以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る電動パワーステアリング装置を搭載した車両を模式的に示した斜視図である。図2は、実施形態1に係る電動パワーステアリング装置の模式図である。図1に示すように、車両101は、電動パワーステアリング装置80を搭載している。図2に示すように、電動パワーステアリング装置80は、操作者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト82と、操舵力アシスト機構83と、ユニバーサルジョイント84と、ロアシャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、を備え、ピニオンシャフト87に接合されている。また、電動パワーステアリング装置80は、モータ制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)90と、トルクセンサ94と、を備える。車速センサ95は、車体に備えられ、CAN(Controller Area Network)通信により信号として車速VをECU90に出力する。
図2に示すように、ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bと、を備える。入力軸82aの一方の端部がステアリングホイール81に連結され、入力軸82aの他方の端部が出力軸82bに連結される。また、出力軸82bの一方の端部が入力軸82aに連結され、出力軸82bの他方の端部がユニバーサルジョイント84に連結される。本実施形態では、入力軸82a及び出力軸82bは、機械構造用炭素鋼(SC材(Carbon Steel for Machine Structural Use))又は機械構造用炭素鋼鋼管(いわゆるSTKM材(Carbon Steel Tubes for Machine Structural Purposes))等の一般的な鋼材等から形成される。
図2に示すように、ロアシャフト85は、ユニバーサルジョイント84を介して出力軸82bに連結される部材である。ロアシャフト85の一方の端部がユニバーサルジョイント84に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント86に連結される。また、ピニオンシャフト87の一方の端部がユニバーサルジョイント86に連結され、ピニオンシャフト87の他方の端部がステアリングギヤ88に連結される。
図2に示すように、ステアリングギヤ88は、ピニオン88aと、ラック88bと、を備える。ピニオン88aは、ピニオンシャフト87に連結される。ラック88bは、ピニオン88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に連結される。
図2に示すように、操舵力アシスト機構83は、減速装置92と、モータ93と、を備える。モータ93は、例えばブラシレスモータである。モータ93は、正弦波駆動の三相交流モータである。減速装置92は、例えばウォーム減速装置である。モータ93で生じたトルクは、減速装置92の内部のウォームを介してウォームホイールに伝達され、ウォームホイールを回転させる。減速装置92は、ウォーム及びウォームホイール(ウォームギヤ)によって、モータ93で生じたトルクを増加させる。そして、減速装置92は、出力軸82bに補助操舵トルクを与える。電動パワーステアリング装置80は、コラムアシスト方式である。
出力軸82bを介して出力された操舵トルク(補助操舵トルクを含む)は、ユニバーサルジョイント84を介してロアシャフト85に伝達され、さらにユニバーサルジョイント86を介してピニオンシャフト87に伝達される。ピニオンシャフト87に伝達された操舵トルクは、ステアリングギヤ88を介してタイロッド89に伝達され、車輪を変位させる。
ECU90は、モータ93の動作を制御する装置である。イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)からECU90に電力が供給される。ECU90は、トルクセンサ94、車速センサ95及び回転検出部23a(図11参照)から信号を取得する。具体的には、ECU90は、トルクセンサ94から操舵トルクTを取得する。ECU90は、車速センサ95から車体の車速Vを取得する。ECU90は、回転検出部23aから出力される情報を動作情報Yとして取得する。ECU90は、操舵トルクTと車速Vと動作情報Yとに基づいて補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてモータ93へ供給する電力値Xを調節する。
図3は、実施形態1に係るトルクセンサを模式的に示す斜視図である。図4は、実施形態1に係るトルクセンサを模式的に示す側面図である。図5は、図4におけるA−A断面図である。図6は、図4におけるB−B断面図である。トルクセンサ94は、入力軸82aに伝達された操舵トルクTを検出する。具体的に、トルクセンサ94は、図3に示すように、トーションバー82cと、第1多極リング磁石10と、第2多極リング磁石11と、入力軸回転角センサ12と、出力軸回転角センサ13と、を備える。トーションバー82cは、例えば鋼材で形成された弾性部材である。トーションバー82cは、入力軸82a及び出力軸82bを連結している。
第1多極リング磁石10及び第2多極リング磁石11は、例えば交互に配置されたS極及びN極を外周面に有する。第1多極リング磁石10及び第2多極リング磁石11には、必要な磁束密度に応じて、例えば、ネオジム磁石、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石等が用いられる。第1多極リング磁石10は、例えば入力軸82aの出力軸82b側の端部に取り付けられており、入力軸82aと共に回転する。第2多極リング磁石11は、例えば出力軸82bの入力軸82a側の端部に取り付けられており、出力軸82bと共に回転する。
入力軸回転角センサ12は、入力軸82aの回転角である入力軸回転角θis(第1多極リング磁石10の回転角)を検出する。入力軸回転角センサ12は、例えば車体に固定されている。入力軸回転角センサ12は、第1多極リング磁石10の回転角に応じてsin信号及びcos信号を出力する。入力軸回転角センサ12は、図3に示すように、第1sin磁気センサ14及び第1cos磁気センサ15を備える。第1sin磁気センサ14及び第1cos磁気センサ15は、第1多極リング磁石10の外周面に対向している。第1cos磁気センサ15は、第1sin磁気センサ14に対して、第1多極リング磁石10の電気角で90°の位相差を有するように配置されている。第1sin磁気センサ14は、第1多極リング磁石10の回転角に応じて、sinθisを出力する。第1cos磁気センサ15は、第1多極リング磁石10の回転角に応じて、cosθisを出力する。
出力軸回転角センサ13は、出力軸82bの回転角である出力軸回転角θos(第2多極リング磁石11の回転角)を検出する。出力軸回転角センサ13は、例えば車体に固定されている。出力軸回転角センサ13は、第2多極リング磁石11の回転角に応じてsin信号及びcos信号を出力する。出力軸回転角センサ13は、図3に示すように、第2sin磁気センサ16及び第2cos磁気センサ17を備える。第2sin磁気センサ16及び第2cos磁気センサ17は、第2多極リング磁石11の外周面に対向している。第2cos磁気センサ17は、第2sin磁気センサ16に対して、第2多極リング磁石11の電気角で90°の位相差を有するように配置されている。第2sin磁気センサ16は、第2多極リング磁石11の回転角に応じて、sinθosを出力する。第2cos磁気センサ17は、第2多極リング磁石11の回転角に応じて、cosθosを出力する。
第1sin磁気センサ14、第1cos磁気センサ15、第2sin磁気センサ16、及び第2cos磁気センサ17には、例えば、ホール素子、ホールIC、MR(Magneto Resistance effect)センサ等が用いられる。
図7及び図8は、実施形態1に係るトルクセンサを機能ブロックを用いて示す模式図である。図7に示すように、相対角度演算部18と、トルク演算部19と、を備える。
相対角度演算部18は、入力軸回転角センサ12及び出力軸回転角センサ13から入力される信号に基づき、入力軸82aに対する出力軸82bの相対角度(第1多極リング磁石10に対する第2多極リング磁石11の相対角度)を演算し、演算結果を相対角度Δθioとしてトルク演算部19に出力する。具体的には、相対角度演算部18は、図8に示すように、入力軸回転角演算部181と、出力軸回転角演算部182と、差分演算部183と、を備える。
入力軸回転角演算部181には、第1sin磁気センサ14から出力されたsinθis及び第1cos磁気センサ15から出力されたcosθisが入力される。入力軸回転角演算部181は、sinθisをcosθisで除した値の逆正接関数、すなわち下記式(1)により入力軸回転角θis(rad)を演算する。
出力軸回転角演算部182には、第2sin磁気センサ16から出力されたsinθos及び第2cos磁気センサ17から出力されたcosθosが入力される。出力軸回転角演算部182は、sinθosをcosθosで除した値の逆正接関数、すなわち下記式(2)により出力軸回転角θos(rad)を演算する。
差分演算部183には、入力軸回転角演算部181から出力された入力軸回転角θisと、出力軸回転角演算部182から出力された出力軸回転角θosが入力される。差分演算部183は、入力軸回転角θis及び出力軸回転角θosの差分を相対角度Δθioとしてトルク演算部19に出力する。
トルク演算部19は、相対角度演算部18から入力された相対角度Δθioに基づき、操舵トルクTを演算する。例えば、トルク演算部19は、トーションバー82cの特性によって決まる、相対角度Δθioと操舵トルクTとの関係を記憶している。トルク演算部19は、相対角度演算部18から入力された相対角度Δθioと、記憶された相対角度Δθioと操舵トルクTとの関係と、に基づいて操舵トルクTを演算する。
図9は、実施形態1に係るモータの断面図である。図10は、実施形態1に係るモータの配線を示す模式図である。モータ93は、図9に示すように、ハウジング930と、ステータ931と、ロータ932と、を備える。ステータ931は、円筒状であるステータコア931と、複数の第1コイル37と、複数の第2コイル38を含む。ステータコア931は、環状のバックヨーク931aと、バックヨーク931aの内周面から突出する複数のティース931bと、を備える。ティース931bは、周方向に12個配置されている。ロータ932は、ロータヨーク932aと、マグネット932bとを含む。マグネット932bは、ロータヨーク932aの外周面に設けられている。マグネット932bの数は、例えば8つである。
図9に示すように、第1コイル37は、複数のティース931bのそれぞれに集中巻きされている。第1コイル37は、ティース931bの外周にインシュレータを介して集中巻きされる。全ての第1コイル37は、第1インバータ27(図11参照)によって励磁される系統である第1コイル系統に含まれる。第1コイル系統は、例えば第1コイル37を6つ含む。6つの第1コイル37は、2つの第1コイル37が周方向で互いに隣接するように配置されている。隣接する第1コイル37を1つのグループとした第1コイルグループGr1が、周方向に等間隔に3つ配置されている。すなわち、第1コイル系統は、周方向に等間隔に並べられた3つの第1コイルグループGr1を備えている。なお、第1コイルグループGr1は、必ずしも3つでなくてもよく、nを自然数としたときに周方向に等間隔に3n個配置されていればよい。また、nは奇数である方が望ましい。
図9に示すように、第2コイル38は、複数のティース931bのそれぞれに集中巻きされている。第2コイル38は、ティース931bの外周にインシュレータを介して集中巻きされる。第2コイル38が集中巻きされるティース931bは、第1コイル37が集中巻きされるティース931bとは異なるティース931bである。全ての第2コイル38は、第2インバータ29(図11参照)によって励磁される系統である第2コイル系統に含まれる。第2コイル系統は、例えば第2コイル38を6つ含む。6つの第2コイル38は、2つの第2コイル38が周方向で互いに隣接するように配置されている。隣接する第2コイル38を1つのグループとした第2コイルグループGr2が、周方向に等間隔に3つ配置されている。すなわち、第2コイル系統は、周方向に等間隔に並べられた3つの第2コイルグループGr2を備えている。なお、第2コイルグループGr2は、必ずしも3つでなくてもよく、nを自然数としたときに周方向に等間隔に3n個配置されていればよい。また、nは奇数である方が望ましい。
図10に示すように、6つの第1コイル37は、第1U相電流I1uにより励磁される2つの第1U相コイル37Ua及び第1U相コイル37Ubと、第1V相電流I1vにより励磁される2つの第1V相コイル37Va及び第1V相コイル37Vbと、第1W相電流I1wにより励磁される2つの第1W相コイル37Wa及び第1W相コイル37Wbと、を含む。第1U相コイル37Ubは、第1U相コイル37Uaに対して直列に接続されている。第1V相コイル37Vbは、第1V相コイル37Vaに対して直列に接続されている。第1W相コイル37Wbは、第1W相コイル37Waに対して直列に接続されている。第1コイル37のティース931bに対する巻き方向は、全て同じ方向である。また、第1U相コイル37Ub、第1V相コイル37Vb及び第1W相コイル37Wbは、スター結線(Y結線)で接合されている。
図10に示すように、6つの第2コイル38は、第2U相電流I2uにより励磁される2つの第2U相コイル38Ua及び第2U相コイル38Ubと、第2V相電流I2vにより励磁される2つの第2V相コイル38Va及び第2V相コイル38Vbと、第2W相電流I2wにより励磁される2つの第2W相コイル38Wa及び第2W相コイル38Wbと、を含む。第2U相コイル38Ubは、第2U相コイル38Uaに対して直列に接続されている。第2V相コイル38Vbは、第2V相コイル38Vaに対して直列に接続されている。第2W相コイル38Wbは、第2W相コイル38Waに対して直列に接続されている。第2コイル38のティース931bに対する巻き方向は、全て同じ方向であり、第1コイル37の巻き方向と同じである。また、第2U相コイル38Ub、第2V相コイル38Vb及び第2W相コイル38Wbは、スター結線(Y結線)で接合されている。
図9に示すように、3つの第1コイルグループGr1は、第1UVコイルグループGr1UVと、第1VWコイルグループGr1VWと、第1UWコイルグループGr1UWと、からなる。第1UVコイルグループGr1UVは、周方向で互いに隣接する第1U相コイル37Ubおよび第1V相コイル37Vaを含む。第1VWコイルグループGr1VWは、周方向で互いに隣接する第1V相コイル37Vbおよび第1W相コイル37Waを含む。第1UWコイルグループGr1UWは、周方向で互いに隣接する第1U相コイル37Uaおよび第1W相コイル37Wbを含む。
図9に示すように、3つの第2コイルグループGr2は、第2UVコイルグループGr2UVと、第2VWコイルグループGr2VWと、第2UWコイルグループGr2UWと、からなる。第2UVコイルグループGr2UVは、周方向で互いに隣接する第2U相コイル38Ubおよび第2V相コイル38Vaを含む。第2VWコイルグループGr2VWは、周方向で互いに隣接する第2V相コイル38Vbおよび第2W相コイル38Waを含む。第2UWコイルグループGr2UWは、周方向で互いに隣接する第2U相コイル38Uaおよび第2W相コイル38Wbを含む。
第1U相電流I1uにより励磁される第1コイル37は、第2U相電流I2uにより励磁される第2コイル38に、ステータコア931の径方向で対向している。以下の説明において、ステータコア931の径方向は、単に径方向と記載される。例えば、図9に示すように、径方向で第1U相コイル37Uaが第2U相コイル38Uaに対向し、第1U相コイル37Ubが第2U相コイル38Ubに対向している。
第1V相電流I1vにより励磁される第1コイル37は、第2V相電流I2vにより励磁される第2コイル38に、径方向で対向している。例えば、図9に示すように、径方向で第1V相コイル37Vaが第2V相コイル38Vaに対向し、第1V相コイル37Vbが第2V相コイル38Vbに対向している。
第1W相電流I1wにより励磁される第1コイル37は、第2W相電流I2wにより励磁される第2コイル38に、径方向で対向している。例えば、図9に示すように、径方向で第1W相コイル37Waが第2W相コイル38Waに対向し、第1W相コイル37Wbが第2W相コイル38Wbに対向している。
図11は、実施形態1に係るモータとECUとの関係を示す模式図である。図11に示すように、ECU90は、電流指令値演算部24と、モータ電気角演算部23と、第1ゲート駆動回路25と、第2ゲート駆動回路26と、第1インバータ27と、第2インバータ28と、を備えている。電流指令値演算部24は、モータ電流指令値を演算する。モータ電気角演算部23は、モータ電気角θmを演算し、電流指令値演算部24に出力する。第1ゲート駆動回路25及び第2ゲート駆動回路26には、電流指令値演算部24から出力されるモータ電流指令値が入力される。
モータ93は、図11に示すように、モータ回転角センサとして回転検出部23aを備えている。回転検出部23aは、例えばレゾルバである。回転検出部23aの検出値がモータ電気角演算部23に供給される。モータ電気角演算部23は、回転検出部23aの検出値に基づいてモータ電気角θmを演算し、電流指令値演算部24に出力する。
電流指令値演算部24には、トルクセンサ94で検出された操舵トルクTと、車速センサ95で検出された車速Vと、モータ電気角演算部23から出力されるモータ電気角θmと、が入力される。電流指令値演算部24は、操舵トルクT、車速V及びモータ電気角θmに基づいて電流指令値を算出し、第1ゲート駆動回路25及び第2ゲート駆動回路26に出力する。
第1ゲート駆動回路25は、電流指令値に基づいて第1パルス幅変調信号を演算し、第1インバータ27に出力する。第1インバータ27は、第1パルス幅調変信号のデューティ比に応じて、三相の電流値となるように電界効果トランジスタをスイッチングして第1U相電流I1u、第1V相電流I1v及び第1W相電流I1wを含む三相交流を生成する。第1U相電流I1uが第1U相コイル37Ua及び第1U相コイル37Ubを励磁し、第1V相電流I1vが第1V相コイル37Va及び第1V相コイル37Vbを励磁し、第1W相電流I1wが第1W相コイル37Wa及び第1W相コイル37Wbを励磁する。
第2ゲート駆動回路26は、電流指令値に基づいて第2パルス幅変調信号を演算し、第2インバータ28に出力する。第2インバータ28は、第2パルス幅調変信号のデューティ比に応じて、3相の電流値となるように電界効果トランジスタをスイッチングして第2U相電流I2u、第2V相電流I2v及び第2W相電流I2wを含む三相交流を生成する。第2U相電流I2uが第2U相コイル38Ua及び第2U相コイル38Ubを励磁し、第2V相電流I2vが第2V相コイル38Va及び第2V相コイル38Vbを励磁し、第2W相電流I2wが第2W相コイル38Wa及び第2W相コイル38Wbを励磁する。
図11に示すように、電動パワーステアリング装置80は、モータ93の各相の電流値を検出するための第1電流センサ31u、第1電流センサ31v、第1電流センサ31w、第2電流センサ33u、第2電流センサ33v及び第2電流センサ33wを備える。例えば、第1電流センサ31u、第1電流センサ31v、第1電流センサ31w、第2電流センサ33u、第2電流センサ33v及び第2電流センサ33wは、それぞれシャント抵抗を備える。第1電流センサ31uは、第1U相電流値Idct1U、を検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第1電流センサ31vは、第1V相電流値Idct1Vを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第1電流センサ31wは、第1W相電流値Idct1Wを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電流センサ33uは、第2U相電流値Idct2Uを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電流センサ33vは、第2V相電流値Idct2Vを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電流センサ33wは、第2W相電流値Idct2Wを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。
以下の説明において、第1U相電流値Idct1U、第1V相電流値Idct1V及び第1W相電流値Idct1Wを区別して説明する必要がない場合、第1電流値Id1と記載される場合がある。第2U相電流値Idct2U、第2V相電流値Idct2V及び第2W相電流値Idct2Wを区別して説明する必要がない場合、第2電流値Id2と記載される場合がある。第1電流センサ31u、第1電流センサ31v及び第1電流センサ31wを区別して説明する必要がない場合、1電流センサ31と記載される場合がある。第2電流センサ33u、第2電流センサ33v及び第2電流センサ33wを区別して説明する必要がない場合、第2電流センサ33と記載される場合がある。
図11に示すように、電動パワーステアリング装置80は、モータ93の各相電圧値を検出するための第1電圧センサ32u、第1電圧センサ32v、第1電圧センサ32w、第2電圧センサ34u、第2電圧センサ34v及び第2電圧センサ34wを備える。第1電圧センサ32uは、第1U相電圧値Vdct1Uを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第1電圧センサ32vは、第1V相電圧値Vdct1Vを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第1電圧センサ32wは、第1W相電圧値Vdct1Wを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電圧センサ34uは、第2U相電圧値Vdct2Uを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電圧センサ34vは、第2V相電圧値Vdct2Vを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電圧センサ34wは、第2W相電圧値Vdct2Wを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。
以下の説明において、第1U相電圧値Vdct1U、第1V相電圧値Vdct1V及び第1W相電圧値Vdct1Wを区別して説明する必要がない場合、第1電圧値Vd1と記載される場合がある。第2U相電圧値Vdct2U、第2V相電圧値Vdct2V及び第2W相電圧値Vdct2Wを区別して説明する必要がない場合、第2電圧値Vd2と記載される場合がある。第1電圧センサ32u、第1電圧センサ32v、第1電圧センサ32wを区別して説明する必要がない場合、第1電圧センサ32と記載される場合がある。第2電圧センサ34u、第2電圧センサ34v及び第2電圧センサ34wを区別して説明する必要がない場合、第2電圧センサ34と記載される場合がある。
図12は、実施形態1に係るモータ電気角演算部を示す模式図である。モータ電気角演算部23は、図12に示すように、メインモータ電気角演算部23bと、サブモータ電気角演算部23cと、電気角選択部23dと、RAM50と、ROM51と、を備えている。メインモータ電気角演算部23bは、角度演算部60と、回転検出異常診断部61と、を備えている。角度演算部60は、回転検出部23aから出力されるモータ93の回転角に応じたsin信号及びcos信号に基づいて第1モータ電気角θm1を演算する。そして、演算した第1モータ電気角θm1を電気角選択部23dに出力する。回転検出異常診断部61は、回転検出部23a及び角度演算部60の異常を検出し、異常検出信号SArを出力する。
サブモータ電気角演算部23cは、回転検出部23aから出力される情報を用いずに、推定値として第2モータ電気角θm2を算出する。サブモータ電気角演算部23cは、図12に示すように、相対オフセット量推定部62と、モータ電気角推定部63と、モータ電気角補正部64と、を備える。
相対オフセット量推定部62は、モータ電気角θmの原点θmdに対する出力軸回転角θosの基準値θosrの相対オフセット量θoffを推定する。以下の説明において、モータ電気角θmの原点θmdは、モータ電気角原点θmdと記載される場合がある。基準値θosrは、システム起動時(イグニッションスイッチ98がOFFからONになった時刻)の出力軸回転角θosである。そして、相対オフセット量推定部62は、推定した相対オフセット量θoffをモータ電気角推定部63に出力する。
図13は、実施形態1に係る相対オフセット量推定部を示す模式図である。相対オフセット量推定部62は、図13に示すように、第1相対オフセット量推定部621と、第2相対オフセット量推定部622と、相対オフセット量選択部623と、を備えている。第1相対オフセット量推定部621は、回転検出部23a及び角度演算部60が正常である場合に、出力軸回転角センサ13で検出される出力軸回転角θosと、メインモータ電気角演算部23bで検出される第1モータ電気角θm1とに基づき第1の相対オフセット量θoff1を推定する。そして、推定した第1の相対オフセット量θoff1をRAM50に記憶する。
回転検出部23a及び角度演算部60が正常であるときは、第1相対オフセット量推定部621は、モータ電気角原点θmdを取得することができるので、第1の相対オフセット量θoff1を容易に推定することできる。回転検出部23a又は角度演算部60に異常があるときには、第1相対オフセット量推定部621は、モータ電気角原点θmdを取得することができない。回転検出部23a又は角度演算部60に異常があるときのために、第2相対オフセット量推定部622及び相対オフセット量選択部623が設けられている。
第2相対オフセット量推定部622は、システム再起動時(イグニッションスイッチ98がOFF状態からON状態となる時刻)の回転検出異常診断部61による初期診断にて、異常検出信号SArが異常ありを示す値であったときに、第2の相対オフセット量θoff2を推定する。具体的には、第2相対オフセット量推定部622は、モータ電気角原点θmdを推定すると共に、推定したモータ電気角原点θmdに基づき第2の相対オフセット量θoff2を推定する。そして、推定した第2の相対オフセット量θoff2をRAM50に記憶する。
第2相対オフセット量推定部622は、システム再起動時にトルクセンサ94で検出される操舵トルクTをトルクオフセット量ToffとしてRAM50に記憶する。
次に、第2相対オフセット量推定部622は、現在のモータ電気角θmを仮定モータ電気角θXと仮定し、仮定モータ電気角θXに対応するステップ波状の電流をモータ93に入力するように電流出力指令Ioiを電流指令値演算部24に出力する。電流指令値演算部24は、サブモータ電気角演算部23cからの電流出力指令Ioiの入力に応じて、仮定モータ電気角θXに対応するステップ波状の電流をモータ93に入力する。第2相対オフセット量推定部622は、ステップ波状の電流のモータ93への入力に応じてトルクセンサ94で検出される操舵トルクTを取得する。
次に、第2相対オフセット量推定部622は、取得した操舵トルクTからトルクオフセット量Toffを減算する。システム起動時において、イグニッションスイッチ98がON状態になる際にドライバがステアリングホイール81に力をかけている場合等に、操舵トルクTが0でない可能性がある。第2相対オフセット量推定部622は、システム起動時の操舵トルクTをトルクオフセット量Toffとして予め記憶しておき、システム起動後に検出される操舵トルクTから差し引く。
次に、第2相対オフセット量推定部622は、トルクオフセット量Toffが減算された後の操舵トルクTについてトルク波形の対称性を判定する。第2相対オフセット量推定部622は、トルク波形の振幅が正負で同等か否かを判定する。第2相対オフセット量推定部622は、振幅が正負で同等であると判定した場合のモータ電気角θmをモータ電気角原点θmdであると推定する。
一方、減算後の操舵トルクTにおいてトルク波形の振幅が正負で同等ではない(トルク指令通りの出力ではない)と判定した場合は、そのときのモータ電気角θmはモータ電気角原点θmdではない。この場合、第2相対オフセット量推定部622は、振幅が正負で異なるトルク波形の形状から、仮定モータ電気角θXを所定角度シフトさせて更新した仮定モータ電気角θXとし、更新した仮定モータ電気角θXに対応するステップ波状の電流をモータ93に入力するように電流出力指令Ioiを電流指令値演算部24に出力する。第2相対オフセット量推定部622は、このような処理をトルク波形の振幅が正負で同等と判定されるまで繰り返し実行する。
相対オフセット量選択部623は、システム起動中に異常検出信号SArが異常ありを示す値となった場合に、第1の相対オフセット量θoff1を選択する。相対オフセット量選択部623は、システム再起動後の初期診断で異常検出信号SArが異常ありを示す値となった場合に、第2の相対オフセット量θoff2を選択する。第1の相対オフセット量θoff1及び第2の相対オフセット量θoff2のうち選択した方をRAM50から読み出し、相対オフセット量θoffとしてモータ電気角推定部63に出力する。
モータ電気角推定部63は、出力軸回転角センサ13が検出した出力軸回転角θosと、ROM51に予め記憶された減速装置92(図2参照)の減速比RGr及びロータ932(図9参照)の極対数Pと、相対オフセット量推定部62で推定した相対オフセット量θoffとに基づきモータ電気角推定値θmeを算出する。そして、算出したモータ電気角推定値θmeをモータ電気角補正部64に出力する。
具体的に、モータ電気角推定部63は、下記式(3)にしたがって、モータ電気角推定値θme(rad)を算出する。
モータ電気角補正部64は、モータ93の誘起電圧に基づきモータ電気角推定値θmeを補正する。そして、補正後のモータ電気角推定値を第2モータ電気角θm2として電気角選択部23dに出力する。
図14は、実施形態1に係るモータ電気角補正部を示す模式図である。図15は、操舵力アシスト機構の機械要素の変形特性による、負荷トルクとモータ電気角の変化量との関係の一例を示す模式図である。図16は、実施形態1に係る補正部によるモータ電気角推定値の補正を示す模式図である。図14に示すように、モータ電気角補正部64は、第1誘起電圧算出部641aと、第2誘起電圧算出部641bと、第1ゼロクロスタイミング検出部642aと、第2ゼロクロスタイミング検出部642bと、角度誤差算出部643と、補正部644と、を備えている。なお、第1誘起電圧算出部641aと第2誘起電圧算出部641bとを区別する必要がない場合、誘起電圧算出部641と記載することがある。また、第1ゼロクロスタイミング検出部642aと第2ゼロクロスタイミング検出部642bとを区別する必要がない場合、ゼロクロスタイミング検出部642と記載することがある。
出力軸82bとモータ93との間には減速装置92のウォームギヤ等の機械要素が介在している。例えば、ウォームギヤのコンプライアンス特性は、図15に示すように、非線形かつヒステリシスを有する。図15において、X軸は負荷トルク(モータ出力トルク)であり、Y軸はモータ電気角θmの変化量δθmである。このため、モータ電気角θmは出力軸回転角θosと一対一で対応しない。モータ93の出力が増加するにつれて、モータ電気角推定値θmeと実際のモータ電気角θmとの間の誤差が増大する。
ウォームギヤのコンプライアンス特性を考慮しない場合、モータ93の出力によって実際のモータ電気角θmとモータ電気角推定値θmeとの間に乖離が生じる。そこで、モータ電気角補正部64が、モータ電気角推定値θmeを誘起電圧に基づき補正する。
誘起電圧算出部641は、U相とV相との間のUV相間誘起電圧eUVと、V相とW相との間のVW相間誘起電圧eVWと、W相とU相との間のWU相間誘起電圧eWUと、を演算する。以下、第1誘起電圧算出部641aについて例示的に説明する。
第1U相コイル37Ua及び第1U相コイル37Ub(図10)によるインダクタンスをL(H)、抵抗をR(Ω)とする。第1V相コイル37Va及び第1V相コイル37Vbによるインダクタンス及び抵抗、並びに第1W相コイル37Wa及び第1W相コイル37Wbによるインダクタンス及び抵抗は、L(H)及びR(Ω)と等しいとする。図11に示した第1U相電流値Idct1U、第1V相電流値Idct1V、及び第1W相電流値Idct1Wが、それぞれIdct1U(A)、Idct1V(A)及びIdct1W(A)であるとする。第1U相電圧値Vdct1U、第1V相電圧値Vdct1V、及び第1W相電圧値Vdct1Wが、それぞれVdct1U(V)、Vdct1V(V)、及びVdct1W(V)であるとする。このとき、UV相間誘起電圧eUV(V)は下記式(4)で表される。VW相間誘起電圧eVW(V)は下記式(5)で表される。WU相間誘起電圧eWU(V)は下記式(6)で表される。
式(4)、式(5)及び式(6)は、電流検出値を微分する項を含んでいる。第1誘起電圧算出部641aは、微分方程式を解く場合、微分方程式を差分方程式で近似することになる。しかしながら、微分方程式を差分方程式で近似する手法が、ノイズを含みやすい電流検出値に対して用いられると、第1誘起電圧算出部641aによる演算結果と実際の誘起電圧値との間の乖離が大きくなる可能性がある。
従来技術においては、微分の項が他の項に比べて十分に小さいとみなされ、無視されることがある。または、差分方程式の解に対してローパスフィルタが用いられることがある。しかしながら、何れの場合であっても、演算結果と実際の誘起電圧値との間の乖離を小さくすることには限界があった。
これに対して、実施形態1に係るモータ電気角演算部23は、式(4)、式(5)及び式(6)による演算結果と実際の誘起電圧値との間の乖離を小さくすることができる。
第1U相電流値Idct1U、第1V相電流値Idct1V、及び第1W相電流値Idct1Wの波高値をIpとし、モータ電気角をθm(rad)とする。このとき、第1U相電流値Idct1U(A)は下記式(7)で表される。第1V相電流値Idct1V(A)は下記式(8)で表される。第1W相電流値Idct1W(A)は下記式(9)で表される。
式(7)及び式(8)を式(4)に適用すると、式(4)の右辺の最後の項は、下記式(10)のように変形される。式(10)において、Δθmは、θmを時間微分した項である。Δθmはモータ93の電気角変化率(電気角の単位時間当たりの変化量)である。そして、式(10)を式(4)に代入すると、式(11)が得られる。このように、電流検出値を微分する項が、モータ93の電気角変化率Δθm(rad/s)に置き換えられる。 同様に、式(8)及び式(9)を式(5)に代入すると、下記式(12)が得られる。式(7)及び式(9)を式(6)に代入すると、下記式(13)が得られる。
回転検出部23aが正常であれば、第1誘起電圧算出部641aは、回転検出部23aから得られる情報に基づいて電気角変化率Δθmを算出することができる。しかしながら、第1誘起電圧算出部641aは、回転検出部23aに異常があるときに電気角変化率Δθmを算出する必要がある。
第1誘起電圧算出部641aは、例えばトルクセンサ94で検出される出力軸回転角θosに基づいて電気角変化率Δθmを算出する。図14に示すように、第1誘起電圧算出部641aには、トルクセンサ94の出力軸回転角演算部182(図8参照)から出力軸回転角θosが入力される。また、出力軸回転角θosは、RAM50に入力され記憶される。RAM50は、前回に記憶した出力軸回転角θosを、前回出力軸回転角θospとして第1誘起電圧算出部641aに出力する。第1誘起電圧算出部641aは、前回出力軸回転角θospと現在の出力軸回転角θosとの差に基づいて電気角変化率Δθmを算出する。具体的には、相対角度演算部18の演算周期をt(s)とすると、第1誘起電圧算出部641aは、下記式(14)により電気角変化率Δθmを算出する。
第1誘起電圧算出部641aは、式(14)を式(4)、式(5)及び式(6)に代入することで、UV相間誘起電圧eUV、VW相間誘起電圧eVW、及びWU相間誘起電圧eWUを算出する。図16に示すように、UV相間誘起電圧eUV、VW相間誘起電圧eVW、及びWU相間誘起電圧eWUは、互いに120°ずれた正弦波である。図14に示すように、第1誘起電圧算出部641aは、算出したUV相間誘起電圧eUV、VW相間誘起電圧eVW、及びWU相間誘起電圧eWUを第1ゼロクロスタイミング検出部642aに出力する。
ゼロクロスタイミング検出部642は、UV相間誘起電圧eUV、VW相間誘起電圧eVW、WU相間誘起電圧eWUがそれぞれ基準の誘起電圧(例えば、0[V])となるタイミングであるゼロクロスタイミングを検出する。具体的には、ゼロクロスタイミング検出部642は、UV相間誘起電圧eUV、VW相間誘起電圧eVW、WU相間誘起電圧eWUのいずれかの符号が負から正又は正から負に変わるタイミングをゼロクロスタイミングとして検出する。そして、ゼロクロスタイミング検出部642は、検出したゼロクロスタイミングに対応するモータ電気角θmzをROM51から読み出し、読み出したモータ電気角θmzを角度誤差算出部643に出力する。なお、ゼロクロスタイミングを決定するための基準の誘起電圧は、0[V]に限られるものでなく、より高い電圧又はより低い電圧にシフトしてもよい。ここでは、第1ゼロクロスタイミング検出部642aについて例示的に説明する。
UV相間誘起電圧eUV、VW相間誘起電圧eVW及びWU相間誘起電圧eWUの各ゼロクロスタイミングに対応するモータ電気角θmzは、既知の値であり、モータ電気角情報としてROM51に予め記憶されている。例えば、6つのモータ電気角θmzがROM51に記憶されている。図16では、6つのモータ電気角θmzのうち4つ(モータ電気角θmz1からモータ電気角θmz4)を例示している。モータ電気角θmz1は、理想的な条件下でUV相間誘起電圧eUVの符号が負から正に変わるゼロクロスタイミングZT1に対応する。モータ電気角θmz2は、理想的な条件下でWU相間誘起電圧eWUの符号が正から負に変わるゼロクロスタイミングZT2に対応する。モータ電気角θmz4は、理想的な条件下でUV相間誘起電圧eUVの符号が正から負に変わるゼロクロスタイミングZT4に対応する。モータ電気角θmz5は、理想的な条件下でWU相間誘起電圧eWUの符号が負から正に変わるゼロクロスタイミングZT5に対応する。この他、図示しないが、理想的な条件下でVW相間誘起電圧eVWの符号が負から正に変わるゼロクロスタイミングZT3に対応するモータ電気角θmzと、理想的な条件下でVW相間誘起電圧eVWの符号が正から負に変わるゼロクロスタイミングZT6に対応するモータ電気角θmzがROMに記憶されている。
以上、第1コイル系統L1の第1電流値Id1及び第1電圧値Vd1に基づいてUV相間誘起電圧eUV、VW相間誘起電圧eVW、及びWU相間誘起電圧eWUを算出してゼロクロスタイミングに基づいた角度の算出を行う仕組みについて例示したが、第2コイル系統L2についても同様の仕組みを適用することができる。すなわち、第2コイル系統L2の第2電流値Id2及び第2電圧値Vd2に基づいてUV相間誘起電圧eUV、VW相間誘起電圧eVW、及びWU相間誘起電圧eWUを算出してゼロクロスタイミングに基づいた角度の算出を行うことができる。具体的には、上記の説明における第1誘起電圧算出部641a、第1ゼロクロスタイミング検出部642a並びに第1コイル系統L1の第1電流値Id1及び第1電圧値Vd1を、それぞれ、第2誘起電圧算出部641b、第2ゼロクロスタイミング検出部642b並びに第2コイル系統L2の第2電流値Id2及び第2電圧値Vd2と読み替えることができる。以下の説明及び図14では、第1電流値Id1及び第1電圧値Vd1に基づいたUV相間誘起電圧eUV、VW相間誘起電圧eVW、及びWU相間誘起電圧eWUを総称して相間誘起電圧e1と記載する。また、第2電流値Id2及び第2電圧値Vd2に基づいたUV相間誘起電圧eUV、VW相間誘起電圧eVW、及びWU相間誘起電圧eWUを総称して相間誘起電圧e2と記載する。
図14では、第1コイル系統L1の相間誘起電圧e1の算出を行う第1誘起電圧算出部641aと、第2コイル系統L2の相間誘起電圧e2の算出を行う第2誘起電圧算出部641bとが個別に設けられているが、これらは統合された構成であってもよい。また、図14では、相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングを検出する第1ゼロクロスタイミング検出部642aと、相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングを検出する第2ゼロクロスタイミング検出部642bとが個別に設けられているが、これらは統合された構成であってもよい。
相間誘起電圧e2にも、相間誘起電圧e1と同様のゼロクロスタイミングとモータ電気角θmzとの関係が成立する。すなわち、相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングZT7,ZT8,ZT9,ZT10,ZT11,ZT12は、例えばモータ93の動作によるモータ電気角θmzの変化が60[°]生じるタイミングで順次生じる。
また、本実施形態のモータ93は、電気的なノイズがない理想的な条件下において相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングと相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングが一致するよう設計されている。具体的には、例えば相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングZT1と相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングZT7とが理想的な条件下において同時に一致する。同様に、相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングZT2,ZT3,ZT4,ZT5,ZT6,と、相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングZT8,ZT9,ZT10,ZT11,ZT12とがそれぞれ同時に一致することが望ましい。
実際には、電気的なノイズを完全に除くことは極めて困難である。電気的なノイズは、相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングと相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングにずれを生じさせることがある。図16において、相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングZT3と相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングZT9にずれG1が生じ、相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングZT6と相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングZT12にずれG2が生じている。
角度誤差算出部643は、モータ電気角θmzの入力タイミングが示す複数系統の各々の相間誘起電圧の誘起電圧波形がゼロクロスするタイミングとモータ電気角情報に基づいて、モータ電気角θmzの推定処理の実施の可否を決定する。具体的には、角度誤差算出部643は、例えば、複数系統のうち1つの相間誘起電圧の誘起電圧波形がゼロクロスするタイミングと、複数系統のうち他の1つの相間誘起電圧の誘起電圧波形がゼロクロスするタイミングとが一致した場合にゼロクロス点に対応するモータ電気角情報に基づいてモータ電気角θmzを推定する。例えば、図16に示すように、本実施形態の角度誤差算出部643は、相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングZT1,ZT2,ZT4,ZT5に対応する相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングZT7,ZT8,ZT10,ZT11が同時に一致するモータ電気角θmz1,θmz2,θmz3,θmz4をゼロクロスタイミングに基づいたモータ電気角θmzとして推定する。一方、角度誤差算出部643は、相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングZT3,ZT6に対応する相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングZT9,ZT12が同時に一致せず、時間的なずれG1,G2が生じている場合、モータ電気角θmzを推定しない。
角度誤差算出部643は、モータ電気角θmzに基づいて、モータ電気角推定値θmeを補正するための角度誤差θerrを算出する。具体的には、角度誤差算出部643は、例えば、第1ゼロクロスタイミング検出部642aからの入力タイミングと第2ゼロクロスタイミング検出部642bからの入力タイミングが一致するモータ電気角θmzが得られた場合、モータ電気角θmzとモータ電気角推定値θmeの差分を角度誤差θerrとして算出する。すなわち、モータ電気角推定値θmeに角度誤差θerrを適用した場合にモータ電気角θmzが導出されるよう角度誤差θerrを算出する。角度誤差算出部643は、算出した差分を角度誤差θerrとしてRAM50に記憶する。なお、角度誤差算出部643は、第1ゼロクロスタイミング検出部642aからの入力タイミングと第2ゼロクロスタイミング検出部642bからの入力タイミングが一致しないモータ電気角θmzを破棄し、角度誤差θerrの算出を行わない。
補正部644は、図16に示すように、モータ電気角推定部63から入力されたモータ電気角推定値θmeを、RAM50に記憶された角度誤差θerrで補正する。補正部644は、補正したモータ電気角推定値θmeを第2モータ電気角θm2として電気角選択部23d(図12参照)に出力する。
電気角選択部23d(図12参照)は、回転検出異常診断部61から出力される異常検出信号SArが異常なしを示すときに、メインモータ電気角演算部23bから出力される第1モータ電気角θm1を選択する。電気角選択部23dは、第1モータ電気角θm1をモータ電気角θmとして電流指令値演算部24(図11参照)に出力する。一方、電気角選択部23dは、異常検出信号SArが異常ありを示すときに、サブモータ電気角演算部23cから出力される第2モータ電気角θm2を選択する。電気角選択部23dは、第2モータ電気角θm2をモータ電気角θmとして電流指令値演算部24(図11参照)に出力する。
そして、電流指令値演算部24は、操舵トルクT、車速V及びモータ電気角θm(第1モータ電気角θm1又は第2モータ電気角θm2)に基づいて電流指令値を算出する。これにより、仮に回転検出部23aに異常が生じた場合であっても、ECU90はモータ93を適切に制御することができる。
なお、上記では相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングと相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングが一致する場合にモータ電気角θmzが採用される場合を説明しているが、相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングと相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングのずれが所定の誤差範囲内であった場合にモータ電気角θmzが採用されるようにしてもよい。この場合、所定の誤差範囲は、例えば採用された最新のモータ電気角θmzが得られたタイミング(更新タイミング)から、複数の系統のうち1つの系統のゼロクロスタイミングに基づいた新たなモータ電気角θmzが検出された最先のタイミングまでの期間を基準期間とする。角度誤差算出部643は、更新タイミングから複数の系統のうち1つの系統のゼロクロスタイミングに基づいた新たなモータ電気角θmzが検出された最後のタイミングまでの期間と基準期間との比率を算出し、算出された比率と所定の比率とを比較する。角度誤差算出部643は、例えば算出された比率が所定の比率以下であった場合に相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングと相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングのずれが所定の誤差範囲内であったものとして扱い、新たなモータ電気角θmzを採用するようにしてもよい。この場合、角度誤差算出部643は、算出された比率が所定の比率を超えた場合に相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングと相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングのずれが所定の誤差範囲外であったものとして扱い、新たなモータ電気角θmzを破棄する。所定の比率は、例えばROM51に予め記憶されている。
図14では、角度誤差算出部643が所定の誤差範囲として機能する所定の比率RatioをROM51から参照している例を示している。例えば、角度誤差算出部643は、図16のゼロクロスタイミングZT2からゼロクロスタイミングZT3までの期間Gaを基準期間として、ゼロクロスタイミングZT8からゼロクロスタイミングZT9までの期間Gbと基準期間との比率を算出し、所定の比率Ratioと比較して算出された比率が所定の比率Ratio以下である場合には新たなモータ電気角θmzを採用し、所定の比率Ratioを超える場合には新たなモータ電気角θmzを破棄する。また、角度誤差算出部643は、図16のゼロクロスタイミングZT5からゼロクロスタイミングZT6までの期間Gcを基準期間として、ゼロクロスタイミングZT11からゼロクロスタイミングZT12までの期間Gdと基準期間との比率を算出し、同様に所定の比率Ratioと比較して新たなモータ電気角θmzを採用するか否か決定する。これは所定の誤差範囲の設定方法の一例であってこれに限られるものでなく、適宜変更可能である。所定の誤差範囲として機能する所定の比率Ratioは、例えばモータパラメータ(仕様値)のバラツキに基づいて設定されてもよい。具体例を挙げると、上記の式(4)から式(6)におけるインダクタンス(L)及び抵抗(R)は、仕様値である。仕様値のバラツキを考慮すると、抵抗のバラツキ(±Lerr)の範囲は、(L−Lerr)から(L+Lerr)までのように表すことができる。また、抵抗のバラツキ(±Rerr)の範囲は、(R−Rerr)から(R+Rerr)までのように表すことができる。よって、仕様値のバラツキに基づいて設定された所定の比率Ratioを参照して算出されるUV相間誘起電圧eUV(V)の上限は下記式(15)で表される。また、UV相間誘起電圧eUV(V)の下限は下記式(16)で表される。また、VW相間誘起電圧eVW(V)の上限は下記式(17)で表される。また、VW相間誘起電圧eVW(V)の下限は下記式(18)で表される。また、WU相間誘起電圧eWU(V)の上限は下記式(19)で表される。また、WU相間誘起電圧eWU(V)の下限は下記式(20)で表される。すなわち、相間誘起電圧e1のゼロクロスタイミングと相間誘起電圧e2のゼロクロスタイミングとの間で生じ得るずれ(例えば、図16のずれG1,G2)には、このような仕様値のバラツキに起因するずれも含まれ得る。そこで、第1コイル系統L1、第2コイル系統L2の一方が仕様値のバラツキの上限に対応する構成であって、他方が仕様値のバラツキの下限に対応する構成である場合に生じ得るゼロクロスタイミングの周期の比率の誤差を許容するよう所定の比率Ratioを設定するようにしてもよい。
以上説明したように、本実施形態によれば、ECU90は、モータ電気角推定部63と、モータ電気角補正部64とを備える。モータ電気角推定部63は、ステアリングの舵角を検出するステアリング舵角検出部(例えば、出力軸回転角センサ13)で検出した舵角に基づいて、操舵補助力を発生するモータのモータ電気角推定値θmeを推定する。モータ電気角補正部64は、モータ電気角推定部63によって推定されたモータ電気角推定値θmeを補正する。また、モータ電気角補正部64は、電流検出部と、電圧検出部と、誘起電圧算出部641と、ゼロクロスタイミング検出部642と、補正部644とを備える。電流検出部は、本実施形態では、第1電流センサ31又は第2電流センサ33であり、モータが有する複数系統の多相コイルの各々に流れる電流を検出する。電圧検出部は、本実施形態では第1電圧センサ32又は第2電圧センサ34であり、多相コイルの各々の電圧を検出する。誘起電圧算出部641は、電流検出部により検出された電流及び電圧検出部により検出された電圧に基づいて複数系統の各々の相間誘起電圧を算出する。ゼロクロスタイミング検出部642は、相間誘起電圧の誘起電圧波形がゼロクロスするタイミングを検出する。補正部644は、ゼロクロス点に対応するモータ電気角情報に基づいてモータのモータ電気角推定値θmeを補正する。すなわち、補正部644は、複数系統の各々の相間誘起電圧の誘起電圧波形がゼロクロスするタイミングとモータ電気角情報に基づいてモータ電気角推定値θmeを補正する。
これにより、ECU90は、出力軸回転角に基づいてモータ電気角推定値を得られる。また、補正部644により、モータ電気角推定値を補正することができる。具体的には、モータの電流及び電圧から求められる相間誘起電圧の誘起電圧波形がゼロクロスするタイミングで、モータ電気角θmがゼロクロス点に対応するモータ電気角θmzであるという推定に基づいた補正を行うことができる。ここで、モータ電気角推定部63から出力されるモータ電気角推定値θmeは、トルクセンサ94で検出される操舵トルクTに基づいているので、トルクセンサ94の検出対象とモータ93との間の機械的構成(例えば、減速装置92等)による機械的な誤差が生じることがある。一方、モータ電気角θmzは、モータ93からの電気的信号に基づいているので、モータ電気角推定値θmeに生じることがある機械的な誤差を生じることがない。さらに、本実施形態では、モータ電気角θmzを推定するための複数系統のゼロクロスタイミングが一致した場合等、複数系統のゼロクロスタイミングによる裏付けがあることでより信頼性が高いと考えられるモータ電気角θmzで補正を行っている。すなわち、本実施形態では、補正に用いられるモータ電気角θmzをより高い精度で得ることができる。したがって、単一系統のモータに比してより高い精度でモータ電気角推定値θmeを補正することができる。
また、モータ電気角推定部63は、複数系統のうち1つの相間誘起電圧の誘起電圧波形がゼロクロスするタイミングと、複数系統のうち他の1つの相間誘起電圧の誘起電圧波形がゼロクロスするタイミングとのずれが所定の誤差範囲内であった場合又はずれがなく一致した場合にゼロクロス点に対応するモータ電気角情報に基づいてモータ電気角θmzを推定する。
複数系統のゼロクロスタイミングのずれが所定の誤差範囲内であるということは、複数系統のゼロクロスタイミングに基づいて推定されるモータ電気角θmzの妥当性がより高いことを示す。したがって、ECU90は、より高い精度でモータ電気角θmzを推定することができる。
また、電動パワーステアリング装置80は、ステアリングの操舵補助力を発生するモータと、モータに駆動電流を供給するモータ駆動回路(第1ゲート駆動回路25及び第2ゲート駆動回路26)と、モータの第2モータ電気角θm2に基づいてモータ駆動回路を駆動制御する制御演算装置(電流指令値演算部24)と、第2モータ電気角θm2を出力するモータ電気角演算部23を備えるECU90とを備える電動パワーステアリング装置である。電動パワーステアリング装置80は、モータ回転角センサに依存せずにモータ電気角θmzを高い精度で推定することができ、適切な補助操舵トルクを出力軸に与えることができる。
また、電動パワーステアリング装置80は、ステアリングの舵角を検出するステアリング舵角検出部(例えば、出力軸回転角センサ13)と、ステアリング機構に伝達されるトルクを検出するトルクセンサ94と、モータの出力軸の回転角度を検出する回転検出部23aと、回転検出部23aの異常を検出する回転検出異常診断部61とを備え、制御演算装置は、回転検出異常診断部61で回転検出部23aの異常を検出していない場合にトルクセンサ94で検出したトルク及び回転検出部23aで検出したモータ電気角θmに基づいてモータ駆動回路を駆動制御し、回転検出異常診断部61で回転検出部23aの異常を検出した場合にモータ電気角演算部23が出力する第2モータ電気角θm2に基づいてモータ駆動回路を駆動制御する。
これにより、電動パワーステアリング装置80は、出力軸回転角に基づいてモータ電気角推定値を得られるので、モータ回転角センサに異常が生じてもモータ電気角推定値を得られる。したがって、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置80は、モータ回転角センサに依存せずに第2モータ電気角θm2を高い精度で推定することができる。
なお、誘起電圧算出部641は、必ずしも出力軸回転角θosに基づいて電気角変化率Δθmを算出しなくてもよい。例えば、誘起電圧算出部641は、入力軸回転角θisに基づいて電気角変化率Δθmを算出してもよい。この場合、誘起電圧算出部641は、前回入力軸回転角θispと現在の入力軸回転角θisとの差に基づいて電気角変化率Δθmを算出する。具体的には、相対角度演算部18の演算周期をt(s)とすると、誘起電圧算出部641は、下記式(21)により電気角変化率Δθmを算出することになる。
また、回転検出部23aはなくてもよい。回転検出部23aがない場合、メインモータ電気角演算部23b及び電気角選択部23dは省略される。また、この場合、サブモータ電気角演算部23cが算出した第2モータ電気角θm2がモータ電気角θmとして扱われる。
(実施形態2)
図17は、実施形態2に係るモータ制御装置の構成例を示す模式図である。図1から図16を参照して説明した構成のうち、モータ電気角推定部63はなくてもよい。実施形態2では、相対オフセット量推定部62及びモータ電気角推定部63は省略されている。また、この場合、モータ電気角推定部649は、上記の実施形態における角度誤差算出部643と同様のモータ電気角θmzの推定処理を行う。モータ電気角推定部649は、推定されたモータ電気角θmzをそのまま出力する。すなわち、図17に示す構成では、推定されたモータ電気角θmzが第2モータ電気角θm2として扱われる。
また、上記のモータ93は第1コイル系統L1と第2コイル系統L2を有する2系統のモータ93であるが、モータ93が有する系統の数は3以上であってもよい。モータ93が有する系統の数が3以上である場合、モータ電気角θmzの採用に係る複数の系統のゼロクロスタイミングの照合(一致又は所定の誤差範囲内)の対象は、全ての系統であってもよいし、一部の系統であってもよい。具体的には、角度誤差算出部643は、モータ93が有する全ての系統のうち一定数以上(例えば、過半数)の系統のゼロクロスタイミングが一致又は所定の誤差範囲内であった場合に、当該ゼロクロスタイミングに対応したモータ電気角θmzを採用するようにしてもよい。