A.実施形態:
図1は、本実施形態の印刷装置10の構成を概略的に示す説明図である。図1では、印刷装置10が水平面(鉛直方向に対して直交する面)に載置された状態を示しており、水平面を構成する2つの方向をX方向,Y方向と定義し、鉛直方向をZ方向と定義している。X軸,Y軸,Z軸は、互いに直交している。印刷装置10において搬送される媒体M(例えば、紙)の幅方向がX軸方向と一致する。すなわち、媒体Mの搬送経路は、X軸方向(媒体Mの幅方向)と直交する方向(Y軸方向)に媒体Mを搬送するように形成される。なお、以降の説明では、媒体Mが搬送される方向を「搬送方向TD」とする。本実施形態における印刷装置10を、「記録装置」とも呼ぶ。
印刷装置10は、媒体Mに対してインクを吐出することにより印刷を行う、いわゆるインクジェット方式の印刷装置である。印刷装置10は、筐体11と、搬送装置20と、印刷ユニット30と、を有する。筐体11は、内部に搬送装置20と、印刷ユニット30と、を収容する。
搬送装置20は、印刷前の媒体Mを搬送経路に沿って給送する給送機構部50と、印刷済みの媒体Mを、排出口48から筐体11外に排出する排出機構部40と、を備える。図1において、媒体Mの搬送方向TDを、実線矢印で示す。排出機構部40は搬送方向下流側に設けられ、給送機構部50は搬送方向上流側に設けられている。
給送機構部50は、第1の媒体供給部51と、第2の媒体供給部52と、第3の媒体供給部53と、ベルト搬送装置70と、を備えている。第1の媒体供給部51、第2の媒体供給部52、及び第3の媒体供給部53は、ベルト搬送装置70に向けて媒体Mを搬送し、ベルト搬送装置70は、排出機構部40に向けて媒体Mを搬送する。ベルト搬送装置70によって媒体Mが搬送されている間に、媒体Mに対する印刷が完了する。
第1の媒体供給部51は、筐体11が備える挿入口13から挿入された媒体Mを挟持する第1の給送ローラー54を備える。第1の給送ローラー54の回転によって、媒体Mがベルト搬送装置70に向けて搬送される。なお、挿入口13は、筐体11の一側面(図1では右側面)に設けられている。挿入口13は、開閉可能なカバー12によって覆われており、カバー12が開放されることにより挿入口13が露出される(図1)。
第2の媒体供給部52は、筐体11の底部(図1の下方)に設けられた給送カセット55から媒体Mを操出し、ベルト搬送装置70に向けて給送する。第2の媒体供給部52は、媒体Mが積層状態でセットされる給送カセット55と、給送カセット55内の最上位の媒体Mを給送カセット55外に送り出すピックアップローラー56と、複数枚の媒体Mが重なって搬送されることを抑制する分離ローラー57と、分離ローラー57を通過した1枚の媒体Mを挟持する第2の給送ローラー58と、を備える。ピックアップローラー56、分離ローラー57及び第2の給送ローラー58の回転によって、給送カセット55にセットされた媒体Mをベルト搬送装置70に向けて搬送する。
第3の媒体供給部53は、媒体Mの両側の面に印刷する両面印刷を行うときに、片側の面が印刷済みとなった媒体Mを、再びベルト搬送装置70に導く。第3の媒体供給部53は、ベルト搬送装置70よりも搬送方向TDの下流において、排出口48に至る第1の搬送路61又は第1の搬送路61から分岐する第2の搬送路62に、媒体Mの搬送経路を切り替える分岐機構64を備えている。また、第3の媒体供給部53において、第2の搬送路62には分岐搬送ローラー65が設けられ、第2の搬送路62から分岐する第3の搬送路63には複数の反転搬送ローラー66が設けられている。
両面印刷を行う場合、片側の面が印刷済みとなった媒体Mは、ベルト搬送装置70から分岐機構64によって第2の搬送路62に導かれる。このとき、分岐搬送ローラー65の正方向への回転によって、媒体Mが搬送方向TDの下流に搬送される。そして、媒体Mの後端が第2の搬送路62に導かれると、分岐搬送ローラー65が逆方向に回転され、媒体Mが逆方向に搬送される。すると、媒体Mは、図1において印刷ユニット30よりも上方に位置する第3の搬送路63に導かれ、複数の反転搬送ローラー66の回転によって、第3の搬送路63に沿って搬送される。これにより、媒体Mが、ベルト搬送装置70よりも搬送方向上流で第1の搬送路61に合流され、媒体Mがベルト搬送装置70に再び導かれる。図1において、本段落で説明した両面印刷の際の媒体Mの流れを、破線矢印で示す。
ベルト搬送装置70に媒体Mが再び導かれると、印刷済みとなった面がベルト搬送装置70に接触し、印刷されていない面が印刷ヘッド31に対向することとなる。なお、以降の説明では、媒体Mの両面のうち、ベルト搬送装置70に接触する面のことを「裏面Ma」とも言い、裏面Maの反対側の面を「印刷面Mb」とも言う。本実施形態の印刷装置10では、第3の媒体供給部53により、媒体Mの両面のうち第1の面を印刷面Mbとした印刷が終了した後に、第2の面が印刷面Mbとなるように、媒体Mの表裏を反転させて媒体Mをベルト搬送装置70に導く「反転機構」が構成される。ベルト搬送装置70の構成については、後に詳述する。
排出機構部40は、印刷済みの媒体Mを搬送し、筐体11に形成されている排出口48から筐体11外に、印刷済みの媒体Mを排出する。排出口48から排出された媒体Mは、筐体11が備える載置台49上に積層状態で載置される(図1において二点鎖線で示す)。排出機構部40は、排出ローラー41,42,43,44,45を有する。排出ローラー41〜45は、回転駆動することで媒体Mに搬送力を付与する駆動ローラー46と、媒体Mの搬送に伴って従動回転する従動ローラー47と、をそれぞれ備えている。従動ローラー47は駆動ローラー46に向けて付勢されている。また、駆動ローラー46のX軸と交差する断面形状は円形とされる一方、従動ローラー47のX軸と交差する断面形状は略星形とされている。すなわち、従動ローラー47は、媒体Mの印刷が行われた面に接するローラーであるため、当該面に対する接触面積ができるだけ小さくなるような形状が採用されている。
印刷ユニット30は、媒体Mの幅方向の略全域に亘ってインクを同時に吐出可能なラインヘッド型の印刷ヘッド31を備えている。そして、この印刷ヘッド31に形成されたノズル(不図示)から吐出されたインクが媒体Mに付着することにより、媒体Mの印刷面に対する印刷が行われる。
図2は、ベルト搬送装置70と、その周辺部材の構成を概略的に示す説明図である。ベルト搬送装置70は、ベルト73と、第1ベルトローラー71と、第2ベルトローラー72と、帯電部74と、を有する。
ベルト73は、弾性を有する樹脂材料から成り、環状(無端状)に形成されている。ベルト73は、後述するように静電吸着により媒体Mを搬送する。本実施形態では、ベルト73が1回転すると、1枚の紙が搬送される。ベルト73の構成については、後に詳述する。
第1ベルトローラー71は、駆動源71Mに接続され回転駆動可能であり、第2ベルトローラー72は、駆動源に接続されず、第1ベルトローラー71の回転に伴って回転する。第1ベルトローラー71及び第2ベルトローラー72の回転軸は、媒体Mの幅方向(図2におけるX軸)と一致する。第1ベルトローラー71は、印刷ヘッド31よりも搬送方向TDの上流に配置され、第2ベルトローラー72は、印刷ヘッド31よりも搬送方向TDの下流に配置される。
第2ベルトローラー72は、付勢手段72B(例えば、ばね等)により第1ベルトローラー71から離れる方向(図中左方)に付勢されている(図2に白抜矢印で示す)。ベルト73は、第1ベルトローラー71及び第2ベルトローラー72に巻き掛けられているため、ベルト73には、ベルト73の回転方向BRDに沿って張力が作用している。換言すると、付勢手段72Bは、第1ベルトローラー71及び第2ベルトローラー72を介して、ベルト73に対して、引っ張り応力を付与している。ベルト73は、張力が作用した状態で、第1ベルトローラー71及び第2ベルトローラー72に巻き掛けられているため、第1ベルトローラー71の駆動に伴ってベルト73が円滑に回転する。本実施形態における駆動源71M、第1ベルトローラー71および第2ベルトローラー72を、「ベルト駆動部」とも呼ぶ。また、付勢手段72Bを、「応力付与部」とも呼ぶ。付勢手段72Bによる、第1ベルトローラー71および第2ベルトローラー72を介した、ベルト73への応力付与の周波数(以下「応力付与周波数」とも呼ぶ)については、後に詳述する。
本実施形態では、搬送方向TDにおけるベルト73の中間位置P1よりも搬送方向TDの下流に印刷ヘッド31が配置されている。詳しくは、印刷ヘッド31の搬送方向TDにおける中央位置、すなわち、印刷ヘッド31のノズル形成領域の搬送方向TDにおける中央位置P2が、ベルト73の中間位置P1よりも搬送方向TDの下流に位置している。
第1ベルトローラー71が回転駆動されることにより、ベルト73が回転し、媒体Mが搬送方向TDに搬送される。なお、ベルト73が媒体Mを搬送する際には、ベルト73の外面が、媒体Mの裏面Maに接触し媒体Mを支持する支持面として機能する。
以降の説明では、ベルト73において第1ベルトローラー71及び第2ベルトローラー72に接触する面を「内面73a」とし、ベルト73において媒体Mを支持する際に媒体Mの裏面Maに接触する面を「外面73b」とする。また、ベルト73が回転する際にベルト73が移動する経路を「周回経路」とも言う。
印刷ヘッド31の直下であってベルト73の周回経路の内側には、ベルト73の内面73aに接触することでベルト73を支持するバックアッププレート76が設けられている。バックアッププレート76は、例えば、金属などの導電性材料から構成されるとともに、接地されていることが望ましい。
ベルト73よりも搬送方向TDの上流には、第1の媒体供給部51、第2の媒体供給部52、又は第3の媒体供給部53から供給された媒体Mをベルト73に向かって搬送する供給ローラー81が設けられている。供給ローラー81は、駆動回転することで媒体Mに搬送力を付与する駆動ローラー82と、搬送される媒体Mに接触することで従動回転する従動ローラー83と、を備えている。従動ローラー83は、駆動ローラー82に向けて付勢されている。
供給ローラー81は、回転駆動状態において前記媒体Mを搬送方向TDの下流に搬送する。詳しくは、回転駆動状態の供給ローラー81においては、駆動ローラー82及び従動ローラー83が媒体Mを挟持した状態で駆動ローラー82が回転駆動されることで、媒体Mが搬送方向に搬送される。一方、回転停止状態の供給ローラー81においては、駆動ローラー82が回転されないことで、媒体Mが搬送方向TDに搬送されない。回転停止状態においては、駆動ローラー82及び従動ローラー83の間に媒体Mが通過する隙間が形成されないため、搬送方向上流から搬送方向TDに媒体Mを搬送しようとしても、媒体Mの搬送が制限される。
帯電部74は、第1ベルトローラー71よりも搬送方向TDの上流(図2中右側)に設けられている。帯電部74は、帯電ローラー741と、電源装置742とを備える。帯電ローラー741は、X軸方向(媒体Mの幅方向)を回転軸方向とし、ベルト73の外面73bに接触している。電源装置742は、帯電ローラー741に電気的に接続され、帯電ローラー741に直流電圧を印加する。
第1ベルトローラー71の回転がベルト73を通じて帯電ローラー741に伝達されることにより、帯電ローラー741が第1ベルトローラー71に対して従動回転する。このとき、帯電ローラー741は、ベルト73の外面73bにおいて帯電ローラー741に接触している部位に電荷を供給する。なお、本実施形態の印刷装置10では、帯電部74はベルト73に正の電荷を供給し、ベルト73の外面73bを正の電荷で帯電させる。
印刷ヘッド31よりも搬送方向TDの上流(図中右側)には、ベルト搬送装置70に搬送された媒体Mをベルト73に押し付けるサポートローラー86が設けられている。サポートローラー86は、例えば、金属などの導電材料で構成されるとともに、接地されている。そして、第1ベルトローラー71の回転がベルト73を通じてサポートローラー86に伝達されることにより、サポートローラー86が第1ベルトローラー71に対して従動回転する。
搬送方向TDにおいて、サポートローラー86と印刷ヘッド31との間には、媒体除電装置90が設けられている。媒体除電装置90は、ベルト73に向かって突出するブラシ91を有する除電部92と、ベルト73(媒体M)に対する除電部92の接触圧を調整する稼動部93と、を備えている。
ブラシ91は、媒体Mから電荷を除去できる材質(例えば、導電性ナイロンなどの樹脂材料)で形成すればよく、糸状のブラシであればよい。本実施形態では、ブラシ91は、ベルト73(媒体M)に接触したときのベルト73(媒体M)に対する接触圧が媒体Mの幅方向において一様になるように形成されている。
稼動部93は、例えば、ソレノイドなど、除電部92を直線移動させることのできる機構を有する。稼動部93は、除電部92の位置を鉛直上下方向(図2に両方向矢印で示す)に変更することで、除電部92とベルト73(媒体M)との距離を変更し、除電部92のベルト73(媒体M)に対する接触圧を調整する。例えば、稼動部93は、媒体Mの印刷面Mbを除電する必要がある場合には、ベルト73の外面が撓む程度の接触圧で除電部92をベルト73に接触させる。一方、稼動部93は、媒体の印刷面Mbを除電する必要のないときは除電部92がベルト73から退避させる(除電部92を媒体Mに接触させない)。
図3は、ベルト73による媒体Mの静電吸着について説明するための説明図である。ベルト73は、基材としての絶縁層731と、絶縁層731上に形成される帯電層732の2層で構成される。ベルト73が第1ベルトローラー71および第2ベルトローラー72に巻き掛けられると、帯電層732が外側に配置される。すなわち、帯電層732の外面がベルト73の外面73bとなり、絶縁層731の内面はベルト73の内面73aとなる。本実施形態では、絶縁層731は、PI(polyimide:ポリイミド)から成り、約60μmの厚みに形成されている。帯電層732は、ETFE(Ethylene TetraFluoroethylene:エチレン・テトラフロオロエチレン)から成り、約80μmの厚みに形成されている。絶縁層731は、電気抵抗の調整がなされておらず、帯電層732は、カーボンブラック(炭素の微粒子)を添加することにより、10の9乗程度の電気抵抗に調整されている。ベルト73の外面73bを構成する帯電層732をETFEにより形成することにより、例えば、誤ってベルト73の外面73bにインクが付着した場合でも、図示しない払拭部による良好な拭き取り性を得ることができる。本実施形態における絶縁層731を「第1層」、帯電層732を「第2層」とも呼ぶ。
第1ベルトローラー71の回転によってベルト73が回転されると、帯電ローラー741が従動回転することにより、ベルト73の外面73b側、すなわち帯電層732の外面側に正の電荷(+)が帯電し、帯電層732の内面側に負の電荷(−)が帯電する。
そして、ベルト73の外面73bにサポートローラー86によって媒体Mが押し付けられると、媒体Mがベルト73に密接し、媒体Mの内部で分極が起こる。つまり、媒体Mの裏面Ma側に負の電荷が帯電する一方、媒体Mの裏面Maの反対側となる印刷面Mb側に正の電荷が帯電する。その後、媒体Mの印刷面Mb側に帯電した正の電荷は、印刷面Mbに接触する除電部92(ブラシ91)によって除去されることで、ベルト73による媒体Mに対する静電吸着力が発生する。
本実施形態のように、ベルト73を正の電荷のみで帯電(DC帯電)させる場合には、ベルト73を正の電荷及び負の電荷を交互に帯電(AC帯電)させる場合と異なり、媒体Mの印刷面Mb側において搬送方向TDに隣り合う領域同士が同極の電荷で帯電しているため、隣り合う領域同士で電荷が自然に中和されることがない。このため、媒体Mの印刷面Mbにおける電荷を除去した後に、ベルト73による媒体Mに対する静電吸着力が発生する。
その一方で、ベルト73が回転されると、ベルト73の絶縁層731及びバックアッププレート76が接することで、ベルト73の絶縁層731が意図せずに摩擦帯電する場合がある。この場合には、絶縁層731の帯電態様が帯電層732の帯電態様に影響を与えることで、ベルト73の外面73bにおける正の電荷量が減少するおそれがある。
この点、本実施形態の印刷装置10では、バックアッププレート76が接地されているため、絶縁層731が摩擦帯電することが抑制される。したがって、ベルト73において、絶縁層731の帯電態様がベルト73による媒体Mに対する静電吸着力に影響を与えることが抑制される。
こうして、本実施形態では、ベルト73が媒体Mを静電吸着した状態でベルト73が回転することにより、媒体Mが搬送方向TDに搬送される。なお、ベルト73に帯電された電荷は、媒体Mがベルト73から離れる際に、媒体Mによって持ち去られる(除電される)。
図4は、ベルト搬送装置70におけるベルト73への応力付与周波数を説明するための説明図である。ベルト搬送装置70において、第2ベルトローラー72が付勢手段72Bにより第1ベルトローラー71から離れる方向に付勢されているため、第1ベルトローラー71および第2ベルトローラー72にベルト73が接触することによりベルト73に引っ張り応力が付与される。ベルト73の或る部分(或る瞬間に第1ベルトローラー71または第2ベルトローラー72と接触する領域)に注目すると、周期的に引っ張り応力が付与されるといえる。この引っ張り応力付与の周波数を、応力付与周波数と呼ぶ。この応力付与周波数については追って詳細を述べる。
本実施形態の印刷装置10において、ベルト73は、張力が作用した状態で、第1ベルトローラー71及び第2ベルトローラー72に弛みなく巻き掛けられている。ベルト73の或る部分に注目すると、ベルト73の1回の回転(1周)において、2回引っ張り応力が付与される(第1ベルトローラー71によって1回、第2ベルトローラー72によって1回、計2回)。
第1ベルトローラー71の直径をD1[cm]、第2ベルトローラー72の直径をD2[cm]、第1ベルトローラー71と第2ベルトローラー72の中心間の距離をL1[cm]、第1ベルトローラー71の駆動によるベルト73の回転スピードをV[cm/sec]、ベルト搬送装置70の或る点が1周する間に引っ張り応力が付与される回数をN[回]とすると、応力付与周波数A[Hz]は、下記(式1)で表わされる。
A={V/[(D1×円周率+D2×円周率)/2+L1×2]}×N…(式1)
例えば、D1=2.00、D2=2.00、L1=9.75、V=58.4、N=2の場合、円周率を、3.14とすると、応力付与周波数Aは、約4.5[Hz]である。例えば、回転スピードVは、印刷装置10のいわゆるプロセススピードとして設定される。なお、本実施形態においては回転スピードVの単位として[cm/sec]を用いたが、1インチ=2.54cmと換算し、[inch/sec]を用いてもよい。また、長さの単位として[cm]を用いたが、[mm]を用いてもよい。
図5は、印刷装置10の機能的構成を示すブロック図である。印刷装置10は、搬送装置20と、印刷ユニット30と、画像処理部104と、外部I/F部106と、操作パネル108と、制御部102と、を備える。これら各要素は、バスによって接続されている。操作パネル108は、メニューや画像を表示するためのLCD等で構成される表示パネル、メニューを操作するための十字ボタン、印刷指示ボタン等(図示しない)を備える。外部I/F部106は、デジタルカメラ、コンピューター、USB機器等の外部機器と通信するためのI/Fである。画像処理部104は、外部I/F部106を介して取得された画像データに基づいて、印刷に適した印刷画像データを生成するための、画像処理専用のプロセッサーである。
制御部102は、中央処理装置と主記憶装置とを備えるマイクロコンピューターによって構成されている。制御部102は、印刷装置10の各構成部を制御し、印刷処理を実行する。
制御部102は、搬送装置20が備える各種のローラー(第1の給送ローラー54、ピックアップローラー56、分離ローラー57、第2の給送ローラー58、反転搬送ローラー66、第1ベルトローラー71、排出ローラー41〜45等:図1、2)を駆動して、ベルト73を回転させると共に、媒体Mを搬送方向TDに搬送させる。また、制御部102は、印刷ヘッド31の駆動を制御して、媒体Mに対してインクを吐出させる。このようにして、搬送方向TDに搬送される媒体Mの印刷面Mbに印刷が行われる。
制御部102は、第1ベルトローラー71(図2)の回転速度を制御することにより、ベルト73の回転速度(駆動速度)を制御する。これにより、第1ベルトローラー71及び第2ベルトローラー72を介した付勢手段72Bによるベルト73への引っ張り応力付与の応力付与周波数を制御する。本実施形態では、後に詳述するように、応力付与周波数が、ベルト73の損失正接tanδのピーク周波数以上になるように、ベルトの回転速度を制御している。なお、第1の媒体供給部51、第2の媒体供給部52、第3の媒体供給部53、および排出機構部40による媒体Mの搬送速度と、ベルト搬送装置70による媒体Mの搬送速度は、一致しており、搬送速度を「プロセススピード」とも呼ぶ。
制御部102は、ベルト搬送装置70が備える電源装置742(図2)を制御して、帯電ローラー741に直流電圧を印加させる。本実施形態では、媒体Mが搬送されている間中、2000Vの直流電圧を印加させる。電源装置742により印加される直流電圧の値は、本実施形態に限定されず、適宜設定可能である。また、制御部102は、印加する直流電圧の大きさを変更させてもよい。例えば、帯電ローラー741に印加する直流電圧を高くすると、ベルト73及び媒体Mに帯電する電荷が多くなる。その結果、ベルト73による媒体Mに対する静電吸着力が高くなる。制御部102は、電源装置742を制御することで、帯電ローラー741が帯電する電荷の量を調整し、ベルト73による媒体Mに対する静電吸着力を変化させてもよい。
また、制御部102は、供給ローラー81(図2)と、供給ローラー81に媒体Mを搬送する第1の媒体供給部51、第2の媒体供給部52又は第3の媒体供給部53(図1)の駆動を制御して、ベルト73に搬送する媒体Mの傾きを解消する斜行取り動作を行わせる。詳しくは、制御部102は、第1の媒体供給部51、第2の媒体供給部52又は第3の媒体供給部53に媒体Mを搬送方向TDに向けて搬送させた状態で、供給ローラー81を回転停止状態とする。こうして、媒体Mの先端が供給ローラー81を構成する駆動ローラー82及び従動ローラー83に接触してから、媒体Mが搬送方向TDにさらに搬送されることで、媒体Mが搬送方向TDに対して傾いている場合には当該傾きが解消される。その後、制御部102は、供給ローラー81を回転駆動状態とすることで、斜行が解消された媒体Mのベルト73に向かう搬送を許容する。
図6は、ベルト73の粘弾性の周波数特性を概念的に示す説明図である。図6では、動的粘弾性測定装置(レオメーター)を用いて、動的粘弾性法(周期的に引っ張り応力を付与)により得られたベルト73の粘弾性の周波数特性を示す。具体的には、貯蔵弾性率G’を白抜き三角(△)、損失弾性率G”を黒丸(●)、複素粘度Eta*をバツ(×)、損失正接tanδを白丸(○)で示す。本実施形態では、レオメーターとして、TAインスツルメント製のARES−G2を用い、ベルト73の一部を切り出してサンプルとし、動的粘弾性測定を行った。但し、レオメーターの違いが損失正接tanδの周波数特性に及ぼす影響はほとんどなく、異なるレオメーターを用いて測定しても、略同一の損失正接tanδが得られる。
損失正接tanδは、ある粘弾性体の変形において、弾性の性質と粘性の性質のどちらが強くでるのかを評価する指標であり、下記の(式2)で表わされる。
tanδ=G”/G’ …(式2)
ここで、G”:損失弾性率[Pa]、G’:貯蔵弾性率[Pa] である。
複素粘度Eta*[Pa・s]は、動的粘弾性法により測定した粘度のことを言う。複素粘度Eta*は、粘弾性を示すベルト73の硬さを示し、複素粘度Eta*が小さい程、ベルト73は柔らかい。
図6に示すように、ベルト73は、損失正接tanδの周波数特性において、極大値(ピーク)を有し、ピーク周波数Bを有する。貯蔵弾性率G’は、周波数が大きい程、若干大きくなる。損失弾性率G”は、tanδのピーク周波数Bにおいてピークを有する。複素粘度Eta*は、周波数が大きい程小さくなる。
(式2)に示す通り、損失正接tanδは、損失弾性率G”に比例する。損失弾性率G”が大きいということは、ベルト73の粘性が大きく、媒体Mとの密着性において、有利であるといえる。すなわち、損失正接tanδのピークでは、ベルト73の密着性が最もよいといえる。
また、複素粘度Eta*が小さい程、ベルト73が柔らかく、媒体Mのベルト73と接触する表面への追従性が得られる。すなわち、媒体Mの表面の影響によるベルト73との密着性の低下が抑制される。本実施形態の印刷装置10では、ベルト搬送装置70においてベルト73に引っ張り応力を付与する周波数(応力付与周波数A)を、ベルト73の損失正接tanδのピーク周波数B以上にすることにより、ベルト73と媒体Mとの密着性が良好になる。媒体Mとの密着性が良好な状態のベルト73に対して、帯電部74によって電荷が付与されるため、静電吸着効果を有効に使うことができ、搬送精度を良好にすることができる。
B.実験結果:
以下に、ベルト73の損失正接tanδのピーク周波数Bと、ベルト搬送装置70におけるベルト73への応力付与周波数Aとの関係が媒体Mの搬送精度に及ぼす影響について、実験結果に基づいて説明する。
図7は、ベルト73の損失正接tanδのピーク周波数Bと、ベルト73への応力付与周波数Aと、罫線ズレ量との関係を示す説明図である。上記実施形態に対応する実施例1、2として、応力付与周波数A>ピーク周波数Bとした印刷装置10を用いた。また実施例3として、応力付与周波数A=ピーク周波数Bとした印刷装置10を用いた。比較例1として、応力付与周波数A<ピーク周波数Bとした印刷装置を用いた。実施例1、2、3の印刷装置10、および比較例1の印刷装置にベルト73を取り付けて、耐久試験(300,000枚の媒体Mに対する罫線ズレ測定用のパターンの印刷)を行い、目視により罫線ズレを観察した。図7では、300,000枚めの媒体Mのズレ量を、罫線ズレ量[mm]として記載している。
<耐久試験>
本実験では、耐久試験として、300,000枚の媒体Mに対して罫線ズレ測定用のパターン印刷を行った。本実験では、ベルト73の寿命(品質が維持される状態)として、300,000枚の印刷を保証することを想定し、300,000枚の印刷を耐久試験として採用した。罫線ズレ測定用のパターンとしては、複数行×複数列で構成される表を用いた。罫線ズレ測定用のパターンとして、他の公知のパターンを用いてもよい。また、耐久試験の内容は、適宜設定することができる。印刷する画像は、罫線ズレ測定用のパターンに限定されず、写真画像、パラーパターン等、種々の画像を採用可能である。なお、上述の通り、本実験において、ベルト73が1回転(1周)すると1枚の紙が搬送され、ベルト73が1周する間に2回引っ張り応力が付与されるため、耐久試験において、ベルト73には、600,000回引っ張り応力が付与されたといえる。
実施例1、2、3および比較例1の印刷装置の構成は、上記実施形態の印刷装置10と同様であり、プロセススピードを変更することにより、応力付与周波数Aを変更している。また、実施例1、2、3では、同一の構成のベルト73を用いており、比較例1のベルト73は、実施例1、2、3と厚さが異なる。すなわち、実施例1、2、3において、ベルト73の絶縁層731は、PI(polyimide:ポリイミド)から成り、約60μmの厚みに形成されており、帯電層732は、ETFE(Ethylene TetraFluoroethylene:エチレン・テトラフロオロエチレン)から成り、約80μmの厚みに形成されている。比較例1において、ベルト73の絶縁層731は、PI(polyimide:ポリイミド)から成り、約100μmの厚みに形成されており、帯電層732は、ETFE(Ethylene TetraFluoroethylene:エチレン・テトラフロオロエチレン)から成り、約40μmの厚みに形成されている。
すなわち、実施例1、2、3および比較例1において、第1ベルトローラー71の直径D1は、第2ベルトローラー72の直径D2と同寸であり、20.0[mm]である。実施例1、2、3および比較例1において、第1ベルトローラー71と第2ベルトローラー72との間の距離(中心間距離)は、9.75[cm]である。図7では、第1ベルトローラー71と第2ベルトローラー72とを区別せず、単に「ベルトローラー」と記載している。実施例1、2、3および比較例1において、ベルト73の損失正接tanδのピーク周波数Bは1.5[Hz]であり、実施例1の印刷装置10は、プロセススピードを23[inch/sec]に設定することにより、応力付与周波数Aを4.5[Hz]にしている。実施例2の印刷装置10は、プロセススピードを18[inch/sec]に設定することにより、応力付与周波数Aを3.5[Hz]にしている。実施例3の印刷装置10は、プロセススピードを7.6[inch/sec]に設定することにより、応力付与周波数Aを1.5[Hz]にしている。比較例1の印刷装置は、プロセススピードを23[inch/sec]に設定することにより、応力付与周波数Aを4.5[Hz]にしている。
実施例1、2、3の印刷装置10では、応力付与周波数A≧ベルト73のピーク周波数Bであり、罫線ズレ量は、実施例1が0.02mm、実施例2が0.01mm、実施例3が0.03mmであった。比較例1の印刷装置では、応力付与周波数A<ベルト73のピーク周波数Bであり、罫線ズレ量は、0.05mmであった。罫線ズレ量が小さいほど搬送精度がよいといえる。
以上の実験結果より、ベルト搬送装置70におけるベルト73への応力付与周波数Aを、ベルト73のピーク周波数B以上にすることにより、ベルト搬送装置70におけるベルト73への応力付与周波数Aがベルト73のピーク周波数Bより低い場合と比較して搬送精度を良好にすることができるといえる。
C.変形例:
(1)上記実施形態において、ベルト搬送装置70を印刷装置10に適用する例を示したが、ベルト搬送装置70は、印刷装置10に適用するものに限定されない。例えば、金融機関等で使用される現金自動取引装置が備える紙幣取扱装置等に適用してもよいし、ベルト搬送装置70を単体で構成してもよい。
(2)上記実施形態において、絶縁層731と、絶縁層731と電気抵抗が異なる帯電層732を有する2層構成のベルト73を例示したが、ベルトとしては、全体に電気抵抗が一定の1層の構成でもよいし、隣接する層の電気抵抗が違いに異なる3層以上の構成でもよい。なお、本明細書では、電気抵抗により「層」を区別しており、絶縁層731が同一材料から成る複数層で構成されていてもよい。同様に、帯電層732が同一材料から成る複数層で構成されていてもよい。
(3)上記実施形態において、絶縁層731と、帯電層732とで、異なる種類の樹脂を用いているが、同種の樹脂を用いてもよい。例えば、帯電層732として、カーボンブラックを添加して電気抵抗を調整したPI(ポリイミド)を用いてもよい。
(4)ベルト73を形成する樹脂は、上記実施形態に限定されない。例えば、ゴムを用いてもよい。さらに、樹脂以外の材料で形成してもよい。例えば、ベルトの外面(媒体Mと接触する面)には、樹脂層を配置し、内面には金属層を配置してもよい。
(5)上記実施形態の印刷装置10において、第2ベルトローラー72側に、ベルト73の除電を行う除電部を備える構成にしてもよい。このようにすると、媒体Mによって持ち去られなかった電荷を除電することができる。
(6)上記実施形態において、第1ベルトローラー71および第2ベルトローラー72によりベルト73を回転させる(駆動させる)例を示したが、ベルト73を駆動する構成は、上記実施形態に限定されず、公知の種々の駆動構成を採用することができる。第1ベルトローラー71の径と、第2ベルトローラー72の径が異なる構成を採用してもよい。
(7)上記実施形態において、インクジェット方式の印刷装置10を例示したが、例えば、レーザー方式やドットインパクト方式等、種々の方式の印刷装置にベルト搬送装置70を適用することができる。
(8)搬送する媒体Mとしては、紙、布帛、フィルム、塩ビシート(ポリ塩化ビニルから成るシート)等、種々の媒体を用いることができる。
(9)上記実施形態において、媒体除電装置90としてブラシ91等を備える構成を例示したが、これに限定されるものではない。布やローラータイプの除電部92を備える構成としてもよいし、イオナイザー等の除電装置を備える構成としても良い。さらに、媒体除電装置90を備えない構成としてもよい。
(10)ベルト73の厚みは上記実施形態に限定されない。ベルト73の厚みを変更することによって損失正接tanδのピーク周波数を変更することができるため、印刷装置10のプロセススピード、応力付与周波数との関係を考慮して定めてもよい。その他、耐久性、媒体Mの搬送精度等を考慮して定めてもよい。
(11)上記実施形態において、付勢手段72Bとしてばねを例示したが、これに限定されない。例えば、ゴム等の弾性体、歯車、カム、ボールねじ等を用いてベルトローラーを付勢する構成としても良い。
(12)上記実施形態において、第1ベルトローラー71が駆動源71Mに接続され回転駆動可能であり、第2ベルトローラー72は駆動源71Mに接続されず第1ベルトローラー71の回転に伴って回転する構成としたが、これに限定されない。第2ベルトローラー72が駆動源71Mに接続され回転駆動可能であり、第1ベルトローラー71は駆動源71Mに接続されず第2ベルトローラー72の回転に伴って回転する構成としても良いし、第1ベルトローラー71及び第2ベルトローラー72の双方が駆動源71Mに接続される構成としても良い。
(13)上記実施形態において、第2ベルトローラー72が付勢手段72Bにより第1ベルトローラー71から離れる方向に付勢されている構成としたが、これに限定されない。第1ベルトローラー71が付勢手段により第2ベルトローラー72から離れる方向に付勢されている構成としても良いし、第1ベルトローラー71及び第2ベルトローラー72の双方が付勢手段によりお互いに離れる方向に付勢されている構成としても良い。
また、応力付与部として付勢手段72Bを備えない構成としても良い。ベルト73を第1ベルトローラー71と第2ベルトローラー72に巻き掛けた場合に、ベルト73に張力が生じる程度に、第1ベルトローラー71と第2ベルトローラー72との間の距離を離間させて配置するだけでもよい。このようにしても、ベルト73が第1ベルトローラー71と第2ベルトローラー72に接触した際に、引っ張り応力が付与される。このような構成の場合、第1ベルトローラー71と第2ベルトローラー72が、応力付与部として機能しているといえる。
(14)上記実施形態において、ベルト搬送装置70としてベルト73を帯電させることで媒体Mに対する静電吸着力を発生させ、媒体Mを吸着する構成としたがこれに限定されない。ベルト表面の粘着力により媒体を保持する構成や吸引により媒体を保持する構成等を採用しても良い。
(15)上記実施形態において、ソフトウエアによって実現された機能及び処理の一部又は全部は、ハードウエアによって実現されてもよい。また、ハードウエアによって実現された機能及び処理の一部又は全部は、ソフトウエアによって実現されてもよい。ハードウエアとしては、例えば、集積回路、ディスクリート回路、または、それらの回路を組み合わせた回路モジュールなど、各種回路を用いることができる。
本明細書に開示された技術は、本明細書の実施形態、実施例や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現できる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、先述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、先述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせができる。その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除できる。