以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
本発明の第1の形態は、被験者から採取された生体試料中の、所定の分子が表面に存在する脂質二重膜粒子またはその断片を検出する方法に関するものである。ここで、当該形態に係る検出方法は、
生体試料に、脂質二重膜を染色する色素を添加すること(色素添加工程)、
生体試料に、所定の分子に特異的に結合する特異的結合物質を添加すること(特異的結合物質添加工程)、
特異的結合物質を捕集することにより、所定の分子が表面に存在する脂質二重膜粒子またはその断片を分離すること(分離工程)、
分離された脂質二重膜粒子またはその断片を色素の発光に基づいて検出すること(検出工程)、
を含む点に特徴がある。以下、本形態に係る検出方法を実施するための好ましい一形態について、脂質二重膜粒子またはその断片の検出をフローサイトメトリー法により行う場合を例に挙げて具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の具体的な実施形態のみには限定されない。
(色素添加工程)
上述したように、本形態に係る検出方法においては、測定対象の試料として、被験者から採取された生体試料を用いる。そして、本工程では、被験者から採取された生体試料に、脂質二重膜を染色する色素を添加する。
本明細書において、「被験者」は、動物であれば特に限定されないが、例えば、哺乳動物等が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、霊長類、実験用動物、家畜、ペット等が挙げられ特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ヒト、サル、ラット、マウス、ウサギ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコなどが挙げられる。好ましくは、被験者はヒトである。他の形態において、検出対象がCTCやCEC、CEPである場合には、被験者はがんに罹患する可能性のある動物であることが好ましく、ヒトへの適用が好ましい。本形態に係る検出方法は、このうち、がんに罹患している疑いのあるヒト、またはがんに罹患した後のヒト等において特に好ましく行われる。
また、本形態に係る検出方法に用いられる生体試料について特に制限はなく、従来臨床検査において一般的に用いられている生体試料が用いられうる。生体試料としては、例えば、被験者である動物由来の組織、細胞、細胞抽出成分、体液等が挙げられる。組織としては、脾臓、リンパ節、腎臓、肺、心臓、肝臓等が、細胞としては、脾細胞、リンパ細胞、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、抗体産生細胞等が、体液としては、血液試料のほか、腹水、体腔液、尿、汗、脊髄液等が挙げられる。なかでも、生体試料は好ましくは血液試料、腹水または体腔液であり、より好ましくは血液試料である。
「血液試料」としては、脂質二重膜粒子またはその断片が含まれる場合にこれらを検出できるものであれば特に制限されない。例えば、血液試料中の赤血球を溶解させ、遠心分離した後、上清を除去して得られたペレットが用いられうる。また、後述するような遠心処理を施して得られる遠心上清を用いることも好ましい。なお、被験者から血液試料を採取するために採血するタイミングは、特に制限されない。
なお、全血試料にはマイクロパーティクル等のEVやCTC等の循環細胞に対して血球成分が多数存在することから、本発明の検査方法においては、血液試料として全血試料よりも血漿試料を用いることが好ましい。具体的には、全血試料の処理過程で血球細胞から余計なマイクロパーティクルを生じさせないように、血球成分をできるだけ穏やかに除去し、特に血小板とのコンタミネーションをできるだけ排除する必要がある。全血試料から血球成分を除去して血漿試料を得るには、遠心操作により血漿成分を分離すればよい。なお、この際の遠心条件について特に制限はない。一例を挙げると、血球成分で最も小型の血小板成分を分離する場合には、3000rpm(1710×g)で10分間の遠心により血漿成分を得た後、最も簡便な方法である8000×gで5分間の遠心を行うことで、上清から試料を得るという手法が用いられうる。また、この条件で沈降してしまうような細胞小砲などを検出する場合には、遠心条件を緩和して、500×gで10分間の遠心を選択することも有効である。さらに、この上清試料の濃縮が必要な場合には、例えば20000×gで60分間の遠心を行い、ペレット部分を対象試料とすることも有効である。
また、遠心操作を用いずに、カラムや微小流体回路などを利用して測定対象でない細胞小胞などについて、大きさや抗体マーカーなどを用いてネガティブセレクションまたはポジティブセレクションを行うことも有効である。なお、試料容器としてはポリプロピレン製マイクロチューブを用いればよい。
また、採血時に存在するマイクロパーティクルを検出し、採血後にマイクロパーティクルが発現しないようにするためには、血小板を活性化させないことが重要となる。したがって、血漿試料等の血液試料の調製の際には、Caイオンキレート作用を有するクエン酸やEDTAを抗凝固剤として用いることが好ましい。なお、従来MPの計測ではクエン酸採血管を用いることが一般的に行われているが、脂質二重膜粒子またはその断片の検出のみが目的の場合には、試料安定性を向上させることを目的として、Caイオンキレート効果が強いEDTAを抗凝固剤として用いることがより好ましい。なお、遠心操作をする場合には、同時に含まれている血球成分が活性化してしまうことによる細胞小胞などの発現を抑えたり、試料調製のプロセスにおいて凝固が促進したりすることで細胞小胞がフィブリン塊などに取り込まれて対象試料の採取源である遠心上清には残らないことも考えられる。このため、必要に応じて1回目の遠心処理後にEDTAなどの抗凝固剤を添加することも有効である。
本発明に係る検出方法で使用する生体試料は、被験者から採取直後のものを測定に用いることが好ましいが、保存したものを用いてもよい。生体試料の保存方法としては、試料中の脂質二重膜粒子またはその断片の量が変化しない条件であれば特に制限はなく、例えば0〜10℃の凍結しない程度の低温条件、暗所条件および無振動条件下が好ましい。
本発明に係る検出方法は、生体試料中に含まれる「所定の分子が表面に存在する脂質二重膜粒子またはその断片」を検出対象として検出を行うものである。ここで、「所定の分子が表面に存在する脂質二重膜粒子またはその断片」について特に制限はなく、後述する特異的結合物質と結合可能な所定の分子が表面に存在する脂質二重膜粒子またはその断片であればよい。このような検出対象としての脂質二重膜粒子として、まず、上述したアポトーシス小体(AB)、微小小胞体(MV)およびエクソソーム(Exosomes)などの細胞外小胞(EV)が挙げられる。また、同様に上述した循環腫瘍細胞(CTC)、循環血管内皮細胞(CEC)および循環血管内皮前駆細胞(CEP)などの循環細胞もまた、検出対象としての脂質二重膜粒子として挙げられる。これらの検出対象としての脂質二重膜粒子またはその断片のサイズについて特に制限はなく、検出が可能なサイズであればいかなるサイズのものであっても適用可能である。なお、細胞外小胞(EV)の一般的なサイズについては上述したとおりであるが、各種循環細胞のサイズは、例えばCTCの場合には通常6〜10μm程度(培養がん細胞では、通常10〜16μm程度)である。
本発明に係る検出方法においては、検出対象としての脂質二重膜粒子またはその断片の表面に、後述する特異的結合物質と結合可能な「所定の分子」が存在していることが必要である。この「所定の分子」の具体的な形態についても、後述する特異的結合物質と結合可能なものであれば特に制限はないが、当該「所定の分子」は好ましくは膜タンパク質である。また、当該膜タンパク質は、いわゆるCD抗原と称される細胞表面抗原であることが好ましく、かような形態によれば、特異的結合物質として各種のCD分類に応じた抗体または改変抗体を用いることが可能である。所定の分子がCD抗原である膜タンパク質である場合、当該膜タンパク質は、CD63、CD81、CD9、CD82、CD151、CD326、CD144、CD105、CD146、CD62E、CD142、CD41a、CD62P、CD61、CD11b、CD32、CD33、CD14、CD66b、CD56、CD16およびCD64からなる群から選択される1種または2種以上のCD抗原であることが好ましい。ここで、CD326は、上皮細胞接着分子(Epithelial cell adhesion molecule;EpCAM)と呼ばれ、CTCの検出に従来用いられている。CD144(カドヘリン5、VE−カドヘリン)、CD105(エンドグリン)、CD146(S−Endo、Endo−CAM)、CD62E(E−セレクチン)などは、血管内皮細胞由来マイクロパーティクル(EDMP)の表面に存在する膜タンパク質(表面抗原)として知られている。CD142は、組織因子含有マイクロパーティクル(TF)の表面に存在する。CD41a(GPIIb/IIIa)、CD62P、CD61は血小板特異的受容体であり、血小板由来マイクロパーティクル(PDMP)の表面に存在する。CD11b(インテグリンαM鎖、Mac−1)、CD32、CD33、CD14はマクロファージマーカーとして知られており、単球由来マイクロパーティクル(MDMP)の表面に存在する。CD66b、CD56、CD16、CD64は好中球由来マイクロパーティクル(NDMP)の表面に存在する。なお、「所定の分子」としては、上記のようなCD抗原以外に、レセプタータンパク質や接着分子、酵素などのタンパク質、タンパク質に結合している糖鎖などが用いられてもよい。
特に本発明におけるがん患者の治療・予後のモニタリング・予防予知などに関連するマーカーについては、以下に示す通りである。
エクトゾームには、膜貫通タンパクである組織因子(CD142:TF;Tissue Factor)やCD144などが多く含まれている。よって、これらのタンパク質は生体由来の試料におけるエクソゾームのマーカー分子として用いられる。侵襲を受けていない血管壁でも血栓の形成と線溶は絶えず繰り返されており、血栓傾向と出血傾向のバランスが崩れると様々な疾患を引き起こす。特に、がん患者の場合には、このバランスが極端に不安定なものとなるため、恒常性を維持するためにTF(CD142)を持ったEVが末梢血液中に多数存在することが報告されている。腫瘍性細胞由来のエクトゾームには、ラージベジクル(LV;Large vesiclesまたはLO;oncosomes)があり、その発生機序から2000〜50000nm(2〜50μm)程度のサイズを有し、発がん性物質の輸送の機能などを担っている。一方、腫瘍性細胞由来のエクソゾームおよびエクトゾームはABを産生することができ、標的とする細胞への細胞間コミュニケーションなどの機能を担っている。多くの血液疾患においては、プロコアグラント活性(PA)が認められる。主な血液疾患としては、特発性血小板減少性紫斑病(ITP;immune thrombocytopenia)、抗リン脂質抗体症候群(APS;anti-phospholipid antibody syndrome)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP;thrombotic thrombocytopenic purpura)、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT;heparin-induced thrombocytopenia)、播種性血管内凝固症候群(DIC;disseminated intravascular coagulation)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH;paroxysmal nocturnal hemoglobinuria), 急性骨髄性白血病(AML;acute myeloid leukemia)、多発性骨髄腫(MM;multiple myeloma)、慢性リンパ性白血病(CLL;chronic lymphocytic leukemia)、慢性骨髄性白血病(CML;chronic myelogenous leukemia)、 幹細胞移植(SCT;stem cell transplantation)、造血幹細胞移植(HSCT;hematopoietic stem cell transplantation)などが報告されており、これらの血液疾患の中で、DIC、AML、MM、CLL、CML、SCT,HSCTにおいては、組織因子(CD142:TF;Tissue Factor)の発現が確認されている。
上述のことから、組織由来のがん患者の治療・予後のモニタリング・予防予知などに関連するマーカーとして、CTCの検出に従来用いられているものを合わせて、CD142およびCD326を必須マーカーとすることが好ましい。
また、エクソゾームについては、テトラスパニンファミリー分子であるCD9はADM17という酵素を活性化させ、CD63はインテグリンを活性化させ、CD81はEGFRを活性化させリコモジュリンと関連している。特に、CD63、CD81およびCD9はテトラスパニンファミリーに属するCD抗原であり、他の膜タンパク質と複合体を形成することにより他のタンパク質を活性化させる機能を有している。そして本発明において、これらのCD抗原はエクソソームの検出に特に好適に用いられうる。また、これらのうちCD63は通常の細胞においては細胞外に存在していないことから、CD63抗原をマーカーとして検出することで細胞の活性化を検出することができる。これらのことから、この3種をマーカーとして選択することが好ましい他の実施形態である。CD63はライソゾーム顆粒に発現していることから、通常は細胞外には存在しないため、EVでないと細胞外には存在しない。また、CD9は血小板にも発現していることから、別マーカーとの併用や大きさによる識別が必要となる場合があることから、CD63を必須マーカーとして、CD81との組み合わせを必須とすることが好ましい。
本工程において、生体試料に添加される「脂質二重膜を染色する色素」について特に制限はなく、いわゆる脂質染色に従来用いられている脂溶性色素が同様に用いられうる。「脂質染色」とは、脂溶性色素を用い、当該色素が脂質に溶解するという性質を利用して脂質二重膜を染色する手法である。この脂質染色は他の染色法とは異なりイオン作用基とは無関係で、水に不溶かつ脂質親和性の高い色素を脂質に作用させ、当該色素を脂質二重膜に浸透させることによって脂質二重膜を染色する手法である。このような脂溶性色素としては、例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のMolecular Probes(登録商標)シリーズにおけるSP-DiOC18(3)といった脂溶性カルボシアニン色素や、五陵化学社製のPolaric(登録商標)等が挙げられ、これらの色素は一般的な488nmの青色レーザーを用いて励起させることができ、長波長側にシフトした最大蛍光波長の光を発光する。また、これらに加えて、脂質染色に従来用いられているズダンIII、ズダンII(オイルレッドO)、ズダンブラックB(SBB)、ナイルブルー、ファットレッド、リピッドクリムゾンなどの脂溶性色素も同様に用いられうる。なお、生体試料への上記色素の添加量について特に制限はなく、従来公知の知見を参照しつつ適宜決定することができる。
(特異的結合物質添加工程)
本工程では、生体試料に、上述した所定の分子に特異的に結合する特異的結合物質を添加する。これにより、後述する分離工程において、所定の分子が表面に存在する脂質二重膜粒子またはその断片の分離が可能となる。
なお、本工程は、上述した「色素添加工程」の前に行われてもよいし、これと同時に行われてもよいし、これの後に行われてもよい。なかでも、抗体結合反応への脂質染色の影響を低減させるという観点からは、本工程(特異的結合物質添加工程)を色素添加工程の前に行うことが好ましい。また、本工程によって抗体結合反応が終了した後に洗浄工程を実施し、次いで脂質染色工程を実施することがより好ましい。また、脂質染色工程後にさらに洗浄工程を実施することが特に好ましい。
本工程において用いられる「特異的結合物質」は、(1)検出対象である脂質二重膜粒子またはその断片の表面に存在する所定の分子に特異的に結合するものであることが必要である。また、「特異的結合物質」は、(2)後述する分離工程においてプローブとして用いられて特異的に捕集されることにより、上記所定の分子が表面に存在する脂質二重膜粒子またはその断片のみを分離することができるものであることも必要である。
上記(1)の条件を満たすため、特異的結合物質は、抗体、改変抗体、アプタマー、リガンド分子、リガンドミミックス、リガンドとの結合に競合する阻害剤、接着分子に対して結合する細胞外基質や接着因子、それらのミミックス、酵素に対する基質、当該酵素の阻害剤、当該酵素に対してアロステリック効果を及ぼす物質、糖鎖に対して結合するレクチン等が挙げられる。抗体としては、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM等が挙げられる。なお、抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。ここで、IgGとしては、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4等が挙げられる。IgAとしては、IgA1、IgA2等が挙げられる。IgMとしては、IgM1、IgM2等が挙げられる。改変抗体としては、Fab、F(ab’)2、scFv等が挙げられる。アプタマーとしては、ペプチドアプタマー、核酸アプタマー等が挙げられる。リガンド分子としては、脂質二重膜粒子またはその断片の表面に存在する所定の分子がレセプタータンパク質である場合の、当該レセプタータンパク質のリガンド等が挙げられる。例えば、エクソソームの表面に存在する分子がインターロイキンである場合、リガンド分子としてはGタンパク質等が挙げられる。なかでも、特異的結合物質は、好ましくは抗体または改変抗体である。そして、特異的結合物質が抗体または改変抗体である場合、当該特異的結合物質は、検出対象である脂質二重膜粒子またはその断片の表面に存在する所定の分子に特異的に結合する抗体または改変抗体である。一例として、検出対象の脂質二重膜粒子がCTCである場合、所定の分子としてはCD326タンパク質(EpCAM)があり、よって、特異的結合物質としては抗CD326抗体が用いられうる。
なお、特異的結合物質は、直接標識物質で標識されていてもよい。間接標識物質の場合には、例えば、ビオチン、アビジンまたはその誘導体(ストレプトアビジン、ニュートラアビジンなど)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、グルタチオン、蛍光色素、ポリエチレングリコール、メリト酸等の電荷分子等が挙げられる。ただし、本発明において、特異的結合物質は、タンデム色素の場合には、染色色素と異なる波長を有するものでない限り、非特異反応が多くなったり、非特異反応に起因する発光波長が検出波長と重なったりするという不具合が生じる。このため、特異的結合物質は蛍光色素で標識されていないものであることが好ましい。
また、上記(2)の条件を満たすため、特異的結合物質は、後述する分離工程において特異的に捕集される性質を有するものである。具体的に、当該分離工程は通常、分離したい特定の脂質二重膜粒子またはその断片を、固相を利用して捕捉し、捕捉されない粒子(断片)を除去することにより行われる。ここで、「固相」とは、特定の脂質二重膜粒子またはその断片を分離する工程で用いられる固体状またはゲル状の担体であって、液相に対して容易に分離できるものをいう。固相の例としては、例えばプラスチックやゴム、不溶性の多糖類、(不溶性の)ケイ素化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。また、固相の形態は、液相と容易に分離できる形状であればどのような形態でもよいが、表面積率を上げるためには粒状の形態をとることが好ましい。さらに、特定の脂質二重膜粒子またはその断片と特異的に結合する特異的結合物質を用いて分離する過程で、固相に結合した脂質二重膜粒子(断片)を落とすことなく不要な成分を効率的に除去する洗浄の効率を上げる目的で、粒状の担体の中に鉄や磁性体などを導入して、磁気装置(磁石)を用いて分離できる形態の固相を用いることも可能である。このような磁気装置(磁石)による分離が可能な固相は、一般に「磁性ビーズ」として知られている。
本形態に係る検出方法において、後述する分離工程が磁性ビーズを利用して行われる場合、特異的結合物質は、磁性ビーズを含むものであるか、または磁性ビーズと結合可能なものである。これにより、後述する分離工程における特異的結合物質の捕集は磁気装置(磁石)を用いて行うことができる。特異的結合物質が磁性ビーズを含むものである場合、当該特異的結合物質は磁性ビーズと結合したものであることが好ましい。また、特異的結合物質が磁性ビーズと結合可能なものである場合、結合可能とする形態は種々存在する。例えば、特異的結合物質を、ビオチンと、アビジンまたはその誘導体(例えば、ストレプトアビジン、ニュートラビジンなど)との一方で標識し、磁性ビーズをこれらの他方で標識する形態が挙げられる。また、特異的結合物質をグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)で標識し(特異的結合物質がタンパク質である場合に好ましくは当該特異的結合物質をGST融合タンパク質とし)、磁性ビーズをグルタチオンで標識する形態が挙げられる。なかでも、特異的結合物質がビオチンで標識されたものであり、かつ、磁性ビーズがアビジンまたはその誘導体で標識されたものや、特異的結合物質が磁性ビーズに直接化学結合しているものなどであることが好ましい。
さらに、磁性ビーズが用いられる場合、当該磁性ビーズは、ブロッキング処理を施されたものであることが好ましい。磁性ビーズに対してブロッキング処理を施すことにより、測定試料中の夾雑物(測定対象物質以外のタンパク質、脂質、糖、その他)や脂質二重膜を染色する色素などの磁性ビーズへの非特異的な吸着または結合を防止することができるため、目的とする脂質二重膜粒子またはその断片以外のものの結合を防止することが可能となる。その結果、脂質二重膜粒子またはその断片が存在しない場合の色素の発光が低減され、より高精度に所望の脂質二重膜粒子またはその断片を検出することが可能となる。
磁性ビーズのブロッキング処理は、磁性ビーズをブロッキング剤と接触させることにより行うことができる。上述したように、磁性ビーズは特異的結合物質と結合したものであってもよいし、アビジン(誘導体)や抗ビオチン抗体による標識によって特異的結合物質と間接的に結合可能なものであってもよいが、いずれの場合であっても、磁性ビーズに特異的結合物質やアビジン(誘導体)、抗ビオチン抗体を結合させる前にブロッキング処理を施してもよいし、磁性ビーズにこれらを結合させた後にブロッキング処理を施してもよい。ブロッキング処理に用いられるブロッキング剤の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。ブロッキング剤としては、例えば、スキムミルク、フィッシュゼラチン、ウシ血清アルブミン(BSA)、界面活性剤、カゼイン、プロタミン、ポリエチレングリコール、トレハロース、デキストラン等が挙げられる。また、スキムミルク、フィッシュゼラチン、またはウシ血清アルブミン(BSA)のような動物由来の成分ではなく化学合成物質から構成されるものは、特性および機能が安定しているという観点から、ECL Blocking AgentやECL Prime Blocking Reagent(いずれもGEヘルスケア・ジャパン株式会社製)といった市販のブロッキング剤を用いることも好ましい。ブロッキング剤は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
なお、生体試料への上記特異的結合物質の添加量について特に制限はなく、従来公知の知見を参照しつつ適宜決定することができる。また、例えば特異的結合物質として抗体や改変抗体を用いる場合には、生体試料に特異的結合物質としての抗体または改変抗体を添加した後、生体試料中に含まれる脂質二重膜粒子またはその断片の表面に存在する抗原(表面抗原)と反応させる。この際、抗体等と表面抗原との間での抗原抗体反応を十分に進行させるための反応条件は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、室温にて5〜30分間程度インキュベートすればよい。また、反応終了後、試料を緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)など)を用いて希釈してもよい。
(分離工程)
本工程では、上述した特異的結合物質添加工程において生体試料に添加された特異的結合物質を捕集する。この操作を通じて、特異的結合物質が特異的に結合した所定の分子が表面に存在する脂質二重膜粒子またはその断片を分離することができる。
本工程において、特異的結合物質の捕集、およびそれによる所定の脂質二重膜粒子またはその断片の分離を行う具体的な手法について特に制限はなく、特異的結合物質に施された分離可能とするための標識(修飾)の形態に応じて適宜選択されうる。例えば、特異的結合物質が磁性ビーズを含むものであるか、または磁性ビーズと結合可能なものである場合に、分離工程は、磁気装置(磁石)を用いて行うことが可能である。また、セルソーターを用いて、特異的結合物質が結合した脂質二重膜粒子またはその断片を分離する方法も挙げられる。なお、磁性ビーズを用いる場合、商業的に入手可能なものとしては、Magnetic-Particles-DMなどが挙げられる。磁性ビーズは四酸化三鉄などの磁性微粒子とポリスチレンなどのポリマーとの複合体であることが好ましいが、これに限定されない。磁性ビーズがポリマー複合体である場合、磁性微粒子は磁性ビーズ内に分散して埋め込まれており、磁石を近づけると磁化され、遠ざけると磁化が消失する超常磁性の性質を示す。特異的結合物質を磁性ビーズに結合させる方法として、磁性ビーズの表面を加工してアミノ基やカルボキシル基などの官能基を付加することにより、さまざまな物質を化学的に固定化したり、イオン交換体として用いたりすることができる。当業者であれば、例えばDynabeads(R)、Mag Sepharose、Therma-Max(R)、Sepa-Max(R)などを適宜使用することができる。間接結合の場合には、磁性ビーズは低分子であるビオチンと簡便かつ強固に結合するアビジンまたはその誘導体を固定化したものや、特異的結合物質が磁性ビーズに直接化学結合しているものなどであることが特に好ましい。
なお、測定対象である脂質二重膜粒子の大きさに関する情報を同時に検出したい場合には、磁性ビーズの粒径は測定系の検出最小感度以下であることが好ましい。例えば、現在の一般的なフローサイトメーターでは、前方散乱光(FS)であれば0.5μm以下、一般的な可視領域のイメージサイトメーターでは、最小分解能である0.2μm以下であることが好ましいということになる。この場合には、測定対象である脂質二重膜粒子の大きさの定義によって領域を分割した上で計数値を得ることができるため、所定の表面抗原を有し、かつ所定のサイズを有する脂質二重膜粒子の定量が可能となる。一例をあげると、脂質染色計測ゲート内の前方散乱光(FS)が0.5〜1.0μmのイベント数を計数することにより、国際血栓止血学会(ISTH)などにより定義されたマイクロパーティクル(MP)の数などを計数(定量)することができる。これは、従来では研究レベルでしか計測できなかった測定項目を、臨床検査などへ応用する場合に、大変有効である。
一方、サブミクロン以下の小さな粒子またはその断片を検出する場合で、大きさに関する情報を得ることなく粒子および断片の数のみを計数したいのであれば、磁性ビーズの粒径を検出領域内に設定することもできる。これにより、脂質染色計測ゲート内の前方散乱光(FS)が磁性ビーズの大きさの整数倍のイベント数を計数することで、微小な粒子および断片について、感度をさらに向上させた状態で計数することが可能となる。これは、エクソゾームのような微小なものを検出して、臨床検査などへ応用する場合に、大変有効である。
以上のような観点から、磁性ビーズの粒径(直径)の具体的な値は適宜設定可能であるが、一例として、磁性ビーズの粒径(直径)は好ましくは50〜3000nmである。
本工程においては、特定の脂質二重膜粒子またはその断片と特異的に結合する特異的結合物質が直接的に固相(例えば、磁性ビーズ)と結合していれば、目的としている特定の脂質二重膜粒子またはその断片を直接的に固相に捕捉することができる。あるいは、特定の脂質二重膜粒子またはその断片と特異的に結合する特異的結合物質を認識して捕捉できる物質が結合した固相によって間接的に目的としている特定の細胞を固相に捕捉することでもよい。磁気装置は、磁性ビーズを帯びた脂質二重膜粒子またはその断片を分離できることが望ましく、商業的に入手可能なものとしては、例えばMACSやCell Separation Magnetが挙げられるが、これらに限定されず、磁性ビーズを使用して特定の脂質二重膜粒子またはその断片を分離可能ないかなる磁気装置、磁性ビーズも用いられうる。
磁性ビーズ等の固相を用いて分離された検出対象である脂質二重膜粒子またはその断片は、必要に応じて洗浄等の処理を施され、後述する検出工程に供される。
(検出工程)
本工程では、上述した分離工程において分離された脂質二重膜粒子またはその断片を、色素添加工程において添加された色素(脂質を染色している)の発光に基づいて検出する。上記色素の発光に基づく脂質二重膜粒子またはその断片の検出の具体的な形態について特に制限はなく、蛍光色素を利用する形態や着色された磁性ビーズを利用する形態などに代表される従来公知の知見が適宜参照されうるが、フローサイトメトリーまたはイメージングサイトメトリーにより行われることが好ましい。フローサイトメトリーやイメージングサイトメトリーによって検出を行うための具体的な手順については特に制限はなく、正確な値が精確に得られる限り、ここでも従来公知の知見が適宜参照されうる。
本発明に係る検出方法では、色素が染色する標的が脂質二重膜そのものである。したがって、検出対象である脂質二重膜粒子またはその断片を染色する色素の量は十分多く、従来一般的に用いられている蛍光標識抗体を用いた検出のように、脂質二重膜粒子またはその断片の表面に存在する所定の分子(例えば、膜タンパク質)の量に依存することはない。このため、例えばフローサイトメトリーにより色素の発光を測定すると、脂質二重膜そのものが蛍光を発することから、十分な蛍光強度を確保することができる。その結果、ノイズ源となりうるバックグラウンドの自家蛍光に対して十分なS/N比で検出を行うことが可能である。これに対し、従来の技術では、蛍光強度が表面抗原量(識別マーカーの細胞表面の分布量による差、微粒子表面積の広さ、患者間差、病態による差)に依存してしまうことから、目的とする蛍光強度(ひいてはS/N比)を十分に確保することができないという問題があったのである。
この点を利用して、脂質二重膜粒子またはその断片の検出においては、複数のチャネルを用いて蛍光波長の異なる2色以上の蛍光の蛍光強度を測定することが好ましい。好ましい形態において、蛍光波長の異なる2色以上の蛍光の少なくとも一つは上記色素が発光する蛍光であり、他の少なくとも一つは検出対象である脂質二重膜粒子またはその断片が発光する自家蛍光である。
本工程の好ましい形態においては、検出された脂質二重膜粒子またはその断片の定量を行うことができる。ここで、検出対象が脂質二重膜で閉じた粒子(例えば、細胞外小胞)であれば、その表面積に比例して染色され、蛍光等の発光が生じる。したがって、例えば2次元プロット図のX軸およびY軸に異なる波長の蛍光強度(例えば、色素が発光する蛍光波長の蛍光強度および自家蛍光の蛍光波長の蛍光強度)をプロットすると、線形関係を維持することとなる。そして、この線形関係にある領域のイベントが検出対象の脂質二重膜粒子またはその断片であると判別することができる。また、片方の軸に散乱光強度をプロットした場合には、散乱理論に従った相関関係(例えばフラウンフォーファ回折領域であれば断面積)が維持されることとなる。そのため、このようにして得られた散乱光強度情報に基づき、検出した脂質二重膜粒子またはその断片のサイズによる分布図(ヒストグラム)を作成することができる。そして、予め定義されたサイズごとの脂質二重膜粒子またはその断片の数を計測し、定量を完了することができる。ここで例えば、マイクロパーティクル(MP)のサイズは国際血栓止血学会(ISTH)によって定義されており、当該サイズの下限値は分析プラットホームであるフローサイトメーターの前方散乱光の最小感度から500nm(0.5μm)とされ、小型血小板やアポトーシス小体(AB)の影響を排除する目的で当該サイズの上限値は1000nm(1.0μm)とされている。なお、検出対象を含む生体試料が前処理工程などを介して予めフィルタリングされている場合には、散乱光強度情報に基づくヒストグラムの作成およびこれによる計数工程は省略され、計測された粒子またはその断片の数をそのまま定量に用いることができる。また、上述したように、磁性ビーズを用いた分離を行う場合において、サイズによる分布図(ヒストグラム)を作成するときには、通常、磁性ビーズのサイズを検出対象のサイズを定義するための下限値よりも十分小さく設定する必要がある。ただし、場合によっては、磁性ビーズのサイズを検出対象のサイズを定義するための上限値よりも十分大きく設定することによっても、(サイズを識別することはできないものの)計数(定量)は行うことが可能である。
ここで、本工程において、検出された脂質二重膜粒子またはその断片の中から、マイクロパーティクル(MP)領域の粒子(断片)の定量をフローサイトメトリーにより実施する具体的な手法の一例について、図1を参照しつつ説明する。なお、以下では、脂質染色に用いられる蛍光色素が第1の蛍光波長(FL1)を有し、脂質二重膜粒子の表面に存在する抗原に対する抗体を標識している蛍光色素が第2の蛍光波長(FL2)を有している場合を例に挙げて説明する。
図1に示す「第1プロット」は、前方散乱光(FS;Forward Scatter)および側方散乱光(SS;Side Scatter)を用いた2次元プロット(例えば、X軸=FS(Log)、Y軸=SS(Log))である。これにより、散乱光を用いて測定対象粒子の大きさに関する情報を得ることが可能である。
次いで、フローサイトメーターの感度設定を調節するために、1μm標準粒径ビーズ(ポリスチレン製など)を測定する。そして、測定対象となる粒子イベントのヒストグラム(後述する第7プロット:X軸=FS(Log)、Y軸=イベント数)を作成し、イベントのピーク位置が例えばX軸アドレスの101となるようにFS感度の調整を行う。一方、SS感度については、イベント全体が入るように感度の調整を行う。なお、測定対象となる脂質二重膜粒子などがフローサイトメーターのFSの最小検出感度(一般的なフローサイトメーターではサブミクロン領域)よりも小さい場合には、大きさの指標としてFSではなくSSを用いることが好ましい。この場合には、微小な標準粒径ビーズを測定することによりSSヒストグラムを作成し、イベントのピーク位置が例えばX軸アドレスの101となるようにSS感度の調整を行い、FS感度についてはイベント全体が入るように感度の調整を行えばよい。
次に、「第2プロット」は、第1の蛍光波長(例えば、525nm)の蛍光強度(FL1)および第2の蛍光波長(例えば、575nm)の蛍光強度(FL2)を用いた2次元プロット(例えば、X軸=FL2(Log)、Y軸=FL1(Log))である。これにより、測定対象粒子の脂質染色による2色の蛍光波長情報を同時に得ることができ、測定対象粒子を自家蛍光物質と分離するためのゲート(EVゲート)を設定することができる。
次いで、フローサイトメーターの感度設定を調節するために、脂質二重膜粒子などを測定する。そして、測定対象となる脂質染色イベントが、第2プロット上においてy=[傾き]x+[切片](ここで、[傾き]=1.0であり、かつ、[切片]=0.0)となるように、感度の調整を行う。この際、測定対象としては、染色試料において自家蛍光がほとんどない脂質小胞などを利用するとよい。ここで、人工脂質二重膜小胞(人工リポソーム、DMPC:ジミリストイルホスファチジルコリン)をフローサイトメトリーにより測定して得られた第1プロットおよび第2プロットを図2に示す。図2の上段は本発明の手法により脂質染色を行ったサンプルの測定結果を示し、図2の下段は脂質染色を行わなかったサンプルの測定結果を示す。同様に、ウシ胎児血清(FBS;Fetal Bovine Serum)をフローサイトメトリーにより測定して得られた第1プロットおよび第2プロットを図3(上段:脂質染色サンプル、下段:脂質未染色サンプル)に示し、OVCAR−3細胞をフローサイトメトリーにより測定して得られた第1プロットおよび第2プロットを図4(上段:脂質染色サンプル、下段:脂質未染色サンプル)に示す。なお、図2〜図4に示す結果を測定したサンプルはいずれも、脂質二重膜粒子の表面にEpCAM(CD326)抗原が存在するものである。したがって、これらの結果は、当該抗原に対する蛍光標識抗体(抗CD326抗体)と、脂質二重膜を染色する蛍光色素とを用いて得られたものである。このようにして第2プロット上での感度の調整を行った後に、測定対象となる粒子イベントのヒストグラム(後述する第5プロットおよび第6プロット:X軸=FL1(Log)またはFL2(Log)、Y軸=イベント数)を作成し、ネガティブイベントの上限位置がX軸アドレスの4×100以下となるように、FL1およびFL2の感度の調整を行う。この際、第2プロットのEVゲートの下限位置は、X軸アドレスおよびY軸アドレスの4×100の位置に設定する。
「第3プロット」は、前方散乱光(FS)および第1の蛍光波長(例えば、525nm)の蛍光強度(FL1)を用いた2次元プロット(X軸=FS(Log)、Y軸=FL1(Log))である。これにより、測定対象である脂質二重膜粒子の大きさに関する情報と脂質染色に関する情報とを同時に確認することができる。なお、必要に応じて、第2プロットのEVゲート内のイベントのみを表示したプロット図を作成してもよい。
「第4プロット」は、「第3プロット」と同様に作成される、前方散乱光(FS)および第2の蛍光波長(例えば、575nm)の蛍光強度を用いた2次元プロット(X軸=FS(Log)、Y軸=FL1(Log))である。これにより、上記と同様に測定対象である脂質二重膜粒子の大きさに関する情報と脂質染色に関する情報とを同時に確認することができる。なお、第4プロットについても、必要に応じて、第2プロットのEVゲート内のイベントのみを表示したプロット図を作成してもよい。
「第5プロット」は、第1の蛍光波長(例えば、525nm)の蛍光強度(FL1)についてのヒストグラム(X軸=FL1(Log)、Y軸=イベント数)である。これにより、測定対象である脂質二重膜粒子の脂質染色イベント(ポジティブイベント)と脂質未染色イベント(ネガティブイベント)との蛍光強度の違いから、EVゲートの下限位置が適切かどうかを確認することができる。なお、必要に応じて、第2プロットのEVゲート内のイベントのみを表示したプロット図を作成してもよい。
「第6プロット」は、「第5プロット」と同様に作成される、第2の蛍光波長(例えば、575nm)の蛍光強度(FL2)についてのヒストグラム(X軸=FL2(Log)、Y軸=イベント数)である。これにより、上記と同様に、測定対象である脂質二重膜粒子の脂質染色イベント(ポジティブイベント)と脂質未染色イベント(ネガティブイベント)との蛍光強度の違いから、EVゲートの下限位置が適切かどうかを確認することができる。なお、第6プロットについても、必要に応じて、第2プロットのEVゲート内のイベントのみを表示したプロット図を作成してもよい。
最後に、「第7プロット」は、第3プロットのEVゲート内のイベントについての前方散乱光(FS)のヒストグラム(X軸FS(Log)、Y軸=イベント数)である。これにより、測定対象である脂質二重膜粒子をその大きさに関する情報に基づいて分類し、各群の計数値を算出(定量)することができる。例えば、測定されたEVの全量(EV−all)を表示した第7プロット(FSヒストグラム)を、FSの区間マイクロパーティクル(MP)の定義である2種類の標準ビーズ(粒径0.5μmおよび粒径1.0μm)を用いて3分割する。そして、EV−all、小型EV(MP領域より小さいEV)、MP(MP領域のEV)、大型EV(MP領域より大きいEV)の4項目について、算出値(脂質二重膜粒子の数)を得ることができる。このようにして、所定の表面抗原を有し、かつ所定のサイズを有する脂質二重膜粒子の定量が完了する。なお、第7プロットにおいても、必要に応じて、第2プロットのEVゲート内のイベントのみを表示したプロット図を作成してもよい(第3プロット:EVゲート)。
また、測定対象である脂質二重膜粒子をその大きさに関する情報に基づいて分類し、各群の計数値を算出(定量)する際に、大きさの情報として、前方散乱光の代わりに脂質染色量を用いることも可能である。この場合には、第5プロットまたは第6プロットを大きさの指標として利用して、第7プロットと同様にヒストグラムの分割領域に従った定量値を算出することによって、任意のサイズ情報に基づいた算出値(脂質二重膜粒子の数)を得ることができる。
以上、フローサイトメトリーによって生体試料中の脂質二重膜粒子またはその断片を検出(定量)する場合を例に挙げて本発明の検出方法を説明したが、場合によっては、他の手法を用いて検出(定量)を行ってももちろんよい。フローサイトメトリー以外に検出に用いられうる手法としては、イメージングサイトメトリーなどが挙げられる。
本発明の第2の形態によれば、上述した第1の形態に用いられる、脂二重膜粒子またはその断片の検出用キットが提供される。当該検査用キットは、その必須構成要素として、
生体試料中の脂質二重膜を染色する色素と、
前記脂質二重膜粒子またはその断片の表面に存在する所定の分子に特異的に結合する特異的結合物質と、
前記特異的結合物質を捕集して前記脂質二重膜粒子またはその断片を分離するための分離試薬と、
を含む。ここで、上記色素および上記特異的結合物質の具体的な形態については上述したとおりであるため、ここでは詳細な説明を省略する。また、上記特異的結合物質が磁性ビーズを含むものである場合には、当該磁性ビーズが分離試薬として用いられる。よってこの場合、特異的結合物質と分離試薬とは複合体を形成した状態で検出用キット中に含まれることになる。一方、特異的結合物質が磁性ビーズと結合可能なものである場合、当該磁性ビーズは特異的結合物質とは別体として検出用キット中に含まれることになる。
なお、フローサイトメトリーを用いて検出を行う場合、検出用キットは、検出対象である脂質二重膜粒子またはその断片のサイズの上限値および/または下限値を規定するためのセッティングビーズや、濃度既知の計数ビーズ、脂質二重膜粒子またはその断片の検出領域のうち、最小強度閾値を定義するための閾値ビーズなどをさらに含んでもよい。閾値ビーズの平均粒径、計数ビーズの平均粒径、セッティングビーズの平均粒径は、図1等を参照しつつ上述した手法により、適切に決定することが好ましい。
本発明により提供される検査用キットは、上述した構成要素以外にも、例えば、試薬や試料を希釈するための緩衝液、反応容器、陽性対照、陰性対照、検査プロトコールを記載した指示書等を含むものであってもよい。これらの要素は、必要に応じて予め混合しておくこともできる。このキットを使用することにより、本発明における脂質二重膜粒子またはその断片の検出が簡便となり、早期の治療方針決定や予後の診断、治療効果の確認などに非常に有用である。
以下、実施例を用いて本発明の実施形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例に限定されるわけではない。
(比較例)
従来の技術を用いて、ヒト上皮様細胞癌を由来とするA431細胞(表面にはCD326抗原が存在する)が放出した細胞外小胞の検出を試みた。具体的には、A431細胞の培養液を遠心分離して大きな粒子を除去し、細胞外小胞を含む上清を取り出してこれにFBSを添加した。そして、蛍光色素HiLyteTM Fluor 647で標識された抗CD326抗体を添加し、フローサイトメトリーで測定して得られた蛍光強度(波長575nm)のヒストグラムを図5の上段に示す。一方、図5の下段は、抗CD326抗体を添加しなかった陰性対照であり、上段と比較して蛍光強度は低い場所に分布している。
図5に示す結果から、A431細胞に由来する細胞外小胞に蛍光標識抗体が結合することで蛍光強度が増大していることがわかる。しかしながら、上段および下段のヒストグラムはオーバーラップしていることから、蛍光標識抗CD326抗体由来の蛍光のうち、バックグラウンドの蛍光から分離できない集団が存在することがわかる。
(実施例1)
上述した比較例と同様に、ヒト上皮様細胞癌を由来とするA431細胞(表面にはCD326抗原が存在する)が放出した細胞外小胞の検出を試みた。ただし、検出には本発明に係る検出方法を適用した。具体的には、A431細胞の培養液を遠心分離して大きな粒子を除去し、細胞外小胞を含む上清を取り出してこれにFBSを添加した。そして、このサンプルに、脂質を染色する色素である五陵化学社製のPolaricを添加した。次いで、磁性ビーズを付けた抗CD326抗体(ミルテニー製抗CD326磁性ビーズ)を添加した。その後、磁石を用いて磁性ビーズを捕捉し、洗浄した後、磁石を外して溶液を回収した。回収した溶液をフローサイトメトリーを用いた検出に供した。この際、488nmの青色レーザー光源を用いて上記色素を励起させた。その結果得られた第2プロットおよび第6プロット(蛍光強度(波長525nm)のヒストグラム)を図6に示す。なお、図6の上段はポジティブコントロールの測定結果を示し、下段はネガティブコントロールの測定結果を示す。
図6に示す結果から、本実施例によれば、検出対象に由来する蛍光スペクトルを、自家蛍光に由来するバックグラウンド蛍光の蛍光スペクトルとは分離して得ることができることがわかる。このため、バックグラウンド蛍光の影響を排除した形で、すなわち高いS/N比で検出対象である脂質二重膜粒子またはその断片の検出を行うことができる。また、本実施例におけるフローサイトメトリーを用いた検出の際に、2つのチャネルを用いて蛍光波長の異なる2色の蛍光の蛍光強度を測定した(第1の蛍光波長525nm、第2の蛍光波長575nm)。その結果得られたスキャッタグラム(横軸:蛍光波長575nm、縦軸:蛍光波長525nm)を図7に示す。
図7に示すように、脂質を染色する色素の蛍光スペクトルおよび自家蛍光(バックグラウンド蛍光)の蛍光スペクトルが異なる複数の蛍光波長を適宜選択することで、脂質を染色する色素由来の蛍光強度における波長間の比と自家蛍光由来の蛍光強度における波長間比を異ならせることができ、スキャッタグラム上で完全に分離することが可能となる。その結果、検出対象である脂質二重膜粒子またはその断片のみを確実に選択的に検出することが可能となる。
(実施例2)
続いて、細胞表面におけるEpCAM(CD326)抗原の発現量が異なる親細胞(ペアレントセル)を3種類用意して、各細胞の表面における当該抗原の発現量の違いを確認した。ここで、親細胞としては、ヒト卵巣漿液性腺癌由来細胞(OVCAR−3)、ヒト扁平上皮癌由来細胞(A431)、およびヒト前立腺癌由来細胞(PC3)を用いた。なお、これらの細胞については、American Type Culture Collection(ATCC)より入手した。また、これらの親細胞のそれぞれの細胞表面におけるEpCAM(CD326)抗原の発現量は、PC3<A431<OVCAR−3であることが知られている。このため、これらの親細胞における表面抗原量を確認し、次いで、これらの親細胞から脂質二重膜粒子(細胞外小胞)を発現させ、本発明に係る検出方法を実施することにより当該脂質二重膜粒子(細胞外小胞)の検出を試みた。これにより、本発明に係る検出方法によれば表面抗原の量によらずに検出が可能であるかどうかを検証した。
具体的には、まず、上記で用意した3種類の親細胞の表面における抗原の量を、フローサイトメーターを用いて確認した。
この際、ポジティブコントロールの検出には、1次抗体として抗EpCAMマウス抗体を用い、2次抗体にはフィコエリトリン(PE)蛍光色素で標識された抗マウスIgG抗体を用いた。一方、ネガティブコントロールの検出には、1次抗体を用いずに2次抗体としてPE蛍光色素で標識された抗マウスIgG抗体のみを用いた。
また、フローサイトメーターの設定は、図1〜図4を参照しつつ上記で説明したのと同様の方法を用いて行った。フローサイトメーターの表示については、本実施例における測定によって得られる第1プロット(2次元プロット:X軸=FS(Log)、Y軸=SS(Log))および第6プロット(FL2のヒストグラム:X軸=FL2(Log)、Y軸=イベント数)を用いて、確認を行った。ここで、OVCAR−3細胞をフローサイトメトリーにより測定して得られた第1プロットおよび第6プロットを図8に示す。図8の左側は本発明の手法により脂質染色を行ったサンプルの測定結果を示し、図8の右側は脂質染色を行わなかったサンプルの測定結果を示す。同様に、A431細胞をフローサイトメトリーにより測定して得られた第1プロットおよび第6プロットを図9(左側:脂質染色サンプル、右側:脂質未染色サンプル)に示し、PC3細胞をフローサイトメトリーにより測定して得られた第1プロットおよび第6プロットを図10(左側:脂質染色サンプル、右側:脂質未染色サンプル)に示す。
図8〜図10に示す結果から、各細胞の測定におけるポジティブコントロールの第6プロットの結果から、X軸アドレスの平均値は、OVCAR−3細胞で150(図8)、A431細胞で24.7(図9)、PC3細胞で12.8(図10)となり、それぞれの親細胞の表面におけるEpCAM(CD326)抗原の発現量は、PC3<(1.9倍)<A431<(11.7倍)<OVCAR−3となった。
一方、上記で用意した親細胞から、脂質二重膜粒子(細胞外小胞)を発現させた。具体的には、培地(RPMI+10%FBS、0.2μmフィルターで濾過)の交換後に、各細胞を24時間、CO2インキュベーションすることにより、各細胞から脂質二重膜粒子(細胞外小胞)を発現させた。そして、インキュベーションした試料10mLを500×gで10分間遠心して、ディッシュに付着する前のde novo細胞およびラージアポトーシス断片を除去した。次いで、得られた遠心上清をさらに20000×gで1時間遠心して、得られたペレットを冷凍保存した。そして、測定前にサンプルを融解させて、0.2μmフィルターで濾過したFBS中に懸濁させて、調製用試料とした。次いで、抗EpCAM抗体で標識された磁性ビーズを用い、調製用試料に対してポジティブセレクションを行って、選択されたサンプルを測定用試料とした。
その後、上記と同様にしてフローサイトメーターの設定を再度行った後に、測定用試料の測定を行った。フローサイトメーターの表示については、本実施例における測定によって得られる第1プロット(2次元プロット:X軸=FS(Log)、Y軸=SS(Log))および第2プロット(2次元プロット:X軸=FL2(Log)、Y軸=FL1(Log))を用いて、確認を行った。このようにして得られたプロット(第1プロットおよび第2プロット)を図11〜図13に示す。図11は、脂質染色を施したOVCAR−3細胞由来のEVを測定した結果を示す第1プロット(左側)および第2プロット(右側)である。同様に、図12は、脂質染色を施したA431細胞由来のEVを測定した結果を示す第1プロット(左側)および第2プロット(右側)であり、図13は、脂質染色を施したPC3細胞由来のEVを測定した結果を示す第1プロット(左側)および第2プロット(右側)である。
ここで、従来公知の手法では、細胞表面における標的抗原の量に依存する蛍光色素マーカーの蛍光強度を利用して当該抗原の量を検出(定量)していたことから、ノイズ領域に埋もれてしまうイベントの存在が不可避であり、細胞表面における標的抗原の量の違いによって検出感度が変わってしまうという問題があった。これに対し、本発明に係る定量方法によれば、上記の結果から明らかなように、脂質染色を利用することで、細胞表面における標的抗原の量の違いによらず検出が行えることが確認された。なお、図11〜図13に示すそれぞれの第1プロットに示される総イベントと、それぞれの第2プロットにおけるEVゲート内のイベント数との比率を計算すると、OVCAR−3細胞(図11)で44%(502/1149)、A431細胞(図12)で71%(1134/1605)、PC3細胞(図13)で37%(214/575)であった。なお、第1プロットで検出できた総細胞数のうち、磁性ビーズで選択した細胞内小胞などが主成分を占めるが、タンパク質凝集などによる非特異反応物質などが微量に含まれている場合がある。また、脂質染色強度は脂質二重膜粒子の大きさと比例するため、極微小なものはEVゲート内に含まれておらず、検出できていない。これはフローサイトメーターの蛍光強度の検出感度に依存するものである。