異常姿勢の症状の種類と程度は患者により異なる。例えば、ある患者は内反尖足となったが、別の患者は外反尖足となったり、ある患者は症状が軽いが、別の患者は重いなどである。障害の種類や部位や程度、及び筋肉や関節の特性などが、患者により異なるからである。
しかし、上述した従来技術による装具は、患者による症状の違いに柔軟に対応することが難しい。
本発明の一つの目的は、下肢又は上肢などの身体部位の姿勢異常の矯正、軽減又は防止のための人体装具を、いっそう柔軟に患者の症状の違いに対応できるように改良することである。
本発明の他の目的は、後の説明により提示される。
本開示の一実施形態に従う人体装具は、患者の下肢に装着されるものであって、患者の足に装着される足サポータと、患者の下腿に装着される下腿サポータと、足サポータを下腿サポータに連結する足連結機構と、足サポータと下腿サポータの相互間に弾性力を加える足付勢機構とを備える。
足連結機構は、足サポータのピッチング(例えば、背屈と底屈)とローリング(例えば、内転と外転)を可能にする回動機構を有する。
足付勢機構は、足のピッチングの方向での姿勢異常に対抗する弾性的な第一対抗力と、足の前記ローリングの方向での姿勢異常に対抗する弾性的な第二対抗力とを、足サポータと下腿サポータの相互間に加える複数の弾性部品を有する。
足付勢機構は、また、複数の弾性部品を調節することで、第一対抗力の調節と、第二対抗力の調節とを、相互に分離して又は独立して行なうことを可能にする第一の調節機構を有する。
このように構成された人体装具によれば、患者の足に対して、尖足に対抗するための背屈方向の第一対抗力を加えるとともに、内反足又は外反足に対抗するための第二対抗力を加えることができる。そして、第一対抗力と第二対抗力を分離して調節できるから、患者の足の症状や特性に応じ柔軟な対処が可能である。
同人体装具は、さらに次の構成を備えてよい。その構成とは、患者の大腿に装着される大腿サポータと、下腿サポータを大腿サポータに連結する膝連結機構と、下腿サポータと大腿サポータの相互間に弾性力を加える膝付勢機構である。
膝連結機構は、下腿サポータの大腿サポータに対する屈曲を可能にする屈曲機構を有する。
膝付勢機構は、患者の下肢の膝での屈曲による姿勢異常に対抗する弾性的な第三対抗力を、下腿サポータと大腿サポータの相互間に加える追加の弾性部品を有する。
膝付勢機構は、また、追加の弾性部品を調節することで、第三対抗力の調節を可能にする第二の調節機構を有する。
このように構成された人体装具によれば、足の姿勢異常だけでなく、下肢が膝で屈曲し固化した姿勢異常にも対処できる。そして、その膝の姿勢異常に対抗する第三対抗力を調節できるから、患者の症状や特性に応じた柔軟な対処ができる。
同人体装具は、また、上記した第一対抗力の調節が、第一対抗力の強度の調節を含み、上記した第二対抗力の調節が、第二対抗力の向きの選択と、第二対抗力の強度の調節とを含むように構成されてよい。
このように構成された人体装具は、とくに、第一対抗力の強度の調節と、第二対抗力の向きの選択と強度の調節とができるので、尖足、内反足、外反足、内反尖足及び外反尖足のいずれにも対処できる。
同人体装具において、上記した複数の弾性部品が、足サポータの左側部分に背屈方向の第一の弾性力を加える第一の弾性部品と、足サポータの右側部分に背屈方向の第二の弾性力を加える第二の弾性部品とを含むように構成され、そして、第一の調節機構が、第一の弾性部品の第一の弾性力の強度を調節する第一の調節部品と、第二の弾性部品の第二の弾性力の強度を調節する第二の調節部品とを含むように構成されてよい。
このような構成によれば、第一の弾性部品の弾性力と第二の弾性部品の弾性力をそれぞれ調節することで、尖足に対抗する第一対抗力の調節と、内反足又は外反足に対抗する第二対抗力の調節が、分離して行える。
同人体装具において、上記第一の調節機構が、第一と第二の対抗力をそれぞれ無段階で調節できるように構成されてよい。それにより柔軟な調節が容易である。
同人体装具において、上記回動機構が、患者の足首関節を左右方向に通るピッチ軸を中心にして前記足サポータをスウィング可能にするピッチング機構と、患者の足首関節を左前後方向に通るロール軸を中心にして前記足サポータをスウィング可能にするローリング機構とを含んでよい。
この構成によれば、ピッチ軸とロール軸がともに患者の足首関節を通っているので、足サポータのピッチング(背屈と底屈)とローリング(内転と外転)が患者の足首関節を中心になされる。したがって、ピッチング(背屈と底屈)とローリング(内転と外転)のとき、患者の足と足サポータとの間の相対的な位置の変化がほとんどなく、足サポータから患者の足への作用を適切な状態に維持できる。
別の一実施形態に従う人体装具は、患者の上肢に装着されるものであって、患者の手に装着される手サポータと、患者の前腕に装着される前腕サポータと、手サポータを前腕サポータに連結する手連結機構と、手サポータと前腕サポータの相互間に弾性力を加える手付勢機構とを備える。
手連結機構は、前記手サポータのピッチング(例えば、掌屈と背屈)とヨーイング(例えば、回内と回外)を可能にする回動機構を有する。
手付勢機構は、手のピッチングの方向での姿勢異常に対抗する弾性的な第一対抗力と、手の前記ヨーイングの方向での姿勢異常に対抗する弾性的な第二対抗力とを、前記手サポータと前記前腕サポータの相互間に加える複数の弾性部品を有する。
前記手付勢機構は、また、複数の弾性部品を調節することで、前記第一対抗力の調節と、前記第二対抗力の調節とを、相互に分離して又は独立して行なうことを可能にする第一の調節機構を有する。
このように構成された人体装具によれば、患者の手に対して、手のピッチングの方向での姿勢異常(例えば、手が掌屈した姿勢異常)に対抗するための背屈方向の第一対抗力を加えるとともに、手のヨーイングの方向での姿勢異常(例えば、手が回内又は回外した姿勢異常)に対抗するための第二対抗力を加えることができる。そして、第一対抗力と第二対抗力を分離して調節できるから、患者の手の異常姿勢の症状や特性に応じ柔軟な対処が可能である。
同人体装具は、さらに次の構成を備えてよい。その構成とは、患者の上腕に装着される上腕サポータと、前腕サポータを上腕サポータに連結する肘連結機構と、前腕サポータと上腕サポータの相互間に弾性力を加える肘付勢機構である。
肘連結機構は、前腕サポータの上腕サポータに対する屈曲を可能にする屈曲機構を有する。
肘付勢機構は、患者の上肢の肘での屈曲による姿勢異常に対抗する弾性的な第三対抗力を、前腕サポータと上腕サポータの相互間に加える追加の弾性部品を有する。
肘付勢機構は、また、上記した追加の弾性部品を調節することで、第三対抗力の調節を可能にする第二の調節機構を有する。
このように構成された人体装具によれば、手の姿勢異常だけでなく、上肢が肘で屈曲し固化した姿勢異常にも対処できる。そして、その肘の姿勢異常に対抗する第三対抗力を調節できるから、患者の症状や特性に応じた柔軟な対処ができる。
以下、いくつかの実施形態を説明する。本明細書及び請求の範囲において、「前」、「後」、「左、「右」、「上」泳簿「下」という用語は、患者が人体装具を装着して直立した状態において患者本人から見た前、後、左、右、上及び下をそれぞれ意味する。
図1は一つの実施形態に係る人体装具の側面図を示す。図2は同装具の正面図を示す。図3は同装具の背面図を示す。
図1〜図3に示された人体装具1は患者の下肢の姿勢異常、特に尖足、内反足及び外反足、並びにそれらの合併症状の矯正、軽減又は予防に役立たせることができる。この人体装具1は下肢に装着されるものであり、図1〜図3は右脚用のものを例示する。因みに、左脚用のものは、図示の人体装具1とは構造的には同じであるが、各部品の形状と配置がそれとは左右対称である。
図1〜図3に示されるように、下肢(右脚)用の人体装具1は、患者の下腿3に装着される下腿サポータ7と、患者の足5に装着される足サポータ9とを備える。
下腿サポータ7は、適度な柔軟性と剛性をもつ素材(例えば合成樹脂や布やそれらの複合材又は組合せなど)で作られ、患者の下腿3の少なくとも一部の表面にフィットする形状をもつ。図示の例では、下腿サポータ7は下腿3の後面(ふくらはぎ部分の表面)と左右両側面にフィットするが、必ずしもそうでなければならないわけではない。下腿サポータ7が下腿5の前面(向う脛部分の表面)と両側面にフィットするようになっていてもいい。要するに、下腿サポータ7は、下腿5に固定可能であれば、どのような形状でもいい。図示の例では、下腿サポータ7は、例えば締結ベルト11のような適当な締結具により、下腿3に固定される。
足サポータ9は、適度な柔軟性と剛性をもつ素材(例えば合成樹脂や布やそれらの複合材又は組み合わせなど)で作られ、患者の足5の少なく一部の表面にフィットする形状をもつ。図示の例では、足サポータ9は靴型の形状をもち、足5の底面と後面(踵の表面)と左右両側面と上面(甲部の表面)全部又は一部にフィットするが、必ずしもそうでなければならないわけでない。足サポータ9が、サンダルや草履のような形状を有して、患者の足9の主に底面にフィットするようになっていてもよい。要するに、足サポータ9は、患者の足5に固定可能であって、患者の足5に対して尖足、内反足及び外反足に対抗する力(後に説明される)を加えることが可能になっていれば、どのような形状でもいい。
足サポータ9は、下腿サポータ7に対して、少なくとも二つの異なる方向へスウィング可能である。
上記二つの異なる方向の内の一つは、足サポータ9が下腿サポータ7に対して(換言すれば、患者の足首5が下腿3に対して)上下に屈伸する方向、つまり背屈と底屈の方向である。この方向でのスウィングを本明細書では「ピッチング」といい、そのスウィングの中心軸を「ピッチ軸」という。図1に示すように、足サポータ9のピッチングの可動角度範囲αは、例えば、患者の足5のピッチング(背屈と底屈)の可動角度範囲をほぼカバーする。足サポータ9のピッチ軸は、患者の足5のピッチ軸と一致する、つまり患者の足首の関節を左右方向に通るように配置される。したがって、足サポータ9のピッチングは患者の足首関節を中心にして可能であるから、ピッチングを行なうとき足サポータ9と患者の足5の間の相対的な位置の変化がほとんどなく、足サポータ9から患者の足5への作用を適切な状態に維持できる。
足サポータ9のもう一つのスウィング方向は、図2と図3に示すように、足サポータ9が下腿サポータ7に対して(足首5が下腿3に対して)左右に屈曲する方向、つまり、内転と外転(内反と外反)の方向である。この方向のスウィングを本明細書では「ローリング」といいい、そのスウィングの中心軸を「ロール軸」という。足サポータ9のローリングの可動角度範囲βは、患者の足5のローリングの可動角度範囲をほぼカバーする。足サポータ9のロール軸は、患者の足5のロール軸と一致するように、つまり患者の足首の関節を前後方向に通るように配置される。したがって、足サポータ9のローリングは患者の足首関節を中心にして可能であるから、ローリングを行うとき患者の足5と足サポータ9との間の相対的な位置の変化がほとんどなく、足サポータ9から患者の足5への作用を適切な状態に維持できる。
上述した足サポータ9のピッチングとローリングを可能にするために、下腿サポータ7と足サポータ9との連結機構は例えば以下のような複合的な回動機構をもつ。
すなわち、下腿サポータ7と足サポータ9との間に軸受け部材13が設けられ、軸受け部材13を介して下腿サポータ7と足サポータ9が連結される。軸受け部材13は、例えばリング状の部材であって、その内側の空間はそこに患者の足5を容易に通せる程度のサイズをもつ。軸受け部材13は、患者の足首の関節の高さとほぼ同じ高さに配置される。
下腿サポータ7の下端部の左右両側の二つの部分71,73に、それぞれ二つの回転シャフト15,17を介して、軸受け部材13の左右両側の二つの個所が回動自在に結合される。回転シャフト15,17の中心軸は一直線で並び、その一直線がピッチ軸となる。足サポータ9のピッチ軸は、患者の足首関節を左右方向つまり真横方向に通るように、つまり、患者の足5のピッチ軸(背屈及び底屈のスウィングの中心軸)に一致するように配置される。したがって、足サポータ9は、患者の足5にフィットした状態を維持しながら、患者の足首関節を中心として患者の足5と一緒にピッチング(背屈及び底屈)し得る。
足サポータ9の上端部の前後両側の二つの部分91,93が、それぞれ二つの回転シャフト19,21を介して、軸受け部材13の前後両側の二つ個所に回動自在に結合される。回転シャフト19,21の中心軸は一直線に並び、その一直線がロール軸となる。そのロール軸は、患者の足首関節を前後方向に通るように、つまり、患者の足5のロール(内転及び外転)軸に一致するように配置される。したがって、足サポータ9は、患者の足5にフィットした状態を維持しながら、患者の足首関節を中心として患者の足5と一緒にローリング(内転及び外転)し得る。
軸受け部材13は、それに結合された下腿サポータ7の下端部の二つの部分71,73、及び足サポータ9の上端部の二つの部分91,99のいずれよりも、外側(つまり、患者の下腿からより遠い位置)に配置される。それにより、患者の足首に軸受け部材13が直接触れて患者の不自然感を与えることが殆どない。
人体装具1は、さらに、例えば二つの付勢部材31,33を有し、それらは下腿サポータ7と足サポータ9の相互間にピッチングとローリングの二つの運動方向への弾性力を印加する。
付勢部材31,33の各々は、例えば細長い棒のような全体形状を有し、その一端部が下腿サポータ7に取り付けられ、その他端部が足サポータ9に取り付けられて、下腿サポータ7と足サポータ9との間に懸架され、そして、下腿サポータ7と足サポータ9の間に引っ張り弾性力を加える。
すなわち、第一の付勢部材31は、引張コイルバネ311、直棒状の第1アーム313、直棒状の第2アーム315、及び調節ネジナット317を有する。引張コイルバネ311の一端部に第1アーム313の一端部が結合される。引張コイルバネ311の他端部に調節ネジナット317が、引張コイルバネ311の中心軸周りに回転自在に結合される。調節ネジナット317は第2アーム315の外面に形成された雄ネジに螺合される。
第一の付勢部材31の一端部は、下腿サポータ7の左側(内側)寄りの個所、例えば左側外面の所定個所に、接手41を介して取り付けられる。第一の付勢部材31の他端部は、足サポータ9の左側(内側)寄りの個所、例えば左側外面の所定個所に、接手43を介して取り付けられる。つまり、第一の付勢部材31は、下腿サポータ7の左側(内側)寄り個所と足サポータ9の左側(内側)寄り個所との間に懸架される。接手41,43は自在式又は柔軟な接手であり、足サポータ9のピッチング及びローリングの時、第一の付勢部材31の下腿サポータ7及び足サポータ9に対する相対角度の変化を受容する。
第一の付勢部材31の引張コイルバネ311が、下腿サポータ7の左側(内側)寄り個所と足サポータ9の左側(内側)寄り個所との間に引っ張り力を加える。この引っ張り力は、足サポータ9(つまり、患者の足5)を背屈させると共に内転させる働きをする。調節ネジナット317を回すことで、引張コイルバネ311と第2アーム315との相対的位置がほぼ無段階で変わるため、引っ張り力の強度をほぼ無段階で加減することができる。
第二の付勢部材33も、上述した第一の付勢部材31と同様の構成を有するが、左右の関係がそれとは逆である。
すなわち、第二の付勢部材33は、引張コイルバネ331、直棒状の第1アーム333、直棒状の第2アーム335、及び調節ネジナット337を有する。引張コイルバネ331の一端部に第1アーム333の一端部が結合される。引張コイルバネ331の他端部に調節ネジナット337が、引張コイルバネ331の中心軸周りに回転自在に結合される。調節ネジナット337は第2アーム335の外面に形成された雄ネジに螺合される。
第二の付勢部材33の一端部は、下腿サポータ7の右側(外側)寄りの個所、例えば右側外面の所定個所に、接手45を介して取り付けられる。第二の付勢部材33の他端部は、足サポータ9の右側(外側)寄りの個所、例えば右側外面の所定個所に、接手47を介して取り付けられる。つまり、第二の付勢部材33は、下腿サポータ7の右側(外側)寄り個所と足サポータ9の右側(外側)寄り個所との間に懸架される。接手45,47は自在式又は柔軟な接手であり、足サポータ9のピッチング及びローリングの時、第二の付勢部材33の下腿サポータ7及び足サポータ9に対する相対角度の変化を受容する。
第二の付勢部材33の引張コイルバネ331が、下腿サポータ7の右側(外側)寄り個所と足サポータ9の右側(外側)寄り個所との間に引っ張り力を加える。この引っ張り力は、足サポータ9(つまり、患者の足5)を背屈させると共に外転させる働きをする。調節ネジナット337を回すことで、引張コイルバネ331と第2アーム325との相対的位置がほぼ無段階で変わるため、引っ張り力の強度をほぼ無段階で加減することができる。
下腿サポータ7と足サポータ9の間に加わる第一の付勢部材31の引っ張り力(以下、第一の引っ張り力という)と第二の付勢部材33の引っ張り力(以下、第二の引っ張り力)の和が、足サポータ9から患者の足5に加わる背屈方向の力である。この背屈方向の力が、患者の足5の尖足を矯正、軽減又は予防する作用をなす。調節ネジナット317,337により、この背屈方向の力の強度がほぼ無段階で調節できる。
上記第一と第二の引っ張り力の差が、足サポータ9から患者の足5に加わる外転又は内転方向の力である。第二の引っ張り力が第一の引っ張り力より強く設定されたときは、患者の足5に外転方向の力がかかり、その逆のときは内転方向の力がかかる。この外転又は内転方向の力が、患者の足5の内反足又は外反足を矯正、軽減又は予防する作用をなす。調節ネジナット317,337により、この力の向きを外転方向か内転方向かに選択でき、かつ、その力の強度がほぼ無段階で調節できる。
このように、付勢部材31,33は、足サポータ9から患者の足5へ、尖足を矯正、軽減又は予防するための背屈方向の弾性力(以下、この力を尖足対抗力という)と、内反足又は外反足を矯正、軽減又は予防するための外転方向又は内転方向の弾性力(以下、この力を内外反足対抗力という)とを加える役目を果たす。そして、尖足対抗力はその強度が調節可能である。また、内外反足対抗力はその向き(外転方向か内転方向か)が選択可能であり、かつ、その強度が調節可能である。
二つの調節ネジナット317,337により第一と第二の引っ張り力をそれぞれ調節することで、尖足対抗力の調節と、内外反足対抗力の調整とを、互いに分離して、つまり独立して行うことができる。例えば、第一と第二の引っ張り力の強度の差を同じに維持しつつ、第一と第二の引っ張り力の強度を共に増す又は減らせば、内外反足対抗力は変化しないが、尖足対抗力が増加又は減少する。また、例えば、第一と第二の引っ張り力の強度の和を同じに維持しつつ、第一と第二の引っ張り力の一方の強度を増し、他方の強度を減らせば、内外反足対抗力の向き又は強度が変化するが、尖足対抗力は変化しない。
したがって、調節ネジナット317,337による第一と第二の引っ張り力の強度の調節することで、患者の症状の種類(例えば、尖足、内反足、外反足、内反尖足、又は外反尖足)、その症状の程度、患者の足の特性、患者の要望や好みなどに応じた適切な強度と方向の力を患者の足5に加えることができる。
なお、尖足対抗力と内外反足対抗力を提供する目的に、必ずしも上述した構成の付勢部材31,33を用いなければならないわけではなく、それとは異なる構造の付勢部材を用いてもよい。例えば、ピッチングのための回転シャフト15,17又はその周辺に、それぞれ、ピッチング方向への弾性力を発するバネ(例えば、捩じりコイルバネ、ぜんまいバネ又は板バネ)を取り付け、それらのバネから足サポータ9に尖足対抗力を加えるようにしてもよい。また、ローリングのための回転シャフト19,21又はその周辺に、それぞれ、ローリング方向への弾性力を発するバネ(例えば、捩じりコイルバネ、ぜんまいバネ又は板バネ)を共に取り付け、それらのバネから足サポータ9に内外反足対抗力を加えるようにしてもよい。その場合、それらのバネの下腿サポータ7、足サポータ9又は軸受け部材13に対する相対的な位置関係を変化させ得る調節具を、それぞれのバネに付属させることで、それらの調節具を用いて、尖足対抗力の強度の調節と、内外反足対抗力の向き(外転方向か内転方向か)の選択と強度の調節が可能である。また、バネの代わりに、ゴムやある種の合成樹脂など、弾性的に屈曲、捻転又は伸縮することが可能な弾性材料を用いることもできる。
図4は、別の実施形態に係る人体装具100の側面図を示す。図4において、図1〜図3に示された人体装具1と共通の部品には同じ参照番号を付し、以下では重複した説明を省略する。
図4に示された人体装具100は、図1〜図3に示された人体装具1と同じ構成に加えて、患者の大腿51に装着される大腿サポータ53を備える。図4では、大腿サポータ53の左側半分の部分のみが示され、右側半分の部分は見えないが、後者は前者とほぼ同様な構造とほぼ左右対称の形状とをもつ。
大腿サポータ53は、適度な柔軟性と剛性をもつ素材(例えば合成樹脂や布やそれらの複合材又は組合せなど)で作られ、患者の大腿51の少なくとも一部の表面にフィットする形状をもつ。図示の例では、大腿サポータ53は大腿51の後面と左右両側面にフィットするが、必ずしもそうでなければならないわけでない。大腿サポータ53が大腿51の例えば前面と両側面にフィットするようになっていてもいい。要するに、大腿サポータ53は、大腿51に固定可能であれば、どのような形状でもいい。図示の例では、大腿サポータ53は、例えば締結ベルト55,57のような適当な締結具により、大腿51に固定される。
大腿サポータ53は、下腿サポータ7に対して、患者の膝関節を中心にスウィングするように連結され、それにより、大腿サポータ53と下腿サポータ7が膝関節を中心に屈曲できる。すなわち、大腿サポータ53の下端部の左右両側の二つの部分531が、下腿サポータ7の上端部の左右両側の二つの部分75に、それぞれ二つの回転シャフト59を介して、回動自在に結合される。左右二つの回転シャフト59の中心軸は一直線で並び、その一直線が膝屈曲の中心軸となる。この膝屈曲の中心軸は、患者の膝関節を左右方向つまり真横方向に通るように配置される。したがって大腿サポータ53と下腿サポータ7は、患者の下腿3と大腿51にそれぞれフィットした状態を維持しながら、患者の膝関節を中心として患者の下腿3と大腿51と一緒に屈曲し得る。
大腿サポータ53と下腿サポータ7の間に、例えば二つの付勢部材61が設けられる。それらの付勢部材61は大腿サポータ53と下腿サポータ7の相互間に膝屈曲に対抗する弾性力(以下、この力を膝屈曲対抗力という)を印加する。
二つの付勢部材61の各々は、すでに説明した足サポータ9と下腿サポータ7との間の付勢部材31と基本的に同様の構造をもつ。すなわち、それら付勢部材61の各々は、例えば細長い棒のような全体形状を有し、その一端部が大腿サポータ53に取り付けられ、その他端部が下腿サポータ7に取り付けられて、大腿サポータ53と下腿サポータ7との間に懸架され、そして、大腿サポータ53と下腿サポータ7の間に膝屈曲対抗力を加える。
図示された左側の付勢部材61は、引張コイルバネ611、直棒状の第1アーム613、直棒状の第2アーム615、及び調節ネジナット617を有する。引張コイルバネ611の一端部に第1アーム613の一端部が結合される。引張コイルバネ611の他端部に調節ネジナット617が、引張コイルバネ611の中心軸周りに回転自在に結合される。調節ネジナット617は第2アーム615の外面に形成された雄ネジに螺合される。
左側の付勢部材61の一端部は、大腿サポータ53の左側(内側)寄りの個所、例えば左側外面における回転シャフト59より前方に位置する所定個所に、接手63を介して取り付けられる。左側の付勢部材61の他端部は、下腿サポータ7の左側(内側)寄りの個所、例えば左側外面における回転シャフト59より前方に位置する所定個所に、接手65を介して取り付けられる。つまり、左側(内側)の付勢部材61は、大腿サポータ53の左側(内側)寄り個所と下腿サポータ7の左側(内側)寄り個所との間に懸架される。接手63は自在式又は柔軟な接手であり、下腿サポータ7が大腿サポータ53に対して屈曲する時、付勢部材61の大腿サポータ53及び下腿サポータ7に対する相対角度の変化を受容する。
大腿サポータ53及び下腿サポータ7における上述の左側(内側)の付勢部材61とほぼ左右対称な右側(外側)位置にも、図示されてない右側(外側)の付勢部材が懸架される。右側(外側)の付勢部材も、上述の左側の付勢部材61とほぼ同じ構造をもつ。
大腿サポータ53及び下腿サポータ7の間に設けられた上記の二つの付勢部材61の引張コイルバネ611が、大腿サポータ53及び下腿サポータ7の相互間に弾性的な膝屈曲対抗力を加える。この膝屈曲対抗力の強度は、二つの付勢部材61の調節ネジナット617を回すことでほぼ無段階で加減できる。
この膝屈曲対抗力は、患者の下肢が膝関節で屈曲して固化してしまう姿勢異常を矯正、軽減又は予防する作用をなす。患者の症状の程度や患者の下肢の屈曲特性や要望や好みなどに応じて、膝屈曲対抗力が調節可能である。
なお、膝屈曲対抗力を提供する目的に、必ずしも上述した構成の付勢部材61を用いなければならないわけではなく、それとは異なる構造の付勢部材を用いてもよい。例えば、膝屈曲のための回転シャフト59又はその周辺に、それぞれ、屈曲とは逆方向への弾性力を発するバネ(例えば、捩じりコイルバネ、ぜんまいバネ又は板バネ)を取り付け、それらのバネから大腿サポータ53と下腿サポータ7間に膝屈曲対抗力を加えるようにしてもよい。あるいは、下腿サポータ7と大腿サポータ53の回転シャフト59より後方のそれぞれの所定個所間に、圧縮コイルバネを用いた付勢部材を懸架して、圧縮コイルバネが膝屈曲対抗力を発生するようにしてもよい。それらの場合、それらのバネの大腿サポータ53又は下腿サポータ7に対する相対的な位置関係を変化させ得る調節具を、それぞれのバネに付属させることで、それらの調節具を用いて、膝屈曲対抗力の強度の調節が可能である。また、バネの代わりに、ゴムやある種の合成樹脂など、弾性的に屈曲、捻転又は伸縮することが可能な弾性材料を用いることもできる。
図5は、また別の実施形態に係る人体装具200の側面図を示す。図5において、図1〜図4に示された人体装具1、100と共通の部品には同じ参照番号を付し、以下では重複した説明を省略する。
図5に示された人体装200は、図4に示された人体装具100において、足サポータ9と下腿サポータ7との間の連結構造に改変を加えて、足サポータ9が下腿サポータ7の長手方向の軸を中心にして回旋できる(換言すれば、患者の足5が下腿3の長手方向の軸を中心にして回旋できる、つまり、外旋及び内旋できる)ようにしたものである。この足サポータ9(足5)の回旋を本明細書では「ヨーイング」という。
すなわち、左右二本の足支持アーム81(図5では左側の足支持アーム81だけが示され。左側の足支持アームは見えない)の上端部が、下腿サポータ7の外面の左右両側の二つの個所に、二つの回転シャフト83を介してそれぞれ結合される。二つの回転シャフト83の回転中心軸は一直線に並び、その一直線は下腿サポータ7(下腿3)を左右方向に真横に通る。二本の足支持アーム81は、二つの回転シャフト83をそれぞれ中心にして、前後に揺動可能である。二本の足支持アーム81の下端部に、ピッチングのための二つの回転シャフト15,17を介して、軸受け部材13がピッチング可能に結合される。この構成が、足サポータ9の大腿サポータ7に対するヨーイング(つまり、患者の足5の回旋)を可能にする。
二本の足支持アーム81と下腿サポータ7との間に、足サポータ9のヨーイング(つまり足5の回旋)に対抗する弾性力(以下、この力を回旋対抗力という)を加える二つの付勢部材85が設けられる。
各付勢部材85は、弾性力を発する弾性部品、例えば捩じりコイルバネ86を有する。捩じりコイルバネ86の一端部は各足支持アーム81に取り付けられ、他端部は下腿サポータ7上に配置された調節ネジナット87に取り付けられる。調節ネジナット87は調節ネジボルト88に螺合される。調節ネジボルト88は下腿サポータ7上の一定個所に、ボルトシャンクの中心軸周りに回転可能な状態で、取り付けられる。調節ネジボルト88の頭部89を手で回すことで調節ネジボルト88が回転し、調節ネジナット87が移動し、捩じりコイルバネ86の捩じり量が変わり、その結果、足支持アーム81に加わるその揺動に対抗する弾性力の強度が変わる。
二本の足支持アーム81に加わる上記弾性力の差が、足サポータ9に対する回旋対抗力となる。二本の足支持アーム81に加わる上記弾性力の強度を調節ネジボルト87で調節することで、回旋対抗力の向き(外旋方向か内旋方向か)の選択と、回旋対抗力の強度の調節ができる。
なお、回旋対抗力を発生するために、上述した捩じりコイルバネ86を用いた構成に代えて、他の種類の弾性部品(引っ張りコイルバネ、圧縮コイルバネ、板バネ、その他の弾性材料など)を利用した様々な構成が採用し得る。
以上説明したいくつかの実施形態は、説明のための単なる例示であり、本発明の範囲をそれらの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、上記の実施の形態とは違うさまざまな形態で、実施することができる。
例えば、上述した実施形態に係る人体装具1,100,200はいずれも、下肢の姿勢異常に対処するためのものである。しかし、本発明の要旨の範囲内で、上肢の姿勢異常に対処するための人体装具を構成することもできる。
例えば、手が掌屈し(掌が前腕に近づくように手が手首関節で屈曲し)かつ回内又は回外し(手が前腕を回転軸にして親指方向又はその逆方向へ回旋し)、更に前腕が肘関節で屈曲した異常姿勢で固化することが、脳血管障害の患者の多くにみられる。
このような上肢の異常姿勢を矯正、軽減又は予防するために、例えば、次のような構成をもつ上肢用の人体装具が、本発明の要旨の範囲内で提供できる。
すなわち、その上肢用の人体装具は、患者の手、前腕及び上腕にそれぞれ装着可能な手サポータ、前腕サポータ及び上腕サポータを備える。
手サポータは、前腕サポータに対して、患者の手首関節を中心に掌屈及び背屈(つまりピッチング)可能であり、かつ前腕サポータの長手軸を中心に回内及び回外(つまりヨーイング)可能であるように、複合的な回動機構を介して連結される。前腕サポータは、上腕サポータに対して、患者の肘関節を中心に屈曲できるように連結される。
さらに、その上肢用の人体装具は、付勢機構を備える。その付勢機構は、手のピッチング、とくに掌屈に対抗する方向の弾性的な力(掌屈対抗力)と、手のヨーイングつまり回内と回外に対抗する弾性的な力(回内外対抗力)とを、手サポータと前腕サポータの間に加える。
その付勢機構は、掌屈対抗力の強度の調節と、回内外対抗力の向き(回外方向か回内方向か)の選択と、回内外対抗力の強度の調節とを行うための調節機構を有する。その調節機構は、上記の掌屈対抗力の強度の調節と、回内外対抗力の向きと強度の調節とを、互いに分離してつまり独立して行うことを可能にする。
またさらに、その上肢用の人体装具は、別の付勢機構を備え、それが、腕の肘関節での屈曲に対抗する方向の弾性的な力(肘屈曲対抗力)を、前腕サポータと上腕サポータの間に加える。その肘付勢機構は調節機構を有し、それが、肘屈曲対抗力の強度の調節を可能にする。
上記のような構成をもつ上肢用の人体装具は、当業者であれば、図5に示された下肢用の人体装具200の構成を応用し若干の改変を加えることで、容易に設計できるはずである。
例えば、図5に示された下肢用の人体装具200の足サポータ9、下腿サポータ7及び大腿サポータ53を、手、前腕及び上腕への装着に適した形状と構造にそれぞれ適宜変更することができる。また、手のピッチング(掌屈と背屈)とヨーイング(回内と回外)の特性に適合するように、足サポータ9と下腿サポータ7との間の連結と付勢の構造を適宜変更することができる。さらに、肘関節での屈曲の特性に適合するように、下腿サポータ7と大腿サポータ53との間の連結と付勢の構造を適宜変更することができる。このように、図5とその説明を基礎にして、下肢と上肢の違いに応じた適宜の変更を加えることで、当業者は、上述したような上肢用の人体装具を容易に設計できる。