JP6859836B2 - 鋼材及び油井用継目無鋼管 - Google Patents
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Description
金属組織が焼戻しマルテンサイト主体であれば、高強度が得られる。本実施形態において、焼戻しマルテンサイト主体とは、金属組織が、面積率で90.0%以上の焼戻しマルテンサイトを含有することをいう。
焼戻しマルテンサイトは、複数の旧オーステナイト粒を含有する。焼戻しマルテンサイト組織中の旧オーステナイト粒の粒径(以下、単に旧オーステナイト粒径という)を微細化すれば、従来にない高い強度と優れた耐サワー特性とを両立できることを、本発明者らは見出した。そこで、本発明において、金属組織の旧オーステナイト粒径を5.0μm以下とする。これにより、本実施形態による鋼材の耐サワー特性が高まる。
従来の製造方法による鋼材では、焼戻しマルテンサイトは、複数の旧オーステナイト粒を含み、各旧オーステナイト粒は複数のパケットからなる。各パケットは板状の複数のブロックからなり、各ブロックは複数のラスからなる。この場合、鋼材にSSCが発生したときに、亀裂が伸展するため、耐サワー特性が低い場合がある。
旧オーステナイトが微細なマルテンサイト組織には、旧オーステナイト粒界やパケット境界、ブロック境界が多く含まれる。これらの粒界・境界に生成するセメンタイトの形態は球状になり易い。そのため、焼戻し熱処理工程において、球状のセメンタイトの生成が促進される。球状のセメンタイトは、鋼材に割れが生じたときに伝播経路になりにくい。したがって、球状のセメンタイトの全セメンタイトの数に対する個数割合が多ければ、耐サワー特性が高まる。
鋼の組織を微細化すれば、引張試験で測定される降伏強度YSの引張強度TS(最大応力)に対する比YS/TS(以下、降伏比という)が高まる。降伏比が高まれば、製品に必要な降伏強度YSに比べて、引張強度TSを低く抑制することができる。引張強度TSが低ければ、SSCの感受性が低下する。その結果、耐SSC性が高まる。本実施形態による鋼材の金属組織は、従前になく微細化されている。そのため、本実施形態の鋼材において、降伏比を0.95以上とすることができる。
鋼の組織を微細化すればさらに、降伏点伸びが高まる。降伏点伸びが高まれば、亀裂が生じた場合に、降伏点伸びにより塑性変形できる。塑性変形できれば、亀裂先端での応力集中が緩和される。これにより、亀裂の伸展が抑制される。鋼の組織を微細化すればさらに、亀裂の伸展経路が複雑化する。これにより、亀裂の伸展が抑制される。本実施形態による鋼材の金属組織は、従前になく微細化されている。そのため、本実施形態の鋼材において、降伏点伸びを2.5%以上とすることができる。
YS/ρ>1.1×10-11 (1)
本発明による鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
炭素(C)は、焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。C含有量が0.45%超であれば、鋼材の焼戻し熱処理工程時に、炭素がセメンタイトとして、焼戻しマルテンサイト組織中に微細に析出する。この粒子分散強化により、700MPa以上の降伏強度が安定して得られる。C含有量が0.45%超であればさらに、焼戻しマルテンサイトに析出するセメンタイトの数密度が増加する。特に、微細なマルテンサイトの場合は、粒界及び境界が多く存在する。そのため、球状のセメンタイトの数密度が増加する。C含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、C含有量が高すぎれば、延性又は/及び靭性が低下する。したがって、C含有量は0.45超〜0.70%である。C含有量の好ましい下限は0.50%である。C含有量の好ましい上限は0.65%であり、さらに好ましくは0.63%である。
シリコン(Si)は、不可避に含有される。Siは、鋼を脱酸する。一方、Si含有量が高すぎれば、熱間加工性が低下し、圧延時に割れやすくなる。したがって、Si含有量は、1.0%以下である。上記の効果を得るための好ましいSi含有量の下限は、0.05%であり、さらに好ましくは0.1%である。Si含有量の好ましい上限は、0.8%であり、さらに好ましくは0.6%である。
マンガン(Mn)は、焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。Mn含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、熱間加工性が低下し、圧延時に割れやすくなる。したがって、Mn含有量は、0.1〜3.0%である。Mn含有量の好ましい下限は、0.2%であり、さらに好ましくは0.3%である。好ましいMn含有量の上限は、2.5%であり、さらに好ましくは2.0%である。
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。Cr含有量が低すぎれば、上記効果が得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、鋼材の靭性が低下し、圧延時に割れやすくなる。したがって、Cr含有量は0.1〜3.0%である。Cr含有量の好ましい下限は0.2%であり、さらに好ましくは0.3%である。Cr含有量の好ましい上限は2.5%であり、さらに好ましくは2.0%である。
アルミニウム(Al)は、鋼材のオーステナイト化熱処理の冷却工程においてセメンタイトの生成を抑制する。これにより、Alは鋼材の焼入れ性を高める。Alはさらに、鋼を脱酸する。Al含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Al含有量が高すぎれば、熱間加工性が低下し、圧延時に割れやすくなる。したがって、Al含有量は0.001〜1.0%である。Al含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.01%である。Al含有量の好ましい上限は0.8%であり、さらに好ましくは0.6%である。本明細書にいう「Al」含有量は「酸可溶Al」、つまり、「sol.Al」の含有量を意味する。
燐(P)は不純物である。Pは、粒界に偏析して鋼の耐SSC性を低下する。したがって、P含有量は、0.05%以下である。好ましいP含有量は0.02%以下である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。
硫黄(S)は不純物である。Sは、粒界に偏析して鋼の耐SSC性を低下する。したがって、S含有量は0.01%以下である。好ましいS含有量は0.005%以下であり、さらに好ましくは0.003%以下である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。
窒素(N)は不可避に含有される。Nは粗大な窒化物を形成して、鋼の耐SSC性を低下する。したがって、N含有量は、0.01%以下である。好ましいN含有量は0.005%以下であり、さらに好ましくは0.004%以下である。N含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、若干量のTiを含有させて、微細窒化物の析出による結晶粒の微細化を狙う場合は、Nを0.002%以上含有させることが好ましい。
上述の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ni及びCuからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼の組織を微細化して、鋼の強度及び耐サワー特性を高める。
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、NiはA1変態点を低下させて、オーステナイト生成温度域を低くする。これにより、Niは、オーステナイト組織の成長(粗大化)を抑制する。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、この効果が飽和する。したがって、Ni含有量は0〜3.0%である。Ni含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.2%である。Ni含有量の好ましい上限は2.0%であり、さらに好ましくは1.5%である。
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、CuはA1変態点を低下させて、オーステナイト生成温度域を低くする。これにより、Cuは、オーステナイト組織の成長(粗大化)を抑制する。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、熱間加工性が低下し、圧延時に割れやすくなる。したがって、Cu含有量は0〜3.0%である。Cu含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.3%である。Cu含有量の好ましい上限は2.5%であり、さらに好ましくは2.0%である。
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Tiは、粒子ピン止め効果、又は、溶質ドラッグ効果(Solute Drag Effect)により、オーステナイト組織の成長(粗大化)を抑制する。しかしながら、Ti含有量が高すぎれば、鋼が脆化する。したがって、Ti含有量は0〜0.3%である。Ti含有量の好ましい下限は0.01%である。Ti含有量の好ましい上限は0.2%であり、さらに好ましくは0.15%である。
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Nbは粒子ピン止め効果、又は、溶質ドラッグ効果により、オーステナイト組織の成長(粗大化)を抑制する。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、鋼が脆化する。したがって、Nb含有量は0〜0.3%である。Nb含有量の好ましい下限は0.01%である。Nb含有量の好ましい上限は0.2%であり、さらに好ましくは0.15%である。
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Vは、粒子ピン止め効果、又は、溶質ドラッグ効果により、オーステナイト組織の成長(粗大化)を抑制する。しかしながら、V含有量が高すぎれば、鋼が脆化する。したがって、V含有量は0〜0.5%である。V含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%である。V含有量の好ましい上限は0.3%であり、さらに好ましくは0.25%である。
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Moは、粒子ピン止め効果、又は、溶質ドラッグ効果により、オーステナイト組織の成長(粗大化)を抑制する。しかしながら、Mo含有量が高すぎれば、この効果が飽和する。したがって、Mo含有量は0〜2.0%である。Mo含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.1%である。Mo含有量の好ましい上限は1.5%であり、さらに好ましくは1.0%である。
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Wは、粒子ピン止め効果、又は、溶質ドラッグ効果により、オーステナイト組織の成長(粗大化)を抑制する。しかしながら、W含有量が高すぎれば、この効果が飽和する。したがって、W含有量は0〜1.0%である。W含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.1%である。W含有量の好ましい上限は0.8%であり、さらに好ましくは0.6%である。
コバルト(Co)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Coは、オーステナイト組織の成長(粗大化)を抑制する。Coはさらに、鋼材への水素の侵入を抑制する。これにより、鋼の脆化を抑制し、鋼の耐SSC性が高まる。しかしながら、Co含有量が高すぎれば、鋼材の合金コストが高くなる。したがって、Co含有量は0〜2.0%である。Co含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.1%である。Co含有量の好ましい上限は1.5%であり、さらに好ましくは1.0%である。
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Bは鋼に固溶して鋼の焼入れ性を高め、強度を高める。しかしながら、B含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。したがって、B含有量は0〜0.01%である。B含有量の好ましい下限は0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。B含有量の好ましい上限は0.005%であり、さらに好ましくは0.004%である。
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Caは、鋼中のP及びSと結合する。これにより、鋼中のP及びSを無害化し、鋼の熱間加工性を高める。しかしながら、Ca含有量が高すぎれば、鋼が脆化して、加工性がかえって低下する。したがって、Ca含有量は0〜0.01%である。Ca含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%である。Ca含有量の好ましい上限は0.008であり、さらに好ましくは0.006%である。
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Mgは、鋼中のP及びSと結合する。これにより、鋼中のP及びSを無害化し、鋼の熱間加工性を高める。しかしながら、Mg含有量が高すぎれば、鋼が脆化して、加工性がかえって低下する。したがって、Mg含有量は0〜0.01%である。Mg含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%である。Mg含有量の好ましい上限は0.008%であり、さらに好ましくは0.006%である。
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、REMは、鋼中のP及びSと結合する。これにより、鋼中のP及びSを無害化し、鋼の熱間加工性を高める。しかしながら、REM含有量が高すぎれば、鋼が脆化して、加工性がかえって低下する。したがって、REM含有量は0〜0.01%である。REM含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%である。REM含有量の好ましい上限は0.008%であり、さらに好ましくは0.006%である。
Mo+Co+Cu+Ni+Ti+Nb+V+W<1.5 (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
F2=Mo+Co+Cu+Ni+Ti+Nb+V+Wと定義する。F2が1.5未満であれば、合金成分のコストを低減しつつ、高強度と優れた耐サワー特性を得ることができる。
[焼戻しマルテンサイト:90.0面積%以上]
本発明の鋼材の金属組織は、主として焼戻しマルテンサイトからなる。より具体的には、金属組織は面積率で90.0%以上の焼戻しマルテンサイトからなる。これにより、鋼材の強度が高まる。
金属組織中の焼戻しマルテンサイトの面積率(%)は、次の方法で測定される。
本実施形態の鋼材において、金属組織の焼戻しマルテンサイト組織中の旧オーステナイト粒径は5.0μm以下である。これにより、本実施形態の鋼材は、降伏強度YSが700MPa以上の高強度を得ることができる。
旧オーステナイト粒径は、次の方法で求められる。オーステナイト化熱処理ままの鋼材から試験片を採取する。鋼管の場合、横断面は軸に対して垂直な面とし、肉厚中央部から試験片を採取する。試験片を鏡面研磨した後、ピクリン酸飽和水溶液を用いて旧オーステナイト粒界を現出させる。試験片において、任意の10視野で旧オーステナイト粒径(旧オーステナイト粒の平均結晶粒径)を測定する。測定は、1000倍の光学顕微鏡により観察し、JIS G0551(2005)に示される切片法により行う。各視野における旧オーステナイト粒度番号を算出する。算出した10個の旧オーステナイト粒度番号の平均(平均旧オーステナイト粒度番号)を求める。平均旧オーステナイト粒度番号に基づいて各結晶粒の平均面積を算出する。平均面積から円相当径を算出し、得られた円相当径を旧オーステナイト粒径とする。
本実施形態の鋼材において、焼戻しマルテンサイト組織は、アスペクト比が3.0未満の結晶粒(特定結晶粒)を、50面積%以上含有する。これにより、鋼材の耐サワー特性がより高まる。アスペクト比が3.0未満の結晶粒とは、結晶粒が球状であることを意味する。特定結晶粒は60面積%以上含有されるのが好ましい。
アスペクト比は、次の方法で求められる。焼戻しマルテンサイトの面積率を測定したSEM画像から、結晶方位差が15°以上の境界(大角粒界)で囲まれる結晶粒を特定する。特定した結晶粒のアスペクト比を求める。具体的には、上記のSEM画像の視野において、電子後方散乱回折(EBSD、Electron Backscattering Diffraction)法により結晶方位マップを測定する。得られたデータを用いてプログラム処理を実施する。プログラム処理により、結晶粒の平均座標(重心)、重心を通る直線、結晶粒を横切る切片の長さを求める。プログラム処理において、結晶粒の平均X座標、結晶粒の平均Y座標、重心を通る任意の傾きaの直線は、次の式により求められる。
上述のとおり、焼戻しマルテンサイト組織が、面積率で50%以上の特定結晶粒を含有すれば、鋼材の耐サワー特性がより高まる。特定結晶粒の転位密度は低い。そのため、鋼材の転位密度が低下する。
YS/ρ>1.1×10-11 (1)
転位密度の単位はm-2であり、YSの単位はMPaである。YS/ρの値が大きいほど、低い転位密度で高い強度を得ていることを意味する。YS/ρのさらに好ましい下限は1.2×10-11であり、より好ましくは1.3×10-11である。
転位密度ρは、修正Williamson−Hall法により測定できる。具体的には、鋼材に対してX線回折を実施する。X線回折により得られた回折プロファイル上のBCC−鉄の複数の回折ピークを特定する。これらの回折ピークの半値幅から、転位密度ρを解析する。修正Williamson−Hall法の詳細は、T.Ungar、外3名、Journal of Applied Crystallography、Wiley、1999年、第32巻、第992頁〜第1002頁(非特許文献1)に記載されている。
本実施形態の鋼材では、上記の金属組織において、アスペクト比が1.0〜1.5未満のセメンタイトの数密度が8.0×105個/mm2以上であることが好ましい。アスペクト比が1.0〜1.5未満のセメンタイトとは、球状セメンタイトを意味する。そのため、さらに優れた耐サワー特性を有する。球状セメンタイトの数密度のさらに好ましい下限は9.0×105個/mm2である。
セメンタイトのアスペクト比、及び、球状セメンタイトの数密度は、焼戻しマルテンサイトの面積率を測定したSEM画像から、次の方法で求められる。SEM画像上では、特定結晶粒は黒いコントラストで現れ、セメンタイトは白いコントラストで現れる。したがって、セメンタイトのアスペクト比及び球状セメンタイト数密度は、上記のSEM画像に白黒の二値化処理を施し、画像解析を行うことで求められる。二値化処理は、SEM画像のセメンタイトのコントラスト差に基づいて行う。画像解析において、単位面積当たりのセメンタイトの数は、長径0.10μm以上の粒子を対象に行う。アスペクト比は、セメンタイト粒子を楕円とみなして、特定結晶粒のアスペクト比の測定方法と同様に、プログラム処理により、結晶粒を横切る切片の長さを求める。求めた切片の長さのうち、最大長さと最小長さとの比(=最大長さ/最小長さ)を、セメンタイトのアスペクト比とする。
上記のSEM画像内で球状セメンタイトの数を求め、1mm2あたりの個数に換算して数密度を算出する。具体的には、焼戻しマルテンサイトの面積率を求める際に観察した3視野それぞれにおいて、球状セメンタイトの数を求める。各視野から得られた球状セメンタイトの数密度の平均を、球状セメンタイトの数密度と定義する。
本実施形態の鋼材において、降伏比は0.95以上である。この場合、製品に必要な降伏強度YSに比べて、引張強度TSを低く抑制することができる。引張強度TSが低ければ、SSCの感受性が低下する。その結果、耐SSC性が高まる。本実施形態による鋼材の金属組織は、従前になく微細化されている。そのため、本実施形態の鋼材において、降伏比を0.95以上とすることができる。
本実施形態の鋼材において、降伏点伸びは2.5%以上である。この場合、鋼材中に亀裂が生じた場合に、降伏点伸びにより塑性変形できる。塑性変形できれば、亀裂先端での応力集中が緩和される。これにより、亀裂の伸展が抑制される。その結果、優れた耐サワー特性が得られる。鋼材の金属組織が微細であれば、降伏点伸びが高まる。上述の金属組織を有することにより、本実施形態の鋼材は、2.5%以上の降伏点伸びを得ることができる。降伏点伸びの好ましい下限は3.0%であり、さらに好ましくは3.5%である。
鋼材の形状は特に限定されない。鋼材はたとえば鋼管、鋼板である。鋼材が油井用継目無鋼管の場合、好ましい肉厚は9〜60mmである。本発明は特に、厚肉の油井用継目無鋼管としての使用に適する。より具体的には、本発明による鋼材が15mm以上、さらに、20mm以上の厚肉の油井用継目無鋼管であっても、優れた強度及び耐サワー特性を示す。
本実施形態の鋼材の降伏強度YSは700MPa以上である。本明細書でいう降伏強度YSは、下降伏点(MPa)を意味する。
式(3)は、降伏強度YS(MPa)と破壊靭性値KISSC値(MPa√m)との関係を示す。YS×KISSCが20000(MPa2√m)を超えれば、本実施形態において必要な降伏強度YSを有しつつ、優れた耐サワー特性を有する。
上述の鋼材の製造方法の一例として、油井用継目無鋼管の製造方法を説明する。油井用継目無鋼管の製造方法は、素材を準備する工程(準備工程)と、素材を熱間加工して素管を製造する工程(熱間加工工程)と、素管に対してオーステナイト化熱処理及び焼戻し熱処理を実施して、油井用継目無鋼管とする工程(オーステナイト化熱処理工程及び焼戻し熱処理工程)とを備える。以下、各工程について詳述する。
上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて素材を製造する。具体的には、溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造してもよい。必要に応じて、スラブ、ブルーム又はインゴットを分塊圧延して、ビレットを製造してもよい。以上の工程により素材(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。
準備された素材を熱間加工して素管を製造する。始めに、ビレットを加熱炉で加熱する。加熱炉から抽出されたビレットに対して熱間加工を実施して、素管(継目無鋼管)を製造する。たとえば、熱間加工としてマンネスマン法を実施し、素管を製造する。この場合、穿孔機により丸ビレットを穿孔圧延する。穿孔圧延された丸ビレットをさらに、マンドレルミル、レデューサ、サイジングミル等により熱間圧延して素管にする。
熱間加工後の素管に対して、オーステナイト化熱処理を実施する。オーステナイト化熱処理条件により、旧オーステナイト粒径を5.0μm以下に調整する。オーステナイト化熱処理はたとえば、高周波誘導加熱炉、ガス焚き炉により行う。
HR>100C (4)
ここで、CはC含有量(質量%)であり、HRはオーステナイト化熱処理における加熱速度を示す。
上述のオーステナイト化熱処理を実施した後、焼戻し熱処理を実施する。焼戻し熱処理により、鋼材の降伏強度YSを700MPa以上に調整する。
I.熱間圧延後、20秒以上経過後に、30℃/秒の冷却速度で400℃以下へ冷却した。熱延鋼板の金属組織はマルテンサイト及び/又はベイナイト(表2中のM+B)であった。
II.熱間圧延後、10秒以内に、100℃/秒の冷却速度で400℃以下へ冷却した。熱延鋼板の金属組織はオースフォームドマルテンサイト及び/又はベイナイト(表2中のAF(M+B))であった。
III.熱間圧延後、20秒以上経過後に、1℃/秒の冷却速度で400℃以下へ冷却した。熱延鋼板の金属組織はフェライト及びパーライトの混合組織(表2中のF+P)であった。
[金属組織試験]
[焼戻しマルテンサイト面積率測定]
焼戻し熱処理後、各鋼材から、厚さは板厚のまま、幅20mm、長さ20mmの試験片を採取した。各試験片の板厚1/2部において、上述の方法により、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しマルテンサイト以外の組織を特定した。さらに、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しマルテンサイト以外の組織の面積率(%)を求めた。
オーステナイト化熱処理ままの鋼材の肉厚中央部から試験片を採取し、上述の方法で旧オーステナイト粒の平均粒径を測定した。
焼戻しマルテンサイトの面積率を測定したSEM画像から、上述の方法により、結晶粒のアスペクト比を求めた。
上述の方法により、転位密度を測定した。
セメンタイトのアスペクト比及び球状セメンタイト数密度を上述の方法により求めた。
上記のオーステナイト化熱処理及び焼戻し熱処理後の各鋼板の板厚中央から、JIS14A号(直径6.35mm、平行部長さ35mm)の丸棒引張試験片を2本ずつ作製した。引張試験片の軸方向は、鋼板の圧延方向と平行であった。各丸棒試験片を用いて、常温(25℃)、大気中にて引張試験を実施して、応力ひずみ曲線を測定した。これにより、降伏強度(YS)、降伏点伸び、及び、引張強度(TS)を得た。各値は、2本の引張試験結果の平均値とした。なお、本実施例では、引張試験により得られた下降伏点を、各試験番号の降伏強度(YS)と定義した。得られたYS/TSの値を、降伏比とした。
耐サワー特性試験として、耐SSC性試験及びDCB試験を行った。
各鋼材から、厚さ2mm、幅10mm及び長さ75mmの平滑4点曲げ試験片を採取した。採取された4点曲げ試験片を用いて、硫化水素を含む試験液中で4点曲げ試験を実施した。具体的には、試験液として、5質量%のNaClと0.5質量%の氷酢酸(CH3COOH)とを含む水溶液(NACE−TM0177で規定されるSolution A)を準備した。分圧1atmのH2Sガスを試験液に溶解させた。試験中の4点曲げ試験片への付加応力は、歪みゲージ法で実YSの90.0%とした。試験温度は、室温(25±1℃)、試験時間は336時間とした。
各鋼板を用いて、DCB試験を実施した。具体的には、各鋼板の厚さ中央部から、図3に示すDCB試験片を採取した。DCB試験片の長手方向が圧延方向と平行となるよう採取した。
KISSC=σ×(πa)1/2 (5)
YS×KISSC>20000 (3)
試験番号1〜試験番号22の熱延鋼板の化学組成は適切であった。オーステナイト化熱処理における加熱速度HRはF4を超えた。さらに、金属組織は面積率で90.0%以上が焼戻しマルテンサイトであった。さらに、焼戻しマルテンサイトの旧オーステナイト粒径が5.0μm以下であり、特定結晶粒の面積率が50%以上であった。さらに降伏比は0.95以上であり、降伏伸びは2.5%以上であった。その結果、試験番号1〜試験番号22の降伏強度YSは700MPa以上であり高い降伏強度YSを有した。さらに、YS/ρも1.1×10-11MPa・m2を超えたため、適正な転位密度を有した。さらに、球状セメンタイトの数密度が8.0×105個/mm2以上となった。さらにSSCが発生せず、YS×KISSCが20000を超え、優れた耐サワー特性を示した。
Claims (8)
- 質量%で、
C:0.45超〜0.70%、
Si:1.0%以下、
Mn:0.1〜3.0%、
Cr:0.1〜3.0%、
Al:0.001〜1.0%、
P:0.05%以下、
S:0.01%以下、
N:0.01%以下、
Ni:0〜3.0%、
Cu:0〜3.0%、
Ti:0〜0.3%、
Nb:0〜0.3%、
V:0〜0.5%、
Mo:0〜2.0%、
W:0〜1.0%、
Co:0〜2.0%、
B:0〜0.01%
Ca:0〜0.01%、
Mg:0〜0.01%、及び、
希土類元素:0〜0.01%を含有し、
残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
金属組織が面積率で90.0%以上の焼戻しマルテンサイトを含有し、
前記焼戻しマルテンサイトの旧オーステナイト粒径が5.0μm以下であり、
前記焼戻しマルテンサイトが、面積率で50%以上の、アスペクト比が3.0未満の結晶粒を含有し、
降伏強度YSの引張強度TSに対する比YS/TSが0.95以上であり、降伏点伸びが2.5%以上であり、
降伏強度YSが700MPa以上である、鋼材。 - 請求項1に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、
Ni:0.1〜3.0%、及び、
Cu:0.1〜3.0%からなる群から選択される1種以上を含有する、鋼材。 - 請求項1又は請求項2に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、
Ti:0.01〜0.3%、
Nb:0.01〜0.3%、
V:0.01〜0.5%、
Mo:0.05〜2.0%、
W:0.05〜1.0%、及び、
Co:0.05〜2.0%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、鋼材。 - 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、
B:0.0003〜0.01%を含有する、鋼材。 - 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、
Ca:0.0001〜0.01%、
Mg:0.0001〜0.01%、及び、
希土類元素:0.0001〜0.01%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、鋼材。 - 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の鋼材であって、
前記降伏強度YSと転位密度ρが式(1)の関係を満足する、鋼材。
YS/ρ>1.1×10−11 (1) - 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の鋼材であって、
前記金属組織において、アスペクト比が1.0〜1.5未満のセメンタイトの数密度が8.0×105個/mm2以上である、鋼材。 - 請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の鋼材からなる、油井用継目無鋼管。
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