は、飲料中のトランス−2−ノネナール濃度をX(ppb)、
麦芽飲料中の3−メチル−2−ブテン―1−チオール濃度をY(ppt)とした場合に、式
Y≧118.09X+3.4487 (1)、及び式
Y≦1407.3X+8.1685 (2)
で表される関係を充足する。
ある一形態においては、上記麦芽飲料は、麦芽飲料中のトランス−2−ノネナール濃度をX(ppb)、
麦芽飲料中の3−メチル−2−ブテン―1−チオール濃度をY(ppt)とした場合に、式
Y≧248.59X+2.1324 (3)、及び式
Y≦824.75X+6.9838 (4)
で表される関係を充足する。
ある一形態においては、上記麦芽飲料は発酵麦芽飲料である。
ある一形態においては、上記麦芽飲料はアルコールを含有する。
また、本発明は、3−メチル−2−ブテン―1−チオール、3−メチル−2−ブタンチオール及びベンゼンメタンチオールからなる群から選択される少なくとも一種の含硫化合物を10〜500pptの濃度で含有させる工程を包含する麦芽飲料の製造方法を提供する。
また、本発明は、飲料に3−メチル−2−ブテン―1−チオール、3−メチル−2−ブタンチオール及びベンゼンメタンチオールからなる群から選択される少なくとも一種の含硫化合物を10〜500pptの濃度で含有させる工程を包含する、麦芽飲料の酸化劣化臭、老化臭及び老化味を減感する方法を提供する。
また、本発明は、飲料に3−メチル−2−ブテン―1−チオール、3−メチル−2−ブタンチオール及びベンゼンメタンチオールからなる群から選択される少なくとも一種の含硫化合物を10〜500pptの濃度で含有する、麦芽飲料の酸化劣化臭、老化臭及び老化味の減感剤を提供する。
本発明の麦芽飲料は、製造してから時間が経った場合に、酸化劣化臭、老化臭および老化味が発生している場合でも、麦芽飲料としてのおいしさを維持することができる。本発明の麦芽飲料の製造方法は操作が簡単であり、低コストで実生産に使用することができる。
製造してから時間が経つことでトランス−2−ノネナール(E2N)を含有することになったビールの酸化劣化臭、老化臭及び老化味を減感するために必要な3−メチル−2−ブテン−1−チオール(MBT)の濃度の下限及び上限を示したグラフである。 製造してから時間が経つことでトランス−2−ノネナール(E2N)を含有することになったビールのおいしさを維持するために必要な3−メチル−2−ブテン−1−チオール(MBT)の濃度の下限及び上限を示したグラフである。
含硫化合物は、ビール風味飲料において、日光を照射された際に生じる不快臭(「スカンクの味」、「光で壊された味」、「日射病にかかった味」)を生じさせる原因となっていた(例えば、特開昭59−179058号参照)。ビール風味飲料を日光又は紫外線に露出した際に生じる不快臭を日光臭という。このため、ビール風味飲料においては、その風味を良好なものとするために、特に、3−メチル−2−ブテン−1−チオール等の含硫化合物の含有量を、可能な限り低く抑える試みがなされてきた。
しかしながら、本発明の発明者らは、従来の常識に反して、麦芽飲料に特定量の含硫化合物を含有させることにより、本来のおいしさを維持したまま麦芽飲料の酸化劣化臭、老化臭および老化味を減感できることを見出した。上記含硫化合物としては、チオール基を有する揮発性物質であることが好ましい。チオール基を有する揮発性物質としては、ビール類等に含まれる含硫化合物であれば、特に限定されるものではなく、例えば、3−メチル−2−ブテン−1−チオール、3−メチル−2−ブタンチオール、3−メチル−1−ブタンチオール、2−メチル−1−ブタンチオール及びベンゼンメタンチオール等の化合物を挙げることができる。これらの中でも、適度な日光臭を含有させることにより、酸化劣化臭、老化臭及び老化味を目立たなくさせるという観点から、含硫化合物として、3−メチル−2−ブテン−1−チオール及び3−メチル−2−ブタンチオールを含有されていることが好ましい。中でも好ましい含硫化合物は3−メチル−2−ブテン−1−チオールである。これら含硫化合物は単独で用いてもよく、二種以上が混合されて含有されていてもよい。
飲料が酸化劣化に伴い生成する物質のひとつに、トランス−2−ノネナールがある。製造してから時間が経つにしたがって麦芽飲料の酸化が進行し、飲料のトランス−2−ノネナール濃度が増加し、酸化劣化臭、老化臭のうち、特に段ボール臭、カードボード臭と呼ばれる特有の臭いが発生する。一般に、飲料中のトランス−2−ノネナール濃度が約0.06ppb以上になった場合に、麦芽飲料本来の香味に段ボール臭、カードボード臭の影響が感じられるようになる。
本発明の飲料においては、含硫化合物の含有量は濃度10〜500pptの範囲で調節される。含硫化合物の濃度が10ppt未満であると、酸化劣化臭、老化臭および老化味の減感が不十分になり易く、500pptを超えると日光臭が顕著となり、麦芽飲料本来の香味が損なわれ易い。含硫化合物の含有量は好ましくは、濃度10〜400ppt、より好ましくは濃度50〜90pptである。
含硫化合物の含有量は、麦芽飲料のトランス−2−ノネナール濃度に基づいて調節されることが好ましい。そうすることで、酸化劣化臭、老化臭および老化味が発生し難く、本来の香味が維持され易くなる。含硫化合物の含有量は、麦芽飲料中のトランス−2−ノネナール濃度をX(ppb)、麦芽飲料中の含硫化合物濃度をY(ppt)とした場合に、上記式(1)及び式(2)で表される関係を充足する量に調節することが好ましい。
麦芽飲料のおいしさを考慮した場合、含硫化合物の含有量は、麦芽飲料中のトランス−2−ノネナール濃度をX(ppb)、麦芽飲料中の含硫化合物濃度をY(ppt)とした場合に、上記式(3)及び式(4)で表される関係を充足する量に調節することが好ましい。
麦芽飲料のトランス−2−ノネナール濃度は、例えば、SBSE法の操作を行うことで測定される。すなわち、麦芽飲料を水で10倍に希釈し、内部標準液と誘導体化試薬を添加し、Twisterへの吸着とオキシム誘導体化反応後、GC-MS分析に供する。トランス‐2−ノネナールの測定条件などを以下に示す。
質量分析器付きガスクロマトグラフ装置(GC : Agilent 6890 MSD : Agilent5973)
Twister (Gerstel社製:長さ20mm, 膜厚0.5mm, 固定相体積48μL)
カラム(Agilent 社製:DB-WAX30m×0.25mm×0.25μm Part No.122-7032)
含硫化合物を麦芽飲料に含有させる方法は特に限定されない。含硫化合物は、麦芽飲料に添加することで含有させてよく、又は麦芽飲料を日光に露出するか、麦芽飲料に紫外線を照射して内部に生成させることで含有させてもよく、麦芽飲料への添加と日光露出又は紫外線照射とを併用することで含有させてもよい。また、仕込や発酵の条件を調整して含有させてもよい。
麦芽飲料の含硫化合物、特に3−メチル−2−ブテン−1−チオールの濃度は、岸本らの方法(Kishimoto, T. et al., Odorants comprising hop aroma of beer: hop-derived odorants increased in the beer hopped with aged hops, Proceedings of the 31st EBC Congress, Venice 2007)を使用して測定される。
酸化劣化臭、老化臭及び老化味を減感しようとする麦芽飲料に含硫化合物を含有させる場合、麦芽飲料の製造過程における適当な工程で含有させることができる。例えば、ビール風味発酵麦芽飲料に含有させる場合には、麦汁等の原料溶液の糖化工程前、麦汁煮沸時、麦汁煮沸後の冷却工程、発酵工程又は熟成工程等任意の工程でよいが、含有させる工程が前工程であればあるほど、濃度の消長が考えられるため、後発酵工程の終了後が望ましい。
本発明の麦芽飲料の製造は、適当な工程で含硫化合物を含有させること以外は、ビール又はビール風味麦芽飲料を製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行われる。例えば、まず、麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、35〜60℃で20〜90分間保持することにより行うことができる。また、必要に応じて、主原料と副原料以外にも、後述する糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤や、スパイスやハーブ類等の香味成分等を添加してもよい。
その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦芽アルコール飲料の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60〜72℃にて30〜90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76〜78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な糖液を得る。
上記副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
上記糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味する。該糖化酵素として、例えば、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
糖化に供される穀類は麦芽を含む。糖化に供される穀類中の麦芽の含有量は、特に限定されないが、5重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは67重量%以上である。糖化に供される穀類は麦芽100%であってもよい。穀類中の麦芽の含有量が多いほど、得られる麦汁の麦芽由来の旨味やコク感が強くなる。
麦汁煮沸の操作は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行えばよい。例えば、pHを調節した糖液を煮沸釜に移し、煮沸する。糖液の煮沸開始時から、ワールプール静置の間に、ホップを添加する。糖液は次いでワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固した蛋白質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な発酵温度まで冷却する。上記麦汁煮沸の操作により、麦汁が得られる。
得られた麦汁は、例えば、発酵させて、含アルコールビール風味発酵麦芽飲料を製造する原料として使用することができる。麦汁の発酵は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した麦汁に酵母を接種して、発酵タンクに移し、アルコール発酵を行う。さらに、熟成工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させる。次いで濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去して、目的の含アルコールビール風味発酵麦芽飲料が得られる。
本発明の非発酵ビール風味麦芽飲料の製造方法は、適当な工程で含硫化合物を含有させること以外は、非発酵ビール風味麦芽飲料を製造する際に通常行われる工程を包含する。一例として、まず、麦芽由来物、高分子糖、甘味物質及びその他の成分を所定量混合して配合物を調製する。次いで、配合物に飲用水を所定量添加して一次原料液を調製する。ホップを添加して一次原料液を煮沸後、冷却し、酒類を加え、カーボネーション工程によって炭酸を添加する。
非発酵ビール風味麦芽飲料を製造する際には、麦芽由来物として、例えば、粉砕麦芽や、麦芽エキスを使用して良い。例えば、非発酵ビール風味麦芽飲料の麦芽由来物の濃度は5〜90重量%である。麦芽由来物の濃度が5重量%未満であるとビール様の香気が得られにくく、90重量%を超えると酸化劣化臭、老化臭又は老化味が目立ち易くなる。非発酵ビール風味麦芽飲料の麦芽由来物の濃度は、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは20〜70重量%である。
加えられる酒類はアルコール源であり、例えば、原料用アルコール、焼酎、泡盛、ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、テキーラ、ジン、スピリッツ等を使用することができる。コストの観点から、中でも、原料用アルコール等が一般に使用される。原料用アルコールには、サトウキビなどから得られる糖蜜を原料として、アルコール発酵させた液を連続式蒸留器でエタノール濃度約95%まで蒸留した後、エタノール濃度45%を下限として適宜希釈してエタノール濃度を調節し、使用するものが含まれる。
必要により、各段階において、濾過、遠心分離等で沈澱を分離除去することもできる。また、上記原料液を濃厚な状態で作成した後に、炭酸水を添加しても良い。これらは通常のソフトドリンクの製造プロセスを用いることで、発酵設備を持たなくても、簡便に非発酵ビール風味アルコール飲料の調製が可能である。
カーボネーション工程や炭酸水添加工程の前に沈殿を除去すると、オリや雑味の原因物質が除去でき、より望ましい。尚、カーボネーション工程や炭酸水の添加工程の前に、必要に応じてろ過又は殺菌を行ってもよい。
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
製麦工程として、収穫された大麦を、水に浸けて適度に発芽させた後、熱風により焙燥して、麦芽を製造した。該麦芽は常法により破砕した。次に、麦芽の破砕物及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製した。マイシェの調製は、50℃で60分間保持することにより行った。その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素を利用して、澱粉質を糖化させた。糖化処理時の温度や時間は、72℃にて30分間保持することにより行った。糖化処理後、78℃で10分間保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な糖液を得た。
糖液は煮沸釜に移した。この糖液にリン酸を添加してpHを調節し、ホップを添加した。次いで、煮沸釜を加熱することにより、100℃で1時間麦汁煮沸を行った。内容物を煮沸釜からワールプールに移し、7.0℃まで冷却することにより、麦汁を得た。
麦汁に酵母を接種して、発酵タンクに移し、7日間発酵を行った。さらに、熟成工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で7日間熟成させ、−1.0〜0.0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた。次いで濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去して、アルコールを含むビールを得た。
岸本らの方法(Kishimoto, T. et al., Odorants comprising hop aroma of beer: hop-derived odorants increased in the beer hopped with aged hops, Proceedings of the 31st EBC Congress, Venice 2007)の方法に従い、得られたビールの含硫化合物3−メチル−2−ブテン−1−チオール(以下「MBT」という。)濃度を測定した。MBT濃度は2pptであった。
このビールを5つに分割し、一つは対照として使用するためにMBTを添加せず、残りの4つにMBTをその濃度がそれぞれ10ppt、50ppt、100ppt及び500pptになる量で添加した。
MBT無添加品、MBT濃度10ppt品、MBT濃度50ppt品、MBT濃度100ppt品、及びMBT濃度500ppt品を一組にして、5組を構成した。そして、5組のそれぞれ一組を、0℃1週間、37℃1週間、37℃2週間、及び50℃1週間暗所に保存した。
SBSE法の操作を行うことでビールのトランス−2−ノネナール濃度を測定した。すなわち、ビールを水で10倍に希釈し、内部標準液と誘導体化試薬を添加し、Twisterへの吸着とオキシム誘導体化反応後、GC-MS分析に供した。測定条件などを以下に示す。結果を表3〜6に示す。
質量分析器付きガスクロマトグラフ装置(GC : Agilent 6890 MSD : Agilent5973)
Twister (Gerstel社製:長さ20mm, 膜厚0.5mm, 固定相体積48μL)
カラム(Agilent 社製:DB-WAX30m×0.25mm×0.25μm Part No.122-7032)
得られたビールについて、5名のパネリストによるブラインドでの官能評価を実施した。評価項目は次の通り設定した。
[表1]
Figure 0006867215
評価項目(1)〜(4)は7段階評価で採点し、採点基準は次の通り設定した。各パネリストが採点した値の平均値を表3〜6に示す。自由コメントの括弧内に記載した数値はコメントを述べたパネリストの人数を示す。
0℃保存品、MBT濃度0pptの(1)〜(3)を1、(4)を7とする。
0℃保存品、MBT濃度500pptの(1)を7とする。
50℃保存品、MBT濃度0pptの(2)を7とする。
[表2]
Figure 0006867215
[表3]
Figure 0006867215
0℃1週間保存品では、酸化劣化臭、老化臭及び老化味を感じるパネリストはほぼゼロであり、MBT濃度約10ppt以下において、ビールとしてのおいしさが認められた。
[表4]
Figure 0006867215
37℃1週間保存品では、MBT濃度約10〜約200pptの場合に酸化劣化臭を感じにくくする効果が認められ、MBT濃度約30〜約120pptの場合にビールとしてのおいしさが認められた。
[表5]
Figure 0006867215
37℃2週間保存品では、MBT濃度約30〜約350pptの場合に酸化劣化臭、老化臭及び老化味を感じにくくする効果が認められ、MBT濃度約50〜約200pptの場合にビールとしてのおいしさが認められた。
[表6]
Figure 0006867215
50℃1週間保存品では、MBT濃度約50〜約500pptの場合に酸化劣化臭、老化臭及び老化味を感じにくくする効果が認められ、MBT濃度約100〜約300pptの場合にビールとしてのおいしさが認められた。
製造後保存することでE2Nを含有することになったビールの酸化劣化臭、老化臭及び老化味を感じにくくするために必要なMBTの濃度の下限及び上限を示したグラフを図1に示す。また、製造後保存することでE2Nを含有することになったビールのおいしさを維持するために必要なMBTの濃度の下限及び上限を示したグラフを図2に示す。

Claims (8)

  1. 3−メチル−2−ブテン―1−チオール、3−メチル−2−ブタンチオール及びベンゼンメタンチオールからなる群から選択される少なくとも一種の含硫化合物を10ppt以上の濃度で含有する麦芽飲料であって、
    トランス−2−ノネナールを0.06ppb以上の濃度で含有する、麦芽飲料
  2. 上記含硫化合物を500ppt以下の濃度で含有する、請求項1に記載の麦芽飲料。
  3. 麦芽飲料中のトランス−2−ノネナール濃度をX(ppb)、
    麦芽飲料中の3−メチル−2−ブテン―1−チオール濃度をY(ppt)とした場合に、式
    Y≧118.09X+3.4487 (1)、及び式
    Y≦1407.3X+8.1685 (2)
    で表される関係を充足する請求項1又は2に記載の、麦芽飲料。
  4. 麦芽飲料中のトランス−2−ノネナール濃度をX(ppb)、
    麦芽飲料中の3−メチル−2−ブテン―1−チオール濃度をY(ppt)とした場合に、式
    Y≧248.59X+2.1324 (3)、及び式
    Y≦824.75X+6.9838 (4)
    で表される関係を充足する請求項1又は2に記載の麦芽飲料。
  5. 発酵麦芽飲料である請求項1〜のいずれか一項に記載の麦芽飲料。
  6. アルコールを含有する請求項1〜のいずれか一項に記載の麦芽飲料。
  7. 3−メチル−2−ブテン―1−チオール、3−メチル−2−ブタンチオール及びベンゼンメタンチオールからなる群から選択される少なくとも一種の含硫化合物を10〜500pptの濃度で含有させる工程を包含する麦芽飲料の製造方法であって、
    該麦芽飲料は、トランス−2−ノネナールを0.06ppb以上の濃度で含有するものである、麦芽飲料の製造方法。
  8. 飲料に3−メチル−2−ブテン―1−チオール、3−メチル−2−ブタンチオール及びベンゼンメタンチオールからなる群から選択される少なくとも一種の含硫化合物を10〜500pptの濃度で含有させる工程を包含する、麦芽飲料の酸化劣化臭、老化臭及び老化味を減感する方法であって、
    該麦芽飲料は、トランス−2−ノネナールを0.06ppb以上の濃度で含有するものである、麦芽飲料の酸化劣化臭、老化臭及び老化味を減感する方法。
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