<電気化学キャパシタ用電極>
本発明の電気化学キャパシタ用電極(以下、「本発明の電極」、または単に「電極」ということがある。)に用いられる多孔質炭素繊維(以下、単に「多孔質炭素繊維」ということがある。)は、炭素部分と空隙とがそれぞれ連続構造をなす共連続構造部分を有する。共連続構造部分とは、例えば液体窒素中で充分に冷却した試料をピンセット等により割断した断面や、乳鉢等で粉砕して得た粒子の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)等によって表面観察した際に、図1の実施例1の多孔質炭素繊維断面の走査型電子顕微鏡写真に例示されるように、炭素部分と炭素部分以外の部分として形成された空隙とがそれぞれ連続しつつ絡み合った構造として観察される部分を意味する。本発明において、多孔質炭素繊維は、その全体に共連続構造を有してもよいが、後述するように、外層に共連続構造を有しない緻密部分を有していてもよい。
本発明の電極は、共連続構造部分の空隙に電解液が効率よく侵入し、電解液との接触面積が非常に大きくなり、高静電容量化に寄与できる。また、共連続構造部分の空隙部分を電解質イオンが効率的に移動できるため、高速充放電も可能となる。また、炭素部分が連続することで、電気伝導性が高くなるため内部抵抗を低減させることができる。加えて炭素部分がお互いに構造体を支えあう効果により、例えば製造工程や使用時において引張、圧縮等の変形に対しても、大きな耐性を有する。また、セル作製に際して電極の接触抵抗の低減のために電極のプレスを行っても、共連続構造部分は残存するため、やはり高効率に電解液が侵入できる。
これらの共連続構造としては、格子状やモノリス状が挙げられ、特に限定するものではないが、上記効果を発揮できる点ではモノリス状であることが好ましい。モノリス状とは、共連続構造において炭素部分が三次元網目構造をなす形態をいい、個別の粒子が凝集・連結した構造や、あるいは逆に、凝集・連結した鋳型粒子を除去することにより生じた空隙とその周囲の骨格により形成された構造、のような不規則な構造とは区別される。
本発明の電気化学キャパシタ用電極における多孔質炭素繊維の共連続構造部分は周期構造を有することが好ましい。本発明において、周期構造を有することは、電極にX線を入射し散乱強度がピーク値を持つことにより確認できる。電極の太さや長さにより測定が難しいようであれば、測定に供せる程度まで乳鉢で粉砕して測定を行う。
多孔質炭素繊維の共連続構造部分の構造周期は0.002μm〜20μmであることが好ましい。構造周期とは、多孔質炭素繊維に対してX線を入射し、散乱強度がピーク値を持つ位置の散乱角度θより、下記の式で算出されるものである。
構造周期:L、λ:入射X線の波長
ただし構造周期が大きくて小角での散乱が観測できない場合がある。その場合はX線コンピュータ断層撮影(X線CT)によって構造周期を得る。具体的には、X線CTによって撮影した三次元画像をフーリエ変換した後に、その二次元スペクトルの円環平均を取り、一次元スペクトルを得る。その一次元スペクトルにおけるピークトップの位置に対応する特性波長を求め、その逆数より構造周期を算出する。
共連続構造部分の構造周期が0.002μm以上であると、空隙部に電解液が侵入しやすくなり、また流動抵抗も低減することができる。また、炭素部分を通じて電気伝導性を向上することが可能となる。構造周期は0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。また、構造周期が20μm以下であると、高い表面積や物性を得ることができる。構造周期は10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
さらに、均一な連続構造を有することで、電解液の流動抵抗を低減できるほか、多孔質炭素繊維製造工程、電極作製工程、デバイス組立工程等、製造に関わるあらゆる工程において、引張、圧縮等の変形に対する大きな耐性を発揮する。多孔質炭素繊維の連続構造の均一性は、多孔質炭素繊維に対してX線を入射した際の散乱強度のピークの半値幅により決定できる。多孔質炭素繊維のX線散乱ピークの半値幅は5°以下であることが好ましく、3°以下であることがさらに好ましく、1°以下であることが特に好ましい。なお、本発明におけるピークの半値幅とは、ピークの頂点を点Aとし、点Aからグラフ縦軸に平行な直線を引き、該直線とスペクトルのベースラインとの交点を点Bとしたとき、点Aと点Bを結ぶ線分の中点(点C)におけるピークの幅である。なお、ここで言うピークの幅とは、ベースラインに平行で、かつ点Cを通る直線上の幅のことである。
なお、X線による構造周期の解析に際して、後述する共連続構造を有しない緻密部分については、構造周期が上記範囲外となるため解析には影響なく、上記式で算出される構造周期を以って、共連続構造形成部分の構造周期とするものとする。
構造周期は小さいほど構造が細かく、単位体積あるいは単位重量当りの表面積が大きく、電解液との接触効率が高まり特に高静電容量化に寄与できる。また、構造周期は大きいほど電解液の流動抵抗を低減し、効率よく電解質イオンの出入りが起こり高レート特性の発現に寄与できる。これらのことから、共連続構造部分の構造周期は電気化学キャパシタの用途、使用条件に応じて適宜調整することができる。
また、共連続構造部分は、平均空隙率が10〜80%であることが好ましい。平均空隙率とは、包埋した試料をクロスセクションポリッシャー法(CP法)により精密に形成させた断面を、1±0.1(nm/画素)となるよう調整された拡大率で、70万画素以上の解像度で観察した画像から、計算に必要な着目領域を512画素四方で設定し、着目領域の面積をA、孔部分の面積をBとして、以下の式で算出されたものを言う。
平均空隙率(%)=B/A×100
平均空隙率は、高いほど電解液の流路として圧力損失が小さくなる一方、低いほど圧縮や曲げに強くなるため、取り扱い性や加圧条件での使用に際して有利となる。これらのことを考慮し、共連続構造部分の平均空隙率は15〜75%の範囲であることが好ましく、18〜70%の範囲がさらに好ましい。
〔細孔〕
さらに、多孔質炭素繊維は、表面に平均直径0.01〜10nmの細孔を有することが好ましい。表面とは、多孔質炭素繊維を巨視的に見た場合の表層(繊維の外周をなす層)のみではなく、共連続構造部分における炭素部分の表面も含めた多孔質炭素繊維のあらゆる外部との接触面を指す。細孔は、共連続構造部分における炭素部分の表面および/または後述する共連続構造を実質的に有しない緻密部分に形成することができるが、少なくとも共連続構造を有する部分における炭素部分の表面に形成されていることが好ましい。細孔の平均直径が0.01nm〜10nmであることにより、電解質イオンに対する吸脱着機能を向上させることができる。
このような細孔の平均直径は0.01nm以上であることが好ましく、0.1nm以上であることがさらに好ましい。また、5nm以下であることが好ましく、2nm以下であることがさらに好ましい。さらに、細孔の平均直径は、効率的な電解質イオンの吸着等の観点から、電解質イオンの直径に対して1.1〜2.0倍程度に適宜調整することが好ましい。
また、細孔容積は0.1cm3/g以上であることが好ましく、1.0cm3/g以上であることがより好ましく、1.5cm3/g以上であることがさらに好ましい。細孔容積が0.1cm3/g以上であることにより、電解質イオンに対する吸脱着機能がより向上する。上限は特に限定されないが、10cm3/gを超えると、多孔質炭素繊維の強度が低下したり、電極密度が著しく低くなったりするため、取り扱い性が悪くなる傾向がある。
なお、本明細書において、細孔の平均直径とは、BJH法またはMP法のいずれかの方法による測定値を意味する。すなわち、BJH法またはMP法による測定値のどちらか一方でも0.01〜10nmの範囲に入っていれば、表面に平均直径0.01〜10nmの細孔を有するものと判断する。細孔直径の好ましい範囲についても同様である。BJH法やMP法は、細孔径分布解析法として広く用いられている方法であり、多孔質炭素繊維に窒素を吸脱着させることにより求めた脱着等温線に基づいて求めることができる。BJH法はBarrett−Joyner−Halendaの標準モデルに従って円筒状と仮定した細孔の直径に対する細孔容積の分布を解析する方法であり、主として2〜200nmの直径を有する細孔に適用することができる(詳細はJ.Amer.Chem.Soc.,73,373,1951等を参照)。また、MP法は吸着等温線の各点での接線の傾きの変化から求められる各区間の外部表面積と吸着層厚み(細孔形状を円筒形とするため細孔半径に相当)を基に細孔容積を求め、吸着層厚みに対してプロットすることにより、細孔径分布を得る方法であり(詳細はJounalof Colloid and Interface Science,26,45,1968等を参照)、主として0.4〜2nmの直径を有する細孔に適用できる。本発明では、いずれも小数第二位を四捨五入して、小数第一位まで求めた値を用いる。
なお、多孔質炭素繊維においては、共連続構造部分の空隙がBJH法あるいはMP法により測定される細孔径分布や細孔容積に影響を及ぼす可能性がある。すなわち、純粋に細孔のみではなく、空隙の存在をも反映した値としてこれらの測定値が得られる可能性があるが、その場合であってもこれらの方法により求めた測定値を本発明における細孔の平均直径および細孔容積と判断するものとする。また、BJH法あるいはMP法により測定される細孔容積が0.05cm3/g未満であれば、材料表面に細孔は形成されていないものと判断する。
また、多孔質炭素繊維が細孔を有する場合、多孔質炭素繊維のBET比表面積が20m2/g以上であることが好ましい。BET比表面積は100m2/g以上であることがより好ましく、500m2/g以上であることがさらに好ましく、1000m2/g以上であることが一層好ましい。BET比表面積が20m2/g以上であることにより、電解質イオンの吸脱着に作用できる面積が大きくなり、電気化学キャパシタとしての性能が向上する。上限は特に限定されないが、4500m2/gを超えると、多孔質炭素繊維の強度が低下したり、かさ密度が著しく低くなったり、取り扱い性が悪くなったりする傾向がある。なお、本発明におけるBET比表面積は、JISR 1626(1996)に準じ、多孔質炭素繊維に窒素を吸脱着させることにより吸着等温線を測定し、測定したデータをBET式に基づいて算出することができる。
多孔質炭素繊維として、共連続構造を実質的に有しない緻密部分(以下、「共連続構造を有しない緻密部分」または単に「緻密部分」という場合がある。)を表層に有する繊維を用いることは好ましい態様である。共連続構造を実質的に有しない緻密部分とは、クロスセクションポリッシャー法(CP法)により形成させた断面を、1±0.1(nm/画素)の拡大率で観察した際に、解像度以下であることにより明確な空隙が観察されない部分が、一辺が後述のX線から算出される構造周期Lの3倍に対応する正方形の領域以上の面積で存在することを意味する。
共連続構造を有しない緻密部分には炭素が緻密に存在するため電子伝導性が高く、電気抵抗を低くすることが可能である。また、共連続構造を有しない緻密部分が存在することで、特に圧縮破壊に対する耐性を高めることが可能である。さらに、電極を集電体と接合して用いる場合、緻密部分と集電体とが接するように配置することで、電極と集電体との導電パスが強固に形成され接触抵抗を低減することができる。
共連続構造を有しない緻密部分の割合は適宜調整することができ、例えば5体積%以上が共連続構造を有しない緻密部分とすることで、電気伝導性、熱伝導性を高いレベルで維持したりすることが可能である。
共連続構造を実質的に有しない緻密部分が多孔質炭素繊維の表層に有する、とは、多孔質炭素繊維の表層において共連続構造を有しない緻密部分が5面積%以上あることを意味する。緻密部分は、多孔質炭素繊維表層において10面積%以上であるとより好ましく、15面積%以上であるとさらに好ましい。また、多孔質炭素繊維の表層において緻密部分が95面積%以下であれば電解液が共連続構造部分に高効率に侵入するため好ましい態様であり、85面積%以下であればより好ましく、70%以下であればさらに好ましい。
共連続構造を実質的に有しない緻密部分の面積比率は、多孔質炭素繊維の表層の全面的な観察が困難である場合は、多孔質炭素繊維をクロスセクションポリッシャー法(CP法)により形成させた繊維断面を観察し、繊維断面の中で繊維表層に対応する部分(断面の外周)を観察することで確認することができる。ただし、断面観察を実施する場合はCP法による断面形成を3回実施し、3つの断面に関して同様の観察を行い、それぞれ共連続構造を有しない緻密部分の面積比率を定量し、3つの値の平均値を算出する。
また本発明の電気化学キャパシタ用電極を集電体と接合して用いる場合、緻密部分が存在する繊維の表層と集電体とが接するよう配置されていると、電極と集電体との導電パスが強固に形成され接触抵抗が小さくなるため、好ましい態様である。
多孔質炭素繊維の繊維径の下限は特に限定されないが、100nm以上であると共連続構造の効果をより発現しやすくなるため好ましい。1μm以上であると相対的に電気化学キャパシタセル内の集電体等の他部材に対して多孔質炭素繊維を高密度で充填できるため、より好ましく、10μm以上であるとさらに好ましい。繊維径の上限も特に限定されないが、2mm以下であると多孔質炭素繊維の破損が起こりにくく、取り扱いが容易となるため好ましい。1.5mm以下であると多孔質炭素繊維の共連続構造の均一性が高くなるためより好ましく、750μm以下であるとより好ましい。
多孔質炭素繊維は、X線光電子分光法(XPS)により測定される最表面の原子組成において、窒素原子と酸素原子の合計量が0.5%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、4%以上であることがさらに好ましい。最表面に窒素原子と酸素原子が合わせて0.5%以上含まれていると、電解液に対する電極の濡れ性が向上し、共連続構造内部に電解液が浸透しやすくなるため、細孔の利用効率が高まり、高容量化、レート特性向上が可能である。一方、最表面の窒素原子と酸素原子の合計量は、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。最表面に含まれる窒素原子と酸素原子の合計量が25%以下であると、キャパシタ運転時における多孔質炭素の分解劣化が抑制され、耐久性向上に寄与できる。なお、多孔質炭素繊維の最表面の原子組成は、X線光電子分光法(XPS)により測定されるものであり、励起X線はmonochromatic AlK1,2線(1486.6eV)、X線径は100μmとし、光電子脱出角度すなわち試料表面に対する検出器の傾きは45°とする。XPSの装置としては、例えばPHI社製Quantera SXMを用いることができる。
多孔質炭素繊維の原料は特に限定されないが、ポリアクリロニトリルを原料に用いると、多孔質炭素繊維の窒素含有量が高くなり、キャパシタとして使用した際に電解液の濡れ性が高くなる点や、重合反応を伴わない物理的な相分離のみにより多孔質構造を形成できるため、成形性が高くなる点、構造の安定性が高く、広範囲での構造サイズ制御性に優れる点で好ましい。また、ポリアクリロニトリルは安価であり、コストの点でも最も好ましい原料である。
本発明の電極は、上記の多孔質炭素繊維により形成される繊維構造体からなる。本発明において、繊維構造体とは、多数の繊維の集合により、あるいは少数の長い繊維により一定の形体が形成されたものを意味する。本発明においては、繊維構造体は、巻き糸、不織布または織布であることが好ましい。
巻き糸とは、1本の、あるいは少数の長い多孔質炭素繊維をコイル状に巻いた形体であり、典型的には繊維を巻き芯に巻回することで製造される。巻き糸の形態は、繊維製造工程において連続的に巻き芯に巻き取り、そのまま電気化学キャパシタセル内に組み込むことができるため好ましい。
巻き糸の巻厚は0.02mm以上であると相対的に電気化学キャパシタセル内の集電体等の他部材に対して多孔質炭素繊維を高密度で充填できるため好ましく、0.1mm以上であるとより好ましく、0.5mm以上であるとさらに好ましい。また、巻き糸の巻厚が10mm以下であると巻き姿の破損が起こりにくく、取り扱いが容易となるため好ましい。5mm以下であると巻き糸の内部さらには共連続構造の内部への電解液の侵入が容易となるためより好ましく、3mm以下であるとさらに好ましい。
巻き糸の繊維構造体を作製する場合、多孔質炭素繊維の繊維長は0.3m以上であると繊維の軸方向の導電性に由来して電気化学キャパシタ用電極としての導電性が高くなるため好ましい。繊維長は、1m以上であるとより好ましく、3m以上であることがより好ましい。繊維長が長いと、高い導電性が得られるだけでなく、繊維構造体としての安定性が高まる。
繊維構造体が不織布または織布である場合、目付は10〜300g/m2であることが好ましい。目付を10g/m2以上、より好ましくは15g/m2以上、さらに好ましくは20g/m2以上とすることにより、実用上好ましい機械的強度を有する不織布または織布を得ることができる。一方、目付を300g/m2以下、より好ましくは250g/m2以下、さらに好ましくは200g/m2以下とすることにより、適度な通液性を有するため、電解液の透過抵抗が低く電気化学キャパシタ用電極として高レート特性を向上が可能である。
また多孔質炭素繊維からなる不織布または織布の厚みが0.02mm以上であると相対的に電気化学キャパシタセル内の集電体等の他部材に対して多孔質炭素繊維を高密度で充填できるため好ましく、0.1mm以上であるとより好ましく、0.5mm以上であるとさらに好ましい。また、厚みが10mm以下であると取り扱いが容易となるため好ましい。5mm以下であると繊維構造体の内部、さらには共連続構造の内部への電解液の侵入が容易となるためより好ましく、3mm以下であるとさらに好ましい。
多孔質炭素繊維の繊維構造体が不織布である場合、ニードルパンチまたはウォータージェットパンチにより作製した不織布であることが好ましく、少なくとも一部の多孔質炭素繊維が一方の表面から他方の表面まで連続していることが電気化学キャパシタ用電極に導電性の観点から好ましい。一方の表面から他方の表面まで連続しているとは、一方の表面と他方の表面の間で多孔質炭素繊維の切断が確認できないことをいい、イオンビームやカミソリでカットして走査型電子顕微鏡にて観察することや、X線等を用いた透過像で断面方向の多孔質炭素繊維を評価することで確認することができる。
不織布の繊維構造体を作製する場合、多孔質炭素繊維の繊維長の下限は特に限定されないが、1cm以上であると電気化学キャパシタ用電極としての導電性が高くなり、低抵抗となるため好ましい。3cm以上であると繊維の交点数の増加によりさらに導電性が高くなるためより好ましく、7cm以上であるとさらに高い導電性が得られるだけでなく、繊維構造体としての安定性が高まるため、さらに好ましい。一方、繊維長に特に上限は無いが、30cm以下であると、不織布への成形が容易であるとともに、目付けや厚みの制御が容易となるため、好ましい。
織布の場合、その組織形状は、平組織、綾組織、朱子組織やそれらの変化組織、混合組織のいずれであっても構わないが、電気化学キャパシタ用電極として高い導電性を得る観点から拘束点の多い平組織が好ましい。多孔質炭素繊維からなる繊維構造体が不織布または織布である場合は単独でセル内に組み込まれても積層されてセル内に組み込まれてもよい。
織布の繊維構造体を作製する場合、織布中の多孔質炭素繊維の繊維長は0.3m以上であると繊維の軸方向の導電性に由来して電気化学キャパシタ用電極としての導電性が高くなるため好ましい。1m以上であるとより好ましく、3m以上であると、さらに高い導電性が得られるだけでなく、繊維構造体としての安定性が高まるため、さらに好ましい。
なお、炭化後の炭素繊維は柔軟性が乏しく、繊維構造体への成型が困難となるため、特に限定されるものではないが、後述するように、繊維構造体への成型は炭化前の前駆体繊維の段階で行い、成形後に炭化処理を行うことが好ましい。
本発明の電気化学キャパシタ用電極は、導電助剤を実質的に含まないことが好ましい。導電助剤を実質的に含まない、とは、電極全体に対する導電助剤の重量比率または体積比率の少なくとも一方が0.1%以下であることを意味するものとする。本発明の電気化学キャパシタ用電極は炭素部分が連続的につながった共連続構造部分を有し、かつ繊維により形成されていることから電気抵抗が低いため、導電助剤を実質的に含まなくても電極としての導電性が確保できる。
また、本発明の電気化学キャパシタ用電極は、非導電性のバインダーを実質的に含まないことが好ましい。非導電性のバインダーとは、最終的な電極の状態で導電性を有しない樹脂からなるバインダーであり、繊維構造体の強度を高めるために炭素繊維の焼成前に添加され、焼成後に炭素化して導電性を持つポリアクリロニトリルやフェノール樹脂、ピッチ、レーヨンは除かれる。非導電性のバインダーを実質的に含まない、とは、電極全体に対する非導電性のバインダーの重量比率または体積比率の少なくとも一方が0.1%以下であることを意味する。実質的に非導電性のバインダーを含まないことで、電気化学キャパシタ用電極として使用される際には、電極抵抗低減による高容量化が可能であるとともに、バインダーの電気分解などバインダー由来の電極劣化が起こりにくくなり、電気化学キャパシタの長寿命化に寄与できる。また、本発明の電気化学キャパシタ用電極は繊維により形成される繊維構造体であることから、バインダーを含まなくても電極としての構造を十分保つことができる。
本発明の電気化学キャパシタ用電極は、実質的に上記の多孔質炭素繊維のみからなる繊維構造体からなるものであることが好ましい。
電気化学キャパシタ用電極として使用した際の多孔質炭素繊維の表面の利用効率は、例えば充放電試験により求めた静電容量をBET比表面積で除した値、すなわちBET比表面積あたりの静電容量にて評価される。充放電試験については後に実施例にて詳述する。BET比表面積あたりの静電容量が大きいほど、多孔質炭素繊維の表面の利用効率が大きいため、低抵抗での充放電が可能になることから、電気化学キャパシタ用電極として高性能であることを意味する。本発明の電極においては、表面利用効率が1.0μF/cm2以上であることが好ましい。
<電気化学キャパシタ>
電気化学キャパシタにおいて、本発明の電気化学キャパシタ用電極は、典型的には集電体と接合して用いられる。集電体としては公知のものを用いることができるが、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルなどを例示することができる。また、電極との接触面積を増大させ、接触抵抗を低減する目的で、集電体の電極との接触側をエッチングすることも好ましい。
本発明の電気化学キャパシタの一態様である、電気二重層キャパシタの好ましい態様について以下に記述する。電気二重層キャパシタのセルは、正極と負極の2つの電極がセパレータを介して配置され、さらに電解液に浸漬された構成を有する。本発明の電気二重層キャパシタは、電極として上記の本発明の電極を有するものである。
電気二重層キャパシタの電解液としては、公知の電解質溶液を使用可能であり、水系、非水系のいずれでもよい。水系では、硫酸水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液、塩化カリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液等が挙げられる。非水系では、4級アンモニウム塩又は4級ホスホニウム塩等の電解質と、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類や、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド等のアミド類や、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物類や、メチルエチルケトン等のジアルキルケトン類や、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類とを含む溶液が挙げられる。
本発明の電気化学キャパシタの他の態様である、リチウムイオンキャパシタの好ましい態様について以下に記述する。本発明のリチウムイオンキャパシタにおいては、正極として上記の本発明の電極を用いることができ、その好ましい態様は、前述した電気二重層キャパシタ用の電極と同様である。
負極は、活物質、バインダー、導電助剤を含む塗工液を集電体に塗布し、製造することができる。負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸脱着可能な炭素材料であればいずれも使用することができる。該負極は、リチウムイオンによりプレドーピングされたものを使用することが好ましい。
リチウムイオンキャパシタは、本発明の電極(正極)と負極を、セパレータを介して配置し、電解液に浸漬することにより作製することができる。電解液は、特に限定されないが、リチウム塩を溶解した非水系有機電解液が好ましい。非水系有機電解液に使用する有機溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が用いられ、電解質の溶解性、電極との反応性、粘性と使用温度範囲に応じて適切に選択される。
本発明の電気化学キャパシタのセル形態は何ら限定されるものではないが、例えばコイン型セル、ラミネートセル、円筒型セル等が挙げられる。円筒型セルの電気化学キャパシタを作製する場合、巻き糸の繊維構造体を好ましく用いることができる。
本発明の電気化学キャパシタは、高静電容量で、高速充放電が可能であるため、各種電子機器やエネルギーデバイスにおいて、効率的な電力貯蓄や、電力平準化等に活用できる。たとえば、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、電気自動車、携帯電話、スマートフォン、電車、コピー機、複合機、パソコン、航空機、各種家電、事務機器、工作機器、二輪車、フォークリフト、建設機械、クレーン等の各種機械、電子機器に好適である。また、太陽光発電、風力発電、地熱発電、波力発電等の再生エネルギー関連機器や電力供給コントロール基地、さらには病院、工場、データセンター等のバックアップ電源に好適に利用される。
特に、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、電気自動車(これらを総称して電気自動車と呼称する)においては、ブレーキ作動時にモータにて発電される電力を本発明の電気化学キャパシタに瞬時に貯蓄し、これを発進時等の大きな駆動力が必要な際に供給することができる。ブレーキにより回生され、回収された電気エネルギーを用いて走行を行うことで、従来よりも電気自動車の燃費を向上させることができる可能性がある。
また、携帯電話、スマートフォンにおいては、本発明の電気化学キャパシタにより高速充電が可能となるため、好適に利用される。本発明の電気化学キャパシタを活用することで、充電に要する時間の短縮が可能である。
また、本発明の電気化学キャパシタにより瞬間的な過負荷や電圧降下が起こった際の電力平準化が可能であり、携帯電話、スマートフォンなどでは、特にGPS機能や無線通信機能を起動する際、またLEDフラッシュを使用するなどの大電力を瞬時に必要とする場合に、二次電池のみではその負荷を軽減することが難しいが、本発明の電気化学キャパシタによって、小型かつ高負荷に耐えられるデバイスとすることが可能になる。これらの効果によって、従来よりも電圧降下による突然のシャットダウンを防止することができ、安定した動作が可能なデバイスとすることができる。
また、本発明の電気化学キャパシタは、高静電容量、高速充電特性という特徴を活かし、電車搭載用としても好適に利用される。本発明の電気化学キャパシタを搭載した電車は、走行にかかる摩擦力等に起因するエネルギーのロスが少ないため、ブレーキによる回生をおこなうことで、省エネルギーでの走行が可能となるため好ましい。特に架線からの電力供給に落雷などによる電圧降下などの急激な変動があった場合でも、安定した加速、減速を行うことが可能となり、安定運行に寄与できるため好ましい。
また、コピー機や複合機としては、使用していない時間にメイン電源からキャパシタへ充電して電力を貯蓄し、使用の際に放電することで瞬時に暖機し、即座にプリント出力等を行うことが可能であるため、好適に利用される。
更に本発明の電気化学キャパシタは、風力発電や太陽光発電と組み合わせることも好ましい。風力発電は、風力の変動によって発電量が時間で大きく変化してしまい、従来の二次電池では電圧の大幅な変動に追従できず、効率よく電力を貯蔵することができないが、本発明の電気化学キャパシタの高速充放電特性によって、高効率な蓄電が可能となる。また太陽光発電では、特に曇天時などの太陽電池側の電圧が低下した場合においても、本発明の電気化学キャパシタ側の充電電圧が低いため、効率よく蓄電が可能であり、好ましい。またこれら発電により蓄電された電力は、電子回路を通じて適宜二次電池に充電して利用することも好ましい。
<電気化学キャパシタ用電極の製造方法>
本発明の電気化学キャパシタ用電極に用いる多孔質炭素繊維は、一例として、炭化可能樹脂10〜90重量%と消失樹脂90〜10重量%とを相溶させて樹脂混合物とする工程(工程1)と、相溶した状態の樹脂混合物を相分離させ、固定化するとともに繊維状に成型する工程(工程2)、加熱焼成により炭化する工程(工程3)を有する製造方法により製造することができる。
〔工程1〕
工程1は、炭化可能樹脂10〜90重量%と、消失樹脂90〜10重量%と相溶させ、樹脂混合物とする工程である。
ここで炭化可能樹脂とは、焼成により炭化し、炭素材料として残存する樹脂であり、炭化収率が40%以上のものが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の双方を用いることができ、熱可塑性樹脂の例としては、ポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、全芳香族ポリエステルが挙げられ、熱硬化性樹脂の例としては、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂等を列挙することができる。コスト、生産性の点でポリアクリロニトリル、フェノール樹脂が好ましく、ポリアクリロニトリルがより好ましい。特に本発明では、ポリアクリロニトリルでも高比表面積が得られることから、好ましい態様である。これらは単独で用いても、混合された状態で用いても構わない。ここでいう炭化収率は、熱重量測定(TG)法で、窒素雰囲気下、10℃/分で昇温したときの重量変化を測定し、室温での重量と800℃での重量との差を、室温での重量で除したものをいう。
また消失樹脂とは、後述する工程2の後に除去できる樹脂であり、好ましくは不融化処理と同時もしくは不融化処理後または焼成と同時、の少なくともいずれかの段階で除去することのできる樹脂である。除去率は、最終的に多孔質炭素繊維となった際に80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。消失樹脂を除去する方法については特に限定されるものではなく、薬品を用いて解重合する等して化学的に除去する方法、消失樹脂を溶解する溶媒により除去する方法、加熱して熱分解によって消失樹脂を低分子量化して除去する方法等が好適に用いられる。これらの手法は単独で、もしくは組み合わせて使用することができ、組み合わせて実施する場合にはそれぞれを同時に実施しても別々に実施しても良い。
化学的に除去する方法としては、酸またはアルカリを用いて加水分解する方法が経済性や取り扱い性の観点から好ましい。酸またはアルカリによる加水分解を受けやすい樹脂としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド等が挙げられる。
消失樹脂を溶解する溶媒により除去する方法としては、混合された炭化可能樹脂と消失樹脂に対して、連続して溶媒を供給して消失樹脂を溶解、除去する方法や、バッチ式で混合して消失樹脂を溶解、除去する方法等が好適な例として挙げられる。
溶媒により除去する方法に適した消失樹脂の具体的な例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルピロリドン、脂肪族ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。中でも溶媒への溶解性から非晶性の樹脂であることがより好ましく、その例としてはポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
熱分解によって消失樹脂を低分子量化して除去する方法としては、混合された炭化可能樹脂と消失樹脂をバッチ式で加熱して熱分解する方法や、連続して混合された炭化可能樹脂と消失樹脂を加熱源中へ連続的に供給しつつ加熱して熱分解する方法が挙げられる。
消失樹脂は、これらのなかでも、後述する工程3において、炭化可能樹脂を焼成により炭化する際に熱分解により消失する樹脂であることが好ましく、後述する炭化可能樹脂の不融化処理の際に大きな化学変化を起こさず、かつ焼成後の炭化収率が10%未満となる樹脂であることが好ましい。このような消失樹脂の具体的な例としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール、ポリビニルピロリドン、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリカーボネート等を列挙することができ、これらは、単独で用いても、混合された状態で用いても構わない。
工程1においては、炭化可能樹脂と消失樹脂を相溶させ、樹脂混合物(ポリマーアロイ)とする。ここでいう「相溶させ」とは、温度および/または溶媒の条件を適切に選択することにより、光学顕微鏡で炭化可能樹脂と消失樹脂の相分離構造が観察されない状態を作り出すことをいう。
炭化可能樹脂と消失樹脂は、樹脂同士のみの混合により相溶させてもよいし、溶媒等を加えることにより相溶させてもよい。
複数の樹脂が相溶する系としては、低温では相分離状態にあるが高温では1相となる上限臨界共溶温度(UCST)型の相図を示す系や、逆に、高温では相分離状態にあるが低温では1相となる下限臨界共溶温度(LCST)型の相図を示す系等が挙げられる。また特に炭化可能樹脂と消失樹脂の少なくとも一方が溶媒に溶解した系である場合には、非溶媒の浸透によって後述する相分離が誘発されるものも好適な例として挙げられる。
加えられる溶媒については特に限定されるものではないが、溶解性の指標となる炭化可能樹脂と消失樹脂の溶解度パラメーター(SP値)の平均値との差の絶対値が、5.0以内であることが好ましい。SP値の平均値との差の絶対値は、小さいほど溶解性が高いことが知られているため、差がないことが好ましい。またSP値の平均値との差の絶対値は、大きいほど溶解性が低くなり、炭化可能樹脂と消失樹脂との相溶状態を取ることが難しくなる。このことからSP値の平均値からの差の絶対値は、3.0以下であることが好ましく、2.0以下が最も好ましい。
相溶する系の具体的な炭化可能樹脂と消失樹脂の組み合わせ例としては、溶媒を含まない系であれば、ポリフェニレンオキシド/ポリスチレン、ポリフェニレンオキシド/スチレン−アクリロニトリル共重合体、全芳香族ポリエステル/ポリエチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステル/ポリエチレンナフタレート、全芳香族ポリエステル/ポリカーボネート等が挙げられる。溶媒を含む系の具体的な組合せ例としては、ポリアクリロニトリル/ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルフェノール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル/ポリ乳酸、ポリビニルアルコール/酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール/ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール/ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール/デンプン等を挙げることができる。
炭化可能樹脂と消失樹脂を混合する方法については限定されるものではなく、均一に混合できる限りにおいて公知の種々の混合方式を採用できる。具体例としては、攪拌翼を持つロータリー式のミキサーや、スクリューによる混練押出機等が挙げられる。
また炭化可能樹脂と消失樹脂を混合する際の温度(混合温度)を、炭化可能樹脂と消失樹脂が共に軟化する温度以上とすることも好ましい態様である。ここで軟化する温度とは、炭化可能樹脂または消失樹脂が結晶性高分子であれば融点、非晶性樹脂であればガラス転移点温度を適宜選択すればよい。混合温度を炭化可能樹脂と消失樹脂が共に軟化する温度以上とすることで、両者の粘性を下げられるため、より効率の良い攪拌、混合が可能になる。混合温度の上限についても特に限定されるものではないが、熱分解による樹脂の劣化を防止し、品質に優れた多孔質炭素繊維の前駆体を得る観点から、400℃以下であることが好ましい。
また、工程1においては、炭化可能樹脂10〜90重量%に対し消失樹脂90〜10重量%を混合する。炭化可能樹脂と消失樹脂が前記範囲内であると、最適な空隙サイズや空隙率を任意に設計できるため好ましい。炭化可能樹脂が10重量%以上であれば、炭化後の繊維強度を保つことが可能になるほか、収率が向上するため好ましい。また炭化可能な材料が90重量%以下であれば、消失樹脂が効率よく空隙を形成できるため好ましい。
炭化可能樹脂と消失樹脂の混合比については、それぞれの材料の相溶性を考慮して、上記の範囲内で任意に選択することができる。具体的には、一般に樹脂同士の相溶性はその組成比が1対1に近づくにつれて悪化するため、相溶性のあまり高くない系を原料に選択した場合には、炭化可能樹脂の量を増やす、減らす等して、いわゆる偏組成に近づけることで相溶性を改善することも好ましい態様として挙げられる。
また炭化可能樹脂と消失樹脂を混合する際に、溶媒を添加することも好ましい態様である。溶媒を添加することで炭化可能樹脂と消失樹脂の粘性を下げ、成形を容易にするほか、炭化可能樹脂と消失樹脂を相溶化させやすくなる。ここでいう溶媒も特に限定されるものではなく、炭化可能樹脂、消失樹脂のうち少なくともいずれか一方を溶解、膨潤させることが可能な常温で液体であるものであれば良く、炭化可能樹脂及び消失樹脂をいずれも溶解するものであれば、両者の相溶性を向上させることが可能となるためより好ましい態様である。
溶媒の添加量は、炭化可能樹脂と消失樹脂の相溶性を向上させ、粘性を下げて流動性を改善する観点から炭化可能樹脂と消失樹脂の合計重量に対して20重量%以上であることが好ましい。また一方で溶媒の回収、再利用に伴うコストの観点から、炭化可能樹脂と消失樹脂の合計重量に対して90重量%以下であることが好ましい。
〔工程2〕
工程2は、工程1において相溶させた状態の樹脂混合物を混合された炭化可能樹脂と消失樹脂を相分離させて微細構造を形成し、固定化するとともに繊維状に成型する工程である。この工程において繊維状に成形することが好ましい。繊維状への成形の手法は特に限定されず、溶融状態の混合樹脂または混合樹脂溶液を空気中に口金から吐出して常温空気中または冷却風により繊維状に成型する方法や、凝固浴中の口金から吐出し、そのまま凝固浴内で繊維状に成型される方法等が考えられるが、混合樹脂または混合樹脂溶液を口金から吐出し、エアギャップを経た後に固化可能な温度条件、組成条件に設定された凝固浴において繊維状に構造固定される方法による成型が、生産性、品質安定性の観点や広い構造制御範囲を有する点において好ましい。いずれの方法においても、凝固浴の組成は水または溶媒またはその両方が含まれていてもよいが、管理の簡便性や安全性の観点からは水であることが好ましい。
混合された炭化可能樹脂と消失樹脂の相分離は、種々の物理・化学的手法により誘発することができ、例えば温度変化によって相分離を誘発する熱誘起相分離法、非溶媒を添加することによって相分離を誘発する非溶媒誘起相分離法、物理的な場によって相分離を誘発する流動誘起相分離法、配向誘起相分離法、電場誘起相分離法、磁場誘起相分離法、圧力誘起相分離法、化学反応を用いて相分離を誘発する反応誘起相分離法等種々挙げられる。これらの中では、熱誘起相分離法や非溶媒誘起相分離法等、相分離の際に化学反応を伴わない方法が、多孔質炭素繊維を容易に製造できる点で好ましい。
これら相分離法は、単独で、もしくは組み合わせて使用することができる。組み合わせて使用する場合の具体的な方法は、例えば上記した方法においては、まず凝固浴を通して非溶媒誘起相分離を起こした後、さらに後工程として加熱して熱誘起相分離を起こす方法や、凝固浴の温度を制御して非溶媒誘起相分離と熱誘起相分離を同時に起こす方法、口金から吐出された材料を冷却して熱誘起相分離を起こした後に非溶媒と接触させる方法等が挙げられる。
上記相分離の際に化学反応を伴わないとは、混合された炭化可能樹脂もしくは消失樹脂が、混合前後においてその一次構造を変化させないことを言う。一次構造とは、炭化可能樹脂もしくは消失樹脂を構成する化学構造のことを示す。相分離の際に重合等の化学反応を伴わないことで、大幅な弾性率向上等の特性変化を抑制し、繊維状に容易に成形できる。なお、本発明の製造方法としては、より低コストで安定に生産できるという観点から、化学反応を伴う相分離は除かれるが、多孔質炭素繊維が本発明の製造方法に限定されるものではないのは、上述したとおりである。
〔消失樹脂の除去〕
工程2において相分離後の微細構造が固定化された繊維状樹脂混合物からなる繊維(前駆体繊維)は、炭化工程(工程3)に供される前または炭化工程と同時、あるいはその両方で消失樹脂の除去処理を行うことが好ましい。除去処理の方法は特に限定されるものではなく、消失樹脂を除去することが可能であれば良い。具体的には、酸、アルカリや酵素を用いて消失樹脂を化学的に分解、低分子量化して除去する方法や、消失樹脂を溶解する溶媒により溶解除去する方法、電子線、ガンマ線や紫外線、赤外線等の放射線や熱を用いて消失樹脂を分解除去する方法等が好適である。また、消失樹脂の一部を溶媒により溶解除去し、次いで、熱により分解除去する方法等複数の工程を組み合わせても良い。
特に、熱分解によって消失樹脂を除去処理することができる場合には、予め消失樹脂の80重量%以上が消失する温度で熱処理を行うこともできるし、炭化工程(工程3)もしくは後述の不融化処理において消失樹脂を熱分解、ガス化して除去することもできる。工程数を減じて生産性を高める観点から、炭化工程(工程3)もしくは後述の不融化処理において熱処理と同時に消失樹脂を熱分解、ガス化して除去する方法を選択することが、より好適な態様である。
〔不融化処理〕
工程2において相分離後の前駆体繊維は、炭化工程(工程3)に供される前に不融化処理を行うことが好ましい。不融化処理の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。具体的な方法としては、酸素存在下で加熱することで酸化架橋を起こす方法、電子線、ガンマ線等の高エネルギー線を照射して架橋構造を形成する方法、反応性基を持つ物質を含浸、混合して架橋構造を形成する方法等が挙げられ、中でも酸素存在下で加熱することで酸化架橋を起こす方法が、プロセスが簡便であり製造コストを低く抑えることが可能である点から好ましい。これらの手法は単独もしくは組み合わせて使用しても、それぞれを同時に使用しても別々に使用しても良い。
酸素存在下で加熱することで酸化架橋を起こす方法における加熱温度は、架橋反応を効率よく進める観点から150℃以上であることが好ましく、炭化可能樹脂の熱分解、燃焼等による重量ロスからの収率悪化を防ぐ観点から、350℃以下であることが好ましい。
また処理中の酸素濃度については特に限定されないが、18%以上の酸素濃度を持つ気体を、特に空気をそのまま供給することが製造コストを低く抑えることが可能となるため好ましい。気体の供給方法については特に限定されないが、空気をそのまま加熱装置内に供給する方法や、ボンベ等を用いて純酸素を加熱装置内に供給する方法等が挙げられる。
電子線、ガンマ線等の高エネルギー線を照射して架橋構造を形成する方法としては、市販の電子線発生装置やガンマ線発生装置等を用いて、炭化可能樹脂へ電子線やガンマ線等を照射することで、架橋を誘発する方法が挙げられる。照射による架橋構造の効率的な導入から照射強度の下限は1kGy以上であると好ましく、主鎖の切断による分子量低下から強度が低下するのを防止する観点から1000kGy以下であることが好ましい。
反応性基を持つ物質を含浸、混合して架橋構造を形成する方法は、反応性基を持つ低分子量化合物を樹脂混合物に含浸して、加熱または高エネルギー線を照射して架橋反応を進める方法、予め反応性基を持つ低分子量化合物を混合しておき、加熱または高エネルギー線を照射して架橋反応を進める方法等が挙げられる。
また不融化処理の際に、消失樹脂の除去を同時に行うことも工程数減少による低コスト化の恩恵が期待できるため好適である。
〔工程3〕
工程3は、工程2において相分離後の微細構造が固定化され、必要に応じて不融化処理を行った繊維、あるいは、消失樹脂を既に除去している場合には炭化可能樹脂からなる残存部分からなる繊維を焼成し、炭化して多孔質炭素繊維を得る工程である。
焼成は不活性ガス雰囲気において600℃以上に加熱することにより行うことが好ましい。ここで不活性ガスとは、加熱時に化学的に不活性であるものを言い、具体的な例としては、ヘリウム、ネオン、窒素、アルゴン、クリプトン、キセノン、二酸化炭素等である。中でも窒素、アルゴンを用いることが、経済的な観点から好ましい。炭化温度を1500℃以上とする場合には、窒化物形成を抑制する観点からアルゴンを用いることが好ましい。
また不活性ガスの流量は、加熱装置内の酸素濃度を充分に低下させられる量であれば良く、加熱装置の大きさ、原料の供給量、加熱温度等によって適宜最適な値を選択することが好ましい。流量の上限についても特に限定されるものではないが、経済性や加熱装置内の温度変化を少なくする観点から、温度分布や加熱装置の設計に合わせて適宜設定することが好ましい。また炭化時に発生するガスを系外へ充分に排出できると、品質に優れた多孔質炭素繊維を得ることができるため、より好ましい態様であり、このことから系内の発生ガス濃度が3000ppm以下となるように不活性ガスの流量を決定することが好ましい。
加熱する温度の上限は限定されないが、3000℃以下であれば設備に特殊な加工が必要ないため経済的な観点からは好ましい。また、BET比表面積を高めるためには1500℃以下であることが好ましく、1000℃以下であることがより好ましい。
連続的に炭化処理を行う場合の加熱方法については、一定温度に保たれた加熱装置内に、材料をローラーやコンベヤ等を用いて連続的に供給しつつ取り出す方法であることが、生産性を高くすることが可能であるため好ましい。
一方加熱装置内にてバッチ式処理を行う場合の昇温速度、降温速度の下限は特に限定されないが、昇温、降温にかかる時間を短縮することで生産性を高めることができるため、1℃/分以上の速度であると好ましい。また昇温速度、降温速度の上限は特に限定されないが、加熱装置を構成する材料の耐熱衝撃特性よりも遅くすることが好ましい。
〔賦活処理〕
工程3において得た多孔質炭素繊維に対し、更に賦活処理を行うことで、表面に細孔を形成することができる。賦活の方法としては、ガス賦活法、薬品賦活法等、特に限定するものではない。ガス賦活法とは、賦活剤として酸素や水蒸気、炭酸ガス、空気等を用い、400〜1500℃、好ましくは500〜900℃にて、数分から数時間、加熱することにより細孔を形成させる方法である。また、薬品賦活法とは、賦活剤として塩化亜鉛、塩化鉄、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等を1種または2種以上用いて数分から数時間、加熱処理する方法であり、必要に応じて水や塩酸等による洗浄を行った後、pHを調整して乾燥する。
賦活をより進行させたり、賦活剤の混合量を増加させたりすることにより、一般にBET比表面積が増加し、細孔径は拡大する傾向にある。また賦活剤の混合量は、対象とする炭素原料に対し、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1.0重量部以上、さらに好ましくは4重量部以上とする。上限は特に限定されないが、10重量部以下が一般的である。また、ガス賦活法より薬品賦活法の方が、細孔径は拡大する傾向にある。
本発明においては繊維状の形態で賦活を実施するため、薬剤との混合や洗浄の工程が省略できるガス賦活法が好ましく採用される。中でも、水蒸気、炭酸ガスで賦活する方法が好ましく採用される。ガス賦活法を採用することで繊維形状の破損を防ぐことが容易となり生産効率と安定性を向上することができる。
〔繊維構造体の形成〕
電極が巻き糸状の繊維構造体である場合には、上述した製造方法におけるいずれかの工程中か工程前後において、繊維を巻き芯に巻き取ることが好ましい。例えば、炭化工程までは連続プロセスで実施し、炭化工程後に繊維を巻き芯に巻き取り、その巻き姿のままバッチ式で賦活工程に供することは好ましい態様である。その際、巻き芯が電気化学キャパシタセルの集電体となり得るものであると、巻き姿のまま電気化学キャパシタセルに組み込めるため好ましい。また、賦活条件によって賦活工程中で巻き芯兼集電体の劣化や変質が懸念される場合は、例えば賦活中は高耐久性(例えばアルミナ製)の巻き芯に巻いておき、賦活後に多孔質炭素繊維の巻き姿は維持したまま巻き芯を集電体となり得るもの(例えば、表層がアルミニウム製の巻き芯)に挿し換えるとこで、巻き返し等の工程を経ずとも、容易に集電体に巻かれた巻き姿の多孔質炭素繊維が得られる。
一方、電極を不織布または織布のいずれかの繊維構造体とする場合は、上述した製造方法におけるいずれかの工程中か工程前後において、繊維をそれぞれ不織布または織布の形態に成形する。不織布または織布の形態に成形するタイミングは特に限定されないが、成形性の点で、工程2の前駆体繊維の成型後、工程3の焼成前までに不織布または織布に成形することが好ましく、前駆体繊維に不融化処理を行った耐炎糸の段階でそのように形成することがより好ましい。また、形成繊維構造体賦活工程を行う場合は賦活工程前に不織布または織布に成形しておくことで、賦活工程の生産安定性が向上するため好ましい。
不織布の製造方法は特に限定されないが、例えば、ニードルパンチ法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、水流交絡法等の公知の手段を用いることができる。なかでも、ニードルパンチ法とサーマルボンド法の併用または水流交絡法での不織布化が生産性の観点から好ましい。
織布の製造方法は特に限定されず、例えば、ウォータージェットルーム、エアージェットルーム、レピアルーム、グリッパールームにて製織を行うことができるが、生産性の観点からウォータージェットルームを用いることが好ましい。
<電気化学キャパシタの製造方法>
本発明の電気化学キャパシタは、本発明の電気化学キャパシタ用電極を用いてなること以外は、従来の電気化学キャパシタと全く同様の方法によって製造できるが、以下に好ましい態様について述べる。
電気化学キャパシタのセルは、典型的には、本発明の多孔質炭素繊維を用いてなる電気化学キャパシタ電極と電解液をセル容器内に入れて、密閉封止することにより製造される。本発明の電極が巻き糸である場合は、巻き芯に集電体の効果を発揮するものを用いて、巻き姿のままセルに組み込まれることが好ましい。また、本発明の電極が不織布、織布のような平面形状であれば、適宜打ち抜き、切り出し等の方法によってセルの形状にあわせた大きさし、必要に応じて捲回、積層または折る等して容器に入れ、容器に電解液を注入して封口して製造できる。あらかじめ電気化学キャパシタに電解液を含浸させたものを容器に収納してもよい。
電極はプレスしてからセルに組み入れてもよい。電極をプレスすることで、電極中の多孔質炭素繊維同士及び/または多孔質炭素繊維と電極以外の部材(例えば、集電体等)が圧着し、導電パスが形成されて抵抗を低くできる利点がある。一方、プレスしない方が、多孔質炭素繊維に電解液が流動する空隙が電極中に多く存在させることができるという利点がある。これらを総合的に勘案し、プレスの実施有無を決定すればよい。本発明において、多孔質炭素繊維は共連続構造による連通孔を有するため、プレスを行っても電解液が流動する空隙がある程度維持される。そのため、プレス条件や電気化学キャパシタの用途等にもよるが、プレスを行うことで導電パスが形成されつつ電解液の流動部分は維持できるため、プレスを行う方が好ましい。プレス工程は電気化学キャパシタの製造に関わるあらゆる工程のどの部分に組み入れられていてもよく、また、電極以外の部材(例えば、セパレータ等)を積層された状態でプレスが行われてもよい。
以下に本発明の好ましい実施の例を記載するが、これら記載は何ら本発明を制限するものではない。
<評価手法>
〔共連続構造の有無〕
多孔質炭素繊維をピンセットで割断し、その断面を走査型電子顕微鏡によって表面観察した。その際、炭素部分と空隙とがそれぞれ連続しつつ絡み合った構造として観察される部分を有するか否かで、共連続構造の有無を判断した。
〔連続構造部分の構造周期〕 多孔質炭素繊維を試料プレートに挟み込み、CuKα線光源から得られたX線源から散乱角度10°未満の情報が得られるように、光源、試料及び二次元検出器の位置を調整した。電極の大きさや厚みにより測定が難しいようであれば、測定に供せる程度まで乳鉢で粉砕して測定を行った。二次元検出器から得られた画像データ(輝度情報)から、ビームストッパーの影響を受けている中心部分を除外して、ビーム中心から動径を設け、角度1°毎に360°の輝度値を合算して散乱強度分布曲線を得た。得られた曲線においてピークを持つ位置の散乱角度2θより、連続構造部分の構造周期を下記の式によって得た。さらに、ピークの頂点を点Aとし、点Aからグラフ縦軸に平行な直線を引き、該直線とスペクトルのベースラインとの交点を点Bとしたとき、点Aと点Bを結ぶ線分の中点(点C)におけるピークの幅を半値幅として算出した。なお、ここで言うピークの幅とは、ベースラインに平行で、かつ点Cを通る直線上の幅のことである。
構造周期:L、λ:入射X線の波長
〔平均空隙率〕
多孔質炭素繊維を樹脂中に包埋し、その後カミソリ等で多孔質炭素繊維の断面を露出させ、日本電子製SM−09010を用いて加速電圧5.5kVにて試料表面にアルゴンイオンビームを照射、エッチングを施した。得られた多孔質炭素繊維の断面を走査型二次電子顕微鏡にて材料中心部を1±0.1(nm/画素)となるよう調整された拡大率で、70万画素以上の解像度で観察した画像から、計算に必要な着目領域を512画素四方で設定し、着目領域の面積A、孔部分または消失樹脂部分の面積をBとして、以下の式で平均空隙率を算出した。
平均空隙率(%)=B/A×100
〔表層における緻密部分の面積比率〕
多孔質炭素繊維を1本取り出しその表層を走査型電子顕微鏡にて1nm/画素の拡大率で観察した。10μm四方の領域について観察し、観察画像を用いて明確な空隙が観察されない部分について画像解析によって面積を算出した。次いで、該面積の観察視野面積全体に対する比率を算出した。
〔BET比表面積〕
300℃で約5時間、減圧脱気した後、日本ベル社製の「BELSORP−18PLUS−HT」を使用し、液体窒素を用いて77Kの温度での窒素吸脱着を多点法で測定した。
〔細孔の平均直径、細孔容積〕
多孔質炭素繊維を乳鉢で粗く粉砕し、窒素を吸脱着評価を実施し、脱着等温線を得た。次いで、MP法により細孔径分布の解析を実施し、平均直径と細孔容積を求めた。
〔最表面原子組成〕
X線光電子分光法(XPS)により測定した。装置はPHI社製Quantera SXMを用い、励起X線はmonochromatic AlK1,2線(1486.6eV)、X線径は100μmとし、光電子脱出角度すなわち試料表面に対する検出器の傾きは45°とした。
〔表面利用効率〕
電気化学キャパシタ用電極として使用した際の多孔質炭素繊維の表面利用効率は、後述する充放電試験により求めた静電容量をBET比表面積で除した値、すなわちBET比表面積あたりの静電容量にて評価した。
[実施例1]
70gのポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(重量平均分子量15万、炭素収率58%)と70gのシグマ・アルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(重量平均分子量4万)、及び、溶媒として400gの和研薬製ジメチルスルホキシド(DMSO)をセパラブルフラスコに投入し、3時間攪拌および還流を行いながら135℃で均一かつ透明な溶液を調整した。このときポリアクリロニトリルの濃度、ポリビニルピロリドンの濃度はそれぞれ13重量%であった。得られたDMSO溶液を25℃まで冷却した後、0.6mmφの1穴口金から2ml/分で溶液を吐出して、エアギャップは10mmとし、20℃に保たれた純水の凝固浴へ導いた。凝固浴中の浸漬長は20cmとし、凝固浴直後の駆動ローラーは12m/分の速度とし、連続的に乾燥ボックスに導いた。工程中の繊維を目視観察すると、得られた原糸は半透明であり、相分離を起こしていた。50℃に保った乾燥ボックスを30秒で通過させた後、直径5cmのアルミナ管に巻き取った。巻き取り時間は1分とした。各種分析に供するサンプルも同様に採取した。乾燥後の前駆体繊維の外観は透明感のある黄色であった。
その後240℃に保った電気炉中へ前駆体繊維を巻き姿のままアルミナ管ごと投入し、酸素雰囲気化で1時間加熱することで不融化処理を行った。不融化処理を行った原糸は、黒色に変化した。得られた巻き姿の不融化原糸を窒素流量1リットル/分、昇温速度10℃/分、到達温度810℃、保持時間3分の条件で炭化処理を行うことで、共連続構造を有する多孔質炭素繊維とした。繊維直径は70μmであった。
その後、賦活処理として、巻き姿のまま炭酸ガス流通下で815℃まで昇温し4時間賦活処理した。賦活後も巻き姿は保持されていた。その後手作業でアルミナ管を取り外した。巻き姿の多孔質炭素繊維は適度な硬度があり取り扱い性にすぐれ、テフロン管を外してもある程度巻き姿は維持され、筒状の多孔質繊維構造体Aを得た。
得られた繊維断面中央には、図1に示すように均一な共連続構造が形成されていた。繊維直径は70μmであり、共連続構造部分の平均空隙率は42%であり、構造周期は70nm、ピーク半値幅は2°であった。繊維の表層に共連続構造を有しない緻密部分を55面積%有していた。緻密部分でない部分は消失樹脂であるポリビニリデンピロリドンのガス化と放出に伴って形成された可能性があり、かつ/または、賦活工程において緻密部分が炭酸ガスによってエッチングされ、それにもない内部の共連続構造が露出した可能性がある。BET比表面積は1590m2/g、MP法による細孔の平均直径は0.5nm、細孔容積は2.0cm3/gであった。また、最表面原子組成は、窒素原子は4.2%、酸素原子は6.3%であった。結果を表1にまとめて示す。
直径5.3cmのアルミナ管を用いて、上記した手順に従って、筒状の巻き姿の多孔質繊維構造体Bを得た。
テフロン管の表層にアルミニウム箔(厚さ18μm)が備わったものの外側に多孔質繊維構造体Aを装着し、その外側にセパレータ(東レバッテリーセパレータフィルム社製FC25CH1)を1層巻き、さらにその外側に多孔質繊維構造体Bを装着し、最後にその外側にアルミニウム箔(厚さ18μm)を1層巻いた。
その後、120℃36時間真空乾燥させ、真空状態を保ったままグローブボックスに入れた。電解液としてテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボラート/プロピレンカーボネート(1M)を用いてセルを作製し、充放電試験を行った。0〜2.5Vの電圧範囲において電流値1mAにて定電流充放電を行った。4サイクルの充放電を行い、4サイクル目の放電曲線から静電容量を算出した。静電容量15.9F/gであり、BET比表面積あたりの静電容量が1.00μF/cm2であった。結果を表1にまとめて示す。
[実施例2]
炭化処理までは実施例1と同様としたが、賦活処理以降の工程を実施せず、粒子状の多孔質炭素材料を得た。得られた多孔質炭素材料は、共連続構造部分の平均空隙率は46%であり、構造周期は68nm、ピーク半値幅は2°であった。また、繊維の表層に共連続構造を有しない緻密部分を92面積%有していた。BET比表面積は40m2/gであり、MP法による細孔は確認できなかった。また、最表面原子組成は、窒素原子は14.4%、酸素原子は4.1%であった。実施例1と同様に充放電試験を実施したところ、静電容量0.33F/gであり、BET比表面積あたりの静電容量が0.83μF/cm2であった。結果を表1にまとめて示す。