ところで、被覆金属材の表面処理膜上に複数の測定部分を設け、当該複数の測定部分の各々に対応するように複数の電極及び電解質材料を配置して、複数の電極間に通電し、被覆金属材の耐食性を試験することが考えられる。この場合、複数の測定部分に対応する位置に電極及び電解質材料を配置するため、複数の測定容器を配置すると、耐食性試験装置の構成が煩雑となる等の問題や、複数の測定容器の位置ずれに起因する耐食性試験の信頼性の低下等の問題があった。
そこで、本開示は、簡便な構成で、耐食性試験の信頼性を向上し得る耐食性試験方法をもたらすことを課題とする。
上記課題を解決するために、ここに開示する耐食性試験方法は、金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材の耐食性試験方法であって、上記表面処理膜上に載置され、該表面処理膜に接する底面において開口する含水電解質材料保持部を複数備えた容器と、上記容器の含水電解質材料保持部の各々に収容され、上記表面処理膜の相離れた複数の測定部分の各々に接触する含水電解質材料と、上記含水電解質材料保持部の各々に収容された含水電解質材料に接触する複数の電極と、上記複数の電極間を接続する外部回路と、上記電極及び上記外部回路を介して上記金属製基材に通電する通電手段と、を備えた耐食性試験装置を用いて行われるものであり、上記測定部分の各々は、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する人工傷を含んでおり、上記通電手段によって、上記人工傷の少なくとも1つがアノードサイトとなり、他の少なくとも1つがカソードサイトとなって上記被覆金属材の腐食が進行するように、上記金属製基材に通電されることを特徴とする。
本構成によれば、含水電解質材料を収容する複数の含水電解質材料保持部を備えた容器を表面処理膜上に載置することにより、簡単な構成で、含水電解質材料を複数の測定部分の各々に接触するように配置することができる。また、複数の含水電解質材料保持部は、1つの容器に設けられているから、所定の測定部分に接触するように含水電解質材料を配置することが容易となるとともに、含水電解質材料の配置に位置ずれが生じにくく、耐食性試験の信頼性を高めることができる。そうして、より短時間で安定した耐食性試験を行うことができる。
また、金属の腐食は、水と接触する金属が溶解(イオン化)して遊離電子を生ずるアノード反応(酸化反応)と、その遊離電子によって水中の溶存酸素が水酸基OH−を生成するカソード反応(還元反応)が同時に起こることで進行することが知られている。
本技術では、被覆金属材の複数の人工傷のうちの少なくとも1つが、金属製基材の金属の溶出反応(酸化反応)を生ずるアノードサイトとなる。アノードサイトで発生した電子が金属製基材を通って流入する他の少なくとも1つの人工傷が、電子による還元反応が起きるカソードサイトとなる。
アノードサイトでは、溶出した金属イオンは、電極(負極)に引き寄せられ、含水電解質材料中の溶存酸素や電極(負極)での水の電気分解により発生したOH−と反応して水酸化鉄になる。このアノードサイトでは、電子が供給されるから、電気防食と同じ原理で、金属製基材の金属がイオンになって含水電解質材料に多少溶解するものの、被覆金属材の腐食は進まない。
一方、カソードサイトでは、アノードサイトから金属製基材を介して流入する電子が、表面処理膜を浸透した水や溶存酸素、水中の電離H+と反応して水素やOH−が発生する。また、水の電気分解による水素も発生する。これにより、表面処理膜下でのpHが上がり、被覆金属材の腐食が進行する。
上記カソードサイトにおけるOH−の生成は上述の腐食モデルのカソード反応に相当するから、本技術に係る装置を用いた耐食性試験は、外部回路による金属製基材への通電により、当該被覆金属材の実際の腐食を加速再現するものであるということができる。
そして、上記カソードサイトとなる人工傷では、アルカリ性になること(OH−の生成)により、金属製基材表面の下地処理(化成処理)がダメージを受けて表面処理膜の密着性が低下し(下地処理がされていない場合は単純に金属製基材と表面処理膜の密着性が低下し)、表面処理膜の膨れが発生する。また、水の電気分解やH+の還元により発生した水素ガスが表面処理膜の膨れを促進する。従って、この表面処理膜の膨れの程度をみることによって、当該耐食性試験における供試材の腐食進展速度を計ることができる。
このように、本技術では、被覆金属材にアノードサイトとカソードサイトを人工的に形成し、容器を用いてその人工傷各々に接触するように含水電解質材料を保持しつつ、通電手段を用いて通電することで、人工傷における腐食を促進させるようにしている。そうして、実際の腐食を加速再現するから、得られる腐食進展速度データは、実際の腐食進展速度と相関性が高いものになる。よって、本技術によれば、被覆金属材の耐食性に関して信頼性の高い試験を行なうことができる。
上記複数の人工傷間の距離は、カソードサイトの表面処理膜の膨れの確認の容易さの観点から、2cm以上であることが好ましく、3cm以上であることがさらに好ましい。
上記カソードサイトの人工傷の径は0.1mm以上5mm以下であることが望ましい。
上記カソードサイトの人工傷の径(金属製基材の露出径)に関しては、その径が小さくなるほど、通電性が低下してカソード反応が進み難くなる。一方、その径が大きくなると、カソード反応が不安定になり、腐食の加速再現性が低下する。人工傷の径を上記範囲とすることにより、カソード反応の促進と腐食の加速再現性を両立させることができる。
好ましい態様では、上記含水電解質材料保持部の各々は、上記底面に設けられた開口部を備え、上記耐食性試験装置は、上記被覆金属材の上記容器が配置される側と反対側であり且つ上記複数の含水電解質材料保持部の少なくとも上記開口部に対応する位置に配置された第2加熱要素と、上記第2加熱要素に接続され、該第2加熱要素の温度を制御する温度コントローラと、を備えている。
本技術によれば、第2加熱要素により含水電解質材料及び被覆金属材の温度を調整することで、所定の温度条件における信頼性の高い耐食性試験が可能となる。なお、第2加熱要素としては、例えばホットプレート等を採用することができる。
好ましい態様では、上記容器の底面は平坦であり、上記含水電解質材料保持部の各々は、上記容器を上記底面に垂直な方向に貫通する貫通孔からなる構成としてもよい。
本構成によれば、容器に設けられた貫通孔が含水電解質材料保持部として機能するから、より簡単な構成で、信頼性の高い耐食性試験が可能となる。
なお、金属製基材は、例えば、家電製品、建材、自動車部品等を構成する鋼材、例えば、冷間圧延鋼板(SPC)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、高張力鋼板又はホットスタンプ材等であり、或いは軽合金材であってもよい。金属製基材は、表面に化成皮膜(リン酸塩皮膜(例えば、リン酸亜鉛皮膜)、クロメート皮膜等)が形成されたものであってもよい。
特に望ましくは、上記金属製基材は、鋼板であり、上記容器は、上記貫通孔の各々の開口部近傍における該貫通孔周りに少なくとも1つずつ配置された複数のリング型の磁石を備えている構成を採用することができる。
本構成によれば、容器の底面側に磁石が配置されているから、金属製基材として鋼板を用いた被覆金属材に、容器は磁力により吸着固定される。そうして、容器の位置ずれを効果的に抑制することができ、耐食性試験の信頼性を向上させることができる。なお、磁石としては、高い吸着力を得る観点から、例えばネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石等を用いることが望ましい。
また、好ましくは、上記耐食性試験装置は、上記含水電解質材料保持部の外周を覆うように、上記容器の外周部に配置された第1加熱要素と、上記第1加熱要素に接続され、該第1加熱要素の温度を制御する温度コントローラとを備えている構成としてもよい。
本構成によれば、第1加熱要素及び温度コントローラにより含水電解質材料保持部に収容された含水電解質材料の温度を調整することができるから、所望の試験時間に亘って含水電解質材料の温度を一定に保つことができる。そうして、種々の温度条件における耐食性試験を精度よく行うことができる。なお、第1加熱要素としては、例えばラバーヒータやフィルムヒータ等を採用することができる。
好ましくは、上記第1加熱要素の温度を制御する温度コントローラと、上記第2加熱要素の温度を制御する温度コントローラとは、同一である。
また、好ましくは、上記温度コントローラにより、上記第1加熱要素及び上記第2加熱要素の温度は30℃以上100℃以下に制御される。
本技術によれば、第1加熱要素と第2加熱要素により含水電解質材料及び被覆金属材を上記温度に保つことで、所定の温度条件における信頼性の高い耐食性試験が可能となる。
また、上記容器は、上記容器の底面を形成するシリコーン樹脂製の底部と、上記底部における上記底面と反対側に延設された絶縁性の樹脂材料製の本体とを備えていることが望ましい。
本技術によれば、表面処理膜と接触する容器の底面をシリコーン樹脂製とすることにより、容器と表面処理膜との密着性を向上させることができ、容器と表面処理膜との間からの含水電解質材料の漏れを効果的に抑制することができる。また、容器の本体を絶縁性の樹脂材料製とすることにより、含水電解質材料保持部間の絶縁性を確保しつつ、容器を軽量化及び低コスト化することができ、延いては装置の軽量化及び低コスト化に資することができる。
上記通電手段による通電は10μA以上10mA以下の電流値とすることが望ましい。
通電の電流値に関しては、該電流値が小さくなるほど腐食の加速性が低下して試験に長時間を要するようになる。一方、その電流値が大きくなると、腐食反応速度が不安定になり、実際の腐食の進行との相関性が悪くなる。電流値を上記範囲とすることにより、試験時間の短縮化と試験の信頼性の向上とを両立させることができる。
上記含水電解質材料は、水、支持電解質及び粘土鉱物を含む泥状物であることが望ましい。
粘土鉱物は、表面処理膜へのイオンの移動及び水の浸透を促進させ、腐食の進行を効果的に促すことができる。
なお、上記粘土鉱物は、層状ケイ酸塩鉱物又はゼオライトであることが好ましい。そして、上記層状ケイ酸塩鉱物は、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト及びタルクから選択される少なくとも一つであることが好ましい。
また、上記支持電解質は、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム及び塩化カルシウムから選択される少なくとも一つの塩であることが好ましい。
上記表面処理膜は、樹脂塗膜であることが望ましい。
樹脂塗膜としては、例えば、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系等のカチオン電着塗膜(下塗り塗膜)があり、電着塗膜に上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜、電着塗膜に中塗り塗膜及び上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜等であってもよい。
なお、上記金属製基材への通電のために、電極を上記含水電解質材料に埋没状態に設けることができる。そのような電極としては、炭素電極、白金電極等を使用することができ、特に、上記表面処理膜に相対する少なくとも一つの孔を有する有孔電極を採用することができ、該有孔電極を上記表面処理膜と略平行に配置することが好ましい。例えば、有孔電極は、中央に孔を有するリング状とされ、該孔が上記人工傷に相対するように設けられる。或いは、有孔電極としてメッシュ状の電極を採用し、該メッシュ電極を上記含水電解質材料に埋没した状態で上記表面処理膜と略平行になるように配置してもよい。
本開示によれば、含水電解質材料を収容する複数の含水電解質材料保持部を備えた容器を表面処理膜上に載置することにより、簡単な構成で、含水電解質材料を複数の測定部分の各々に接触するように配置することができる。また、複数の含水電解質材料保持部は、1つの容器に設けられているから、所定の測定部分に接触するように含水電解質材料を配置することが容易となるとともに、含水電解質材料の配置に位置ずれが生じにくく、耐食性試験の信頼性を高めることができる。そうして、より短時間で安定した耐食性試験を行うことができる。また、本開示では、被覆金属材にアノードサイトとカソードサイトを人工的に形成し、容器を用いてその人工傷各々に接触するように含水電解質材料を保持しつつ、通電手段を用いて通電することで、人工傷における腐食を促進させるようにしている。そうして、実際の腐食を加速再現するから、得られる腐食進展速度データは、実際の腐食進展速度と相関性が高いものになる。よって、本開示によれば、被覆金属材の耐食性に関して信頼性の高い試験を行なうことができる。
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
(第1実施形態)
<耐食性試験装置>
図1〜図3に示すように、本実施形態に係る耐食性試験装置100は、被覆金属材1の耐食性を試験するための装置であり、容器30と、含水電解質材料6と、電極12と、外部回路7と、通電手段8と、ラバーヒータ34(第1加熱要素)と、ホットプレート35(第2加熱要素)と、温度コントローラ36とを備えている。
<被覆金属材>
図2,図3に示すように、被覆金属材1は、金属製基材としての表面に化成皮膜3が形成された鋼板2の上に表面処理膜としての樹脂塗膜、すなわち、本実施形態では電着塗膜4が設けられたものである。
図2,図3に示すように、被覆金属材1には、含水電解質材料6が配置される測定部分4Aに含まれる形で、相離れた2箇所(複数)に電着塗膜4及び化成皮膜3を貫通して鋼板2に達する人工傷5が加えられている。人工傷5による鋼板2の露出部の径(以下、「人工傷5の径」と称することがある。)は、後述する耐食性試験において、電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透を促進させ、人工傷5における腐食を効果的に進行させる観点から、好ましくは0.1mm以上5mm以下(露出面の面積が0.01mm2以上25mm2以下)、より好ましくは0.3mm以上2mm以下、特に好ましくは0.5mm以上1.5mm以下とすることができる。また、2箇所の人工傷5間の距離は、後述する耐食性試験方法の耐食性評価ステップにおいて、カソードサイトの電着塗膜4の膨れの確認の容易さの観点から、2cm以上であることが好ましく、3cm以上であることがさらに好ましい。
<容器>
図1,図2に示すように、容器30は、被覆金属材1の電着塗膜4上に載置されている。容器30は、平坦な底面32Aを有しており、当該底面32Aを形成する底部32と、当該底部32における底面32Aと反対側に延設された絶縁性の本体31とを備えている。
容器30は、図1,図4に示すように、平面視長円形の部材であり、底面32Aに略垂直な方向に容器30、すなわち容器30の本体31及び底部32を貫通する2つ(複数)の貫通孔11を備えた円筒部材である。そして、貫通孔11は、底面32Aに設けられた開口部11Aを備えている。貫通孔11内には、含水電解質材料6が収容され、含水電解質材料6は電着塗膜4の表面に接触している。すなわち、2つの貫通孔11は、電着塗膜4に接する底面32Aにおいて開口する含水電解質材料保持部を構成している。そして、容器30を被覆金属材1の電着塗膜4上に載置した状態で、開口部11Aにより定義される被覆金属材1の領域が測定部分4Aとなる。
底部32は、例えばシリコーン樹脂製のシート状のシール材であり、容器30を被覆金属材1上に載置したときに、容器30と電着塗膜4との密着性を向上させるためのものである。そうして、容器30と電着塗膜4との間からの含水電解質材料6の漏れを効果的に抑制することができる。
図4に示すように、容器30の本体31は、底部32側の台座部302と、台座部302において底部32と反対側に延設された延設部301とを備えている。台座部302は、平面視、延設部301よりも大径であり、台座部302から延設部301の移行部には段差部303が設けられている。台座部302の底部32側には、溝部304が形成されている。溝部304は、貫通孔11の各々の開口部11A近傍における貫通孔11周りに配置されており、当該溝部304内にリング型の磁石33が収容される。これにより、容器30を被覆金属材1の電着塗膜4上に載置したときに、容器30は、磁石33の吸着力により、被覆金属材1に吸着固定される。そうして、容器30の位置ずれを効果的に抑制することができ、後述する耐食性試験の信頼性を向上させることができる。なお、磁石33は、溝部304に収容された後、例えば、エポキシ樹脂等で封止されることが望ましい。これにより、溝部304からの磁石33の抜けや、含水電解質材料6の貫通孔11から溝部304への漏れ等を抑制することができる。
また、容器30の本体31は、2つの貫通孔11間の絶縁性を確保する観点から、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂材料製やセラミック製等とすることができる。そして、容器30の軽量化及び低コスト化の観点からは、特にアクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂材料製とすることが望ましい。
貫通孔11の径は、人工傷5の径よりも大きいことが望ましい。そして、容器30は、貫通孔11が人工傷5と同心状になるように、電着塗膜4上に載置されることが望ましい。当該構成により、人工傷5全体を含水電解質材料6で覆いつつ、耐食性試験に必要十分量の含水電解質材料6を収容することができる。なお、上述のごとく、人工傷5の径が0.1mm以上5mm以下の場合は、貫通孔11の径は、例えば0.5mm以上40mm以下、好ましくは0.5mm以上35mm以下とすることができる。本構成により、人工傷5全体を含水電解質材料6で覆いつつ、耐食性試験に必要十分量の含水電解質材料6を収容することができる。
<含水電解質材料>
含水電解質材料6は、容器30の貫通孔11の各々に収容されている。そして、電着塗膜4の相離れた2つの測定部分4Aの各々に接触しており、測定部分4Aに設けられた人工傷5内に浸入している。
含水電解質材料6は、例えば水、支持電解質及び望ましくは粘土鉱物を含有してなる泥状物であり、導電材として機能する。
支持電解質(塩)としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、酒石酸水素カリウム及び硫酸マグネシウムから選択される少なくとも一つの塩を採用することができ、特に好ましくは塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム及び塩化カルシウムから選択される少なくとも一つの塩を採用することができる。含水電解質材料6における支持電解質の含有量は、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは3質量%以上15質量%以下であること、特に好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
粘土鉱物は、含水電解質材料6を泥状にするとともに、電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透を促進させ、腐食の進行を促すためのものである。粘土鉱物としては、例えば、層状ケイ酸塩鉱物又はゼオライトを採用することができる。層状ケイ酸塩鉱物としては、例えば、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト及びタルクから選択される少なくとも一つを採用することができ、特に好ましくはカオリナイトを採用することができる。含水電解質材料6における粘土鉱物の含有量は、好ましくは1質量%以上70質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下、特に好ましくは20質量%以上30質量%以下である。
含水電解質材料6は、水、支持電解質及び粘土鉱物以外の添加物を含有してもよい。このような添加物としては、具体的には例えば、アセトン、エタノール、トルエン、メタノール等の有機溶剤等が挙げられる。含水電解質材料6が有機溶剤を含有する場合は、有機溶剤の含有量は、水に対して体積比で5%以上60%以下であることが好ましい。その体積比は、10%以上40%以下であること、20%以上30%以下であることがさらに好ましい。
<電極、外部回路及び通電手段>
電極12は、外部回路7の両端に設けられている。そして、貫通孔11内の含水電解質材料6に埋没状態に設けられ、含水電解質材料6に接触している。
電極12は、中央に孔12aを有するリング状の有孔電極であり、該孔12aが人工傷5に相対し該人工傷5と同心になるように、電着塗膜4と平行に配置されている。これにより、電極12が人工傷5を囲むように配置されるから、人工傷5周りの電着塗膜4に電圧が安定して印加され、通電時における該電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透が効率良く行なわれる。また、人工傷5において発生する水素ガスは電極12の孔12aを通って抜けるため、電極12と電着塗膜4の間に水素ガスが滞留することは避けられ、すなわち、通電性が悪化することが避けられる。
外部回路7は、2つの電極12間を接続する配線であり、被覆金属材1の2箇所の測定部分4Aを含水電解質材料6及び電極12を介して電気的に接続している。
通電手段8は、外部回路7、電極12及び含水電解質材料6を介して鋼板2に通電する直流の定電流源からなる。通電手段8としては、例えば、ガルバノスタットを採用することができる。そして、後述する耐食性試験において、人工傷5における腐食を促進させる観点から、電流値は好ましくは10μA以上10mA以下、より好ましくは100μA以上5mA以下、特に好ましくは500μA以上2mA以下に制御される。
<ラバーヒータ、ホットプレート及び温度コントローラ>
ラバーヒータ34は、貫通孔11の外周を覆うように、容器30の外周部に配置されており、貫通孔11内の含水電解質材料6を加温・温度調整するためのものである。具体的には、図1,図4に示すように、容器30の本体31の台座部302の段差部303上に、延設部301の外周面301Aを覆うように、ラバーヒータ34が配置される。ラバーヒータ34は、例えば粘着テープ等を用いて外周面301Aに接着固定される。
ホットプレート35は、被覆金属材1の容器30が配置される側と反対側、すなわち鋼板2側に配置されており、被覆金属材1を裏側から加温・温度調整するためのものである。
温度コントローラ36は、ラバーヒータ34及びホットプレート35に電気的に接続されおり、ラバーヒータ34及びホットプレート35の温度を制御する。そうして、被覆金属材1及び含水電解質材料6の加温や温度調整を行う構成とすることができる。
本構成によれば、含水電解質材料6及び被覆金属材1を適度に加温することができるから、後述する耐食性試験において、電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透を促進させ、人工傷5における腐食を効果的に進行させて、より短期間且つ信頼性の高い耐食性試験が可能となる。また、所望の試験時間に亘って含水電解質材料6及び被覆金属材1の温度を一定に保つことができるから、種々の温度条件における耐食性試験を精度よく行うことができる。
なお、被覆金属材1及び含水電解質材料6の加温・温度調整は両者とも行う構成としてもよいし、いずれか一方のみ行う構成とすることもできる。被覆金属材1及び含水電解質材料6の温度分布を均一とする観点からは、両者とも加温・温度調整を行うことが望ましい。具体的には、ラバーヒータ34及び/又はホットプレート35の温度を温度コントローラ36で制御することにより、被覆金属材1及び/又は含水電解質材料6の温度を好ましくは30℃以上100℃以下、より好ましくは50℃以上100℃以下、特に好ましくは50℃以上80℃以下とすることができる。
<耐食性試験方法>
上記耐食性試験装置100を用いた被覆金属材1の耐食性試験方法の一例をステップ順に説明する。
−人工傷を加えるステップ−
被覆金属材1の相離れた2箇所に電着塗膜4及び化成皮膜3を貫通して鋼板2に達する人工傷5を加える。人工傷5を付ける道具の種類は特に問わない。人工傷5の大きさや深さにばらつきを生じないように、すなわち、定量的に傷を付けるために、例えば、ビッカース硬さ試験機を用い、その圧子によって所定荷重で傷を付けることが好ましい。
−処理ステップ−
被覆金属材1の電着塗膜4の上に、貫通孔11が2箇所の人工傷5各々を囲むように容器30を立て、貫通孔11の中に泥状の含水電解質材料6を所定量入れる。このとき、外部回路7の両端に設けられたリング状の電極12が含水電解質材料6に埋没した状態になるようにする。なお、貫通孔11は人工傷5と同心に設けることが好ましい。また、電極12は、孔12a部分が電着塗膜4の表面と平行になるように、且つ人工傷5と同心になるように設けることが好ましい。
以上により、貫通孔11内に収容された含水電解質材料6が電着塗膜4の表面に接触し、且つ人工傷5内に浸入した状態になる。そして、上記2箇所の人工傷5が、該人工傷5に接触する含水電解質材料6及び電極12を介して外部回路7で電気的に接続された状態になる。
−保持ステップ−
次の通電ステップ前に、含水電解質材料6を貫通孔11内に収容して電着塗膜4の表面上に配置した状態で、好ましくは1分以上1日以下、より好ましくは10分以上120分以下、特に好ましくは15分以上60分以下保持することにより、含水電解質材料6を電着塗膜4へ浸透させることが望ましい。
一般に、塗膜を備えた被覆金属材では、例えば塩水などの腐食因子が塗膜に浸透し、基材に到達することで腐食が開始する。従って、被覆金属材の腐食過程は、腐食が発生するまでの過程と腐食が進展する過程とに分けられ、それぞれ腐食が開始するまでの期間(腐食抑制期間)と腐食が進展する速度(腐食進展速度)とを求めることにより評価することができる。
通電ステップ前に保持ステップを設けることにより、電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透、特に図3中ドット模様で示すように、人工傷5周りの電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透を予め促すことができる。そうすると、被覆金属材1の電極12近傍において、擬似的に腐食抑制期間終了後の状態を作り出すことができる。そうして、次の通電ステップにおける化成皮膜3及び鋼板2の腐食をよりスムーズに進行させ、腐食進展速度を示す電着塗膜4の塗膜膨れの進行を促すことができ、試験時間の短縮化を図ることができる。また、いわば腐食抑制期間が終了した状態で通電を行うから、腐食進展速度を精度よく測定することができ、耐食性試験の信頼性を向上させることができる。
なお、当該保持ステップ及び次の通電ステップにおいて、温度コントローラ36を用いて、ラバーヒータ34及びホットプレート35の温度を上述の温度範囲に調整・保持することが望ましい。これにより、電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透を促進させ、人工傷5における腐食を効果的に進行させて、より短期間且つ信頼性の高い耐食性試験が可能となる。
−通電ステップ−
通電手段8を作動させ、外部回路7によって被覆金属材1の鋼板2に電極12、含水電解質材料6及び電着塗膜4を介して通電する。この通電は、電流値が上述の範囲の定電流値となるように定電流制御することが好ましい。
上記通電により、上記2箇所の人工傷5のうちの通電手段8の負極側に接続された一方(図3の左側)では、含水電解質材料6から電子e−が鋼板2に流入する。そして、この一方の人工傷5がアノードサイトになる。
鋼板2に流入したe−は鋼板2を通って他方の人工傷5(図3の右側)に移動し、該他方の人工傷5において含水電解質材料6に放出される。そして、この他方の人工傷5がカソードサイトになる。
アノードサイトでは、e−が供給されるから、電気防食と同じ原理で、鋼板2のFeがイオンになって含水電解質材料6に溶解する(Fe → Fe2++2e−)ものの、被覆金属材1の腐食は進まない。
これに対して、カソードサイトでは、アノードサイトから電子が移動してくるから、含水電解質材料6の水、溶存酸素及び当該電子e−の反応によりOH−を生ずる(H2O+1/2O2+2e− → 2OH−)。また、含水電解質材料6の電離した水素イオンと当該電子e−の反応により水素が発生する(2H++2e−→ H2)。OH−及び水素の生成はカソード反応(還元反応)である。また、水の電気分解による水素も発生する。
そして、カソードサイトでは、OH−の発生に伴ってアルカリ化が進むから、化成皮膜3が溶解するとともに、鋼板2の腐食が進む(水和酸化鉄の生成)。そうして、電着塗膜4の鋼板2に対する付着力が低下する。そして、上述の水素ガスの発生によって、電着塗膜4の膨れを生じ、鋼板2の腐食が人工傷5の部位から周囲に進展していく。このようにカソードサイトでは、カソード反応の進行に伴い電着塗膜4の膨れが進展するから、後述する耐食性評価ステップにおいて、このカソードサイトの電着塗膜4の膨れの大きさを評価することにより、被覆金属材1の耐食性を評価することができる。
なお、通電ステップにおける通電時間は、塗膜膨れの十分な広がりを得る観点から、例えば、0.5時間以上24時間以下とすればよい。その通電時間は、好ましくは1時間以上10時間以下、より好ましくは1時間以上5時間以下とする。
また、上記外部回路7による通電では、カソードサイトにおいて、含水電解質材料6に電圧が加わることにより、含水電解質材料6中の陽イオン(Na+等)が電着塗膜4を通って鋼板2に向かって移動する。そして、この陽イオンに引きずられて水が電着塗膜4に浸透していく。一方、アノードサイトにおいても、含水電解質材料6の陰イオン(Cl−等)が電着塗膜4を通って鋼板2に向かって移動し、これに引きずられて水が電着塗膜4に浸透していく。
このように、アノードサイト及びカソードサイトにおいて、上記通電により、人工傷5周りの電着塗膜4へのイオン及び水の浸透が促進されるから、電気の流れが速やかに安定した状態になる。よって、カソードサイトにおける人工傷5からその周囲への腐食の進展が安定したものになる。
−耐食性評価ステップ−
上述の如く、カソードサイトにおける腐食の進展は、電着塗膜4の膨れの進展、つまり、塗膜膨れ範囲の拡大となって現れる。従って、上記通電開始から所定時間を経過した時点での塗膜膨れの広がり程度をみることによって、被覆金属材1の耐食性、特に腐食進展速度を評価することができる。
なお、塗膜膨れの広がりの程度は、耐食性試験後に、電着塗膜4に粘着テープを貼り、電着塗膜4の膨れた部分を剥がし、露出した鋼板2の露出面の径(以下、「剥離径」という。)を測定することによって知ることができる。
具体的に、図5は、後述する耐食性試験の比較例3の供試材1のアノードサイト及びカソードサイトの外観写真を示している。なお、外観写真(剥離前)は、試験後の被覆金属材1の表面の写真であり、外観写真(剥離後)は、試験後、被覆金属材1の表面から膨れ上がった電着塗膜4を粘着テープで剥離した後の写真である。アノードサイトでは、人工傷5の形成を確認することができるものの、電着塗膜4の膨れは観察できない。一方、カソードサイトでは、人工傷5と、当該人工傷5の周りに形成された電着塗膜4の膨れが観察される。
被覆金属材1の耐食性を実腐食試験(塩水噴霧試験)と関連付けて評価する場合は、当該耐食性試験による腐食進展速度(単位時間当たりの塗膜膨れ径の広がり量)と、実腐食試験での腐食進展速度との関係を予め求めておき、当該耐食性試験結果に基づいて、それが実腐食試験においてどの程度の耐食性に相当するかをみることができる。
<実験例>
−耐食性試験−
供試材(被覆金属材)として、塗装条件、すなわちリン酸亜鉛による化成処理時間及び電着塗装の焼付条件が異なる表1に示す7種類を準備した。供試材1〜7はいずれも金属製基材が鋼板2であり、電着塗膜4の厚さは10μmである。なお、表1に示す塗装条件A〜Gの詳細は表2に示している。
各供試材について、図1〜図4に示す態様の耐食性試験装置を用いて耐食性試験を行った。なお、容器30の本体31は、アクリル樹脂製であり、その各寸法は、以下の人工傷5間の距離、電極12のサイズ等に合わせた仕様とした。また、磁石33は厚さ3mm、高さ7mmのリング型ネオジム磁石を使用した。磁石33は、溝部304に収容した後、エポキシ樹脂で封止した。そうして、図1,図2に示すように、シリコーン樹脂製の底部32を、磁石33が収容された溝部304を覆うように設けた。
供試材には、ビッカース硬さ試験機を用いて定量的に、すなわち、荷重(試験力)30kgで鋼板に達する1mm径の人工傷5を2箇所に4cmの間隔をあけて付与した。
比較例1,2の試験では、含水電解質材料6として、水1.3Lに対し、支持電解質としての塩化ナトリウム50gを混合させてなる塩化ナトリウム水溶液を用いた。また、比較例3,4及び参考例1の試験では、含水電解質材料6として、水1.3Lに対し、支持電解質としての塩化ナトリウム50g、及び粘土鉱物としてのカオリナイト500gを混合させてなる模擬泥を用いた。
電極12としては、外径約32mm、内径約30mmのリング状の有孔電極(白金製)を用いた。
鋼板の下側にホットプレートを配置するとともに、貫通孔周りにラバーヒータを巻き、鋼板及び含水電解質材料6の温度を表1に示す温度に加温・保持した。
通電手段8の電流値は1mAとし、表1に示す通電時間の間、通電を行った。なお、比較例1〜4では、処理ステップ後すぐに通電を行った。参考例1では、処理ステップ後、通電ステップ前に、70℃で30分間保持した。
通電終了後、上記耐食性評価ステップに記載の方法で、各供試材について腐食進展速度(塗膜の膨れの進展速度)を測定した。
表1に、参考例1及び比較例1〜4の試験により得られた腐食進展速度(塗膜の膨れの進展速度)を示す。また、試験例1として各供試材について人工傷5に模擬泥を付着させて、温度50℃、湿度98%の環境に暴露する実腐食試験の結果得られた腐食進展速度を示す。さらに、図6に、参考例1の腐食進展速度と試験例1の腐食進展速度との相関を示す。
表1,図6に示すように、参考例1の供試材1〜5,7について、本耐食性試験に係る腐食進展速度と実腐食試験に係る腐食進展速度の相関をみると、その相関性が高い(R2=0.96)ことが判る。
一方、表1に示すように、比較例2,4の試験では、試験例1の腐食進展速度との相関をみると、それぞれR2=0.68,0.70で相関性が低いことが判る。また、比較例3では、R2=0.86で相関性は比較的高いものの、通電時間が5時間と長いことが判る。なお、比較例1の試験では、供試材2〜7において塗膜膨れは観測されなかった。
−含水電解質材料による塗膜の吸水促進性−
焼付条件又は膜厚が異なる各種電着塗膜4の表面に種々の付着物を設けて、その電着塗膜4の9日経過後の吸水量及び9日経過後の膨れ発生率を調べた。図7〜図9に示すように、付着物の種類及び形態は、「水」、「5%NaCl(スプレー)」、「5%CaCl2(スプレー)」、「模擬泥」及び「5%NaCl(浸漬)」の5種類である。なお、「模擬泥」の組成は、水:カオリナイト:塩化ナトリウム:硫酸ナトリウム:塩化カルシウム=500:500:25:25:25(質量比)である。
図7によれば、水、5%NaCl(スプレー)及び5%CaCl2(スプレー)のいずれも、9日経過後でも、吸水量はわずかであり、塗膜の膨れもほとんどみられない。
これに対して、図8によれば、模擬泥の場合は、9日経過後の吸水量及び膨れ発生率が、水、5%NaCl(スプレー)及び5%CaCl2(スプレー)に比べると、格段に大きくなっている。特に、電着塗膜4の焼付条件が同じ150℃×20分であるケースで比較すると、模擬泥の場合は、当該吸水量及び膨れ発生率が桁違いに大きくなっていることがわかる。
図9によれば、5%NaCl(浸漬)の場合は、当該吸水量及び膨れ発生率が、水、5%NaCl(スプレー)及び5%CaCl2(スプレー)よりも大きくなっているが、図8の模擬泥に比べるとかなり低い。
図10は上記5種類について、電着塗膜4の焼付条件が150℃×20分であるケースでの塗膜への水の浸入速度を比較したものである。塗膜への水の浸入速度は、塗膜の吸水量が25μg/mm3に到達するまでの時間から計算している。同図によれば、塩水スプレー等に比べて、模擬泥の場合には、塗膜への水の浸入速度が格段に大きいことがわかる。
−通電制御について−
本実施形態に係る耐食性試験において、鋼板2に対する通電は、定電流制御方式に限らず、定電圧制御方式にすることもできる。
なお、図11は1mAの定電流制御による通電の電流プロット(比較例3の供試材1の試験)であり、図12は1mAの電流が流れる程度の定電圧を印加したときの電流プロットである。この定電流制御の耐食性試験及び定電圧制御の耐食性試験において、通電条件を除く、他の試験条件は比較例3の供試材1の試験条件と同じである。
定電流制御の場合、電流値が通電初期において多少ばらつくものの、略1mAに制御されている。このように腐食の加速に直接関与する電流値が安定することにより、腐食の加速再現性が良くなる。すなわち、耐食性試験の信頼性が高くなる。
これに対して、定電圧制御の場合、電流値が大きく変動しており、腐食の加速再現性の面で不利になることがわかる。通電開始から7000秒付近までの電流値の変動が大きい期間は、電着塗膜4に水が浸透する期間にあたり、塗膜への水の浸透が定常的に進まないために、電流値が大きく変動しているものと認められる。その後も、電流値は0.5mA〜1.5mAの範囲で変動しており、化成皮膜の劣化や発錆に伴う抵抗値の変動の影響と認められる。なお、本実施形態に係る耐食性試験方法では、通電ステップ前に保持ステップを設けているため、通電開始から7000秒付近までの電流値の変動は抑制され得る。定電圧制御での電流プロット(電流波形)から、腐食が進展する過程における腐食の進行状態ないしは腐食の程度を捉えることが可能になると考えられる。
<作用効果>
以上述べたように、本実施形態に係る耐食性試験装置を用いると、試験例1に示すような実腐食試験に比べてより短期間で信頼性の高い耐食性試験が可能となる。特に、含水電解質材料6を収容する複数の貫通孔11を備えた容器30を電着塗膜4上に載置することにより、含水電解質材料6を複数の測定部分4Aの各々に接触するように配置することができる。そうして、貫通孔11が含水電解質材料保持部として機能するから、より簡単な構成で、信頼性の高い耐食性試験が可能となる。さらに、複数の貫通孔11は、1つの容器に設けられているから、所定の測定部分4Aに接触するように含水電解質材料6を配置することが容易となるとともに、含水電解質材料6の配置に位置ずれが生じにくく、耐食性試験の信頼性を高めることができる。
なお、好ましくは、測定部分4Aに人工傷5を設けるとともに、粘土鉱物を含有する模擬泥を含水電解質材料6として採用すると、水が塗膜に対して速やかに浸透し、上述の耐食性試験を迅速に且つ安定して行なうことができる。また、通電ステップ前に保持ステップを設け、且つ当該保持ステップ及び通電ステップにおいて、含水電解質材料6及び被覆金属材1を所定の温度に加温して保持することにより、電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透を予め促すことができる。そうして、腐食進展速度の評価をより短時間で精度よく行うことができる。
なお、本実施形態に係る耐食性試験装置は、例えば自動車部材の製造工程等において、塗装工程毎に製造ラインから部品を取り出し、塗膜の品質等を確認する場合等に好適に用いることができる。
(第2実施形態)
以下、本開示に係る他の実施形態について詳述する。なお、これらの実施形態の説明において、第1実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
図1の容器30及び被覆金属材1を覆うように、図13に示すカバー38を設けてもよい。カバー38は、例えば、カバー本体381と、カバー本体381の側面に設けられた切欠き部382と、カバー本体381の上部に設けられた把持部383とを備える。把持部383を持って、外部回路7及び温度コントローラ36の配線等を切欠き部382から取り出しつつ、カバー本体381により容器30及び被覆金属材1の全体を覆うようにカバー38を配置する。本構成により、含水電解質材料6及び被覆金属材1の温度の調整を容易に行うとともに、温度を一定に保つことができるから、耐食性試験の信頼性を向上させることができる。
(その他の実施形態)
測定部分4Aは、3箇所以上であってもよい。そして、容器30の貫通孔11は、3個以上設けてもよい。また、測定部分4Aに人工傷5を設けない構成としてもよい。測定部分4Aを3箇所以上設ける場合は、全て又は一部の測定部分4Aに人工傷5を設けてもよいし、設けなくてもよい。
容器30の外形は、第1実施形態のものに限られず、平面視矩形状等他の形状の部材であってもよい。
被覆金属材1は、板状でなくてもよく、ブロック状、棒状、球状等であってもよいし、測定部分4Aは、湾曲面や角部に位置していてもよい。この場合、容器30及び貫通孔11の形状、電極12の形状等は、測定部分4Aの形状に合わせて適宜変更され得る。
容器30は、底部32としてのシート状のシール材を有しない構成であってもよい。この場合、例えば、被覆金属材1の電着塗膜4上に測定部分4Aが露出する孔部を有するゴムマットやシリコーン樹脂製のシートを配置し、その上に容器30を載置するようにしてもよい。
磁石33を設けない構成としてもよいし、設ける場合は、リング状の磁石に限られず、例えば複数のブロック状や円盤状、球状等の磁石を貫通孔11周りに設けるようにしてもよい。また、底部32の一部として磁石シート等を設ける構成としてもよい。
また、ラバーヒータ34及びホットプレート35を設ける代わりに、装置全体を炉内で加温及び温度調整するようにしてもよい。
上記実施形態では、表面処理膜として電着塗膜4を備えた構成であったが、被覆金属材1は、表面処理膜として二層以上の多層膜を備えた構成とすることができる。具体的には例えば、電着塗膜4に加え、該電着塗膜4表面上に中塗り塗膜を備えた構成、若しくは該中塗り塗膜上にさらに上塗り塗膜等を備えた構成の多層膜とすることができる。
中塗り塗膜は、被覆金属材1の仕上り性と耐チッピング性を確保するとともに、電着塗膜4と上塗り塗膜との密着性を向上させる役割を有する。また、上塗り塗膜は、被覆金属材1の色、仕上り性及び耐候性を確保するものである。これらの塗膜は、具体的には例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂等の基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物(ブロック体も含む)等の架橋剤とからなる塗料等により形成することができる。
上記実施形態では、電極12は孔12aを有する有孔電極であったが、孔12aを有しない電極であってもよい。また電極形状は、特に限定されるものではなく、電気化学測定において一般的に用いられる形状の電極を採用することができる。