JP6811699B2 - 絶縁劣化診断方法および絶縁劣化診断装置 - Google Patents

絶縁劣化診断方法および絶縁劣化診断装置 Download PDF

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Description

本開示は、樹脂絶縁物の劣化を診断する絶縁劣化診断方法および絶縁劣化診断装置に関する。
受配電設備等の電気機器に使用される樹脂絶縁物は、樹脂絶縁物の酸化および加水分解、または、充填材と大気中の酸性ガスとの反応により劣化する。樹脂絶縁物が劣化すると、樹脂絶縁物の表面抵抗率が低下するため、放電または短絡が発生し、結果的に電気機器の故障に至る可能性がある。そのため、樹脂絶縁物の劣化状態を把握して、故障または短絡に至るまでの余寿命を精度良く推定する技術が求められる。
絶縁物の劣化診断には、絶縁物の表面抵抗率を測定することが効果的である。しかし、表面抵抗率の電気的な測定は、湿度等の外部環境ノイズの影響を受け易いため、測定誤差が問題となってくる。そこで、従来より、外部環境ノイズの影響が少なく、かつ、表面抵抗率の低下と強い相関関係がある化学的測定項目を測定することで、絶縁物の劣化状態を診断することが行なわれている。
たとえば、特開2010−71961号公報(特許文献1)には、高分子材料表面の水酸基(OH基)の発現と、高分子材料の表面抵抗の劣化との間に相関があることに基づいて、ポリエステル樹脂からなる高分子材料の表面におけるOH基を分光分析によって定量することにより、高分子材料の劣化の程度を診断する方法が開示される。
特開2010−71961号公報
上記特許文献1に記載される診断方法においては、高分子材料表面上のOH基のみを測定しているため、OH基の検出量に変化が現われた時点において既に高分子材料の劣化が進行し、寿命に近づいている場合が起こり得る。そのため、寿命に到達する前の早い段階で絶縁物の劣化を検出することが困難となることが懸念される。
この発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、樹脂絶縁物の劣化状態を高精度に診断することができる絶縁劣化診断方法および絶縁劣化診断装置を提供することである。
本開示による樹脂絶縁物の劣化を診断する絶縁劣化診断方法は、診断対象となる樹脂絶縁物の表面に赤外光を照射し、その反射光または透過光を分光することにより、診断対象の赤外スペクトルを取得する工程と、取得された赤外スペクトルに現れる複数の化学種に由来するピークの形状および赤外スペクトルの直線部の形状から、複数の数値データを抽出する工程と、抽出された複数の数値データに基づいて、診断対象の表面抵抗率を算出する工程とを備える。
本開示による樹脂絶縁物の劣化を診断する絶縁劣化診断装置は、分光装置と、抽出部と、算出部とを備える。分光装置は、診断対象となる樹脂絶縁物の表面に赤外光を照射し、その反射光または透過光を分光することにより、診断対象の赤外スペクトルを取得する。抽出部は、分光装置により取得された赤外スペクトルに現れる複数の化学種に由来するピークの形状および赤外スペクトルの直線部の形状から、複数の数値データを抽出する。算出部は、抽出部により抽出された複数の数値データに基づいて、診断対象の表面抵抗率を算出する。
本開示によれば、樹脂絶縁物の劣化状態を高精度に診断することができる絶縁劣化診断方法および絶縁劣化診断装置を提供することができる。
この発明の実施の形態1に従う絶縁劣化診断装置の構成を概略的に示す図である。 実施の形態1に従う絶縁劣化診断装置において実行される絶縁劣化診断処理を示すフローチャートである。 劣化状態が互いに異なる、3つの不飽和ポリエステル樹脂の赤外スペクトルを示す図である。 赤外スペクトルから少なくとも1つの化学種のピーク強度およびピーク波数を抽出する方法を説明する図である。 一次微分スペクトルまたは二次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク強度およびピーク波数を抽出する方法を説明する図である。 赤外スペクトルにおける少なくとも1つの化学種のピークと赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の数、および交点の波数を抽出する豊富法を説明する図である。 赤外スペクトルの直線部の傾きを抽出する方法を説明する図である。 複数の数値データと表面抵抗率との関係式を模式的に示す図である。 実施の形態2に従う絶縁劣化診断装置において実行される絶縁劣化診断処理を示すフローチャートである。 劣化度と表面抵抗率との関係を示す検量線を模式的に示す図である。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明は繰返さない。
実施の形態1.
<絶縁劣化診断装置の構成>
図1は、この発明の実施の形態1に従う絶縁劣化診断装置の構成を概略的に示す図である。実施の形態1に従う絶縁劣化診断装置10は、主に、受配電設備等の電気機器に使用される樹脂絶縁物の劣化を診断するための装置である。実施の形態1に従う絶縁劣化診断装置10は、診断対象である樹脂絶縁物を赤外線分光して得られる赤外スペクトルデータに、樹脂絶縁物の劣化に起因した変化が現われることを利用して、診断対象の劣化を診断するものである。
なお、診断対象となる樹脂絶縁物としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂などを用いることができる。
図1を参照して、実施の形態1に従う絶縁劣化診断装置10は、分光装置1と、表面抵抗率算出装置2と、出力装置3とを備える。
分光装置1は、診断対象の樹脂絶縁物の表面に赤外線を照射し、その反射光または透過光を分光する赤外線分光器で構成されている。分光装置1は、波数4000〜650cm−1の赤外光を分光し、その分光した波長ごとに光強度を検出する。そして、検出した光強度を電気信号に変換することにより、診断対象の樹脂絶縁物の赤外スペクトルデータを出力するように構成されている。
なお、分光装置1として赤外光分光器を用いることにより、近赤外光では測定不可である黒色の診断対象の分析が可能となる。赤外スペクトルを取得する方法は、診断対象に応じて、透過法、反射法およびATR(Attenuated Total Reflection)法のいずれかを用いることができる。ただし、ATR法を用いた場合には、樹脂絶縁物から測定用の試料を採取する必要がないため、非破壊で赤外スペクトルを得ることができる。また、ATR法では、測定結果に、試料の加工方法の影響が現われないため、赤外スペクトルの経時変化を捉えやすく、解析に適した赤外スペクトルを得ることができる。
分光装置1にて取得された赤外スペクトルデータは、表面抵抗率算出装置2に入力される。表面抵抗率算出装置2は、例えば、パーソナルコンピュータで構成される。表面抵抗率算出装置2は、分光装置1から与えられる赤外スペクトルデータに基づいて、診断対象の表面抵抗率を算出する。なお、「表面抵抗率」とは、診断対象の樹脂絶縁物の表面層における直流電界の強さを、電極の単位長さ当たりの電流で除した値である。実際には、表面抵抗率は、診断対象の表面上の正方形の面に換算した表面抵抗に相当する。
表面抵抗率算出装置2は、スペクトル数値化部4と、表面抵抗率算出部7と、出力部8とを含む。スペクトル数値化部4は、診断対象の赤外スペクトルを数値化するための部位であり、規格化部5と、数値データ抽出部6とを含む。
規格化部5は、赤外スペクトルを数値化するための前処理として、赤外スペクトルを規格化する。この規格化処理は、複数の赤外スペクトル間における、測定条件などによる強度の相違をなくすために行なわれる処理である。具体的には、赤外スペクトルに現れる複数の化学種に由来するピークのうち、樹脂絶縁物の劣化によってその強度がほとんど変化しない化学種のピークの強度を基準として、残りの化学種のピーク強度を規格化する。例えば、診断対象が不飽和ポリエステル樹脂である場合には、劣化の影響をほとんど受けないC−H伸縮振動(CH基、波数2919cm−1付近)を基準として規格化処理を行なうことが好ましい。
数値データ抽出部6は、規格化された赤外スペクトルから複数の数値データを抽出する。赤外スペクトルは、複数の化学種に由来するピークと、隣り合う2つのピークの間に位置する直線部とを有している。本願明細書において「赤外スペクトルの直線部」とは、赤外スペクトルのうち、波数の変化に対してスペクトル強度がほぼ一定となる区間、もしくは、波数の変化に対してスペクトル強度がほぼ一次関数的に変化する区間を意味する。すなわち、赤外スペクトルデータのうち、波数に対してスペクトル強度を直線近似することができる区間を意味している。
数値データ抽出部6は、赤外スペクトルに現れる複数の化学種に由来するピークの形状、および赤外スペクトルの直線部分の形状から、複数の数値データを抽出する。抽出された複数の数値データの各々は、診断対象の劣化による赤外スペクトルの変化を反映して、その数値が変化するデータである。なお、複数の数値データには、診断対象となる樹脂絶縁物に応じて、赤外スペクトルの変化を好適に反映させることができる数値データを適宜採用することができる。数値データ抽出部6における数値データの抽出方法については後述する。
表面抵抗率算出部7は、数値データ抽出部6によって抽出された複数の数値データに基づいて、診断対象の樹脂絶縁物の表面抵抗率を算出する。具体的には、表面抵抗率算出部7においては、予め表面抵抗率が分かっている複数の樹脂絶縁物の各々について、赤外スペクトルの取得と、該赤外スペクトルの数値化とを行なうことにより、診断対象となる樹脂絶縁物について、複数の数値データと表面抵抗率との関係式を予め導出しておく。そして、表面抵抗率算出部7は、予め導出した複数の数値データと表面抵抗率との関係式を用いて、診断対象の赤外スペクトルから抽出した複数の数値データに基づいて、診断対象の表面抵抗率を算出する。表面抵抗率算出部7は、算出した表面抵抗率を出力部8に出力する。
出力部8は、診断対象の表面抵抗率を示すデータを、ディスプレイまたはプリンタ等で構成された出力装置3に伝送するための部位である。出力装置3は、出力部8から表面抵抗率を示すデータを受信すると、ディスプレイの表示画面上に診断対象の表面抵抗率を表示させる。または、プリンタから診断対象の表面抵抗率をプリントアウトさせる。なお、出力装置3は、診断対象の表面抵抗率を出力することに加えて、診断対象の劣化状態を出力する構成としてもよい。
<絶縁劣化診断方法>
次に、この発明の実施の形態1に従う絶縁劣化診断方法について説明する。
実施の形態1に従う絶縁劣化診断方法は、主に、診断対象となる樹脂絶縁物の表面に赤外光を照射し、その反射光または透過光を分光することにより、診断対象の赤外スペクトルを取得する工程と、取得された赤外スペクトルの形状から複数の数値データを抽出する工程と、抽出された前記複数の数値データに基づいて診断対象の表面抵抗率を算出する工程とを備える。
図2は、実施の形態1に従う絶縁劣化診断装置10において実行される絶縁劣化診断処理を示すフローチャートである。
図2を参照して、最初に、分光装置1において、診断対象となる樹脂絶縁物を赤外線分光分析することにより、赤外スペクトルが取得される(ステップS10)
次に、表面抵抗率算出装置2において、分光装置1にて取得された赤外スペクトルを数値化する処理が実行される(ステップS20)。この数値化処理では、最初に、赤外スペクトルを数値化するための前処理として、赤外スペクトルを規格化する処理が行なわれる(ステップS21)。この処理は、図1に示した規格化部5により実行される。
続いて、規格化された赤外スペクトルから、複数の数値データを抽出する処理が行なわれる(ステップS22)。この処理は、図1に示した数値データ抽出部6により実行される。
次に、抽出された複数の数値データを用いて診断対象の表面抵抗率が算出される(ステップS30)。ステップS30では、予め導出されている複数の数値データと表面抵抗率との関係式を用いて、診断対象の赤外スペクトルから抽出した複数の数値データに基づいて、診断対象の表面抵抗率が算出される。算出された診断対象の表面抵抗率は、出力装置3に送出され、出力装置3から外部に出力される(ステップS40)。
なお、ステップS30の処理で用いられる複数の数値データと表面抵抗率との関係式は、ステップS100〜S120に示す処理手順によって生成することができる。なお、ステップS100〜S120に示す処理は、診断対象の赤外線分光分析(ステップS10)に先立って実行される。
具体的には、最初に、表面抵抗率が既知の樹脂絶縁物を複数用意する。この複数の樹脂絶縁物には、表面抵抗率が高い、新品の樹脂絶縁物と、表面抵抗率が低下した、少なくとも1つの劣化品の樹脂絶縁物とが含まれている。これら複数の樹脂絶縁物の各々について、赤外線分光分析を行ない、赤外スペクトルを取得する(ステップS100)。
次に、取得した複数の樹脂絶縁物の赤外スペクトルを数値化する(ステップS110)。ステップS110では、樹脂絶縁物ごとに、赤外スペクトルから複数の数値データを抽出し、抽出した複数の数値データとその樹脂絶縁物の表面抵抗率とを紐付けておく。これにより、表面抵抗率と複数の数値データとの組み合わせが複数組生成されることになる。
この生成された複数の組み合わせに基づいて、複数の数値データと表面抵抗率との関係式を作成する(ステップS120)。具体的には、表面抵抗率を目的変数とし、各数値データを説明変数として、重回帰分析等の多変量解析を行なうことにより、表面抵抗率と複数の数値データとの関係式を作成する。
なお、多変量解析は、重回帰分析に限らず、相関が認められる限りにおいて、主成分回帰、PLS(部分的最小二乗法)回帰分析などを用いてもよい。あるいは、これらの多変量解析は市販されている多変量解析ソフトを用いて行なってもよい。
<赤外スペクトルから複数の数値データを抽出する工程>
次に、図2に示した絶縁劣化診断処理のうち、赤外スペクトルから複数の数値データを抽出する工程(ステップS22)の処理手順について詳細に説明する。
上述したように、赤外スペクトルは、複数の化学種に由来するピークと直線部分とを有している。本工程では、複数の化学種のピークの形状および直線部分の形状から、複数の数値データを抽出する。以下では、診断対象が不飽和ポリエステル樹脂であるときの赤外スペクトルを用いて、数値データを抽出する方法について説明する。
図3には、劣化状態が互いに異なる、3つの不飽和ポリエステル樹脂の赤外スペクトルが示されている。図3の横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸はスペクトル強度を示す。
図3において、スペクトルk1は、新品の不飽和ポリエステル樹脂の赤外スペクトルを示し、スペクトルk2は、寿命に到達する前の劣化品の不飽和ポリエステル樹脂の赤外スペクトルを示し、スペクトルk3は、寿命に到達した寿命到達品の不飽和ポリエステル樹脂の赤外スペクトルを示す。
なお、スペクトルk1〜k3の各々には、CH基(波数2919cm−1付近)のスペクトル強度を基準とした規格化処理が施されている。また、図3では、各スペクトルを見やすくするため、スペクトルk1に対して、スペクトルk2,k3の各々を縦軸方向にずらして示している。
図3に示すように、不飽和ポリエステル樹脂の赤外スペクトルには、複数の化学種のピークが現われている。複数の化学種の種類および各々のピークの大きさは、不飽和ポリエステル樹脂の組成などに依存する。図3の例では、複数の化学種には、ヒドロキシル基(OH基、波数3600〜3200cm−1)、カルボニル基(C=O基、波数1730cm−1付近)、炭酸塩(波数1490〜1410cm−1)、硝酸塩(波数1360cm−1付近)、C−O基(波数1150cm−1付近)、および硫酸塩(波数1100cm−1付近)のうち少なくとも2種類が含まれている。
赤外スペクトルに現れる化学種の種類、およびその化学種のピークの形状(ピーク強度、ピーク波数、ピーク幅など)は、不飽和ポリエステル樹脂の劣化状態に応じて変化する。例えば図3に示す赤外スペクトルにおいては、新品の赤外スペクトル(スペクトルk1)では、不飽和ポリエステル樹脂の組成成分である炭酸塩(波数1490〜1410cm−1)のピーク強度が最も大きく、C=O基(波数1730cm−1付近)およびC−O基(波数1150cm−1付近)は炭酸塩に比べてピーク強度が著しく小さい。また、OH基(波数3600〜3200cm−1)、硝酸塩(波数1360cm−1付近)および硫酸塩(波数1100cm−1付近)のピークは現れていない。
これに対して、劣化品の赤外スペクトル(スペクトルk2)では、炭酸塩のピーク強度が減少する一方で、硝酸塩およびOH基にピークが出現し始めている。また、C=O基のピーク強度も増加している。寿命到達品の赤外スペクトル(スペクトルk3)では、硝酸塩およびOH基のピーク強度がさらに大きくなっている。
さらに、赤外スペクトルの直線部に着目する。赤外スペクトルの直線部は、上述したように、波数に対してスペクトル強度を直線近似することができる区間に相当する。図3の例では、赤外スペクトルの直線部を、波数が2600〜2000cm−1の領域(図中の領域RN4)における赤外スペクトルとする。
新品の赤外スペクトル(スペクトルk1)では、直線部は波数軸(横軸)とほぼ平行であるのに対して、劣化品の赤外スペクトル(スペクトルk2)では、直線部が高波数側から低波数側に向かって強度が下がるように傾いている。寿命到達品の赤外スペクトル(スペクトルk3)では、直線部の傾きがさらに大きくなっている。
ここで、不飽和ポリエステル樹脂の劣化が進むにつれて、炭酸塩のピーク強度が低下し、かつ、硝酸塩のピーク強度が増加するのは、不飽和ポリエステル樹脂の組成成分である炭酸塩(例えば、炭酸カルシウム(CaCO))、ポリエステル樹脂およびガラス樹脂が大気中の窒素酸化物(NO、NO)と反応することで、硝酸塩(例えば、硝酸カルシウム(Ca(NO))が生成されたことによると考えられる。
なお、不飽和ポリエステル樹脂の組成成分と大気中の硫化水素(HS)または二酸化硫黄(SO)とが反応することで、硫酸塩が生成される場合がある。硝酸塩および硫酸塩は、潮解性および吸湿性が高いため、大気中の水分を吸収して潮解する。
また、劣化が進むにつれてOH基のピーク強度が増加するのは、不飽和ポリエステル樹脂の表面が加水分解すること等により、OH基が生成されるためと考えられる。
また、C=O基およびC−O基のピーク強度が変化するのは、不飽和ポリエステル樹脂の表面が酸化または加水分解することによって、エステル基およびカルボキシル基が生成されるためと考えられる。なお、C=O基およびC−O基については、生成される基によって、ピーク強度が増加または減少すること、または、ピーク波数が高波数側または低波数側にシフトすることがある。
また、劣化が進むにつれて赤外スペクトルの直線部の傾きが大きくなるのは、不飽和ポリエステル樹脂の表面が汚染、酸化または加水分解することによって、表面状態が変化することで、赤外光の散乱の影響が現われるためと考えられる。なお、赤外光の散乱の影響は、低波数側よりも高波数側の方が大きいため、結果的に赤外スペクトルの直線部が傾くこととなる。
このように不飽和ポリエステル樹脂の劣化が進むと、その表面が吸湿性の硝酸塩、硫酸塩および親水性のOH基などで覆われる。また、大気中の腐食性ガス等または経年劣化によって樹脂絶縁物の表面が酸化する。これらの要因によって樹脂絶縁物の表面抵抗率が低下し、最終的に絶縁破壊に至ることになる。
本実施の形態1に従う絶縁劣化診断方法においては、診断対象となる樹脂絶縁物の赤外スペクトルから、表面抵抗率の低下と相関関係がある複数の数値データを抽出し、その抽出した複数の数値データを用いて、診断対象の劣化を診断する。具体的には、赤外スペクトルから複数の数値データを抽出する工程(図2のステップS20)においては、下記(1)〜(7)のうち少なくとも2つを抽出する。
(1)少なくとも1つの化学種のピーク強度
(2)少なくとも1つの化学種のピーク波数
(3)一次微分スペクトルまたは二次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク強度
(4)一次微分スペクトルまたは二次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク波数
(5)少なくとも1つの化学種のピークと赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の数
(6)少なくとも1つの化学種のピークと赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の波数
(7)赤外スペクトルにおける少なくとも1つの直線部の傾き
以下、図3に示した不飽和ポリエステル樹脂の赤外スペクトルから上記(1)〜(7)の数値データを抽出する方法について詳細に説明する。
(1)少なくとも1つの化学種のピーク強度
赤外スペクトルに現れている複数の化学種のピークのうち少なくとも1つの化学種のピークについて、そのピーク強度を抽出する。少なくとも1つの化学種には、複数の化学種のうち、診断対象の劣化が進むにつれて、その強度が変化するものが選択される。
図4には、図3の赤外スペクトルのうち、3700〜3100cm−1の波数領域(図3中の領域RN1)および1750〜1650cm−1の波数領域(図3中の領域RN2)が示されている。波数領域RN1には、OH基に由来するピークが現われる。波数領域RN2には、C=O基に由来するピークが現れる。図4に示すように、OH基のピークおよびC=O基のピークはいずれも、不飽和ポリエステル樹脂の劣化が進むにつれてその強度または波数が変化する。そこで、数値データとして、OH基に由来するピークの強度、またはC=O基に由来するピークの強度を抽出する。
(2)少なくとも1つの化学種のピーク波数
赤外スペクトルに現れている複数の化学種のピークのうち少なくとも1つの化学種のピークについて、そのピーク波数を抽出する。図4の例では、OH基に由来するピークの波数(図中の波数pに相当)、またはC=O基に由来するピークの波数(図中の波数qに相当)を抽出する。
(3)一次微分スペクトルまたは二次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク強度
図5(A)には、波数が1600〜1200cm−1の領域(図3中の領域RN3)における赤外スペクトルが示されている。この波数領域には、炭酸塩(波数1490〜1410cm−1)に由来するピークが現れている。
図5(B)には、この波数領域における二次微分スペクトルが示されている。図5(B)において、スペクトルk11は、新品のスペクトルk1の二次微分スペクトルを示し、スペクトルk12は、劣化品のスペクトルk2の二次微分スペクトルを示し、スペクトルk13は、寿命到達品のスペクトルk3の二次微分スペクトルを示す。図5(B)では、各スペクトルを見やすくするため、スペクトルk11に対して、スペクトルk12,k13の各々を縦軸方向にずらして示している。
二次微分スペクトルには、赤外スペクトルに含まれるピークに対応するピーク(極小値)が現れる。言い換えれば、二次微分スペクトルは、赤外スペクトルに埋もれているピークを、先鋭化したピーク(極小値)として出現させることができる。図5(B)に示すように、新品の二次微分スペクトル(スペクトルk11)は、炭酸塩のピークに対応する極小値を有している。これに対して、劣化品の二次微分スペクトル(スペクトルk12)には、炭酸塩のピークに対応する極小値に加えて、硝酸塩(波数1360cm−1)に由来する極小値が現れている。寿命到達品の二次微分スペクトル(スペクトルk13)では、硝酸塩に由来する極小値がさらに先鋭化されている。このような二次微分スペクトルにおける変化は、図5(A)に示す赤外スペクトルにおいて、不飽和ポリエステル樹脂の劣化が進むにつれて、硝酸塩のピークが出現し、かつ、そのピーク強度が徐々に大きくなることに対応している。
そこで、二次微分スペクトルから、少なくとも1つの化学種のピークの強度を抽出する。図5(B)では、二次微分スペクトルから硝酸塩に由来するピークの強度を抽出する。具体的には、スペクトルk11,k12,k13から、硝酸塩に由来するピークの強度α,β,γをそれぞれ抽出する。抽出した強度α,β,γを互いに比較することで、赤外スペクトルにおける硝酸塩のピークの出現を捉えることができる。
なお、図示は省略するが、一次微分スペクトルにおいては、対応する赤外スペクトルの変曲点に対応する波数に極大値または極小値が現れるとともに、対応する赤外スペクトルの極大値または極小値に対応する波数にゼロ点が現れる。したがって、一次微分スペクトルから、少なくとも1つの化学種のピーク強度を抽出してもよい。
(4)一次微分スペクトルまたは二次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク波数
図5(B)でで示したように、二次微分スペクトルには、赤外スペクトルに埋もれているピークに由来する極小値が現われる。したがって、二次微分スペクトルから、少なくとも1つの化学種のピークの波数を抽出することで、診断対象の劣化が進むにつれて出現する化学種を捉えることができる。
また、一次微分スペクトルには、対応する赤外スペクトルの変曲点に対応する波数に極大値および極小値が現われるとともに、赤外スペクトルの極大値または極小値に対応する波数にゼロ点が現われることから、一次微分スペクトルから、少なくとも1つの化学種のピークの波数を抽出することで、対応する赤外スペクトルの形状の変化を捉えることができる。
(5)少なくとも1つの化学種のピークと赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の数
図6には、波数が3700〜3100cm−1の領域(図3中の領域RN1)における赤外スペクトルが示されている。この波数領域には、劣化の進行とともにOH基に由来するピークが現れる。
OH基のピークに対して、赤外スペクトルの波数軸(横軸)に平行な直線L1を少なくとも1本引く。図6の例では、波数軸に平行な直線L1が互いに等しい間隔で複数本引かれている。この複数の直線L1とOH基のピークとの交点の数を抽出する。
図6の例では、新品のスペクトルk1における直線部と直線L1とが略平行となっているため、交点の数は0となっている。これに対して、劣化品のスペクトルk2では、OH基のピークが現れるため、直線L1との交点の数が2となる。さらに、寿命到達品のスペクトルk3では、OH基のピーク強度が大きくなることにより、直線L1との交点の数が14に増えている。
ある1つの化学種のピークと少なくとも1本の直線L1との交点の数は、赤外スペクトルに該化学種のピークが出現したか、ピークが消失したかを示す指標となり得る。具体的には、図6のように、交点の数が0から2に変化した場合、赤外スペクトルに特定の化学種のピークが出現したことが分かる。なお、交点の数が2からさらに増えた場合には、この化学種のピークが大きくなっていることが分かる。逆に、交点の数が減少した場合には、この化学種のピークが小さくなっていることが分かる。交点の数が0にまで減少した場合には、この化学種のピークが消失したことが分かる。
そこで、数値データとして、赤外スペクトルに現れている複数の化学種のピークのうち少なくとも1つの化学種のピークについて、そのピークと赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の数を抽出する。
(6)少なくとも1つの化学種のピークと赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の波数
図6では、さらに、ある1つの化学種のピークと少なくとも1本の直線L1との交点の波数は、特定の化学種のピークの位置が低波数側または高波数側にシフトしているかどうかを示す指標となり得る。具体的には、ある1本の直線L1と特定の化学種のピークとの交点の波数が、劣化が進むにつれて減少している場合には、このピークの位置が低波数側にシフトしていることが分かる。逆に、ある1本の直線L1と特定の化学種のピークとの交点の波数が、劣化が進むにつれて増加している場合、このピークの位置が高波数側にシフトしていることが分かる。
また、特定の化学種と交差する1本の直線L1上に存在する2つの交点において、一方の交点の波数と他方の交点の波数との差は、ピークの幅を示す指標となり得る。
そこで、数値データとして、少なくとも1つの化学種のピークと赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の波数を抽出する。
(7)赤外スペクトルにおける少なくとも1つの直線部の傾き
図7には、波数が2600〜2000cm−1の領域(図3中の領域RN4)における赤外スペクトルが示されている。この波数領域には赤外スペクトルの直線部が現れている。
この赤外スペクトルの直線部を直線近似し、その傾きを抽出する。例えば、赤外スペクトルの波数軸(横軸)をx軸とし、スペクトル強度軸(縦軸)をy軸とした任意の直交座標系を設定し、この直交座標系における直線部の傾きを数値として抽出する。図7の例では、新品のスペクトルk1では、直線部をy=a1で近似することができる(すなわち、傾き=0)。劣化品のスペクトルk2では、直線部をy=a2xで近似することができ、寿命到達品のスペクトルk3では、直線部をy=a3xで近似することができる。
不飽和ポリエステル樹脂の赤外スペクトルにおいては、赤外光の散乱の影響が低波数側よりも高波数側の方が大きいため、劣化が進むとともに直線部の傾きが変化する。したがって、赤外スペクトルの直線部の傾きを数値化することで、数値データの変化から診断対象の劣化の兆候を捉えることができる。
<複数の数値データに基づいて診断対象の表面抵抗率を算出する工程>
次に、図2に示した絶縁劣化診断処理のうち、複数の数値データに基づいて診断対象の表面抵抗率を算出する工程(ステップS30)の処理手順について詳細に説明する。
この工程では、赤外スペクトルから抽出された複数の数値データを、予め導出されている複数の数値データと表面抵抗率の関係式に代入することにより、診断対象の表面抵抗率を算出する。図8には、赤外スペクトルから得られた複数(n個とする)の数値データを変数X1,X2,・・・Xn)とし、表面抵抗率をYとしたときの関係式Y=F(X1,X2,・・・Xn)が模式的に示されている。この関係式は、図2のステップS100〜S120の処理を実行することによって生成されたものである。
図8に示すように、この関係式Y=F(X1,X2,・・・Xn)に対して、診断対象の数値データXを代入することにより、診断対象の表面抵抗率Yを算出することができる。
以上説明したように、本実施の形態1に従う絶縁劣化診断方法においては、診断対象の赤外スペクトルの形状から複数の数値データを抽出し、抽出した複数の数値データに基づいて診断対象の表面抵抗率を算出することにより、診断対象の劣化を診断する。すなわち、本実施の形態1に従う絶縁劣化診断方法によれば、赤外スペクトルの形状から抽出された複数の数値データに基づいて、診断対象の劣化が診断される。
なお、特許文献1に示されるように、従来の劣化診断方法においても、赤外スペクトルを定量することで樹脂絶縁物の劣化を診断する手法が採用されていた。しかしながら、従来の劣化診断方法では、ある1種類の化学種のピーク強度を測定するに止まるため、樹脂絶縁物の劣化の兆候を捉えるのに時間がかかることが懸念される。その結果、特定の化学種のピーク強度に変化が現われた時点において既に樹脂絶縁物の劣化が進行している場合が起こり得る。
これに対して、本実施の形態1では、赤外スペクトルの形状から複数の数値データを抽出するため、特定の化学種のピーク強度の変化に限らず、赤外スペクトルの微小な変化についても数値化することができる。特に、本実施の形態1では、赤外スペクトルに現れる複数の化学種に由来するピークの形状、および赤外スペクトルの直線部の形状から、複数の数値データを抽出するため、劣化に伴う赤外スペクトルの微小な変化について精度良く捉えることができる。そして、この抽出された複数の数値データに基づいて表面抵抗率を算出することにより、高い精度で表面抵抗率を推定することができる。この結果、診断対象の劣化状態を高精度に診断することができるため、寿命に至るまでの早期の段階で樹脂絶縁物の劣化を検出することが可能となる。
なお、本実施の形態1に従う絶縁劣化診断方法において、赤外スペクトルから抽出される複数の数値データは、該赤外スペクトルのうち経年による変化が顕著な部分を数値化したものであることが好ましい。ただし、劣化による赤外スペクトルの変化の態様は、樹脂絶縁物の種類によって様々である。そのため、診断対象となる樹脂絶縁物に応じて、抽出する数値データを自在に設定することで、診断対象の種類を問わず、高精度の劣化診断を実現することができる。
実施の形態2.
上述の実施の形態1では、複数の数値データと表面抵抗率との関係式を生成する手法として、表面抵抗率を目的変数とし、複数の数値データを説明変数として多変量解析を行なう構成について説明したが、実施の形態2では、複数の数値データを、多変量解析を用いて単一の指標に変換し、この指標と表面抵抗率との関係を示す検量線を生成する構成について説明する。
なお、実施の形態2に従う絶縁劣化診断装置10は、図1に示した絶縁劣化診断装置10の構成と同じであるため、詳細な説明は繰返さない。
図9は、実施の形態2に従う絶縁劣化診断装置10において実行される絶縁劣化診断処理を示すフローチャートである。
図9に示す絶縁診断処理は、図2に示した絶縁診断処理と比較して、ステップS20,S30に代えて、ステップS25,S35を備える。また、図9に示す絶縁診断処理は、ステップS120に代えて、ステップS140、S150を備える。その他のステップは図2の絶縁診断処理と同じであるため、詳細な説明は繰返さない。
図9を参照して、表面抵抗率算出装置2において、分光装置1にて取得された赤外スペクトルから複数の数値データが抽出されると(ステップS22)、複数の数値データを、多変量解析を行なうことによって、単一の指標に置き換えられる(ステップS25)。例えば、マハラノビス・タグチシステム法(以下、MT法を示す)を用いて、複数の数値データを単一の指標(マハラノビスの距離)として表す。本実施の形態2では、MT法を例としてマハラノビスの距離を「劣化度」と定義する。
次に、算出した劣化度を用いて、診断対象の表面抵抗率が算出される(ステップS35)。ステップS35では、予め導出されている劣化度と表面抵抗率との関係を示す検量線を用いて、算出した劣化度に基づいて、診断対象の表面抵抗率が算出される。
ステップS35の処理で用いられる劣化度と表面抵抗率との関係を示す検量線は、ステップS100〜S150に示す処理手順により生成することができる。ステップS100〜S150の処理は、診断対象の赤外線分光分析に先立って実行される。
具体的には、最初に、表面抵抗率が既知の樹脂絶縁物を複数用意する。この複数の樹脂絶縁物には、新品の樹脂絶縁物と、少なくとも1つの劣化品の樹脂絶縁物とが含まれている。複数の樹脂絶縁物の各々について、赤外線分光分析を行ない、赤外スペクトルを取得する(ステップS100)。
次に、取得した複数の樹脂絶縁物の赤外スペクトルを数値化する(ステップS110)。ステップS110では、樹脂絶縁物ごとに、赤外スペクトルから複数の数値データを抽出する。
次に、MT法を用いて、抽出した複数の数値データを劣化度に置き換える(ステップS140)。具体的には、新品の赤外スペクトルから抽出した複数の数値データを単位空間とし、劣化品の赤外スペクトルから抽出した複数の数値データを診断対象として、マハラノビスの距離を求める。そして、算出したマハラノビスの距離を劣化度として、その樹脂絶縁物の表面抵抗率とを紐付けておく。これにより、表面抵抗率と劣化度との組み合わせが複数組生成されることになる。
この生成された複数の組み合わせに基づいて、劣化度と表面抵抗率との関係を示す検量線を作成する(ステップS150)。
図10には、赤外スペクトルから得られた劣化度と表面抵抗率との関係を示す検量線が模式的に示されている。この検量線は、図9のステップS100〜S150の処理を実行することによって生成されたものである。図10に示すように、この検量線に対して、診断対象の劣化度D1を代入することにより、診断対象の表面抵抗率Rを算出することができる。
以上説明したように、本実施の形態2に従う絶縁劣化診断方法においては、診断対象の赤外スペクトルの形状から複数の数値データを抽出し、抽出した複数の数値データを単一の指標である劣化度として求め、劣化度と表面抵抗率との関係を示す検量線を用いて診断対象の表面抵抗率を算出することにより、診断対象の劣化を診断する。すなわち、本実施の形態2に従う絶縁劣化診断方法においても、上述した実施の形態1に従う絶縁劣化診断方法と同様に、赤外スペクトルの形状から抽出された複数の数値データに基づいて、診断対象の劣化が診断される。したがって、実施の形態2に従う絶縁劣化診断方法においても、抽出された複数の数値データに基づいて、精度良く表面抵抗率を推定することができる。その結果、診断対象の劣化状態を高精度に診断できるため、寿命に至るまでの早期の段階で樹脂絶縁物の劣化を検出することが可能となる。
以下の実施の形態3から6においては、上述した実施の形態1および2に従う絶縁劣化診断方法を用いた、診断対象の劣化診断例について説明する。
実施の形態3.
実施の形態3に従う絶縁劣化診断としては、赤外スペクトルに現れる単一の化学種に由来するピークの形状から複数の数値データを抽出し、その抽出した複数の数値データを用いて診断対象の表面抵抗率を算出する構成とすることができる。
一例として、赤外スペクトルにおける単一の化学種のピーク強度またはピーク波数と、一次微分スペクトルまたは二次微分スペクトルにおける当該化学種のピーク強度またはピーク波数を抽出する。これらの数値データは、劣化に伴い、ある化学種のピークに別の化学種のピークが埋もれて現れるような樹脂絶縁物の劣化状態を診断する場合に有効である。好ましくは、単一の化学種は、硝酸塩または硫酸塩である。図3に示した不飽和ポリエステル樹脂の赤外スペクトルにおいては、硝酸塩のピークの形状を数値化する際に、硝酸塩のピーク強度と、二次微分スペクトルにおける硝酸塩のピーク強度とを抽出することで、劣化の兆候を早期の段階で捉えることができる。
別の例として、赤外スペクトルにおける単一の化学種のピーク強度またはピーク波数と、当該化学種のピークと赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の数、または交点の波数とを抽出する。これらの数値データは、劣化に伴い、該化学種のピークが現れる、または、そのピーク位置がシフトするような樹脂絶縁物の劣化状態を診断する場合に有効である。図3に示した不飽和ポリエステル樹脂の赤外スペクトルにおいては、OH基またはC=O基のピークの形状を数値化する際、該化学種のピーク強度と、該化学種のピークと赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の数、および交点の波数とを抽出することで、劣化の兆候を早期の段階で捉えることができる。
実施の形態4.
実施の形態4に従う絶縁劣化診断としては、赤外スペクトルに現れる複数の化学種のピークの形状から、複数の数値データを抽出し、抽出した複数の数値データを用いて診断対象の表面抵抗率を算出する構成とすることができる。
実施の形態4に従う絶縁劣化診断は、例えば、劣化に伴い、二以上の化学種のピーク強度が大きくなる樹脂絶縁物、ある化学種のピークの強度が大きくなる一方で、別の化学種のピーク強度が減少する樹脂絶縁物などの劣化状態を診断する場合に有効である。
実施の形態5.
実施の形態5に従う絶縁劣化診断としては、赤外スペクトルに現れる少なくとも1つの化学種のピークの形状と、赤外スペクトルの直線部の形状とから、複数の数値データを抽出し、抽出した複数の数値データを用いて診断対象の表面抵抗率を算出する構成とすることができる。
実施の形態5に従う絶縁劣化診断は、例えば、劣化に伴い、少なくとも1つの化学種のピーク強度が変化するとともに、赤外スペクトルの直線部の傾きが変化する樹脂絶縁物の劣化状態を診断する場合に有効である。
実施の形態6.
実施の形態1において抽出した数値データ(1)〜(7)のうちのいずれか1つの数値データが診断対象の表面抵抗率に相関がある場合には、表面抵抗率が既知の樹脂絶縁物について、該数値データと表面抵抗率との関係式を作成し、作成した関係式を用いて診断対象の表面抵抗率を推定してもよい。
以上説明したように、本実施の形態1から6に従う絶縁劣化診断方法によれば、診断対象となる樹脂絶縁物に現れる劣化の状態に応じて、抽出する数値データを設定することができる。したがって、診断対象の種類によらず、高精度に診断対象の劣化を診断することができる。
なお、本実施の形態1から6においては、診断対象が不飽和ポリエステル樹脂であるときの表面抵抗率を算出する方法について例示したが、診断対象がエポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂などである場合にも同様の方法を用いて表面抵抗率を算出することができる。なお、不飽和ポリエステル樹脂の赤外スペクトルは、その他の樹脂絶縁物の赤外スペクトルに比べて、絶縁劣化によるピークの変化が大きいため、より高い精度で定量することができる。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 分光装置、2 表面抵抗率算出装置、3 出力装置、4 赤外スペクトル数値化部、5 規格化部、6 数値データ抽出部、7 表面抵抗率算出部、8 出力部、10 絶縁劣化診断装置。

Claims (14)

  1. 樹脂絶縁物の劣化を診断する絶縁劣化診断方法であって、
    診断対象となる樹脂絶縁物の表面に赤外光を照射し、その反射光または透過光を分光することにより、前記診断対象の赤外スペクトルを取得する工程と、
    取得された前記赤外スペクトルに現れる複数の化学種に由来するピークの形状および前記赤外スペクトルの直線部の形状から、複数の数値データを抽出する工程と、
    抽出された前記複数の数値データに基づいて、前記診断対象の表面抵抗率を算出する工程とを備える、絶縁劣化診断方法。
  2. 前記複数の数値データは、
    前記複数の化学種のうち少なくとも1つの化学種のピーク強度、
    前記複数の化学種のうち少なくとも1つの化学種のピーク波数、
    前記赤外スペクトルの一次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク強度、
    前記一次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク波数、
    前記赤外スペクトルの二次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク強度、
    前記二次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク波数、
    少なくとも1つの化学種のピークと前記赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の数、
    少なくとも1つの化学種のピークと前記赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の波数、および
    前記赤外スペクトルにおける少なくとも1つの直線部の傾き、のうち少なくとも2つを含む、請求項1に記載の絶縁劣化診断方法。
  3. 前記少なくとも1つの化学種は、OH基、C=O基、C−O基、硝酸塩および硫酸塩のうち少なくとも1つを含む、請求項2に記載の絶縁劣化診断方法。
  4. 前記複数の数値データは、
    前記複数の化学種のうち第1の化学種のピーク強度、
    前記第1の化学種のピーク波数、
    前記一次微分スペクトルにおける、前記第1の化学種のピーク強度、
    前記一次微分スペクトルにおける、前記第1の化学種のピーク波数、
    前記二次微分スペクトルにおける、前記第1の化学種のピーク強度、
    前記二次微分スペクトルにおける、前記第1の化学種のピーク波数、
    前記第1の化学種のピークと前記赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の数、および
    前記第1の化学種のピークと前記赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の波数、のうち少なくとも2つを含む、請求項1に記載の絶縁劣化診断方法。
  5. 前記第1の化学種は、硝酸塩または硫酸塩である、請求項4に記載の絶縁劣化診断方法。
  6. 前記診断対象の表面抵抗率を算出する工程では、予め取得されている前記複数の数値データと前記樹脂絶縁物の表面抵抗率との関係式を用いて、抽出された前記複数の数値データに基づいて前記診断対象の表面抵抗率を算出する、請求項1から5のいずれか1項に記載の絶縁劣化診断方法。
  7. 前記診断対象の表面抵抗率を算出する工程では、抽出された前記複数の数値データを多変量解析することによって単一の指標に変換し、予め取得されている前記単一の指標と前記樹脂絶縁物の表面抵抗率との関係を示す検量線を用いて、変換された前記単一の指標に基づいて前記診断対象の表面抵抗率を算出する、請求項6に記載の絶縁劣化診断方法。
  8. 表面抵抗率が既知である複数の樹脂絶縁物の各々の赤外スペクトルに現れる前記複数の化学種に由来するピークの形状および直線部の形状から抽出される前記複数の数値データを用いて、前記複数の数値データと前記樹脂絶縁物の表面抵抗率との関係式を生成する工程をさらに備える、請求項6に記載の絶縁劣化診断方法。
  9. 前記樹脂絶縁物は、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂のいずれかである、請求項1から8のいずれか1項に記載の絶縁劣化診断方法。
  10. 樹脂絶縁物の劣化を診断する絶縁劣化診断装置であって、
    診断対象となる樹脂絶縁物の表面に赤外光を照射し、その反射光または透過光を分光することにより、前記診断対象の赤外スペクトルを取得する分光装置と、
    前記分光装置により取得された前記赤外スペクトルに現れる複数の化学種に由来するピークの形状および前記赤外スペクトルの直線部の形状から、複数の数値データを抽出する抽出部と、
    前記抽出部により抽出された前記複数の数値データに基づいて、前記診断対象の表面抵抗率を算出する算出部とを備える、絶縁劣化診断装置。
  11. 前記複数の数値データは、
    前記複数の化学種のうち少なくとも1つの化学種のピーク強度、
    前記複数の化学種のうち少なくとも1つの化学種のピーク波数、
    前記赤外スペクトルの一次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク強度、
    前記一次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク波数、
    前記赤外スペクトルの二次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク強度、
    前記二次微分スペクトルにおける、少なくとも1つの化学種のピーク波数、
    少なくとも1つの化学種のピークと前記赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の数、
    少なくとも1つの化学種のピークと前記赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の波数、および
    前記赤外スペクトルにおける少なくとも1つの直線部の傾き、のうち少なくとも2つを含む、請求項10に記載の絶縁劣化診断装置。
  12. 前記複数の数値データは、
    前記複数の化学種のうち第1の化学種のピーク強度、
    前記第1の化学種のピーク波数、
    前記一次微分スペクトルにおける、前記第1の化学種のピーク強度、
    前記一次微分スペクトルにおける、前記第1の化学種のピーク波数、
    前記二次微分スペクトルにおける、前記第1の化学種のピーク強度、
    前記二次微分スペクトルにおける、前記第1の化学種のピーク波数、
    前記第1の化学種のピークと前記赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の数、および
    前記第1の化学種のピークと前記赤外スペクトルの波数軸に平行な少なくとも1本の直線との交点の波数、のうち少なくとも2つを含む、請求項10に記載の絶縁劣化診断装置。
  13. 前記算出部は、予め取得されている前記複数の数値データと前記樹脂絶縁物の表面抵抗率との関係式を用いて、抽出された前記複数の数値データに基づいて前記診断対象の表面抵抗率を算出する、請求項10から12のいずれか1項に記載の絶縁劣化診断装置。
  14. 前記算出部は、抽出された前記複数の数値データを多変量解析することによって単一の指標に変換し、予め取得されている前記単一の指標と前記樹脂絶縁物の表面抵抗率との関係を示す検量線を用いて、変換された前記単一の指標に基づいて前記診断対象の表面抵抗率を算出する、請求項10から12のいずれか1項に記載の絶縁劣化診断装置。
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