JP6797593B2 - 汚染物の処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、放射性物質に汚染された土壌など粉粒体状の汚染物の処理方法に関する。
東日本大震災に端を発する福島第1原発事故により、放射性物質が放出され、原発周辺地域では建物、道路、植物、土壌等が放射性物質に汚染され、現在も除染作業が進められている。当初、汚染土壌の処理において、重金属汚染土壌の処理法が転用されたが、この方法は主として湿式洗浄法であり、廃水処理の問題が生じた。
湿式洗浄法に代わる方法として、汚染土壌からセシウムを抽出(酸等)し、紺青やゼオライトで吸着分離する方法(例えば特許文献1参照)、吸着剤に磁性物質を結合させた吸着剤を用いてセシウムを除去する方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。これらの方法も廃液処理が必要であり、また廃棄物量が多い。さらに土壌の磁性物質を超伝導などで分離する方法も提案されているが、この方法は吸着量が少ない。
一般に、汚染土壌は、粒度の異なる各種土壌構成成分のほかに、木片からフミン物質に至る有機物などから構成されているが、土壌組成を問わず20μm程度の粘土成分を分離除去するだけで指定廃棄物の基準である8000Bq/kgを下回ることが確認されている。以上のことから、本来、篩選別により粘土を分離できれば除染は完了する。しかしながら、2mm(2000μm)程度以下の土壌の篩選別は目詰まりを起こし、篩選別では適応できない。よって比重差分離技術や加熱減容技術に期待が集まるが、排水処理や投入エネルギー量の削減等の克服すべき課題がある。
これらに対して本件発明者らは、放射性汚染土壌の減容化システムの早期確立を目指し、ナノカルシウム法を開発した(例えば特許文献3参照)。ナノカルシウム法は、鉄粉を含むカルシウム系薬剤を使用し、これを汚染土壌と混合し、土壌間隙水を利用し土壌表層に鉄粉を固着させた後に、磁力選別を用いて放射性物質を高濃度に含む土壌を分離する。この方法は、土壌質量と磁石強度のバランスによって100μm程度の微小な土壌(以下、細土とする)を常温下で分離することが可能であり、常温下で排水を全く発生させることなく汚染土壌量を1/3以下にすることが可能である。
特開2013−50313号公報 特開2013−174502号公報 特許第5246818号公報
中間貯蔵施設から最終処分場に向かう汚染土壌の減容化技術については、現在のところ湿式比重差分離技術と加熱減容化技術が有力である。しかしながら、いずれも克服すべき課題があり、可能な限り簡便で迅速な前処理方法を開発し、処理すべき汚染土壌量を削減することが求められている。本件発明者らが開発したナノカルシウム法は、簡便な操作で迅速に汚染土壌を処理することができるため前処理方法として好適であるが、使用すべき薬剤のコスト低減、添加量の削減に改善の余地がある。
本発明の目的は、余分な廃棄物を発生させることなく簡単な操作で安価に実施可能な粉粒体状の汚染物の処理方法を提供することである。
本発明は、粉粒体状の汚染物と薬剤とを混合する混合工程と、前記混合工程で得られる混合物を磁力選別して、磁着物と非磁着物とに選別する磁力選別工程と、を含み、前記汚染物は、粒度により汚染物質の濃度が異なり、前記薬剤が、マグネタイト粒子粉末であり、前記マグネタイト粒子粉末の粒径及び/又は磁気特性を制御することで前記磁着物の粒径又は磁着量を制御し、前記磁気特性に表面電荷、保持力Hc、飽和磁化σsが含まれることを特徴とする汚染物の処理方法である。
本発明において、前記粉粒体状の汚染物が塊状物を含有し、前記混合工程において前記塊状物を解砕しながら粉粒体状の汚染物と薬剤とを混合することを特徴とする。
本発明において、前記マグネタイト粒子粉末の平均一次粒子径が100〜500nmであることを特徴とする。
また本発明において、前記汚染物に対する前記薬剤の添加量が0.05〜9重量%であることを特徴とする。
また本発明は、さらに前記混合工程に先立ち行う、粉粒体状の汚染物を分級する乾式分級工程を含み、前記混合工程では、前記乾式分級工程を経て得られる予め定める粒径以下の汚染物を使用することを特徴とする。
また本発明において、前記汚染物は、汚染物質が主として粉粒体状の固体の表面に固着及び/又は付着した汚染物であることを特徴とする。
また本発明において、前記汚染物質が放射性物質であることを特徴とする。
また本発明において、前記粉粒体状の汚染物が、放射性物質汚染土壌であることを特徴とする。
本発明の汚染物の処理方法を使用することで余分な廃棄物を発生させることなく汚染物を処理することが可能である。本処理方法は、使用する薬剤がマグネタイト粒子粉末のみであるから種々の粉粒体状の汚染物の処理を安価に実施することができる。本処理方法を放射性物質汚染土壌の処理に使用すれば、余分な廃棄物を発生させることなく簡単な操作で放射性物質汚染物等の濃縮、あるいは除染が可能であり、大量に存在する放射性物質汚染土壌の前処理方法として好適に使用することができる。
本処理方法は、マグネタイト粒子粉末の粒径、磁気特性等を制御することで、磁着物の粒径、量を制御することができるため、種々の汚染物の処理、幅広い用途に使用することができる。またマグネタイト粒子粉末を使用すれば、赤さび、赤水発生の心配もなく薬剤として好ましい。
放射性物質で汚染された土壌などは、粒径(粒度)の小さい物ほど放射性物質の濃度が高く、逆に粗粒物の放射性物質の濃度は比較的低い。このため予め乾式分級により粗粒物を取り除き、残りの汚染土壌を磁力選別すれば効率的に放射性物質汚染物の濃縮、除染が行える。
本発明の第1実施形態の粉粒体状の汚染物の処理手順を示すフロー図である。 本発明の第2実施形態の粉粒体状の汚染物の処理手順を示すフロー図である。 本発明の実施例に記載の磁着選別試験の様子を示す図である。 本発明の実施例に記載の磁着選別試験の結果であって、各薬剤の磁選回数を示した図である。 本発明の実施例に記載の磁着選別試験の結果であって、各薬剤の磁選率を示した図である。 本発明の実施例に記載の磁着選別試験の薬剤Aを使用した磁着土壌、残渣土壌の顕微鏡写真である。 本発明の実施例に記載の磁着選別試験の薬剤Aを使用した磁着土壌及び残渣土壌を酸処理した後の顕微鏡写真である。 本発明の実施例に記載の薬剤低減試験で使用した磁選器概略図である。 本発明の実施例に記載の薬剤低減試験の結果であって、土壌サイズと磁着割合との関係を示す図である。 本発明の実施例に記載の薬剤低減試験の結果であって、土壌サイズと磁着割合との関係を示す図である。 本発明の実施例に記載の薬剤低減試験の結果であって、土壌サイズと磁着割合との関係を示す図である。 本発明の実施例に記載の放射性物質汚染土壌の除染試験の磁着土壌、残渣土壌の顕微鏡写真である。 本発明の実施例に記載の放射性物質汚染土壌の除染試験の磁着土壌、残渣土壌のSEM写真及び磁着土壌のEDXマッピング(Fe)である。
図1は、本発明の第1実施形態の粉粒体状の汚染物の処理手順を示すフロー図である。本発明の第1実施形態の汚染物の処理方法は、粉粒体状の汚染物と薬剤である強磁性粉末及び/又は常磁性粉末とを混合する混合工程(ステップS1)と、混合工程で得られる混合物を磁力選別して、磁着物と非磁着物(残渣)とに選別する磁力選別工程(ステップS2)とを含む。
本処理方法の処理メカニズムの概要は、次の通りである。粉粒体状の汚染物と薬剤である強磁性粉末及び/又は常磁性粉末とを混合し、これらを磁力選別し磁着物と非磁着物(残渣)とを得る。強磁性粉末及び/又は常磁性粉末は、比表面積の関係から粒径の小さい汚染物に吸着し易く、磁着物は、非磁着物に比較して粒度が小さい。放射性物質汚染土壌に代表されるように、通常、粒径の小さい物ほど汚染物質の濃度が高い。このため本処理方法を用いて放射性物質汚染土壌を処理することで放射性物質汚染物の濃縮、除染等を行うことができる。以下、本処理方法を詳述する。
本処理方法で対象とする汚染物は、粉粒体状の汚染物であり、粒径により汚染物質の濃度が異なる汚染物である。このような汚染物としては、汚染物質が主として粉粒体状の固体の表面に固着、吸着又は付着した汚染物が挙げられる。粉粒体状の固体は、粒径の小さい物ほど比表面積が大きいため、汚染物質が主として粉粒体状の固体表面に固着、吸着又は付着した汚染物は、通常、粒径の小さい物ほど汚染物質の濃度が高くなる。
粉粒体状の汚染物の粒径は、特に限定されるものではないが、本処理方法は、篩分けが難しい汚染物の処理に好適に使用することができる。粒径により汚染物質の濃度が異なる粉粒体状の汚染物としては、汚染物質が重金属、ダイオキシン類、PCB、農薬など残留性有機汚染物質(POPs)、放射性物質等であり、汚染物として前記汚染物質に汚染された土壌、焼却灰、瓦礫、廃プラスチック、木くず、さらにはこれらの混合物が挙げられる。放射性物質も特定の物質に限定されるものではなく、セシウムCs、プルトニウムPu、ウランU、ラジウムRaなど幅広い放射性物質を対象とすることができる。
汚染物の含水率も特に限定されるものではない。絶乾状態の汚染物、握ると団子状になる程度の水分を含む土壌等であってもそのまま処理することができる。
粉粒体状の汚染物の中には、土壌のように粉粒体状の汚染物が塊状となったものが含まれる場合もある。このような塊状物を含む粉粒体状の汚染物も本処理方法で処理可能であり、塊状物を含む粉粒体状の汚染物の場合、混合工程(ステップS1)において塊状物を解砕しながら薬剤と混合させればよい。
薬剤には、強磁性粉末、常磁性粉末、あるいは強磁性粉末と常磁性粉末との混合物を使用することができる。強磁性粉末としてはFe−Ni合金,Fe−Co合金,Ni−Co合金,ステンレス(Fe−Ni−Cr),Mn−Al磁石,サマリウム磁石,ネオジウム磁石,マグネタイト,マグヘマタイト,Baフェライト等の粉末が挙げられる。常磁性粉末としては、アルミニウム,三酸化二クロム,酸化コバルト,一酸化鉄,水酸化第一鉄,ウスタイト,含水酸化鉄(δ以外)等の粉末が挙げられる。中でも酸化鉄を主成分とする強磁性粉末が好ましい。強磁性粉末等と粉粒体状の汚染物とを混合すると、汚染物の表面に強磁性粉末等が吸着する。
以下に、強磁性粉末が汚染物に吸着する想定メカニズムを、汚染物を土壌として説明する。土壌は、同形置換効果により土壌表面が負に帯電しているため、土壌表面には正電荷をもつカチオンが集積している。このような状況下、負に帯電した強磁性粉末を添加すると、カチオン周辺に吸着し、結果として土壌に吸着する。電荷量が多ければカチオンと強く吸着することになる。一方で、自身の電荷反発及び土壌表層電荷との静電反発により、負の荷電量が多くなればなるほど分散力が増し、土壌表層に均一に拡散しようとする。
上記想定メカニズムの下、少ない薬剤の使用量で汚染物を効率的に処理するには、強磁性粉末は、次の特性を備えるものが好ましい。
強磁性粉末の粒径は、被処理物である汚染物の粒径より異なるが、汚染土壌等を被処理物とするような場合には平均一次粒子径が100〜500nm程度のものが好ましい。強磁性粉末の粒子径が小さい程、粉粒体状の汚染物との接触面積が増加し、汚染物へ吸着し易くなる。平均一次粒子径の大きい強磁性粉末を使用すると吸着する粒体状の汚染物の粒度が大きくなり、結果、粒度の小さい粉粒体状の汚染物の回収が難しくなる。一方、平均一次粒子径が100nmを下回るようなサイズの強磁性粉末は、あらゆるサイズの汚染物に吸着するため、汚染物の分級が難しくなる。また一次粒子径が100nmを下回るようなサイズの強磁性粉末は、凝集力が強く解砕が難しくなる。
強磁性粉末の粒度分布は、小さいものが好ましく、シャープな粒度分布をもつ強磁性粉末を使用すれば、分画する汚染物も比較的シャープに分けることが可能となる。後述の実施例に示すように強磁性粉末の粒度分布は、分級土壌粒子を100μm前後に設定している状況で、粒子径は磁選率に最も大きく影響すると考えられ、強磁性粉末の粒度分布のうちD50が100μm以下であることが好ましい。
また強磁性粉末は、分散性に優れるものが好ましい。分散性に優れる強磁性粉末は、凝集物を作り難く、強磁性粉末同士の凝集が抑制され、汚染物と混合した際に均一に分散される。結果、少ない使用量で効率的に微小粒子の分離等が行える。
強磁性粉末の分散性は、表面電荷に大きく影響を受け、負の帯電量が大きい強磁性粉末が分散し易い。負の帯電量が小さければ分散力が弱く、汚染物と混合したとき強磁性粉末の濃度斑を発生させ易い。また保磁力Hcは、小さいものが分散し易い。但し、強磁性粉末の表面電荷は、周囲の環境により変化するため、粉粒体状の汚染物に吸着し易い強磁性粉末を使用することで分散性が高まる。
また強磁性粉末は、単位重量あたりの汚染物への吸着量が多いものが好ましい。これにより少ない使用量で効率的に微小粒子の分離等が行える。飽和磁化σsは、単位重量あたりの強磁性粉末でどれだけの汚染物を磁石に吸着可能かを示す指標であり、飽和磁化σsが大きいほど汚染物が磁石に吸着し易い。
また強磁性粉末は、残留磁化σrの小さいものが好ましい。残留磁化σrは、磁力選別時における磁着物の磁石からの分離し易さを示す指標であり、残留磁化σrが小さい程磁石から分離し易い。残留磁化σrの小さいものを使用することで、磁選機を小型化し、あるいは処理速度を上げ、処理時間を短縮することができる。また残留磁化σrが高ければ2次凝集する際の粒子径に影響を与えることが予想される。
また強磁性粉末は、保磁力Hcがゼロに近いものが好ましい。保磁力Hcがゼロに近いものほど残留磁化をゼロとするために必要な逆方向に加える磁場が小さく、磁選機を小型化し、あるいは処理速度を上げることができる。
以上のような特性を備える酸化鉄を主成分とする強磁性粉末としては、マグネタイトFeを主成分とする強磁性粉末が挙げられる。マグネタイトは、磁性材料としての特性を強く示すため、吸着(補助)剤を利用せずとも土壌に対して静電的に物理吸着可能である。またマグネタイトFeは、飽和磁化σsなどの磁気特性や帯電量を調節可能であり、本処理方法の強磁性粉末として好ましい。またマグネタイトは、製造が容易で安価に製造可能であり、食品添加物にも利用される材料であるから人体に対しても有害性は低く、赤さび、赤水発生の心配もなく薬剤として好ましい。
ここで使用可能なマグネタイト粒子粉末の形状は、特定のものに限定されるものではない。マグネタイト粒子粉末は、八面体、球状又は六面体を呈したものなどが知られており、特徴的な粒子形状のものとして、粒子表面に粒状の突起物があるマグネタイト粒子、表面の面数が少なくとも10以上の多面体を有するマグネタイト粒子などがある。
磁性粉末の分散性を向上させる方法として、AlやSiなどの無機化合物による処理、界面活性剤、カップリング剤を用いた表面改質が知られているが、これらの方法を酸化鉄を主成分とする強磁性粉末に適用してもよい。
粉粒体状の汚染物と薬剤との混合割合は、特定の割合に限定されるものではない。マグネタイトFeを主成分とする強磁性粉末を使用する場合、後述の実施例に示すように粉粒体状の汚染物に対して0.01〜10重量%程度添加すればよくより好ましくは0.05〜9重量%、より好ましくは0.5〜8重量%である。磁力選別工程(ステップS2)において、表面磁束密度の大きい磁石を使用し、及び/又は磁着面積を大きくすれば相対的に磁着量が増大するため、薬剤の添加量を低減させることができる。
第1ステップ(S1)で行う汚染物と薬剤との混合操作は、特定の条件に限定されるものではない。粉粒体状の汚染物と薬剤とを均一に混合できればよい。混合装置も特定の混合装置に限定されるものではない。汚染物が塊状物を含み、塊状物を解砕しながら薬剤と混合させるような場合には、それに適した混合装置を使用すればよい。混合時間も特に限定されるものではなく、後述の実施例に示すように短時間でよく、混合操作は、常温、大気圧下で行えばよい。
第2ステップ(S2)では、第1ステップで得られた混合物を磁石(マグネット)を用いて分離する(磁力選別工程)。汚染物が土壌の場合、粒径の小さいシルト、粘土は、比表面積が大きく薬剤が吸着し易い。さらに土壌自体の自重も軽いため磁石に吸着され易い。一方、礫、砂は、比表面積が小さいため薬剤が吸着し難く、さらに自重も重いため磁石に吸着され難い。これにより粒径の小さい土壌を磁着物として回収することができる。これらは土壌以外の粉粒体状の固体にも当てはまる。
第1ステップ(S1)で行う汚染物と薬剤との混合操作において、汚染物同士の接触等により汚染物の表面が研磨され、微粉が発生する場合がある。このような微粉も粒径が小さいため強磁性粉末が吸着し易く、さらに自重も軽いため磁石に吸着され易い。
鉄粒子も強磁性粉末であるが、鉄粒子粉末は、酸化鉄に比較して比重が大きく、被処理物である土壌との比重差も大きいため本処理方法の薬剤としては好ましくない。後述の実施例に示すようにマグネタイトFe粒子粉末を薬剤として使用し、本処理方法を用いた放射性物質汚染土壌の除染試験では、土壌表面にマグネタイトFe粒子粉末が均一に付着していた。この理由の1つとしてマグネタイトFeの比重が土壌とほぼ同じであることから、界面を形成することなく、効果的に土壌表層に拡散したことが考えられる。
また鉄粒子は、飽和磁化σsは高いが、マグネタイトFe粒子粉末に比較すると粒子径が大きい。このためマグネタイトFe粒子粉末と異なり、鉄粒子粉末を本処理方法の薬剤として使用しても汚染物を分画することは難しい。
図2は、本発明の第2実施形態の粉粒体状の汚染物の処理手順を示すフロー図である。第2実施形態の処理方法は、混合工程に先立ち、粉粒体状の汚染物を分級する乾式分級工程(ステップS11)を有する点が、第1実施形態の処理方法と異なる。被処理物である粉粒体状の汚染物、使用する薬剤は、第1実施形態の処理方法と同一であるので説明を省略する。
第1実施形態の処理方法では、混合工程(ステップS1)において、粉粒体状の汚染物と薬剤とを混合するが、第2実施形態の処理方法では、粉粒体状の汚染物を乾式分級し、粗粒物を除いた後の汚染物に薬剤を添加、混合し(ステップS12)、磁力選別する(ステップS13)。磁力選別工程は、第1実施形態の磁力選別工程と同じである。
乾式分級工程では、篩などを用いて粉粒体状の汚染物を分級し、粒度の大きいものを粗粒物として取り除く。粗粒物の粒度は、特定の粒度に限定されるものではなく、汚染物との関係で適宜決定すればよい。例えば、放射性物質で汚染された土壌などは、粒度の小さい物ほど放射性物質の濃度が高く、逆に粗粒物の放射性物質の濃度は比較的低いことが知られている(例えば、特開2013−242210号公報の表1)。このため予め乾式分級により粗粒物を取り除き、残りの汚染土壌を磁力選別すれば効率的に放射性物質汚染物の濃縮、除染が行える。
乾式分級は、予め定める粒度に分級することが可能であれば、分級方法、装置型式は特に限定されない。分級効率が高く、安価で処理速度の大きい乾式分級装置であることが好ましいことは改めて言うまでもない。必要に応じて集じん装置を併設してもよい。乾式分級装置としては、篩、振動篩、重力分級機(風力分級機)、サイクロンなどの遠心分級機、ルーバー型分級機などの慣性分級機を使用可能であり、分級する粒度、処理速度等を考慮し、適宜選択することができる。
第1実施形態又は第2実施形態に示す処理方法を放射性物質汚染土壌の処理に使用すれば、余分な廃棄物を発生させることなく簡単な操作で放射性物質汚染物等の濃縮、あるいは除染が行えるので、大量に存在する放射性物質汚染土壌の前処理方法として好適に使用することができる。
以上、第1実施形態又は第2実施形態を用いて説明したように本発明の粉粒体状の汚染物の処理方法を使用することで余分な廃棄物を発生させることなく汚染物を処理することができる。本処理方法は、使用する薬剤が強磁性粉末及び/又は常磁性粉末のみであるから種々の粉粒体状の汚染物の処理を安価に実施することができる。また本処理方法は、強磁性粉末及び/又は常磁性粉末の粒径、磁気特性等を制御することで、磁着物の粒径、量を制御することができるため、少ない薬剤の量で効率的に汚染物を処理可能である。さらに本処理方法を種々の汚染物の処理、幅広い用途に使用することができる。
以下の要領で製造したマグネタイト粒子粉末を用い、磁着選別試験、薬剤低減試験及び放射性物質汚染土壌の除染を行った。
マグネタイト粒子粉末の調製
マグネタイト粒子粉末の製造方法の代表例を示す。Fe2+を1.5mol/Lを含む硫酸第一鉄水溶液16L(Fe2+:24mol)と3.0Nの水酸化ナトリウム溶液16.8Lと(Fe2+に対し1.05当量に該当する。)を混合し、第一鉄塩懸濁液の生成を行った。上記第一鉄塩懸濁液を温度90℃において毎分70Lの空気を通気して酸化反応を行い、マグネタイト粒子を生成した。生成粒子は、常法により、水洗、濾別、乾燥、粉砕し、マグネタイト粒子粉末を得た。製造時のpH、製造後の表面処理により表1に示す性状のマグネタイト粒子粉末を得て、これらを薬剤A,B−1,B−2,B−3,Cとした。
BET比表面積は、カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン合同会社製モノソーブによるデータである。かさ密度ρaは、JIS K5101に従い、カサ比重測定器((株)蔵持科学機械製作所)を用いて測定を行った。タップ密度ρtは、振盪比重測定器((株)蔵持科学機械製作所)を用い、25mlのタッピングセルに粉末を落下させ、セルが満杯に充填された後、ストローク長25mmでタッピングを600回行って測定した。磁気特性は、振動試料型磁力計TM−VSM2130HRHL型((株)玉川製作所)を使用して測定した。
マグネタイト粒子粉末の平均一次粒子径は、電子顕微鏡写真から測定した数値の平均値で示した。粒度分布は、レーザーマイクロンサイザーLMS−2000e((株)セイシン企業)を使用して測定した。帯電量は、ブローオフ粉体帯電量測定装置TB−200(東芝ケミカル社)を用い、キャリアはTFV−200/300(パウダーテック社製)を用いてマグネタイト粒子粉末を5%の濃度で混合して、振盪を30分間行った後に測定した。
実施例1〜5:磁着選別試験
畑の土壌(名称:KSO)を用い、下記要領で各薬剤を使用した磁着選別試験(分級土壌粒子を100μm前後に設定)を行い、薬剤の土壌吸着特性を明らかにした。図3に磁着選別試験の様子を示した。
13.4gの土壌を図3に示す専用の混合瓶内に入れ、続いて、表1に示す薬剤(マグネタイト粒子粉末)を土壌量に対して0.4g加えた。混合瓶に封をして約10秒程度撹拌した。全体が黒くなったところで混合瓶の上端に鉄心を挿入し、さらに磁石を付けて数回混合瓶全体を振ったのちに、瓶上部のプラスチックカバーを外し、受け器の上で磁石と鉄心を引き抜き、磁着土壌を回収した。1回当たりの磁着量が初期土壌量の2wt%を下回るまで磁着選別操作を繰り返した。
図4に、磁着選別試験時の各薬剤の初期土壌全量の2wt%以下が磁着されるようになった回数を示した。図4の縦軸は重量で表現しているが、0.2gを下回れば、0.2g/13.8g×100≒1.5wt%以下の回収率であることを示している。試験回数は3回行い、その平均を示した。図5には、各薬剤の磁選率を示した。磁選率は、土壌+薬剤重量に対する磁着物の重量割合である。
いずれの薬剤も目視レベルでは土壌に黒い粉末粒子が万遍なく拡散していた。図4に示すように薬剤B−3及び薬剤Cについては、3〜4回の磁着操作で磁着可能な粒子を回収し終えた。回収された土壌重量(土壌+薬剤重量を土壌重量とみなす)は、薬剤B−3で0.904g(磁選率6.6wt%)、薬剤Cで1.054g(磁選率7.6wt%)であった。薬剤A、薬剤B−1、薬剤B−2については、さらに磁着され、全量の2wt%を下回る回収量となるには5〜10回程度の磁着回数を必要とし、最終的にそれぞれ3.30g(磁選率23.9wt%)、2.79g(磁選率20.2wt%)、及び3.92g(磁選率28.4wt%)が磁着した。回収された土壌重量から見た薬剤の吸着特性は、B−3<C<<B−1<A<B−2となった。
本実施例では、薬剤B−3及び薬剤Cの磁選率が約7〜8%と小さくなっているが、鉄粉と比較すれば磁選率は圧倒的に高い。後述の比較例1は、薬剤に鉄粉と着磁を補助する物質である澱粉と水とを使用し、放射性物質汚染土壌を処理したものであるが、着磁を補助する物質を添加したにも関わらず、磁選率はわずか2.8wt%であった。この結果から薬剤に鉄粉のみを使用すれば、磁選率はさらに小さく1%にも達しないことが予測される。
図6は、薬剤Aを使用した磁着土壌、残渣土壌の顕微鏡写真である。また図7は、以下の要領で得た薬剤Aを使用した磁着土壌及び残渣土壌を酸処理した後の顕微鏡写真である。計量ボート上に、磁選後の磁着土壌及び残渣土壌をそれぞれ0.2gずつ計り取った。次いで、L字型試験管に各土壌を移し替え、各々0.01Mの塩酸を2.0mLずつ加え、200rpmで30分間撹拌を行った。撹拌終了後、0.45μmメンブレンフィルターを付したロートを用いて吸引ろ過を行った。続いて、蒸留水で洗浄した後にメタノールで置換した。酸処理後の土壌粒子はデシケータ内で乾燥した。同様の操作を残渣土壌においても行い、乾燥後、磁着土壌と残渣土壌をそれぞれ光学顕微鏡で観察した。
負の帯電量の高く分散性に優れる薬剤Aの磁着土壌及び残渣土壌の顕微鏡写真を観察すると、微粒子は磁着粒子側に、粗粒子は残渣側に分離していることが分かる。
実施例6〜8:薬剤低減試験
粒径が2mm以下の土壌(真砂土)と、表1に示す薬剤A及び薬剤B−1を用い、図8に示す蓋付きの樹脂製容器11(直径70mm×高さ80mm)の側面に高磁力の磁石12(幅10mm×厚さ10mm×高さ60mm)を3本取付けた装置を磁選器1とし、以下の要領で薬剤低減試験を行った。
土壌20gと所定量の薬剤A又は薬剤B−1とを磁選器1に入れ、封をして十分に撹拌した。蓋を外し容器11をひっくり返し非磁着土壌を取出した。その後、磁石12を取外し、磁着土壌を回収した。その後、回収した非磁着土壌を磁選器1に投入し、1回当たりの磁着量が初期土壌量の2wt%を下回るまで上記操作を繰り返した。
薬剤A及び薬剤B−1の土壌に対する添加量は、薬剤Aが0.1wt%、0.05wt%、薬剤Bが0.1wt%とした。評価は、磁着土壌、非磁着土壌それそれを振動篩を用いて粒度を106μm以下、106〜250μm、250〜500μm、500〜1000μm、1000〜2000μmに分級し、粒度毎の磁着量、非磁着量を求めることで行った。
結果を図9〜図11に示した。図9が薬剤Aで添加量が0.1wt%、図10が薬剤B−1で添加量が0.1wt%、図11が薬剤Aで添加量が0.05wt%の結果である。薬剤A及び薬剤Bの添加量0.1wt%の結果を比較すると、全体的に同じ傾向を示し粒度の小さい土壌ほど磁着割合が高くなっている。粒度毎の磁着割合を薬剤Aと薬剤Bとで比較すると、粒度の大きい土壌において薬剤Bの磁着割合が若干大きくなっているが、大きな差はない(図9及び図10参照)。
薬剤Aの添加量0.1wt%と添加量0.05wt%との結果を比較すると、全体的に添加量0.1wt%の方が磁着量が多いが、粒度の小さい土壌ほど磁着割合が高くなっている点に変わりはない。また粒径が106μm以下の土壌においては、添加量0.1wt%と添加量0.05wt%とで磁着割合に大きな差はない。
実施例9:放射性物質汚染土壌の除染
薬剤Aを用いて、放射性物質汚染土壌の除染試験を以下の要領で行った。混合装置には、横型2軸式混合装置を使用した。約10kgの放射性物質汚染土壌(初期含水量28wt%)を採土し、有機物を手選した。さらに篩で2mmオーバーとアンダーとに分画した。2mmオーバー及び有機物量は合わせて4.55kg(うち、有機物量は0.05kg)、2mmアンダー土壌は5.45kgとなった。次に、2mmアンダー土壌に対して、3wt%の薬剤Aを加えた。この混合物のうち3.3kg(14,300Bq/kg)を用いて500kg/hの処理速度で混合装置により混練(2分弱で終了)し、続いて磁力選別を行った。
結果を表2に示した。磁着土壌量と残渣土壌量は、それぞれ1.1kg(23,600Bq/kg)、残渣は1.7kg(7,660Bq/kg)となり、装置内に0.5kg滞留した。同様の処理を繰り返すことで、最大、残渣土壌の放射性物質濃度は3,430Bq/kgまで低下した。磁着土壌及び残渣土壌の外観及び顕微鏡写真を図12に示した。図12(a)は磁着土壌の外観、図12(c)は磁着土壌を希酸で洗浄した後の顕微鏡写真、図12(b)は残渣土壌の外観、図12(d)は、残渣土壌を希酸で洗浄した後の顕微鏡写真である。また図13は、磁着土壌、残渣土壌の走査型電子顕微鏡写真及び磁着土壌のEDXマッピング(Fe)である。
図13の表面観察の結果から、マグネタイトFe粒子粉末は、放射性物質汚染土壌に対して極めて早い速度で混練されるにも拘らず放射性物質汚染土壌に均一に分散したことが分かる。
比較例1
薬剤に鉄粉と澱粉との混合物を使用した。澱粉は、放射性物質汚染土壌と鉄粉との着磁を補助する物質として使用した。鉄粉は、(株)神戸製鋼所の市販品(70KA,99%純度、密度7.85g/cm)を用い、澱粉は、トウモロコシあるいは芋由来の試薬を用いた。放射性物質汚染土壌50gに対して、鉄粉1.44g、澱粉0.04g、さらに水を2ml添加し、混合、磁選を行ったところ、磁着土壌量は、2.8wt%であった。
1 磁選器
11 容器
12 磁石

Claims (7)

  1. 粉粒体状の汚染物と薬剤とを混合する混合工程と、
    前記混合工程で得られる混合物を磁力選別して、磁着物と非磁着物とに選別する磁力選別工程と、を含み、
    前記汚染物は、粒度により汚染物質の濃度が異なり、
    前記薬剤が、マグネタイト粒子粉末であり、前記マグネタイト粒子粉末の粒径及び/又は磁気特性を制御することで前記磁着物の粒径又は磁着量を制御し、
    前記磁気特性に表面電荷、保持力Hc、飽和磁化σsが含まれることを特徴とする汚染物の処理方法。
  2. 前記マグネタイト粒子粉末の平均一次粒子径が100〜500nmであることを特徴とする請求項1に記載の汚染物の処理方法。
  3. 前記汚染物に対する前記薬剤の添加量が0.05〜9重量%であることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の汚染物の処理方法。
  4. 前記粉粒体状の汚染物が塊状物を含有し、前記混合工程において前記塊状物を解砕しながら粉粒体状の汚染物と薬剤とを混合することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の汚染物の処理方法。
  5. さらに前記混合工程に先立ち行う、粉粒体状の汚染物を分級する乾式分級工程を含み、
    前記混合工程では、前記乾式分級工程を経て得られる予め定める粒径以下の汚染物を使用することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の汚染物の処理方法。
  6. 前記汚染物は、汚染物質が主として粉粒体状の固体の表面に固着及び/又は付着した汚染物であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の汚染物の処理方法。
  7. 前記粉粒体状の汚染物が、放射性物質汚染土壌であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の汚染物の処理方法。
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