以下、図面を参照して実施形態としての摩擦係合装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
以下の各実施形態では、自動変速機を構成するブレーキとして適用された摩擦係合装置を例示する。ただし、本発明の摩擦係合装置は、以下に例示するブレーキに限らず、自動変速機を構成するクラッチとして適用されてもよいし、自動変速機以外の動力伝達系統に装備されるブレーキやクラッチとして適用されてもよい。
[1.第1実施形態]
[1−1.構成]
まず、図1〜図3を参照して、第1実施形態に係る摩擦係合装置10について説明する。
図1(a),(b)に示すように、本実施形態に係る摩擦係合装置10は、自動変速機のケーシング11内に設けられている。ケーシング11は、非回転要素であって、摩擦係合装置10を囲むように設けられた外壁部11aを有する。
ケーシング11の外壁部11aの内側には、回転要素である回転体12が配置されている。回転体12は、例えばエンジンからクラッチ等を介して伝達される動力により回転する。
以下、回転体12の回転軸が延びる方向を軸方向Dという。また、回転体12の径方向の内側を単に内側といい、回転体12の径方向の外側を単に外側という。なお、図1(a),(b)には、回転体12の外側の端部の一部を示している。
本実施形態の摩擦係合装置10は、回転体12の回転を許容又は規制するブレーキである。摩擦係合装置10は、回転体12の外側に配置されたプレート群1と、プレート群1と軸方向Dに並んで設けられたピストン2とを備えている。
以下の説明では、図1(a),(b)に合わせて、プレート群1に対してピストン2が位置する軸方向Dの一方側を左側といい、その逆側である軸方向Dの他方側を右側という。
プレート群1は、回転体12に相対回転不能かつ軸方向相対移動可能に取り付けられた複数のドライブプレート1Aと、ケーシング11に相対回転不能かつ軸方向相対移動可能に取り付けられた複数のドリブンプレート1Bとを含んで構成されている。
ドライブプレート1Aは、回転体12と共に回転する回転要素である。各ドライブプレート1Aの内周縁は、回転体12の外周面に形成されたスプライン12sに噛合った状態に設けられている。したがって、ドライブプレート1Aは、回転体12に対して相対回転不能かつ軸方向Dに移動可能である。
ドリブンプレート1Bは、非回転要素である。各ドリブンプレート1Bの外周縁は、ケーシング11の外壁部11aの内周面に形成されたスプライン11sに噛合った状態に設けられている。したがって、ドリブンプレート1Bは、ケーシング11に対して相対回転不能かつ軸方向Dに移動可能である。
ドライブプレート1Aとドリブンプレート1Bとは、何れも回転軸の軸方向Dと直交する方向を向いて配置されており、互いに平行な姿勢で軸方向Dに沿って交互に配列されている。
本実施形態では、単純化して二つのドライブプレート1Aと三つのドリブンプレート1Bとで構成されたプレート群1を例示する。つまり、プレート群1の軸方向Dの両端は、ドリブンプレート1Bで構成される。
ただし、プレート群1の構成はこれに限定されない。プレート群1は、通常はより多くのドライブプレート1A及びドリブンプレート1Bが配置されて構成される。
プレート群1の右側には、プレート群1の右側への移動を規制するためのリテーナプレート13及びスナップリング14が配置される。
リテーナプレート13は、プレート群1の右端に位置するドリブンプレート1Bに隣接して位置する。リテーナプレート13の外周縁は、ケーシング11のスプライン11sに噛合った状態に設けられている。
スナップリング14は、リテーナプレート13の右側に隣接して位置する。スナップリング14は、スプライン11sに対して周方向に沿って形成された環状溝11tに挿入されて軸方向Dに移動不能に係止されている。
プレート群1は、隣合うドライブプレート1A及びドリブンプレート1B同士が図1(a)に示すように互いに密着した係合状態と、図1(b)に示すように互いに離隔した解放状態とをとりうる。プレート群1の係合解放状態は、摩擦係合装置10の係合解放状態でもある。
なお、ここでいう係合状態には、ドライブプレート1Aがドリブンプレート1Bに対して摺接(スリップ状態で接触)するスリップ係合状態と、ドライブプレート1Aがドリブンプレート1Bに対してスリップすることなく係合する完全係合状態(締結状態)との双方が含まれる。
プレート群1は、係合状態である場合にドライブプレート1Aの回転を規制する。この場合、回転体12の回転が規制又は停止される。
一方、プレート群1は、解放状態である場合にドライブプレート1Aの回転を許容する。この場合、回転体12の回転が許容される。
ピストン2は、軸方向Dに沿って往復動することで、プレート群1を係合状態と解放状態とに切り換えるものである。
ピストン2は、その左側に隣接して形成された油圧室15に給排される油圧に応じて、プレート群1を係合状態に保持する係合位置〔図1(a)参照〕と、プレート群1を解放状態に保持する解放位置〔図1(b)参照〕との間で移動可能に構成されている。
油圧室15は、ケーシング11の外壁部11aの一部と、この外壁部11aから内側に延出された内壁部11bと、ピストン2とで区画された空間である。油圧室15には、ケーシング11の内壁部11bに貫設された油孔11hを通じて自動変速機の作動油が給排される。
ピストン2は、回転体12と同軸上に配置される円環状の座部2aと、座部2aから軸方向Dに突設された押圧部2bと、座部2aの内周側に設けられた隔壁部2cとを有する。
座部2aは、プレート群1の左端に位置するドリブンプレート1Bに正対するように設けられ、後述する第2付勢部材4の受け部(リテーナ)を構成する。
押圧部2bは、座部2aからプレート群1に向けて突設され、図1(a)で示す係合位置でプレート群1に当接し、図1(b)に示す解放位置ではプレート群1から離間するように、長さ(突設長)が設定されている。図2に示すように、本実施形態では、六つの押圧部2bがピストン2の周方向に沿って等間隔に(間隔をあけて)配設されている。これらの押圧部2bは何れも同一の形状である。
押圧部2bは、ピストン2が係合位置にある場合にプレート群1に接触する先端2dを有する。本実施形態では、各押圧部2bの先端2dが正面視で円弧状である。なお、各押圧部2bの基端は、座部2aの外周縁と内周縁との略中間部に結合されている。
図1(a),(b)に示すように、隔壁部2cは、ケーシング11との間に油圧室15を形成する部位である。隔壁部2cの内周端と外周端との夫々には、ケーシング11との間の隙間を密閉するためのシール部材16が配設されている。シール部材16は、ピストン2の往復動に伴ってケーシング11の表面を摺動する。
摩擦係合装置10は、対向するドリブンプレート1B同士を互いに離隔させる方向に常時付勢する第1付勢部材3と、ピストン2とプレート群1とを互いに離隔させる方向に常時付勢する第2付勢部材4とを有する。
第1付勢部材3は、対向するドリブンプレート1B同士の間であって、ドライブプレート1Aの外側に配置される。本実施形態では、三つのドリブンプレート1Bのうちの中間のドリブンプレート1Bと両側のドリブンプレート1Bとの間の夫々に第1付勢部材3が設けられている場合を例示する。
本実施形態では、各第1付勢部材3がリング状の波形バネであって、ドライブプレート1Aの外周の空間内に配置されている。なお、第1付勢部材3の種類や形状や個数は、ここで示したものに限定されない。
第2付勢部材4は、ピストン2の座部2aとプレート群1の左端に位置するドリブンプレート1Bとの間に配置される。図2に示すように、本実施形態の各第2付勢部材4は、コイルバネで構成されている。ただし、第2付勢部材4の種類や個数は、ここで示したものに限定されない。
各第2付勢部材4は、その伸縮方向が軸方向Dと一致するように配置される。第2付勢部材4は、ピストン2の座部2aとプレート群1の左端に位置するドリブンプレート1Bとに挟持されることで、常に圧縮された状態に保持される。
各第2付勢部材4は、軸方向Dに関して押圧部2bと並列に配置される。具体的には、第2付勢部材4は、ピストン2の周方向において隣合う押圧部2bの間に配置されている。つまり、本実施形態の第2付勢部材4とピストン2の押圧部2bとは、ピストン2の周方向に沿って並んで設けられている。
また、ピストン2の周方向において隣合う押圧部2bの間では、四つの第2付勢部材4がピストン2の周方向に沿って等間隔に配置されている。
以下、図3(a)〜(c)を参照して、第1付勢部材3及び第2付勢部材4の総付勢力と機械的な特性及び伸縮ストロークとについて説明する。
なお、第1付勢部材3の総付勢力とは、摩擦係合装置10に設けられた各第1付勢部材3の付勢力を総合したものを意味する。同様に、第2付勢部材4の総付勢力とは、摩擦係合装置10に設けられた各第2付勢部材4の付勢力を総合したものを意味する。
また、第1付勢部材3及び第2付勢部材4の機械的な特性とは、具体的にはバネ定数や自然長に応じて定まるバネ特性を意味する。
さらに、第1付勢部材3の伸縮ストロークは、プレート群1の解放係合ストロークに対応するものであって、第1付勢部材3の伸縮に応じて離接するドリブンプレート1B間の距離L1に応じて定まる。
同様に、第2付勢部材4の伸縮ストロークは、ピストン2の移動ストロークに対応するものであって、第2付勢部材4の伸縮に応じて離接するピストン2の座部2aとプレート群1との間の距離L2に応じて定まる。
図3(a)は、ピストン2が解放位置にあって、プレート群1が解放状態である場合を示している。また、図3(c)は、ピストン2が係合位置にあって、プレート群1が係合状態である場合を示している。
図3(b)に示すように、第1付勢部材3及び第2付勢部材4の機械的な特性と伸縮ストロークとは、ピストン2が解放位置から係合位置へ移動する過程で係合位置に達する前に、プレート群1が係合状態となるように設定されている。
つまり、互いに直列に配置された第1付勢部材3及び第2付勢部材4は、ピストン2の位置に応じた圧縮力をピストン2から受ける。
例えば、ピストン2が解放位置にあると、第1付勢部材3及び第2付勢部材4がピストン2から受ける圧縮力は小さく、第1付勢部材3及び第2付勢部材4は伸長した状態となって、プレート群1は解放状態となる。
このとき、第1付勢部材3及び第2付勢部材4が発揮する総付勢力はバランスする。つまり、第1付勢部材3及び第2付勢部材4は、初期荷重が略同一に設定されており、互いに等しい大きさの付勢力(弾性力)を発揮する。
このようにプレート群1が解放状態のとき、第2付勢部材4の総付勢力は、0よりも大きい値で、且つ、第1付勢部材3によりドライブプレート1Aとドリブンプレート1Bとのクリアランスを所定値以上に維持できる値となるように設定されている。つまり、第1付勢部材3及び第2付勢部材4の総付勢力は、ピストン2が解放位置にある場合に、互いに釣り合ながらプレート群1を解放状態に維持できる大きさとなるように設定されている。
なお、第1付勢部材3及び第2付勢部材4は、ピストン2が解放位置と係合位置との間の何れの位置にある場合にも圧縮されている。言い換えると、第1付勢部材3及び第2付勢部材4の総付勢力は、常に0よりも大きい値となるように設定されている。
ピストン2が解放位置から係合位置へ移動すると、第1付勢部材3及び第2付勢部材4がピストン2から受ける圧縮力が増大し、第1付勢部材3及び第2付勢部材4は次第に収縮しながら付勢力を増大させる。
第1付勢部材3が収縮するとプレート群1の各プレート間の隙間が狭まり、この第1付勢部材3の収縮が進行すると、プレート群1が係合状態となる。すなわち、ピストン2が係合位置まで移動しなくても(ピストン2の押圧部2bの先端2dがプレート群1に当接しなくても)、ピストン2が係合位置に接近した段階でプレート群1が係合状態となる。
本摩擦係合装置10では、このように、ピストン2が係合位置に到達する前(すなわち、ピストン2の押圧部2bの先端2dがプレート群1に当接する前)に、プレート群1が係合状態となるように、第1付勢部材3及び第2付勢部材4の機械的な特性と、第1付勢部材3及び第2付勢部材4の伸縮に応じて離接する部材間の距離L1,L2とがそれぞれ設定されている。
このようにプレート群1が係合状態となってから、ピストン2が更に係合位置に向かって移動すると、ピストン2による圧縮力が更に増加するが、この圧縮力の増加分は、第2付勢部材4を更に収縮させその付勢力を増大させる一方で、プレート群1が係合状態となっているため、第1付勢部材3を更に収縮させることはなく、第1付勢部材3の付勢力は増大しない。
したがって、ピストン2が係合位置にあると、第2付勢部材4の総付勢力は第1付勢部材3の総付勢力よりも大きくなる。言い換えると、第2付勢部材4の総付勢力は、プレート群1が係合状態のときに、第1付勢部材3の総付勢力よりも大きくなるように設定されている。
なお、第1付勢部材3の付勢力は、第1付勢部材3の機械的な特性と、対向するドリブンプレート1B間の距離L1とに応じたものとなる。同様に、第2付勢部材4の付勢力は、第2付勢部材4の機械的な特性と、ピストン2の座部2aからプレート群1までの距離L2とに応じたものとなる。
[1−2.作用]
上記のように構成された摩擦係合装置10の作用について説明する。
まず、ピストン2が解放位置から係合位置に移動する場合について説明する。
図3(a)に示すように、油圧室15内の油圧が低下させられてピストン2が解放位置にある場合、ピストン2が第2付勢部材4によってプレート群1から離隔した状態に保持されるとともに、プレート群1が第1付勢部材3によって解放状態に保持される。
この場合、第1付勢部材3がプレート群1を解放状態とする方向に付勢する力と、第2付勢部材4がプレート群1を係合状態とする方向に付勢する力とは釣り合う。つまり、第1付勢部材3の総付勢力と第2付勢部材4の総付勢力とはバランスし、互いに等しい大きさとなる。
一方、油圧室15内の油圧を上昇させることによりピストン2が解放位置から係合位置へ向かって移動していくと、ピストン2の座部2aからプレート群1までの距離L2が縮まっていく。これに伴い、第2付勢部材4が圧縮される。
つまり、ピストン2が解放位置から係合位置へ移動する過程で、第2付勢部材4がプレート群1に与える付勢力は強まっていく。これにより、第1付勢部材3が圧縮されることから、対向するドリブンプレート1B間の距離L1が次第に縮まる。
そして、図3(b)に示すように、プレート群1は、ピストン2が係合位置に到達する前に係合状態となる。このようにピストン2が係合位置に到達する前にプレート群1が係合状態となっている場合、第2付勢部材4がプレート群1を係合状態とする方向に付勢する力は、第1付勢部材3がプレート群1を解放状態とする方向に付勢する力以上の大きさとなる。
第2付勢部材4の付勢力のうち、第1付勢部材3の付勢力を上回った分は、プレート群1を係合させるように作用する。なお、この場合、第2付勢部材4がプレート群1に与える付勢力は、リテーナプレート13からプレート群1に作用する反力と釣り合う。
その後、油圧室15の油圧が更に上昇すると、図3(c)に示すようにピストン2が係合位置に到達する。ピストン2が油圧室15から与えられる推力により係合位置に保持される場合、第2付勢部材4の総付勢力が第1付勢部材3の総付勢力よりも大きくなる。
また、この場合、ピストン2が押圧部2bの先端2dをプレート群1に接触させた状態となり、ピストン2がリテーナプレート13に対してプレート群1を直接的に押圧する。これにより、プレート群1が係合状態に保持される。
次に、ピストン2が係合位置から解放位置に移動する場合について説明する。この場合、プレート群1は、上述したようにピストン2が解放位置から係合位置に移動する場合と逆の動きをして、係合状態から解放状態へと切り換わる。
油圧室15内の油圧を低下させることによりピストン2が係合位置から解放位置へ向かって移動し始めると、ピストン2の押圧部2bの先端2dがプレート群1から離隔する。これにより、ピストン2はプレート群1を直接的には押圧しなくなる。
ただし、上述したようにピストン2が係合位置にあると第2付勢部材4の総付勢力が第1付勢部材3の総付勢力よりも大きくなることから、プレート群1は、ピストン2が解放位置へ向かって移動を始める直前から図3(b)に示すように移動し始めた直後にかけて、一時的に係合状態に保持されてすぐには解放されない。
このように、第2付勢部材4は、ピストン2が係合位置から解放位置へ移動し始める直前からその直後にかけて、プレート群1に対して従来のディッシュプレートと同様に作用する。
その後、油圧室15からピストン2に与えられる油圧が更に低下するに連れて、ピストン2は解放位置へ更に移動していく。これに伴い、ピストン2の座部2aとプレート群1との間の距離L2が広がるため、第2付勢部材4がピストン2から受ける圧縮力が小さくなる。つまり、ピストン2が係合位置から解放位置へ移動する過程で、第2付勢部材4がプレート群1を係合状態とする方向に付勢する力は弱まっていく。
そして、ピストン2が解放位置へ移動する過程で、第2付勢部材4がプレート群1を係合状態とする方向に付勢する力が、第1付勢部材3がプレート群1を解放状態とする方向に付勢する力と釣り合うまで弱まると、第2付勢部材4によりプレート群1を係合させる付勢力は0となる。
ピストン2が更に解放位置へ向かって移動すると、第1付勢部材3がピストン2から受ける圧縮力が減少し始める(第1付勢部材3が伸張し始める)。これにより、対向するドリブンプレート1B間の距離L1が広がり始めるため、プレート群1が係合状態から解放状態へと変化していく。
このように、ピストン2が係合位置から解放位置へ移動する場合、プレート群1はピストン2の移動に伴って係合状態から解放状態へと即座に切り換わるのではなく、上記のように設定された第1付勢部材3及び第2付勢部材4の機械的な特性と伸縮ストロークとに応じて徐々に切り換わっていく。これにより、プレート群1が係合状態から解放状態に切り換わる場合の変速ショックが低減される。
また、ピストン2が解放位置へ移動する過程で、プレート群1に対して第2付勢部材4が及ぼす付勢力と第1付勢部材3が及ぼす付勢力とが釣り合った後は、図3(a)に示すように、第1付勢部材3がピストン2から受ける圧縮力の減少に伴って対向するドリブンプレート1B間の距離L1が広がっていく。
このように、第1付勢部材3は、プレート群1に対して従来のセパレーティングスプリングと同様に作用する。
一方、第2付勢部材4は、ピストン2が係合位置から解放位置に到達するまでのあいだ、ピストン2とプレート群1とを離隔させる方向に常に付勢する。すなわち、第2付勢部材4は、ピストン2とプレート群1とを互いに離隔させる方向の付勢力をピストン2とプレート群1とに与え続ける。
このように、第2付勢部材4は、ピストン2が係合位置から解放位置に移動する場合に、ピストン2に対して従来のリターンスプリングと同様に作用する。
[1−3.効果]
(1)上述した摩擦係合装置10によれば、プレート群1が係合状態のときに、第2付勢部材4の総付勢力が第1付勢部材3の総付勢力よりも大きくなるように設定されている。つまり、摩擦係合装置10では、ピストン2が解放位置から係合位置へ移動する過程で係合位置に達する前にプレート群1が係合状態となるように、第1付勢部材3及び第2付勢部材4の機械的な特性と伸縮ストロークとがそれぞれ設定されている。このため、上述したように第2付勢部材4をディッシュプレートとして機能させることができる。
また、上述した摩擦係合装置10によれば、第1付勢部材3が対向するドリブンプレート1B同士を互いに離隔させる方向に常時付勢するとともに、プレート群1が解放状態のときに、第2付勢部材4の総付勢力が第1付勢部材3によりドライブプレート1Aとドリブンプレート1Bとのクリアランスを所定値以上に維持できる値となるように設定されているため、上述したように第1付勢部材3をセパレーティングスプリングとして機能させることができる。
さらに、プレート群1が解放状態のときにも、第2付勢部材4の総付勢力が0よりも大きい値となるように設定されていることから、第2付勢部材4がピストン2とプレート群1とを互いに離隔させる方向に常時付勢するため、上述したように第2付勢部材4をリターンスプリングとして機能させることができる。
以上のように、摩擦係合装置10によれば、第1付勢部材3と第2付勢部材4とをセパレーティングスプリングとリターンスプリングとディッシュプレートとの三種類のスプリングとして機能させることができる。よって、摩擦係合装置10によれば、これらの三種類のスプリングの各機能を兼ね備えつつ、スプリングの種類数を抑えることができる。このため、コストを抑えながら装置の性能を向上させることができる。
なお、スプリングの種類数を抑える他の手法として、ディッシュプレートとセパレーティングスプリングとの二種類のスプリングを設けるとともに、リターンスプリングを省略する分だけセパレーティングスプリングを高荷重化することが考えられるが、以下の課題が生じる。
つまり、このようにセパレーティングスプリングを高荷重化してリターンスプリングを省略すると、ピストンが係合位置から解放位置に移動し始めた直後にセパレーティングスプリングの付勢力によりプレート群が解放状態へと急激に変化するため、変速ショックを低減することができない虞がある。
これに対し、上述した摩擦係合装置10によれば、第1付勢部材3及び第2付勢部材4の総付勢力が上記のように設定されている(つまり、第1付勢部材3及び第2付勢部材4の機械的な特性と伸縮ストロークとが上記のようにそれぞれ設定されている)ため、ピストン2が係合位置から解放位置に移動し始めた直後もプレート群1を一時的に係合状態に保持することができる。よって、スプリングの種類数を抑えながら、プレート群1が係合状態から解放状態へと切り換わる場合の変速ショックを低減することができる。
(2)第2付勢部材4がピストン2の押圧部2bと並列に配置されており、ピストン2が係合位置にある場合にピストン2の押圧部2bの先端2dがプレート群1に接触するため、ピストン2の推力をプレート群1に伝達しやすくすることができる。
仮に、第2付勢部材4がピストン2の押圧部2bと直列に(すなわち、軸方向Dに並んで)配置されている場合、ピストン2が第2付勢部材4を介してプレート群1を押圧することになるため、第2付勢部材4の耐久性に影響を及ぼす虞がある。
これに対し、上述したように第2付勢部材4がピストン2の押圧部2bと並列に配置されていれば、ピストン2が押圧部2bの先端2dをプレート群1に接触させた状態でプレート群1を押圧することができるため、第2付勢部材4の耐久性に及ぼす影響を低減することができる。
(3)第2付勢部材4がピストン2の周方向において隣合う押圧部2bの間に配置されているため、ピストン2の径方向において第2付勢部材4及びピストン2の押圧部2bを省スペース化することができる。
(4)ピストン2の押圧部2bがピストン2の周方向に沿って等間隔に配置されているため、ピストン2の押圧部2bからプレート群1に付与される力を周方向において均等化することができる。
(5)第2付勢部材4は、ピストン2とプレート群1とを互いに離隔させる方向に常時付勢するものであることから、第2付勢部材4には、ピストン2の位置やプレート群1の係合状態と解放状態との切り換えに対応できるようなストロークが求められる。
この点、第2付勢部材4がコイルバネであれば、第2付勢部材4が例えば皿バネである場合と比べて、コストを低減しながらストロークを確保しやすくすることができる。
(6)ドリブンプレート1Bが非回転要素である場合、ドリブンプレート1Bが回転要素である場合と比べて潤滑油の動きが少なくなることから、ドラグトルク(引きずりトルク)が生じやすいという課題がある。
これに対し、摩擦係合装置10によれば、上述したように第1付勢部材3によってドリブンプレート1B間の隙間が確保されることから、ドラグトルクを低減することができる。よって、ドリブンプレート1Bが非回転要素である場合にも、ドライブプレート1Aを効率よく回転させることができる。
[2.第2実施形態]
[2−1.構成]
次に、図4及び図5を参照して、第2実施形態に係る摩擦係合装置10′について説明する。以下の説明では、第1実施形態で説明した要素と同一又は対応する要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図4(a),(b)に示すように、本実施形態に係る摩擦係合装置10′は、上述した第1実施形態に係る摩擦係合装置10に対して、ピストン2′の押圧部2b′と第2付勢部材4′とが異なり、他の構成が共通である。
本実施形態のピストン2′の押圧部2b′は、座部2aの外周縁の全周から軸方向Dに沿って突設されている。すなわち、図5に示すように、本実施形態のピストン2′は、押圧部2b′の先端2d′が連続した環状である。なお、本実施形態でも、押圧部2b′の先端2d′は、ピストン2が係合位置にある場合にプレート群1に接触する。
第2付勢部材4′は、ピストン2′の押圧部2b′の内周側に配置されている。つまり、本実施形態でも、各第2付勢部材4′はピストン2′の押圧部2b′と並列に配置されている。
本実施形態では、第2付勢部材4′が何れもコイルバネで構成されている。第2付勢部材4′は、ピストン2′の周方向に沿って等間隔に配置されている。
第1付勢部材3及び第2付勢部材4′の総付勢力と機械的な特性及び伸縮ストロークとは、上述した第1実施形態のものと同様に設定される。
[2−2.作用,効果]
本実施形態に係る摩擦係合装置10′によれば、ピストン2′の押圧部2b′の先端2d′が連続した環状であるため、ピストン2′の押圧部2b′の剛性を高めることができるとともに、ピストン2′からプレート群1に作用する力を周方向において均等化することができる。よって、ピストン2′の推力をプレート群1に対してより適切に作用させることができる。
また、第2付勢部材4′がピストン2′の周方向に沿って等間隔に配置されているため、第2付勢部材4′からプレート群1に作用する力を周方向において均等化することができる。よって、第2付勢部材4′の付勢力をプレート群1に対してより適切に作用させることができる。
また、本実施形態に係る摩擦係合装置10′によれば、上述した第1実施形態に係る摩擦係合装置10と同様の構成からは、同様の作用,効果を得ることができる。
[3.変形例]
本発明は、上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上述した各実施形態では、第2付勢部材4,4′とピストン2,2′の押圧部2b,2b′とが並列に配置される場合について説明したが、第2付勢部材4,4′とピストン2,2′の押圧部2b,2b′とが直列に配置されてもよい。言い換えると、ピストン2,2′が、第2付勢部材4,4′を介してプレート群1を押圧してもよい。
また、第2実施形態では、第2付勢部材4′がピストン2′の押圧部2b′の内周側に配設される場合を例示したが、例えばピストン2′の押圧部を座部2aの内周縁から軸方向Dに突設し、この押圧部の外周側に第2付勢部材4′配設してもよい。この場合であっても、本摩擦係合装置によれば、上述した第2実施形態のものと同様の作用,効果を得ることができる。
なお、ピストン2,2′の構成は上述したものに限定されない。例えば、ピストンは、上述した押圧部2b,2b′に代えて、柱状の押圧部を有していてもよい。この場合、柱状の押圧部の外周に第2付勢部材4,4′としてのコイルバネを配置すれば、省スペース化を図ることができる。
上述した各実施形態では、第1付勢部材3が対向するドリブンプレート1B間に配置される場合について説明したが、第1付勢部材3が対向するドライブプレート1A間に配置されてもよい。つまり、第1付勢部材3が対向するドライブプレート1A同士を互いに離隔させる方向に常時付勢するものであってもよい。この場合も、第1付勢部材3をプレート群1に対してセパレーティングスプリングと同様に機能させることができる。
また、ドリブンプレート1Bがドライブプレート1Aと独立して回転可能な回転要素であってもよい。つまり、摩擦係合装置10,10′がドライブプレート1Aの回転とドリブンプレート1Bの回転とを同期させる(二つの回転要素を連結する)クラッチであってもよい。