以下本発明の実施の形態を図1〜図16に基づいて説明する。図1に本発明の第1の実施形態に係る摺動式等速自在継手1を示し、この摺動式等速自在継手1は、固定式等速自在継手部2と、外筒部材3と、外筒部材3と固定式等速自在継手部2との間に形成されたボールスプライン機構4とからなる。
固定型等速自在継手部2は、8個のトルク伝達ボール(以下、単にボールともいう)8を有するツェッパ型等速自在継手で構成され、外側継手部材6、内側継手部材7、ボール8および保持器9を主な構成部品とする。外側継手部材6の内径面10には8本の曲線状のトラック溝11が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材7の外径面12には、外側継手部材6のトラック溝11と対向する8本の曲線状のトラック溝13が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材6のトラック溝11と内側継手部材7のトラック溝13との間にトルクを伝達する8個のボール8が1個ずつ組み込まれている。外側継手部材6の内径面10と内側継手部材7の外径面12の間に、ボール8を保持する保持器9が配置されている。ボール8は保持器9のポケット9aに収容されている。保持器9の外径面14は外側継手部材6の内径面10と、保持器9の内径面15は内側継手部材7の外径面12とそれぞれ嵌合している。
外側継手部材6の内径面10と内側継手部材7の外径面12の曲率中心は、それぞれ継手中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材6の曲線状のトラック溝11の曲率中心Ooと、内側継手部材7の曲線状のトラック溝13の曲率中心Oiは、継手の中心Oに対して軸方向反対側に等距離f1オフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材6と内側継手部材7の両軸線がなす角度を二等する平面上にボール8が常に案内され、二軸間で等速に回転が伝達される。
内側継手部材7の内径孔16には、雌スプライン(スプラインはセレーションを含む。以下同じ。)17が形成され、中間シャフト19の端部に形成された雄スプライン20を雌スプライン17に嵌合し、トルク伝達可能に連結されている。内側継手部材7と中間シャフト19は、止め輪21により軸方向に位置決めされている。
図3は、ボールとトラック溝との関係を示す要部拡大断面図である。トラック溝11、13の横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状に形成されている。図3に示すように、ボール8は、外側継手部材6のトラック溝11と2点C12、C13でアンギュラコンタクトし、内側継手部材7のトラック溝13と2点C15、C16でアンギュラコンタクトしている。ボール中心O2と各接触点C12、C13、C15、C16を通る直線と、ボール中心O2と継手中心Oを通る直線がなす角度(接触角α)は30°〜45°程度に設定することが好ましい。
図1および図2に示すように、固定式等速自在継手部2は、外筒部材3に嵌挿され、外筒部材3の内径面24と、固定式等速自在継手部2の外側継手部材6の外径面25との間にボールスプライン機構4が形成されている。具体的には、図4に示すように、外筒部材3の内径面24には、断面円弧状の8本の外方ボールスプライン溝26が軸方向に直線状に形成されている。外側継手部材6の外径面25には、外筒部材3の外方ボールスプライン溝26に対応して断面円弧状の8本の内方ボールスプライン溝27が軸方向に直線状に形成されている。
対になる各ボールスプライン溝26、27の1溝あたり2個ずつボール28が組み込まれている。すなわち、外方ボールスプライン溝26とこれに対応する内方ボールスプライン溝27とがボール嵌合溝部36をなし、ボールスプライン機構4のボール28が、1つのボール嵌合溝部36に対して2個以上配設されることになる。
外側継手部材6の外径面25と外筒部材3の内径面24の間に、ボール28を保持する保持器29が配置されている。この保持器29は、図4と図5に示すように、短円筒体からなり、軸方向に沿って並設された一対のポケット29a、29aが周方向に沿って所定ピッチ(この場合、45°の等ピッチ)で8個のポケット対29Aが設けられている。
すなわち、保持器29のポケット29aは、各ボールスプライン溝26、27の当たり2個ずつ、つまりボール28毎のポケット29aが設けられている。各ボール28は、保持器29のポケット29aに収容され保持され、保持器29はボール28を保持しながらスライドする。保持器29の内外径面は、外側継手部材6の外径面25と外筒部材3の内径面24にそれぞれ案内されている。固定式等速自在継手部2は、ボールスプライン機構4の各ボール28が外方ボールスプライン溝26、27を転がることにより外筒部材3に対してスライドする。ボール28を外方ボールスプライン溝26、27の1溝あたり2個配置することにより、作動角を取ったときにボールスプライン機構4に曲げモーメントがかかっても、滑らかなスライドが可能である。
ボールスプライン機構4の保持器29は、大きな荷重を受けないため軽量化、低摩擦化を考慮して樹脂製とした。保持器29は、一般的に使用される耐摩耗性や耐焼き付性等に優れた樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリプチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド等が挙げられ、また、熱硬化性樹脂としては、熱硬化性ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂が挙げられる。強度向上と寸法安定性のために、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、あるいはポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂をベースとして、ガラス繊維や炭素繊維を添加することが好ましい。
保持器29の材料として、引張り伸び、引張り強度、耐衝撃性、耐摩耗性、潤滑性等に優れたポリアミド樹脂を用いることが好ましい。ポリアミド樹脂としては、PA66(ポリアミド66)、PA46(ポリアミド46)、PA9T(ポリアミド9T)、PA11(ポリアミド11)、PA6(ポリアミド6)が挙げられる。引張り伸び、引張り強度、耐衝撃性、耐摩耗性、潤滑性等に優れるので、高品質な保持器とすることができる。
保持器29の材料として、熱硬化性ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることにより、高温での使用に適した保持器とすることができる。本実施形態では、ボールスプライン機構4の保持器29を樹脂製のものを例示したが、これに
られず、鋼管などの金属製としてもよい。
外筒部材3の底部3aにはデファレンシャルギヤ(図示省略)に連結されるステム軸3bが一体に形成されている。ステム軸3bには軸端にスプライン3cが形成され、中央部に油溝を設けた滑り軸受部3dが形成されている。スプライン3cがデファレンシャルギヤのスプライン孔に嵌合しトルク伝達可能に連結される。外筒部材3にステム軸3bが一体に形成されていることにより、デファレンシャルギヤとの連結が容易である。
図1に示すように、外筒部材3の内径面24の開口側端部の外方ボールスプライン溝26の溝底に止め輪30が設けられている。また、外側継手部材6の外径面25の内方ボールスプライン溝27の両端の溝底に止め輪31、32が設けられている。各止め輪30、31、32は外方ボールスプライン溝26、27の溝底より突出しているので、ボール28が止め輪30、31、32と干渉した位置で、外筒部材3に対する固定式等速自在継手部2の軸方向の移動が阻止される。
外筒部材3の外径面と、内側継手部材7に連結された中間シャフト19の外径面に蛇腹状ブーツ22が装着されている。具体的には、ブーツ22の一端はシールアダプタ23に取り付けられ、このシールアダプタ23は、外筒部材3の開口側外径面に設けた取付溝18に加締め固定されている。ブーツ22の他端は、中間シャフト19の外径面にブーツバンド33により締付固定されている。これにより、継手内部に封入された潤滑剤としてのグリースの漏洩を防止すると共に外部からの異物の侵入を防止している。
図2に示すように、ボールスプライン機構4を効率よく配置するために、外側継手部材6の外径面25に形成された内方ボールスプライン溝27は、外側継手部材6の内径面10に形成された隣り合うトラック溝11間の位相の余肉部分に配置されている。
ところで、保持器29の軸方向両端面にシール部材40、40が付設されている。シール部材40は、CRゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム等のゴム系組成物、又はフッ素樹脂等の樹脂系組成物で構成できる。シール部材40は、平板リング形状の本体部40aと、周方向に沿って所定ピッチ(この場合、45°の等ピッチ)で8か所に設けられる円形状の膨出部40bとからなる。この場合、図5に示すように、膨出部40bはポケット対29Aに対応している。
本体部40aは、保持器29の肉厚と同一乃至僅かに大きい幅寸法とされ、また、膨出部40bは、外方ボールスプライン溝26,27の曲率半径と同一乃至外方ボールスプライン溝26,27の曲率半径よりも僅かに大きい半径を有するように設定される。
すなわち、図1に示すように、保持器29が、外側継手部材6の外径面25と外筒部材3の内径面24との間に介在された状態では、シール部材40の本体部40aの外周縁部41aが外筒部材の内径面に摺接し、シール部材40の本体部40aの内周縁部41bが外側継手部材の外径面に摺接し、膨出部40bの外径側外周縁部42aが外筒部材3の外方ボールスプライン溝26に摺接し、膨出部40bの内径側外周縁部42bが外側継手部材6の内方ボールスプライン溝27に摺接する。すなわち、シール部材40は、保持器29の軸方向両端面に付設され、その外径端部(本体部40aの外周縁部41aおよび膨出部40bの外径側外周縁部42a)が外筒部材3の内径面24及び外方ボールスプライン溝26の内径面26aに摺接し、その内径端部(本体部40aの内周縁部41bおよび膨出部40bの内径側外周縁部42b)が固定式等速自在継手部2の外径面25及び内方ボールスプライン溝27の内径面27aに摺接する。
ところで、保持器29とシール部材40,40とを別部材で構成し、保持器29とシール部材40,40との固着手段を介して一体化するようにするのが好ましい。このように構成することによって、保持器29とシール部材40,40とをそれぞれ別個に製造でき、保持器29とシール部材40,40とを異なる材質で構成したり、同じ材質で構成したりできて、生産性に優れる。また、シール部材40が摩耗や損傷等した場合に、シール部材40のみの交換も可能であるとともに、シール部材40の材質、形状、及び大きさ等を相手のシール面の材質や形状等に合わせて変更することができる。固着手段としては、保持器やシール部材の材質や形状等に応じて、圧入カシメ、接着、ねじ止め等の公知公用の手段を採用できる。
次に、本実施形態の摺動式等速自在継手1の作動を図6〜8に基づいて説明する。図6は、摺動式等速自在継手1がスライドインして作動角を取った状態を示す縦断面図である。固定式等速自在継手部2は、外筒部材3の奥側(底部3a側)へボールスプライン機構4の転がりによりスライドする。詳細には、保持器29の内外径面は、外側継手部材6の外径面25と外筒部材3の内径面24に案内されているので、保持器29の姿勢が安定し、この保持器29のポケット29aに収容されたボール28は外方ボールスプライン溝26、27上を軸方向に滑らかに転がる。
本実施形態の摺動式等速自在継手1では、作動角は内方の固定式等速自在継手部2で取り、軸方向のスライドはボールスプライン機構4で取る。このように、作動角を取る機能と軸方向のスライドを取る機能が、固定式等速自在継手部2とボールスプライン機構4に分けられている。そのため、本実施形態の摺動式等速自在継手1は、作動角を取る機能とスライドする機能を同時に行う現在使われている摺動式等速自在継手に生じる作動角による軸力問題は発生せず、NVH(Noise,Vibration,Harshness)特性が良好である。
摺動式等速自在継手1のスライドインの最終位置は、シール部材40、40を有するので、図6に示すように、開口側のシール部材40が止め輪31に干渉したときに規制される。スライドインの状態では、中間シャフト19とブーツ22との干渉等により、作動角が制約されるが、この状態は車両がフルバウンドやフルリバウンドの状態ではないので、摺動式等速自在継手1に余り大きな作動角が必要でなく、実用上問題は生じない。なお、シール部材40、40を有さない場合、スライドインの最終位置は、外側継手部材6の外径面25の開口側端部に設けられた止め輪31とボール28とが干渉することにより規制される。
図7は、摺動式等速自在継手1がスライドアウトした状態を示す縦断面図である。スライドインした状態とは反対に、固定式等速自在継手部2は、外筒部材3の開口側へボールスプライン機構4の転がりによりスライドする。この場合、シール部材40、40を有するので、スライドアウトの最終位置は、開口側のシール部材40が止め輪30に干渉するとともに、継手奥側のシール部材40が止め輪32に干渉したときに規制される。なお、
シール部材40、40を有さない場合、摺動式等速自在継手1のスライドアウトの最終位置は、外筒部材3の内径面24の開口側端部に設けられた止め輪30および外側継手部材6の奥側端部に設けられた止め輪32にボール28が干渉したときに規制される。
スライドアウトした状態では、固定式等速自在継手部2は、外筒部材3に対してオーバハングして作動角を取り、ボールスプライン機構4に曲げモーメントがかかる状態になるが、外方ボールスプライン溝26、27の1溝あたり2個配置したボール28により、荷重を支持することができる。スライドアウトの状態では、中間シャフト19とブーツ22との干渉等の問題は少なく、大きな作動角が取れるので、車両のフルバウンドやフルリバウンドの状態に対応することができる。これにより、本実施形態の摺動式等速自在継手1は、40°〜45°程度に作動角が大幅に拡大するので、ドライブシャフトの角度の使用可能領域が拡大され、駆動系部品のレイアウトの自由度が向上し、多様化する自動車の設計に大きく貢献できる。
本実施形態の摺動式等速自在継手1のスライド量の設定について、図8に基づいて説明する。図8は、摺動式等速自在継手が中心位置からスライドした状態を示す縦断面図で、図8(a)はスライドインした状態、図8(b)は中心位置の状態、図8(c)はスライドアウトした状態を示す。
図8(b)に示す中心位置から、図8(a)に示す外筒部材3の奥側にスライド量S、図8(c)に示す開口側にスライド量Sを確保できるように、前述したボール28の径D4(図1参照)、外方ボールスプライン溝26、27の1溝あたりのボール28の個数を設定した。スライド量Sは、ジョイントサイズや搭載車種により異なるが、20〜30mm程度である。本発明では、シール部材40、40を有するので、スライドは、シール部材40、40と止め輪30、31、32との干渉により制限される。なお、シール部材40,40を有さない場合、ボール28と止め輪30、31、32との干渉により制限される。
この摺動式等速自在継手の固定式等速自在継手部は、ボール8のピッチ円直径(PCDBALL)とボール直径(DBALL)との比r1(=PCDBALL/DBALL)は3.3≦r1≦5.0、好ましくは3.5≦r1≦5.0の範囲内に設定されている。ここで、ボール8のピッチ円直径(PCDBALL)は、PCRの2倍の寸法である(PCDBALL=2×PCR)。外側継手部材6のトラック溝11の曲率中心Ooとボール8の中心O2を結ぶ線分の長さ、内側継手部材7のトラック溝13の曲率中心Oiとボール8の中心O2を結ぶ線分の長さが、それぞれPCRであり、両者は等しい。また、外側継手部材6の外径(DOUTER)と内側継手部材7の内径孔16の雌スプライン17のピッチ円直径(PCDSERR)との比r2(=DOUTER/PCDSERR)は2.5≦r2≦3.5の範囲内の値に設定されている。したがって、従来継手(6個のボールを使用した固定式等速自在継手)と同等以上の強度、負荷容量および耐久性を有し、かつ、外径寸法がコンパクトとなる。
前記実施形態では、外方ボールスプライン溝26、27のPCD(PCDBS)と固定式等速自在継手部2の外径(DOUTER)の比率PCDBS/DOUTERを、PCDBS/DOUTER=0.96〜1.00とし、かつ、(2)ボールスプライン機構4のボール径(D4)と固定式等速自在継手部2のボール径(DBALL)の比率D4/DBALLを、D4/DBALL=0.57〜0.64としている・
以上のような寸法設定することによって、ボールスプライン溝のPCD(PCDBS)を必要十分な大きさに設定でき、固定式等速自在継手部2の必要強度を確保することができた。また、ボールスプライン機構4のボール28の直径D4を必要十分な大きさに設定でき、ボールスプライン機構4のボール径が必要以上に大きくならず、摺動式等速自在継手1の外径や外方ボールスプライン溝26、27の長さが大きくなりず、これがコスト高や重量の増加を招かない。入力されるトルクに対してボール28の径D4が小さいと、外方ボールスプライン溝26、27の応力変形等により、外方ボールスプライン溝26、27の早期剥離破損や破断破損が発生する可能性がある。
図9に本実施形態の摺動式等速自在継手1を適用した自動車の前輪用ドライブシャフト43を示す。このドライブシャフト43は、中間シャフト19の一端に固定式等速自在継手44が連結され、他端に本実施形態の摺動式等速自在継手1が連結されている。固定式等速自在継手44は、8個のボールを用いたツェッパ型等速自在継手であり、摺動式等速自在継手1の固定式等速自在継手部2の内部構成と同じである。固定式等速自在継手44が駆動車輪を装着したハブ輪(図示省略)に連結され、摺動式等速自在継手1がデファレンシャルギヤ(図示省略)に連結される。固定式等速自在継手44の外径面と中間シャフト19の外径面との間、および摺動式等速自在継手1の外径面と中間シャフト19の外径面との間に、それぞれ蛇腹状ブーツ22、34が装着され、ブーツバンド33、35a、35bにより締め付け固定されると共に、ブーツ22のシールアダプタ23の端部を加締めて固定されている。
本発明の摺動式等速自在継手は、外筒部材3に、トルク伝達部材にボール8を用いた角度変位のみ許容する固定式等速自在継手部を収容したものであり、差動角を大きくとることができる。しかも、外筒部材3と固定式等速自在継手部2との間にボールスプライン機構4が介在されるので、外筒部材3に対する固定式等速自在継手部2の軸方向のスライドが可能となる。このため、角度変位のみならず軸方向変位も許容する摺動式等速自在継手を発揮することができる。すなわち、差動角を大きくとれる固定式等速自在継手の特有の機能とスライドしながら回転可能な摺動式等速自在継手の特有の機能を備えることになる。
このため、本発明では、差動角を大きくとれる固定式等速自在継手の特有の機能とスライドしながら回転可能な摺動式等速自在継手の特有の機能を備えることになる。この摺動式等速自在継手を、ドライブシャフト43に用いれば、ドライブシャフト43の角度の使用可能領域が拡大されると共に、駆動系部品のレイアウトの自由度が向上し、多様化する自動車の設計に大きく貢献できる摺動式等速自在継手を実現することができる。すなわち、本実施形態の摺動式等速自在継手1は、上述したコンパクトな8個のボール8を使用した固定式等速自在継手部2とボールスプライン機構4の効率のよい配置とが相俟って、トルク損失を低減し、軽量・コンパクトで、コストを抑えることができる。
ところで、ドライブシャフト等に用いられて、固定式等速自在継手部が大きくスライドする時は、車輪が大きく変動するときである。このような場合は、例えば、大きな凹凸がある路面を走行する場合等であり、頻繁に起こるものではない。このため、固定式等速自在継手部が外筒部材の奥側空間M(図1の仮想線で示す範囲)に長時間留まることはない。従って、機能上、この奥側空間に、従来の既存の摺動式等速自在継手のように継手奥側へのグリース封入を必要としない。
そこで、本発明では、保持器29の軸方向両端部にグリースの流動を防止するシール部材40を配設して、保持器29外へのグリースの流出を防止又は抑制することが可能な構成とした。すなわち、ボールスプライン機構4の保持器29の軸方向両端側の開口部が閉されることになって、継手奥側空間部Mや継手開口部を塞いでいるブーツ側へグリースが流出することを防止でき、大幅なグリース低減が可能となって、軽量化及び低コスト化を図ることができる。ボールスプライン機構4内のグリースの外筒部材3の奥側への流動の防止や抑制が可能となる。このため、摺動式等速自在継手としての耐久性を確保しながらグリース封入量を削減できた。
図10は、シール部材40を示し、図10(a)は図1に示すシール部材である。すなわち、膨出部40bが円形状とされている。図10(b)の膨出部40bが、円板状本体部45cと、外径側傾斜片部45aと、内径側傾斜片部45bとを有するものであり、外径側傾斜片部45aと内径側傾斜片部45bの外周縁部が円弧状とされる。このため、外径側傾斜片部45aの外周縁部が外方ボールスプライン溝26に摺接し、内径側傾斜片部45bの外周縁部が内方ボールスプライン溝27に摺接する。
図10(c)の膨出部40bは、円板状本体部45cに、外径側小突起45dと内径側小突起45eとをさらに有するものである。また、この場合も、外径側傾斜片部45aの外周縁部が外方ボールスプライン溝26に摺接し、内径側傾斜片部45bの外周縁部が内方ボールスプライン溝27に摺接する。
図10(d)の膨出部40bは、断面横倒V字形状とされている。この場合も、外径側傾斜片部45aの外周縁部が外方ボールスプライン溝26に摺接し、内径側傾斜片部45bの外周縁部が内方ボールスプライン溝27に摺接する。
図10では、継手開口部側のシール部材40を示して、継手奥側のシール部材40の図示を省略しているが、この継手奥側のシール部材40は継手開口側のシール部材の左右対称形である。このため、図10(b)(c)(d)に示すシール部材40であっても、図10(a)に示すシール材と同様のシール機能を発揮することができる。
次に、本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手を図11〜図16に基づいて説明する。本実施形態の摺動式等速自在継手51は、固定式等速自在継手部52が第1の実施形態と異なる。その他の構成は、第1の実施形態と同じであるので、同じ機能を有する部位には、同じ符号を付して説明を省略する。
図11および図12に示すように、固定式等速自在継手部52は、外側継手部材56、内側継手部材57、ボール58および保持器59を主な構成とする。図11〜図16に示すように、外側継手部材56および内側継手部材57のそれぞれ8本のトラック溝61、63は、継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝61A、61Bおよび63A、63Bで互いに反対方向に形成されている。そして、外側継手部材56および内側継手部材57の対となるトラック溝61A、63Aおよび61B、63Bの各交差部に8個のボール58が配置されている。このように、固定式等速自在継手部52が交差トラック溝61、63を有する等速自在継手で構成されている。
この場合でも、図12に示すように、ボールスプライン機構4を効率よく配置するために、外側継手部材56の外径面75に形成された内方ボールスプライン溝27は、外側継手部材56の内径面60に形成された隣り合うトラック溝61間の位相の余肉部分に配置されている。本実施形態の摺動式等速自在継手51においても、コンパクトで高効率な固定式等速自在継手部52の外周にボールスプライン機構4を効率よく配置し、コストや重量を抑えている。
ところで、この図11等に示す摺動式等速自在継手では、概ね軸方向に延びるトラック溝の傾斜状態や湾曲状態などの形態、形状を的確に示すために、ボール軌道中心線という用語を用いて説明する。ここで、ボール軌道中心線とは、トラック溝に配置されたボールがトラック溝に沿って移動するときのボールの中心が描く軌跡を意味する。したがって、トラック溝の傾斜状態は、ボール軌道中心線の傾斜状態と同じであり、また、トラック溝の円弧状、あるいは直線状の状態は、ボール軌道中心線の円弧状、あるいは直線状の状態と同じである。
図11に示すように、外側継手部材56のトラック溝61はボール軌道中心線Xを有し、トラック溝61は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部61aと、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部61bとからなり、第1のトラック溝部61aのボール軌道中心線Xaに第2のトラック溝部61bのボール軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。一方、内側継手部材57のトラック溝63はボール軌道中心線Yを有し、トラック溝63は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部63aと、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部63bとからなり、第1のトラック溝部63aのボール軌道中心線Yaに第2のトラック溝部63bのボール軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。第1のトラック溝部61a、63aのボール軌道中心線Xa、Yaの各曲率中心を、継手中心O、すなわち継手の軸線N−N上に配置したことにより、トラック溝深さを均一にすることができ、かつ加工を容易にすることができる。
トラック溝61、63の横断面形状は、前述した図3と同様、楕円形状やゴシックアーチ形状に形成されており、トラック溝61、63とボール58は、接触角(30°〜45°程度)をもって接触する、所謂、アンギュラコンタクトとなっている。したがって、ボール58は、トラック溝61、63の溝底より少し離れたトラック溝61、63の側面側で接触している。
この実施形態では、外側継手部材56のトラック溝61は、その傾斜方向の違いから、トラック溝61A、61Bの符号を付す。図13に示すように、トラック溝61Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mは、継手の軸線N−Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝61Aに周方向に隣り合うトラック溝61Bは、図示は省略するが、トラック溝61Bのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mが、継手の軸線N−Nに対して、トラック溝61Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。
本実施形態では、トラック溝61Aのボール軌道中心線Xの全域、すなわち、第1のトラック溝部61aのボール軌道中心線Xaおよび第2のトラック溝部61bのボール軌道中心線Xbの両方が平面M上に形成されている。しかし、これに限られるものではなく、第1のトラック溝部61aのボール軌道中心線Xaのみが平面Mに含まれている形態も実施することができる。したがって、少なくとも第1のトラック溝部61aのボール軌道中心線Xaと継手中心Oを含む平面Mが継手の軸線N−Nに対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う第1のトラック溝部61aで互いに反対方向に形成されていればよい。
ここで、トラック溝の符号について補足する。外側継手部材56のトラック溝全体を指す場合は符号61を付し、その第1のトラック溝部に符号61a、第2のトラック溝部に符号61bを付す。さらに、傾斜方向の違うトラック溝を区別する場合には符号61A、61Bを付し、それぞれの第1のトラック溝部に符号61Aa、61Ba、第2のトラック溝部に符号61Ab、61Bbを付す。後述する内側継手部材57のトラック溝についても、同様の要領で符号を付している。
次に、図14に基づき、内側継手部材57のトラック溝63が継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜している状態を説明する。図14は内側継手部材57の外径面を示す。内側継手部材57のトラック溝63は、その傾斜方向の違いから、トラック溝63A、63Bの符号を付す。図14に示すように、トラック溝63Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N−Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝63Aに周方向に隣り合うトラック溝63Bは、図示は省略するが、トラック溝63Bのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qが、継手の軸線N−Nに対して、トラック溝63Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。この角度(傾斜角)γは、固定式等速自在継手部52の作動性および内側継手部材57のトラック溝の最も接近した側の球面幅F(図12参照)を考慮し、4°〜12°にすることが好ましい。
前述した外側継手部材56と同様、本実施形態の内側継手部材57では、トラック溝63Aのボール軌道中心線Yの全域、すなわち、第1のトラック溝部63aのボール軌道中心線Yaおよび第2のトラック溝部63bのボール軌道中心線Ybの両方が平面Q上に形成されている。しかし、これに限られるものではなく、第1のトラック溝部63aのボール軌道中心線Yaのみが平面Qに含まれている形態も実施することができる。したがって、少なくとも第1のトラック溝部63aのボール軌道中心線Yaと継手中心Oを含む平面Qが継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う第1のトラック溝部63aで互いに反対方向に形成されていればよい。内側継手部材57のトラック溝63のボール軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含む平面Pを基準として、外側継手部材56の対となるトラック溝61のボール軌道中心線Xと鏡像対称に形成されている。
図15に基づいて、外側継手部材56の縦断面より見たトラック溝の詳細を説明する。図15の部分縦断面は、前述した図13のトラック溝61Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mで見た断面図である。したがって、厳密には、継手の軸線N−Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。図15には、外側継手部材56のトラック溝61Aが示されているが、トラック溝61Bは、傾斜方向がトラック溝61Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝61Aと同じであるので、説明は省略する。外側継手部材56の内径面60にはトラック溝61Aが軸方向に沿って形成されている。トラック溝61Aはボール軌道中心線Xを有し、トラック溝61Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部61Aaと、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部61Abとからなる。そして、第1のトラック溝部61Aaのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aにおいて、第2のトラック溝部61Abの直線状のボール軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部Aが第1のトラック溝部61Aaと第2のトラック溝部61Abとの接続点である。端部Aは継手中心Oよりも開口側に位置するので、第1のトラック溝部61Aaのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aにおいて接線として接続される第2のトラック溝部61Abの直線状のボール軌道中心線Xbは、開口側に行くにつれて継手の軸線N−N(図11参照)に接近するように形成されている。これにより、最大作動角時の有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。
図15に示すように、端部Aと継手中心Oとを結ぶ直線をLとする。トラック溝61Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面M(図13参照)上に投影された継手の軸線N'−N'は継手の軸線N−Nに対しγだけ傾斜し、軸線N'−N'の継手中心Oにおける垂線Kと直線Lとがなす角度をβ'とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面P上にある。したがって、直線Lが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ'×cosγの関係になる。
同様に、図16に基づいて、内側継手部材57の縦断面よりトラック溝の詳細を説明する。図16の縦断面は、前述した図11のトラック溝63Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qで見た断面図である。したがって、図15と同様に、厳密には、継手の軸線N−Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。図16には、内側継手部材57のトラック溝63Aが示されているが、トラック溝63Bは、傾斜方向がトラック溝63Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝63Aと同じであるので、説明は省略する。内側継手部材57の外径面62にはトラック溝63Aが軸方向に沿って形成されている。トラック溝63Aはボール軌道中心線Yを有し、トラック溝63Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部63Aaと、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部63Abとからなる。そして、第1のトラック溝部63Aaのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて、第2のトラック溝部63Abのボール軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部Bが第1のトラック溝部63Aaと第2のトラック溝63Abとの接続点である。端部Bは継手中心Oよりも奥側に位置するので、第1のトラック溝部63Aaのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて接線として接続される第2のトラック溝部63Abの直線状のボール軌道中心線Ybは、奥側に行くにつれて継手の軸線N−N(図11参照)に接近するように形成されている。これにより、最大作動角時の有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。
図16に示すように、端部Bと継手中心Oとを結ぶ直線をRとする。トラック溝63Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Q(図14参照)上に投影された継手の軸線N'−N'は継手の軸線N−Nに対しγだけ傾斜し、軸線N'−N'の継手中心Oにおける垂線Kと直線Rとがなす角度をβ'とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面P上にある。したがって、直線Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ'×cosγの関係になる。
次に、直線L、Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βについて説明する。作動角θを取ったとき、外側継手部材56および内側継手部材57の継手中心Oを含む平面Pに対して、ボール58がθ/2だけ移動する。使用頻度が多い作動角の1/2より角度βを決め、使用頻度が多い作動角の範囲においてボール58が接触するトラック溝の範囲を決める。ここで、使用頻度が多い作動角について定義する。まず、継手の常用角とは、水平で平坦な路面上で1名乗車時の自動車において、ステアリングを直進状態にした時にフロント用ドライブシャフトの固定式等速自在継手に生じる作動角をいう。常用角は、通常、2°〜15°の間で車種ごとの設計条件に応じて選択・決定される。そして、使用頻度の多い作動角とは、上記の自動車が、例えば、交差点の右折・左折時などに生じる高作動角ではなく、連続走行する曲線道路などで固定式等速自在継手に生じる作動角をいい、これも車種ごとの設計条件に応じて決定される。使用頻度の多い作動角は最大20°を目処とする。これにより、直線L、Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βを3°〜10°と設定する。ただし、角度βは3°〜10°に限定されるものではなく、車種の設計条件に応じて適宜設定することができる。角度βを3°〜10°に設定することで種々の車種に汎用することができる。
上記の角度βにより、図15において、第1のトラック溝部61Aaのボール軌道中心線Xaの端部Aは、使用頻度が多い作動角時に軸方向に沿って最も開口側に移動したときのボールの中心位置となる。同様に、内側継手部材57では、図16において、第1のトラック溝部63Aaのボール軌道中心線Yaの端部Bは、使用頻度が多い作動角時に軸方向に沿って最も奥側に移動したときのボールの中心位置となる。このように設定されているので、使用頻度が多い作動角の範囲では、ボール58は、外側継手部材56および内側継手部材57の第1のトラック溝部61Aa、63Aaと、傾斜方向が反対の61Ba、63Ba(図13、図14参照)に位置するので、保持器59の周方向に隣り合うポケット59aにボール58から相反する方向の力が作用し、保持器59は継手中心Oの位置で安定する(図11参照)。このため、保持器59の外径面64と外側継手部材56の内径面60との接触力、および保持器59の内径面65と内側継手部材57の外径面62との接触力が抑制され、高負荷時や高速回転時に継手が円滑に作動し、トルク損失や発熱が抑えられ、耐久性が向上する。
本実施形態の固定式等速自在継手部52の外側継手部材56のトラック溝61Aは、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部61Abが開口側に形成されている。コンパクト設計の中で、この第2のトラック溝部61Abの存在により、最大作動角時における有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。そのため、最大作動角を47°程度の高角にしても、必要十分な入口チャンファ70を設けた状態でボール58がトラック溝部61Abと接触状態を確保することができ、かつ、くさび角が大きくならないように抑えることができる。
尚、高作動角の範囲では、周方向に配置されたボール58が第1のトラック溝部61Aa、63Aa(61Ba、63Ba、図13および図14参照)と第2のトラック溝部61Ab、63Ab(61Bb、63Bb、図13および図14参照)に一時的に分かれて位置する。これに伴い、保持器59の各ポケット59aにボール58から作用する力が継手全体として釣り合わず、保持器59と外側継手部材56との球面接触部64、60および保持器59と内側継手部材57との球面接触部65、62の接触力が発生するが、高作動角の範囲は使用頻度が少ないため、本実施形態の摺動式等速自在継手51に適用される固定式等速自在継手部52は、総合的にみるとトルク損失や発熱を抑制できる。したがって、トルク損失および発熱が少なく高効率で、高作動角を取ることができ、高作動角時の強度や耐久性にも優れたコンパクトな固定式等速自在継手部52となる。
以上説明した本実施形態の交差トラック溝61、63を有する固定式等速自在継手部52は、図11に示すように、第1の実施形態と同様に、外筒部材3に嵌挿され、外筒部材3の内径面24と、固定式等速自在継手部52の外側継手部材56の外径面75との間にボールスプライン機構4が形成されている。摺動式等速自在継手51においても、第1の実施形態と同様、作動角は内方の固定式等速自在継手部52で取り、軸方向のスライドはボールスプライン機構4で取る。作動角を取る機能と軸方向のスライドを取る機能が、固定式等速自在継手部52とボールスプライン機構4に分けられており、かつ、高効率な交差トラック溝61、63を有する固定式等速自在継手部52が相俟って、NVH特性がきわめて良好である。
本実施形態の摺動式等速自在継手51おける外筒部材3の構成、ボールスプライン機構4の構成や作動、スライドイン・スライドアウトした状態や規制方法、スライド量Sの設定やドライブシャフトへの適用などは、前述した第1の実施形態と同じであるので、第1の実施形態の説明内容を準用し、重複説明を省略する。なお、本実施形態の摺動式等速自在継手51においても第1の実施形態と同じく、(1)外方ボールスプライン溝26、27のPCD(PCDBS)と固定式等速自在継手部52の外径(DOUTER)の比率PCDBS/DOUTERを、PCDBS/DOUTER=0.96〜1.00とし、(2)ボールスプライン機構4のボール径(D4)と固定式等速自在継手部52のボール径(DBALL)の比率D4/DBALLを、D4/DBALL=0.57〜0.64とした。
また。この図8等に示す摺動式等速自在継手も、保持器29の軸方向両端部にグリースの流動を防止するシール部材40を配設しているので、ボールスプライン機構4内のグリースの外筒部材3の奥側への流動の防止や抑制が可能となる。このため、摺動式等速自在継手としての耐久性を確保しながらグリース封入量を削減できた。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、固定式等速自在継手部のボール数としては、8個に限るものではなく、6個や8個以上であってもよい。また、図1に示す固定式等速自在継手部では、トラック溝底が円弧部のみからなるいわゆるツェッパタイプであったが、トラック溝底が円弧部及び直線部からなるいわゆるアンダーカットフリータイプであってもよい。
本実施形態の摺動式等速自在継手51では、交差トラック溝が、軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状の第1のトラック溝部61a、63aと直線状の第2のトラック溝部61b、63bから構成した固定式等速自在継手部52を適用したものを例示したが、これに限られず、軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状トラック溝のみで交差トラック溝が形成された固定式等速自在継手部としてもよい。
本実施形態では、部品点数削減のため外方ボールスプライン溝26、27の1溝あたり2個のボール28を配置したものを例示したが、これに限られず、2個以上であれば、適宜の個数を設定することができる。また、保持器29にボール28毎のポケット29aを設けたものを例示したが、これに限られず、複数個のボールを1つのポケットに保持する構造にしてもよい。