以下に、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。まず始めに、本発明に係る作業車の一例であるロボットトラクタ1(以下、単に「トラクタ」と称する場合がある。)について説明する。トラクタ1は、圃場を自律走行する機体2を備える。機体2には、図1及び図2において鎖線で示す作業機3が着脱可能に備えられる。当該作業機3は農作業に用いられる。この作業機3としては、例えば、耕耘機、プラウ、施肥機、草刈機、播種機等の種々の作業機があり、これらの中から必要に応じて所望の作業機3を選択して機体2に装着することができる。機体2は、装着された作業機3の高さ及び姿勢を変更可能に構成されている。
本明細書において自律走行とは、図3に示すようにトラクタ1が備える自律走行制御装置51等によって、当該トラクタ1が走行のために備える構成が制御され、予め定められた経路に沿ってトラクタ1が走行することを意味する。また、本明細書において自律作業とは、トラクタ1が作業のために備える構成が自律走行制御装置51等によって制御され、予め定められた経路に沿ってトラクタ1が作業を行うことを意味する。
以下の説明では、自律走行及び自律作業を行うトラクタを「無人トラクタ」又は「ロボットトラクタ」と称し、オペレータが直接操作することにより走行して作業を行うトラクタを「有人トラクタ」と称することがある。圃場内において農作業の一部が無人トラクタにより行われる場合、残りの農作業は有人トラクタにより行われる。単一の圃場において無人トラクタ及び有人トラクタにより農作業を分担して行うことを、農作業の協調作業、追従作業、随伴作業等と称することがある。なお、上記の協調作業には、ある圃場において農作業を無人トラクタが行い、それと同時に別の圃場において農作業を有人トラクタが行うことが含まれても良い。
本実施形態において、無人トラクタと有人トラクタの違いは、オペレータの直接操作の有無であり、トラクタとしての構成は無人と有人とで共通である。即ち、無人トラクタであっても、オペレータが搭乗(乗車)して直接操作することができる(言い換えれば、有人トラクタとして使用することができる)。また、有人トラクタであっても、オペレータが降車して自律走行及び自律作業を行わせることができる(言い換えれば、無人トラクタとして使用することができる)。
トラクタ1の構成について、図1及び図2を参照して説明する。トラクタ1の機体である機体2は、図1に示すように、その前部が左右一対の前輪7,7で支持され、その後部が左右一対の後輪8,8で支持されている。前輪7,7及び後輪8,8が走行部を構成している。
機体2の前部にはボンネット9が配置されている。このボンネット9内にはトラクタ1の駆動源であるエンジン10及び燃料タンク(図示省略)等が収容されている。このエンジン10は、例えばディーゼルエンジンにより構成することができるが、これに限るものではなく、例えばガソリンエンジンにより構成しても良い。また、駆動源としては、エンジンに加えて、又はこれに代えて、電気モータを使用しても良い。
ボンネット9の後方には、オペレータが搭乗するキャビン11が配置されている。このキャビン11の内部には、オペレータが操向操作するためのステアリングハンドル12と、オペレータが座ることが可能な座席13と、各種の操作を行うための様々な操作装置と、が主として設けられている。ただし、農業用作業車両は、キャビン11付きのものに限るものではなく、キャビン11を備えないものであってもよい。
図示は省略するが、上記の操作装置としては、例えばモニタ装置、スロットルレバー、主変速レバー、昇降レバー、PTOスイッチ、PTO変速レバー及び複数の油圧変速レバー等が挙げられる。これら操作装置は、座席13の近傍又はステアリングハンドル12の近傍に配置されている。
モニタ装置は、トラクタ1の様々な情報を表示可能に構成されている。スロットルレバーは、エンジン10の回転速度を設定するものである。主変速レバーは、ミッションケース22の変速比を変更操作するものである。昇降レバーは、機体2に装着された作業機3の高さを所定範囲内で昇降操作するものである。PTOスイッチは、ミッションケース22の後端側から外向きに突出したPTO軸(動力取出軸)への動力伝達を継断操作するものである。すなわち、PTOスイッチがON状態であるときPTO軸に動力が伝達されてPTO軸が回転し、作業機3が駆動される一方、PTOスイッチがOFF状態であるときPTO軸への動力が遮断されてPTO軸が回転せず、作業機3が停止する。PTO変速レバーは、作業機3に入力される動力の変更操作を行うものであり、具体的にはPTO軸の回転速度の変速操作を行うものである。油圧変速レバーは、油圧外部取出バルブを切換操作するものである。
図1に示すように、機体2の下部には、その骨組を構成するシャーシ20が設けられている。当該シャーシ20は、機体フレーム21、ミッションケース22、フロントアクスル23、及びリアアクスル24等から構成されている。
機体フレーム21は、トラクタ1の前部における支持部材であって、直接、又は防振部材等を介してエンジン10を支持している。ミッションケース22は、エンジン10からの動力を変化させてフロントアクスル23及びリアアクスル24に伝達する。フロントアクスル23は、ミッションケース22から入力された動力を前輪7に伝達するように構成されている。リアアクスル24は、ミッションケース22から入力された動力を後輪8に伝達するように構成されている。
図3に示すように、トラクタ1は、機体2の動作(前進、後進、停止及び旋回等)並びに作業機3の動作(昇降、駆動、及び停止等)を制御するための制御部として、車両バス回線18を介して相互に通信可能としたエンジン制御装置15、変速機制御装置16、及び作業機制御装置17を備える。エンジン制御装置15が、エンジン10に設けられる燃料噴射装置としてのコモンレール装置41と電気的に接続されており、変速機制御装置16が、エンジン10からの動力を変速させる油圧式変速装置などを含む変速機42と電気的に接続されている。また、作業機制御装置17が、作業機昇降アクチュエータ44と電気的に接続されている。
コモンレール装置41は、エンジン10の各気筒に燃料を噴射するものである。この場合、エンジン10の各気筒に対するインジェクタの燃料噴射バルブが制御装置4で開閉制御されることによって、燃料供給ポンプによって燃料タンクからコモンレール装置41に圧送された高圧の燃料が各インジェクタからエンジン10の各気筒に噴射され、各インジェクタから供給される燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされる。
変速機42は、具体的には例えば可動斜板式の油圧式無段変速装置であり、ミッションケース22に備えられている。変速機42を制御装置4により制御して斜板の角度を適宜に調整することにより、ミッションケース22の変速比を所望の変速比にすることができる。
昇降アクチュエータ44は、例えば作業機3を機体2に連結している三点リンク機構を動作させることにより、作業機3を退避位置(農作業を行わない位置)又は作業位置(農作業を行う位置)の何れかに上げ下げするものである。昇降アクチュエータ44を制御装置4により制御して作業機3を適宜に昇降動作させることにより、例えば圃場領域の所望の高さで作業機3により農作業を行うことができる。
また、エンジン制御装置15には、エンジン10の回転速度を検出する回転速度センサ31、後輪8の回転速度を検出する車速センサ32、ハンドル12の回動角度(操舵角)を検出する操舵角センサ33等のセンサ類も電気的に接続している。これらセンサの検出値が検出信号に変換されてエンジン制御装置15に送信される。
上述のような制御装置15〜17を備えるトラクタ1は、キャビン11内に搭乗したオペレータの各種操作に基づき、制御装置15〜17が車両バス回線18を介して相互に通信して、トラクタ1の各部(機体2、作業機3等)を制御することで、圃場内を走行しながら農作業を実行可能に構成されている。加えて、実施形態のトラクタ1は、例えばオペレータが搭乗しなくても、遠隔操作装置46により出力される所定の制御信号に基づいて自律走行させることが可能となっている。
具体的には、図3に示すように、このトラクタ1は自律走行を可能とするための自律走行制御装置51等の各種の構成が追加されている。更に、トラクタ1は、測位システムに基づいて自ら(の機体)の位置情報を取得するために必要な測位アンテナ6等の各種の構成を備えている。このような構成により、トラクタ1は、測位システムに基づいて自らの位置情報を取得して、圃場上を自律走行することが可能となっている。
次に、自律走行のためにトラクタ1が備える構成について詳細に説明する。具体的には、トラクタ1は、図1及び図3に示すように、自律走行制御装置51、操舵制御装置52、測位測量装置53、無線通信ルータ(小電力データ通信装置)54、リモコン受信機(特定小電力無線装置)55、操舵アクチュエータ43、測位アンテナ6、及び無線通信用アンテナユニット48等を備える。
自律走行制御装置51及び操舵制御装置52は、車両バス回線18を介して、エンジン制御装置15、変速機制御装置16、及び作業機制御装置17それぞれと相互に通信可能に構成されている。また、自律走行制御装置51は、車両バス回線18による操縦用通信系統とは別系統となる自律走行用通信系統における自律走行バス回線56を介して、測位測量装置53、無線通信ルータ54、及びリモコン受信機55それぞれと相互通信可能となっている。
操舵アクチュエータ43は、例えば、ステアリングハンドル12の回転軸(ステアリング軸)の中途部に設けられ、ステアリングハンドル12の回動角度(操舵角)を調整するものである。予め定められた経路をトラクタ1が(無人トラクタとして)走行する場合、操舵制御装置52は、当該経路に沿ってトラクタ1が走行するようにステアリングハンドル12の適切な回動角度を算出し、算出した回動角度でステアリングハンドル12が回動するように操舵アクチュエータ43を制御する。また、操舵制御装置52は、車両バス回線18を介して、エンジン制御装置15、変速機制御装置16、及び作業機制御装置17それぞれと通信することで、トラクタ1の車速に応じた操舵を実行できる。なお、操舵アクチュエータ43はステアリングハンドル12の回動角度を調整するものではなくトラクタ1の前輪7の操舵角を調整するものであってもよく、その場合、旋回走行を行ったとしてもステアリングハンドル12は回転しない。
測位アンテナ6は、例えば衛星測位システム(GNSS)等の測位システムを構成する測位衛星からの信号を受信するものである。図1に示すように、測位アンテナ6は、キャビン11における屋根14の上面に配置されている。測位アンテナ6で受信された信号は、図3に示す測位測量装置53に入力されて、測位測量装置53でトラクタ1(厳密には、測位アンテナ6)の位置情報が、例えば緯度・経度情報として算出される。当該測位測量装置53で算出された位置情報は、自律走行制御装置51により取得されて、トラクタ1の制御に利用される。
測位測量装置53は、無線通信用アンテナユニット48における第1無線通信アンテナ48aと電気的に接続しており、特定小電力無線による第1無線通信ネットワーク(例えば、920MHz帯の無線通信ネットワーク)を通じて、後述する基準局(可搬型基準局)60と通信を行う。図1に示すように、無線通信用アンテナユニット48は、キャビン11における屋根14の上面に配置されている。測位測量装置53は、第1無線通信アンテナ48aを介して、圃場近接位置に設置された基準局60と通信することで、基準局60からの補正情報によりトラクタ1(移動局)の衛星測位情報を補正して、トラクタ1の現在位置を求める。例えば、DGPS(ディファレンシャルGPS測位)、RTK測位(リアルタイムキネマティック測位)等の各種の測位方法を適用することができる。
本実施形態では、例えば、RTK測位を適用しており、移動局側となるトラクタ1に測位アンテナ6を備えるのに加えて、基準局測位アンテナ61を備えた基準局60が備えられている。基準局60は、例えば、圃場の周囲等、トラクタ1の走行の邪魔にならない位置(基準点)に配置されている。基準局60の設置位置となる基準点の位置情報は予め設定されている。基準局60には、トラクタ1の測位測量装置53及び第1無線通信アンテナ48aによる通信装置との間で構築される第1無線通信ネットワークを介して通信可能な基準局通信装置62が備えられている。
RTK測位では、基準点に設置された基準局60と、位置情報を求める対象の移動局側となるトラクタ1の測位アンテナ6との両方で測位衛星63からの搬送波位相(衛星測位情報)を測定している。基準局60では、測位衛星63から衛星測位情報を測定する毎に又は設定周期が経過する毎に、測定した衛星測位情報と基準点の位置情報等を含む補正情報を生成して、基準局通信装置62からトラクタ1の第1無線通信アンテナ48aに補正情報を送信している。トラクタ1(移動局に相当する)の測位測量装置53は、測位アンテナ6にて測定した衛星測位情報を、基準局60から送信される補正情報を用いて補正して、トラクタ1の現在位置情報(例えば、緯度情報・経度情報)を求めている。
なお、本実施形態ではGNSS−RTK法を利用した高精度の衛星測位システムを利用しているが、これに限られるものではなく、高精度の位置座標が得られる限りにおいて他の測位システムを用いてもよい。GNSS−RTKは、位置のわかっている基準局の情報に基づいて、補正して精度を高めた測位方式で、基準局からの情報の配信方法の違いで複数の方式が存在する。本発明はGNSS−RTK方式には依存しないので、本実施例では詳細は割愛する。
また、測位測量装置53は、衛星測位によるトラクタ1(機体2)の位置情報だけでなく、慣性測量による前後左右の傾斜角情報を計測可能になっている。測位測量装置53で計測された傾斜角情報は、自律走行制御装置51により位置情報(緯度・経度情報)と対応付けた状態で取得されて、トラクタ1の制御に利用される。なお、測位測量装置53は、圃場面に対する測位アンテナ6の高さ位置、ひいてはトラクタ1(機体2)の車高を計測することも可能である。
無線通信用アンテナユニット48は、トラクタ1のキャビン11の屋根14の上面に配置されており、周波数帯域の異なる第1〜第3無線通信ネットワークと通信接続する第1〜第3無線通信アンテナ48a〜48cを備えている。第1無線通信ネットワークは、基準局60による測位情報を通信させるべく、例えば、データ伝送速度の速い920MHz帯の特定小電力無線などで構築される。第2無線通信ネットワークは、画像データなどのデータ容量の多いデータを高速で通信でさせるべく、例えば、2.4GHz帯の小電力データ通信システムなどで構築される。第3無線通信ネットワークは、第2無線通信ネットワークと比べてデータ伝送量が少ないため、例えば、400MHz帯の特定小電力無線などで構築される。
第1無線通信アンテナ48aは、測位測量装置53と電気的に接続しており、第2無線通信アンテナ48bは、無線通信ルータ54と電気的に接続しており、第3無線通信アンテナ48cは、リモコン受信機55と電気的に接続している。第2無線通信アンテナ48bと接続された無線通信ルータ54は、第2無線通信ネットワークを通じて、トラクタ1外部のオペレータにより操作される画像表示可能な遠隔操作装置70と通信を行う。無線通信ルータ54は、遠隔操作装置70からの制御信号を受信し、自律走行バス回線56を介して自律走行制御装置51に送信する。第3無線通信アンテナ48cと接続されたリモコン受信機55は、第3無線通信ネットワークを通じて、トラクタ1外部のオペレータにより操作される緊急停止用リモコン71と通信を行う。リモコン受信機55は、緊急停止用リモコン71からの制御信号を受信し、自律走行バス回線56を介して自律走行制御装置51に送信する。
遠隔操作装置70は、具体的には、タッチパネルを備えるタブレット型のパーソナルコンピュータとして構成される。オペレータは、遠隔操作装置70のタッチパネルに表示された情報(例えば、自律走行を行うときに必要な圃場の情報等)を参照して確認することができる。また、オペレータは、遠隔操作装置70を操作して、トラクタ1の自律走行制御装置51に、トラクタ1を制御するための制御信号を送信する。なお、実施形態の遠隔操作装置70はタブレット型のパーソナルコンピュータに限るものではなく、これに代えて、例えばノート型のパーソナルコンピュータで構成することも可能である。あるいは、有人のトラクタ(図示省略)を無人のトラクタ1に随伴して走行させる場合、有人側のトラクタに搭載されるモニタ装置を遠隔操作装置とすることもできる。
自律走行制御装置51は、遠隔操作装置70を用いるオペレータの指示に基づいて、圃場領域(走行領域)での走行経路を算出する。そして、自律走行制御装置51は、算出した走行経路とトラクタ1の位置情報とを比較することで、走行経路上のトラクタ1位置を確認し、傾斜角情報などを考慮して、トラクタ1の操舵角や走行速度を算出し、車両バス回線18を通じて、各制御装置15〜17,52と通信する。これにより、トラクタ1は、当該走行経路に沿って自律走行しつつ、作業機3による農作業を行うことができる。このように、トラクタ1が自律走行する圃場領域(走行領域)内の経路を、以下の説明において「走行経路」と称する場合がある。また、圃場領域(走行領域)においてトラクタ1の作業機3による農作業の対象となる領域(作業領域)は、圃場領域の全体から枕地及び余裕代を除いた領域として定められ、オペレータ等が後述の登録点の登録作業を実行したときにこれら登録点とトラクタ1の作業幅とに基づいて設定される。
緊急停止用リモコン71は、トラクタ1を緊急停止させるためのリモコンスイッチであって、遠隔操作装置70を操作するオペレータにより所有され、当該オペレータによりスイッチ操作がなされたときに、緊急停止の制御信号を送信する。緊急停止用リモコン71は、緊急停止ボタン72をリモコン本体表面から突出させており、オペレータが緊急停止ボタン72を押すことで、緊急停止の制御信号を送信する。更に、緊急停止用リモコン71は、遠隔操作装置70に着脱自在に構成されるとともに、オペレータの首に掛けるなど身体に密着させるべく、ストラップ(紐状部材)を取り付け可能に構成されている。
自律走行制御装置51は、緊急停止用リモコン71における緊急停止ボタン72へのオペレータの操作に基づいて、エンジン制御装置15との通信により、コモンレール装置41における燃料噴射を停止させるとともに、変速機制御装置16との通信により、変速機42を中立状態とした上で、後述のブレーキ装置26による制動動作を作用させる。このとき、自律走行制御装置51は、操舵制御装置52との通信により、ハンドル12を中立位置とするように操舵アクチュエータ43を制御して、左右の前輪7,7の方向を直進方向に向けるものとしてもよい。
自律走行制御装置51は、測位測量装置53における基準局60との通信状態(第1通信ネットワークにおける通信状態)、無線通信ルータ54における遠隔操作装置70との通信状態(第2通信ネットワークにおける通信状態)、及び、リモコン受信機55による緊急停止用リモコン71との通信状態(第3通信ネットワークにおける通信状態)それぞれを、自律走行バス回線56を介して確認する。自律走行制御装置51は、第1〜第3通信ネットワークのいずれかでの通信状態が遮断されたことを確認すると、エンジン制御装置15及び変速機制御装置16などと通信することで、トラクタ1の自律走行を緊急停止させる。なお、測位測量装置53、無線通信ルータ54、及びリモコン受信機55はそれぞれ、通信相手からの信号を所定期間以上受信しない場合には、当該通信相手との通信が遮断されたものと判定する。
更に、トラクタ1には、ブレーキペダルや駐車ブレーキレバーの操作と自動制御という2つの系統によって、左右の後輪8,8にブレーキを掛ける左右一対のブレーキ装置26,26を設けている。すなわち、左右両方のブレーキ装置26,26は、ブレーキペダル(又は駐車ブレーキレバー)の制動方向への操作によって、左右両方の後輪8,8にブレーキを掛けるように構成されている。また、ハンドル12の回動角度が所定角度以上になれば、変速機制御装置16の指令によって、旋回内側の後輪8に対するブレーキ装置26が自動的に制動動作をするように構成されている(いわゆるオートブレーキ)。
また、トラクタ1には、前方、側方又は後方に障害物があるか否かを検出する障害物センサ35が取り付けられている。障害物センサ35は、レーザセンサ、超音波センサ等によって構成され、トラクタ1の前方、側方及び後方に存在する障害物を認識し、検出信号を生成する。また、トラクタ1は、前方、側方、及び後方を撮影するカメラ36が取り付けられる。障害物センサ35及びカメラ36は、無線通信ルータ54と無線通信可能な構成とし、無線通信ルータ54及び自律走行バス回線56を介して、障害物検出信号及び画像信号を自律走行制御装置51に送信する。そして、無線通信ルータ54が、第2無線通信ネットワークを通じて、カメラ36からの画像信号を遠隔操作装置70に送信することで、遠隔操作装置70にトラクタ1周辺の画像を表示させることができる。なお、障害物センサ35及びカメラ36は、自律走行バス回線56を介して自律走行制御装置51と有線接続されるものであっても構わない。
可搬型基準局60は、自律走行するトラクタ(作業車両)1と無線通信する基準局無線通信アンテナ64と、測位衛星63からの信号を受信する基準局測位アンテナ61と、無線通信アンテナ64及び測位アンテナ61それぞれと電気的に接続された基準局通信装置62とを備える。可搬型基準局60は、移動局となるトラクタ(作業車両)1の位置特定における基準点に設置される。可搬型基準局60は、複数部材に分解可能に構成されており、分解した各部材は、トラクタ1により運搬可能な大きさに構成される。
分解部材を組み立てて、基準点に設置された可搬型基準局60は、基準局測位アンテナ61で受信した測位衛星63からの信号を基準局通信装置62に送り、基準局通信装置62において、測定した衛星測位情報と基準点の位置情報等を含む補正情報を生成する。そして、可搬型基準局60は、基準局通信装置62で生成した補正情報を、トラクタ1の第1無線通信アンテナ48aと通信可能な第1無線通信ネットワークと通信接続する基準局無線通信アンテナ64より送信する。
自律走行作業車両である無人トラクタ1を操作する無線通信端末として、トラクタ1と無線通信を実行する遠隔操作装置(端末装置本体)70及び緊急停止用リモコン71を備えている。そして、遠隔操作装置70及び緊急停止用リモコン71はそれぞれ、通信方式の異なる無線通信ネットワークによりトラクタ1と通信を実行する。また、遠隔操作装置70は、タッチパネル操作可能なディスプレイを備えており、緊急停止用リモコン71は、遠隔操作装置70の外枠に対して着脱自在に構成されている。また、緊急停止用リモコン71は、トラクタ1の自律走行を停止させる緊急停止ボタン72と、トラクタ1との無線通信を開始するためのスタートボタン73とを具備する。
次いで、図4〜図9を参照して、本実施形態における可搬型基準局60の構成について、以下に説明する。図4〜図9に示す如く、基準局無線通信アンテナ64が着脱自在に取り付けられる支持棒65が、支持脚体66に対して、上方から挿抜可能に構成されている。支持脚体66は、支持棒65との連結部分より下方位置に、基準局通信装置62が固定される通信装置固定部601(例えば図6参照)を有する。
支持脚体66における支持棒65との連結部分より下方位置に通信装置固定部601を設けた構成とするため、重量のある部品である基準局通信装置62を可搬型基準局60の下側部分に配置できることから、可搬型基準局60の重心が下側となる。従って、可搬型基準局60の高さが高くなったとしても、基準点において可搬型基準局60を安定した姿勢で立設でき、転倒による機器の破損や自律走行の緊急停止を回避できる。また、可搬型基準局60の重心が下側となることから、基準局無線通信アンテナ64を支持棒65により高い位置に設置できるため、移動局となるトラクタ1との通信を比較的広範囲で実行できるだけでなく、遮蔽物による通信の遮断も抑制できる。
支持棒65上端に基準局無線通信アンテナ64が固定される無線通信アンテナ固定部602を有する。一方、支持脚体66上端に基準局測位アンテナ61が固定される測位アンテナ固定部603を有している。これにより、可搬型基準局60において、基準局無線通信アンテナ64が基準局測位アンテナ61より高い位置に支持される。
無線通信アンテナ固定部602は、支持棒65上端に溶接等で固定されており、支持棒65を中心に左右に伸びる板状に構成されている。即ち、支持棒65上端は、無線通信アンテナ固定部602により略T字形状に構成されている。また、基準局無線通信アンテナ64は、板状の無線アンテナ支持ブラケット610に左右両端で磁着により固定されている。
左右一対の基準局無線通信アンテナ64が両端に取り付けられる無線アンテナ支持ブラケット610は、無線通信アンテナ固定部602の左右幅より広く構成されている。そして、無線アンテナ支持ブラケット610の中央領域が、支持棒65上端の無線通信アンテナ固定部602に対してボルト611で螺着されることで、無線アンテナ支持ブラケット610が支持棒65に固定される。基準局無線通信アンテナ64は裏面に磁石を貼り付けることで、金属製の無線アンテナ支持ブラケット610に磁力で固定される構成を有するため、無線アンテナ支持ブラケット610に対して容易に脱着できる。
支持脚体66は、台座部604より上方に棒状の支持ステー605が立設されるとともに、測位アンテナ固定部603を備えた測位アンテナ支持ブラケット606が支持ステー605上端に設置されて構成されている。測位アンテナ支持ブラケット606には、支持ステー605と平行となる筒状の支持棒保持部607が、測位アンテナ固定部603と共に併設されており、支持棒保持部607に支持棒65が挿入されることで、支持棒65が支持ステー605に対して偏倚して固定される。
測位アンテナ支持ブラケット606は、支持ステー605に貫通されて固定された二段構造を有している。測位アンテナ支持ブラケット606の上段に測位アンテナ固定部603が設けられて、基準局測位アンテナ61を支持する。一方、測位アンテナ支持ブラケット606の下段に通信装置固定部601が設けられて、通信装置支持ブラケット67を介して基準局通信装置62を吊り下げ支持している。支持棒保持部607が、支持ステー605側方で測位アンテナ支持ブラケット606の上下段を連結して設けられている。
測位アンテナ支持ブラケット606は、側面視で略コの字状に形成されており、上段部分の測位アンテナ固定部603には、基準局測位アンテナ61の連結台612がボルト613により締着固定されている。なお、連結台612は、中心に固定ボルトを上方に突設させた構成を有しており、基準局測位アンテナ61が、連結台612のボルトに対して着脱可能に固定されている。一方、下段部分の通信装置固定部601には、通信装置支持ブラケット67の連結部614が蝶ネジ615により締着固定されている。測位アンテナ支持ブラケット606の上段部分(測位アンテナ固定部603)は、支持ステー605の上端に固定されており、アンテナ支持部ブラケットの下段部分(通信装置固定部601)は、支持ステー605の中途部に固定されている。
通信装置支持ブラケット67は、平面視でU字形状に構成されており、その前縁部分で基準局通信装置62が固定される通信装置固定板616を吊り下げ支持している。そして、通信装置支持ブラケット67は、通信装置固定板616と連結する前縁部分の左右両端を後方に向かって延設させることで連結部614を構成している。このように構成することで、通信装置支持ブラケット67は、後方に延びる左右一対の連結部614を測位アンテナ支持ブラケット606の無線通信アンテナ固定部602に連結させる際、通信装置支持ブラケット67の切り欠き部分に支持ステー605を位置させることとなる。従って、通信装置支持ブラケット67を測位アンテナ支持ブラケット606に蝶ネジ615で連結したとき、支持ステー605と通信装置支持ブラケット67とが干渉しない。
基準局通信装置62の前面には、キースイッチ621や電源スイッチ622などによる操作部と液晶ディスプレイ623による表示部が設けられている。基準局通信装置62の下側側面には、基準局測位アンテナ61及び基準局無線通信アンテナ64それぞれとアンテナ線608、609を介して接続されるアンテナ端子624,625が突設されている。基準局通信装置62に電力供給するバッテリ626が、基準局通信装置62の一側面(本実施形態では左側面)に設けられたバッテリ装着口627に対して挿抜可能である。
基準局通信装置62は、その背面が上下縁を屈曲させた側面視が略コの字状となる通信装置固定板616に締着されている。そして、通信装置固定板616における基準局通信装置62の設置面には、基準局通信装置62の側面を覆う側面カバー617が固定されている。側面カバー617は、基準局通信装置62の上側面及び左右側面を覆うように、正面視コの字状に形成されており、その下端部分が通信装置固定板616の下縁の折り曲げ面に固定されている。また、正面カバー618が側面カバー617の下側部分を左右に架設しており、基準局通信装置62下面に設けられたアンテナ端子624,625が正面カバー618により覆われる。正面カバー618は、キースイッチ621や電源スイッチ622などによる操作部と液晶ディスプレイ623による表示部の下方に設置されている。
側面カバー617は、左側面上側にバッテリ挿入用切欠部628を備えている。即ち、側面カバー617は、基準局通信装置62の左側面に設置されたバッテリ装着口627に対応する位置にバッテリ挿入用切欠部628を備えている。従って、基準局通信装置62が側面カバー617に覆われた状態であっても、バッテリ装着口627に対してバッテリ626を挿抜することが可能である。
基準局測位アンテナ61と接続されるアンテナ線608は、通信装置固定板616の背面下側で開口したアンテナ線挿入用開口部629から挿入されて、基準局通信装置62下面のアンテナ端子624に連結される。同様に、左右一対の基準局無線通信アンテナ64と接続される2本のアンテナ線609は、支持ステー605を挟むようにして下方に延設されるとともに、通信装置固定板616のアンテナ線挿入用開口部629から挿入されて、基準局通信装置62下面の2つのアンテナ端子625それぞれに連結される。
なお、2本のアンテナ線609は、支持脚体66における無線アンテナ支持ブラケット610の左右位置に設置される左右一対のアンテナ線固定部材630により拘束されることで、2本のアンテナ線608を左右に離間させた状態で張設できる。アンテナ線固定部材630は、左右に離れた位置に固定されるよう、例えば、測位アンテナ支持ブラケット606の通信装置固定部601の左右端部に設置される。
可搬型基準局60が、支持脚体66、支持棒65、基準局測位アンテナ61、基準局無線通信アンテナ64、及び基準局通信装置62それぞれに分解可能に構成されているため、移動局となるトラクタ1や別の運搬車両に、分解した可搬型基準局60を積載して、自律走行を実行する作業場(圃場)まで運搬することが可能となる。
可搬型基準局60を分解する例として、支持脚体66から支持棒65を取り外して、基準局測位アンテナ61及び基準局通信装置62が固定された支持脚体66と、基準局無線通信アンテナ64が固定された支持棒65とを分解する。そして、アンテナ線609を基準局通信装置62のアンテナ端子625から取り外すとともに、基準局無線通信アンテナ64を無線アンテナ支持ブラケット610から取り外すことで、基準局無線通信アンテナ64を支持棒65から分離する。また、蝶ネジ615を外すことによって、通信装置支持ブラケット67と共に基準局通信装置62を支持脚体66から分解する。更に、基準局測位アンテナ61を、支持脚体66の支持ステー605上端に固定された連結台612から取り外すことで、基準局測位アンテナ61を支持脚体66から分解する。
次いで、図10を参照して、第2実施形態となる可搬型基準局60Aの構成について、以下に説明する。図10に示す如く、本実施形態の可搬型基準局60Aは、支持棒65の上端に基準局測位アンテナ61及び基準局無線通信アンテナ64が固定されている。支持脚体660が、支持棒65と連結する支持ステー661と、支持ステー661を中心に下方に向かって放射状に伸びる複数の支脚ステー662とを備えている。そして、支持ステー661下方であって支脚ステー662に囲まれた箇所に通信装置62を支持する通信装置固定部663が構成される。
本実施形態では、例えば、支持ステー661から支持棒65を引き抜くことにより、支持脚体660と支持棒65とが分解される。また、通信装置固定部663に載置固定された通信装置62を取り外すことで、支持脚体660の支脚ステー662を折りたたむことができる。
本発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。