(第1の実施形態)
図1〜図9を参照して、トルク検量装置及びトルク検量方法の第1の実施形態について説明する。本実施形態のトルク検量装置は、車両用の内燃機関であるエンジンの試験に用いられるダイナモメータで、トルク検出対象であるエンジンのトルクを計測するトルク検出器が出力する測定値を検量するものである。
図1に示すように、基台10に固定されてダイナモメータを構成する電動モータ20は、回転軸22の長手方向に延びる筒状の筐体21cと、筐体21cの反負荷側21bと、筐体21cの負荷側21aとを備える。電動モータ20は、その負荷側21aに延出する回転軸22の先に第1のトルク検出部としての検量対象トルク検出器40を備える。検量対象トルク検出器40は、例えば、フランジ型高剛性トルク検出器である。また、検量対象トルク検出器40は、反電動モータ側には、検量対象トルク検出器40を検量する検量部50が取り付けられる。
なお、通常、検量対象トルク検出器40の反電動モータ側には、ダイナモメータによる検査対象である車両用のエンジン等が接続される。すなわち、本実施形態では、検量対象トルク検出器40の反電動モータ側に車両用のエンジン等に代わって、検量部50が取り付けられる。
検量部50は、検量対象トルク検出器40よりも高精度で、かつ、校正済みである第2のトルク検出部としてのリファレンストルク検出器51と、リファレンストルク検出器51に接続された検量アーム52とを備えている。リファレンストルク検出器51は、例えば、フランジ型高剛性トルク検出器である。検量アーム52は、回転軸22の回転方向へのトルクとなる力が加圧部としての加圧装置60からその腕部に印加される。
加圧装置60は、基台10に固定された加圧装置固定台11に固定されており、電動モータ20に対して相対移動しないようになっている。加圧装置60は、4つの押圧部70を有している。加圧装置60は、4つの押圧部70の間に検量アーム52を挟み込むように配置させており、検量アーム52は、左の上下、及び、右の上下にそれぞれ1つの押圧部70が配置されている。加圧装置60は、回転軸22の軸心C(図6参照)を点対称にする2つの押圧部70を一対の押圧部70としている。本実施形態では、左上押圧部70LHと右下押圧部70RLとで一対の押圧部70を構成し、左下押圧部70LLと右上押圧部70RHとでもう一対の押圧部70を構成する。加圧装置60は、一対の押圧部70を同時に駆動することで検量アーム52を介して軸心Cにトルクを印加する。このとき、リファレンストルク検出器51、及び、検量対象トルク検出器40は、軸心Cに印加された同一のトルクを同時に検出する。本実施形態では、トルク検量装置は検量部50及び加圧装置60を含んで構成される。
図2に示すように、検量対象トルク検出器40は、カウンタ40Cに測定値を出力する。カウンタ40Cは、入力した測定値に基づいてトルクを算出するとともに、算出したトルクの値を演算部80に出力する。また、リファレンストルク検出器51は、カウンタ50Cに測定値を出力する。カウンタ50Cは、入力した測定値に基づいてトルクを算出するとともに、算出したトルクの値を演算部80に出力する。
演算部80は、いわゆるマイクロコンピュータを含み構成される。演算部80には、プログラムの演算処理を実行する演算装置(CPU)と、そのプログラムやデータ等が記憶された読み出し専用メモリ(ROM)と、演算装置の演算結果が一時的に記憶される揮発性メモリ(RAM)とが設けられている。また、演算部80は、データ等を保持するフラッシュメモリ等の図示しない記憶装置を備えている。演算部80は、記憶装置に保持されているプログラムや設定値を演算装置に読み込み、実行することで、所定の機能を提供する。例えば、演算部80は、2つのトルク検出器から入力したトルク値を比較して差分を算出することができる。
演算部80は、2つのカウンタ40C,50Cから同期して測定されたトルク値を入力する同期入力部81と、入力したトルク値を記憶する記憶部82とを備えている。また、演算部80は、入力した2つのトルク値から差分を算出する差分算出部83と、検量対象トルク検出器40について校正の要否を判定する判定部84と、算出した差分や校正要否の判定結果等を演算部80から外部に出力する出力部85とを備えている。
同期入力部81は、2つのカウンタ40C,50Cが出力する同期したトルク値を同期して入力する。同期入力部81は、例えば、2つのカウンタ40C,50Cに同期タイミングを通知し、そのタイミングに応じて2つのカウンタ40C,50Cが測定値を取得するようにすることで、2つの測定値を同期させる。
記憶部82は、同期入力部81が入力した2つのトルク測定値をそれぞれ、同期可能な態様で記憶する。
差分算出部83は、同期入力部81が入力した2つの同期したトルク値の差分を算出する。差分算出部83は、リファレンストルク検出器51から得られたトルク値を基準値とし、検量対象トルク検出器40から得られたトルク値を比較値とし、基準値に対する比較値の差を差分として算出する。
判定部84は、差分値の誤差を算出し、この算出した誤差が校正の要否を判定する校正要否判定値よりも大きいとき、検量対象トルク検出器40には校正が必要であると判定する。校正要否定値は、検量対象トルク検出器40に要求される検出精度を担保する値に設定されている。
出力部85は、演算部80の2つのトルク値や校正要否の判定結果等を外部に出力する。出力部85は、例えば、同期入力部81が入力した各トルク値や、記憶部82に記憶されたトルク値や、差分算出部83が算出した差分や、判定部84による校正要否の判定結果を出力することができる。
図3に示すように、押圧部70は、スプリングリターン式の単動油圧シリンダであって、油圧回路によって作動する。押圧部70は、スプリングの押圧力よりも油圧が高まることでロッド74をシリンダ72の先端に対して進出させ、スプリングの押圧力よりも油圧が低くなることでロッド74をシリンダ72の先端に対して後退させる。ロッド74は、シリンダ72から延設される方向の先端が凸状の球形状をしている。また、上述のように、4つの押圧部70は、2つで一対とされている。具体的には、左上押圧部70LH及び右下押圧部70RLが、軸心Cに左回りのトルクを付与する一対の左トルク用押圧部であり、右上押圧部70RH及び左下押圧部70LLが、軸心Cに右回りのトルクを付与する一対の右トルク用押圧部である。
油圧回路は、油タンクから入力した油を供給すべく加圧して出力する手動の油圧ポンプ100と、逆止弁101を介して供給された油圧を減圧調整する減圧弁102とを備える。また、油圧回路は、減圧弁102で減圧調整された油圧が途中で分岐する配管103と、配管103の一方に接続される手動の第1のバルブ104及び逆止弁106と、配管103の他方に接続される手動の第2のバルブ105及び逆止弁107とを備える。逆止弁106の先には、進出用配管110が接続されているとともに、進出用配管110が2つに分岐したそれぞれの先にそれぞれ押圧部70が接続されている。また、進出用配管110は、その途中に圧力可変型一次調圧弁108が分岐接続されている。一方、逆止弁107の先には、進出用配管120が接続されているとともに、進出用配管120が2つに分岐したそれぞれの先にそれぞれ押圧部70が接続されている。また、進出用配管120は、その途中に圧力可変型一次調圧弁109が分岐接続されている。各圧力可変型一次調圧弁108,109は、進出用配管110,120で供給する油圧が最大圧力に設定される。減圧弁102から最大圧力以上の油圧が供給されると、進出用配管110,120で供給される油圧は最大圧力まで上昇し、ロッド74を進出させる。また、各圧力可変型一次調圧弁108,109は、圧力を調整することができるので、進出用配管110,120で供給する油圧が最大圧力に達した後、圧力を低く再設定し、進出用配管110,120で供給する油圧を低下させて、ロッド74を後退させる。
進出用配管110は、逆止弁106と、左上押圧部70LH及び右下押圧部70RLとの間に分流器が設けられている。また、進出用配管120は、逆止弁107と、左下押圧部70LL及び右上押圧部70RHとの間に分流器が設けられている。ここで、逆止弁106の場合について説明し、逆止弁107については説明を省略する。分流器は、逆止弁106から供給側に延びる配管が分岐する位置に設けられており、左上押圧部70LHと右下押圧部70RLとに油圧が適切に分配されるようにしている。具体的には、左上押圧部70LH及び右下押圧部70RLが両方とも検量アーム52に当接するまでは、抵抗の小さい側の押圧部70に油圧が供給されて検量アーム52への加圧は抑制される。一方、両方とも検量アーム52に当接したあとは、左上押圧部70LH及び右下押圧部70RLから検量アーム52には均等に圧力が加えられるようになる。
(検量対象トルク検出器及び検量部)
図4〜図6を参照して、検量対象トルク検出器40及び検量部50について説明する。
図4及び図5に示すように、回転軸22には、カップリング30が接続されている。カップリング30は、回転軸22に同心に接続される軸部31のモータ側端部及び反モータ側端部にそれぞれフランジ32,33を有する。モータ側のフランジ32は、外周の一部に径方向に凹むロック溝34が形成されている。ロック溝34は、回転止部35からロックピンが嵌め込まれることによって、カップリング30の回動が禁止される。よって、カップリング30に接続されている回転軸22及び軸心Cを有する検量対象トルク検出器40及びリファレンストルク検出器51の回動の静止を維持する。回転止部35は、基台10に固定される脚部36と、脚部36からロック溝34の方向に延びるとともに、ロックピンを保持可能な支持部37とを備える。
カップリング30の反モータ側のフランジ33には、検量対象トルク検出器40が回転軸22と同心に接続されている。検量対象トルク検出器40は、モータ側から順にトルク検出部41、回転検出部45及びフランジ47が設けられている。トルク検出部41と回転検出部45とは同軸になるように連結されている。トルク検出部41は、回転検出部45が同軸に連結される部分よりも外周となる部分44にフランジ33が図示しないボルトで連結されている。トルク検出部41は、径方向において回転検出部45が同軸に連結される部分とフランジ33が連結される部分との間にかかる力をトルクとして検出する。トルク検出部41の外周には隙間をおいて円周状のアンテナリング42が配置されている。アンテナリング42は、信号処理部43と台12(図7参照)とを介して基台10に固定されている。アンテナリング42は、信号処理部43を介してカウンタ40Cへトルク検出部41の測定値を出力する。よって、トルク検出部41が検出した測定値は、受信されたアンテナリング42から信号処理部43を介してカウンタ40Cへ出力される。回転検出部45は、回転検出用の歯車46を有している。
検量対象トルク検出器40のフランジ47には、検量部50が回転軸22と同心に接続されている。検量部50は、モータ側から順にリファレンストルク検出器51と、検量アーム52とを備えている。リファレンストルク検出器51と検量アーム52とは同軸に連結されている。リファレンストルク検出器51は、反モータ側の面に検量アーム52がボルトB52で連結されるとともに、検量アーム52が連結される部分よりも外周となる部分がボルトB51でフランジ47に連結される。リファレンストルク検出器51は、径方向において検量アーム52が連結される部分とフランジ47が連結される部分との間に配置された起歪部51D(図6参照)にかかる力をトルクとして検出する。
リファレンストルク検出器51は、検量用の基準値を測定するトルクセンサである。リファレンストルク検出器51は、検量対象トルク検出器40よりも高精度でトルクを測定することができるとともに、測定値についても検量対象トルク検出器40に要求される校正精度よりも高い校正精度で校正されている。例えば、リファレンストルク検出器51は、検量対象トルク検出器40よりも校正精度が2倍以上である。また、リファレンストルク検出器51は、トルクは印加されるが回転はしないため、図示しない配線で電気的にカウンタ50C(図2参照)に接続され、リファレンストルク検出器51の出力する測定値が、カウンタ50C(図2参照)に入力される。
図4及び図5を参照して、検量アーム52は、横長の板状部材であって、回転軸22の軸心Cに直交する面に板面を向けるとともに、長手方向を水平方向に配置させている。検量アーム52は、軸心Cの延伸方向に厚さを有し、鉛直方向に幅を有し、軸心Cに直交する水平方向に長さを有する。検量アーム52は、幅が厚さよりも長く設定されており、回転軸22と同心の周方向に対する力に対して剛性が高く維持されている。
検量アーム52は、長手方向の全長が長さL2であり、軸心Cを中心に水平方向左右にそれぞれ同じ長さL1(=L2/2)を有する。検量アーム52は、全長の長さL2が、反モータ側からみた電動モータ20の水平方向幅の1.5倍以下であることが好ましい。
検量アーム52は、板状部材の長手方向中央部にリファレンストルク検出器51に接続される接続部53を備え、接続部53から径方向に延出された長手方向に延びる部分に腕部55を備える。接続部53は、軸心Cを中心とする周上に配置された貫通孔に挿通されたボルトB52でリファレンストルク検出器51に締結されている。また、接続部53は、リファレンストルク検出器51の表面を反モータ側に突出するボルトB51との干渉を避けるための貫通孔54を備えている。本実施形態では、周方向均等間隔に配置された8つのボルトB51のうち、腕部55の方向に延びる接続部53が干渉する4つのボルトB51に対応して4つの貫通孔54が設けられている。貫通孔54にボルトB51を通すことで、接続部53がリファレンストルク検出器51に好適に締結されるようになる。
接続部53の外方には、軸心Cに対して水平方向のそれぞれに腕部55が延設されている。各腕部55は、軸心Cに対して対称である。腕部55は、接続部53に続いて外方に延設される延長部56と、延長部56に続いて外方に設けられた受圧部57とを備えている。延長部56は、接続部53から受圧部57に向けて幅が先細りする形状をしている。受圧部57は、幅が一定に保たれており、板厚に対応する面である周方向に向く面に、加圧装置60からの押圧力を受ける受圧部分58を備えている。受圧部分58は、ロッド74を受け止める部分であり、回転軸22と同心である半径R1の所定の円周E1上にあって、受圧部57の周方向に向く各面(図6において上下の面)にそれぞれ設けられている。図6において左側の受圧部57は、上下方向にそれぞれ受圧部分58を備え、図6において右側の受圧部57は、上下方向にそれぞれ受圧部分58を備えている。また、軸心Cに対して点対称となる位置にある2つの受圧部分58はそれぞれ一対の受圧部分を構成する。
(加圧装置)
図7及び図8を参照して、加圧装置60について説明する。
加圧装置60は、検量アーム52の受圧部分58を周方向に押圧することで、検量アーム52の軸心Cにトルクを印加する。
加圧装置60は、検量アーム52を取り囲む枠体61と、枠体61の枠内に設置された上記4つの押圧部70とを備える。
枠体61は、アルミニウムを主材料とする枠部62がアルミニウムを主材料とする2つの枠板63,64に挟まれて構成されている。枠部62と枠板63,64とは、締結や溶接、接着等により機械的に一体化されている。枠板63,64の外周形と、枠部62の外周形とは略同様の大きさであるとともに、枠部62の枠内よりも狭い開口63H,64Hを有する。開口63H,64Hは、検量アーム52を反モータ側から挿通可能な大きさであって、図8の左右方向において横幅が検量アーム52の全長の長さL2よりも長く、図8の上下方向において縦幅がリファレンストルク検出器51の直径よりも長い。枠部62は、厚さ方向両端の枠板63,64によってその剛性が高められている。なお、枠部62の下枠部62Bは、加圧装置固定台11への当接によって剛性が高められていることから、本実施形態では、枠体61の軽量化のために下枠部62Bの中央部分には枠板63,64は設けられていない。
枠部62は、検量アーム52を反モータ側から挿通可能な大きさである。枠部62は、基台10に固定された加圧装置固定台11に当接する下枠部62Bと、下枠部62Bの上方に平行に設けられた上枠部62Hと、下枠部62Bと上枠部62Hとを鉛直方向に連結する左縦枠部62L及び右縦枠部62Rとを備える。また、下枠部62Bは、長手方向に延出される張出部65を備え、張出部65及び下枠部62BがそれぞれボルトB65で加圧装置固定台11に締結されている。
左縦枠部62Lと及び右縦枠部62Rとには、枠の外側に取っ手66が取り付けられている。枠部62は、押圧部70の出力する圧力に対して必要な剛性が確保されるものであれば、それ自身には、従来、検量アームに吊り下げていたおもりのような質量は不要である。よって、加圧装置60は、剛性を確保しつつ、軽量化することが可能であり、人手による移動が可能な質量とすることが可能である。人手による移動が可能である場合、加圧装置60は、取っ手66が設けられることにより、移動や設置が容易になる。本実施形態では、枠部62や枠板63,64を、アルミニウムを主材料とする部材とすることで軽量化が図られている。
枠部62は、その枠内の四隅にそれぞれ押圧部70が取り付けられている。押圧部70は、基端が枠部62に支持され、シリンダ72の先端73に対して進退するロッド74を備えている。ロッド74の進出によって押圧部70が受ける反力は基端から枠部62に伝達される。一対をなす左上押圧部70LH及び右下押圧部70RLは、各油圧管接続部71にそれぞれ進出用配管110が接続されている。また、一対をなす左下押圧部70LL及び右上押圧部70RHは、各油圧管接続部71にそれぞれ進出用配管120が接続されている。
押圧部70のロッド74は、押圧部70に対して後退した状態で、検量アーム52の受圧部分58に対向する位置にあって受圧部分58から離間した位置に配置される。押圧部70のロッド74は、シリンダ72から進出することで対向する受圧部分58に当接する。また、各ロッド74と各受圧部分58との間の各離間距離はそれぞれ、一部が同じであってもよいし、全てが相違していてもよい。上述したように、一対の押圧部70がそれぞれ検量アーム52からの離間距離が相違していたとしても、本実施形態の油圧回路によれば各ロッド74が検量アーム52に与える押圧力は均等になる。よって、検量アーム52に対する加圧装置60の設置の自由度が高く確保される。
(作用等について)
図2を参照して演算部80の作用について説明する。
(同期入力部81について)
加圧装置60から検量アーム52に印加される負荷は、油圧回路の作動によって逐次変化する。この変化は、おもりを使った場合に比べて不安定である傾向にある。このため、2つのカウンタ40C,50Cからトルク値を取得するタイミングが一致しないと、適切な差分が算出することができないおそれがある。この点、同期入力部81は、2つのカウンタ40C,50Cが出力するトルク値を同期して入力する。よって、検量対象トルク検出器40とリファレンストルク検出器51との2つの検出器に同じトルクがかかっている同一のタイミングにおけるトルク値が取得される。つまり、同期入力部81で、2つのカウンタ40C,50Cのトルク値の取得を同期することで差分の算出に適した2つのトルク値が取得できる。
また、同期入力部81には、検量対象トルク検出器40の測定値とリファレンストルク検出器51の測定値とが逐次、自動的に入力される。これにより、従来必要であった、吊り下げたおもりの値と、そのときの検量対象トルク検出器の出力値とを対応させる作業が不要になり、手間の軽減、ミスの軽減が図られるようになる。
(記憶部82について)
記憶部82は、同期して取得された2つのトルク測定値を記憶する。同期して取得された2つのトルク測定値を記憶することで、先ずは、検量作業のみを行い、その後、検量作業で得られたデータに基づく校正を行うこともできる。
(差分算出部83及び判定部84について)
基準値に対する比較値の差分の絶対値が小さい場合、換言すると、検量対象トルク検出器40で検出されたトルク値がリファレンストルク検出器51で検出されたトルク値に近い場合、検量対象トルク検出器40は校正不要であるか、又は、校正量の差分が小さくてもよいことが判定される。逆に、基準値に対する比較値の差分の絶対値が大きい場合、換言すると、検量対象トルク検出器40で検出されたトルク値がリファレンストルク検出器51で検出されたトルク値から離れている場合、検量対象トルク検出器40の校正が必要であること、また、校正量の差分が大きいことが判定される。
(出力部85について)
出力部85から、検量対象トルク検出器40の検量と同時に、リファレンストルク検出器51との差分も出力することで、校正作業を迅速に行うことができるようになる。例えば、外部にある検量対象トルク検出器40の校正装置に、検量の要否、及び、差分の値を出力することで、該トルク検量装置で検量対象トルク検出器40を校正することができる。
(油圧回路について)
図3を参照して、油圧回路の作用について説明する。
一般に、油圧は、一つの供給源からの油圧を複数の油圧機器に分岐にて供給すると、負荷の小さい機器の方へ優先的に供給される。この点について、一対の左上押圧部70LH及び右下押圧部70RLを例にして説明する。
左上押圧部70LHのロッド74及び右下押圧部70RLのロッド74が検量アーム52に接触していないとき、それぞれに供給される油圧によって、各ロッド74が検量アーム52の方向へ進出する。その後、左上押圧部70LHのロッド74又は右下押圧部70RLのロッド74のいずれか一方のロッド74が検量アーム52に接触して負荷が増加することで進出が遅くなる一方、検量アーム52に接触していないロッド74の進出が促進される。そして、左上押圧部70LHのロッド74及び右下押圧部70RLのロッド74がいずれも検量アーム52に接触すると、左上押圧部70LHのロッド74及び右下押圧部70RLのロッド74が検量アーム52を介して押し合うかたちになることから負荷が均等化され、左上押圧部70LH及び右下押圧部70RLに供給される油圧も均等化される。よって、この油圧回路によれば、一つの供給源からの油圧を分岐することによって、加圧装置60の取り付け時に生じた各押圧部70と検量アーム52との各間隔間の距離差にかかわらず、2つの押圧部70が共に検量アーム52に当接した後、2つの押圧部70によって均等に押圧されて軸心Cにトルクがかかる。
この油圧回路で軸心Cに左トルクをかけたいとき、圧力可変型一次調圧弁108に最大圧力を設定するとともに、第2のバルブ105を閉じ、第1のバルブ104を開く。まず、第1のバルブ104を開いた状態で油圧ポンプ100を作動させることでロッド74を進出させる。進出したロッド74が検量アーム52の左上及び右下に当接し、続いて軸心Cに左トルクが徐々に印加される。油圧が、左トルクが目標値になるときの油圧である最大圧力に到達することに応じて、該最大圧力に維持され、トルクの増加が停止する。この状態で、圧力可変型一次調圧弁108に設定している圧力を徐々に下げて「0N・m」に再設定することで、左トルクを減少させて0N・mに到達させる。これにより、左トルクの0N・mから目標値までの往復変化に対応する検量対象トルク検出器40の検量が行える。さらに、当接している検量アーム52の左上及び右下から離間する位置までロッド74を後退させる。これで、軸心Cへの左トルクの印加が終了する。
また、軸心Cに右トルクをかけたいとき、圧力可変型一次調圧弁109に最大圧力を設定するとともに、第1のバルブ104を閉じ、第2のバルブ105を開く。まず、第2のバルブ105を開いた状態で油圧ポンプ100を作動させることでロッド74を進出させる。進出したロッド74が検量アーム52に左下及び右上に当接し、続いて軸心Cに右トルクが徐々に印加される。油圧が、右トルクが目標値になるときの油圧である最大圧力に到達することに応じて、該最大圧力に維持され、トルクの増加が停止する。この状態で、圧力可変型一次調圧弁109に設定している圧力を徐々に下げて「0N・m」に再設定することで、右トルクを減少させて0N・mまで到達させる。これにより、右トルクの0N・mから目標値までの往復変化に対する検量対象トルク検出器40の検量が行える。さらに、当接している検量アーム52の左下及び右上から離間する位置までロッド74を後退させる。これで、軸心Cへの右トルクの印加が終了する。
(受圧部分58について)
図6を参照して、受圧部分58が所定の円周E1上に設けられていることで、一対の受圧部分58の軸心Cからの距離が等しくなる。よって、一対の受圧部分58にそれぞれ等しい力がかかれば軸心Cに好適にトルクが印加されるとともに、トルク以外の力が発生するおそれが軽減される。トルク以外の力は、トルク検出器にトルクとは異なる力を与えてノイズを発生させたり、検出誤差を大きくさせたりするおそれがあるが、トルク以外の力の発生が軽減されることから、トルク検出器による検出精度を安定させることができる。
また、各押圧部70のロッド74は、その先端が球形状であることから、その進退方向と受圧部分58の面との間の直交に多少のずれが生じていても、先端の一点については受圧部分58の面との間で直交関係を維持しつつ受圧部分58の面を押圧するようになる。よって、受圧部分58は、ロッド74からの押圧によって軸心Cに対するトルク以外の力である分力が生じることが抑制される。
(加圧装置60の設置)
図8を参照して、加圧装置60の設置が容易であることについて説明する。加圧装置60の設置時における各ロッド74と各受圧部分58との間隔が規定されているとすると、加圧装置60の設置の都度、各ロッド74と各受圧部分58との間隔が既定値になるように、調整する手間を要する。この場合、加圧装置60の設置のみならず、検量アーム52についても規定通り設置することが必要になる。また、各ロッド74と受圧部分58との間に間隔をあけてはならないとなると、加圧装置60の設置により一層の手間を要することになる。この点、本実施形態では、各押圧部70のロッド74を対応する受圧部分58から離間して設けることができることから、加圧装置60の設置の手間が軽減される。また、各押圧部70のロッド74と対応する受圧部分58との間の各間隔を同様にするなど、規定値に調整する必要もない。これらのことから加圧装置60を検量アーム52に対して設置する手間がより一層軽減される。すなわち、加圧装置60が設置される際、各押圧部70のロッド74が対応する受圧部分58から離間した間隔を有してよいこと、及び、各間隔が相違してもよいことから、検量アーム52が取り付けられた回転軸22に対して該加圧装置60を設置する手間が大きく軽減される。
また、各押圧部70のロッド74は、その先端が球形状であることから、その進退方向と受圧部分58の面との間の直交に多少のずれが生じていても、先端の一点については受圧部分58の面との間で直交関係を維持しつつ受圧部分58の面を押圧する。つまり、受圧部分58との間で分力が生じることが抑制される。これにより、押圧部70は、軸心Cを中心とするトルク以外の力を検量アーム52に印加することが抑制され、リファレンストルク検出器51や検量対象トルク検出器40の検出値にトルク以外の力による誤差等が含まれるおそれが抑制される。すなわち、押圧部70のロッド74の先端が球形状であることによっても、検量アーム52が取り付けられた回転軸22に対して該加圧装置60を設置する手間が軽減される。
(検量を行う手順)
図1〜図9を参照して、本実施形態のトルク検量装置で検量対象トルク検出器40の検量を行う手順について説明する。
まず、検量対象トルク検出器40よりもモータ側に設けられた回転止部35で回転軸22の静止を維持する(回転止工程)。
次に、検量対象トルク検出器40の反モータ側に接続されているエンジン等のトルク測定対象を検量対象トルク検出器40のフランジ47から切り離すとともに、検量部50を設置可能なスペースを確保する(切り離し工程)。このスペースは、図5に示す、検量対象トルク検出器40の反モータ側の回転軸22の延伸方向に必要なスペースで、少なくとも、リファレンストルク検出器51の厚み、検量アーム52の厚み、及びボルトB52の頭部の高さが加算されたスペースである。また、図8に示すように、検量対象トルク検出器40の反モータ側に必要な回転軸22の径方向に必要なスペースは、加圧装置60が配置可能な横幅、及び縦幅からなるスペースである。また、カウンタ40C,50C、演算部80は、配線が可能である任意の場所に設置する必要があるが、配置位置の自由度は高い。また、油圧回路は、配管が可能な任意の場所に設置する必要があるが、これも配置位置の自由度は高い。よって、本実施形態によれば、設置スペースに関する制約が、従来のおもりをぶら下げるスペースや、そのための作業スペースを含まず、検量部50の設置スペースだけになることから機側の電動モータ20に対して検量部50及び加圧装置60を設置できる可能性が高くなる。
図5に示すように、トルク測定対象が接続されていた検量対象トルク検出器40の反モータ側のフランジ47に、回転軸22と同軸にリファレンストルク検出器51を含む検量部50を取り付ける(第1の取り付け工程)。
また、図5に示すように、リファレンストルク検出器51の反モータ側に、回転軸22と同軸に接続される接続部53と、接続部53から延出された腕部55とを有する検量アーム52を取り付ける(第2の取り付け工程)。
検量アーム52の腕部55の周方向に押圧部70を相対向させるように、検量アーム52の腕部55に周方向の押圧力を印加する加圧装置60を設置する(設置工程)。
これにより、加圧装置60が検量アーム52を介して軸心Cに検量用のトルクを加えることができ、軸心Cに加えられたトルクによる検量対象トルク検出器40、及び、リファレンストルク検出器51のそれぞれの出力する測定値が取得できる。
本実施形態では、検量アーム52の腕部55と、加圧装置60の押圧部70のロッド74との間に隙間を有するようにして加圧装置60を設置させることができる。よって、検量する際、まず、油圧を供給することで押圧部70のロッド74を進出させて、腕部55との間の隙間を無くして押圧部70のロッド74を検量アーム52に当接させる(当接工程)。なお、一対の押圧部70は、両方のロッド74が検量アーム52に当接するまでは、回転軸22に充分なトルクを加えないことから、トルクを好適に測定することができない。この点、当接工程で検量アーム52に押圧部70を接触させることで、検量アーム52に適切に検量用の荷重を付与することができる。
軸心Cに左トルクを印加する場合、圧力可変型一次調圧弁108に最大圧力を設定するとともに、油圧回路の第1のバルブ104は開き、第2のバルブ105は閉じる。これにより、一対の押圧部70である左上押圧部70LHのロッド74と、右下押圧部70RLのロッド74とがそれぞれ進出し、検量アーム52に左トルクが印加される。
まず、左トルクを所定のトルク値、例えば「5000N・m」まで増加させ、「5000N・m」になったら、圧力可変型一次調圧弁108を徐々に下げて「0N・m」に再設定して左トルクを「0N・m」まで減少させる。なお、本実施形態では、左トルクは「正のトルク」として測定される。
第1のバルブ104が開き、第2のバルブ105が閉じた状態で油圧ポンプ100が作動されると左トルクが増加する。トルクの増加はなだらかであることが好ましいが、手動ポンプでは階段状に増加する。それでも、おもりの追加で偶力を加えることは容易でなく、また、おもりを追加する間隔を短周期とすることも容易ではなかったことから、油圧ポンプ100の操作による左右均等な加圧により測定値の精度向上や時間短縮が図られるようになる。
そして、所定のトルク値(例えば、5000N・m)に到達した後、油圧ポンプ100の作動を止めたり、第1のバルブ104を閉じたりするとともに、圧力可変型一次調圧弁108が徐々に「0N・m」まで再設定されることで左トルクが減少する。
図9を参照して、リファレンストルク検出器51の測定値に対する検量対象トルク検出器40の測定値の誤差について説明する。なお、リファレンストルク検出器51の測定値は誤差0%の横軸上を移動する様に変化したものとする。
まず、左トルクが増加するとき、誤差はグラフL21又はグラフL31として算出される。一方、左トルクが減少するとき、誤差はグラフL22又はグラフL32として算出される。このとき、グラフL21及びグラフL22で示される誤差は、感度が正常で校正が不要な検量対象トルク検出器40の検量結果であり、すなわち誤差は、横軸に近い位置を移動する。一方、グラフL31及びグラフL32で示される誤差は、感度が変化して校正が必要な検量対象トルク検出器40の検量結果であり、左トルクが増加するほど横軸から離れて誤差が大きくなる。よって、グラフL21及びグラフL22で示される誤差が得られたとき、校正不要と判定される。一方、グラフL31及びグラフL32で示される誤差が得られたとき、校正が必要であると判定される。この判定は、判定用に定めた閾値との比較等で行われる。
次に、軸心Cに右トルクを印加する場合、圧力可変型一次調圧弁109に最大圧力を設定するとともに、油圧回路の第1のバルブ104を閉じ、第2のバルブ105を開く。これにより、一対の押圧部70である左下押圧部70LLのロッド74と、右上押圧部70RHのロッド74とがそれぞれ進出し、検量アーム52に右トルクが印加される。
まず、右トルクを所定のトルク値、例えば「−5000N・m」まで増加させ、「−5000N・m」になったら、圧力可変型一次調圧弁109を「0N・m」まで再設定して右トルクを「0N・m」まで減少させる。なお、本実施形態では、右トルクは「負のトルク」として測定される。
第1のバルブ104を閉じ、第2のバルブ105を開いた状態で油圧ポンプ100が作動されると右トルクが増加する。トルクの増加はなだらかであることが好ましいが、手動ポンプでは階段状に増加する。それでも、左トルクの場合と同様に、油圧ポンプ100の操作による左右均等な加圧により測定値の精度向上や時間短縮が図られるようになる。
そして、所定のトルク値(例えば、−5000N・m)に到達した後、油圧ポンプ100の作動を止めたり、第2のバルブ105を閉じたりするとともに、圧力可変型一次調圧弁109が徐々に「0N・m」まで再設定されることで右トルクが減少する。
図9を参照して、右トルクが増加するとき、誤差はグラフL23又はグラフL33として算出される。一方、右トルクが減少するとき、誤差はグラフL24又はグラフL34として算出される。このとき、グラフL23及びグラフL24で示される誤差は、感度が正常で校正が不要な検量対象トルク検出器40の検量結果であり、すなわち誤差は、感度が変化して横軸に近い位置を移動する。一方、グラフL33及びグラフL34で示される誤差は、校正が必要な検量対象トルク検出器40の検量結果であり、右トルクが増加するほど横軸から離れて誤差が大きくなる。よって、グラフL23及びグラフL24に示される誤差が得られたとき、校正不要と判定される。一方、グラフL33及びグラフL34で示される誤差が得られたとき、校正が必要であると判定される。この判定も、判定用に定めた閾値との比較等で行われる。
校正の要否判定は、左トルクの誤差から左トルクの測定に対する校正の要否を判定することもできるし、右トルクの誤差から右トルクの測定に対する校正の要否を判定することもできる。また、左トルクの誤差又は右トルクの誤差から検量対象トルク検出器40の全領域を校正するか否かを判定してもよい。また、左トルク及び右トルクの誤差の大きさが算出されるので、補正量を算出して出力することもできる。
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)従来、ダイナモメータの設置環境で検量対象トルク検出器40の検量を行うことは、回転軸22に検量用のトルクを与えるための準備、例えば、腕の長い検量アーム52の取り付け、検量アーム52の先端に校正済みの複数のおもりを増減、及び増減作業のための場所の確保等、手間も少なくなかった。
この点、検量対象トルク検出器40にかかるトルクがリファレンストルク検出器51で高精度に測定できるようになる。すなわち、検量対象トルク検出器40の測定値と、リファレンストルク検出器51の測定値とを比較することで、検量対象トルク検出器40の測定値を検量することができる。
また、検量対象トルク検出器40にかけられたトルクがリファレンストルク検出器51で測定されることから、検量アーム52にかける荷重に高い精度は不要となり、おもりによる荷重付加時における重力加速度の値を考慮する必要もない。よって、検量アーム52への荷重のかけ方の自由度が向上する。例えば、荷重のかけ方として、おもりの懸垂の他、牽引、押圧、回転等も選択できる。また、校正されていない力をかけてもよい。また、検量アーム52の長さは、荷重のかけ方に応じて任意の長さを選択できる。
すなわち、機側等の使用環境にある電動モータ20の検量対象トルク検出器40の検量において、周辺環境による検量の規制が小さくできる。よって、機側等の使用環境下にある電動モータ20に設置された検量対象トルク検出器40であれ、その検量対象トルク検出器40の検量が可能になる。
(2)加圧装置60による検量アーム52への加圧が、リファレンストルク検出器51、及び検量対象トルク検出器40に同時かつ同値のトルクとして印加されるとともに、この同時、かつ、同値のトルクがリファレンストルク検出器51及び検量対象トルク検出器40の双方で検出される。このとき、校正済みのリファレンストルク検出器51の出力する測定値を基準値とすることで、基準値に対する検量対象トルク検出器40の出力する測定値に生じているずれを取得することができる。すなわち、検量対象トルク検出器40の測定値を検量することができる。
(3)検量アーム52の大きさを電動モータ20が設置されるスペースに基づいて定めることができる。これにより、必要最小限の省スペースでの検量が可能となる。
(4)軸心Cに対して検量アーム52の片側だけが押圧されると軸心Cにはトルクのみならず、上下方向等の力も発生し、これがリファレンストルク検出器51や検量対象トルク検出器40の測定値に誤差を与えるおそれもある。この点、本実施形態では、検量アーム52において軸心Cに点対称の位置から同じ回転方向に力を加えることで検量対象トルク検出器40やリファレンストルク検出器51に好適にトルクが印加できるとともに、測定値に誤差を生じさせるおそれのあるトルク以外の力の発生が軽減される。よって、リファレンストルク検出器51や検量対象トルク検出器40の測定値のそれぞれの精度が向上するようになり、検量の精度が高められる。
(5)検量アーム52において腕部55を挟んで周方向に相対向する押圧部70は、どちらか一方の押圧部70を選択することにより軸心Cに与えるトルクの方向が選択可能になる。
(6)押圧部70のロッド74(先端)と、腕部55との間に隙間を有するので、検量アーム52の取り付けられた回転軸22に対してであれ、加圧装置60を配置することが容易である。
(7)分流器を介して油圧が印加される一対の押圧部70は、それぞれが検量アーム52を押圧するようになると、それぞれが同等の押圧力を出力する。検量アーム52に押圧力が均等にかかるので検量の精度が高く維持される。また、一対の押圧部70を構成するそれぞれの押圧部70の出力を個別に制御する必要がないため、容易かつ小型な構造でありながら押圧力の均等化が図られる。
(8)枠部62の枠内に検量アーム52が配置されるので同枠内に配置される押圧部70は、腕部55から受ける回転方向への反力に枠部62の枠内で対抗することができる。すなわち、枠部62の枠外方向への反力の発生が抑制され、検量アーム52を介してトルクが加えられる回転軸22にしてもトルク以外の力が印加されることが抑制される。
(第2の実施形態)
図10及び図11を参照して、トルク検量装置の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の実施形態においてポンプを電動ポンプに置換え、さらにハンドル操作される減圧弁、各バルブ、各圧力可変型一次調圧弁が、電動可能な機器に置き換えられた点が第1の実施形態と相違する。
図11に示すように、油圧回路は、油タンクから入力した油を供給すべくモータ131で加圧して出力する電動ポンプ130と、逆止弁101と、モータ132aで減圧値を調整できる減圧弁132と、減圧弁132で減圧調整された油圧が途中で分岐される配管103とを備える。また、油圧回路は、配管103の一方に接続され、モータ133aで開閉可能な第1のバルブ134、及び逆止弁106と、配管103の他方に接続され、モータ134aで開閉可能な第2のバルブ135、及び逆止弁107とを備える。逆止弁106の先には、進出用配管110が接続されているとともに、進出用配管110が2つに分岐したそれぞれの先にそれぞれ押圧部70が接続されている。また、進出用配管110は、その途中にモータ133bで圧力が調整される圧力可変型モータ一次調圧弁138が分岐接続されている。逆止弁107の先には、進出用配管120が接続されているとともに、進出用配管120が2つに分岐したそれぞれの先にそれぞれ押圧部70が接続されている。また、進出用配管120は、その途中にモータ134bで圧力が調整される圧力可変型モータ一次調圧弁139が分岐接続されている。各圧力可変型モータ一次調圧弁138,139は、進出用配管110,120で供給する油圧が最大圧力に設定される。減圧弁132から最大圧力以上の油圧が供給されると、進出用配管110,120で供給される油圧は最大圧力まで上昇し、ロッド74を進出させる。また、各圧力可変型モータ一次調圧弁138,139は、圧力を調整することができるので、進出用配管110,120で供給する油圧が最大圧力に達した後、圧力を低く再設定し、進出用配管110,120で供給する油圧を低下させて、ロッド74を後退させる。
図10に示すように、演算部80Aは、第1の実施形態の演算部80に対して、さらに荷重制御部86を有している点が相違する。荷重制御部86は、リファレンストルク検出器51の測定値に基づくトルク値を参照して、検量のために加える必要があるトルク量を指令値として算出する。具体的に、検量対象トルク検出器40の左トルクを検量する場合、荷重制御部86は、リファレンストルク検出器51で測定されたトルク値に基づいて、左トルクを「0N・m」から「5000N・m」まで所定の増加量で増加させるための指令値を算出する。また、荷重制御部86は、「5000N・m」まで増加させたトルクを、「5000N・m」から「0N・m」まで所定の減少量で減少させるための指令値を算出する。
演算部80Aは、荷重制御部86の算出した指令値を加圧制御部90に出力する。加圧制御部90は、荷重制御部86からの指令値に応じて、各モータ131,132a,133a,133b,134a,134bを駆動制御する。加圧制御部90は、荷重制御部86から左トルク(正のトルク)の印加を指示された場合、第2のバルブ135を閉じ、第1のバルブ134を開くとともに、指令値によるトルクの増減に応じて減圧弁132の設定圧力を変更させる。例えば、左トルクを増加させる場合、圧力可変型モータ一次調圧弁138を最高圧力に設定してから減圧弁132の設定圧力を上昇させる。逆に、左トルクを減少させる場合、第1のバルブ134を閉じたり、電動ポンプ130を止めたりしてから、圧力可変型モータ一次調圧弁138の設定圧力を低くする。
また、加圧制御部90は、荷重制御部86から右トルク(負のトルク)の印加を指示された場合、第1のバルブ134を閉じ、第2のバルブ135を開くとともに、指令値によるトルクの増減に応じて減圧弁132の設定圧力を変更させる。例えば、右トルクを増加させる場合、圧力可変型モータ一次調圧弁139を最高圧力に設定してから減圧弁132の設定圧力を上昇させる。逆に、右トルクを減少させる場合、第2のバルブ135を閉じたり、電動ポンプ130を止めたりしてから、圧力可変型モータ一次調圧弁139の設定圧力を低くする。
これにより、荷重制御部86が左トルクを「0N・m」→「5000N・m」→「0N・m」の順に変更させていくことで検量対象トルク検出器40の左トルクが検量される。同様に、荷重制御部86が右トルクを「0N・m」→「−5000N・m」→「0N・m」の順に変更させていくことで検量対象トルク検出器40の右トルクが検量される。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1の実施形態に記載の効果(1)〜(9)に加えて、以下の効果が得られる。
(10)軸心Cへのトルクの印加を自動的に行うことができるようになるため、検量対象トルク検出器40の検量が容易に行えるようになる。また、印加されるトルクの変動がおもりや、手動ポンプを用いた場合に比べて小さく抑えられるようにもなる。
(第3の実施形態)
図12を参照して、トルク検量装置の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、加圧装置160の枠体161の構成が第1の実施形態の加圧装置60の枠体61と相違する。
例えば、図12(a)に示すように、加圧装置160は、枠体161のリファレンストルク検出器51に対向する部分にリファレンストルク検出器51の直径よりも少しだけ広い開口163を有している。これにより、枠体161の面積が増加し、その剛性が高められる。また、図12(b)に示すように、枠体161の厚みを、例えば第1の実施形態の枠部62の厚みと同様の厚みにする。これにより、枠体161は、アルミニウムを主材料とする枠部62と同様の材料からなるものであれば、第1の実施形態の枠部62よりも高い剛性を有するものになる。
また、加圧装置160は、枠体161のモータ側の面161Aに左上押圧部70LHと右下押圧部70RLとからなる一対の押圧部70と、左下押圧部70LLと右上押圧部70RHとからなる一対の押圧部70を備える。一方、枠体161の反モータ側の面161Bには押圧部70は設けられない。各押圧部70は、その基端が枠体161のモータ側の面161Aに凸設される支持材162によって枠体161に設置されるとともに、ロッド74の進出方向への反力に対する剛性が確保される。加圧装置160は、設置の際、モータ側の面161Aを電動モータ20に向けて、検量アーム52の方向に移動され、上下の押圧部70の間に検量アーム52の受圧部57を配置させ、加圧装置160をボルト等で加圧装置固定台11に固定する。これにより、加圧装置160は、検量アーム52に検量用のトルクを印加することができる。
本実施形態では、押圧部70から発生する押圧力に対抗する剛性を枠板からなる枠体161によって確保することで、第1の実施形態の枠部62とこれを挟む枠板63,64からなる枠体61に比べて、該枠体161を簡単な構造とすることができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1の実施形態に記載の効果(1)〜(9)に加えて、以下の効果が得られる。
(11)加圧装置160の構造を簡単にすることができる。
(第4の実施形態)
図13を参照して、トルク検量装置の第4の実施形態について説明する。本実施形態は、加圧装置60Aに一対となる押圧部70が1組だけ設けられている構成であることが第1の実施形態の加圧装置60と相違する。
図13に示すように、加圧装置60Aは、2つの押圧部70を有している。検量アーム52の左上及び右下にそれぞれ1つの押圧部70を配置させている。加圧装置60Aは、2つの押圧部70を、回転軸22の軸心Cを点対称にする一対の押圧部70としている。本実施形態では、左上押圧部70LHと右下押圧部70RLとで一対の押圧部70を構成している。
検量アーム52に左トルクを印加するとき、図13に示すように、一対の押圧部70が左上と右下とに配置されるように加圧装置60Aを加圧装置固定台11にボルトB65で固定する。一方、検量アーム52に右トルクを印加するとき、図13に示すように配置された加圧装置60Aを鉛直方向を軸に180°反転させて、一対の押圧部70が左下と右上とに配置されるように加圧装置60Aを加圧装置固定台11にボルトB65で固定する。すなわち、一対の押圧部70が検量アーム52に右トルクを印加するように配置される。これにより、押圧部70が2つの加圧装置60Aであれ、おもりを加減する作業を行うことに比べて、左トルクの印加、右トルクの印加が容易に行えるようになる。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1の実施形態に記載の効果(1)〜(9)に加えて、以下の効果が得られる。
(12)加圧装置60Aの構造を簡単にすることができる。また、軽量化も行えるようになる。また、油圧回路も簡単になるので設置の手間が軽減されるようになる。
(その他の実施形態)
なお上記各実施形態は、以下の態様で実施することもできる。
・上記各実施形態では、回転止部35が電動モータ20の負荷側であって、カップリング30に対応する位置に設けられている場合について例示した。しかしこれに限らず、回転止部は、校正対象トルク検出器及びリファレンストルク検出器の回転を止めることができるのであれば、校正対象トルク検出器よりも電動モータ側のいずれの位置に設けられていてもよい。例えば、回転止部は、電動モータの負荷側や、電動モータ内や、電動モータの反負荷側に設けられていてもよい。
・上記各実施形態では、検量アーム52は板状部材である場合について例示したが、これに限らず、検量アームは、変形することなく加圧装置から印加される力を回転軸にトルクとして与えることができるのであれば、中央に接続部を有する棒部材や管部材等、板状以外の形状であってもよい。
・上記各実施形態では、各部品の締結にボルトを用いる場合について例示した。しかしこれに限らず、部品同士が回転軸の軸心に芯を合わせて固定等できるのであれば、溶接や嵌合等ボルト以外の方法により締結されてもよい。
・上記各実施形態では、加圧装置60を軽量化する場合について例示したが、軽量化しなくてもスペースの縮小等が図られる。
・上記各実施形態では、枠体61がアルミニウムを主材料とする場合について例示したが、その他の金属を主材料としてもよいし、エンジニアリングプラスチック等の樹脂を主材料としてもよい。
・上記各実施形態では、左トルクの誤差、及び、右トルクの誤差を検出する場合について例示した。しかしこれに限らず、左トルク又は右トルクの誤差のみを検出してもよい。例えば、検量対象トルク検出器が左右トルクの誤差に相関関係があるのであれば、いずれか一方の誤差に基づいて校正することができる。また検量対象トルク検出器から左右トルクのいずれか一方しか検出しないのであれば、一方の検出誤差に基づいて校正すればよい。
・上記各実施形態では、第1の取り付け工程と第2の取り付け工程とが設けられる場合について例示した。このとき、第1の取り付け工程と第2の取り付け工程とは、この順番であってもよいし、逆の順番、すなわち、検量アームの取り付けられたリファレンストルク検出器を検量対象トルク検出器の反モータ側のフランジに取り付けてもよい。この順番は、検量アームとリファレンストルク検出器との連結方法、リファレンストルク検出器と検量対象トルク検出器の反モータ側のフランジとの連結方法に応じた適切な順番とすることができる。
・上記第1,2,4の実施形態では、枠板63,64が下枠部62Bの中央部分に設けられていない場合について例示したがこれに限らず、枠板は枠部の全周に渡って設けられていてもよい。例えば、枠板の削減による軽量化が必要ないとき、枠板が枠部の全周に渡って設けられていてもよい。
・上記第1,2,4の実施形態では、枠体61が、枠部62とこれを挟む枠板63,64とから構成される場合について例示した。しかし、これに限らず、押圧部から発生する押圧力に対する剛性が確保されるのであれば、枠体の形状は、枠部だけであって枠板がなくてもよいし、枠部が太くてもよい。逆に、枠板だけであって枠部がなくてもよい。
・上記各実施形態では、押圧部70はスプリングリターン式の単動シリンダである場合について例示した。しかしこれに限らず、押圧部は、必要な押圧力を適宜出力できるのであれば、復動シリンダであってもよい。
・上記各実施形態では、各押圧部70は油圧で作動する場合について例示した。しかしこれに限らず、押圧部が、電動式や機械式に作動してもよい。このとき、押圧部が一対である場合、それぞれの押圧部が検量アームへ均等に圧力を印加できるように調整できるとなおよい。
・上記第1の実施形態では、左トルクを印加する一対の押圧部70と右トルクを印加する一対の押圧部70とが設けられており、上記第4の実施形態では、左トルク又は右トルクを印加する一対の押圧部70が設けられている場合について例示した。しかしこれに限らず、力の伝達ロスやトルク検出器の検出値の精度低下が許容できる範囲に収まるのであれば、一対の押圧部が、検量アームの一方の腕部だけに該腕部を挟んで配置されてもよいし、検量アームの上下の一方だけに回転軸を挟んで配置されてもよい。すなわち、検量アームに対向する一対の押圧部のうち、どちらか一方の押圧部を選択することにより回転軸に与えるトルクの方向が選択可能になる。
・上記各実施形態では、一対の受圧部分58は、回転軸22の軸心Cに対して点対称となる位置にある場合について例示した。しかしこれに限らず、一対の受圧部分が回転軸の軸心に対して点対称となる位置に設けられていなくてもよい。力の伝達ロスやトルク検出器の検出値の精度低下が許容できる範囲に収まるのであれば、一対の受圧部分は、回転軸の軸心を挟んで左右となる位置に配置されていれば回転軸にトルクを伝達することは可能である。
・上記各実施形態では、検量アーム52の全長の長さL2は、反モータ側からみた電動モータ20の水平方向幅の1.5倍以下であることが好ましい場合について例示した。しかしこれに限らず、電動モータの周囲に検量用のスペースを確保することができるのであれば、検量アームの全長の長さが1.5倍よりも長くてもよい。なお、検量アームの全長の長さは加圧装置の大型化が許容できる範囲であることが好ましい。
・上記各実施形態では、検量対象トルク検出器40やリファレンストルク検出器51がフランジ型高剛性トルク検出器である場合について例示した。しかしこれに限らず、検量対象トルク検出器やリファレンストルク検出器は、電磁誘導位相差方式トルク検出器や、電磁歯車位相差方式トルク検出器等のトーションバーを用いたトルク検出器であってもよい。
例えば、図14に示すように、回転軸22に嵌合されたモータ軸端30Aのフランジ32に、カップリング140を介して、検量対象トルク検出器40Aが接続されている。検量対象トルク検出器40Aは電磁誘導位相差方式トルク検出器である。検量対象トルク検出器40Aは、モータ側フランジ41Aにカップリング140が同軸に連結され、反モータ側フランジ47Aに検量部50が同軸に接続されている。検量対象トルク検出器40Aは、モータ側フランジ41Aと反モータ側フランジ47Aとの間にトルク伝達軸を有するトルク検出部42Aを備える。すなわち、検量対象トルク検出器40Aの測定値が、検量部50により検量される。
・上記各実施形態では、トルク検量装置は検量部50及び加圧装置60を含んで構成される場合について例示したが、これに限らず、トルク検量装置は少なくとも検量部を含んで構成されてもよい。例えば、ダイナモメータに取り付けたままの検量対象トルク検出器に、同軸にリファレンストルク検出器と検量アームとを連結させた構成であってもよい。これによっても、検量アームへの加圧の構成の自由度が高められる。例えば、このとき、おもりを利用したとしても、おもりの校正が不要になり、おもりの数等の自由度の向上が図られる。
・上記各実施形態では、電動モータ20の回転軸22に近い位置においてトルクが検量される場合について例示した。しかしこれに限らず、トルクを検出する必要があるのであれば、内燃機関の軸に近い位置においてトルクが検出されてもよいし、回転油圧シリンダの軸に近い位置においてトルクが検出されてもよい。
・上記各実施形態では、ダイナモトルクメータの計測対象が車両用の内燃機関であるエンジンである場合について例示した。しかしこれに限らず、ダイナモトルクメータの計測対象は、電動モータや油圧回転シリンダ等の内燃機関以外の駆動装置であってもよい。また、エンジンは、工業用や土木用に設置されるエンジン等、車両用以外のエンジンであってもよい。
・上記各実施形態では、トルク検量装置は、ダイナモメータに取り付けられている検量対象トルク検出器40の測定値を検量する場合について例示した。しかしこれに限らず、トルク検量装置は、シャシダイナモメータや、その他トルク計測が必要な装置、例えば一般機械や輸送機械等に取り付けられているトルク検出器の測定値を検量するようにしてもよい。