以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
[第一の実施形態]
図1は、第一の実施形態に係る画像処理装置100を含む情報システムの構成の一例を示す図である。第一の実施形態に係る画像処理装置100は、放射線システム110を制御する制御装置100を兼ねる。情報システムには、たとえばHIS(Hospital Information System)111と、RIS(Radiography Information System)112と、WS(Work Station)113と、PACS(Picture Archiving and Communication System)114と、Viewer115と、Printer116とが含まれる。
HIS111は患者情報や検査の情報といった診療情報を総合的に管理するシステムである。RIS112は放射線撮影のオーダを管理するシステムである。WS113は画像処理端末であり、放射線撮影システム110で撮影された放射線画像に画像処理を施す。PACS114は当該情報システム内の放射線撮影やその他の医用画像撮影装置で得られた画像を保持するデータベースシステムである。PACS114は医用画像及びかかる医用画像の撮影条件や患者情報等の付帯情報を記憶する記憶部(不図示)と、当該記憶部に記憶される情報を管理するコントローラ(不図示)とを有する。Viewer115は、画像診断用の端末であり、PACS114等に記憶された画像を読み出し、診断のために表示する。Printer116はたとえばフィルムプリンタであり、PACS114等に記憶された画像をフィルムに出力する。
第一の実施形態において、放射線撮影システム110はX線を用いるものとする。また、放射線撮影システム110は複数の放射線検出装置を並べて行われる長尺撮影に用いられる。放射線撮影システム110の各構成は、有線もしくは無線の通信を介して接続されている。放射線撮影システム110には制御装置100が含まれ、制御装置100には表示部101と操作部102とが接続されている。また、放射線撮影システム110には放射線発生装置の例であるX線源104と、放射線検出装置(D1)106と、放射線検出装置(D2)107と、放射線検出装置(D3)108とが含まれる。X線源104は照射範囲109にX線を照射することができる。3つの放射線検出装置106、107、108は、撮影台105に装着される。ここでは、3つの放射線検出装置106,107、108を備えた形態を示すが、2つの放射線検出装置、4つ以上の放射線検出装置であってもよい。複数の放射線検出装置106、107、108は、被検体103を通過した放射線を検出し、放射線に応じた画像データを出力するものである。なお、画像データを放射線画像、X線画像と言い換えることもできる。
制御装置100は、撮影のオーダをRIS112から取得する。制御装置100はRIS112から取得した情報に応じて撮影条件を設定する。そして制御装置100は当該撮影条件に基づいて、X線源104と複数の放射線検出装置106、107、108とを制御する。
X線源104は、X線管、又は医用画像もしくは他の画像の取得に適した他の任意の放射線源であってもよい。X線源104は操作者の指示に応じてX線を照射する。複数の放射線検出装置106、107、108は、入射したX線を電気信号に変換した後、画像データとして制御装置100に送信する。たとえば、複数の放射線検出装置106、107、108は入射したX線を蛍光体(不図示)が可視光に変換し、可視光をフォトダイオード(不図示)が検出し、A/D変換器(不図示)により電気信号に変換する。あるいは、複数の放射線検出装置106、107、108はX線をアモルファスセレン(不図示)により電気信号に変換する。放射線画像の画素値は、たとえば放射線検出装置106を例に説明すると、放射線検出装置106を構成する放射線検出素子106aからの出力により得られる。放射線検出素子106aは、例えば蛍光体(不図示)とフォトダイオード(不図示)で構成される。別の例では、アモルファスセレン(不図示)で構成される。
複数の放射線検出装置106、107、108は、撮影台105内に装着される。撮影台105は、矩形の撮影台であり、撮影台内は中空である。また、撮影台105は、複数の放射線検出装置106、107、108を保持する機能を有している。図1に示す例では、撮影台105を床面に対して直立させ、撮影台105が設置されている。被検体103は、撮影台105の長手方向に沿って設置される。撮影台105は、被検体103を支える支持機能を有している。
なお、撮影台105の長手方向が水平方向となるように、すなわち、撮影台105が床面に対して平行となるように撮影台105が設置されてもよい。
撮影台105には、放射線検出装置106、放射線検出装置107、放射線検出装置108が撮影台105の長手方向に沿ってそれぞれ配置される。このとき、放射線検出装置の一部を重ねながら複数の放射線検出装置が配置される。例えば、図1に示すように、放射線検出装置106と放射線検出装置107は、一部が空間的に互いに重なるように配置される。このとき、放射線検出装置106と放射線検出装置107の撮影可能領域は互いに重なっている。同様にして、放射線検出装置107と放射線検出装置108は、一部が空間的に互いに重なるように配置される。このとき、放射線検出装置107と放射線検出装置108の撮影可能領域は互いに重なっている。また、放射線検出装置107は、放射線検出装置106と放射線検出装置108の背面側、つまりX線源104から遠い位置に配置されている。
制御装置100は、X線源104の放射線を発生するタイミングと放射線の撮影条件を制御する。また、制御装置100は、複数の放射線検出装置106、107、108の画像データを撮影するタイミング及び出力するタイミングを制御する。制御装置100は、複数の放射線検出装置106、107、108に対して同時に撮影を行わせ、複数の放射線検出装置106、107、108に対して同時に画像データを出力させることができる。
制御装置100は、X線源104の放射線を発生するタイミングと放射線の撮影条件を制御する。また、制御装置100は、複数の放射線検出装置106、107、108の画像データを撮影するタイミング及び出力するタイミングを制御する。制御装置100は、複数の放射線検出装置106、107、108に対して同時に撮影を行わせ、複数の放射線検出装置106、107、108に対して同時に画像データを出力させることができる。
制御装置100すなわち画像処理装置100は、複数の放射線検出装置106、107、108から出力された画像データに対して、ノイズ除去などの画像処理を行う機能を有している。また、画像処理装置100は、複数の放射線検出装置106、107、108から出力された画像に対してトリミングや回転といった画像処理を行なうこともできる。表示部101は、制御装置100から出力される当該画像を表示させる。
被検体103は、撮影台105に置かれた踏み台上に立ち、複数の放射線検出装置106、107、108およびX線源104に対して位置決めされる。第一の実施形態では、放射線検出装置107の中心において、放射線検出装置107に対して垂直に放射線が入射するように撮影条件が設定されている。X線源104から複数の放射線検出装置106、107、108に向けて照射された放射線は、被検体103を透過して複数の放射線検出装置106、107、108に到達して検出される。複数の放射線検出装置106、107、108で得られた複数の画像データは、制御装置100すなわち画像処理装置100で合成処理され、被検体103の合成画像が生成される。合成画像は、観察領域が広い長尺撮影によって取得される長尺画像である。表示部101は、制御装置100から出力される長尺画像を表示させる。
放射線撮影システム110において取得された長尺画像は、制御装置100により当該撮影の撮影条件や診療情報を付帯させる。たとえば制御装置100は、DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)規格に則って情報を付帯させ、放射線画像のデータ、患者情報、及び撮影条件等の情報を含むDICOM画像ファイルを生成する。制御装置100は、DICOM規格に則って当該DICOM画像ファイルをPACS114に出力する。
本発明の放射線撮影システムでは、1回の放射線の照射によって、被検体103の脊髄や下肢の全体や全身を撮影する長尺撮影を行うことができる。X線源104から照射される放射線(照射範囲109)が複数の放射線検出装置106、107、108に同時に照射される。例えば、操作者は、放射線を遮蔽する絞りを制御したり、複数の放射線検出装置106、107、108とX線源104との距離を調整したりする。
なお、複数の放射線検出装置106、107、108は、X線源104からの放射線の照射を自動検知する検知機能を有していてもよい。自動検知する検知機能は、X線源104から放射線が照射された際、複数の放射線検出装置106、107、108が放射線を検知して放射線に起因する電荷を蓄積する機能である。複数の放射線検出装置106、107、108のいずれかに1つより放射線の照射を検知した際、複数の放射線検出装置106、107、108は、本読み動作を開始させて画像データを取得する。
図2は、制御装置100すなわち画像処理装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。制御装置100は、たとえばコンピュータである。制御装置100は、主制御部であるCPU(Central Processing Unit)201、記憶部であるRAM(Random Access Memory)202、ROM(Read Only Memory)203、SSD(Solid State Drive)204、グラフィック制御部であるGPU(Graphics Processing Unit)207、通信部である通信回路205、接続部であるUSB(Universal Serial Bus)206、HDMI(登録商標)(High Definition Multimedia Interface)208を有する。制御装置100の各構成は内部バスにより通信可能に接続されている。
CPU201は制御装置100及びこれに接続する各構成を統合的に制御する制御回路である。RAM202は制御装置100を及びこれに接続する各構成における処理を実行するためのプログラムや、画像処理で用いる各種パラメータを記憶するためのメモリである。RAM202に展開されたプログラムに含まれる命令がCPU201で逐次実行される。SSD204は上述したようなプログラムや、撮影により得られる放射線画像、付帯情報、その他各種パラメータを記憶する。通信回路205は、放射線撮影を行う施設のアクセスポイントに接続する。USB206は操作部102と接続する。GPU207は画像処理ユニットであり、CPU201からの制御に応じて画像処理を実行する。画像処理の結果得られる画像はHDMI(登録商標)208を介して表示部101に出力され、表示される。
なお、モニタ101及び操作部102はタッチパネルモニタに統合されていても良い。CPU201やGPU207はプロセッサの一例である。制御装置100は複数のプロセッサを有していてもよい。また制御装置100は、後述する制御装置100の機能構成の一つ又は複数の機能をプログラムしたFPGA(Field−Programmable Gate Array)を有していてもよい。RAM202、ROM203、SSD204はメモリの一例である。
図3は、制御装置100すなわち画像処理装置100の機能構成の一例を示す図である。制御装置100は、画像処理部300、撮影制御部301、出力制御部306を有する。
撮影制御部301は放射線撮影において、X線源104と複数の放射線検出装置106、107、108とを制御する。当該撮影は、設定された撮影条件に基づき行われる。撮影制御部は、RIS112から入力された撮影条件を取得する。撮影条件には、撮像条件、照射条件、転送条件、画像処理条件、表示条件、及び、出力条件などが含まれる。撮像条件とは、たとえば放射線検出装置106,107,108それぞれのゲインやビニング処理、蓄積時間に関する設定である。照射条件とは、たとえばX線源104の管電圧、管電流、X線照射時間、長尺撮影の照射範囲に関する設定である。転送条件とは、たとえば放射線検出装置106,107,108から制御装置100に対して、画像データを転送する際の設定である。画像処理条件とは、たとえば各種の画像処理を行うか否か、処理の程度を指定するための設定である。表示条件とは、たとえば当該撮影の手法に適した内容を表示部101に表示させるための設定である。出力設定とは、たとえば画像データの出力先に関する設定である。当該撮影条件に基づき、撮影のプロトコルが決定される。当該プロトコルは撮影条件に基づいて自動的に選択されるようにしてもよいし、操作入力に基づいて決定されるようにしてもよい。
撮影制御部301は、複数の放射線検出装置106、107、108からそれぞれ画像データを取得し、メモリに記憶させる。図3に示すように、放射線検出装置106、107、108は、それぞれ、放射線検出装置(D1)、放射線検出装置(D2)、放射線検出装置(D3)とする。撮影制御部301は、画像データを受信するにあたり、データ量の小さい縮小画像データを先行的に受信した後、画像データのうち当該縮小画像データ以外のデータを受信して画像データの受信を完了させることとしてもよい。縮小画像データは、たとえば放射線検出装置106を構成し、画像データの画素値を与える複数の放射線検出素子106aのうちの偶数列を読み出すなど、選択的に一部の素子から読み出した出力信号だけを用いて得られる。あるいは、縮小画像データは、いくつかの素子をまとめて読み出した出力信号だけを用いて得られる。撮影制御部301は、読みだした画像データを複数の小領域に分割して、小領域の代表値を用いて縮小画像データとしてもよい。
撮影制御部301は、放射線検出装置106、107、108から出力される画像データを時間情報とともに記憶することができる。よって、撮影制御部301は、画像データが取得された時間情報によって、放射線検出装置106、107、108から出力された画像データが同時に取得されたものであるかどうかを区別することができる。
また撮影制御部301は、複数の放射線検出装置106、107、108によって同時に撮影された複数の画像データを、放射線検出装置の位置情報(空間的配置情報)と関連付けることができる。例えば、撮影制御部301は、放射線検出装置106から出力される画像データと放射線検出装置107から出力される画像データとが隣接していることを関連付けることができる。同様にして、撮影制御部301は、放射線検出装置107から出力される画像データと放射線検出装置108から出力される画像データとが隣接していることを関連付けることができる。さらに撮影制御部301は、放射線検出装置107が放射線検出装置106、108の背面側に配置されていることを関連付けることができる。撮影制御部301は、放射線検出装置106、107、108から取得したそれぞれの画像データを、それぞれの位置情報と関連付けてメモリに記憶させることができる。撮影制御部301は、合成処理部302又は散乱線低減部305に対して、複数の画像データとその位置情報を出力する。
画像処理部300は、画像データに対して長尺画像を得るための合成処理と、散乱線による成分(以下、散乱線成分渡渉する。)を画像データ又は長尺画像から低減するための低減処理と、長尺画像を補正するための処理と、階調処理とを含む画像処理を行う。画像処理部300は、画像処理を施した画像データを出力制御部306に出力する。画像処理部300は、合成処理部302と、画像補正部303と、階調処理部304と、散乱線低減部305とを有する。
合成処理部302は、撮影制御部301から取得した複数の画像データ、又は散乱線低減部305から取得した画像データを合成して、長尺画像を生成する。このとき、合成処理部302は、被検体103の画像情報が含まれた複数の画像データについて合成して、長尺画像を生成する。
合成処理部302は、放射線検出装置106、107、108から出力された複数の画像データとその時間情報及び位置情報に基づいて合成することにより、長尺画像を生成する。具体的には、合成処理部302は、放射線検出装置106、107、108から時間情報に基づいて同時に出力された複数の画像データ(放射線画像)を合成対象と判別し、複数の画像データを合成する。合成処理部302は、位置情報に基づいて放射線検出装置106、107、108から出力された複数の画像データの位置関係を決定して合成する。
例えば、図1に示す例では、放射線検出装置106から出力された画像データが上方に、放射線検出装置108から出力された画像データが下方に、放射線検出装置107から出力された画像データがその間に位置決めされる。さらに位置情報が示す重なり方も考慮して合成が行われる。例えば、X線源104から遠い位置に他の放射線検出装置に重なり合うように配置された放射線検出装置107には、上部に放射線検出装置106が写り込む領域、下部に放射線検出装置108が写り込む領域(以下、重なり領域と称する。)がそれぞれ生じる。しかし、放射線検出装置106、108には、他の放射線検出装置が写り込む領域は生じない。そこで、合成処理部302は、放射線検出装置が重なり合う範囲では放射線検出装置106、108が生成する画像データを用いて長尺画像を生成することで長尺画像に生じる、他の放射線検出装置が写り込む領域の面積を最小化することができる。このように、合成処理部302は、隣接する複数の撮影領域を撮影して得た複数の画像データを合成することにより、長尺画像を生成することができる。すなわち合成処理部302は、放射線を検出する複数の放射線検出装置から取得される複数の放射線画像を合成して長尺画像を生成する合成手段の一例である。
画像補正部303は、合成処理部302から出力された合成画像に対して、重なり領域を目立たないように補正する処理を行う。具体的には、画像補正部303は、放射線検出装置の構造物を表す構造情報と重なり領域に隣接する正常領域の画素値分布とを用いて、重なり領域を補正する。すなわち画像補正部303は、長尺画像の重なり領域を、重なり領域に隣接する正常な画像領域の情報を利用して補正する。
ここで構造情報とは、放射線画像に写り込む可能性のある放射線検出装置の構造物を表す情報である。構造情報には、放射線検出装置の内部に存在する物質の放射線源弱係数、厚み、位置などの情報が含まれている。長尺画像上の重なり領域を補正する場合、重なり領域の端は空間的に隣接する正常領域の画素値分布と写り込みが無ければ相関があることが期待される。従って、写り込みが生じている構造情報を考慮した上で、画像補正部303は、重なり領域の画素値分布が正常領域の画素値分布に近づくような補正を行うことで重なり領域を低減することができる。
階調処理部304は、複数の画像データ(放射線画像)を合成して得られた長尺画像に対して、階調処理を行なう。具体的には、階調処理部304は、放射線検出装置106、107、108から取得された複数の画像データを撮影制御部301から取得する。階調処理部304は、放射線検出装置106、107、108から取得された複数の画像データの特徴量をそれぞれ解析して、表示部101のダイナミックレンジを有効に利用することができるように、長尺画像の階調変換特性を決定する。
そして、階調処理部304は、決定された階調変換特性を用いて長尺画像の階調を変換する。特徴量には、各画像データのヒストグラム、最大画素値、最小画素値が含まれ、放射線検出装置106、107、108から取得された複数の画像データに対して解析処理を実行することにより、特徴量を算出している。
すなわち階調処理部304は、画像補正部303及び散乱線低減部305によって補正が行われた長尺画像に対して、階調処理を行うことができる。階調処理部304は、後述する散乱線低減部305により散乱線成分が低減される前の画像データにおける特徴量に基づいて階調変換特性を決定する。そして、画像補正部303及び散乱線低減部305による処理が行われた補正済み長尺画像505に対して階調処理を行う。たとえば散乱線成分が低減される前の画像データに対して階調処理を行うと、続く処理において推定された散乱線成分に対しても同様に階調処理を行って当該画像データから低減する必要が生じる。すなわち、階調処理を行うための解析を散乱線成分の低減の前に行い、濃度変換等の処理を散乱線成分が低減された画像に対して行うことにより、より高速に処理を行うことができる。
散乱線低減部305は、撮影制御部301から取得した複数の画像データ、または補正済みの長尺画像を入力として、画像に含まれる散乱線成分を低減した補正画像を出力する。より詳しくは、散乱線低減部305は、入力された画像に含まれる散乱線成分を推定し、推定された散乱線成分を、入力された画像から低減した補正画像を出力する。たとえば散乱線低減部305は、放射線画像がX線源104から放射線検出装置のそれぞれに直進して到達した放射線(以下、一次放射線と称する。)による成分(以下、一次放射線成分と称する。)と散乱線成分との合計で表現されるという条件と、被検体103内で生じた散乱線の挙動をモデル化した関数に基づいて散乱線成分を一次放射線成分から求めることができるという条件と、に基づいて放射線画像の一次放射線成分あるいは散乱線成分を推定する。この観点において、散乱線低減部305は、放射線のうち被検体内で散乱された散乱線による成分である散乱線成分を長尺画像から低減するための低減手段の一例である。散乱線低減部305による散乱線成分の推定及び低減の詳しい処理については、後述する。
さらに散乱線低減部305は、散乱線成分の低減に際して、被検体103と複数の放射線検出装置106、107、108のそれぞれとの距離に応じた補正を行う。複数の放射線検出装置106、107、108のそれぞれは、X線源104及び被検体103との距離が異なる。したがって、合成画像に描出される広い領域において、必ずしも画質が均一ではない場合がある。たとえば、放射線検出装置107は放射線検出装置106、108よりも被検体103から離れた位置にあるので、放射線検出装置107に到達する散乱線は空気の層を通過することになる。本発明の発明者らは、放射線検出装置107に到達する散乱線と、放射線検出装置106、108に到達する散乱線とでは、違いが生じている可能性あることを見出した。すなわち本発明の発明者らは、複数の放射線検出装置106、107、108と被検体103との距離に応じて、それぞれの放射線検出装置に到達する散乱線に違いが生じている可能性があることを見出した。したがって、散乱線低減部305は複数の放射線検出装置106,107、108と被検体103との距離に応じて、複数の画像データのそれぞれ又は合成画像に対して、補正を行う。より詳しくは、散乱線低減部305は、被検体103との距離が大きくなるほど散乱線成分の低減の度合いを小さくするように補正する。散乱線低減部305は、たとえば被検体103と放射線検出装置107との距離の二乗の逆数に応じた値に基づいて、放射線検出装置107により出力される画像データを補正する。この観点において、散乱線低減部305は、被検体103と、複数の放射線検出装置の少なくとも一つとの距離の情報に応じて、散乱線成分の低減量を変更する変更手段の一例である。散乱線低減部305による変更の詳しい処理については、後述する。
出力制御部306は、画像データを表示部101で表示させるためのデータを出力することにより、表示部101の表示を制御する。出力制御部306は、表示部101に表示させる内容を制御する。たとえば出力制御部306は、患者情報、撮影条件といった情報、放射線検出装置のそれぞれの状態を示す情報等を表示部101に表示させる制御を行う。
また、出力制御部306は、画像データをPACS114やPrinter116といった外部装置に出力する。これにより、PACS114に補正画像が保存され、Printer116によって補正画像がフィルム等に出力される。出力制御部306は、DICOM規格に則って種々の情報を付帯させて長尺画像を出力する。出力制御部306は、たとえば長尺画像にモダリティの情報を付帯させて出力する。モダリティとは、患者を撮影し、医用画像を生成する画像生成装置である。第一の実施形態においては、たとえばX線源104と複数の放射線検出装置106、107、108とを有する放射線撮影システム110がモダリティに該当する。このとき、Modalityタグ(0008,0060)としてDigital Radiographyを示すDXを付帯させる。動画撮影の場合にはRadio Fluoroscopyを示すRFを付帯させる。さらにPACS114に保存する場合にはServiceとObjectのPairを指定するタグであるSOP Class UID(0008,0016)タグとして、ObjectのDigital X−ray ImageとServiceのStorageの組合せを示す1.2.840.10008.5.1.4.1.1.1.1を付帯させる。出力制御部306はさらに、加工された画像であることを示すタグを付帯させても良い。
なお、制御装置100が有する機能構成を複数の装置からなるシステムとして実現してもよい。たとえば、WS113やPACS114がこれらの上述した機能構成の一部又は全部を有していてもよい。また、複数の放射線検出装置106、107、108の少なくともいずれかが、たとえば散乱線低減部305の機能をプログラムしたFPGA(field−programmable gate array)を備えていてもよい。制御装置100が有する機能構成が異なる装置に重複して含まれていてもよく、操作者の指示に従って処理を行う装置を選択できるようにしてもよい。さらに、ネットワークを介して接続されたWS113、サーバ(不図示)、記憶装置(不図示)によって構成されていてもよく、必要に応じてこれらの装置と通信して第一の実施形態に係る処理を行うようにしてもよい。
図4は、画像補正部303による処理を説明するための図である。図4は、画像データに構造情報が含まれる場合における処理を説明するための図である。ここでは説明を簡易にするために、被検者が無い状態で複数の放射線検出装置を重ね合わせて撮影した画像データを取得して構造情報として利用する方法を説明する。構造情報は、放射線検出装置の構造物の写り込みが画素値という形で表される。この画素値は例えば放射線源弱係数が大きく厚い構造物による写り込みが生じている画素では小さな値を、放射線源弱係数が小さく薄い構造物による写り込みが生じている画素では大きな値となる。
図4で示すような形態で複数の放射線検出装置106、107、108を配置し、被検者が無い状態で撮影すると、放射線検出装置107から取得される画像データ402には、放射線検出装置106、108の構造情報が写り込む。具体的には、放射線検出装置107から取得される画像データ402には、重複する放射線検出装置106の下端部おける構造情報の写り込み領域404が含まれている。また、放射線検出装置107から取得される画像データ402には、重複する放射線検出装置108の上端部における構造情報の写り込み領域405が含まれている。
なお、放射線検出装置106から取得される画像データ(放射線画像)401には、他の放射線検出装置の構造情報の写り込みは生じない。また、放射線検出装置108から取得される画像データ(放射線画像)403には、他の放射線検出装置の構造情報の写り込みは生じない。そのため、画像データ402が、画像上の写り込み方を位置・画素値情報として持つ構造データに相当する。写り込み領域404及び写り込み領域405を構造情報と見なすこともできる。
重なり領域の長尺画像上での位置は、撮影制御部301が保持する放射線検出装置の位置情報から求めてもよいが、構造情報を用いて求めることもできる。すなわち構造情報が示す長尺画像上で生じる特徴を長尺画像上で検出すれば、その検出された領域が重なり領域である。例えば構造情報として上述の写り込み領域404及び405を用いる場合、画像補正部303は、構造情報をテンプレート画像として長尺画像上でテンプレートマッチングを行う。そして最も相関が高い位置を重なり領域として取得して、画像補正部303による補正対象とする。
図5は、画像補正部303による処理を説明するための図である。図5は、特に画像データから放射線検出装置106及び放射線検出装置108の構造物の写り込みに基づく重なり領域を低減させる形態を示すものである。
図5(a)は、合成処理部302によって、複数の画像データを合成して生成された、補正前の長尺画像504を表している。補正前の長尺画像504は、合成処理部302によって生成され、画像補正部303に出力される。
図5(b)は、画像補正部303における補正処理に用いられる構造情報の一例を表している。ここでは、被検体103が存在しない状態で撮影を行い、放射線検出装置107から取得された画像データ402を構造情報402とする。
図5(c)は、図5(a)の補正前の長尺画像504に対して、放射線検出装置106及び放射線検出装置108の構造が写り込んだ重なり領域が補正された補正済み長尺画像505である。補正済み長尺画像505は、画像補正部303の出力である。また、図5(a)に示す画像501は、放射線検出装置106から出力される画像データであり、この例では主に被検体103の頭部と肩が含まれている。続いて図5(a)に示す画像502は、放射線検出装置107から出力される画像データであり、この例では主に被検体103の胴体と手が含まれている。画像502の上端部と下端部は、それぞれ放射線検出装置106、108の構造情報が写り込んでおり、重なり領域を生じている。合成処理部302は、放射線検出装置の配置関係に基づいて、重なり領域が長尺画像上で占める面積が最小となるように合成する。
図5(a)に示す画像503は、放射線検出装置108から出力される画像データであり、この例では主に被検体103の脚部が含まれている。
図5(a)に示すように、合成処理部302は、画像501と画像502と画像503を合成して補正前の長尺画像504を生成することにより、被検体103の全身画像を取得する。図5(c)に示すように、画像補正部303は、図5(a)に示される補正前の長尺画像504に対して、放射線検出装置106及び放射線検出装置108の構造物の写り込みによる重なり領域を低減させる補正処理を行う。つまり、画像補正部303は、放射線検出装置の一部(放射線検出装置の構造物)が写り込んだ重なり領域を補正した長尺画像505を生成する。
図6は、画像処理装置100が長尺画像を生成する処理の一例を示すフローチャートである。
ステップS601において、操作者は撮影台105に複数の放射線検出装置106、107、108を配置する。操作者は撮影台105に、放射線検出装置106、107、108を撮影台105の長手方向に沿ってそれぞれ配置する。このとき、操作者は、放射線を検出可能な有効画素領域が重なるように、放射線検出装置の一部を重ねながら複数の放射線検出装置を配置する。
ステップS602において、操作者は複数の放射線検出装置106、107、108に対して同時に撮影を行わせ、複数の放射線検出装置106、107、108に対して同時に画像データを制御装置100に出力させる。撮影制御部301は複数の画像データを取得し、散乱線低減部305に出力する。散乱線低減部305は後述する散乱線成分の推定処理と低減処理と、被検体103と複数の放射線検出装置の少なくとも一つとの距離に応じた当該低減量の変更処理とを施した補正画像を合成処理部302に出力する。合成処理部302は、複数の補正画像を合成して長尺画像を生成する。
ステップS603において、操作者は長尺画像に対して補正処理を行うかどうかについて、操作部102を介して選択する。例えば、放射線検出装置の構造物の写り込みが写り込んだ重なり領域が診断領域から外れる場合、補正処理を行わなくてもよい。長尺画像に対して画像補正部303による処理を行わない場合、ステップS605に進む。長尺画像に対して画像補正部303による処理を行う場合、ステップS604に進む。
ステップS604において、画像補正部303は、合成処理部302から出力された長尺画像に対して、放射線検出装置106及び放射線検出装置108の構造物の写り込みによる重なり領域を低減させる処理を行う。
ステップS605において、階調処理部304は、合成処理部302から出力された長尺画像に対して、階調処理を行なう。若しくは、階調処理部304は、画像補正部303によって補正が行われた長尺画像に対して、階調処理を行なう。
上述の例では、ステップS602において散乱線成分の低減に関する処理を行う場合について説明したが、これに限らない。たとえば、ステップS604において長尺画像のそれぞれの領域に対して、被検体103と複数の放射線検出装置106、107、108のそれぞれとの距離に応じて、領域ごとに散乱線成分を低減する量を変更してもよい。また別の例では、ステップS602において撮影制御部301は合成処理部302に対して画像データを出力し、合成処理部302は散乱線成分が低減される前の画像データを合成して合成画像を生成してもよい。この場合、ステップS603において上述の判定処理に加えて、たとえば撮影台105に散乱線低減グリッドが装着されたか否かを判定してもよい。当該グリッドが装着されなかった場合にはステップS604に進む。ステップS604において、上述した重なり領域を低減させる処理を行う。その後、散乱線低減部305は補正済の長尺画像に対して被検体103と複数の放射線検出装置の少なくとも一つとの距離に応じた低減量の変更の処理を行う。
なお、合成処理部302は、複数の放射線検出装置106、107、108の配置関係に応じて、各画像データを調整して長尺画像を生成してもよい。具体的には、合成処理部302は、放射線検出装置の配置関係に応じて、各画像データの拡大率を調整して長尺画像を生成する。
撮影台105には、放射線検出装置の一部を重ねながら複数の放射線検出装置が配置され、X線源104に対する距離が異なるため、画像データ上の被検者の拡大率が異なる。具体的には、X線源104からの距離が放射線検出装置106及び放射線検出装置108と比較して遠い放射線検出装置107で取得される画像データ上では被検者が拡大されて撮像される。そこで、合成処理部302は、放射線検出装置107で取得される画像データに合わせて、放射線検出装置106及び放射線検出装置108で取得される画像データを拡大する。
図11は、放射線検出装置106により得られた画像データ401と放射線検出装置107により得られた画像データ402の拡大率の一例を示す図である。拡大率や隣接する画像データに描出される被検体の相対位置は、重ね合わせられた領域における画像データ間の画像解析を行うことで求めることができる。例えば、拡大率や相対位置を所定範囲で微小に変動させながら重ね合わされた領域間の相関値を求め、相関値が最大になる拡大率や相対位置を取得すればよい。すなわち合成処理部302は、放射線画像に含まれる被検体の領域の計測値に基づいて取得された距離の情報に基づいて、複数の放射線画像のそれぞれを調節して合成する。
図7は、散乱線低減部305による処理を説明するためのフローチャートである。つまり、図7は制御装置100(画像処理装置100)が散乱線成分を推定し、被検体103と複数の放射線検出装置106、107、108の少なくとも一つとの距離に応じて、散乱線成分の低減量を変更する処理の一例を示すフローチャートである。以下では、図6に示すステップS602において放射線検出装置106、107、108から取得した画像データを入力として行う場合を例に説明する。図6を用いて説明したように、ステップS604において行われてもよい。以下、詳述する。下記の処理において、特に断りがない場合、散乱線低減部305による処理を実現する主体は、CPU201またはGPU207である。また、説明を簡易にするために、放射線検出装置106により取得された画像データに対して処理を行う場合を例に説明する。他の放射線検出装置から取得された画像データならびに長尺画像に対して処理を行う場合であっても、下記の処理は同様である。
放射線撮影により得られた画像は、X線源104から放射線検出装置106の各素子に直線的に到達した一次放射線による一次放射線像に、被検体103内で散乱した散乱線による散乱線像が重畳している。
ここで放射線撮影により得られた画像(入力画像)をM´(x,y)、入力画像に含まれる一次放射線成分をP´(x,y)、散乱線成分をS´(x,y)とする。(x,y)は画像の画素位置もしくは、その画素位置の画素値を与える放射線検出装置106の放射線検出素子106aの位置を表す。これらの画像の関係は式1で表すことができる。
散乱線は、X線源から照射されたX線が被検体103を透過する過程で散乱された放射線である。散乱を受けなかった放射線すなわち一次放射線による成分が一次放射線であるので、S´(x,y)はP´(x,y)と相関がある。しかしながら、この相関は後述する式で表されるように、非線形である。したがって、制御装置100においては反復的な処理によりS´(x,y)とP´(x,y)を最適化することとし、最尤推定法を用いる。他にも非線形最適化には様々な手法があり、最小二乗法、ニュートン法、凸解析法等の手法を用いても良い。
ステップS701において、散乱線低減部305は撮影制御部301から画像データを取得する。かかる画像データは、散乱線推定処理の対象である入力画像となる。かかる入力画像として、データ量の小さい縮小画像を取得し、これを推定処理に用いることとすれば、放射線検出装置106からのデータ送信とそれに続く画像処理をより高速に行うことができる。また散乱線成分は低周波成分が主であるので、縮小画像から推定しても散乱線成分の推定精度に与える影響が小さい。
ステップS702において、散乱線低減部305は入力画像を正規化する。たとえば、放射線検出装置106に到達している放射線量である一次放射線量と散乱線量の合計値を被検体103に対する入射線量で正規化する。入射線量は、被検体103が存在しないと仮定したときに放射線検出装置106で検出される放射線量としてよい。入射線量は管電圧、管電流、照射時間、撮影部位といった撮影条件から推測してもよいし、被検体103を透過しなかったX線が到達した領域(素抜け領域)の画素値から求めてもよい。入射線量Qで正規化するならば、それぞれ式2〜式4のように表せる。以下では、M(x,y)、P(x,y)、S(x,y)は正規化されたものとして扱う。
ステップS703において、散乱線低減部305は最尤推定法におけるP(x,y)の初期値P0(x,y)を設定する。P0(x,y)は正値であればよいが、一次放射線成分P(x,y)は入力画像M(x,y)に近いと考えられるため、第一の実施形態ではM(x,y)を初期値とする。
ステップS704において、散乱線低減部305は第一の散乱線データを取得する。第一の散乱線データとは、第一の関数にたとえば入力画像Mを入力して得られる出力データである。第一の関数とは、散乱線の挙動をモデル化した関数の一つである。
図8は第一の関数がモデル化する散乱線を例示する図である。X線源104の焦点から被検体103内のある位置402を通過するパス403上で生じた散乱線が、散乱後に減衰されずに,放射線検出素子106aのうちのある素子位置404(x,y)に到達すると仮定する。ここでは、X線源104から画素位置404までのパス上にz軸を設定し、z軸正方向は一次放射線の進行方向とする。原点はX線が被検体103に入射する位置とする。パス403の距離をLとする。すなわち、Lは被検体103の厚みに関する値である。減弱係数は被検体103内で一定の値μとする。このとき被検体103内部のパスL403上の位置z402で発生する散乱線は、式5に比例するとする。また、正規化された一次放射線Pについて式6が成り立つ。
したがって、パスL403上で発生し、散乱後に減衰されずに素子位置404(x,y)に到達する散乱線を式7で表すことができ、一次放射線成分P(x,y)の関数として与えられる。すなわち、たとえば1−Pが第一の関数である。
第一の関数で近似される散乱線は、被検体103に入射した放射線散乱され、散乱後にほとんど減衰されることなくたとえば素抜け領域に到達する散乱線を、X線源104からそれぞれの画素位置までの直線経路に近似したものと考えてもよい。また別の観点において第一の関数は、入射したX線の減衰によって一次散乱線が生じ、一次散乱線が被検体103中を通過して減衰される過程において、被検体103に吸収されることなく、多次散乱線を生じたとする仮定に基づく関数と考えることができる。多次散乱線とは、被検体103内で複数回散乱された放射線である。
ステップS705において、散乱線低減部305は第二の散乱線データを取得する。第二の散乱線データとは、第二の関数にたとえば入力画像Mを入力して得られる出力データである。第二の関数とは、散乱線の挙動をモデル化した関数の一つであり、第一の関数とは異なる。
図9は第二の関数がモデル化する散乱線を例示する図である。放射線が散乱して生じた散乱線であって、散乱の後に被検体103内でさらに減衰すると仮定した散乱線による散乱線強度を近似した関数(近似式)である。第二の散乱線データは、第二の関数の出力である。ここでは、主として被検体103内を透過してきた散乱線を近似している。X線源104の焦点から、放射線検出素子106aのうちのある素子位置504(x,y)を通過するパスL503上で発生した散乱線が、パスL503を通過、減衰して放射線検出装置106に入射すると仮定する。ここでは、X線源104から素子位置504までのパス上にz軸を設定し、z軸正方向は一次放射線の進行方向とする。原点は放射線が被検体103に入射する位置とする。減弱係数はμである。このとき被検体103内部のパスL503上の位置z502で発生する散乱線は式2に比例するとする。さらに被検体103中を距離L−z透過して減衰されると仮定する。パスLで発生する散乱線を式8で表すことができ、一次放射線成分P(x,y)の関数として与えられる。すなわち、たとえば−PlnPが第二の関数である。
第二の関数で近似される散乱線は、被検体103に入射した放射線が散乱され、散乱後に減衰されながら放射線検出装置106に到達する散乱線を、X線源104からそれぞれの画素位置までの直線経路に近似したものと考えてもよい。また別の観点において第二の関数は、入射したX線の減衰によって一次散乱線が生じ、一次散乱線が被検体103中を通過して減衰される過程において、さらに散乱されない、すなわち多次散乱線を生じないとする仮定に基づく関数と考えることができる。
ステップS706において、散乱線低減部305は第一の周波数処理を行う。散乱線が被検体103内で広い角度に散乱されることを考慮すると、それぞれの関数の出力について特定の周波数成分を合成して散乱線成分を推定することが好ましい。より詳しくは、散乱線低減部305はまず、散乱線成分は低周波の成分が主であることを考慮し、ガウス関数G1をコンボリューションする。第一の散乱線データについての低周波成分は式9及び式10で表される。
さらに散乱線の不連続性を考慮すると、低周波以外の成分を加味することが好ましい。第一の散乱線モデルによる散乱線像の低周波以外の成分は、式11のように表せる。ここで、Fはフーリエ変換、F−1はフーリエ逆変換を表す。
さらに散乱線低減部305は、式9〜式11で表される複数の周波数成分を、パラメータA1、C1によって重み付けして合成する。これにより、第一の散乱線データについての周波数成分S1を得る。ここでA1は第一の散乱線の低周波成分の重み、B1は第一の散乱線の広がり、C1は第一の散乱線の低周波以外の成分の重みを表すパラメータである。
ステップS707において、第二の散乱線データについてもステップS706と同様にして特定の周波数成分を得る。低周波成分はガウス関数G2をコンボリューションして、式13及び式14のように表せる。低周波成分以外の成分は式15のように表せる。
さらに散乱線低減部305は、式13〜式15で表される複数の周波数成分を、パラメータA2、C2によって重み付けして合成する。これにより、第二の散乱線データについての周波数成分S2を得る。ここまでの処理結果によれば、S2は式16のように表せる。ここでA2は第二の散乱線の低周波成分の重み、B2は第二の散乱線の広がり、C2は第二の散乱線の低周波以外の成分の重みを表すパラメータである。
上述の処理により、周波数成分S1と周波数成分S2とを得ることができる。
ステップS708において、散乱線低減部305は、ステップS707までに得られた周波数成分S1と周波数成分S2とを合成して散乱線成分を得て、一次放射線成分の最尤推定を行わせる。最尤推定とは、たとえば式17に表されるように、入力画像M(x,y)を、反復の前段階で得られた一次放射線成分Pn(x,y)と第一の散乱線データの周波数成分S1 n(x,y)と第二の散乱線データの周波数成分S2 n(x,y)の和で除算し、一次放射線成分Pn(x,y)に乗算する。ここで上添え字nはn回目の反復で得られたものであることを示す。式17に基づく最尤推定においては、反復を繰り返すごとに式18で表される項が1に収束していくことが知られている。逐次的に、式1の関係を満たすようにして一次放射線成分P(x,y)、第一の散乱線データの周波数成分S1(x,y)、第二の散乱線データの周波数成分S2(x,y)を求めていく。
ステップS709において、散乱線低減部305は最適化が完了した否かを判定する。たとえば、散乱線低減部305は、式18が十分に1に近づいたか、あるいは式1の関係が十分に満たされたかを二乗残差などによって判定する。もしくは、散乱線低減部305は、固定回数の反復が行われたか否かに基づいて判定してもよい。
ステップS709で反復を継続する判定がなされた場合、計算されたPn+1(x,y)を初期値としてステップS703に戻り処理を継続する。散乱線低減部305はステップS704において、一次放射線成分のn次近似解Pn+1を入力とし、第一の散乱線データを得る。また、散乱線低減部305はステップS705において、一次放射線成分のn次近似解Pn+1を入力とし、第二の散乱線データを得る。
ステップS709で反復を継続しない判定がなされた場合は処理を終了し、Pn+1(x,y)を散乱線成分の低減された補正画像とする。あるいは、計算されたS1 n+1(x,y)とS2 n+1(x,y)の和にパラメータを乗じて入力画像から減じてもよい。すなわち、散乱線像の低減効果を調節可能としても良い。
このように、制御装置100においては、第一の散乱線データと第二の散乱線データのそれぞれについて、特定の周波数成分を合成した散乱線成分S1(x,y)+S2(x,y)を散乱線成分として出力する。さらにこの散乱線成分と一次放射線成分との和が入力画像と一致するとの仮定の下、逐次近似的解法により放射線画像に含まれる散乱線成分を推定する。ステップS701からステップS709までの処理は、複数の放射線検出装置106、107、108のそれぞれから得られる複数の画像データのそれぞれ、あるいは合成画像、あるいは長尺画像に対しても、同様に行うことができる。すなわち、散乱線低減部305はそれぞれの放射線画像に基づいて推定された散乱線成分を、それぞれの放射線画像から低減し、散乱線成分が低減された放射線画像を合成することにより長尺画像を生成してもよい。あるいは散乱線低減部305は、長尺画像に基づいて推定された散乱線成分を、長尺画像から低減してもよい。いずれの場合にも散乱線低減部305は、複数の放射線検出装置のそれぞれから得られた放射線画像を合成して得られる長尺画像から、散乱線成分を低減することになる。
ステップS710において、散乱線低減部305は、複数の放射線検出装置106、107、108の少なくとも一つと、被検体103との距離に応じた、低減量の変更を行う。図1に示した例では、放射線検出装置107と被検体103との距離が、放射線検出装置106、108と被検体103との距離よりも大きくなっている。したがって散乱線低減部305は、たとえば被検体103と放射線検出装置107との距離の二乗の逆数に応じた値に基づいて、放射線検出装置107から得られる画像データを補正する。すなわち散乱線低減部305は、目的とする長尺画像から散乱線成分を低減する度合いを、距離の二乗の逆数に応じた値に基づいて変更する。
図10は、ステップS710の処理を説明するための図である。図10において、被検体103の放射線検出装置107側の表面と、放射線検出装置107の被検体103側の表面との距離がrで示されている。以下では、図10に示す距離rを、被検体103と放射線検出装置107との距離とする。たとえば、距離rは、放射線検出装置106、107の厚みを示す値である。散乱線低減部305は、たとえば出力制御部306を介してユーザに距離rの値を入力させる画面を表示部101に表示させ、距離rの値を取得する。あるいは、散乱線低減部305は撮影条件に応じて、長尺撮影に使用された放射線検出装置に予め設定されている厚みの情報を取得することにより、距離rの値を取得する。
電磁波が空気中を伝搬する際の減衰の性質に鑑みると、被検体103内で散乱された放射線である散乱線が被検体103を出て放射線検出装置107に到達するまでに、距離rに応じて減衰することが考えられる。したがって、ステップS710において散乱線低減部305は、放射線検出装置107から得られた画像データに基づいて、ステップS709までの処理により推定された散乱線成分を、距離rに応じて低減量を変更する。散乱線低減部305は、被検体103を通過した後に通過する空気の層が長いほど、推定された散乱線成分を低減する度合いを小さくする。たとえば、距離rに応じたパラメータを準備して、ステップS709までの処理により推定された散乱線成分に乗じたものを、放射線検出装置107により撮影された領域の散乱線成分として扱う。
ステップS711において散乱線低減部305は、ステップS709までの処理により推定された散乱線成分を、被検体103と複数の放射線検出装置106、107、108のそれぞれとの距離に応じた低減量で低減した補正画像を合成処理部302に出力する。散乱線低減部305は、推定された散乱線像であるS1 n+1(x,y)+S2 n+1(x,y)や、距離rのデータを当該補正画像とは別の画像データあるいは画像ファイルとして、PACS114に保存しても良い。
なお、入力画像として画像補正部303から補正前の長尺画像を取得した場合には、ステップS711において散乱線低減部305は階調処理部304に対して補正画像を出力する。
以上のようにして、散乱線低減部305は、放射線検出素子からの出力に対応するそれぞれの画素値に対して一様に当該近似の処理を行って散乱線成分を推定する。さらに散乱線低減部305は、被検体103と複数の放射線検出装置106、107、108の少なくとも一つとの距離に応じて、散乱線成分の低減量を変更する。そして散乱線低減部305はそれぞれの低減量に応じて散乱線成分を低減する。これにより、放射線画像に含まれる画素値毎にモデルを切り替える必要がなくなり、結果的に散乱線像の推定処理に要する時間やリソースを低減することができる。また、長尺撮影に利用された放射線検出装置の位置関係に応じて、適切に散乱線成分を低減することができる。
なお、G1とG2は同じであってもよいが、第一の散乱線データと第二の散乱線データをそれぞれ異なる複数の周波数帯域に分解し、重み付けして合成することが好ましい。第一の散乱線データの周波数成分として式9、式11で表される2種類の成分、第二の散乱線データの周波数成分として、式13と式15で表される2種類の成分を例示した。第一の散乱線データの周波数成分の2種類のうちから少なくとも1種類と、第二の散乱線データの周波数成分の2種類のうちから少なくとも1種類とを重み付けして合成し、散乱線成分としてもよい。また、散乱線低減部305は第一の散乱線データや第二の散乱線データを、ラプラシアンピラミッド分解やウェーブレット変換より複数のレベルに分解してもよい。そして、各レベルに応じたパラメータを乗じて画像再構成を行ってもよい。
また散乱線低減部305は、A1、B1、C1、A2、B2、C2は複数の組合せをRAM202に記憶し、自動で又は操作者が適宜設定できるようにしてもよい。散乱線低減部305は、当該放射線画像の撮影条件であるX線源104の管電流、管電圧、X線の照射時間、撮影部位等に応じて合成の重みを設定してもよい。例えば、散乱線低減部305は、操作部102に対する操作入力に応じて上述の撮影条件の情報を取得し、当該撮影条件に対応するパラメータセット(A1、B1、C1、A2、B2、C2)を得る。SSD204に撮影条件とパラメータセットとの対応関係を示すテーブル情報を記憶させておき、当該テーブル情報を参照することにより、CPU201がパラメータセットを設定する。当該テーブル情報は、例えば撮影条件ごとに予め実験的に定められる。
上述の通り、散乱線像は低周波の成分が主であるため、低周波成分の重みを表すパラメータA1、A2が、低周波以外の成分の重みを表すパラメータC1、C2よりも大きな値であることが好ましい。
なお、散乱線低減部305はフーリエ変換を用いて、低周波成分と、低周波以外の成分とを作成しても良いし、実空間で行ってもよい。また、周波数処理に用いるフィルタはガウス関数に限らない。たとえば、加重平均フィルタを用いれば対象画素の周辺を中心とした広がりを表現できるし、移動平均フィルタを用いれば対象画素から離れた画素までの広がりを表現できる。
また、ステップS704、ステップS705、ステップS706、ステップS707の順序を例示したが、ステップS704、ステップS706、ステップS705、ステップS707の順序で処理を行ってもよく、ステップS704とステップS706の処理と、ステップS705とステップS707の処理を並行して行うようにしてもよい。
上述の例では第一の関数と第二の関数とを用いる例について説明したが、これに限らない。たとえば、散乱線低減部305は第一の関数として−0.05P2−0.9P+0.95を用いて、第二の関数として0.87P3−2.61P2+1.74Pを用いても良い。第一の関数または第二の関数は、上述に示すような数式で表されていなくても良く、例えば一次放射線成分Pの値に対する出力値を表すルックアップテーブルで表されていてもよい。
距離rに応じた散乱線成分の低減量の変更については、上述したような、放射線検出装置107から得られた画像データに基づく散乱線成分の低減の度合いを変更するためのパラメータを用いる例に限らない。たとえば制御装置100は表示部101に、散乱線成分の低減の度合いをユーザが調節可能な画面を表示させる。ユーザが簡易に調節を行うことができるように長尺撮影の場合でも、一つの値で低減の度合いを調節される。散乱線低減部305は、放射線検出装置106、108から得られた画像データに基づく散乱線成分は、ユーザの設定した値に基づいて、当該散乱線成分を低減する。しかし散乱線低減部305は、放射線検出装置107から得られた画像データに基づく散乱線成分の低減に際しては、ユーザの設定した値より小さな低減の度合いとなるように、距離rに応じた低減量の変更を行う。制御装置100は、ユーザが複数の放射線検出装置106、107、108から得られた複数の画像データそれぞれに対して低減の度合いを調節可能な画面を表示部101に表示させてもよい。その場合、散乱線低減部305は、放射線検出装置107に対する低減の度合いを、放射線検出装置106、108に対して設定された度合いよりも小さくなるように、距離rに応じて変更する。あるいは散乱線低減部305は、放射線検出装置106、108に対する低減の度合いを、放射線検出装置107に対して設定された度合いよりも上回るように、距離rに応じて変更する。設定された度合いよりもまた散乱線低減部305は、一つの放射線検出装置に対して設定された度合いと、距離rに基づいて、他の放射線検出装置に対する度合いを連動させてもよい。散乱線低減部305は、出力制御部306を介して表示部101の表示を制御し、当該制限や当該連動を画面に反映させてもよい。
上述の例では、ユーザによる入力値や撮影条件に基づいて距離rを取得する場合について説明した。散乱線低減部305は、複数の放射線検出装置106、107、108のそれぞれから得られた画像データに基づいて距離rを推定してもよい。
図11は、複数の放射線検出装置のそれぞれから得られる画像データの一例を示す図である。放射線検出装置107が放射線検出装置106よりもX線源104から離れた位置に配置されているために、画像データ402に描出される被検体103の像は、画像データ401に描出される被検体103の像よりも拡大される。画像処理部300は、それぞれの画像データに描出される被検体103の像から、胴体部分をセグメンテーションにより抽出する。画像処理部300は、抽出された胴体部分の幅をそれぞれ取得する。図11に示す例においては、画像データ401に描出された被検体103の胴体部分の幅はζ1である。画像データ402に描出された被検体103の胴体部分の幅はζ2である。距離rは、X線源104とそれぞれの放射線検出装置との幾何学的な配置関係から、たとえば式19で表される値に比例すると考えられる。
第一の関数に基づくことで、たとえば被検体103に厚みがある場合など一次放射線が大きく減少して散乱線が多く発生している場合に、精度良く散乱線像を推定できる。例えば、被検体103に厚みがある部分では一次放射線はほとんど通過せず、発生した散乱線もほとんど通過しない。具体的には、Pがゼロに近い値を取るときの散乱線強度は、第二の関数によれば散乱線もゼロに近い値に推定される。しかし第一の関数によれば1に近い値に推定されるため、本来発生している散乱線を少なく見積もることがなく、精度良く推定できる。さらに、散乱線が大きく広がることをふまえ、複数の周波数成分に分解し、それぞれの成分での広がり方を考慮したパラメータによって合成することで、被検体103の存在しない領域や、被検体103の厚みが薄い部分に広がった散乱線を精度よく推定することができる。
放射線が被検体103内で減衰する現象は、放射線が散乱したり吸収されたりすることにより、たとえば放射線検出装置106に到達する放射線強度が被検体103に入射したX線と比べて減少する現象である。被検体103内で生じた散乱線であって、散乱後の透過距離に応じて減衰される散乱線とは、一回散乱して生じた散乱線が散乱後の透過の過程でさらに多次散乱線を生じたり吸収されたりするものの、多次散乱線については放射線検出装置106に到達せず一次散乱線のみが放射線検出装置106に検出される場合を仮定した散乱線である。このような散乱線は被検体103の厚みが大きい部分で優位となると考えられる。被検体103内で生じた散乱線であって、散乱後も減衰されない散乱線とは、被検体103内で放射線は吸収されず、生じた多次散乱線は全て放射線検出装置106に検出される場合を仮定した散乱線である。被検体103の厚みが小さい部分や、散乱して広がった結果素抜け領域に到達する散乱線においては、一次散乱線のみではなく多次散乱線も含まれると考えられる。したがって、これらの2つの場合をそれぞれ仮定した関数に基づくことにより、放射線が被検体103内で減衰あるいは散乱する態様をより正確に表現することができる。
図13は、第一の実施形態にかかる散乱線低減部305の処理を説明するための図である。図13(a)は、実験的に取得した散乱線成分を例示する図である。図13(b)は、胸部ファントムを用いて得られた放射線画像に基づいて、散乱線低減部305の処理により推定された散乱線成分の一例を示す図である。第一の関数と、第二の関数とに基づくことにより、被検体103が存在しない部分や、図13(a)に示す肺野領域1304、スキンライン1303等の散乱線像をより正確に推定することができる。図13(b)には、素抜け領域1305と肺野領域1308における強度分布や、スキンライン1307が表現されている。
さらに、複数の放射線検出装置106、107、108を用いる長尺撮影において、複数の放射線検出装置の配置関係に基づいて低減量を変更することにより、より適切に散乱線成分を画像データから低減できる。放射線検出装置107は放射線検出装置106、108よりもX線源104ならびに被検体103から離れた位置に配置されている。図10によれば、放射線検出装置107に到達する放射線は、距離rの空気の層を通過することになる。放射線検出装置106、108に到達した一次放射線と、放射線検出装置107に到達した一次放射線とでは、X線源104とそれぞれの放射線検出装置との距離に対して距離rは小さいので、距離rに応じて減弱されたことによる影響は大きくないと考えられる。しかしながら、散乱線は被検体103内で散乱された放射線であり、散乱された点から放射線検出装置それぞれに到達するまでの距離は、X線源104から直進した放射線が当該放射線検出装置に到達するまでの距離よりも短くなる。したがって、一部の放射線検出装置に到達する散乱線のみが距離rに応じて減弱されることの影響は、一次放射線が距離rに応じて減弱されることの影響よりも、大きくなると考えられる。したがって、被検体103と複数の放射線検出装置106、107、108の少なくとも一つとの距離に応じて、散乱線成分の低減の度合いを変更することにより、長尺画像の画質を向上することができる。
[第二の実施形態]
第二の実施形態においては、散乱線低減部305が、放射線検出装置と被検体との距離に応じて画像データに含まれる散乱線成分を推定する例について説明する。すなわち散乱線低減部305は、放射線画像の画素値に基づいて散乱線成分を推定し、距離の情報に基づいて当該推定量を変更する。
図12は第二の実施形態に係る画像処理装置により行われる処理の一例を示すフローチャートである。第一の実施形態と同様の処理を行う場合には、図7と同じ符号が付されている。第一の実施形態と同様の処理については、上述した説明を援用することにより、ここでは詳しい説明を省略する。以下では、放射線検出装置107から取得した画像データに基づいて散乱線成分を推定し、推定された散乱線成分を当該画像データから低減する場合を例に説明する。放射線検出装置106、108から取得した画像データならびに長尺画像に対して処理を行う場合も同様である。
ステップS701からステップS703までの処理は第一の実施形態と同様であり、散乱線低減部305は、撮影制御部301から画像データを取得し、当該画像データを正規化し、最適化処理のための初期値を設定する。そして、ステップS1201に進む。
ステップS1201において、散乱線低減部305は、放射線検出装置107と被検体103との距離を考慮して第一の散乱線データを取得する。散乱線低減部305は、たとえば式20に示す、変更された第一の関数を用いて、第一の散乱線データを取得する。第二の実施形態における第一の関数は、第一の実施形態のステップS704において説明したのと同様の、散乱線の挙動のモデルに基づく。さらに第一の関数は、放射線が散乱された位置から、放射線検出装置107までの距離に基づいて変更される。式20は、放射線が散乱された位置から放射線検出装置107までの距離を考慮するための項が、式7に追加されたものになっている。
式20は、減弱係数μ、パスの距離L、被検体103と放射線検出装置107との距離r、一次放射線成分Pで表される。ここで散乱線低減部305は、μの値を人体の構成に基づいて定められる値から取得する。また散乱線低減部305は、Lの値を、ユーザによる入力値から取得してもよいし、正規化された画像データから取得してもよい。散乱線低減部305は、rの値を、第一の実施形態において説明したのと同様にして取得する。
ステップS1202において、散乱線低減部305は、放射線検出装置107と被検体103との距離を考慮して第二の散乱線データを取得する。散乱線低減部305は、たとえば式21に示す、変更された第二の関数を用いて、第二の散乱線データを取得する。第二の実施形態における第二の関数は、第一の実施形態のステップS705において説明したのと同様の、散乱線の挙動のモデルに基づく。さらに第二の関数は、放射線が散乱された位置から、放射線検出装置107までの距離に基づいて変更される。式21は、放射線が散乱された位置から放射線検出装置107までの距離を考慮するための項が追加されている。
式21は、減弱係数μ、パスの距離L、被検体103と放射線検出装置107との距離r、一次放射線成分Pで表される。ここで散乱線低減部305は、μの値を人体の構成に基づいて定められる値から取得する。また散乱線低減部305は、Lの値を、ユーザによる入力値から取得してもよいし、正規化された画像データから取得してもよい。散乱線低減部305は、rの値を、第一の実施形態において説明したのと同様にして取得する。
ステップS706からステップS709までの処理は第一の実施形態と同様であり、散乱線低減部305は周波数処理を行い、繰り返し最適化により散乱線成分を推定する。第一の実施形態においては、ステップS710において被検体103と放射線検出装置との距離に応じて低減量を変更した。第二の実施形態においてはステップS1201、ステップS1202において当該距離を考慮して散乱線成分を推定しているので、ステップS710の処理は行われなくてもよい。
第二の実施形態においては、ステップS1201、1202に示す、変更された第一の関数及び変更された第二の関数を用いることにより、放射線が被検体103内で散乱された位置と、放射線検出装置までの距離に基づいて、散乱線成分を推定することができる。すなわち、散乱線低減部305は第一の関数と前記第二の関数のそれぞれを、被検体内で放射線が散乱された位置と放射線検出装置との距離に関する項に基づいて変更する。したがって、複数の放射線検出装置の配置関係に応じて、推定され、低減される散乱線成分の量が変更される。これにより、制御装置100により生成される長尺画像は、当該距離の情報に基づいて補正される。制御装置100は、散乱線が放射線検出装置107に到達するまでの間の減弱を、より精度良く考慮することができる。すなわち、散乱線成分の推定の精度が向上し、被検体103との距離が異なる複数の放射線検出装置106、107、108を用いる長尺撮影により得られる長尺画像の画質が向上する。
なお、ステップS1201及びステップS1202において式20及び式21を用いる場合を例に説明したがこれに限らず、第二の実施形態においても、第一の実施形態において説明した様々なモデルに基づく関数を用いることができる。たとえば散乱線低減部305は、ステップS1201及びステップS1202において、式7及び式8と、被検体103と長尺撮影に用いる複数の放射線検出装置106、107、108のそれぞれとの距離に応じたパラメータセットとを用いてもよい。散乱線低減部305は、予め設定されたパラメータセットの中から、撮影条件に基づいて、すなわち当該距離に応じて適切なパラメータセットを取得してもよい。
また、上述の例では図7に示すステップS710の処理を行わない場合を例に説明したが、ステップS710の処理を行ってもよい。その場合、ステップS1201及びステップS1202の処理を考慮して、さらに散乱線成分の推定の精度を向上するような補正を行うことが好ましい。
[変形例]
第一の実施形態及び第二の実施形態においては、被検体103と複数の放射線検出装置106、107、108のうち少なくとも一つの放射線検出装置との距離に応じて、散乱線成分を低減する量を変更する例について説明したが、これに限らない。散乱線低減部305は、それぞれの放射線検出装置から得られる放射線画像から散乱線成分を低減する量がそれぞれ異なるように変更してもよい。たとえば、放射線検出装置108は主に被検体103の脚部が描出されるが、四肢は胸部や腹部と比べて放射線が散乱されにくい部位である。したがって散乱線低減部305は、放射線検出装置108から得られる画像データに基づいて推定される散乱線成分については、放射線検出装置106、107から得られる画像データに基づいて推定される散乱線成分よりも低減量が小さくなるように変更してもよい。そして散乱線低減部305は、放射線検出装置107から得られる画像データに基づいて推定される散乱線成分については、放射線検出装置106から得られる画像データに基づいて推定される散乱線成分よりも、距離rでの減弱を考慮して低減量が小さくなるように変更してもよい。
第一の実施形態及び第二の実施形態においては、放射線検出装置107が放射線検出装置106、108よりもX線源104ならびに被検体103から離れた位置に配置される例について説明したが、これに限らない。たとえば、3つの放射線検出装置106、107、108の一部が重なり合うように配置し、放射線検出装置106を放射線検出装置107よりも被検体103の側に、さらに放射線検出装置107を放射線検出装置108よりも被検体103の側に配置してもよい。そして、散乱線低減部305はそれぞれの放射線検出装置106、107、108と被検体103との距離に応じて、それぞれ得られる画像データから散乱線成分を低減する量を変更してもよい。
第一の実施形態及び第二の実施形態においては、被検体103と放射線検出装置との間の距離を考慮する例として、長尺撮影を行う場合を説明した。本発明はこれに限らず、たとえば一つの放射線検出装置を用いて撮影を行う場合にも適用可能である。
たとえば、被検体103を支持する撮影台105と放射線検出装置との間の距離rを考慮して散乱線成分を低減する場合に、図7及び図12で示したような処理を用いることができる。たとえばベッド型の撮影台105に被検体103が仰臥位で配置されるとする。ベッド型の撮影台105から距離rの位置に、一つの放射線検出装置が配置され、放射線撮影が行われる。このとき、被検体103内で散乱された散乱線は、距離rに応じて減弱される。したがって、図7及び図12の処理のように、距離rを考慮した散乱線成分の低減量の変更を行うことにより、当該撮影において得られた画像データに基づく散乱線成分の推定及び低減の精度が向上する。
また別の例では、たとえば妊婦に対する放射線撮影など、低線量で撮影することが求められ、被検体の厚みに鑑みて放射線が多く散乱されることが想定される撮影にも、本発明を適用することができる。胎児の安全のためなるべく線量を低く抑えて撮影することが望ましいが、被検体の厚みと線量の低さによって放射線が散乱されやすくなってしまう。このような場合に、精度良く散乱線成分を推定し、低減することは有用である。
妊婦に対する放射線撮影の一例として、マルチウス法を例に説明する。マルチウス法では、外結合線が放射線検出装置と平行となる体位に被検体を配置して撮影する。その後、センチメーターグリッドを外結合線と同じ高さに配置し、当該センチメーターグリッドのみを撮影する。妊婦を撮影して得られる画像データと、センチメーターグリッドを撮影して得られる画像データとを比較することにより、骨盤や児頭の径の実測値を取得することができる。
図14は、センチメーターグリッド1401を使用して撮影を行う例を説明するための図である。センチメーターグリッド1401は1cm間隔の小孔が格子状に配列された金属板(たとえば、鉛製の板)である。たとえば小孔1402を通過した放射線は放射線検出装置106の画素1405まで直進する。同様に、小孔1403を通過した放射線は画素1406まで、小孔1404を通過した放射線は画素1407まで直進する。センチメーターグリッド1401の撮影においては、散乱を生じさせる被検体が含まれないので、放射線検出装置106に到達した放射線は一次放射線が主であると考えられる。したがって、画素1405、1406、1407といった放射線検出装置106のそれぞれの画素の画素値に基づいて、放射線検出装置106に到達した放射線の分布を得ることができる。すなわち、各小孔を透過した放射線と対応する各画素値は、放射線検出装置106に到達する線量の分布である線量分布I(x,y)の値と対応する。I(x,y)は、基本的にきわめて低周波の成分からなるため、戦地メーターグリッド1401の各小孔の配置と画素値から、重回帰分析、高次フィッティング、補完、応答曲面等を用いた処理により、I(x,y)を求めることができる。
これにより、実際に撮影された画像データの画素値M´(x,y)から被検体の体厚の分布や散乱線成分の推定を精度よく行うことができる。たとえば散乱線成分を推定し、低減する処理においては、上述の式2〜式4に代えて、以下の式22〜24を用いる。
低線量で撮影を行い得られた画像データは、信号量が少なくなる。少ない信号量から、推定された散乱線成分を低減するにあたり、散乱線成分の精度は重要である。いわゆる単純撮影、特に回診車による単純撮影では、X線源104や放射線検出装置106が被検体103に対して必ずしも正確に配置されない場合もある。たとえばセンチメーターグリッド1401を用いて、上述したように精度よく放射線検出装置106に到達する放射線の線量分布I(x,y)を求めることができれば、精度よく散乱線成分を推定することができる。センチメーターグリッド1401はマルチウス法に限らず、ユーザの指示に応じて単純撮影や長尺撮影に用いてもよい。被検体103は少ない被曝線量で、画質の良い画像を得ることができる。
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
上述の各実施形態における情報処理装置は、単体の装置として実現してもよいし、複数の装置を互いに通信可能に組合せて上述の処理を実行する形態としてもよく、いずれも本発明の実施形態に含まれる。共通のサーバ装置あるいはサーバ群で、上述の処理を実行することとしてもよい。情報処理装置および情報処理システムを構成する複数の装置は所定の通信レートで通信可能であればよく、また同一の施設内あるいは同一の国に存在することを要しない。
本発明の実施形態には、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムを、システムあるいは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータが該供給されたプログラムのコードを読みだして実行するという形態を含む。
したがって、実施形態に係る処理をコンピュータで実現するために、該コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明の実施形態の一つである。また、コンピュータが読みだしたプログラムに含まれる指示に基づき、コンピュータで稼働しているOSなどが、実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によっても前述した実施形態の機能が実現され得る。
上述の実施形態を適宜組み合わせた形態も、本発明の実施形態に含まれる。