JP6826344B2 - 強磁性トンネル接合体の製造方法及び強磁性トンネル接合体 - Google Patents

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Description

本発明は、強磁性トンネル接合体の製造方法及び強磁性トンネル接合体に関する。
強磁性層と非磁性層の多層膜からなる巨大磁気抵抗(GMR)素子、及び、非磁性層に絶縁層(トンネルバリア層、バリア層)を用いたトンネル磁気抵抗(TMR)素子が知られている。一般に、TMR素子は、GMR素子と比較して素子抵抗が高いものの、TMR素子の磁気抵抗(MR)比は、GMR素子のMR比より大きい。そのため、磁気センサ、高周波部品、磁気ヘッド及び不揮発性ランダムアクセスメモリ(MRAM)用の素子として、TMR素子に注目が集まっている。
TMR素子は、電子のトンネル伝導のメカニズムの違いによって2種類に分類することができる。一つは、強磁性層間の波動関数の滲み出し効果(トンネル効果)のみを利用したTMR素子である。もう一つは、トンネル効果を生じた際にトンネルする非磁性絶縁層の特定の軌道の伝導を利用したコヒーレントトンネル(特定の波動関数の対称性を有する電子のみがトンネルする)が支配的なTMR素子である。コヒーレントトンネルが支配的なTMR素子は、トンネル効果のみを利用したTMR素子と比較して、大きいMR比が得られることが知られている。
コヒーレントトンネル効果を引き起こすためには、二つの強磁性金属層とトンネルバリア層が互いに結晶質であり、二つの強磁性金属層とトンネルバリア層の界面が結晶学的に連続になっている必要がある。
コヒーレントトンネル効果を得ることができるトンネルバリア層としてはMgOが知られている。また、二つの強磁性金属層とトンネルバリア層の格子不整合をより小さくする目的で、トンネルバリア層にMg−Al−Oが用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。非特許文献1に記載のMg−Al−O層は、MgAl合金を積層した後に、積層された層を誘導結合プラズマ(ICP)酸化や自然酸化を用いて外表面側から酸化して作製される。
特許第5586028号公報 特開2013−175615号公報
Applied Physics Letters,105,092403(2014).
しかしながら、非特許文献1に記載の手法では、積層されたMgAl合金の膜厚と、外表面から酸化される酸化膜厚との整合性を得ることが難しい。また酸素の拡散により酸化を行うため、均一なトンネルバリア層を作製することが難しい。トンネルバリア層の厚みは、面積抵抗(RA)に影響を与える。そのためRAが変化すると、MR比の値が変動するという問題があった。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、均一なトンネルバリア層を有する強磁性トンネル接合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、所定の酸素雰囲気中で非磁性金属酸化物を成膜することで、成膜レートを確保しながら、均一なトンネルバリア層を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
(1)本発明の一態様にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法は、第1強磁性金属層を積層する工程と、前記第1強磁性金属層の一面側に、非磁性金属酸化物層を積層する工程と、前記非磁性金属酸化物層の前記第1強磁性金属層と反対側に、第2強磁性金属層を積層する工程とを有し、前記非磁性金属酸化物層を積層する工程は、酸素含有雰囲気下で行われ、前記非磁性金属酸化物層を積層する工程中に積層空間内に供給される酸素流量は、希ガス流量より少ない。
(2)上記態様にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法の前記非磁性金属酸化物層を積層する工程において、前記非磁性金属酸化物層を成膜時の単位ターゲット面積当たりの印加電力(W/m)を横軸とし、前記非磁性金属酸化物層の成膜レート(Å/s)を縦軸とした場合の単位ターゲット面積当たりの単位電力成膜レートの傾きが、2×10−6{(Å/s)/(W/m)}より大きくてもよい。
(3)上記態様にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法において、前記単位ターゲット面積当たりの単位電力成膜レートの傾きが、4×10−6{(Å/s)/(W/m)}以上でもよい。
(4)上記態様にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法の前記非磁性金属酸化物層を積層する工程において、前記酸素流量を前記希ガス流量の1/10以下とし、前記非磁性金属酸化物層の成膜時に用いるターゲット印加電力を125W以上としてもよい。
(5)上記態様にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法において、前記非磁性金属酸化物層の組成がMg1−xAlα(0<x≦1、0.35≦α<1.7)であってもよい。
(6)上記態様にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法において、前記非磁性金属酸化物層を積層する工程と、前記第1強磁性金属層を積層する工程との間に、第1強磁性金属層への酸素の拡散を抑制する金属挿入層を積層する工程をさらに有してもよい。
(7)上記態様にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法において、前記金属挿入層を積層する工程を希ガス雰囲気下で行ってもよい。
(8)上記態様にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法において、前記金属挿入層の組成がMg1−yAl(0≦y≦1)であってもよい。
(9)上記態様にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法の前記金属挿入層を積層する工程において、積層する前記金属挿入層の厚みを0.1nm以上1.0nm以下としてもよい。
(10)上記態様にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法において、前記非磁性金属酸化物層を積層した後に、熱処理を加えてもよい。
(11)本発明の一態様にかかる強磁性トンネル接合体は、第1強磁性金属層と、第2強磁性金属層と、第1強磁性金属層と第2強磁性金属層の間に挟まれるトンネルバリア層とを有し、面積抵抗が10Ω・μm以上10Ω・μm以下の領域において、磁気抵抗(MR)比が平均値を基準に±20%以内である。
(12)本発明の一態様にかかる強磁性トンネル接合体は、第1強磁性金属層と、第2強磁性金属層と、第1強磁性金属層と第2強磁性金属層の間に挟まれるトンネルバリア層とを有し、面積抵抗が10Ω・μm以上10Ω・μm以下の領域において、磁気抵抗(MR)比が平均値を基準に±10%以内である。
本発明の一態様に係る強磁性トンネル接合体の製造方法によれば、均一なトンネルバリア層を容易に得ることができる。
本発明の一態様に係る強磁性トンネル接合体は、トンネルバリア層が均一に形成されているため、RAが変動してもMR比を一定に保つことができる。
本発明の一態様に係る強磁性トンネル接合体の断面模式図である。 本発明の一態様に係る強磁性トンネル接合体の別の例の断面模式図である。 磁気抵抗効果素子を積層方向から平面視した模式図である。 実施例1及び比較例1の磁気抵抗効果素子のRAに対するMR比の変動を示したグラフである。 実施例1の磁気抵抗効果素子のMR比の印加電圧依存性を示すグラフである。なお正のバイアス電圧は第1強磁性層から第2強磁性層へ電子が流れる方向である。 比較例1の磁気抵抗効果素子のMR比の印加電圧依存性を示すグラフである。 実施例2及び実施例3の磁気抵抗効果素子のRAに対するMR比の変動を示したグラフである。
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
本実施形態にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法は、第1強磁性金属層を積層する工程と、非磁性金属酸化物層を積層する工程と、第2強磁性金属層を積層する工程とを有する。これらの工程の前後又は間には、その他の層を形成する工程を有していてもよい。
図1は、本実施形態に係る強磁性トンネル接合体の断面模式図である。先に積層される強磁性金属層を第1強磁性金属層1とし、後に積層される強磁性金属層を第2強磁性金属層2とする。
第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層2は、それぞれ強磁性の金属を有し、いずれか一方はもう一方より大きい保磁力を有する。保磁力が大きい側の強磁性金属層は固定層または参照層と呼ばれ、保磁力が小さい側の強磁性金属層は自由層または記録層と呼ばれる。固定層の磁化は一方向に固定され、自由層の磁化の向きが固定層の磁化の向きに対して相対的に変化する。
以下、図1を基に本実施形態にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法について説明する。第1強磁性金属層1と第2強磁性金属層2は、いずれが固定層又は自由層であってもよい。以下、簡単のため、後に積層する第2強磁性金属層2を固定層として説明する。
(第1強磁性金属層の作製)
まず、基板上に第1強磁性金属層1を積層する。
基板は、平坦性に優れることが好ましい。平坦性に優れた表面を得るために、材料として例えば、Si、SiGe、SiC、AlTiC、MgO単結晶、MgAl単結晶等を用いることができる。
例えば、強磁性トンネル接合体10をMRAMもしくは磁気センサとして用いる場合、Si基板で形成された回路が必要であり、Si基板を用いることが好ましい。また、磁気ヘッドとして強磁性トンネル接合体10を用いる場合は、加工しやすいAlTiC基板を用いることが好ましい。また、強磁性トンネル接合体10を(001)配向させることを重視する場合は、MgO単結晶基板、MgAl単結晶基板、Si基板を用いることが好ましい。
第1強磁性金属層1には、コヒーレントトンネルを形成することができる公知の材料を用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、FeやCo−Fe等が挙げられる。
またより高い出力を得るためにはCoFeSiなどのホイスラー合金を用いることが好ましい。ホイスラー合金は、XYZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXの元素種をとることもでき、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、CoFeSi、CoMnSiやCoMn1−aFeAlSi1−bなどが挙げられる。
第1強磁性金属層1の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、第1強磁性金属層1の厚みを2.5nm以下とすることが好ましい。第1強磁性金属層とトンネルバリア層の界面で、第1強磁性金属層1に垂直磁気異方性が付与される。また、垂直磁気異方性は第1強磁性金属層1の膜厚を厚くすることによって効果が減衰するため、第1強磁性金属層1の膜厚は薄い方が好ましい。
第1強磁性金属層1の積層方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、スパッタ装置を用いた成膜方法等を用いることができる。またこのほか、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法等の薄膜作成法を用いることができる。
基板と第1強磁性金属層1との間には、下地層を形成してもよい。下地層を設けると、基板上に積層される第1強磁性金属層1を含む各層の結晶配向性、結晶粒径等の結晶性を制御することができる。下地層は、第1強磁性金属層1と同様の方法で積層することができる。
下地層は、導電性および絶縁性のいずれでもよいが、下地層に通電する場合は導電性材料を用いることが好ましい。
例えば1つの例として、下地層には(001)配向したNaCl構造を有し、Ti,Zr,Nb,V,Hf,Ta,Mo,W,B,Al,Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む窒化物の層を用いることができる。
別の例として、下地層にはABOの組成式で表される(002)配向したペロブスカイト系導電性酸化物の層を用いることができる。ここで、サイトAはSr、Ce、Dy、La、K、Ca、Na、Pb、Baの群から選択された少なくとも1つの元素を含み、サイトBはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Nb、Mo、Ru、Ir、Ta、Ce、Pbの群から選択された少なくとも1つの元素を含む。
別の例として、下地層には(001)配向したNaCl構造を有し、かつMg、Al、Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物の層を用いることができる。
別の例として、下地層には(001)配向した正方晶構造または立方晶構造を有し、かつAl、Cr、Fe、Co、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Mo、Wの群から選択される少なくとも1つの元素を含む層を用いることができる。
また下地層は一層に限られず、上述の例の層を複数層積層してもよい。下地層の構成を工夫することにより強磁性トンネル接合体10の各層の結晶性を高め、磁気特性の改善が可能となる。
(非磁性金属酸化物層の作製)
次いで、積層された第1強磁性金属層1上に非磁性金属酸化物層3を積層する。
非磁性金属酸化物層3は、トンネルバリア層そのものとなる場合と、トンネルバリア層の一部を構成する場合がある。後述する金属挿入層を設けない場合は、非磁性金属酸化物層3は、トンネルバリア層そのものとなる。一方で、後述する金属挿入層を設ける場合は、非磁性金属層と、金属挿入層の酸化された部分と、が合わさってトンネルバリア層となる。
絶縁性のトンネルバリア層を挟んで、第1強磁性金属層1の磁化と第2強磁性金属層2の磁化との相対角が変化することで磁気抵抗効果が生じる。磁気抵抗効果の大きさは、MR比で表される。
強磁性トンネル接合体10には、通常のトンネル効果を利用したものとトンネル時に関与する電子の軌道が限定されるコヒーレントトンネル効果が支配的なものがある。通常のトンネル効果では強磁性材料のスピン分極率によって磁気抵抗効果が得られるが、コヒーレントトンネルではトンネル時の軌道が限定される。そのため、コヒーレントトンネルが支配的な磁気抵抗効果素子では強磁性金属材料のスピン分極率以上の効果が期待できる場合がある。コヒーレントトンネル効果は、強磁性金属材料及びトンネルバリア層が結晶化し、特定の方位で接合すると発現する。
そのためトンネルバリア層は、第1強磁性金属層1との格子不整合度が4%以下であることが好ましい。製造過程で見ると、非磁性金属酸化物層3は、第1強磁性金属層1との格子不整合度が4%以下であることが好ましい。ここで、「格子不整合度」は、結晶界面において二つの結晶の不整合状態の指標である。格子不整合度が大きくなればなるほど、互いの結晶が整合しておらず、結晶界面で互いの結晶格子が歪む。一般に、格子不整合度が4%以下であると、結晶界面を有していても下の層の結晶構造に合わせたエピタキシャル成長が起き、コヒーレントトンネル効果が広範囲で得られると言われている。
第1強磁性金属層1とトンネルバリア層の間の格子不整合度F(%)は、第1強磁性金属層1の格子定数に基づいて決定される膜面方向の周期単位aと、トンネルバリア層の格子定数に基づいて決定される膜面方向の周期単位aから以下の一般式(1)で求められる。一般式(1)においてnは、自然数又はその逆数である。
F=(1−na/a)×100 ・・・(1)
例えば、強磁性金属層に広く用いられるFe、CoFeAl、CoFe及びCoFeSiと、トンネルバリア層に広く用いられるMgOとは、(001)方位に成長した場合に、格子不整合度は4%程度であることが知られている。そのため、コヒーレントトンネル効果が局所的に低減する場合がある。
なお、トンネルバリア層がMgOからなる場合は、酸素欠損により強磁性金属層とトンネルバリア層の間の格子定数の違いを多少緩和することができる。ただし、酸素欠損による格子定数の違いはわずかであり、強磁性金属層とトンネルバリア層の間の格子不整合を充分に低減することは難しい。
そこで、トンネルバリア層の製造過程に対応する非磁性金属酸化物層3は、Mg1−xAlα(0<x≦1、0.35≦α<1.7)で表される組成を有することが好ましい。
当該組成の非磁性金属酸化物層3は、2価のイオン(Mg2+)の一部が、3価のイオン(Al3+イオン)によって置換されている。所定のイオンが異なるイオン半径を有するイオンに置換され、元の状態から変化すると、非磁性金属酸化物層3を構成する結晶の格子定数は大きく変化する。また置換量を変えることで、自由に非磁性金属酸化物層3を構成する結晶の格子定数を制御することができる。その結果、第1強磁性金属層1と非磁性金属酸化物層3の間の格子不整合を低減することができ、コヒーレントトンネル効果を広範囲に得ることができる。
より優れたコヒーレントトンネル効果を得るためには、非磁性金属酸化物層3の結晶構造はスピネル構造であってもよい。好ましくは、非磁性金属酸化物層3の結晶構造は不規則スピネル構造であることが好ましい。ここで不規則スピネル構造とは、O原子の配列はスピネル構造とほぼ同等の最密立方格子を取っているものの、MgとAlの原子配列が乱れた構造を持ち、全体として立方晶である構造を指す。また非磁性金属酸化物層3の結晶構造は、(001)方向に配向していることが好ましい。
トンネルバリア層の膜厚は、一般的に3nm以下の厚さである。金属材料によってトンネルバリア層を挟み込むと金属材料の原子が持つ電子の波動関数がトンネルバリア層を超えて広がり、絶縁体が存在するにも関わらず電流が流れる。そのため、非磁性金属酸化物層3は3nm以下の厚みで成膜することが好ましい。
非磁性金属酸化物層3は、スパッタ法、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法等の公知の薄膜作成法を用いて積層できる。
本実施形態において非磁性金属酸化物層3は、酸素含有雰囲気下で成膜する。すなわち、非磁性金属酸化物層3を積層する工程において、非磁性金属酸化物層3を構成する金属又は合金は、酸化されながら積層される。
従来、トンネルバリア層は、MgAl等の合金を積層した後に、酸素をもちいた誘導結合プラズマ(ICP)や自然酸化を用いて積層された外表面側から酸化して作製している。しかしながら、一度MgAl等の合金を形成すると、酸素はMgAl等の合金の基板とは反対側の面からしか導入できない。その結果、酸素の拡散の制御が困難になり、トンネルバリア層が不均一になる。また酸化力が弱い場合、十分に酸素を基板側に供給することができない。一方、酸化力が強い場合、第1強磁性金属層1まで酸化が進むことによってMRが著しく低下することから、トンネルバリア層の厚みに制限が生まれる。
これらの不均一性は、強磁性トンネル接合体のMR比、Vhalfに影響を及ぼす。上述のようにトンネルバリア層は3nm以下と非常に薄い層であるが、この薄い層内であっても均一性の違いがMR比及びVhalfに影響を及ぼす。
なお、Vhalfは、バイアス電圧印加時におけるMR比の減少量の多寡を示す指標である。Vhalfは低バイアス電圧を基準として、低バイアス電圧印加時のMR比に対してMR比が半減するバイアス電圧を指す。低バイアス電圧とは例えば1mVである。
本実施形態における非磁性金属酸化物層3は、積層過程において酸化されながら成膜している。そのため、成膜初期から積層膜に酸化源である酸素を供給することができる。すなわち、非磁性金属酸化物層3の成長初期から酸化(酸素を含有)することができ、得られるトンネルバリア層の均一性が高まる。
また成膜初期から積層膜に酸化源である酸素を供給することで、トンネルバリア層全体の厚みを厚くすることができる。トンネルバリア層全体として充分な厚みの非磁性酸化膜が得られると、スピンに依存しないリーク電流モードが排除され、高いMR比が得られる。
以下はスパッタによる積層による場合を中心に表記する。ここで本実施形態における非磁性金属酸化物層3の積層工程では、積層空間内に供給する酸素流量を希ガス流量より少なくする。すなわち、成膜空間内の酸素分圧を希ガス分圧より少なくする。ここで希ガスとしてはヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンおよびその混合体を用いることができる。
成膜空間中には成膜する材料等と反応するガスは、一般に導入しない。そのため、成膜空間は希ガスで満たすことが通常である。なお、電子線蒸着法やその類似する手法では希ガスの導入は不要である。本実施形態では、酸化しながら成膜を行う反応性スパッタを用いているため、同時に酸素を成膜空間中に供給する。
酸化しながら成膜を行うという観点からは、酸素の供給量を多くすることが好ましいと考えられる。しかしながら、酸素の供給量が多すぎると、原料となるターゲット材の表面が酸化されてしまい、成膜レートが著しく低下する。成膜レートが低下すると、十分な絶縁性を有するトンネルバリア層を得ることができない。
非磁性金属酸化物層3を積層する工程において50.8mm直径の円形ターゲット材を用いた場合、非磁性金属酸化物層3を成膜時の印加電力(W)を横軸とし、非磁性金属酸化物層3の成膜レート(Å/s)を縦軸とした場合の単位電力成膜レート(Å/(s・W))の傾きは、1×10−3(Å/(s・W))より大きいことが好ましく、2×10−3(Å/(s・W))以上であることがより好ましい。
ここで「単位電力成膜レートの傾き」は、今回新たに見出された指標である。非磁性金属酸化物層3の成膜において、成膜時の印加電力と成膜時のターゲットの状態は、成膜レートに大きな影響を及ぼす。例えば、成膜時のターゲットの状態が酸化されておらず、メタルの状態であれば、印加電力が低くても充分に成膜レートを得ることができる。これに対し、成膜時のターゲットが酸化されていると、大きな印加電力を印加しないと十分な成膜レートを得ることができない。
単位電力成膜レート(Å/(s・W))の傾きが当該範囲内であれば、非磁性金属酸化物層3を充分均一に積層することができる。その結果、均質なトンネルバリア層が形成され、広いRAの範囲で強磁性トンネル接合体10のMR比を一定に保つことができる。当該範囲内で作製されたトンネルバリア層は、Mg1−xAlβ(0<x≦1、0.35≦β<1.7)で表される組成となる。
なお、ターゲットが酸化された状態でスパッタされる反応性(酸化)モードでなければ、印加電力をよほど小さくしない限り、単位電力成膜レート(Å/(s・W))の傾きは、1×10−3(Å/(s・W))より大きくなる。またターゲットがメタルのままでスパッタされる金属モードであれば、印加電力をよほど小さくしない限り、単位電力成膜レート(Å/(s・W))の傾きは、2×10−3(Å/(s・W))以上となる。
印加電力はターゲットサイズに影響を受ける値である。そのため、単位ターゲット面積当たりの印加電圧(W/m)に換算することで、単位電力成膜レート(Å/(s・W))をより一般化することができる。以下、単位ターゲット面積当たりの単位電力成膜レートを、「単位電力密度成膜レート」という。
非磁性金属酸化物層3を成膜時の単位ターゲット面積当たりの印加電力(W/m)を横軸とし、非磁性金属酸化物層3の成膜レート(Å/s)を縦軸とした場合の単位電力密度成膜レート{(Å/s)/(W/m)}の傾きは、2×10−6{(Å/s)/(W/m)}より大きいことが好ましく、4×10−6{(Å/s)/(W/m)}より大きいことがより好ましい。
またより具体的な非磁性金属酸化物層3の成膜条件としては、酸素流量を希ガス流量の1/10以下とし、非磁性金属酸化物層3の成膜時に用いるターゲットの印加電力を125W以上としてもよい。
当該範囲のように、酸素流量が希ガスの流量に対して十分小さい領域であっても、非磁性金属酸化物層3を充分均一に積層することができ、広いRAの範囲で強磁性トンネル接合体10のMR比を一定に保つことができる。
(第2強磁性金属層の作製)
非磁性金属酸化物層3を作製した後に、第2強磁性金属層2を積層する。
第2強磁性金属層2は、第1強磁性金属層1と同様に、スパッタ法、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法等の公知の薄膜作成法を用いて積層する。
第2強磁性金属層2の材料として、強磁性材料を適用できる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Fe、Co−Fe等が挙げられる。
第2強磁性金属層2の第1強磁性金属層1に対する保磁力をより大きくするために、第2強磁性金属層2と接する材料としてIrMn、PtMnなどの反強磁性材料を用いても良い。さらに、第2強磁性金属層2の漏れ磁場を第1強磁性金属層1に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としても良い。さらに、第2強磁性金属層2に一軸磁気異方性を付与するための磁場中熱処理を行ってもよい。
磁気センサとして磁気抵抗効果素子を活用させるためには、外部磁場に対して抵抗変化が線形に変化することが好ましい。一般的な強磁性層の積層膜では磁化の方向が形状異方性によって積層面内に向きやすい。この場合、例えば外部から磁場を印加して、第1強磁性金属層と第2強磁性金属層の磁化の向きを直交させることによって外部磁場に対して抵抗変化が線形に変化する。しかしながらこの場合、磁気抵抗効果素子の近くに磁場を印加させる機構が必要であり、集積を行う上で望ましくない。そのため強磁性金属層自体が垂直な磁気異方性を持つことが好ましい。
(熱処理)
熱処理は、非磁性金属酸化物層3を積層した後に行う。熱処理は、第2強磁性金属層2の積層前に行ってもよいし、積層後に行ってもよい。熱処理を行うことで、非磁性金属酸化物層3内での酸素拡散が促進される。また熱処理は、非磁性金属酸化物層3の結晶化を進める効果も有する。
なお熱処理は、非磁性金属酸化物層3の作製工程に限らず、必要に応じて下地層、第1強磁性金属層1、第2強磁性金属層2、後述する電極層12(図3参照)および電極層13(図3参照)の各作製工程に適用してもよいし、磁気抵抗効果素子を構成するすべての層を積層した後に一括で行ってもよい。
結晶化の観点からは、熱処理は第2強磁性金属層2を積層する前に行うことが好ましい。第2強磁性金属層2が積層されると、非磁性金属酸化物層3は第1強磁性金属層1及び第2強磁性金属層によって挟持され、非磁性金属酸化物層3内の結晶化の自由度が低下する。第2強磁性金属層2を積層する前に、熱処理を行うことで、第1強磁性金属層1と非磁性金属酸化物層3との間の格子の整合性を高めることができる。
上述のように、本発明の一態様に係る強磁性トンネル接合体の製造方法によれば、トンネルバリア層の厚み方向内部まで充分酸化できる。そのため、トンネルバリア層の均一性を高め、トンネルバリア層の厚みを厚くすることができる。その結果、広いRAの範囲で強磁性トンネル接合体10のMR比を一定に保つことができる。またリーク電流モードを排除でき、高いMR比を有する強磁性トンネル接合体を作製することができる。
(金属挿入層)
本実施形態にかかる強磁性トンネル接合体の製造方法において、非磁性金属酸化物層を積層する工程と、第1強磁性金属層を積層する工程との間に、第1強磁性金属層への酸素の拡散を抑制する金属挿入層を積層する工程をさらに有してもよい。
図2は、金属挿入層4を有する強磁性トンネル接合体11の断面模式図である。図2に示すように、強磁性トンネル接合体11は、第1強磁性金属層1と非磁性金属酸化物層3の間に、金属挿入層4を有する。
金属挿入層4は、第1強磁性金属層1へ酸素が拡散することを抑制する。第1強磁性金属層1が酸化されると、酸化された部分は強磁性特有のスピン偏極が見られず、MR比が低減する。金属挿入層4は、トンネルバリア層3から酸素が基板側に拡散してきた場合に自身が酸化されることで、第1強磁性金属層1を保護する。酸化された部分は、トンネルバリア層の一部となる。
そのため金属挿入層4は、酸化されていない金属又は合金であることが好ましい。すなわち、金属挿入層は、希ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
金属挿入層4は、酸化された際に非磁性金属酸化物層3と類似の組成となることが好ましい。すなわち金属挿入層4の組成は、Mg1−yAl(0≦y≦1)であることが好ましい。
金属層を構成するマグネシウムとアルミニウムを比較すると、酸化物の標準生成自由エネルギーの関係からマグネシウム原子の方が酸化されやすい。そのため、金属挿入層4のマグネシウム濃度が高いと、非磁性金属酸化物層3から金属挿入層4への酸素の拡散がより促される。
最終的なトンネルバリア層の厚みを確保したい場合は、金属挿入層4のマグネシウム濃度を高めることが好ましい。金属挿入層4と非磁性金属酸化物層3の組成及び結晶構造を一致させるためには、マグネシウム濃度とアルミニウム濃度を適宜調整することが好ましい。
金属挿入層4の厚みは、0.1nm以上1.0nm以下であることが好ましい。金属挿入層4の厚みが薄すぎると、均質な膜を作製することが難しくなる。一方で、金属挿入層4の厚みが厚すぎると、非磁性金属酸化物層3からの酸素拡散のみでは金属挿入層4が充分酸化されず、強磁性トンネル接合体11の中に不要な層が挿入されることとなる。
(強磁性トンネル接合体)
上記の製造方法によって作製された強磁性トンネル接合体10は、第1強磁性金属層1と、第2強磁性金属層2と、第1強磁性金属層1と第2強磁性金属層2の間に挟まれるトンネルバリア層とを有する。トンネルバリア層は、図1における非磁性金属酸化物層3のみからなる場合と、図2における非磁性金属酸化物層3と金属挿入層4の酸化された部分とからなる場合がある。
本実施形態にかかる強磁性トンネル接合体10は、トンネルバリア層の酸化度が厚み方向に均質である。そのため、広いRAの範囲で強磁性トンネル接合体10のMR比が一定である。
より具体的には、本実施形態にかかる強磁性トンネル接合体10は、RAが10Ω・μm以上10Ω・μm以下の領域において、MR比が平均値を基準に±20%以内である。また本実施形態にかかる強磁性トンネル接合体10は、RAが10Ω・μm以上10Ω・μm以下の領域において、MR比が平均値を基準に±10%以内でもよい。
強磁性トンネル接合体10のRAは、積層されるトンネルバリア層の厚みと相関関係を有する。強磁性トンネル接合体10におけるトンネルバリア層以外の層は金属からなり、トンネルバリア層が強磁性トンネル接合体10の抵抗の主の部分を担うためである。
トンネルバリア層に用いる材料によって多少ばらつきはあるが、トンネルバリア層の厚みが1.0nm程度の場合の強磁性トンネル接合体10のRAは10Ω・μm程度であり、トンネルバリア層の厚みが1.5nm程度の場合の強磁性トンネル接合体10のRAは10〜10Ω・μm程度である。
強磁性トンネル接合体10のMR比の変化率が上記範囲を満たすか否かは、非磁性金属酸化物層3と同等の条件で60分間成膜した後の被成膜体の表面状態からも判断できる。通常のトンネルバリア層は3nm以下と薄く判断がつかないため、非磁性金属酸化物層3と同等の条件で60分間成膜し、違いが確認できる条件で判断を行う。60分間成膜を続ければ、印加パワーが小さい場合でも、ターゲットが酸化した反応性(酸化)モードで成膜を行った場合でも、被成膜体の表面に十分な厚みのトンネルバリア層と同等の層が作製される。
被成膜体上に成膜された膜がメタリックな光沢を有する場合は、強磁性トンネル接合体10のMR比の変化率が上記範囲を満たすことが実験的に確認されている。成膜された膜がメタリックな光沢を有するということは、積層された膜は完全な酸化膜として存在するのではなく、酸素を含有しながらも金属的な状態を維持していると考えられる。すなわち、非磁性金属酸化物層3の成膜は、酸化しながら成膜されるといういわゆる反応性スパッタとは少し異なり、酸素を含有しながら成膜が進行していると考えられる。
一方、被成膜体上に成膜された膜が透明な膜の場合は、強磁性トンネル接合体10のMR比の変化率がメタリックな光沢を有する場合と比較して大きくなる。この膜が形成される条件の場合、ただちに強磁性トンネル接合体10のMR比の変化率が上記範囲を満たさないという訳ではないが、メタリックな光沢を有する場合の条件程、広いRAの範囲で強磁性トンネル接合体10のMR比が一定であるトンネルバリア層を得ることはできない。
上述のように、本発明の一態様に係る強磁性トンネル接合体は、トンネルバリア層が均質であり、広いRAの範囲でMR比を一定に保つことができる。またトンネルバリア層の厚みを厚くすることが可能で、高いMR比を得ることができる。そのため、この強磁性トンネル接合体を用いた磁気抵抗効果素子は、磁気センサ、高周波部品、磁気ヘッド及び不揮発性ランダムアクセスメモリ(MRAM)用の素子として優れた特性を示す。
(使用時の構成)
図3は、磁気抵抗効果素子を積層方向から平面視した模式図である。磁気抵抗効果素子20は、強磁性トンネル接合体10と、二つの電極層12、13と、電源14と、電圧計15とからなる。強磁性トンネル接合体10は、二つの電極層12、13の間に配置される。電極層12は図1に示す強磁性トンネル接合体10の第2強磁性金属層2に接続され、電極層13は図1に示す強磁性トンネル接合体10の第1強磁性金属層1に接続されている。二つの電極層12、13は、電源14と電圧計15に接続されている。電源14が電圧を印加すると、強磁性トンネル接合体10の積層方向(図3の紙面に垂直な方向)に電流が流れ、この際の印加電圧は電圧計15でモニターされる。
電極層12は第2強磁性金属層2の保護層としての機能も兼ね備えることができる。また、電極層13は第1強磁性金属層1の下地層としての機能も兼ね備えることができる。
二つの電極層12、13として、Ru、Ta、Cu、Cr、Auの群から選択される少なくとも1つの元素を含む導電層を用いることができる。
また二つの電極層12、13は一層に限られず、上述の層を複数層積層してもよい。
(評価方法)
磁気抵抗効果素子の評価方法について、図3を例に説明する。電源14から一定の電流を磁気抵抗効果素子に印加する。電圧を外部から磁場を掃引しながら測定することによって、磁気抵抗効果素子の抵抗変化を電圧計15で観測する。磁気抵抗効果素子の他の評価方法として、12端子プローブを用いたCurrent−In−Plane−Tunneling(CIPT)法を用いることができる。
MR比は、一般的に以下の式で表される。
MR比(%)=(RAP−R)/R×100
は第1強磁性金属層1と第2強磁性金属層2の磁化の向きが平行の場合のトンネル抵抗であり、RAPは第1強磁性金属層1と第2強磁性金属層2の磁化の向きが反平行の場合のトンネル抵抗である。
halfは、例えば1mVの低バイアス電圧印加時のMR比を測定し、バイアス電圧を大きくしながらMR比が半減する電圧を特定することで求める。
RAは、印加されるバイアス電圧を磁気抵抗効果素子の積層方向に流れた電流で割ることで得られる抵抗値を、各層が接合される面の面積で掛け合わせ、単位面積における抵抗値に規格化したものである。印加するバイアス電圧及び磁気抵抗効果素子の積層方向に流れる電流値を電圧計及び電流計で計測し、求めることができる。
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
(実施例1)
まず基板となるMgO(001)基板を準備した。MgO(001)基板は、純水及びアルコールにより洗浄し、700℃で60分加熱した。その上に、スパッタ法を用いた成膜により、磁気抵抗効果素子の各層を作製した。
まず、下地層(電極層12)としてCrを40nm積層した。その後、700℃60分で積層膜を加熱し、下地層を構成するCr原子を規則化させた。
下地層の上に、第1強磁性金属層としてFeを30nm積層した。第1強磁性金属層も下地層と同様に、原子を規則化させるために、熱処理を行った。熱処理の条件は、300℃15分とした。
第1強磁性金属層の上に、金属挿入層と、非磁性金属酸化物層を順に成膜した。金属挿入層は、希ガスとしてArをもちい、このAr雰囲気中で、Mgを0.2nm成膜した。非磁性金属酸化物層は、50.8mm径のMgAlターゲットに印加する電力を150W、成膜空間中に導入するガス量をAr:20sccm、O:2sccmとして成膜した。トンネルバリア層の成膜レート(Å/s)を印加電力で割った単位電力成膜レート(Å/(s・W))の傾きは、4.6×10-3であった。単位電力密度成膜レート{(Å/s)/(W/m)}は、9.23×10−6であった。そして、成膜された金属挿入層及び非磁性金属酸化物層を、400℃で15分加熱した。
加熱により得られたトンネルバリア層の上に、第2強磁性層、反強磁性層、保護層を順に積層した。第2強磁性層はFeを6nm、反強磁性層はIrMnを12nm、保護層はRuを20nm積層した。第2強磁性層を積層後には、300℃で15分熱処理を行った。
最後に積層された磁気抵抗効果素子に外部磁場5kOeを印加しながら175℃で熱処理し、第2強磁性層の磁化を面内方向に固定した。
上記のような手順で、トンネルバリア層の厚みの異なる磁気抵抗効果素子を複数作製した。トンネルバリア層の厚みは、おおよそ0.5nm〜1.5nmの間で段階的な厚みとした。
作製した試料のRA(Ω・μm)、MR比(%)、MR比の印加電圧依存性をそれぞれ測定した。測定した結果を図4及び図5に示す。図5では、ゼロバイアスのMR値を1として規格化した。
(比較例1)
比較例1は、トンネルバリア層の成膜工程のみが実施例1と異なる。その他の工程は、実施例1と同様とした。
比較例1のトンネルバリア層は以下のようにして作製した。まず、トンネルバリア層の母材となる金属としてMgAlを金属挿入層上に積層し、積層した母材となる金属を圧力5Paで10分間酸化した。酸化により母材となる金属中には酸素が拡散し、トンネルバリア層が形成された。
比較例1においても、トンネルバリア層の厚みの異なる磁気抵抗効果素子を複数作製した。トンネルバリア層の厚みは、おおよそ0.5nm〜1.5nmの間で段階的な厚みとした。
作製した試料のRA(Ω・μm)、MR比(%)、MR比の印加電圧依存性をそれぞれ測定した。測定した結果を図4及び図6に示す。図6の結果は、非特許文献2の図4(b)の結果と対応する。図6では、ゼロバイアスのMR値を1として規格化した。
図4に示すように、比較例1の磁気抵抗効果素子はRAが10Ω・μm付近でMR比のピークを有し、MR比はそれ以上のRAの領域で徐々に小さくなっている。これに対し、実施例1の磁気抵抗効果素子は、RAが10Ω・μm以上の領域でMR比の変動が少なく、RAが大きくなってもMR比を一定に保っている。
磁気抵抗効果素子のRAは主としてトンネルバリア層が担うため、磁気抵抗効果素子のRAはトンネルバリア層の厚みに対応する。RA=10Ω・μmは、おおよそトンネルバリア層の厚み0.8nm〜1.0nmに対応する。
実施例1の磁気抵抗効果素子は、トンネルバリア層の厚みがおおよそ0.8nm〜1.0nm以上の領域で均質なトンネルバリア層が形成され、MR比の変動バラツキが抑制されている。比較例1の磁気抵抗効果素子は、トンネルバリア層の厚みがおおよそ0.8nm〜1.0nm以上の領域で供給される酸素に対して金属量が多くなり、厚み方向及び面内方向に均一に酸素が拡散せず、MR比が徐々に低下していると考えられる。
また図5と図6に示すMR比の印加電圧依存性を見ると以下のようなことが分かる。実施例1の磁気抵抗効果素子(図5)及び比較例1の磁気抵抗効果素子(図6)は、いずれも印加電圧を大きくするに従い、MR比が小さくなっていく点で一致する。これは、印加電圧を大きくするに伴い、自由層の磁化が徐々に反転し、MR比が変動しているためである。
一方で、実施例1の磁気抵抗効果素子(図5)は、印加電圧に対するMR比の変動具合がトンネルバリア層の厚みが異なる試料毎に一定であるのに対し、比較例1の磁気抵抗効果素子(図6)は、印加電圧が大きい領域(グラフの裾の部分)においてMR比の変動量がトンネルバリア層の厚みが異なる試料毎にばらついている。すなわち、Vhalfの値がトンネルバリア層の厚み毎に大きくばらついている。
実施例1の磁気抵抗効果素子はトンネルバリア層が均質であり、膜厚の異なるそれぞれの試料において十分な絶縁性を維持することができていると考えられる。その結果、実施例1の磁気抵抗効果素子はMR比の変動が少ない。これに対し、比較例1の磁気抵抗効果素子はトンネルバリア層が均質でなく、面内方向の一部で電流パスが生まれ、MR比の変動量が多くなっていると考えられる。
(実施例2)
実施例1よりトンネルバリア層の膜厚が厚い領域における検討を実施例2として行った。実施例2の磁気抵抗効果素子は、トンネルバリア層の厚みをおおよそ1.0nm〜3.0nmの範囲で段階的な試料を作製し、試料のRA(Ω・μm)及びMR比(%)を測定した。実施例2は、金属挿入層の厚みを0.45nmとした点、トンネルバリア層の厚みを変化させた点以外は実施例1と同様の条件で作製した。実施例2の試料のRA(log(RA))に対するMR比(%)の変化を図7に示す。log(RA)はトンネルバリア層の膜厚におおよそ比例する。
(実施例3)
実施例3では、非磁性金属酸化物層を成膜する際にターゲットへ印加する電力を175Wとした点のみが実施例2と異なる。非磁性金属酸化物層の成膜レート(Å/s)を印加電力で割った単位電力成膜レート(Å/(s・W))の傾きは、5.4×10−3であった。単位電力密度成膜レート{(Å/s)/(W/m)}は、1.09×10−5であった。
実施例3においてもトンネルバリア層の厚みをおおよそ1.0nm〜3.0nmの範囲で段階的な試料を作製し、試料のRA(Ω・μm)及びMR比(%)を測定した。実施例3の試料のRAに対するMR比(%)の変化を図7に示す。
図7に示すように、実施例2及び3の磁気抵抗効果素子は、いずれもRAが大きくなってもMR比が一定に保たれていた。RAの対数値はトンネルバリア層の膜厚にほぼ比例して変化するため、この結果は幅広いトンネルバリア膜厚においてMR比が一定であることを同時に示している。実施例2及び実施例3の磁気抵抗効果素子は、いずれもRAが10Ω・μm以上10Ω・μm以下の領域においてMR比が平均値を基準に±20%以内であり、RAが10Ω・μm以上10Ω・μm以下の領域においてMR比が平均値を基準に±10%以内であった。
(参考例)
またRAが大きくなってもMR比が一定に保つことができる磁気抵抗効果素子を作製する条件は、トンネルバリア層の成膜条件と同様の条件で作製した被成膜体の表面状態から確認できる。被成膜体の成膜は、実際のトンネルバリア層の成膜条件と成膜時間のみが異なる。被成膜体が充分な厚みを有すると判断が容易となるためである。成膜条件を変えた場合の被成膜体の表面状態の違いを表1に示す。
Figure 0006826344
表1に示すように、実施例1〜3の条件で被成膜体を成膜すると、いずれも被成膜体の表面がメタリック光沢を示した。これは実施例1〜3の成膜条件は、いずれもターゲットから被成膜体に原子が比較的金属に近い状態で供給されていることを示す。すなわち、完全な酸化膜として成膜されるのではなく、酸素を内包して成膜されていると考えられる。
実施例1〜3の条件と同様に被成膜体の表面がメタリックになると、磁気抵抗効果素子のRAが大きくなっても(トンネルバリア層の厚みが厚くなっても)、MR比が一定に保たれていることを確認した。
一方で、被成膜体が透明の場合は、ただちに磁気抵抗効果素子のRAが大きくなった際に、MR比が一定に保たれてないという訳ではないが、その傾向が強いことを確認した。
10、11…強磁性トンネル接合体、1…第1強磁性金属層、2…第2強磁性金属層、3…トンネルバリア層、4…金属挿入層、20…磁気抵抗効果素子、12,13…電極層、14…電源、15…電圧計

Claims (11)

  1. 第1強磁性金属層を積層する工程と、
    前記第1強磁性金属層の一面側に、非磁性金属酸化物層を積層する工程と、
    前記非磁性金属酸化物層の前記第1強磁性金属層と反対側に、第2強磁性金属層を積層する工程とを有し、
    前記非磁性金属酸化物層を積層する工程は、酸素含有雰囲気下で行われ、
    前記非磁性金属酸化物層を積層する工程中に積層空間内に供給される酸素流量は、希ガス流量より少なく、
    前記非磁性金属酸化物層を積層する工程において、前記非磁性金属酸化物層を成膜時の単位ターゲット面積当たりの印加電力(W/m )を横軸とし、前記非磁性金属酸化物層の成膜レート(Å/s)を縦軸とした場合の単位ターゲット面積当たりの単位電力成膜レートの傾きが、2×10 −6 {(Å/s)/(W/m )}より大きい、強磁性トンネル接合体の製造方法。
  2. 前記単位ターゲット面積当たりの単位電力成膜レートの傾きが、4×10−6{(Å/s)/(W/m)}以上である、請求項に記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
  3. 前記非磁性金属酸化物層を積層する工程において、前記酸素流量を前記希ガス流量の1/10以下とし、前記非磁性金属酸化物層の成膜時に用いるターゲット印加電力を125W以上とする、請求項1又は2に記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
  4. 前記非磁性金属酸化物層の組成がMg1−xAlα(0<x≦1、0.35≦α<1.7)である、請求項1〜のいずれか一項に記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
  5. 前記非磁性金属酸化物層を積層する工程と、前記第1強磁性金属層を積層する工程との間に、第1強磁性金属層への酸素の拡散を抑制する金属挿入層を積層する工程をさらに有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
  6. 前記金属挿入層を積層する工程を希ガス雰囲気下で行う、請求項に記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
  7. 前記金属挿入層の組成がMg1−yAl(0≦y≦1)である、請求項またはのいずれかに記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
  8. 前記金属挿入層を積層する工程において、積層する前記金属挿入層の厚みを0.1nm以上1.0nm以下とする、請求項のいずれか一項に記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
  9. 前記非磁性金属酸化物層を積層した後に、熱処理を加える請求項1〜のいずれか一項に記載の強磁性トンネル接合体の製造方法。
  10. 第1強磁性金属層と、第2強磁性金属層と、第1強磁性金属層と第2強磁性金属層の間に挟まれるトンネルバリア層とを有し、
    面積抵抗が10Ω・μm以上10Ω・μm以下の領域において、磁気抵抗(MR)比が平均値を基準に±20%以内であり、
    前記トンネルバリア層は、Mg 1-x Al β (0<x≦1、0.35≦β<1.7)で表される組成である、強磁性トンネル接合体。
  11. 第1強磁性金属層と、第2強磁性金属層と、第1強磁性金属層と第2強磁性金属層の間に挟まれるトンネルバリア層とを有し、
    面積抵抗が10Ω・μm以上10Ω・μm以下の領域において、磁気抵抗(MR)比が平均値を基準に±10%以内であり、
    前記トンネルバリア層は、Mg 1-x Al β (0<x≦1、0.35≦β<1.7)で表される組成である、強磁性トンネル接合体。
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