JP6780427B2 - 分離膜モジュールの再生方法 - Google Patents

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Description

本発明は、次亜塩素酸ナトリウム、酸溶液、アルカリ溶液などを用いた化学的膜洗浄によって性能劣化した分離膜モジュールの再生方法に関するものであり、特に分離層を構成するポリマーを新たに補充することにより、モジュール内で分離膜をその場修復することを特徴とする分離膜モジュールの再生方法である。
膜分離による水処理、特に逆浸透(Reverse Osmosis, RO)膜またはナノろ過(Nanofiltration, NF)膜から構成されるモジュールを用いる水処理は、高分子、コロイド、無機粒子の分離はもとより、NF膜モジュールにおいては、分子量1000〜200の低分子、RO膜モジュールにおいては、分子量200以下、さらには100以下の低分子の高度な分離が可能であり、1価イオンまたは多価イオンの分離も可能であるという特長を有する。また、蒸留分離に較べて省エネルギーであり、熱による溶質の劣化や変性を伴わないという利点を有する。そのため、ROおよびNF膜モジュールは、果汁の濃縮工程、ビール酵素分離などの食品工程、海水及びかん水の淡水化による飲料水、超純水の製造、医療用途の無菌水製造、廃水からの有価物の回収など、多岐にわたる分野で利用されており、不可欠な分離プロセスとして定着している。
分離膜モジュールのろ過運転においては、多様な有機物質、無機塩および無機粒子などによる膜ファウリングが起こる。ファウリングが起こった膜は透水性が低下するために、ろ過運転効率が著しく低下してしまう。ファウリング物質を除去する方法として、フラッシング、逆圧洗浄などの物理洗浄が通常行われるが、長期間のろ過運転で強固に膜表面に付着したファウリング物質を物理洗浄だけで完全除去することは難しい。そのため、次亜塩素酸ナトリウム、酸、アルカリ等による各種の化学洗浄が併用される。
しかしながら、長期間、薬液に曝露された分離膜モジュールは多かれ少なかれ分離層が化学的劣化するため性能低下することは避けられない。モジュールの寿命を延長するために、各種のモジュール性能回復手段がこれまで検討されてきている。
特許文献1には、逆浸透膜モジュールに、第一手段として架橋ポリアミド分離層を有する逆浸透膜モジュールに架橋ポリアミドの構成成分である多官能酸ハライドまたは多官能イソシアネートを含む有機溶媒を、逆浸透膜のスキン層に接触させて、ポリアミド分離層の再生を試みる方法が開示されており、また第二手段として水不溶性のポリマー(例えば高ケン化度のポリビニルアルコール)の溶液を逆浸透膜のスキン層に接触させる方法、が開示されている。
特許文献2には、タンニン等のポリフェノール類を分離膜モジュールに加圧通水させて、分離膜性能を向上または回復させる方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1の第一手段のようなポリアミド膜等の性能回復手段は、モジュール内のポリアミド分離層中に残存するアミド基と酸ハライドを反応させて性能回復を行うものであり、次亜塩素酸ナトリウムによって大幅に性能低下したポリアミド膜に対しては効果が小さく、また再生処理の適用回数も限られる。さらに酸ハライドを可溶な有機溶媒はヘプタン、ヘキサン等が用いられるため、モジュール再生処理後に丁寧な洗浄処理を要するなど、膜ろ過設備内でのその場再生処理には不適である。
また、特許文献1の第二手段のような有機ポリマー溶液を逆浸透膜のスキン層に接触させて、ポリマーコーティングを行う手法は、コート層の厚み制御が難しく、再現性よく性能回復を行うことが困難であるという問題を有する。特に、外圧ろ過式の中空糸膜モジュールにおいては、モジュール内の糸束が多数交絡し、糸同士の接触面積が大きいために、このような手法を用いた場合、均一なコート層が形成できないばかりか、糸同士がポリマーで接着してしまう問題を有する。
特許文献2のポリフェノール類の溶液をモジュール内に加圧通水する方法は、分離層の表面にポリマー類を堆積させる、一種のファウリングによる膜性能回復手段であるが、特許文献2と同様に分離性が大幅に低下した分離膜に対しては、性能回復効果を得ることが困難であるという問題を有する。また、ポリフェノール類の分子間あるいは分離層とポリフェノール類の分子間に対して物理的あるいは化学的な結合が施されるものではないため、膜性能が長期的に安定しない問題を有する。
特開平11−104470号公報 特開2006−224048号公報
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、特定の分離膜の構成を有するモジュールにおいて、次亜塩素酸ナトリウム、酸類、アルカリ類等を用いた化学的膜洗浄によって低下した膜性能を再現性よく大幅に回復させる手段を提供することである。
本発明者は、上記の目的を達成するため鋭意検討した結果、以下のような知見に基づいて、分離膜モジュールの再生方法を完成させた。
本発明において、対象となる分離膜モジュールは、多孔性支持膜の表面にアニオン性官能基を有するポリマーからなる第1分離層を有し、前記第1分離層の外表面に少なくとも1種類のカチオン性ポリマーまたはアニオン性ポリマーを架橋処理してなる第2分離層を有する分離膜を含むモジュールである。
本発明者は、前記分離膜モジュールに対して、次亜塩素酸ナトリウム等への暴露により性能低下した分離膜の分離層側にカチオン性ポリマーまたはアニオン性ポリマーの水溶液を接触させた後、さらに架橋剤溶液を充填して、前記カチオン性ポリマーまたはアニオン性ポリマーの架橋処理を行うと、驚くべきことに分離膜モジュールの分離性能が大幅に回復することを見出した。さらに、次亜塩素酸ナトリウムの曝露試験を継続し、再生処理を実施したところ、再度性能が回復することも見出した。
この理由として、本発明の対象となる複合膜において、次亜塩素酸ナトリウムによる酸化劣化により、分離層の孔径拡大や部分剥離を受けるのは、主に分離膜最外層のポリマー架橋物からなる第2分離層である。ゆえに、内層のアニオン性官能基を含む第1分離層の劣化度合いは相対的に小さくなると考えられる。そのため、劣化したモジュールに、カチオン性ポリマー水溶液、アニオン性ポリマー水溶液および架橋剤溶液を、順次接触させることにより、静電気相互作用を介したポリマー吸着および架橋処理を再度行うことで、性能回復が実現していると考えられる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、以下の(1)〜(4)の構成を有するものである。
(1)多孔性支持膜の一方の表面にアニオン性ポリマーで構成される第1分離層を有し、前記第1分離層の表面に、少なくとも1種類以上のカチオン性またはアニオン性ポリマーから構成される第2分離層を有する複合膜を組み込んでなる膜モジュールの再生方法であって、前記複合膜の分離層側に少なくとも1種類以上のカチオン性ポリマー溶液またはアニオン性ポリマー溶液を接触させる工程、架橋剤溶液を接触させる工程を順に実施することを特徴とする膜モジュールの再生方法。
(2)前記カチオン性ポリマー溶液がカチオン性ポリビニルアルコール水溶液であることを特徴とする1に記載の方法。
(3)前記アニオン性ポリマー溶液がアニオン性ポリビニルアルコール水溶液であることを特徴とする1または2に記載の方法。
(4)前記架橋剤溶液がアルデヒド類の水溶液であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の方法。
(5)前記カチオン性ポリマー溶液またはアニオン性ポリマー溶液を接触させる工程、架橋剤溶液を接触させる工程を順に2回以上繰返すことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
本発明は、多孔性支持膜の表面にアニオン性官能基を含むポリマーからなる第1分離層を有し、前記第1分離層の表面に少なくとも1種類以上のカチオン性官能基またはアニオン性官能基を含むポリマーの架橋物からなる第2分離層を有する特定の複合膜構造を有するモジュールにおいて、性能低下した前記複合膜モジュールに対して、前記ポリマーの水溶液および架橋剤溶液を接触させて、膜モジュールの性能を簡便かつ大幅に回復させることが可能である。そのため、複合膜モジュールの寿命をさらに長くすることができ経済的である。
複合膜モジュールの次亜塩素酸ナトリウム曝露処理および本発明の再生処理後の分離膜の除去率の変化を示した図である。 複合膜モジュールの次亜塩素酸ナトリウム曝露処理および本発明の再生処理後の分離膜の透水性の変化を示した図である。 本発明の中空糸膜モジュールでの実施形態の一例を示す概略説明図である。
本発明の分離膜モジュール再生方法の対象となる複合膜の構造は、特定の構成;多孔性支持膜の表面に第1分離層を有し、さらにその外表面に第2分離層を有するものである。
多孔性支持膜の外表面に設けられる第1分離層は、アニオン性官能基を有するポリマーで構成され、特にスルホン酸基、カルボキシル基、又はホスホン酸基を有するポリマーで構成されることが好ましい。より好ましくは、作製および入手の容易さから、スルホン酸基を有するポリマー(スルホン化ポリマー)で構成されることが好ましい。具体的には、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリアリーレンエーテル、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリフェニレンエーテル(スルホン化ポリフェニレンオキサイド)、スルホン化ポリエーテルイミド、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリフェニレンスルフィド、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどから構成されることが好ましい。これらのポリマーは、第1分離層の機械強度を維持しつつ、高いスルホン酸基密度を有する。
前記スルホン化ポリマーは、公知のポリマー、例えば、ポリフェニレンエーテル(ポリフェニレンオキサイド)、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどをクロロ硫酸や濃硫酸を用いてスルホン化して得られたものであることが好ましい。より好ましくは、スルホン酸基を有する親水性モノマーと、スルホン酸基を有しない疎水性モノマーとを共重合させたスルホン化ポリマーを挙げることができる。このような共重合スルホン化ポリマーは、スルホン酸基の導入量を再現性良く精密に制御することができ、所望のモノマーを選択することにより、高いスルホン酸基密度を有しながら、優れた機械強度と高い耐薬品性を有するため好ましい。
前記共重合スルホン化ポリマーとしては、下記式(IV)で表される疎水性セグメントと、下記式(V)で表される親水性セグメントの繰り返し構造からなるポリマーを基本骨格としたスルホン化ポリアリーレンエーテル(SPAE)が好ましい。かかるポリマーは、剛直な分子骨格と優れた化学耐久性を発現し、機械強度に優れる。


上記式中、Xは下記のいずれかであり、

Yは、下記のいずれかであり、

Zは、下記のいずれかであり、

Wは、下記のいずれかであり、

YとWは、同じものが選択されることはなく、
aおよびbは、それぞれ1以上の自然数を表し、
およびRは、−SOMあるいは−SOHを表し、Mは金属元素を表し、
スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体中の式(IV)の繰り返し数と式(V)の繰り返し数の合計に対する式(V)の繰り返し数の百分率割合として表されるスルホン化率が、5%よりも大きく、80%よりも小さい。
さらに、より機械強度が高く、高い柔軟性と化学耐久性を併せ持つ共重合スルホン化ポリマーとしては、下記式(I)で表される疎水性セグメントと、下記式(II)で表される親水性セグメントの繰り返し構造からなるスルホン化ポリアリーレンエーテルであることが好ましい。


上記式中、mおよびnはそれぞれ1以上の自然数を表し、RおよびRは−SOMまたは−SOHを表し、Mは金属元素を表し、スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体中の式(I)の繰り返し数と式(II)の繰り返し数の合計に対する式(II)の繰り返し数の百分率割合として表されるスルホン化率が、5%よりも大きく、80%よりも小さい。
前記ポリマーのスルホン化度の好ましいイオン交換容量IEC(すなわち、スルホン化ポリマー1g当りのスルホン酸基のミリ当量)は、0.5〜3.0meq./gであり、スルホン化率DSの好ましい範囲は、5%より大きく80%より小さい。IECおよびDSが上記範囲より低い場合は、スルホン酸基が少なすぎるため、第1分離層の表面のアニオン電荷密度が小さくなる。そのため、後述する交互積層法による第2分離層の形成工程が均一に進行しない傾向があり、好ましくない。また、IECおよびDSが上記範囲より高い場合、ポリマーの親水性が大きくなりすぎ、第1分離層が過度に膨潤するため好ましくない。より好ましいIECの範囲は0.7〜2.9meq./gであり、より好ましいスルホン化率DSの範囲は10%〜70%である。
多孔性支持膜は、ポリフェニレンエーテル(ポリフェニレンオキサイド)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデンなどの公知の溶液製膜可能なポリマーから選択されたポリマーの非対称膜であることができる。特に、WO2014/054346に開示されているように、特定のSPAE(I)(II)および(IV)(V)を溶解可能な非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなど)に対して不溶であるポリフェニレンエーテルの非対称膜であることが好ましい。ポリフェニレンエーテル多孔性支持膜は、上記溶媒に対して不溶または限定的な溶解性を示すために、上記のSPAEを公知のポリマーコーティング法により複合膜を容易に得ることができる。
上記のポリフェニレンエーテルは下記式(III)で表される構造である。

上記式(III)中、kは1以上の自然数を表す。
多孔性支持膜に第1分離層を複合化する方法としては、公知の手法を用いることができ、具体的にはコーティング法やスプレー法などの塗布法を用いることができる。高品質な分離層を安定かつ簡便に得る観点からはコーティング法が好ましい。
上記のスルホン化ポリマーで構成された第1分離層を有する複合膜は、十分な機械強度を有し、透水性を大きくするという目的のため、NaCl阻止率が60%以下であることが好ましい。製造条件によっては、これ以上の分離性を付与することも十分可能であるが、透水性が著しく損なわれるうえに、分離層が緻密になる結果として、摩擦による膜表面の欠陥を生じやすくなるため好ましくない。NaCl阻止率は、より好ましくは30%以下である。さらに好ましくは20%以下である。ただし、NaClの阻止率の測定条件は、0.5MPa(5bar)、NaCl濃度1500ppm、(回収率は約5%)である。
第1分離層の厚さは、50nm以上10μm以下であることが好ましい。厚みが小さすぎる場合には、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化劣化の影響が生じやすくなるため好ましくない。厚みが大きすぎる場合には、透過抵抗が大きくなりすぎて十分な透水性が得られない。より好ましくは100nm以上1μm以下である。
複合膜モジュールの構成については公知のものを採用できる。好ましくは平膜を用いたスパイラル型モジュールおよび中空糸膜を束ねてなる中空糸膜モジュールを採用することができる。同様に、分離膜の形態は外圧ろ過式の中空糸膜、内圧ろ過式の中空糸膜、平膜を所望により採用することができる。
次に、第2分離層の形成方法について説明する。第2分離層は、アニオン性表面を有する第1分離層を起点として、カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーを交互に積層する方法(Layer−by−Layer法)によって形成することができる。
本発明において、前記カチオン性ポリマーとしては、カチオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコールが好ましい。また、アニオン性ポリマーとしては、アニオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコールが好ましい。
含水した複合膜モジュール内に、まず、カチオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコール(カチオン性ポリビニルアルコール)の水溶液を充填する。一定の時間、モジュール内の第1分離層のアニオン性表面にカチオン性ポリビニルアルコール(以下、CPVAと略すことがある)溶液を接触させて、CPVAの吸着処理を行う。欠陥なくかつ薄い分離層を形成させる観点から、好ましくは10秒以上10時間以下の期間、溶液を接触させておく。より好ましくは1分以上3時間以下である。その後、CPVA水溶液を抜き出し、純水でリンスする。好ましくは10秒以上リンスを行って、膜に吸着したCPVA以外の余剰のポリマーをモジュールから除去する。
その後、好ましくは、アニオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコール(以下、アニオン性ポリビニルアルコールまたはAPVAと略すことがある)の水溶液を充填し、CPVAの吸着層の表面にさらにAPVA層の吸着層を形成させる。吸着時間および純水リンス処理は、同様の方法で行えばよい。
アニオン性の第1分離層を起点として、上記のCPVAおよびAPVAの吸着処理は、交互に繰り返すことが可能である。少なくともCPVAの吸着を1回行うことが好ましい。より好ましくは、CPVAの吸着にAPVAの吸着を加えることが分離性能の向上効果が見られるため好ましい。前記吸着処理を2回以上行うことも好ましい。
CPVAおよびAPVA水溶液の濃度はそれぞれ0.01質量%〜1質量%であることが好ましい。この範囲より濃度が小さいと、吸着が十分行われず、膜性能が低下する。濃度が高すぎると、吸着層が厚くなりすぎる傾向があり、また水溶液粘度が高くなるため、吸着ムラが生じやすくなり好ましくない。
また、CPVAおよびAPVA水溶液の溶媒は、純水であることが好ましく、導電率が好ましくは10μS/cm以下、より好ましくは1μS/cm以下の純水を用いることが好ましい。溶媒としての水の導電率が高すぎると、前述したようにクーロン遮へいの影響により、静電相互作用を介した第1分離層への変性PVAの吸着が阻害される傾向がある。
これらのCPVAおよびAPVAの吸着処理の後、アルデヒド類の水溶液をモジュール内へ充填することで、CPVAおよびAPVAの水酸基をアセタール架橋することが好ましい。架橋を施さない変性ポリビニルアルコール(PVA)の吸着層は、ほとんど分離性を有しない。架橋処理によって初めて、分画分子量100〜1000のRO膜およびNF膜の分離性能を達成することができる。さらに驚くべきことには、このような架橋吸着層は、従来の塗布法などによるPVAの分離層と比較すると、極めて均一かつ厚みが薄く形成されるために高い透水性をも両立することができる。
架橋剤としてのアルデヒド類は、例えばホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール、ベンズアルデヒド、オルトフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどを好ましく用いることができる。より好ましくは、水溶性が高く、比較的毒性が低く、かつ架橋処理後の分離膜性能が良好であるという点から、グルタルアルデヒドまたはオルトフタルアルデヒドを用いることができる。
上記のアルデヒド類架橋剤の水溶液濃度としては、0.01質量%〜20質量%であることが好ましい。この範囲より低い濃度条件においては、ポリビニルアルコールの水酸基の架橋が十分進行しない。またこの範囲より高い濃度条件においても架橋反応は進行するが、溶液の毒性が高くなり、取り扱い性が難しくなるため好ましくない。より好ましくは0.1質量%〜5質量%の範囲である。
上記の架橋処理において、架橋時間は10分以上40時間以下であることが好ましい。架橋時間が短すぎる場合、第2分離層の阻止性能が小さい。また、架橋時間を長くしすぎても、あまり効果がない。架橋反応を促進する観点からは、アルデヒド水溶液の温度を20℃以上60℃以下に保つことも好ましい。
架橋処理の後、モジュール内は、純水で十分水洗される。膜内のアルデヒド類を完全に除去する観点から、例えば1〜10気圧程度の圧力下で純水を用いてクロスフロー運転を行うことで、洗浄効果を高めることが好ましい。さらに、オルトフタルアルデヒドのように、水溶性が幾分低く、疎水性の強い架橋剤を用いた場合は、膜内に架橋剤が残存しやすいため、例えば、亜硫酸水素ナトリウム水溶液をモジュール内に充填し、アルデヒドと付加体を形成させて洗浄効果を高めることができる。または、例えば、pH9以上のアルカリ条件下で、還元性を有する還元糖(グルコース、フルクトース、グルコサミンなど)の水溶液をモジュール内に充填し、膜外および膜内の未反応のアルデヒド基と還元糖を反応させて、解毒する処理を用いることもできる。
このようにして、アルデヒド類による架橋処理を完了して、十分水洗されたモジュールは、さらに、CPVAおよびAPVAの吸着処理と、アルデヒド架橋を同様の方法で再度行うことが好ましい。この吸着・架橋の処理サイクルを繰り返すことで、高度な分離性能(例えば、硫酸マグネシウム阻止率95%以上、かつ分画分子量100〜300)を得ることができる。好ましくは2回以上、吸着・架橋処理のサイクルを繰り返すことが好ましい。
第2分離層の厚さは、1nm以上200nm以下であることが好ましい。厚みが薄すぎると変性PVAの吸着が不十分であり、分離性が十分発現しない。また、厚すぎる場合には、透過抵抗が大きくなりすぎて、透水性が十分得られない。より好ましくは5nm以上100nm以下である。
第2分離層を構成する変性PVAの構成について以下に説明する。
CPVAに含まれるカチオン性官能基の種類については、特に限定されないが、1〜4級のアンモニウム基を有することが好ましく、化学耐久性や抗菌性を有する観点から、4級アンモニウム基が特に好ましい。具体的には、CPVAは、カチオン性基を有する不飽和単量体として、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、3−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩を酢酸ビニルと共重合させて、ケン化処理を行って得られるポリマーであることが好ましい。
また、CPVAを得る別の方法としては、通常の未変性ポリビニルアルコールの水酸基に、グリシジル基を有する4級アンモニウム塩をアルカリ条件下で付加反応させる方法も好ましい。グリシジル基を有する単量体としては、例えば、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライドを好ましく用いることができる。このような付加反応によるポリビニルアルコールの変性と、上記の共重合による変性のどちらも好ましく用いることができる。また、両方の方法を実施して、2種類以上のカチオン性基をポリマーに導入してもよい。
一方、APVAについては、アニオン性官能基の種類は、特に限定されず、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基などを有するPVAを用いることができる。作製や入手が容易な観点から、スルホン酸基を有するPVAを用いることが好ましい。例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩と酢酸ビニルを共重合し、ケン化処理して得られるスルホン化PVAを用いることができる。CPVAと同様、2種類以上のアニオン性基がポリマーに導入されていてもよい。
CPVAおよびAPVAのカチオン基またはアニオン基の量は、少なくとも0.01mol%以上30mol%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.1mol%以上20mol%以下である。イオン性官能基が、この範囲より小さいと、中空糸膜表面への吸着が十分に進行せず、膜性能が低下するので好ましくない。また、この範囲より大きすぎると、第2分離層が膨潤しすぎて、分離性能が低下するため好ましくない。
CPVAおよびAPVAのケン化度は、60〜99mol%が好ましく、より好ましくは、70〜95mol%、さらに好ましくは75〜90mol%である。ケン化度がこの範囲より大きいと、水溶液中での変性PVA分子の分散性が悪くなる傾向があり、好ましくない。ケン化度がこの範囲より低いと、同様に水溶液の安定性が悪くなり好ましくない。このようなCPVAとして、K434(ケン化度85.5〜88.0、日本合成化学社)、C−506(ケン化度74.0〜79.0、クラレ社)、CM−318(ケン化度86.0〜91.0、クラレ社)などが挙げられる。また、APVAとしては、L−3266(ケン化度86.5〜89.0、日本合成化学社)、CKS50(ケン化度99.0以上、日本合成化学社)、AP−17(ケン化度88〜90、日本酢ビ・ポバール社)、AT−17(ケン化度92〜95、日本酢ビ・ポバール社)、AF−17(ケン化度96.5以上、日本酢ビ・ポバール社)などが挙げられる。
以上の第2分離層の形成方法を、次亜塩素酸ナトリウム等を用いた化学洗浄によって劣化した膜モジュールについて、そのまま再度行うことにより、再生処理が可能であり、膜性能を回復させることができる。
再生処理の前処理として、酸、アルカリ、オゾン、次亜塩素酸ナトリウム等の処理によりファウリング物質等を十分除去してから行うことが好ましい。
本発明において、前記再生処理の第1の態様として、前記次亜塩素酸ナトリウム等を用いた化学洗浄によって劣化した膜モジュール内の複合膜の分離層側に少なくとも1種類以上のカチオン性ポリマー溶液またはアニオン性ポリマー溶液を接触させる工程、架橋剤溶液を接触させる工程を順に実施するのが好ましい。また、第2の態様として、前記膜モジュール内の複合膜の分離層側に少なくとも1種類以上のカチオン性ポリマー溶液を接触させる工程、少なくとも1種類以上のアニオン性ポリマー溶液を接触させる工程、架橋剤溶液を接触させる工程を順に実施することも本発明に含まれる。さらに、前記第1の態様または前記第2の態様を2回以上繰返すことも本発明の範囲内である。
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(中空糸支持膜の作製)
中空糸支持膜のポリマーとして、三菱エンジニアリングプラスチックス社製のポリフェニレンエーテルPX100L(以下、PPEと略す)を準備した。PPEが20質量%となるように、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)を加えて混練しながら、130℃で溶解させて、均一な製膜原液を得た。
続いて、製膜原液を二重円筒管ノズルより、中空状に押出しながら、内液として35質量%NMP水溶液を同時に押出して成形させ、常温の空気中を空走させて、乾燥処理を行った後、30質量%のNMP水溶液(凝固浴)に30℃にて浸漬させ、PPE中空糸支持膜を作製した後、水洗処理を行った。
得られたPPE中空糸支持膜の外径は250μm、膜厚は50μmであった。純水透過試験を行ったところ、透水量は43L/(m・h・bar)であった。
(第1分離層の形成)
上記の式(I)で表される疎水性セグメントと上記の式(II)で表される親水性セグメントの繰り返し構造を有するSPAEを以下のようにして準備した。
3,3′−ジスルホ−4,4′−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩(以下S−DCDPSと略す)3.0000kg、2,6−ジクロロベンゾニトリル(以下DCBNと略す)1.7036kgを計り取り、S−DCDPSとDCBNの仕込みモル比を38:62とした。さらに4,4′−ビフェノール2.9677kg、炭酸カリウム2.4213kg、を計り取り、重合タンクに投入して窒素を流した。NMP25.9kgを加えて、150℃で50分撹拌した後、反応温度を195℃〜200℃に上昇させて反応を続けた。その後、放冷し、放冷後、重合溶液を水浴へ沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄した後、純水で丁寧に水洗することで、残留した炭酸カリウムを除去した。その後、炭酸カリウムを除去した後のポリマーを乾燥させることによって、目的物であるスルホン化度DS=38%の共重合SPAEを得た。
得られたSPAEにDMSOを加えて、常温で撹拌させながら溶解させ1.0質量%濃度のSPAEコーティング溶液を得た。
PPE中空糸支持膜をSPAEコーティング溶液中にディップコートし、垂直乾燥炉内120℃で乾燥させた。その後、SPAEからなる第1分離層を有する複数の複合分離膜をワインダーに巻き取った。SEMで観察した結果、第1分離層の厚みは300nmであった。この時点で、透水量は30L/(m・h・bar)、NaCl阻止率は11%であった。
(モジュールの作製)
以下のように、図3に示すタイプのモジュールを作製した。上述の中空糸膜を70,000本平行に束ねた糸束1本を準備し、糸束の片方の端部を切断し、開口面をポリオレフィンのホットメルトにより目詰めした。この端部を内径80mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の型取り容器に収めて、これにエポキシ樹脂を充填して固めた後、離型して接着端(A11)を得た。
さらに、上述の糸束の周囲を厚さ50μmのPTFEフィルムで巻いて外面を保護した状態にして、2箇所の供給液入出口(A4,A5)を備えた内径100mm、長さ1,000mmのポリ塩化ビニル製の円筒容器に充填した。その後、PTFEフィルムを引き抜いた。続いて、円筒容器を立てた状態で固定して、接着端(A11)を上側、もう片方の端部を下側にした状態で、円筒容器下部からエポキシ樹脂を流し込み、端部接着を行い、接着端(A2)を得た。開口端部(A1)は、樹脂硬化後に、中空糸膜が開口するように切削加工を行った。このモジュールにキャップ(A9)を上下取り付けて、第1分離層を有する中空糸膜モジュールを作製した。
(親水化・含水処理)
このように作製されたモジュールに、下端の導入口(A12)からエタノールを充填し、親水化処理を2時間行った。その後、エタノールを純水に置換した。引き続き、2barの圧力にて純水でクロスフロー運転を行い、膜中のエタノールを除去した。
(実施例1)
(第2分離層の形成)
この含水状態のモジュールより純水を抜き出し、CPVA(日本合成化学社製K434)を純水に溶解させた0.1質量%水溶液をモジュール内に充填した。30分間静置して吸着処理を行った後、純水で5分間リンスを行った。続いて、APVA(日本合成化学社製CKS50)を純水に溶解させた0.1質量%水溶液をモジュール内に充填した。30分間静置して吸着処理を行った後、純水で5分間リンス処理を行った。その後、1質量%のグルタルアルデヒド(GA)水溶液(酸触媒として硫酸を加え、pH=1に調製)を充填し、20時間架橋処理を行った。モジュール内を十分純水で洗浄した後、CPVAおよびAPVAの吸着処理およびグルタルアルデヒド架橋の処理サイクルをもう1回実施した。最後に十分純水で水洗して、第2分離層を有する中空糸膜モジュールを得た。
最終的なモジュール性能は、圧力5barにおける純水透過量は865L/h、純水フラックスは17.8L/(m・h)であった。また、MgSO阻止率は98.3%、NaCl阻止率は64.0%、スクロース阻止率は99.2%、グルコース阻止率は90.1%であった。
次に、前記モジュールに濃度300ppm、pH=12に調製した次亜塩素酸ナトリウム(ナカライテスク社製)の水溶液を充填した。室温で保持し、12時間ごとに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を交換し、前後の塩素濃度をHANNA製デジタル残留塩素計(UHR)HI771で測定し、塩素濃度2点の平均値と12時間を掛け算し、曝露時間(ppm・hours)として算出した。その後、モジュールのMgSO阻止率および純水フラックスを測定した。この塩素曝露試験と膜性能試験のサイクルを繰り返した。
積算塩素曝露量が、48,000ppm・hoursに達した時点で、MgSO阻止率は初期値の98.3%から83.1%まで低下した。ここで、CPVA(日本合成化学社製K434)を純水に溶解させた0.1質量%水溶液をモジュール内に充填した。30分間静置して吸着処理を行った後、純水に置換しながら5分間リンスを行った。その後、APVA(日本合成化学社製CKS50)を純水に溶解させた0.1質量%水溶液をモジュール内に充填し、30分間静置して吸着処理を行った。純水に置換処理しながら5分間リンス処理を行った後、1質量%のグルタルアルデヒド(GA)水溶液(酸触媒として硫酸を加え、pH=1に調製)を充填し、20時間架橋処理を行った。その結果、MgSO阻止率は83.1%から95.2%まで回復した。
(実施例2)
実施例1において膜性能回復処理を行ったモジュールについて、300ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液浸漬を継続して実施した。実施例1を含む積算塩素曝露量が90,000ppm・hoursに達した時点で、MgSO阻止率は89.9%に低下した。
ここで、CPVA(日本合成化学社製K434)を純水に溶解させた0.1質量%水溶液をモジュール内に充填した。30分間静置して吸着処理を行った後、純水に置換しながら5分間リンスを行った。その後、APVA(日本合成化学社製CKS50)を純水に溶解させた0.1質量%水溶液をモジュール内に充填し、30分間静置して吸着処理を行った。純水に置換処理しながら5分間リンス処理を行った後、1質量%のグルタルアルデヒド(GA)水溶液(酸触媒として硫酸を加え、pH=1に調製)を充填し、20時間架橋処理を行った。その後、さらにCPVA、APVA水溶液の吸着処理とGA水溶液による架橋処理のサイクルを、上記と同一の条件にて繰り返した。その結果、MgSO阻止率は98.0%まで回復した。
上記の実施例1および2の次亜塩素酸ナトリウムによる曝露および膜の再生処理におけるMgSO阻止率および純水フラックスの変化を図1および2に示す。
(実施例3)
(第2分離層の形成)
親水化・含水処理後のモジュールより純水を抜き出し、CPVA(クラレ社製CM318)を純水に溶解させた0.1質量%水溶液をモジュール内に充填した。30分間静置して吸着処理を行った後、純水で5分間リンスを行った。その後、純水で5分間リンス処理を行い、1質量%のグルタルアルデヒド(GA)水溶液(酸触媒として硫酸を加え、pH=1に調製)を充填し、20時間架橋処理を行った。モジュール内を十分純水で洗浄した後、CPVAの吸着処理およびグルタルアルデヒド架橋の処理サイクルをもう1回実施した。最後に十分純水で水洗して、第2分離層を有する中空糸膜モジュールを得た。
最終的なモジュール性能は、圧力5barにおける純水透過量は915L/h、純水フラックスは18.5L/(m・h)であった。また、MgSO阻止率は97.5%、NaCl阻止率61.0%、スクロース阻止率は98.8%、グルコース阻止率は89.4%であった。
次に、前記のモジュールに濃度300ppm、pH=12に調製した次亜塩素酸ナトリウム(ナカライテスク社製)の水溶液を充填して、実施例1と同様の方法でモジュールのMgSO阻止率および純水フラックスを測定しながら、塩素曝露試験を実施した。
積算塩素曝露量が、50,000ppm・hoursに達した時点で、MgSO阻止率は初期値の97.5%から84.8%まで低下した。ここで、CPVA(クラレ社製CM318)を純水に溶解させた0.1質量%水溶液をモジュール内に充填した。30分間静置して吸着処理を行った後、純水に置換しながら5分間リンスを行った。その後、1質量%のグルタルアルデヒド(GA)水溶液(酸触媒として硫酸を加え、pH=1に調製)を充填し、20時間架橋処理を行った。その結果、MgSO阻止率は84.8%から94.2%まで回復した。
(比較例1)
実施例1と同様の方法にて中空糸複合膜のモジュールを作製した。最終的なモジュール性能は、圧力5barにおける純水透過量は853L/h、純水フラックスは17.3L/(m・h)であった。また、MgSO阻止率は98.5%、NaCl阻止率64.5%、スクロース阻止率は99.1%、グルコース阻止率は91.2%であった。
次に、前記のモジュールに濃度300ppm、pH=12に調製した次亜塩素酸ナトリウム(ナカライテスク社製)の水溶液を充填して、実施例1と同様の方法でモジュールのMgSO阻止率および純水フラックスを測定しながら、塩素曝露試験を実施した。
積算塩素曝露量が、52,000ppm・hoursに達した時点で、MgSO阻止率は初期値の98.5%から79.5%まで低下した。ここで、CPVA(日本合成化学社製K434)を純水に溶解させた0.1質量%水溶液をモジュール内に充填した。30分間静置して吸着処理を行った後、純水に置換しながら5分間リンスを行った。その後、APVA(日本合成化学社製CKS50)を純水に溶解させた0.1質量%水溶液をモジュール内に充填し、30分間静置して吸着処理を行った。純水に置換処理しながら5分間リンス処理を行った。架橋処理は実施せず、膜性能評価を行ったところ、MgSO阻止率は79.5%から79.8%となり、明確な性能回復効果を得ることはできなかった。
実施例1〜3のように化学的劣化を受けて大幅に性能が低下した複合膜モジュールは、変性ポリビニルアルコール水溶液およびアルデヒド類水溶液をモジュールに充填するという極めて簡便かつ安価な処理により、その場修復できることが明らかとなった。
以下、本発明における測定、評価手法について説明する。
(SPAEポリマーのスルホン化度DSの測定)
SPAEポリマーのスルホン化度DSは以下のように評価した。真空乾燥器で100℃、1晩乾燥させたポリマー20mgを、ナカライテスク社の重水素化DMSO(DMSO−d6)1mLに溶解させ、これをBRUKER社製 AVANCE500(周波数500.13MHz、温度30℃、FT積算32回)にてプロトンNMR測定した。得られたスペクトルチャートにおいて、疎水性セグメントおよび親水性セグメントに含まれる各プロトンとピーク位置の関係を同定し、疎水性セグメントにおけるプロトンのうち独立したピークと、親水性セグメントにおけるプロトンのうち独立したピークの1個のプロトンあたりの積分強度の比から求めた。
(中空糸膜の形状)
3mm径または6mm径の孔を空けた3mm厚のSUS板の孔に、適量の中空糸束を詰め、カミソリ刃でカットして断面を露出させた後、Nikon社製の顕微鏡(ECLIPSE LV100)およびNikon社製の画像処理装置(DIGITAL SIGHT DS−U2)およびCCDカメラ(DS−Ri1)を用いて、断面の形状を撮影し、画像解析ソフト(NIS Element D3.00 SP6)により、中空糸膜断面の外径および内径を、該解析ソフトの計測機能を用いて測定することで中空糸膜の外径および内径および厚みを算出した。
(第1分離層および第2分離層の厚み)
含水した状態の中空糸膜を液体窒素で凍結させ、割断し、風乾させて、その割断面にPtをスパッタリングし、日立製作所社製の走査型電子顕微鏡S−4800を用いて、加速電圧5kVで観察した。
(中空糸膜モジュールのろ過評価)
実施例および比較例で作製したモジュールについて、供給水タンク、圧力ポンプからなるモジュール試験装置に接続し、クロスフローにてろ過試験を実施した。評価圧力は5bar(0.5MPa),供給液温度は25℃に統一した。回収率は5%になるように供給液流量を調節した。分離試験の溶質として塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸マグネシウム(MgSO)、スクロース(分子量342)、グルコース(分子量180)をそれぞれ用いた。溶質濃度は全て1500mg/Lに調製した。約1時間ろ過運転を行った後、膜からの透過水量を試験装置の流量計で測定するとともに、透過液をサンプリングし、溶質濃度を測定した。
圧力あたり透水量(FR)は下記式より算出した。
FR[L/(m・h・bar)]=透過水量[L]/膜面積[m]/採取時間[分]/運転圧力[bar]
供給液がNaClまたはMgSOの場合には、ろ過試験で採取した膜透過水と、供給水溶液について、電気伝導率計(東亜ディーケーケー社CM−25R)を用いて導電率を測定し、イオン阻止率を下記式より算出した。
阻止率[%]=(1−ろ過液の導電率[μS/cm]/供給水溶液の導電率[μS/cm])×100
供給液がスクロースまたはグルコースの場合には、前記透水量測定で採取した膜透過水と、供給水溶液の糖濃度を、フェノール硫酸法により評価した。具体的には、試験管に1.0mLの上記の供給液または透過液を、純水で10倍に希釈したものを入れ、5%フェノール水溶液を1.0mL加えて攪拌する。そのうえに濃硫酸(96%濃度)を5.0mL速やかに加えて、攪拌する。呈色した溶液を、490nmにて吸光度測定を行い、あらかじめ作成した検量線から濃度を算出し、10倍した値を実際の濃度値とする。フェノール硫酸法において、各糖濃度と吸光度の間の線形性が良好な範囲は、0〜200mg/Lまでであるため、上記の1500mg/Lの供給液またはろ過液は10倍に希釈して測定を行う。溶質の阻止率は下記式から算出した。
阻止率[%]=(1−ろ過液の糖濃度[mg/L]/供給水溶液の糖濃度[mg/L])×100
本発明によれば、特定の分離膜の構成を有する複合膜モジュールにおいて、化学的洗浄により膜性能が低下したモジュールの性能を、簡便な処理で大幅に複数回再生できるために、膜ろ過プロセスを長寿命化することが可能である。
A1 : 中空糸膜開口面
A2 : 接着部1
A3 : 中空糸膜束
A4 : 供給液入口
A5 : 供給液出口
A6 : 透過液集水部
A7 : 透過液出口
A8 : 耐圧容器
A9 : キャップ
A10 : 接合部
A11 : 接着部2
A12 : 洗浄流体導入口

Claims (5)

  1. 多孔性支持膜の一方の表面にスルホン酸基を有するポリマーで構成される第1分離層を有し、前記第1分離層の表面に、少なくとも1種類以上のカチオン性またはアニオン性ポリマーから構成される第2分離層を有する複合膜を組み込んでなる膜モジュールの再生方法であって、
    前記スルホン酸基を有するポリマーは、下記式(IV)で表される疎水性セグメントと、下記式(V)で表される親水性セグメントの繰り返し構造からなるスルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体であり、
    前記複合膜の分離層側に少なくとも1種類以上のカチオン性ポリマー溶液またはアニオン性ポリマー溶液を接触させる工程、架橋剤溶液を接触させる工程を順に実施することを特徴とする膜モジュールの再生方法。


    上記式中、Xは下記のいずれかであり、

    Yは、下記のいずれかであり、

    Zは、下記のいずれかであり、

    Wは、下記のいずれかであり、

    YとWは、同じものが選択されることはなく、
    aおよびbは、それぞれ1以上の自然数を表し、
    およびR は、−SO Mあるいは−SO Hを表し、Mは金属元素を表し、
    スルホン化ポリアリーレンエーテル共重合体中の式(IV)の繰り返し数と式(V)の繰り返し数の合計に対する式(V)の繰り返し数の百分率割合として表されるスルホン化率が、5%よりも大きく、80%よりも小さい。
  2. 前記カチオン性ポリマー溶液がカチオン性ポリビニルアルコール水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 前記アニオン性ポリマー溶液がアニオン性ポリビニルアルコール水溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記架橋剤溶液がアルデヒド類の水溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 前記カチオン性ポリマー溶液またはアニオン性ポリマー溶液を接触させる工程、架橋剤溶液を接触させる工程を順に2回以上繰返すことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
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