JP6797720B2 - 香箱車、ムーブメント、および時計 - Google Patents
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Description
トルクの安定化により、スリップダウンを防ぐことができる。よって、ぜんまいをフル巻きにすることができ、その状態を長時間維持できる。
また、トルクの安定化により、ぜんまいの巻き過ぎを防ぐことができる。そのため、てんぷ等の振り当たりによる計時精度の低下を防ぐことができる。さらに、自動巻き機構等に過剰な力が作用せず、その破損を防ぐことができる。また、過剰なトルクが掛からない為、香箱ケースの周壁部の摩耗が起こりにくくなる。
この構成によれば、ぜんまいに当接する部分における第1領域と第2領域の面積比が、ぜんまいの位置(軸方向の位置)によって変動するのを抑制できる。よって、ぜんまいの巻き上げの際のトルクをより安定化させることができる。
この構成によれば、第1領域の大きさ、および軸方向の間隔の調整によって、ぜんまいに当接する部分における第1領域と第2領域の面積比を容易に設定できる。したがって、ぜんまいの巻き上げの際のトルクをより安定化させることができる。
この構成によれば、第1領域の大きさ、および周方向の間隔の調整によって、ぜんまいに当接する部分における第1領域と第2領域の面積比を容易に設定できる。よって、ぜんまいの巻き上げの際のトルクをより安定化させることができる。
この構成によれば、ぜんまいに当接する部分における第1領域と第2領域の面積比の偏りが生じにくい。よって、ぜんまいの巻き上げの際のトルクをより安定化させることができる。
この構成によれば、ぜんまいにより香箱ケースの周壁部の内周面にかかる押圧力を適正化し、ぜんまいの巻き上げの際のトルクを安定化させることができる。
この構成によれば、前記香箱車を用いるため、巻き上げの際のトルクを安定化させることができる。よって、スリップダウンおよびぜんまいの巻き過ぎを防ぐことができる。
この構成によれば、前記香箱車を用いるため、巻き上げの際のトルクを安定化させることができる。よって、スリップダウンおよびぜんまいの巻き過ぎを防ぐことができる。
<第1の実施形態>
まず、第1の実施形態について説明する。第1の実施形態を説明するにあたり、はじめに、機械式時計1について説明する。図1は、本発明の実施形態におけるムーブメント表側の平面図である。なお、以下の説明では、発明を理解し易くするために、適宜構成部品の一部を省略したり、形状を単純化したり、縮尺を変更したりする等、図示を簡略化している。
ムーブメント10は、基板を構成する地板11を有している。地板11の裏側には図示しない文字板が配されている。なお、ムーブメント10の表側に組み込まれる輪列を表輪列と称し、ムーブメント10の裏側に組み込まれる輪列を裏輪列と称する。
地板11には、巻真案内穴11aが形成されており、ここに巻真12が回転自在に組み込まれている。巻真12は、おしどり13、かんぬき14、かんぬきばね15及び裏押さえ16を有する切換装置により、軸方向の位置が決められている。巻真12の案内軸部には、きち車17が回転自在に設けられている。
図2および図3に示すように、香箱車22は、ぜんまい50と、香箱真61と、香箱ケース62とを備えている。
ぜんまい50は、いわゆる動力ぜんまいである。ぜんまい50は、ぜんまい本体51と、スリッピング・アタッチメント52とを有する。
ぜんまい50は、香箱ケース62の香箱真61に渦巻状に巻き付けられている。ぜんまい50は、周壁部64に囲まれて香箱ケース62に収納されている。
図3に示すように、ぜんまい50が香箱真61に巻き付けられた状態となると、ぜんまい50は、弾性力によって香箱ケース62を回転させる。
ぜんまい本体51の一端部51dは、香箱真61に固定されている。
スリッピング・アタッチメント52は、ぜんまい50によって香箱ケース62の周壁部64に内周側から加えられる押圧力を調整する機能を有する。
なお、図2および図3に示すぜんまい50では、ぜんまい本体51の外周部分51bの内周側にスリッピング・アタッチメント52があるが、これとは逆に、外周部分51bの外周側にスリッピング・アタッチメント52がある構成も可能である。
スリッピング・アタッチメント52が設けられる位置は、ぜんまい本体51の一端部51dより他端部51a側の部分であればよい。
底部63は、円板状に形成されている。
周壁部64は、底部63の周縁63aに沿って立設され、円筒状に形成されている。周壁部64は、底部63の周縁63aから、香箱ケース62の中心軸線C1に沿う方向(軸方向)に延出している。
基体65は、第2材料からなり、円筒状に形成されている。基体65の内周面65aには、複数の溝部67が形成されている。溝部67は一定の幅を有し、中心軸線C1方向に延在する。溝部67は、周壁部64の基端部64b近傍から先端部64c近傍にかけて形成されている。溝部67は、一定の深さであることが望ましい。溝部67の断面(中心軸線C1に垂直な方向の断面)の形状は、例えば矩形状、半円形状などである。
複数の溝部67は、周方向に間隔をおいて形成されている。複数の溝部67は、互いに同じ幅であり、周方向に一定の間隔をおいて形成されていることが望ましい。
第1領域71は、一定の幅を有し、中心軸線C1に沿う方向に延在する。第1領域71は、周壁部64の基端部64b近傍から先端部64c近傍にかけて形成されている。複数の第1領域71は、周方向に間隔をおいて形成されている。第1領域71は、互いに同じ幅であり、周方向に一定の間隔をおいて形成されていることが望ましい。
なお、第1領域71の延在方向は、中心軸線C1に沿う方向に限らず、周方向に交差する方向であればよい。
複数の第1領域71が周方向に間隔をおいて形成されているため、第1領域71が形成されている高さ範囲では、第1領域71と第2領域72とは、周方向に交互に並んで形成されている。
静摩擦係数とは、例えば、静止状態にある2つの物体の接触面に生じる摩擦力と法線作用力との比である。静摩擦係数は、例えば、静止している物体(ぜんまい50)を動かそうとするときの抵抗力(摩擦力)を、その物体により接触面(周壁部64の内周面64a)にかかる力)で割った値である。
F1=μ1P1 ・・・(1)
式(1)において「μ1」は静摩擦係数である。
F2=μ2P2 ・・・(2)
式(2)において「μ2」は動摩擦係数である。
第1領域71と第2領域72の面積比は、内周面64aの全体としての摩擦係数比(μ1/μ2)が1に近くなるように定めることができる。
第2領域72を構成する第2材料としては、例えば、金、鉛、銅合金(例えば黄銅(真鍮))、コバルト合金、鉄、チタン、ニッケル、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金(例えばジュラルミン)などの金属;ポリカーボネート、炭素繊維強化プラスチックなどの樹脂などを挙げることができる。
第1材料と第2材料は、異なる材料であってもよいが、第1領域71と第2領域72とに摩擦係数比(μ1/μ2)の差異を与えることができれば、同じ材料であってもよい。
図7は、香箱ケース62を作製するための母材81を示す、中心軸線に垂直な方向の断面図である。図8は、母材81を示す、中心軸線に沿う方向の断面図である。図8は、図7に示すII−II断面図である。
母材81は、基体85と、充填部86とを備えている。基体85は第2材料からなり、円筒状に形成されている。基体85内には、第1材料からなる充填部86が形成されている。
図7に示すように、中心軸線C1と平行に見て、充填部86は、基体85の中央から放射状に径方向外方に延びて形成されている。図8に示すように、充填部86は、中心軸線C1方向に連続して形成されている。
母材81は、例えば、3Dプリンタ等を用いて作製することができる。
基体85と充填部86との接合には、金属同士の場合、拡散接合を用いてもよい。拡散接合を利用して母材81を製造するには、拡散接合機能を備えた3Dプリンタ等を用いることができる。金属と樹脂を接合する場合、摩擦重ね接合法を用いてもよい。
図17に示すように、ぜんまい50は、巻き上げ量が大きくなると香箱車22の内周面64aに対してスリップするが、香箱車22では、ぜんまい50の動作開始に要する力と、動いているときに要する力との差を小さくすることにより、仮想線で示すようなトルクの増減を抑え、実線で示すように、トルクを安定化させることができる。
スリップトルクが大きすぎれば、ぜんまいの巻き過ぎが起こりやすくなる。巻き過ぎが起きると、てんぷ等の振り当たりにより計時精度に影響が及ぶことがある。また、自動巻き機構等に過剰な力が作用したり、香箱ケースの周壁部が摩耗しやすくなるなどの不都合が生じることがある。
これに対し、実施形態の香箱車22は、前述のトルクの安定化により、スリップダウンを防ぐことができる。よって、ぜんまい50をフル巻きにすることができ、その状態を長時間維持できる。
また、トルクの安定化により、ぜんまい50の巻き過ぎを防ぐことができる。そのため、てんぷ等の振り当たりによる計時精度の低下を防ぐことができる。さらに、自動巻き機構等に過剰な力が作用せず、その破損を防ぐことができる。また、香箱ケース62の周壁部64の摩耗が起こりにくくなる。
次に、第2の実施形態について説明する。以下、既出の実施形態との共通点については同じ符号を付して説明を省略する。
図9は、第2の実施形態に係る香箱車の香箱ケースを示す、中心軸線に垂直な方向の断面図である。図10は、香箱車の香箱ケースを示す、中心軸線に沿う方向の断面図である。図10は、図9に示すIII−III断面図である。図11は、香箱車の香箱ケースの周壁部を示す展開図である。
図9および図10に示すように、第2の実施形態の香箱車122は、香箱ケース162以外は、図2および図3に示す第1の実施形態の香箱車22と同じ構成である。なお、図9〜図11では、ぜんまい50および香箱真61を図示しない。
周壁部164は、底部63の周縁63aに沿って立設され、円筒状に形成されている。周壁部164は、底部63の周縁63aから、香箱ケース62の中心軸線C1に沿う方向(軸方向)に延出している。
基体165は、第2材料からなり、円筒状に形成されている。基体165の内周面165aには、複数の凹部167が形成されている。
図11に示すように、凹部167は、ドット状に形成されている。複数の凹部167は、複数の凹部群167Aを構成する。凹部群167Aは、中心軸線C1方向に並ぶ複数の凹部167からなる。
第1領域171は、ドット状に形成されている。複数の第1領域171は、複数の領域群171Aを構成する。
領域群171Aは、中心軸線C1方向に並ぶ複数の第1領域171からなる。領域群171Aを構成する複数の第1領域171は、中心軸線C1方向に間隔(好ましくは等間隔)をおいて形成されている。領域群171Aを構成する複数の第1領域171は、中心軸線C1方向に位置を違えて形成されている。中心軸線C1方向に隣り合う第1領域171の間隔は、複数の領域群171Aの間で互いに等しいことが好ましい。
複数の領域群171Aは、周方向に間隔(好ましくは等間隔)をおいて形成されている。そのため、第1領域171が形成されている高さ範囲では、第1領域171と第2領域172とが、周方向に交互に並んでいる。
第2領域172を構成する第2材料としては、例えば、第1の実施形態における第2領域72の構成材料と同じ材料を挙げることができる。
第1領域171と第2領域172とは、摩擦係数比(μ1/μ2)が互いに異なる。
図12は、香箱ケース162を作製するための母材181を示す、中心軸線に垂直な方向の断面図である。図13は、母材181を示す、中心軸線に沿う方向の断面図である。図13は、図12に示すIV−IV断面図である。
母材181は、基体185と、複数の充填部186とを備えている。
基体185は第2材料からなり、円筒状に形成されている。基体185内には、第1材料からなる複数の充填部186が形成されている。
図12に示すように、中心軸線C1と平行に見て、充填部186は、基体185の中央から放射状に径方向外方に延びて形成されている。
図13に示すように、複数の充填部186は、中心軸線C1方向に間隔をおいて形成されている。
母材181は、例えば、3Dプリンタ等を用いて作製することができる。
母材181の中央部分を切削加工によって除去することによって、図9〜図11に示す香箱ケース162を得る。
トルクの安定化によって、スリップダウンが起こりにくくなるため、ぜんまい50をフル巻きにすることができ、その状態を長時間維持できる。また、ぜんまい50の巻き過ぎが起こりにくいため、てんぷ等の振り当たりによる計時精度の低下を防ぐことができる。さらに、自動巻き機構等の破損を防ぐことができる。また、香箱ケース162の周壁部164の摩耗などが起こりにくい。
そのため、第1領域171の大きさ、および周方向の間隔の調整によって、ぜんまい50に当接する部分における第1領域171と第2領域172の面積比を容易に設定できる。よって、ぜんまい50の巻き上げの際のトルクをより安定化させることができる。
次に、第3の実施形態について説明する。以下、既出の実施形態との共通点については同じ符号を付して説明を省略する。
図14は、第3の実施形態に係る香箱車の香箱ケースを示す、中心軸線に垂直な方向の断面図である。図15は、香箱車の香箱ケースを示す、中心軸線に沿う方向の断面図である。図15は、図14に示すV−V断面図である。図16は、香箱車の香箱ケースの周壁部を示す展開図である。
図14および図15に示すように、第3の実施形態の香箱車222は、香箱ケース262以外は、図2および図3に示す第1の実施形態の香箱車22と同じ構成である。なお、図14〜図16では、ぜんまい50および香箱真61を図示しない。
周壁部264は、底部63の周縁63aに沿って立設され、円筒状に形成されている。周壁部264は、底部63の周縁63aから、香箱ケース62の中心軸線C1に沿う方向(軸方向)に延出している。
基体265は、第2材料からなり、円筒状に形成されている。基体265の内周面265aには、複数の凹部267が形成されている。
図16に示すように、凹部267は、ドット状に形成されている。複数の凹部267は、複数の凹部群267Aを構成する。凹部群267Aは、中心軸線C1方向に並ぶ複数の凹部267からなる。
第1領域271は、ドット状に形成されている。複数の第1領域271は、複数の領域群271Aを構成する。
領域群271Aは、中心軸線C1方向に並ぶ複数の第1領域271からなる。領域群271Aを構成する複数の第1領域271は、中心軸線C1方向に間隔(好ましくは等間隔)をおいて形成されている。領域群271Aを構成する複数の第1領域271は、中心軸線C1方向に位置を違えて形成されている。中心軸線C1方向に隣り合う第1領域271の間隔は、複数の領域群271Aの間で互いに等しいことが好ましい。
複数の領域群271Aは、周方向に間隔(好ましくは等間隔)をおいて形成されている。そのため、第1領域271が形成されている高さ範囲の一部では、第1領域271と第2領域272とが、周方向に交互に並んでいる。
第2領域272を構成する第2材料としては、例えば、第1の実施形態における第2領域72の構成材料と同じ材料を挙げることができる。
第1領域271と第2領域272とは、摩擦係数比(μ1/μ2)が互いに異なる。
すなわち、香箱車222は、第2材料からなる基体と、第1材料からなる複数の充填部とを有する母材を用い、この母材の中央部分を切削加工によって除去することによって、図14〜図16に示す香箱ケース262を得ることができる。
なお、周壁部の内周面において摩擦係数比が異なる第1領域と第2領域の摩擦係数比がいずれも1より大きい場合でも、周壁部の内周面の全体としての摩擦係数比は、摩擦係数比大きい方の領域に比べれば1に近くなる。
実施形態の香箱車では、第1領域と第2領域は、香箱ケースの表面のうち周壁部の内周面以外の面にも形成されていてもよい。
10…ムーブメント
22,122,222…香箱車
50…ぜんまい
51…ぜんまい本体
52…スリッピング・アタッチメント
61…香箱真
62,162,262…香箱ケース
63…底部
64、164,264…周壁部
64a、164a,264a…内周面
71,171,271…第1領域
72,172,272…第2領域
171A,271A…領域群
C1…中心軸線
Claims (8)
- 弾性を有し、渦巻状に巻かれる板状体であるぜんまい本体を有するぜんまいと、
前記ぜんまい本体の一端部が固定される香箱真と、
底部および前記底部の周縁に立設された周壁部を備えて前記ぜんまいを収納可能とされ、少なくとも前記周壁部の内周面に、静摩擦係数と動摩擦係数との比が互いに異なる複数の領域が周方向に並んで形成された香箱ケースと、を有する、香箱車。 - 前記周壁部の内周面を構成する前記複数の領域は、前記香箱ケースの周方向に交差する方向に延在する複数の第1領域と、前記内周面のうち前記第1領域以外の領域である第2領域とを含む、請求項1に記載の香箱車。
- 前記周壁部の内周面を構成する前記複数の領域は、複数の第1領域と、前記内周面のうち前記第1領域以外の領域である第2領域とを含み、
前記複数の第1領域のうち少なくとも一部は、前記香箱ケースの軸方向に位置を違えて形成されている、請求項1に記載の香箱車。 - 前記周壁部の内周面は、前記香箱ケースの軸方向に並んだ複数の前記第1領域からなる領域群を複数有し、
前記複数の領域群は前記香箱ケースの周方向に間隔をおいて配置されている、請求項3に記載の香箱車。 - 前記複数の第1領域は、千鳥状に配置されている、請求項3に記載の香箱車。
- 前記ぜんまい本体の前記一端部より他端側の部分に設けられ、前記ぜんまい本体により前記周壁部に内周側から加えられる押圧力を調整するスリッピング・アタッチメントをさらに備えた、請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の香箱車。
- 請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の香箱車を備えた、ムーブメント。
- 請求項7に記載のムーブメントを備えた、時計。
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