JP6776723B2 - 炭素繊維前駆体アクリル繊維束、その製造方法及び炭素繊維束の製造方法 - Google Patents

炭素繊維前駆体アクリル繊維束、その製造方法及び炭素繊維束の製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP6776723B2
JP6776723B2 JP2016162707A JP2016162707A JP6776723B2 JP 6776723 B2 JP6776723 B2 JP 6776723B2 JP 2016162707 A JP2016162707 A JP 2016162707A JP 2016162707 A JP2016162707 A JP 2016162707A JP 6776723 B2 JP6776723 B2 JP 6776723B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
less
small
tow
entanglement
fiber bundle
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2016162707A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2018031083A (ja
Inventor
祐介 新免
祐介 新免
亜依 石井
亜依 石井
大住 悟朗
悟朗 大住
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Mitsubishi Chemical Corp
Original Assignee
Mitsubishi Chemical Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Mitsubishi Chemical Corp filed Critical Mitsubishi Chemical Corp
Priority to JP2016162707A priority Critical patent/JP6776723B2/ja
Publication of JP2018031083A publication Critical patent/JP2018031083A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6776723B2 publication Critical patent/JP6776723B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Artificial Filaments (AREA)
  • Inorganic Fibers (AREA)

Description

本発明は、炭素繊維前駆体アクリル繊維束、その製造方法及び炭素繊維束の製造方法に関する。
炭素繊維用のアクリロニトリル系前駆体繊維としては、高強度、高弾性率の炭素繊維を得るために、糸切れや毛羽の発生の少ない3000〜30000フィラメントの、いわゆるスモールトウが、主に製造されていた。そして、このスモールトウから製造された炭素繊維が航空・宇宙、スポーツ分野等の多くの分野に用いられてきた。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束(以下、「炭素繊維前駆体繊維束」と略す場合がある)は、酸化性雰囲気下、200〜350℃で耐炎化処理されて耐炎化繊維束となり、ついで不活性雰囲気下で300〜1500℃で炭素化処理されて、炭素繊維束となる。耐炎化処理は反応熱を伴うため繊維束(以下、「トウ」と称す場合がある)の内部に蓄熱されやすい。トウ内部に蓄熱されると、トウにおいてフィラメント切れや繊維間の融着が発生するため、反応熱による蓄熱を抑える必要がある。蓄熱を抑えるには、耐炎化炉に供給する繊維トウの太さを所定の太さ以下とせざるを得ず、これがトウの生産性の低下や、トウの製造コストを押し上げる要因となっていた。
上記の課題を解決するため、例えば特許文献1には、捲縮が付与されていないストレート状の複数の小トウが集合した集合トウを用いて、収納容器内に収納時又は収納容器から集合トウを引き出し、焼成炉に導入する際には1本の集合トウの形態を保持しているが、焼成処理中に集合トウが熱収縮して発生する張力によって、集合トウが自発的に元の複数の小トウに分割する、幅方向分割能を有する炭素繊維前駆体アクリル繊維束が開示されている。
この分割能を有する繊維束を製造するには、扁平矩形断面を有する糸道と、該扁平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて配された該糸道に開口する複数のエア噴出孔とを有する交絡付与装置に、複数の小トウを並列して隣接させながら供給し、エア噴出孔からエア(空気)を噴出させることにより、隣接する小トウ間の交絡が行なわれる。この時の孔径0.5mmのエア噴出孔のエア噴出圧は200kPa〜300kPaであり、エア流量に換算すると450〜600NL/分であった。該交絡付与装置に供給される小トウ数は3錘であるため、トウ接合部(交絡部)は2か所あり、1つの接合部におけるエア流量は225〜300NL/分となる。この条件で得られる小トウ間の交絡値は1m−1未満であり、一般的な交絡度の評価方法であるフックドロップ法では測定不可能な測定下限値未満であった。また集合トウの水分率は、10質量%未満であった。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、集合トウの分割能を重視するあまり、小トウ間の物理的な交絡が弱くなり、収納容器から集合トウを引き出すときに集合トウが複数の小トウに分割されてしまう場合がある。収納容器から複数の小トウを引き上げる場合、各小トウ間に張力差が発生し、低張力の小トウは、弛んだ状態で焼成炉に供給されるため、隣接する小トウとの縺れや絡まりが発生する原因となる。このような縺れや絡まりを含む集合トウが焼成炉に供給されると、耐炎化処理中にトウ内部に蓄熱して、毛羽の発生やトウの束切れ等の原因となる。
特許文献2には、複数の小トウが集合した極めて総繊度の大きい集合トウを交絡処理する方法が開示されている。各小トウ間に交絡を付与する際は、1つの交絡付与装置に供給される小トウ数は4〜10であり、小トウ同士を交絡させる際のエア流量は400〜1500NL/分である。このような条件で製造される集合トウは、焼成工程で発生する張力によって、自然に小トウに分割される。
しかしながら、特許文献2に記載の方法においても、収納容器から集合トウを引き出すときに、集合トウが分割され、小トウに分かれてしまう場合があった。即ち、特許文献2に記載の方法では、連続する小トウ間の1つの接合部におけるエア流量は44〜500NL/分と十分な量であるものの、集合トウを構成する小トウの数が4以上であると、集合トウの形態を保ち難く、収納容器から集合トウを引き出すときに、元の小トウに分かれてしまう。
一方、特許文献3には、収納容器内では1本の集合トウの形態を保ち、収納容器から引き出すときに、複数の小トウに分割される炭素繊維前駆体アクリル繊維束を製造する技術が開示されている。この技術によれば、紡糸された複数の繊維は、まず所定の本数となるように複数の小トウ群に分割された後、並列した状態で走行され、延伸・洗浄処理や油剤付与処理をされた後に、クリンパを備えた捲縮付与処理に供される。この捲縮付与処理により、複数の小トウ群は、1本の集束トウの形態になる。この捲縮付与処理の代わりに、各小トウに10質量%以上50質量%以下の水分を含ませて、1本のトウの形態に集束させることもある。
捲縮付与処理された集束トウは、小トウの耳部を1mm程度斜交することにより、複数の小トウ同士が弱く交絡されている。各小トウの耳部の交絡は強すぎないように調整され、炭素繊維製造工程に供されて使用されるとき、例えば耐炎化炉の導入直前に、小トウに分割することが可能である。
上記特許文献3の技術では、集束トウに対する小トウへの分割能の付与機構は、小トウの耳部に存在する繊維単位の斜行による交絡であるとされている。しかしながら、小トウ分割部における交絡度が1〜10m−1では、耐炎化炉内に導入される以前に分割手段によって小トウに分割すると、単糸切れを生じてしまい炭素繊維の品質に影響を与える可能性がある。さらに特許文献3には、小トウ同士を交絡する手段としては、各小トウに捲縮をかけ、小トウの耳部を弱く交絡させることで、1本のトウ形態に維持される方法が示されている。しかし、このような捲縮トウを耐炎化炉内へそのまま供給すると、トウ全域に亘って均等に捲縮を引き伸ばして所定の伸張を付与することが難しい。その結果、得られる炭素繊維の目付け(単位長さあたりの質量)及び繊度に斑が生じ、得られる炭素繊維の品質に影響を及ぼす可能性がある。そのため耐炎化工程以前に捲縮除去手段が必要となるが、設備空間が増大するとともに省力化が難しく、生産性にも大きな影響を与える。
一方、特許文献3では、捲縮が付与されていないストレートトウの形態の場合、その水分率が10〜50質量%であることが望ましいと記載されている。すなわち、水分による表面張力によって小トウが集束されて1本のトウ形態を保持する機構が記載されている。しかしながら、この水分率ではトウ内の水による表面張力で、収納容器内に収納された際の折り返し部の折癖などは元に戻らず、結果として炭素繊維の製造工程に供給する際に折癖やそれに起因するトウ内のフィラメントの斜行などがそのままの状態で供給され、得られる炭素繊維の品位が損なわれ、或いは場合によっては折癖が捩れとなって、その部分に耐炎化工程での過剰な蓄熱が発生する恐れがある。
更に、クリンパを通すかどうかは別にして、集束トウを収納容器から引き出して、焼成炉内に導入する前に、集束トウを所要の太さをもつ小トウに分割するための分割装置をわざわざ設置する必要があり、設備空間が増大し、或いは省力化が難しく、生産性にも大きな影響を与える。
現在、炭素繊維の利用は、自動車、土木、建築、エネルギー等の一般産業分野への拡大が著しく、より安価で生産性の優れる太繊度の炭素繊維の供給が強く求められている。炭素繊維製造工程における繊維束の太さの制約を考慮しつつ、前駆体繊維束の製造時にはより太くて生産性が良く製造コストを安価とし、炭素繊維の製造時には必要な太さの小トウに容易に分割可能とすることで焼成効率を高めて、製造コストを削減する方法は、従来実施されてきた。
ただし、特許文献1及び2が開示する、焼成工程で発生する張力で自然に分割されるよう調整された小トウ間の交絡による集束トウでは、収納容器から引き出す段階で集束トウが小トウに分割されてしまう場合があった。ここで問題となるのは、既存のフックドロップ法による小トウ間の交絡評価である。特許文献1及び2では、小トウ間の交絡度は1m−1未満(正確には、試長1mで実施し、10gの荷重は1m以上落下したため、測定不可能であった)であり、正確に交絡を測定できていない。また、特許文献3においては、交絡度は1m−1〜10m−1と、小トウ間の交絡度を高くし、その分割にはガイド等を用いるとしているが、分割の際に毛羽等が発生することが問題とされている。特許文献3における交絡度の範囲は非常に大きな値に設定されており、これはフックドロップによる交絡度の測定は、繊維間の強い交絡しか測定出来ないことを示している。
WO2005/078173号 特開2012−188768号公報 特開平10−121325号公報
本発明の目的は、簡単な操作によって、複数本の小トウを1本の集合トウに集合・集束させることが可能であって、収納容器内への収納時及び収納容器から引き出して焼成炉内に導入する際には確実に1本の集合トウの形態を保持していながら、同焼成工程において発生する張力によって、複数の小トウに分割可能な幅方向の分割能を備え、製造コストが低く、生産性に優れ、糸切れ、毛羽の発生の少ない、高品位、高品質である炭素繊維駆体アクリル繊維束およびその製造方法を提供することにある。
一方、上記課題を解決するためには、集合トウにおける小トウ間の集束状態を最適に調整する必要があり、そのためには従来のフックドロップ法において交絡度1m−1未満とされる領域において、より微細な繊維間の交絡を測定する方法が必須となる。発明者らが鋭意検討した結果、以下の方法により、小トウ間の微細な交絡を測定することが可能となった。その方法とは、集合トウにおいて、その集合トウに含まれる互いに隣接する小トウ間の接合箇所に張力計を差し込み、ある一定速度で集合トウを走行させた時に測定される抵抗力を交絡強度として、その平均値(以下、「平均交絡強度」と称す)と、出現頻度分布(以下、「各交絡強度の割合」と称す)を算出する方法である。この方法によれば、小トウ間の交絡をより詳細に測定可能である。
[1] 2本以上のアクリル繊維束の小トウが並列配置されて集束された一本の集合トウである炭素繊維前駆体アクリル繊維束であって、前記集合トウは、並列配置された各小トウの端部の一部が隣接する小トウの端部の一部と重なり合った接合部を有し、フックドロップ法で測定される該小トウ間の交絡値が1m−1未満であり、下記の測定方法で測定される小トウ間の平均交絡強度が0.1cN以上1.0cN以下、交絡強度が0.1cN以上の交絡数が20個/m以上50個/m以下であり、該交絡強度が0.1cN以上の交絡数のうち交絡強度が0.1cN以上1.0cN以下の交絡数の割合が50%以上99%以下、交絡強度が1.0cNより大きく5.0cN以下の交絡数の割合が1%以上45%以下、交絡強度が5.0cNより大きい交絡数の割合が5%以下である、炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
〔測定方法〕収納容器より集合トウを鉛直方向に引き上げ、張力付与手段を通し、トウ張力を0.016g/dtexに制御して走行速度10m/分で巻取る。その間に、該張力付与手段を通過直後の集合トウの小トウ間の接合部位にヤーン・テンションメーターを貫通させて検出される抵抗力を交絡強度とする。交絡強度を0.1秒間毎に10分間、即ち6000回測定し、その平均値を平均交絡強度とし、0.1cN以上1.0cN以下、1.0cNより大きく5.0cN以下、および、5.0cNより大きい交絡強度が検出された回数を測定し、1m当たりの回数を求めてそれぞれの交絡強度の交絡数とする。
[2] 前記集合トウの水分率が1質量%以上10質量以下である、前記[1]に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
[3] 前記小トウが単繊維繊度0.7dtex以上2.0dtex以下、単繊維数24000本以上100000本以下からなり、前記集合トウの総単繊維数が48000本以上400000本以下である、前記[1]または[2]の炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
[4] 2本以上のアクリル繊維束の小トウが並列配置されて集束された一本の集合トウである炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法であって、
(1)前記小トウに水を付与して、その水分率を1質量%以上10質量%以下とする工程、及び、
(2)前記小トウを並列配置して、扁平矩形形状断面の糸道と該糸道の幅方向に所定の間隔をおいて該糸道内に開口するエア噴出孔とを有するエア交絡装置の該糸道に導入して、該エア噴出孔から、隣接する前記小トウが互いに接する位置のそれぞれに対して、600NL/分以上900NL/分以下のエアを噴出させて交絡処理を行う工程、
を有する炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法。
[5] 前記集合トウに含まれる小トウの数が2本または3本である、前記[4]に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法。
[6] 前記[1]〜[3]の何れかの炭素繊維前駆体アクリル繊維束を耐炎化処理し、次いで炭素化処理する炭素繊維束の製造方法であって、該耐炎化処理中に発生する張力により前記集合トウを小トウに分割しながら耐炎化処理する、炭素繊維束の製造方法。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、集合トウにおける小トウ間の繊維の交絡状態を最適に調整することで、収納容器内への収納時及び収納容器から引き出して耐炎化炉内に導入する際には確実に1本の集合トウの形態が保持され、バラケによる工程トラブルを削減することができると共に、耐炎化処理に際しては、同工程で発生する張力によって容易に小トウに分割可能であるため、繊維束への蓄熱を容易に抑制でき、従って耐炎化処理に供給する繊維束の太さに制約を受けずに済む。このため生産性に優れ、製造コストが低い炭素繊維束を得ることができる。
さらには、小トウ間が容易に分割可能であるため、分割が糸切れや毛羽の原因となることが無く、品位、品質の低下を抑制することができる。従って、このような集合トウである炭素繊維前駆体アクリル繊維束を用いることで糸切れ、毛羽の発生の少ない、高品位、高品質な炭素繊維束を得ることが可能となる。
本発明の炭素繊維用駆体アクリル繊維束の製造方法によれば、上記集合トウを好適に製造することができ、本発明の炭素繊維束の製造方法によれば、上記のような優れた炭素繊維束を好適に製造することができる。
炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造工程の一例を示す概略工程図である。 エア噴出により小トウ内に交絡を付与する第1の交絡付与装置の一例を示す図である。(b)は、B−B断面において繊維束の走行方向(←)から見た図である。(a)は、A−A断面において上部方向から下部方向(↓)に向けて見た図である。(c)は、C−C断面において右方向から左方向(←)に向けて見た図である。 エア噴出により小トウ間に交絡を付与する交絡付与装置の一例を示す図である。(b)、(a)、(c)は、それぞれ、図2と同様の方向から見た図である。 集合トウの平均交絡強度を測定するための装置を示す概略工程図である。
〔集合トウ〕
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、2本以上のアクリル繊維束の小トウが並列に集合された一本の集合トウであって、フックドロップ法によって測定される交絡値及び挿入ピン抵抗法によって測定される平均交絡強度と交絡強度の出現頻度が特定の値を有することを特徴としている。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、フックドロップ法で測定される小トウ間の交絡値が1m−1未満である。フックドロップ法の測定方法は後述する。この測定方法の測定下限値は1m−1であるので、「1m−1未満」とは、測定下限値未満であることを意味する。この交絡値が1m−1未満であることにより、集合トウは、耐炎化工程において発生する張力によって、複数の小トウに分割可能となる。
また、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、挿入ピン抵抗法で測定される小トウ間の平均交絡強度が0.1cN以上1.0cN以下であり、交絡強度0.1cN以上の交絡数が20個/m以上50個/m以下であり、交絡強度が0.1cN以上の交絡数のうち、交絡強度が0.1cN以上1.0cN以下の交絡数の割合が50%以上99%以下、交絡強度が1.0cNより大きく5.0cN以下の交絡数の割合が1%以上45%以下、交絡強度が5.0cNより大きい交絡数の割合が0%以上5%以下であることを特徴とする。
平均交絡強度は、挿入ピン抵抗法で測定される抵抗力(交絡強度)の時間平均である。また、交絡強度が特定範囲となる事象のそれぞれの回数を測定し、それぞれの交絡強度の交絡数とする。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、発明者らが鋭意検討した結果、小トウ間の交絡状態が、「交絡強度0.1cN以上の交絡数20個/m以上50個/m以下、かつ、平均交絡強度0.1cN以上1.0cN以下」であれば、収納容器内への収納時及び、収納容器から引き出して耐炎化炉内に導入するまでの間には確実に1本の集合トウの形態を保持することが可能であり、焼成工程にて同工程で発生する張力により複数の小トウに分割可能な幅方向の分割能を有することが可能となる。
交絡強度が0.1cN以上の交絡数の総数に対する、交絡強度が0.1cN以上1.0cN以下の交絡数の割合が50%以上であれば、収納容器への収納時及び前記容器から引き出して焼成工程に導入する際には確実に1本の集合トウの形態を保持することが可能である。また、この割合が99%以下であれば、耐炎化工程に導入する際に同工程で発生する張力によって複数の小トウに分割可能である。
交絡強度が0.1cN以上の交絡数の総数に対する、交絡強度が1.0cNより大きく5.0cN以下の交絡数の割合が1%以上であれば、収納容器への収納時及び前記容器から引き出して耐炎化工程に導入する際には確実に1本の集合トウの形態を保持することが可能である。またこの割合が45%以下であれば、複数の小トウに分割可能である。
交絡強度が5.0cNより大きな交絡は、耐炎化工程にて同工程で発生する張力により複数の小トウに分割可能な幅方向の分割能が損なわれ、分割され難くなることがある。そのため、5.0cNより大きい交絡強度を有する交絡は少ないほど良く、交絡強度が0.1cN以上の交絡数のうち、交絡強度が5.0cNより大きい交絡数の割合は5%以下とする必要があり、3%以下であればより好ましい。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、複数の小トウ同士の集合体(集合トウ)としての1本のトウ形態が品位を損なうことなく維持され、収納容器からの引き出し時には1本のトウ形態を維持できる。また、この集合トウは、分割ガイドなどを設置しなくても、耐炎化の際に発生する張力をもって小トウ間のもつれを生じることなく、小トウへ分割することが可能である。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、水分率が1質量%以上10質量以下であることが好ましい。水分率が1質量%以上であることから、収納容器への収納時及び前記容器から引き出して耐炎化工程に導入する際には確実に1本の集合トウの形態を保持することが可能である。また、水分率が10質量%以下であることから、収納容器内でのトウの自重やプレスにより押圧された状態で収納容器に収納されることによってトウの折り返し部が折り癖となってトウ幅が不安定になる現象を無くすこともできると同時に、輸送効率が上がり経済性が高まる。
本発明において、小トウは、単繊維繊度が0.7dtex以上2.0dtex以下の単繊維からなる、単繊維数が24000本以上100000本以下のトウであることが好ましい。また、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は総単繊維数が48000本以上400000本以下の集合トウであることが好ましい。単繊維繊度が0.7dtex以上であるとアクリル繊維を安定に紡糸する事が容易であり、2.0dtex以下であると単繊維の芯部と表層部を耐炎化の度合いをほぼ等しくして耐炎化し、高性能な炭素繊維を得ることができる。集合トウの総単繊維数が48000本以上であると、生産性良く炭素繊維製造することができ、400000本以下であると、所望の長さの集合トウを収納容器内に収容することが容易に行える。また、小トウの単繊維数が24000本以上であると、分割数が増えて焼成工程における分割能が発揮されにくくなるのを抑制することができる。小トウの単繊維数が100000本以下であると、耐炎化工程で反応熱に基づく蓄熱を抑え、糸切れや溶着などの発生を優れて防止できる。
〔小トウの製造〕
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束に用いるアクリル繊維束の小トウは、例えば以下の方法で製造することができる。
先ず、アクリロニトリル系重合体と有機溶剤からなる紡糸原液をジメチルアセトアミド水溶液中に、ノズル口径が45μm以上75μm以下、孔数が24000以上の紡糸ノズルから「凝固糸引取速度/紡糸ノズルからの吐出線速度」比を0.8以下として吐出させて膨潤糸条を得る。紡糸ノズルの孔数が24000以上であると、生産性を良好にすることができる。また、耐炎化工程において反応熱に基づく蓄熱による糸切れや溶着などの発生を抑制する観点から、更には、紡糸ノズルパックを小さくする事を可能とし、機台あたりの生産錘数を増加させる観点から、紡糸ノズルの孔数は100000以下が好ましい。
続いて、この膨潤糸条を湿熱延伸した後、第一油浴槽に導き第一油剤を付与し、2本以上のガイドで一旦油剤絞りを行った後、引き続き第二油浴槽で第二油剤を付与し、乾燥緻密化二次延伸によってトータル延伸倍率を5倍以上10倍以下とする事で炭素繊維前駆体繊維束を得ることが可能となる。なおトータル延伸倍率とは、紡糸原液から炭素繊維前駆体繊維束を得るまでに行う全ての延伸操作によって延伸された倍率を意味し、上述のように湿熱延伸と二次延伸のみを行う場合は両者の延伸倍率の積である。
紡糸原液に使用するアクリロニトリル系重合体に対する有機溶剤としては、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。中でも、ジメチルアセトアミドは、溶剤の加水分解による性状の悪化が少なく、良好な紡糸性を与えるので、好適に用いられる。
紡糸原液を押し出すための紡糸口金には、単繊維繊度が0.7dtex以上2.0dtex以下のアクリロニトリル系重合体の単繊維を製造するのに好適な45μm以上75μm以下の孔径のノズル孔を有する紡糸口金を使用できる。
凝固浴から引き取られた膨潤糸条は、その後の湿熱延伸によって繊維の配向がさらに高められる。この湿熱延伸は膨潤状態にある膨潤繊維束を熱水中で延伸することによって行われる。また、湿熱延伸を施した後の乾燥前の膨潤繊維束の膨潤度は、100質量%以下にすることが好ましい。湿熱延伸を施した後の乾燥前の膨潤繊維束の膨潤度が100質量%以下にあることは、表層部と繊維内部とが均一に配向していることを意味する。凝固浴中での凝固糸の製造の際の「凝固糸引取速度/吐出線速度」の比を下げることによって、凝固浴中での凝固糸の凝固を均一にした後、これを湿熱延伸することにより、内部まで均一に配向することができる。これによって、乾燥前の繊維束の膨潤度を100質量%以下とすることができる。
〔集合トウの製造〕
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束である集合トウは、2本以上の小トウを並列して隣接させ、隣接する小トウ間をエア等の気体流によって交絡することにより得ることができる。この方法によれば、トウに捲縮を付与せずに、焼成工程(耐炎化工程,炭素化工程)で自然に元の小トウに分割可能な分割能を有する集合トウを形成できる。
以下、2本以上のアクリル繊維の小トウが集束された一本の集合トウである本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法を説明する。この製造方法により、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束には、並列配置された各小トウの端部の一部が隣接する小トウの端部の一部と重なり合った接合部が形成される。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法は、少なくとも以下の工程(1)及び工程(2)を有する。
(1)前記小トウに水を付与して、その水分率を1質量%以上10質量%以下とする工程、
(2)前記小トウを並列配置して、扁平矩形形状断面の糸道と該糸道の幅方向に所定の間隔をおいて該糸道内に開口するエア噴出孔とを有するエア交絡装置の該糸道に導入して、該エア噴出孔から、隣接する前記小トウが互いに接する位置のそれぞれに対して、600NL/分以上900NL/分以下のエアを噴出させて交絡処理を行う工程。
工程(1)及び工程(2)の順序は、特に限定されず、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の水分率を最終的に1質量%以上10質量%以下とすることができればよい。即ち、工程(1)は、工程(2)の前において行うことができ、また工程(2)の後に行うこともできる。
本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法は、エア等の気体の噴出により、小トウ内のフィラメント同士を交絡させ、かつ、小トウ間同士に集束性を付与して、1本の集合トウの形態を保持する繊維束を得るものである。この際、各小トウの幅方向の端部同士が交絡して1本のトウ形態を保つことが望ましい。また、小トウ間の交絡は小トウ内のフィラメント同士の交絡よりも弱い交絡であることが望ましい。更にこのとき、小トウ同士は必ずしもその幅方向の端部が重なっている必要はなく、小トウの幅方向の端部同士が互いに隣接してその端部を接する状態であることが好ましい。
また本発明の製造方法においては、必要に応じて水を付与し、所定の収納容器内に振り込む際の各小トウの水分率を1質量%以上10質量%以下とする。この水分率は2質量%以上8質量%以下とすることがより好ましい。水分率を1質量%以上とすることにより、静電気の発生を抑制して取扱い性を良好にすることができ、10質量%以下とすることにより、収納時の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の自重やプレスにより押圧された状態で収納容器内に収納されることに起因する折り返し部が折癖となってトウ幅が不安定になる現象をなくすことができ、同時に輸送効率が上がり経済性が高まる。
また、前述のような収納容器に収納された本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束は、分割状態にて製糸された複数本の小トウを、小トウの幅方向の端部同士を緩やかに交絡させたのち、ギヤロール、ニップロール等で引き取りそのまま収納容器内へ収納すれば、繊維束の形態がより安定化するため好ましい。
本明細書において、小トウ間に交絡を付与して集合トウを製造するために用いる交絡付与装置を「第2の交絡付与装置」といい、小トウ内において交絡を付与する交絡装置を「第1の交絡付与装置」という。
小トウ間に交絡を付与する前に、予め第1の交絡付与装置を通して小トウ自体のトウ幅の制御と集束性の付与を行うことができる。この場合には、偏平矩形断面の糸道とこの偏平矩形断面の長辺方向(幅方向)に所定の間隔をおいて糸道内に開口する複数のエア噴出孔とを有するエア交絡付与装置に小トウを通し、エア噴出孔からエアを噴出させることにより、所望のトウ幅と集束性とを付与することができる。あるいは、円形断面の糸道とこの円形断面の糸道内に開口するエア噴出孔とを有するエア交絡付与装置に小トウを通し、エア噴出孔からエアを噴出させることにより、所望のトウ幅と集束性とを付与してもよい。
この場合、予め第1の交絡付与装置にて小トウの幅制御と集束性の確保とを小トウ専用に行い、続いて小トウ同士を集束一体化するために、前記第1の交絡付与装置に隣接して配された偏平矩形断面糸道を有する第2の交絡付与装置に小トウ同士を隣接して並列させて供給し、予め小トウ内での交絡を終えた隣接する複数の小トウ同士を一体に集束させることができる。
また、本発明では小トウ自体に予め特別な交絡付与を行わずに、隣接するそれぞれの小トウ内のフィラメント同士の交絡と、隣接する小トウ間の交絡を同時に付与することもできる。つまり、集合トウ製造工程において小トウ内の繊維同士に交絡を付与してもよい。この場合には、偏平矩形糸道断面形状を有する糸道の偏平矩形断面の長辺方向に所定の間隔をおいて複数のエア噴出孔を有する交絡付与装置に、複数の交絡前の小トウを隣接して並列させて供給し、このエア噴出孔からエアを噴出させることにより、小トウ内の交絡と隣接する小トウ間の交絡とを同時に行うことができる。但し、該糸道において隣接する前記小トウが互いに接する位置のそれぞれに配置されたエア噴出孔から、該小トウの隣接部位それぞれに対して600NL/分以上900NL/分以下のエアを噴出させて交絡処理を行うことが好ましい。
第1の交絡付与装置の偏平矩形断面の上記糸道形状は、小トウのトータルの繊度によってその寸法は異なり得るが、偏平矩形断面の短辺である高さ方向は1mm以上5mm以下が好ましく、より好ましくは2mm以上4mm以下である。この高さが小さ過ぎると、すなわちトウの厚みが規制されると、エアの流れによるフィラメントの動きが制限され、交絡の度合いが低下する傾向があるという点で不利である。また、逆にこの寸法が大き過ぎると、長辺寸法との関係にも依るものの、トウの厚みが大きくなるため交絡の度合いが低下する傾向があるという点で不利である。
第1の交絡付与装置は、例えば図2に示す構造を有している。長辺の寸法に対しては、小トウ総繊度とそのトウ幅の制御の点から好適な範囲が存在する。この好適な範囲を示す数値とは、小トウ1の総繊度D(dTex)と偏平断面糸道6の長辺寸法L(mm)との比D/Lの値であり、その値が2000dtex/mm以上12000dtex/mm以下であることが好ましい。この際のエア噴出孔4bおよび5bの各孔口径(直径)は0.3mm以上1.2mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。
さらに、そのエア噴出口の配列は、0.8mm以上1.6mm以下の等ピッチで配列するのが、均一な交絡を得る観点から好ましい。糸道6の長さ、すなわち交絡付与装置の長さは、10mm以上40mm以下とすることが好ましい。この長さが40mmを超えると、それぞれの糸道の両端部において噴射エアの流れの乱れに起因すると考えられるトウの乱れ、バタツキが発生し、交絡が不均一になりやすい傾向であるという点で不利である。
隣接する小トウ間に交絡を付与するには、例えば図3に示す偏平矩形糸道断面形状を有しこの糸道に偏平矩形状の長辺方向に所定の間隔をおいて複数配されてなるエア噴出孔を有する交絡付与装置へ複数の小トウを隣接して供給することができる。扁平矩形の長辺の寸法Lに対しては、小トウの総繊度と集合させる単繊維数の本数により、すなわち集合トウの総繊度に対してトウ幅を制御しようとすれば自ずと好適な範囲が存在する。すなわち、小トウの総繊度D(dtex)と集合させる小トウの本数nとの積で表される集合トウの総繊度nD(dtex)と長辺寸法L(mm)との比n・D/Lの値がそれであり、その値は2000dtex/mm以上12000dtex/mm以下であることが好ましい。
この際のエア噴出孔の各孔径は0.3mm以上1.2mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。さらに、そのエア噴出口の配列は、0.8mm以上1.6mm以下の等ピッチで配列するのが、均一な交絡を得る観点から好ましい。エア噴出口のピッチは、噴出されたエアによるトウの乱れやバタツキの発生を抑制する観点から0.8mm以上が好ましく、トウ内の単繊維が旋回し交絡の斑が発生することを抑制する観点から1.6mm以下が好ましい。
糸道の長さすなわち交絡付与装置の長さは、10mm以上40mm以下とすることが好ましい。この長さが40mmを超えると、それぞれの糸道の両端部において噴射エアの流れの乱れに起因すると考えられるトウの乱れ、バタツキが発生し、交絡が不均一になりやすくなる傾向があるという点で不利である。
上述のようにして得られた炭素繊維前駆体繊維束は、小トウ間の平均交絡強度が0.1cN以上1.0cN以下かつ、交絡強度0.1cN以上の交絡数が20個/m以上50個/m以下であるとき、交絡強度が0.1cN以上の交絡数のうち、0.1cN以上1.0cN以下の交絡数の割合が50%以上99%以下、交絡強度が1.0cNより大きく5.0cN以下の交絡数の割合が1%以上45%以下、交絡強度が5.0cNより大きい交絡数の割合が0%以上5%以下であることが好ましい。
挿入ピン抵抗法によって測定される、交絡強度0.1cN以上の交絡数と、それぞれの交絡強度を有する交絡数の分布は、トウ水分率と交絡エア流量で制御することが可能である。交絡強度0.1cN以上1.0cN以下の交絡数は、トウ水分率によって制御可能である。トウ水分率は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、水分率が高いほど交絡強度0.1cN以上1.0cN以下の交絡数は多くなり、交絡強度の高い交絡数も増加する。水分率1質量%以上10質量%以下の範囲内であれば、交絡強度が0.1cN以上の交絡数のうち、交絡強度が0.1cN以上1.0cN以下の交絡数の割合は、50%以上99%以下に調整することが可能となる。
また、交絡強度が1.0cNより大きい交絡数は、第2の交絡付与装置における隣接する小トウ間に噴出させるエア流量で制御可能である。第2の交絡付与装置における隣接する小トウ間に噴出させるエア流量が大きいほど交絡数は多くなり、交絡強度が高くなる。交絡強度が0.1cN以上の交絡数のうち、交絡強度が1.0cNより大きい交絡数の割合が1%以上あれば、収納容器内への収納時及び前記容器から引き出して耐炎化炉内に導入する際には確実に1本の集合トウの形態を保持することが可能である。交絡強度が0.1cN以上の交絡数のうち、交絡強度が1.0cNより大きい交絡数の割合を1.0%以上とするには、第2の交絡付与装置におけるエア流量は、小トウ間の接合部のそれぞれに対して1600NL/分以上とすれば良い。
一方、交絡強度が5.0cNより大きな交絡があると、焼成工程にて同工程で発生する張力により複数の小トウに分割可能な幅方向の分割能が損なわれ、集合トウから小トウへ分割され難くなることがある。そのため、5.0cNより大きい交絡強度の交絡数は少ないほど良く、5.0cNより大きい交絡強度の交絡数の割合は、交絡強度0.1cN以上の交絡数の5%以下とする必要があり、3%以下であればより好ましい。そのため、第2の交絡付与装置においてエア流量は、小トウ間の接合部のそれぞれに対して900NL/分以下にする必要がある。
収納容器内への収納時及び前記容器から引き出して焼成工程に導入する際には確実に1本の集合トウの形態を保持するためには、挿入ピン抵抗法によって測定される平均交絡強度を高くすれば良く、そのためには第2の交絡付与装置におけるエア流量を大きくし、平均交絡強度を0.1cN以上にすれば良い。しかし、焼成工程にて耐炎化工程で発生する張力により集合トウを複数の小トウに分割可能な幅方向の分割能を両立するためには、平均交絡強度を1.0cN以下としながら、交絡強度5.0cNより大きい交絡数の割合を5%以下にしなければならない。
上述のようにして集束された集合トウを、既述したように一旦収納容器内に収納して、改めて収納容器から取り出し、耐炎化炉内や炭素化炉内などに導入することができるが、この取り出すときにも1本の集合トウ形態が崩れることなく、更にはそれらの焼成工程の間に発生する張力によって、前記集合トウは複数本の小トウに自然に分割していき、安定した焼成を行うことができ、高品質の炭素繊維束が得られる。
本発明の炭素繊維束は、本発明の炭素繊維前駆体アクリル繊維束を公知の方法で焼成することによって得られるが、その中でも、炭素繊維前駆体繊維束を、低い温度から高い温度にゾーン毎に220℃〜250℃に調節した耐炎化炉で連続的に、収縮を制限しながら耐炎化処理を行い、密度1.36g/cm程度の耐炎化繊維糸条を得、その後300℃〜700℃の温度分布を有する窒素雰囲気の炭素化炉中にて、収縮を制限しながら、1〜5分間の炭素化処理を行い、続いて1,000℃〜1,300℃の温度分布を有する窒素雰囲気からなる炭素化炉中にて、収縮を制限しながら、1分間〜5分間の炭素化処理する方法が好ましい。
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各実施例および比較例で用いた炭素繊維の製造装置、および各評価方法は以下の通りである
1.水分率の測定方法
ウエット状態にある集合トウの質量wと、これを熱風乾燥機内で105℃×2時間で乾燥した後の質量woを測定し、次式によって水分率を求める。
水分率(質量%)=(w−wo)×100/wo 。
2.フックドロップ法による交絡値の測定方法
集合トウをその形態を崩さないようにして、その先端に10g/3000デニール(10g/330Tex)の荷重を掛け吊す。先端から20mmが直角に折り曲げられた直径1mmの針金に10gの重りを吊り下げ、この重りを集合トウのトウ間に引っ掛けて自由落下させたときの落下長をXmとして、次式によって交絡値を求める。
交絡値=1/X
測定は30回繰り返して行い、得られた30個の数値のうち大きい数値5点と小さい数値5点を除外し、中間値20点の平均値を採用する。
3.挿入ピン抵抗法による平均交絡強度、交絡数の測定方法
図4に示した様に、集合トウの引き上げ高さを2mとする。引き上げ高さは、収納容器15の上部に設けた張力付与手段16が炭素繊維前駆体繊維束に接触する部位の最上部から、真上に引き上げてガイド18のうち、炭素繊維前駆体繊維束が最初に接触するガイドバーまでの高さの差を言う。ガイド18は、5本のガイドバーから構成される。係るガイドバーは、平ガイドバー(軸方向に直線状のガイドバー)であっても、湾曲ガイドバー(軸方向に、ある曲率で湾曲したガイドバー)であってもよい。収納容器より集合トウを走行速度10m/minで鉛直方向に引き上げ、張力付与手段16を通し、さらに鉛直に引き上げてガイド18を通過させることでトウ張力を制御してワインダーで巻取る。ヤーン・テンションメーター(インテック株式会社 MODEL:IT−NP セラミックピン式)のセラミックピンを張力付与手段16を通過直後の炭素繊維前駆体繊維束の小トウ間の接合部位に貫通させ、0.1秒間毎に該セラミックピンにかかる抵抗力を交絡強度として10分間、即ち6000回測定し、交絡強度ごとの交絡数の分布を得る。また、測定された交絡強度の平均値を平均交絡強度とする。交絡数は集合トウの長さ1m当たりの出現数で表示することもできる。
〔実施例1〕
1.小トウ製造
アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリル酸を、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素アンモニウムおよび硫酸鉄の存在下、水系懸濁重合により共重合し、アクリロニトリル単位/アクリルアミド単位/メタクリル酸単位=96/3/1(質量比)からなるアクリロニトリル系重合体を得た。このアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに溶解し、濃度21質量%の紡糸原液を調製した。この紡糸原液を孔数50000、孔径50μmの紡糸口金を通して、濃度60質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる凝固浴中に吐出させて凝固糸にし、紡糸原液の吐出線速度の0.40倍の引取り速度で引き取った。
ついで、この繊維に対して熱水中で洗浄と同時に5.4倍の湿熱延伸を行い、1.5質量%に調製したアミノシリコン系油剤の第一油浴槽に導き第一油剤を付与し、数本のガイドで一旦絞りを行った。引き続き1.5質量%に調製したアミノシリコン系油剤の第二油浴槽で第二油剤を付与した。この繊維を熱ロールを用いて乾燥し、熱ロール間で1.4倍の二次延伸を行い、トータル延伸倍率を7.6とした。その後、タッチロールにて繊維の水分率を調整し、単繊維繊度1.2dtexの炭素繊維前駆体繊維束(小トウ)を得た。
2.集合トウの製造
このようにして得られた小トウを2本用い、それぞれ図1に示すようにタッチロール2で脱イオン水を付与した後、給糸される2本の小トウを、第1の交絡付与装置3へそれぞれ供給した。それぞれの小トウへの交絡付与装置は図2に示す構造を備えていた。すなわち、この第1の交絡付与装置は、中央部にトウ走行方向に貫通する偏平矩形状の糸道6を有する上ノズル4および下ノズル5を備えていた。この上ノズル4および下ノズル5は前記糸道6を挟んで上下に対称な構造を有しており、圧縮エア導入部4aおよび5aにそれぞれ連通し、そのエア導入方向に沿った対向面に開口する多数のエア噴出孔4bおよび5bを有していた。糸道6の糸道幅は16mm、糸道高さは2.5mm、糸道長さ(小トウの走行方向)は20mmであり、エア噴出孔4bおよび5bの噴出開口径は0.75mm、その配置ピッチは1.35mmとし、供給エア流量を200NL/分とした。
2つの第1の交絡付与装置3にてそれぞれ交絡された2本の小トウを引き揃え、フリーロール7を介し、第2の交絡付与装置8に供給した。尚、2本の小トウによって形成されるこの集合トウの接合部の数は1つである。この第2の交絡付与装置は図3に示す構造を備えていた。その基本構造は、上記小トウ専用の第1の交絡付与装置と同様であるが、小トウが予め交絡されているため、糸道11の道幅が第1の交絡装置の2倍以上に幅広く形成するとともに、糸道高さを第1の交絡付与装置と同程度以下に設定した。この第2の交絡付与装置にあっては、糸道幅を32mm、糸道高さを2.5mm、糸道長さを20mm、エア噴出孔9bおよび10bの開口径は0.75mm、その配置ピッチを1.35mm、圧縮エア導入部9aおよび10aに供給するエア流量を制御して2本の小トウの接合部に噴出されるエア流量を650NL/分とした。
このようにして得られた1本の集合トウをギヤロール13に給糸して引き取り、そのままシュート14を介して収納容器15内に振り込んだ。収納容器内に収納される際の集合トウは、2本の小トウが集束されて1本のトウ形態を有していた。このときの集合トウの容器内に収納後の水分率は4質量%であった。得られたトウには収納容器内に振り込む際に用いたギヤロール13によりウエーブが付与されたが、ウエーブの山と隣接する山との間隔は25mmであった。また、このようにして得られた集合トウにおける小トウ間の交絡強度を評価した結果、平均交絡強度が0.41cNかつ、交絡強度0.1cN以上の交絡数が34個/mであり、交絡強度が0.1cN以上1.0cN以下の交絡数が全交絡総数の70.4%、交絡強度が1.0cNより大きく5.0cN以下の交絡度が全交絡総数の29.3%、交絡強度が5.0cNより大きい交絡数が交絡強度が0.1cN以上の全交絡数の0.3%であった。さらに、フックドロップ法で測定される交絡値は、1m−1未満であった。
3.集合トウの耐炎化処理及び炭素化処理
この集合トウを収納容器から引き出してゾーン毎に220℃〜250℃に設定した耐炎化炉内へ給糸し、70分間耐炎化処理し、さらに300℃〜700℃の温度分布を有する窒素雰囲気の炭素化炉中にて、収縮を制限しながら3分間の炭化処理を行い炭素繊維束を得た。収納容器からの集合トウの引出しに際しては一旦集合トウを上方へ引き上げてガイドバーを複数回通過させて小トウを引き揃えた。引き揃えられた集合トウは、収納容器から引き上げ時にも、ガイドバーを複数回通過時にも、また耐炎化炉内に導入される時にも、小トウへのバラケは一切発生しなかった。
この間、トウの走行に用いたすべてのロールはフラットなロールであり、表面に溝を有するロールなどで小トウに分割したり、トウの形態を制御したりすることはまったく行わなかった。特に分割ガイドなどを用いずとも、耐炎化工程の中で自然に小トウへ分割した。炭化処理後に得られた炭素繊維束は毛羽がなく品位の優れるものであった。
〔実施例2〜8〕
第2の交絡装置エア流量とトウ水分率を表1に示す値に変更したこと以外は、実施例1と全く同様にして、炭素繊維束を得た。いずれの条件においても、容器からの引き上げ時には、小トウへのバラケは一切発生せず、ガイドバーを複数回通過時もしくは、通過後から耐炎化工程の中で小トウに分割された。
〔比較例1〜8〕
第2の交絡装置エア流量とトウ水分率を表2に示す値に変更したこと以外は、実施例1と全く同様にして、炭素繊維ストランドを得た。比較例1〜4、8は、耐炎化処理炉内に導入後も集合トウが小トウに分割されず、耐炎化工程にて蓄熱して、糸が切断するトラブルが発生した。比較例5〜7は、容器からの引き上げ時から集合トウが小トウにバラケてしまい、隣接する小トウとの縺れ、絡まりが発生し、耐炎化処理工程で蓄熱して糸が切れる等のトラブルが発生した。
Figure 0006776723
Figure 0006776723
1 小トウ
2 タッチロール
3 第1の交絡付与装置
4、9 上ノズル
5、10 下ノズル
4a、5a、9a、10a 圧縮エア導入部
4b、5b、9b、10b エア噴出孔
6、11 糸道
7 フリーロール
8 第2の交絡付与装置
12 集合トウ
13 ギアロール
14 シュート
15 収納容器
16 張力付与手段
17 張力計
18 ガイド
19 ワインダー

Claims (6)

  1. 2本以上のアクリル繊維束の小トウが並列配置されて集束された一本の集合トウである炭素繊維前駆体アクリル繊維束であって、
    前記集合トウは、並列配置された各小トウの端部の一部が隣接する小トウの端部の一部と重なり合った接合部を有し、
    フックドロップ法で測定される該小トウ間の交絡値が1m−1未満であり、
    下記の測定方法で測定される小トウ間の平均交絡強度が0.1cN以上1.0cN以下、交絡強度が0.1cN以上の交絡数が20個/m以上50個/m以下であり、
    該交絡強度が0.1cN以上の交絡数のうち、交絡強度が0.1cN以上1.0cN以下の交絡数の割合が50%以上99%以下、交絡強度が1.0cNより大きく5.0cN以下の交絡数の割合が1%以上45%以下、交絡強度が5.0cNより大きい交絡数の割合が5%以下である、
    炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
    〔測定方法:収納容器より集合トウを鉛直方向に引き上げ、張力付与手段を通し、トウ張力を0.016g/dtexに制御して走行速度10m/分で巻取る。その間に、該張力付与手段を通過直後の集合トウの小トウ間の接合部位にヤーン・テンションメーターのセラミックピンを貫通させて検出される抵抗力を交絡強度とする。交絡強度を0.1秒間毎に10分間、即ち6000回測定し、その平均値を平均交絡強度とし、0.1cN以上1.0cN以下、1.0cNより大きく5.0cN以下、および、5.0cNより大きい交絡強度が検出された回数を測定し、1m当たりの回数を求めてそれぞれの交絡強度の交絡数とする。〕
  2. 前記集合トウの水分率が1質量%以上10質量以下である、請求項1に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
  3. 前記小トウが単繊維繊度0.7dtex以上2.0dtex以下、単繊維数24000本以上100000本以下からなり、前記集合トウの総単繊維数が48000本以上400000本以下である、請求項1または2に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束。
  4. 2本以上のアクリル繊維束の小トウが並列配置されて集束された一本の集合トウである炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法であって、
    (1)前記小トウに水を付与して、その水分率を1質量%以上10質量%以下とする工程、及び、
    (2)前記小トウを並列配置して、扁平矩形形状断面の糸道と該糸道の幅方向に所定の間隔をおいて該糸道内に開口するエア噴出孔とを有するエア交絡装置の該糸道に導入して、該エア噴出孔から、隣接する前記小トウが互いに接する位置のそれぞれに対して、600NL/分以上900NL/分以下のエアを噴出させて交絡処理を行う工程、
    を有する炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法。
  5. 前記集合トウに含まれる小トウの数が2本または3本である、請求項4に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法。
  6. 請求項1〜3の何れか一項に記載の炭素繊維前駆体アクリル繊維束を耐炎化処理し、次いで炭素化処理して炭素繊維束の製造方法であって、該耐炎化処理中に発生する張力により前記集合トウを小トウに分割しながら耐炎化処理する、炭素繊維束の製造方法。
JP2016162707A 2016-08-23 2016-08-23 炭素繊維前駆体アクリル繊維束、その製造方法及び炭素繊維束の製造方法 Active JP6776723B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2016162707A JP6776723B2 (ja) 2016-08-23 2016-08-23 炭素繊維前駆体アクリル繊維束、その製造方法及び炭素繊維束の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2016162707A JP6776723B2 (ja) 2016-08-23 2016-08-23 炭素繊維前駆体アクリル繊維束、その製造方法及び炭素繊維束の製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2018031083A JP2018031083A (ja) 2018-03-01
JP6776723B2 true JP6776723B2 (ja) 2020-10-28

Family

ID=61305089

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2016162707A Active JP6776723B2 (ja) 2016-08-23 2016-08-23 炭素繊維前駆体アクリル繊維束、その製造方法及び炭素繊維束の製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6776723B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP7341648B2 (ja) * 2018-10-05 2023-09-11 帝人株式会社 前駆体繊維束の製造方法及び炭素繊維束の製造方法並びに炭素繊維束

Family Cites Families (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH10121325A (ja) * 1996-10-14 1998-05-12 Toray Ind Inc 炭素繊維用前駆体繊維束とその製造方法および炭素繊維の製造方法
JP4192041B2 (ja) * 2002-07-15 2008-12-03 三菱レイヨン株式会社 炭素繊維前駆体繊維束の製造方法及び製造装置
JP4043875B2 (ja) * 2002-07-15 2008-02-06 三菱レイヨン株式会社 炭素繊維前駆体糸条とその製造方法及び製造装置
JP4630193B2 (ja) * 2004-02-13 2011-02-09 三菱レイヨン株式会社 炭素繊維前駆体繊維束の製造方法及び製造装置
JP2012188768A (ja) * 2011-03-09 2012-10-04 Mitsubishi Rayon Co Ltd 炭素繊維前駆体繊維束の製造方法及び同方法により得られる炭素繊維前駆体繊維束

Also Published As

Publication number Publication date
JP2018031083A (ja) 2018-03-01

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP4630193B2 (ja) 炭素繊維前駆体繊維束の製造方法及び製造装置
JP4192041B2 (ja) 炭素繊維前駆体繊維束の製造方法及び製造装置
US6635199B2 (en) Process for producing a precursor fiber bundle and a carbon fiber bundle
CN103437018A (zh) 一种超仿真蚕丝型锦氨空气包覆丝的生产工艺
JP6520767B2 (ja) 炭素繊維用前駆体繊維束とその製造方法および炭素繊維の製造方法
EP2921576B1 (en) Conjugated fiber, and process for manufacturing ultrafine fibers
JP6776723B2 (ja) 炭素繊維前駆体アクリル繊維束、その製造方法及び炭素繊維束の製造方法
TWI673398B (zh) 合絲絲條束之製造方法及使用所得之合絲絲條束的碳纖維之製造方法
CN101137775A (zh) 用于生产复合纱线的熔融纺丝方法以及复合纱线
CN104593947A (zh) 一种利用低强力纤维生产纺织品的工艺
JP2012188768A (ja) 炭素繊維前駆体繊維束の製造方法及び同方法により得られる炭素繊維前駆体繊維束
JP4624571B2 (ja) 炭素繊維前駆体糸条の製造方法
JP2018031091A (ja) 炭素繊維束の製造方法
JP4511260B2 (ja) 細幅テープおよび細幅テープ状物
CN112708975B (zh) 一种聚丙烯腈预氧化卷曲纤维的制备方法
JP4408324B2 (ja) 炭素繊維前駆体繊維束の製造方法及び炭素繊維束の製造方法
JPH09273032A (ja) 炭素繊維前駆体糸条およびその製造方法ならびに炭素繊維の製造方法
JP2003155164A (ja) アクリル系フィラメント糸条の巻取り方法
JPS6014130B2 (ja) 嵩高マルチフイラメントの製造方法
JPH0995831A (ja) 糸条捲縮付与装置及び同装置を使用したポリプロピレン系高捲縮複合フィラメント糸の製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20190809

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20200526

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20200908

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20200921

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 6776723

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151