本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハについて、図1A〜図1Cを用いて説明する。
図1Aは、平行平面形状のガラスウェハ12の片面に、近赤外光を吸収する吸収層11を有する近赤外線吸収型ガラスウェハ10を示す。
(ガラスウェハ)
ガラスウェハ12は、少なくとも波長450〜600nmの可視光に対して透明なガラス材料からなり、例えば平面形状が、直径15cm以上の略円形のものが挙げられるが、非円形や多角形のものでもよい。厚さは制限されないが、撮像装置の小型化のため、例えば、0.1〜0.4mm厚のものが使用できる。また、ガラスウェハ12は、固体撮像素子の解像度劣化、画素欠陥の原因となる脈理などの局所的屈折率分布や気泡などが残留しないガラス材料を用いるとよい。さらに、ガラスウェハ12の表面は、固体撮像素子の解像度劣化を招く散乱光の発生や透過波面収差が抑制できるような表面平坦性を有していればよく、片面だけでなく両面が鏡面加工されてもよい。
本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハ10は、光学接着剤を用いてガラスウェハとSiウェハとを接合するため、ガラスウェハの材料はアルカリ成分の含有量が低い方が、半導体動作の劣化を招かず、高い接着性、信頼性が得られる場合が多く好ましい。この中でも、ホウケイ酸ガラスは、加工が容易で、光学面における傷や異物等の発生が抑制できる。
また、可視光から近赤外光で透明となるガラスウェハの材料は、例えば、ショット社製のAF33、テンパックス(商標)、D263、B270、旭硝子社製のSW−3、SW−Y、SW−YY、AN100、EN−A1、FP1、FP01eco等(以上、商品名)が好適である。
なお、アルカリ成分を含有するガラスウェハを用いる場合、少なくともSiウェハ接合面側にアルカリ元素の移動を遮断するパッシベーション膜を備えるとよい。パッシベーション膜は、例えば、SiO2、SiOxNy、Si3N4などの可視光吸収が少ない誘電体膜が挙げられ、緻密膜の成膜に有効なスパッタリングやCVD、イオンアシスト蒸着やゾルゲルなどの成膜法により所定の膜厚で形成できる。
さらに、上記のようにガラス材料として近赤外光(波長700〜1100nm)を吸収する、例えば、CuO含有フツリン酸塩ガラスまたはCuO含有リン酸塩ガラス(これらを「CuO含有ガラス」という)等の近赤外線体積吸収型ガラスを用いてもよい。
CuO含有ガラスは、波長400〜1100nmの吸収スペクトルにおいて、波長750〜1000nmに吸収極大を有し、CuO含有量、厚さにより透過率を調整できる。図1Bは、近赤外線体積吸収型ガラスからなるガラスウェハ13上に吸収層11を備える、近赤外線吸収型ガラスウェハ20を示す。ガラスウェハ13は、可視光で高透過率を示すとともに、吸収層11のみでは十分に遮断できない近赤外光を吸収できる。
CuO含有ガラスの典型例は、以下の組成のものが挙げられる。なお、「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiO2で構成されるケイリン酸塩ガラスも含む。
(1)質量%表示で、P2O5 46〜70%、AlF3 0.2〜20%、LiF+NaF+KF0〜25%、MgF2+CaF2+SrF2+BaF2+PbF2 1〜50%、ただし、F 0.5〜32%、O 26〜54%を含む基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuO:0.5〜7質量部を含むガラス。
(2)質量%表示で、P2O5 25〜60%、Al2OF3 1〜13%、MgO 1〜10%、CaO 1〜16%、BaO 1〜26%、SrO 0〜16%、ZnO 0〜16%、Li2O 0〜13%、Na2O 0〜10%、K2O 0〜11%、CuO 1〜7%、ΣRO(R=Mg、Ca、Sr、Ba) 15〜40%、ΣR’2O(R’=Li、Na、K) 3〜18%(ただし、39%モル量までのO2−イオンがF−イオンで置換されている)からなるガラス。
(3)質量%表示で、P2O5 5〜45%、AlF3 1〜35%、RF(RはLi、Na、K) 0〜40%、R’F2(R’はMg、Ca、Sr、Ba、Pb、Zn) 10〜75%、R”Fm(R”はLa、Y、Cd、Si、B、Zr、Ta、mはR”の原子価に相当する数) 0〜15%(ただし、フッ化物総合計量の70%までを酸化物に置換可能)、およびCuO 0.2〜15%を含むガラス。
(4)カチオン%表示で、P5+ 11〜43%、Al3+ 1〜29%、Rカチオン(Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、Znイオンの合量) 14〜50%、R’カチオン(Li、Na、Kイオンの合量) 0〜43%、R”カチオン(La、Y、Gd、Si、B、Zr、Taイオンの合量) 0〜8%、およびCu2+ 0.5〜13%を含み、さらにアニオン%でF− 17〜80%を含有するガラス。
(5)カチオン%表示で、P5+ 23〜41%、Al3+ 4〜16%、Li+ 11〜40%、Na+ 3〜13%、R2+(Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+の合量) 12〜53%、およびCu2+ 2.6〜4.7%を含み、さらにアニオン%でF− 25〜48%、およびO2− 52〜75%を含むガラス。
(6)質量%表示で、P2O5 70〜85%、Al2O3 8〜17%、B2O3 1〜10%、Li2O 0〜3%、Na2O 0〜5%、K2O 0〜5%、ただし、Li2O+Na2O+K2O 0.1〜5%、SiO2 0〜3%からなる基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuOを0.1〜5質量部含むガラス。
市販品を例示すると、例えば、(1)のガラスとしては、NF−50E、NF−50EX、NF−50T、NF−50TX(旭硝子社製、商品名)等、(2)のガラスとしては、BG−60、BG−61(以上、ショット社製、商品名)等、(5)のガラスとしては、CD5000(HOYA社製、商品名)等が挙げられる。
上記したCuO含有ガラスは、金属酸化物をさらに含有してもよい。金属酸化物は、例えば、Fe2O3、MoO3、WO3、CeO2、Sb2O3、V2O5等の1種以上を含有すると、CuO含有ガラスは紫外線吸収特性を有する。これらの金属酸化物の含有量は、上記CuO含有ガラス100質量部に対して、Fe2O3、MoO3、WO3およびCeO2からなる群から選択される少なくとも1種を、Fe2O3 0.6〜5質量部、MoO3 0.5〜5質量部、WO3 1〜6質量部、CeO2 2.5〜6質量部、またはFe2O3とSb2O3の2種をFe2O3 0.6〜5質量部+Sb2O3 0.1〜5質量部、もしくはV2O5とCeO2の2種をV2O5 0.01〜0.5質量部+CeO2 1〜6質量部とするとよい。
また、本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハは、固体撮像素子を保護するカバーガラスの機能も含むと、撮像装置の小型化、薄型化が期待できる。なお、ガラスウェハは、不純物としてα線放出性元素(放射性同位元素)が含まれると、α線を放出して固体撮像素子にソフトエラーを引き起こすおそれがあるので、α線放出性元素含有量が少ない高純度のガラス原料を使用するとよい。ガラス原料は、α線放出性元素のうち、U、Thの含有量が、20ppb以下が好ましく、5ppb以下がより好ましい。また、近赤外線吸収型ガラスウェハは、固体撮像素子に近接する片面にα線を遮蔽する膜を設けてもよい。
ガラス材料の成形は、溶融後にガラス板状に延伸、冷却されて製造でき、フロート法、ダウンドロー法、オーバフロー・フュージョン法等を利用できる。製法によっては、表面が光学鏡面となる、0.1〜0.4mm厚のガラスウェハが得られるが、後述する厚さ分布のガラスウェハとするため、ガラス基板を例えば、直径15cm以上の外形加工した後、両面研磨により0.1〜0.4mm厚の光学鏡面が得られるように加工してもよい。
次に、本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハを通して固体撮像素子に可視光画像が集光する光学系を考える。図2は、カメラモジュールの光学系を示す模式図であり、図3は、撮像レンズ31の光軸上で固体撮像素子の中心部画素受光面16に集光される光路を示す模式図である。ここで、図2と図3を用いて、ガラスウェハの厚さ分布に起因した結像面のボケ量と固体撮像素子の画素サイズから、解像度に与える影響について説明する。
図3において、被写体の画像は、撮像レンズ31により、近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20、30)と接合された固体撮像素子の画素受光面16に結像される。図3において、厚さd0のガラスウェハと厚さt0の吸収層からなる近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20、30)と厚さgの接着剤21との合計厚は、ガラスウェハ表面から固体撮像素子の画素受光面16までの距離dに相当する。そして、被写体の画像は、撮像レンズのFナンバー(=F)に応じた開口数NA=1/(2F)=sinθの収束角θでガラスウェハ表面より入射し、画素受光面16に集光される。
なお、ガラスウェハ厚d0はガラスウェハ12(13)の平均の厚さであり、吸収層厚t0は吸収層11の平均の厚さを示す。ガラスウェハ厚d0は、吸収層厚t0と接着層厚gの合計厚に比べ10倍以上と厚く、各厚さ分布も同様の比率であるため、距離dの厚さd0の差分値Δdは、ガラスウェハ厚d0の差分値で近似できる。
ここで、ガラスウェハの厚さのd0の差分値がΔd(≠0)の場合、ガラスウェハ表面と固体撮像素子の画素受光面16との間で取り得る距離がd0+Δdとなり、図3に示すように、光軸方向の集光位置が距離Δだけシフトする。その結果、画素受光面における結像点は直径φに拡大する。ここで、屈折率nのガラスウェハに入射角θで入射する光は、
sinθ´=sinθ/n
の屈折角θ´で伝搬し、受光画素面に到達するため、シフト量Δは、
Δ=Δd×(tanθ−tanθ´)/tanθ´
となり、拡大した結像点のビーム径(ボケ)は、
φ=2×|Δ|×tanθ´
より算出される。
ここで、Fナンバーが2.0と1.4の撮像レンズを使用し、ガラスウェハの厚さd0の差分値Δdを±50μmの範囲で与えたときの、受光画素面のビーム径φの計算例を図4に示す。なお、ビーム径φが、固体撮像素子の画素サイズに比べて大きくなると固体撮像素子が許容できる解像度で画像が再現できなくなるため、ビーム径φの拡大を抑制するガラスウェハおよび、近赤外線吸収型ガラスウェハの厚さd0の差分値Δdを得ることが重要となる。
なお、CMOS半導体固体撮像素子の最小画素サイズは約1μm□であるが、RGBカラーフィルタが4画素に形成されて1つのカラー撮像画素となるため、最小画素サイズにおけるビーム径φは2μm以下が必要となる。また、実際のカメラモジュールは、固体撮像素子の画素サイズに加え、撮像レンズの解像度(MTF)性能にも依存する。そのため、可視光に対する色収差、軸外の固体撮像素子の周辺画素における解像度劣化、結像面の歪などを抑制した撮像レンズ設計が要求される。このように、撮像レンズの製造バラツキにともなう固体撮像素子画素面の結像ビームサイズの拡大も起こり得るので、ガラスウェハ12(13)および近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20、30)の厚さ分布に起因する解像度劣化は低いほど好ましい。
図4の計算結果(ビーム径φ)より、(近赤外線吸収型)ガラスウェハの厚さd0の差分値Δdは、固体撮像素子の画素サイズおよび撮像レンズの解像度にもよるものの、±30μm以内であればよく、±20μm以内が好ましく、±10μm以内がより好ましい。
このように、d0の差分値Δdについて説明したが、固体撮像素子の外周部への結像光線は、撮像レンズ31に斜入射するため、光軸上の光線に比べ、非点収差やコマ収差が残留しやすく、高い解像度(MTF)を確保するレンズ設計が難しい。その結果、固体撮像素子の外周部の結像光線は、光軸上に比べボケやすく、厚さの差分値Δdにともなう非点収差およびコマ収差が生じやすいため、解像度の劣化を招くおそれがある。
また、光軸方向の集光位置のシフト量Δに起因した解像度劣化は、カメラモジュール組立時やオートフォーカスによる撮像レンズ13位置調整により一定レベルの対策はできるが、光軸外光で生じた非点収差やコマ収差の補正は難しく、その意味でもd0の差分値Δdの低減が必要となる。
次に、ガラスウェハとしてCuO含有ガラス(「CuO含有ガラスウェハ」ともいう。)を用いた場合の厚さ分布について説明する。
ここで、CuO含有ガラスの近赤外線吸収特性を利用して、波長620〜690nmの光に対する透過率が50%となる波長をλ(T50%)と定義し、そのときのCuO含有ガラスウェハの厚さをD0とすると、CuO含有ガラスウェハのλ(T50%)における吸収係数αを用いて、
0.5=exp(−α×D0)
と関係付けられる。即ち、前述のガラスウェハの平均の厚さd0に対しても、
0.5=exp(−α×d0)
と関係付けられる波長λ(T50%)が特定される。したがって、d0の差分値Δd(=d0×x)を有するCuO含有ガラスウェハの各位置の透過率Tは、次式となる。
T=exp{−α×(d0+Δd)}
=exp{−α×d0×(1+x)}=0.5(1+x)
ここで、xは、CuO含有ガラスウェハの、λ(T50%)が設定値となる厚さd0に対する差分値Δdの比率(x=Δd/d0)を表す。
また、図5は、CuO含有ガラスウェハについて、xが±20%の範囲で変動したときの、λ(T50%)における透過率差ΔTの計算結果を示したグラフである。図5より、CuO含有ガラスウェハは、厚さ分布Δd/d0が−15%〜+15%で、+5.5%〜−4.9%の透過率差の面内分布、厚さ分布Δd/d0が−5%〜+5%で、+1.8%〜−1.7%の透過率差の面内分布が生じる。
また、CuO含有ガラスウェハは、近赤外線吸収特性に応じてλ(T50%)近傍の透過率の波長依存性(T(λ))が生じる。即ち、λ(T50%)近傍の波長変化Δλに対する透過率変化ΔTの割合ΔT/Δλ(=微分係数)を示す傾斜r(%/nm)が得られると、このrの値に基づいて、上記の厚さ分布Δd/d0にともなうλ(T50%)の分布Δλ(=ΔT/r)に換算できる。
図6は、傾斜r(%/nm)が0.4、0.5、0.6、1.0および1.5のときの、厚さ分布Δd/d0にともなうλ(T50%)の分布Δλの計算結果である。なお、CuO含有ガラスウェハの場合、CuO含有量、厚さによって、吸収極大波長近傍の透過率およびλ(T50%)近傍の傾斜r(%/nm)を調整できる。
例えば、波長450〜600nmで高透過率を維持するように調整すると、r=0.4〜0.6(%/nm)の範囲となる。そして、CuO含有ガラスウェハの透過率が80%から40%まで直線的に近似でき、ΔT=40%変化する場合の波長変化Δλは、r=0.4(%/nm)では100nm、r=0.5(%/nm)では80nm、r=0.6(%/nm)では67nmに相当する。
また、CuO含有ガラスウェハは、面内のΔλが大きいほど、撮像画像の色再現性の低下および色ムラを発生させるおそれがある。そのため、Δλは、±5nm以内であればよく、±3nm以内が好ましく、±2nm以内がより好ましく、±1nm以内がさらに好ましい。また、CuO含有ガラスウェハは、面内のΔλが所定の範囲となるよう、CuO含有量の濃度分布を調整するとともに、厚さ分布Δd/d0を±15%以内とすればよく、±8%以内が好ましく、±5%以内がより好ましく、±2%以内がさらに好ましい。
図6の計算結果より、CuO含有ガラスウェハのλ(T50%)近傍の波長変化Δλが±3nm以内となる厚さ分布Δd/d0は、分光透過率変化が緩やかなr=0.4(%/nm)では±3%以内だが、やや急峻なr=0.6(%/nm)では±5%以内となる。即ち、CuO含有ガラスウェハの平均厚d0=0.4mmでは、厚さの差分値Δdは±12μmの範囲〜±20μmの範囲が許容されるが、d0=0.1mmでは、厚さの差分値Δdは±3μmの範囲〜±5μmの範囲と高精度の厚さ制御が必要である。また、同仕様は、CuOを含有しない、近赤外光において透明なガラスウェハにおいても満たされると好ましい。
また、上記の仕様を満たすガラスウェハ12(13)の少なくとも片面に、吸収層11を備える本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20)も、固体撮像素子の撮像品質の劣化を抑制するために光学鏡面が得られているとよい。具体的には、光学部品の表面品質を規定する目視検査を想定した、MIL軍用規格MIL-PRF-13830のスクラッチ(キズ)・ディグ(ブツ)の基準例が挙げて評価できる。これは、吸収層形成前のガラスウェハの表面品質においても同様に要求される。
ガラスウェハは、画素サイズに依存するものの、固体撮像素子の光学有効面において、概ね次のレベルを満たせばよい。即ち、表面品質は、上記の規格における、精密グレードの60−40(キズ幅6μm以下、ディグ径40μm以下)であればよく、高精密グレードの20−10(キズ幅2μm以下、ディグ径10μm以下)が好ましい。また、平面度は、精密グレードの平面度λ/4であればよく、高精密グレードの平面度λ/20が好ましい。さらに、ガラスウェハの空気界面の面粗さは、精密グレードの20ÅRMSであればよく、高精密グレードの5ÅRMSであれば好ましい。なお、吸収層11がSiウェハとの接合面側で配置される場合、用いる接着剤と吸収層との屈折率差が0.1以下であれば、空気界面とガラスウェハとの屈折率差約0.5に比べ、反射や散乱の強度は1/25以下となるため、吸収層表面の面粗さの仕様は緩和できる。
また、近赤外線吸収型ガラスウェハは、さらに、誘電体多層膜からなる反射層を備える構成であってもよく、近赤外線体積吸収型ガラスからなるガラスウェハや吸収層では、十分に遮断できない近紫外光および近赤外光を、反射作用により遮断できる。図1Cは、反射層を備えた近赤外線吸収型ガラスウェハ30の断面図であり、上記反射層14a、14bがガラスウェハ12(13)の片面または/および両面に備えられたり、吸収層11の表面に反射層14cが備えられたりしてもよい。なお、近赤外線吸収型ガラスウェハ30は、反射防止膜を備えてもよく、また、吸収層11の密着性や信頼性を向上するためのシランカップリング剤による表面処理を施したり、誘電体膜を備えたりしてもよい。近赤外線吸収型ガラスウェハ30の表面に位置する14a、14cの一方は、接着剤によりSiウェハと接合されるため、接着剤の屈折率を考慮して設計するとよい。
本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハ30は、固体撮像素子が形成されたSiウェハと接合され、画素に近接した位置に配置される。そのため、反射層14a、14b、14c中に異物や微小欠陥があると、それらが直接、画素欠陥となり得るため、その大きさや発生数の許容レベルは、非接合タイプの光学フィルタにおける反射層より厳しい場合が多い。したがって、近赤外線吸収型ガラスウェハ30は、品質レベルに応じて、反射層14a、14b、14cを備えるとよい。
次に、吸収層11について以下に説明する。
(吸収層)
吸収層11は、吸収色素、とくに近赤外線吸収色素(A)(以下、「色素(A)」ともいう。)と透明樹脂(B)とを含有する層であり、典型的には、透明樹脂(B)に色素(A)が均一に溶解または分散してなる層である。吸収層11は、さらに近紫外線吸収色素(U)(以下、「色素(U)」ともいう。)を含有するとよい。
なお、図1A〜図1Cの近赤外線吸収型ガラスウェハおいて、吸収層11が、さらに色素(U)を含有する場合も、1層で構成されるように図示するが、この構成に限らない。例えば、吸収層11が色素(A)と透明樹脂(B)とを含有し、色素(U)を含まない場合、図1A〜図1Cに図示しない近紫外線吸収層を別途設ける構成でもよい。即ち、近紫外線吸収層は、色素(U)と透明樹脂を含有し、独立した層として設けられてもよい。
この場合、近紫外線吸収層は、ガラスウェハ12(13)の両主面のうち、吸収層11側に設けてもよく、吸収層11側と対向する側に設けてもよく、その位置関係に制限はない。ただし、近紫外線吸収層を別途設ける構成であっても、本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハは、吸収層11がさらに色素(U)を含有する構成の光学特性と同じ光学特性が得られる。また、吸収層11が、色素(A)と透明樹脂(B)、さらに色素(U)を含有する場合でも、色素(U)と透明樹脂(B)を含有する近紫外線吸収層を別途設けてもよい。以下、本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハは、色素(U)を含有する場合、吸収層11に色素(U)が含有される構成として説明をする。
<近赤外線吸収色素(A)>
近赤外線吸収色素(A)は、可視域(波長450〜600nm)の光を透過し、近赤外域(波長700〜1150nm)の光を吸収する能力を有すれば特に制限されない。なお、本発明における色素は顔料、すなわち分子が凝集した状態でもよい。
色素(A)は、波長650〜750nmに吸収極大波長λmaxを有する材料が好ましく、波長680〜720nmにλmaxを有する材料がさらに好ましい。また、色素(A)を含む吸収層11は、近赤外域に吸収を有するCuO含有ガラスウェハに比べ、吸収波長帯幅を狭くできる材料の種類や含有量の選択における自由度が高い。そのため、CuO含有ガラスウェハ13を用いる近赤外線吸収型ガラスウェハ20において、吸収層11は、それの吸収極大波長λmaxにおける透過率T(λmax)を、CuO含有ガラスウェハの吸収極大波長λGmaxにおける透過率T(λGmax)より低く調整することで、CuO含有ガラスの可視域に残留する吸収による透過率低下を抑制しつつ、λmax近傍でλmaxよりも可視光側に、急峻な遮光性を実現できる。
また、吸収層11の分光透過率曲線が「可視光の吸収が少なく、λmaxよりも可視光(短波長)側に急峻な傾きを有するとよい」とする理由は、該吸収層により視感度に近い分光透過率曲線を実現するためである。つまり、吸収層11は、視感度の高い波長550〜600nmの光に対して高透過率を維持し、視感度が徐々に低下する波長600〜650nmの光に対する透過率が40〜60%程度まで低下し、視感度が低いレベルから殆ど無いレベルの波長650〜700nmの光に対する透過率が5%以下まで低下するようにする。具体的には、吸収層11のλmaxにおける透過率T(λmax)が、5%以下となるよう、色素(A)およびその含有量を調整するとよい。
吸収層11は、波長550〜700nmの光に対する透過率が、上記の光学特性を示すよう色素(A)の調整を行った結果、略700nm以上の近赤外域における吸収波長帯域が広いほど好ましい。また、吸収層11は、λmax近傍で透過率が20%以下となる吸収波長帯幅が30nm以上あればよく、40nm以上あればより好ましい。なお、吸収層11がこのような吸収波長帯幅を有しても、CuO含有ガラスウェハおよび吸収層11の吸収で十分に遮断できない近赤外域の透過光については、反射層を用いて効果的に遮光できる。つまり、反射層は、入射角0°〜30°の光に対し、分光透過率曲線の入射角依存により反射帯がシフトするが、反射帯の短波長側に位置する透過率50%の波長が、入射角により短波長側にシフトしても、吸収層の吸収波長帯幅内の変化に収まるよう設定すればよい。このようにして、該設計に基づく近赤外線吸収型ガラスウェハは、とくに近赤外域における反射層の入射角依存性を抑制できる。
色素(A)は、該色素(A)が透明樹脂(B)中に分散して得られる樹脂層を使用して測定される波長400〜850nmの吸収スペクトルにおいて、波長650〜750nmに吸収極大波長を有するとよい。該吸収特性を有する色素(A)を色素(A1)、該吸収スペクトルにおける吸収極大波長を、色素(A1)のλmaxという。なお、色素(A1)の吸収スペクトルは、波長λmaxに吸収の頂点を有する吸収ピーク(以下、「λmaxの吸収ピーク」という)を有する。色素(A1)の吸収スペクトルも、可視光の吸収が少なく、λmaxの吸収ピークの可視光側の傾きが急峻であるとよい。さらに、λmaxの吸収ピークの長波長側では傾きは緩やかであるとよい。
色素(A1)としては、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、スクアリリウム系化合物等が挙げられる。
これらの中ではスクアリリウム系化合物、シアニン系化合物およびフタロシアニン系化合物がより好ましく、スクアリリウム系化合物が特に好ましい。スクアリリウム系化合物からなる色素(A1)は、上記吸収スペクトルにおいて、可視光の吸収が少なく、λmaxの吸収ピークが可視光側で急峻な傾きを有するとともに、保存安定性および光に対する安定性が高いため好ましい。
スクアリリウム系化合物は、例えば、WO2012/169447を参照でき、該文献には、吸収極大波長695〜747nmを示す色素が示される。また、種々の透明樹脂にスクアリリウム系化合物を含む吸収層は、例えば、WO2014/088063を参照でき、該文献には、吸収極大波長691〜722nmの実施例が示される。
シアニン系化合物からなる色素(A1)は、上記吸収スペクトルにおいて、可視光の吸収が少なく、λmax近傍の波長領域において長波長側で光の吸収率が高いため好ましい。また、シアニン系化合物は低コストであって、塩形成することにより長期の安定性も確保できる。フタロシアニン系化合物からなる色素(A1)は、耐熱性や耐候性に優れるため好ましい。WO2014/030628も参照でき、該文献には、透明樹脂に、吸収極大波長が694、740、747nmを示すシアニン系化合物と、吸収極大波長が681nmを示すフタロシアニン系化合物と、を含む吸収層の具体例が示される。
<近紫外線吸収色素(U)>
近紫外線吸収色素(U)は、波長430nm以下の光を吸収する。色素(U)としては、下記(iv−1)および(iv−2)の要件を満たす化合物(以下、色素(U1)という。)が好ましい。
(iv−1)ジクロロメタンに溶解して測定される波長350〜800nmの光吸収スペクトルにおいて、波長415nm以下の領域に、少なくとも一つの吸収極大波長を有し、波長415nm以下の領域における吸収極大のうち、最も長波長側の吸収極大波長λmax(UV)は、波長360〜415nmにある。
(iv−2)ジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線において、吸収極大波長λmax(UV)における透過率を10%としたとき、吸収極大波長λmax(UV)より長波長で透過率が90%となる波長λL90と、吸収極大波長λmax(UV)より長波長で透過率が50%となる波長λL50との差λL90−λL50が13nm以下である。
なお、(iv−1)、(iv−2)の要件を満たす色素(U1)の吸収極大波長は、透明樹脂中においても大きく変化しない。
色素(U1)の具体例としては、オキサゾール系、メロシアニン系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系等が挙げられる。
市販品としては、例えば、オキサゾール系として、Uvitex(商標)OB(Ciba社製 商品名)、Hakkol(商標) RF−K(昭和化学工業(株)製 商品名)、Nikkafluor EFS、Nikkafluor SB−conc(以上、いずれも日本化学工業(株)製 商品名)等が挙げられる。メロシアニン系として、S0511(Few Chemicals社製 商品名)等が挙げられる。シアニン系として、SMP370、SMP416(以上、いずれも(株)林原製 商品名)等が挙げられる。ナフタルイミド系として、Lumogen(商標)F violet570(BASF社製 商品名)等が挙げられる。
上記のように、吸収層11は、色素(A)と透明樹脂(B)を含有し、さらに色素(U)を含有するとよい。吸収層11は、色素(A)を含有することで以下の(a1)および(a2)の光学特性を有することが好ましい。
(a1)吸収スペクトルにおいて、波長650〜750nmに吸収極大波長(λmax)を有する。
(a2)波長450〜550nmの光の透過率が80%以上である。
また、ガラスウェハ12(13)上の吸収層11は、反射層と組み合わせて得られる近赤外線吸収型ガラスウェハ30(光学フィルタ)として、以下の(i−1)および(i−2)の光学特性を有するように構成されるとよい。
(i−1)波長450〜550nmにおける入射角0°の光の透過率の平均値が80%以上である。
(i−2)波長650〜720nmにおける入射角0°の光の透過率の平均値が15%以下である。
ここで、吸収層11が上記(a1)および(a2)を満足することで、近赤外線吸収型ガラスウェハとして、上記(i−1)および(i−2)の光学特性が容易に得られるので、好ましい。
なお、吸収層11中における色素(A)の含有量は、吸収層11が上記光学特性(a1)および(a2)を満足する量とする。さらに、吸収層11中における色素(A)の含有量は、光学フィルタの入射角0°の分光透過率曲線の波長600nmよりも長い領域、好ましくは波長620〜660nmにおける光の透過率が50%となる波長を有するように調整することが好ましい。具体的には、色素(A)は、吸収層11中において、透明樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜25質量部がより好ましく、1〜20質量部が特に好ましい。
また、吸収層11は、さらに色素(U)を含有する場合、吸収層11と、ガラスウェハ12(13)と、反射層とを組み合わせて得られる近赤外線吸収型ガラスウェハとして、以下の(ii−1)および(ii−2)の光学特性を有するように構成するとよい。
(ii−1)波長430〜450nmにおいて、入射角0°の光の透過率の平均値が70%以上である。
(ii−2)波長350〜390nmにおいて、入射角0°の光の透過率の平均値が5%以下である。
さらに、吸収層11中における色素(U)の含有量は、本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハの入射角0°の分光透過率曲線のうち波長450nmよりも短い領域、好ましくは波長400〜425nmに透過率が50%となる波長を有するように定めることが好ましい。なお、色素(U)は、吸収層11中において、透明樹脂(B)100質量部に対して、0.01〜30質量部含有されるのが好ましく、0.05〜25質量部がより好ましく、0.1〜20質量部がより一層好ましい。
また、吸収層11は、色素(A)および透明樹脂(B)、任意成分の色素(U)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、近赤外線吸収剤、色調補正色素、近紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等を含有してもよい。また、後述する吸収層11を形成する際に用いる塗工液に添加する成分、例えば、シランカップリング剤、熱もしくは光重合開始剤、重合触媒に由来する成分等が挙げられる。吸収層における、これらその他の任意成分の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、それぞれ15質量部以下が好ましい。
吸収層11の膜厚は、0.1〜10μmが好ましい。膜厚が0.1μm未満では、近赤外線吸収能を十分に発現できないおそれがある。また、膜厚が10μm超では膜の平坦性が低下し、吸収率のバラツキが生じるおそれがある。膜厚は、1〜10μmがより好ましい。この範囲にあれば、十分な近赤外線吸収能と膜厚の平坦性を両立できる。なお、近紫外線吸収層を別途設ける場合でも近紫外線吸収層の膜厚は、上記の範囲を満たせばよい。
上記近赤外線吸収剤は、上記色素(A)、好ましくは色素(A1)の光学特性による効果を損なわないものとして、無機微粒子が好ましく使用できる。具体的には、ITO(Indium Tin Oxide)、ATO(Antimony-doped Tin Oxide)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタンなどの微粒子が挙げられる。中でも、ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外域も含めた広範囲の光吸収性を有するため、赤外光の遮蔽性を必要とする場合に特に好ましい。
吸収層11は、例えば、色素(A)および、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分、さらに任意に色素(U)を溶媒に分散し、溶解させて調製した塗工液を、ガラスウェハ12(13)上に塗工し、乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて製造できる。吸収層11をこのような方法で成膜することで、所望の膜厚で均一に製造できる。吸収層11が上記任意成分を含む場合、塗工液が該任意成分を含有する。
上記溶媒としては、色素(A)および、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分、さらに任意に含有する色素(U)を安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であれば、特に限定されない。溶媒の量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、10〜5000質量部が好ましく、30〜2000質量部が特に好ましい。なお、塗工液中の不揮発成分(固形分)の含有量は、塗工液全量に対して2〜50質量%が好ましく、5〜40質量%が特に好ましい。
塗工液の調製には、マグネチックスターラー、自転・公転式ミキサー、ビーズミル、遊星ミル、超音波ホモジナイザ等の撹拌装置を使用できる。塗工液の塗工には、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、スリットダイコーター法、等のコーティング法を使用できる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も使用できる。
ガラスウェハ12(13)上に上記塗工液を塗工した後、乾燥させることで該ガラスウェハ12(13)上に吸収層11が形成される。塗工液が透明樹脂(B)の原料成分を含有する場合には、さらに硬化処理を行う。反応が熱硬化の場合は乾燥と硬化を同時に行うことができるが、光硬化の場合は、乾燥と別に硬化処理を設ける。
本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハは、ガラスウェハ12(13)上に形成される吸収層11の近赤外線吸収特性により、分光透過率曲線が決まる。そして、近赤外線吸収型ガラスウェハは、固体撮像素子が複数形成されたSiウェハと接合されるため、近赤外線吸収型ガラスウェハのうち、固体撮像素子と対向する有効面内において、吸収層11は、分光透過率曲線の面内分布が均一性を有することが重要となる。
具体的に吸収層11は、色素(A)および、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分、さらに任意に色素(U)を溶媒に分散し、溶解させて調製した塗工液を、ガラスウェハ12(13)上に塗工し、乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させてなる。このように形成する吸収層11は、ガラスウェハ面内で所定の膜厚値t0およびt0の差分値である所定のΔt(=t0×x)に収まるよう均一性を保つことが重要となる。
ここで、吸収層11について、波長620〜690nmの光に対する透過率が50%となる波長λ(T50%)となる膜厚をT0とすると、吸収層11のλ(T50%)における吸収係数αを用いて、
0.5=exp(−α×T0)
と関係付けられる。即ち、吸収層11の平均の厚さt0に対しても、
0.5=exp(−α×t0)
と関係付けられる波長λ(T50%)が特定される。したがって、面内でt0の差分値Δt(=t0×x)を有する吸収層11の各位置の透過率Tは、次式となる。
T=exp{−α×(t0+Δt)}
=exp{−α×t0×(1+x)}=0.5(1+x)
ここで、xは、吸収層11の、λ(T50%)が設定値となる厚さt0に対する差分値Δtの比率(膜厚分布)x=Δt/t0を表す。
図5は、吸収層について、xが±20%の範囲で変動したときの、λ(T50%)における透過率差ΔTの計算結果も併せ示したグラフである。同図は、前述のように、厚さ分布Δd/d0と透過率差ΔTの関係を示すが、吸収層11の膜厚分布Δt/t0に対しても同じΔTとの関係が成り立つ。図5より、膜厚分布Δt/t0が−15%〜+15%で、+5.5%〜−4.9の透過率差の面内分布、膜厚分布Δt/t0が−5%〜+5%で、+1.8%〜−1.7%の透過率差の面内分布が生じる。
また、吸収層11は、近赤外線吸収特性に応じてλ(T50%)近傍の透過率の波長依存性(T(λ))が生じる。即ち、λ(T50%)近傍の波長変化Δλに対する透過率変化ΔTの割合ΔT/Δλ(=微分係数)を示す傾斜r(%/nm)が得られると、このrの値に基づいて、上記の膜厚分布Δt/t0にともなうλ(T50%)の分布Δλ(=ΔT/r)に換算できる。
図6は、傾斜r(%/nm)が0.4、0.5、0.6、1.0および1.5のときの、膜厚分布Δt/t0にともなうλ(T50%)の分布Δλの計算結果も併せ示す。例えば、吸収層11の透過率が90%から10%まで直線的に近似でき、ΔT=80%変化する場合の波長変化Δλは、r=0.5(%/nm)では160nm、r=1.0(%/nm)では80nm、r=1.5(%/nm)では40nmに相当する。
図6より、撮像画像の色再現性の低下および色ムラの発生を抑制する目的で、吸収層11のΔλを±3nm以内にするためには、r=ΔT/Δλが1.5(%/nm)の場合、膜厚分布Δt/t0を±13%以内にすればよい。一方、rが0.5(%/nm)の場合、膜厚分布Δt/t0を±5%以内にすればよい。
また、近赤外線吸収型ガラスウェハは、波長分布Δλが±5nm以内であればよく、±3nm以内が好ましく、±2nm以内がより好ましく、±1nm以内がさらに好ましい。したがって、吸収層11は、面内における波長分布Δλがこの範囲内となるよう、吸収層11内の色素(A)濃度分布を調整するとともに膜厚分布Δt/t0を±15%以内とすればよく、±8%以内とすれば好ましく、±5%以内とすればより好ましく、±2%以内とすればさらに好ましい。
したがって、例えば、直径15cm以上のガラスウェハ面上に膜厚分布の小さい吸収層11を得るためには、色素(A)および、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分、さらに任意に添加する色素(U)を溶媒に分散し、溶解させて調製した塗工液を均一膜厚に塗布することが前提となる。これを実現するため、前述の塗工液の塗工方法において、塗工液膜厚分布を確保できる塗工方法を用いるとよい。
具体的には、半導体ウェハへのフォトレジスト膜塗布や、DVD、Blu−ray(登録商標)などの一部の光ディスクにおいて有機色素記録層や保護膜の塗布に用いられるスピンコート法を用いると、直径8〜12インチのウェハサイズにスピンコートされた数μm膜厚の樹脂層に対して±1%以内の膜厚分布に制御できる。また、液晶テレビの大型ガラス基板に、膜厚が数μmのRGBカラーフィルタを形成する際の、スリットダイコーター法を用いてもよい。例えば、該スリットダイコーター法を用いると、800mm□以上のガラス基板面に膜厚2μmのカラーレジストを、膜厚分布±3%以内で、また、ガラス基板周辺部を除けば1%程度の膜厚分布が得られる。
したがって、吸収層11の膜厚分布に相当する、塗工液の膜厚分布Δt/t0は、±15%以内、好ましくは±8%以内、より好ましくは±5%以内、さらに好ましくは±2%以内になる塗工方法を用いればよい。即ち、吸収層11の(設定値)膜厚t0が1〜10μmの場合、Δt/t0を±2%以内にするため、ガラスウェハ内の吸収層11の膜厚分布Δtを±20nm以内〜±200nm以内に制御するとよい。
<透明樹脂(B)>
透明樹脂(B)は、具体的に、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、およびポリエステル樹脂が挙げられる。透明樹脂(B)としては、これらの樹脂から1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
上記の中でも、色素(A)や色素(U)の透明樹脂(B)に対する溶解性の観点から、透明樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エン・チオール樹脂、エポキシ樹脂、および環状オレフィン樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。さらに、透明樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、および環状オレフィン樹脂から選ばれる1種以上がより好ましい。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等が好ましい。
(半導体ウェハ積層体)
さらに、本発明は、カメラモジュールを製造するための複数の固体撮像素子が形成された半導体ウェハと近赤外線吸収型ガラスウェハとが接合された半導体ウェハ積層体を提供する。図7は、本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20、30)と複数の固体撮像素子19が形成された半導体ウェハ15が接合された半導体ウェハ積層体40(50)の例を概略的に示す斜視図である。
図8A、図8Bは、本発明の近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20、30)が固体撮像素子19と一体化した半導体ウェハ積層体40(50)の固体撮像素子19周辺を拡大した断面模式図である。固体撮像素子19は、Siウェハ15の片面に、Si半導体(CMOS、CCD)光検出器アレイ16が形成されるとともに画素毎に、RGBモザイクカラーフィルタ17および樹脂マイクロレンズ18が形成されてなる。固体撮像素子19は、Siウェハ15と、近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20、30)とが、接着剤21を介して一体化され、半導体ウェハ積層体40(50)をなす。
図8Aの半導体ウェハ積層体40は、近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20、30)の吸収層11側に接着剤21を介して、固体撮像素子19と一体化した構成である。一方、図8Bの半導体ウェハ積層体50は、吸収層11が空気側に面し、吸収層11と対向する側に接着剤21を介して一体化した構成である。接着剤21は、可視光に対して透明な材料であればよい。半導体ウェハ積層体は、吸収層11の配置が、固体撮像素子19側(図8A)でも、空気側(図8B)でもよい。吸収層は、ガラスウェハに比べて柔らかいため、表面にキズが付き易いことから、吸収層11が単層からなる場合、それを固体撮像素子19の接合面側に配置すると、その後の製造工程でキズが生じにくい。
半導体ウェハ積層体50は、ガラスウェハ12(13)をSiウェハ15に接合した後、ガラスウェハ12(13)の表面に吸収層11を形成する工程においても得られる構成である。即ち、半導体ウェハ積層体50は、吸収層11の形成と、ガラスウェハと固体撮像素子の接合、の順番は不問であっても同構成が得られる。
固体撮像素子19において、樹脂マイクロレンズ18は、入射光を光検出器アレイ16の受光面に集光する凸レンズ機能となる。そのため、樹脂マイクロレンズ18に用いる透明樹脂の屈折率nMLと接着剤21の屈折率nGは、nML>nGを満たし、屈折率差(nML−nG)は大きいほど好ましい。具体的には、nML≧1.8が好ましく、nML≧1.9がより好ましい。また、nG≦1.5が好ましく、nG≦1.45がより好ましい。
接着剤21は、紫外線硬化型あるいは熱硬化型いずれでもよいが、短時間に接着強度が得られる点で、紫外線硬化型が好ましい。紫外線硬化型の接着剤は、樹脂マイクロレンズ18面と近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20、30)のガラス面または吸収層面と十分な接着強度が得られる。接着剤21は、硬化時の重合収縮率が3%以下で、高温高質下や急激な温度変化などの周囲環境条件による位置ズレや接着力低下が小さく、かつ、ハロゲン含有量が少なく、硬化後の未反応成分によるアウトガスが少ないものが好ましい。
接着剤21による接合は、硬化前の接着剤を近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20、30)に塗布し、近赤外線吸収型ガラスウェハと固体撮像素子19の間に、厚さ10μm以下で均一膜厚となるように一体化して、半導体ウェハ積層体40(50)を得る。紫外線硬化型の接着剤を用いる場合は、近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20、30)側から紫外線を接着剤21に照射して重合硬化させるとよい。また、熱硬化型の接着剤を用いる場合は、半導体ウェハ積層体50全体を加熱して重合硬化させるとよい。
なお、吸収層11が、接着剤21の硬化プロセスにおいて、紫外線を透過しない場合や、熱処理で変質する場合は、ガラスウェハ12(13)と固体撮像素子19との接着後に、ガラスウェハ12(13)の表面に吸収層11を形成するとよい。
また、図8Aおよび図8Bの半導体ウェハ積層体において、固体撮像素子19の電圧印加および電気信号取出用の電気配線は省略した。実際には、画素の小型化による感度低下を抑制できる裏面照射型CMOS固体撮像素子の場合、電気配線が半導体ウェハ15の光検出器アレイ16と対向する側に配置され、半導体ウェハ15の貫通電極等の技術により、電極が固体撮像素子裏面に引き出される例が挙げられる。
半導体ウェハ積層体40(50)は、ダイシング装置などを用いて固体撮像素子19のサイズに切断され、固体撮像装置に搭載される。図12は、固体撮像装置60の要部を概略的に示す断面図であり、近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20)が接合された固体撮像素子19と、その前面に、反射層14と、撮像レンズ31と、これらを固定する筐体33とを有する。撮像レンズ31は、筐体33の内側に設けられたレンズユニット32により固定される。反射層14は、透明基板の片面または両面に誘電体多層膜を有し、レンズユニット32の光入射側から固体撮像素子19の間の光路中に配置される。図12の固体撮像装置60は、反射層14が、レンズユニット32と近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20)との間に配置された例を示すが、この例に限らず、反射層14の誘電体多層膜を撮像レンズ31の表面に形成した構成でもよい。
このように、本発明の半導体ウェハ積層体40(50)は、固体撮像素子19に光学フィルタ機能をウェハレベルで組み込めるため、生産性が向上するとともに特性の安定化が得られる。さらに、従来の光学フィルタ機能を固体撮像素子19や撮像レンズ31に集積化し、光学フィルタ部品点数の削減によりカメラモジュールの組立調整が簡素化されるとともに、固体撮像装置の小型化が可能となる。なお、近赤外線吸収型ガラスウェハ10(20、30)は、ガラスウェハの厚さd0の差分値Δdが±30μm以内であるので、レンズユニット32と固体撮像素子19との間隔(フォーカス)調整が緩和できる。
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
[例1]
図1Aに示す、近赤外線吸収型ガラスウェハ10の製造例を説明する。近赤外線吸収型ガラスウェハ10は、直径15cmで0.2mm厚のガラスウェハ12の片面に吸収層11を備える。
ガラスウェハ12は、アルカリ酸化物(Li2O、Na2O、K2Oなど)含有量が0.1%(質量%表示)以下のアルカリフリーガラス(旭硝子社製、商品名:EN−A1)を用いる。ガラスウェハ12は、両面研磨により面内厚さの差分値Δd=3μm以下、即ち、Δd/d0=±1.5%以内の加工が施されてなる。なお、EN−A1は、屈折率nD=1.52で、波長350〜1150nmの光に対し透明なガラスであり、熱膨張係数は、Siウェハと同等レベルの3.3ppm/K(50〜200℃)である。
次に、ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル(株)製、商品名:B−OKP2、屈折率:1.64)の15質量%シクロヘキサノン溶液に、色素(U)および色素(A)を混合し、十分に撹拌して溶解させ、塗工液を調製する。この塗工液を、上記ガラスウェハ12の片方の主面にスピンコート法により塗布し、溶媒を加熱乾燥させた後、φ15cm面内の平均厚さt0=2.7μmの吸収層11を形成する。
ここで、色素(A)は、吸収極大波長λ(Tmin)が705nmのスクアリリウム系色素(A1)を用い、添加量3(透明樹脂(B)100質量部に対する質量部)で混合する。また、色素(U)に、吸収極大波長λ(Tmin)が396nmのオキサゾール系(U1)のUvitex(商標)OBを用い、添加量5(透明樹脂(B)100質量部に対する質量部)で混合する。ガラスウェハ面内における吸収層11の厚さの差分値Δtは±40nm以内で、Δt/t0は略±1.5%以内となる。
図9は、近赤外線吸収型ガラスウェハ10と併用する誘電体多層膜からなる反射層の分光透過率曲線(入射角:0°)である。反射層は、カメラモジュール内に配置された光学素子に、屈折率1.45のSiO2膜と、屈折率2.41のTiO2膜を交互に40層積層してなるものを用いる。
図10は、近赤外線吸収型ガラスウェハ10と反射層からなる光学部位の分光透過率曲線を示す。図10より、波長350〜400nmの近紫外光における平均透過率が0.3%、波長430〜600nmの可視光における平均透過率が92%、波長700〜1150nmの近赤外光における平均透過率が0.9%で、波長600〜700nmで視感度に近似する分光透過率変化となっている。また、波長600〜700nmの光の透過率が50%となる波長λ(T50%)の、近赤外線吸収型ガラスウェハ面内における平均値は、645nmで、透過率変化の割合ΔT/Δλは略1.08を示し、その面内分布Δλ(T50%)は±1nm以内となる。
[例2]
次に、例1でガラスウェハ12として用いたEN−A1の代わりに、直径15cmで0.2mm厚、吸収極大波長λ(Tmin)が850nmを示すCuO含有ガラスウェハ(旭硝子社製、商品名:NF−50T)を用いる。なお、波長850nmの光におけるCuO含有ガラスウェハ内部透過率の平均値は10%、透過率50%波長λ(T50%)の平均値は658nmである。ここで、CuO含有ガラスウェハ厚さ分布は、Δd/d0=±10%以内、即ちΔd=±20μm以内のとき、Δλ(T50%)は±5.5nm以内である。
次に、例1と同様に、ポリエステル樹脂のシクロヘキサノン溶液に、色素(U)および色素(A)を混合し、十分に撹拌して溶解させ、塗工液を調製する。この塗工液を、上記CuO含有ガラスウェハ13の片方の主面にダイコート法により塗布し、溶媒を加熱乾燥させた後、直径15cm面内の平均厚さt0=2.7μm、厚さの差分値Δt=±54nm以内(膜厚分布Δt/t0=±2%以内)の吸収層11を形成し、近赤外線吸収型ガラスウェハ20を得る。
図11は、近赤外線吸収型ガラスウェハ20と例1の反射層により構成される光学部位(光学フィルタ)の分光透過率曲線である。図11より、波長350〜400nmの近紫外光における平均透過率が0.3%、波長430〜600nmの可視光における平均透過率が90%、波長700〜1150nmの近赤外光における平均透過率が0.1%で、波長600〜700nmで視感度に近似する分光透過率変化となっている。例2は、CuO含有ガラスウェハ13を用いているため、例1に比べて近赤外域の遮光性が向上する。また、波長600〜700nmは、緩やかな透過率変化を示す。
また、波長600〜700nmの範囲で、透過率が50%となる波長λ(T50%)の、ガラスウェハ面内における平均値は621nmで、透過率変化の割合ΔT/Δλは略0.73を示し、その面内分布Δλ(T50%)は±3.5nm以内となる。即ち、CuO含有ガラスウェハ13の厚さ分布Δd/d0=±10%以内に起因する、Δλ(T50%)は、±5.5nm以内程度だが、吸収層11を膜厚分布Δt/t0=±2%以内で成膜することにより、近赤外線吸収型ガラスウェハ20全体のΔλ(T50%)を低減できる。