JP6784389B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents

硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDF

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この発明は、炭素鋼、合金鋼等の湿式高速連続切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、「被覆工具」という)に関する。
従来から、工具基体表面に、周期律表の4a、5a、6a族から選ばれた少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物、炭窒化物等からなる硬質皮膜を被覆形成することにより、切削工具の耐摩耗性向上を図ることが知られている。
そして、硬質皮膜のうちでも、α型Al層は、熱安定性に優れ、反応性が低く、かつ、高硬度であるという点から、上記周期律表の4a、5a、6a族から選ばれた少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物、炭窒化物等からなる硬質皮膜の最表面層として、α型Al層を被覆形成した被覆工具が知られているが、切削条件が厳しくなるにしたがって、それに耐え得る切削性能を備えた被覆工具が求められており、そのため、硬質皮膜の最表面層を構成するα型Al層についても種々の改良・提案がなされている。
硬質被覆層の特性を改善するための方策の一つとしては、例えば、特許文献1〜3に示すように、α型Al層の配向性を制御することにより硬質被覆層の耐チッピング性、耐摩耗性を改善することが提案されている。
例えば、特許文献1には、工具基体の表面に、Ti化合物層からなる下部層とα型の結晶構造を有するAlからなる上部層を化学蒸着で形成した被覆工具において、
上部層について、六方晶結晶格子を有する結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、区分ごとに集計して傾斜角度数分布グラフを作成した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45%以上の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すα型Al層を形成した被覆工具が提案されており、この被覆工具によれば、切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し熱衝撃が付加される高速断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性が発揮されるとされている。
特許文献2には、工具基体の表面に、Ti化合物層からなる下部層とα型の結晶構造を有するAlからなる上部層を化学蒸着で形成した被覆工具において、
下部層の最表面層と上部層との界面におけるAl結晶粒について、(11−20)面の法線がなす傾斜角を測定した場合、傾斜角が0〜10度であるAl結晶粒の占める面積割合は、測定範囲の面積の30〜70面積%であり、
上部層全体のAl結晶粒について、(0001)面の法線がなす傾斜角を測定した場合、傾斜角が0〜10度であるAl結晶粒の占める面積割合は、測定範囲の面積の45面積%以上である被覆工具が提案されている。
そして、この被覆工具によれば、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高速で、かつ、高切り込みや高送りなどの切刃に高負荷が作用する重切削条件で行った場合でも、また、高速で、かつ、切刃に断続的・衝撃的負荷が作用する断続切削条件で行った場合でも、硬質被覆層がすぐれた耐剥離性と耐チッピング性を発揮するとされている。
特許文献3には、工具基体の表面に、Ti化合物層からなる下部層とα型の結晶構造を有するAlからなる上部層を化学蒸着で形成した被覆工具において、
下部層の最表面層と上部層との界面における上部層のAl結晶粒は、くさび形結晶組織を有し、該くさび形結晶組織の凹凸部の平均高低差が0.5〜2.0μm、凸部の平均間隔が2〜5μmであり、該くさび形結晶組織を有するAl結晶粒について、{10−10}面の法線がなす傾斜角を測定した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計割合が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の20〜40%の割合を占め、
また、上部層全体のAl結晶粒について、(0001)面の法線がなす傾斜角を測定した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計割合が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の60%以上の割合を占める被覆工具が提案されている。
そして、この被覆工具によれば、鋼や鋳鉄などの切削加工を、高速で、かつ、切刃に断続的・衝撃的負荷が作用する断続切削条件で行った場合でも、硬質被覆層がすぐれた耐剥離性と耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すとされている。
また、硬質被覆層の特性を改善するための他の方策として、例えば、特許文献4〜6に示すように、α型Al層中に微小空孔を導入することによって、特に耐チッピング性を改善することが提案されている。
例えば、特許文献4では、WC基超硬合金、TiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、(a)Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、窒酸化物層、および炭窒酸化物層からなるTi化合物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの平均層厚を有する下部強靭層、(b)走査型電子顕微鏡により観察された縦断面組織にもとづく測定で、5〜30%の空孔率を有する多孔質Al蒸着層からなり、かつ0.5〜15μmの平均層厚を有する上部硬質層、(c)窒化チタンからなり、かつ0.5〜5μmの平均層厚を有する表面補強層からなる硬質被覆層を化学蒸着により形成した被覆工具が提案されており、この被覆工具による合金鋼、鋳鉄の乾式切削加工において、耐チッピング性が改善されることが明らかにされている。
また、特許文献5では、WC基超硬合金、TiCN基サーメットからなる工具基体の表面に、硬質被覆層として、Ti化合物層からなる下部層とAl層からなる上部層を化学蒸着法で被覆形成した被覆工具において、上部層の層厚方向に0.1μmの厚み幅間隔で、各厚み幅領域に存在する孔径2〜30nmの空孔の空孔密度を測定した場合に、空孔密度が200〜500個/μmの厚み幅領域と空孔密度が0〜20個/μmの厚み幅領域とが、上部層の層厚方向に沿って、交互に少なくとも複数領域形成されている空孔分布形態を形成することが提案されており、この被覆工具を用いた炭素鋼、合金鋼、鋳鉄の乾式高速断続切削加工において、耐チッピング性、耐欠損性が改善されることが明らかにされている。
特許文献6では、WC基超硬合金、TiCN基サーメットからなる工具基体の表面に、硬質被覆層として、Ti化合物層からなる下部層とAl層からなる上部層を化学蒸着法で被覆形成した被覆工具において、上部層中に孔径分布がバイモーダルな分布をとる孔径2〜50nmの微小空孔を導入すること、好ましくは、該微小空孔の孔径分布の第1ピークが2〜10nmに存在し、孔径2nmごとにポアを数えたときの第1ピークにおけるポア数密度が200〜500個/μmであって、該微小空孔の孔径分布の第2ピークが、20〜50nmに存在し、孔径2nmごとにポアを数えたときの第2ピークにおけるポア数密度が10〜50個/μmである微小空孔を導入することが提案されており、この被覆工具を用いた炭素鋼、合金鋼、鋳鉄の乾式高速断続切削加工において、耐チッピング性、耐欠損性が改善されることが明らかにされている。
特許第4512989号公報 特許第5257535号公報 特許第5892473号公報 特開2003−48105号公報 特開2012−143827号公報 特開2012−161847号公報
前記特許文献1〜3で提案されている被覆工具は、化学蒸着法で形成したAl層からなる上部層の(0001)配向性を高めることによって、耐チッピング性、耐摩耗性を向上させた被覆工具を提供するものであり、また、前記特許文献4〜6で提案されている被覆工具は、化学蒸着法で形成したAl層中に微細空孔を存在させることによって、耐チッピング性、耐摩耗性を向上させるものである。
しかし、例えば、炭素鋼、合金鋼等の湿式高速連続切削加工に際し、Al層を化学蒸着法で形成した前記特許文献1〜3で提案されている被覆工具においては、Al層の表面粗さは、せいぜいRa≧1μm程度であって、表面平滑性が十分でないために、切削加工時の表面凹凸による発熱が高く、そのため、溶着チッピングの発生等により工具寿命が短命となり、また、被削材の加工精度が低下するという問題があった。
また、化学蒸着法で形成したAl層中に微細空孔を存在させた前記特許文献4〜6で提案されている被覆工具においては、切削加工時に切れ刃に大きな衝撃が作用した場合には、Al層中の主として結晶粒界に形成された空孔が、クラック発生の起点となりやすく、結晶粒ごと脱落するという現象も生じ、結果として、チッピング、欠損等の異常損傷を発生しやすく短命となることが多く、長期の使用にわたって十分な耐摩耗性を発揮し得ないという問題があった。
そこで、本発明者等は、熱炭素鋼、合金鋼等の湿式高速連続切削加工においても、耐チッピング性に優れたα型Al層を形成すべく鋭意検討したところ、ゾル−ゲル法によるα型Al層の成膜を行い、かつ、成膜条件を適切にコントロールすることにより、α型Al層の(10−10)面配向性を高めた場合には、α型Al層の表面平滑性を高め、表面粗さをRa≦0.03μmとすることができることを見出した。
そして、ゾル−ゲル法で表面平滑性にすぐれたα型Al層を成膜することによって、化学蒸着法等で成膜したα型Al層に比して、切削加工時の発熱発生が抑制されるため、工具基体の強度低下を防止することができ、また、溶着チッピングの発生を抑制することができることから、被削材の加工精度を低下させることなく、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮し得ることを見出した。
また、ゾル−ゲル法でα型Al層を成膜することによって、表面平滑性を高めることができると同時に、α型Al層中の結晶粒界及び結晶粒内に微細空孔を均一に分散分布させることができる。
そのため、炭素鋼、合金鋼等の湿式高速連続切削加工において、α型Al層表面から工具基体への熱伝導経路が減少するとともに、α型Al層の摩耗が進行した場合にも、微細空孔に切削液が入り込むと同時に、切れ刃部分の表面積が大きくなることによる放熱効果が高まり、α型Al層及び工具基体の温度上昇を抑制することができるので、高温硬さの低下を防止することができ長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を維持し得ること、さらに、均一に分散分布する微細空孔によって、α型Al層の耐熱衝撃性及び耐機械的衝撃性が向上することを見出した。
さらに、α型Al層中に均一に分散分布する微細空孔を形成するにあたり、微細空孔の周囲あるいは微細空孔の周囲の一部分に、微細空孔に隣接してTi酸化物を形成することによって、微細空孔の存在によりもたらされるα型Al層の強度低下が防止されること、また、強度低下によってもたらされる溶着チッピングの発生を防止し得ることを見出した。
そして、このようなゾル−ゲル法で成膜したα型Al層を上部層として備える被覆工具は、炭素鋼、合金鋼等の湿式高速連続切削加工に供した場合、チッピングを発生することがなく、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することを見出したのである。
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層が設けられている表面被覆切削工具において、
(a)前記下部層は、Tiの窒化物層、炭窒化物層、炭窒酸化物層、酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.5〜10μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)前記上部層は、その表面粗さRaが0.03μm以下であって、かつ、0.5〜5.0μmの平均層厚を有するα型Al層、
(c)前記上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記工具基体の表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分するとともに、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、前記0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占める、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記α型Al層中には、平均孔径が10〜100nmである微細空孔が分散して形成され、かつ、α型Al層の縦断面で測定した前記微細空孔の平均密度は30〜70個/μmであり、また、前記微細空孔は、α型Al結晶粒の結晶粒界及び結晶粒内に均一に分散分布し、所定の観察視野範囲における前記空孔密度を所定視野数にわたって求めた場合の標準偏差が15個/μm以下であることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記微細空孔のうち、微細空孔の周囲の少なくとも一部分に、微細空孔に隣接してTi酸化物が形成されており、該微細空孔に隣接してTi酸化物が形成されている微細空孔の個数割合は、全微細空孔数の50%以上であることを特徴とする(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4)前記α型Al層におけるα型Al結晶粒のアスペクト比を、層厚垂直方向の粒径に対する層厚方向の粒径の比とした場合、前記α型Al結晶粒の平均アスペクト比は、0.5〜5.0であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(5)前記工具基体の表面に、化学蒸着法、物理蒸着法またはゾル−ゲル法により、Tiの窒化物層、炭窒化物層、炭窒酸化物層および酸化物層の何れか1層または2層以上からなるTi化合物層を下部層として形成し、次いで、アルミニウムのアルコキシドに、少なくともアルコールと硝酸と水を添加したアルミナゾルを前記下部層の表面に被覆処理し、次いで乾燥処理し、前記被覆処理と前記乾燥処理を目標層厚になるまで繰り返し行った後焼成処理することにより、α型Al層からなる上部層をゾル−ゲル法で形成することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具の製造方法。
(6)前記アルミナゾル中に含有される水に対する硝酸のモル比を、0.20%以下の範囲内とすることを特徴とする(5)に記載の表面被覆切削工具の製造方法。」
を特徴とするものである。
以下、本発明について、詳細に説明する。
この発明の被覆工具は、炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、硬質被覆層の下部層として0.5〜10μmの合計平均層厚のTi化合物層を備え、また、上部層として、(10−10)配向を有し、0.5〜5.0μmの平均層厚を有するゾル−ゲル法により形成されたα型Al層を備える。
そして、前記ゾル−ゲル法により形成されたα型Al層においては、該層中に微細空孔が形成されるが、α型Al層を形成するゾル−ゲルの工程において、下部層の成分であるTiがα型Al層中へ拡散し、しかも、前記微細空孔の周囲の少なくとも一部分に、微細空孔に隣接してTi酸化物を形成する場合がある。
この場合、本発明の上部層は、下部層からのTi成分の拡散によってTi酸化物を含有するから、上部層を厳密に表現すれば「Ti酸化物を含有するα型Al層」ということになるが、便宜上、単に、「α型Al層」と表現することとする。
下部層は、化学蒸着法、物理蒸着法またはゾル−ゲル法により成膜されたTiの窒化物層、炭窒化物層、炭窒酸化物層、酸化物層の何れか1層または2層以上からなるTi化合物層により形成される。
下部層は、それ自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体と上部層との密着強度を高めるとともに、工具基体とα型Al層からなる上部層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつ。
下部層は、その合計平均層厚が0.5μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方、その合計平均層厚が10μmを越えると、チッピングを発生しやすくなることから、その合計平均層厚を0.5〜10μmと定めた。
また、前記下部層は、下部層の成分であるTiが上部層のα型Al層中へ拡散し、Al層中に形成される微細空孔の周囲の一部分にTi酸化物を形成する。
そして、微細空孔の存在によりもたらされるα型Al層の強度低下を防止する作用を有する。
上部層は、ゾル−ゲル法により成膜した平均層厚0.5〜5.0μmのα型Al層を備えるが、上部層の平均層厚が0.5μm未満であると、長期の使用に亘って十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、平均層厚が5.0μmを超えると、チッピングが発生しやすくなるため、ゾル−ゲル法により形成するα型Al層の層厚は0.5〜5.0μmと定めた。
また、本発明では、後記するゾル−ゲル法によりα型Al層を形成することにより、(10−10)面配向性が高いα型Al層を得ることができ、従来の化学蒸着法、物理蒸着法等により成膜したα型Al層に比して、表面平滑性にすぐれ、その表面粗さRaを、Ra≦0.03μmとすることができる(なお、従来の化学蒸着法、物理蒸着法により得られる硬質被覆層の上部層の表面粗さRaは、ほぼ0.085μm以上)。
そのため、炭素鋼、合金鋼等の湿式高速連続切削加工において、摩擦により発生する高熱による工具基体の強度低下を防止し得るとともに、溶着に起因するチッピングの発生を抑制することができる。
α型Al層からなる上部層の(10−10)面配向性は、以下の測定法で求めることができる。
電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用い、α型Al層からなる上部層の断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、工具基体の表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分するとともに、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表し、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するか否か、また、前記0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体に占める割合によって、(10−10)面配向性が高いか低いかを判定する。
ゾル−ゲル法により成膜された本発明のα型Al層は、前記で測定した傾斜角度数分布グラフにおいて、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占めるため、(10−10)面の配向性が高いといえる。
したがって、本発明のα型Al層は、(10−10)面の配向性が高く、表面粗さRaが0.03μm以下であるすぐれた表面平滑性を備え、その結果、切削加工時の発熱発生が抑制され、工具基体の強度低下を防止することができ、また、溶着チッピングの発生を防止することができるため、被削材の加工精度を低下させることなく、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮することができる。
図1(a)に、本発明のゾル−ゲル法により成膜したα型Al層についての、CP加工した断面SEM像を示し、図1(b)に、その模式図を示す。
本発明のゾル−ゲル法により成膜したα型Al層は、(10−10)面の配向性が高く、その表面がRa≦0.03μmのすぐれた表面平滑性を備えることに加え、図1(a)、(b)にも示されるように、層中に微細な空孔が結晶粒界ばかりでなく結晶粒内にも均一に分散して形成され、この微細空孔の存在によって、炭素鋼、合金鋼等の湿式高速連続切削加工において、α型Al層表面から工具基体への熱伝導経路が減少し、さらに、切れ刃部分の表面積が大きいことにより放熱効果が高まり、α型Al層及び工具基体の温度上昇を抑制し得る。
その結果として、切れ刃部分の高温硬さの低下を防止することができるため、すぐれた耐摩耗性が発揮される。
さらに、層中に均一に分散分布する微細空孔によって、湿式高速連続切削における耐熱衝撃性、耐機械的衝撃性が向上する。
なお、前掲特許文献4〜6でも層中に空孔を形成することは知られているが、前記従来技術では、結晶粒界に空孔が形成されやすく、本発明のように、微細な空孔が結晶粒界ばかりでなく結晶粒内にも均一に分散して形成されるものではなかったため、結晶粒界に形成された空孔がクラック発生の起点となりやすく、結晶粒ごと脱落するという現象も生じ、
本発明に比して、十分な耐チッピング性を備えるとはいえない。
ここで、α型Al層中に形成される微細空孔の平均孔径が10nm未満であると、切削加工時の熱伝導経路の遮断効果が小さく、一方、平均孔径が100nmを超えると層中に脆弱部が形成されることになり破壊を起こしやすくなる。
したがって、α型Al層中に形成される微細空孔の平均孔径は10〜100nmとすることが望ましい。
また、α型Al層の縦断面について測定した微細空孔の平均密度が、30個/μm未満であると、切削加工時の熱伝導経路の減少に寄与せず、一方、70個/μmを超えるとα型Al層の強度が低下することから、微細空孔の平均密度は、30〜70個/μmとすることが望ましい。
また、α型Al層中に形成される微細空孔について、前記空孔密度を所定の観察視野範囲及び視野数、例えば0.3×0.3μmの視野範囲における観察を10視野ずつ求め、全視野にわたって標準偏差(即ち、微細空孔の分散分布の度合い)を求めたとき、その値が15個/μmより大きいと、局所的に微細空孔が集中して形成されることとなり、高速連続切削加工時に部分的な損傷を発生することになるから、微細空孔の標準偏差を15個/μm以下として、微細空孔を均一に分散分布させることが望ましい。
本発明のα型Al層における微細空孔の平均孔径、平均密度、分布の標準偏差(即ち、微細空孔の分散分布の度合い)は前記のとおりであるが、本発明のα型Al層には、微細空孔の周囲の少なくとも一部分にTi酸化物が形成されている微細空孔が存在することが望ましい。
このようなTi酸化物は、下部層からのTi成分の拡散によって形成され、微細空孔の周囲の少なくとも一部分にTi酸化物が形成されていることによって、微細空孔が存在することによるα型Al層の脆弱化が防止され、特に、耐チッピング性の向上に寄与する。
そして、耐チッピング性向上効果を得るためには、α型Al層中に存在する微細空孔の全個数のうち、50%以上の微細空孔について、微細空孔の周囲の少なくとも一部分にTi酸化物が形成されていることが望ましく、50%未満の場合には、α型Al層の強度低下を補うことは難しいため、耐チッピング性の向上効果が少ない。
α型Al層中の微細空孔の周囲の少なくとも一部分に、Ti酸化物が隣接して形成されているか否かは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)とオージェ電子分光装置(AES)を用いて確認することができる。まず、0.7×0.7μmの観察視野範囲に観察される微細空孔の位置をSEMにて特定し、続いて、該観察範囲についてオージェ電子分光装置を用いて、前記SEMにて特定した微細空孔の周囲の元素マッピングを行うと微細空孔の周囲の少なくとも一部分に、Ti酸化物が隣接して形成されているか否かを判別することができる。
本発明のα型Al層において、層厚垂直方向の粒径に対する層厚方向の粒径の比をアスペクト比とした場合、α型Al結晶粒の平均アスペクト比が、0.5未満では耐摩耗性に乏しく、一方、5.0を超えると粗大組織となるため脱落チッピングがしやすくなることから、本発明のα型Al層を構成するα型Al結晶粒の平均アスペクト比は0.5〜5.0とすることが好ましい。
本発明のα型Al層は、例えば、以下に示すゾル−ゲル法によって形成することができる。
アルミナゾルの調製:
まず、アルミニウムのアルコキシド(例えば、アルミニウムセカンダリブトキシド、アルミニウムイソプロポキシド)にアルコール(例えば、メタノール、エタノール)を添加し、次いで、微量の硝酸を添加した後、加水分解反応を徐々に進めて、前駆体を密に形成させるために10℃以下の温度範囲にて12時間以上攪拌することによってアルミナゾルを調製する。本発明においては、−10〜10℃の低温度範囲における攪拌と熟成を、例えば、合計12時間以上という長時間をかけての低温処理を行うことが望ましい。
これは、攪拌および熟成処理時の温度が10℃を超えると加水分解および重縮合反応が急速に進んでしまうため、Al前駆体が密に形成されにくく、後工程の焼成処理で、α型Alが形成されにくくなることから、攪拌および熟成処理時の温度の上限を10℃とし、一方、攪拌および熟成処理時の温度が−10℃未満では、加水分解および重縮合反応が進みにくく、結晶化しにくくなってしまうという理由からである。
なお、撹拌及び熟成時間を合計12時間以上としたのは、前記撹拌及び熟成時の温度範囲で起こる化学反応を十分に平衡状態までもっていき、加水分解縮重合したAlとOのネットワークが密に形成された安定なAl前駆体ゾルを得るために必要な時間である。
また、微量添加する硝酸の濃度は、0.5〜4mol/lが望ましく、アルミニウムのアルコキシドに対する硝酸の添加量は、0.1〜0.6倍(モル比)が望ましい。また水に対する硝酸の添加量は0.20モル%以下であることが望ましい。また、その際には、水の添加量が少ないとゾル中のコロイド粒子が十分に分散しなくなるため、不十分な解膠状態やゲル化により、膜付き不良の発生や成膜自体ができなくなる。
本発明のα型Al膜は、アルミナゾルの各成分、特に水や硝酸の濃度が重要である。
アルミナゾルの成分である原料の有機基はもちろん、一部の水やアルコール、硝酸などは、焼成時にAlを形成する際の不純物成分になると考えられる。
しかし、多くの検証試験を行った結果、焼成前のAlの膜中に存在する硝酸は他成分と比較し、均一に分布しており、それらを適切な濃度範囲に設定した場合には、膜中に均一に微細空孔を適切な形成数だけ分布させることができることが分かった。
加えて、乾燥条件や焼成条件を調整することで、膜中に均一形成される微細空孔の存在は維持しつつ、乾燥や焼成の際に高温の雰囲気と接することとなるAl層のごく表面のみを緻密にすることができ、表面粗さは小さくなり、切削時の酸化雰囲気からの保護や切削抵抗低減の効果により、耐酸化性や耐溶着性が向上する。
さらに、(10-10)配向性を高めるようなゾル−ゲル法によるAlの成膜と相俟って、上部層であるα型Alの表面粗さRaが0.03μm以下である表面平滑性を得ることが可能となる。
また、成膜の際には、成膜基体の材料や成膜基体形状によっては、膜付き不良やクラックが生じる場合があるが、界面活性剤やキレート化剤を添加することでそれらを効果的に抑制することが可能である。
特に添加種を限定するわけではないが、界面活性剤としては例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(C1225SONa)、ラウリン酸ナトリウム(C1123COONa)などが挙げられ、キレート化剤としては例えばβ−ケトエステル類としてのキレート剤であるアセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチルなどが挙げられる。
アルミナゾルの加熱処理:
次いで、上記アルミナゾルについて、ゾル中で起きている加水分解・縮合反応が平衡状態に至るまで進める目的で6時間以上加熱撹拌する。なお、加熱処理は一般的な有機合成で使用されるようなオイルバス等による還流加熱処理を用いることが望ましく、ゾルの成分にもよるが80〜180℃の温度で加熱処理を行うことが望ましい。
乾燥・焼成:
Ti化合物層からなる下部層を被覆した工具基体を、上記で調製したアルミナゾル中へ浸漬する被覆処理を施し、その後、0.5mm/secの速度でアルミナゾル中からこれを引き上げ、それに続き100〜600℃で10分乾燥処理を施し、この被覆処理と乾燥処理を所要の層厚になるまで繰り返し行い、次いで、窒素雰囲気中、800〜1100℃の温度範囲で焼成処理を行う。
また焼成時間については、焼成時間が長くなると、膜中のTi酸化物の過剰な拡散により配向性制御が困難になることから、目的の配向性を得るためには800℃で焼成した場合で4時間以下、1000度以上で焼成した場合には3時間以下であることが望ましい。
上記乾燥処理によって、アルミナの乾燥ゲルが形成され、次いで行う焼成処理によって、Al層中に、所定の(10−10)配向性が形成されるとともに、所定の平均孔径、平均密度、標準偏差の微細空孔が形成され、さらに、該微細空孔の周囲の少なくとも一部分にTi酸化物が形成されたゾル−ゲル法によるα型Al層が形成される。
上記α型Al層の膜厚は、アルミナゾルへの浸漬回数に依存するが、被覆形成された上記α型Al層の平均層厚が2μm未満では、長期の使用にわたって被覆工具としてすぐれた耐摩耗性を発揮することができず、一方、平均層厚が15μmを越えるとα型Al層が剥離を生じやすくなることから、上記α型Al層の膜厚は2〜15μmとする。
本発明の表面被覆切削工具によれば、工具基体の表面に下部層が形成され、この上にゾル−ゲル法によって成膜したα型Al層が設けられ、該α型Al層は、傾斜角度数分布における度数全体の50%の度数となる(10−10)面配向性を備えるとともに表面平滑性を備え、さらに好ましくは、該α型Al層中には、所定の平均孔径、平均密度、標準偏差の微細空孔が形成されるとともに、該微細空孔の周囲の少なくとも一部分にTi酸化物が形成された微細空孔が、全微細空孔数の50%以上形成されていることによって、炭素鋼、合金鋼等の湿式高速連続切削加工に供した場合、α型Al層は、強度の低下もなくすぐれた耐チッピング性を示し、また、すぐれた耐熱衝撃性、耐機械的衝撃性、耐摩耗性を示すことから、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮するのである。
(a)は、本発明のゾル−ゲル法により形成したα型Al層についての、CP加工した断面SEM像を示し、(b)は、その模式図を示す。
つぎに、本発明を実施例により具体的に説明する。
(a)原料粉末として、平均粒径0.8μmの微粒WC粉末、平均粒径2〜3μmの中粒WC粉末といずれも1〜3μmの平均粒径を有するTiCN粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示す所定の配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1400℃の温度にて1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.06mmのホーニング加工を施すことによりISO・SNGA120408に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜D(工具基体A〜D
という)を製造した。
(b)また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これらを表2に示す所定の配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体E〜H(工具基体E〜Hという)を製造した。
(c)ついで、上記工具基体A〜Hに対して、下層を形成した。
なお、下層の形成にあたり、上記工具基体A〜Hを化学蒸着装置に装入し、表3に示す成膜条件を用いて、粒状結晶組織を有するTiN層、l−TiCN層、TiCNO層、Ti層からなるTi化合物層を表6に示す皮膜構成にて下地層を予め形成した。
なお、l−TiCN層は、縦長成長結晶組織を有するTiCN層を意味する。
(d)一方、α型Al層をゾル−ゲル法で被覆形成するためのアルミナゾルの調製を、次のように行った。
表4に示す所定量のアルミニウムのアルコキシドであるアルミニウムセカンダリブトキシドに、同じく表4に示す所定量のエタノールを添加した後、恒温槽中10℃以下で攪拌を行い、同じく表4に示す所定量の水を添加した硝酸を滴下により1〜3時間かけて添加した。
(e)さらに、アルミナゾルにおけるアルミニウムと水のモル比を1:40〜1:150の範囲になるように、表4に示す所定量の水を添加し、これをオイルバスによる還流装置を用いて表4に示す温度でゾル中の加水分解・縮重合反応を安定させることを目的として所定時間撹拌した。
最終的な溶液組成は、モル比で、
(アルミニウムセカンダリブトキシド):(水):(エタノール):(硝酸)
=1:(50〜150):(15〜30):(0.1〜0.3)
になるように調整を行った。
(f)ついで、上記工具基体A〜Hを、上記アルミナゾル中に浸漬し、その後、上記工具基体A〜Hをアルミナゾル中から引き上げ速度0.5mm/secで引き上げ、500℃で10分間の乾燥処理を行い、さらに、浸漬、引き上げ、乾燥処理を繰り返した後、表4に示す条件で焼成処理を行い、α型Al層が所定の(10−10)面配向性を備え、また、その表面が所定の表面平滑性を備え、さらに、α型Al層中に微細空孔が形成され、該微細空孔の周囲の少なくとも一部に隣接してTi酸化物が形成されている微細空孔が存在する本発明のα型Al層を被覆形成することにより、表7に示す本発明の被覆工具1〜9(本発明工具1〜9という)を製造した。
前記本発明工具1〜9について、下部層および上部層の平均層厚を、透過電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
また、本発明被覆工具1〜9の上部層のα型Al層について、上部層の縦断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在するコランダム型六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子線後方散乱回折装置を用いて、工具基体表面と水平方向に長さ100μm、工具基体表面と垂直な方向の断面に沿って膜厚以下の距離の測定範囲内について0.01μm/stepの間隔で、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分するとともに、各区分内の存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した。
そして、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するか否かを確認するとともに、0〜10度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体に占める度数割合を求めた。
また、X線回折装置と走査型電子顕微鏡(SEM)及びオージェ電子分光分析装置(AES)を用い、Al層の結晶構造とα型Al層中の微細空孔の平均孔径、平均密度、分布の標準偏差、微細空孔に隣接してTi酸化物が形成されている微細空孔の個数割合、α型Al結晶粒の平均アスペクト比、表面粗さを求めた。
α型Al層中の微細空孔の平均孔径に関しては走査型電子顕微鏡により0.7×0.7μmの視野範囲における縦断面観察を行い、微細空孔の面積を円の面積として置き換えた場合の直径を5視野10点ずつ測定し、その平均値とした。
また、平均密度に関しては、0.3×0.3μmの視野範囲における観察を10視野ずつ行い、各視野の単位面積当たりの空孔数を測定し、平均して算出した。また、微細空孔の分布の標準偏差に関しては、上記にて測定した各視野毎の単位面積当たりの空孔数を全視野にわたり標準偏差をとることで求めた。
Ti酸化物が形成されている微細空孔は、上記走査型電子顕微鏡による観察とオージェ電子分光法による該観察視野範囲の元素マッピングの結果を照らし合わせることにより特定し、観察視野範囲内において該当する微細空孔の数を求めた。
また、α型Al結晶粒の平均アスペクト比は電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いて該Al層の縦断面を、例えば層厚×10μmの観察視野、測定ステップ50nmにて観察を行い、上記観察視野範囲内における各々の結晶粒形状を5視野に対して求めた場合に、層厚垂直方向の最大径を層厚垂直方向の粒径、層厚方向の最大径を層厚方向の粒径と定義し、層厚垂直方向の粒径に対する層厚方向の粒径の比を各々算出し、その平均値を該Al層中の結晶粒の平均アスペクト比とした。
α型Al結晶粒の表面粗さRaはレーザー顕微鏡を用い、JIS規格B−0601(2001)に基づき、10μm×10μmの測定視野において5視野測定し、平均値を算出した。
表6、表7に、これらの値を示す。
[比較例]
比較のため、以下の製造方法で比較例の被覆工具を製造した。
(イ)まず、反応原料における各成分の溶液組成はモル比で、
(アルミニウムセカンダリブトキシド):(水):(エタノール):(硝酸)
=1:(50〜150):(15〜30):(0.3〜0.5)
になるように調整し、表5に示す条件でアルミナゾルを調製した。
(ロ)次いで、上記工具基体A〜Hの表面に、上記アルミナゾルを塗布した。
(ハ)ついで、上記塗布したアルミナゾルを、表5に示す条件で乾燥処理を行い、さらに塗布と乾燥を所定層厚になるまで繰り返した後、焼成処理を行うことにより、表6に示す下部層、表8に示す上部層を被覆した比較例の被覆工具1〜9(比較例工具1〜9という)を製造した。
比較例工具1〜9について、α型Al層の平均層厚について透過電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
また、比較例工具1〜9について、実施例と同様にして、α型Al層の配向性、表面粗さRa、α型Al層中の微細空孔の平均孔径、平均密度、分布の標準偏差、微細空孔に隣接してTi酸化物が形成されている微細空孔の個数割合、α型Al結晶粒の平均アスペクト比を求めた。
表6、表8に、これらの値を示す。






つぎに、本発明工具1〜9および比較例工具1〜9について、以下に示す、切削条件A、Bで湿式高速切削試験を実施し、いずれも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
≪切削条件A≫
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度: 160 m/min、
切り込み: 1.4 mm、
送り: 0.18 mm/rev、
切削時間: 5 分、
(通常の切削速度は、120 m/min)。
≪切削条件B≫
被削材:JIS・S45Cの丸棒、
切削速度:320 m/min、
切り込み:1.3 mm、
送り: 0.04 mm/rev、
切削時間:1.5 分、
(通常の切削速度は、200 m/min)
これらの結果を表10に示す。

表9、10に示される結果から、本発明工具1〜9においては、工具基体の表面に形成した下部層表面に、ゾル−ゲル法によって成膜したα型Al層が被覆形成され、該α型Al層は、所定の(10−10)面配向を備えるとともに、所定の表面平滑性を備え、さらに好ましくは、所定の平均孔径、平均密度、標準偏差の微細空孔が形成されるとともに、該微細空孔の周囲の少なくとも一部分にTi酸化物が形成された微細空孔が、全微細空孔数の50%以上形成されていることによって、炭素鋼、合金鋼等の湿式高速連続切削加工に供した場合、すぐれた耐チッピング性を示し、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮する。
これに対して、比較例工具1〜9は、炭素鋼、合金鋼等の湿式高速連続切削加工においてチッピング、剥離等の異常損傷の発生、あるいは、耐摩耗性が不足により、短時間で使用寿命に至ることは明らかである。
なお、前述の実施例では、インサート形状の工具を用いて硬質被覆層の性能を評価したが、ドリル、エンドミルなどでも同様の結果が得られることはいうまでもない。
本発明の表面被覆切削工具によれば、ゾル−ゲル法によって形成した上部層のα型Al層は、(10−10)面配向性、表面平滑性を備えるとともに、層内に微細空孔が形成され、さらに、微細空孔の周囲の少なくとも一部分にはTi酸化物が形成されていることから、炭素鋼、合金鋼等の湿式高速連続切削加工に限らず、熱伝導性に乏しいステンレス鋼等の湿式高速切削加工、切れ刃に高負荷が作用する湿式高速断続切削加工に供した場合であっても、チッピング、剥離等の異常損傷の発生を招くこともなく、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮することが期待される。






Claims (6)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットからなる工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層が設けられている表面被覆切削工具において、
    (a)前記下部層は、Tiの窒化物層、炭窒化物層、炭窒酸化物層、酸化物層の何れか1層または2層以上からなり、かつ、0.5〜10μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
    (b)前記上部層は、その表面粗さRaが0.03μm以下であって、かつ、0.5〜5.0μmの平均層厚を有するα型Al層、
    (c)前記上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡と電子線後方散乱回折装置を用い、その断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記工具基体の表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分するとともに、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、0〜10度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在するとともに、前記0〜10度の範囲内の傾斜角区分に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の50%以上の割合を占めることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記α型Al層中には、平均孔径が10〜100nmである微細空孔が分散して形成され、かつ、α型Al層の縦断面で測定した前記微細空孔の平均密度は30〜70個/μmであり、また、前記微細空孔は、α型Al結晶粒の結晶粒界及び結晶粒内に均一に分散分布し、所定の観察視野範囲における前記空孔密度を所定視野数にわたって求めた場合の標準偏差が15個/μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記微細空孔のうち、微細空孔の周囲の少なくとも一部分に、微細空孔に隣接してTi酸化物が形成されており、該微細空孔に隣接してTi酸化物が形成されている微細空孔の個数割合は、全微細空孔数の50%以上であることを特徴とする請求項2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記α型Al層におけるα型Al結晶粒のアスペクト比を、層厚垂直方向の粒径に対する層厚方向の粒径の比とした場合、前記α型Al結晶粒の平均アスペクト比は、0.5〜5.0であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
  5. 前記工具基体の表面に、化学蒸着法、物理蒸着法またはゾル−ゲル法により、Tiの窒化物層、炭窒化物層、炭窒酸化物層および酸化物層の何れか1層または2層以上からなるTi化合物層を下部層として形成し、次いで、アルミニウムのアルコキシドに、少なくともアルコールと硝酸と水を添加したアルミナゾルを前記下部層の表面に被覆処理し、次いで乾燥処理し、前記被覆処理と前記乾燥処理を目標層厚になるまで繰り返し行った後焼成処理することにより、α型Al層からなる上部層をゾル−ゲル法で形成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具の製造方法。
  6. 前記アルミナゾル中に含有される水に対する硝酸のモル比を、0.20%以下の範囲内とすることを特徴とする請求項5に記載の表面被覆切削工具の製造方法。







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