以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに特定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一若しくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
以下の実施の形態では、本発明を具現化したレーザ加工装置の一例として、印字を行うレーザマーカについて説明する。ただ、本明細書においてレーザ加工装置は、その名称に拘わらずレーザ応用機器一般に利用でき、例えばレーザ発振器や各種のレーザ加工装置、穴あけ、マーキング、トリミング、スクライビング、表面処理等のレーザ加工や、印刷機器、医療機器等において、好適に利用できる。また、本明細書においては加工の代表例として印字について説明するが、印字とは文字や記号、図形等のマーキングの他、上述した各種の加工も含む概念で使用する。
レーザ加工装置は、レーザ光を所定の領域内において走査して、部品や製品等の加工対象物(ワーク)の表面に対しレーザ光を照射して印字やマーキング等の加工を行う。レーザ加工装置の構成の一例を図1に示す。この図に示すレーザ加工装置1000は、レーザ制御部1とレーザ出力部2と入力部3とを備える。レーザ制御部1からの操作や指示に基づいて、レーザ出力部2のレーザ発振部5でレーザ発振を生じさせる。レーザ発振部5で得られたレーザ発振光(レーザ光)は、ビームエキスパンダ6でビーム径を拡大されてレーザ光LBとして、レーザ光走査部10に導かれる。レーザ光走査部10は、レーザ光LBを反射させて所望の方向に偏向され、集光部7から出力されて、ワークWKの表面で走査されて印字等の加工を行う。
(二次元のレーザ光走査部10)
レーザ加工装置1000は、レーザ光LBをワークWK上で走査させるために、図1に示すようなレーザ光走査部10を備える。レーザ光走査部10は、一対のガルバノミラーを構成するX軸スキャナ11a、Y軸スキャナ11bと、各ガルバノミラーをそれぞれ回動軸に固定し回動するためのガルバノモータ12a、12bとを備えている。X軸スキャナ11a、Y軸スキャナ11bは、図1に示すように互いに直交する姿勢で配置されており、レーザ光をX方向、Y方向に反射させて走査させることができる。またX軸スキャナ11a、Y軸スキャナ11bは、これらを駆動するスキャナ駆動回路8に接続される。スキャナ駆動回路8は、X軸スキャナ11a、Y軸スキャナ11bを制御する制御信号をレーザ制御部1から受けて、これに基づいてX軸スキャナ11a、Y軸スキャナ11bを駆動する。また、レーザ光走査部10の下方には、集光部7が備えられる。集光部7はレーザ光LBを作業領域に照射させるよう集光するための集光レンズで構成され、fθレンズ等が使用される。
(レーザ光三次元走査部10B)
また、本発明は二次元平面内での加工を行うレーザ加工装置のみならず、高さ方向すなわちZ軸方向にレーザ光の焦点距離を調整して三次元状の加工を可能としたレーザ加工装置も利用できる。図2に、このような三次元加工可能なレーザ加工装置の一例として、Z軸スキャナ11cを付加することで焦点距離を変化可能としたレーザ加工装置のレーザ光三次元走査部10Bを示す。Z軸スキャナ11cは、レーザ発振部5側に面する入射レンズと、レーザ出射側に面する出射レンズを含んでおり、レンズを駆動モータ等で摺動させてレンズ間の距離を相対的に変化させ、焦点距離すなわち高さ方向のワーキングディスタンスを調整可能としている。これによってレーザ光LBを加工エリアWA内で走査させると共に、高さ方向への調整も可能としている。
このようにレーザ光走査部は、レーザ発振部5により発振されたレーザ光を二次元状に走査して、加工対象物に加工を行うための二次元走査部(二次元スキャナ)としたり、さらに高さ方向も加えた三次元状の走査を可能とした三次元走査部(三次元スキャナ)とすることができる。
(入力部3)
図1に示す入力部3はレーザ制御部1に接続され、レーザ加工装置1000を操作するための必要な設定を入力してレーザ制御部1に送信する。設定内容はレーザ加工装置1000の動作条件や具体的な印字内容(印字パターン)等である。入力部3はキーボードやマウス、コンソール等の入力デバイスである。また、入力部3で入力された入力情報を確認したり、レーザ制御部1の状態等を表示する表示部4を設けることもできる。表示部4はLCDや有機EL、CRT等のモニタが利用できる。またタッチパネル方式を利用すれば、入力部と表示部を兼用することもできる。これによって、コンピュータ等を外部接続することなく入力部でレーザ加工装置の必要な設定を行うことができる。
(レーザ出力部2)
レーザ出力部2は、レーザ発振部5を備える。レーザ発振部5は、レーザ増幅器やレーザ共振器、あるいはレーザ共振機構とレーザ増幅機構を組み合わせた主発振器出力増幅部(Master Oscillator Power Amplifier:MOPA)で構成できる。ここで、レーザ発振部5の例として、レーザ発振部をレーザ光増幅部で構成したレーザ増幅器100を実施形態1に係るレーザ加工装置として図3に、レーザ発振部をレーザ光共振部で構成したレーザ共振器200を実施形態2に係るレーザ加工装置として図10に、レーザ発振部をMOPAで構成した主発振器出力増幅器300を実施形態3に係るレーザ加工装置として図11に、それぞれ示す。
[実施形態1:レーザ増幅器100]
レーザ発振部5をレーザ光増幅部で構成したレーザ増幅器100は、図3に示すように種光源であるレーザ光生成部20と、励起光を供給するための励起光供給部22と、レーザ光増幅部101を備える。レーザ光増幅部101は、レーザ光生成部20で生成されたレーザ光を種光として、これを増幅するアンプとして機能する。このレーザ増幅器100は、レーザ光生成部20で生成されたレーザ光を、レーザ光増幅部101で増幅して出力し、増幅されたレーザ発振光は、レーザ光走査部10を介して走査され、加工対象物であるワークWKに照射される。
レーザ光生成部20は、既にレーザ光として発振された種光を生成させるための部材であり、マスタ発振器等とも呼ばれる。このようなレーザ光生成部20でレーザ光を発生させる光源としては、半導体レーザが利用できる。また半導体レーザを複数個組み合わせたアレイ状とすることもできる。このようなレーザー光生成部20には、Nd:YVO4結晶で共振器を構成してもよいし、レーザー媒質にNd:YAGを使うことも可能である。また、1064nmの波長を有する半導体レーザーを種光にしてもよい。
励起光供給部22は、レーザ結晶を端面から励起する励起光を発生させて、レーザ光の光路である第一光路OP1上に供給するための部材である。例えば、半導体レーザを単数又は複数組み合わせたシングルエミッタやマルチエミッタなどが利用できる。励起光供給部22は、励起光光学結合系24により、レーザ光増幅部101と光学的に結合される。図3の例では、励起光結合光学系として励起光集光レンズを用いて、励起光を第一光路OP1に導入する。
一方で励起光は、常時第一光路OP1にあるのでなく、途中で第一光路OP1から出て、励起光の経路である第二光路OP2に移る。さらに第二光路OP2から第一光路OP1に返される。このためレーザ発振部5は、励起光を第一光路OP1から第二光路OP2に分岐させる励起光分岐機構30と、第二光路OP2から第一光路OP1に合流させる励起光合流機構32とを備えている。励起光分岐機構30は、第一光路OP1に沿ってレーザ結晶同士の間に配置され、上流側のレーザ結晶を透過した励起光を、第一光路OP1から分岐させるための機構である。一方、励起光合流機構32は、励起光分岐機構30により分岐された励起光を、レーザ光の出射される方向に対して下流側のレーザ結晶の手前で第一光路OP1に合流させて、この下流側のレーザ結晶の端面から透過させるための機構である。このようにして、レーザ媒質50を複数に分割して、さらに励起光を各レーザ結晶を順次透過させるようにしてこれを再利用することにより、各レーザ結晶における励起光とのモードマッチングを高めつつ、全体としての効率を高めることが可能となる(詳細は後述)。
(レーザ光増幅部101)
以下、各部材を詳細に説明する。レーザ光増幅部101は、レーザ光生成部20により生成されたレーザ光を、このレーザ光が伝搬される経路である第一光路OP1上に配置されたレーザ媒質50に透過させることにより、レーザ光を増幅するための部材である。このレーザ光増幅部101は、レーザ光の光路である第一光路OP1と、励起光分岐機構30と励起光合流機構32の間に設けられた、励起光を透過させる第二光路OP2を構成している。このように、励起光を第一光路OP1から分岐させるために、第一光路OP1とは別に励起光を通過させるための第二光路OP2を設けている。第二光路OP2は、励起光分岐機構30と励起光合流機構32の間に形成される。このようにして、上流側のレーザ結晶を透過させた励起光を、下流側のレーザ結晶の端面に供給する光路を、第一光路OP1とは別に設けることで、光の性質が異なるレーザ光と励起光を、それぞれに応じた適切な設計とした経路にて送出できる。
(レーザ光反射光学系)
励起光分岐機構30と励起光合流機構32を実現するため、第一光路OP1上には、レーザ光を反射させ、レーザ光を反射させる一方、励起光を透過させるためのレーザ光反射光学系が配置される。一方、第二光路OP2上には、レーザ光反射光学系を透過した励起光を反射させるための励起光反射光学系34が配置される。このように、レーザ光用と励起光用とで、異なる反射光学系を配置することで、それぞれの光学系を構成する光学部材を、光の波長や特性に特化させた反射や透過のための光学パラメータに設計できる。特にレーザ光と励起光では、要求される光の品質が異なる。特に励起光はレーザ光やその種光と比べ、波長や位相が揃っていないなど、品質が悪く、その結果綺麗に光束を絞ることができない。このような相対的に品質の低い励起光に対しては、レーザ光で用いられる非球面レンズのような高品位な光学系を用いる必要がない。よって励起光反射光学系34には、レーザ光反射光学系と比べて低品位な光学部材で足り、例えば平凸レンズ等の比較的安価な光学部材を用いることができる。これによって光学部材のコストを低減することが可能となる。
(レーザ媒質50)
レーザ光反射光学系で構成される第一光路OP1上には、レーザ媒質50が配置され、レーザ媒質50に種光を透過させることでレーザ光を発振させる。あるいは既に発振されたレーザ光を、レーザ媒質50を透過させて増幅する。レーザ媒質50は、複数のレーザ結晶で構成される。図3の例では、レーザ媒質50は、第一レーザ結晶51と、第二レーザ結晶52と、第三レーザ結晶53で構成される(詳細は後述)。各レーザ結晶は、一方向に延長された形状とされている。この延長された一方向に亘って、レーザ光と励起光がモードマッチングする結晶長に設計されている。ここで、一方向に亘ってレーザ光と励起光がモードマッチングするとは、完全なモードマッチングを取ることが必ずしも困難であることに鑑み、ほぼ全体でモードマッチングが取れる設計とすることで足りる。
(ダイクロイックミラー)
レーザ光反射光学系としては、レーザ光が伝搬される経路である第一光路OP1を規定する複数のダイクロイックミラーが利用できる。ダイクロイックミラーは、励起光集光レンズから導入された励起光を通過させ、かつレーザ光生成部20で生成されたレーザ光を反射させる部材である。図3の例では、第一ダイクロイックミラー41と、第二ダイクロイックミラー42と、第三ダイクロイックミラー43と、第四ダイクロイックミラー44と、第五ダイクロイックミラー45と、第六ダイクロイックミラー46の6つのダイクロイックミラーを用意している。また各ダイクロイックミラーは、第一光路OP1上に配置されると共に、角度調整を可能としている。ダイクロイックミラーは、例えばハーフミラーで構成できる。
第一ダイクロイックミラー41と第二ダイクロイックミラー42は、第一レーザ結晶51を挟むように、第一レーザ結晶51の両側端面に対向するようにそれぞれ配置される。第一ダイクロイックミラー41は、第一レーザ結晶51の入射面側に配置され、レーザ光生成部20で生成されたレーザ光を反射させて第一レーザ結晶51に照射する。また第一ダイクロイックミラー41は、励起光供給部22からの励起光を透過させて、第一レーザ結晶51の入射面に照射させる。また第二ダイクロイックミラー42は、第一レーザ結晶51の出射面側で、レーザ光を反射させて第三ダイクロイックミラー43に進行させると共に、第一レーザ結晶51を透過した励起光を透過させて、第一励起光反射ミラー61(後述)に進行させる。
同様に第三ダイクロイックミラー43と第四ダイクロイックミラー44は、第二レーザ結晶52の両側端面に対向するように配置される。第三ダイクロイックミラー43は、第二レーザ結晶52の入射面側に配置され、第二ダイクロイックミラー42で反射されたレーザ光をさらに反射させて第二レーザ結晶52の入射端面に照射する。同時に第二ダイクロイックミラー42は、第二励起光反射ミラー62(後述)で反射された励起光を透過させて、第二レーザ結晶52の入射端面に照射させる。また第四ダイクロイックミラー44は、第二レーザ結晶52の出射面側で、レーザ光を反射させて第五ダイクロイックミラー45に進行させると共に、第二レーザ結晶52を透過した励起光を透過させて、第三励起光反射ミラー63(後述)に進行させる。
さらに第五ダイクロイックミラー45と第六ダイクロイックミラー46は、第三レーザ結晶53の両側端面に対向するように配置される。第五ダイクロイックミラー45は、第三レーザ結晶53の入射端面側に配置され、第四ダイクロイックミラー44で反射されたレーザ光をさらに反射させて第三レーザ結晶53の入射端面に照射する。同時に第五ダイクロイックミラー45は、第四励起光反射ミラー64(後述)で反射された励起光を透過させて、第三レーザ結晶53の入射端面に照射させる。また第六ダイクロイックミラー46は、第三レーザ結晶53の出射面側で、レーザ光を反射させてレーザ光走査部10に進行させると共に、第三レーザ結晶53を透過した励起光を透過させ、例えば所定の吸収体に吸収させる。
なお第一光路OP1は、レーザ光のみならず励起光を通過させる経路を兼ねている。このように、第一光路OP1を、レーザ光と励起光を通過させる経路としつつ、励起光のみを通過させる経路を別途、第二光路OP2として設けることで、前段のレーザ結晶を透過した励起光を次段のレーザ結晶に投入する際のモードマッチングを取りやすい状態に調整できる。例えば、第二光路OP2に励起光調整光学系26を設けて、前段のレーザ結晶を透過した励起光を、次段のレーザ結晶に投入するのに適した光学特性に調整できる。本明細書においては、励起光を通過させる第二光路OP2の一部が、レーザ光を通過させる第一光路OP1を構成している(レーザ光がレーザ光反射光学系に入射される前と出射された後を除く)。
(励起光反射光学系34)
励起光は、第一光路OP1から分岐されて、励起光反射光学系34でもって第二光路OP2に沿って進行される。励起光反射光学系34としては、第二光路OP2に沿うように励起光を反射させる励起光反射ミラーが挙げられる。また励起光を案内する光学系としては、励起光反射光学系34の他、励起光供給部22からの励起光を受ける励起光光学結合系24と、励起光分岐機構30と、励起光合流機構32と、励起光調整光学系26が挙げられる。なお励起光光学結合系24には、上述の通り励起光集光レンズ等が好適に利用できる。
(励起光反射ミラー)
励起光反射光学系34を構成する励起光反射ミラーは、励起光を効率よく全反射させるように設計されたミラーである。図3の例では、励起光反射ミラーとして、第一励起光反射ミラー61、第二励起光反射ミラー62、第三励起光反射ミラー63、第四励起光反射ミラー64を、第二光路OP2に沿って設けている。第一励起光反射ミラー61は、第一ダイクロイックミラー41を透過した励起光を反射させて、第二励起光反射ミラー62に進行させるための部材である。第二励起光反射ミラー62は、第一励起光反射ミラー61からの励起光を反射させて、第三ダイクロイックミラー43に進行させるための部材である。第三励起光反射ミラー63は、第四ダイクロイックミラー44を透過した励起光を反射させて、第四励起光反射ミラー64に進行させるための部材である。第四励起光反射ミラー64は、第三励起光反射ミラー63からの励起光を反射させて、第五ダイクロイックミラー45に進行させるための部材である。
第二光路OP2に配置された励起光反射光学系34は、励起光反射ミラーを用いて、励起光の進行方向を少なくとも二回以上変更する。これにより、レーザ加工装置内で効率良く励起光を分岐し、スポット径を調整できる。図3の例では、四枚の第一励起光反射ミラー61から第四励起光反射ミラー64を用いて、4回励起光を反射させている。なお、励起光の反射回数や励起光反射ミラーの数は、これに限定せず、2枚以下、あるいは5枚以上とすることもできる。
(励起光分岐機構30)
励起光分岐機構30は、第一光路OP1上に配置されたレーザ結晶同士の間に配置され、上流側のレーザ結晶を透過した励起光を、第一光路OP1から分岐させるための部材である。ここでは、上述した第二ダイクロイックミラー42を、励起光分岐機構30として機能させている。図3の第二ダイクロイックミラー42は、第一レーザ結晶51を透過した励起光を透過させると共に、レーザ光を反射させて第三ダイクロイックミラー43に進行させる。この第二ダイクロイックミラー42は、励起光分岐機構30を構成すると共に、レーザ光反射光学系としても機能する。
(励起光合流機構32)
励起光合流機構32は、励起光分岐機構30により分岐された励起光を、レーザ光の出射される方向に対して下流側のレーザ結晶の手前で第一光路OP1に合流させて、この下流側のレーザ結晶の端面から透過させるための部材である。図3の例では、第三ダイクロイックミラー43が励起光合流機構32にあたり、第二励起光反射ミラー62で反射された励起光を透過させて第二レーザ結晶52の入射端面に照射させると共に、第二ダイクロイックミラー42で反射されたレーザ光をさらに反射させて、第二レーザ結晶52の入射端面に照射させている。この第二ダイクロイックミラー42は、励起光合流機構32を構成すると共に、レーザ光反射光学系としても機能する。
同様に図3の例では、第四ダイクロイックミラー44が励起光分岐機構30に、また第五ダイクロイックミラー45が励起光合流機構32にあたる。さらに、これら第三ダイクロイックミラー43、第四ダイクロイックミラー44、第五ダイクロイックミラー45、第六ダイクロイックミラー46が、レーザ光反射光学系を構成することが上述の通りである。このように、第一ダイクロイックミラー41〜第六ダイクロイックミラー46は、レーザ光反射光学系を構成しつつ、一部が励起光分岐機構30や励起光合流機構32としても機能する。このように、レーザ光反射光学系の一部が、励起光分岐機構30として機能し、また他の一部が励起光合流機構32として機能する。
(励起光調整光学系26)
励起光調整光学系26は、第二光路OP2上に設けられ、下流側のレーザ結晶の端面の大きさに基づいて励起光のスポット径を調整するための部材である。これにより、一般にレーザ光よりも品質の劣る励起光用に安価な励起光調整光学系26を用意して、低コスト化を図ることができる。
図3の例では、励起光調整光学系26として、第一励起光反射ミラー61と第二励起光反射ミラー62との間に、第一励起光調整レンズ71を配置している。第一励起光調整レンズ71でもって、第一レーザ結晶51を透過した励起光のスポット径を、第二レーザ結晶52に導入するのに適したスポット径に調整する。さらに集光角も調整して、第二レーザ結晶52でモードマッチングが成立するように調整される。
また第三励起光反射ミラー63と第四励起光反射ミラー64との間には、第二励起光調整レンズ72を配置し、第二レーザ結晶52を透過した励起光を、第三レーザ結晶53に導入するのに適したスポット径や集光角に調整する。このようにして、一度レーザ結晶を透過した励起光を再び、他のレーザ結晶に導入するに際してモードマッチングを図ることが可能となる。また、このようなスポット径や集光角といった励起光の特性の調整は、第一光路OP1から分岐された第二光路OP2にて行うことにより、レーザ光の送出に影響を与えることなく励起光を整えた上で、次段のレーザ結晶に供給できる。
(レーザ媒質50)
レーザ媒質50はロッド状の一方の端面からレーザ励起光を入力して励起され、他方の端面からレーザ光LBを出射する、いわゆるエンドポンピングによる励起方式を採用している。
レーザ媒質50は、第一光路OP1に沿って離間して配置された複数のレーザ結晶を備える。レーザ光生成部20により生成されたレーザ光を、この複数のレーザ結晶に順に透過させることにより、レーザ光を増幅するよう構成されている。複数のレーザ結晶は、第一光路OP1に沿って互いに離間して配置されている。図3の例では、レーザ光の出射方向において上流側に配置された第一レーザ結晶51と、第一レーザ結晶51の下流側に配置された第二レーザ結晶52と、第二レーザ結晶52の下流側に配置された第三レーザ結晶53を備える。なお、レーザ媒質50を構成する複数のレーザ結晶の数は、3個に限られず、2個としたり、4個以上とすることもできる。
複数のレーザ結晶の各々は、一方向に延長された形状としている。この一方向に亘ってレーザ光と励起光がモードマッチングする結晶長に設計されている。このようにすることで、モードマッチングするように結晶長を従来よりも短くしたレーザ結晶としつつ、このような短めのレーザ結晶を複数、第一光路OP1上に配置することで、短くした結果、一のレーザ結晶では吸収しきれなかった励起光の成分を、下流側のレーザ結晶で再利用すなわちリサイクルすることによって活用し、これにより全体としての効率を高めることが可能となる。ここで、一方向に亘ってレーザ光と励起光がモードマッチングするとは、完全なモードマッチングを取ることが必ずしも困難であることに鑑み、ほぼ全体でモードマッチングが取れる設計とすることで足りる。
(レーザ結晶)
この例では、レーザ結晶としてロッド状のNd:YVO4の固体レーザ媒質50を用いた。また固体レーザ媒質50の励起用半導体レーザの波長は、このNd:YVO4の吸収スペクトルの中心波長である809nmに設定した。ただ、この例に限られず他の固体レーザ媒質50として、例えばドーパント(不純物)として希土類をドープしたYAG、YLF、GdVO4、LiSrF、LiCaF、NAB、KNP、LNP、NYAB、NPP、GGG等も用いることもできる。希土類にはNd、Er、Tm、Cr、Yb等が好適に利用できる。また、固体レーザ媒質50に波長変換素子を組み合わせて、出力されるレーザ光LBの波長を任意の波長に変換できる。なおNd:YAG、Nd:YLF、Nd:YVO4、Nd:GdVO4は4準位レーザである。
(リサイクル励起)
以上のレーザ発振部5では、レーザ媒質50を複数のレーザ結晶、ここでは第一レーザ結晶51、第二レーザ結晶52、第三レーザ結晶53で構成すると共に、これら複数のレーザ結晶を、第一光路OP1に沿って離間して配置している。特に、上流側のレーザ結晶の端面から出射されたレーザ光が、下流側のレーザ結晶の端面から入射されるように、複数段のレーザ結晶を直列状に配置している。このような配置により、レーザ光生成部20により生成されたレーザ光が、複数のレーザ結晶に順に透過されて増幅される。この際、励起光については、前段の第一レーザ結晶51を透過した励起光を、次段の第二レーザ結晶52にも導入する、リサイクル励起を実現している。リサイクル励起では、第一レーザ結晶51を透過した励起光が、次段の第二レーザ結晶52に導入される前に、一旦第一光路OP1とは別の第二光路OP2に分岐して、スポット径等の特性を調整した上で、次段の第二レーザ結晶52に導入する。このようにすることで、各レーザ結晶における励起光とのモードマッチングを高めつつ、全体としての効率を高めることが可能となる。
ここで、リサイクル励起の背景について説明する。まず、Nd:YVO4等のレーザ媒質を用いる固体レーザの性能を決める要因を検討すると、1.励起光の吸収効率;2.モードマッチング;3.ゲイン;4.熱レンズ効果の4つが挙げられる。
(1.励起光の吸収効率)
ここで、1.励起光の吸収効率とは、投入した励起光の何%がNd:YVO4に吸収されるかを示す指標である。吸収効率を高めるには、レーザ結晶へのNdのドープ量を高めたり、レーザ結晶の結晶長を長くすることが考えられる。しかしながら、レーザ結晶にドープされるドーパントの濃度を高めると、4.の熱レンズ効果が大きくなり、レーザ光が折曲される。また、レーザ結晶の結晶長を長くすると、2.のモードマッチングを取ることが困難となる。
(2.モードマッチング)
また2.モードマッチングは、励起光とレーザ光のモード結合であり、モードマッチングの度合いを示す指標として、モード結合効率(オーバーラップ効率)が知られている。モードマッチングが取れていないと、効率が悪くなる。例えば上述の通りレーザ結晶の結晶長を長くするとモードマッチングが取れないため、無駄が生じる。この様子を、図4の模式断面図に示す。図4においては、ロッド状のレーザ結晶50Xの端面から、ダイクロイックミラー40Aを介してレーザ励起光を入力して励起するエンドポンピング(端面励起)による励起方式を採用している。ここで、レーザ結晶の端面から投入される励起光は、その性質上レーザ光のようには収束せず、レーザ光の透過領域と完全に重ならない結果、励起光の100%がレーザ結晶に吸収されてレーザ励起に利用されずに、一部がレーザ結晶50Xを透過する(図4において斜線で示す領域)。このように励起光の内、レーザ結晶50Xを透過した成分は無駄となる。また、このような励起光の吸収領域とレーザ光の通過領域のモードマッチングの不整合(ミスマッチ)は、効率低下の原因となる。このように、1.励起光の吸収効率と2.モードマッチングとはトレードオフの関係にある。
(3.ゲイン)
一方、3.ゲインは利得を示す。一般に励起光のスポット径を小さくすることでゲインが向上し、効率は上がる。このゲインはポンピングレートに比例し、ポンピングレートは励起密度に比例する。いいかえると、励起光を集光した方が、ゲインを高めることができる。
(4.熱レンズ効果)
さらに4.熱レンズ効果とは、図5の断面図に示すように、レーザ光を照射することによりレーザ結晶50Xが局所的に温度上昇して、屈折率分布が生じる現象である。熱レンズ効果の抑制は、レーザの安定動作には不可欠である。例えばレーザの品質を図る指標の一として、M2(エムスクウェア)が知られている。M2は理想的なガウスモードのレーザからのずれ量の比であり、同じウエストサイズを持つ理論的なビームの広がりθに対する実際の広がりの比を示しており、理想値は1である。熱レンズ効果が顕著になると、M2も悪化する。
ここで、Ndドープ量を増して濃度を高めると、上述の通り1.の吸収効率は向上する。しかしながら、同時に熱レンズ効果によるM2の悪化が顕著に現れる。レーザを安定動作させるためには熱レンズ効果の抑制が重要である。ここで、熱レンズ効果を抑制する方法として、以下の2つの方法が知られている。まず、励起光をレーザ光のビーム径より少し大きくする方法がある(特許文献3参照)。これによって2.のモード結合効率を多少犠牲にしてでも、4.の熱レンズ効果を抑制した方が結果として効果がある点に立脚している。
また別の方法として、レーザ結晶にドープされるNdのドープ量を下げる方法がある(特許文献4参照)。これによって励起光の吸収の集中を抑制できる。この結果、2.のモード結合効率の悪化、1.の励起光の吸収効率の低下が生じるが、これを踏まえても熱錬効果の抑制の効果がある。
あるいは、図6に示すように、レーザ結晶50Xを透過した励起光をミラーで折り返し、再び同じレーザ結晶50Xに戻す方法が知られている。この方法の欠点として、光源20X側にレーザ光が戻ってしまうため、光ファイバが焼けてしまったり、光源である半導体レーザを傷める虞があることが挙げられる。また、レーザ結晶の往復で励起光の吸収を100%に近づけるには、Nd濃度を上げて調整するか、長いレーザ結晶を使う必要が生じる。この結果、モード結合効率を落とすか、励起スポットを大きくし、レーザ光のビーム径を大きく設計することになるが、この結果としてゲインが下がり、発振効率も下がるという問題は解消できなかった。
(リサイクル励起の基本的な考え方)
このように、固体レーザに特有の課題として、レーザの性能を左右する要因は相互に関連しており、またトレードオフの関係にあるため、これらを両立させることができず、結局のところいずれかを犠牲にせざるを得ない状況であった。
これに対して、本実施の形態では、励起光をリサイクルするリサイクル励起を採用している。このリサイクル励起の基本原理を、図7A及び図7Bに基づいて説明する。まずレーザ結晶50Xの結晶長を従来の長さ(図7A)よりも短くする(図7B)。これによって、図7Aにおいて斜線で示した、励起光の内、レーザ光の非通過領域を、図7Bに示す第一レーザ結晶51において無くす、又は大きく低減することができる。この結果、モード結合効率を100%に近づけることが可能となる。
また、Nd等のドーパントのドープ量を低濃度化する。このようにNd濃度を低減させることで、熱レンズによるM2の悪化を抑制できる。また、励起光のスポット径も小さくできる。このようにドープ量を抑え、かつ結晶長を短くしたことで、励起スポットも細くでき、この結果ゲインを高めることができる。
一方で、上記の構成によれば第一レーザ結晶51に与えられた励起光の内、多くの成分がこの第一レーザ結晶51を透過してしまう。そこで、図3に示すように、第一レーザ結晶51を透過した励起光の光路上に、第二レーザ結晶52を配置することで、吸収されなかった励起光を、このレーザ結晶での励起に利用する、いわば励起光を再利用(励起光のリサイクル)することで、全体としての効率を高めている。特に第一レーザ結晶51及び第二レーザ結晶52では、透過光は次段のレーザ結晶で利用することから、吸収効率を100%に近付けることができる。
また、必要に応じて第二レーザ結晶52の後段に、さらに第三レーザ結晶53を配置して、第二レーザ結晶52で吸収されなかった励起光をレーザ励起に利用できる。この第三レーザ結晶53を複数のレーザ結晶の最終段とした場合、励起光の透過光はあるものの、この時点で励起光は大きく減衰しているため、Ndのドープ量を高めても熱レンズ効果の発生は少なく、吸収を高めることができる。
以上のような構成により、レーザ媒質50を複数に分割して、さらに励起光を各レーザ結晶を順次透過させるようにしてこれを再利用することにより、各レーザ結晶における励起光とのモードマッチングを高めつつ、全体としての効率を高めることが可能となる。
(ドープ量)
図3の例では、各レーザ結晶の断面積及び結晶長を同じとして、ドープ量を異ならせている。すなわち、複数のレーザ結晶の内、レーザ光の出射される方向に対して最も上流側に配置された第一レーザ結晶51にドープされるドーパントの濃度を、レーザ光の出射される方向に対して最も下流側に配置された第二レーザ結晶52にドープされるドーパントの濃度以下としている。このようにしたことで、第一レーザ結晶51のドープ量を相対的に低くして、モードマッチングを高めることに注力でき、吸収されなかった励起光は次段のレーザ結晶で吸収させることにより、全体として励起光を効率よく吸収させることができる。
より具体的には、第一レーザ結晶51のドーパントの濃度を0.2%以下とすることが好ましい。ドーパントの濃度を低くすることで熱レンズ効果を低減し、またレーザ結晶のモードマッチングを確保することができる。また、各レーザ結晶におけるドーパントの濃度は、後段の方が高くなるように設計することが好ましい。例えば、第三レーザ結晶53のドープ量を、ドーパントの濃度が0.5%以上となるように設計する。
また複数のレーザ結晶のうち少なくとも一つは、一方向の長さを15mm以下の結晶長としている。好ましくは、すべてのレーザ結晶の結晶長を、15mm以下とする。例えば、レーザ結晶が三段ある場合は、第一レーザ結晶51において励起光の50%以上を透過させるように設定する。また、複数のレーザ結晶の全体での励起光の吸収量が95%以上となるように設計することが好ましい。
また、レーザ結晶の単位長さあたり(例えば1mm当たり)の吸収量が、できるだけ均等になるように結晶長、ドーパントの濃度を設計することが好ましい。これによって熱レンズ効果を分散させることができる。例えば、複数のレーザ結晶のうち少なくとも一つで、一方向1mm当たりの励起光吸収量を10W/mm以下としている。このようにしたことで、励起光の局所吸収を防ぎ、吸収効率を向上させることができる。
一方で、各レーザ結晶の入射面に入射されるレーザ光のビーム径を、1mm以下とすることが好ましい。より好適には、500μm前後に設定する。ビーム径を細くすることで高効率で短パルス幅のレーザ加工を実現しつつ、ビーム径が細くなると熱レンズ効果が顕著となるところ、成就したリサイクル励起によってこれを抑制できる。
また、励起光のスポット径とレーザ光のビーム径の比率を、
(励起光のスポット径)/(レーザ光のビーム径)<1.1
とすること好ましい。これにより、励起光のモードマッチングを十分に維持できる。なお励起光のスポット径が小さい場合は効率は低下しないものの、上述の通り熱レンズ効果が悪化する。よって、励起光のスポット径をある程度の大きさとしつつも、励起光のスポット径とレーザ光のビーム径の比率差を10%以下とすることで、熱レンズ効果を抑制しつつ、モードマッチングを維持できる。
また、レーザ結晶の後段ほど、入射面におけるレーザ光のビーム径を細くすることが好ましい。レーザ結晶が後段に進むほど、励起光が減衰するため熱レンズ効果が抑制されるので、これに応じてビーム径を細くすることが可能となる。
加えて、入射面におけるレーザ光のビーム径に応じて、各レーザ結晶の結晶長を調整してもよい。ビーム径が細いほど、モードマッチング距離は短くなるからである。例えば、第一レーザ結晶51を12mm、第二レーザ結晶52を10mm、第三レーザ結晶53を8mmとする。これにより、さらにモードマッチングを高めて高効率なレーザ加工を実現できる。なお、レーザ結晶の結晶長を短くすると吸収率が低下するが、励起光をリサイクルする回数、すなわちレーザ結晶の段数を増やすことで、効率を維持できる。ただ、レーザ結晶の段数を増やすことで構成が複雑化することから、レーザ結晶の結晶長は7mm以上とし、レーザ結晶の段数を4段以下とすることが、コストの面からは好ましい。
なお、上述した図3の例では、レーザ媒質50を第一レーザ結晶51、第二レーザ結晶52、第三レーザ結晶53の3段で構成しているが、本発明はこの構成に限られず、レーザ媒質50を第一レーザ結晶51、第二レーザ結晶52の2段としても効果が得られる。一例として、レーザ媒質50Hを第一レーザ結晶51H、第二レーザ結晶52Hの2段でリサイクル励起を構成したレーザ加工装置の例を、図8に示す。この図に示すレーザ光増幅部は、レーザ光生成部20Hと、第一レーザ結晶51Hと、第二レーザ結晶52Hと、励起光光学結合系24Hと、励起光調整光学系26Hと、励起光反射光学系34Hと、ビームエキスパンダ6Hとを備える。この構成においても、図3等と同様に、レーザ光生成部20Hで生成されたレーザ光を、第一光路OP1H上に配置されたレーザ光反射光学系である第一ダイクロイックミラー41H、第二ダイクロイックミラー42H、第三ダイクロイックミラー43H、第四ダイクロイックミラー44Hで反射させながら第一レーザ結晶51H、第二レーザ結晶52Hで増幅させ、ビームエキスパンダ6Hを介してレーザ光のスポット径を調整した後出力する。その一方で、励起光供給部22Hから供給される励起光を、第三折り返しミラー92H及び励起光光学結合系24Hを介して第二ダイクロイックミラー42Hを透過させ、第一レーザ結晶51Hの端面に供給する。そして第一レーザ結晶51Hを透過した励起光を、第一ダイクロイックミラー41Hを透過させて、第二光路OP2H上に配置された励起光調整光学系26Hである第一励起光調整レンズ71H、励起光反射光学系34Hである第一励起光反射ミラー61Hと第二励起光反射ミラー62H、第二励起光調整レンズ72Hを経て、第四ダイクロイックミラー44Hを透過させて第二レーザ結晶52Hの端面に照射させることで、励起光を再利用するリサイクル励起を実現している。なお、図8の例では第三折り返しミラー92Hを励起光光学結合系24Hと区別しているが、第三折り返しミラーを励起光光学結合系24Hに含めてもよい。
以上の図8の例では、レーザ結晶を2段に分割した例を示したが、本発明はこの構成に限られず、4段以上に分割することも可能である。
また図8の例では、レーザ光生成部20Hとして、光源80Hと、光源結合光学系と、マスタ側ダイクロイックミラー84Hと、マスタ側レーザ結晶85Hと、リアミラー86Hと、Qスイッチ87Hと、折り返しミラー88Hと、出力ミラー89Hを備えている。光源80Hから得られた種光は、光源結合光学系を介してマスタ側ダイクロイックミラー84Hに入射され、リアミラー86Hとの間で繰り返し反射されてマスタ側レーザ結晶85Hを透過させることでレーザ発振される。レーザ発振光は、マスタ側ダイクロイックミラー84Hを介してQスイッチ87Hに与えられ、さらに折り返しミラー88Hと、出力ミラー89Hを介してレーザ光生成部20Hから出力され、第一ダイクロイックミラー41Hに与えられる。
光源結合光学系は、光源80Hからの光を、マスタ側レーザ結晶85Hの端面に与えるようスポット径を調整するための部材である。この光源結合光学系は、第一平凸レンズ81Hと、ビームスプリッタ83Hと、第二平凸レンズ82Hで構成される。一方で、光源80Hからの光を、マスタ側レーザ結晶85Hの種光とすることに加えて、レーザ光増幅部のレーザ媒質に与える励起光としても利用するために、第一平凸レンズ81Hを経た光を、ビームスプリッタ83Hで分岐させて、第二折り返しミラー91H及び第三折り返しミラー92Hを介して、励起光光学結合系24Hに与えている。このように光源80Hは、マスタ発振器用の種光用、及び励起光用の光源を兼用している。
なお、上述した図3の例では、レーザ光を進行させる第一光路OP1と、励起光と進行させる第二光路OP2の方向を一致させていた。すなわち、第一レーザ結晶51の図3において下側の端面から、レーザ光生成部からのレーザ光を投入し、上側の端面から出射させて、一方で次段の第二レーザ結晶52については、上側の端面から第一レーザ結晶51を透過したレーザ光を投入し、下側の端面から出射させている。同様に励起光についても、第一レーザ結晶51の下側の端面から投入して上側の端面から透過させており、さらに第二レーザ結晶52においては上側の端面から、第一レーザ結晶51を透過した励起光を投入して、第二レーザ結晶52の下側の端面から透過させている。
ただ本発明はこのような構成に限らず、図8で示したように、レーザ光を進行させる第一光路OP1と、励起光と進行させる第二光路OP2の方向を異ならせてもよい。具体的には、各レーザ結晶に対して、励起光を投入する端面とレーザ光を投入する端面を同じ端面とする構成に限らず、異なる端面とすることもできる。このような構成を採用することで、レーザ結晶の一方の端面に熱が集中することを避け、熱レンズ効果を低減できる等の利点が得られる。
さらに上述した図3等の例では、下流側のレーザ結晶の端面の大きさに基づいて励起光のスポット径を調整するための励起光調整光学系26を、励起光反射光学系34同士の間に配置した例を説明したが、本発明はこの構成に限られない。すなわち励起光調整光学系は、第二光路に配置で励起光のスポット径を調整できる任意の位置に配置すれば足りる。例えば図8の例では、励起光調整光学系26Hを、第一ダイクロイックミラー41Hと第一励起光反射ミラー61Hとの間に配置された、第一励起光調整レンズ71Hと、第二励起光反射ミラー62Hと第四ダイクロイックミラー44Hとの間に配置された、第二励起光調整レンズ72Hで構成している。この構成によれば、第二レーザ結晶52Hのより近傍で端面の大きさに応じたスポット径に励起光を調整し易くでき、安価な平凸レンズ等が利用できる。
以上の例では、レーザ光増幅部を構成する2段の増幅器(アンプ)すなわちレーザ結晶でリサイクル励起を行っており、一方マスタ発振器であるレーザ光生成部20側ではリサイクル励起を行っていないが、本発明はこの構成に限らず、マスタ発振部とレーザ光増幅部に跨がってリサイクル励起を行わせることもできる。このような例を図9に示す。この例では、マスタ発振器であるレーザ光生成部20Iに設けたマスタ側レーザ結晶85Iと、レーザ結晶50Iを構成する2段のアンプ、すなわち第一レーザ結晶51Iと第二レーザ結晶52Iに跨がってリサイクル励起を行わせている。具体的には、このレーザ光増幅部は、レーザ光生成部20Iと、第一レーザ結晶51Iと、第二レーザ結晶52Iと、励起光光学結合系24Iと、励起光調整光学系26Iと、励起光反射光学系34Iと、ビームエキスパンダ6Iとを備える。この構成においても、図8等と同様に、レーザ光生成部20Iで生成されたレーザ光を、第一光路OP1I上に配置されたレーザ光反射光学系である第一ダイクロイックミラー41I、第二ダイクロイックミラー42I、第三ダイクロイックミラー43I、第四ダイクロイックミラー44Iで反射させながら第一レーザ結晶51I、第二レーザ結晶52Iで増幅させ、ビームエキスパンダ6Iを介してレーザ光のスポット径を調整した後出力する。その一方で、励起光供給部22Iから供給される励起光を、励起光光学結合系24Iを介して第二ダイクロイックミラー42Iを透過させ、第一レーザ結晶51Iの端面に供給する。そして第一レーザ結晶51Iを透過した励起光を、第一ダイクロイックミラー41Iを透過させて、第二光路OP2I上に配置された励起光調整光学系26Iである第一励起光調整レンズ71I、励起光反射光学系34Iである第一励起光反射ミラー61Iと第二励起光反射ミラー62I、第二励起光調整レンズ72Iを経て、第四ダイクロイックミラー44Iを透過させて第二レーザ結晶52Iの端面に照射させることで、励起光を再利用するリサイクル励起を実現している。
その一方で、マスタ発振器であるレーザ光生成部20I側のマスタ側レーザ結晶85Iに対してリサイクル励起を行っている。すなわち、図9のレーザ光生成部20Iは、光源80Iと、光源結合光学系である第一平凸レンズ81I及び第二平凸レンズ82Iと、第一マスタ側ダイクロイックミラー84Iと、マスタ側レーザ結晶85Iと、第二マスタ側ダイクロイックミラー90Iと、リアミラー86Iと、第三平凸レンズと、第二折り返しミラー91Iと、Qスイッチ87Iと、折り返しミラー88Iと、出力ミラー89Iを備えている。
光源80Iから得られた種光は、光源結合光学系である第一平凸レンズ81I及び第二平凸レンズ82Iを介して第一マスタ側ダイクロイックミラー84Iに入射され、第二マスタ側ダイクロイックミラー90Iを介してリアミラー86Iとの間で繰り返し反射されてマスタ側レーザ結晶85Iを透過させることでレーザ発振される。レーザ発振光は、第一マスタ側ダイクロイックミラー84Iを介してQスイッチ87Iに与えられ、さらに折り返しミラー88Iと、出力ミラー89Iを介してレーザ光生成部20Iから出力され、第一ダイクロイックミラー41Iに与えられることは図8と同様である。一方で、マスタ側レーザ結晶85Iを励起するために端面から照射された励起光の内、マスタ側レーザ結晶85Iを透過した成分については、第二マスタ側ダイクロイックミラー90Iを透過されて、第三平凸レンズ93I、第二折り返しミラー91I、励起光光学結合系24Iを介して第二ダイクロイックミラー42Iを透過されて、第一レーザ結晶51Iの端面に与えられる。このようにして、マスタ発振部のマスタ側レーザ結晶85Iの励起光を、レーザ光増幅部(アンプ)側のレーザ結晶の励起光として再利用することができ、効率をさらに高められる。このように本発明においては、レーザ光のリサイクルをレーザ光増幅部側に限定せず、マスタ側や、マスタ側とアンプ側に跨がったリサイクルにも適用することができる。なお、図9の例では第三平凸レンズ93Iと第二折り返しミラー91Iを、励起光光学結合系24Iと区別しているが、第三平凸レンズと第二折り返しミラーを、励起光光学結合系24Iに含めてもよい。
(レーザ光増幅部101)
以下、各部材を詳細に説明する。レーザ光増幅部101は、レーザ光生成部20により生成されたレーザ光を、このレーザ光が伝搬される経路である第一光路OP1上に配置されたレーザ媒質50に透過させることにより、レーザ光を増幅するための部材である。このレーザ光増幅部101は、レーザ光の光路である第一光路OP1と、励起光分岐機構30と励起光合流機構32の間に設けられた、励起光を透過させる第二光路OP2を構成している。このように、励起光を第一光路OP1から分岐させるために、第一光路OP1とは別に励起光を通過させるための第二光路OP2を設けている。第二光路OP2は、励起光分岐機構30と励起光合流機構32の間に形成される。このようにして、上流側のレーザ結晶を透過させた励起光を、下流側のレーザ結晶の端面に供給する光路を、第一光路OP1とは別に設けることで、光の性質が異なるレーザ光と励起光を、それぞれに応じた適切な設計とした経路にて送出できる。
[実施形態2:レーザ共振器200]
以上の実施形態1では、レーザ発振部5をレーザ光増幅部で構成したレーザ増幅器100を説明した。ただ本発明はレーザ発振部をレーザ光増幅部で構成する例に限らず、レーザ共振器で構成する例に適用することもできる。次に実施形態2に係るレーザ加工装置として、レーザ共振器200で構成したレーザ発振部5を図10に示す。この図に示すレーザ共振器200は、第一光路OP1B上に配置された共振器光学系と、複数のレーザ結晶に分割されたレーザ媒質50Bと、励起光供給部22Bと、励起光光学結合系24Bと、励起光分岐機構30Bと、励起光合流機構32Bと、励起光反射光学系34Bと、励起光調整光学系26Bを備える。励起光分岐機構30Bと励起光合流機構32Bは、第一ダイクロイックミラー41Bと、第二ダイクロイックミラー42Bと、第三ダイクロイックミラー43Bと、第四ダイクロイックミラー44Bと、第五ダイクロイックミラー45Bと、第六ダイクロイックミラー46Bで構成される。また励起光反射光学系34Bは、第一励起光反射ミラー61B、第二励起光反射ミラー62B、第三励起光反射ミラー63B、第四励起光反射ミラー64Bで構成される。
一方、共振器光学系は、全反射ミラー47と、出力ミラー48と、その間に配置されたレーザ媒質50Bとでレーザ光共振部201を構成している。必要に応じて、第一光路OP1B上にQスイッチを付加することもできる。レーザ光共振部201では、レーザ媒質50B(第一レーザ結晶51B、第二レーザ結晶52B、第三レーザ結晶53B)で発光した自然放出光のうち、共振器方向に沿って進む光の一部が種光となってレーザー発振が開始される。また、レーザ媒質50Bを第一レーザ結晶51B、第二レーザ結晶52B、第三レーザ結晶53Bの3つに分割して、前段のレーザ結晶を透過した励起光を、励起光分岐機構30Bで一旦第一光路OP1Bから第二光路OP2Bに分岐させ、励起光調整光学系26Bで整えた後、励起光合流機構32Bで第一光路OP1Bに合流させて後段のレーザ結晶に投入するリサイクル励起を行っている。このようにしてレーザ共振器200における励起光の効率を高めて、出力ミラー48から出射させることができる。
[実施形態3:主発振器出力増幅器300]
さらに、レーザ共振器とレーザ発振器を組み合わせたMOPAに、本発明を適用することもできる。このような例を実施形態3として、レーザ発振部5をMOPAで構成したレーザ加工装置を図11に示す。この図に示すMOPAは、第一レーザ結晶51Cでレーザ光共振部201Cを、第二レーザ結晶52Cと第三レーザ結晶53Cでレーザ光増幅部101Cを、それぞれ構成している。そして第一レーザ結晶51C、第二レーザ結晶52C、第三レーザ結晶53Cでリサイクル励起を行っている。
具体的には、このMOPAはレーザ光反射光学系を構成する励起光分岐機構30C及び励起光合流機構32Cと、レーザ媒質50Cと、励起光反射光学系34Cと、励起光供給部22Cと、励起光光学結合系24Cと、励起光反射光学系34Cと、励起光調整光学系26Cを備える。具体的には、レーザ光反射光学系は、第一ダイクロイックミラー41Cと、第二ダイクロイックミラー42Cと、第三ダイクロイックミラー43Cと、第四ダイクロイックミラー44Cと、第五ダイクロイックミラー45Cと、第六ダイクロイックミラー46Cで構成される。また励起光反射光学系34Cは、第一励起光反射ミラー61C、第二励起光反射ミラー62C、第三励起光反射ミラー63C、第四励起光反射ミラー64Cで構成される。さらにレーザ媒質50Cは、第一レーザ結晶51C、第二レーザ結晶52C、第三レーザ結晶53Cの3つに分割されている。
レーザ光共振部201Cは、第一光路OP1C上に配置された全反射ミラー47Cと、出力ミラー48Cと、その間に配置されたレーザ光反射光学系である第一ダイクロイックミラー41Cと、第二ダイクロイックミラー42Cと、さらにその間に配置された第一レーザ結晶51Cとで構成される。レーザ光共振部201Cをマスタ発振器としてレーザ発振されたレーザ光は、さらにアンプとなるレーザ光増幅部101Cに与えられて増幅される。加えて、第一レーザ結晶51Cを透過した励起光は、第二ダイクロイックミラー42Cと、第一励起光反射ミラー61Cと、励起光調整光学系26Cと、第二励起光反射ミラー62Cを経て、レーザ光増幅部101Cに与えられる。
レーザ光増幅部101Cは、第三ダイクロイックミラー43Cと、第四ダイクロイックミラー44Cと、第五ダイクロイックミラー45Cと、第六ダイクロイックミラー46Cと、第二レーザ結晶52Cと、第三レーザ結晶53Cとで構成される。ここで、第二レーザ結晶52Cと第三レーザ結晶53Cに与えられる励起光は、レーザ光共振部201Cに与えられて第一レーザ結晶51Cで吸収されずに透過したものであり、これをレーザ光増幅部101Cにおいても再利用することで、リサイクル励起を行っている。具体的には、第二励起光反射ミラー62Cで反射されてレーザ光増幅部101Cに与えられた励起光は、第三ダイクロイックミラー43Cを経て第二レーザ結晶52Cの入射面に照射され、第二レーザ結晶52Cを励起させる。さらに第二レーザ結晶52Cを透過した励起光は、第四ダイクロイックミラー44Cを透過し、第三励起光反射ミラー63Cで反射され、励起光調整光学系26Cで調整され、第四励起光反射ミラー64Cで反射され、第五ダイクロイックミラー45Cを透過して第三レーザ結晶53Cの入射面に照射され、第三レーザ結晶53Cを励起する。このようにして、レーザ結晶を透過した励起光は次段のレーザ結晶の励起に再利用されて、効率良く励起を行うことが可能となる。
なお、上述の例では、種光を発生させる機構をレーザ出力部のレーザ発振機構内に設けた構成を示したが、本発明はこの構成に限られず、例えばレーザ制御部1側に種光の発生機構を設けてもよい。例えば、図3に示すレーザ光増幅部101の例では、レーザ光生成部20をレーザ増幅機構に設けているが、レーザ制御部1側にレーザ光生成部20を設けてもよい。同様に図10に示すレーザ光共振部の例では、種光源をレーザ共振機構に設けているが、レーザ制御部1側に種光源を設けてもよい。
(結晶長とモードマッチングの関係)
ここで、レーザ結晶の結晶長とモードマッチングの関係について、図12のグラフに基づいて説明する。図12は、レーザ結晶の結晶長(z[mm])におけるビーム径方向(x又はy[mm])の励起光とレーザ光のパターンを、レーザ結晶の中心(円筒状の中心軸をx又はyの0とし、長手方向の中心をzの0と置く。)に対して軌跡を描いたグラフである。このレーザ光は、TEM00モード(計算上はM2=1.1)とし、また励起光は、マルチモード(ファイバコアφ=400μm;開口数NA=0.2)としている。さらにレーザ結晶としてロッド状のNd:YVO4結晶を用いた。この励起光は中心波長が880nm、出力光が1064nmである。
この場合に、レーザ光のビーム径が500μmのとき、結晶長が10mmまでであれば、励起光とのモードマッチングが可能となる。すなわち、図12においてz=±5mmの範囲であれば、励起光とレーザ光のビーム径の比率が1.01以下(1%以下)となり、モードマッチングが取れる。これよりも結晶長が長くなると、図12において斜線で示すように励起光がレーザ結晶に吸収されてもレーザ発振(増幅)に寄与しない成分となって、ミスマッチが増えることとなる。よって、この条件においては、最終段を除く各レーザ結晶(レーザ結晶の数をnとする場合、第一レーザ結晶51〜第(n−1)レーザ結晶。図3の例では第一レーザ結晶51と第二レーザ結晶52)の結晶長は、10mm以下とすることが好ましいといえる。
一般的な傾向として、レーザ光のビーム径が大きいほどモードマッチング距離は大きくできるが、ゲインが下がり効率を上げ難くなる。また、励起光の輝度を上げれば、モードマッチング距離は長くできる。しかし、輝度の高い励起光源は、それ自体が効率を犠牲にしており、価格も高くなる。すなわち励起光源も含めた効率は改善せず、コスト高になる。そこで、上述の通り一の要因を考慮すれば他の要因を犠牲にするようなトレードオフの関係にある固体レーザの課題において、レーザ結晶の結晶長を短くして、ドープ量を抑えると共に、透過光をリサイクルして励起することで、全体の効率を高めつつ、ゲインの低下を回避し、励起光の価格も抑えたレーザ加工装置を実現できる。
(結晶長とドープ量、吸収の関係)
次に、レーザ結晶の結晶長とドープされるNd濃度、吸収の関係について、図13〜図32に基づいて説明する。
(比較例1)
これらの図において、まず図13〜図15は、比較例1に係るレーザ結晶の、結晶1mmごとの吸収量計算を、c軸(図13)、a軸(図14)、これらの合計(図15)について、それぞれ示したグラフである。各グラフは、横軸にレーザ結晶中の位置として、左端面から励起するものとし、この端面からの所定距離[1mm]毎に、1mm厚のレーザ結晶片による励起光の吸収量[W]を示している。
比較例1では、レーザ結晶としてNd:YVO4を1個、そのNd濃度を0.27%、結晶長を10mmとして、その端面から励起光を照射させて励起させた。また励起光は、60W(P、S成分がそれぞれ30W)、波長878.6nmのものを使用した。また吸収係数は、c軸6.95[1/cm]、a軸3.85[1/cm]とした。図15に示すように、励起光の60Wのうち、入射面側から最初の1mmまでの部分で、8Wが吸収される。また、最初の3mmで計21Wが吸収されることが判る。総吸収量は、c軸84.7%、a軸64.7%、全体で74.7%であった。いいかえると、図16に示すように、励起光の内、(100%−74.7%=)25.3%が、レーザ結晶50X1を透過して無駄になっていることが判る。
(比較例2)
次に比較例2として、レーザ結晶50X2に比較例1と同じくNd:YVO4を1個、そのNd濃度を0.27%としたものを用いつつ、結晶長のみを15mmに変更して、比較例1と同様の励起光を照射した場合の、結晶1mmごとの吸収量計算を、c軸(図17)、a軸(図18)、及びこれらの合計(図19)について、それぞれ示す。ここでの総吸収量は、図20に示すようにc軸94.0%、a軸79.0%、全体86.5%であった。よって、励起光の13.5%が、レーザ結晶50X2を透過することが判る。このように、結晶長を長くした分だけ、吸収量は増える。しかしながら、モードマッチングは悪化する。
(比較例3)
さらに比較例3として、レーザ結晶50X3に比較例1と同じくNd:YVO4を1個、結晶長を10mmとしたものを用いつつ、Nd濃度を0.6%に増やして、比較例1と同様の励起光を照射した場合の、結晶1mmごとの吸収量計算を、c軸(図21)、a軸(図22)、これらの合計(図23)について、それぞれ示す。図23に示すように、励起光の60Wの内、レーザ結晶50X3の最初の1mmで16.4Wが吸収される。また最初の3mmで計36.4Wが吸収される(全体の約61%)。またここでの総吸収量は、c軸98.5%、a軸90.1%、全体94.3%となり、図24に示すように、励起光の内、5.7%がレーザ結晶50X3を透過する。このように、レーザ結晶のNd濃度を上げれば吸収は増える。しかしながら、この場合は熱レンズが悪化する。すなわちレーザ結晶の端面に吸収が集中して大きな熱レンズ効果が生じ、ひどい場合にはレーザ結晶の破壊が生じる。
(比較例4)
上述した通り、Nd濃度が0.27%でも、レーザ結晶の端面から1mmで8Wの吸収があり、熱レンズ効果は依然として大きい。これをさらに抑えるためにはNd濃度を下げる必要があるものの、この場合は吸収も下がる。そこで、レーザ結晶の結晶長を長くすることが考えられる。そこで比較例4として、レーザ結晶50X4に比較例1と同じくNd:YVO4を1個、ただしNd濃度を0.15%に減らしつつ、結晶長を20mmに増やして、比較例1と同様の励起光を照射した場合の、結晶1mmごとの吸収量計算を、c軸(図25)、a軸(図26)、これらの合計(図27)について、それぞれ示す。図27に示すように、励起光の60Wの内、レーザ結晶50X4の最初の1mmに吸収されるのは4.6Wで、3mmでも計12.8Wと低く抑えられており、大幅な熱レンズ効果の低減が期待できる。しかしながら、総吸収量については、c軸87.6%、a軸68.5%、全体78.0%となって、図28に示すように励起光の22.0%がレーザ結晶50X4を透過することとなって、吸収効率は悪化する。また、レーザ結晶の結晶長を長くしたことで、モードマッチングはさらに悪化する。このように熱レンズ効果の低減を最優先して設計すると、モードマッチングは大幅に悪化し、吸収効率も悪くなる。
(実施例1)
そこで、実施例1として、レーザ媒質50としてレーザ結晶を3つ、第一レーザ結晶51、第二レーザ結晶52、第三レーザ結晶53を用いて、各Nd濃度を、0.1%、0.2%、0.7%に抑え、さらに結晶長をすべて10mmとしたレーザ増幅器において、比較例1と同様の励起光を照射した場合の、結晶1mmごとの吸収量計算を、c軸(図29)、a軸(図30)、これらの合計(図31)について、それぞれ示す。図31に示すように、励起光の60Wの内、各レーザ結晶の最初の1mmに吸収されるのはすべて4W以下に抑えられていることが判る。また、図32に示すように、第一レーザ結晶51で励起光の41.0%が吸収され、59.0%が透過しているものの、続く第二レーザ結晶52で励起光の37.0%が吸収され、22.0%が透過され、最後に第三レーザ結晶53では20.9%吸収が吸収されて、1.1%のみが透過される。この結果、総吸収量は、c軸99.9%、a軸97.9%で、全体で98.9%となり、レーザ結晶を透過されるのは僅か1.1%のみに抑制できる。また、各レーザ結晶でほぼ完全なモードマッチングが可能となる。さらに、1mm当たりの吸収は4W以下で、熱レンズ効果の大幅低減が可能となる。このように実施例1によれば、比較例の構成に比較して、熱レンズ効果の抑制、吸収効率、モードマッチングのすべてにおいて優れた結果が得られることが確認された。
図33Aに、実施例1に係るレーザ増幅器100を、図33Bに各レーザ結晶でのビーム径を、それぞれ示す。図33Aでは、上述した図3と同様にレーザ媒質50を三段のレーザ結晶に分割した構成を採用している。
これらの図に示すように、レーザ光は第一ダイクロイックミラー41で反射されて第一レーザ結晶51の入射端面に照射される。一方、励起光が励起光集光レンズ及び第一ダイクロイックミラー41を介して、第一レーザ結晶51の入射端面に照射される。励起光集光レンズは、焦点距離Fを30mmとした。第一レーザ結晶51においては、結晶長を短くして、励起光のモードマッチングを取る。実施例1では、第一レーザ結晶51の外形を、端面を正方形とする直方体状とし、端面を3mm×3mm、結晶長を10mmとした。またNdのドープ量を抑えることで、低濃度で熱レンズ効果を低減している。この例ではNd濃度を0.1%とした。さらにレーザ光のビーム径も細く設計する。この例では図33Bに示すように、第一レーザ結晶51の入射面におけるレーザ光のビーム径を550μmとした。このビーム径に合わせて、モードマッチングを取ることができる。ここでは、第一レーザ結晶51の入射面における励起光のスポット径を532μmとしている。また、第一レーザ結晶51の出射面におけるレーザ光のビーム径は526μm、励起光のスポット径は526μmである。
このようにして第一レーザ結晶51でモードマッチングを取った後、レーザ光は第二ダイクロイックミラー42で反射させて第一光路OP1に沿って第三ダイクロイックミラー43に向かわせる。その一方で第一レーザ結晶51を透過される励起光は、第二ダイクロイックミラー42を透過して、一旦第一光路OP1から出され、第二光路OP2に移る。さらに第二光路OP2上に配置された第一励起光調整レンズ71でもって、スポット径や集光角と行った特性を調整した上で、第三ダイクロイックミラー43を透過して再び第一光路OP1に戻し、第二レーザ結晶52を励起する。
第二レーザ結晶52においても、第一レーザ結晶51と同様、結晶長を短くしてモードマッチングを達成し、さらにドープ量を抑えて熱レンズ効果を低減し、加えてレーザ光のビーム径も細くする。第二レーザ結晶52の外形は、第一レーザ結晶51と同様、端面を3mm×3mm、結晶長を10mmとした。またNd濃度を0.2%としている。さらに第二レーザ結晶52の入射面におけるレーザ光のビーム径を、図33Bに示すように500μmとした。また、第二レーザ結晶52の入射面における励起光のスポット径は484μm、第二レーザ結晶52の出射面におけるレーザ光のビーム径は480μm、励起光のスポット径は484μmである。
さらに第三レーザ結晶53を透過した励起光は、第四ダイクロイックミラー44を透過して一旦、第一光路OP1外に出される。そして、第二光路OP2上で、第二励起光調整レンズ72で再度、スポット径や集光角等の特性を調整された後、第五ダイクロイックミラー45を透過させて第一光路OP1に戻され、第三レーザ結晶53を励起する。ここで第三レーザ結晶53の入射面におけるレーザ光のスポット径は、図33Bに示すように450μmとなっている。また、第三レーザ結晶53の入射面における励起光のスポット径は440μm、第三レーザ結晶53の出射面におけるレーザ光のビーム径は434μm、励起光のスポット径は438μmである。
ここでは励起光は、大部分が二つのレーザ結晶で励起に費やされており、既に減衰して小さくなっているため、この段階でドープ量を上げても、熱レンズ効果は悪化しない。そこで第三レーザ結晶53においては、外形を第一レーザ結晶51等を同じとしつつ、ドープ量を0.7%に上げている。そして、最終の第三レーザ結晶53を透過する励起光は、第六ダイクロイックミラー46を透過した後、破棄される。
このように、各レーザ結晶のドープ量は、初段のレーザ結晶から次段のレーザ結晶の増加分よりも、最終段の前段のレーザ結晶から最終段のレーザ結晶への増加分を、大きくする。図33Aの例では、第一レーザ結晶51から第二レーザ結晶52の増加分(0.1%→0.2%)よりも、第二レーザ結晶52から第三レーザ結晶53への増加分(0.2%→0.7%)を、大きくしている。励起光が投入された当初は、ドープ量を抑制することで熱レンズ効果が低減される。一方、励起光を順次レーザ結晶に透過させることで、励起光は徐々に減衰され、最終段ではドープ量を大きくしても熱レンズ効果が大きくならず、吸収効率を高めることができる。図33Aの実施例1では最終段のレーザ結晶である第三レーザ結晶53に到達する励起光は、全体の1/3となっているため、この段階ではNd濃度をある程度高めても熱レンズ効果の悪化は生じない。加えて、レーザ媒質50を複数のレーザ結晶に分割し、分割された各レーザ結晶の長さを短くすることで、各レーザ結晶におけるモードマッチングを取り易くできる。
以上の実施例1では、レーザ光のビーム径が収束する例を説明した。ただ本発明は、レーザ光のビーム径が平行な場合や拡大する場合にも適用可能であり、各々のレーザ光のビーム径に応じて、励起光のスポット径を調整してモードマッチングを図ることができる。
このようにリサイクル励起において励起光は、モードマッチングが成立するように、まず第一ダイクロイックミラー41を通過して、第一レーザ結晶51を励起する。第一レーザ結晶51を透過した励起光は、第二ダイクロイックミラー42を通過して第一光路OP1の外に出る。第一光路OP1外から出た励起光は第二光路OP2上で、第一励起光調整レンズ71でもって、ビーム径や集光角が調整される。これによって、次段の第二レーザ結晶52でモードマッチングが成立するように励起光の特性が調整される。そして第三ダイクロイックミラー43を通過して第一光路OP1に戻り、第二レーザ結晶52を励起する。第二レーザ結晶52を透過した励起光は、同様にして第三レーザ結晶53に伝達される。
(励起光の吸収に関する基本原理)
ここで、励起光がレーザ結晶に吸収に関する基本原理を、図34に基づいて説明する。この図において、レーザ結晶50Yに入射される励起光のパワーをP1、レーザ結晶50Yを透過する励起光のパワーをP2とすると、次式が成立する。
P2=P1・exp(−α・d・L)
上式において、αはドーパント(例えばNd)の濃度が1%のときの吸収係数、dはドーパント濃度、Lは結晶長を示す。ここで、レーザ結晶50YとしてNd:YVO4を用いる場合、偏光依存性が存在するため、垂直偏光と水平偏光とで異なる吸収となる。すなわち吸収係数が変化する。図35に示すように、レーザ結晶50Yの端面において垂直方向における励起光の透過光パワーをP2_v、水平方向における励起光の透過光パワーをP2_hとすると、それぞれは次式で表現される。
P2_v=P1_v・exp(−α_v・d・L)
P2_h=P1_h・exp(−α_h・d・L)
以上はレーザ媒質を一本のレーザ結晶で構成した場合である。以下では、図36に示すようにレーザ媒質をN段のレーザ結晶に分割したリサイクル励起システムを考える。この図において、1〜N番目のレーザ結晶の、i番目のレーザ結晶をCi、そのNd濃度をdi、その結晶長をLiとし、また入射される励起光パワーをPi-1、透過される励起光パワーをPiとする。ここで、i番目のレーザ結晶Ciに入射される励起パワーPi-1が、透過後にPiに変化する状態を計算すると、上述の通りレーザ結晶にNd:YVO4を用いる場合は偏光依存性が存在することから、次式のようになる。
Pi=Pi_v+Pi_h
P(i-1)=P(i-1)_v+P(i-1)_h
Pi_v=P(i-1)_v・exp(−α_v・di・Li)
Pi_h=P(i-1)_h・exp(−α_h・di・Li)
なお、λ=878.6nmのとき、α_v=6.95[1/cm]、α_h=3.85[1/cm]となり、vはレーザ結晶のc軸、hはa軸となる。ここで、各レーザ結晶Ciにおける吸収率Aiは、次式で表すことができる。
Ai=(Pi−P(i-1))/P0
よってすべてのレーザ結晶の吸収率の合計Aは、次式で表すことができる。
A=Σ(i=1〜N)Ai=(P0−PN)/P0
また、レーザ結晶の長さ方向1mm当たりの吸収量である断片吸収量rを、以下のように定義する。図37の模式図に示すように、レーザ結晶Ciの入射端面よりkmmの位置から、1mmの長さの区間に吸収される量をrik[W/mm]とする。この場合においても、偏光依存が存在するため、rik=rik_v+rik_hである。よって、次式のように表現できる。
rik_v=P(i-1)_v{exp(−α_v・di(k+1))−exp(−α_v・dik)}
rik_h=P(i-1)_h{exp(−α_h・di(k+1))−exp(−α_h・dik)}
ここで、熱レンズ効果を分散させるためには、各レーザ結晶での吸収率Aが等しい状態とすることが理想といえる。よって、A1=A2=A3=...=ANが理想であるものの、現実的には設計の困難さ等に鑑みて、吸収率Aの最大値をmax(A1,A2,...,AN)、最小値をmin(A1,A2,...,AN)とおくとき、
max(A1,A2,...,AN)<3・min(A1,A2,...,AN)
とすることが好ましい。例えば、上述した実施例に係る3段のレーザ結晶で構成する場合は、A1=41.0%、A2=37.0%、A3=20.9%となり、上式を満たす。また、理想状態として全体の吸収量Aが100%に近い状態が、励起光をリサイクルできている状態となり、さらに吸収率を均等に分散できているとすれば、A1=A2=A3=AN=100/Nとなる。現実的には、全体の吸収量A>80%であれば、実用的ということができる。
また、部分的な励起光の吸収によって熱レンズ効果が発生される。各レーザ結晶において断片吸収量rは、結晶への入射面で最大となることから、システム全体における最大断片吸収量Rは、次式で表現できる。
R=max(r10、r20、r30、...、rN0)
励起光のスポット径が500μmの状態では、R=20であればレーザ結晶が破損する等の問題を生じる。そこで実用的には、R<7[W/mm]であることが好ましい。
以上を纏めると、リサイクル励起に好ましい条件としては、
・吸収率の合計であるAを100%に近付ける。好ましくはA≧80[%]とする。
・各レーザ結晶の吸収率A1,A2,...,ANを100/N[%]に近付けて均等な分散を図る。好ましくは、max(A1,A2,...,AN)<3・min(A1,A2,...,AN)とする。
・断片吸収量rの、すべてのレーザ結晶における最大値Rを小さくする。好ましくはR<7[W/mm]とする。
・各レーザ結晶での励起光を調整してモードマッチングを満たすようにする。例えばモードマッチングを満たすように各レーザ結晶の結晶長Liを決定する。好ましくは、Li≦15mmとする。
(実施例2)
例えば、図38に示すレーザ結晶を第一レーザ結晶51B、第二レーザ結晶52B、第三レーザ結晶53Bの3段とする実施例2において、A>98.0%以上とし、A1=A2=A3<35%となるように設計する。ここでは、レーザ結晶長をL1=L2=L3=10mmとしている。また励起パワーを60Wとしている。この場合の、結晶中の各位置(左側端面から励起する場合の、端面からの距離[mm])における各断片(1mm厚)の吸収量[W]を、図39のグラフに示す。この構成では、3断面のレーザ結晶を透過した光をリサイクルできないため、吸収効率を重視すると3段目のNd濃度を高くせざるを得ず、結果として3段目の入射時の断片吸収量r30が大きくなっている。図39に示すように、第三レーザ結晶53に入射する時点における断片吸収量r30が最大となり、R=5W/mmとなる。
(実施例3)
次に、図40に示すレーザ結晶を第一レーザ結晶51C、第二レーザ結晶52C、第三レーザ結晶53Cの3段とする実施例3について説明する。ここでは、全体の吸収量A>98.0%以上とし、Rをできるだけ小さくするように設計している。またレーザ結晶長は、上記と同じくL1=L2=L3=10mmとしている。また励起パワーを60Wとしている。この場合の、結晶中の各位置における各断片の吸収量を、図41のグラフに示す。この図に示すように、全体の吸収率を維持したまま3段目のレーザ結晶における断片吸収量r30を下げるためには、3段目の吸収率を下げる必要がある。このため、初段のレーザ結晶における断片吸収量r10が最大となり、R=3.3W/mmとなる。この構成であれば、最大吸収率を低下させつつも、第三レーザ結晶53を透過する励起光の比率を低下させ、効率のよいレーザ出力が実現される。
(計算式の根拠)
以上の通りリサイクル励起においては、基本的には励起光を複数のレーザ結晶に分散することが望ましい。例えば、各レーザ結晶Ciにおける吸収率をAiとしたとき、A1=A2=・・・・=ANとなるように均等に分散することが考えられる。例えばレーザ媒質を第一レーザ結晶C1、第二レーザ結晶C2、第三レーザ結晶C3の3個で構成する場合を考える。全体吸収率をA=99%程度としたとき、A1=A2=A3=33%となる。また、各レーザ結晶の結晶長をL1=L2=L3=10mmとし、励起光を60Wとする。この場合において、3個のレーザ結晶51D、52D、53DのNd濃度を、図42に示すようにそれぞれ0.075%、0.135%、0.8%とすれば、ほぼ条件を満たせる。
ただし、図43のレーザ結晶中の各位置における各断片の吸収量を示すグラフに示すように、3段目のレーザ結晶における断片吸収量r30は6.52W/mmとなって、1段目のレーザ結晶における2.38W/mmと比べて差が大きい。この理由の一は、3段目のレーザ結晶では、最早後段のレーザ結晶がなく、これ以上は励起光をリサイクルできないため、Nd濃度を高めに設計せざるを得ないことが挙げられる。
その一方で、1段目と2段目のレーザ結晶を比較した場合、1段目のレーザ結晶=2.38W/mm、2段目のレーザ結晶=2.73W/mmであり、2段目のレーザ結晶の断片吸収率が高いことが判る。1段目と2段目のレーザ結晶で吸収率が同じであるにも拘わらず、2段目のレーザ結晶の断片吸収量r20が大きい理由は、2段目のNd濃度が1段目よりも高いからである。断片吸収量rは、入射する励起パワーPとNd濃度が決まれば、レーザ結晶の入射端面からの距離に応じて自動的に計算される。このとき、Nd濃度の高い方が、断片吸収量rの変化が激しいことが計算式からも理解できる。図42の例では、1段目のレーザ結晶では断面吸収量が2.38W/mmから1.61W/mmに変化し、2段目のレーザ結晶では2.73W/mmから1.40W/mmに変化する。各レーザ結晶の吸収率を同じに設計すれば、断片吸収量rの変化が大きい方が、必然的に入射側の値は大きくなり、出射側は小さくなる。これが2段目のレーザ結晶が1段目のレーザ結晶よりも断片吸収量rが高い理由である。
前述したように、励起光は分散させることが望ましいが、これは各レーザ結晶に分散することだけでなく、全レーザ結晶の全断片へ分散することを意味する。断片吸収量rは、同一のレーザ結晶内では入射側で最大となり、出射側で最小となるところ、各レーザ結晶での入射側の値ができるだけ一致するように設計することが考えられる。
以上の例では、各レーザ結晶の長さがほぼ等しい場合について説明した。ただ本発明はこの構成に限られず、レーザ結晶の長さを後段に向かうほど短くすることもできる。後段に向かうほどレーザ光のビーム径が細くなるような場合は、後段ほどモードマッチング距離が短くなるので、これに応じてレーザ結晶を短く設計する。このような場合は、必然的に後段のレーザ結晶ほど吸収量が減る。ここで、各吸収率A1、A2、…、ANの関係性として、max(A1,A2,…,AN)<3・min(A1,A2,…,AN)が好ましい。現実には、各レーザ結晶の吸収率よりも断片吸収量rの方が重要であり、理想的には各レーザ結晶の入射側断片吸収量ri0が極力均等になるのが望ましい。これに鑑みて、3個のレーザ結晶51E、52E、53Eでリサイクル励起システムを構成した例を図44の模式断面図に、またこの構成においてレーザ結晶中の各位置における各断片の吸収量を図45のグラフに、それぞれ示す。この図に示すように、各レーザ結晶における入射側の断片吸収量rは、
r10=3.45W/mm
r20=3.42W/mm
r30=3.51W/mm
となり、ほぼ均等である。また前述したように、後段に向かうほどNd濃度が高いため、断片吸収量の変化が大きくなっている。
ここで、本実施例の優位性を説明するために、極端な例として10個のレーザ結晶でリサイクル励起を行うこと考える。ここでは、すべてのレーザ結晶は結晶長を3mmに設計しており、励起光は60Wとする。各レーザ結晶のNd濃度や入射励起光、透過励起光のパワー、吸収等を図46の表に示す。この表において、初段のレーザ結晶への入力を100として、各レーザ結晶における吸収は吸収率(%)を意味すると考えてよい。ここで、図46のように10個のレーザ結晶のNd濃度を設定した場合、吸収率合計は98.1%となる。
このときの断片吸収量rは、図47のようになり、全体にわたって相当均等化されていることが理解できる。実際に、断片吸収量rの最大は2.28W/mmとなり、図44の例(3段リサイクル)と比較して小さい。ここでは、励起光は60Wで、各レーザ結晶長の総和は3mm×10=30mmであるから、仮にすべての断片吸収量rが等しくできたとすれば、60W/30mm=2W/mmとなる。上述した図44の例における2.28W/mmは、かなり理想に近い状態と言える。
ただし現実には、10個のレーザ結晶でリサイクル励起を実施する構成とすると、部品点数の増加によるコストの増加とスペースの増加といった大型化に起因するデメリットがあるため、必ずしも現実的ではない。よって、レーザ結晶の入射面の段数は適切な値に設定する必要がある。ここで適切な段数とは、励起光出力に依存する。出力が低ければNd濃度を上げても熱レンズは発生し難いため、リサイクル励起の必要性がない。しかし出力が上がり熱レンズが無視できなくなるとリサイクル励起の必要性が生じる。このような議論に鑑みて、断片吸収量rを幾らとすべきかについて、以下検討する。
(比較例5)
ここで比較例5として、レーザ結晶が1個の場合を考える。ここではNd濃度0.5%、結晶長10mm、励起光を60Wとする。このとき吸収率は91.2%であるが、断片吸収量rは最大で14W/mmを越える。ここで、レーザ結晶の左側の端面から励起光が入射されるとして、左側端面からの各位置における各断片(1mm厚)の吸収量(W)を図48のグラフに示す。この構成では、大きな熱レンズ効果のためにレーザ発振が難しく、レーザ結晶にクラックが入る場合もある。
(比較例6)
断片吸収量rを低減するために、Nd濃度を下げて0.25%とする。この場合のレーザ結晶の左側端面からの各位置における各断片の吸収量を、図49のグラフに示す。この図に示すように、断片吸収量rは最大でも7.54Wまで低減するものの、吸収率が72.1%となって低下する。この構成では依然として熱レンズは大きいものの、動作自体は可能である。ただし、吸収率が低いために、結果として全体の効率も低くなる。
(比較例7)
Nd濃度を0.25%としたまま、結晶長を15mmまで伸ばした場合の、レーザ結晶の左側端面からの各位置における各断片の吸収量を、図50のグラフに示す。このように結晶長を伸ばすことで、吸収率は84.5%まで増えるものの、モードマッチングを犠牲にするため、吸収が増えたほどに効率は向上されない。また、この構成でも依然として熱レンズは大きいものの、動作自体は可能である。ただし、吸収が増えたことにより全体の効率は上がるものの、吸収の増分ほど効率は上がらない。
(比較例8)
次に図51に示すように、上述した比較例5〜7では透過させた励起光を、レーザ結晶50Zに元に戻す構成を検討する。また、レーザ結晶50Zの左側端面からの各位置における各断片の吸収量を、図52のグラフに示す。この場合は励起光源である半導体レーザLDへの戻り光が破損を引き起こす可能性があることから、全体の吸収量を100%に近付けなければならない。さらに、結晶長10mmでNd濃度0.27%の場合に計算したのが以下の例である。トータルの吸収率は92.6%で7.4%は半導体レーザLDに戻ってしまう。また断片吸収量rは8.1W/mmと高い。この場合はリサイクル励起のように2個のレーザ結晶で吸収させるのと似たような効果は得られるものの、Nd濃度を選択できない。
これに対してリサイクル励起の場合は、2段目のレーザ結晶のNdを高めることで、全体の吸収を上げることができる。また1段目のNdを下げることで、トータルの吸収は維持したまま、断片吸収量rの最大値を下げることが可能となる。
なお、半導体レーザへの戻り光を避けるためには、Nd濃度は0.27%のままで結晶長を15mmにすれば、トータルの吸収量は97.6%まで高めることはできる。しかしながら、依然として吸収されない2.4%は半導体レーザに戻り、また結晶長を伸ばしたことによりモードマッチングが犠牲になっているのは前述の通りである。
このように、2個のレーザ結晶で励起光をリサイクルする構成によれば、Nd濃度の最適化が可能となり、さらに半導体レーザに励起光が戻らないという利点が得られる。また、断片吸収量rの上限は、2個のレーザ結晶で構成されたリサイクル励起で得られる断片吸収量rであって、これを下回るように設計できておれば、十分にリサイクル励起の効果はあると言える。そこで、2個のリサイクル励起で断片吸収量rの最大値が最小になるような一例を、以下に計算する。
(実施例4)
ここでは、実施例4として図53に示すように2個のレーザ結晶51F、52Fを用いて、L1=L2=10mm、励起光60Wとする。また、レーザ結晶の左側端面からの各位置における各断片の吸収量を、図54のグラフに示す。この図に示すように、断片吸収量rの最大値は5.8W/mmとなる。以上より、60W励起において、断片吸収量rの最大値が5.8W以下になれば、リサイクル励起の効果は十分にあると考えられる。
断片吸収量rは励起パワーにも依存するので、励起光が分散されたことを示すためには、すべての断片に均等に分散された理想断片吸収量Ra=(励起パワー)/(総励起長)を使って表現できる。上記の例ではRa=60W/20mm=3W/mmであるから、5.8W/mmは2*Ra程度である。
また、モードマッチングを犠牲にしても断片吸収量rを分散化した方がレーザとしては優れた特性が得られる可能性があるため、図53の構成で結晶長を15mmにした場合について計算した結果を以下に示す。ここでは、図55に示すように、2段のレーザ結晶51G、52Gを結晶長L1=L2=15mmとし、励起光60Wとしている。またレーザ結晶の左側端面からの各位置における各断片の吸収量を、図56のグラフに示す。この結果、トータル吸収量は97.5%と高いが、モードマッチングを犠牲にしているため全体の効率は下がるものの、断片吸収量の最大値Rは4.06Wまで下がっている。この場合Ra=60W/30mm =2W/mmであるため、この場合もRは2*Ra程度である。
以上の2例は、2個のレーザ結晶において入射側の断片吸収量rがほぼ一致するようにNd濃度を決定したもので、ある意味、2個のリサイクル系において断片結晶を理想分散化したものである。上述した比較例8では、8.1W/mmであったものが、図53のリサイクル系では5.8W/mmまで低減している。この結果、効率向上と半導体レーザへの戻り光も防止しているのだから、5.8W/mm以上であってもリサイクル励起の効果はあると言える。よって、2個のレーザ結晶の断片吸収量rのバランスが多少崩れ、最大値が7W/mm程度であっても、十分に効果はあると言える。現実にNd濃度や半導体レーザ波長のばらつきによってこの程度の変化は起こり得るものである。
以上を考慮すると、断片吸収量の最大値R=7W/mmでも効果があると考えられ、この場合Ra=3W/mmであるから、R<2.33であれば意味のあるリサイクル励起であると言える。
以上から、リサイクル励起の効果が発揮される構成として、以下の計算式で表現することが可能である。
1.吸収率が高いこと
レーザ結晶iでの吸収率Aiの総和Aに対してA>85%である。
2.断片吸収量rが分散されていること
Ra=(励起パワー)/(総励起長)とするとき、断片吸収量の最大値R<7W/mmであること、またはR<2.4*Raであること。
(ビーム径)
次にレーザ光のビーム径について検討する。レーザ結晶としてNd:YAG、Nd:YLF、Nd:YVO4、Nd:GdVO4を用いる場合、4準位レーザとなる。ここで、非特許文献1によれば4準位レーザの小信号利得g0は、次式で表現される。
g0=σ21*n0*Wp*τf
上式においてσ21は誘導放出断面積であり、τfは蛍光寿命でレーザ結晶の特性によって決まる物理定数である。またn0は単位体積当たりの基底準位のNdの数であり、Wpはポンピングレートで単位体積・単位時間あたりの上準位に移行するNdの数である。
実際の利得gは、光の強度によって飽和する。小信号利得g0は光の強度が限りなく0に近い場合の利得である。実際の利得gは、小信号利得g0を用いて次式で表現できる。
g=g0/(1+I/Is)
上式においてIは光の強度(単位面積の密度)を意味し、利得gがg0の1/2になるときの強度IをIsで表現する。またIsは飽和定数と呼ばれる。4準位レーザにおいて、Isは以下のように表現できる。
Is=hν/(σ21*τf)
上式においてhはプランク定数、νはレーザ波長での振動数である。
次に、レーザ結晶の有効断面積(励起領域の断面積)をAとし、結晶長をLとすると、励起堆積はA*Lである。ここで、レーザ共振器の励起が均一に行われたと仮定して、利得の有効領域における不均一はないと仮定する。このときのレーザ発振器の出力Poutは、以下の式によって表現される。
Pout=(T/(T+S))*A*Is*g0*L−T*A*Is/2
上式において、Tは出力ミラーの透過率、Sはレーザ共振器内部損失で、ミラーやレーザ結晶表面での発熱による損失やレーザ共振器内部を光が往復する際のフレネル損失の総和を意味する。
ここで、励起断面積によってレーザ光の特性がどう変化するかを調べるために、Nd:YVO4を例にとり、出力Poutが出力ミラーの透過率によってどのように変化するかを計算する。ここでは比較のため、レーザ光のビーム径Φが0.5mm、1mm、1.5mmの3つの場合について計算する。またレーザ結晶にはNd:YVO4を用い、結晶長(有効励起長)は10mmとする。さらに上述の通り、励起領域において励起は均一に行われているものとする。Nd:YVO4の誘導放出断面積は15.6x10-19[1/cm2]であり、蛍光寿命は100μsecである。また励起パワーは20Wとし、すべてが励起領域に吸収されるとして、レーザ共振器内部損失S=5%とした。完全なモードマッチングが行われ、励起波長は880nm、発振波長は1064nmとして、ポンピングレートを計算した(量子効率は82.7%)。この結果を、出力ミラーの透過率とレーザ出力[W]のグラフとして図57に示す。
図57によれば、ビーム径Φが0.5mmの場合は、出力ミラーの透過率が70%のときに最大値をとり11.95Wとなるが、Φ=1.0mm、1.5mmの場合はそれぞれ30%、20%で最大値10.32W、8.84Wとなって出力が下がる。またエネルギー変換効率は、それぞれ60%、52%、44%となる。これは、ゲインが小さい場合にはレーザ共振器内を数多く往復しなければ出力があるレベルには達しないところ、往復する回数が多いほど、レーザ共振器内部損失の影響を受けるため、ゲインが小さいほど損失が増大して、結果として効率が下がるためと考えられる。
一方でゲインが大きい場合は、最適な出力ミラーの透過率が大きくなり、結果として出力ミラーの反射率Rが下がる。この様子を図58の模式図に示す。この図に示すように、同一の出力Pを得るレーザ共振器の構成においては、出力ミラー48Kの反射率Rが低い方がレーザ結晶50内部に蓄積されるエネルギーが小さくて済むため、出力ミラーの損傷や発熱等の影響を低減できる利点が得られる。
なお、上述したΦ=0.5mm、1mm、1.5mmの3つの場合における小信号利得g0の計算値は、Φ=0.5mmにおいて5.84[1/cm]、Φ=1mmにおいて1.46[1/cm]、Φ1.5mmにおいて0.65[1/cm]である。
次に、励起断面積の相違がレーザ増幅器(アンプ)に与える影響について考察する。ここでは上述したレーザ共振器と同様、Nd:YVO4に対してレーザ光のビーム径Φが0.5mm、1.0mm、1.5mmの3つの場合について考え、それぞれの励起長(レーザ結晶の有効長さ)を10mmとする。励起は20Wで均一に行われ、小信号利得g0は一定とする。上述の通り、利得gは光の強度によって飽和するため、次式で表現される。
g(z)=g0/(1+I(z))/Is…(1)
上式においてzはレーザ結晶の位置を表し、g(z)、I(z)はそれぞれ位置zにおける利得とレーザ光の強度である。利得gと光の強度Iは位置によって変化し、以下の微分方程式が成立する。
dI(z)/dz=g(z)*I(z)…(2)
これらの2式より、g(z)を消去すると、次式の微分方程式が得られる。
dI(z)/dz=Is*I(z)/(Is+I(z))*g0
この関係式をもとに、レーザ結晶内の位置[mm]とレーザ出力[W]の関係を、ビーム径(Φ=0.5mm、1mm、1.5mm)毎に数値的に計算した結果を、図59のグラフに示す。このレーザ増幅器には3Wのレーザが入射すると仮定し、レーザ増幅器内でどのように光が増幅されるかを計算している。この結果によればビーム径Φが0.5mmの場合はゲインが高いため、1回の通過により12.96Wまで増幅され、レーザ増幅器における光の取り出し効率は20Wの励起に対して9.96Wであるから効率50%に近い。一方、ビーム径Φが1mm、1.5mmの場合は光が十分に増幅されないため、レーザ光をレーザ増幅器内で何度も往復させなければ効率的なレーザ増幅器とならないことが判る(マルチパス増幅器)。この結果から、レーザ増幅器においてはレーザ光のビーム径を小さく設計した方が、ゲインが上がり、少ない通過回数で所要の出力が得られることが判明した。
(変形例)
以上の例では、レーザ結晶を透過した励起光を一旦レーザ光から分岐させるために、レーザ光側を反射させ、励起光側を透過させる構成としているが、本発明はこの構成に限られず、レーザ光側を透過させ、励起光側を反射させる構成とすることもできる。このような例を変形例として図60の模式図に示す。図60において、励起光分岐機構は、図3等とは逆に、レーザ光を透過させ、励起光を反射させる構成となる。図60の例では、励起光集光レンズから導入された励起光を反射させ、かつレーザ光生成部20’で生成されたレーザ光を透過させるダイクロイックミラーで構成される。具体的には、第一光路上OP1’上に配置された第一ダイクロイックミラー41’と、第二ダイクロイックミラー42’と、第三ダイクロイックミラー43’と、第四ダイクロイックミラー44’で構成される。
また、励起光光学結合系24’を介して導入される励起光の光路である第二光路OP2’上には、励起光分岐機構で反射された励起光を反射させるための励起光反射光学系34’が配置される。ここでは、励起光反射光学系34’を構成する励起光反射ミラーは、第一励起光反射ミラー61’、第二励起光反射ミラー62’で構成される。さらに、レーザ結晶の端面の大きさに基づいて励起光のスポット径を調整するための励起光調整光学系26’として、第二ダイクロイックミラー42’と第一励起光反射ミラー61’との間に配置された、第一励起光調整レンズ71’と、第二励起光反射ミラー62’と第三ダイクロイックミラー43’との間に配置された、第二励起光調整レンズ72’とを備える。このような構成においても、上流側の第一レーザ結晶51’を透過した励起光をレーザ光の第一光路OP1’から分岐させて、スポット径を調整した後、再び第一光路OP1’に合流させて、下流側の第二レーザ結晶52’の端面に与えることが可能となり、リサイクル励起が実現される。