本開示の一形態は、Ndを含む一種以上の希土類元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素Lと、Bと、Feとを含有する主相と、主相を形成する結晶の粒界に析出する粒界相とを備え、結晶がP42/mnmに属し、結晶の4fサイトを占有するB原子の一部が元素Lの原子と置換されてなり、主相と粒界相とにGdを含有する。
本開示は、主相を形成する結晶の所定のサイトを占有するB原子の一部が元素Lの原子で置換され、かつ主相と粒界相とにGdを含有することにより、室温だけでなく高温条件でも優れた残留磁束密度Brと保磁力Hcjとを発現する。本明細書において室温(RT)とは、20℃以上25℃以下の温度を意味する。また高温条件とは、上記の形態の希土類永久磁石や、当該希土類永久磁石を使用する部品または装置の使用環境や、部品そのものまたは装置そのものの温度が、100℃以上である条件を意味する。本開示の高温条件での磁気性能は、測定時の温度条件の変化に伴う残留磁束密度Brや保磁力Hcjの変動量により評価できる。
従来、希土類永久磁石の残留磁束密度Brは、保磁力Hcjが向上するほど低下する傾向にある。しかし本開示のいくつかの態様は、残留磁束密度Brをほとんど低下させずに保磁力Hcjを向上できる。これにより本開示は、希土類永久磁石の汎用性の向上に貢献する。例えば本開示を駆動モータに使用すれば、駆動電流の制御を簡便にできるため、駆動モータの小型化を実現しうる。本開示のいくつかの形態は、140℃以上、さらに高温にして180℃以上、一層高温にして200℃以上の高温条件でも、高い保磁力Hcjを発現でき、かつ昇温開始前と昇温開始後との間の残留磁束密度Brの変動量を抑制できる。
本開示の磁気性能の変動量は、残留磁束密度Brや保磁力Hcjの変化率として示すことができる。その他、磁気性能の変動量の評価指標の例として、残留磁束密度Brの可逆温度係数αや保磁力Hcjの可逆温度係数βが挙げられる。温度条件がT1(℃)からT2(℃)に変化する場合に、本開示の残留磁束密度Brの可逆温度係数αT1-T2は式(1)により、保磁力Hcjの可逆温度係数βT1-T2は式(2)により、それぞれ算出できる。可逆温度係数αT1-T2と、βT1-T2とはいずれも負の値になる。従って、その値が大きくなるほど、別言すれば絶対値が小さいほど、温度条件の高温化による磁気性能の低下が抑制されることを意味する。
αT1-T2=(BrT2-BrT1)/(T2-T1)*100 (1)
βT1-T2=(HcjT2-HcjT1)/(T2-T1)*100 (2)
本開示のいくつかの形態は、残留磁束密度の可逆温度係数αや保磁力Hcjの可逆温度係数βを低減できる。温度条件を室温(RT)から140℃に昇温させる場合、本開示のいくつかの形態の保磁力Hcjの可逆温度係数βRT-140は、-1.120[%/℃]以上であり、このとき残留磁束密度の可逆温度係数αRT-140は、-0.170[%/℃]以上である。
本開示は、組成や製造方法を調整することで可逆温度係数αと可逆温度係数βとを一層向上できる。組成の調整例として、本開示のいくつかの形態は、主相にTbとSmとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aを含有させる。製造方法の調整については焼結炉内の雰囲気や温度の管理だけでなく、所定の炭素低減工程を設ける形態を例示できる。組成や製造方法を調整した本開示のいくつかの態様の可逆温度係数βRT-140は、-1.115[%/℃]以上であり、このとき残留磁束密度の可逆温度係数αRT-140は、-0.125[%/℃]以上である。
温度条件を室温(RT)から180℃に昇温させる場合、本開示のいくつかの形態の保磁力Hcjの可逆温度係数βRT-180は、-1.100[%/℃]以上であり、このとき残留磁束密度の可逆温度係数αRT-180は、-0.170[%/℃]以上である。組成や製造方法を調整した本開示のいくつかの態様の可逆温度係数βRT-180は、-1.080[%/℃]以上であり、このとき残留磁束密度の可逆温度係数αRT-180は、-0.140[%/℃]以上である。
温度条件を室温(RT)から200℃に昇温させる場合、本開示のいくつかの形態の保磁力Hcjの可逆温度係数βRT-200は、-1.050[%/℃]以上であり、このとき残留磁束密度の可逆温度係数αRT-200は、-0.190[%/℃]以上である。組成や製造方法を調整した本開示のいくつかの態様の可逆温度係数βRT-200は、-1.100[%/℃]以上であり、このとき残留磁束密度の可逆温度係数αRT-200は、-0.150[%/℃]以上である。
本開示のいくつかの形態は、希土類永久磁石の総重量に対するGdの含有量が、0.5重量%以上である。0.5重量%未満の場合、Gdは粒界相に分布するものの主相には分布し難くなる。本開示は、希土類永久磁石の総重量に対し0.5重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上のGdを含有させることにより、Gdを粒界相に偏析させ、かつ主相にも侵入させることができる。その結果、希土類永久磁石の高温条件での残留磁束密度Brと保磁力Hcjとを向上させることができる。
本開示のいくつかの形態において、Gdの好ましい含有量は、Nd量との比で定義してもよい。NdとGdとの重量比は、Nd:Gdが100:1〜1:100が好ましく、60:1〜2:1がより好ましい。Nd:Gdを上記の好ましい値の範囲内にすることにより、本開示の主相は所定の結晶構造を維持でき、上記の磁気性能を発現できる。
本開示のいくつかの形態は、Gdの含有量が多いほど温度条件の高温化による残留磁束密度Brの可逆温度係数αと保磁力Hcjの可逆温度係数βとの低下を抑制できる。しかし、Gdを過度に含有させると、希土類永久磁石の主相の結晶構造を維持し難くなる。従って主相の結晶構造を維持する観点から、本開示のいくつかの形態におけるGdの含有量の上限は、ヴェガード則(Vegard's law)(L. Vegard,. "Die Konstitution der Mischkristalle und die Raumfullung der Atome". Zeitschrift fur Physik. 5 (1921): 17-26とA. R. Denton, N. W. Ashcroft, "Vegard's law". Phys. Rev. A. 43 (1991) 3161-3164とを参照する。)により、10重量%が好ましいと推定される。
本開示のいくつかの形態は、粒界相がGdを含有する。また本開示は、Gdは粒界相に偏析する形態を包含する。粒界相がGdを含有するか否かは、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-lay Spectroscopy、EDX)による分析で確認できる。ただし本開示の元素分布の分析方法はEDXに限定されない。図1は本開示の実施例のEDXによる元素分析結果である。図1は、図1(a)ないし図1(j)で構成される。
図1(a)は本開示の実施例1の金属組織の反射電子像であり、101は主相、破線で囲まれた領域である102は粒界相である。なお、粒界相は102で示した領域の他、主相と他の相との界面にも形成される。実線で囲まれた領域内に、やや濃く見える箇所は副相103である。図1(b)はFeの、図1(c)はNdの、図1(d)はTbの、図1(e)はGdの、図1(f)はCoの、図1(g)はCuの、図1(h)はAlの、図1(j)はNbの分布状態を示す図である。図1(b)ないし図1(j)の各図は、図内で比較的白く見える領域に、該当する元素が高濃度で分布していることを意味する。したがって、図1(c)と図1(e)とのように、粒界相102に相当する領域が白い場合は、NdとGdとが粒界相に偏析することを示す。
本開示の主相は、Fe層とR-Fe-B層とがc軸方向に沿って交互に積層する積層構造を備える。図2は、本開示の一形態の主相を形成する結晶の構造モデルを例示する図である。図2において、200は単位格子の結晶構造、201はFe層、202はR-Fe-B層である。ただし図2は、主相の結晶が積層構造を備えることを説明するため図示するものであって、必ずしも上記の結晶構造を構成する全ての原子を図示しない。
本開示の主相を形成する結晶はP42/mnmに属し、当該結晶には、2つの16kと、2つの8jと、1つの4gと、2つの4fと、1つの4eと、1つの4cとのサイトが存在する。以下の説明においては、16kのようにサイトが複数存在する場合、第一の16k、第二の16k、のように記載する場合がある。ただし、第一、第二、等の表現は、サイトを区別するために付するものであり、本明細書で説明する場合を除き、各サイトを特徴づけるものではない。
図2に例示する積層構造において、第一の4fサイトと、4gサイトとを占有する希土類元素Rの原子と、4cサイトを占有するFe原子と、第二の4fサイトを占有するB原子とは、R-Fe-B層202を形成する。2つの16kサイトと、2つの8jサイトと、4eサイトとを占有するFe原子は、Fe層201を形成する。本開示のいくつかの形態は、4fサイトを占有するB原子の一部が元素Lの原子と置換されてなる。これにより、本開示は、B原子によるNd原子の磁気モーメントの低減が抑制され、優れた磁気性能を発現する。元素Lとしては、Coが好ましい。
本開示のいくつかの形態は、4fサイトを占有するB原子だけでなく、4fサイトを占有するNd原子と、4gサイトを占有するNd原子と、4cサイトを占有するFe原子とからなる群から一種以上選択される原子の一部が、前記元素Lの原子と置換される。
本開示のいくつかの形態は、製造時に炭素低減工程を実施することで、所定の原子を元素Lで置換させやすくなる。炭素低減工程の目的のひとつは、本開示の希土類永久磁石の原料合金の圧粉体中の炭素量を超微量にすることである。したがって本開示のいくつかの形態は、炭素低減工程実施後の圧粉体を用いて製造されることにより、Nd原子が占有する4fサイトのような、主相の磁気性能に影響を与える原子が占有するサイトにC原子が侵入し難くなる。その結果、元素Lが当該サイトの原子と置換しやすくなる、と推論される。
所定の原子の一部が元素Lの原子と置換されているか否かは、リートベルト解析により判定できる。すなわちリートベルト解析により主相を形成する結晶の空間群を特定し、さらに当該空間群に存在する各サイトを占有する元素の占有率に基づき、上記の置換の有無が判定される。ただし本開示は、希土類永久磁石の結晶構造における所定の置換の有無を、リートベルト解析と異なる方法で判定することを排除しない。
上記の元素Lの原子による置換の判定について、P42/mnmの4fサイトを占有するB原子が元素Lの原子で置換された形態を例として説明する。4fサイトを占有するNd原子と、4gサイトを占有するNd原子と4cサイトを占有するFe原子とのいずれか一種以上選択される原子の一部が元素Lで置換される場合を含め、他のサイトを占有する原子の置換についても、同じ方法で判定できる。
本開示の主相を形成する結晶は、P42/mnmに属する。該空間群の、B原子が占有する4fサイトにおける元素Lの原子の占有率を、nと定義する。nと定義される占有率を百分率で表す場合、(n×100)%になる。n>0.000であるとき、4fサイトを占有するB原子の一部が元素Lの原子と置換されたと判定できる。なお元素Lの原子と共に4fサイトを占有するB原子の占有率は、1.000-nと定義でき、百分率で表す場合、[(1.000-n)×100]%である。
主相の結晶構造が維持される限り、元素Lの原子の占有率nの値の上限は制限されない。4fサイトを占有するB原子と置換する元素Lに関しては、nは、0.030≦n≦0.100の範囲内で算出される傾向がある。解析結果の信頼性の観点から、s値は、1.3以下であり、1に近いほど好ましい。最も好ましくは1である。s値は、信頼性因子RのR-weighted pattern(Rwp)をR-expected(Re)で除して得られる値である。
本開示のいくつかの形態は、主相に、Ndを含む一種以上選択される希土類元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとからなる群から一種以上選択される元素Lと、BとFeとGdとを含有する。本開示において希土類元素Rとは、Nd、Pr(プラセオジム)、Dy(ジスプロシウム)、Tb(テルビウム)と、Sm(サマリウム)と、Ho(ホルミウム)と、Er(エルビウム)とGd(ガドリウム)である。また既に説明したとおり、本開示はGdを含有することを特徴とする。Ndと併用される希土類元素としては、製造コストを低減する観点からPrが好ましい。しかしNd以外の希土類元素の含有量が多くなりすぎると、残留磁束密度Brが低下する可能性が高い。従って、Ndと他の希土類元素Rとの原子数比は、80:20〜70:30が好ましい。また本明細書においては、Tbと、Smと、Hoと、Erとからなる群から一種以上選択される元素を、磁気性能の向上に寄与する元素として元素Aと記載する場合がある。
本開示のいくつかの形態は、主相がTbとSmとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aを含有する。Smを含有させることで、残留磁束密度Brの向上が顕著である。またTb、Ho、Erを含有させることで、保磁力Hcjを向上できる。したがってBを所定の元素Lで置換させ、かつ元素Aを含有させることで、残留磁束密度Brと保磁力Hcjとをいずれも向上させることができる。元素Aは、Feと置換しうる。
Bと元素Lとの原子数比(B:元素L)は、(1-x):xで表され、xは0.01≦x≦0.25を満たし、0.03≦x≦0.25が好ましい。x<0.01の場合、磁気モーメントが低下する。x>0.25の場合、所定の結晶構造を維持できない。
本開示は、主相と粒界相とを備える。粒界相はGdを含有する。粒界相に含有される他の元素としては、Cu(銅)、Nb(ニオブ)、Zr(ジルコニウム)、Ti(チタン)、Ga(ガリウム)が例示される。また本開示のいくつかの形態は、主相と粒界相と共に副相を備える。副相に含有される元素としては、O(酸素)が例示される。本開示は、所定の主相と粒界相を備えることで、本開示所望の磁気性能を発現することができる。
本開示は、元素RとFeとBとのいずれとも置換しなかった未置換の元素Lや元素A、加えて原料合金に含有される他の元素が、Nd-Fe-B層のいずれかのサイトに存在する形態を包含する。他の元素の例としては、希土類永久磁石の磁気特性を向上させる公知の元素が挙げられる。また、Cu、Nb、Zr、Ti、Ga等の粒界相を形成する元素やO等の副相を形成する元素が主相の結晶構造のいずれかのサイトに入り込む場合もある。
本開示のいくつかの形態は、主相と主相間に形成される粒界相とを備え、希土類永久磁石の総重量に対する元素Aを除く希土類元素Rの含有量は20重量%以上35重量%以下であり、好ましくは22重量%以上33重量%以下である。Bの含有量は0.80重量%以上0.99重量%以下であり、好ましくは0.82重量%以上0.98重量%以下である。CoとBeとLiとAlとSiとCuとNbとZrとTiとGaとからなる群から一種以上選択される元素の含有量の合計は、0.8重量%以上2.0重量%以下であり、好ましくは、0.8重量%以上1.5重量%以下である。TbとSmとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aの含有量の合計は2.0重量%以上10.0重量%以下であり、好ましくは2.6重量%以上5.4重量%以下である。Gdの含有量については、0.5重量%以上であることが好ましい。残部は鉄である。
上記の範囲内になるように組成が調製されることにより、本開示は、元素が所定のいくつかの形態で分布する結晶によって形成される主相と粒界相とを備え、さらに副相を備え得る。これにより、良好な残留磁束密度Brや保磁力Hcjを発現する。なお上記の組成は、島津製作所製ICP発光分析装置ICPS-8100を用いて測定できる。
本開示の組成で各元素の含有量は、本開示の実測値である。実測値が不明の場合は、当該希土類永久磁石の製造時に準備する原料合金における仕込量が希土類永久磁石における各元素の実測値とみなされる。当該仕込量は、原料合金に添加する原料金属中の元素源の含有量である。
本開示の組成例として、希土類元素RとしてのNdと、元素LとしてのCoと、Bと、Feと、Gdと、他にTbとAlとCuとNbとを含有する形態を例示する。上記の元素を含有する組成のいくつかの形態において、Ndの含有量は20重量%以上35重量%以下であり、好ましくは22重量%以上33重量%以下である。Bの含有量は0.80重量%以上0.99重量%以下であり、好ましくは0.82重量%以上0.98重量%以下である。Coの含有量は、0.8重量%以上2.0重量%以下であり、好ましくは、0.8重量%以上1.5重量%以下である。Tbの含有量の合計は2.0重量%以上6.0重量%未満であり、好ましくは2.6重量%以上5.4重量%以下である。Gdの含有量は、0.5重量%以上1.8重量%未満であり、好ましくは0.5重量%以上1.5重量%以下である。残部は鉄である。
本開示のいくつかの形態においては、上記の例よりGdの含有量を減少させ、かつTbの含有量を増加させる形態も好ましい。そのような組成として、希土類元素RとしてのNdと、元素LとしてのCoと、Bと、Feと、Gdと、他にTbとAlとCuとNbとを含有する形態を例示する。上記の形態において、Ndの含有量は20重量%以上35重量%以下であり、好ましくは22重量%以上33重量%以下である。Bの含有量は0.80重量%以上0.99重量%以下であり、好ましくは0.82重量%以上0.98重量%以下である。Coの含有量は、0.8重量%以上2.0重量%以下であり、好ましくは、0.8重量%以上1.5重量%以下である。Tbの含有量の合計は6.0重量%以上10.0重量%以下であり、好ましくは6.0重量%以上8.0重量%以下である。Gdの含有量は、1.8重量%以上3.0重量%以下であり、好ましくは1.8重量%以上2.0重量%以下である。残部は鉄である。
[希土類永久磁石の製造方法]
本開示の希土類永久磁石の製造方法は、上記に説明した所定の作用効果を得られる限り、特に制限されない。希土類永久磁石の製造方法に関する本開示の一形態は、炭素低減工程と、脱脂工程とを含む。炭素低減工程を設けることにより、主相に侵入する炭素量を低減できる。その結果、主相中の所定の原子を元素Lの原子で置換させやすくなる。
本開示は、Ndを含む一種以上の希土類元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとCuとNbとZrとTiとGaとからなる群から一種以上選択される元素と、BとFeとGdとを含有する原料合金の圧粉体を真空中で保持する脱脂工程と、脱脂工程前に圧粉体中の炭素量を低減する炭素低減工程とを含む希土類永久磁石の製造方法である。本開示のいくつかの形態は、原料合金の総重量に対しGdを0.5重量%以上含有する原料合金の圧粉体に対し炭素低減工程を行う。
本開示のいくつかの形態の炭素低減工程は、脱脂工程前に圧粉体を100℃以下で1時間以上保持する脱気工程を含む。本開示のいくつかの形態の炭素低減工程が、脱脂工程前に圧粉体を露点-60℃以下の雰囲気中で保持する乾燥工程を含む。本開示のいくつかの形態は、脱気工程後に乾燥工程を行う。本開示のいくつかの形態は、脱脂工程後に圧粉体を焼結する焼結工程と、焼結工程で得られた焼結体を、焼結温度より低い温度で熱処理する熱処理工程とを含む。
[微粒子化工程]
微粒子化工程の前段階として、原料合金を準備する。原料合金は、Ndを含む一種以上の希土類元素Rと、CoとBeとLiとAlとSiとCuとNbとZrとTiとGaとからなる群から一種以上選択される元素と、BとFeとGdとをそれぞれ含有する原料金属を、上記の各元素が所定の化学量論比になるように仕込み、溶解させることで得られる。
原料合金の化学量論比は、最終生成物である希土類永久磁石の組成とほぼ同じである。従って、原料合金に用いられる原料金属の配合は、希土類永久磁石の所望の組成に応じて決定される。本開示のいくつかの形態により製造する希土類永久磁石におけるGdの含有量は、希土類永久磁石の総重量に対し0.5重量%以上であることが好ましい。従って、本開示のいくつかの形態においては、Gd源となる原料金属中のGdの含有量が、原料合金の総重量の0.5重量%以上である原料合金を用いることが好ましい。原料合金の原料金属としては、いずれの元素についても従来公知のものを使用できる。Gd源となる原料金属としては、特に限定するものではないが,例えばGd金属が挙げられる。
原料合金はアモルファス合金ではないことが好ましい。磁気性能を向上させるため、原料合金に、TbとSmとHoとErとからなる群から一種以上選択される元素Aを含有させることも好ましい。
微粒子化工程では、例えば、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で、原料合金をボールミル、ジェットミル等を用いて粗粉砕する。粗粉砕前に原料合金を脆化させておくことが好ましい。合金微粒子の粉末粒径のD50は2〜25μmが好ましく、2〜18μmがより好ましく、2〜15μmがさらに好ましい。本形態においてD50とは、体積基準での合金微粒子群の累積分布におけるメディアン径である。合金微粒子の粉末粒径は、測定方法について特に限定しないが,たとえばレーザ回折式粒度分布計(島津製作所製SALD3100)を用いて測定できる。上記の好ましい範囲の粉末粒径にすることにより、原料合金を焼結させた焼結体の焼結粒径を所望の焼結粒径に微細化させやすくなる。粗粉砕した原料合金微粒子をボールミル、ジェットミル等を用いてさらに微細化させてもよい。
[磁場中成形工程]
磁場中成形工程では、得られた原料合金微粒子を配向磁場下で圧縮成型する。本工程は、磁場強度0.8MA/m以上、圧力1MPa以上200MPa以下で行うことが好ましい。バインダーは、本発明の作用効果を発揮する限り特に限定されないが、脂肪酸エステルを溶剤で希釈したものを例示できる。脂肪酸エステルとしては、カプロン酸メチル、カプリル酸メチル、ラウリン酸メチル、ラウリル酸メチルなどを例示できる。溶剤としては、イソパラフィンに代表される石油系溶剤やナフテン系溶剤などを例示できる。脂肪酸エステルと溶剤との混合例としては、1:20〜1:1の重量比での混合物が挙げられる。その他、脂肪酸として、アラキジン酸が1.0wt%以下で含まれていてもよい。また、液体潤滑剤に代え、あるいは液体潤滑剤と共に、ステアリン酸亜鉛のような固体潤滑剤を使用してもよい。
[炭素低減工程(脱気工程)]
本開示は脱脂工程前に焼結炉外で脱気工程や乾燥工程を行うことにより、焼結工程前に脱脂工程だけを行う場合と比較して、圧粉体中の炭素量を低減できる。炭素量の低減は、脱気工程と乾燥工程とのいずれか一つを行っても実現できるが、両工程を行ってもよい。両工程を行う場合は、脱気工程後に乾燥工程を行うことが好ましい。炭素低減工程を行うことにより、希土類永久磁石の主相にC原子が侵入し難くなるため、所定のB原子が元素Lの原子と置換しやすくなる。
脱気工程では、密閉性の処理容器内に圧粉体を載置し、温度条件100℃以下、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下で圧粉体を保持する。本工程では、保持時間は長いほど炭素量を低減できる。一方で、保持時間が長すぎるとバインダーの蒸発が進むため、圧粉体の保護膜が失われる。従って、炭素量の効果的低減と圧粉体の酸化回避との観点から、保持時間は1時間以上、好ましくは6時間以上、より好ましくは12時間以上であり24時間以内が好ましい。
[炭素低減工程(乾燥工程)]
乾燥工程では、密閉性の処理容器に圧粉体を載置し、処理容器内を低湿度環境にして圧粉体を保持する。脱気工程後に乾燥工程を行う場合は、脱気工程を実施した処理容器内で引き続き乾燥工程を実施してもよい。本開示において低湿度環境,すなわち低露点環境とは、露点-60℃以下、好ましくは-80℃以下、より好ましくは-110℃以下の雰囲気を意味する。保持時間は、6時間以上96時間以下が好ましく、24時間以上72時間以下がより好ましい。これにより、炭素量が低減され、かつ酸化し難い圧粉体を得られる。露点-60℃以下を満たさない場合、酸化により特性が悪化することになる。保持時間が6時間未満の場合、カーボン残留量が多くなる。また96時間を超えると、酸化により磁気特性が悪化することになる。
[脱脂工程]
炭素低減処理の後、圧粉体を焼結炉に移し、脱脂工程を開始する。脱脂工程では、圧粉体全体を均一に脱脂するため、一段階または複数段階の温度管理を行い、焼結炉内の真空度を10Pa以下で、好ましくは10-2Pa以下で維持する形態が好ましい。これにより、炭素低減工程後に圧粉体に残存する炭素を一層低減でき、所定の主相の結晶構造を備え、かつ主相と粒界相とにGdを含有する希土類永久磁石を製造できる。
温度管理の好ましい例としては、炉内を50℃以上150℃以下で1時間以上4時間以下保持後、昇温し、150℃以上250℃以下で1時間以上4時間以下保持する形態が挙げられる。第一段階の炉内温度を50℃未満にする場合、炉内での圧粉体の酸化と脱脂時間のバランスが悪く酸化されやすい。炉内温度を150℃以上にする場合、バインダーの熱分解が急激に進み(圧力がスパイク状に増加し)、真空度が低下しやすく所望の真空度を維持し難くなる。第二段階以後の炉内温度を150℃未満にする場合、第一段階で脱脂されているが,二段階目の脱脂に時間がかかるため酸化しやすい。炉内温度を250℃以上にする場合、真空度が低下しやすく所望の真空度を維持し難くなる。
[焼結工程]
焼結工程は、脱脂工程後、焼結炉内に圧粉体を保持したまま、炉内温度を昇温して行う。焼結工程を行うことにより、本開示所定の希土類永久磁石の主相を形成できる。本開示は、圧粉体を焼結炉内に載置する前に炭素低減工程を行う。これにより焼結炉内の真空度の推移にスパイク波形が発生し難い。すなわち焼結炉の炉内環境の安定性を維持して希土類永久磁石を製造できる。焼結工程および熱処理工程での焼結炉内の温度管理は、圧粉体の含有成分の融点に基づいて決定される。
本開示の焼結工程において、焼結炉内の温度管理例としては1000℃以上1200℃以下にして2時間以上11時間以下保持する形態が挙げられる。他の好ましい温度管理例としては、焼結温度を1000℃以上1100℃以下にして3時間以上7時間以下保持する形態が挙げられる。
これにより本開示の一形態は、希土類元素Rと元素LとBとFeとを含有し、その結晶がP42/mnmに属し、結晶の4fサイトを占有するB原子の一部が元素Lの原子と置換され、さらにGdを含有する主相を高密度で形成できる。また、本開示のいくつかの形態は、原料合金の組成や上記の各工程の条件に応じて、上記の所定の主相において、さらに、P42/mnmに属する結晶の4fサイトを占有するNd原子と、4gサイトを占有するNd原子と、4cサイトを占有するFe原子とからなる群から一種以上選択される原子の一部が、元素Lの原子と置換されうる。また原料合金に元素Aを添加することで、本開示のいくつかの形態は、上記のいずれかの形態の主相に、さらに元素Aを含有しうる。
上記に例示するいずれの主相を形成する場合も、本開示は希土類永久磁石の残留磁束密度Brや機械強度を向上させることができる。焼結炉内の温度が、所定の温度範囲から外れる場合、本開示所定の主相を形成し難い。
[熱処理工程]
熱処理工程は、焼結工程後、炉内温度を所定の熱処理温度に設定して行う。熱処理工程を行うことにより、本開示所定の希土類永久磁石の主相の周囲に粒界相や副相を析出させることができる。
熱処理工程は、一段階または複数段階で行われる。熱処理工程における焼結炉内の温度管理例としては、400℃以上1100℃以下で2時間以上9時間以下保持することが挙げられる。本開示のいくつかの形態は、NdとGdとを含有する粒界相を形成する。Gdは主相内にも含有され得るが、粒界相に偏析する傾向がある。これにより本開示のいくつかの形態は、高い保磁力Hcjを発現する希土類永久磁石を製造できる。また、粒界相は、Gdに加えてNd、Cu、Nb、Zr、Ti、Ga等を含有しうる。副相としては、希土類元素等を含有する酸化物の相が現れる。
本開示のいくつかの形態は、焼結工程の後、熱処理工程を行い、さらに真空度を維持した状態で炉内温度を制御して最終的に室温まで低下させ、圧粉体を焼結させて作製する。上記の温度制御により、本開示は金属組織内に粒界相や副相が析出する。
本開示のいくつかの形態の平均焼結粒径は、圧粉体の粉末粒径の110〜300%になり、110〜180%になりうる。平均焼結粒径は、2.2μm以上20μm以下が好ましく、2.2μm以上15μm以下がより好ましく、2.2μm以上10μm以下がさらに好ましい。平均焼結粒径が20μmを超える場合、保磁力Hcjの低下が著しくなる。本開示において、平均焼結粒径とは、焼結体を構成する粒子群の長径の平均値である。焼結体を構成する粒子群の長径は光学式顕微鏡観察もしくは走査型電子顕微鏡により取得した断面写真の画像解析により測定できる。
本開示のいくつかの形態の焼結密度は、6.0g/cm3以上8.0g/cm3以下になることが好ましい。焼結密度が上記の範囲内である場合、焼結体は空隙が少ないため、残留磁束密度Brや保磁力Hcjが低下し難い。
以下に実施例を挙げて本開示をさらに説明する。ただし本開示は下記の実施例に限定されない。
[実施例1ないし実施例4、および比較例1ないし比較例2]
実施例1と実施例2と比較例1とはセット1を、実施例3と実施例4と比較例2とはセット2を構成する。各実施例と比較例との原料合金の仕込組成は、希土類永久磁石の所望の組成に対応させて決定した。図3は、本開示の実施例の組成を示す表である。図3に示す組成は仕込組成であって、「-」と示される場合は、「元素源となる原料金属を添加しなかった」ことを意味する。
図3に示す仕込組成で作製された各実施例と比較例とにそれぞれ含有される元素の含有量は、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)により実測できる。ただし、本開示の希土類永久磁石に含有される元素の測定方法はICP発光分光分析法に限定されない。
実施例1の製造方法を説明する。図3に記載する仕込組成で作製した原料合金をボールミルで粗粉砕し、合金粒子にした。その後合金粒子を溶媒に分散させた。分散溶液に添加剤を導入して撹拌して還元反応を行い、合金粒子を微粒子化した。微粒子化した原料合金とバインダーとを、成型キャビティに充填し、0.8MA/m以上、20MPaで磁場中成形を行い、圧粉体を作製した。
圧粉体をグローブボックス内に載置し、炭素低減工程を行った。炭素低減工程では、脱気工程と乾燥工程とを実施した。脱気工程では、温度条件25℃で24時間保持した。続いて同じグローブボックス内で乾燥工程を行った。乾燥工程では、グローブボックス内を露点-80℃の雰囲気にして24時間保持した。
乾燥工程終了後、圧粉体をグローブボックスから焼結炉に移し、脱脂工程を開始した。脱脂工程では、真空度を10-2Paに到達させるため、炉内温度を200℃にして1時間保持し、続いて300℃にして3時間保持した。
脱脂工程終了後、焼結工程を行った。焼結工程では、炉内温度を1066℃で4時間保持した。その後、炉内温度を室温まで降温させ、焼結体を冷却した。焼結体を焼結炉から取り出し、実施例1とした。
実施例2は、図3に示す仕込組成の原料合金を用いて実施例1と同様の条件で作製した。ただし、実施例2の焼結工程と熱処理工程での温度管理は、実施例1と異ならせた。実施例2の焼結工程では、炉内温度を1069℃で4時間保持した。その後、炉内温度を室温まで降下させ、焼結体を冷却した。
比較例1は、図3に示す組成の原料合金を用いて実施例1と同様の条件で作製した。ただし、比較例1の焼結工程と熱処理工程での温度管理は、実施例1と異ならせた。比較例1の焼結工程では、炉内温度を1080℃で4時間保持した。その後、炉内温度を室温まで降下させ、焼結体を冷却した。比較例1のBとCoとの含有量を実測したところ、Bは0.97wt%、Coは0.83wt%であった。測定方法はICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)を用いた。
セット2に属する実施例3と実施例4と比較例2とは、図3に示す仕込組成の原料合金を用いて実施例1と同様の条件で作製した。セット2の実施例と比較例との焼結工程と熱処理工程との温度管理は、セット1と異ならせた。またセット2の実施例3と実施例4と比較例2との間でも、原料合金の組成に応じて焼結工程と熱処理工程との温度管理を異ならせた。比較例2はFeを含み、他の含有元素の実測値はNd:24.94wt%、Tb:6.02wt%、B:0.97wt%、Al:0.16wt%、Cu:0.09wt%、Co:1.73wt%、Ga:0.15wt%であった。比較例2の含有量の測定は、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)を用いて測定した。
実施例3の焼結工程では、炉内温度を1070℃で5.5時間保持した。実施例4の焼結工程では、炉内温度を1050℃で5.5時間保持した。比較例2のの焼結工程では、炉内温度を1080℃で5.5時間保持した。実施例3と実施例4と比較例2とは、いずれも焼結工程の保持時間終了後、炉内温度を室温まで降下させ焼結体を冷却した。
[実施例2の主相の結晶構造解析]
実施例2について、主相を構成する原子の一部がCo原子で置換されていることを確認するため、焼結工程後の焼結体の粉末に対してX線回折実験とリートベルト解析とを行った。解析に際し、結晶中に顕著にみられる、Nd2Fe14B相と副相成分の一つであるNdOとの存在を仮定した。すなわちNd原子とFe原子とB原子を解析対象とし、実施例2に含有されるGd、Tbを含む他の成分は、本解析では考慮しなかった。解析に用いた分析装置と分析条件を以下に記載する。解析ソフトは、RIETAN-FPを用いた。
分析装置:(株)リガク製 水平型X線回折装置 SmartLab
分析条件:
ターゲット:Cu
単色化:入射側に対称Johansson 型Ge 結晶を使用(CuKα1)
ターゲット出力:45kV-200mA
検出器:1次元検出器(HyPix3000)
(通常測定):θ/2θ走査
スリット入射系:発散1/2°
スリット受光系:20mm
走査速度:1°/min
サンプリング幅:0.01°
測定角度(2θ):10°〜110°
図4と図5とは、本開示の実施例の結晶構造解析を説明する図である。解析の結果、得られた実施例2の格子定数を図4(a)に示す。図4(b)は、参照したICSDおよび文献値である。図4に示す解析結果から、本形態の主相の結晶が、P42/mnmに属すると特定できた。
続いて、実施例2のX線回折パターンとモデルパターンとのフィッティングを行った。モデルパターンとは、NdO結晶と任意のNd2Fe14B結晶とのX線回折パターンの計算結果を組み合わせたパターンである。任意のNd2Fe14B結晶とは、公知のNd2Fe14B結晶の任意の結晶パラメータを変更して、空間群に存在する任意の一つのサイトを占有する原子を元素L(実施例2では、Co)の原子に、一部または全部置換させるシミュレーションにより得られる結晶を意味する。フィッティングの指標はs値とし、s値が1に近い値になるように解析を進めた。s値は、s=Rwp/Reと定義される。シミュレーションにより、Rwp=1.725、Re=1.517、s=1.1365のフィッティング結果を得られた。
上記のフィッティング結果を得たモデルパターンよりs値が小さくなるモデルを得るため、さらに複数のモデルパターンを解析した。その結果、s値が一層小さくなったモデルパターンによる解析結果を図5に示す。図5の「判定」欄で、"○"は、当該サイトを占有する原子が、元素Lの原子(図5ではCo原子)により置換されたことを意味し(Co原子の占有率の値が0より大きく1以下)、"×"は、当該サイトを占有する原子が、元素Lの原子(図5ではCo原子)により置換されなかったことを意味する(Co原子の占有率の値が0以下)。"△"は、物理的整合性に欠けるため判定できなかったことを意味する(Co原子の占有率の値が1よりも大きい)。
図5に示すように、Co原子の各サイトにおける占有率は、B原子が占有する4fサイトにおいて、0.0600であり、Nd原子が占有する4fサイトにおいて、0.0349であり、Nd原子が占有する4gサイトにおいて、0.0004であり、Fe原子が占有する4cサイトにおいて、1.9293である。上記の各サイトにおいてCo原子の占有率は0を超えた。
すなわち、実施例2の結晶は、P42/mnmに属するNd2Fe14B結晶であって、Bが占有する第一の4fサイトと、Ndが占有する第二の4fサイトと、Ndが占有する4gサイトと、Feが占有する4cサイトとに、それぞれCo原子が存在することを意味する。これにより、第一の4fサイトのB原子の一部と、第二の4fサイトのNdの一部と、4gサイトのNdの一部と、4cサイトのFe原子との一部とが、Co原子で置換されていると確認できた。一方、Feが占有する第一と第二との16kサイトと、Feが占有する第一と第二との8jサイトと、Feが占有する4eサイトとではCo原子の占有率が0以下であったため、当該サイトに存在する原子はCo原子で置換されていないと確認できた。
[実施例1と実施例2とのEDXによる元素分析]
実施例1と実施例2とについてEDX(装置名:OXFORD社製 INCA Energy+相当品)による元素分析を行った。図1は実施例1の元素分析結果であり、図6は実施例2の元素分析結果である。既述のとおり、図1により、実施例1はNdとGdとが粒界相に偏析することを確認できた。図6は、図1と同様に、実施例2の金属組織の反射電子像である図6(a)と、元素ごとの分布状態を示す図6(b)ないし図6(j)で構成される。図6において、601は主相、破線で囲まれた領域である602は粒界相である。なお、粒界相は602で示した領域の他、主相と他の相との界面にも形成される。図6(c)は実施例2におけるNdの分布状態を示し、図6(e)は実施例2におけるGdの分布状態を示す。図6(c)と図6(e)との破線内部が白く示されたことから、NdとGdとが粒界相に偏析することを確認できた。
[実施例1ないし実施例4および比較例1と比較例2の磁気性能]
セット1とセット2とに属する実施例と比較例との磁気性能を測定した。図7ないし図15は、本開示の実施例の磁気性能を説明する表である。磁気性能の測定には、装置名:東英工業 パルス励磁型磁気測定装置 Model TPM-2-08s25VTを使用した。図7はセット1の実施例1と実施例2と比較例1との磁気性能の測定結果である。図7には、各実施例の比較例1との性能比も示した。図7に示す実施例1と比較例1との性能比のグラフは図8に、実施例2と比較例1との性能比のグラフは図9に示した。
図10では、図7に示す測定結果に基づき、実施例1と実施例2と比較例2との温度条件180℃での残留磁束密度Brと他の温度条件での残留磁束密度Brとを比較し、温度条件の変化に伴う残留磁束密度Brの変化率を示した。図10に示す温度条件T3での残留磁束密度を基準とする温度条件T4の残留磁束密度Brの変化率は、式(3)により算出した。
Br変化率T3=(残留磁束密度BrT4)/(残留磁束密度BrT3)×100 (3)
図7に示すように、実施例1と実施例2とは100℃以上での保磁力Hcjが、それぞれ1.473MA/m以上と1.419MA/m以上とを示し、いずれも比較例1の当該値より高い値であった。また図10に示すように温度条件の変化に伴う残留磁束密度Brの変化率180℃は、T3=180℃、T4=室温の場合に最も大きかった。しかし実施例1と実施例2との残留磁束密度Brの変化率180℃はいずれも123%であり、比較例1の当該値より小さかった。これにより、本開示が温度条件が高温化による残留磁束密度Brの変動を抑制でき、かつ高温条件でも高い保磁力Hcjを発現することを確認できた。
セット2の実施例3と実施例4と比較例2については、図11に磁気性能の測定結果と性能比とを示し、図11に示す実施例3と比較例2との性能比のグラフは図12に、実施例4と比較例2との性能比のグラフは図13に示した。図14に残留磁束密度Brの変化量を示した。図11に示すように、実施例4は120℃以上での保磁力Hcjが1.589MA/m以上を示し、比較例2の当該値より高い値であった。実施例3でも180℃以上での保磁力Hcjが0.988MA/m以上を示し、比較例2の当該値より高い値であった。また図14に示すように温度条件の変化に伴う残留磁束密度Brの変化率180℃は、T3=180℃、T4 =室温の場合に最も大きかった。しかし実施例3と実施例4との残留磁束密度Brの変化率180℃はそれぞれ119%と120%とであり、いずれも比較例4の当該値より小さかった。これにより、セット1と同様にセット2でも本開示が温度条件の高温化による残留磁束密度Brの変動を抑制でき、かつ高温条件でも高い保磁力Hcjを発現することを確認できた。
図15に、図7と図9とに示す磁気性能の測定結果に基づくセット1とセット2との、残留磁束密度Brの可逆温度係数αと保磁力Hcjの可逆温度係数βとを示した。図15に示すように、実施例1と実施例2との保磁力Hcjの可逆温度係数βの絶対値は、いずれの温度条件においても比較例1の当該値より小さい。セット2においても実施例3と実施例4との保磁力Hcjの可逆温度係数βの絶対値は、いずれの温度条件においても比較例2の当該値より小さい。これにより本開示が、温度条件の高温化による保磁力Hcjの低下が少ないことを確認できた。すなわち本開示は、高温条件での使用に好適な希土類永久磁石である。
上記のとおり、本開示は主相と粒界相とにGdを含有することにより、高温条件下で高い保磁力Hcjを発現する。また本開示の残留磁束密度Brは、使用環境の温度変化による変動が少ない。これにより本開示は、自動車用途、工作機用途、風力発電機用途等の各用途に装備の高性能化、小型化、省エネルギー化に寄与する。