JP6810096B2 - カロテノイドの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、カロテノイド産生細菌の変異株を用いたカロテノイドの製造方法に関する。
カロテノイドは、飼料添加物、食品添加物、医薬品等として使用される有用な天然色素
である。カロテノイドには、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、β
−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、アドニルビン、アドニキサンチン、エ
キネノン、アステロイデノン及び3−ヒドロキシエキネノンなどが含まれる。中でも、ア
スタキサンチンは養殖魚であるサケ、マス、マダイ等の体色改善剤、家禽類の卵黄色改善
剤等の飼料添加物として有用である。また、天然のアスタキサンチンは安全な食品添加物
や健康食品素材として産業上の価値が高い。アドニキサンチン及びアドニルビンは、アス
タキサンチンと同様に飼料添加物、食品添加物、医薬品等としての用途が期待されている
さらに、β−カロテンは飼料添加物、食品添加物、医薬品等として使用され、カンタキ
サンチンは飼料添加物、食品添加物、化粧品等として使用され、ゼアキサンチンは食品添
加物、飼料添加物等として使用されている。さらにリコペン、エキネノン、β−クリプト
キサンチン、3−ヒドロキシエキネノン、アステロイデノン等も飼料添加物、食品素材等
としての使用が期待される。これらカロテノイドの製造方法としては、化学合成法、天然
物からの抽出法、微生物の培養による産生方法などが知られている。
アスタキサンチンの化学合成法としては、β−カロテンの変換による方法(Pure Appl.
Chem., 57, 741, 1985(非特許文献1))及びC15ホスホニウム塩から合成する方法
(Helv. Chim. Acta, 64, 2436, 1981(非特許文献2))が知られている。天然物からの
抽出法として、アスタキサンチンはサケ、マダイ等の魚類及びエビ、カニ、オキアミ等の
甲殻類に存在するため、これらより抽出して採取することも可能である。
微生物によるカロテノイドの生産方法としては、緑藻類Haematococcus pluvialisによ
る培養法(特開2007−97584号公報(特許文献1))、赤色酵母Phaffia rhodoz
ymaによる発酵法(特開平11−69969号公報(特許文献2))、Paracoccus属に属
する細菌(以下、「Paracoccus属細菌」ともいう)による発酵法、Brevundimonas属に属
する細菌による発酵法(特開2006−340676号公報(特許文献3))、Erythrob
acter属に属する細菌による発酵法(特開2008−259449号公報(特許文献4)
)が報告されている。カロテノイドを生産するParacoccus属細菌の例としては、E−39
6株及びA−581−1株が挙げられる(特開平7−79796号公報(特許文献5))
及びInternational Journal of Systematic Bacteriology (1999), 49, 277-282(非特許
文献3))。他のカロテノイド生産性のParacoccus属に属する細菌としては、Paracoccus
marcusii MH1株(特表2001−512030号公報(特許文献6))、Paracoccus ha
eundaensis BC74171株(International Journal of Systematic and Evolutionary Micro
biology (2004), 54, 1699-1702(非特許文献4))、Paracoccus属細菌N-81106株(特開
2007−244205号公報(特許文献7))、Paracoccus zeaxanthinifaciens(Int
ernational Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2003), 53, 231-2
38(非特許文献5))及びParacoccus sp. PC-1株(WO2005/118812号パン
フレット(特許文献8))などが挙げられる。
しかしながら、前述のカロテノイドの製造方法にはいくつかの解決課題があった。例え
ば、化学合成法で製造したカロテノイドは、安全であっても消費者に好ましくない印象を
与える。天然物から抽出したカロテノイドは化学合成法に比べて製造コストが格段に高い
。微生物による製造のうち、緑藻類や酵母の培養による産生は生産性が低いうえにこれら
の微生物は強固な細胞壁を持ち、これにより培養物からのカロテノイドの抽出が困難であ
る。
一方、Paracoccus属に属する細菌によるカロテノイドの製造では、当該菌体の増殖速度
が速い、カロテノイドの生産性が高い、培養物からのカロテノイドの抽出が容易であるな
どの利点を有し、いくつかの培養方法及び製造方法が報告されている。
例えば、特開2007−143492号公報(特許文献9)は培養中に鉄塩を添加する
方法、WO2010/044469号パンフレット(特許文献10)は培地にアミノ酸を
添加する方法、特開2011−188795号公報(特許文献11)は培地にビオチンを
添加する方法、また、特開2012−139164号公報(特許文献12)は培地に3.
6mM以上となるようにカルシウム化合物を添加する方法を開示する。
しかし、カロテノイドを産生する細菌において、どの遺伝子が生産効率の上昇に寄与す
のかについて、その詳細は不明であった。
特開2007−97584号公報 特開平11−69969号公報 特開2006−340676号公報 特開2008−259449号公報 特開平7−79796号公報 特表2001−512030号公報 特開2007−244205号公報 WO2005/118812号パンフレット 特開2007−143492号公報 WO2010/044469号パンフレット 特開2011−188795号公報 特開2012−139164号公報
Pure Appl. Chem., 57, 741, 1985 Helv. Chim. Acta, 64, 2436, 1981 International Journal of Systematic Bacteriology (1999), 49, 277-282 International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2004), 54, 1699-1702 International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2003), 53, 231-238
本発明は、変異型カロテノイド産生細菌、及び当該細菌を用いたカロテノイドの製造方
法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、変異処理された細菌の
うちアスタキサンチンを高生産する細菌を取得することに成功し、本発明を完成するに至
った。
(1)以下の(a)〜(c)のいずれかの遺伝子を含む、変異型カロテノイド産生細菌。
(a)カロテノイド産生細菌における1−デオキシ−D−キシルロース5リン酸合成酵
素のアミノ酸配列において、少なくとも第225番目のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基
に置換された変異型アミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子
(b)カロテノイド産生細菌におけるデカプレニル二リン酸合成酵素のアミノ酸配列に
おいて、少なくとも第305番目のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された変異型
アミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子
(c)上記(a)及び(b)の両方の遺伝子
(2)1−デオキシ−D−キシルロース5リン酸合成酵素のアミノ酸配列が配列番号2に
示されるものである(1)に記載の細菌。
(3)第225番目のアミノ酸残基が、グリシンからアスパラギン酸に置換された、(1
)又は(2)に記載の細菌。
(4)デカプレニル二リン酸合成酵素のアミノ酸配列が配列番号4に示されるものである
(1)〜(3)のいずれか1項に記載の細菌。
(5)第305番目のアミノ酸残基が、アラニンからバリンに置換された、(1)〜(4
)のいずれか1項に記載の細菌。
(6)変異型アミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子を有さないカロテノイド
産生細菌のカロテノイド産生能よりも高い産生能を獲得した、(1)〜(5)のいずれか
1項に記載の細菌。
(7)変異型アミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子を有さないカロテノイド
産生細菌のカロテノイド産生量よりも少なくとも5倍以上の量の産生能を獲得した、(6
)に記載の細菌。
(8)カロテノイド産生細菌がパラコッカス属に属するものである(1)〜(7)のいず
れか1項に記載の細菌。
(9)パラコッカス属に属する細菌がE−396株である(8)に記載の細菌。
(10)カロテノイドがアスタキサンチンである(1)〜(9)のいずれか1項に記載の
細菌。
(11) (1)〜(10)のいずれか1項に記載の細菌を培養し、得られる培養物から
カロテノイドを採取することを特徴とするカロテノイドの製造方法。
(12)カロテノイドの産生量が、変異型アミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺
伝子を有さないカロテノイド産生細菌のカロテノイド産生量よりも少なくとも5倍以上の
産生量である、(11)に記載の方法。
(13)カロテノイドがアスタキサンチンである(11)又は(12)に記載の方法。
(14)カロテノイド産生細菌に変異処理を施し、変異処理された細菌から以下の(a)
〜(c)のいずれかの特徴を有する細菌を選択することを特徴とする、カロテノイド産生
細菌のスクリーニング方法。
(a)1−デオキシ−D−キシルロース5リン酸合成酵素の活性が変異処理前の細菌に
おける活性よりも上昇した特徴
(b)デカプレニル二リン酸合成酵素の活性が変異処理前の細菌における活性よりも低
下した特徴
(c)上記(a)及び(b)の両方の特徴
(15) (14)に記載の方法により選択された細菌を培養し、得られる培養物からカ
ロテノイドを採取することを特徴とするカロテノイドの製造方法。
(16)1−デオキシ−D−キシルロース5リン酸合成酵素のアミノ酸配列において、少
なくとも第225番目のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された変異型アミノ酸配
列を含むタンパク質をコードする遺伝子。
(17)以下の(a)又は(b)のDNAを含む遺伝子。
(a)配列番号5で表される塩基配列を含むDNA
(b)上記(a)のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条
件下でハイブリダイズし、かつ1−デオキシ−D−キシルロース5リン酸合成酵素活性を
有するタンパク質をコードするDNA
(18)デカプレニル二リン酸合成酵素のアミノ酸配列において、少なくとも第305番
目のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された変異型アミノ酸配列を含むタンパク質
をコードする遺伝子。
(19)以下の(a)又は(b)のDNAを含む遺伝子。
(a)配列番号7で表される塩基配列を含むDNA
(b)上記(a)のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条
件下でハイブリダイズし、かつデカプレニル二リン酸合成酵素活性が低下したタンパク質
をコードするDNA
(20)以下の(a)〜(c)のいずれかの遺伝子を含む組換えベクター。
(a) (16)又は(17)に記載の遺伝子
(b) (18)又は(19)に記載の遺伝子
(c) 上記(a)及び(b)の遺伝子
(21) (20)に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
(22) (21)に記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からカロテノイドを採
取することを特徴とするカロテノイドの製造方法。
本発明により、カロテノイドの高生産細菌が提供される。本発明の細菌を用いることに
より、効率的にカロテノイドを製造することが可能となった。
E-396株及びASB-57株における総カロテノイド及びアスタキサンチンの比生産性を示す図である。 酵素Aのテンプレート構造を示す図である。 酵素Aとテンプレート構造(201X)とのアライメントを示す図である。推察された活性部位を緑で示す。disordered領域を青のバーで示す。 酵素Aとテンプレート構造(201X)とのアライメントを示す図である。推察された活性部位を緑で示す。disordered領域を青のバーで示す。 テンプレート構造と酵素Aと補酵素TPP複合体のモデル構造を示す図である。テンプレートのD. radiodurans由来の1−デオキシ−D−キシルロース5リン酸合成酵素(DXS)とTPP複合体の構造(2O1X)(左)と構築した酵素Aのモデル構造(右)。ホモ二量体を形成し、各サブユニットがTPPとMgを結合している。TPP及びMgをSpace-fillingで示す。 酵素AとTPP中間体及び基質との複合体のモデル構造を示す図である。構築した酵素Aに、補酵素TPPにピルビン酸が付加したヒドロキシエチル-TPP中間体とグリセルアルデヒド3リン酸(GAP)が結合した複合体モデルを示す。 酵素Aと補酵素TPPとの相互作用を示す図である。 酵素AでTPPとの相互作用が推測されるアミノ酸残基を示す図である。TPPとの相互作用が推測された残基をSticksで示す。 酵素Aとヒドロキシエチル-TPP中間体のヒドロキシエチル基との相互作用が推測されるアミノ酸残基を示す図である。ヒドロキシエチル基との相互作用が推測された残基をSticksで示す。 酵素Aとグリセルアルデヒド3リン酸(GAP)との相互作用が推測されるアミノ酸残基を示す図である。 酵素Aと基質ピルビン酸との相互作用を示す図である。 酵素Aと基質グリセルアルデヒド3リン酸との相互作用を示す図である。 酵素Aと他種DXSとのアライメントを示す図である。EnzymeA:酵素A, DXS_ECOLI:DXS (E.coli), DXS_VITVI: DXS (Vitis vinifera), DXS_DEIRA: (Deinococcus radiodurans)。テンプレート構造(DXS_DEIRA)のdisordered領域を青のバーで示す。活性部位を緑ボックスで、DXS_ECOLI及びDXS_VITVIで活性向上が見られた変異を▲で示す。 酵素Aのdisordered領域の位置を示す図である。disordered領域(青の点線)のN末端側のループのAsn180, Met182はMgと結合し、Ile184はTPPと結合する。 酵素Aのdisordered領域のモデル構造を示す図である。酵素Aにおけるdisordered領域(水色)のモデル構造(左)とdisordered領域のモデル構造の静電ポテンシャルマップ(右)。 アスタキサンチン合成経路で推察される酵素A変異体の効果を示す図である。 酵素Cのテンプレート構造を示す図である。Rhodobacter capsulatus由来デカプレニル二リン酸合成酵素 (PDB ID: 3MZV)を示す。 酵素Cとテンプレート構造(3MZV)とのアライメントを示す図である。推察された活性部位を緑で示す。 テンプレート構造、並びに酵素CとIPP及びFPPとの複合体のモデル構造を示す図である。テンプレートのR. capsulatus由来デカプレニル二リン酸合成酵素(3MZV)(左)と構築した酵素Cのモデル構造(右)。FPP及びIPPをSpace-fillingで示す。 テンプレート構造、並びに酵素CとIPP及びFPPとの複合体のモデル構造を示す図である。FPPとIPPはhead-to-tailの向きで結合し、縮合反応はIPPのイソペンテニル基とFPPのリン酸基の間(左図、矢印)で起こる。長鎖プレニルニリン酸合成酵素では、反応生成物はさらにIPPと結合し、基質結合部位の奥へ(右図、矢印)と伸長する。 テンプレート構造と酵素Cのモデル構造の比較を示す図である。テンプレートR. capsulatus由来デカプレニル二リン酸合成酵素(左)と酵素C(右)の基質複合体モデル。一致するアミノ酸残基の構造をgreenで示す。基質結合領域とその周辺の構造は全て一致している。 酵素Cとデカプレニル二リン酸合成酵素(Paracoccus zeaxanthinifaciens)のアライメントを示す図である。 酵素CとFPP及びIPPとの複合体モデルを示す図である。リボン表示(左)と表面形状(右)。A鎖(light red)、B鎖(light blue)で示す。FPPとIPPをSpace-fillingで示す。 酵素CでFPP(上)、IPP(中)、Mg(下)との相互作用が推測されるアミノ酸残基を示す図である。 酵素Aと基質FPP及びIPPとの相互作用を示す図である。 酵素AとMgとの相互作用を示す図である。 酵素Cの野生型と変異体A305Vの立体構造モデルを示す図である。Ala305(green)及びVal305(magenta)をspace-fillingで示す。 野生型のAla305(左)と変異体のVal305(右)の周辺の構造を示す図である。Ala305は、周辺のアミノ酸残基と接している。Val305への変異により、周辺の構造と立体障害を起こす。 Ala305をgreenで、Val305をmagentaで示す。 野生型(青)と変異体A305V(赤)の分子内エネルギーの比較を示す図である。 野生型と変異体A305Vの構造比較を示す図である。A305Vの変異により、Ala305(緑)とVal305(マゼンタ)の周辺のアミノ酸残基の構造が変化する(左)。この構造変化は、隣接するαヘリックスにも影響する(右)。 酵素CにおけるA305Vの影響を示す図である。 酵素CにおけるA305Vの影響を示す図である。 酵素CにおけるA305Vの影響を示す図である。 アスタキサンチン合成経路で推察される酵素C変異体の効果を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
本発明は、カロテノイドを高生産する細菌に関するものであり、以下の(a)及び(b
)のいずれかの遺伝子、又はこれらの両遺伝子を含む細菌である。
(a)カロテノイド産生細菌における1−デオキシ−D−キシルロース5リン酸合成酵
素のアミノ酸配列において、少なくとも第225番目のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基
に置換された変異型アミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子
(b)カロテノイド産生細菌におけるデカプレニル二リン酸合成酵素のアミノ酸配列に
おいて、少なくとも第305番目のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された変異型
アミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子
本発明者は、カロテノイドの生産能が高い細菌を開発するため、E-396株及びその変異
処理後の株におけるカロテノイド産生能を検討するとともに、これらの株において、カロ
テノイド合成経路に関与する酵素をコードする遺伝子の変異を解析した。
その結果、親株として使用したE-396株よりも高いカロテノイド産生能を有する株(「A
SB-57株」という。)を取得した。ASB-57株のゲノム解析を行った結果、1−デオキシ−
D−キシルロース5リン酸合成酵素(DXS)のアミノ酸配列、及びデカプレニル二リン酸
合成酵素(DPS)のアミノ酸配列に変異が生じていることが確認された。そこで、アミノ
酸立体構造解析により予測される機能解析を行い、少なくとも、DXSの第225番目のアミノ
酸残基及び/又はDPSの第305番目のアミノ酸残基に変異が生じていることが、カロテノイ
ドの高生産に寄与するものと考えられた。
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものである。
2.変異型カロテノイド産生細菌
本発明のカロテノイド産生細菌は、親株を変異処理し、DXSの第225番目のアミノ酸残基
及び/又はDPSの第305番目のアミノ酸残基に変異が生じたことを指標として得られる変異
型細菌であって、カロテノイドを高効率で産生することができる細菌である。本発明のカ
ロテノイド産生細菌を、本明細書において「変異型カロテノイド産生細菌」という。
(1)親株
本発明において、変異型カロテノイド産生細菌を得るための親株として用いる細菌とし
ては、カロテノイドを産生する細菌であれば何ら限定されず、例えばParacoccus属、Brev
undimonas属、Erythrobacter属に属する細菌が挙げられる。
好ましくはParacoccus属に属する細菌、Brevundimonas属に属する細菌又はErythrobact
er属に属する細菌が用いられ、より好ましくはParacoccus属に属する細菌が用いられる。
Paracoccus属、Erythrobacter属及びBrevundimonas属は、いずれもProteobacteria門、Al
phaproteobacteria鋼に分類され、細菌分類学上の共通性があるため、本発明においては
、これらの属に属する細菌を使用することが可能である。
Paracoccus属に属する細菌の中では、Paracoccus carotinifaciens、Paracoccus marcu
sii、Paracoccus haeundaensis及びParacoccus zeaxanthinifaciensが好ましく用いられ
、特にParacoccus carotinifaciensが好ましく用いられる。Paracoccus属に属する細菌の
具体的な菌株の例として、Paracoccus carotinifaciens E-396株(FERM BP-4283)及びPa
racoccus属細菌A-581-1株(FERM BP-4671)が挙げられ、これらの変異株も本発明に好ま
しく用いられる。
Erythrobacter属に属するカロテノイド産生細菌としては、例えばErythrobacter JPCC
M種(特開2008-259452)、Erythrobacter JPCC O種(特開2008-259449)などが挙げられ
る。
Brevundimonas属に属するカロテノイド産生細菌としては、例えばBrevundimonas SD212
株(特開2009-27995)、Brevundimonas FERM P-20515, 20516株(特開2006-340676)、Br
evundimonas vesicularis(Gene, Vol.379, p.101-108, 1 Sep 2006)などが挙げられる
また、カロテノイド産生細菌として、好ましくは16SリボソームRNAに対応するD
NAの塩基配列が配列番号9に記載されるE-396株の塩基配列と高い相同性を有する細菌
が用いられる。ここで言う塩基配列の相同性は、好ましくは95%以上、より好ましくは
96%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは
99%以上である。
16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列とは、16SリボソームRNAの
塩基配列中のU(ウラシル)をT(チミン)に置き換えた塩基配列を意味する。
この16SリボソームRNAの塩基配列の相同性に基づいた微生物の分類法は、近年主
流になっている。従来の微生物の分類法は、従来の運動性、栄養要求性、糖の資化性など
菌学的性質に基づいているため、自然突然変異による形質の変化等が生じた場合に、微生
物を誤って分類する場合があった。これに対し、16SリボソームRNAの塩基配列は極
めて遺伝的に安定であるので、その相同性に基づく分類法は従来の分類法に比べて分類の
信頼度が格段に向上する。
Paracoccus carotinifaciens E-396株の16SリボソームRNAの塩基配列と、他のカ
ロテノイド産生細菌Paracoccus marcusii DSM 11574株、Paracoccus属細菌N-81106株、Pa
racoccus haeundaensis BC 74171株、Paracoccus属細菌 A-581-1株、Paracoccus zeaxan
thinifaciens ATCC 21588株、及びParacoccus sp. PC-1株の16SリボソームRNAの塩
基配列との相同性は、それぞれ99.7%、99.7%、99.6%、99.4%、95
.7%、及び95.4%であり、これらは分類学上極めて近縁な菌株であることが分かる
。よって、これらの菌株はカロテノイドを産生する細菌として一つのグループを形成して
いるといえる。このため、これらの菌株は本発明に好ましく用いられ、カロテノイドを効
率的に産生することができる。
本発明において、カロテノイドの生産性が改良された公知の変異株も用いることができ
る。当該公知変異株の例としては、アスタキサンチン生産能の高い菌株(特開2001−
95500)、カンタキサンチンを選択的に多く産生する菌株(特開2003−3048
75)、ゼアキサンチンとβ−クリプトキサンチンを選択的に多く産生する菌株(特開2
005−87097)、リコペンを選択的に産生する菌株(特開2005−87100)
を挙げることができる。
本発明に親株として使用するカロテノイド産生細菌の例として挙げられるE−396株
は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許生物寄託センター(NITE-IPOD)に以下
のとおり国際寄託されている。
国際寄託当局:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許生物寄託センター
〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
識別のための表示:E-396
受託番号:FERM BP-4283
原寄託日:平成5年(1993年)4月27日
また、本発明に親株として使用するカロテノイド産生細菌の他の例として挙げられる
A−581−1株は、上記機関に以下のとおり国際寄託されている。
識別のための表示:A-581-1
受託番号:FERM BP-4671
原寄託日:平成6年(1994年)5月20日
(2)変異処理及びスクリーニング
本発明の変異型カロテノイド産生細菌は、前記親株に変異処理を施し、DXSの第225番目
のアミノ酸残基及び/又はDPSの第305番目のアミノ酸残基に変異が生じたことを指標とし
て得ることができる。
変異処理する方法は変異を誘発するものであれば特に限定されない。例えば、N−メチ
ル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)及びエチルメタンスルホネート(
EMS)などの変異剤による化学的方法、紫外線照射及びX線照射などの物理的方法、遺
伝子組換え及びトランスポゾンなどによる生物学的方法などを用いることができる。変異
処理される細菌は特に限定されないが、カロテノイド産生細菌であることが好ましい。
また、本発明においては、上記の変異を有するタンパク質を調製するために、該タンパ
ク質をコードする遺伝子(DNA)に点突然変異を導入することができる。その変異導入方
法として、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導
入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製
)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaR
a Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバ
イオ社製)等を用いて行うことができる。また、「Molecular Cloning, A Laboratory Ma
nual (4th edition)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012))等に記載された
部位特異的変異誘発法等の方法を用いることができる。
変異株のスクリーニング方法は特に限定されないが、公知のゲノム解析ツールPacBio R
S II(Pacific Biosciences社製)、MiSeq(イルミナ社社製)などを用いて遺伝子解析し
、DXSの第225番目のアミノ酸残基及び/又はDPSの第305番目のアミノ酸残基に対応する塩
基配列の変異の有無を確認すればよい。
さらに、上記ゲノム解析と並行して、例えば、寒天培地上のコロニーの色調で目的の変
異株を選択する方法の他、試験管、フラスコ、発酵槽などで変異株を培養し、吸光度、高
速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーなどを利用したカロテノイド色素分
析により、カロテノイドの生産量を指標として選択することもできる。
変異及びスクリーニングの工程は1回でもよいし、また、例えば突然変異処理とスクリ
ーニングにより変異株を得て、これをさらに変異処理とスクリーニングにより生産性の改
良された変異株を取得するというように、変異及びスクリーニング工程を2回以上繰り返
してもよい。
このようにしてスクリーニングされた変異型カロテノイド産生細菌は、DXSの第225番目
のアミノ酸残基が他のアミノ酸に変異し、及び/又はDPSの第305番目のアミノ酸残基が他
のアミノ酸残基に変異したアミノ酸配列をコードする遺伝子を有する。
DXSの第225番目のアミノ酸残基から他のアミノ酸への変異は、DXSの酵素活性の上昇に
寄与する。これにより、ピルビン酸から1-デオキシ-Dキシルロース-5-リン酸への合成を
促進し、ひいてはアスタキサンチン合成の基質となるイソペンテニル二リン酸(IPP)の生
産が上昇する。
DPSの第305番目のアミノ酸残基から他のアミノ酸残基への変異は、DPSの酵素活性の低
下に寄与する。この変異はファルネシル二リン酸(FPP)からデカプレニル二リン酸(DPP)へ
の合成を抑制する。FPPからDPPへの合成にはIPPが使用されることから、上記変異により
、DPP合成に使用されるIPPの量が減少し、当該IPPは前記のアスタキサンチン合成の基質
として利用される。
ここで、本発明においては、DXSの第225番目のアミノ酸残基が他のアミノ酸に変異し、
及び/又はDPSの第305番目のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に変異したアミノ酸配列で
あって、これらのDXS活性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質、及び/又はDPS活性が
低下(抑制)されたアミノ酸配列を含むタンパク質コードする遺伝子を有する限り、当該
DXS及び/又はDPSのアミノ酸配列の他の領域のアミノ酸配列において、1個以上のアミノ
酸残基に置換、欠失又は付加等の変異が生じてもよい。
従って、本願発明の変異型カロテノイド産生細菌は、以下の(a)の遺伝子、以下の(b)の
遺伝子、又は以下の(a)及び(b)の遺伝子の両者を含むことができる。
(a)カロテノイド産生細菌におけるDXSのアミノ酸配列において、少なくとも第22
5番目のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された変異型アミノ酸配列を含むタンパ
ク質をコードする遺伝子
上記変異型DXS遺伝子としては、例えば以下のものが挙げられる。
(i) DXSのアミノ酸配列(例えば配列番号2)のうち第225番目のアミノ酸残基が他
のアミノ酸残基に置換された変異型アミノ酸配列を含み、かつDXS活性を有するタンパク
質をコードする遺伝子
このような変異型アミノ酸配列として、配列番号6に示すものが挙げられ、上記遺伝子
として、配列番号5に示されるものが挙げられる。本発明においては、配列番号2に示す
アミノ酸配列において、第225番目のアミノ酸残基であるグリシンがアスパラギン酸に
置換されたアミノ酸配列であることが好ましい。
(ii) DXSのアミノ酸配列(例えば配列番号2)のうち第225番目のアミノ酸残基が他
のアミノ酸残基に置換されるとともに、当該第225番目のアミノ酸残基以外の1若しく
は複数(例えば1〜数個)のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加された変異型アミノ
酸配列を含み、かつDXS活性を有するタンパク質
(iii) 配列番号5で表される塩基配列を含むDNAからなる遺伝子
(iv) 配列番号5で表される塩基配列を含むDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとスト
リンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつDXS活性を有するタンパク質をコードす
るDNAからなる遺伝子
上記配列番号5で表される塩基配列は、カロテノイド産生細菌におけるDXSのアミノ酸
配列をコードするDNA(配列番号1)において、第225番目のアミノ酸残基が他のアミ
ノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするものである。
(b)カロテノイド産生細菌におけるDPSのアミノ酸配列において、少なくとも第30
5番目のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された変異型アミノ酸配列を含むタンパ
ク質をコードする遺伝子
このような遺伝子としては、例えば以下のものが挙げられる。
(i) DPSのアミノ酸配列(例えば配列番号4)のうち第305番目のアミノ酸残基が他
のアミノ酸残基に置換された変異型アミノ酸配列を含み、かつDPS活性が低下したタンパ
ク質をコードする遺伝子
このような変異型アミノ酸配列として、配列番号8に示すものが挙げられ、上記遺伝子
として、配列番号7に示されるものが挙げられる。本発明においては、配列番号4に示す
アミノ酸配列において、第305番目のアミノ酸残基であるアラニンがバリンに置換され
たアミノ酸配列であることが好ましい。
(ii) DPSのアミノ酸配列(例えば配列番号4)のうち第305番目のアミノ酸残基が他
のアミノ酸残基に置換されるとともに、当該第305番目のアミノ酸残基以外の1若しく
は複数(例えば1〜数個)のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加された変異型アミノ
酸配列を含み、かつDPS活性が低下したタンパク質
(iii) 配列番号7で表される塩基配列を含むDNAからなる遺伝子
(iv) 配列番号7で表される塩基配列を含むDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとスト
リンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつDPS活性が低下したタンパク質をコード
するDNAからなる遺伝子
上記配列番号7で表される塩基配列は、カロテノイド産生細菌におけるDPSのアミノ酸
配列をコードするDNA(配列番号3)において、第305番目のアミノ酸残基が他のアミ
ノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするものである。
ここで、ハイブリダイゼーションは、公知の方法(例えば、Sambrook J. et al., Mole
cular Cloning, A Laboratory Manual (4th edition)(Cold Spring Harbor Laboratory
Press (2012))に従って行うことができる。高ストリンジェントな条件は、いわゆる特異
的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例え
ば、ナトリウム濃度が10 mM〜300 mM、好ましくは20 mM〜100 mMであり、温度が25℃〜70
℃、好ましくは42℃〜55℃での条件をいう。
このような変異型カロテノイド産生細菌として、例えばASB-57株、ASK-8株、ASH-66株
などが挙げられる。
ASB-57株は、DXSの第225番目のアミノ酸残基であるグリシンがアスパラギン酸に変異し
、DPSの第305番目のアミノ酸残基であるアラニンがバリンに変異したアミノ酸配列を含む
タンパク質をコードする遺伝子を有する。ASB-57株においてDXSのアミノ酸配列及び遺伝
子の塩基配列をそれぞれ配列番号6、5に示す。また、ASB-57株においてDPSのアミノ酸
配列及び遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号8、7に示す。
(4)遺伝子組み換え体の作製
本発明においては、上記変異型DXSをコードする遺伝子、及び/又は上記変異型DPSをコ
ードする遺伝子を宿主に導入して形質転換を行うことにより、遺伝子組換え型の変異型カ
ロテノイド産生細菌を得ることができる。
変異型DXS遺伝子及び/又は変異型DPS遺伝子をベクターに導入して得られる組換えベク
ター、並びに当該組換えベクターを宿主に導入して得られる形質転換体は、任意の公知方
法を採用すればよく、例えば、Sambrook J. et al., Molecular Cloning, A Laboratory
Manual (4th edition)(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012)に従って行うこと
ができる。
上記DXS遺伝子及びDPS遺伝子を遺伝子工学的に合成する場合は、まず、当該酵素ををコ
ードするDNAを設計し合成する。DNAの設計及び合成は、例えば、全長の遺伝子を含むベク
ター等を鋳型とし、所望のDNA領域を合成し得るように設計したプライマーを用いて、PCR
法により行うことができる。そして、上記DNAを適当なベクターに連結することによって
タンパク質発現用組換えベクターを得て、この組換えベクターを目的遺伝子が発現し得る
ように宿主中に導入することによって形質転換体を得る(Sambrook J. et al., Molecula
r Cloning, A Laboratory Manual (4th edition)(Cold Spring Harbor Laboratory Pres
s (2012))。
ベクターには、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドが使用される
。さらに、動物ウイルス、昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。組換えベクター
の作製は、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位
等に挿入してベクターに連結すればよい。形質転換に使用する宿主としては、目的の遺伝
子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(枯草菌、パラ
コッカス属細菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、植物細胞、昆虫細胞又は
昆虫が挙げられる。宿主への組換えベクターの導入方法は公知である。
また、遺伝子への変異の導入方法は、前記と同様である。
(3)カロテノイドの生産
本発明において、上記のカロテノイド産生細菌又は形質転換体を所定の培地で培養する
ことにより、高濃度のカロテノイドを安定的に生産させることができる。
産生されるカロテノイドは特に限定されないが、例えば、アスタキサンチン、カンタキ
サンチン、ゼアキサンチン、β−クリプトキサンチン、リコペン、β−カロテン、アドニ
ルビン、アドニキサンチン、エキネノン、アステロイデノン又は3−ヒドロキシエキネノ
ンであり、好ましくは、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン又はβ−
クリプトキサンチンであり、より好ましくは、アスタキサンチン又はゼアキサンチンであ
る。本発明より製造されるカロテノイドは一種でもよいし、複数種が組み合わされていて
もよい。
本発明の変異型カロテノイド産生細菌又は形質転換体を培養する方法を以下に説明する
本発明の培養に用いるカロテノイド生産用培地は、カロテノイド産生細菌又は形質転換
体が生育し、カロテノイドを生産するものであるならば任意の成分を添加することができ
る。そのような添加物を含有する培地は何れでもよいが、炭素源、窒素源、無機塩類及び
必要に応じてビタミン類などを含有する培地が好ましく用いられる。
炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、フルクトース、
トレハロース、マンノース、マンニトール及びマルトース等の糖類、酢酸、フマル酸、ク
エン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸及びピルビン酸等の有機酸、エタノール、プ
ロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソブタノール及びグリセノー
ル等のアルコール類、大豆油、ヌカ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ゴマ油及びアマニ
油等の油脂類などが挙げられ、中でも好ましくはグルコース又はシュークロースが用いら
れる。これらの炭素源の中、1種又は2種以上を用いることができる。培養前の培地(始
発培地)に添加する量は炭素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地
1L当たり1〜100g、好ましくは2〜50gである。また、炭素源は始発培地に添加
するだけでなく、培養途中に逐次的又は連続的に追加供給することも好ましく行われる。
窒素源としては、無機塩として、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニ
ウム、リン酸アンモニウムなどのアンモニウム塩類、硝酸カリウムなどの硝酸塩類、アン
モニア及び尿素等の中、1種又は2種以上が用いられる。添加量は窒素源の種類により異
なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.1g〜20g、好ましくは0.
2〜10gである。
また、有機窒素源としては、例えば、コーンスティープリカー(ろ過処理物を含む)、
ファーマメディア、大豆粕、大豆粉、ピーナッツミール、ソイペプトン、ディスティラー
ズソルブル、乾燥酵母、酵母エキス、カザミノ酸、グルタミン酸、アスパラギン酸などの
中、1種又は2種以上が用いられる。添加濃度は窒素源の種類により異なり適宜調整すれ
ば足りるが、通常、0〜80g/L、好ましくは1〜30g/Lである。
無機窒素源及び有機窒素源は、通常始発培地に添加するが、逐次的又は連続的に追加供
給することも好ましく行われる。
無機塩類としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水
素二ナトリウムなどのリン酸塩類、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどのマグネシ
ウム塩類、硫酸鉄、塩化鉄などの鉄塩類、塩化カルシウム、炭酸カルシウムなどのカルシ
ウム塩類、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどのナトリウム塩類、硫酸マンガンなどの
マンガン塩類、硫酸銅などの銅塩類、硫酸亜鉛などの亜鉛塩類、モリブデン酸ナトリウム
などのモリブデン塩類、硫酸ニッケルなどのニッケル塩類、セレン酸ナトリウムなどのセ
レン塩類、タングステン酸ナトリウムなどのタングステン塩類、塩化アルミニウムなどの
アルミニウム塩類、塩化クロムなどのクロム塩類、ホウ酸及びヨウ化カリウム等の中、1
種又は2種以上が用いられる。添加量は無機塩の種類により異なり適宜調整すれば足りる
が、通常、培地1Lに対し0.0001〜15gである。リン酸塩類、マグネシウム塩類
、カルシウム塩類、ナトリウム塩類及び鉄塩類では、0.02〜15g/Lが好ましく、
マンガン塩類、銅塩類、亜鉛塩類、モリブデン塩類、ニッケル塩類、セレン塩類、タング
ステン塩類、アルミニウム塩類、クロム塩類、ホウ酸、ヨウ化カリウムなどを加える場合
には、0.1〜15mg/Lが好ましい濃度である。無機塩類は通常始発培地に添加する
が、逐次的又は連続的に追加供給してもよい。
ビタミン類としては、例えば、シアノコバラミン、リボフラビン、パントテン酸、ピリ
ドキシン、チアミン、アスコルビン酸、葉酸、ナイアシン、p−アミノ安息香酸、ビオチ
ン、イノシトール、コリンなどを用いることができる。添加割合はビタミン類の種類によ
り異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.001〜1000mgであ
り、好ましくは0.01〜100mgである。ビタミン類は通常始発培地に添加するが、
逐次的又は連続的に追加供給してもよい。
本発明において、培養液の発泡を抑えるために消泡剤が好ましく用いられる。消泡剤の
種類は泡の発生を抑制し又は発生した泡を消す作用があり、かつ産生細菌に対する阻害作
用の少ないものであれば何れでもよい。たとえば、アルコール系消泡剤、ポリエーテル系
消泡剤、エステル系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、シリコン系消泡剤、スルフォン酸系消泡剤
などを例示することができる。添加量は消泡剤の種類により異なり適宜調整すれば足りる
が、通常、培地1Lに対し0.01g〜10gである。
消泡剤は通常殺菌前の始発培地に添加する。さらに、培養途中に連続的又は間欠的に追
加添加してもよい。培養途中に消泡剤を添加する方法としては、センサーで泡を感知して
自動添加する方法、プログラムタイマーで一定時間ごとに添加する方法、生育速度に連動
するようにフィード用炭素源、窒素源又はpH調整剤などと混合して添加する方法などを
例示できる。始発培地に添加する消泡剤と培養途中に培養液に添加する消泡剤とは同種で
もよいが、作用に合わせて異なる種類を用いることもできる。
本発明において、培地の初期pHは2〜12、好ましくは6〜9、より好ましくは6.
5〜8.0に調整する。培養中も上記範囲のpHを維持することが好ましい。pH調整剤
としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、ア
ンモニア水、アンモニアガス、硫酸水溶液又はこれらの混合物が例示される。
本発明において、培地は滅菌処理した後、細菌の培養に用いられる。滅菌処理は、当業
者であれば、適宜行うことができる。例えば、適切な容器中の培地をオートクレーブで加
熱滅菌すればよい。あるいは、滅菌フィルターによりろ過滅菌すればよい。
本発明の変異型カロテノイド産生細菌又は形質転換体は、上記のように調製された培地
に植菌され、所定の条件で培養される。植菌は、試験管、フラスコあるいは発酵槽などを
用いたシード培養により菌株を適宜増やし、得られた培養液をカロテノイド生産用培地に
加えることで行う。シード培養に用いる培地は、カロテノイド産生細菌が良好に増殖する
培地であれば特に限定されない。
培養は、適切な培養容器において行われる。培養容器は培養容量により適宜選択するこ
とができ、例えば、試験管、フラスコ、発酵槽などをあげることができる。
培養温度は15〜40℃、好ましくは20〜35℃、より好ましくは25℃〜32℃で
あり、通常1日〜18日間、好ましくは2〜12日間、より好ましくは3〜8日間、好気
条件で培養を行う。好気条件としては、例えば、振とう培養又は通気撹拌培養等が挙げら
れ、溶存酸素濃度を一定の範囲に制御するのが好ましい。溶存酸素濃度の制御は、例えば
、攪拌回転数、通気量、内圧などを変化させることにより行うことができる。溶存酸素濃
度は好ましくは0.3〜10ppm、より好ましくは0.5〜7ppm、さらに好ましく
は1〜5ppmに制御する。
本発明の変異型カロテノイド産生細菌又は形質転換体を培養した後のカロテノイド産生
細菌の菌体数又は形質転換体数はODにより測定することができる。また、カロテノイド産
生細菌又は形質転換体を培養して得られる培養物中のカロテノイド、又は培養物から採取
されたカロテノイドの定量は、高速液体クロマトグラフィーにより行うことができる。上
記のようにカロテノイド産生細菌又は形質転換体を培養した後、得られる培養物からカロ
テノイド採取することができる。
培養物は、例えば、培養液、培養上清、菌体濃縮液、湿菌体、乾燥菌体、菌体溶解物な
どが挙げられる。培養上清は、培養液を遠心処理又はろ過処理することで、培養液から菌
体を除いて調製すればよい。菌体濃縮液は、培養液を遠心分離又は膜ろ過濃縮することに
より得ることができる。湿菌体は、培養液を遠心又はろ過することにより得ることができ
る。乾燥菌体は、湿菌体又は菌体濃縮液を一般的な乾燥方法によって乾燥させることによ
り得ることができる。このようにして得られたカロテノイド含有乾燥菌体はそのまま飼料
添加物として用いることができる。
発酵培養時の収量は、少なくとも150mg/Lであり、例えば150mg/L 、400mg/L、2000mg/L
、4000mg/Lのカロテノイドが含まれる。使用する菌体により培養液中に含まれるカロテノ
イドの量は変動するが、例えば400mg/L〜4000mg/L、さらに好ましくは、500mg/L〜3500mg
/Lのカロテノイドを含む。
本発明の細菌は、DXS及び/又はDPSの変異型アミノ酸配列を含むタンパク質をコードす
る遺伝子を有さないカロテノイド産生細菌のカロテノイド産生量よりも、少なくとも5倍
、好ましくは10倍以上の量の産生能を有する。
本発明においてカロテノイドを上記培養物から採取する方法は特に限定されず、カロテ
ノイドが安定に効率よく回収されるいずれの方法でもよい。これらの方法は、当業者であ
れば公知の抽出、精製技術から適宜選択して行うことができる。また、本発明においては
、上記培養物をカロテノイド含有組成物として用いることもできる。
抽出を行う前に、培養物をアルカリ試薬や界面活性剤などを用いた化学的処理、溶菌酵
素、脂質分解酵素及びタンパク分解酵素などを用いた生化学処理、又は超音波若しくは粉
砕などの物理的処理の中、1つ又は2つ以上の処理を行ってもよい。
例えば、カロテノイドを培養物から抽出する場合、抽出及び洗浄に用いる溶媒は特に限
定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール類、ア
セトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロ
メタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる
抽出操作中のカロテノイドの酸化を極力防止したい場合には、窒素ガスなどの不活性ガ
ス雰囲気で処理すればよい。また、医薬品や食品で用いられている酸化防止剤を選択して
抽出溶媒に加えてもよい。あるいは、これらの処理を組み合わせてもよい。また、光によ
るカロテノイドの分解を極力防止するために、光を当てない条件下で行ってもよい。
このように得られた抽出物をカロテノイドとしてそのまま用いることが可能であり、さ
らに精製して使用することもできる。
抽出操作後の抽出物に残存する細菌等を分離する方法は特に限定されないが、膜濾過、
遠心分離、デカンテーションなどが用いられる。
抽出液からカロテノイド沈殿物を得る方法としては、一般的には加熱及び/又は減圧濃
縮や晶析が挙げられる。この他、低温におけるカロテノイド色素の析出、酸・アルカリ薬
剤や各種塩類による析出によってカロテノイド色素を濃縮せずに分離してもよい。工業的
に用いる場合には、晶析することが望ましい。
得られたカロテノイド沈殿物は、洗浄のため必要に応じて少量の低級アルコール類など
の溶媒を用いて懸濁攪拌させてもよい。洗浄の手法は特に限定されないが、例えば、懸濁
攪拌後に濾取する方法又は沈殿物の上から通液する方法等が実用的に好ましい方法として
挙げられる。
上記のように得られる培養物、抽出物又は精製物は、カロテノイドとしてそれぞれ単独
で用いることもできるし、これらを任意の割合で混合して用いることもできる。
2. アスタキサンチン合成経路に関与する酵素の立体構造解析
前記DXSの第225番目のアミノ酸残基、及びDPSの第305番目のアミノ酸残基の変異がカロ
テノイド合成に重要な役割を果たすことを示すため、これらの酵素の立体構造解析を行う
ことができる。

本発明においては、アスタキサンチン合成経路上での酵素2種(酵素A、酵素Cという)
について点変異が同定された。アスタキサンチンの産生の増加は、これらの酵素に起こっ
た変異が原因と考えられることから、変異が同定された酵素2種について立体構造モデル
を構築し、変異によるアミノ酸置換の影響を推察する。
酵素Aは、1-デオキシ-D-キシルロース5リン酸合成酵素(DXS)と推察された。同定され
たアミノ酸の変異G225Dは、活性部位の近傍に位置するdisordered領域にある。立体構造
モデルからは、酵素Aの変異G225Dが、DXSの活性を向上させることの知られている既知のd
isordered領域の変異と同様の構造変化を酵素Aに引き起こすことが推察され、変異G225D
酵素の酵素活性が向上していることが予測された。DXSがIPPのフィードバック阻害による
制御を受けることを考慮すると、変異G225D酵素では、フィードバック阻害が効かなくな
り、IPPの産生量が増加することが示唆される。酵素Aの変異G225Dにより、アスタキサン
チンの原料であるIPPの供給量が増加することが、アスタキサンチン産生量の増加する要
因と考えられる。
酵素Cは、デカプレニル二リン酸合成酵素であると推察された。立体構造モデルからは
、同定された変異A305Vが、周辺のアミノ酸残基と立体障害を引き起こし、酵素Cの立体構
造を不安定化することが推察された。酵素Cの基質でデカプレニル二リン酸の原料であるF
PPとIPPは、アスタキサンチン合成の原料でもある。不安定化により酵素Cの活性が低下す
ることで、酵素Cにより消費されるFPPとIPPの量が減少することが示唆される。その結果
、アスタキサンチン合成に使用できるFPP, IPPの量が増加し、アスタキサンチンの産生量
が増加することが考えられる。
以上のように、今回同定された変異がアスタキサンチン合成経路に及ぼす効果として、
酵素Aの活性向上によるIPP産生量の増加と、酵素Cの活性減少によるアスタキサンチン合
成経路へのIPP供給量の増加の2つが推察された。これらの効果が、アスタキサンチン産
生量が増加する要因と考えられる。
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの
実施例により限定されるものではない。
(1)Paracoccus属細菌の変異処理及びゲノム解析
変異処理方法
親株(E-396株)に変異源にUVやNTG(ニトロソグアニジン)などを使用し、種々選択圧
を使用して数度のスクリーニングを実施した。スクリーニングは、アスタキサンチンの収
量を指標として行った。

ゲノム解析法
ゲノム解析は、PacBio RS II (Pacific Biosciences社製)やMiSeq(イルミナ社)のシ
ーケンサーを用いてゲノム配列を読んだ後、SMART Cell 8 Pac V3(Pacific Biosciences
社製)や、MiSeq Control Software(MCS) v2.4.1.3、Real Time Analysis (RTA) v1.18.5
4, bcl2fastq v 1.8.4 (イルミナ社)などの解析ソフトを使用して行った。
ゲノム解析結果(変異部位の同定)
変異部位の同定は、これらのゲノム解析結果の変異点を持つタンパクと考えられる領域
のアミノ酸配列とKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG)に収載されている酵
素遺伝子アミノ酸配列の間で相同性の高いもののうち、Paracoccus属に含まれるものを洗
い出し、さらに、これらの情報から酵素の立体構造解析を行って、配列の一致するテンプ
レートを探しだすことにより、変異部位を持つタンパク質のアミノ酸配列の最終的な酵素
名を決定した。
(2)アスタキサンチンの収量
(i) 培養条件
試験管ストローク - 330rpm、28℃、pH7.2、培地量8ml/本
培養時間 - 72時間。
培地 -
以下の組成の培地8mlを内径18mmの綿栓付き試験管に入れ121℃で15分間オ
ートクレーブ滅菌し、シード用試験管培地を調製した。シード用試験管培地の原料は、十
分に菌体の生育することが確認されているロットのものを使用した。
シュークロース 30g/L
コーンスティープリカー 30g/L
リン酸二水素カリウム 1.5g/L
リン酸水素二ナトリウム12水和物 3.8g/L
塩化カルシウム2水和物 5.0g/L
硫酸マグネシウム7水和物 0.7g/L
硫酸鉄7水和物 1.0g/L
pH7.2
次に以下の組成の培地7.2mlを内径18mmの綿栓付き試験管に入れた生産用試験
管培地を5本準備した。生産用試験管培地の原料は、菌体の生育が不十分であることが確
認されているロットのものを使用した。
グルコース 30g/L
コーンスティープリカーろ過処理物 30g/L
硫酸アンモニウム 1.5g/L
リン酸二水素カリウム 1.5g/L
リン酸水素二ナトリウム12水和物 3.8g/L
塩化カルシウム2水和物 5.0g/L
硫酸マグネシウム7水和物 0.7g/L
硫酸鉄7水和物 1.0g/L
シリコン系消泡剤 0.2g/L
(ii) 結果
各株における比生産性を図1に示す。
本実施例により、E-396株と比較して10倍以上のカロテノイド産生能を有するASB-57株
を取得した。
アスタキサンチン合成経路に関与する酵素の立体構造解析
1.立体構造データ及び手法
酵素A、酵素Cの立体構造モデルはホモロジーモデリングにより構築した。モデリングには
、ソフトウェアSwiss-Pdb viewer及びSWISS-MODELを使用した[1, 2]。変異体モデルはSwi
ss-Pdb viewerで作製した。アミノ酸残基の置換はmutateコマンドを、分子内エネルギー
の算出はcompute energyコマンドを、また、エネルギー最小化計算はenergy minimizatio
nコマンドを使用した。基質等との複合体モデルの作製、基質近傍残基の検出、原子間距
離の測定、立体構造の表示はソフトウェアWaals(Altif Labs. Inc.)を使用して行った
。低分子化合物の立体構造モデルはMarvinSketch (ChemAxon Ltd.)により作製した。
テンプレート構造の立体構造の座標データは、タンパク質立体構造データベースであるPr
otein Data Base (PDB)(http://www.rcsb.org/pdb/)から取得した。テンプレート構造
は、PDBに登録されているデータの中で、酵素A、酵素Cそれぞれと最もアミノ酸一致度が
高いものを使用した。ホモロジーモデリングのテンプレートとして使用した立体構造デー
タを表1に示す。
2.酵素Aの立体構造モデルの構築と変異体の解析
酵素Aは、アスタキサンチン合成の原料となるイソプレニル二リン酸(IPP)を生合成す
るイソプレノイド生合成経路の1つであるデオキシキシルロース経路において、ピルビン
酸とD-グリセルアルデヒド三リン酸から、1-デオキシ-Dキシルロース5リン酸を合成する
1-デオキシ-D-キシルロース5リン酸合成酵素:1-deoxy-D-xylurose-5-phosphate synthas
e (DXS)である。
構築した酵素Aの立体構造モデルから、ゲノム解析で同定された変異G225Dは、変異が生
じるとDXSの酵素活性が向上する例が複数報告されている、活性部位近傍のdisordered領
域にあることがわかった。変異体モデルの解析結果より、酵素Aの変異G225Dは、DXSの活
性を向上させる既知の変異と同様の構造変化を引き起こすことが推察され、変異G225D酵
素も既知の変異と同様にDXSの酵素活性が向上していることが予測される。DXSの活性向上
により、アスタキサンチンの原料であるIPPの供給量が増加することに伴い、アスタキサ
ンチンの産生量が増加すると考えられる。
2.1. 1-デオキシ-D-キシルロース5リン酸合成酵素の酵素反応
酵素A、1-デオキシ-D-キシルロース5リン酸合成酵素:1-deoxy-D-xylurose-5-phosphate
synthase (DXS)は、ピルビン酸とD-グリセルアルデヒド三リン酸から、マグネシウムイ
オン(Mg)存在下で、1-デオキシ-D-キシルロース5リン酸を合成する。触媒反応には、
補酵素としてチアミンピロリン酸(Thiamine pyrophosphate, TPP)を必要とし、まず、
補酵素TPPが基質のピルビン酸に付加し、ヒドロキシエチル-TPP中間体を生じる。この中
間体とグリセルアルデヒド三リン酸が反応することにより1-デオキシ-D-キシルロース5
リン酸が生成する。以下に酵素Aの酵素反応を示す。
2.2. 酵素Aの立体構造モデルの構築
(1) ホモロジーモデリングによる酵素Aの立体構造モデルの構築
酵素Aの立体構造モデルは、補酵素TPPとの複合体の立体構造がX線結晶構造解析により
決定されているDeinococcus radiodurans(D. radiodurans)由来の1-deoxy-D-xylurose-
5-phosphate synthase(DXS、テンプレート)の立体構造(PDB ID:2O1X) [3]に基づき(
図2)、ホモロジーモデリングにより構築した。
ホモロジーモデリングは、酵素Aとテンプレート構造の立体構造アライメントに基づいて
行った(図3A,3B)。
酵素AとD. radiodurans由来DXSのアミノ酸一致度は44.1%である。テンプレートのDXSの
立体構造では、アミノ酸番号199〜242残基の領域(44残基)がdisorderedであり、X線結
晶構造解析により原子の位置が特定できていない。そのため、酵素Aのdisordered領域に
相当する196〜238残基(43残基)を除く、アミノ酸残基番号7〜630残基の立体構造モデル
を構築した。次に、酵素Aの立体構造モデルとテンプレート構造を重ね合わせることによ
り、TPP及びMgをはめ込み、酵素AとTPPの複合体モデルを作製した。図4にテンプレート
構造と構築したモデル構造を示す。
酵素Aは、テンプレート構造と同様、ホモ二量体を形成しており、それぞれのサブユニ
ットにTPP結合部位及び基質結合部位を持つ。酵素Aの単量体は、ドメインI(1〜319残基
)、ドメインII(320〜495残基)、ドメインIII(496〜629残基)の3つのドメインで構
成される。
(2) 酵素Aの基質複合体モデルの作製
酵素Aの基質との結合に関与するアミノ酸残基を推察するため、酵素Aに基質が結合した複
合体モデルを構築した。テンプレート構造の2O1Xでは、基質であるピルビン酸及びグリセ
ルアルデヒド3リン酸の座標は確定できていないため、先ず、ピルビン酸結合部位を検出
するために、補酵素TPPにピルビン酸が付加したヒドロキシエチル-TPP中間体との複合体
モデルを、類縁のSaccharomyces cerevisiae (S. cerevisiae ) 由来のトランスケトラー
ゼTransketolase(TK)とヒドロキシエチル-TPP中間体が結合した立体構造(PDB ID: 1GP
U)[6]に基づき、重ね合わせにより、ヒドロキシエチル-TPP中間体をはめ込み、複合体モ
デルを作製した。同様にS. cerevisiae由来のTKとエリトロース-4-リン酸との立体構造(
PDB ID: 1NGS)[7]に基づき、エリトロース-4-リン酸をはめ込み、さらにエリトロース-4
-リン酸からグリセルアルデヒド3リン酸モデルを作製することにより、酵素Aとグリセル
アルデヒド三リン酸との複合体モデルを作製した。
図5に酵素Aと基質複合体のモデル構造を示す。
2.3. 酵素Aの活性部位の推察
補酵素及び基質を結合するアミノ酸残基を推定するため、酵素Aと補酵素の複合体モデル
において、TPP中間体、GAP及びMgとの相互作用について調べた。
(1) 補酵素TPPの結合部位
酵素AとTPPとの複合体モデルでは、テンプレート構造と同様、TPPはドメインIとドメイ
ンIIの間に位置しており、TPPのピリミジン環はドメインIIに、リン酸基はドメインIに結
合している。
TPPは、アミノピリミジン環、チアゾリン環、ピロリン酸で構成される(図6)。アミ
ノピリミジン環は酵素Aの結合ポケットの内部にぴったりと収まるように結合している。P
he396とIle369の側鎖は、アミノピリミジン環を両側から挟むように疎水性相互作用で結
合している。特にPhe396の側鎖である環状のフェニル基とアミノピリミジン環はπスタッ
キングによる強い結合が推察される。Gly120の主鎖の酸素と、Glu371の側鎖の酸素はアミ
ノピリミジン環の1位の窒素原子と水素結合を形成する。TPPのピリミジン環の1位の窒
素原子とGlu残基との水素結合は、TPPを介した触媒反応に重要であり、TPPを補酵素とし
て使用する酵素で保存されていることが知られている。Arg399の側鎖は、疎水性結合だけ
でなく、周辺のアミノ酸残基Glu371、Ser122の側鎖との水素結合により、結合ポケットを
形成していると推測される。チアゾリン環との相互作用としては、Ile184, Ile369との疎
水性結合が見られた。ピロリン酸との相互作用としては、Gly152の主鎖、Lys285の側鎖及
びHis79の側鎖と間に水素結合が推察された。
補酵素TPPの結合にはMgを必要とする。MgはTPPの2つのリン酸基の間に配位しており、
Asp151とAsn180の側鎖及びMet182の主鎖がMgと結合していることが推察された。DXSにつ
いてはTPP結合モチーフとして、GDGX25-30Nの配列が保存されていることが知られている[
3]。酵素AでMg結合が推察されたAsp151とAsn180を含むアミノ酸配列Gly150-Asp151-Gly15
2-Asn180の配列は、このモチーフと合致する。
以上のように、TPPのアミノピリミジン環とチアゾリン環の炭素は、酵素Aの疎水性残基Il
e184, Ile369, Phe396, Arg399との間に疎水性相互作用が推察された。また、アミノピリ
ミジン環の2つの窒素原子はGly120, Glu371と水素結合を形成することが推察された。ピ
ロリン酸との間にはHis79, Gly152, Lys285との水素結合の他、Asp151, Asn180, Met182
によるMgを介した水素結合が推察される。図7に、推察されたTPPとの結合に関与するア
ミノ酸残基を示す。
(2) ピルビン酸との相互作用
基質であるピルビン酸はTPPと反応し、ヒドロキシエチル-TPP中間体となる。酵素Aとヒド
ロキシエチル-TPP中間体の複合体モデルからは、ピルビン酸由来のヒドロキシエチル基と
の相互作用として、Val77との疎水性相互作用及びHis432との水素結合が推察された。こ
れらのアミノ酸残基がピルビン酸との結合に関与していると考えられる。図8に、ヒドロ
キシエチル基との相互作用が推測されるアミノ酸残基を示す。
(3) グリセルアルデヒド3リン酸との相互作用
基質であるグリセルアルデヒド3リン酸(GAP)と相互作用するアミノ酸残基として、His4
8, Tyr393, Arg421, Asp428, Arg479との水素結合が推察された(図9)。
His48とAsp428はGAPのアルデヒド基と水素結合を形成する。Tyr393, Arg421, Arg479は
GAPのリン酸基との水素結合を形成することが推察された。
以上、推察された活性部位について表2〜4に示す。
また、酵素Aと補酵素TPPとの結合様式、酵素Aとピルビン酸との結合様式、酵素Aとグリ
セルアルデヒド3リン酸との結合様式の図をそれぞれ、図6、10、11に示す。
酵素Aは、テンプレートのD. radiodurans由来DXSで明らかになっている補酵素のTTP、
基質のピルビン酸及びGAPを結合する活性部位を保持していることから、DXSの酵素活性を
持つと推測される。これらのアミノ酸残基は、D. radiodurans由来DXSの他、大腸菌等のD
XSやS. cerevisiae由来TKにおいても保存性が高いことが知られている[3]。
大腸菌DXSでは、酵素AのGlu370, Arg399, Arg479に相当するアミノ酸残基をAlaへ置換す
ると、失活することが明らかになっている[3]。また、文献[8]では、大腸菌DXSの酵素Aの
His48, Glu371, Asp428に相当するアミノ酸残基を変異させた実験で、いずれも酵素活性
がほぼ失活することが示されている。酵素Aにおいてもこれらのアミノ酸残基はDXSの活性
に重要であると推測される。
2.4. 酵素Aの変異G225Dによる影響
酵素Aの変異G225Dは立体構造が特定できなかったdisordered領域(196〜238残基)に存在
する。この変異が酵素Aの立体構造に与える影響を推察するため、これまでの知見や立体
構造上でのdisordered領域の位置と活性部位との関連について調べた。
(1) 既知のdisordered領域での変異について
これまでに、マスカットと大腸菌のDXSについて、disordered領域で起こった変異、それ
ぞれ2箇所、計4種がいずれも酵素活性を増加させることが報告されている。
マスカット (Vitis vinifera)由来DXSでは、K284Nの変異が野生型に比べVmax及びKcat/
Kmで約2倍の活性の増大をもたらすこと、過剰発現によりモノテルペンの産生量が大幅に
増加することが報告されている[9]。
また、マスカットにおいてK284NとR306Cの変異が、大腸菌においてK213NとK234Cの変異
に関する発明が知られている(特表2014-500710、US20130276166)。この発明は、DXSの
活性向上によりテルペンの産生量を増加させる方法に関するもので、4例のいずれも、そ
れぞれの一残基の変異によりテルペンの産生量が増加する。
図12に、酵素Aと大腸菌とマスカットのDXSにおける酵素活性が増加した変異の位置を示
す。
マスカットのK284NとR306C、大腸菌のK213NとK234Cは、いずれもdisordered領域(青)
に存在する。酵素Aの変異G225Dもこれらと同じくdisordered領域に存在する。アミノ酸配
列アライメントから、DXSの活性部位(green)が保存されており、酵素AもこれらのDXSと
同様の反応様式を持つと推測される。なお、disordered領域のN末端側(magenta)には、
活性部位が存在する。
以上のように、DXSのdisordered領域にはDXSの酵素活性を上げる変異が複数存在しており
、本領域への変異導入が、DXSの活性に何らかの影響を及ぼすことが推測される。
(2) 酵素Aの変異G225D(disordered領域)の立体構造での位置
図13に、酵素Aの変異G225Dが存在するdisordered領域(196〜238残基)位置を青の点線
で示す。
本領域は、DXSの活性に必須である補酵素TPPの結合部位近傍に位置する。本領域のN末端
側のループ(magenta)には活性部位であるAsn180, Met182及びIle184が存在する。 Asn1
80の側鎖とMet182の主鎖はMgを結合する。Ile184の側鎖はTPPと疎水性結合している。DXS
の活性に必須なTPPとMgが結合するには、このループが適切な構造をとることが重要であ
ると思われる。文献[9]では、生理的役割は不明ではあるが、本領域は活性部位の近くに
存在し、本領域内の変異が合理的に酵素の活性に影響するではないか、と考察されている
。図12、13に示すように、本領域は、アミノ酸配列上でも立体構造上でも、TPP結合
部位の近傍に存在するため、本領域への変異がこれらの活性部位に影響を与えることは、
十分起こりうると考えられる。
(3) 酵素Aのdisordered領域のモデル及び変異G225D酵素の作製
次に、酵素Aの変異G225Dがdisordered領域の立体構造に与える影響を調べるため、酵素A
の196〜238残基(43残基)のdisordered領域についてモデル構造を作製した。マスカット
の変異K284Nについて報告された文献[9]では、マスカットDXSのdisordered領域について
、モデルを作製し、変異による静電ポテンシャルの変化を見ている。参考のため、酵素A
についても同様の解析を行った。ホモロジーモデリングにより、酵素Aのdisordered領域
と相同性の高いアミノ酸配列のフラグメント構造を基に立体構造モデルを作製した。テン
プレート構造として、PDBに登録された立体構造の中で最も高いアミノ酸一致度(34%)を
持つ1AL7のフラグメントを使用した。disordered領域はゆらいだ構造をとっていると推測
されるが、本領域が形成しやすいフォールディングとしては参考になると思われる。作製
したモデルを図14(左)に示す。
さらに、変異箇所のGly225をAspに置換することにより変異G225D酵素の立体構造モデルを
作製した。Gly225は表面に位置しており、Aspへの置換によりAspの側鎖が表面に露出する
。作製した立体構造モデルの表面形状に静電ポテンシャルをマップした結果を図14(右
)に示す。青がpositive(正電荷)領域を、赤がnegative(負電荷)な領域を示す。
野生型では、強い正電荷の領域が存在するが、変異G225D酵素では正電荷が弱まり、負電
荷が強くなっていることが確認できる。野生型では、正電荷を持つArg227, Arg228, Lys2
30, K234の側鎖が集まり、強い正電荷の領域を形成している。この領域に存在する電荷を
持たないGly225が負電荷を持つAspに置換されることにより、Asp225の近傍の正電荷が弱
まったためと考えられる。この結果は、文献[9]で示されているマスカットの変異K284Nの
静電ポテンシャルの変化、すなわちdisordered領域の表面に正電荷から負電荷への静電ポ
テンシャルの変化と同じ傾向を示している。酵素AのG225Dによるdisordered領域の構造変
化は、TPP結合部位を含む活性部位にマスカットの変異と同様の影響を及ぼすことが予測
さ、その影響により、酵素Aの変異体G225Dもマスカットの変異体K284Nと同様に酵素活性
が増加していることが示唆される。
2.5. アスタキサンチン合成経路における酵素Aの変異G225Dの影響
以上のように、酵素Aの変異G225Dは酵素Aのdisordered領域で起きていること、本領域は
、活性に必須なTPP結合部位の近傍に存在することが確認された。また、本領域にはこれ
まで複数のDXSの酵素活性を向上させる変異が見つかっており、G225Dの変異は、DXSの活
性を向上させる既知の変異と同様の構造変化を起こすことが予測された。
立体構造モデルで確認されたdisordered領域の位置からは、少なくとも文献で述べられて
いるように、disordered領域への変異がTPP結合領域に何らかの影響を及ぼすことにより
、酵素活性が向上していると考えられる。マスカットの例では、in vitroの酵素学的実験
により変異体のKcat/Kmが野生型の約2倍になっていることが示されており、disordered
領域での変異がTPPの結合により適した構造変化をもたらすことが予測される。
細胞内で各種のモノテルペンの大幅な増加がもたらされるためには、モノテルペンの原料
となるイソペンテニル二リン酸(IPP)の増加が必要である。DXSは、デオキシキシルロー
ス経路の産生物であるIPPによりフィードバック阻害がかかること、IPPはTPPと競争阻害
することが報告されている[10]。また、IPPの量が一定量以上になると、デオキシキシル
ロース経路の最初の酵素であるDXSに阻害がかかり、それ以上のIPPを増やさないように制
御されることが知られている。
このフィードバック阻害により、供給されるIPPの量は、DXSによって一定に制御されてい
るため、単にDXSの酵素活性Kcat/Kmが増加しただけでは、IPPの供給量は増えず、テルペ
ンが大幅に増加することはできない。既知の例では、disordered領域の変異によりテルペ
ンの合成量が増加しており、この変異によりIPPの供給量が増加していることが予測され
、すなわち、DXSのIPPによるフィードバック阻害が効かなくなっていることが示唆される
in vitroでは、IPPは、TPPと競合してDXSに結合し、DXSを阻害することが明らかになって
いる[10]。disordered領域への変異により、TPP結合領域に構造変化が起こり、TPP結合に
より適した構造になるだけでなく、IPPの結合に影響を及ぼすことで、IPPによるフィード
バック阻害が効かなくなっている可能性が示唆される。
酵素Aの変異G225Dも同様、TPP結合領域に構造変化を及ぼし、IPPによるフィードバック阻
害が効かなくなることで、IPPの産生量が増加していると推察される。その結果、アスタ
キサンチン合成の原料となるIPPの供給量が増えることで、アスタキサンチンの合成量が
増加していると考えられる(図15)。
3.酵素Cの立体構造モデルの構築と変異体の解析
酵素Cは、アミノ酸配列の相同性および立体構造比較解析から、ポリプレニル二リン酸合
成酵素の一種であり、ファルネシル二リン酸(FPP)と7個のイソペンテニル二リン酸(I
PP)からデカプレニル二リン酸を合成するデカプレニル二リン酸合成酵素:Decaprenyl d
iphosphate synthaseである。
構築した酵素Cの立体構造モデルから、ゲノム解析で同定された変異A305Vは、周辺のア
ミノ酸残基との原子の衝突による立体障害を引き起こし、酵素Cの立体構造を不安定化す
ることが推察された。立体構造の不安定化により酵素Cの活性が減少することにより、酵
素Cにより消費されるFPPとIPPの量が減少する。その結果、アスタキサンチン合成に使用
できるFPP, IPPの量が増加することにより、アスタキサンチンの産生量が増加することが
考えられる。
3.1.デカプレニル二リン酸合成酵素の酵素反応
デカプレニル二リン酸合成酵素は、FPPとIPPを縮合する活性を持ち、IPPとの縮合を繰り
返し、FPPと7個のIPPからデカプレニル二リン酸(DPP)を合成する酵素である。デカプ
レニル二リン酸合成酵素の酵素反応を以下に示す。
3.2. 酵素Cの立体構造モデルの構築
(1) ホモロジーモデリングによる酵素Cの立体構造モデルの構築
酵素Cの活性部位及び変異による影響を調べるため、テンプレート構造として、PDBの立体
構造でアミノ酸一致度が最も高く(アミノ酸一致度は76.2%)、立体構造がX線結晶構造解
析により決定されているRhodobacter capsulatus (R. capsulatus) 由来のデカプレニル
二リン酸合成酵素の立体構造(PDB ID: 3MZV)を使用し、ホモロジーモデリングにより立体
構造モデルを構築した(図16) [4]。
ホモロジーモデリングは、酵素Cとテンプレート構造の立体構造アライメントに基づいて
行った(図17)。
(2) 酵素Cの基質複合体モデルの作製
テンプレート構造の3MZVは基質が結合していないため、Escherichia coli由来のoctapren
yl pyrophosphate synthase(オクタプレニル二リン酸合成酵素)(PDB ID: 3WJN, 3WJO
)の立体構造データ[11]を使用して、酵素Cの立体構造モデルに3WJNを重ね合わせ、基質
であるFPPを酵素Cの立体構造モデルにはめ込むことにより、酵素CとFPPの複合体モデルを
作製した。次に、同様に、3WJOを重ね合わせて、IPPをはめ込み、酵素CとFPP, IPP複合体
モデルを作製した。
図18に、テンプレート構造と構築したモデル構造を示す。酵素Cはテンプレート構造と
同様にホモ二量体を形成している。
3.3. 酵素Cについて
(1) 立体構造による比較
酵素Cのデカプレニル二リン酸合成酵素は、ポリプレニル二リン酸合成酵素のファミリー
(Pfam PF00348 Polyprenyl synthetase)に属する。図19に酵素Cの基質結合の様子を
示す。
ポリプレニル二リン酸合成酵素は、FPPからIPPをhead-to-tail(ここでは文献[4]に従い
、リン酸基側をhead、イソプレニル基側をtailと呼ぶ。)の向きで縮合することにより、
各種のポリプレニル二リン酸を合成する。デカプレニル二リン酸合成酵素は、FPPとIPPG
の縮合反応を続けることにより、基質結合部位の奥の方へと(図19 右に矢印で示す)
プレニル鎖が伸長され、C50のデカプレニル二リン酸を合成する。
酵素CとテンプレートのR. capsulatus由来デカプレニル二リン酸合成酵素はアミノ酸一致
度が76.3%と高く、活性部位も保存されている(図17)。立体構造の、Cαの重ね合わせ
によるRMSDは0.063Aであり、2つの酵素は非常に類似しており、アミノ酸残基の一致を色
分けで表示すると、アミノ酸残基の種類が異なる領域は、分子表面に限られ、活性部位や
基質を結合する領域は、全て一致するアミノ酸残基で構成されている(図20)。
(2) アミノ酸配列による比較
次に、酵素Cのアミノ酸配列について、Paracoccus由来のデカプレニル二リン酸合成酵素
との比較を行った。Paracoccus由来のデカプレニル二リン酸合成酵素として、既に明らか
になっているアミノ酸配列として、UniProt(http://www.uniprot.org)に、Paracoccus
zeaxanthinifaciens (Q8L1I6)とParacoccus denitrificans(A1B3M9)由来のアミノ酸配列
が登録されている。これらと酵素Cのアミノ酸配列を比較したところ、アミノ酸一致度は7
5.1% (類似度89.2%)であり、高い相同性を示した(表5)。
アミノ酸配列からも酵素Cはデカプレニル二リン酸合成酵素であると推測される。図2
1にアライメントを示す。
3.4. 酵素Cの活性部位の推察
酵素Cと基質の複合体モデルにおいて、基質であるFPP結合部位とIPP結合部位、触媒に必
要なMg結合部位を推察した。これらの結果から推察された活性部位と他のポリプレニル二
リン酸合成酵素の活性中心や基質結合部位の保存性は高く、酵素Cはポリプレニル二リン
酸合成酵素と同様の反応様式を持つと推察される。
酵素Cと基質との複合体モデルを図22に示す。
酵素Cは、テンプレート構造のデカプレニルニリン酸合成酵素と同様、ホモ二量体を形成
すると推測される。図22に、A鎖(light red)のFPPとIPPとの結合部位を示す。FPPは
、A鎖のトンネル状の領域に結合し、FPPとIPPは、IPPのイソペンテニル基にFPPのリン酸
基を向けたhead-to-tailの形で結合している。触媒反応は、Mg存在下において、FPPのリ
ン酸基とIPPのイソペンテニル基の間で起こる。
酵素Cの活性部位を推察するため、酵素Cと基質複合体モデルにおいて、FPP、IPPの近傍に
存在するアミノ酸残基を検出し、基質とアミノ酸残基の相互作用を推察した。FPPについ
ては、リン酸基とArg102, Lys179, Lys244との間に水素結合が、ポリプレニル基とAla88,
Thr89, His92, Phe125との間に疎水性相互作用が推察された(図23上)。
IPPについては、リン酸基とLys54, Arg57, His86, Arg103との間に水素結合が、イソペン
テニル基とPhe216との間に疎水性相互作用が推察された(図23中央)。
本触媒反応には、Mgが必要である。Mg結合部位として、既知のポリプレニル二リン酸合成
酵素では、2箇所のDDXXDモチーフが知られている[11]。テンプレート構造ではMgの座標
は決定されていないが、酵素Cにおいても、DDXXDモチーフ相当するAsp93, Asp94, Asp97
及びAsp220, Asp221, Asp224が、既知のMg結合部位と同様にリン酸基の近くに存在し、こ
れらのアミノ酸残基がMgを結合すると推察される(図23下)。
以上、推察された活性部位について添付資料の表6〜8に示す。また、酵素CとFPP及びIP
Pとの結合様式、並びに酵素CとMgとの結合様式についての図をそれぞれ図24、25に示
す。
結合が推察された各アミノ酸残基は、テンプレート構造であるR. capsulatus由来のデカ
プレニル二リン酸合成酵素と一致する(図17)。また、酵素CのFPP結合部位、IPP結合
部位、Mg結合部位は、基質複合体モデルの作成に使用したE. coli由来のオクタプレニル
二リン酸合成酵素の結合部位を保持していることから、酵素Cは、オクタプレニル二リン
酸合成酵素と同様の反応様式をとると考えられる。
特に、FPPのリン酸基を結合するArg102, Lys179, Lys244、Mgを結合するAsp93, Asp94, A
sp97, Asp220, Asp221, Asp224は、リン酸基を転移する触媒活性に直接関与する重要な残
基であると思われる。ラットや酵母のFPP合成酵素の変異体作製による実験では、酵素Cの
リン酸結合部位であるArg102, Arg103及びMg結合部位であるAsp94, Asp97, Asp220, Asp2
21, Asp224及びに相当するアミノ酸残基が、酵素活性に重要であること、ポリプレニル二
リン酸合成酵素の間でこれらのアミノ酸残基が高く保存されていることが報告されている
[14, 15]。
また、FPP合成酵素では、酵素CのPhe216, Gln217に相当するアミノ酸残基の変異体作製に
より、 PheとGlnの側鎖が基質結合に重要であることが明らかにされている[16]。酵素Cの
複合体モデルにおいても、Phe216, Gln217が活性部位の領域にあり、活性に重要であると
予測される。
3.5. 酵素Cの変異A305Vによる影響
酵素Cで同定されたAla305からValへの変異が立体構造に及ぼす影響を推察するため、酵素
Cの変異A305V酵素の立体構造モデルを作製した。
(1) A305Vの一残基置換による変異モデルの作製
AlaからValへの置換による影響を見るため、まず、他のアミノ酸残基の立体構造を固定し
て、(rigid bodyと仮定して)、Ala305をValに一残基置換したモデルを作製し、野生型
と比較した。
図26に、野生型と変異A305V酵素の立体構造モデルを示す。野生型のAla305は、αヘリ
ックス(pink)に存在し、側鎖は隣接するαヘリックス(cyan)のアミノ酸残基と疎水性
相互作用によりパッキングしている。
図27に、Ala305と隣接するアミノ酸残基の構造を示す。
Ala305の側鎖であるメチル基の炭素原子は周辺のアミノ酸残基、Tyr208, Ala211, His301
, Ala302と接しており、炭素の原子間の距離はいずれも4.0Å未満である。Ala305からVal
への置換により側鎖のメチル基が2つ分増えることになる。Ala305をValに置換した立体
構造モデルでは、Valの側鎖のメチル基の炭素とTyr208及びAla211の炭素との原子間距離
は2.42Å, 2.47Åであった。
炭素間の非共有結合による接触距離の極限下限値は2.9Aである。Val305で測定された炭素
の原子間の距離はこの値を下回るため、これらの炭素原子は衝突し、周辺のアミノ酸残基
との立体障害が起きると考えられる。Spece-fillingによる表示では、原子間の距離がフ
ァンデルワールス半径より短く、原子間で衝突していることが確認できる。以上より、A3
05Vの変異は、原子の衝突により酵素Cの立体障害を引き起こし、立体構造の不安定化を招
くと予測される。
(2) A305Vの変異による分子内エネルギーの変化
A305Vによる構造の不安定化を評価するため、酵素Cの野生型と変異体A305Vの分子内エネ
ルギーを原子間の結合の長さ、結合角、ねじれ、結合エネルギー等の合計により、単位キ
ロジュール/mol(KJ/mol)で算出した。
その結果、野生型の-17,912(KJ/mol)に対し、変異A305V酵素では-16,295(KJ/mol)と、変
異A305Vの分子内エネルギーが9.02%も増加し、構造が不安定化することが確認された。こ
の分子内エネルギーの増加は、特にTyr208, Ala211, Val305の各アミノ酸残基に認められ
、これらのアミノ酸残基が衝突を起こしていることが分子内エネルギーの増加に起因する
と考えられる。図28に、酵素Cの野生型と変異体A305Vの分子内エネルギーの比較を示す
(3) 変異A305Vによる構造変化
次に、変異体モデルに対しエネルギー最小化計算を行い、周辺のアミノ酸残基の立体構造
を動かすことにより、A305Vによる衝突を回避できるかどうかを調べた。その結果、Val30
5の側鎖の衝突を回避して、側鎖を許容するためには、Val305が存在するαヘリックスと
隣接するαヘリックスのアミノ酸残基の立体構造を動かさなければならないことがわかっ
た。すなわち、その構造変化は側鎖のみならず、主鎖にも及ぶものであり、変異A305V酵
素では、αヘリックス間の本来のパッキングができなくなり、2本のヘリックス周辺の構
造が不安定化することが予想される。また、変異A305Vに隣接するαヘリックスには基質
であるIPPやMgを結合する活性部位(Phe216, Gln217, Asp220)が存在する。活性部位の
土台となるαヘリックスの主鎖構造の構造変化により、活性部位のアミノ酸残基が本来の
位置をとれなくなり、その結果、基質結合や活性そのものに影響がでることが考えられる
(図29右)。
図29に、野生型とエネルギー最小化計算後の変異体A305VのAla305とVal305周辺の構造
を、図30、31、32に変異体A305Vの構造変化を示す。
(4) 構造の不安定化による酵素Cの活性の減少
以上のように、A305Vの立体構造モデルからは、周辺のアミノ酸残基との立体障害、分子
内エネルギーの増加および隣接する2本のαへリックスの構造変化が起きていると推察さ
れ、A305Vの変異が酵素Cの立体構造を不安定化することが示唆された。点変異による立体
構造の不安定化については、遺伝病等でも数多く報告されている。たとえば、不安定化を
引き起こす変異を持ったタンパク質が、溶媒中で本来の立体構造を維持することができず
に、通常よりも短かい時間で失活する、また、細胞内では、本来のパッキングができない
変異体タンパク質が細胞自身の機能により排除されると考えられている。そのため、本来
の活性を有さない、不安定な構造である変異A305V酵素は、細菌内で排除されている可能
性があり、結果的に、細菌内での酵素Cの活性が減少するものと推察される。
3.6. アスタキサンチン合成経路における酵素Cの変異A305Vの効果
デカプレニル二リン酸合成酵素は、コエンザイムC10(CoQ10)合成経路の酵素の1つであ
る。今回、酵素Cと高い相同性を持つことが確認されたParacoccus zeaxanthinifaciensあ
るいはParacoccus denitrificans由来のデカプレニル二リン酸合成酵素は、CoQ10の産生
に必要な酵素であることが明らかにされている[特開2005-211020、特表2006- 517794]。
デカプレニル二リン酸合成酵素の基質であるFPPとIPPは、アスタキサンチン合成経路のゲ
ラニルゲラニル二リン酸(Geranyl-geranyl pyrophosphate; GGPP)合成酵素のCrtEの基質
でもある。したがって、通常のParacoccusの細胞内では、デカプレニル二リン酸合成酵素
とCrtEが、基質であるFPPとIPPを取り合って使用していると考えられる。
酵素Cで同定された変異A305Vは、分子の立体構造を不安定化させることにより、酵素Cの
活性を減少させると推察された。酵素Cの活性が減少すれば、使用する基質のFPP及びIPP
の量も減少し、その結果、アスタキサンチン合成経路で使用可能なFPP、 IPPの量は増加
すると考えられる。
CrtEは、1分子のFPPと1分子のIPPから1分子のGGPPを合成する。一方、酵素Cが1分子のデ
カプレニル二リン酸を合成するには、1分子のFPPと7分子のIPPを必要とする。IPPで見る
と、酵素Cは、1つの反応でCrtEの7倍のIPPを消費する。このため、酵素Cの活性減少は、
アスタキサンチン合成経路に供給されるIPPを増加させるのに極めて効果的であると考え
られ、
その結果、アスタキサンチンの合成量が顕著に増加すると推察される(図33)。
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Claims (8)

  1. 以下の(a)〜(c)のいずれかの遺伝子と、以下の(d)〜(f)のいずれかの遺伝子との組み合わせを含む、変異型カロテノイド産生細菌。
    (a)パラコッカス属に属するカロテノイド産生細菌における1−デオキシ−D−キシルロース5リン酸合成酵素(DXS)の配列番号2に示されるアミノ酸配列のうち第196〜238番のアミノ酸配列において、第225番目のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基に置換されるとともに、当該第225番目のアミノ酸残基以外の1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加された変異型アミノ酸配列を含み、かつDXS活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
    (b)上記(a)の遺伝子の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつDXS活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、当該ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子のうち前記第225番目のアミノ酸残基をコードする塩基配列は、常にアスパラギン酸残基のコドンとしてハイブリダイズする、前記遺伝子
    (c)配列番号5で表される塩基配列を含むDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつDXS活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、当該ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子のうち第673〜675番の塩基配列は、常にアスパラギン酸残基のコドンとしてハイブリダイズする、前記遺伝子
    (d)パラコッカス属に属するカロテノイド産生細菌におけるデカプレニル二リン酸合成酵素(DPS)の配列番号4に示されるアミノ酸配列において、第305番目のアミノ酸残基がバリン残基に置換されるとともに、当該第305番目のアミノ酸残基以外の1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加された変異型アミノ酸配列を含み、かつDPS活性が低下したタンパク質をコードする遺伝子
    (e)上記(d)の遺伝子の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつDPS活性が低下したタンパク質をコードする遺伝子であって、当該ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子のうち前記第305番のアミノ酸残基をコードする塩基配列は、常にバリン残基のコドンとしてハイブリダイズする、前記遺伝子
    (f)配列番号7で表される塩基配列を含むDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつDPS活性が低下したタンパク質をコードする遺伝子であって、当該ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子のうち第913〜915番の塩基配列は、常にバリン残基のコドンとしてハイブリダイズする、前記遺伝子
  2. 変異型アミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子を有さないカロテノイド産生細菌のカロテノイド産生能よりも高い産生能を獲得した、請求項1に記載の細菌。
  3. 変異型アミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子を有さないカロテノイド産生細菌のカロテノイド産生量よりも少なくとも5倍以上の量の産生能を獲得した、請求項2に記載の細菌。
  4. パラコッカス属に属するカロテノイド産生細菌が寄託番号FERM BP−4283として寄託されたE−396株である請求項1〜3のいずれか1項に記載の細菌。
  5. カロテノイドがアスタキサンチンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の細菌。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の細菌を培養し、得られる培養物からカロテノイドを採取することを特徴とするカロテノイドの製造方法。
  7. カロテノイドの産生量が、変異型アミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子を有さないカロテノイド産生細菌のカロテノイド産生量よりも少なくとも5倍以上の産生量である、請求項6に記載の方法。
  8. カロテノイドがアスタキサンチンである請求項6又は7に記載の方法。
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