エアバッグ装置によって乗員を的確に拘束するには、エアバッグクッションを目的の範囲に迅速に膨張展開させなくてはならない。そのためには、エアバッグクッションに対して、単にガスを早く充満させるだけでなく、展開途中の揺れを抑えて展開挙動を目的の範囲に向かってスムーズに生じさせることも有効である。しかし、エアバッグクッションの形状や内部構成を変える手法では、コストの増加が懸念される。また、エアバッグクッションの設置個所の周辺形状は車種によって異なるため、車種に応じてエアバッグクッションの形状等を変更していては非効率的である。
本発明は、このような課題に鑑み、簡潔な構成でエアバッグクッションの展開方向を効率よく調整可能なフラップ、およびこのフラップを備えたエアバッグ装置を提供することを目的としている。
上記課題を解決するために、本発明にかかるフラップの代表的な構成は、車室内に設けられた所定の収容部に収められた収納形態のエアバッグクッションを包んでいる布状のフラップであって、当該フラップは、エアバッグクッションの膨張展開に伴って開裂する開裂部を備え、開裂部は、当該フラップ上を所定方向に延びる直線に対して非平行な軌跡を有し、開裂部のうち直線から最も遠い部分は、エアバッグクッションを直線に垂直な平面で二等分した場合の一方の区分側に位置し、当該フラップは、エアバッグクッションの一方の区分に他方の区分よりも大きい動摩擦力を付与することを特徴とする。
当該フラップは、エアバッグクッションの所定の区分の膨張展開のタイミングをあえて遅らせ、エアバッグクッションを他方の区分から先に膨張展開させる。これによって、フラップは、エアバッグクッションを車幅方向の一方や車両上下方向の一方に向かわせるなど、エアバッグクッションの展開方向を調整する。エアバッグクッションの膨張展開をどの方向に向けるかは任意に設定でき、その設定した方向を上記構成では所定方向に延びる直線として表している。上記の開裂部は、この所定方向に延びる直線に対して非平行な軌跡を有している。すなわち、開裂部は、所定方向に対して、偏った形状を有している。
当該フラップは、エアバッグクッションが膨張を開始すると開裂部で開裂するが、膨張するエアバッグクッションによって収容部の内壁に押し付けられ、エアバッグクッションと内壁との間に挟まれる。そして、収容部に所定の開口部が形成されると、エアバッグクッションはフラップを押しのけて車室空間へ飛び出す。前述した通り、開裂部は偏った形状を有している。そのため、開裂によって生じる端部には、開口部に近い部位と、開口部から遠い部位とが生じる。開口部から遠い部位は、開口部に近い部位に比べて、エアバッグクッションと収容部の内壁との間に挟まれる範囲が広い。そのため、開口部から遠い部位は、膨張するエアバッグクッションに与える動摩擦力が大きく、エアバッグクッションに負荷をかける。したがって、エアバッグクッションは、一方の区分の膨張展開のタイミングがわずかながら遅れ、他方の区分から先に車室空間へ飛び出す。
このように、上記構成であれば、エアバッグクッションの一方の区分の膨張展開をあえて遅らせ、他方の区分から先に膨張展開させることで、その展開方向を所定の方向へ導くことができる。したがって、エアバッグクッションの展開挙動を目的の方向へ調整し、エアバッグクッションを目的の範囲に効率よく膨張展開させることが可能になる。また、当該フラップは、構成が簡潔であって、コスト面において有利である。また、エアバッグクッションの設置個所の周辺形状が車種によって異なる場合であっても、エアバッグクッションの形状等を変更することなく、エアバッグクッションの展開挙動を調整することが対応可能になる。
上記の開裂部の軌跡は、フラップ上を斜めに横断する直線状に設けられてもよい。この構成の開裂部を備えることによっても、エアバッグクッションの展開挙動を所定の方向に調整可能なフラップを実現できる。
上記の開裂部は、破線状に設けられた破断可能なスリットであってもよい。この構成によっても、エアバッグクッションの膨張展開に伴って開裂することが可能である。
当該フラップは、乗員に対して車両前方に設置され、開裂部のうち直線から最も遠い部分は、二等分したエアバッグクッションの車幅方向の車外側の区分側に位置してもよい。この構成によって、エアバッグクッションの車外側の区分の膨張展開を遅らせ、エアバッグクッションの展開挙動を車内側に向かわせることができる。
当該フラップはさらに、エアバッグクッションに接続される接続部を備え、開裂部のうち直線から最も遠い部分は、当該フラップ上をわたって接続部を越えた箇所に位置していてもよい。すなわち、直線から最も遠い部分に対応する領域には、接続部の一部が設けられているとよい。この領域をエアバッグクッションが押しのけるためには、接続部付近を破断等させなければならず、必要なエネルギーが大きい。したがって、エアバッグクッションの一方の区分にさらに大きい負荷をかけて膨張展開のタイミングを遅くできる。
当該フラップはさらに、開裂部のうち直線から最も遠い部分に対応する領域に連続して設けられ、一方の区分側にて所定方向に突出している自由端を備えてもよい。自由端を備えることでエアバッグクッションと収容部の内壁との間に挟まれる面積が増えるため、エアバッグクッションの一方の区分にさらに大きい動摩擦力を付与できる。
当該フラップはさらに、所定方向に直交して延びる所定のスリットを備え、開裂部はスリットに交差していてもよい。スリットを設けることで、フラップのうちエアバッグクッションに付与する動摩擦力が大きい領域と小さい領域とを区分けできる。これによって、エアバッグクッションの膨張展開時において、フラップの動摩擦力が小さい領域をスムーズに移動させて、エアバッグクッションを所定の区分側から先に膨張展開可能になる。
本発明にかかるフラップの他の構成は、車室内に設けられて緊急時に開口部を形成する所定の収容部に収められた収納形態のエアバッグクッションを包んでいて、エアバッグクッションの膨張展開に伴って開裂するフラップであって、当該フラップは、エアバッグクッションの膨張展開に伴って開裂し互いに離れる第1片および第2片を有し、開裂後の第1片および第2片を開口部へ向けて延ばしたとき第1片のほうが長く、開裂前の第1片の先端は、エアバッグクッションを所定の方向に二等分した場合の一方の区分側に位置し、当該フラップは、エアバッグクッションの一方の区分に他方の区分よりも大きい動摩擦力を付与することを特徴とする。
当該フラップにおいても、エアバッグクッションの所定の区分の膨張展開のタイミングをあえて遅らせ、エアバッグクッションを他方の区分から先に膨張展開させることができる。このように、当該フラップにおいても、エアバッグクッションの展開方向を調整できる。
当該フラップもまた、エアバッグクッションが膨張を開始すると開裂し、開裂後の第1片および第2片はエアバッグクッションによって収容部の内壁に押し付けられ、エアバッグクッションと収容部との間に挟まれる。そして、収容部に所定の開口部が形成されると、エアバッグクッションは第1片および第2片を押しのけて車室空間へ飛び出す。その際、上記構成では、第1片のほうが、第2片よりも長く設定されている。
第1片は、フラップ上の偏った位置に先端を有している。したがって、第1片には、収容部の開口部に近い部位と遠い部位とが生じる。開口部から遠い部位は、エアバッグクッションと収容部の内壁との間に挟まれる範囲が広い。そのため、開口部から遠い部位は、開口部から近い部位に比べて、膨張展開するエアバッグクッションに与える動摩擦力が大きく、エアバッグクッションに負荷をかける。したがって、エアバッグクッションは、一方の区分の膨張展開のタイミングがわずかながら遅れ、他方の区分から先に車室空間へ飛び出す。
このように、上記構成であれば、エアバッグクッションの一方の区分の膨張展開をあえて遅らせ、他方の区分から先に膨張展開させることで、その展開方向を所定の方向へ導くことができる。したがって、エアバッグクッションの展開挙動を目的の方向へ調整し、エアバッグクッションを目的の範囲に効率よく膨張展開させることが可能になる。また、当該フラップにおいても、構成が簡潔であって、コスト面において有利である。
上記の第1片は、一方の区分側と他方の区分側とにわたっている基部と、基部から矩形に延びて先端を形成している高摩擦部と、を有してもよい。この構成の第1片を備えることによっても、エアバッグクッションの展開方向を所定の方向に調整可能なフラップを実現できる。
上記の第1片は、一方の区分側と他方の区分側とにわたっている基部と、基部から次第に面積を広げながら延びて先端を形成している高摩擦部と、を有してもよい。この構成の第1片を備えることによっても、エアバッグクッションの展開方向を所定の方向に調整可能なフラップを実現できる。
上記の第1片は、一方の区分側と他方の区分側とにわたっている基部と、基部から次第に面積を狭めながら延びて先端を形成している高摩擦部と、を有してもよい。この構成の第1片を備えることによっても、エアバッグクッションの展開方向を所定の方向に調整可能なフラップを実現できる。
上記の高摩擦部は、一方の区分側と他方の区分側とにわたって設けられていて、面積の大部分を一方の区分側に有していてもよい。高摩擦部をより広く設けることで、エアバッグクッションに与える動摩擦力をより大きいものに調整できる。
上記の高摩擦部は、一方の区分側にのみ設けられていてもよい。高摩擦部を狭い範囲に設けることで、エアバッグクッションに与える動摩擦力を小さいものに調整できる。
当該フラップはさらに、エアバッグクッションに接続される接続部を備え、開裂前の第1片の先端は、エアバッグクッション上をわたって接続部にまで到達していてもよい。すなわち、第1片には、先端側に接続部の一部が設けられているとよい。この構成によれば、第1片をエアバッグクッションが押しのけるためには、接続部付近を破断等させなければならず、必要なエネルギーが大きい。したがって、エアバッグクッションの一方の区分にさらに大きい負荷をかけて膨張展開のタイミングを遅くすることができる。
当該フラップは、乗員に対して車両前方に設置され、第1片の先端は、二等分したエアバッグクッションの車幅方向の車外側の区分側に位置してもよい。この構成によって、エアバッグクッションの車外側の区分の膨張展開を遅らせ、エアバッグクッションの展開挙動を車内側に向かわせることができる。
上記の第1片はさらに、一方の区分側にて所定の方向に突出している自由端を有してもよい。自由端を備えることでエアバッグクッションと収容部の内壁との間に挟まれる面積が増えるため、エアバッグクッションの一方の区分にさらに大きい動摩擦力を付与できる。
当該フラップはさらに、開裂前の第1片と第2片とにわたって設けられている所定のスリットを備えてもよい。スリットを設けることで、第1片のうち、エアバッグクッションに付与する動摩擦力が大きい領域と小さい領域とを区分けできる。これによって、エアバッグクッションの膨張展開時において、フラップの動摩擦力が小さい領域をスムーズに移動させて、エアバッグクッションを所定の区分側から先に膨張展開可能になる。
上記課題を解決するために、本発明にかかるエアバッグ装置の代表的な構成は、車両の緊急時に乗員を拘束するエアバッグ装置であって、当該エアバッグ装置は、車室内に設けられた所定の収容部と、収納部に収められた収納形態のエアバッグクッションと、収納形態のエアバッグクッションを包んでいる布状のフラップと、を備え、フラップは、エアバッグクッションの膨張展開に伴って開裂する開裂部を有し、開裂部は、フラップ上を所定方向に延びる直線に対して非平行な軌跡を有し、開裂部のうち直線から最も遠い部分は、エアバッグクッションを直線に垂直な平面で二等分した場合の一方の区分側に位置し、フラップは、エアバッグクッションの一方の区分に他方の区分よりも大きい動摩擦力を付与することを特徴とする。
当該エアバッグ装置においても、フラップを利用してエアバッグクッションの所定の区分の膨張展開のタイミングをあえて遅らせ、エアバッグクッションを他方の区分から先に膨張展開させることができる。これによって、エアバッグクッションを車幅方向の一方や車両上下方向の一方に向かわせるなど、エアバッグクッションの展開方向を調整する。エアバッグクッションの膨張展開をどの方向に向けるかは任意に設定でき、その設定した方向を上記構成では所定方向に延びる直線として表している。フラップの開裂部は、この所定方向に延びる直線に対して非平行な軌跡を有している。すなわち、開裂部は、例えば車幅方向や車両上下方向等の所定方向に対して、偏った形状を有している。
上記のフラップは、エアバッグクッションが膨張を開始すると開裂部で開裂するが、エアバッグクッションによって収容部の内壁に押し付けられ、エアバッグクッションと内壁との間に挟まれる。そして、収容部に所定の開口部が形成されると、エアバッグクッションはフラップを押しのけて車室空間外部へ飛び出す。前述した通り、開裂部は偏った形状を有している。そのため、開裂によって生じる端部には、開口部に近い部位と、開口部から遠い部位とが生じる。開口部から遠い部位は、開口部に近い部位に比べて、エアバッグクッションと収容部の内壁との間に挟まれる範囲が広い。そのため、開口部から遠い部位は、膨張するエアバッグクッションに与える動摩擦力が大きく、エアバッグクッションに負荷をかける。したがって、エアバッグクッションは、一方の区分の膨張展開のタイミングがわずかながら遅れ、他方の区分から先に車室空間へ飛び出す。
このように、上記構成であれば、エアバッグクッションの一方の区分の膨張展開をあえて遅らせ、他方の区分から先に膨張展開させることで、その展開方向を所定の方向へ導くことができる。したがって、エアバッグクッションの展開挙動を目的の方向へ調整し、エアバッグクッションを目的の範囲に効率よく膨張展開させることが可能になる。また、当該エアバッグ装置であれば、構成が簡潔であって、コスト面において有利である。
上記の開裂部の軌跡は、フラップ上を斜めに横断する直線状に設けられてもよい。この構成の開裂部を備えることによっても、エアバッグクッションの展開挙動を所定の方向に調整可能なフラップを実現できる。
上記の開裂部は、破線状に設けられた破断可能なスリットであってもよい。この構成によっても、エアバッグクッションの膨張展開に伴って開裂することが可能である。
上記の収容部は、一面に開口部が形成される矩形の内部空間を有し、開裂部のうち直線から最も遠い部分は、収容部の開口部に隣接した内壁に接する箇所に位置してもよい。この構成によると、当該エアバッグ装置の稼働時において、直線から最も遠い部分に対応する領域は、膨張展開するエアバッグクッションによって収容部の内壁に押し付けられ、エアバッグクッションと内壁との間に挟まれる。したがって、エアバッグクッションがこの領域を押しのける際に必要なエネルギーが増加し、エアバッグクッションの一方の区分に付与する動摩擦力をより大きくできる。
上記の収容部は、一面に開口部が形成される矩形の内部空間を有し、開裂部のうち直線から最も遠い部分は、収容部の開口部とは反対側の中底に接する箇所に位置してもよい。この構成によると、当該エアバッグ装置の稼働時において、直線から最も遠い部分に対応する領域は、膨張展開するエアバッグクッションによって収容部の内壁から中底にかけて押し付けられ、エアバッグクッションと収容部の内部との間に挟まれる面積が増える。したがって、エアバッグクッションがこの領域を押しのける際に必要なエネルギーが増加し、エアバッグクッションの一方の区分にかける負荷をより大きくできる。
上記の収容部は、乗員に対して車両前方に設置され、エアバッグクッションは、車幅方向に非対称な形状であってもよい。このような形状のエアバッグクッションは、膨張展開時に車幅方向の揺れが起こりやすい。しかし、上記のフラップを利用することで、その揺れを抑えることができる。
上記の収容部は、乗員に対して車両前方に設置され、開裂部のうち直線から最も遠い部分は、二等分したエアバッグクッションの車幅方向の車外側の区分側に位置してもよい。この構成によって、エアバッグクッションの車外側の区分の膨張展開を遅らせ、エアバッグクッションを車内側に向かって膨張展開させることができる。
上記のフラップはさらに、エアバッグクッションに接続される接続部を有し、開裂部のうち直線から最も遠い部分は、フラップ上をわたって接続部を越えた箇所に位置してもよい。すなわち、直線から最も遠い部分に対応する領域には、接続部の一部が設けられているとよい。この領域をエアバッグクッションが押しのけるためには、接続部付近を破断等させなければならず、必要なエネルギーが大きい。したがって、エアバッグクッションの一方の区分にさらに大きい負荷をかけて膨張展開のタイミングを遅くできる。
上記のフラップはさらに、開裂部のうち直線から最も遠い部分に対応する領域に連続して設けられ、一方の区分側にて所定方向に突出している自由端を有してもよい。自由端を備えることでエアバッグクッションと収容部の内壁との間に挟まれる面積が増えるため、エアバッグクッションの一方の区分にさらに大きい動摩擦力を付与できる。
上記のフラップはさらに、直線に直交して延びる所定のスリットを有し、開裂部はスリットに交差していてもよい。スリットを設けることで、フラップのうち、エアバッグクッションに付与する動摩擦力が大きい領域と小さい領域とを区分けできる。これによって、エアバッグクッションの膨張展開時において、フラップの動摩擦力が小さい領域をスムーズに移動させて、エアバッグクッションを所定の区分側から先に膨張展開可能になる。
本発明にかかるエアバッグ装置の他の構成は、車両の緊急時に乗員を拘束するエアバッグ装置であって、当該エアバッグ装置は、車室内に設けられて緊急時に開口部を形成する所定の収容部と、収納部に収められた収納形態のエアバッグクッションと、収納形態のエアバッグクッションを包んでいる布状のフラップと、を備え、フラップは、エアバッグクッションの膨張展開に伴って開裂し互いに離れる第1片および第2片を有し、開裂後の第1片および第2片を開口部へ向けて延ばしたとき第1片のほうが長く、開裂前の第1片の先端は、エアバッグクッションを所定の方向に二等分した場合の一方の区分側に位置し、フラップは、エアバッグクッションの一方の区分に他方の区分よりも大きい動摩擦力を付与することを特徴とする。
当該エアバッグ装置においても、フラップを利用してエアバッグクッションの所定の区分の膨張展開のタイミングをあえて遅らせることができ、エアバッグクッションを他方の区分から先に膨張展開させることができる。このように、当該エアバッグ装置においても、エアバッグクッションを車幅方向の一方や車両上下方向の一方等の所定の方向に向かわせるなど、エアバッグクッションの展開方向を調整できる。
上記のフラップもまた、エアバッグクッションが膨張を開始すると開裂し、開裂後の第1片および第2片はエアバッグクッションによって収容部の内壁に押し付けられ、エアバッグクッションと収容部との間に挟まれる。そして、収容部に所定の開口部が形成されると、エアバッグクッションは第1片および第2片を押しのけて車室空間へ飛び出す。その際、上記構成では、第1片のほうが、第2片よりも長く設定されている。
第1片は、フラップ上の偏った位置に先端を有している。したがって、第1片には、収容部の開口部に近い部位と遠い部位とが生じる。開口部から遠い部位は、エアバッグクッションと収容部の内壁との間に挟まれる範囲が広い。そのため、開口部から遠い部位は、開口部から近い部位に比べて、膨張展開するエアバッグクッションに与える動摩擦力が大きく、エアバッグクッションに負荷をかける。したがって、エアバッグクッションは、一方の区分の膨張展開のタイミングがわずかながら遅れ、他方の区分から先に車室空間へ飛び出す。
このように、上記構成であれば、エアバッグクッションの一方の区分の膨張展開をあえて遅らせ、他方の区分から先に膨張展開させることで、その展開方向を所定の方向へ導くことができる。したがって、エアバッグクッションの展開挙動を目的の方向へ調整し、エアバッグクッションを目的の範囲に効率よく膨張展開させることが可能になる。また、当該エアバッグ装置においても、構成が簡潔であって、コスト面において有利である。
上記の第1片は、一方の区分側と他方の区分側とにわたっている基部と、基部から矩形に延びて先端を形成している高摩擦部と、を含んでいてもよい。この構成の第1片を備えることによっても、エアバッグクッションの展開方向を所定の方向に調整可能なフラップを実現できる。
上記の第1片は、一方の区分側と他方の区分側とにわたっている基部と、基部から次第に面積を広げながら延びて先端を形成している高摩擦部と、を含んでいてもよい。この構成の第1片を備えることによっても、エアバッグクッションの展開方向を所定の方向に調整可能なフラップを実現できる。
上記の第1片は、一方の区分側と他方の区分側とにわたっている基部と、基部から次第に面積を狭めながら延びて先端を形成している高摩擦部と、を含んでいてもよい。この構成の第1片を備えることによっても、エアバッグクッションの展開方向を所定の方向に調整可能なフラップを実現できる。
上記の高摩擦部は、一方の区側分と他方の区分側とにわたって設けられていて、面積の大部分を一方の区分側に有してもよい。高摩擦部をより広く設けることで、エアバッグクッションに与える動摩擦力をより大きいものに調整できる。
上記の高摩擦部は、一方の区分側にのみ設けられていてもよい。高摩擦部を狭い範囲に設けることで、エアバッグクッションに与える動摩擦力を小さいものに調整できる。
上記の収容部は、一面に開口部が形成される矩形の内部空間を有し、開裂前の第1片の先端は、収容部の開口部に隣接した内壁に接する箇所に位置してもよい。この構成によると、当該エアバッグ装置の稼働時において、第1片の先端側は、膨張展開するエアバッグクッションによって収容部の内壁に押し付けられ、エアバッグクッションと内壁との間に挟まれる。したがって、エアバッグクッションが第1片を押しのける際に必要なエネルギーが増加し、エアバッグクッションの一方の区分に付与する動摩擦力をより大きくできる。
上記の収容部は、一面に開口部が形成される矩形の内部空間を有し、開裂前の第1片の先端は、収容部の開口部とは反対側の中底に接する箇所に位置してもよい。この構成によると、当該エアバッグ装置の稼働時において、直線から最も遠い部分に対応する領域は、膨張展開するエアバッグクッションによって収容部の内壁から中底にかけて押し付けられ、エアバッグクッションと収容部の内部との間に挟まれる面積が増える。したがって、エアバッグクッションがこの領域を押しのける際に必要なエネルギーが増加し、エアバッグクッションの一方の区分にかける負荷をより大きくできる。
上記の収容部は、乗員に対して車両前方に設置され、エアバッグクッションは、車幅方向に非対称な形状であってもよい。このような形状のエアバッグクッションは、膨張展開時に車幅方向の揺れが起こりやすい。しかし、上記のフラップを利用することで、その揺れを抑えることができる。
上記の収容部は、乗員に対して車両前方に設置され、開裂前の第1片の先端は、二等分したエアバッグクッションの車幅方向の車外側の区分側に位置してもよい。この構成によって、エアバッグクッションの車外側の区分の膨張展開を遅らせ、エアバッグクッションを車内側に向かって膨張展開させることができる。
上記のフラップはさらに、エアバッグクッションに接続される接続部を有し、開裂前の第1片の先端は、フラップ上をわたって接続部を越えた箇所に位置してもよい。すなわち、第1片の先端には接続部の一部が設けられているとよい。この第1片をエアバッグクッションが押しのけるためには、接続部付近を破断等させなければならず、必要なエネルギーが大きい。したがって、エアバッグクッションの一方の区分にさらに大きい負荷をかけて膨張展開のタイミングを遅くできる。
上記の第1片はさらに、一方の区分側にて所定の方向に突出している自由端を含んでいてもよい。自由端を備えることでエアバッグクッションと収容部の内壁との間に挟まれる面積が増えるため、エアバッグクッションの一方の区分にさらに大きい動摩擦力を付与できる。
上記のフラップはさらに、開裂前の第1片と第2片とにわたって設けられている所定のスリットを有してもよい。スリットを設けることで、第1片のうち、エアバッグクッションに付与する動摩擦力が大きい領域と小さい領域とを区分けできる。これによって、エアバッグクッションの膨張展開時において、フラップの動摩擦力が小さい領域をスムーズに移動させて、エアバッグクッションを所定の区分側から先に膨張展開可能になる。
本発明によれば、簡潔な構成でエアバッグクッションの展開方向を効率よく調整可能なフラップ、およびこのフラップを備えたエアバッグ装置を提供できる。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
(エアバッグ装置)
以下では、まずエアバッグ装置100の構成および機能の概要を説明し、次にフラップ120の機能について詳述する。図1は、本発明の実施形態にかかるエアバッグ装置100の概要を例示する図である。図1(a)はエアバッグ装置100の稼動前の車両を例示した図である。図1(a)その他の本願のすべての図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
本実施形態では、エアバッグ装置100を、左ハンドル車における前部座席用、特に助手席用(前列右側座席)のものとして具現化している。なお、以下では前列右側の助手席104を想定して説明を行う。そのため、例えば車幅方向の車外側とは車両右側を意味し、車幅方向の車内側とは車両左側を意味する。
エアバッグ装置100のエアバッグクッション(以下、クッション108(図1(b)参照))は、インストルメントパネル102に設けられた収容部106に収容されている。収容部106は助手席104の車両前方に設置されていて、クッション108は助手席104の乗員を車両前方から拘束する。クッション108は、不図示のセンサから送られる衝撃の検知信号に起因して稼働し、その膨張圧で収容部106の蓋部分107に開口部158(図7(a)参照)を形成し、車両後方に向かって膨張展開する。
図1(b)はエアバッグ装置100の稼動後の車両を例示した図である。クッション108は袋状であって、インフレータ110(図3参照)からガスを受給して膨張展開する。クッション108は、その表面を構成する複数の基布を重ねて縫製または接着することや、OPW(One-Piece Woven)を用いての紡織などによって形成されている。
クッション108には、メインバッグ112およびセンタバッグ114の2つの部位が含まれている。メインバッグ112は、助手席104の前側に膨張展開する、容量の大きな部位である。メインバッグ112は、助手席104の乗員とインストルメントパネル102およびウィンドシールド116との間の空間を埋めるように膨張展開する。これにより、乗員のインストルメントパネル102への衝突を防ぐ。また、ウィンドシールド116への乗員の衝突を防ぐことで、併せて乗員の車外放出をも防ぐ。
センタバッグ114は、メインバッグ112の車内側に隣接して膨張展開する、メインバッグ112よりも容量の小さい扁平な部位である。センタバッグ114は、乗員から見て、センターコンソール118の手前に膨張展開し、オブリーク衝突時等において乗員の車内側への移動やセンターコンソール118への衝突等を防ぐ。
図2は、図1(a)の収容部106内のエアバッグクッション108を例示した図である。図2(a)では、収容部106の蓋部分107(図1(a)参照)を省略し、クッション108を露出させている。クッション108は、折畳みや巻回等によって、小さくまとめた収納形態となって収容部106に収容されている。
図2(b)は、図2(a)の収納形態のクッション108を例示した斜視図である。図2(b)に例示するように、収納形態のクッション108は、フラップ120によって包まれている。フラップ120は、クッション108を包む布状の部材である。クッション108をフラップ120で包むことで、クッション108の折畳みや巻回が維持でき、クッション108の運搬や車両への設置作業が容易になる。
フラップ120には、開裂部122が設けられている。開裂部122は、エアバッグクッション108の膨張展開に伴って開裂する部位である。本実施形態では、開裂部122は、破線状に設けられた破断可能なスリットとして設けられている。開裂部122はフラップ120の一方の端124から他方の端126にまで渡っている。
図2(c)は、図2(b)の開裂部122が開裂した状態を例示した図である。開裂部122が開裂すると、フラップ120は分断される。クッション108は、フラップ120の開裂した部分を通って車室空間へと膨張展開する。
図3は、図2(c)のクッションの分解図である。クッション108の内部には、インフレータ110が備えられている。インフレータ110はガス発生装置であって、車体側から信号を受けて稼動し、クッション108にガスを供給する。本実施形態ではディスク型のインフレータ110を使用している。クッション108の図中下側の底面128には所定の孔部(図示省略)が設けられていて、インフレータ110は孔部からその全部または一部が挿入される。
インフレータ110には四方にスタッドボルト130が備えられている。スタッドボルト130は、フラップ120を貫通して収容部106(図2(a)参照)に締結される。フラップ120には、スタッドボルト130を貫通させるボルト孔132と、その中央にインフレータ110の底面を露出させる中央孔134が設けられている。ボルト孔132はフラップ120をクッション108に接続する接続部としても利用でき、スタッドボルト130を通すことでフラップ120をクッション108に留めることができる。中央孔134は、インフレータ110にハーネス等を接続する際に使用される。これら中央孔134およびボルト孔132を有する領域は、収容部106の中底164(図7(a)参照)に接地する接地面136となる。
(フラップ)
図4は、図3のフラップ120を単体で例示した図である。図4(a)は、図3に例示した開裂後のフラップ120の展開図である。図4(a)に例示するように、開裂後のフラップ120は、接地面136を挟んだ一方側と他方側とに、第1片140および第2片142が形成される。第1片140と第2片142とは、開裂前にはつながっていた部位であり、縁が互いにかみ合う形状になっている。
図4(b)は、開裂前のフラップ120の展開図である。開裂前のフラップ120は矩形であって、接地面136が一端側に位置している。他端側の縁部144には、一部のボルト孔132が設けられていて、スタッドボルト130(図3参照)を利用して接地面136に重ねて留められる。
図5は、図4(b)のフラップ120でエアバッグクッション108を包む過程を例示した図である。図5(a)を含めた各図ではクッション108(図3参照)は省略している。フラップ120はまず、ボルト孔132にインフレータ110(図3参照)のスタッドボルト130を通し、接地面136をクッション108に接続させる。次に図5(b)に例示するように、フラップ120は、長手方向にクッション108に巻きつける。そして図5(c)に例示するように、縁部144のボルト孔132にスタッドボルト130を通して留める。これによって、フラップ120はクッション108に巻きついた状態となる。フラップ120によってクッション108の折畳みや巻回が維持できるため、クッション108の運搬や設置作業等が容易になる。
本実施形態のフラップ120には、クッション108の展開方向を調整する機能がある。本実施形態では、フラップ120はクッション108と共に乗員の車両前方に設置されていて、クッション108の展開挙動を車幅方向の車内側に向かわせることができる。以下、フラップ120の構成と機能および効果についてさらなる説明を行う。
図6は、図5(c)のフラップ120の各状態を例示した図である。図6(a)は、図5(c)の開裂部122が開裂した状態を例示している。フラップ120の開裂部122が開裂すると、フラップ120は分断され、開裂した端部として一対の第1片140および第2片142が形成される。本実施形態では、特に第1片140が独自の偏った形状になるように設定している。なお、第1片140および第2片142はおおよその領域を示した便宜的な名称であり、本実施形態では接地面136に対して車両前方側の端部を第1片140と呼び、接地面136に対して車両後方側の端部を第2片142と呼んでいる。
第1片140は、基部146と高摩擦部148とを含んで構成されている。基部146は、第1片140の根本側を構成する幅の広い領域である。高摩擦部148は、第1片140の先端側を構成している領域であり、基部146の車外側(車両右側)から矩形に延びている。高摩擦部148は、詳しくは後述するが、クッション108に対して動摩擦力を与える部位である。第1片140の基部146から高摩擦部148が凸形状に突出しているため、それに応じて第2片142の車外側の領域は凹形状に窪んでいる。
車外側(車両右側)の区分E1および車内側(車両左側)の区分E2は、クッション108(図3参照)を車幅方向に二等分したときの区分である。第1片140の基部146は区分E1側と区分E2側とにわたって設けられているが、高摩擦部148は車外側の区分150側のみに偏って設けられている。
図6(b)は、図6(a)のフラップ120の矢視Aに対応した側面図である。図6(b)では、収容部106および開口部158も概略的に例示し、第1片140および第2片142を開口部に向かって垂直に伸ばしている。第1片140は高摩擦部148を有するため、開口部へ向けて延ばしたときに第2片142よりも長い。
図6(c)は、図5(c)の開裂前のフラップ120を例示した図である。開裂部122は、上述した第1片140が形成できるように、フラップ120上に独自の軌跡で設けられている。仮想直線L1は、フラップ120上に設定した車幅方向に渡る仮想的な線分であって、フラップ120の上面154において車両前後方向の中央を通っている。クッション108の車外側の区分E1および車内側の区分E2は、仮想直線L1に垂直な平面で車幅方向に二等分したものである。
開裂部122は、仮想直線L1に対して非平行な軌跡を有していて、本実施形態では直線的に複数回屈曲したものとなっている。開裂部122のうち仮想直線L1から最も遠くに離れた部分(区間)は高摩擦部148の先端を形成していて、車外側の区分E1側に位置している。開裂部122の軌跡の各区間を詳述すると、区間122aは第1片140の基部146と第2片142とを分けていて、主に区分E2側にて仮想直線L1に沿って平行に設けられている。区間122bは、高摩擦部148の側縁を形成する部分であり、仮想直線L1に対して直交して設けられる。区間122cは、仮想直線L1から最も遠い部分であって高摩擦部148の先端を形成し、仮想直線L1と平行に設けられている。開裂部122が開裂すると、第1片140と第2片142とが互いに離れ、それらの間からクッション108が車室空間へ向かって膨張展開する。
図7は、図6(c)の開裂部122が開裂する過程を例示した図である。図7(a)は、図6(c)のB−B断面図であって、開裂前の第1片140の基部146および第2片142を例示している。収容部106は矩形の内部空間を有し、フラップ120で包まれた収納形態のクッション108が収容される。
収容部106の蓋部分107は、例えば開裂を誘発させるティアライン156が設けられていて、クッション108の圧力によって開口して開口部158が形成される。開裂部122の区間122aは、蓋部分107に面したフラップ120の上面154の中央付近に設けられている。
図7(b)は、クッション108の区分E2の膨張開始直後の様子を例示している。クッション108が膨張を開始すると、その圧力で開裂部122の区間122a(図6(c)参照)が開裂し、第1片140の基部146と第2片142とが互いに離れる。クッション108は第1片140の基部146と第2片142との間および開口部158を通って、車室空間へ向かって膨張展開する。
図7(c)は、図6(c)のC−C断面図であって、開裂前の第1片140の高摩擦部148を例示している。開裂部122のうち高摩擦部148の先端を形成する区間122cは、フラップ120の車両後方側の側面160と接地面136との間付近に設けられている。開裂前の第1片140の高摩擦部148は、フラップ120の上面154から側面160にまでわたって設けられていて、収容部106の内壁162に到達している。
図7(d)は、クッション108の区分E2の膨張開始直後の様子であって、図7(b)と同じ時点を例示している。クッション108が膨張を開始すると、開裂部122の区間122c(図6((c)参照)が開裂し、蓋部分107も開口して開口部158が形成される。しかし、高摩擦部148の先端は蓋部分107に対面していず、収容部106の内壁162に接するまで遠くに延びている。したがって、高摩擦部148は、開口部158から露出するより先に、膨張展開するクッション108によって収容部106の内壁162に押し付けられ、クッション108と内壁162との間に挟まれる。ここからクッション108の区分E2が開口部158から出るには、高摩擦部148を押しのける必要がある。しかし、高摩擦部148がクッション108と内壁162との間に挟まれているため、膨張しようとする区分E2は、高摩擦部148から大きな動摩擦力を受ける。この動摩擦力が負荷となって、区分E2は膨張展開のタイミングが区分E1(図7(b)参照)に比べて遅れる。
図7(b)を参照すると、開裂後の第1片140と第2片142も、クッション108によって収容部106の内壁162や蓋部分107に押し付けられ、クッション108とこれらとの間に挟まれる。しかし、開裂部122の区間122aは蓋部分107に面していて、蓋部分107に開口部158が形成されると、クッション108による押付けから開放される。したがって、クッション108の区分E2は、第1片140の基部146および第2片142からさほど負荷を受けることなく車室空間へ膨張展開する。
図6(c)に例示したように、開裂部122は車幅方向に対して偏った形状を有している。そして、図6(a)に例示したように、開裂によって生じる端部である第1片140もまた、車幅方向に対して偏った形状となる。図7(b)に例示したように、第1片140の基部146は、開口部158に近い部位となる。一方、図7(d)に例示したように、第1片140の高摩擦部148は、開口部158から遠い部位となる。
図7(d)に例示するように、第1片140のうち開口部158から遠い部位である高摩擦部148は、クッション108と収容部106との間に挟まれる範囲も広い。そのため、高摩擦部148は、膨張するクッション108の区分E1に与える動摩擦力が大きく、クッション108に負荷をかける。したがって、図7(d)のクッション108の区分E1は、図7(b)の区分E2に比べて、膨張展開のタイミングが僅かながら遅れる。このようにして、クッション108には、図7(b)の区分E2から先に膨張展開し、車内側へ向かう展開挙動が生じる。
図8は、図7(c)の高摩擦部148の動作過程を詳しく例示した図である。図8(a)に例示するように、開裂前における第1片140の高摩擦部148の先端は、フラップ120の側面160と接地面136との間付近にまで延びている。図8(b)に例示するように、クッション108が膨張を開始すると、区間122cが開裂し、第1片140が形成される。
高摩擦部148は、膨張するクッション108によって、収容部106の内壁162に押し付けられ(力F1)、クッション108と内壁162および蓋部分107との間に挟まれる。高摩擦部は力F1を受けているため、高摩擦部148を開口部158の方向へ引き抜くためには相応のエネルギーが必要になる。そのため、高摩擦部148は、膨張しようとするクッション108の区分E1に動摩擦力を付与して抵抗し、区分に負荷(力F2)をかける。
図8(c)に例示するように、高摩擦部148が開口部158の方向へ次第に引き抜かれると、クッション108が高摩擦部148を内壁162に押し付ける力F1も次第に弱まり、合わせて高摩擦部148がクッション108に与える力F2も弱まる。
図8(d)に例示するように、高摩擦部148は、開口部158の付近まで移動すると、クッション108による内壁162への押付けから開放されて力F1および力F2が解消し、クッション108と共に開口部158から車室空間へと飛び出す。この一連の高摩擦部148の働きによって、クッション108の区分E1は、膨張展開のタイミングが区分E2(図7(b)参照)よりもわずかながら遅れる。このようにして、クッション108には、区分E1から先に膨張展開することによる車内側へ向かう展開挙動が生じる。
(従来技術との比較)
図9は、本実施形態のエアバッグ装置100と従来のエアバッグ装置10との展開挙動を比較した図である。図9(a)および図9(b)に例示する本実施形態のエアバッグ装置100は、上述した構成のフラップ120(図6(c))等参照)を備えている。
図9(a)は、本実施形態のエアバッグ装置100におけるクッション108の膨張展開の開始直後の様子を例示している。座標線X1は、車両上下方向および車幅方向に伸びていて、車両に対して所定の位置に設定している。上記説明したように、クッション108は、フラップ120(図6(c))等参照)の第1片140によって車外側の区分E1に負荷を受け、クッション108は区分E2から先に膨張展開する。
図9(b)は、図9(a)のクッション108の膨張展開の完了時を例示している。クッション108は、車外側のメインバッグ112と車内側のセンタバッグ114とを有していて、車幅方向に非対称な形状となっている。特に、車外側のメインバッグ112は車内側のセンタバッグ114よりも容量が大きく、本来であればクッション108の姿勢はメインバッグ112側に傾きやすい。しかし、上述したフラップ120(図6(c))等参照)の機能によって、クッション108はさほど揺らぐことなく、目的の範囲に膨張展開する。
図9(c)および図9(d)に例示する従来のエアバッグ装置10は、本実施形態のエアバッグ装置100に対する比較例である。エアバッグ装置10のフラップ(図示省略)は、第1片140(図6(c))等参照)を備えず、単に車幅方向に直線的に伸びた開裂部で開裂する。したがって、エアバッグ装置10のクッション12は、車内側の区分E1と車外側の区分E2とが同じタイミングで膨張展開する。
エアバッグ装置10のクッション12もまた、車外側のメインバッグ14および車内側のセンタバッグ16を備えている。このうち、容量の大きいメインバッグ14のほうがセンタバッグ16よりもガスの圧力を受けやすいため、クッション12は車外側のメインバッグ14から先に膨張展開している。
図9(d)は、図9(c)のクッション12の膨張展開の完了時を例示している。クッション12は、膨張展開する際に容量の大きいメインバッグ14側に傾きやすく、展開挙動が車外側へ向かいやすい。また、メインバッグ14に比べて容量の小さいセンタバッグ16は、その分、ガスの圧力を受けにくく、折畳みを解消する際にもガスの圧力が失われやすいため、メインバッグ14よりも膨張展開が遅くなりやすい。したがって、膨張展開の完了時の姿勢が、図9(b)のクッション108よりも、車外側に傾きやすい。
以上のように、本実施形態のエアバッグ装置100であれば、クッション108の車外側の区分E1の膨張展開のタイミングをあえて遅らせ、車内側の区分E2から先に膨張展開させることで、その展開方向を所定の方向へ導くことができる。したがって、上記構成であれば、クッション108の展開方向を調整して目的の方向へ向かわせることができ、クッション108を目的の範囲に効率よく膨張展開できる。特に、フラップ120は構成が簡潔であるため、クッション108の形状や内部構成を変更する場合よりもコストが低廉である。特に、クッション108の設置個所の周辺形状が車種によって異なる場合であっても、クッション108の形状等を変更することなくその展開挙動を調整することができるため、コストの面において非常に有効である。
上記説明では、車幅方向に非対称な形状のクッション108(図1(b)等参照)に対してフラップ120(図6(c)等参照)を実施しているが、これに限らず、フラップ120の機能は車幅方向に対象な形状のクッションに対しても有効である。例えば、車両のウィンドシールド116(図1(b)等参照)は車幅方向に湾曲していて、ウィンドシールド116の車外側は中央側よりも車両後側に位置している。また、ウィンドシールド116の車外側にはフロントピラー117も存在している。そのため、前部座席の前方に備えられたクッションは、車外側がウィンドシールド116やフロントピラー117等の構造物に接触することがある。クッションがこれら構造物に接触すると、さらに車内側へ向かって跳ね返ってしまい、車幅方向に対称な形状のクッションであっても挙動が揺れてしまう。このような場合にも、上記説明したフラップ120を実施することでクッションに車内側へ向かう挙動を生じさせ、より揺れの少ない安定した挙動で膨張展開させることができる。
(第1変形例)
以下、図5に例示したフラップ120の各変形例を例示する。以降の記載において、既に説明した構成要素については、同じ符号を付することによって、その説明を省略する。また、異なる符号が付された構成要素であっても、既に説明した構成要素と同じ名称のものは、同じ構成および機能を有するものとする。
図10は、図5のフラップ120の第1変形例を例示した図である。図10(a)は、開裂前のフラップ200を例示している。フラップ200は、接地面136の幅方向の両側に自由端202、204を有している点において、図5のフラップ120と構成が異なっている。
図10(b)に例示するように、フラップ200もまた、ボルト孔132にインフレータ110(図3参照)のスタッドボルト130を通すことで、接地面136をクッション108に接続させる。そして、図10(c)に例示するようにフラップ200も長手方向にクッション108に巻きつける。このとき、自由端202、204は、接地面136から車両上方に折られ、クッション108の端面109、111をそれぞれ覆う。
図10(d)に例示するように、縁部144のボルト孔132にスタッドボルト130(図3参照)を通して留めることで、フラップ200はクッション108を覆った状態になる。図10(e)は、図10(d)の開裂部122が開裂した状態を例示している。フラップ200においても、開裂した端部として上述した第1片140および第2片142が形成される。フラップ200は自由端202、204を備えることで、クッション108の表面をすべて覆う。これによって、クッション108の折畳み等を効率よく維持し、さらにはクッション108が収容部106の内側の角等に触れることもさらに防止できる。
(第2変形例)
図11は、図5のフラップ220の第2変形例を例示した図である。図11(a)は、開裂前のフラップ220を例示している。フラップ220は、自由端202に加えて、さらに高摩擦部148に連続して自由端222を有している。自由端222は、高摩擦部148の車外側の側部から車幅方向に突出している。
図11(b)に例示するように、フラップ220も、ボルト孔132にインフレータ110(図3参照)のスタッドボルト130を通して接地面136をクッション108に接続させる。そして、図10(c)に例示するようにフラップ220は長手方向にクッション108に巻きつける。このとき、自由端222は、クッション108の端面111を覆うように折られる。
図11(d)に例示するように、縁部144のボルト孔132にスタッドボルト130を通して留め、フラップ220はクッション108を覆った状態となる。図11(e)は、図11(d)の開裂部122が開裂した状態を例示している。フラップ220においても、開裂した端部として第1片140および第2片142が形成される。このとき、自由端222は、高摩擦部148と共に移動する。
図8(b)等を参照して説明したように、高摩擦部148は、クッション108と収容部106の内壁162との間に挟まれる。そして、図11(e)の自由端222もまた、高摩擦部148と同様に、クッション108によって収容部106の内壁162に押し付けられ、クッション108と内壁162との間に挟まれる。すなわち、第1片140に自由端222を設けることで、クッション108と内壁162との間に挟まれる面積が増加する。したがって、膨張するクッション108の区分E1に与える動摩擦力が大きくなり、区分E1にさらに負荷をかけてその膨張展開のタイミングを遅らせることが可能になる。
(第3変形例)
図12は、図5のフラップの第3変形例を例示した図である。図12(a)のフラップ240は、高摩擦部148の側部に自由端242を有している。自由端242は、高摩擦部148の根本付近から車幅方向に突出している。
図12(b)に例示するように、フラップ240も、ボルト孔132にインフレータ110(図3参照)のスタッドボルト130を通して接地面136をクッション108に接続させる。そして、図12(c)に例示するようにフラップ240は長手方向にクッション108に巻きつける。自由端242もまたクッション108の端面111を覆うように折られる。
図12(d)に例示するように、縁部144のボルト孔132にスタッドボルト130を通して留め、フラップ240はクッションを覆った状態になる。図12(e)は、図12(d)の開裂部122が開裂した状態を例示している。フラップ240においても、開裂した端部として上述した第1片140および第2片142が形成される。このとき、自由端242は、高摩擦部148と共に移動する。
自由端242もまた、高摩擦部148(図8(b)等)と共にクッション108によって収容部106の内壁162に押し付けられ、クッション108と内壁162との間に挟まれる。自由端242は、高摩擦部148から基部146にかけての側部に設けられているが、この自由端242を設けることによっても、クッション108と内壁162との間に挟まれる面積が増加する。したがって、クッション108の区分E1に与える動摩擦力が大きくなり、区分E1にさらに負荷をかけてその膨張展開のタイミングを遅らせることが可能になる。
(第4変形例)
図13は、図5のフラップ260の第4変形例を例示した図である。図13(a)のフラップ260は、上述した3つの自由端202、222、242を共に有している。
図13(b)に例示するように、フラップ260も、ボルト孔132にインフレータ110(図3参照)のスタッドボルト130を通し、接地面136をクッション108に接続させる。そして、図13(c)に例示するようにフラップ260を長手方向にクッション108に巻きつける。自由端202、222、242は、クッション108の端面109、111をそれぞれ覆うように折られる。なお、自由端222、242は、どちらを下にしてクッション108側へと折ってもよい。
図13(d)に例示するように、縁部144のボルト孔132にスタッドボルト130を通し、縁部144をクッション108に接続させる。図13(e)は、図13(d)の開裂部122が開裂した状態を例示している。自由端222、242は、共に高摩擦部148と共に移動する。
自由端222、242は、高摩擦部148と同様に、クッション108(図8(b)参照)によって収容部106の内壁162に押し付けられ、クッションと108内壁162との間に挟まれる。これら自由端222、242を設けることによって、クッション108と内壁162との間に挟まれる面積はさらに増加する。したがって、クッション108の区分E1に与える動摩擦力が大きくなり、区分E1にさらに負荷をかけてその膨張展開のタイミングを遅らせることが可能になる。このように、自由端222、242を設けて第1片140の面積を変更することで、クッション108に与える負荷を調節することができる。
(第5変形例)
図14は、図5のフラップ120の第5変形例を例示した図である。図14(a)に例示するフラップ280は、開裂部282を有している。図14(a)では、開裂部282の開裂前の様子を例示している。開裂部282は、その開裂後に第1片284および第2片286を形成する。第1片284は、基部146の車外側の区分E1のみに高摩擦部288を有している。高摩擦部288は、図5(c)の高摩擦部148よりも、車幅方向に幅が狭い。
図14(b)は、フラップ280の開裂前の展開図である。フラップ280もまた矩形を有している。開裂部282は、図4(b)の開裂部と比べて高摩擦部288となる領域の幅が細いこと以外、開裂部122と同様の構成である。
図14(c)は、フラップ280の開裂後の展開図である。高摩擦部288は、図4(a)の高摩擦部148に比べて、車幅方向に幅が狭いため、膨張展開時のクッション108(図8(b)参照)と収容部106の内壁162との間に挟まれる面積も狭い。したがって、高摩擦部288は、高摩擦部148に比べて、クッション108に与える負荷を小さく抑えることができる。
(第6変形例)
図15は、図5のフラップ120の第6変形例を例示した図である。図15(a)に例示するフラップ300は、開裂部302を有している。図15(a)では、開裂前の開裂部302を例示している。開裂部302は、その開裂後に第1片304および第2片306を形成する。第1片304が有する高摩擦部308は、図5(c)の高摩擦部148よりも、車幅方向に幅が広い。高摩擦部308は、基部146のうちの区分E1側から区分E2側にわたって設けられているが、面積の大部分を区分E1側に有している。
図15(b)は、フラップ300の開裂前の展開図である。フラップ300もまた矩形を有している。開裂部302は、図4(b)の開裂部122と比べて高摩擦部308となる領域の幅が広いこと以外、開裂部122と同様の構成である。
図15(c)は、フラップ300の開裂後の展開図である。高摩擦部308は、図4(a)の高摩擦部148に比べて、車幅方向に幅が広く、膨張展開時のクッション108(図8(b)参照)と収容部106の内壁162との間に挟まれる面積も広い。したがって、高摩擦部308は、高摩擦部148に比べて、クッション108に与える負荷を大きいものにできる。
図14(a)に例示した高摩擦部288や、図15(a)に例示した高摩擦部308のように、所定の高摩擦部の幅を変えてその面積を増減させることで、クッション108に与える負荷を調節することができる。
(第7変形例)
図16は、図5のフラップ120の第7変形例を例示した図である。図16(a)のフラップ320は、開裂部322を有している。開裂部322は、図5(c)の開裂部322を車両前後方向に反転させた形状を有している。そのため、車両後方側に第1片324を有し、車両前方側に第2片326を有している。第1片324の高摩擦部328は、基部330の車外側にて、車両前方へ向かって延びている。
図16(b)は、図16(a)のD−D断面図に対応する図である。図16(b)に例示するように、高摩擦部328の先端は、フラップ320の車両前方側の側面161と接地面136との間付近にまで延びている。高摩擦部328は、収容部106の車両前方側の内壁166に到達しているため、膨張するクッション108と内壁166との間に挟まれる。
図16(c)はフラップ320の開裂前の展開図である。フラップ320もまた矩形を有している。開裂部322は、図4(b)の開裂部122とは車両前後方向に対称な形状を有していること以外、開裂部122と同じ機能を有している。
図16(d)は、フラップ320の開裂後の展開図である。高摩擦部328は、図4(a)のフラップ120と異なり、第1片324が車両後方側に形成され、第2片326が車両前方側に形成される。しかしながら、第1片324の高摩擦部328は、図4(a)のフラップ120と同様に、車外側に設けられている。したがって、フラップ320も、クッション108の車外側の区分E1に高い動摩擦力を与えて膨張展開のタイミングを遅くさせ、クッション108を車内側の区分E2から先に膨張展開させることができる。
(第8変形例)
図17は、図5のフラップ120の第8変形例を例示した図である。図17(a)のフラップ340は、開裂部342を有している。開裂部342の軌跡は、フラップ340の上面154から車両後方側の側面160にかけて、傾斜した直線状に設けられている。開裂部342もまた、車幅方向に対して非平行な軌跡を有している。
図17(b)はフラップ340の開裂前の展開図である。フラップ340もまた、矩形を有している。開裂部342は、フラップ340の車内側の一端124から車外側の他端126にわたってフラップ340上を斜めに横断している。
図17(c)は、フラップ340の開裂後の展開図である。開裂部342が開裂すると、フラップ340は、全体として平行四辺形となる。このフラップ340では、接地面136から第1片344の先端348までの長さG1が、接地面136から第2片346の先端350までの長さG2よりも長い。そして第1片344も、開口部158(図6(b)参照)に向かって延ばしたときに、第2片346よりも長い。
図17(a)に例示したように、開裂部342のうち仮想直線L1から最も離れた部分は第1片344の先端348であり、先端348は車外側の区分E1に設けられている。また、先端348は、フラップ340の車両後方側の側面160にまで延びている。したがって、第1片344は、図7(d)の第1片140と同様に、膨張するクッション108と収容部106の内壁162との間に挟まれ、クッション108に対して高い動摩擦力を付与する。
このフラップ340によっても、クッション108の車外側の区分E1に負荷をかけ、クッション108を車内側の区分E2から先に膨張展開させる。したがって、クッション108に車内側に向かう展開挙動を生じさせることができる。
(第9変形例)
図18は、図5のフラップ360の第9変形例を例示した図である。図18(a)は、開裂前の開裂部362を例示している。図18(a)に例示する第1片364の高摩擦部366は、先端368へ向かって次第に面積が広がった形状になっている。それに応じて、第2片365は根本側に向かって次第に面積が狭まっている。
図18(b)は、フラップ360の開裂前の展開図である。開裂部362は、図4(b)の開裂部122と異なり、高摩擦部366の先端側にて車内側に迂回している。したがって、高摩擦部366は、先端368が台形の下底のように広がっている。
図18(c)は、フラップ360の開裂後の展開図である。高摩擦部366もまた、図8(b)等の高摩擦部148と同様に、クッション108と収容部106の内壁162との間に挟まれる。特に、高摩擦部148は、先端側の面積が広がっているため、クッション108と内壁162との間に挟まれる領域も広い。したがって、高摩擦部366であれば、クッション108の車外側により大きい動摩擦力を与えることができる。
(第10変形例)
図19は、図5のフラップ120の第10変形例を例示した図である。図19(a)は、開裂前の開裂部382を例示している。図19(a)に例示する第1片384の高摩擦部386は、先端388へ向かって次第に面積が狭まった形状になっている。それに応じて、第2片390は、根本側に向かって次第に面積が広がっている。
図19(b)は、フラップ380の開裂前の展開図である。開裂部382は、高摩擦部386の先端側が車外側に斜めに延び、先端388の幅が台形の上底のように狭まっている。
図19(c)は、フラップ380の開裂後の展開図である。高摩擦部386もまた、図8(b)の高摩擦部386と同様に、クッション108と収容部106の内壁162との間に挟まれる。高摩擦部386は、先端側の面積が狭まっていて、クッション108と内壁162との間に挟まれる領域も狭い。したがって、高摩擦部386であれば、クッション108の車外側の区分E1に与える動摩擦力を制限し、負荷を小さく抑えることができる。
(第11変形例)
図20は、図5のフラップ120の第11変形例を例示した図である。図20(a)は、開裂前の開裂部402を例示している。図20(a)に例示する開裂部402は、車内側から車外側へ向かって、まずフラップ400の上面154と車両前方側の側面161との間を通り、そこから車両後方へ屈曲して延び、さらに車外側へ屈曲してフラップの車両後方の側面160と接地面136との間を通っている。このように、フラップ400では、第2片404の先端が上面154の車両前方側にまで延びている。
図20(b)は、フラップ400の開裂前の展開図である。開裂部402は、図4(b)の開裂部122と異なり、第2片404が長い。図20(c)は、フラップ400の開裂後の展開図である。フラップ400では、第2片404の接地面136から先端406までの長さG3が、図4(a)のフラップ120と比べて、長く設定されている。しかしながら、この第2片404よりも、第1片408の接地面136から高摩擦部148の先端410までの長さG4のほうが長い。そして第1片408も、開口部158(図6(b)参照)に向かって延ばしたときに、第2片404よりも長い。したがって、第1片408のほうが、第2片404よりも、クッション108に与える動摩擦力が大きい。したがって、このフラップ400によっても、クッション108の車外側の区分E1に車内側の区分E2よりも大きな負荷をかけ、クッション108を車内側の区分E2から先に膨張展開させることができる。
(第12変形例)
図21は、図5のフラップ120の第12変形例を例示した図である。図21(a)では、開裂部422が接地面136にまでわたっていて、第1片424の高摩擦部148にさらに延長部426が設けられている。延長部426は、高摩擦部148を延長した部位である。延長部426は第1片424の先端を形成していて、延長部426の先端が開裂部422のうち仮想直線L1から見てフラップ420上をわたった最も遠い部分である。
図21(b)は、フラップ420の開裂前の展開図である。開裂部422は、車外側にて接地面136を通っている。接地面136は、収容部106(図8(b)等参照)のうち開口部158とは反対側の中底164に接する面である。すなわち、高摩擦部148は、延長部426によって、中底164に接する箇所にまで到達している。
図21(b)は、フラップ420の開裂後の展開図である。第1片424は収容部106の中底164に到達していて、クッション108の膨張展開時において、クッション108(図8(b)参照)によって収容部106の内壁162から中底164にかけて押し付けられる。したがって、第1片424は、図8(b)の第1片140よりも、クッション108と収容部106の内部との間に挟まれる面積が増えている。したがって、第1片424をクッション108が押しのける際に必要なエネルギーは、第1片140の場合よりも増加する。このように、第1片424によると、クッション108の一方の区分E1にかける負荷(力F2)をより大きくできる。
(第13変形例)
図22は、図5のフラップ120の第13変形例を例示した図である。図22(a)に例示するフラップ440もまた、開裂部442が接地面136にまでわたっていて、高摩擦部444が接地面136にまで延びている。そして、高摩擦部444の先端446側には、クッション108への接続部であるボルト孔132が含まれている。このように、フラップ440では、開裂部442のうち仮想直線L1からフラップ420上をわたった最も遠い部分(先端446)が、接続部(ボルト孔132)を越えた箇所に位置している。
図22(b)は、フラップ440の開裂前の展開図である。開裂部442は、接地面136の車外側かつ車両後方側の約1/4の領域を区切るように設けられていて、収容部106(図8(a)参照)の中底164に到達する。この開裂部によって、ボルト孔が高摩擦部に含まれている。
図22(c)は、フラップ440の開裂後の展開図である。図22(c)に例示するように、クッション108(図8(b)等参照)が開裂部442を開裂させるためには、接続部であるボルト孔132付近を破断させなければならない。したがって、クッション108は、単に開裂部442を開裂させる場合よりも、大きなエネルギーが必要となる。
また、第1片424は中底164(図8(b)参照)に到達していて、クッション108の膨張展開時において、クッション108によって収容部106の内壁162から中底164にかけて押し付けられる。したがって、クッション108が第1片424を押しのける場合に必要なエネルギーはさらに増加する。このように、接続部であるボルト孔132を有する高摩擦部444は、クッション108の車外側の区分E1にさらに大きい負荷(力F2)をかけ、区分E1の膨張展開のタイミングをより遅くさせることが可能である。
(第14変形例)
図23は、図5のフラップ120の第14変形例を例示した図である。図23(a)に例示するように、フラップ460は、車両前後方向に延びたスリット462を有している。スリット462は、開裂部122のうちの区間122b(図6(c)参照)に沿って第1片140と第2片142とにわたっている。
図23(b)は、フラップ460の開裂前の展開図である。スリット462は、フラップ460の接地面136以外の部分を車幅方向に二分している。図23(c)は、フラップ460の開裂後の展開図である。スリット462によって、第1片140は、基部146を主とした車内側の領域464と、高摩擦部148を主とした車外側の領域466とに二分される。
スリット462を設けることで、第1片140は膨張展開するクッション(図8(b)等参照)に与える動摩擦力が小さい車内側の領域464と、動摩擦力が大きい車外側の領域466とに区分けされる。この構成であると、第1片140のうち領域464と領域466とがそれぞれ独立に移動できる。そのため、クッション108の膨張展開時において、車外側の領域466によってクッション108の区分E1に負荷をかけつつ、車内側の領域464をスムーズに移動させて区分E1から先に膨張展開させることができる。
(第1片の長さ)
図24は、図8(a)の第1片の長さを変えた場合を例示した図である。上記の各変形例を参照して説明したように、各フラップは、第1片の長さの長短によって、動摩擦力すなわちクッションにかける負荷(力F2(図8(b)参照))を調節することができる。
図24(a)は、図8(a)と同様に、エアバッグ装置の車両前後方向の縦断面を車内側から例示している。図24(a)の第15変形例のフラップ500では、開裂部502が上面154と車両後方側の側面160との間に設けられている。したがって、第1片504は、膨張するクッション108によって、蓋部分107のみに押し付けられる。この第1片504であっても、クッション108と蓋部分107との間に挟まれるため、クッション108が押しのけるにはエネルギーが必要であり、クッション108に負荷をかける。
図24(b)の第16変形例のフラップ520では、開裂部522が側面160の車両上下方向の途中部分に設けられている。したがって、第1片524は、膨張するクッション108によって、蓋部分107と内壁162の一部とに押し付けられる。この第1片524は、図24(a)の第1片504よりも、クッション108と収容部106の内部との間に挟まれる範囲、すなわち面積が広いため、クッション108にかける負荷が大きい。
図24(c)の第17変形例のフラップ540では、開裂部542が側面160と接地面136との間に設けられている。したがって、第1片544は、膨張するクッション108によって、蓋部分107と内壁162のほぼ全面とに押し付けられる。この第1片544は、図24(b)の第1片524よりも、クッション108と収容部106の内部との間に挟まれる面積がさらに広く、クッション108にかける負荷もさらに大きい。
図24(d)の第18変形例のフラップ560では、開裂部562が接地面136の車両前後方向の中央付近に設けられている。したがって、第1片564は、膨張するクッション108によって、蓋部分107と内壁162、および中底164にかけて押し付けられる。この第1片564は、図24(c)の第1片544よりも、クッション108と収容部106の内部との間に挟まれる面積がさらに広がり、クッション108にかける負荷もさらに大きくなる。
以上のように、各開裂部を、蓋部分に対してどの程度離れた位置に設けるかによって、第1片がクッションにかける負荷(力F2(図8(b)参照))を調節でき、合わせてクッションの一方の区分の膨張展開のタイミングも調節できる。
(収容部)
図25は、図8(a)に例示した収容部106の変形例を例示した図である。収容部106は、インストルメントパネル102の内側に設けているが、その具体的な構成について制限はない。
図25(a)の第1変形例の収容部580は、インストルメントパネル102と、その内側に設けたハウジング582とで構成されている。また、図25(b)の第2変形例の収容部590は、インストルメントパネル102の一部として設けられたシュート部592(窪み)に、中底部分を構成する部材594を接続させた構成である。これらいずれの収容部でもクッションおよびフラップを収容し、その機能を発揮させることができる。
収容部は、内壁の面積がより広い構成であると、各フラップの第一片をクッション108との間で挟む範囲が広がり、図8(b)の力F1を増加させることができる。したがって、例えば収容部の深さを深く設定したり、車幅方向等の幅を広く設定したりすると、フラップの第1片を通じてクッション108に与える負荷(力F2)もより大きくできる。
なお、上記各変形例ではクッションの展開挙動を車幅方向において調整しているが、クッションの展開方向をどの方向に向けるかは任意に設定できる。例えば、各変形例では、フラップを右側座席前方に設置し、フラップの車外側に高摩擦部を設ける構成となっている。しかし、例えばカーテンエアバッグとして利用する場合では、フラップをサイドウィンドウの上方に設置し、フラップの車両前後方向の一方、例えば車両後方側に高摩擦部を設けることも可能である。この構成であると、クッションを車両前方側の区分から先に膨張展開させることができる。また、例えばサイドエアバッグとして応用する場合などでは、フラップを乗員の側方に設置し、フラップの車両上下方向の下側に高摩擦部を設けることもできる。この構成であると、クッションを車両上側の区分から先に膨張展開させることができる。なお、その場合、図6(c)に例示した仮想直線はそれぞれ、車両前後方向や車両上下方向に延びるものとなる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。