JP6817018B2 - ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関し、詳しくは、機械的物性と耐湿熱性に優れ、モールドデポジットによる金型汚染の問題がないポリカーボネート樹脂組成物を生産効率良く製造する方法に関する。
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械的物性、電気的特性に優れた樹脂であり、例えば自動車材料、電気電子機器材料、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料等に幅広く利用されている。また、他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイが数多く開発されており、中でもABS樹脂に代表されるスチレン系樹脂とのポリマーアロイは、低コスト化とポリカーボネート樹脂の成形加工性、耐衝撃性がより改善され、各種コンピューター、パソコン、各種携帯端末、プリンター、複写機等の電気電子機器やOA情報機器等の部品として広く使用されている。
ポリカーボネート/スチレン系樹脂組成物に使用するABS樹脂としては、コスト面や多品種への対応、高ゴム化での品質改良が容易という点から乳化重合により製造されたものが使用されるケースが多いが、その一方で特許文献1にも記載されているように、耐湿熱性に優れるという理由から、塊状重合により製造されたものが使用されることもある(同文献、請求項8及び段落[0024]を参照。)。
塊状重合によるスチレン系樹脂は高価であり、低コスト化のためには乳化重合品を使用することが考えられるが、乳化重合スチレン系樹脂を配合したポリカーボネート樹脂組成物は耐湿熱性が確実に劣るという欠点を有する。さらに成形時には、モールドデポジットによる金型汚染が著しく、またガス発生量が多いという問題がある。
かかる問題点は乳化重合で使用された乳化剤由来の成分やスチレン系樹脂に残存するオリゴマー成分に起因しているものと考えられ、その機構の解明は十分ではないが、乳化剤由来の成分がポリカーボネート樹脂の加水分解に影響を及ぼし耐湿熱性を低下させ、またオリゴマー成分は金型汚染やガス発生を起こしているものと考えられる。
乳化重合ABS樹脂は、通常、乳化剤として主に高級脂肪酸石鹸やロジン酸石鹸を用い、ブタジエンを水溶性重合開始剤にて乳化重合を行い、重合体ラテックスを得、次いで、この重合体粒子と乳化剤の存在下、スチレンとアクリロニトリル等の重合を行うことによりABS系重合体ラテックスを得、これに無機酸や二価金属塩等の凝固剤を加えて重合体を分離し、これを洗浄、乾燥して製造される。経済性の観点から、洗浄工程では完全な乳化剤の除去は行われず、抜けきらなかった乳化剤は製品中に残存することになる。
使用する乳化重合ABS樹脂原料を予め十分に洗浄することが考えられるが、水やメタノール等の有機溶媒で徹底した洗浄を行っても樹脂中に取り込まれた乳化剤成分は容易には除去できないことが判明した。
特開2001−64502号公報
本発明の目的(課題)は、耐湿熱性とモールドデポジットの問題が解決した、乳化重合スチレン系樹脂含有のポリカーボネート樹脂組成物を生産効率良く製造する方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、乳化重合スチレン系樹脂とポリカーボネート樹脂とからポリカーボネート樹脂組成物を製造するに際し、乳化重合スチレン系樹脂をベント付二軸押出機に供給して特定以上の樹脂温度となるように溶融混練し、ベント口でガス成分を減圧脱揮した後に押出し、冷却、カッティングして得られた精製乳化重合スチレン系樹脂(B)のペレットを用い、これをポリカーボネート樹脂(A)と共にベント付二軸押出機に供給して再度溶融混練することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
[1]ポリカーボネート樹脂(A)60〜95質量%及び乳化重合スチレン系樹脂(B)40〜5質量%を含むポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、
乳化重合スチレン系樹脂をベント付二軸押出機に供給して300℃以上の樹脂温度となるように溶融混練し、ベント口でガス成分を減圧脱揮した後に押出し、押出されたストランド状の樹脂を冷却、カッティングして得られた精製乳化重合スチレン系樹脂(B)のペレットを、
ポリカーボネート樹脂(A)と共にベント付二軸押出機に供給し、溶融混練することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[2]前記ガス成分が、乳化剤に由来するガス成分を含む上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[3]前記ベント式二軸押出機が水注入部とベント口を多段で有する押出機であり、水の注入と減圧脱揮を多段で行う上記[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法で得られたポリカーボネート樹脂組成物ペレット。
[5]上記[4]に記載の樹脂組成物ペレットを成形してなる成形品。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、機械的物性と耐湿熱性に優れ、モールドデポジットによる金型汚染の問題がないポリカーボネート樹脂組成物を生産性良く製造することができる。
実施例における金型汚染の評価に使用したしずく型金型の平面図である。
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定して解釈されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」とは、特に断りのない限り、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。また、「ppm」とは、特に断りのない限り、質量ppmを意味する。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、ポリカーボネート樹脂(A)60〜95質量%及び乳化重合スチレン系樹脂(B)40〜5質量%を含むポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、
乳化重合スチレン系樹脂をベント付二軸押出機に供給して300℃以上の樹脂温度となるように溶融混練し、ベント口でガス成分を減圧脱揮した後に押出し、押出されたストランド状の樹脂を冷却、カッティングして得られた精製乳化重合スチレン系樹脂(B)のペレットを、
ポリカーボネート樹脂(A)と共にベント付二軸押出機に供給し、溶融混練することを特徴とする。
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明において使用するポリカーボネート樹脂(A)としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂が挙げられるが、好ましくは、芳香族ポリカーボネート樹脂であり、具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体が用いられる。
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。また、難燃性向上の為に、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物や、シロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有ポリマー、又はそのオリゴマーを用いてもよい。
ポリカーボネート樹脂(A)の好ましい例としては、ジヒドロキシ化合物として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、即ちビスフェノールA、又はビスフェノールAと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とを併用したポリカーボネート樹脂が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂は、1種の繰り返し単位からなる単独重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、制限はないが、粘度平均分子量(Mv)で、好ましくは10000〜40000、より好ましくは14000〜32000である。粘度平均分子量がこの範囲であると、得られる樹脂組成物の成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品が得られやすい。ポリカーボネート樹脂(A)の最も好ましい粘度平均分子量の範囲は16000〜30000である。
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用いて、20℃にて、ポリカーボネート樹脂のメチレンクロライド溶液の粘度を測定し極限粘度([η])を求め、次のSchnellの粘度式から算出される値である。
[η]=1.23×10−4Mv0.83
ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)及び溶融法(エステル交換法)のいずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、溶融法で製造したポリカーボネート樹脂に、末端のOH基量を調整する後処理を施したポリカーボネート樹脂も好ましい。
また、ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
また、ポリカーボネート樹脂(A)は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂の使用も可能である。使用済みの製品としては、光ディスクなどの光記録媒体、導光板、自動車窓ガラスや自動車ヘッドランプレンズ、風防などの車両透明部材、水ボトルなどの容器、メガネレンズ、防音壁やガラス窓、波板などの建築部材などが好ましく挙げられる。また、再生ポリカーボネート樹脂としては、製品の不適合品、スプルー、またはランナーなどから得られた粉砕品、またはそれらを溶融して得たペレットなども使用可能である。
[乳化重合スチレン系樹脂(B)]
本発明に使用される乳化重合スチレン系樹脂(B)は、乳化剤を用いた乳化重合により製造された乳化重合品を使用する。
乳化重合スチレン系樹脂(B)の量は、(A)と(B)の合計100質量%基準で、40〜5質量%であり、ポリカーボネート樹脂(A)は主成分であって60〜95質量%である。スチレン系樹脂(B)の量が5質量%未満では成形時の流動性が不十分であり、成形加工性が低下してしまう。スチレン系樹脂体(B)の含有量が40質量%を超えると機械的強度や耐熱性が劣ることとなる。スチレン系樹脂(B)の量は、好ましくは35質量%以下であり、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。
乳化重合スチレン系樹脂(B)としては、スチレン系単量体−シアン化ビニル系単量体及び/叉はアルキル(メタ)アクリレート系単量体−ゴム質重合体からなる乳化重合グラフト共重合体が使用される。
スチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等のスチレン誘導体が挙げられ、特にスチレンが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらのスチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体としては、シアン化ビニル系単量体及び/又はアルキル(メタ)アクリレート系単量体が好ましく挙げられる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」と「メタアクリレート」の一方又は双方をさす。「(メタ)アクリル」「(メタ)アクリロ」についても同様である。
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等が挙げられ、アクリロニトリルが最も好ましく用いられる。これらは、1種又は2種以上用いることができる。
アルキル(メタ)アクリレート系単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等のアクリル酸のアルキルエステル;
フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸アリールエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;
グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリル酸エステル;フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸のアリールエステル等が挙げられる。
これらは、1種又は2種以上用いることができる。
これらの中でも、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルが好ましい。
上記以外の共重合可能な他のビニル単量体としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα、β−不飽和カルボン酸及びその無水物等が挙げられる。
これらのビニル単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、スチレン系単量体と共重合可能なゴム質重合体としては、ガラス転移温度が10℃以下のゴムが適当である。このようなゴム質重合体の具体例としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン・プロピレンゴム、シリコンゴム等が挙げられ、好ましくは、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム等が挙げられる。
ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンランダム共重合体及びブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体等のブタジエン−(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体、ポリイソプレン、エチレン−イソプレン共重合体、ブタジエン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキサジエン共重合体等のエチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー、ブタジエン−スチレン−(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体等が挙げられる。
アクリル系ゴムとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステルゴムが挙げられ、ここで、アルキル基の炭素数は好ましくは1〜8である。アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル等が挙げられる。アクリル酸アルキルエステルゴムには、任意に、エチレン性不飽和単量体が用いられていてもよい。そのような化合物の具体例としては、ジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。アクリル系ゴムとしては、更に、コアとして架橋ジエン系ゴムを有するコア−シェル型重合体が挙げられる。
乳化重合スチレン系樹脂(B)の好ましい具体例としては、乳化重合による、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエンゴム−スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエンゴム共重合体(MB樹脂)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)−スチレン共重合体(AES樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン−α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン−N−フェニルマレイミド共重合体等が挙げられるが、これらのうち、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエンゴム−スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS樹脂)が耐湿熱性向上、成形時の金型汚染低減効果の面から好適に用いられ、特に好ましくはABS樹脂である。
なお、乳化重合スチレン系樹脂(B)は単独でも2種以上混合して使用することもできる。
本発明において、スチレン系樹脂(B)は、乳化重合によって製造された乳化重合品を使用するが、乳化重合スチレン系樹脂を製造する方法は公知であり、公知の方法で製造するか、あるいは市販の乳化重合品を使用することでもよい。
乳化重合によりスチレン系樹脂(B)を製造する方法として、ABS樹脂を例に説明すると、その一般的な方法は以下の通りである。
乳化剤としては、通常、好ましくはアビエチン酸の塩であるロジン酸石鹸や炭素数12〜32の飽和若しくは不飽和脂肪酸の塩である高級脂肪酸石鹸を使用し、ジエン系単量体をペルオキソ二硫酸カリウム、α−クミルヒドロペルオキシド等の水溶性重合開始剤を用いて乳化重合を行い、重合体ラテックスを得る。次に、この重合体粒子と芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体を更なる乳化剤の存在下で重合することにより重合体ラテックスを得、これに無機酸や二価の金属塩等の凝固剤を加えてABS樹脂を分離し、洗浄、乾燥する。
前述したように、洗浄工程では経済性を無視してまで乳化剤の完全除去は行われないので、乳化重合ABS樹脂には、上記した乳化剤またはそれに由来する成分が残存しており、アビエチン酸及び/又は高級脂肪酸あるいはその塩が乳化重合品には含有され、このような乳化剤由来の成分が、ポリカーボネート樹脂の加水分解に影響を及ぼし耐湿熱性を低下させたり、また、乳化重合スチレン系樹脂には、オリゴマーが残存しており、このオリゴマー成分が成形時にはガスを発生して、モールドデポジットとなり金型汚染を引き起こすものと考えられる。
上記高級脂肪酸としては好ましくは炭素数12〜32の飽和若しくは不飽和脂肪酸であり、その代表的なものとしては、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等が好ましく挙げられ、塩としては、アルカリ金属塩、特にナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が好ましく挙げられる。
アビエチン酸及び/又は高級脂肪酸あるいはその塩は、そのままでは得られる樹脂組成物中にガス発生成分として存在することとなり、成形時にはガスを発生して、モールドデポジットとなり金型汚染を引き起こすこととなり、また、ポリカーボネート樹脂の加水分解に影響を及ぼし耐湿熱性を低下させる。
また、乳化重合スチレン系樹脂には、オリゴマーが残存しており、オリゴマー成分は金型汚染やガス発生を起こしているものと考えられる。オリゴマーとしては、特に制限されるものではないが、前記したスチレン系樹脂(B)を構成するための単量体、例えば、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、アルキル(メタ)アクリレート系単量体等のオリゴマーが挙げられる。
本発明の方法において、さらに乳化重合スチレン系樹脂(B)以外の他のスチレン系樹脂(C)を配合してもよい。他のスチレン系樹脂(C)を配合する場合の量は、具体的にはポリカーボネート樹脂(A)、乳化重合スチレン系樹脂(B)及び他のスチレン系樹脂(C)の合計100質量%基準で、ポリカーボネート樹脂(A)60〜95質量%、乳化重合スチレン系樹脂(B)40〜5質量%、乳化重合スチレン系樹脂以外の他のスチレン系樹脂(C)0〜30質量%であることが好ましい。
乳化重合スチレン系樹脂(B)以外の他のスチレン系樹脂(C)としては、懸濁重合又は塊状重合スチレン系樹脂が好ましく、懸濁重合AS樹脂又は塊状重合ABS樹脂が特に好ましい。
懸濁重合AS樹脂は、アクリロニトリルとスチレンを懸濁重合した共重合体であり、他の成分を含んでいてもよい。AS樹脂を構成するモノマーのうち、アクリルニトリルが10〜50モル%を占めることが好ましく、15〜40モル%を占めることがより好ましい。また、AS樹脂を構成するモノマーのうち、スチレンが50〜90モル%を占めることが好ましく、60〜85モル%を占めることがより好ましい。
塊状重合ABS樹脂は、スチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体と共重合可能なゴム質重合体を共重合した樹脂であり、好ましくは、スチレン系単量体成分40〜80質量%、シアン化ビニル系単量体成分10〜30質量%、ジエン系ゴム質重合体成分10〜30質量%及びその他の共重合可能なビニル系単量体成分0〜30質量%からなる。
これらスチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、ジエン系ゴム質重合体、及び、その他の共重合可能なビニル系単量体としては、乳化重合スチレン系樹脂(B)において記載したものと同様のものを使用することができる。
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、ポリカーボネート樹脂(A)60〜95質量%及び乳化重合スチレン系樹脂(B)40〜5質量%を含むポリカーボネート樹脂組成物を製造する際に、まず予め乳化重合スチレン系樹脂をベント付二軸押出機に供給して300℃以上の樹脂温度となるように溶融混練し、ベント口でガス成分を減圧脱揮した後に押出し、押出されたストランド状の樹脂を冷却、カッティングして得られた精製乳化重合スチレン系樹脂(B)のペレットを得る。そして、得られた精製乳化重合スチレン系樹脂(B)のペレットを、ポリカーボネート樹脂(A)と共にベント付二軸押出機に供給し、溶融混練することを特徴とする。
このような方式を採用することにより、機械的物性と耐湿熱性に優れ、モールドデポジットによる金型汚染の問題がないポリカーボネート樹脂組成物を、生産性良く極めて効率的に製造することができる。
本発明の製造方法において、精製乳化重合スチレン系樹脂ペレットを製造するため、原料乳化重合スチレン系樹脂を溶融混練する押出機としては、減圧ベント口を有するベント付二軸押出機を用いる。ベント付二軸押出機としては、スクリュー回転が同方向、異方向のどちらも使用できるが、乳化重合スチレン系樹脂(B)中のガス発生成分を効率良く除去するのには、同方向回転二軸押出機が好適である。
ベント付二軸押出機には最上流の根元部に原料供給口、その下流にはベント口が設置されている。乳化重合スチレン系樹脂(B)は原料供給口から供給される。乳化重合スチレン系樹脂(B)は押出機内で加熱溶融されるが、この際の樹脂温度は300℃以上とする。樹脂温度を300℃以上とすることにより、乳化重合スチレン系樹脂(B)中の乳化剤等のガス成分あるいはオリゴマー成分等の脱揮が不十分となりやすい。樹脂温度の上限は好ましくは360℃以下であり、より好ましくは350℃以下、さらに好ましくは340℃以下であることが好ましい。このような樹脂温度に溶融混練した後、ベント口に繋がる減圧膨張域となり、ベント口に真空ポンプを接続して減圧ベントすることによって、乳化重合スチレン系樹脂(B)を減圧下で脱揮することができる。
ベント付二軸押出機は最上流の根元部の原料供給口(第1の原料供給口)以外に、その下流側にさらに原料供給口(第2の原料供給口)を有していてもよい。
また、押出機のスクリューのL/Dとしては、10〜80が好ましく、より好ましくは15〜70である。短すぎると脱気が不足しやすく、長すぎると色調が悪化しやすい。
ベント口を設置する位置として、乳化重合スチレン系樹脂(B)の溶融部であればよい。また、ベント口は所望により2つ以上設けても良い。
減圧ベントの真空度は、50mmHg以下であることが好ましく、より好ましくは30mmHg以下、さらには25mmHg以下が好ましい。
また、発生ガス量低減の効果をさらにより高めるためには、乳化重合スチレン系樹脂(B)を溶融混練する際に水を注入することが好ましい。
この場合、押出機には最上流の根元部の第1の原料供給口、或は第2の原料供給口の下流には水を注入する注入口が、さらに下流にはベント口が設置される。乳化重合スチレン系樹脂(B)は原料供給口から供給され、スチレン系樹脂(B)は押出機内で加熱溶融された後、樹脂充満域に設けた水注入口からポンプにて水が注入され混練される。注入された水は乳化重合スチレン系樹脂(B)中に分散される。この注水分散域には、下流にシールリングを設けて圧力を上昇させることが好ましい。
シールリングを通過するとベント口に繋がる減圧膨張域となり、スチレン系樹脂(B)中に分散した水は減圧下で発泡させられる。ベント口に真空ポンプを接続して減圧ベントすることによって、乳化重合スチレン系樹脂(B)を減圧下で発泡させ、拡散する表面積を増加させ、揮発成分の分圧を下げることにより平衡濃度を低下させ、脱揮をより促進することができる。ベント口を設置する位置として、乳化重合スチレン系樹脂(B)の溶融部であればよい。また、ベント口は所望により2つ以上設けても良い。
水注入する場合の減圧ベントの真空度は、50mmHg以下であることが好ましく、より好ましくは30mmHg以下、さらには25mmHg以下が好ましい。
ベント式二軸押出機は、好ましくは水注入部とベント口を多段で有しており、水の注入と減圧脱揮を多段で行うことが好ましい。この場合には、先ず1段目で、乳化重合スチレン系樹脂(B)を第1の原料供給口から供給し、前記樹脂温度に加熱溶融した後、水注入、混練し、減圧ベントによって脱揮したのち、下流側の2段目で、さらに水注入と混練、減圧ベントを行う。この2段目の水注入と減圧脱揮の工程は複数あってもよい。
水の注入量は、乳化重合スチレン系樹脂(B)の100質量%に対し、0.01〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、さらには0.5質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらには2質量%以下、特に1質量%以下が好ましい。水の注入量が0.01質量%以下であるとガス発生成分の除去が不十分となりやすく、5質量%を超えるとポリマーの物性低下を招きやすい。
次に、乳化重合スチレン系樹脂(B)は、押出機のダイからストランド状に押出され、冷却される。押出ダイの形状は特に制限はなく、公知のものが使用される。吐出ノズルのダイの直径は、押出し圧、所望するペレットの寸法にもよるが、通常2〜5mm程度である。
ストランドは、引き取りローラーによって引き取られ、冷却される。冷却は好ましくは冷却槽に溜められた水中を搬送されるようにして、冷却される。
このように冷却されたストランドは、引き取りローラーによりペレタイザーに送られ、カッティングしてペレット化され、精製された乳化重合スチレン系樹脂(B)のペレットを得る。得られた精製乳化重合スチレン系樹脂(B)はガス成分やオリゴマー成分量が低減された精製度の高いペレットとなる。
得られた精製乳化重合スチレン系樹脂(B)のペレットは、もう一方の原料であるポリカーボネート樹脂(A)と共にベント付二軸押出機に供給され、溶融混練して、ポリカーボネート樹脂組成物(ペレット)を製造する。
ベント付二軸押出機に供給する乳化重合スチレン系樹脂(B)の量は、ポリカーボネート樹脂(A)との合計100質量%基準で、40〜5質量%であり、ポリカーボネート樹脂(A)は60〜95質量%である。
上記で得られた精製乳化重合スチレン系樹脂(B)のペレットは、ポリカーボネート樹脂(A)及び、所望により乳化重合スチレン系樹脂以外の他のスチレン系樹脂(C)あるいは他の原料成分と共に、押出機にて溶融混練される。
また、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練することもできる。また、一部の成分を予め混合したマスターバッチとし、残りの成分と混合し、溶融混練することもできる。
溶融混練する押出機としては、ベント付二軸押出機を用いる。ベント付二軸押出機としては、スクリュー回転が同方向、異方向のどちらも使用できるが、ガス発生成分等をさらに除去するのには、同方向回転二軸押出機が好適である。
また、ベントの数は1箇所でも2箇所以上であってもよい。
また、水注入を行ってもよく、水注入する箇所は2箇所以上あってもよい。
ベント付二軸押出機内で加熱溶融される際の樹脂温度は、好ましくは240〜350℃であり、より好ましくは250〜320℃、さらに好ましくは260〜300℃であることが好ましい。樹脂温度が240℃以下になると供給したポリカーボネート樹脂(A)中のガス成分の脱揮が不十分となり好ましくない。一方、320℃以上となるとポリカーボネート樹脂の分解が進行し機械物性の低下や色相悪化を招くため好ましくない。
ベント付二軸押出機は最上流の根元部の原料供給口(第1の原料供給口)以外に、その下流側にさらに原料供給口(第2の原料供給口)を有していてもよい。
また、押出機のスクリューのL/Dとしては、10〜80が好ましく、より好ましくは15〜70である。
ベント口を設置する位置として、乳化重合スチレン系樹脂(B)の溶融部であればよい。減圧ベントの真空度は、50mmHg以下であることが好ましく、より好ましくは30mmHg以下、さらには25mmHg以下が好ましい。
次に、溶融混練された樹脂組成物は、押出機のダイからストランド状に押出され、冷却され、カッティングされて、ポリカーボネート樹脂組成物(ペレット)を得る。
[安定剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法においては、安定剤を配合することが好ましく、安定剤としてはリン系安定剤やフェノール系安定剤が好ましい。
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族又は第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP−10」、城北化学工業社製「JP−351」、「JP−360」、「JP−3CP」、BASF社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
なお、リン系安定剤は、1種が配合されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で配合されていても良い。
リン系安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)と乳化重合スチレン系樹脂(B)の合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量以下、より好ましくは0.5質量部以下である。リン系安定剤の量が前記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、リン系安定剤の量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
フェノール系安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げられる。
なお、フェノール系安定剤は、1種が配合されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で配合されていても良い。
フェノール系安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)と乳化重合スチレン系樹脂(B)の合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。フェノール系安定剤の量が前記範囲の下限値未満の場合は、フェノール系安定剤としての効果が不十分となる可能性があり、フェノール系安定剤の量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
[離型剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法においては、離型剤を配合することが好ましい。
離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族1価、2価又は3価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で、好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の1価又は2価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が更に好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。係るアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで、脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが更に好ましい。数平均分子量は、好ましくは200〜5000である。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であればよい。
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。これらは2種類以上を併用してもよい。
離型剤を用いる場合、ポリカーボネート樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)の合計100質量部に対して、通常0.05〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。離型剤の量が上記下限値以上であると離型性改善の効果を十分に得ることができ、上記上限値以下であると離型剤の過剰配合による耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などの問題を防止することができる。
[着色剤(染顔料)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法では、着色剤(染顔料)を配合することも好ましい。
着色剤(染顔料)としては、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;亜鉛華、弁柄、酸化クロム、酸化チタン、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料が挙げられる。
有機顔料及び有機染料としては、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。これらの中では、熱安定性の点から、カーボンブラック、酸化チタン、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。
着色剤(染顔料)を配合する場合、着色剤(染顔料)の量は、ポリカーボネート樹脂(A)と乳化重合スチレン系樹脂(B)の合計100質量部に対して、通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。着色剤(染顔料)の量が5質量部を超える場合は耐衝撃性が十分でない場合がある。
[その他の成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法においては、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外にその他の成分を配合することも好ましい。その他の成分の例を挙げると、上記した以外の樹脂、上記した以外の各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種、または2種以上が任意の組み合わせ及び比率で配合されていても良い。
<その他の樹脂>
その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂、各種のエラストマー等が挙げられる。
なお、その他の樹脂は、1種が配合されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で配合されていても良い。
<樹脂添加剤>
樹脂添加剤としては、例えば、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が配合されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で配合されていても良い。
[ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明の方法で得られるポリカーボネート樹脂組成物は、前記したように、乳化重合スチレン系樹脂(B)を40〜5質量%含有していながら、樹脂組成物を280℃、10分間加熱した際の合計ガス量がデカン質量に換算して、好ましくは3000質量ppm以下とすることが可能となる。合計ガス量は、好ましくは2700質量ppm以下であり、より好ましくは2500質量ppm以下であり、その好ましい下限は500質量ppmである。500質量ppm未満となると成形時の離型性が極端に悪化したり、成形品の外観、特に表面光沢性が損なわれやすいため好ましくない。
また、この中、乳化剤に由来するガスの発生量がデカン質量に換算して、1000質量ppm以下であることも可能となる。1000質量ppm以下とすることで耐湿熱性を極めて良好にすることができる。
ここでいう乳化剤に由来するガスの発生成分とは、スチレン系樹脂(B)の乳化重合の際に使用された乳化剤成分をいうが、前述したように、一般的には高級脂肪酸石鹸やロジン酸石鹸に由来する成分であり、より具体的にはアビエチン酸及び炭素数12〜32の飽和若しくは不飽和脂肪酸またはその金属塩である。乳化剤に由来するガスの発生量は、具体的には、樹脂組成物を280℃、10分間加熱した際の発生ガスとしてアビエチン酸及び炭素数12〜32の飽和若しくは不飽和脂肪酸の合計ガス量がデカン質量に換算して、1000質量ppm以下であることが好ましく、アビエチン酸及び炭素数12〜32の飽和若しくは不飽和脂肪酸の合計ガス量を1000質量ppm以下とすることで耐湿熱性を極めて良好にすることができる。好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは300質量ppm以下、さらに200質量ppm以下であることが好ましい。その好ましい下限は、成形時の離形性や成形品の外観を考慮すると50質量ppmである。
また、上記発生ガスは、乳化重合スチレン系樹脂(B)に残存するオリゴマー成分に由来するものも含有するが、前記したように、このオリゴマー成分はモールドデポジット等による金型汚染の問題の原因となる。従って、上記した280℃で10分間加熱した際の合計ガス量が、デカン質量に換算して3000質量ppm以下とすることは、金型汚染の問題と耐湿熱性の点から特に好ましい。
本発明の方法で得られたポリカーボネート樹脂組成物は、乳化重合スチレン系樹脂(B)がポリカーボネート樹脂(A)のマトリックス中に島状に細かく分散するモルフォロジー構造を示すことが確認された。そして、そのスチレン系樹脂(B)の体積平均分散径(dv)は好ましくは2.5μm以下と小さい。
このように体積平均分散径が小さいことに起因して、本発明の方法で得られたポリカーボネート樹脂組成物は優れた耐衝撃強度保持率(耐湿熱性)を有する。具体的には、温度90℃、相対湿度95%下で400時間湿熱処理した後のシャルピー衝撃強度(ISO179−1及び179−2に準拠、ノッチ付き、23℃)保持率が好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上、特に好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上の値を有する。
なお、ポリカーボネート樹脂組成物のモルフォロジーの観察は、光学顕微鏡、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)等により成形品断面を観察することで測定できる。
具体的には、SEM、STEM、TEM分析装置を用い、ペレット断面を、3kvの加速電圧下で、倍率400〜10000倍の倍率により観察される。
また、ポリカーボネート樹脂中に分散したスチレン系樹脂(B)の体積平均粒子径(dv)と数平均粒子径(dn)との比(dv/dn)は、1.0〜1.5の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.15以上であることが好ましい。
ここでいう、dv/dnの数値の意味は、dv/dnが1のとき、スチレン系樹脂の分散粒子径が揃った均一な状態を示し、1より大きくなると分散粒子径が不揃いで不均一な状態であることを示している。
また、このdv/dnは単に分散粒子径が均一であること以外に、前述した分散したスチレン系樹脂の体積平均径(dv)と密接に関係がある。即ち、dv/dnが1.0〜1.5の範囲内であっても、分散したスチレン系樹脂の体積平均径が大きくなった場合、耐湿熱性の向上効果は得られにくい。
なお、スチレン系樹脂(B)の平均粒子径(dn)及び体積平均粒子径(dv)は走査電子顕微鏡(SEM)で観察して求める。その詳細は実施例に記載される通りである。
[成形体]
本発明の方法で得られるポリカーボネート樹脂組成物は、各種の成形法、例えば射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などにより、成形品とされる。
成形品の例を挙げると、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、照明機器等の部品が挙げられる。これらの中でも、特に車輌部品や電気電子機器、OA機器の各種部品に特に好適である。
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、以下の説明において[部]とは、特に断らない限り質量基準に基づく「質量部」を表す。
以下の実施例及び比較例に使用した各成分は、以下の表1の通りである。
以下の製造例並びに実施例または比較例において使用した押出機は、日本製鋼所社製同方向回転スクリュー式二軸押出機「TEX−44αII型」(スクリュー直径47mm、L/D=59.5)である。当該押出機は、根元から第1原料供給口、第1混練部、第1ベント口、第2原料供給口、第2混練部、第2ベント口から成り、それぞれの混練部域には水注入口を有しており、第2原料供給口にサイドフィーダー(クボタ株式会社製「TSF−45E」)が備えられている。スクリューアレンジは、供給部側から、搬送用フルフライトスクリュー部、可塑化用ニーディングスクリュー部、混練用ニーディングスクリュー部を備え、さらに第2の原料供給口に対応して搬送用フルフライトスクリュー部、混練用ニーディングスクリュー部を備えている。
(製造例1)精製乳化重合スチレン系樹脂ペレット(S1)の製造
前記ベント付押出機の第1原料供給口から、表1に記載した乳化重合ABS樹脂(B1)を150kg/hrの供給速度で連続的に供給した。スクリュー回転数は800rpm、シリンダー設定温度は330℃として、第1混練部域に設けた水注入口から水を1.5kg/hr(吐出量に対し1.0質量%の割合)で注入した。第1及び第2ベント口を20mmHgの減圧状態にし、樹脂と水の混合物は分散しながら発泡した状態で発泡脱揮を行い、押出されたストランド状の溶融樹脂を水中冷却してペレタイザーを用いてペレット化して精製乳化重合ABS樹脂ペレット(S1)を得た。
(製造例2)精製乳化重合スチレン系樹脂ペレット(S2)の製造
製造例1において、後記表2に記載するように、シリンダー設定温度を310℃とし、水注入を行わなかった以外は同様にして、精製乳化重合ABS樹脂ペレット(S2)を得た。
(製造例3)精製乳化重合スチレン系樹脂ペレット(S3)の製造
製造例1において、後記表2に記載するように、第1原料供給口に供給するスチレン系樹脂として乳化重合ABS樹脂(B2)を150kg/hrの供給速度で供給し、シリンダー設定温度を300℃、第1混練部位と第2混練部位に設けた水注入口から水をそれぞれ0.75kg/hr(吐出量に対し第1混練部位0.5質量%の割合、第2混練部位0.5質量%の割合)で注入した以外は同様にして、精製乳化重合ABS樹脂ペレット(S3)を得た。
(製造例4)精製乳化重合スチレン系樹脂ペレット(S4)の製造
製造例1において、後記表2に記載するように、第1の原料供給口に供給するスチレン系樹脂として、乳化重合ABS樹脂(B1)を75kg/hr及び乳化重合MBS樹脂(B3)を75kg/hrの供給速度で供給し、ベント口の減圧度を10mmHgとした以外は同様にして、精製乳化重合スチレン系樹脂ペレット(S4)を得た。
(製造例5)精製乳化重合スチレン系樹脂ペレット(S5)の製造
製造例4において、後記表2に記載するように、第1の原料供給口に供給するスチレン系樹脂として、乳化重合ABS樹脂(B1)を90kg/hr及び塊状重合ABS樹脂(C2)を60kg/hrの供給速度で供給し、精製ABS樹脂ペレット(S5)を得た。
(製造例6)乳化重合ABS樹脂ペレット(S6)の製造
製造例2において、後記表2に記載するようにシリンダー設定温度を270℃にした以外は同様にして、乳化重合ABS樹脂ペレット(S6)を得た。
(実施例1)
前記押出機を用いて、後記表3に記載するように第1の原料供給口から前記精製乳化重合ABS樹脂ペレット(S1)を105kg/hr(30質量部に相当)、並びに、ポリカーボネート樹脂(A)と離型剤(D1及びD2)、安定剤(E1及びE2)及び着色剤(F)からなるポリカーボネート樹脂予備ブレンド物を、同じ第1の原料供給口から245kg/hr(70質量部に相当)の供給速度で連続的に供給した。なお、この予備ブレンド物は、最終の樹脂組成物100質量%に対してD1、D2成分はそれぞれ0.10質量%、E1、E2成分はそれぞれ0.03質量%、0.05質量%、F成分が0.5質量%となるような量でブレンドされている。
シリンダー設定温度は280℃とし、ベント口を20mmHgの減圧状態にして脱揮を行ない、押出してストランドカットし、樹脂組成物のペレットを得た。
(実施例2)
実施例1において、後記表3に記載するように、第1の原料供給口から前記精製乳化重合ABS樹脂ペレット(S2)を35kg/hr(10質量部に相当)、前記ポリカーボネート樹脂予備ブレンド物を315kg/hr(90質量部に相当)の供給速度で供給した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。
(実施例3)
実施例1において、後記表3に記載するように、第1の原料供給口に、前記精製乳化重合ABS樹脂ペレット(S3)を70kg/hr(20質量部に相当)、前記ポリカーボネート樹脂予備ブレンド物を280kg/hr(80質量部に相当)の供給速度で供給した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。
(実施例4)
実施例3において後記表3に記載するように、第1の原料供給口に、前記精製乳化重合スチレン系樹脂ペレット(S4)を140kg/hr(40質量部に相当)、前記ポリカーボネート樹脂予備ブレンド物を210kg/hr(60質量部に相当)の供給速度で供給し以外は実施例3と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。
(実施例5)
実施例4において、後記表3に記載するように、第1の原料供給口に、前記精製乳化重合ABS樹脂ペレット(S5)を122.5kg/hr(35質量部に相当)、懸濁重合AS樹脂(C1)を17.5kg/hr(5質量部に相当)、前記ポリカーボネート樹脂予備ブレンド物を210kg/hr(60質量部に相当)の供給速度で供給した以外は、実施例4と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。
(実施例6)
実施例1において、後記表3に記載するように、第1の原料供給口に前記精製乳化重合ABS樹脂ペレット(S1)を52.5kg/hr(15質量部に相当)、塊状重合ABS樹脂(C2)を52.5kg/hr(15質量部に相当)、前記ポリカーボネート樹脂予備ブレンド物を245kg/hr(70質量部に相当)の供給速度で供給した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。
(比較例1)
実施例1において、後記表4に記載するように、前記押出機の第1原料供給口から表1記載の乳化重合ABS樹脂(B1)を105kg/hr(30質量部に相当)及び前記ポリカーボネート樹脂予備ブレンド物を245kg/hr(70質量部に相当)の供給速度で供給した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。
(比較例2)
実施例1において、後記表4に記載するように、前記押出機の第1原料供給口から精製乳化重合ABS樹脂ペレット(S1)の代わりに乳化重合ABS樹脂ペレット(S6)を105kg/hr(30質量部に相当)供給した以外は同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。
(比較例3)
実施例4において、後記表4に記載するように、第1の原料供給口から前記ポリカーボネート樹脂予備ブレンド物を140kg/hrの供給速度(40質量部に相当)、精製乳化重合ABS樹脂(S4)を210kg/hr(60質量部に相当)の供給速度で供給した以外は同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。
(比較例4)
比較例1において、第1の原料供給口に供給するスチレン系樹脂として乳化重合ABS樹脂(B1)を10.5kg/hr(3質量部に相当)及び塊状重合ABS樹脂(C2)を112kg/hr(32質量部に相当)、また第2の原料供給口から前記ポリカーボネート樹脂予備ブレンド物を227.5kg/hr(65質量部に相当)の供給速度で供給した以外は比較例1と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。
[樹脂組成物中のガス成分量の測定]
上記で得られた樹脂組成物のペレット約20mgを石英ガラスのサンプル管に入れ、島津製作所社製GCMSサーマルデソープションシステムTD−20を用い、ヘリウム気流下(60ml/min)、280℃で、10分間加熱し、発生したガスをテナックス管に冷却捕集、加熱脱着して、GC−2010Plus及びGCMS−QP2010Ultraからなるガスクロマトグラフ質量分析計GC/MSにて、以下の条件で分析した。
分離カラム:フロンティア・ラボ社製UA−5
昇温条件:10℃/minの条件で、50℃から380℃
キャリアガス:ヘリウム3ml/min
得られたガスについて、デカン換算によって、乳化剤由来成分、スチレン系樹脂のオリゴマー、その他成分(ポリカーボネート樹脂のオリゴマー、ポリカーボネート樹脂の原料モノマー、離型剤等)を測定した。なお、乳化剤由来成分はアビエチン酸及び炭素数12〜32の飽和若しくは不飽和脂肪酸の量を測定した。脂肪酸としてはオレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸又はミリスチン酸が表3〜表4に記載の量(単位:質量ppm)で検出された。
[金型汚染性]
住友重機械工業社製ミニマットM8/7A成形機を用い、図1に示すような、しずく型金型を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃、射出速度10mm/秒、成形サイクル9秒、保圧75MPaで1.5秒、冷却時間2秒で100ショット連続成形し、終了後金型付着物の状態を肉眼で観察し、下記の◎〜×の4段階の基準で評価した。
図1のしずく型金型は、ゲートGから樹脂組成物を導入し、尖端部分に発生ガスが溜まり易くなるように設計した金型である。ゲートGの幅は1mm、厚みは1mmであり、図1において、幅h1は14.5mm、長さh2は7mm、長さh3は27mmであり、成形部の厚みは3mmである。
<金型付着物の状態>
◎:金型付着物が殆ど少なく、金型汚染性は極めて良好
○:金型付着物が少しあるものの、金型汚染性は良
△:金型付着物が多く、金型汚染性が不良
×:金型付着物が全体に及び、金型汚染性が極めて不良
[離型性評価]
上記の成形条件での離型性を以下の3段階の基準で評価した。
○:50ショット以上、不良発生がなく連続成形できる
△:10ショット以上50ショット未満で離型不良が発生する
(成形品がエジェクターピンから自重で落下しない)
×:連続成形できるのが1ショット以上10ショット未満である
[外観評価]
上記の成形条件で得られた成形品について、目視にて以下の基準で判定し、外観の評価を行った。
○:表面光沢性に優れ良好
△:表面光沢性がやや劣る
×:表面光沢が低く、肌荒れや反りが発生している
[耐湿熱性評価:衝撃強度保持率]
耐湿熱性の評価は、湿熱処理による以下の湿熱処理後衝撃強度保持率に基づいて評価した。
上記の製造方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機(住友重機械工業社製、サイキャップM−2、型締め力75T)を用い、シリンダー温度250℃、金型温度70℃の条件で、ISO多目的試験片(3mm厚)を製造した。
<湿熱処理後衝撃強度保持率>
上記のISO多目的試験片(3mm厚)について、温度90℃、相対湿度95%の環境下で400時間の湿熱処理を実施した。湿熱処理前後の試験片についてISO179に準じてノッチ付きシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)を、23℃にて測定した。
湿熱処理後衝撃強度保持率を、下記式に基づいて算出した。
湿熱処理後衝撃強度保持率(%)=
{(湿熱処理後の衝撃強度)/(湿熱処理前の衝撃強度)}×100(%)
[耐湿熱性評価:MFR上昇率]
耐湿熱性の評価を、湿熱処理前後でのMFR値の上昇率により評価した。
即ち、樹脂組成物のペレットを100℃で5時間以上乾燥した後、ISO1133に準拠して測定温度250℃、荷重2.16kgfの条件で温度90℃、相対湿度95%の環境下で400時間の湿熱処理した後のMFR(メルトフローレイト、単位:g/10分)を測定し、以下の式により湿熱処理後MFR上昇率(単位:%)を求めた。
湿熱処理後MFR上昇率(%)=
{(湿熱処理後のMFR)/(湿熱処理前のMFR)}×100−100(%)
湿熱処理後MFR上昇率(%)が小さいほど、耐湿熱性に優れることを意味する。
[モルフォロジー観察]
得られたペレットを、ライカ社製切片作製用ウルトラミクロトームシステムUC7(ダイヤモンドナイフ)を使用して、断面を作製し、真空デバイス社製マルチコーターVES−10を用い、C源で膜厚25nmに蒸着した後に、SEM観察(装置:日立ハイテク製SU8020、測定条件:3kV−400〜10000倍、流動方向に直角な方向)して取得した画像を、旭化成エンジニアリング社製画像解析ソフト「A像くん」を用いて画像解析を行った。
画像解析の結果、スチレン系樹脂の分散粒子の面積から真円換算した場合の直径(dnj)を、下記の式から算出し、数平均粒子径(dn)、体積平均粒子径(dv)及び体積平均粒子径(dv)と数平均粒子径(dn)との比(dv/dn)を求めた。
スチレン系樹脂の分散粒子の面積から真円換算した場合の直径(dnj)の計算式は、以下の通りである。
上記式中、Aは、SEM写真を画像解析して求めた分散したスチレン系樹脂の粒子面積である。
分散したスチレン系樹脂の数平均粒子径(dn)の計算式は、以下の通りである。
分散したスチレン系樹脂の体積平均粒子径(dv)の計算式は、以下の通りである。
以上の評価結果を、以下の表3〜表4に示す。
本発明の製造方法によれば、機械的物性と耐湿熱性に優れ、モールドデポジットによる金型汚染の問題がないポリカーボネート樹脂組成物を生産性良く製造できるので、その産業上の利用性は高いものがある。

Claims (3)

  1. ポリカーボネート樹脂(A)60〜95質量%及び乳化重合スチレン系樹脂(B)40〜5質量%を含むポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、
    乳化重合スチレン系樹脂をベント付二軸押出機に供給して300℃以上の樹脂温度となるように溶融混練し、ベント口でガス成分を減圧脱揮した後に押出し、押出されたストランド状の樹脂を冷却、カッティングして得られた精製乳化重合スチレン系樹脂(B)のペレットを、
    ポリカーボネート樹脂(A)と共にベント付二軸押出機に供給し、溶融混練することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
  2. 前記ガス成分が、乳化剤に由来するガス成分を含む請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
  3. 前記ベント式二軸押出機が水注入部とベント口を多段で有する押出機であり、水の注入と減圧脱揮を多段で行う請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
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