以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態は、ワークに対して静電塗布を行う静電塗布装置に関する。なお本実施形態において、静電塗布の語は、静電噴霧や静電コーティング、静電塗装など、静電方式によりワークの表面処理を行う技術一般を含むものとして用いられる。このため、本実施形態の静電塗布装置とは、ワークに対して静電噴霧を行う静電噴霧装置や静電コーティングを行う静電コーティング装置などのいわゆる静電処理装置一般を代表する語として用いられているのであり、静電塗布装置の語を限定的に解釈されるべきではない。
まず、図1乃至図3を参照して、本実施形態における静電塗布装置について説明する。図1は、静電塗布装置1の平面図であり、静電塗布装置1を上側(+Z軸方向)から見た全体構成図を示している。図2は、静電塗布装置1の正面図であり、静電塗布装置1を前側(−Y軸方向)から見た図を示している。図3は、静電塗布装置1の側面図であり、図1の線III−IIIに沿った断面を基準として静電塗布装置1を右側(+X軸方向)から見た図を示している。
チャックテーブル2(テーブル)の上には、後述のように薄膜が形成される前のワーク13が載置される。チャックテーブル2の側面にはチャック3が4か所に設けられている。チャック3を用いてワーク13を固定するとともにポーラスで吸着することにより、ワーク13はチャックテーブル2上に確実に固定される。チャックテーブル2は、Y軸ガイド4によりY軸方向(第3の軸(Y軸)に沿った方向)に移動することが可能である。Y軸ガイド4は、架台90の上に設けられており、カバー91により覆われている。またチャックテーブル2は、不図示の回転駆動部によりθ方向に回転することが可能(第1の軸と第3の軸とを含む平面内で回転可能)である。本実施形態において、チャックテーブル2は、接地されている(GND接続)。またチャックテーブル2は、不図示の電源装置に接続されており、ワーク13を載置した状態でチャックテーブル2と後述のマルチノズル20とを相対的に移動させながら、ワーク13への静電塗布が行われる。
カメラ7(撮像装置)は、チャックテーブル2の上に載置されたワークを撮像することが可能であり、ワーク13の位置(X軸方向、Y軸方向、θ方向のそれぞれの位置)を確認または判定するために用いられる。カメラ7は、薄膜形成後(静電塗布後)のワーク13の状態を確認するために用いることもできる。レーザ変位計8は、ワーク13の厚さを測定するために用いられる。カメラ7およびレーザ変位計8は、立設架台10に設けられた右X軸駆動ガイド部11a(第3の駆動手段)および右Z軸駆動ガイド部12a(第4の駆動手段)により、X軸方向(第1の軸(X軸)に沿った方向)およびZ軸方向(第2の軸(Z軸)に沿った方向)にそれぞれ移動することが可能である。本実施形態において、カメラ7またはレーザ変位計8をチャックテーブル2までX方向に移動させ、ワーク13を載置した状態でチャックテーブル2をカメラ7またはレーザ変位計8の下部へ移動させることにより、カメラ7またはレーザ変位計8は、ワークの位置確認や測定を行うことができる。
マルチノズル20(複数のノズル部26)は、後述のように、接地されたチャックテーブル2との間に所定の電圧(例えばパルス電圧)を印加することにより、所定の溶媒(塗布液)をマルチノズル20のそれぞれの先端からワークへ向けて吐出し、ワーク13の表面(上面または側面)に対して静電塗布(静電噴霧)を行う。マルチノズル20には、不図示の電源装置が接続されている。電源装置は、接地されたチャックテーブル2とマルチノズル20に印加する電圧の大きさや極性を適宜設定することにより、静電気力によって塗布液を霧化させると共にワーク13に引き付けて付着させ、均一な塗布を行うことができる。また本実施形態において、ワーク13の上に液剤を均一に形成するため、複数のノズル部26のそれぞれに印加される電圧(パルス電圧)を独立に制御することができる。電圧の大きさを設定することによって、液剤の薄膜の厚さをより均一に形成することが可能となる。なお本実施形態において、マルチノズル20に代えて、一つのノズル部のみを備えたノズルを用いてもよい。
ピッチ変更部30(変更手段)は、マルチノズル20(複数のノズル部26)のピッチ(間隔)、すなわち隣接するノズルの間のピッチを変更(調整)する。本実施形態において、ピッチ変更部30は、モータ35(ステッピングモータやサーボモータなど)を用いて、モータ35の回転量に応じてマルチノズル20のピッチを変更(調整)するように構成されるが、これに限定されるものではない。このような構成において、ピッチ変更部30は、例えば複数のワーク13のピッチに合わせてマルチノズル20のピッチを変更することができる。マルチノズル20およびピッチ変更部30は、立設架台10に設けられた左X軸駆動ガイド部11b(第1の駆動手段)および左Z軸駆動ガイド部12b(第2の駆動手段)により、X軸方向(第1の軸(X軸)に沿った方向)およびZ軸方向(第2の軸(Z方向)に沿った方向)にそれぞれ移動することが可能である。左X軸駆動ガイド部11bおよび左Z軸駆動ガイド部12bは、互いに独立してマルチノズル20およびピッチ変更部30を移動させることが可能である。
本実施形態において、ピッチ変更部30は、ユーザがカメラ7を用いて複数のワーク13のピッチを把握した上で、複数のノズル部26のピッチをワーク13のピッチと一致するように変更することができる。または、ピッチ変更部30は、カメラ7により取得された画像データに基づいて複数のワーク13のピッチを画像認識技術により判定し、画像データに基づいて判定されたワーク13のピッチと一致するようにモータ35の回転量を決定して複数のノズル部26のピッチを自動的に変更(制御)するようにしてもよい。
ノズル濡らし機構40は、マルチノズル20の先端部を挿入することが可能であり、マルチノズル20の先端部の乾燥を抑制するための溶剤(有機溶剤など)または溶剤雰囲気で満たされた収容部41(タンク)を有する。ノズル濡らし機構40を使用していない場合、溶液または溶剤雰囲気が揮発するのを抑制するため、収容部41はその上面に設けられたカバー42により覆われている。このため、ノズル濡らし機構40を使用する際には、カバー42を収容部41から取り外す必要がある。本実施形態では、ノズル濡らし機構40はX軸駆動ガイド部45を有し、ノズル濡らし機構40を使用する際には、カバー42がX軸駆動ガイド部45に沿ってX軸方向に移動することにより、カバー42をスライドさせて収容部41から取り外すことができる。また、ノズル濡らし機構40を使用する際において、マルチノズル20は左X軸駆動ガイド部11bにより−X軸方向に移動し、マルチノズル20がノズル濡らし機構40の収容部41の直上に到達する。そしてマルチノズル20は、左Z軸駆動ガイド部12bを用いて−Z軸方向に移動する(下降する)ことにより、カバー42が取り外された収容部41の内部に挿入される。このとき、ノズルは最小ピッチに戻り、ノズルのピッチに合わせた孔44にノズルを挿入する。
接触Z軸高さ出し部50(位置調整手段)は、マルチノズル20の高さ方向の位置を調整する。本実施形態において、接触Z軸高さ出し部50は、Z軸方向に延びたプローブを有し、マルチノズル20の先端(すなわち、複数のノズル部26のそれぞれの先端)をこのプローブの先端に接触させることにより、マルチノズル20の高さ(ノズル高さ)を正確に測定することができる。複数のノズル部の高さにばらつきがある場合、このばらつきが小さくなるように高さ調整を行うことができる。例えば、所定の公差以上高さが異なるノズル部がある場合、そのノズル部の高さが所定の公差内になるように高さ調整を行い、複数のノズル部26の高さを合わせる。または、複数のノズル部26の高さの平均値を用いて静電塗布を行ってもよい。イオナイザ60は、イオン化したエアを静電塗布処理後のワーク(最終製品)に吹き付けることにより、ワークから静電気を除去することができる。
次に、図4乃至図6を参照して、本実施形態におけるマルチノズル20およびピッチ変更部30の構成について詳述する。図4は、マルチノズル20およびピッチ変更部30の拡大平面図であり、図1の拡大図に相当する。図5は、マルチノズル20およびピッチ変更部30の拡大正面図であり、図2の拡大図に相当する。図6は、図4と同様に、マルチノズル20およびピッチ変更部30の拡大平面図である。図4はマルチノズル20のノズルピッチを小さくした状態を示し、図6はノズルピッチを大きくした状態を示している。
図4乃至図6に示されるように、ピッチ変更部30は、ピッチ変更機構部31(ピッチチェンジャー)、ガイド軸32、ガイドホルダ33、モータ35、および、ユニバーサルジョイント36を備えて構成される。ガイドホルダ33はマルチノズル20のノズルホルダ23、25を保持し、ガイド軸32はガイドホルダ33をX軸方向に移動可能にガイドする。ガイドホルダ33は、ノズルピッチを変更するために必要な数だけ設けられる。本実施形態において、マルチノズル20は、図4中の横方向に8本、縦方向に2本の合計16本のノズル部26を有する。このため本実施形態において、ピッチ変更部30は8つのガイドホルダ33を有する。ただし、ノズル部26の本数や配置(レイアウト)はこれに限定されるものではなく、ノズル部26の本数を8以外の複数の本数にすることや、横8×縦2のノズル配置以外の配置構成を採用してもよい。また、ノズル部26の本数や配置に応じて、ガイドホルダ33の個数は変更される。
モータ35はステッピングモータまたはサーボモータであり、モータ35の回転量(回転角)がユニバーサルジョイント36(連結部)を介して、ピッチ変更機構部31へ伝達される。本実施形態において、ピッチ変更機構部31は、モータ35の回転量(回転角)に応じて、8つのガイドホルダ33のそれぞれのピッチ(間隔)を変更する。すなわちピッチ変更機構部31は、モータ35の回転角に応じて複数のガイドホルダ33が隣接するそれぞれのガイドホルダの間隔を変更するようにガイド軸32に沿って変位する。このような構成により、マルチノズル20は、図4に示されるようなノズルピッチが小さい状態から、図6に示されるようにノズルピッチが大きい状態へ、または、ノズルピッチが大きい状態から小さい状態へ変更することができる。
図5に示されるように、本実施形態のマルチノズル20は、8本のノズル部を有する。複数のノズルはそれぞれ、電極21、背圧エア入口部22(背圧エアカプラ)、ノズルホルダ23、25、シリンジ24、および、ノズル部26を有する。本実施形態において、電極21にパルス電圧などの所定の電圧を印加することにより、電極21とワークを載置して接地されたチャックテーブル2との間に電位差を生じさせる。その結果、シリンジ24の内部に設けられた溶剤(塗布液)がイオン化してノズル部26の先端部27からワークへ向けて吐出することにより、静電塗布(静電噴霧または静電コーティング)が行われる。このとき、背圧エア入口部22からシリンジ24の内部の溶剤に対して所定の背圧を加える。これにより、シリンジ24の内部の溶剤(塗布液)をよりスムーズに吐出することができる。本実施形態において、シリンジ24の内部の溶剤として、例えば銀ペーストを含有する溶剤を用いるが、これに限定されるものではない。
ノズル部26には、シリンジ24から液剤(塗布液)が供給される。液剤は、ワーク13上に形成される薄膜の種類に応じて適宜選択される。すなわち、ワーク13に形成する膜の原料を液剤として選択する。液剤は、ワーク13に形成する膜の材料が溶け込んでいるもの、その材料の微粒子が溶剤などに分散されているもの、または、その材料の錯体や前駆体が溶媒中に存在するものである。
例えば、静電塗布によりワーク13の表面に薄膜としてのシールド層を成膜するには、液剤として、電磁波シールド成形用のインクまたはペーストとして調製され市販されるものを用いることができる。このような液剤は、例えば、導電性または磁性を有するシールド材、シールド材を被塗布物に固着させるためのバインダ樹脂、これらの材料を含みインク状またはペースト状などの所定の粘度に調製するための溶媒および任意の機能を付加させるための添加剤を含む。シールド材としては、銀、鉄、ニッケル、銅、金またはパラジウムなどの金属や、フェライトのようなセラミックス、カーボンファイバまたはグラファイトなどの炭素材料などの各種材料の微粒を用いることができる。例えば、ナノオーダに成粒された銀ナノ粒子を用いることが可能である。また、シールド材はこれらの混合物、化合物、複合物であってもよく、例えば金属コーティングした樹脂粒などを用いることもできる。また、シールド材としては、磁性材料を用いることで磁気シールドとして機能させることができる。この場合、Fe−Ni合金のような鉄とニッケルを主とした合金を用いることができ、例えばパーマロイやスーパマロイを用いることが可能である。
バインダ樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂や各種合成樹脂を用いることができる。一例として、ワーク13の樹脂成形に用いる樹脂と同種の熱硬化性樹脂をバインダ樹脂として用いることで、剥離やひび割れの発生を抑制することが可能である。なお、ワーク13の樹脂成形に用いる樹脂とバインダ樹脂とを共に熱硬化性樹脂とすることで、ワーク13に成形された樹脂の加熱硬化工程により、バインダ樹脂も加熱硬化させることができ、別途の硬化工程を不要とすることが可能である。
溶媒としては、例えば、水、アルコール、アミン、アセテート、エーテル、ケトン、アルデヒドのような各種の溶剤や溶媒を用いることができる。また、添加物としては、分散剤、レベリング剤、消泡剤、顔料、又は粘度調整剤などの各種の材質を添加してもよい。
なお、静電塗布に関する原理、塗布条件、および制御は、特開2016−115722に記載されているため、ここでの説明は省略する。
本実施形態において、薄膜としてのシールド層を半導体チップとしてのワーク13に形成することにより、半導体チップの誤作動、データの破損、半導体素子の破損や信号の改ざんなどの不具合または不適正な処理の発生を防止し、半導体チップを効果的に保護することができる。また、MRAMのように磁気的な情報記録機構を有する記録装置として用いられる半導体チップに形成されたシールド層は、磁気シールドとして機能するため、半導体チップの保護がより効果的に行われる。
なお本実施形態において、ワーク13の表面に形成可能な薄膜(機能層)は、シールド層に限定されるものではなく、シールド層以外の他の薄膜として、波長変換層(蛍光体膜)、反射防止膜、または、フィルタ層などの任意の光学機能を有する膜や層を独立して、またはシールド層に付加して形成することができる。また、レジスト膜、透明配線層、短波長高透過率絶縁膜、絶縁膜などの膜や層を形成することも可能である。
また、ワークは半導体チップ、光デバイス、電子機器に限定される必要は無く、金属、ガラス、プラスチップ、セラミック等多種のものに塗布が可能である。更に、本実施例は薄膜を形成する場合を説明しているが、特開2014−083782号公報に記載されているように、バンプなどの点や配線の線描画を行うことも可能である。
次に、図7を参照して、マルチノズル20の変形例について説明する。図7(a)は、前述のマルチノズル20の断面図であり、図6の線VII−VIIに沿った断面を示している。図7(b)は、変形例としてのマルチノズル200の断面図であり、図7(a)に対応する位置における断面を示している。図7(a)はシリンジタイプのマルチノズル20であり、図7(b)はタンクタイプのマルチノズル200である。
図7(a)に示されるようなシリンジタイプのマルチノズル20では、シリンジ24の内部に溶剤を蓄えておく。そして、シリンジ24の内部に蓄えられた溶剤を用いて静電塗布を行う。静電塗布の際にシリンジ24の内部の溶剤がなくなると(所定の量よりも少なくなると)、マルチノズル20とピッチ変更部30とからなる構造体の全体を新たな構造体と交換する必要がある。
一方、図7(b)に示されるように、変形例としてのマルチノズル200は、背圧エア入口部220(背圧エアカプラ)、タンク290、複数のノズル部26、並びに、複数のノズル部26のそれぞれに対応する複数の電極21および複数のフレキシブル配管240を有する。このようにマルチノズル200には、複数のノズル部26のそれぞれに対応する複数のフレキシブル配管240に対して共通の一つのタンク290が設けられている。タンク290には、静電塗布のために用いられる溶剤が蓄えられている。静電塗布処理の際にタンク290に蓄えられていた溶剤が少なくなると、タンク290の中に溶剤を継ぎ足すことができる。このため、静電塗布処理の際に溶剤が少なくなっても、シリンジタイプのマルチノズル20とは異なり、マルチノズル200およびピッチ変更部30を交換する必要がない。
次に、図8を参照して、静電塗布装置の第1の変形例について説明する。図8は、第1の変形例としての静電塗布装置1aの平面図である。静電塗布装置1aにおいて、静電塗布装置1と同様に、マルチノズル20およびピッチ変更部30は、立設架台10に設けられた左X軸駆動ガイド部11bおよび左Z軸駆動ガイド部12bにより、X軸方向およびZ軸方向にそれぞれ移動することが可能である。一方、静電塗布装置1aにおいて、静電塗布装置1とは異なり、カメラ7およびレーザ変位計8も、左X軸駆動ガイド部11bおよび左Z軸駆動ガイド部12bにより、X軸方向およびZ軸方向にそれぞれ移動することが可能である。すなわち静電塗布装置1aにおいて、マルチノズル20、カメラ7、および、レーザ変位計8の全てが左X軸駆動ガイド部11bおよび左Z軸駆動ガイド部12bに取り付けられている。このため静電塗布装置1aには、図1に示される右X軸駆動ガイド部11aおよび右Z軸駆動ガイド部12aが設けられていない。
次に、図9を参照して、静電塗布装置の第2の変形例について説明する。図9は、第2の変形例としての静電塗布装置1bの平面図である。静電塗布装置1bには、マルチノズル20a、20b、ピッチ変更部30a、30b、ノズル濡らし機構40a、40b、カメラ7a、7b、および、レーザ変位計8a、8bの組み合わせが左右それぞれに一つずつ設けられている。すなわち、マルチノズル20a、カメラ7a、および、レーザ変位計8aは、右X軸駆動ガイド部11aおよび右Z軸駆動ガイド部12aに取り付けられている。また、マルチノズル20b、カメラ7b、および、レーザ変位計8bは、左X軸駆動ガイド部11bおよび左Z軸駆動ガイド部12bに取り付けられている。
マルチノズル20a、20bは互いに90度異なるように配置されている。マルチノズル20aは、ピッチ変更部30aにより、縦方向(Y軸方向)のピッチを変更することが可能である。マルチノズル20bは、ピッチ変更部30bにより、横方向(X軸方向)のピッチを変更することができる。このような構成により、縦方向のノズルピットと横方向のノズルピッチとを互いに異ならせることができるため、ワーク13の形状やサイズに合わせてより効率的な静電塗布を行うことが可能となる。
次に、図10を参照して、静電塗布装置の第3の変形例について説明する。図10は、第3の変形例としての静電塗布装置1cの平面図である。静電塗布装置1cは、前述の各静電塗布装置とは異なり、X軸駆動ガイド部およびZ軸駆動ガイド部を用いてマルチノズル20、ノズル濡らし機構40、カメラ7、および、レーザ変位計8をX軸方向およびZ軸方向に移動させる代わりに、ロボットアーム110を用いてマルチノズル20、ノズル濡らし機構40、カメラ7、および、レーザ変位計8をX軸方向およびZ軸方向に移動させる。このようにX軸駆動ガイド部およびZ軸駆動ガイド部を設けなくても、静電塗布方法を実現することが可能である。
次に、図11および図12を参照して、本実施形態におけるノズル濡らし機構40の構成および機能について説明する。図11は、ノズル濡らし機構40およびマルチノズル20の平面図(+Z軸方向から見た図)であり、図11(a)〜(c)の順に、ノズル濡らし機構40およびマルチノズル20の動作を時系列で示している。図12は、ノズル濡らし機構40およびマルチノズル20の正面図(−Y軸方向から見た図)であり、図12(a)、(b)はそれぞれ図11(a)、(c)に対応している。
図11(a)および図12(a)に示されるように、ノズル濡らし機構40は、メチルアルコールなどの有機溶剤または溶剤雰囲気で満たされた収容部41がカバー42で覆われた状態にある。また、マルチノズル20とノズル濡らし機構40はZ軸方向において互いに異なる位置にある。
続いて図11(b)に示されるように、ノズル濡らし機構40は、X軸駆動ガイド部45によりカバー42が収容部41に対して左方向(−X軸方向)に移動し、カバー42が収容部41から取り外される。ノズル濡らし機構40には、収容部41の上に上面プレート43が設けられている。上面プレート43は、収容部41に複数のノズル部26の先端部27を挿入するために複数のノズル部26のそれぞれに対応する複数の孔44(ノズル挿入孔)が形成されている。カバー42が収容部41から取り外されることにより、上面プレート43(複数の孔44)が露出する。なお本実施形態において、収容部41に対してカバー42が移動するが、これに限定されるものではなく、カバー42に対して収容部41が移動するように構成してもよい。すなわち、収容部41とカバー42とが互いに相対的に移動可能であればよい。
続いて図11(c)および図12(b)に示されるように、マルチノズル20は、左X軸駆動ガイド部11bおよび左Z軸駆動ガイド部12bにより、左方向(−X軸方向)および下方向(−Z軸方向)にそれぞれ移動する。これにより、マルチノズル20の先端(複数のノズル部26の先端部27)を複数の孔44に挿入して収容部41に満たされた溶媒または溶媒雰囲気中に浸すことができる。好ましくは、静電塗布処理中でない場合(マルチノズル20を使用していない状態)において、マルチノズル20はノズル濡らし機構40により常にノズル部26の先端部27が溶媒または溶媒雰囲気中に浸されている。
次に、図13を参照して、チャックテーブル2上にワーク13を載置するための構成について説明する。図13は、ワーク13の載置構成図であり、チャックテーブル2の上にワーク13を載置した状態を示している。図13(a)は平面図、図13(b)は断面図をそれぞれ示し、図13(b)は図13(a)の線A−Aに沿った断面に相当する。
図13(a)および図13(b)に示されるように、複数のワーク13は、マトリクス状に載置された状態でUVテープ14の上に貼り付けられる。リングキャリア15は、複数のワーク13を取り囲むように設けられ、UVテープ14に貼り付けられている。リングキャリア15は、チャックテーブル2の周囲の4か所に設けられたチャック3により固定される。このため、複数のワーク13をチャックテーブル2の上に確実に固定することができる。
UVテープ14は、UV(紫外線)を照射することにより粘着力を失う性質を有する。このため、UVを照射することにより、ワーク13をUVテープ14から剥がすことができる。
本実施形態において、ワーク13は、半導体チップ(ベアチップ)や、半導体チップを樹脂封止した半導体パッケージなどの半導体デバイスであるが、これらに限定されるものではなく、半導体デバイス以外の対象物をワークとしてもよい。また、ワーク13の個数は、複数ではなく単数であってもよい。また、ワーク13の形状は、正方形や長方形の四角形に限定されるものではなく、三角形、丸形、または、多角形などの他の形状であってもよい。
次に、図14を参照して、チャックテーブル2上にワーク13を載置するための構成の変形例について説明する。図14は、ワーク13の載置構成の変形例であり、チャックテーブル2の上にワーク13を載置した状態を示している。図14(a)は平面図、図14(b)は断面図をそれぞれ示し、図14(b)は図14(a)の線B−Bに沿った断面に相当する。
図14(a)に示されるように、図13(a)と同様に複数のワーク13がマトリクス状に載置される。また図14(b)に示されるように、UVテープ等の接着層とリングを介さず、チャックテーブル2の上には、金属プレート17およびゴム16の積層構造部材が搭載されている。金属プレート17およびゴム16には、複数の吸引孔18が形成されている。複数の吸引孔18のそれぞれに対応するように、ゴム16の上に複数のワーク13が載置されている。複数の吸引孔18は、チャックテーブル2に形成された吸引孔102に接続されている。このような構成において、不図示の吸引装置が吸引孔18、102を介して吸引することにより、複数のワーク13をチャックテーブル2の上に確実に固定することができる。
次に、図15を参照して、本実施形態における静電塗布方法(マルチノズル20の移動の仕方)について説明する。図15(a)〜(d)は、静電塗布方法の説明図であり、静電塗布処理中において複数のワーク13に対するマルチノズル20(複数のノズル部26)の動きを示す断面図である。図15(a)〜(d)は、複数のノズル部26の動きを時系列で示している。本実施形態において、図15(a)〜(d)に示されるように、複数のノズル部26は、特定の列(例えばX軸方向)のワーク13に対する静電塗布処理中において、図中の矢印方向(左方向、X軸方向)に常に所定の速度で移動する。すなわち複数のノズル部26は、複数のワーク13に対して相対的に移動しながら静電塗布を行う。このように図15(a)〜(d)は、8本のノズル部26の配列方向と同じ方向(X軸方向)に移動させながら静電塗布を行う場合を示している。
図15(a)は、複数のノズル部26がそれぞれ対応するワーク13の間に位置している状態を示す。このとき複数のノズル部26はそれぞれ、対応するワーク13の上面へ向けて静電塗布を行う。このため、ワーク13の上面に所望の薄膜(シールド層など)を形成することができる。一方、図15(b)は、複数のノズル部26が矢印方向に移動して隣接する2つのワーク13の間に位置している状態を示す。このとき複数のノズル部26はそれぞれ、対応するワーク13の側面へ向けて静電塗布を行う。このため、ワーク13の側面に所望の薄膜(シールド層など)を形成することができる。
図15(b)の状態に続いて、図15(c)の状態、および、図5(d)の状態へと順に変化する。図15(c)は、図15(a)と同様に、複数のノズル部26がワーク13の真上に位置している状態を示す。図15(d)は、図15(c)と同様に、複数のノズル部26のそれぞれが2つのワーク13の間に位置している状態を示す。図15(c)における複数のノズル部26と複数のワーク13との位置関係は、複数のノズル部26がそれぞれ1つだけ1個のワーク分だけ矢印方向へ移動したことにより、図15(a)と同様の位置関係となっている。また、図15(d)における複数のノズル部26と複数のワーク13との位置関係は、複数のノズル部26がそれぞれ1つだけ1個のワーク分だけ矢印方向へ移動したことにより、図15(b)と同様の位置関係となっている。なお、所定の列のワーク13に対する薄膜形成(静電塗布)が完了すると、異なる列のワーク13に対して薄膜を形成するため、複数のノズル部26を異なる列のワーク13へ向けて(例えば、Y軸方向に)移動し、図15(a)〜(d)と同様の動作により静電塗布を行う。これにより、全てのワーク13の上面および側面のそれぞれに所望の薄膜を形成することができる。
本実施形態において、同じ位置(領域)に対して1回の静電塗布では、十分な厚さの薄膜を形成することができない場合がある。このため必要に応じて、図15(a)〜(d)の動作を複数回行ってもよい(すなわち、同一の列の走査を所定回数往復して静電塗布を行ってもよい)。
本実施形態において、ワーク13に対するノズル部26の移動速度は、ノズル部26がワーク13の真上に位置する場合(ワーク13の上面に薄膜を形成しようとする場合)と、ノズル部26が隣接するワーク13の間に位置する場合(ワーク13の側面に薄膜を形成しようとする場合)とで、互いに異なる速度となるように制御してもよい。また、必要に応じてノズル部26を一時的に停止させて静電塗布を行うこともできる。
次に、図16を参照して、本実施形態における静電塗布方法の第1の変形例について説明する。図16(a)〜(f)は、第1の変形例としての静電塗布方法の説明図であり、静電塗布処理中において複数のワーク13に対するマルチノズル20(複数のノズル部26)の動きを示す断面図である。図16(a)〜(f)は、複数のノズル部26の動きを時系列で示している。本変形例において、図16(a)〜(f)に示されるように、複数のノズル部26は、特定の列(例えばY軸方向)のワーク13に対する静電塗布処理中において、図中の紙面に垂直な方向(Y軸方向)に常に所定の速度で移動する。すなわち複数のノズル部26は、図15(a)〜(d)の場合と同様に、複数のワーク13に対して相対的に移動しながら静電塗布を行う。このように図16(a)〜(f)は、8本のノズル部26の配列方向と垂直な方向(Y軸方向)に移動させながら静電塗布を行う場合を示している。
図16(a)は、複数のノズル部26がそれぞれ対応するワーク13の右端(右側面の近傍)に位置している状態を示す。このとき、複数のノズル部26はそれぞれ対応するワーク13の右側面へ向けて静電塗布を行う。このため、ワーク13の右側面に所望の薄膜を形成することができる。
図16(b)は、複数のノズル部26がそれぞれ対応するワーク13の右端と中央部との間に位置している状態を示す。このとき、複数のノズル部26はそれぞれ対応するワーク13の右端と中央部との間の上面領域へ向けて静電塗布を行う。このため、ワーク13のこの領域およびその近傍に所望の薄膜を形成することができる。
図16(c)は、複数のノズル部26がそれぞれ対応するワーク13の中央部(ワーク13の真上)に位置している状態を示す。このとき、複数のノズル部26はそれぞれ対応するワーク13の中央部(真下)へ向けて静電塗布を行う。このため、ワーク13の上面の中央部およびその近傍に所望の薄膜を形成することができる。
図16(d)は、複数のノズル部26がそれぞれ対応するワーク13の左端と中央部との間に位置している状態を示す。このとき、複数のノズル部26はそれぞれ対応するワーク13の左端と中央部との間の上面領域へ向けて静電塗布を行う。このため、ワーク13のこの領域およびその近傍に所望の薄膜を形成することができる。
図16(e)は、複数のノズル部26がそれぞれ対応するワーク13の左端(左側面の近傍)に位置している状態を示す。このとき、複数のノズル部26はそれぞれ対応するワーク13の左側面へ向けて静電塗布を行う。このため、ワーク13の左側面に所望の薄膜を形成することができる。図16(e)の状態で特定の列(Y軸方向)に配置された複数のワーク13に対する静電塗布が完了すると、複数のノズル部26は図16(f)に示されるように移動して静電塗布を行う。図16(f)の状態は図16(a)の状態と同様である。このように、全てのワーク13に対する静電塗布が完了するまで、列を変更して図16(a)〜図16(e)を繰り返す。なお、ノズルの位置を右端、右端と中央、中央、左端と中央部、左端で塗布するように設定しているが、ワークの大きさ、ワークの高さ、ノズル径、ワークとノズルの位置、溶剤、電位、制御方法等の条件によるため、必ずしも上記の位置に寄らず、必要に応じて変更することができる。
所定の方向(Y軸方向)に沿って移動しながら全てのワーク13に対する静電塗布が完了すると、ターンテーブル2をθ方向へ回転することにより、複数のワーク13を90度回転させる。そして、回転後の全ての列のワーク13に対して、図16(a)〜(e)に示されるように静電塗布を行う。また、同一の列の走査を所定回数往復して静電塗布を行ってもよい。これにより、マトリクス状に配置された全てのワーク13の上面および4つの側面に対する薄膜形成(静電塗布)を行うことができる。
次に、図17を参照して、本実施形態における静電塗布方法の第2の変形例について説明する。図17(a)〜(c)は、第2の変形例としての静電塗布方法の説明図であり、静電塗布処理中において複数のワーク13と各ノズル部26との関係を示す断面図である。
図17(a)は、複数のワーク13の間隔(ワークピッチPW)が複数のノズル部26の間隔(ノズルピッチ)の最大値(ピッチ変更部30により設定可能な最大ノズルピッチPNmax)よりも大きい場合(PW>PNmax)を示している。この場合、ノズル部26ごとに独立して静電塗布を行うか否か(各ノズルのON/OFF)を制御することができる。図17(a)の例では、ワークピッチPWが最大ノズルピッチPNmaxの3倍であるため、複数のノズル部26を3つおきにONする。
図17(b)、(c)は、複数のワーク13の間隔(ワークピッチPW)が複数のノズル部26の間隔(ノズルピッチ)の最小値(ピッチ変更部30により設定可能な最大ノズルピッチPNmin)よりも小さい場合(PW<PNmin)を示している。この場合、図17(b)の例では、ワークピッチPWが最大ノズルピッチPNmaxの1/2であるため、一例として塗布しないノズルに電位をかけないことにより、複数のノズル部26を1列とばして静電塗布を行う。静電塗布が行われない隣接するワーク13に関しては、続く工程において各ノズル部26を1つだけ移動させた後に同様の静電塗布を行うことができる。また、図17(c)の例では、ワークピッチPWが最大ノズルピッチPNmaxの1/3であるため、複数のノズル部26を2列とばして静電塗布を行う。静電塗布が行われない2列のワーク13に関しては、続く工程において各ノズル部26を1つだけ移動させた後に同様の静電塗布を行い、更に続く工程において各ノズル部26を1つだけ移動させた後の同様に静電塗布を行うことができる。
次に、図18を参照して、ワーク13の上面および側面のそれぞれに所望の薄膜を形成する方法について説明する。図18は、ワーク13の上面131および側面132に対する静電塗布方法の説明図であり、ワーク13およびノズル部26の断面図を示している。
制御手段150は、ピッチ変更部30を制御するとともに、ワーク13の上面131および側面132のそれぞれに対して静電塗布を行うようにノズル部26の動作を制御する。ワーク13の側面132に関しては、上面131と比較して、薄膜を形成しにくい。このため本実施形態において、制御手段150は、ワーク13の上面131に対して静電塗布を行う場合よりも、ワーク13の側面132に対して静電塗布を行う場合において、ノズル部26の先端からワーク13までの距離を小さくする。
好ましくは、ワーク13の上面131に対して静電塗布を行う場合におけるノズル部26の先端からワーク13の上面131までの距離をd、ワーク13の側面132に対して静電塗布を行う場合におけるノズル部26の先端の延長線からワーク13の側面132までの距離をd1、ワーク13の側面132に対して静電塗布を行う場合におけるノズル部26の先端からワーク13の上面131の延長線までの距離をd2とするとき、以下の条件式(1)を満たす。
d>d1かつd>d2 … (1)
このように本実施形態によれば、生産効率を向上させることが可能な静電塗布装置および静電塗布方法を提供することができる。
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。ただし、本発明は、上記実施形態にて説明した事項に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内で、一例としてワークとノズルが相対的に移動し、必要な個所のみ塗布できればよい等、適宜変更可能である。