以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(点滴灌漑用チューブおよびエミッタの構成)
図1は、本実施の形態に係る点滴灌漑用チューブ100の軸に沿う方向における断面図である。
図1に示されるように、点滴灌漑用チューブ100は、チューブ110およびエミッタ120を有する。
チューブ110は、灌漑用液体を流すための管である。チューブ110の材料は、特に限定されない。本実施の形態では、チューブ110の材料は、ポリエチレンである。チューブ110の管壁には、チューブ110の軸方向において所定の間隔(例えば、200〜500mm)で灌漑用液体を吐出するための複数の吐出口112が形成されている。吐出口112の開口部の直径は、灌漑用液体を吐出することができれば特に限定されない。本実施の形態では、吐出口112の開口部の直径は、1.5mmである。チューブ110の内壁面の吐出口112に対応する位置には、エミッタ120がそれぞれ接合される。チューブ110の軸方向に垂直な断面形状および断面積は、チューブ110の内部にエミッタ120を配置することができれば特に限定されない。
点滴灌漑用チューブ100は、エミッタ120の裏面124をチューブ110の内壁面に接合することによって作製される。チューブ110とエミッタ120との接合方法は、特に限定されない。チューブ110とエミッタ120との接合方法の例には、エミッタ120またはチューブ110を構成する樹脂材料の溶着や、接着剤による接着などが含まれる。なお、通常、吐出口112は、チューブ110とエミッタ120とを接合した後に形成されるが、接合前に形成されてもよい。
図2Aは、エミッタ本体121とフィルム122とを接合する前のエミッタ120の平面図であり、図2Bは、エミッタ本体121とフィルム122とを接合した後のエミッタ120の平面図であり、図2Cは、エミッタ本体121とフィルム122とを接合した後のエミッタ120の底面図である。図3Aは、エミッタ120の側面図であり、図3Bは、図2Bに示されるA−A線の断面図である。図4Aは、エミッタ120の側面図の側面図であり、図4Bは、図2Bに示されるB−B線のエミッタ本体121の断面図である。図5は、図3Bに示される領域Cの部分拡大図である。
図1に示されるように、エミッタ120は、吐出口112を覆うようにチューブ110の内壁面に接合されている。エミッタ120の形状は、チューブ110の内壁面に密着して、吐出口112を覆うことができれば特に限定されない。本実施の形態では、チューブ110の軸方向に垂直なエミッタ120の断面における、チューブ110の内壁面に接合する裏面124の形状は、チューブ110の内壁面に沿うように、チューブ110の内壁面に向かって凸の略円弧形状である。エミッタ120の平面形状は、四隅がR面取りされた略矩形である。エミッタ120の大きさは、特に限定されない。本実施の形態では、エミッタ120の長辺方向の長さは25mmであり、短辺方向の長さは8mmであり、高さは2.5mmである。
図1、図2A〜C、図3A、B、図4A、Bおよび図5に示されるように、エミッタ120は、チューブ110の内壁面に接合されるエミッタ本体121と、エミッタ本体121に接合されたフィルム122とを有する。エミッタ本体121およびフィルム122は、一体として形成されていてもよいし、別体として形成されていてもよい。本実施の形態では、エミッタ本体121およびフィルム122は、ヒンジ部123を介して一体的に形成されている。
エミッタ本体121およびフィルム122は、いずれも可撓性を有する一種類の材料で成形されていることが好ましい。本実施の形態では、エミッタ本体121と、ダイヤフラム部を含むフィルム122とは、可撓性を有する一種類の材料で一体的に形成されている。エミッタ本体121およびフィルム122の材料の例には、樹脂およびゴムが含まれる。エミッタ本体121が可撓性を有しない場合には、可撓性を有しない材料が選択されうる。樹脂の例には、ポリエチレンおよびシリコーンが含まれる。エミッタ本体121およびフィルム122の可撓性は、弾性を有する樹脂材料の使用によって調整することができる。エミッタ本体121およびフィルム122の可撓性の調整方法の例には、弾性を有する樹脂の選択や、硬質の樹脂材料に対する弾性を有する樹脂材料の混合比の調整などが含まれる。エミッタ本体121およびフィルム122の一体成形品は、例えば、射出成形によって製造できる。
エミッタ120は、取水部150と、第1接続流路141の一部となる第1接続溝131と、第1減圧流路142の一部となる第1減圧溝132と、第2接続流路143の一部となる第2接続溝133と、第2減圧流路144の一部となる第2減圧溝134と、第3減圧流路145の一部となる第3減圧溝135と、第3接続流路146の一部となる第3接続溝136と、流量減少部160と、流路開閉部170と、吐出部180とを有する。取水部150、流量減少部160および流路開閉部170は、エミッタ120の表面125側に配置されている。また、第1接続溝131、第1減圧溝132、第2接続溝133、第2減圧溝134、第3減圧溝135、第3接続溝136および吐出部180は、エミッタ120の裏面124側に配置されている。エミッタ120の表面125側に配置されている各流路と、エミッタ120の裏面124側に配置されている各流路とは、後述する貫通孔により連通されている。これらの貫通孔も、流路の一部を形成する。たとえば、第3接続流路146は、流路開閉部170と第3接続溝136とを繋ぐ流路開閉用貫通孔173と、第3接続溝136と、第3接続溝136と流量減少部160とを繋ぐ第2接続用貫通孔166と、からなる。また、以降の説明において、流路開閉部170と吐出部180とを繋ぐ貫通孔を吐出流路147ともいう。
エミッタ120およびチューブ110が接合されることにより、第1接続溝131、第1減圧溝132、第2接続溝133、第2減圧溝134、第3減圧溝135および第3接続溝136は、それぞれ第1接続流路141、第1減圧流路142、第2接続流路143、第2減圧流路144、第3減圧流路145および第3接続流路146の一部となる。これにより、取水部150、第1接続流路141、第1減圧流路142、第2接続流路143、第2減圧流路144、流量減少部160、吐出流路147および吐出部180から構成され、取水部150と吐出部180とを繋ぐ第1流路が形成される。また、取水部150、第1接続流路141、第1減圧流路142、第2接続流路143、第3減圧流路145、流路開閉部170、第3接続流路146、流路減少部160、吐出流路147および吐出部180から構成され、取水部150と吐出部180とを繋ぐ第2流路が形成される。第1流路および第2流路は、いずれも取水部150から吐出部180まで灌漑用液体を流通させる。本実施の形態では、取水部150から第2接続流路143までの間は、第1流路と第2流路とが重複している。また、流量減少部160から吐出部180までの間も、第1流路と第2流路とが重複している。
取水部150は、エミッタ120の表面125の約半分の領域に配置されている(図2A、B参照)。取水部150が配置されていない表面125の領域には、流量減少部160および流路開閉部170(フィルム122)が配置されている。取水部150は、取水側スクリーン部151および取水用貫通孔152を有する。
取水側スクリーン部151は、エミッタ120に取り入れられる灌漑用液体中の浮遊物が取水用凹部153内に侵入することを防止する。取水側スクリーン部151は、チューブ110内に対して開口しており、取水用凹部153、複数のスリット154および複数の凸条155を有する。
取水用凹部153は、エミッタ120の表面125において、フィルム122が接合されていない領域の全体に形成されている1つの凹部である。取水用凹部153の深さは特に限定されず、エミッタ120の大きさによって適宜設定される。取水用凹部153の外周壁には複数のスリット154が形成されており、取水用凹部153の底面上には複数の凸条155が形成されている。また、取水用凹部153の底面には取水用貫通孔152が形成されている。
複数のスリット154は、取水用凹部153の内側面と、エミッタ本体121の外側面とを繋いでおり、エミッタ本体121の側面から灌漑用液体を取水用凹部153内に取り入れつつ、灌漑用液体中の浮遊物が取水用凹部153内に侵入することを防止する。スリット154の形状は、前述の機能を発揮することができれば特に限定されない。本実施の形態では、スリット154の形状は、エミッタ本体121の外側面から取水用凹部153の内側面に向かうにつれて、幅が大きくなるように形成されている(図2A、B参照)。このように、スリット154は、いわゆるウェッジワイヤー構造となるように構成されているため、取水用凹部153内に流入した灌漑用液体の圧力損失が抑制される。
複数の凸条155は、取水用凹部153の底面上に配置されている。凸条155の配置および数は、取水用凹部153の開口部側から灌漑用液体を取り入れつつ、灌漑用液体中の浮遊物の侵入を防止することができれば特に限定されない。本実施の形態では、複数の凸条155は、凸条155の長軸方向がエミッタ120の短軸方向に沿うように配列されている。また、凸条155は、エミッタ本体121の表面125から取水用凹部153の底面に向かうにつれて幅が小さくなるように形成されている。すなわち、凸条155の配列方向において、隣接する凸条155間の空間は、いわゆるウェッジワイヤー構造となっている。また、隣接する凸条155間の間隔は、前述の機能を発揮することができれば特に限定されない。このように、隣接する凸条155間の空間は、いわゆるウェッジワイヤー構造となるように構成されているため、取水用凹部153内に流入した灌漑用液体の圧力損失が抑制される。
取水用貫通孔152は、取水用凹部153の底面に形成されている。取水用貫通孔152の形状および数は、取水用凹部153の内部に取り込まれた灌漑用液体をエミッタ本体121内に取り込むことができれば特に限定されない。本実施の形態では、取水用貫通孔152は、取水用凹部153の底面において、エミッタ120の長軸方向に沿って形成された1つの長孔である。この長孔は、複数の凸条155により部分的に覆われているため、表面125側から見た場合、取水用貫通孔152は、多数の貫通孔に分かれているように見える。
チューブ110内を流れてきた灌漑用液体は、取水側スクリーン部151によって取水用凹部153内への浮遊物の侵入が防止されつつ、エミッタ本体121内に取り込まれる。
第1接続溝131(第1接続流路141)は、取水用貫通孔152(取水部150)と、第1減圧溝132とを接続する。第1接続溝131は、裏面124の外縁部においてエミッタ120の長軸方向に沿って直線状に形成されている。チューブ110およびエミッタ120が接合されることで、第1接続溝131とチューブ110の内壁面とにより、第1接続流路141が形成される。取水部150から取り込まれた灌漑用液体は、第1接続流路141を通って、第1減圧流路142に流れる。
第1減圧溝132(第1減圧流路142)は、流量減少部160より上流側の第1流路および第2流路に配置されており、第1接続溝131(第1接続流路141)と第2接続溝133(第2接続流路143)とを接続する。第1減圧溝132(第1減圧流路142)は、取水部150から取り入れられた灌漑用液体の圧力を減圧させて、第2接続溝133(第2接続流路143)に導く。第1減圧溝132は、裏面124の外縁部においてエミッタ120の長軸方向に沿って直線状に配置されている。第1減圧溝132の上流端は第1接続溝131に接続されており、第1減圧溝132の下流端は第2接続溝133の上流端に接続されている。第1減圧溝132の形状は、前述の機能を発揮することができれば特に限定されない。本実施の形態では、第1減圧溝132の平面視形状は、ジグザグ形状である。第1減圧溝132には、内側面から突出する略三角柱形状の第1凸部132aが灌漑用液体の流れる方向に沿って交互に配置されている。第1凸部132aは、平面視したときに、先端が第1減圧溝132の中心軸を超えないように配置されている。チューブ110およびエミッタ120が接合されることで、第1減圧溝132とチューブ110の内壁面により、第1減圧流路142が形成される。取水部150から取り込まれた灌漑用液体は、第1減圧流路142により減圧されて第2接続溝133(第2接続流路143)に導かれる。
第2接続溝133(第2接続流路143)は、第1減圧溝132(第1減圧流路142)と、第2減圧溝134(第2減圧流路144)および第3減圧溝135(第3減圧流路145)とを接続する。第2接続溝133は、裏面124の外縁部においてエミッタ120の短軸方向に沿って直線状に形成されている。チューブ110およびエミッタ120が接合されることで、第2接続溝133とチューブ110の内壁面とにより、第2接続流路143が形成される。取水部150から取り込まれ、第1接続流路141に導かれ、第1減圧流路142で減圧された灌漑用液体は、第2接続流路143を通って、第2減圧流路144および第3減圧流路145に導かれる。
第2減圧溝134(第2減圧流路144)は、流量減少部160より上流側の第1流路に配置されており、第2接続溝133(第2接続流路143)と、流量減少部160とを接続する。第2減圧溝134(第2減圧流路144)は、第2接続溝133(第2接続流路143)から流入した灌漑用液体の圧力を減圧させて、流量減少部160に導く。第2減圧溝134は、裏面124の外縁部においてエミッタ120の長軸方向に沿って配置されている。第2減圧溝134の上流端は第2接続溝133の下流端に接続されており、第2減圧溝134の下流端は流量減少部160に連通した第1接続用貫通孔165に接続されている。第2減圧溝134の形状は、前述の機能を発揮することができれば特に限定されない。本実施の形態では、第2減圧溝134の平面視形状は、第1減圧溝132の形状と同様のジグザグ形状である。第2減圧溝134には、内側面から突出する略三角柱形状の第2凸部134aが灌漑用液体の流れる方向に沿って交互に配置されている。第2凸部134aは、平面視したときに、先端が第2減圧溝134の中心軸を超えないように配置されている。チューブ110およびエミッタ120が接合されることで、第2減圧溝134とチューブ110の内壁面により、第2減圧流路144が形成される。本実施の形態では、第2減圧溝134(第2減圧流路144)は、後述する第3減圧溝135(第3減圧流路145)より長くなっている。このため、第2減圧溝134(第2減圧流路144)を流れる灌漑用液体は、第3減圧溝135(第3減圧流路145)を流れる灌漑用液体よりも減圧される。取水部150から取り込まれ、第1減圧流路142で減圧された灌漑用液体の一部は、第2減圧流路144により減圧されて流量減少部160に導かれる。
第3減圧溝135(第3減圧流路145)は、流路開閉部170より上流側の第2流路に配置されており、第2接続溝133(第2接続流路143)と、流路開閉部170とを接続する。第3減圧溝135(第3減圧流路145)は、第2接続溝133(第2接続流路143)から流入した灌漑用液体の圧力を減圧させて、流路開閉部170に導く。第3減圧溝135は、裏面124の中央部分においてエミッタ120の長軸方向に沿って配置されている。第3減圧溝135の上流端は第2接続流路143に接続されており、第3減圧溝135の下流端は流路開閉部170に連通した第3接続用貫通孔174に接続されている。第3減圧溝135の形状は、前述の機能を発揮することができれば特に限定されない。本実施の形態では、第3減圧溝135の平面視形状は、第1減圧溝132の形状と同様のジグザグ形状である。第3減圧溝135には、内側面から突出する略三角柱形状の第3凸部135aが灌漑用液体の流れる方向に沿って交互に配置されている。第3凸部135aは、平面視したときに、先端が第3減圧溝135の中心軸を超えないように配置されている。チューブ110およびエミッタ120が接合されることで、第3減圧溝135とチューブ110の内壁面により、第3減圧流路145が形成される。取水部150から取り込まれ、第1減圧流路142で減圧された灌漑用液体の他の一部は、第3減圧流路145により減圧されて流路開閉部170に導かれる。詳細については後述するが、第2流路は、灌漑用液体の圧力が低圧の場合にのみ機能する。
流量減少部160は、第1流路内において第2減圧流路144(第2減圧溝134)と吐出流路147との間に配置されており、かつエミッタ120の表面125側に配置されている。流量減少部160は、チューブ110内の灌漑用液体の圧力に応じて灌漑用液体の流量を減少させつつ、灌漑用液体を吐出部180に送る。流量減少部160の構成は、前述の機能を発揮することができれば特に限定されない。本実施の形態では、流量減少部160は、流量減少用凹部161と、第1弁座部162と、連通溝163と、吐出部180に連通した流量減少用貫通孔164(吐出流路147)と、第2減圧溝134(第2減圧流路144)に連通した第1接続用貫通孔165と、第3接続溝136(第3接続流路146)に連通した第2接続用貫通孔166と、フィルム122の一部である第1ダイヤフラム部167とを有する。流量減少用凹部161の内面には、吐出部180に連通した流量減少用貫通孔164と、第2減圧溝134(第2減圧流路144)に連通した第1接続用貫通孔165と、第3接続溝136(第3接続流路146)に連通した第2接続用貫通孔166とが開口している。
流量減少用凹部161の平面視形状は、略円形状である。流量減少用凹部161の底面には、吐出部180に連通した流量減少用貫通孔164(吐出流路147)と、第2減圧溝134(第2減圧流路144)に連通した第1接続用貫通孔165と、第3接続溝136(第3接続流路146)に連通した第2接続用貫通孔166と、第1弁座部162とが配置されている。流量減少用凹部161の深さは、特に限定されず、連通溝163の深さ以上であればよい。
第1弁座部162は、流量減少用貫通孔164を取り囲むように流量減少用凹部161の底面に配置されている。第1弁座部162は、チューブ110を流れる灌漑用液体の圧力が第2圧力以上の場合に、第1ダイヤフラム部167が密着できるように形成されている。第1弁座部162に第1ダイヤフラム部167が接触することによって、流量減少用凹部161から吐出部180に流れ込む灌漑用液体の流量を減少させる。第1弁座部162の形状は、前述の機能を発揮することができれば特に限定されない。本実施の形態では、第1弁座部162の形状は、円環状の凸部である。本実施の形態では、円環状の凸部の端面は、内側から外側に向かうにつれて流量減少用凹部161の底面からの高さが低くなっている。第1弁座部162の第1ダイヤフラム部167が密着可能な領域の一部には、流量減少用凹部161の内部と流量減少用貫通孔164を連通する連通溝163が形成されている。第2減圧溝134(第2減圧流路144)に連通した第1接続用貫通孔165、および第3接続溝136(第3接続流路146)に連通した第2接続用貫通孔166は、流量減少用凹部161の底面において、第1弁座部162が配置されていない領域に形成されている。なお、第2減圧溝134(第2減圧流路144)に連通した第1接続用貫通孔165が、第1弁座部162に囲まれるように配置され、吐出部180に連通した流量減少用貫通孔164が第1弁座部162の外側に配置されていてもよい。
流量減少用貫通孔164(吐出流路147)は、流量減少用凹部161の底面の中央部分に配置されており、第1開口部164aにおいて流量減少部160に接続し、第2開口部164bにおいて吐出部180に接続している。本実施形態において、吐出流路147は、図5に示すように、流路径がより大きく、低圧でも灌漑用液体が流通できる低圧流通部164cと、流路径がより小さく、高圧にしないと灌漑用液体が流通しにくい高圧流通部164dと、を有する。より具体的には、高圧流通部164dは、前記灌漑用液体の流通方向に向けて流路径が連続的に減少する流路径減少部を有する。また、高圧流通部164dの吐出部180側の端部が第2開口部164bとなっている。これにより、吐出流路147は、流量減少部160に開口する第1開口部164aにおいて、流路径が最も大きくなり、吐出部180に開口する第2開口部164bにおいて、流路径が最も小さくなる。
第1ダイヤフラム部167は、フィルム122の一部である。第1ダイヤフラム部167は、流量減少用凹部161の内部とチューブ110の内部との連通を遮断するように配置されている。第1ダイヤフラム部167は、可撓性を有し、チューブ110内の灌漑用液体の圧力に応じて、第1弁座部162に接触するように変形する。具体的には、第1ダイヤフラム部167は、灌漑用液体の圧力が高くなるにつれて、第1弁座部162に向かって変形し、やがて第1弁座部162に接触する。第1ダイヤフラム部167が第1弁座部162に密着している場合であっても、第1ダイヤフラム部167は、第1接続用貫通孔165、流量減少用貫通孔164および連通溝163を閉塞しないため、第1接続用貫通孔165から送られてきた灌漑用液体は、連通溝163および流量減少用貫通孔164を通って、吐出部180に送られうる。なお、第1ダイヤフラム部167は、後述の第2ダイヤフラム部175と隣接して配置されている。
流路開閉部170は、第2流路内において第3減圧流路145(第3減圧溝135)と吐出部180との間に配置されており、かつエミッタ120の表面125側に配置されている。流路開閉部170は、チューブ110内の圧力に応じて第2流路を開放および閉塞して、灌漑用液体を吐出部180に送る。本実施の形態では、流路開閉部170は、流路開閉用貫通孔173、第3接続流路146および第2接続用貫通孔166を介して流量減少部160に接続されており、第3減圧流路145(第3減圧溝135)からの灌漑用液体は、流路開閉部170、第3接続流路146および流量減少部160を通って吐出部180に到達する。流路開閉部170の構成は、前述の機能を発揮することができれば特に限定されない。本実施の形態では、流路開閉部170は、流路開閉用凹部171と、第2弁座部172と、流量減少部160の第2接続用貫通孔166に連通した流路開閉用貫通孔173と、第3減圧流路145(第3減圧溝135)に連通した第3接続用貫通孔174と、フィルム122の一部である第2ダイヤフラム部175とを有する。流路開閉用凹部171の内面には、第3減圧流路145(第3減圧溝135)に連通した第3接続用貫通孔174と、流量減少部160に連通した流路開閉用貫通孔173とが開口している。また、流路開閉用凹部171は、流量減少部160の流量減少用凹部161と連通している。
流路開閉用凹部171の平面視形状は、略円形状である。流路開閉用凹部171の底面には、第3減圧溝135に接続された第3接続用貫通孔174と、第3接続流路146に接続された流路開閉用貫通孔173と、第2弁座部172とが配置されている。第2弁座部172の端面は、第1弁座部162の端面より表面125側に配置されている。すなわち、第2弁座部172は、第1弁座部162より高く形成されている。これにより、フィルム122が灌漑用液体の圧力により変形した場合に、フィルム122は、第1弁座部162より先に第2弁座部172に接触する。
第3減圧溝135に連通した第3接続用貫通孔174は、流路開閉用凹部171の底面において、第2弁座部172が配置されていない領域に形成されている。第2弁座部172は、流路開閉用貫通孔173を取り囲むように流路開閉用凹部171の底面に配置されている。また、第2弁座部172は、第2ダイヤフラム部175に面して非接触に配置され、チューブ110を流れる灌漑用液体の圧力が第1圧力以上の場合、第2ダイヤフラム部175が密着できるように形成されている。チューブ110を流れる灌漑用液体の圧力が第1圧力以上の場合、第2ダイヤフラム部175は、第2弁座部172に密着して流路開閉用貫通孔173を閉塞し、その結果として第2流路を閉塞する。第2弁座部172の形状は、前述の機能を発揮することができれば特に限定されない。本実施の形態では、第2弁座部172は、流路開閉用貫通孔173を取り囲むように配置された円環状の凸部である。
第2ダイヤフラム部175は、フィルム122の一部であり、第1ダイヤフラム部167と隣接して配置されている。第2ダイヤフラム部175は、流路開閉用凹部171の内部とチューブ110の内部との連通を遮断するように配置されている。第2ダイヤフラム部175は、可撓性を有し、チューブ110内の灌漑用液体の圧力に応じて、第2弁座部172に接触するように変形する。具体的には、第2ダイヤフラム部175は、灌漑用液体の圧力が高くなるにつれて、第2弁座部172に向かって変形し、灌漑用液体の圧力が第1圧力に到達すると、第2弁座部172に接触する。これにより、第2流路(流路開閉用貫通孔173)は閉塞される。
吐出部180は、エミッタ120の裏面124側において、吐出口112に面して配置されている。吐出部180は、流量減少用貫通孔164からの灌漑用液体をチューブ110の吐出口112に送る。これにより、吐出部180は、灌漑用液体をエミッタ120の外部に吐出することができる。吐出部180の構成は、前述の機能を発揮することができれば特に限定されない。本実施の形態では、吐出部180は、吐出用凹部181と、侵入防止部182とを有する。
吐出用凹部181は、エミッタ120の裏面124側に配置されている。吐出用凹部181の平面視形状は、略矩形である。吐出用凹部181の底面には、流量減少用貫通孔164および侵入防止部182が配置されている。
侵入防止部182は、吐出口112からの異物の侵入を防止する。侵入防止部182は、前述の機能を発揮することができれば特に限定されない。本実施の形態では、侵入防止部182は、隣接して配置された2つの凸条部183を有する。2つの凸条部183は、エミッタ120をチューブ110に接合した場合に、流量減少用貫通孔164および吐出口112の間に位置するように配置されている。
フィルム122は、可撓性を有する樹脂材料で形成されている。フィルム122の材料は、所望の可撓性に応じて適宜設定されうる。当該樹脂の例には、ポリエチレンが含まれる。フィルム122の可撓性も、弾性を有する樹脂材料の使用によって調整されうる。フィルム122の可撓性の調整方法の例は、エミッタ本体121の可撓性の調整方法と同じである。
フィルム122の形状および大きさは、エミッタ本体121や、エミッタ本体121に形成されている貫通孔および凹部などの大きさに応じて適宜設定されうる。フィルム122の厚みは、所望の可撓性に応じて適宜設定されうる。フィルム122は、例えば、射出成形によって製造されうる。
ヒンジ部123は、エミッタ本体121の表面125の一部に接続されている。本実施の形態では、ヒンジ部123の厚さは、フィルム122と同じ厚さであり、エミッタ本体121およびフィルム122と一体的に成形されている。なお、フィルム122は、エミッタ本体121と別体として準備して、エミッタ本体121と接合してもよい。
エミッタ120は、ヒンジ部123を軸にフィルム122を回動させ、エミッタ本体121の表面125に接合することにより構成される。エミッタ本体121とフィルム122との接合方法は、特に限定されない。エミッタ本体121とフィルム122との接合方法の例には、フィルム122を構成する樹脂材料の溶着や、接着剤による接着などが含まれる。なお、ヒンジ部123は、エミッタ本体121とフィルム122とを接合した後に切断してもよい。
(点滴灌漑用チューブおよびエミッタの動作)
次に、点滴灌漑用チューブ100の動作について説明する。まず、チューブ110内に灌漑用液体が送液される。灌漑用液体の例には、水、液体肥料、農薬およびこれらの混合液が含まれる。点滴灌漑用チューブ100へ送液される灌漑用液体の圧力は、簡易に点滴灌漑法を導入できるように、またチューブ110およびエミッタ120の破損を防止するため、0.1MPa以下であることが好ましい。チューブ110内の灌漑用液体は、取水部150からエミッタ120内に取り込まれる。具体的には、チューブ110内の灌漑用液体は、スリット154、または凸条155間の隙間から取水用凹部153に入り込み、取水用貫通孔152を通過する。このとき、取水部150は、取水側スクリーン部151(スリット154および凸条155間の隙間)を有しているため、灌漑用液体中の浮遊物を除去することができる。また、取水部150には、いわゆるウェッジワイヤー構造が形成されているため、取水部150へ流入した灌漑用液体の圧力損失は抑制される。
取水部150から取り込まれた灌漑用液体は、第1接続流路141に到達する。第1接続流路141に到達した灌漑用液体は、第1減圧流路142を通過し、第2接続流路143に到達する。第2接続流路143に到達した灌漑用液体は、第2減圧流路144および第3減圧流路145に流れ込む。このとき、灌漑用液体は、第2減圧流路144と比較して流路長が短く、圧力損失の少ない第3減圧流路145を先行して進む。第3減圧流路145に流れ込んだ灌漑用液体は、第3接続用貫通孔174を通って流路開閉部170に流れ込む。
流路開閉部170に流れ込んだ灌漑用液体は、流路開閉用貫通孔173、第3接続流路146および第2接続用貫通孔166を通って、流量減少部160に流れ込む。次いで、流量減少部160に流れ込んだ灌漑用液体は、流量減少用貫通孔164を通って吐出部180に流れ込む。最後に、吐出部180に流れ込んだ灌漑用液体は、チューブ110の吐出口112からチューブ110外に吐出される。
一方、第2減圧流路144に流れ込んだ灌漑用液体は、第1接続用貫通孔165を通って、流量減少部160に流れ込む。流量減少部160に流れ込んだ灌漑用液体は、流量減少用貫通孔164を通って吐出部180に流れ込む。吐出部180に流れ込んだ灌漑用液体は、チューブ110の吐出口112からチューブ110外に吐出される。
前述したように、流路開閉部170と流量減少部160とは、流路開閉用貫通孔173と第2接続用貫通孔166とを介して連通している。また、流量減少部160では、チューブ110内の灌漑用液体の圧力に応じて、第1ダイヤフラム部167が変形することで灌漑用液体の流量が制御され、流路開閉部170では、チューブ110内の灌漑用液体の圧力に応じて第2ダイヤフラム部175が変形することで灌漑用液体の流量が制御される。そこで、チューブ110内の灌漑用液体の圧力に応じた流量減少部160および流路開閉部170の動作について説明する。
図6A〜Cは、流量減少部160と、流路開閉部170との動作の関係を示す模式図である。なお、図6A〜Cは、エミッタ120の動作を説明するために、図2Bに示されるD−D線の断面を模式的に示した図である。図6Aは、チューブ110に灌漑用液体が送液されていない場合における断面図であり、図6Bは、チューブ110内の灌漑用液体の圧力が第1圧力である場合における断面図であり、図6Cは、チューブ110内の灌漑用液体の圧力が第1圧力を超える第2圧力である場合における断面図である。
チューブ110内に灌漑用液体を送液する前は、フィルム122に灌漑用液体の圧力が加わらないため、第1ダイヤフラム部167および第2ダイヤフラム部175は、変形していない(図6A参照)。
チューブ110内に灌漑用液体を送液し始めると、流量減少部160の第1ダイヤフラム部167は、第1弁座部162に向かって変形し始める。また、流路開閉部170の第2ダイヤフラム部175は、第2弁座部172に向かって変形し始める。しかしながら、この状態では、第1ダイヤフラム部167が第1弁座部162に接触しておらず、かつ第2ダイヤフラム部175が第2弁座部172に接触していないため、取水部150から取り入れられた灌漑用液体は、第1流路および第2流路の両方を通って、チューブ110の吐出口112から外部に吐出される。このように、チューブ110内への灌漑用液体の送液開始時や、チューブ110内の灌漑用液体の圧力が低圧の場合などでは、取水部150から取り入れられた灌漑用液体は、第1流路および第2流路の両方を通って吐出される。
チューブ110内の灌漑用液体の圧力が第1圧力に到達すると、第2ダイヤフラム部175が第2弁座部172に接触して、第2流路を閉塞する(図6B参照)。このとき、第1ダイヤフラム部167は、第1弁座部162に接触していない。このように、チューブ110内の灌漑用液体の圧力がフィルム122を変形するほど高くなると、第2ダイヤフラム部175が第2弁座部172に近接するため、第2流路を通って吐出される灌漑用液体の液量は減少する。そして、チューブ110内の灌漑用液体の圧力が第1圧力に到達すると、第2流路内の灌漑用液体は、吐出部180から吐出されなくなる。その結果、取水部150から取り入れられた灌漑用液体は、第1流路のみを通って、チューブ110の吐出部180から外部に吐出される。
チューブ110内の灌漑用液体の圧力がさらに高まると、第1ダイヤフラム部167は、第1弁座部162に向かってさらに変形する。通常は、灌漑用液体の圧力が高くなるにつれて、第1流路を流れる灌漑用液体の量が増大するはずであるが、本実施の形態に係るエミッタ120では、第2流路で灌漑用液体の圧力を減少させるとともに、第1ダイヤフラム部167と第1弁座部162との間隔を狭めることで、第1流路を流れる灌漑用液体の量の過剰な増大を防止している。そして、チューブ110内の灌漑用液体の圧力が第1圧力を超える第2圧力以上である場合に、第1ダイヤフラム部167は、第1弁座部162に接触する(図6C参照)。この場合であっても、第1ダイヤフラム部167は、流量減少用貫通孔164および連通溝163を塞がないため、取水部150から取り入れられた灌漑用液体は、連通溝163を通って、チューブ110の吐出部180から外部に吐出される。このように、流量減少部160は、チューブ110内の灌漑用液体の圧力が第2圧力以上である場合、第1ダイヤフラム部167が第1弁座部162に接触することにより、第1流路を流れる灌漑用液体の液量の増大を抑制する。
このとき、エミッタ120が高圧流通部を有する吐出流路147を有すると、灌漑用液体が吐出流路147を流通しにくいため、流量減少部160の内圧は、高圧流通部を有さない吐出流路147を有するエミッタにおける流量減少部160の内圧よりも高くなる。これにより、チューブ110を流れる灌漑用液体の圧力と流量減少部160の内圧との圧力差は、より小さくなり、第1ダイヤフラム部167はより変形しにくくなる。
ただし、このとき、同時に、第1ダイヤフラム部167が第1弁座部162に到達するのに必要な圧力(第2圧力)もより高くなってしまう。これに対し、第1弁座部162の高さをより高くすれば、第1ダイヤフラム部167は、より小さい圧力差(より小さい変形量)でも第1弁座部162に接触できる。そのため、高圧流通部によって流量減少部160の内圧をより高くする場合は、同時に第1弁座部162の高さをより高くすることによって第2圧力をより低めて、灌漑用液体の液量の増大を流量減少部160が抑制する圧力(第2圧力)を調整すればよい。
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る点滴灌漑用チューブ110は、流量減少部160と吐出部180とを繋ぐ吐出流路147が、流路径が大きい低圧流通部と流路径が小さい高圧流通部とを有する。高圧流通部を有する吐出流路147は、第1ダイヤフラム部167の変形量をより小さくしつつ、所定の第2圧力において流量減少部160による灌漑用液体の液量増大の抑制を可能にする。そのため、第1ダイヤフラム部167は、クリープ変形が生じにくく、チューブ110内の灌漑用液体の圧力が小さくなったときには容易に元の形状に戻るため、チューブ110内の灌漑用液体の圧力に依存せず、灌漑用液体を定量的に滴下することができる。
特に、図6Cに示すように、第2圧力において、第1ダイヤフラム部167は第2ダイヤフラム部175よりも大きく変形する。そのため、クリープ変形は、第1ダイヤフラム部167において第2ダイヤフラム部175よりも生じやすい。高圧流通部を有する吐出流路147を用いると、第1ダイヤフラム部167の変形量をより小さくすることができるため、クリープ変形を抑制して、灌漑用液体の圧力が小さいときの吐出量を調整する効果は、より顕著に奏される。
また、本実施の形態に係る点滴灌漑用チューブ110は、吐出流路147が、流量減少部160に開口する第1開口部164aにおいて流路径が最も大きくなり、吐出部180に開口する第2開口部164bにおいて流路径が最も小さくなり、灌漑用液体の流通方向に向けて流路径が増加することがない貫通孔であるため、金型を用いた成形時に、金型からの引き抜きが容易である。
(その他の構成)
なお、本発明に係るエミッタおよび点滴灌漑用チューブの構成は、上記実施の形態に係るエミッタ120および点滴灌漑用チューブ100に限定されない。
たとえば、吐出流路147は、吐出部180に開口する第2開口部164bにおいて流路径が最も小さくなる貫通孔である必要はなく、図7に示すように貫通孔の中間に高圧流通部が設けられてもよいし、第1開口部164aを含む領域などに高圧流通部が設けられてもよい。これらの場合において、第2開口部164bの開口径は上記高圧流通部の流路径よりも大きくなっていてもよい。
また、吐出流路147は、高圧流通部として流路径が連続的に減少する流路径減少部を有する必要はなく、不連続(段状)に流路径が減少する領域を有していてもよい。
また、吐出流路147は、たとえば、図8に示すように、ねじ孔のような形状をしていてもよい。このとき、ねじ孔の山部164e(流路径が狭くなる部分)で流量減少部160の内圧を高めることができる。また、このとき、ねじ孔の谷部164f(流路径が広くなる部分)を沿って灌漑用液体を流すことができるため、高圧流通部を設けつつ、流量の減少を生じにくくすることができる。なお、ねじ孔のような形状を有する吐出流路147に形成されたねじ部のねじり角は、たとえば3°から20°の範囲で任意に定めることができ、たとえば図8Aに示す10°や、図8Bに示す5°などとすることができる。
また、吐出流路147は、貫通孔である必要はなく、流量減少部160からエミッタ120の裏面124に向けて配置された流量減少用貫通孔164と、エミッタ120の裏面124に配置された接続溝とチューブ110の内壁面により形成される接続流路と、を有する構成であってもよい。