以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照しながら説明する。添付図面において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
<1.第1の実施形態>
[エレベーターの全体構成]
図1は、第1の実施形態に係るエレベーターの全体構成例を示す説明図である。
なお、図1はエレベーターが設置される建物の階床のうち模式的に最下階と最上階のみを示しているが、本実施形態は2階床以上ある建物に対して設置された、テールコード(給電線)を備えるエレベーターに対して適用可能である。
図1に示すエレベーター100は、異常の有無を監視する監視装置101と、この監視装置101と通信回線(図示せず)を介して接続され、エレベーター100の状態を遠隔的に監視する監視センタ(図示せず)とを備えている。
エレベーター100は、建物に形成された昇降路1と、建物の昇降路1内を昇降する乗りかご2と、一端が乗りかご2に取り付けられた主ロープ3と、この主ロープ3の他端が取り付けられ、昇降路1内に吊り下げられた釣合い錘4とを備えている。また、エレベーター100は、昇降路1の上方に位置する機械室5に設けられ、乗りかご2及び釣合い錘4を駆動する巻上機6と、この巻上機6の近傍に配置されたそらせ車7とを備えている。
さらに、エレベーター100は、乗り場8側に開閉可能に設けられた、乗りかご2のドア2d(以下「かごドア」とも称す)と連動して昇降口を開閉する乗り場ドア8Aと、乗り場8側の昇降口近傍の壁に設けられ、乗りかご2の乗り場呼びの登録を行う乗り場釦(図示せず)とを備えている。乗り場呼びを行えるものであれば乗り場釦に限られず、例えば行先階登録装置でもよい。
また、エレベーター100は、機械室5に設けられ、エレベーター100全体の動作を制御する制御装置9と、乗りかご2の天井の上に設置されて常用電源(三相交流電源10に相当)の停電中に使用される電力を蓄積するリチウム電池やキャパシタ等の非常用の蓄電装置(バッテリー)(図示略)とを備えている。
巻上機6は、主ロープ3が巻き掛けられた駆動シーブ6Aと、この駆動シーブ6Aを回転させるモーター6Bと、駆動シーブ6Aの回転を制動するブレーキ装置(図示せず)とを有し、これらのモーター6B及びブレーキ装置は、制御装置9に電気的に接続されている。したがって、巻上機6は、制御装置9からの制御指令を受けてモーター6B及びブレーキ装置を作動させることにより、乗りかご2を釣合い錘4に対して相対的に昇降させるようにしている。
また、巻上機6のモーター6Bの出力軸には、モーター6Bの駆動に応じてパルス信号を出力するエンコーダ(図示略)が取付けられており、このエンコーダは制御装置9に通信ケーブル等(図示せず)を介して通信接続されている。そして、エンコーダ6Cから出力されたパルス信号は制御装置9へ送信され、乗りかご2の位置を取得するための演算に用いられる。
制御装置9は、乗りかご2の昇降動作を制御したり、乗りかご2への電力供給を制御したり、乗りかご2内の操作画面の表示を制御するための各種の演算を行ったりする。本実施形態の特徴をなす制御装置9の具体的な機能を示す構成については、後で詳細に述べる。
この制御装置9は、昇降路1内に配設された可撓性を有するテールコード14、中継器15、及び通信ケーブル16を介して乗りかご2内の電気機器に電気的に接続されている。また、制御装置9は、常用電源の停電が発生した際に、エレベーター100の通常運転時よりも乗りかご2を低速で走行させ、最寄階に停止させてから乗り場ドア8A及びかごドア2dを開放する地震管制運転を行うようにしている。
テールコード14は、一端が乗りかご2の下部に接続され、他端が中継器15に接続されており、昇降路1内においてU字状に垂下されている。中継器15は、昇降路1の壁面に固定されており、乗りかご2の各電気機器と制御装置9との間で行われる通信を中継する装置である。
乗りかご2には、かごドア2dの上方にかごドア2dの開閉状態に応じた検知信号を出力するドアセンサー26が設置されている。また、乗りかご2には、室内の温度を外気より低くするクーラー11と照明器具12が設置されている。また、乗りかご2の天井裏等に配電盤が設けられており、配電盤には電磁接触器13−1,13−2が配置されている。電磁接触器13−1,13−2は補助接点を備え、クーラー11及び照明器具12への電源の投入及び遮断に利用される。乗りかご2に設置される電気機器は、クーラー11及び照明器具12に限られないことは勿論である。
クーラー11や照明器具12等の電気機器への電力供給は、電磁接触器13−1,13−2のコイルへの電力供給を制御することにより行われる。また、乗りかご2の床下には人感センサー27が配置されている。本実施形態では、人感センサー27として、荷重センサーを用いている。また人感センサー27は荷重センサーに限るものではなく、監視カメラを用いることもできる。
監視装置101は、制御装置9と同様に、エレベーター100の異常の有無を監視する。この監視装置101は、制御装置9に電気的に接続されており、制御装置9から出力される制御指令に基づいて、エレベーター100に停電や故障等の異常が発生したかどうかを判断する。例えば、制御装置9から地震管制運転の制御指令が巻上機6へ出力されると、監視装置101は、地震管制運転の制御指令を検出し、エレベーター100に異常が発生したと判断する。そして、監視装置101は、エレベーター100に異常が発生した旨の異常通報を監視センタへ行う。
[エレベーターの電気系統]
図2は、エレベーター100の電気系統の概略を示す説明図である。
図2に示すように三相交流電源10(図2では単相交流電源として表現されている)には、クーラー11などの起動時に突入電流が発生する高負荷の電気機器(以下「高負荷電気機器」とも称す)と、照明器具12などの突入電流が発生しない低負荷の電気機器(以下「低負荷電気機器」とも称す)が同じテールコード14を介して接続されている。なお、突入電流が発生したとしてもピーク電流値が比較的小さく回路全体に及ぼす影響が少ない場合には、低負荷機器に区分してもよい。
ここで、テールコード14を構成する線心14a,14bは、起動時に突入電流が発生するクーラー11への電力供給を行うものとしての線心数を有している。即ち、線心14a,14bは、複数本の線心の集合体ともいえる。本実施形態では、低負荷である照明器具12への電力供給は、起動タイミングをクーラー11から遅らせて同じテールコード14を共用して行うようにしている。このため、本実施形態は、突入電流が発生するクーラー11のためのテールコード(線心)と、低負荷である照明器具12のためのテールコード(線心)を個々に備える場合よりも、テールコード14全体としての必要な線心数を低減することができる。
テールコード14とクーラー11を接続する伝送路上には、電磁接触器13−1の補助接点(第1スイッチの例)SW1が接続されている。また、テールコード14と照明器具12を接続する伝送路上には、電磁接触器13−2の補助接点(第2スイッチの例)SW2が接続されている。以下、この補助接を「スイッチ」と称する。クーラー11や照明器具12等の電気機器への電力供給は、電磁接触器13−1,13−2のコイルへの電力供給を制御することにより行われる。スイッチSW1をオンすることにより、クーラー11に電源が投入(電源オン)され、スイッチSW1をオフすることにより、クーラー11への電源が遮断(電源オフ)される。また、スイッチSW2をオンすることにより、照明器具12に電源が投入(電源オン)され、スイッチSW2をオフすることにより、照明器具12への電源が遮断(電源オフ)される。
[制御装置の内部構成]
図3は、制御装置9の内部構成例を示すブロック図である。
図3に示すように制御装置9は、呼び検知部21、ドア状態判定部22、タイミング制御部23、電源投入部24、及び電気機器テーブル25を備える。
呼び検知部21は、乗り場釦からのホール呼び信号を検知し、ホール呼びがあったことをタイミング制御部23へ通知する。なお、複数の乗りかごの運行を管理する群管理装置(図示略)を備えた群管理エレベーターにおいて、ホールに設置された行先階登録装置(図示略)の行先階登録信号に基づいて、群管理装置が制御装置9に呼び信号を送信してもよい。
ドア状態判定部22は、かごドア2dのドアセンサー26から出力されるかごドア2dの開閉状態に応じた検知信号を受信し、この検知信号からかごドア2dの開状態及び閉状態を判定する。ドア状態判定部22は、このかごドア2dの状態についての判定結果を、タイミング制御部23に送る。
タイミング制御部23は、電気機器テーブル25を参照し、起動時に突入電流が発生する高負荷の電気機器(例えばクーラー11)を先に起動し、負荷電流が定常状態に移行した後に、突入電流が発生しない低負荷の電気機器(例えば照明器具12)を起動するタイミングを決定する。電気機器テーブル25には、乗りかご2に設置された複数の電気機器と負荷の大きさ(突入電流の有無)とが対応づけて登録されている。そして、タイミング制御部23は、各電気機器に電源を投入する又は各電気機器の電源を遮断するためのタイミング信号を、電源投入部24に送信する。このように、タイミング制御部23が、上述したように電気機器テーブル25を参照して本発明のルールに則り各電気機器の起動タイミングを決定する。なお、予め電気機器テーブル25に各電気機器の起動順番を定義した起動順番情報(図示略)をメモリに記録しておき、タイミング制御部23が、その起動順番情報に従い各電気機器の起動タイミングを設定して電源投入部24にタイミング信号を送信してもよい。
電源投入部24は、タイミング制御部23から各電気機器に電源を投入するためのタイミング信号を受信し、このタイミング信号に基づいて、該当電気機器に対応するスイッチを持つ電磁遮断器のコイルを通電する。該当電気機器に対応するスイッチがオンし、該当電気機器に電源が投入される。
[電気機器テーブル]
図4は、第1の実施形態に係る電気機器テーブルの例を示す説明図である。
図4に示す電気機器テーブル25は、「電気機器名」、「負荷(突入電流の有無)」、「スイッチ」の項目を有する。「電気機器名」は、乗りかご2に設置された電気機器の名称である。電気機器の名称に代えて、電気機器を一意に識別するための識別情報でもよい。「負荷」は、対象電気機器の起動時に突入電流を発生するものであれば高負荷に区分され、起動時に突入電流を発生しないものであれば低負荷に区分される。「スイッチ」は、対象電気機器に電力を供給するためのスイッチの名称若しくは識別情報であり、本実施形態においてこのスイッチは、電磁接触器13−1,13−2の接点に相当する。電気機器テーブル25には、複数の電気機器と突入電流の有無とを対応づけて登録されていればよい。電気機器とスイッチの対応づけは、別テーブルに登録してもよい。
[ハードウェア構成]
図5は、制御装置9が備えるコンピューターのハードウェア構成例を示すブロック図である。
ここでは、上述したエレベーター100に示された制御装置9が備えるコンピューター30のハードウェア構成例を説明する。なお、制御装置9の機能、使用目的に合わせてコンピューター30の各部は取捨選択される。例えば、表示部35及び操作部36を削除してもよい。
コンピューター30は、バス34にそれぞれ接続されたCPU(Central Processing Unit)31、ROM(Read Only Memory)32、RAM(Random Access Memory)33を備える。さらに、コンピューター30は、表示部35、操作部36、不揮発性ストレージ37、ネットワークインターフェース38を備える。
CPU31は、制御部の一例であり、本実施形態に係る各機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM32から読み出して実行する。これらのハードウェアとソフトウェアが協働することで制御装置9としての機能が実現される。なお、コンピューター30は、CPU31の代わりに、MPU(Micro-Processing Unit)等の処理装置を備えるようにしてもよい。RAM33には、演算処理の途中に発生した変数やパラメータ等が一時的に書き込まれる。
表示部35は、例えば、液晶ディスプレイモニタであり、コンピューター30で行われる処理の結果等を表示する。操作部36には、例えば、キーボード、マウス又はタッチパネル等が用いられ、ユーザーが所定の操作入力、指示を行うことが可能である。
不揮発性ストレージ37としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード等が用いられる。この不揮発性ストレージ37には、OS(Operating System)や各種のパラメータの他に、コンピューター30を機能させるためのプログラムが記録されていてもよい。例えば不揮発性ストレージ37には、電気機器テーブル25等が記憶されている。
ネットワークインターフェース38には、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられ、LAN等のネットワークNを介して各装置間で各種のデータを送受信することが可能である。
[電力供給制御処理手法の手順]
図6は、エレベーター100の起動時における乗りかご2内の電気機器への電力供給制御処理手法の手順例を示すフローチャートである。
図6に示すように、エレベーター100は、ホール呼びが発生する前は待機状態であり(S1)、かごドア2dが閉じられ、乗りかご2に設置されたクーラー11及び照明器具12の電源は切られた状態になっている。この待機状態で、制御装置9の呼び検知部21は、乗り場釦からのホール呼びがあるか否かを判定する(S2)。ホール呼びがない場合には(S2のNO)、呼び検知部21はステップS1の処理に移行して待機状態を継続する。
一方、ホール呼びがある場合には(S2のYES)、タイミング制御部23は、電気機器テーブル25を参照し、第一段階として、クーラー11を起動させるためのタイミング信号を電源投入部24に送りスイッチSW1をオンさせる。それにより、起動時に突入電流が発生するクーラー11に電力が供給され、クーラー11が起動する(S3)。
次いで、タイミング制御部23は、第二段階として、照明器具12を起動させるためのタイミング信号を電源投入部24に送りスイッチSW2をオンさせる。それにより、起動時に突入電流が発生しない照明器具12に電力が供給されて照明器具12が起動する(S4)。このときタイミング制御部23は、クーラー11が起動して定常状態に移行してから照明器具12が起動するように、照明器具12の起動タイミングを制御する。即ち、タイミング制御部23は、クーラー11が起動してから設定時間が経過後に照明器具12を起動させる。
そして、制御装置9は、乗りかご2をホール呼びが行われた階(呼び階)に移動させ、かごドア2dの開放を行い(S5)、その後、エレベーター100の通常サービスへ移行する(S6)。ステップS3,S4の各電気機器への電源オン処理と並行して、乗りかご2の移動を行ってもよい。
通常サービスへ移行後にホール呼びがない状況において、タイミング制御部23は、ドア状態判定部22による判定結果からかごドア2dが閉状態であるか否かを判定する(S7)。かごドア2dが閉じると、ドアセンサー26からかごドア閉信号が出力されるため、ドア状態判定部22はかごドア2dが閉状態か否かを判定できる。タイミング制御部23は、かごドア2dが閉状態ではない場合には(S7のNO)、かごドア2dの開閉状態の監視を継続する。
逆に、かごドア2dが閉状態である場合には(S7のYES)、タイミング制御部23は、人感センサー27の検知結果に基づいて、乗りかご2内に利用客がいるか否かを判定する(S8)。例えば、人感センサー27が荷重センサーである場合には、タイミング制御部23は、荷重センサーの測定結果から、現在乗りかご2の床にかかる荷重が積載荷重の何%であるかを計算する。測定した荷重が積載荷重の0%ではない(乗りかご2内に乗客がいる)場合には(S8のNO)、タイミング制御部23は、ステップS6の処理に移行して通常サービスを継続する。
他方、測定した荷重が積載荷重の0%である(乗りかご2内に乗客がいない)場合には(S8のYES)、タイミング制御部23は、スイッチSW1をオフしてクーラー11の電源をオフする(S9)とともに、スイッチSW2をオフして照明器具12の電源をオフする(S10)。ステップS9,S10の処理が終了後、本フローチャートの処理を終了する。
[電流電圧波形]
次に、エレベーター100の起動時における乗りかご2内の電気機器への電力供給制御処理手法について図7を参照して説明する。
図7は、エレベーター100の起動時(図6のS3,S4)における乗りかご2内の電気機器への電力供給制御処理手法を示す電流電圧波形図である。図7Aは乗りかご2内の高負荷電気機器(本例ではクーラー11)に電力を供給したときの電流電圧波形を示し、図7Bは低負荷電気機器(本例では照明器具12)に電力を供給したときの電流電圧波形を示す。
乗りかご2内の電気機器への電力供給の手順は、まず、第一段階で、起動時に突入電流I1が発生するクーラー11を起動させて電力供給を行う(図7A)。次いで、第二段階で、低負荷である照明器具12を起動させて電力供給を行う(図7B)。
図7A(a1)に示すように、スイッチSW1をオンして突入電流I1が発生するクーラー11を起動させて電力供給を行うと、第一段階から比較的大きな突入電流I1がテールコード14に流れ始める。そして、設定時間が経過後、負荷電流は安定した定常電流となり、図7A(a2)に示すように、およそ一定の電圧降下が生じる。
次いで、図7B(b1)に示すように、突入電流I1が安定した定常電流となった第二段階で、スイッチSW2をオンして低負荷である照明器具12を起動させて電力供給を行う。このとき、クーラー11の場合のような突入電流が流れない。そのため、図7B(b2)に示すように、クーラー11及び照明器具12の運転が共に継続され、テールコード14にこれらの電流が重畳された負荷電流が供給されても、乗りかご2側への供給電圧が目標電圧Vtを下回ることがなく比較的穏やかな電圧降下となる。目標電圧Vtは、テールコード14の複数の線心を共用する複数の電気機器の最低動作電圧であり、複数の電気機器の定格電圧を合計した値又はそれよりも大きな値である。
仮に、クーラー11の起動時の突入電流I1に対応するために必要な線心数が10本、定常状態において必要な線心数が5本、照明器具12のために必要な線心数が3本であるとする。クーラー11と照明器具12を同時に起動すると、15本の線心が必要になるが、クーラー11が定常状態に移行した後に照明器具12を起動した場合には、使用する線心が8本で済む。
上述した本実施形態によれば、同一電源を共用する乗りかご2内の電気機器(負荷)を、クーラー11のような突入電流が発生する高負荷電気機器と、照明器具12のような低負荷電気機器に区分する。そして、まず、高負荷電気機器(クーラー11)を起動させ、テールコード14(14a,14b)を通して電力供給を行った後、起動タイミングをずらして低負荷電気機器(照明器具12)を起動させて同じテールコード14を通して電力供給を行う。このため、突入電流が発生しない低負荷電気機器用のテールコード14の線心を、起動時に突入電流が発生する高負荷電気機器用の線心と共用することができる。それにより、テールコード14全体として実質的に低負荷電気機器用の線心数を削減することができる。
したがって第1の実施形態によれば、突入電流が発生する高負荷電気機器を低負荷電気機器よりも先に起動させるという簡単な構成で、テールコード14の線心数削減によるコスト低減及び省エネルギー効果を期待することができる。またテールコード14の重量低減による付随機器(図1の釣合い錘4、巻上機6等)の小型化と、コスト低減を期待することができる。
<2.第2の実施形態>
第2の実施形態は、本発明を、同一の昇降路において上下に連結した2つの乗りかごが設けられたダブルデッキタイプのエレベーターに適用した例である。
[エレベーターの電気系統]
図8は、第2の実施形態に係るダブルデッキタイプのエレベーター100の電気系統の概略を示す説明図である。図8において上かご2Aと下かご2Bの構成は、乗りかご2の構成と同様である。また、制御装置9の内部構成は、図3の内部構成と同様である。
図8に示すように三相交流電源10には、上かご2Aにおけるクーラー(以下「上かごクーラー」と称す)11Aなどの起動時に突入電流が発生する高負荷電気機器と、上かご2Aにおける照明器具(以下「上かご照明器具」と称す)12Aなどの突入電流が発生しない低負荷電気機器が同じテールコード14を介して接続されている。なお、以下では、上かご2Aの高負荷電気機器を「上かご高負荷電気機器」と称し、及び、上かご2Aの低負荷電気機器を「上かご低負荷電気機器」と称することがある。
また同じテールコード14には、下かご2Bにおけるクーラー(以下「下かごクーラー」と称す)11Bなどの、起動時に突入電流が発生する高負荷電気機器と、下かご2Bにおける照明器具(以下「下かご照明器具」と称す)12Bなどの低負荷電気機器が接続されている。なお、以下では、下かご2Bの高負荷電気機器を「下かご高負荷電気機器」と称し、及び、下かご2Bの低負荷電気機器を「下かご低負荷電気機器」と称することがある。
ここで、テールコード14を構成する線心14a,14bは、起動時に突入電流が発生する上かごクーラー11Aと下かごクーラー11Bへの電力供給を、起動タイミングをずらして行うものとしての線心数を有している。またテールコード14は、上かご照明器具12A又は下かご照明器具12Bへの電力供給を、突入電流が発生する上かごクーラー11A又は上かごクーラー11Bと起動タイミングをずらして行うものとしての線心数を有している。
テールコード14と上かごクーラー11Aを接続する伝送路上には、電磁接触器の補助接点(第1スイッチ)SW1が接続されている。また、テールコード14と上かご照明器具12Aを接続する伝送路上には、電磁接触器の補助接点(第2スイッチ)SW2が接続されている。同様に、テールコード14と下かごクーラー11Bを接続する伝送路上には、電磁接触器の補助接点(第3スイッチ)SW3が接続されている。また、テールコード14と下かご照明器具12Bを接続する伝送路上には、電磁接触器の補助接点(第4スイッチ)SW4が接続されている。
制御装置9は、スイッチSW1〜スイッチSW4を適宜オン・オフすることにより、上かごクーラー11A、上かご照明器具12A、下かごクーラー11B、下かご照明器具12Bへの電源を投入(電源オン)したり、電源を遮断(電源オフ)する。スイッチSW1〜スイッチSW4の各々に対応して4つの電磁接触器が、乗りかご2の天井裏等に設置されている。
[電力供給制御処理手法の手順]
図9は、エレベーター100Aの起動時における上かご及び下かご内の電気機器への電力供給制御処理手法の手順例を示すフローチャートである。
図9において、エレベーター100Aは、ホール呼びが発生する前は待機状態である(S21)。上かご2A及び下かご2Bのかごドア2dはそれぞれ閉じられ、上かご2A及び下かご2Bに設置された上かごクーラー11A、上かご照明器具12B、上かご照明器具12A、下かご照明器具12Bの電源は切られた状態となっている。この待機状態で、制御装置9の呼び検知部21により、乗り場釦からのホール呼びが監視され(S22)、ホール呼びが検出されない場合には(S22のNO)、呼び検知部21はステップS21の処理に移行して待機状態を継続する。
この待機状態でホール呼びが検出された場合には(S22のYES)、上かご2Aに対するホール呼び、及び/又は、下かご2Bに対するホール呼びかが判定される(S23,S24)。その結果、上かご2Aだけに対するホール呼びであれば(S23のYESかつS24のNO)、第一段階として、タイミング制御部23は、スイッチSW1をオンして突入電流が発生する上かごクーラー11Aを起動させる(S25)。次いで、第二段階として、タイミング制御部23は、スイッチSW2をオンして低負荷である上かご照明器具12Aを起動させる(S26)。
一方、下かご2Bにだけに対するホール呼びであれば(S23のNO)、第一段階として、タイミング制御部23は、スイッチSW3をオンして突入電流が発生する下かごクーラー11Bを起動させる(S27)。次いで、第二段階として、タイミング制御部23は、スイッチSW4をオンして低負荷である下かご照明器具12Bを起動させる(S28)。
しかし、上かご2A及び下かご2Bの両方に対するホール呼びであれば(S23のYESかつS24のYES)、次のような一連の起動処理の手順を採る。タイミング制御部23は、第一段階として、スイッチSW1をオンして突入電流が発生する上かごクーラー11Aの起動を行い(S25)、次いで、第二段階として、上かごクーラー11Aが定常状態に移行した後にスイッチSW2をオンして低負荷である上かご照明器具12Aの起動を行う(S26)。さらに、タイミング制御部23は、第三段階として、スイッチSW3をオンして突入電流が発生する下かごクーラー11Bの起動を行い(S27)、次いで、下かごクーラー11Bが定常状態に移行した後に第四段階として、スイッチSW4をオンして低負荷である下かご照明器具12Bの起動を行う(S28)。
そして、制御装置9は、乗りかご2A,2Bをホール呼びが行われた階(呼び階)に移動させ、ホール呼びに対応する乗りかご2A及び/又は乗りかご2Bのかごドア2dの開放を行い(S29,S30)、その後、エレベーター100Aの通常サービスへ移行する(S31)。ステップS29,S30の各電気機器への電源オン処理と並行して、乗りかご2A,2Bの移動を行ってもよい。
通常サービスへ移行後にホール呼びがない状況において、タイミング制御部23は、下かご2Bに対するドア状態判定部22の判定結果に基づいてかごドア2dの開閉状態を監視する(S32)とともに、人感センサー27(本例では荷重センサー)により下かご2B内の乗客の有無を監視する(S33)。ここで、下かご2Bのかごドア2dが閉状態であり(S32のYES)、下かご2Bに乗客がいない場合には(S33のYES)、タイミング制御部23は、スイッチSW3をオフして下かごクーラー11Bの電源をオフする(S36)とともに、スイッチSW4をオフして下かご照明器具12Bの電源をオフする(S37)。
上かご2Aについても同様に、通常サービスへ移行後にホール呼びがない状況において、タイミング制御部23は、上かご2Aに対するドア状態判定部22の判定結果に基づいてかごドア2dの開閉状態を監視する(S34)とともに、人感センサー27により上かご2A内の乗客の有無を監視する(S35)。ここで、上かご2Aのかごドア2dが閉状態であり(S34のYES)、上かご2Aに乗客がいない場合には(S35のYES)、タイミング制御部23は、スイッチSW1をオフして上かごクーラー11Aの電源をオフする(S38)とともに、スイッチSW2をオフして上かご照明器具12Aの電源をオフする(S39)。
タイミング制御部23は、下かご2Bのかごドア2dが閉状態ではない場合には(S32のNO)、かごドア2dの開閉状態の監視を継続する。同様に、タイミング制御部23は、上かご2Aのかごドア2dが閉状態ではない場合には(S34のNO)、かごドア2dの開閉状態の監視を継続する。
また、タイミング制御部23は、下かご2B内に乗客がいる(本例では測定した荷重が積載荷重の0%ではない)場合には(S33のNO)、ステップS31の処理に移行して通常サービスを継続する。同様に、タイミング制御部23は、上かご2A内に乗客がいる場合には(S35のNO)、ステップS31の処理に移行して通常サービスを継続する。
タイミング制御部23は、ステップS36及びステップS37の処理が終了後、又は、ステップS38及びステップS39の処理が終了後、本フローチャートの処理を終了する。
突入電流が発生する上かごクーラー11Aの起動を含む上かご2A側の電気機器のみの起動であれば、ステップ25,S26において第1の実施形態の場合と同様に、電力供給制御処理を行う。また、突入電流が発生する下かごクーラー11Bの起動を含む下かご2B側の電気機器のみの起動であれば、ステップ27,S28において第1の実施形態の場合と同様に、電力供給制御処理を行う。しかし、ここでは上かご2A側と下かご2B側の電気機器が共に起動される場合について説明する。
[電流電圧波形]
次に、エレベーター100Aの起動時における上かご2A及び下かご2B内の電気機器への電力供給制御処理手法について図10を参照して説明する。
図10は、エレベーター100Aの起動時(図9のS25〜S28)における乗りかご2内の電気機器への電力供給制御処理手法を示す電流電圧波形図である。図10Aは上かごの高負荷電気機器(上かごクーラー11A)に電力を供給したときの電流電圧波形、図10Bは上かごの低負荷電気機器(上かご照明器具12A)に電力を供給したときの電流電圧波形を示す。図10Cは下かごの高負荷電気機器(下かごクーラー11B)に電力を供給したときの電流電圧波形、図10Dは下かごの低負荷電気機器(下かご照明器具12B)に電力を供給したときの電流電圧波形をそれぞれ示す。
上かご2A及び下かご2B内の各電気機器への電力供給の手順は、まず、第一段階で、起動時に突入電流I1が発生する上かごクーラー11Aを起動させて電力供給を行う。図10A(a1)に示すように、スイッチSW1をオンして突入電流I1が発生する上かごクーラー11Aを起動させて電力供給を行うと、第一段階から比較的大きな突入電流I1が流れ始め、その後、負荷電流は安定した定常電流となり、図10A(a2)に示すように、およそ一定の電圧降下が生じる。
次いで、図10B(b1)に示すように、突入電流I1が安定した定常電流となった第二段階で、スイッチSW2をオンして低負荷である上かご照明器具12Aを起動させて電力供給を行う。このとき、上かごクーラー11Aの場合のような突入電流が流れない。そのため、図10B(b2)に示すように、上かごクーラー11A及び上かご照明器具12Aの運転が共に継続され、テールコード14にこれらの電流が重畳された負荷電流が供給されても、乗りかご側への供給電圧が目標電圧Vtを下回ることがなく比較的穏やかな電圧降下となる。
このように同一電源を共用する上かご2A内の電気機器(負荷)を、上かごクーラー11Aのような突入電流が発生する高負荷電気機器と、照明器具12Aのような低負荷電気機器に区分する。そして、まず高負荷電気機器(上かごクーラー11A)を起動させ、テールコード14(14a,14b)を通して電力供給を行った後、起動タイミングをずらして低負荷電気機器(上かご照明器具12A)を起動させて同じテールコード14を通して電力供給を行う。このため、テールコード14を共用し、テールコード14全体の線心数から実質的に低負荷電気機器用の線心数を削減することができる。
次いで、第三段階で、スイッチSW3をオンして突入電流I2が発生する下かごクーラー11Bを起動させて電力供給を行う。図10C(c1)に示すように、突入電流I2が発生する下かごクーラー11Bを起動させて電力供給を行うと、第三段階において比較的大きな突入電流I2が流れ始め、その後、負荷電流は安定した定常電流となり、図10C(c2)に示すように、およそ一定の電圧降下が生じる。
次いで、図10D(d1)に示すように、突入電流I2が安定した定常電流となった第四段階で、スイッチSW4をオンして低負荷である下かご照明器具12Bを起動させて電力供給を行う。このとき、下かごクーラー11Bの場合のような突入電流が流れない。そのため、図10D(d2)に示すように、上かごクーラー11A及び上かご照明器具12A、並びに、下かごクーラー11B及び下かご照明器具12Bの運転が共に継続される。テールコード14にこれらの電流が重畳された負荷電流が供給されても、乗りかご側への供給電圧が目標電圧Vtを下回ることがなく比較的穏やかな電圧降下となる。
あるいは、スイッチSW1とスイッチSW2の間、及び、スイッチSW3とスイッチSW4の間を、高負荷電気機器(上かごクーラー11A及び下かごクーラー11B)が確実に定常状態となるように、長めの時間に設定してもよい。
このようにダブルデッキタイプのエレベーター100Aにおいても、同一電源を共用する上かご2A,2B内の電気機器(負荷)を、クーラーのような突入電流が発生する上かご高負荷電気機器及び下かご高負荷電気機器と、照明器具のような上かご低負荷電気機器と下かご低負荷電気機器に区分する。そして、上記のように高負荷電気機器を優先してそれぞれの電気機器の起動タイミングをずらすことによって、突入電流が発生しない上かご及び下かごの低負荷電気機器用のテールコード14の線心を、起動時に突入電流が発生する上かご及び下かごの高負荷電気機器用の線心と共用することができる。それにより、テールコード14全体として実質的に上かご及び下かごの低負荷電気機器用の線心数を削減することができる。この場合、第一段階及び第二段階の電圧降下分(図10Cの電圧降下Vd1)と、第三段階の下かご高圧電気機器の突入電流による電圧降下分を考慮して、テールコード14の線心数を決定すればよい。
したがって、第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、エレベーター100Aのコスト低減及び省エネルギー効果を期待することができ、またテールコード14の重量低減による付随機器の小型化と、コスト低減を期待することができる。
なお、第2の実施形態では、一連の電力供給制御処理の手順を四段階に分けているが、この例に限らない。例えば、上かご2Aと下かご2Bを必ず同時にサービスする場合は、図10B(b1)と図10C(c1)に示す起動タイミングを入れ替え、かつ、図10B(b1)と図10D(d1)に示す起動タイミングを同時にしてもほぼ同様の効果を得ることができる。ただし、この場合も、乗りかご側への供給電圧が目標電圧Vtを下回ることを避けるために、突入電流が発生する上かごクーラー11Aと下かごクーラー11Bを同時に起動することは避ける。また、突入電流が発生する上かごクーラー11A又は下かごクーラー11Bと、低負荷である上かご照明器具12A又は下かご照明器具12Bを同時に起動することも避ける。
<3.第3の実施形態>
第3の実施形態は、本発明を、一つの乗りかごに複数の高負荷電気機器が設置されているエレベーターに適用した例である。
[エレベーターの電気系統]
図11は、第3の実施形態に係るエレベーター100の電気系統の概略を示す説明図である。図11に示す乗りかご2は複数の高負荷電気機器(第1クーラー11−1及び第2クーラー11−2)が設置されている点を除けば、図2の構成と同様である。また、制御装置9の内部構成は、図3の構成と同様である。
図11に示すように、同一乗りかご2内に、突入電流が発生する高負荷電気機器として第1クーラー11−1及び第2クーラー11−2、また低負荷電気機器として第1照明器具12−1及び第2照明器具12−2が設置されている。これらの各電気機器は、同じテールコード14を介して、三相交流電源10に接続されている。
ここで、テールコード14を構成する線心14a,14bは、突入電流が発生する第1クーラー11−1と第2クーラー11−2への電力供給の起動タイミングをずらして行うものとしての線心数を有している。またテールコード14は、第1クーラー11−1又は第2クーラー11−2と、低負荷である第1照明器具12−1又は第2照明器具12−2への電力供給の起動タイミングをずらして行うものとしての線心数を有している。
[電力供給制御処理手法の手順]
図12は、エレベーター100の起動時における乗りかご2内の電気機器への電力供給制御処理手法の手順例を示すフローチャートである。図12のステップS41,S42,S47〜S50の処理は、図6のステップS1,S2,S5〜S8の処理に対応する。また、電気機器の電源をオフする点において、図12のステップS51〜S54の処理は、図6のステップS9,S10の処理に対応する。
図12において、エレベーター100は、ホール呼びが発生する前は待機状態である(S41)。乗りかご2のかごドア2dはそれぞれ閉じられ、乗りかご2に設置された第1クーラー11−1及び第2クーラー11−2、第1照明器具12−1及び第2照明器具12−2の電源は切られた状態となっている。この待機状態で、制御装置9の呼び検知部21により、乗り場釦からのホール呼びが監視され(S42)、ホール呼びが検出されない場合には(S42のNO)、呼び検知部21はステップS41の処理に移行して待機状態を継続する。
この待機状態でホール呼びが検出された場合には(S42のYES)、タイミング制御部23により、各電気機器の起動タイミングをずらした一連の起動処理が行われる。まず、第一段階として、タイミング制御部23は、スイッチSW1をオンして起動時に突入電流が発生する第1クーラー11−1を起動して電力供給を行う(S43)。その後、第二段階として、タイミング制御部23は、同じくスイッチSW2をオンして起動時に突入電流が発生する第2クーラー11−2を起動して電力供給を行う(S44)。続く第三段階として、タイミング制御部23は、スイッチSW3をオンして低負荷である第1照明器具12−1を起動して電力供給を行い(S45)、第四段階として、同じくスイッチSW4をオンして低負荷である第2照明器具12−2を起動して電力供給を行う(S46)。
そして、制御装置9は、乗りかご2をホール呼びが行われた階(呼び階)に移動させ、かごドア2dの開放を行い(S47)、その後、エレベーター100の通常サービスへ移行する(S48)。
通常サービスへ移行後にホール呼びがない状況において、タイミング制御部23は、乗りかご2のかごドア2dの開閉状態を監視する(S49)とともに、人感センサー27により乗りかご2内の乗客の有無を監視する(S50)。ここで、乗りかご2のかごドア2dが閉状態であり(S49のYES)、乗りかご2に乗客がいない場合には(S50のYES)、タイミング制御部23は、スイッチSW1,SW2をオフして第1クーラー11−1及び第2クーラー11−2の電源をオフする(S51,S52)。また、タイミング制御部23は、スイッチSW3,SW4をオフして第1照明器具12−1及び第2照明器具12−2の電源をオフする(S53,S54)。
また、タイミング制御部23は、乗りかご2内に乗客がいる(本例では測定した荷重が積載荷重の0%ではない)場合には(S50のNO)、ステップS48の処理に移行して通常サービスを継続する。タイミング制御部23は、ステップS51〜S54の処理が終了後、本フローチャートの処理を終了する。
[電流電圧波形]
次に、エレベーター100の起動時における乗りかご2内の電気機器への電力供給制御処理手法について図13を参照して説明する。
図13は、エレベーター100の起動時(図12のS43〜S46)における乗りかご2内の電気機器への電力供給制御処理手法を示す電流電圧波形図である。図13Aは乗りかご2内の第1の高負荷電気機器(第1クーラー11−1)に電力を供給したときの電流電圧波形、図13Bは乗りかご2内の第2の高負荷電気機器(第2クーラー11−2)に電力を供給したときの電流電圧波形を示す。図13Cは乗りかご2内の第1の低負荷電気機器(第1照明器具12−1)に電力を供給したときの電流電圧波形、図13Dは乗りかご2内の第2の低負荷電気機器(第2照明器具12−2)に電力を供給したときの電流電圧波形をそれぞれ示す。
乗りかご2内の各電気機器への電力供給の手順は、まず、第一段階で、スイッチSW1をオンして突入電流I1が発生する第1クーラー11−1を起動させて電力供給を行う。図13A(a1)に示すように、突入電流I1が発生する第1クーラー11−1を起動させて電力供給を行うと、第一段階から比較的大きな突入電流I1が流れ始め、その後、負荷電流は安定した定常電流となり、図13A(a2)に示すように、およそ一定の電圧降下が生じる。
次いで、図13B(b1)に示すように、突入電流I1が安定した定常電流となった第二段階で、スイッチSW2をオンして同じく突入電流I2が発生する第2クーラー11−2を起動させて電力供給を行う。すると、第二段階において比較的大きな突入電流I2が流れ始め、その後、負荷電流は安定した定常電流となり、図13B(b2)に示すように、およそ一定の電圧降下が生じる。
その後、安定した定常電流となった第三段階で、スイッチSW3をオンして低負荷である第1照明器具12−1を起動させて電力供給を行う。このとき、第1クーラー11−1及び第2クーラー11−2の場合のような突入電流が流れない。そのため、図13C(c1)に示すように、第1クーラー11−1、第2クーラー11−2及び第1照明器具12−1の運転が共に継続される。テールコード14にこれらの電流が重畳された負荷電流が供給されても、図13C(c2)に示すように、乗りかご2側への供給電圧が目標電圧Vtを下回ることがなく比較的穏やかな電圧降下となる。
さらに、その後の第四段階で、スイッチSW4をオンして同じく低負荷である第2照明器具12−2を起動させて電力供給を行う。このとき、第1クーラー11−1及び第2クーラー11−2の場合のような突入電流が流れない。そのため、図13D(d1)に示すように、第1クーラー11−1、第2クーラー11−2及び第1照明器具12−1の運転が共に継続される。テールコード14にこれらの電流が重畳された負荷電流が供給されても、図13D(d2)に示すように、乗りかご2側への供給電圧が目標電圧Vtを下回ることがなく比較的穏やかな電圧降下となる。
なお、スイッチSW1〜スイッチSW4の各スイッチの投入間隔は、一定の設定時間でもよい。あるいは、スイッチSW1とスイッチSW2の間、及び、スイッチSW2とスイッチSW3の間を、高負荷電気機器(第1クーラー11−1及び第2クーラー11−2)が確実に定常状態となるように、長めの時間に設定してもよい。
上述した第3の実施形態によれば、同一電源を共用する乗りかご2内の電気機器(負荷)を、第1クーラー11−1及び第2クーラー11−2のような突入電流が発生する高負荷電気機器と、第1照明器具12−1及び第2照明器具12−2のような低負荷電気機器に区分する。そして、上記のように高負荷電気機器を優先してそれぞれの電気機器の起動タイミングをずらすことによって、突入電流が発生しない低負荷電気機器用のテールコード14の線心を、起動時に突入電流が発生する高負荷電気機器用の線心と共用することができる。それにより、それにより、テールコード14全体として実質的に低負荷電気機器用の線心数を削減することができる。
したがって、第3の実施形態では、第1及び第2の実施形態と同様に、エレベーター100のコスト低減及び省エネルギー効果を期待することができ、またテールコード14の重量低減による付随機器の小型化と、コスト低減を期待することができる。さらに、本実施形態においては、第2クーラー11−2を起動する前の電圧降下Vd2は第1クーラー11−1の定常状態の電圧降下分だけであるから、第2の実施形態の同じ条件の電圧降下Vd1よりも小さい。よって、本実施形態は、電圧降下の差分(Vd1−Vd2)の分だけ、第2の実施形態よりもテールコード14の線心数を削減する効果が大きい。
なお、第2の実施形態では、一連の電力供給制御処理の手順を四段階に分けているが、この例に限らない。例えば、図13B(b1)と図13C(c1)に示す起動タイミングを入れ替えた場合、また図13C(c1)と図13D(d1)に示す起動タイミングを同時とした場合でも、ほぼ同様の効果を得ることができる。ただし、この場合も、乗りかご側への供給電圧が目標電圧Vtを下回ることを避けるために、突入電流が発生する第1クーラー11−1と第2クーラー11−2を同時に起動することは避け、また突入電流が発生する第1クーラー11−1又は第2クーラー11−2と、低負荷である第1照明器具12−1又は第2照明器具12−2を同時に起動することも避ける。
また上述した各実施形態では、起動時に突入電流が発生する高負荷電気機器としてクーラーを例示し、低負荷電気機器として照明器具を例示したが、これに限定するものではない。例えば、突入電流を発生する電気機器として、巻き線機器である電動機を用いるエアーコンディショナーやファン、同じ巻き線機器である電圧変圧器、大容量のコンデンサを持つ機器などが適用される。また、低負荷電気機器としては、例えば乗りかご内に設置された表示パネルや釦ランプ、プリント基板、アナログ/デジタル変換器などが適用される。また、スイッチとして電磁接触器の補助接点を用いたが他のスイッチ手段でもよい。
また、乗りかごの電気機器の電源用配線に関して、制御装置9からこれらの電気機器までの配線長が長くなると配線の導体抵抗が増加するため、テールコード14の線心数を増やすことで導体抵抗を減らし、電気機器の不動作を防止しなければならない。特に、起動時に大きな突入電流が発生する電気機器に関しては、テールコード14の使用線心を多く必要とするため、場合によってはクーラー専用にテールコードを付設することが行われたりする。しかし、テールコードの使用線心が追加されると、テールコード単体としてのコストアップに限らず、テールコードの吊り機構等の付随品が追加され大幅なコストアップとなってしまう。これらの問題も、上述した第1〜第3の実施形態に例示したような本発明の電力供給制御処理手法によって解決することができる。
さらに、本発明は上述した各実施形態例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
例えば、上述した実施形態例は本発明を分かりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細且つ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態例の構成の一部を他の実施形態例の構成に置き換えることは可能である。また、ある実施形態例の構成に他の実施形態例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。