本実施の形態の詳細な説明に先立ち、サージ電圧の低減には負荷に印加される相電圧の低減が望ましいことを説明する。以下、誘導性の負荷としてモータを例に採って説明する。
非特許文献3で例示されるように、放電を防ぐべき場所の絶縁は、同相のコイル同士での絶縁(以下「同相内絶縁」)、相が異なるコイル同士での絶縁(以下「相間絶縁」)、コイルとコア(ケース)との間での絶縁(以下「対地絶縁」)に分類できる。
相間絶縁及び対地絶縁のいずれに要求される耐圧も、同相内絶縁に要求される耐圧よりも高い。しかし相間絶縁、対地絶縁には絶縁紙が採用され(例えばコイルに採用される導線のエナメル被覆が38μmであるのに対して、絶縁紙の厚さは0.5mm程度に選定される)、高い耐圧が実現されるので、コイルに印加される電圧が上昇する際に最初に放電する場所は同相のコイル同士の間である。
特に、インバータのスイッチング速度の向上につれ、同一コイルの巻き始めの導線と、それに接触する導線間での放電を最も考慮すべきである。かかる事情は分布巻モータでも集中巻モータでも同様である。そしてこのことは、各相のコイル入力−中性点間の電圧を低減すれば、モータの絶縁特性を向上できる事を意味する。
よって以下の実施の形態ではコイル入力と中性点間の電圧を低減することに着目し、サージ電圧を低減する。
図1は、本実施の形態にかかる制御装置6及びその制御対象となるインバータ4を示す回路図である。
インバータ4は電圧形インバータであり、直流電圧Vdcを三相の交流電圧Vu,Vv,Vwに変換し、これを三相負荷5へ出力する。三相負荷5は誘導性負荷であり、例えばモータである。制御装置6はインバータ4を制御する。直流電圧Vdcは、一対の直流母線LH,LLの間に印加される。直流母線LHの電位は直流母線LLの電位よりも高い。
インバータ4は接続点Pu,Pv,Pwを有する。インバータ4は、直流電圧Vdcに対してパルス幅変調に基づくスイッチングパターンでスイッチングを行って、接続点Pu,Pv,Pwから交流電圧Vu,Vv,Vwを出力する。
インバータ4は、各相に対応する3つの電流経路Lu,Lv,Lwを備える。電流経路Lu,Lv,Lwは直流母線LH,LLの間で相互に並列に接続される。
電流経路Luは、接続点Puと、上アーム側のスイッチQupと、下アーム側のスイッチQunとを有している。電流経路Lvは、接続点Pvと、上アーム側のスイッチQvpと、下アーム側のスイッチQvnとを有している。電流経路Lwは、接続点Pwと、上アーム側のスイッチQwpと、下アーム側のスイッチQwnとを有している。
スイッチQup,Qvp,Qwpは導通時には直流母線LHからそれぞれ接続点Pu,Pv,Pwに電流を流す。スイッチQun,Qvn,Qwnは導通時にはそれぞれ接続点Pu,Pv,Pwから直流母線LLに電流を流す。接続点Pu,Pv,Pwからは三相負荷5に交流電圧Vu,Vv,Vwが印加され、三相電流iu,iv,iwが出力される。
スイッチQup,Qvp,Qwpに対して、それぞれ上アーム側のダイオードDup,Dvp,Dwpが逆並列に接続される。スイッチQun,Qvn,Qwnに対してそれぞれ下アーム側のダイオードDun,Dvn,Dwnが逆並列に接続される。なお、「逆並列」とは、二つの素子が並列に接続されており、かつ二つの素子の導通方向が相互に反対である態様を示す。
スイッチQzp,Qznにはそれぞれ制御信号Szp,Sznが入力される(但し、zはu,v,wを代表する。以下同様)。制御信号Szpの活性/非活性に応じてスイッチQzpがそれぞれ導通/非導通し、制御信号Sznの活性/非活性に応じてスイッチQznがそれぞれ導通/非導通する。但し、同じ電流経路においては、スイッチQzpとスイッチQznとは相互に排他的に導通する。制御信号Szp,Sznに基づいたインバータ4の動作それ自身は公知であり、よって詳細な説明は省略する。
また、制御信号Szp,Sznの波形に依存して、スイッチQzp,Qznのオン/オフを遅延させることができることも、公知である。例えば制御信号Szpが所定の閾値よりも大きいときにスイッチQzpがオンする場合について言えば、制御信号Szpの波形の立ち上がりが緩いほど、制御信号Szpの活性化の開始からスイッチQzpがオンするまでの遅延時間を長くすることができる。
制御装置6は、直流電圧Vdcと、三相電流iu,iv,iwと、三相負荷5の回転角周波数についての指令値たる回転角速度指令ω*とに基づいて、制御信号Szp,Sznを生成する。
図2は本実施の形態および第2の実施の形態における制御装置6の構成を示すブロック図である。制御装置6は、指令値作成部61、パターン決定部62、制御信号生成部63とを有する。
指令値作成部61は、直流電圧Vdcと、三相電流iu,iv,iwと、回転角速度指令ω*とに基づいて、交流電圧Vu,Vv,Vwについての指令値Vu*,Vv*,Vw*を作成する。かかる機能を果たす構成は公知であるので、ここではその説明を省略する。
パターン決定部62は、指令値Vu*,Vv*,Vw*を受けて、これらに基づいて、上アーム側のスイッチQup,Qvp,Qwp及び下アーム側のスイッチQun,Qvn,QwnのスイッチングパターンPを決定する。かかる機能を果たす構成は公知であるので、その構成は、後述する動作を説明する上で必要な程度に留める。
パターン決定部62はキャリア発生器62aと、比較器62bと、中間相判断部62cとを有する。キャリア発生器62aは所定周期のキャリアCを発生する。キャリアCは例えば三角波である。
比較器62bは、指令値Vu*,Vv*,Vw*の内の二つと、他の一つを後述するように「反転」した値(以下「反転指令値」と称す)とキャリアCとの比較を行って、スイッチングパターンPを決定する。
制御信号生成部63は、スイッチングパターンPに基づいて、制御信号Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの波形を決定する。
図3は従来の技術における諸量を示すグラフである。具体的には、キャリアC及び指令値Vu*,Vv*,Vw*を重ねて最上段に示し、下方に向かって順次に原制御信号Su,Sv,Sw及び(サージ電圧がない理想的な)相電圧Vunを示す。交流電圧Vu,Vv,Vwの中性点を想定し、当該中性点を基準としたときの交流電圧Vuが相電圧Vunである。通常、中性点の電位は接地電位(0V)に設定される。
指令値Vu*,Vv*,Vw*は三相の交流電圧Vu,Vv,Vwの指令値であるので、互いに120度ずつずれた正弦波形を呈する。ここでは指令値Vv*が指令値Vu*よりも120度進相であり、指令値Vw*が指令値Vv*よりも120度進相である場合を例にとって説明する。
図3では、時間的な領域Z1,Z2,Z3,Z4,Z5,Z6を、この順に繰り返して想定することができる。具体的には、これらの領域において下記の特徴が示される:
領域Z1においてはVv*<Vu*<Vw*;
領域Z2においてはVv*<Vw*<Vu*;
領域Z3においてはVw*<Vv*<Vu*;
領域Z4においてはVw*<Vu*<Vv*;
領域Z5においてはVu*<Vw*<Vv*;
領域Z6においてはVu*<Vv*<Vw*。
そしてキャリアCと指令値Vz*との比較により原制御信号Szが得られる。但し原制御信号Szは、キャリアCの値よりも指令値Vz*が大きいときに高電位を採り、キャリアCの値よりも指令値Vz*が小さいときに低電位を採る二値信号の波形を呈する。キャリアCの値と指令値Vz*とが等しいときには当該二値信号は低電位、高電位のいずれを採ってもよい。
なお、ここでは指令値Vz*の最大値および最小値が、それぞれキャリアCの最大値1および最小値(−1)と一致する場合を示した。
従来の技術では、指令値Vz*のいずれが中間指令値であるかに依らず、原制御信号Szを制御信号Szpとして採用し、原制御信号Szと排他的な信号を制御信号Sznとして採用する。
もし、原制御信号Szが、キャリアCの値よりも指令値Vz*が小さいときに高電位を採り、キャリアCの値よりも指令値Vz*が大きいときに低電位を採る二値信号の波形を呈するならば、原制御信号Szを制御信号Sznとして採用し、原制御信号Szと排他的な信号を制御信号Szpとして採用する。
よってスイッチングパターンPを、キャリアCの一周期における、原制御信号Szの二値信号のパターンとして捉えることができる。以下、キャリアCの一周期の区間を、その隣接する最小値同士の間の区間として把握して考察する。
当該区間(以下「キャリア周期区間」と称す)においてスイッチングパターンPは、領域Z1においては、以下の様に遷移する。但し、原制御信号Szが高電位を採ることを記号Hで、低電位を採ることを記号Lで、それぞれ示し、ある時点における原制御信号Su,Sv,Swの状態を一纏めにして丸括弧で示した。矢印は当該状態が時間の経過に伴って順次に変遷することを示す:(Su,Sv,Sw)=(H,H,H)→(H,L,H)→(L,L,H)→(L,L,L)→(L,L,H)→(H,L,H)→(H,H,H)。
同様にして、キャリア周期区間においてスイッチングパターンPは、以下の様に遷移する:
領域Z2において、(Su,Sv,Sw)=(H,H,H)→(H,L,H)→(H,L,L)→(L,L,L)→(H,L,L)→(H,L,H)→(H,H,H);
領域Z3において、(Su,Sv,Sw)=(H,H,H)→(H,H,L)→(H,L,L)→(L,L,L)→(H,L,L)→(H,H,L)→(H,H,H);
領域Z4において、(Su,Sv,Sw)=(H,H,H)→(H,H,L)→(L,H,L)→(L,L,L)→(L,H,L)→(H,H,L)→(H,H,H);
領域Z5において、(Su,Sv,Sw)=(H,H,H)→(L,H,H)→(L,H,L)→(L,L,L)→(L,H,L)→(L,H,H)→(H,H,H);
領域Z6において、(Su,Sv,Sw)=(H,H,H)→(L,H,H)→(L,L,H)→(L,L,L)→(L,L,H)→(L,H,H)→(H,H,H)。
よってキャリア周期区間におけるスイッチングパターンPについては、上記の領域において下記の特徴が示される。但し、原制御信号Suが低電位を採る期間が、原制御信号Svが低電位を採る期間に含まれ、かつ原制御信号Svが低電位を採る期間が、原制御信号Swが低電位を採る期間に含まれることを、Sw⊃Sv⊃Suとして記載する。
領域Z1においてはSv⊃Su⊃Sw;
領域Z2においてはSv⊃Sw⊃Su;
領域Z3においてはSw⊃Sv⊃Su;
領域Z4においてはSw⊃Su⊃Sv;
領域Z5においてはSu⊃Sw⊃Sv;
領域Z6においてはSu⊃Sv⊃Sw。
図4は、従来の技術での、キャリア周期区間における原制御信号Su,Sv,Swと、サージ電圧を考慮した相電圧Vun,Vvn,Vwnとを領域Z1,Z2,Z3,Z4,Z5,Z6毎に示す波形図である。図4に示された相電圧Vun,Vvn,Vwnは、原制御信号Su,Sv,Swをそれぞれ制御信号Sup,Svp,Swpとして採用し、原制御信号Su,Sv,Swと相補的な信号をそれぞれ制御信号Sun,Svn,Swnとして採用した場合の波形を呈する。
相電圧Vunにおけるサージ電圧は、サージ電圧を無視したときの相電圧Vunの変動量が大きいほど顕著である。具体的には領域Z1における(Su,Sv,Sw)=(H,L,H)→(L,L,H)への遷移の時点や、その逆方向に遷移する時点でのサージ電圧は、(Su,Sv,Sw)=(L,L,H)→(L,L,L)への遷移の時点や、その逆方向に遷移する時点でのサージ電圧よりも大きい。
領域Z1,Z2,Z3,Z4,Z5,Z6を通して見たときの相電圧Vunの最大値Vmaxは領域Z2,Z3において発生する。より詳細には、これらの領域Z2,Z3において原制御信号Suが低電位から高電位へと立ち上がる遷移に伴って発生するサージ電圧が、最大値Vmaxを与える。これは、領域Z2,Z3はいずれも指令値Vu*が指令値Vv*,Vw*よりも大きいことと、当該遷移の時点においてサージ電圧を無視したときの相電圧Vunの変動量が大きいことに起因する。これは観点を変えれば、接続点Pu,Pv,Pwの全てが直流母線LLに接続されている状態から接続点Puのみが直流母線LHに接続される状態への遷移(上述の表記を採用すれば(Su,Sv,Sw)=(L,L,L)→(H,L,L))によって、最大値Vmaxが与えられる、と見ることができる。図4では、このように相電圧Vunの最大値Vmaxを与える原制御信号Suの立ち上がりには、上向きの矢印を付記した。
また、領域Z1,Z2,Z3,Z4,Z5,Z6を通して見たときの相電圧Vunの最小値Vminは領域Z5,Z6において発生する。より詳細には、これらの領域Z5,Z6において原制御信号Suが高電位から低電位へと立ち下がる遷移に伴って発生するサージ電圧が、最小値Vminを与える。これは、領域Z5,Z6はいずれも指令値Vu*が指令値Vv*,Vw*よりも小さいことと、当該遷移の時点においてサージ電圧を無視したときの相電圧Vunの変動量が大きいことに起因する。これは観点を変えれば、接続点Pu,Pv,Pwの全てが直流母線LHに接続されている状態から接続点Puのみが直流母線LLに接続される状態への遷移(上述の表記を採用すれば(Su,Sv,Sw)=(H,H,H)→(L,H,H))によって、最小値Vminが与えられる、と見ることができる。図4では、このように相電圧Vunの最小値Vminを与える原制御信号Suの立ち下がりには、下向きの矢印を付記した。
同様のことが、相電圧Vvn,Vwnについても言える。よって相電圧Vvnの最大値を与える原制御信号Svの立ち上がりには上向きの矢印を付記し、相電圧Vvnの最小値を与える原制御信号Svの立ち下がりには下向きの矢印を付記した。原制御信号Swについても同様である。
図18はサージ電圧が重畳する波形を模式的に分解して示す波形図である。相電圧Vznが最大値Vmaxに到達する場合の波形を波形L0とする。波形L0は3つの波形L1,L2,L3に分解して考えることができる。
波形L1はケーブルサージがなくモータ単体の共振もない状態での相電圧Vznの波形である。モータは分布定数回路で表現されるので、スイッチQzpのオンによって相電圧Vznが上昇しても、中性点の電圧は瞬時には上昇せず、波形L1は一旦急激に上昇して極大値を採ってから減衰し、その後に極大値の2/3の値で安定する。
波形L2はモータケーブルによるサージを示し、波形L3はモータ単体の共振によるサージを示す。
図19は図4の領域Z1における部分を拡大して示す波形図である。リンギングLaは波形L1,L3を反映し、リンギングLbは波形L0に相当する。リンギングLbにより、モータの相間入力電圧はリンギングLa,Lbともに発生しない場合の2倍程度にも達する。
つまり、(Su,Sv,Sw)=(L,L,L)→(H,L,L)となる状態の遷移や、(Su,Sv,Sw)=(H,H,H)→(L,H,H)となる状態の遷移を回避することにより、サージ電圧の低減を実現することが判る。かかる遷移の回避により、スイッチング速度を低下させることなく、従ってインバータの損失を増大させることなく、サージ電圧が低減される。
本実施の形態においては、上記(Su,Sv,Sw)=(L,L,L)の状態や、上記(Su,Sv,Sw)=(H,H,H)の状態を回避することにより、前記二種の遷移を回避する。以下、順を追って説明する。
図5は電圧形インバータで慣用される、単位電圧ベクトルVg(g=0〜7)を示すベクトル図である。当該表記において、値gは、U相、V相、W相にそれぞれ値4,2,1を割り当て、それぞれに対応する上アーム側のスイッチが導通するときに、割り当てられた値を合計した値であって、0〜7の整数を採る。例えばスイッチQup,Qvp,Qwnがオンするスイッチングパターンは、単位電圧ベクトルV6に対応する。
図5では単位電圧ベクトルVgの横に括弧書きで、スイッチQup,Qvp,Qwpのオン/オフをそれぞれ“1”/“0”で表し、この順に3個一組の値を左から並べた数字を示す。例えば単位電圧ベクトルV6には三個の数字(1,1,0)が対応する。
スイッチQzpが全てオンする場合は単位電圧ベクトルV7(1,1,1)が、スイッチQzpが全てオフする場合は単位電圧ベクトルV0(0,0,0)が、それぞれ対応する。これら二つの単位電圧ベクトルは零電圧ベクトルとも称される。電圧形インバータが実質的に電流を出力しないため、零電圧ベクトルはその長さが0として扱われる。
図5で示される様な単位電圧ベクトルVgの向きについては周知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。但し、単位電圧ベクトルV1,V2,V4は互いに120度ずれており、単位電圧ベクトルV6,V5,V3はそれぞれ単位電圧ベクトルV1,V2,V4とは向きが反対となる。零電圧ベクトルV0,V7以外の単位電圧ベクトルV1,V2,V3,V4,V5,V6の大きさは等しく設定される。
これらの単位電圧ベクトルVgは、スイッチQzp,Qznのスイッチングパターンによって変遷する、電圧形インバータの動作状況を示す。単位電圧ベクトルVgに相当するスイッチングパターンが時間τgで継続するとき、ベクトルτg・Vgで電圧形インバータの動作状況が示される。
以下、キャリアCを対称三角波とした場合を例に採って説明する。またキャリアCの一周期(キャリア周期区間の長さ)を、ここでは時間T0として計算する。
図6は従来の技術における、領域Z1におけるキャリア周期区間でのインバータ4の動作を瞬時空間ベクトルで表すベクトル図である。従来の技術では、上述の様に、領域Z1では(Su,Sv,Sw)=(H,H,H)→(H,L,H)→(L,L,H)→(L,L,L)→(L,L,H)→(H,L,H)→(H,H,H)と変遷する。よって当該キャリア周期区間では単位電圧ベクトルは、(時間τ7で継続する)V7→(時間τ5で継続する)V5→(時間τ1で継続する)V1→(時間τ0で継続する)V0→(時間τ1で継続する)V1→(時間τ5で継続する)V5→(時間τ7で継続する)V7と変遷する。
図6ではτ0=τ1=T0/10,τ7=T0/20,τ5=(3/10)・T0の場合を例示した。この場合、原制御信号Su,Sv,Swは、それぞれが“H”となる(活性である)デューティが7/10,1/10,9/10であり、一周期の中央に対して対称な活性/非活性のパターンを呈する。
零電圧ベクトルV0,V7の大きさは0であるので、その継続する時間τ0,τ7によらず、キャリア周期区間の全体としてのインバータ4の動作状況の変遷には影響を与えない。
図7は本実施の形態の原理を示すグラフである。ここでは領域Z1における状況を例示した。本実施の形態では、原制御信号Su,Sv,Swをそれぞれ制御信号Sup,Svp,Swpとして採用するが、原制御信号Suは従来の技術と同じデューティを保ちつつ、一周期における遷移の順序が反対となる。
従来の技術では図4を参照して、領域Z1における一周期では、原制御信号Suはまず“H”から“L”へ遷移(活性から非活性へ遷移)してから“L”から“H”へ遷移(非活性から活性へ遷移)する。しかし本実施の形態での原制御信号Suは、領域Z1における一周期において、まず“L”から“H”へ遷移してから“H”から“L”へ遷移する。
本実施の形態では図7を参照して原制御信号Suの“L”から“H”への遷移は、原制御信号Sv,Swの“H”から“L”への一対の遷移に時間的に隣接して挟まれる。原制御信号Suの“H”から“L”への遷移は、原制御信号Sw,Svの“L”から“H”への一対の遷移に時間的に隣接して挟まれる。つまり原制御信号Suの遷移と、これに隣接してこれを挟む原制御信号Sv,Swの遷移とは、互いに逆方向である。このような原制御信号Suの生成の具体的手法の一例については後述する。
図8は本実施の形態における、領域Z1におけるキャリア周期区間でのインバータ4の動作を瞬時空間ベクトルで表すベクトル図である。本実施の形態では、領域Z1では(Su,Sv,Sw)=(L,H,H)→(L,L,H)→(H,L,H)→(H,L,L)→(H,L,H)→(L,L,H)→(L,H,H)と変遷する。よって当該キャリア周期区間では単位電圧ベクトルは、(時間τ3で継続する)V3→(時間τ1で継続する)V1→(時間τ5で継続する)V5→(時間τ4で継続する)V4→(時間τ5で継続する)V5→(時間τ1で継続する)V1→(時間τ3で継続する)V3と変遷する。
図6で例示された原制御信号Su,Sv,Swにおいて、原制御信号Suを上述の様に変更することにより、それぞれが“H”となるデューティを7/10,1/10,9/10を維持しつつ、τ3=T0/20,τ5=(3/10)/T0,τ1=τ4=T0/10となる。この場合も原制御信号Su,Sv,Swは、一周期の中央に対して対称な活性/非活性のパターンを呈する。
単位電圧ベクトルV3,V4は互いに逆向きで大きさが等しく、時間τ1,τ5は従来の技術と本実施の形態とで変動しないので、図8に示されたベクトル図も、図6に示されたベクトル図と同様に、キャリア周期区間においてはベクトル2・(τ1・V1+τ5・V5)を示す。つまり図6に示された場合と比較して、図8に示された場合もキャリア周期区間の全体としてのインバータ4の動作状況の変遷には影響を与えない。
つまり、本実施の形態によれば、インバータ4から出力される交流電圧Vu,Vv,Vwをキャリア周期区間全体としては損なうことなく、(Su,Sv,Sw)=(L,L,L)の状態(零電圧ベクトルV0に対応)や、(Su,Sv,Sw)=(H,H,H)(零電圧ベクトルV7に対応)の状態を回避してサージ電圧が低減される。
図9は、本実施の形態における諸量を示すグラフである。具体的には、キャリアC及び指令値Vu*,Vv*,Vw*を重ねて最上段に示し、下方に向かって順次に原制御信号Su,Sv,Sw及び(サージ電圧がない理想的な)相電圧Vunを示す。
原制御信号Szは中間指令値に対応するものについては従来の技術の原制御信号Szと異なっている。原制御信号Szが中間指令値に対応しないものについては従来のものが維持される。よって以下の関係がある。
領域Z1,Z4においては中間指令値は指令値Vu*であるので、原制御信号Suは従来の技術と本実施の形態とで相違し、原制御信号Sv,Swは従来の技術と本実施の形態とで一致する;
領域Z2,Z5においては中間指令値は指令値Vw*であるので、原制御信号Swは従来の技術と本実施の形態とで相違し、原制御信号Su,Svは従来の技術と本実施の形態とで一致する;
領域Z3,Z6においては中間指令値は指令値Vv*であるので、原制御信号Svは従来の技術と本実施の形態とで相違し、原制御信号Su,Swは従来の技術と本実施の形態とで一致する。
本実施の形態でも図3と対応して、時間的な領域Z1,Z2,Z3,Z4,Z5,Z6が、この順に繰り返して想定される。よって図3と図9とではキャリアC、指令値Vu*,Vv*,Vw*は同じ波形を示す。
図10は、本実施の形態での、キャリア周期区間における原制御信号Su,Sv,Swと、サージ電圧を考慮した相電圧Vun,Vvn,Vwnとを領域Z1,Z2,Z3,Z4,Z5,Z6毎に示す波形図である。
図10においても図4で示された最大値Vmaxと最小値Vminを併記した。図10におけるいずれの波形も、最大値Vmax及び最小値Vminのいずれにも到達しない。この理由は、領域Z3を例に採って以下のように説明される。
従来の技術では、相電圧Vunに最大値Vmaxに到達するサージ電圧を発生させる、制御信号Sup(これは原制御信号Suと一致する)の立ち上がりは、相電圧Vunがその中央値(図3の0V)を採る状態で発生する。これはインバータ4が零電圧ベクトルV0に対応したスイッチングパターンを採用していることに起因する。
他方、本実施の形態では、制御信号Sup(これは原制御信号Suと一致する)の立ち上がりは、相電圧Vunがその中央値よりも低い値(図9の−100V近傍)を採る状態で発生する。よって当該立ち上がりによって相電圧Vunが急激に上昇しても、その値は最大値Vmaxよりも低くなる。
同様にして、領域Z5での制御信号Supの立ち下がりについて、従来の技術では相電圧Vunがその中央値(図3の0V)を採る状態で発生するのに対し、本実施の形態では、相電圧Vunがその中央値よりも高い値(図9の100V近傍)を採る状態で発生する。よって当該立ち下がりによって相電圧Vunが急激に低下しても、その値は最小値Vminよりも高くなる。
以上のように、本実施の形態によれば、インバータの損失を増大させることなく、サージ電圧が低減される。しかも従来の技術とは、指令値が中間指令値となる相に対応する原制御信号について、一周期における遷移の順序が反対となるものの、そのデューティは保たれる。よってインバータのキャリアの一周期でのインバータの平均的な電圧は維持される。
このように、指令値が中間指令値となる相に対応する原制御信号を、従来の技術と同じデューティを保ちつつ、一周期における遷移の順序が反対とするための具体的な手法を、以下に例示する。
図11は比較器62b及び中間相判断部62cの機能をハードウェアとして模式的に描いたブロック図である。比較器62b及び中間相判断部62cはハードウェアとして構成されるのではなく、通常のパルス幅変調を行うプログラムによってその機能が実現されてもよい。
中間相判断部62cは指令値作成部61から指令値Vu*,Vv*,Vw*を入力し、中間相指令値に相当するものがいずれであるかを判断する。比較結果DvuはVu*<Vv*で、比較結果DwvはVv*<Vw*で、比較結果DuwはVw*<Vu*で、それぞれ活性である。比較結果DvuはVu*≧Vv*で、比較結果DwvはVv*≧w*で、比較結果DuwはVw*≧Vu*で、それぞれ非活性である。比較結果DvuはVu*=Vv*で、比較結果DwvはVv*=w*で、比較結果DuwはVw*=Vu*で、それぞれ活性であってもよい。
中間相判断信号Quは、比較結果Dvuと比較結果Duwとの排他的論理和の否定をとる。図12は指令値Vu*,Vv*,Vw*と、比較結果Dvu,Duwと、中間相判断信号Quとの関係を示すグラフである。比較結果Dvu,Duwと中間相判断信号Quとはそれぞれの上下における位置関係をずらして示し、それぞれにおいて凸となる領域が活性を、凹となる領域が非活性を示している。
中間相判断信号Quは指令値Vu*が中間指令値となるときに活性であり、それ以外では非活性である。換言すれば領域Z1,Z4において中間相判断信号Quは活性であり、領域Z2,Z3,Z5,Z6で中間相判断信号Quは非活性である。
同様に、中間相判断信号Qvは、比較結果Dvuの否定と比較結果Dwvとの排他的論理和をとる。中間相判断信号Qvは指令値Vv*が中間指令値となるときに活性であり、それ以外では非活性である。換言すれば領域Z3,Z6において中間相判断信号Qvは活性であり、領域Z1,Z2,Z4,Z5で中間相判断信号Qvは非活性である。
中間相判断信号Qwは、比較結果Dwvと比較結果Duwとの排他的論理和の否定をとる。中間相判断信号Qwは指令値Vw*が中間指令値となるときに活性であり、それ以外では非活性である。換言すれば領域Z2,Z5において中間相判断信号Qwは活性であり、領域Z1,Z3,Z4,Z6で中間相判断信号Qwは非活性である。
図11に戻り、比較器62bは指令値Vu*,Vv*,Vw*を「反転」させた反転指令値を作成する。ここで「反転」とは、指令値Vu*,Vv*,Vw*の波形を、それぞれキャリアCの中央値に対して対称な波形にする処理を指す。本実施の形態ではキャリアCの中央値は0であり、指令値Vu*に対応して反転指令値(−Vu*)が、指令値Vv*に対応して反転指令値(−Vv*)が、指令値Vw*に対応して反転指令値(−Vw*)が、それぞれ作成される。よって図11においては記号「−1」を付記したブロックによって「反転」の処理が示される。
比較器62bにおいて指令値Vu*はキャリアCと比較され、指令値Vu*がキャリアCよりも大きいときに活性であり、指令値Vu*がキャリアC以下であるときに非活性である原パターン信号Nuが得られる。指令値Vv*はキャリアCと比較され、指令値Vv*がキャリアCよりも大きいときに活性であり、指令値Vv*がキャリアC以下であるときに非活性である原パターン信号Nvが得られる。指令値Vw*はキャリアCと比較され、指令値Vw*がキャリアCよりも大きいときに活性であり、指令値Vw*がキャリアC以下であるときに非活性である原パターン信号Nwが得られる。
反転指令値−Vu*はキャリアCと比較され、反転指令値−Vu*がキャリアCよりも小さいときに活性であり、反転指令値−Vu*がキャリアC以上であるときに非活性である原パターン信号Muが得られる。反転指令値−Vv*はキャリアCと比較され、反転指令値−Vv*がキャリアCよりも小さいときに活性であり、反転指令値−Vv*がキャリアC以上であるときに非活性である原パターン信号Mvが得られる。反転指令値−Vw*はキャリアCと比較され、反転指令値−Vw*がキャリアCよりも小さいときに活性であり、反転指令値−Vw*がキャリアC以上であるときに非活性である原パターン信号Mwが得られる。
中間相判断信号Quが活性のときに原パターン信号Nuが、中間相判断信号Quが非活性のときに原パターン信号Muが、それぞれ選択されて原制御信号Suに採用される。中間相判断信号Qvが活性のときに原パターン信号Nvが、中間相判断信号Qvが非活性のときに原パターン信号Mvが、それぞれ選択されて原制御信号Svに採用される。中間相判断信号Qwが活性のときに原パターン信号Nwが、中間相判断信号Qwが非活性のときに原パターン信号Mwが、それぞれ選択されて原制御信号Swに採用される。かかる選択について図11では記号「SEL」を付記したブロックによって示される。
図13はキャリアCと、指令値Vu*と、反転指令値−Vu*と、原制御信号Suと、原パターン信号Mu,Nuとの関係を示すグラフである。原パターン信号Mu,Nuの活性/非活性は便宜的に,それぞれ値1/0として示されている。領域Z1,Z4においては原制御信号Suと原パターン信号Muとが一致し、領域Z2,Z3では原制御信号Suと原パターン信号Nuとが一致する。
中間相判断信号Qu,Qv,Qwは互いに排他的かつ相補的に活性である。よって指令値Vu*が中間指令値となる領域Z1,Z4では、原制御信号Su,Sv,Swとして、それぞれ原パターン信号Mu,Nv,Nwが採用される。指令値Vv*が中間指令値となる領域Z3,Z6では、原制御信号Su,Sv,Swとして、それぞれ原パターン信号Nu,Mv,Nwが採用される。指令値Vw*が中間指令値となる領域Z2,Z5では、原制御信号Su,Sv,Swとして、それぞれ原パターン信号Nu,Nv,Mwが採用される。
つまり、スイッチングパターンPは、中間指令値(例えばVu*)以外の指令値(例えばVv*,Vw*)がキャリアCよりも大きいときに活性化する原制御信号(例えばSv,Sw)と、反転指令値(例えば−Vu*)がキャリアCよりも小さいときに活性化する原制御信号(例えばSu)とに対応する、ということができる。
キャリアCの最小値及び最大値をそれぞれ−1,1とすることに鑑みて、−1≦r≦1を満足する値rを導入してVu*=rと表すことができる。指令値Vu*が中間指令値でなければ原制御信号Suは原パターン信号Nuと一致し、値rがキャリアCよりも大きい期間で原制御信号Suは活性である。指令値Vu*が中間指令値であれば原制御信号Suは原パターン信号Muと一致し、値−rがキャリアCよりも小さい期間で原制御信号Suは活性である。キャリアCは三角波であるので、値rがキャリアCよりも大きく1以下である期間と、値−rがキャリアCよりも小さく−1以上である期間とは等しい。よって原パターン信号Nu,Muは互いにその活性化するデューティが等しい。しかもキャリア周期区間における遷移の方向は互いに逆である。
よって中間相判断信号Quが活性のときに原パターン信号Nuが、中間相判断信号Quが非活性のときに原パターン信号Muが、それぞれ原制御信号Suに採用されることで、図7〜図10で説明したような原制御信号Suが得られる。原制御信号Sv,Swについても同様である。
キャリアCが非対称三角波であっても同様に本実施の形態の効果が得られる。以下、その理由を述べる。キャリアCのキャリア周期区間の前半における上昇期間の長さ及び後半における下降期間の長さを、それぞれ時間a・T0,(1−a)・T0で表すことができる。対称三角波ではa=1/2である。
キャリアCの一周期は、原制御信号Szの一周期に対して非常に短い。よって、あるキャリア周期区間における上昇期間において、原制御信号SzがキャリアCよりも大きい期間の長さはa・T0・(1+Vz*)/2であり、同じキャリア周期区間における下降期間において、原制御信号SzがキャリアCよりも大きい期間の長さは(1−a)・T0・(1+Vz*)/2である。よってあるキャリア周期区間において原制御信号SzがキャリアCよりも大きい期間の長さは、値aに依存せずに(つまりキャリアCが対称三角波であるか否かによらず)、T0・(1+Vz*)/2である。
図14は従来の技術における線間電圧Vuvを、図15は本実施の形態における線間電圧Vuvを、それぞれ示すグラフである。図14及び図15のいずれも、キャリアCのキャリア周波数を等しく設定している。
図8における瞬時空間ベクトルの軌跡と比較して、図6における瞬時空間ベクトルの軌跡の方が、合成後のベクトルに対する隔たりが小さい。かかる現象を反映して、図14に示される波形の方が図15に示される波形よりも滑らかである。よって本実施の形態では、従来の技術と比較して、モータの発生音の増加を招来してしまう。
しかしながら、実施の形態においても、キャリアCの周波数を高めることにより、モータの発生音を低減できる。図16は本実施の形態における線間電圧Vuvを示すグラフであり、図15に示された場合に対して、キャリアCの周波数を約1.5倍とした場合を示す。図16に示された波形は図15に示された波形よりも滑らかとなっている。このような波形の滑らかさの向上は、モータの発生音を低下させる。
原制御信号SzがスイッチQznのオン/オフを決定する場合も、上記説明と類似して、制御信号Szp,Sznが得られることは明白である。
なお、上述の速度制御はデッドタイムを変更せずに行うことができる。デッドタイムはスイッチQzp,Qznのスイッチング以外にこれらを駆動するドライブ回路の伝播遅延誤差なども考慮して決められる。スイッチQzp,Qzに採用されるパワー素子が高速化している場合はデッドタイムはほぼドライブ回路の伝播遅延誤差とマージン率により決まる。