近年、VLSIシステムの超微細化・高速化に伴い、Gbps台の高速な信号伝送技術、さらに複数の機能チップを積層した3次元LSI技術がシステムの高性能化に不可欠な技術となっている。現在、マイクロプロセッサー内部ではGbps台の高速信号が用いられているのに対し、外部のメモリおよびその他のチップとのインターフェースは、依然としてプリント基板や配線を介して情報転送が行なわれるため、基板、配線等の伝送媒体の寄生素子(R抵抗、Lインダクタ、Cキャパシタ)に起因する帯域制限の影響を受けて高周波成分が失われたり、隣接する信号線が干渉したり、原信号を忠実に再現することができなくなっている。
そこで、多層に積層された半導体チップ間や積層されたプリント配線基板間を無線接続する技術として、半導体集積回路チップや電子回路基板の配線により形成されるアンテナ、コイル、キャパシタ等の何れかを設けて、それらを介して積層された半導体チップ間や基板間の電磁誘導結合によるデータ通信を行うことが提案されている。
例えば、複数の半導体フラッシュメモリチップを積層することで外部から1つの半導体メモリと同様に制御できる大容量の積層型半導体メモリ装置が開発されている。磁気ハードディスク代替として不揮発性メモリを用いたSolid State Drive(SSD)では、同一のフラッシュメモリチップを複数枚積層することで記憶容量を増大できる。そして、多層に積層された半導体フラッシュメモリチップ間を無線接続する技術開発がされているが、大容量情報を遅延なく送るためのデータ通信速度が十分ではなかった。データ通信はGbps台の信号伝送速度が望まれるが、そのため10GHzを超える高周波搬送波を用いるか、アンテナなどの無線伝送部を複数設けて同時通信を行うか、或いは多値シンボルの通信方式を採用するなどが提案されているが、未だ将来の方向性が見えていないのである。
一方で、磁気抵抗効果素子として磁化固定層と磁化自由層との間に非磁性材料で形成されたスペーサー層を介在させて構成されたTMR(Tunnel Magnetoresistive)素子が知られている。このTMR素子では、電流を流したときにスピン偏極電子が流れて、磁化自由層内に蓄積されるスピン偏極電子の数に応じて磁化自由層の磁化の向き(電子スピンの向き)が変化する。一定の磁場内に配置された磁化自由層では、その磁化の向きを変更しようとしたときに、磁場によって拘束される安定な方向へ復元するように電子スピンに対してトルクが働き、特定の力で揺らされたときに、スピン歳差運動と呼ばれる振動が発生する。
近年、TMR素子等の磁気抵抗効果素子に対して高い周波数の交流電流を流した場合において、磁化自由層に流れる交流電流の周波数と磁化の向きのスピン歳差運動の振動数とが一致したときに、強い共振が発生する現象(スピントルク強磁性共鳴)が発見された(非特許文献1参照)。また、磁気抵抗効果素子に外部から静磁界を印加し、かつこの静磁界の方向を磁化固定層の磁化の方向に対して層内で所定角度傾けた状態では、磁気抵抗効果素子は、RF電流(スピン歳差運動の振動数(共振周波数)と一致する周波数のRF電流)が注入されたときに、注入されたRF電流の振動の2乗に比例する直流電圧をその両端に発生させる機能、つまり、2乗検波機能(スピントルクダイオード効果)を発揮することが知られている。また、この磁気抵抗効果素子の2乗検波出力は、所定の条件下において半導体PN接合ダイオードの2乗検波出力を上回ることが知られている(非特許文献2参照)。
本願出願人は、磁気抵抗効果素子の2乗検波機能に着目して、低いローカルパワーで作動可能な混合器への用途を検討し、既に提案している(特許文献1、2参照)。さらに、本願出願人は磁気抵抗効果素子の2乗検波機能に、共振ピークに応じて乗算信号の出力が増減することを利用し、周波数選択フィルタの機能がある混合器を提案している(特許文献3参照)。
最近のスピントルクダイオードの研究において、外部磁界を膜面垂直方向から微小角度傾斜した状態で掛け、さらに直流バイアス電流を印加することにより、半導体を上回るダイオード特性が得られることが知られている(非特許文献3参照)。具体的に直流バイアス電流を印加した場合、スピントルクダイオードのダイオード感度は12000[mV/mW]]であり、半導体ダイオードのダイオード感度500[mV/mW]を凌駕する。高周波応用において、上述のように磁気抵抗効果素子に直流バイアス電流を印加することで、ダイオード検波出力、混合器の乗算出力が大幅に向上できそうであり、工業的な応用が期待されていた。
上記のような従来の磁気抵抗効果素子を応用したマイクロ波受信装置におけるスピントルクダイオードの検波出力またはスピントルクダイオードの混合器の乗算出力は、外乱要因等の影響によりその大きさにバラツキが生じることがあった。本発明は磁気抵抗効果素子に入力されたマイクロ波に振幅や位相の歪みがあっても、スピントルクダイオードの検波出力またはスピントルクダイオードの混合器の乗算出力を調整可能なマイクロ波受信装置および磁気抵抗効果デバイスを提供することを目的とする。
上記目的を達成すべく本発明に係るマイクロ波受信装置は、マイクロ波が入力される磁気抵抗効果素子を有し、前記磁気抵抗効果素子は磁化自由層、磁化固定層、および前記磁化自由層と前記磁化固定層との間に配設された非磁性スペーサー層を備え、前記磁化自由層に磁場を印加する磁場印加部と、前記磁気抵抗効果素子に直流バイアス電流を印加する直流バイアス電流印加部とを有し、前記直流バイアス電流印加部は入力端子を備え、前記入力端子を介して前記直流バイアス電流印加部に印加する直流電圧を調整することで前記直流バイアス電流を可変できることを特徴とする。
上記特徴の本発明によれば、直流バイアス電流印加部が備える入力端子より印加する直流電圧を調整することで磁気抵抗効果素子に印加される直流バイアス電流を可変できるので、磁気抵抗効果素子のスピントルクダイオードの検波出力または磁気抵抗効果素子のスピントルクダイオード混合器の乗算出力を調整可能なマイクロ波受信装置を提供できる。
また、本発明に係るマイクロ波受信装置は、前記磁気抵抗効果素子が前記マイクロ波を検波して直流起電圧V1を生成し、前記V1に伴う電流が、インダクターおよびフィードバックの信号線を経由して前記直流バイアス電流印加部に注入される電流と、後段回路に出力される電流とに分流され、前記V1が前記インダクターおよび前記フィードバックの信号線を経由し前記直流バイアス電流印加部に与えられ、前記直流バイアス電流印加部が前記V1を一定に保つように前記直流バイアス電流を調整することを特徴とする。
上記特徴の本発明によれば、磁気抵抗効果素子がマイクロ波を検波して直流起電圧V1を生成し、V1が直流バイアス電流印加部に与えられ、V1を一定に保つように直流バイアス電流を調整することで、磁気抵抗効果素子に入力されるマイクロ波の大きさにバラツキがあっても、磁気抵抗効果素子の検波出力を一定にすることができる。
また、本発明に係るマイクロ波受信装置は、前記マイクロ波がI相とQ相の2つの直交搬送波で伝送される多値シンボル伝送信号を含み、前記多値シンボル伝送信号と異なる周波数のローカル波を生成するローカル発振器を有し、前記ローカル波は前記磁気抵抗効果素子に入力され、前記磁気抵抗効果素子は前記多値シンボル伝送信号と前記ローカル波との乗算信号を出力する際に直流起電圧V2を生成し、前記乗算信号に伴う電流は、インダクターおよびフィードバックの信号線を経由して前記直流バイアス電流印加部に注入される電流と、後段回路に出力される電流に分流され、前記V2は前記インダクターおよび前記フィードバックの信号線を経由し前記直流バイアス電流印加部に与えられ、前記直流バイアス電流印加部は前記V2を一定に保つように前記直流バイアス電流を調整することを特徴とする。
上記特徴の本発明によれば、磁気抵抗効果素子が多値シンボル伝送信号とローカル波との乗算信号を出力する際に直流起電圧V2を生成し、V2が直流バイアス電流印加部に与えられ、V2を一定に保つように直流バイアス電流を調整することで、磁気抵抗効果素子に入力される多値シンボル伝送信号を含むマイクロ波の大きさにバラツキがあっても、磁気抵抗効果素子の乗算信号の出力を一定にすることができる。
また、本発明に係るマイクロ波受信装置は、復調フィルタをさらに有し、前記乗算信号は前記復調フィルタに入力され、前記復調フィルタは、前記多値シンボル伝送信号と前記ローカル波との周波数差である第1の周波数のI相発振信号を生成する第1の中間周波発振器と、前記第1の周波数のQ相発振信号を生成する第2の中間周波発振器と、第1の中間周波混合器と、第2の中間周波混合器とを備え、前記第1の中間周波混合器は前記乗算信号における前記第1の周波数の信号と前記I相発振信号とを乗算したI相復調信号を出力し、前記第2の中間周波混合器は前記乗算信号における前記第1の周波数の信号と前記Q相発振信号とを乗算したQ相復調信号を出力することを特徴とする。
上記特徴の本発明によれば、乗算信号が復調フィルタに入力され、復調フィルタは第1及び第2の中間周波発振器と第1及び第2の中間周波混合器とを備えることでI相復調信号およびQ相復調信号を出力することができ、さらに直流起電圧V2を利用して磁気抵抗効果素子の乗算信号の出力を一定にすることができることから、I相復調信号およびQ相復調信号の出力も一定にすることができる。
また、本発明に係るマイクロ波受信装置は、復調フィルタを有し、前記マイクロ波はI相とQ相の2つの直交搬送波で伝送される多値シンボル伝送信号を含み、前記復調フィルタは、前記多値シンボル伝送信号と異なる周波数のローカル波周波数のI相ローカル波と前記ローカル波周波数のQ相ローカル波とを生成するローカル波生成部と、前記磁気抵抗効果素子としての第1の磁気抵抗効果素子と第2の磁気抵抗効果素子と、前記直流バイアス電流印加部としての第1の直流バイアス電流印加部と第2の直流バイアス電流印加部とを備え、前記第1の直流バイアス電流印加部は前記第1の磁気抵抗効果素子に前記直流バイアス電流としての第1の直流バイアス電流を印加し、前記第2の直流バイアス電流印加部は前記第2の磁気抵抗効果素子に前記直流バイアス電流としての第2の直流バイアス電流を印加し、前記I相ローカル波は前記第1の磁気抵抗効果素子に入力され、前記第1の磁気抵抗効果素子は前記多値シンボル伝送信号と前記I相ローカル波とを乗算したI相復調信号を出力する際に直流起電圧V3を生成し、前記Q相ローカル波は前記第2の磁気抵抗効果素子に入力され、前記第2の磁気抵抗効果素子は前記多値シンボル伝送信号と前記Q相ローカル波とを乗算したQ相復調信号を出力する際に直流起電圧V4を生成し、前記I相復調信号に伴う電流は、第1のインダクターおよび第1のフィードバックの信号線を経由して前記第1の直流バイアス電流印加部に注入される電流と、後段回路に出力される電流とに分流され、前記V3は前記第1のインダクターおよび前記第1のフィードバックの信号線を経由して前記第1の直流バイアス電流印加部に与えられ、前記第1の直流バイアス電流印加部は前記V3を一定に保つように前記第1の直流バイアス電流を調整し、前記Q相復調信号に伴う電流は、第2のインダクターおよび第2のフィードバックの信号線を経由して前記第2の直流バイアス電流印加部に注入される電流と、後段回路に出力される電流とに分流され、前記V4は前記第2のインダクターおよび前記第2のフィードバックの信号線を経由して前記第2の直流バイアス電流印加部に与えられ、前記第2の直流バイアス電流印加部は前記V4を一定に保つように前記第2の直流バイアス電流を調整することを特徴とする。
上記特徴の本発明によれば、復調フィルタが、I相ローカル波とQ相ローカル波とを生成するローカル波生成部と、第1及び第2の磁気抵抗効果素子と、第1及び第2の直流バイアス電流印加部とを備えることで、I相復調信号を出力する際に直流起電圧V3を生成し、Q相復調信号を出力する際に直流起電圧V4を生成することができ、V3及びV4がそれぞれ第1及び第2の直流バイアス電流印加部に与えられ、V3及びV4をそれぞれ一定に保つように第1及び第2の直流バイアス電流を調整することで、磁気抵抗効果素子に入力されるI相とQ相の2つの直交搬送波で伝送される多値シンボル伝送信号を含むマイクロ波の大きさにバラツキがあっても、I相復調信号及びQ相復調信号の出力を一定にすることができる。
また、本発明に係るマイクロ波受信装置は、前記マイクロ波がI相とQ相の2つの直交搬送波で伝送される多値シンボル伝送信号を含み 、前記多値シンボル伝送信号は直角位相振幅変復調方式における情報伝送フレームに配置されたBPSKのパイロット・シンボルを含み、前記多値シンボル伝送信号と異なる周波数のローカル波を生成するローカル発振器、復調フィルタおよびベースバンドコントローラー部を有し、前記ローカル波は前記磁気抵抗効果素子に入力され、前記磁気抵抗効果素子は前記多値シンボル伝送信号と前記ローカル波との乗算信号を出力し、前記乗算信号は前記復調フィルタに入力され、前記復調フィルタは、前記多値シンボル伝送信号と前記ローカル波との周波数差である第1の周波数のI相発振信号を生成する第1の中間周波発振器と、前記第1の周波数のQ相発振信号を生成する第2の中間周波発振器と、第1の中間周波混合器と、第2の中間周波混合器とを備え、前記第1の中間周波混合器は前記乗算信号における前記第1の周波数の信号と前記I相発振信号とを乗算したI相復調信号を出力し、前記第2の中間周波混合器は前記乗算信号における前記第1の周波数の信号と前記Q相発振信号とを乗算したQ相復調信号を出力し、前記ベースバンドコントローラー部はアナログ・デジタル変換器とデジタル信号処理回路とを有し、前記アナログ・デジタル変換器は前記I相復調信号と前記Q相復調信号とをアナログ・デジタル変換し、前記デジタル信号処理回路は、アナログ・デジタル変換された前記I相復調信号と前記Q相復調信号とに基づいて前記パイロット・シンボルのI相振幅値を抽出して前記I相振幅値に対応した直流電圧V5を出力し、前記V5はフィードバックの信号線を経由して前記直流バイアス電流印加部に与えられ、前記直流バイアス電流印加部は前記V5を一定に保つように前記直流バイアス電流を調整することを特徴とする。
上記特徴の本発明によれば、復調フィルタが第1及び第2の中間周波発振器と第1及び第2の中間周波混合器とを備えることでI相復調信号およびQ相復調信号を出力することができ、デジタル信号処理回路が、磁気抵抗効果素子に入力されるマイクロ波に含まれるパイロット・シンボルのI相振幅値を、アナログ・デジタル変換されたI相復調信号とQ相復調信号とに基づいて抽出して、I相振幅値に対応した直流電圧V5を出力し、V5がフィードバックの信号線を経由して直流バイアス電流印加部に与えられ、V5を一定に保つように直流バイアス電流を調整することで、磁気抵抗効果素子に入力されるI相とQ相の2つの直交搬送波で伝送される多値シンボル伝送信号を含むマイクロ波の大きさにバラツキがあっても、I相復調信号及びQ相復調信号の出力を一定にすることができる。
また、本発明に係るマイクロ波受信装置は、復調フィルタおよびベースバンドコントローラー部を有し、前記マイクロ波はI相とQ相の2つの直交搬送波で伝送される多値シンボル伝送信号を含み、前記多値シンボル伝送信号は直角位相振幅変復調方式における情報伝送フレームに配置されたBPSKのパイロット・シンボルを含み、前記復調フィルタは、前記多値シンボル伝送信号と異なる周波数のローカル波周波数のI相ローカル波と前記ローカル波周波数のQ相ローカル波とを生成するローカル波生成部と、前記磁気抵抗効果素子としての第1の磁気抵抗効果素子と第2の磁気抵抗効果素子と、前記直流バイアス印加部としての第1の直流バイアス電流印加部と第2の直流バイアス電流印加部とを備え、前記第1の直流バイアス電流印加部は前記第1の磁気抵抗効果素子に前記直流バイアス電流としての第1の直流バイアス電流を印加し、前記第2の直流バイアス電流印加部は前記第2の磁気抵抗効果素子に前記直流バイアス電流としての第2の直流バイアス電流を印加し、前記I相ローカル波は前記第1の磁気抵抗効果素子に入力され、前記第1の磁気抵抗効果素子は前記多値シンボル伝送信号と前記I相ローカル波とを乗算したI相復調信号を出力し、前記Q相ローカル波は前記第2の磁気抵抗効果素子に入力され、前記第2の磁気抵抗効果素子は前記多値シンボル伝送信号と前記Q相ローカル波とを乗算したQ相復調信号を出力し、前記ベースバンドコントローラー部はアナログ・デジタル変換器とデジタル信号処理回路とを有し、前記アナログ・デジタル変換器は前記I相復調信号と前記Q相復調信号とをアナログ・デジタル変換し、前記デジタル信号処理回路は、アナログ・デジタル変換された前記I相復調信号と前記Q相復調信号とに基づいて前記パイロット・シンボルのI相振幅値を抽出して前記I相振幅値に対応した直流電圧V5を出力し、前記V5はフィードバックの信号線を経由して前記第1の直流バイアス電流印加部に与えられ、前記第1の直流バイアス電流印加部は前記V5を一定に保つように前記直流バイアス電流を調整し、前記第2の直流バイアス電流印加部は前記第1の直流バイアス電流に対応させて前記第2の直流バイアス電流を調整することを特徴とする。
上記特徴の本発明によれば、復調フィルタが、I相ローカル波とQ相ローカル波とを生成するローカル波生成部と、第1及び第2の磁気抵抗効果素子と、第1及び第2の直流バイアス電流印加部とを備えることで、I相復調信号とQ相復調信号を出力することができ、デジタル信号処理回路が、磁気抵抗効果素子に入力されるマイクロ波に含まれるパイロット・シンボルのI相振幅値を、アナログ・デジタル変換されたI相復調信号とQ相復調信号とに基づいて抽出して、I相振幅値に対応した直流電圧V5を出力し、V5がフィードバックの信号線を経由して第1の直流バイアス電流印加部に与えられ、V5を一定に保つように第1の直流バイアス電流を調整し、第1の直流バイアス電流に対応させて第2の直流バイアス電流を調整することで、磁気抵抗効果素子に入力されるI相とQ相の2つの直交搬送波で伝送される多値シンボル伝送信号を含むマイクロ波の大きさにバラツキがあっても、I相復調信号及びQ相復調信号の出力を一定にすることができる。
また、本発明に係る磁気抵抗効果デバイスは、マイクロ波が入力される磁気抵抗効果素子を有し、前記磁気抵抗効果素子は磁化自由層、磁化固定層、および前記磁化自由層と前記磁化固定層との間に配設された非磁性スペーサー層を備え、前記磁化自由層に磁場を印加する磁場印加部と、前記磁気抵抗効果素子に直流バイアス電流を印加する直流バイアス電流印加部を有し、前記直流バイアス電流印加部は入力端子を備え、前記入力端子を介して前記直流バイアス電流印加部に印加する直流電圧を調整することで前記直流バイアス電流を可変できることを特徴とする。
さらに、前記磁気抵抗効果デバイスは、前記マイクロ波を検波して直流起電圧V6を生成し、前記直流起電圧V6に伴う電流は、インダクターおよびフィードバックの信号線を経由して前記直流バイアス電流印加部に注入される電流と、後段回路に出力される電流とに分流され、前記直流起電圧V6は前記インダクターおよび前記フィードバックの信号線を経由し前記直流バイアス電流印加部に与えられ、前記直流バイアス電流印加部は前記直流起電圧V6を一定に保つように前記直流バイアス電流を調整することを特徴としてもよい。
本発明によれば、磁気抵抗効果素子に入力されたマイクロ波に振幅や位相の歪みがあっても、スピントルクダイオードの検波出力またはスピントルクダイオードの混合器の乗算出力を調整可能なマイクロ波受信装置および磁気抵抗化デバイスを提供することができる。
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態の例を説明する。なお、以下の説明は本発明の実施形態の一部を例示するものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、形態が本発明の技術的思想を有するものである限り、本発明の範囲に含まれる。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせなどは一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、各実施形態間で構成が同じものについては、同一の符号を用いてその説明を適宜省略する。
本発明の第1の実施形態において、図1はマイクロ波受信装置100の回路図を示しているが、マイクロ波受信装置100は、アンテナ素子101で受信したマイクロ波S1が入力される磁気抵抗効果素子2を有し、磁気抵抗効果素子2は磁化自由層21、磁化固定層23、および磁化自由層21と磁化固定層23との間に配設された非磁性スペーサー層22を備え、磁化自由層21に磁場を印加する磁場印加部3と、磁気抵抗効果素子2に直流バイアス電流DC1を印加する直流バイアス電流印加部10を有し、直流バイアス電流印加部10は入力端子7を備え、入力端子7を介して直流バイアス電流印加部10に印加する直流電圧を調整することで直流バイアス電流DC1を変化させることができるようになっている。即ち、マイクロ波受信装置100は、アンテナ素子101で受信したマイクロ波S1を検波または混合する磁気抵抗効果素子2と磁場印加部3と直流バイアス電流印加部10とを備える。磁気抵抗効果素子2をスピントルクダイオード混合器として機能させる場合には、マイクロ波受信装置100はローカル発振器12およびキャパシタ5を備えるが、磁気抵抗効果素子2を検波器として機能させる場合はローカル発振器12およびキャパシタ5は不要である。アンテナ素子101より受信したマイクロ波S1はキャパシタ4を経由し磁気抵抗効果素子2に入力される。磁気抵抗効果素子2をスピントルクダイオード混合器として機能させる場合には、ローカル発振器12より生成されたローカル波がキャパシタ5を経由し磁気抵抗効果素子2に入力される。磁気抵抗効果素子2には、磁場印加部3により適切な磁場Hが印加され、マイクロ波S1の所望の周波数と磁気抵抗効果素子2の磁場Hに対する強磁性共鳴の周波数とが一致するように調整されたとき、大きな検波出力または乗算出力(いずれもS4)が得られる。さらにマイクロ波受信装置100は、直流バイアス電流印加部10と高周波カット用インダクター6を備え、磁気抵抗効果素子2に直流バイアス電流DC1がインダクター6を経由して印加することができる。磁気抵抗効果素子2は直流バイアス電流DC1を印加された場合、直流バイアス電流DC1が印加されないときと比べ、大きな検波出力または大きな乗算出力(いずれもS4)を出力することができる。直流バイス電流印加部10は入力端子7を備え、入力端子7は直流電圧発生器8に繋がっている。直流電圧発生器8は任意の電圧を発生させることができ、入力端子7を介して直流バイアス電流印加部10に印加する直流電圧を調整することができる。マイクロ波受信装置100は、直流バイアス電流印加部10に印加される直流電圧を調整することで直流バイアス電流DC1を変化させることができ、磁気抵抗効果素子2の検波出力または乗算出力(いずれもS4)を任意に変化させることができる。
本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子2(TMR素子)の構成を図2に示しているが、磁気抵抗効果素子2は、磁化自由層21、スペーサー層22、磁化固定層23を備える。さらに磁気抵抗効果素子2は、図2に示すように、キャップ層25及びバッファ層26を備え、各層が積層された状態で、上部電極27と下部電極28との間にあり、上部電極27と下部電極28はそれぞれ導電配線として左右に引き出された状態で配設されている。磁化自由層21は膜面に対して法線方向に磁化され、磁化固定層23は膜面に対して面内方向に磁化されている。この場合、磁化自由層21は強磁性材料で感磁層として構成されている。スペーサー層22は、非磁性スペーサー層であって、絶縁性を有する非磁性材料で構成されて、トンネルバリア層として機能する。なお、スペーサー層22は、通常1nm以下の厚みで形成される。また、下部電極28はグランドに接続されている。磁化自由層21と磁化固定層23の材料として、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)などの磁性金属と、その磁性合金からなるもので、さらに磁性合金にB(ボロン)を混入して飽和磁化を下げた合金などが挙げられる。
磁化固定層は磁化方向が固定された強磁性層(第2磁性層)23a、Ru(ルテニウム)などの金属からなる非磁性層23b、および磁化方向が強磁性23aと逆向きとなるように固定された他の強磁性層(第1磁性層)23cとを備え、強磁性層23cがバッファ層26の上部に接して位置するように各層が積層されて構成されている。一例として、磁化固定層23の積層構成はCoFe(コバルト鉄)−Ru(ルテニウム)−CoFe(コバルト鉄)の多層膜などが使用できる。
スペーサー層22は単結晶MgO層あるいは多結晶MgOx(0<x<1)層(以下、「MgO層」と称する。)により形成されていることが好ましい。
磁化自由層21は、膜面に対して法線方向に高い保磁力を持つ磁性材料に対して、組成比の調整、不純物の添加、厚さの調整などを行って保磁力を下げて形成される。一例としてCoFeB(コバルト鉄ボロン)などの磁気異方性エネルギー密度が小さい磁性材料から構成してもよい。磁化自由層21の共鳴運動をより大きく起こり易くするためには、その大きさを200nm×200nm角よりも小さくし、素子抵抗値も高周波伝送回路との整合を取るために、直流抵抗値において50Ωに近付けることが好ましい。磁気抵抗効果素子2の一例としては、磁気自由層が等方性磁化状態(結晶磁気異方性の理由で、膜面方向より膜面法線方向に向かって磁化方向が45°程度立ち上がっている)にあり、120nm×120nmほぼ円形で、無磁場の抵抗値が120Ω、MR変化率が約70〜80%程度であるものが挙げられる。
磁気抵抗効果素子2の膜面法線方向に磁場を印加する磁場印加部3の断面図を図3に示している。磁気抵抗効果素子2はその両端部に上部電極27と下部電極28を有し、磁場印加部3は、電磁石コイル31a、電磁石コイル31bが磁気抵抗効果素子2の上下に配置され、その周囲を磁気ヨーク32b、32cが囲んで構成されている。電磁石コイル31a、31bはそのコイル通電電流を変えることで、磁気抵抗効果素子2に掛かる磁場の大きさを調整して磁気抵抗効果素子2の強磁性共鳴の中心周波数f0を目的の周波数帯域に移動することができる。磁場印加部3は、電磁石コイル31a、31bの代わりに永久磁石を磁気抵抗効果素子2の上下に配置しても構成できる。
磁場印加部3の立体構造を図4に示している。図4では、電磁石コイル31a、31bを磁気抵抗効果素子2の上下に配置した磁場ヨーク32と、磁場ヨーク32を貫くように磁気抵抗効果素子2の上部電極27、下部電極28が存在しているが、隠れ線で磁気抵抗効果素子2と上部の電磁石コイル31aを示し、下部の電磁石コイル31bは図示を省略している。上部電極27には入力信号S3が印加され、上部電極27から出力信号S4が取り出され、下部電極28はグランドに結線されている。アンプ40が、出力信号S4が取り出される後段回路に設けられている。後段回路のインピーダンスが高い場合は、アンプ40はなくてもよい。例えば、磁気抵抗効果素子2の強磁性共鳴で生じた直流起電圧は、後段回路のインピーダンスが10キロオーム以上ならば減衰は小さいが、1キロオーム以下になると急激に減衰する。
磁気抵抗効果素子2に直流バイアス電流を0.1mAから0.3mAまで印加したときのスピントルクダイオード効果のダイオード感度を図5に示している。ダイオード感度は任意スケールで表記しているが、上に行くほどダイオード感度が増加することを示している。ダイオード感度(単位:[V/W])とは、(ダイオード感度=スピントルクダイオード電圧(磁気抵抗効果素子が出力する直流電圧)/入力されたRF電力)であり、ダイオード検波の特性指標になっている。例えば、直流バイアス電流を印加しないスピントルクダイオードのダイオード感度は630[mV/mW]]であり、直流バイアス電流を印加すると12000[mV/mW]]であり、15〜20倍ほどに増えることが知られている。また、ダイオード感度で得られる特性指標は、磁気抵抗効果素子2をスピントルクダイオード混合器として機能させる場合に磁気抵抗効果素子2が出力する乗算信号の大きさにも相関がある。
本実施形態によれば、直流バイアス電流印加部10が備える入力端子7より印加する直流電圧を調整することで磁気抵抗効果素子2に印加される直流バイアス電流DC1を変化させることができるので、磁気抵抗効果素子2のスピントルクダイオードの検波出力または磁気抵抗効果素子2のスピントルクダイオード混合器の乗算出力を調整可能なマイクロ波受信装置100を提供できる。
本発明の第2の実施形態において、図6はマイクロ波受信装置200の回路図を示しているが、マイクロ波受信装置200において、磁気抵抗効果素子2がマイクロ波S1を検波して直流起電圧V1を生成し、V1に伴う電流は、インダクター9およびフィードバックの信号線FBを経由して直流バイアス電流印加部10に注入される電流FBiと、後段回路に出力される電流S4outとに分流され、V1はインダクター9およびフィードバックの信号線FBを経由し直流バイアス電流印加部10に与えられ、直流バイアス電流印加部10はV1を一定に保つように直流バイアス電流DC1を調整するようになっている。即ち、マイクロ波受信装置200は、アンテナ素子101で受信したマイクロ波S1がキャパシタ4を経由し、さらに直流バイアス電流印加部10より印加される直流バイアス電流DC1がインダクター6を経由し、マイクロ波S1と直流バイアス電流DC1とを合わせた信号S3が磁気抵抗効果素子2に入力され、マイクロ波S1を磁気抵抗効果素子2で検波し、検波出力S4を生成するが、検波出力S4に伴う電流はインダクター9およびフィードバックの信号線FBを経由して直流バイアス電流印加部10に注入する電流FBiと後段回路に出力する電流S4outとに分流される。検波出力S4はインダクター9を介して直流起電圧V1が抽出され、直流起電圧V1はフィードバックの信号線FBを経由し、直流バイアス電流印加部10に与えられる。直流バイアス電流印加部10は直流起電圧V1を一定に保つように直流バイアス電流DC1を調整する。
そのため、磁気抵抗効果素子2は、アンテナ素子101で受信され磁気抵抗効果素子2に入力されるマイクロ波S1の信号レベルが外乱要因等でバラツキがあったとしても、磁気抵抗効果素子2は、常に一定の検波出力S4を出力することができ、オートゲイン制御を実現できる。
本発明の第3の実施形態において、図7はマイクロ波受信装置300の回路図を示しているが、マイクロ波受信装置300において、マイクロ波S1はI相とQ相の2つの直交搬送波で伝送される多値シンボル伝送信号を含み、多値シンボル伝送信号の中心周波数の近傍の周波数のローカル波S2を生成するローカル発振器12を有し、ローカル波S2は磁気抵抗効果素子2に入力され、磁気抵抗効果素子2は多値シンボル伝送信号とローカル波S2との乗算信号S4を出力する際に直流起電圧V2を生成し、乗算信号S4に伴う電流は、インダクター9およびフィードバックの信号線FBを経由して直流バイアス電流印加部10に注入される電流FBiと、後段回路に出力される電流S4outとに分流され、V2はインダクター9およびフィードバックの信号線FBを経由し直流バイアス電流印加部10に与えられ、直流バイアス電流印加部10はV2を一定に保つように直流バイアス電流DC1を調整するようになっている。即ち、マイクロ波受信装置300において、アンテナ素子101より受信した多値シンボル伝送信号を含むマイクロ波S1とローカル発振器12より生成されたローカル波S2はそれぞれキャパシタ4,5を経由する。さらに直流バイアス電流印加部10より印加される直流バイアス電流DC1はインダクター6を経由する。そして、マイクロ波S1とローカル波S2と直流バイアス電流DC1とを合わせた信号S3が磁気抵抗効果素子2に入力される。磁気抵抗効果素子2は磁場印加部3より磁場Hを受けて、所望の周波数帯域において強磁性共鳴を起こし、RF信号S1(周波数:f1)とローカル信号S2(周波数:f2)の乗算信号S4を出力するが、以下の理由で、乗算信号S4より(f1−f2)の中間周波信号を多く抽出することができる。磁気抵抗効果素子2は、乗算信号S4の周波数成分として、(f1+f2)、(f1−f2)、2×f1、2×f2、3×f1、3×f2、・・・を生成するが、自己共振特性を持つキャパシタ4,5を適切に選ぶことにより、周波数的に高い成分f1、f2、(f1+f2)、2×f1、2×f2、3×f1、3×f2、・・・はGHz帯域のためキャパシタ通過を可能とし、周波数的に数10MHzと低い成分(f1−f2)はキャパシタ遮断が起こり、周波数的に高い成分f1、f2、(f1+f2)、2×f1、2×f2、3×f1、3×f2、・・・は最終的に50オームインピーダンスに到達し大きく減衰するのに対して、周波数的に低い成分(f1−f2)はほとんど減衰せずに後段回路に送ることができる。乗算信号S4は、周波数的に低い成分(f1−f2)の中間周波信号が相対的に大きく占める。
乗算信号S4に伴う電流はインダクター9およびフィードバックの信号線FBを経由して直流バイアス電流印加部10に注入する電流FBiと後段回路に出力する電流S4outとに分流される。乗算出力S4はインダクター9を介して直流起電圧V2が抽出され、直流起電圧V2はフィードバックの信号線FBを経由し直流バイアス電流印加部10に与えられる。直流バイアス電流印加部は直流起電圧V2を一定に保つように直流バイアス電流を調整する。そのため、磁気抵抗効果素子2は、アンテナ素子101で受信された磁気抵抗効果素子2に入力される多値シンボル伝送信号を含むマイクロ波S1の入力信号レベルが外乱要因等でバラツキがあったとしても、磁気抵抗効果素子2は、常に一定の乗算出力S4を出力することができ、オートゲイン制御を実現できる。
本発明の第4の実施形態において、図8はマイクロ波受信装置500の回路図を示しているが、マイクロ波受信装置500は、第3の実施形態のマイクロ波受信装置300に加えて、復調フィルタ350をさらに有したものであり、マイクロ波受信装置300で出力された乗算信号S4が後段の復調フィルタ350に入力される。復調フィルタ350は、I相発振信号S5を生成する第1の中間周波発振器16と、I相発振信号S5の周波数と等しく、90°位相が進んでいるQ相発振信号S7を生成する第2の中間周波発振器18と、第1の中間周波混合器15と、第2の中間周波混合器17とを備え、第1の中間周波混合器15は乗算信号S4とI相発振信号S5とを乗算した I相復調信号S6を出力し、第2の中間周波混合器17は乗算信号S4とQ相発振信号S7とを乗算したQ相復調信号S8を出力するようになっている。マイクロ波受信装置500は、第3の実施形態と同じく磁気抵抗効果素子2がダウンコンバージョン型の混合器として機能し、磁気抵抗効果素子2が出力する乗算信号S4に伴う電流はインダクター9およびフィードバックの信号線FBを経由して直流バイアス電流印加部10に注入する電流FBiと後段の復調フィルタ350に入力する電流とに分流される。乗算信号S4は、周波数的に低い成分(f1−f2)の中間周波信号が相対的に大きく占め、さらに後段回路の復調フィルタ350の中のI相の中間周波混合器15及びQ相の中間周波混合器17に入力される。さらに、復調フィルタ350は入力される乗算信号S4の大きさに比例してI相の復調信号S7、Q相の復調信号S8を出力する。そのため、磁気抵抗効果素子2は、第3の実施形態と同じくフィードバック信号線FBを経由して、常に一定の乗算信号S4を出力するように構成されているため、マイクロ波受信装置500は、アンテナ素子101で受信された多値シンボル伝送信号を含むマイクロ波S1の入力信号レベルが外乱要因等でバラツキがあったとしても、常に一定のI相の復調信号S7、Q相の復調信号S8を出力することができ、オートゲイン制御を実現できる。
本発明の第5の実施形態において、図9はマイクロ波受信装置600の回路図を示しているが、マイクロ波受信装置600は、磁気抵抗効果素子2a、2bが周波数ダウンコンバードとI相、Q相の復調フィルタとしての機能を兼ね備える、即ちダイレクトコンバージョン型の混合器として動作させていることに特徴がある。マイクロ波受信装置600において、マイクロ波S1はI相、Q相の2つの直交搬送波で伝送されるが多値シンボル伝送信号を含み、マイクロ波S1はキャパシタ4a、4bを経由して、磁気抵抗効果素子2a、2bに入力され、さらに多値シンボル伝送信号の中心周波数の近傍の周波数のI相ローカル発振信号S2aを生成するローカル波発振器12aと、I相ローカル発振信号S2aの周波数が等しく、90°位相が進んでいるQ相ローカル発振信号S2bを生成するローカル波発振器12bとを有し、I相ローカル発振信号S2a、Q相ローカル発振信号S2bはキャパシタ5a、5bを経由して、磁気抵抗効果素子2a、2bに入力され、さらに直流バイアス電流DC1、DC2を生成する直流バイアス電流印加部10a、10bを有し、直流バイアス電流DCa、DCbはインダクター6a、6bを経由し、磁気抵抗効果素子2a、2bに入力される。マイクロ波S1とローカル発振信号S2aと直流バイアス電流DCaとを合わせた信号S3aが、磁気抵抗効果素子2aに入力されると乗算信号S4aが発生し、マイクロ波S1とローカル発振信号S2bと直流バイアス電流DCbとを合わせた信号S3bが、磁気抵抗効果素子2bに入力されると乗算信号S4bが発生するが、乗算信号のそれぞれS4a、S4bは復調フィルタ350のI相復調信号の出力、Q相復調信号の出力に相当している。尚、マイクロ波S1の伴う電流は、磁気抵抗効果素子2a、2bに流れ込むように分流されている。
乗算信号S4aに伴う電流は、インダクター9aおよびフィードバックの信号線FBaを経由して直流バイアス電流印加部10aに注入される電流FBaiと、後段部に出力される電流とに分流される。乗算出力S4aはインダクター9aを介して直流起電圧V3が抽出され、直流起電圧V3はフィードバックの信号線FBaを経由して直流バイアス電流印加部10aに与えられる。直流バイアス電流印加部10aはV3を一定に保つように直流バイアス電流DCaを調整する。そのため、磁気抵抗効果素子2aはアンテナ素子101で受信されて磁気抵抗効果素子2aに入力される多値シンボル伝送信号を含むマイクロ波S1の入力信号レベルが外乱要因等でバラツキがあったとしても、磁気抵抗効果素子2aは常に一定の乗算出力S4aを出力することができ、オートゲイン制御が実現できる。
乗算信号S4bに伴う電流は、インダクター9bおよびフィードバックの信号線FBbを経由して直流バイアス電流印加部10bに注入される電流FBbiと、後段部に出力される電流とに分流される。乗算出力S4bはインダクター9bを介して直流起電圧V4が抽出され、直流起電圧V4はフィードバックの信号線FBbを経由して直流バイアス電流印加部10bに与えられる。直流バイアス電流印加部10bはV4を一定に保つように直流バイアス電流DCbを調整する。そのため、磁気抵抗効果素子2bはアンテナ素子101で受信されて磁気抵抗効果素子2bに入力される多値シンボル伝送信号を含むマイクロ波S1の入力信号レベルが外乱要因等でバラツキがあったとしても、磁気抵抗効果素子2bは常に一定の乗算出力S4bを出力することができ、オートゲイン制御が実現できる。
本発明の第5の実施形態の変形例であるが、図10はマイクロ波受信装置700の回路図を示している。マイクロ波受信装置は、第5の実施形態と同じく、磁気抵抗効果素子2a、2bが周波数ダウンコンバードとI相、Q相の復調フィルタとしての機能を兼ね備える、即ちダイレクトコンバージョン型の混合器として動作させている。第5の実施形態との違いは、I相、Q相のローカル発振器12a、12bの代わりに、1つのローカル発振器12と90度位相シフター11に置き換えて使用していることであるが、1つの発振器がI相、Q相のローカル発振信号S2a、S2bの信号源にすることで、周波数ズレ等がなくなり安定する。第5の実施形態と同じく、アンテナ素子101で受信されて磁気抵抗効果素子2a、2bに入力される多値シンボル伝送信号を含むマイクロ波S1の入力信号レベルが外乱要因等でバラツキがあったとしても、磁気抵抗効果素子2a、2bは常に一定の乗算出力S4a、S4bを出力することができ、オートゲイン制御が実現できる。
本発明の第6の実施形態において、図11はマイクロ波受信装置800の回路図を示しているが、マイクロ波受信装置800は、第4の実施形態のRFレシーバと復調フィルタの混載回路500の一部改良に加えて、ベースバンドコントローラ部400をさらに有したものであり、復調フィルタ350で出力されたI相復調信号S7、Q相復調信号S8が後段のベースバンドコントローラ部400に入力される。第4の実施形態のRFレシーバと復調フィルタの混載回路500の一部改良とは、磁気抵抗効果素子2より生成される乗算出力S4と、乗算出力S4に伴う電流の一部をインダクター9に導き、乗算出力S4の直流起電圧V2がインダクター9およびフィードバックの信号線FBを経由し直流バイアス電流印加部10に与えられていたところが変わり、ベースバンドコントローラ部400より出力される直流電圧V5がフィードバックの信号線FBを経由し直流バイアス電流印加部10に与えられるように変更されている。また、マイクロ波S1はI相とQ相の2つの直交搬送波で伝送される多値シンボル伝送信号を含み、多値シンボル伝送信号は直角位相振幅変復調方式(QAM;quadrature amplitude modulation)における情報伝送フレームに配置されたBPSK(binary phase-shift keying)のパイロット・シンボル42を含んでいる。
ベースバンドコントローラー部400はアナログ・デジタル変換器とデジタル信号処理回路(DSP)とを有し、アナログ・デジタル変換器はI相復調信号とQ相復調信号とを時系列毎にアナログ・デジタル変換し、I相振幅値X0、X1、X2、・・・、XtとQ相振幅値Y0、Y1、Y2、・・・、Ytとを抽出する。デジタル信号処理回路は、I相振幅値X0、X1、X2、・・・、XtとQ相振幅値Y0、Y1、Y2、・・・、Ytとを時系列に並べ、そこからガードインターバル等の特徴のあるパターン検出のため相関計算を行い、情報伝送フレームの開始位置を見つけ出し、情報伝送フレーム中のパイロット・シンボルと情報のデータ・シンボルとを分離抽出する。一般に、アンテナ素子101で受信されたマイクロ波S1には、何らかの外的要因により歪みが生じており、図17に示すような振幅ずれ、図18に示すような位相角ずれ、またはその両方が観測される。デジタル信号処理回路は、情報伝送フレーム中のパイロット・シンボルの抽出した直後に、パイロット・シンボルの瞬時のI相振幅値XtとQ相振幅値Ytと用いて、以下の2つの計算を実行する。位相角ずれ:θpilot=arctan(Yt/Xt)を計算し、図19に示すように位相角ずれθpilotを求める。現時点のパイロット・シンボルの振幅値:√(Xt*Xt+Yt*Yt)を計算し、図19に示すようにパイロット・シンボル点42と原点との距離、即ち振幅ずれを含んだパイロット・シンボルのI相振幅値を求める。さらに、ゲインのフィードバックのため、パイロット・シンボルの振幅ずれ:√(Xt*Xt+Yt*Yt)−(パイロット・シンボルのI相振幅値の規定値)を計算し、その値に比例した直流電圧V5を生成する。直流電圧V5はフィードバックの信号線FBを経由し直流バイアス電流印加部10に与えられる。直流バイアス電流印加部10は直流電圧V5を一定に保つように直流バイアス電流DC1を調整するように構成される。そのため、磁気抵抗効果素子2は、アンテナ素子101で受信したマイクロ波の入力信号レベルが外乱要因でバラツキがあったとしても、常に一定のI相の復調信号S7及びQ相の復調信号S8を出力することができ、オートゲイン制御を実現できる。
デジタル信号処理回路は、パイロット・シンボルの振幅ずれ及び位相角ずれθpilotを使い、情報のデータ・シンボルに対しても歪み補正を行うが、それにより直角位相振幅変復調方式(QAM)で散在した情報のデータ・シンボル点が正しい位置に再配置される。デジタル信号処理回路は、直角位相振幅変復調方式(QAM)を復調するために、確率密度を考慮する最尤検出を行うViterbi誤り訂正を実行し、多値の数値化処理を進めることができる。本発明のマイクロ波受信装置800は、オートゲイン制御機能が可能であるため、直角位相振幅変復調方式(QAM)における多値シンボル伝送の受信精度が安定し、通信速度を飛躍的に高めることができる。
本発明の第7の実施形態において、図12はマイクロ波受信装置900の回路図を示しているが、マイクロ波受信装置900は第5の実施形態のRFレシーバと復調フィルタの混載回路600の一部改良に加えて、第6の実施形態のベースバンドコントローラ部400を有したものであり、復調フィルタ350で出力されたI相復調信号S4a、Q相復調信号S4bが後段のベースバンドコントローラ部400に入力される。第5の実施形態のRFレシーバと復調フィルタの混載回路600の一部改良とは、磁気抵抗効果素子2a、2bより生成される乗算出力S4a、S4bにおいて、乗算出力S4a、S4bに伴う電流の一部をインダクター9a、9bに導き、乗算出力S4a、S4bの直流起電圧V3、V4がインダクター9a、9bおよびフィードバックの信号線FBa、FBbをそれぞれ経由し直流バイアス電流印加部10a、10bに与えられていたところが変わり、ベースバンドコントローラ部400より出力される直流電圧V5がフィードバックの信号線FBを経由し直流バイアス電流印加部10a、10bに与えられるように変更されている。また、マイクロ波S1はI相とQ相の2つの直交搬送波で伝送される多値シンボル伝送信号を含み、多値シンボル伝送信号は直角位相振幅変復調方式(QAM)における情報伝送フレームに配置されたBPSKのパイロット・シンボル42を含んでいる。
マイクロ波受信装置900は、磁気抵抗効果素子2a、2bが第5の実施形態と同じくダイレクトコンバージョン型の混合器として機能し、ベースバンドコントローラ部400が第6の実施形態と同じく直流電圧V5を生成し、直流電圧V5はフィードバックの信号線FBを経由し直流バイアス電流印加部10に与えられる。直流バイアス電流印加部10は直流電圧V5を一定に保つように直流バイアス電流DCa、DCbを調整するように構成される。そのため、磁気抵抗効果素子2は、アンテナ素子101で受信したマイクロ波S1の入力信号レベルが外乱要因でバラツキがあったとしても、常に一定のI相復調信号S4a及びQ相復調信号S4bを出力することができ、オートゲイン制御を実現できる。本発明のマイクロ波受信装置900は、オートゲイン制御機能が可能であるため、直角位相振幅変復調方式(QAM)における多値シンボル伝送の受信精度が安定し、通信速度を飛躍的に高めることができる。
本発明の実施形態に係る評価治具を図13に示しているが、磁気抵抗効果素子2はダウンコンバージョン型の混合器として混合特性を評価するため、マイクロ波S1、ローカル信号S2、乗算信号S4をそれぞれ観測した。マイクロ波S1はネットワークアナライザ(アジレント社:型名8720ES)51で生成し、キャパシタ4(TDK社製:1005型チップキャパシタ)を経由し、SMA端子52に入力される。ローカル信号S2はローカル信号発生器(アジレント社製:型名83620B)12で生成し、キャパシタ5(同じくTDK社製:1005型チップキャパシタ)を経由し、SMA端子52に入力される。さらに直流電流DC1は、直流電流源(アドバンテスト社製:型名R6144)10は交流カット用インダクターを経由し、SMA端子52に入力される。入力された信号は、評価治具上のSMA端子52を通じて、伝送線路L1及びLmのマイクロストリップラインに注入される。磁気抵抗効果素子2は伝送線路Lmおよびグランドプレーン53間にボンディングワイヤ54によって接続される。さらに評価治具は、伝送路L1、Lmに接続されたλ/4スタブライン55およびこのλ/4スタブライン55に接続された扇型のλ/4スタブ56で所望の周波数カットフィルタを構成し、乗算信号の取り出し端S4に到達するまでに入力信号S1とS2を減衰させる。λは、ローカル信号S2(周波数f2)の波長である。磁気抵抗効果素子2で発生する信号(f1+f2)、(f1−f2)、2×f1、2×f2、3×f1、3×f2、・・・に対して、周波数成分f1、f2は他の周波数成分は非常に大きい信号であるため、十分に減衰させる必要がある。
本発明の実施形態に係る評価治具を用いた実験によれば、図14(A)に示すように、RF信号S1(周波数f1=2.05GHz)、およびローカル信号S2(周波数f2=2.0GHz)を入力したとき、磁気抵抗効果素子2は、図14(B)に示すように、乗算信号S4(周波数(f1−f2)=50MHz)を発生させることができる。さらに磁気抵抗効果素子2は、直流バイアス電流を0.1mA〜0.3mA程度印加するとこの乗算信号をさらに大きく増大させることができる。
本発明の実施形態において、磁気抵抗効果素子2は混合器として応用され、位相偏移変調方式を実現する方法を論じる。図15は、位相偏移変調方式のBPSK、QPSK、8PSKの星座図(I軸とQ軸との直交座標)の例であるが、情報伝送の搬送波が周波数一定且つ振幅一定で、位相のみ変化させる必要がある。磁気抵抗効果素子2の混合器は、磁化自由層に印加される磁場強さにより共振周波数が決まるため、仮にアンテナ素子101で受信されたマイクロ波S1の高速な周波数の変化するような場合、磁場強さの調整が必要なため共振周波数が追従できないところがある。また位相偏移変調方式は振幅も一定であるため、磁気抵抗効果素子2の混合器として安定動作が期待できる。
本発明の実施形態において、磁気抵抗効果素子2は混合器として応用され、直角位相振幅変調方式を実現する方法を論じる。図16は、直角位相振幅変調方式の16QAM、64QAMの星座図(I軸とQ軸との直交座標)であるが、黒丸で示される情報データ・シンボル41と、白丸で示されるパイロット・シンボル42が存在している。パイロット・シンボル42は、情報を含まない特別なシンボルであり、伝送信号フレームの先頭に配置され、その後方にデータ・シンボル41が配置される。パイロット・シンボルは伝送路歪みの状態を確認することが目的である。データ・シンボルは、パイロット・シンボル補正を活用することで精度よく多値の数値化を実現することができる。図17及び図18は直角位相振幅変調方式の16QAMにおける伝送路歪みを表現する。図17は、トンネルや障害物などが伝送路上に存在して振幅変動するような例を示しているが、パイロット・シンボル及びデータ・シンボルがグラフ上の原点から近くに寄ったり、遠く離れたり移動する。パイロット・シンボルの振幅ずれ(変動量)を定量的に知るために、I軸上X0、X1、X2をプロットし、パイロット・シンボルの元の位置(振幅規定値)より、どれだけ離れたか測定し計算処理する。図18は、伝送路距離がビル建物の反射や迂回、ドップラー効果などの外的要因で位相角が変動してしまう例を示しているが、パイロット・シンボルがI相とQ相の直交座標系を回転する。パイロット・シンボルの位相角ずれ(変動量)を定量的に知るために、R0、R1、R2をプロットし、パイロット・シンボルの元の位置より、どれだけ離れたか測定し計算処理する。図19は、パイロット・シンボルのI相振幅値XtとQ相振幅値Ytを抽出し、位相角のずれ:θpilot=arctan(Yt/Xt)を計算する様子を示している。位相角ずれに応じた直流電圧を生成し、フィードバック線路を用いて、VCO(voltage control oscillator )型のローカル発振器12を備えることで、位相角ずれの修正が出来るが、詳細は省略する。
図20は、本発明の実施形態において、磁気抵抗効果素子2を実装した評価治具を使用し、マイクロ波信号54Mbps、OFDM波、64QAM直角位相振幅変調方式による信号波を与えた時の実験結果を示している。4分割された画面は、EVM評価装置(アジレント社:型名N9020A)のモニタ画面であるが、左上が64QAM信号星座図の様子、右上が時間域のOFDM波の様子、左下が周波数域のOFDM波の様子、右下がEVM評価(EVM;Error Vector Measurements)の算出値の様子を表示している。64QAM信号星座図は、64個の情報データ・シンボルと、I軸上付近にハイライトで示される2個のパイロット・シンボルが観測できる。尚、実験に使用した測定機器は、スペシャルファンクション発振器(アジレント社:型名N5182A)51と、ローカル発振器(アジレント社:型名83620B)12と、直流電流源(アドバンテスト社製:型名R6144)10と、図6で示したマイクロ波受信装置と、前記のEVM評価装置(アジレント社:型名N9020A)である。スペシャルファンクション発振器51はOFDM波S1を生成し、ローカル信号発生器12はローカル信号S2を生成し、直流電流源10は直流バイアス電流DC1を生成している。それらは評価治具上のSMA端子52を通じて、マイクロストリップラインL1及びLmに注入され、磁気抵抗効果素子2に印加される。磁気抵抗効果素子2はダウンコンバージョン型の混合器として機能し、乗算信号S4を生成する。乗算信号S4はEVM評価装置で読み取られて、EVM評価装置内でOFDM復調し、即ち、ガードインターバル抽出の相関処理とFFT変換計算とI相及びQ相の復調フィルタ等を経て、XYリサージュ図に投影される。この実験の結果、磁気抵抗効果素子2の混合器で64QAMの信号星座図を再現できたが、EVM値で−20.55dBが得られた。磁気抵抗効果素子2の持つ変復調特性において、マイクロ波信号54Mbps、OFDM波、64QAM直角位相振幅変調方式による信号波の受信性能を初めて確認できた共に、位相追従性・振幅追従性の可能性が十分にあることを知ることができた。
上述の実施形態においてはマイクロ波受信装置について説明をしたが、本発明はマイクロ波受信装置に限定されない。例えば、上述の実施形態と同様の構成により、フィルタや周波数変換装置、ゲインコントローラ、発振器、ダイオード検波器などとして用いることのできる磁気抵抗効果デバイスを実現することが可能であることは、説明するまでもなく自明である。