以下に、本発明の実施形態に係る作業車両を、無人で自動走行しながら田植作業を行うことのできる苗移植機として図面を参照しながら詳細に説明する。なお、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形したり、各実施形態を組み合わせて実施することができる。また、以下では苗移植機の走行車体、あるいは走行車体と作業部とを含む苗移植機の全体を指して機体と呼ぶ場合がある。
図1は、実施形態に係る作業車両である苗移植機の概略説明図であり、苗移植機の自動田植え作業の概要を示している。また、図2は、同苗移植機の作業装置の回動を示す説明図である。
図1に示すように、作業車両としての苗移植機10は、所定の圃場100において、予めティーチングされた作業経路Lに沿って無人で自動走行しながら苗N0の植付作業を行うことができる。詳しくは後述するが、苗移植機10の自動走行は、図2に示すように、走行車体1に搭載された制御部であるコントローラ3によってなされる。なお、図1において、符号Nが示すものは、苗移植機10により移植された苗N0からなる苗列である。
図2に示すように、苗移植機10は、コントローラ3を搭載する略正方形の走行車体1を備えるとともに、この走行車体1上に、水平方向へ回転自在に設けられた資材貯留部となるタンク部15を備える。そして、タンク部15の一側に昇降装置19(図5参照)を介して昇降自在に連結されるとともに、タンク部15の回転に伴い走行車体1の周りを回転可能に設けられた作業装置としての苗植付部2を備える。
また、タンク部15の内部には、貯留した苗N0を苗植付部2へ供給する資材供給装置14(図5参照)が設けられている。
走行車体1の基台となる走行フレーム16の下部には、駆動輪であり、かつ転動輪である4つの車輪11a,11b,12a,12bが設けられる。すなわち、苗移植機10は、所謂4WD(四輪駆動)であり、かつ4WS(四輪操舵)の転舵駆動輪を備える作業車両である。なお、以下では、各一組の第1の車輪11a,11bおよび第2の車輪12a,12bを、それぞれまとめて車輪11,12、あるいは駆動輪11,12または転舵輪11,12等と記す場合がある。
本実施形態に係る車輪11,12は、平面視で略正方形の走行車体1に規定された仮想円の周上に90度間隔で4つ設けられている。かかる仮想円の中心は、タンク部15の回転中心と一致している。ここでは、この回転中心上に受信アンテナ51を設置している。
かかる受信アンテナ51によって上空を周回している航法衛星300から受信した電波により、苗移植機10の自動走行がなされる。すなわち、苗移植機10の自動走行は、図1に示すように、コントローラ3が自身の位置情報を取得し、取得した位置情報と、舵角検出装置42(図4参照)により取得した車輪11a,11b,12a,12bの舵角とに基づき行われる。
苗植付部2は、図2に示すように、平面視で略正方形のタンク部15の一辺側に連結されており、走行車体1の走行フレーム16の周りを360度回転自在に設けられている。
したがって、自動走行による植付作業中において、例えば、苗移植機10が圃場100の端部に達すると、苗植付部2を180度回転させて畦際に降ろし、まだ植付けていない距離だけ後進しながら苗N0を植付けることができる。
こうして、本実施形態に係る苗移植機10では、畦端であっても機体をUターンさせることなく苗N0の植付作業が行えるため、車輪11,12によって圃場100を荒らすおそれを可及的に抑制することができる。
図3Aおよび図3Bは、それぞれ苗移植機10の作業状態の一例を示す説明図である。圃場100の端部において機体をUターンさせることなく苗N0を植付ける前述の作業に関し、図3Aを用いてより具体的に説明する。
図3A(a)において、図面の上側から下側方向に向けて圃場100を進行しながら苗移植作業を行っている苗移植機10が、圃場端、すなわち畦際に到達したとする。なお、畦際に到達したことは、予めティーチングにより取得した作業経路Lと受信アンテナ51により受信した航法衛星300からの電波によりコントローラ3が判定する。このとき、畦際近傍では、当然ではあるが、図示するように、縦方向への苗列N1に続き苗N0が植付けられない未処理領域101が生じる。
従来であれば、畔際においては、一定の曲率半径で大きく旋回しなければならなかったが、その点、本実施形態に係る苗移植機10は、図3A(b)およびに図3A(c)示すように、苗植付部2を180度回転させ、その後、圃場面へ降下させることができるため、大きく旋回する必要がない。当然ではあるが、苗植付部2を旋回させる際には、圃場面よりも上方へ上昇させる。なお、苗移植機10が畔際近傍に到達した際に、走行車体1と畔端との間に、苗植付部2を旋回させるだけの領域が無い場合は、苗植付部2を上昇させた状態で必要距離だけ後進し、その後、苗植付部2を旋回させるとよい。
そして、図3A(d)に示すように、畦際に降ろして後進しながら、まだ苗N0が植付けられていない未処理領域101(図3A(a))に苗N0を植付ける。図中、符号N2は未処理領域101に植付けられた縦方向への第2の苗列を示す。
また、図3Bに示すように、圃場端において、4輪操舵によって操舵輪11,12の舵角を略90度変化させ、苗移植機10を所謂「カニ歩き」のように横移動させることで未処理領域101(図3A(a))に苗N0を植付けるとともに、旋回することなく次列の苗植付作業を行うことができる。
すなわち、図3B(a)に示すように、苗移植機10が、圃場端、すなわち畦際に到達したとする。苗移植機10は、操舵輪11,12を全て同方向(ここでは反時計方向)へ90度回転する(図3B(b))。次いで、苗植付部2を上昇させて、図3B(c)に示すように、これも反時計回りに90度回転させる。なお、図3B(b)と図3B(c)の順序は入れ替えても構わない。
そして、苗植付部2を下降させた後、図3B(d)に示すように、そのまま(図面右側方向へ)所定距離だけ前進しながら苗移植作業を行って停止する。こうして、これまでの植付作業による縦方向への苗列N1の終端には、苗列N1と直交する横方向への苗列N2が続くことになる。
苗移植機10は、停止した位置において、図3B(d)に示すように、4輪操舵によって操舵輪11,12の舵角を、反時計方向へ略90度変化させる。そして、苗植付部2を上昇させてやはり反時計回りに旋回し、図面の上側方向へ進行させながら苗植付部2を下降させて苗の植付作業を改めて始める。その結果、図3B(e)に示すように、畦際に苗N0の未処理領域101(図3A(a))を生じさせることなく、かつ旋回することもない苗移植作業を自動走行によって行うことができる。その後、苗植付部2を上昇させるとともに、水平方向に反時計回りに90度回転させ、図3B(f)に示すように直進させながら作業を継続する。
ここで、図4〜図6を参照しながら、本実施形態に係る苗移植機10の構成をより具体的に説明する。図4は、苗移植機10のコントローラ3を中心とするブロック図である。また、図5は、苗移植機10の側面視による説明図、図6は、苗移植機10の背面視による説明図である。
図5に示すように、苗移植機10は、圃場100を走行可能な走行車体1と、走行車体1に取付けられたタンク部15と、作業装置である苗植付部2と、タンク部15の内部に設けられた資材供給装置14とを備える。走行車体1は、複数の車輪11,12を備える。タンク部15は、水平方向へ回転自在(矢印A1参照)となるように走行車体1上に設けられている。また、苗植付部2は、タンク部15の一側に昇降装置19を介して昇降自在に連結されるとともに、タンク部15の回転に伴い走行車体1の周りを360度回転可能に設けられている。
車輪11,12は、前述したように、駆動輪であってかつ転舵輪ともなるもので、かかる4つの車輪11a,11b,12a,12bへの動力は、それぞれ独立した駆動モータを内蔵した動力伝達ケース170,180から伝達される。ここでは、第1の動力伝達ケース170から一対の第1ファイナルケース17,17を介して第1の車輪11a,11bに伝達される。また、第2の動力伝達ケース180から一対の第2ファイナルケース18,18を介して第2の車輪12a,12bに伝達される。第1の車輪11a,11bは、第1の車軸17a,17aを介して第1ファイナルケース17,17に連結され、第2の車輪12a,12bは、第2の車軸18a,18aを介して第2ファイナルケース18,18に連結されている。
また、動力伝達ケース170,180には転舵軸(不図示)が設けられており、転舵輪である車輪11,12は、それぞれ独立して転舵軸周りに90度以上の舵角で回動する。また、車輪11,12は、それぞれ独立して車軸17a,18a回りに駆動輪11,12として回動する。
また、走行車体1には、動力伝達ケース170,180の他に、図示を省略した原動機およびギヤケース等を含む動力伝達機構を備えている。原動機としては電気モータが用いられ、発生した動力は、苗植付部2の各装置を駆動させるために使用される。なお、ここでは原動機として電気モータを用いたが、内燃機関等を用いた駆動源であってもよい。
苗植付部2は、基本的には周知の苗植付部の構成を利用している。すなわち、図5に示すように、苗植付部2は、苗載台20の下部側に、苗載台20から苗N0を取り出して圃場100に移植する一対の植付爪22を備える苗植付装置21を備えるとともに、圃場100を均すロータ24を備えている。
また、苗植付部2は、作業部リフト装置7c(図4)を備える昇降装置19によって上下方向へ直線状に昇降可能に連結される。すなわち、昇降装置19は、タンク部15の一部に固設された枠体内に配設された作業部リフト装置7cを備えており、かかる作業部リフト装置7cに基端が連結された連結杆190の先端に苗植付部2の外枠が連結されている。
こうして、苗植付部2は、図5に示すように(矢印A2参照)、コンパクトな構成で上下方向へ直線状に昇降する。また、かかる構成により、苗移植機10の全長も短縮でき、小回りが利くため枕地工程を減じることも可能となる。
また、苗植付部2の苗載台20には、苗N0を検出する第1苗センサ8a(図4)が設けられている。第1苗センサ8aは、苗載台20と苗マットとの間の間隙の寸法あるいは密着度合を検出する滑動検出部として機能する。この第1苗センサ8aにより、コントローラ3は苗マットの滑り具合を判定し、滑りが悪く苗マットの下降不良などが生じるおそれがある場合、オペレータへ警報信号を出力する。なお、詳しくは後述するが、苗マットの下降不良が検出された場合、コントローラ3はその解消を図るために、作業部リフト装置7cを駆動して苗植付部2を上下動させることもできる(図9参照)。
また、苗植付部2の苗植付装置21の近傍には、植付爪22の動作を検出する第2苗センサ8bが設けられている。すなわち、植付爪22が苗N0の取り損ねが所定回数以上連続するような場合、コントローラ3がオペレータへ警報信号を出力する。
ところで、第1苗センサ8aや第2苗センサ8bは、イメージセンサなどを適宜用いることができる。なお、いずれの場合でも、検出結果に基づきコントローラ3から出力される警報信号は、例えば、オペレータが所持する端末装置などに送信するとよい。
苗移植機10が自動走行するに際し、当該苗移植機10の位置情報は、走行車体2に設けられた受信アンテナ51により取得される。図5および図6に示すように、受信アンテナ51は、タンク部15の外殻13の天井部略中央に設けられている。なお、受信アンテナ51は、図4に示すように、GNSS(Global Navigation Satellite System)制御装置あるいはGPS(Global Positioning System)制御装置などの位置情報取得装置5の一部を構成する。
ところで、苗移植機10は、自動運転のみならず、遠隔操作で走行させることもできる。例えば、所定の圃場100を自動運転させるための走行経路をティーチングするために、所定の圃場100をオペレータによって遠隔操作で走行させ、自動運転の際の走行経路に関する情報を記憶させることができる。
また、苗移植機10の走行車体1に、例えばリモコンを設けた運転台を取付可能とし、オペレータが運転台に座して操縦して走行させることもできる。例えば、不図示の格納庫などから所定の圃場100に至るまでは、オペレータが遠隔操作して農道200を走行させてもよい。
タンク部15の外殻13は、図6に示すように、一側に設けた枢支部(不図示)を中心に開閉可能に構成されており(矢印A3参照)、内部に設けた資材供給装置14のメンテナンスなどを容易に行うことができる。
タンク部15に配設された資材供給装置14は、圃場100へ植付けるための苗N0が多列に配列された複数の苗マットを載置状態で収容するとともに、これらの苗マットを、苗植付部2の苗載台20へ順次、送給することができる。なお、タンク部15の一側には資材(苗N0)を投入するための開口が形成されるとともに、他側には苗植付部2に対峙するように資材排出口が形成される。また、タンク部15の下縁部には、例えば資材供給装置14の異常や苗マット切れを報知することができる表示ランプ600が設けられている。
資材供給装置14は、苗マットの搬送に適したコンベヤ装置の構成を具備する上段搬送機構141と下段搬送機構142とを備える。例えば、モータ駆動のローラコンベアやベルトコンベアなどのように、複数の苗マットを載置した状態で容易に搬送することが可能な構成の上段搬送機構141と下段搬送機構142とを、所定間隔をあけて上下に配設している。このように、コンベヤ装置を用いて搬送することで、苗マットの端部などがまくれたりすることなく、安定した状態で搬送することができる。
なお、資材供給装置14は、苗移植機10の対応条数に応じた複数列分を配設するとよい。例えば、苗移植機10が4条植えであって、苗植付部2が備える苗載台20に4列の苗マットを載置することができるのであれば、資材供給装置14もタンク部15内に4列配設するとよい。
また、図5に示すように、タンク部15の外殻13の一部には透明部材で形成された窓部133が設けられているため、資材供給装置14の作動状況は、タンク部15の外からでも目視により確認することができるようになっている。
また、外殻13の開放端部の下方位置には、図6に示すように、肥料を貯留する肥料貯留部160が引出自在に設けられている。すなわち、肥料貯留部160は、引き出し状に形成された上面開口の箱体であり、タンク部15から引き出せば、適宜肥料補充することができる。
さらに、図5に示すように、走行フレーム16の下部には、肥料貯留部160からの肥料を圃場100へ散布するための肥料散布機161が設けられており、この肥料散布機161には、苗植付部2の後部側に終端が開口する肥料送給チューブ162の一端が接続されている。なお、肥料散布機161の動力機構は、コントローラ3により制御される。
かかる構成により、苗移植機10は、十分な量の肥料を貯留することができるとともに、苗N0の植付作業中に、圃場100への肥料供給、あるいは苗マットに保持されている苗N0に対して直接的に肥料散布することができる。
苗移植機10が備える制御部であるコントローラ3は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶部、さらには入出力部を備える。これらは互いに接続されて互いに信号の受け渡しが可能であり、記憶部には苗移植機10を制御するためのコンピュータプログラムが格納される。
図4に示すように、コントローラ3には、苗移植機10の走行をはじめとする駆動系を制御する駆動制御装置6や、前述の資材供給装置14を駆動する資材搬送モータ7a、タンク部15を水平回転させるためのタンク回転モータ7b、苗植付部2を昇降させる作業部リフト装置7cなどの他に各種アクチュエータ400が接続される。
なお、各種アクチュエータ400としては、例えば、肥料散布機161の動力機構、原動機となる駆動モータ、苗植付部2に設けられる各種モータ、例えば、植付クラッチを作動させる植付クラッチモータなどがある。
また、コントローラ3には、前述の表示ランプ600、第1苗センサ8a、第2苗センサ8bやカメラ9、さらには各種センサ500が接続される。
本実施形態では、複数のカメラ9が搭載されており、例えば、走行車体1の前後左右位置にそれぞれ一対のカメラ9を設けてフロントセンサ、リヤセンサ、左右のサイドセンサとして機能させ、進行を阻害する障害物などを検出することが可能である。また、これらフロントセンサ、リヤセンサ、左右のサイドセンサは、畦際などとの接触を回避するための接触センサとしても機能する。さらに、カメラ9は、苗移植機10の進行方向とは反対側における苗N0の植付けがなされた圃場を撮像し、撮像した画像データをオペレータなどが視認することで、欠株の存在あるいは植付作業状況を判断することができる。
また、カメラ9は、苗植付部2にも適宜搭載することができ、安全クラッチ(不図示)の作動を監視して監視結果をオペレータの端末装置などに送信することができる。例えば、苗植付部2の苗植付装置21には、植付クラッチの他、過負荷が加わると自動的に接続を切断して破損を防止する安全クラッチが伝動軸に設けられている。植付クラッチの作動状態と安全クラッチの作動状態とをカメラ9で監視することにより、両クラッチの作動状態からメカ的な作動不良を検出することが可能となる。
また、例えば、苗載台20を撮像するカメラ9を設けておき、各条毎の苗N0の減少具合を検出することで、苗植付装置21などのメカ的な作動不良を検出することができる。
また、苗移植機10は、自動操舵装置4と、位置情報取得装置5とを備えており、これらは、図4に示すようにコントローラ3と接続され、このコントローラ3により制御される。
自動操舵装置4は、動力伝達ケース170,180に内蔵され、コントローラ3により駆動を制御される駆動モータおよび転舵輪11,12を回動させるモータ等を含むステアリング機構41と舵角検出装置42とを備えており、コントローラ3による苗移植機10の自動操舵を可能にしている。コントローラ3は、例えば、図示しない起動スイッチがONになると、位置情報取得装置5が取得した位置情報と舵角検出装置42の検出結果とに基づき、自動操舵装置4を介して走行車体2の自動運転を開始する。
位置情報取得装置5は、GNSSやGPSで使用される航法衛星300からの信号を受信する受信アンテナ51を有し、地球上における苗移植機10の位置情報(座標情報)を取得し、取得した位置情報をコントローラ3に送信する。
かかる位置情報取得装置5で取得した機体の位置データから、コントローラ3は、苗移植機10の実速度を導出することもできる。すなわち、一定時間内における機体の移動量から実走行速度を逐次算出することができる。したがって、コントローラ3は、苗N0の植付作業に最適な速度を維持しながら自動走行することができる。また、例えば車輪11や車輪12がスリップなどした場合でも、車輪12の回転量と関係なく、苗移植機10の実車速を取得することができる。
こうして、苗移植機10は、コントローラ3により、舵角検出装置42が検出した転舵輪11の舵角と、取得した位置情報とに基づいてステアリング機構41を制御しながら、予め定められた作業経路Lにそって自動走行しつつ、苗N0の植付作業、さらには施肥作業などを自動的に実行することができる。
また、コントローラ3には、通信部700が接続されており、この通信部700を介してオペレータが携行する遠隔装置(オペレータ側処理装置)との間で所定の無線通信規格により無線通信することが可能である。なお、遠隔装置は、専用装置でもよいし、携帯電話やタブレット端末装置であってもよい。
本実施形態に係る苗移植機10は、上述してきたように、無人で自動走行、苗移植作業を行うことができるロボット化された苗移植機である。そのため、走行車体1には、操縦席などは廃止されている。しかし、前述したように、着脱自在とした運転台を用意しておき、オペレータによるマニュアル運転も可能にすることができる。
ここで、図7〜図9を参照しながら、コントローラ3による苗移植機10の運転制御の流れについて説明する。図7は、苗移植機10の自動走行時の旋回処理の一例を示すフローチャートである。また、図8は、苗移植機10のメカ的エラー報知処理の一例を示すフローチャート、図9は、苗移植機10の苗送り不良時の復旧処理の一例を示すフローチャートである。
先ず、苗移植機10の自動走行時の旋回処理の一例について説明する。図7に示すように、コントローラ3は、接触センサ値を取得する(ステップS11)。ここで、接触センサとは、フロントセンサ、リヤセンサ、左右のサイドセンサとして取付けられたカメラ9により構成される。
次いで、コントローラ3は、左右のいずれか一側の2つのサイドセンサのうち、2つとも反応したか否かを判定する(ステップS12)。センサが反応するということは、所定距離内に何らかの物体(ここでは畦の内側端面)が存在していることを意味する。
2つのサイドセンサが両方とも反応した場合(ステップS12:Yes)、コントローラ3は、フロントセンサが反応したか否かを判定する(ステップS13)。フロントセンサが反応しない場合(ステップS13:No)、コントローラ3は処理をステップS12に移す一方、フロントセンサが反応した場合(ステップS13:Yes)、車輪11,12を他側、すなわち反応したサイドセンサが設けられている方向とは逆方向へ90度旋回する(ステップS14)。
そして、旋回を終了して直進を開始する地点である旋回終了地点に達したか否かを判定し(ステップS15)、達している場合(ステップS15:Yes)、この旋回処理を終了する。他方、旋回終了地点に達していない場合(ステップS15:No)、コントローラ3は、処理をステップS12に戻す。
ステップS12において、2つのサイドセンサが2つとも反応していない場合(ステップS12:No)、コントローラ3は、少なくとも1つのサイドセンサが反応したか否かを判定する(ステップS16)。
そして、サイドセンサが反応していない場合は(ステップS16:No)、処理をステップS12に移すとともに、1つのサイドセンサが反応した場合(ステップS16:Yes)は、障害回避操作処理を実行させ(ステップS17)、その後、処理をステップS12に移す。
次に、苗移植機10が備える各種のメカ機構の不良を検出する制御について説明する。図8に示すように、コントローラ3は、必要情報として、例えば適所に設けられたカメラ9による撮像画像データや各種センサ500からの情報を取得する(ステップS110)。
次いで、コントローラ3は、取得した情報に基づき、メカ的エラーが生じているか否かを判定する(ステップS120)。メカ的エラーの発生がないと判定した場合(ステップS120:No)、処理を終える一方、メカ的エラーが発生したと判定した場合(ステップS120:Yes)、コントローラ3は、エラー情報をオペレータの端末装置に送信する(ステップS130)。なお、メカ的エラーの内容に応じた復旧プログラムが備えられている場合、エラー情報の送信と共に、必要な復旧プログラムを読み出して復旧処理を実行することもできる。
メカ的エラーの復旧処理の一例として、前述した苗送り不良が生じた場合について図9を参照しながら説明する。なお、ここでは、苗載台20に設置した第1苗センサ8aをイメージセンサとして説明する。図9に示すように、コントローラ3は、苗載台20に設置した第1苗センサ8aによる撮像画像を取得する(ステップS210)。
次いで、コントローラ3は、苗マットと苗マットとの間、もしくは苗マットとスライダ(苗載台20の苗受面)との間に所定の隙間があるか否かを判定する(ステップS220)。所定の隙間がある場合(ステップS220:No)、苗送りは問題なく行われると判定され、処理を終える。
他方、所定の隙間がない場合(ステップS220:Yes)、コントローラ3は、苗マットの滑動不良が発生しているおそれがあると判定し、苗移植機10の走行および苗植付部2の作動を停止させる(ステップS230)。
そして、コントローラ3は、作業部リフト装置7cを作動させて苗植付部2を上下動させる(ステップS240)。この処理により、滑動されずに苗載台20に滞留していた苗マットを所定位置まで滑り落とす。その後、コントローラ3は、苗移植機10の走行および苗植付部2の作動を再開させて苗植付作業を継続する(ステップS250)。
なお、メカ的エラーとしては、前述したように、植付爪22や安全クラッチの作動不良などもある。その場合、ステップS220の判定に代えて、例えば、苗載台20に載置されている苗マットの減り具合が、各条毎に一定程度ずれたりしている場合をメカ的エラーとする場合もある。
その具体的な処理例としては、植付爪22の作動状態を判別するとともに、例えば苗取動作が200回行われた場合の苗N0の減少量を、各条毎に取得するとともに全体の平均を演算し、減少量の平均値よりも1/2程度ずれる条があるか否かで判定することができる。なお、苗取動作が200回行われた場合の苗N0の減少量を判定材料とする他に、サンプル区間を50mなどと適宜定めておき、サンプル区間内において各条における苗取り量の減少量を判定材料とすることもできる。
また、各種センサ500の一例として、車輪11,12に加わる圧力を検出する圧力センサを備えておき、位置情報取得装置5を用いて自動走行している際に、畦際に位置すると判定される際に圧力センサが異常値を検出した場合は、畦越えがなされたと判定して機体を停止するなどの制御もできる。このように、本苗移植機10は、メカ的エラーのみならず、自動走行時の圃場100の環境や形状に起因する異常事態への対処も行うことができるため、機体の破損や暴走などを未然に防止することができる。
また、苗移植機10を自動走行させる場合、位置情報取得装置5への依存度が高いため、受信アンテナ51による電波の受信レベルをオペレータの端末装置に表示することもできる。かかる構成とすることで、受信レベルが極端に低い場合などは自動運転を回避するなどして、不慮の事態を未然に防止することも可能である。
受信レベルの表示については視覚的に判断しやすいように複数段階で表示するとよい。例えば、レベル1〜5までに区分し、レベル1では自動運転不可とする表示を行わせることができる。
(他の実施形態)
上述した実施形態では、4つの車輪11a,11b,12a,12bを転舵駆動輪(四輪駆動であり、かつ四輪操舵)とし、それぞれコントローラ3により、独立して制御されるものとした。そして、運転台を取付けて運転台にオペレータが搭乗して操縦する場合もリモコン操作による操縦とした。
しかし、例えば、従来の苗移植機のように、ステアリングホイルを着脱可能なステアリング軸を予め設けておき、オペレータが運転台に搭乗する場合はマニュアル運転を可能にすることもできる。図10は、他の実施形態に係る苗移植機のステアリング駆動ユニットの一例を示す説明図である。
図10に示すように、ここでは、いかなる機種にも対応できるように、必要部品をユニット化した駆動ユニット900を用い、かかる駆動ユニット900を各機種共通の締結ボルト910を用いて機体に取付ける構成としている。このとき、締結ボルト910を共用できるように、機種に応じたスペーサ920を用意しておくとよい。図中、符号930はステアリング軸を示す。
このように、駆動ユニット900と締結ボルト910を共用することで、組み立てが容易になるとともに、コストダウンを図ることができる。なお、かかる構成は、本実施形態に開示される自動走行可能な苗移植機10のみならず、マニュアル運転のみが想定された従来の苗移植機にも適用できる。
また、4つの車輪11a,11b,12a,12bを、駆動モータによりそれぞれ独立して回転駆動させるのではなく、例えば、従来のような操舵機構を用いて構成する場合がある。図11は、他の実施形態に係る苗移植機の駆動輪伝動軸の構成を示す説明図である。なお、ここでは、例えば後輪に相当する車輪12の内側に補助車輪122を設けた場合とする。ここで、補助車輪122とは、車輪12の車軸を介して着脱自在に装着されたもので、車輪12と略同径とし、車輪12と共に圃場100に接地することにより、機体の推進力を発生させることができる。
図示するように、車輪駆動軸123におけるスリーブ127を溶接したユニバーサルジョイント(クロスジョイント)124のヨーク部124aに孔124bを設け、車輪駆動軸123を組み付ける際に、孔124bに入力軸121を貫通させている。したがって、車輪駆動軸123を組み付けるためのスライド量を確保することができる。
かかる構成により、スリーブ127の長さを短縮でき、スリーブ127の後方に設けられたユニバーサルジョイント124と補助車輪122との距離Dを拡張するとともに、補助車輪122とブーツ125との間隔Hも必要長さだけ確保することができる。したがって、ユニバーサルジョイント124のブーツ125が補助車輪122と干渉して破損したりするおそれがない。このように、スリーブ127を短くしたことで、ユニバーサルジョイント124をギヤケース120側に移動させることが可能となり、補助車輪122とのクリアランスの拡大、ユニバーサルジョイント124の折れ角減少などが可能となる。
また、図示するように、ユニバーサルジョイント124の前方に、ヨーク部124aよりも大径の鍔状部材126を設け、かかる鍔状部材126によって車輪駆動軸123の後端から挿通したブーツ125の前端を固定している。したがって、ユニバーサルジョイント124を、ブーツ125によって泥水などから保護することができ、シール部材などを傷めることを防止することができる。
ところで、鍔状部材126としては、スリットを設けたドーナツ形状のゴム部材で形成することができる。かかる鍔状部材126であれば、後付けによってブーツ125を装着することも可能となる。
上述した実施形態から以下の苗移植機10が実現する。
(1)複数の車輪11,12を備え、圃場100を走行可能な走行車体1と、水平方向へ回転自在となるように走行車体1に取付けられたタンク部15と、タンク部15の一側に昇降装置19を介して昇降自在に連結されるとともに、当該タンク部15の回転に伴い走行車体1の周りを回転可能に設けられた苗植付部2と、タンク部15の内部に設けられ、貯留した作業資材を苗植付部2へ供給する資材供給装置14とを備える苗移植機10。
(2)上記(1)において、コントローラ3と、自車両の位置を示す位置情報を取得する位置情報取得装置5とをさらに備え、コントローラ3は、位置情報取得装置5が取得した位置情報と車輪11,12の舵角とに基づいて走行車体1を自動走行させる苗移植機10。
(3)上記(2)において、車輪11,12は、それぞれ独立して転舵軸周りに90度以上の舵角で回動可能であるとともに、それぞれ独立して車軸17a,18a回りに回動する複数の転舵駆動輪である苗移植機10。
(4)上記(3)において、転舵軸は、走行車体1に規定された仮想円の周上に90度間隔で4つ設けられており、仮想円の中心は、タンク部15の回転中心となる苗移植機10。
(5)上記(2)から(4)のいずれかにおいて、昇降装置19は、タンク部15に取付けられて苗植付部2を直線状に昇降させる作業部リフト装置7cを備える苗移植機10。
(6)上記(5)において、苗植付部2は、資材供給装置14から送給された作業資材である苗N0を圃場100に移植する苗植付装置21を備える苗移植機10。
(7)上記(6)において、苗植付装置21と資材供給装置14との間に設けられ、資材供給装置14から供給された苗N0を苗植付装置21に受け渡す苗載台20と、苗載台20に設けられ、載せられた苗N0の滑動状態を検出する第1苗センサ8aと、をさらに備え、コントローラ3は、第1苗センサ8aが苗N0の滑り不良を検出した場合、作業部リフト装置7cを上下動させる苗移植機10。
上述してきた実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、表示要素などのスペック(構造、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質など)は、適宜に変更して実施することができる。