JP6779513B2 - インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法、インビボクローニング可能な細胞株の製造方法、細胞株、インビボクローニング方法、及びインビボクローニングを行うためのキット - Google Patents

インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法、インビボクローニング可能な細胞株の製造方法、細胞株、インビボクローニング方法、及びインビボクローニングを行うためのキット Download PDF

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Description

本発明は、インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法、インビボクローニング可能な細胞株の製造方法、細胞株、インビボクローニング方法、及びインビボクローニングを行うためのキットに関する。
従来のDNAクローニング技術では、目的のDNAを制限酵素及びDNAリガーゼ等を用いて発現ベクターに組み込み、目的のDNAを挿入した発現ベクターを大腸菌等の宿主細胞に導入し発現させる(形質転換させる)ことで、目的のDNAをクローニングすることが一般的であった。
近年、相同な配列間の組換え反応を利用して目的のDNAをベクターへクローニングする方法、いわゆる、シームレスクローニングが活用されている(例えば、特許文献1参照。)。シームレスクローニングでは、まず、20bp程度の相同な配列を付加したプライマーを合成し、目的のDNA及び発現ベクターをそれぞれPCR法により増幅させる。次いで、出芽酵母、又はRecETシステムが構築された大腸菌株に相同配列を有する目的のDNA及び発現ベクターを導入し発現させることで、目的のDNAをクローニングすることができる。このように、酵母や大腸菌等の細胞内で目的のDNAをクローニングさせることをインビボクローニングと呼ぶ。
出芽酵母では、細胞内で相同組換えの活性が非常に高いため、容易にシームレスクローニングを行うことができる(例えば、非特許文献1参照。)。
また、RecETシステムが構築された大腸菌株では、Racプロファージ領域のRecE、RecTレコンビナーゼが過剰発現しており、このRecE、RecTレコンビナーゼにより大腸菌細胞内で相同組換えの効率が高まり、シームレスクローニングを行うことができる(例えば、特許文献2、特許文献3、及び非特許文献2参照。)。
最近では、相同配列を有する複数の目的のDNA及び発現ベクターを大腸菌DH5α株に直接導入し発現させることで、目的のDNAをクローニングできることが報告されている(例えば、非特許文献3参照。)。
米国特許出願公開第2002/0165175号明細書 米国特許出願公開第2010/0317061号明細書 米国特許出願公開第2013/0210681号明細書
Ma, H., et al., "Plasmid construction by homologous recombination in yeast", GENE, vol.58, p201-216, 1987. Oliner, J. D., et al., "In vivo cloning of PCR products in E.coli", NUCLEIC. ACIDS. RES., vol.21, no.22, p5192-5197, 1993. Kostylev, M., et al., "Cloning Should Be Simple: Escherichia coli DH5α-Mediated Assembly of Multiple DNA Fragments with Short End Homologies", PLOS ONE, 2015, DOI: 10.1371/journal.pone.0137466.
非特許文献1に記載の方法では、出芽酵母の細胞内において、クローニングされた目的のDNAが挿入されたベクターが不安定であるため、さらに大腸菌等の細胞株に導入し、クローニングする必要がある。
また、特許文献2、特許文献3、及び非特許文献2に記載の方法では、RecETシステムを有する大腸菌株を用いる必要があり、さらに、プラスミドDNA同士で相同組換えが起こり、ダイマー、又はマルチマーを形成されるという課題を有する。
さらに、非特許文献3に記載の方法では、大腸菌DH5α株を用いて直接目的のDNAをクローニングできることは報告されているが、そのメカニズムは明らかにされていない。また、非特許文献3に記載の方法では、クローニング効率が低く、よりクローニング効率の高い細胞株が求められていた。
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、高効率でインビボクローニング可能な細胞株のスクリーニング方法を提供する。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、大腸菌等の細胞株がhsdR遺伝子の機能が失われており、xthA遺伝子を有することによって、高効率で相同組換えが起こり、高効率でインビボクローニングが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1]インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法であって、細胞株について、xthA遺伝子の有無を評価し、xthA遺伝子を有する細胞株を選択する第1の選択工程を備えることを特徴とする方法。
[2]さらに、前記第1の選択工程の後に、hsdR遺伝子の有無を評価し、hsdR遺伝子の全部又は一部の機能が失われた細胞株を選択する第2の選択工程を備える[1]に記載の方法。
[3]前記細胞株が大腸菌又は哺乳動物細胞に由来するものである[1]又は[2]に記載の方法。
[4]インビボクローニング可能な細胞株の製造方法であって、xthA遺伝子を細胞株の染色体に挿入し、xthA遺伝子を高発現させる挿入工程を備えることを特徴とする製造方法。
[5]さらに、前記細胞株がhsdR遺伝子を有する場合に、前記挿入工程の後、又は同時に、前記hsdR遺伝子の全部又は一部の機能が失わせる欠損工程を備える[4]に記載の製造方法。
[6]前記細胞株が大腸菌又は哺乳動物細胞に由来するものである[4]又は[5]に記載の製造方法。
[7]xthA遺伝子を有し、hsdR遺伝子の全部又は一部の機能が失われたことを特徴とする細胞株。
[8]前記細胞株が、大腸菌又は哺乳動物細胞に由来するものである[7]に記載の細胞株。
[9][1]〜[3]のいずれか一つに記載の方法、又は[4]〜[6]のいずれか一つに記載の製造方法を用いて、インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニング、又は製造した後、得られた細胞株に、発現ベクターと、5’末端領域及び3’末端領域に前記発現ベクター上の挿入を行う部位と相同な塩基配列を有する目的の二本鎖DNAとを導入する導入工程と、前記導入工程後、前記細胞株を培養し、前記目的の二本鎖DNAを相同組換えにより前記発現ベクターに挿入する挿入工程と、を備えることを特徴とするインビボクローニング方法。
[10]インビボクローニングを行うためのキットであって、[7]又は[8]に記載の細胞株を備えることを特徴とするキット。
本発明によれば、高効率でインビボクローニング可能な細胞株のスクリーニング方法を提供することができる。
xthA遺伝子を有する細胞内での相同組換えのメカニズムを模式的に示す図である。 実施例1における各大腸菌株でのクロラムフェニコール及びアンピシリンを含むLB寒天培地のプレート1枚あたりのコロニー数を示すグラフである。 実施例2における各大腸菌株でのクロラムフェニコール及びアンピシリンを含むLB寒天培地のプレート1枚あたりのコロニー数を示すグラフである。 実施例2における各大腸菌株でのクロラムフェニコール及びアンピシリンを含むLB寒天培地のプレート1枚あたりのコロニー数を示すグラフである。
<<インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法>>
<第一実施形態>
一実施形態において、本発明は、インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法であって、細胞株について、xthA遺伝子の有無を評価し、xthA遺伝子を有する細胞株を選択する第1の選択工程を備える方法を提供する。
本実施形態のスクリーニング方法によれば、高効率でインビボクローニング可能な細胞株を得ることができる。
本実施形態におけるスクリーニング対象となる細胞株としては、通常、宿主細胞としてDNAクローニング及びタンパク質発現系として用いられるものであればよく、その由来となる生物種は限定されない。細胞株の由来となる生物種としては、例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞(特に、哺乳動物細胞)等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、細胞株の由来となる生物種としては、取扱いの容易さから、大腸菌又は哺乳動物細胞であることが好ましく、大腸菌であることがより好ましい。
なお、本明細書において、「インビボクローニング」とは、細胞内で目的のDNAをクローニングする技術を意味する。
本実施形態のスクリーニング方法について、以下に詳細を説明する。
[第1の選択工程]
まず、細胞株について、xthA遺伝子の有無を評価し、xthA遺伝子を有する細胞株を選択する。
一般に、xthA遺伝子は、二本鎖DNAの3’−OH末端から5’−モノヌクレオチドを遊離させる3’→5’エキソヌクレアーゼをコードする遺伝子であり、遺伝子産物である3’→5’エキソヌクレアーゼは、損傷を受けて、DNAグリコシラーゼの活性により除去された塩基を有するDNAや、自然に塩基が欠損したDNAを修復する機能を有する。
本実施形態のスクリーニング対象となる細胞株において、xthA遺伝子を有することにより、3’→5’エキソヌクレアーゼを発現することができる。
図1は、xthA遺伝子を有する細胞内での相同組換えのメカニズムを模式的に示す図である。図1において、相同配列を有する部位3a及び3bのうち、相同配列を有する部位3bにおける相同組換えのメカニズムを示している。また、相同配列を有する部位3bにおける相同配列を配列Xとした場合、目的の二本鎖DNA1(以下、「dsDNA」と称する場合がある。)及びベクターにおいて、相同配列を有する部位3bは、配列Xを有する部位3b−1と、配列Xと相補的な配列を有する部位3b−2とからなる。
まず、発現した3’→5’エキソヌクレアーゼ4は、目的のdsDNA1及びベクター2が導入された細胞内において、目的のdsDNA1の3’末端から内側へ向かって配列Xを有する部位3b−1を分解し、配列Xと相補的な配列を有する部位3b−2を含む末端部に1本鎖領域を生成する。また、3’→5’エキソヌクレアーゼ4は、ベクター2の3’末端から内側へ向かって配列Xと相補的な配列を有する部位3b−2を分解し、配列Xを有する部位3b−1を含む末端部に1本鎖領域を生成する。その結果、目的のdsDNA1の配列Xと相補的な配列を有する部位3b−2を含む末端部と、ベクター2の配列Xを有する部位3b−1を含む末端部とがアニールする。次いで、細胞内に存在するDNAポリメラーゼ5によりニックが埋められ、DNAリガーゼ6により結合される。逆側の相同配列を有する部位3aを含む末端部でも同様のメカニズムで相同組換えが行われているため、その結果、目的の二本鎖DNAがベクターに挿入される。
よって、xthA遺伝子を有する細胞株を選択することで、高効率で相同組換えが行われ、目的の二本鎖DNAが挿入されたベクターを得ることができ、高効率でインビボクローニングを行うことができる。
xthA遺伝子の有無を評価する方法としては、公知の方法を用いて行えばよく、例えば、細胞株からDNAを抽出し、xthA遺伝子に対するプライマーセットを用いたPCR法により、xthA遺伝子を増幅し、アガロースゲルにより分離し、エチジウムブロマイド等のインターカレーターによる染色を行い、紫外線を照射して検出する方法を用いればよい。
又は、例えば、細胞株からDNAを抽出し、xthA遺伝子に対するプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法により、反応液に予め蛍光プローブ又は蛍光色素を添加し、リアルタイムでxthA遺伝子の増幅をモニタリングしながら定量的に検出する方法を用いればよい。
又は、例えば、細胞株からRNAを抽出し、xthA遺伝子から転写されたmRNAを逆転写酵素及びxthA遺伝子に対するプライマーセットを用いたRT−PCR法により、mRNAから変換されたcDNAを増幅し、上述の検出法(アガロースゲル分離後のインターカレーターによる染色法、又は蛍光プローブ又は蛍光色素を用いたリアルタイムでの検出法)により、検出する方法を用いればよい。
[第2の選択工程]
次いで、さらに、前記第1の選択工程の後に、hsdR遺伝子の有無を評価し、hsdR遺伝子の全部又は一部の機能が失われた細胞株を選択する第2の選択工程を備えることが好ましい。
一般に、hsdR遺伝子は、特定の塩基配列を切断する制限酵素をコードする遺伝子であって、hsdM遺伝子がコードするメチル化修飾酵素、及びhsdS遺伝子がコードするメチル化認識タンパク質と共に、制限−修飾システムを担う。この制限−修飾システムでは、細胞内において、特定の塩基配列の片側のみがメチル化されている(宿主細胞中の染色体のDNA複製の間に起こるように片側だけがメチル化されている)場合、制限−修飾システムにおけるメチル化修飾酵素が働き、特定の塩基配列を切断から守る。一方、その特定の塩基配列がいずれの鎖においてもメチル化されていない場合、制限−修飾システムにおける制限酵素が働き、特定の塩基配列を切断する。
通常、外来DNAである目的の二本鎖DNA及びベクターは、特定の塩基配列を有する場合、いずれの鎖においても該配列はメチル化されていないため、上記制限−修飾システムにより切断される。
よって、hsdR遺伝子の機能が破壊又は欠損している細胞株を選択することで、外来DNAである目的の二本鎖DNA及びベクターが上記制限−修飾システムによる切断を受けないため、高効率で相同組換えが行われ、目的の二本鎖DNAが挿入されたベクターを得ることができ、高効率でインビボクローニングを行うことができる。
本明細書において、「機能の全部又は一部が失われた」とは、標的遺伝子(本実施形態においては、hsdR遺伝子)が、変更、削除、置換或いは挿入等される、又は相同組換えされることにより、本来の標的遺伝子(本実施形態においては、hsdR遺伝子)が欠損、欠失又は変化し、標的遺伝子(本実施形態においては、hsdR遺伝子)の全部又は一部が発現できず、標的遺伝子(本実施形態においては、hsdR遺伝子)の生理的機能の全部又は一部を果たすことができない状態を意味する。「機能の全部又は一部が失われた」状態において、相同染色体上の標的遺伝子(本実施形態においては、hsdR遺伝子)の片方が欠損、欠失又は変化していてもよく、両方が欠損、欠失又は変化していてもよい。
本明細書において、変更、削除、置換若しくは挿入等される、又は相同組換えされることを「遺伝子を改変する」と称する場合がある。
本明細書において、上述の用語「変更」、「削除」、「挿入」及び「置換」等の遺伝子改変手段は、限定した意味で使用されているものではない。また、いずれかの遺伝子改変手段に厳密に区別して使用する意図で用いる必要もなく、結果としていずれかの遺伝子改変手段によりhsdR遺伝子が改変されてhsdR遺伝子の発現が抑制され、その機能の全部又は一部が不能になっていることを意味するものとして使用される。しかしながら、上述の手段は、一般的には、後述のような意味として使用しているものと理解することができる。
つまり、一般的には、ゲノムDNAの「変更」とは、標的遺伝子のゲノムDNAフラグメントの1つ又はそれ以上の塩基が変更して、標的遺伝子の発現産物の全部又は一部が機能しないようにすることを意味する。
ゲノムDNAの「削除」とは、標的遺伝子のゲノムDNAフラグメントの全部又は一部を欠失させることにより、標的遺伝子の発現産物の全部或いは一部が機能しない、又は存在しないようにすることを意味する。
ゲノムDNAの「置換」とは、標的遺伝子のゲノムDNAフラグメントの全部又は一部を標的遺伝子とは関連しない別個の配列により置換し、標的遺伝子の発現産物の全部或いは一部が機能しない、又は存在しないようにすることを意味する。
ゲノムDNAの「挿入」とは、標的遺伝子中に、それ以外の配列を有するDNAを挿入することにより、当該標的遺伝子以外のDNAを挿入した標的遺伝子の発現産物の全部或いは一部が機能しない、又は存在しないようにすることを意味する。
また、遺伝子の変更、削除、挿入又は置換等の遺伝子改変手段は、2つ以上の方法を組み合わせて、標的遺伝子に対して同時に使用されていてもよい。
hsdR遺伝子の有無を評価する方法としては、上述の[第1の選択工程]においてxthA遺伝子の有無を評価する方法として例示された方法と同様の方法が挙げられる。
<第二実施形態>
他の実施形態において、本発明は、インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法であって、細胞株について、hsdR遺伝子の有無を評価し、hsdR遺伝子の全部又は一部の機能が失われた細胞株を選択する第1の選択工程を備える方法を提供する。
次いで、さらに、前記第1の選択工程の後に、xthA遺伝子の有無を評価し、xthA遺伝子を有する細胞株を選択する第2の選択工程を備えることが好ましい。
<<インビボクローニング可能な細胞株の製造方法>>
一実施形態において、本発明は、インビボクローニング可能な細胞株の製造方法であって、xthA遺伝子を細胞株の染色体に挿入し、xthA遺伝子を高発現させる挿入工程を備える製造方法を提供する。
本実施形態の製造方法によれば、高効率でインビボクローニング可能な細胞株を得ることができる。
本実施形態において用いられる細胞株としては、通常、宿主細胞としてDNAクローニング及びタンパク質発現系として用いられるものであればよく、その由来となる生物種は限定されない。細胞株の由来となる生物種としては、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、細胞株の由来となる生物種としては、取扱いの容易さから、大腸菌又は哺乳動物細胞であることが好ましく、大腸菌であることがより好ましい。
本実施形態の製造方法について、以下に詳細を説明する。
[挿入工程]
まず、xthA遺伝子を細胞株の染色体に挿入し、xthA遺伝子を高発現させる。すでにxthA遺伝子を有する細胞株においても、さらにxthA遺伝子を挿入することにより、xthA遺伝子を高発現させることができる。
xthA遺伝子の染色体上の挿入する遺伝子領域としては、恒常的且つ安定的に発現が行われている遺伝子領域であり、当該領域に本来コードされている遺伝子が欠損又は改変された場合であっても、生命の維持が可能な領域であればよい。
(挿入方法)
また、xthA遺伝子の染色体への挿入方法としては、相同組換え修復(HDR)を誘発する公知のゲノム編集技術を用いた方法であればよく、例えばCRISPR−Cas9システム、TALENシステム、Znフィンガーヌクレアーゼシステム等が挙げられ、これに限定されない。中でも、操作が簡便であり、高い選択性で目的部位に標的遺伝子を挿入できることから、公知のゲノム編集技術としては、CRISPR−Cas9システムを用いることが好ましい。
TALENシステムは、Transcription activator-like effector nuclease(TALEN)を用いるシステムであり、TALENはカスタム化された結合ドメインと非特異的なFokIヌクレアーゼドメインとを融合させたものである。DNA結合ドメインは、キサントモナスのプロテオバクテリアが分泌し宿主植物の遺伝子転写を変えさせるタンパク質であるtranscription activator-like effectors(TALE)由来の保存されたリピートからなっている。TALENシステムにより、xthA遺伝子を染色体上に挿入するには、染色体上の目的部位に対するTALENを作製し、挿入部位周辺に相同性を有し、xthA遺伝子を含むドナーベクターを作製する。TALENをコードするDNAを含むベクターとxthA遺伝子を含むドナーベクターとを共導入することにより、目的部位が切断され、それに引き続きドナーベクターを利用したHDRにより、xthA遺伝子が導入される。xthA遺伝子に薬剤選択マーカーを持たせておくことにより、薬剤選択によりxthA遺伝子導入が起きた細胞を効率よく選択できる。
一方、CRISPR−Cas9システムは、細菌や古細菌が有する、外部から侵入した核酸(ウイルスDNA、ウイルスRNA、プラスミドDNA)に対する一種の獲得免疫として機能する座位を利用したシステムである。CRISPR−Cas9システムにより、xthA遺伝子を染色体上に挿入するには、染色体上の挿入部位を切断するためのCRISPR−Cas9ベクターを作製する。そのためには、目的部位にCas9を誘導するガイドRNAをコードする発現ベクター及びCas9発現ベクターが必要である。
これらベクターとxthA遺伝子を含むドナーベクターとを共導入することにより、目的部位が切断され、それに引き続きドナーベクターを利用したHDRにより、xthA遺伝子が導入される。xthA遺伝子に薬剤選択マーカーを持たせておくことにより、薬剤選択によりxthA遺伝子導入が起きた細胞を効率よく選択できる。
Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)システムは、ZnフィンガードメインとDNA切断ドメインからなる人工制限酵素を用いたゲノム編集である。一つのZnフィンガードメインは3塩基を認識するが、3〜5つのZnフィンガードメインを連結させることで、特定の9〜15塩基配列を認識するDNA結合タンパク質を設計できる。このDNA結合タンパク質に、FokIヌクレアーゼドメインを融合させることで、目的部位を切断する人工ヌクレアーゼZFNを設計する。ZFNシステムにより、xthA遺伝子を染色体上の目的部位に挿入するには、染色体上の目的部位に対するZFNを作製し、挿入部位周辺に相同性を有し、xthA遺伝子を含むドナーベクターを作製する。これらベクターを共導入することにより、目的部位が切断され、それに引き続きドナーベクターを利用したHDRにより、xthA遺伝子が導入される。xthA遺伝子に薬剤選択マーカーを持たせておくことにより、薬剤選択によりxthA遺伝子導入が起きた細胞を効率よく選択できる。
染色体上の挿入を行う部位と相同な配列は、xthA遺伝子の上流(5’側)及び下流(3’側)に作動可能に連結されていればよく、その長さは、例えば10bp以上30bp以下であればよく、例えば15bp以上25bp以下であればよい。
xthA遺伝子は、導入を行う細胞株の種類に応じたベクターに挿入したドナーベクターを作製し、上記いずれかの挿入方法で遺伝子導入を行えばよい。
前記ベクターとしては、発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては特に制限されず、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13、pUC57等の大腸菌由来のプラスミド;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のプラスミド;pSH19、pSH15等の酵母由来プラスミド;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
xthA遺伝子は、タグ配列、プロモーター配列、転写終結配列、薬剤選択マーカー遺伝子、及びそれらの組み合わせとともに導入してもよい。ここで、タグの中には、蛍光タグ(GFPなど)、アフィニティータグ、デグロンタグ、局在タグ等が挙げられる。
・薬剤選択マーカー遺伝子
薬剤選択マーカー遺伝子は、xthA遺伝子の上流(5’側)又は下流(3’側)に、作動可能に連結されていればよい。薬剤選択マーカー遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ヒスティディノール耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等が挙げられ、これらに限定されない。薬剤選択マーカー遺伝子を挿入することにより、該薬物を含む培地を用いて細胞を培養することで、xthA遺伝子が導入された細胞を選択することができる。
・プロモーター
本実施形態の挿入工程において、xthA遺伝子の転写を制御するプロモーター配列がxthA遺伝子に上流(5’側)に作動可能に連結されていることが好ましい。
なお、本明細書において、「作動可能に連結」とは、遺伝子発現制御配列(例えば、プロモーター又は一連の転写因子結合部位)と発現させたい遺伝子(本実施形態においては、xthA遺伝子)との間の機能的連結を意味する。ここで、「発現制御配列」とは、その発現させたい遺伝子(本実施形態においては、xthA遺伝子)の転写を指向するものを意味する。
前記プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、細胞の種類等に応じて適宜決定できる。プロモーターの具体例としては、例えば、誘導性プロモーター、ウイルス性プロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター、組織特異的プロモーター等が挙げられる。
誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、化学的誘導性プロモーター、熱ショック誘導性プロモーター、電磁気的誘導性プロモーター、核レセプター誘導性プロモーター、ホルモン誘導性プロモーター等が挙げられる。
化学的誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、サリチル酸誘導性プロモーター(国際公開第95/19433号、参照。)、テトラサイクリン誘導性プロモーター(Gatzら(1992)Plant J.2,397−404、参照。)、エタノール誘導性プロモーター、亜鉛誘導性メタロチオネインプロモーター等が挙げられる。
熱ショック誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、熱誘導性プロモーター(米国特許出願第05187287号明細書、参照。)、低温誘導性プロモーター(米国特許出願第05847102号明細書、参照。)等が挙げられる。
電磁気的誘導性プロモーターとしては、初期増殖領域−1(EGR−1)プロモーター(米国特許出願第米国特許5206152号明細書、参照。)、c−Junプロモーター等が挙げられる。
核レセプター誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、オーファン核受容体ニワトリ卵白アルブミン上流プロモーター等が挙げられる。
ホルモン誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、グルココルチコイド誘導性プロモーター(Lu及びFederoff,Hum Gene Ther 6,419−28,1995.参照)、MMTVプロモーター、成長ホルモンプロモーター等が挙げられる。
ウイルス性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(CMV極初期プロモーター(例えば、米国特許第5168062号明細書、参照。)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のプロモーター(例えば、HIV長末端リピート等)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター(例えば、RSV長末端リピート等) 、マウス乳腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、HSVプロモーター(Lap2プロモーター又はヘルペスチミジンキナーゼプロモーターなど(Wagner e t al., Proc. Natl. Acad. Sci., 78, 144−145,1981.参照) 、SV40又はエプスタイン バール ウイルス由来のプロモーター、アデノ随伴ウイルスプロモーター(例えば、p5プロモーター等)等が挙げられる。
ハウスキーピング遺伝子プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、GAPDH(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)遺伝子プロモーター、β-アクチン遺伝子プロモーター、β2−マイクログロブリン遺伝子プロモーター、HPRT 1(hypoxanthine phosphoribosyltransferase 1)遺伝子プロモーター等が挙げられる。
組織特異的プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、黒色腫細胞又はメラニン細胞の場合は、チロシナーゼプロモーター又はTRP2プロモーター;乳房細胞又は乳癌の場合は、MMTVプロモーター又はWAPプロモーター;腸細胞又は腸癌の場合は、ビリンプロモーター又はFABPプロモーター;膵細胞の場合は、PDXプロモーター;膵ベータ細胞の場合は、RIPプロモーター;ケラチノサイトの場合は、ケラチンプロモーター;前立腺上皮の場合は、プロバシンプロモーター;中枢神経系(CNS)の細胞又は中枢神経系の癌の場合は、ネスチンプロモーター又はGFAPプロモーター;ニューロンの場合は、チロシンヒドロキシラーゼ、S100プロモーター又は神経フィラメントプロモーター;Edlundら、Science, 230:912-916(1985)に記載される、膵臓特異的プロモーター;肺癌の場合は、クラーラ細胞分泌タンパク質プロモーター;心細胞の場合は、αミオシンプロモーター等が挙げられる。
・その他構成
本実施形態において、xthA遺伝子は、該xthA遺伝子の下流(3’側)に、mRNAの3’末端のポリアデニル化に必要なポリアデニル化シグナルが作動可能に連結されていてもよい。ポリアデニル化シグナルとしては、上記ウイルス性プロモーターで例示されたウイルス由来、各種ヒト又は非ヒト動物由来の各遺伝子に含まれるポリアデニル化シグナル、例えば、SV40の後期遺伝子又は初期遺伝子、ウサギβグロビン遺伝子、ウシ成長ホルモン遺伝子、ヒトA3アデノシン受容体遺伝子等のポリアデニル化シグナル等を挙げることができる。その他xthA遺伝子をさらに高発現させるために、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、イントロンの一部をプロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間或いは翻訳領域の3’下流に連結してもよい。
本実施形態において、xthA遺伝子は、該xthA遺伝子の上流(5’側)又は下流(3’側)に、1つ又は複数の核局在化配列(NLS)が作動可能に連結されていてもよい。
NLSとしては、例えば、アミノ酸配列PKKKRKV(配列番号1)を有する、SV40ウイルスラージT抗原のNLS;ヌクレオプラスミン由来のNLS(例えば、配列KRPAATKKAGQAKKKK(配列番号2)を有するヌクレオプラスミンの二分NLS);アミノ酸配列PAAKRVKLD(配列番号3)又はRQRRNELKRSP(配列番号4)を有するc−myc NLS;配列NQSSNFGPMKGGNFGGRSSGPYGGGGQYFAKPRNQGGY(配列番号5)を有するhRNPA1 M9 NLS;インポーチン−アルファ由来のIBBドメインの配列RMRIZFKNKGKDTAELRRRRVEVSVELRKAKKDEQILKRRNV(配列番号6);筋腫Tタンパク質の配列VSRKRPRP(配列番号7)及びPPKKARED(配列番号8);ヒトp53の配列PQPKKKPL(配列番号9);マウスc−abl IVの配列SALIKKKKKMAP(配列番号10);インフルエンザウイルスNS1の配列DRLRR(配列番号11)及びPKQKKR(配列番号12);肝炎ウイルスデルタ抗原の配列RKLKKKIKKL(配列番号13);マウスMx1タンパク質の配列REKKKFLKRR(配列番号14);ヒトポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼの配列KRKGDEVDGVDEVAKKKSKK(配列番号15);ステロイドホルモンレセプター(ヒト)グルココルチコイドの配列RKCLQAGMNLEARKTKK(配列番号16)等が挙げられ、これらに限定されない。
本実施形態において、xthA遺伝子は、該xthA遺伝子の上流(5’側)又は下流(3’側)に、1つ又は複数の蛍光タンパク質等のマーカー遺伝子が作動可能に連結されていてもよい。蛍光タンパク質としては、例えば、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein:GFP)、黄色蛍光タンパク質(Yellow Fluorescent Protein:YFP)、青色蛍光タンパク質(Blue Fluorescent Protein:BFP)、シアン蛍光蛋白質(Cyan Fluorescent Protein)、赤色蛍光蛋白質(Red FluorescentProtein)等が挙げられる。
(遺伝子導入方法)
xthA遺伝子を含むベクターの細胞株への導入方法としては、公知の遺伝子導入手法(例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法等)を用いることができる。
(確認方法)
xthA遺伝子が挿入されたか否かの確認方法としては、公知の方法を用いればよく、例えば、薬剤選択マーカー遺伝子をxthA遺伝子と共に挿入することにより、薬剤を含む培地にて、細胞株を培養し、生育可能な細胞を選択する方法を用いればよい。
又は、上述の[第1の選択工程]においてxthA遺伝子の有無を評価する方法として例示された方法と同様の方法が挙げられる。
[欠損工程]
次いで、さらに、前記細胞株がhsdR遺伝子を有する場合に、前記挿入工程の後、又は同時に、前記hsdR遺伝子の全部又は一部の機能を失わせることが好ましい。
hsdR遺伝子の全部又は一部の機能を失わせる方法としては、hsdR遺伝子のノックアウト、hsdR遺伝子へのノックイン、又はhsdR遺伝子のノックダウンを誘発する公知のゲノム編集技術を用いた方法であればよい。
hsdR遺伝子のノックアウト、又はhsdR遺伝子へのノックインを誘発する公知のゲノム編集技術としては、例えば、CRISPR−Cas9システム、TALENシステム、Znフィンガーヌクレアーゼシステム等が挙げられ、これに限定されない。
また、hsdR遺伝子のノックダウンを誘発する公知のゲノム編集技術としては、例えば、RNAi誘導性核酸(例えば、siRNA、miRNA等)を用いる方法等が挙げられ、これに限定されない。
より具体的には、例えば、hsdR遺伝子、又は該hsdR遺伝子に相補的な配列を有する遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを、レトロウイルスベクターやアデノウイルスベクターに組み込んで細胞株に導入することによりRNAiを引き起こすことができる。
一般に、「ノックダウン」とは、特定の遺伝子の発現量を抑制することを意味する。遺伝子の発現量の抑制は、例えば、遺伝子の転写量を減少させること、翻訳を阻害することなどにより、達成することができる。本実施形態の製造方法において、ノックダウン細胞株とは、該細胞株のhsdR遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下している細胞株をいう。
一般に、「RNAi」とは、dsRNA(double−strand RNA)が標的遺伝子に特異的かつ選択的に結合し、当該標的遺伝子を切断することによりその発現を効率よく阻害する現象である。例えば、dsRNAを細胞株に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。
本実施形態において、RNAi誘導性核酸を用いた場合での細胞株の製造方法を、以下に詳細に説明する。
(siRNAの設計)
まず、標的遺伝子に対するsiRNAを設計する。siRNAは、hsdR遺伝子、又は該hsdR遺伝子に相補的な配列を有する遺伝子であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全て候補にすることが可能である。また、選択した領域から、AAで始まる配列であって長さが18塩基以上30塩基以下のもの、或いは、AAを5’側に加えたときの長さが18塩基以上30塩基以下、好ましくは19塩基以上23塩基以下の配列を選択する。その配列のGC含量は、例えば30%以上70%以下となるものを選択すればよく、50%前後が好ましい。また、そのGC分布に偏りがないものを選択するとよい。siRNAは、さらに、選択した配列の3’側にdT又はUの2残基のオーバーハングを加えるとよい。また、設計したsiRNAの塩基配列に対応するアミノ酸配列について、BLASTサーチをおこない、選択した配列に類似した配列を有するタンパク質が存在しないことを確認することが好ましい。
さらに、数種類のsiRNAを同時に細胞株に導入することにより、遺伝子の発現をより効果的に抑制できることがある。また、数種類のsiRNAを同時に細胞株に導入することにより、2つ以上の標的遺伝子の発現を抑制することができる。
siRNA合成法としては、例えば、Dicer法等が挙げられる。Dicer法によるsiRNA合成法は、以下の通りである。まず、hsdR遺伝子、又は該hsdR遺伝子に相補的な配列を有する遺伝子の塩基配列のスタートコドンから500bp以上1kbp以下の遺伝子配列をベクター等に組み込み、その遺伝子配列のセンスRNAとアンチセンスRNAを転写させた後、アニーリングしてdsRNAを作製する。次に、RNaseIIIファミリーに属するDicer Enzymeにより、このds−RNAを3’末端側に2塩基の突出末端をもつ21塩基以上23塩基以下のsiRNAにプロセッシングさせることで、合成することができる。
また、siRNAの代わりに、shRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNA(short hairpin RNA)と呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。このステムループ構造を有するRNA分子は生体内のDicer等によりプロセッシングを受け、siRNAが産生される。
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を「配列A」とし、配列Aに対する相補鎖を「配列B」とすると、配列A、スペーサー、配列Bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で42塩基以上120塩基以下の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となるhsdR遺伝子、又は該hsdR遺伝子に相補的な配列を有する遺伝子の一部の領域の塩基配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは18塩基以上50塩基以下、好ましくは21塩基以上30塩基以下である。
また、siRNAの代わりに、マイクロRNA(miRNA)を利用することもできる。miRNAは小分子RNAであり、自身と相補的な配列をもつmRNAからのタンパク質への翻訳を阻害することにより、特定の遺伝子の発現を抑制することができる。
miRNAは、特定の遺伝子のmRNAを認識するように設計することができる。そのように設計するmiRNAの塩基配列の長さは、例えば、18塩基以上25塩基以下(例えば、約22塩基)である。
(siRNAの導入)
続いて、細胞株の細胞内に、設計したsiRNAを導入する。導入方法としては、公知の遺伝子導入手法(例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法等)等が挙げられる。
siRNAの代わりに、siRNAをコードするDNAを含むベクターを導入してもよい。ベクターとしては、発現ベクターが好ましい。発現ベクターとしては、上述の[挿入工程]において例示されたものと同様のものが挙げられる。
siRNAをコードするDNAは、さらに、siRNAをコードするDNAの5’末端又は3’末端に、上述のプロモーター、ポリアデニル化シグナル、NLS、蛍光タンパク質のマーカー遺伝子等が作動可能に連結されていてもよい。
hsdR遺伝子の機能の全部又は一部の機能が失われたか否かの確認方法としては、上述の[挿入工程]において例示された方法と同様の方法が挙げられる。
<<細胞株>>
一実施形態において、本発明は、xthA遺伝子を有し、hsdR遺伝子の全部又は一部の機能が失われた細胞株を提供する。
本実施形態の細胞株は、xthA遺伝子を有するため、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法>>において説明した通り、高効率で相同組換えが行われ、目的の二本鎖DNAが挿入されたベクターを得ることができ、高効率でインビボクローニングを行うことができる。
また、本実施形態の細胞株は、hsdR遺伝子の全部又は一部の機能が失われているため、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法>>において説明した通り、外来DNAである目的の二本鎖DNA及びベクターが、制限−修飾システムによる切断を受けず、高効率で相同組換えが行われ、目的の二本鎖DNAが挿入されたベクターを得ることができ、高効率でインビボクローニングを行うことができる。
本実施形態の細胞株としては、通常、宿主細胞としてDNAクローニング系及びタンパク質発現系として用いられるものであればよく、その由来となる生物種は限定されない。細胞株の由来となる生物種としては、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、細胞株の由来となる生物種としては、取扱いの容易さから、大腸菌又は哺乳動物細胞であることが好ましく、大腸菌であることがより好ましい。
<<インビボクローニング方法>>
一実施形態において、本発明は、上述のスクリーニング方法、又は上述の製造方法を用いて、インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニング、又は製造した後、得られた細胞株に、発現ベクターと、5’末端領域及び3’末端領域に前記発現ベクター上の挿入を行う部位と相同な塩基配列を有する目的の二本鎖DNAとを導入する導入工程と、前記導入工程後、前記細胞株を培養し、前記目的の二本鎖DNAを相同組換えにより前記発現ベクターに挿入する挿入工程と、を備えるインビボクローニング方法を提供する。
本実施形態のインビボクローニング方法によれば、高効率でインビボクローニングを行うことができ、目的の二本鎖DNA又は該DNAの遺伝子産物を高収率で得ることができる。
なお、本明細書において、「遺伝子産物」とは、目的の遺伝子から転写されるmRNA、及び該mRNAから翻訳されるタンパク質を意味する。
本実施形態のインビボクローニング方法において用いられる細胞株は、上述のスクリーニング方法、又は上述の製造方法で得られたインビボクローニング可能な細胞株であって、xthA遺伝子を有する。また、前記細胞株は、hsdR遺伝子の全部又は一部の機能が失われていてもよい。また、前記細胞株の由来となる生物種は限定されない。細胞株の由来となる生物種としては、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、細胞株の由来となる生物種としては、取扱いの容易さから、大腸菌又は哺乳動物細胞であることが好ましく、大腸菌であることがより好ましい。
本実施形態のインビボクローニング方法において用いられる細胞株は、導入工程で用いられるのに適した細胞数となるように、予め培養しておけばよい。
本実施形態のインビボクローニング方法について、以下に詳細に説明する。
[導入工程]
まず、上述のスクリーニング方法、又は上述の製造方法で得られた細胞株に、発現ベクターと、5’末端領域及び3’末端領域に前記発現ベクター上の挿入を行う部位と相同な塩基配列を有する目的の二本鎖DNAとを導入する。
導入工程において用いられる発現ベクターとしては、特別な限定はなく、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株の製造方法>>の[挿入工程]において例示されたものと同様のものが挙げられる。
発現ベクターは、タグ配列、プロモーター配列、転写終結配列、薬剤選択マーカー遺伝子、及びそれらの組み合わせを含んでいてもよい。ここで、タグの中には、蛍光タグ(GFPなど)、アフィニティータグ、デグロンタグ、局在タグ等が挙げられる。
タグ配列、プロモーター配列、転写終結配列、及び薬剤選択マーカー遺伝子としては、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株の製造方法>>の[挿入工程]において例示されたものと同様のものが挙げられる。
導入工程において用いられる目的の二本鎖DNAは、5’末端領域及び3’末端領域に発現ベクター上の挿入を行う部位と相同な塩基配列を有し、該相同な塩基配列の長さは、例えば10bp以上30bp以下であればよく、例えば15bp以上25bp以下であればよい。
また、目的の二本鎖DNAは、タグ配列、プロモーター配列、転写終結配列、及び薬剤選択マーカー遺伝子、及びそれらの組み合わせを含んでいてもよい。ここで、タグの中には、蛍光タグ(GFPなど)、アフィニティータグ、デグロンタグ、局在タグ等が挙げられる。
タグ配列、プロモーター配列、転写終結配列、及び薬剤選択マーカー遺伝子としては、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株の製造方法>>の[挿入工程]において例示されたものと同様のものが挙げられる。
発現ベクターと、5’末端領域及び3’末端領域に前記発現ベクター上の挿入を行う部位と相同な塩基配列を有する外来DNAとの細胞株への導入方法としては、公知の遺伝子導入手法(例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法等)等が挙げられる。
[挿入工程]
次いで、導入工程後の細胞株を培養し、目的の二本鎖DNAを相同組換えにより発現ベクターに挿入する。
細胞株の培養条件としては、培養する細胞の種類により適宜選択することができる。
培養温度としては、例えば25℃以上40℃以下であってもよく、例えば30℃以上39℃以下であってもよく、例えば35℃以上39℃以下であってもよい。
また、培養環境は、例えば約5%のCO条件下であってもよい。
培養時間としては、細胞の種類、細胞数等により適宜選択することができ、例えば1日以上15日以下であってもよく、例えば1日以上10日以下であってもよく、例えば1日以上7日以下であってもよい。
また、使用する細胞培養用培地としては、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基本培地であればよく、細胞の種類により適宜選択することができる。前記細胞培養用培地としては、例えば、LB培地、大腸菌用最少培地(Davis培地)、大腸菌用最少塩培地(MS)等の大腸菌培養用培地;枯草菌用最少培地(Spizizen最少培地)、枯草菌用最少塩培地、枯草菌形質転換用培地I、枯草菌形質転換用培地II等の枯草菌培養用培地;酵母用最少培地(YPD培地)、酵母用完全培地(YPAD培地)等の酵母培養用培地;MurashigeとSkoogの培地(MS培地)、B5培地、ハイポネックス培地等の植物培養用培地;グレース昆虫培地、シュナイダー昆虫培地等の昆虫細胞培養用培地;DMEM、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI−1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F−12(DMEM/F−12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)等の動物細胞培養用培地等が挙げられ、これらに限定されない。
上述の<<インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法>>において説明した通り、図1に示したメカニズムにより、細胞内において、目的の二本鎖DNAと発現ベクターとで高効率で相同組換えが行われ、目的の二本鎖DNAが挿入されたベクターが形成される。次いで、目的の二本鎖DNAが挿入されたベクターが細胞内でクローニングされて、目的の二本鎖DNA又は該DNAの遺伝子産物を高収率で得ることができる。
[確認工程]
さらに、挿入工程の後に、目的の二本鎖DNAが挿入されたベクターが形成されているか否かを確認する確認工程を有していてもよい。
確認工程において、目的の二本鎖DNAが挿入されたベクターが形成されているか否かを確認する方法としては、公知の方法を用いればよく、例えば、薬剤選択マーカー遺伝子を目的の二本鎖DNAと共に挿入することにより、薬剤を含む培地にて、細胞株を培養し、生育可能な細胞を選択する方法を用いればよい。
前記薬剤選択マーカー遺伝子としては、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株の製造方法>>の[挿入工程]において例示されたものと同様のものが挙げられる。発現ベクターにおいても薬剤選択マーカー遺伝子を有する場合は、目的の二本鎖DNAと共に挿入される薬剤選択マーカー遺伝子と、発現ベクターが有する薬剤選択マーカー遺伝子とは異なる種類のものであることが好ましい。
又は、目的の二本鎖DNAが挿入されたベクターが形成されているか否かを確認する方法としては、例えば、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法>>の[第1の選択工程]においてxthA遺伝子の有無を評価する方法として例示された方法と同様の方法が挙げられる。
<<キット>>
一実施形態において、本発明は、インビボクローニングを行うためのキットであって、xthA遺伝子を有し、hsdR遺伝子の全部又は一部の機能が失われた細胞株を備えるキットを提供する。
本実施形態のキットによれば、高効率でインビボクローニングを行うことができ、目的の二本鎖DNA又は該DNAの遺伝子産物を高収率で得ることができる。
本実施形態のキットに備えられた細胞株としては、xthA遺伝子を有し、hsdR遺伝子の全部又は一部の機能が失われた細胞株であって、通常、宿主細胞としてDNAクローニング系及びタンパク質発現系として用いられるものであればよく、その由来となる生物種は限定されない。細胞株の由来となる生物種としては、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、細胞株の由来となる生物種としては、取扱いの容易さから、大腸菌又は哺乳動物細胞であることが好ましく、大腸菌であることがより好ましい。
本実施形態のキットは、さらに、発現ベクターを備えていてもよい。
本実施形態のキットに備えられた発現ベクターとしては、特別な限定はなく、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株の製造方法>>の[挿入工程]において例示されたものと同様のものが挙げられる。
発現ベクターは、タグ配列、プロモーター配列、転写終結配列、薬剤選択マーカー遺伝子、及びそれらの組み合わせを含んでいてもよい。ここで、タグの中には、蛍光タグ(GFPなど)、アフィニティータグ、デグロンタグ、局在タグ等が挙げられる。
タグ配列、プロモーター配列、転写終結配列、及び薬剤選択マーカー遺伝子としては、上述の<<インビボクローニング可能な細胞株の製造方法>>の[挿入工程]において例示されたものと同様のものが挙げられる。
本実施形態のキットは、5’末端領域及び3’末端領域に前記発現ベクター上の挿入を行う部位と相同な塩基配列を有する目的の二本鎖DNAを準備することで、目的の二本鎖DNAを容易かつ高効率でインビボクローニングすることができる。
本実施形態のキットは、さらに、細胞株を培養するための細胞培養用培地を備えていてもよい。細胞培養用培地としては、キットに備えられた細胞株の種類に応じて、適宜選択することができ、上述の<<インビボクローニング方法>>において例示されたものと同様のものが挙げられる。
また、本実施形態のキットは、さらに、目的の二本鎖DNA及び発現ベクターを細胞株へ導入するためのトランスフェクション試薬を備えていてもよい。トランスフェクション試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬及びリン酸カルシウムからなる群より選択される。このようなトランスフェクション試薬としては、例えば、Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA)、TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI)、TfxTM−20 Reagent(E2391,Promega,WI)、SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA)、PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA)、LipofectAMINE 2000 Reagent(11668−019,Invitrogen corporation,CA)、JetPEI(×4)conc.(101−30,Polyplus−transfection,France)、ExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)等が挙げられ、それらに限定されない。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]インビボクローニング可能な大腸菌株の探索
(1)インサートDNA及びベクターの作製
インサートDNAとして、pACYC184由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子を有し、かつ5’末端側及び3’ 末端側それぞれにベクターに対して相同な配列(20bp)を有するDNA(992bp)を用いた(インサートDNAの塩基配列を配列番号17に示した)。
また、ベクターとして、アンピシリン耐性遺伝子を有するpUC19ベクター(2.6kb)を用いた(pUC19ベクターの塩基配列を配列番号18に示した)。
まず、インサートDNA及びベクターを以下の表1に示すPCRでの増幅用プライマーの塩基配列を用いて、PCRを行い、反応液を得た。
PCR反応後のインサートDNAのPCR反応液1μLあたりのDNA量は100ng(0.15pmol)であり、ベクターDNAのPCR反応液1μLあたりのDNA量は80ng(0.05pmol)であった。このPCR反応液各1μLを、精製せずにそのまま形質転換に用いた。
Figure 0006779513
(2)大腸菌株の培養
次いで、BW25113株、MG1655株、及びW3110株を、LB培地3mLに植菌し、37℃で16時間培養し、形質転換に用いるために菌数を増やした。
(3)hsdR遺伝子ノックアウト大腸菌株の作製
次いで、Keio collection(参考文献:Baba et al., (2006) Molecular Systems Biology, doi:10.1038/msb4100050)のΔhsdR::kan株の染色体DNAを鋳型として、以下表2に示すプライマーを用いてΔhsdR::kan領域を増幅した。次いで、得られたPCR産物を用いて、λRedレコンビナーゼを利用した方法(参考文献:Datsenko and Wanner, “One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products”, PNAS, vol.97, no.12, p6640-6645, 2000.)により、大腸菌MG1655株及びW3110株に導入し、hsdR遺伝子をノックアウトした。次いで、LB培地3mLに各大腸菌株を植菌し、37℃で16時間培養し、形質転換に用いるために菌数を増やした。
Figure 0006779513
(4)大腸菌株へのインサートDNA及びベクターの導入(大腸菌株の形質転換)
次いで、(2)で培養したBW25113株、MG1655株、及びW3110株、並びに、(3)でhsdR遺伝子をノックアウトしたMG1655株、及びW3110株を含む培養液をそれぞれ1mLずつ、37℃に温めておいたLB培地60mLに植菌し、37℃で90分培養した(通常、OD600=0.4〜0.5程度の菌濃度であった)。
次いで、培養を止めて、培養液をそれぞれ氷中で冷やした。また、以降の操作は全て氷中の冷やした状態で行った。次いで、5,000g、4℃で5分間遠心し、上清を捨てた。次いで、各大腸菌株のペレットを氷冷したLB培地2mLずつに懸濁した。次いで、氷冷した以下の表2に示す組成の2×TSS溶液を1.6mLずつ加えて混ぜた。
Figure 0006779513
※上記混合後、オートクレーブ120℃で15分後、4℃で長期保存可能。
使用前によく混ぜた。
次いで、室温のDMSOを0.4mLずつ加えて、混ぜた。次いで、各大腸菌株を含む溶液を0.1mLずつ氷上で分注し、液体窒素で凍結後、−80℃で保存した。次いで、凍結した各大腸菌株を氷上で溶かし、(1)で作製したインサートDNA及びベクターのPCR反応液各1μLずつを、各大腸菌株を含む溶液に加え、優しくピペッティングして混ぜた。次いで、氷上で30分間静置した。次いで、LB培地を各1mLずつ加えて、37℃で45分間培養した。次いで、5,000g、4℃で5分間遠心し、培地の大半を捨て、培地を100μL程度残した。次いで、各大腸菌株のペレットを懸濁し、クロラムフェニコール及びアンピシリンを含むLB寒天培地に塗り拡げた。次いで、大腸菌を植菌したLB寒天培地を37℃で16時間培養し、1枚のLB寒天培地プレートに出現したコロニー数を計測した。結果を図2に示す。図2において、「MG1655ΔhsdR::kan」とは、hsdR遺伝子がノックアウトされたMG1655株を示し、「W3110ΔhsdR::kan」とは、hsdR遺伝子がノックアウトされたW3110株を示す。
図2から、BW25113株、MG1655株、及びW3110株の中では、BW25113株のコロニー数が多かった。BW25113株では、hsdR遺伝子に変異が入っており、機能が失われていることが知られている。よって、BW25113株では、hsdR遺伝子のコードする制限酵素によるインサートDNA及びベクターの切断が起こらず、インサートDNAがベクターに挿入され、クロラムフェニコール耐性遺伝子及びアンピシリン耐性遺伝子が発現したため、生育することができたためであると推察された。
また、hsdR遺伝子がノックアウトされたMG1655株及びW3110株は、野生型のMG1655株及びW3110株と比較して、コロニー数が有意に増加していた。これは、hsdR遺伝子をノックアウトすることで、hsdR遺伝子のコードする制限酵素によるインサートDNA及びベクターの切断が起こらず、インサートDNAがベクターに挿入され、クロラムフェニコール耐性遺伝子及びアンピシリン耐性遺伝子が発現したため、生育することができたためであると推察された。
[実施例2]BW25113株でのインビボクローニングのメカニズムの解明
(1)インサートDNA及びベクターの作製
実施例1の(1)と同様の方法を用いて、インサートDNA及びベクターを作製し、PCR反応液各1μLを、精製せずにそのまま形質転換に用いた。
(2)大腸菌株の培養
次いで、BW25113株を、LB培地3mLに植菌し、37℃で16時間培養し、形質転換に用いるために菌数を増やした。
(3)各種遺伝子ノックアウト大腸菌株の作製
次いで、BW25113 ΔxthA::kan株、ΔrecE::kan株、ΔrecT::kan株は、Keio collection(参考文献:Baba et al., (2006) Molecular Systems Biology, doi:10.1038/msb4100050)を用いた。
BW25113 ΔrecET::kan株の作製は、まず以下表4に示すプライマーを用いて、プラスミド pKD4(参考文献:Datsenko and Wanner, “One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products”, PNAS, vol.97, no.12, p6640-6645, 2000.)のkan遺伝子領域を増幅した。次いで、得られたPCR産物を用いて、実施例1の(3)と同様の方法を用いて、BW25113株へ導入した。次いで、LB培地3mLに各大腸菌株を植菌し、37℃で16時間培養し、形質転換に用いるために菌数を増やした。
Figure 0006779513
(4)大腸菌株へのインサートDNA及びベクターの導入(大腸菌株の形質転換)
次いで、(2)で培養したBW25113株、MG1655株、及びW3110株、並びに、(3)でhsdR遺伝子をノックアウトしたMG1655株、及びW3110株の代わりに、(2)で培養したBW25113株、並びに、(3)でrecE遺伝子、recT遺伝子、recE遺伝子及びrecT遺伝子、又はxthA遺伝子をノックアウトしたBW25113株を用いた以外は実施例1の(4)と同様の方法を用いて、(1)で作製したインサートDNA及びベクターを各大腸菌株に導入し、形質転換を行い、クロラムフェニコール及びアンピシリンを含むLB寒天培地に塗り拡げた。次いで、大腸菌を植菌したLB寒天培地を37℃で16時間培養し、1枚のLB寒天培地プレートに出現したコロニー数を計測した。結果を図3及び4に示す。
図3において、「BW25113ΔrecE::kan」とは、recE遺伝子がノックアウトされたBW25113株を示し、「BW25113ΔrecT::kan」とは、recT遺伝子がノックアウトされたBW25113株を示し、「BW25113ΔrecET::kan」とは、recE遺伝子及びrecT遺伝子がノックアウトされたBW25113株を示す。
また、図4において、「BW25113ΔxthA::kan」とは、xthA遺伝子がノックアウトされたBW25113株を示す。
図3から、インサートDNA及びベクターの相同組換え及びインビボクローニングにおいて、recE遺伝子及びrecT遺伝子は関与していないことが明らかとなった。
また、図4から、xthA遺伝子をノックアウトすることにより、インビボクローニングの活性が有意に下がることが明らかとなった。
このことから、図1に示すメカニズムにより、細胞内において、インサートDNA及びベクターの相同組換えが行われ、インビボクローニングを高効率で行うことができることが推察された。
以上の結果から、インビボクローニング可能な細胞株において、hsdR遺伝子の機能が失われており、xthA遺伝子を有することが重要であることが示唆された。
本発明によれば、高効率でインビボクローニング可能な細胞株のスクリーニング方法を提供することができる。さらに、本発明のスクリーニング方法によって得られた細胞株によれば、目的の二本鎖DNA又は該DNAの遺伝子産物を高収率で得ることができる。
1…目的の二本鎖DNA(dsDNA)、1a,1b…目的の一本鎖DNA(ssDNA)、2…ベクター、3a,3b…相同配列を有する部位、3b−1…配列Xを有する部位、3b−2…配列Xと相補的な配列を有する部位、

Claims (6)

  1. インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニングするための方法であって、
    細胞株について、xthA遺伝子の有無を評価し、xthA遺伝子を有する細胞株を選択する第1の選択工程を備えることを特徴とする方法。
  2. さらに、前記第1の選択工程の後に、hsdR遺伝子の有無を評価し、hsdR遺伝子
    の全部又は一部の機能が失われた細胞株を選択する第2の選択工程を備える請求項1に記
    載の方法。
  3. 前記細胞株が大腸菌又は哺乳動物細胞に由来するものである請求項1又は2に記載の方法。
  4. インビボクローニング可能な細胞株の製造方法であって、
    細胞株について、xthA遺伝子の有無を評価し、xthA遺伝子を有する細胞株を選択する選択工程と、前記細胞株がhsdR遺伝子を有する場合に、前記選択工程の後、前記hsdR遺伝子の全部又は一部の機能を失わせる欠損工程を備えることを特徴とする製造方法。
  5. 前記細胞株が大腸菌又は哺乳動物細胞に由来するものである請求項に記載の製造方法。
  6. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法、又は請求項4又は5に記載の製造方法を用いて、インビボクローニング可能な細胞株をスクリーニング、又は製造した後、得られた細胞株に、発現ベクターと、5’末端領域及び3’末端領域に前記発現ベクター上の挿入を行う部位と相同な塩基配列を有する目的の二本鎖DNAとを導入する導入工程と、
    前記導入工程後、前記細胞株を培養し、前記目的の二本鎖DNAを相同組換えにより前記発現ベクターに挿入する挿入工程と、
    を備えることを特徴とするインビボクローニング方法。
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