JP6770307B2 - 複合微細構造体とその製造方法 - Google Patents
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Description
また、非特許文献1および2には、金属酸化物のナノ粒子を含むペーストを基材に塗布して塗膜を形成したのち、この塗膜にレーザ光を照射して金属酸化物を還元するとともに焼結させることで、微細な金属電極を製造する方法が開示されている。しかしながら、これらの手法では、金属酸化物ナノ粒子の還元および焼結と同時に生じる再酸化の現象を制御することができない。したがって、例えば、低抵抗な金属微細構造体をマイクロメートルサイズレベルで精度よく製造するのは困難であった。
また、上記金属酸化物ナノ粒子は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびチタン(Ti)からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物を好ましく含むことができる。
(S1)金属酸化物ナノ粒子含有液の用意。
(S2)金属酸化物ナノ粒子含有液の供給。
(S3)超短パルスレーザの照射。
まず、工程S1では、複合微細構造体の製造に用いる金属酸化物ナノ粒子含有液を用意する。この金属酸化物ナノ粒子含有液は、複合微細構造体の構成材料の一部である金属酸化物ナノ粒子と、未硬化の状態のレーザ硬化性樹脂とを含んでいる。レーザ硬化性樹脂が液状である場合には、このレーザ硬化性樹脂を金属酸化物ナノ粒子の分散媒として利用してもよい。レーザ硬化性樹脂が適切な液状でなかったり、次の供給工程に適さない性状であったりする場合等には、上記金属酸化物ナノ粒子およびレーザ硬化性樹脂のほかに、これらを適切に分散し得る分散媒を含むことができる。
なお、金属酸化物ナノ粒子の平均粒径は、動的光散乱法(DLS)に基づき測定される値を採用することができる。例えば、散乱光の周波数解析に基づく粒度分布において、累積50%に相当する粒径(メジアン径D50)により表すことができる。
還元剤は、後述の超短パルスレーザの照射工程(S3)における金属酸化物ナノ粒子の還元反応を促進させる役割を担い、かかる還元反応を促進し得る各種の化合物を使用することができる。例えば、具体的には、エチレングリコール,ポリエチレングリコール等のグリコール類、アルデヒド,ギ酸,ギ酸エステル等のアルデヒド基を有する化合物、過酸化水素水、二酸化硫黄、トルエン、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
還元剤の添加量は特に制限されない。例えば、具体的には、金属酸化物ナノ粒子100質量部に対して1〜250質量部とすることができ、5〜100質量部とすることが好ましく、20〜50質量部とすることがより好ましい。
以上の還元剤,分散剤およびその他の添加剤については、同一の化合物が2通り以上の添加剤として機能する場合があり得る。
工程S2では、上記で調製した金属酸化物ナノ粒子含有液を、基材の表面に供給する。
基材の材質および形状は制限されない。例えば、半導体材料、セラミック等の無機材料、ガラス等のアモルファス材料、金属材料、樹脂材料等からなる基材であってよい。また基材の表面は平滑面であっても良いし、湾曲面や、凹凸が付与された面等であっても良い。さらに、基材は湾曲等の変形可能(フレキシブル)に構成されていても良いし、形状が固定されていても良い。また、製造後の複合微細構造体と分離去可能な材料であっても良いし、製造後の複合微細構造体から除去可能な材料であっても良い。例えば、製造後の複合微細構造体が容易に分離できるように処理(易剥離化処理)が施されていても良い。
なお、金属酸化物ナノ粒子含有液の供給は、一度に行うことに限られず、複数回行うこともできる。すなわち、例えば、金属酸化物ナノ粒子含有液を所望の厚みに供給(塗布)するために、金属酸化物ナノ粒子含有液の供給回数を一回または複数回で調整することができる。また、次工程の超短パルスレーザの照射工程(S3)と金属酸化物ナノ粒子含有液の供給工程(S2)とを交互に複数回繰り返し行うこともできる。例えば、金属酸化物ナノ粒子含有液の供給と超短パルスレーザの照射との照射を繰り返し行うことで、3次元的に複雑な構造の複合微細構造体を造形してゆくこともできる。
工程S3では、上記で基材の表面に供給された前記金属酸化物ナノ粒子含有液に超短パルスレーザを照射する。超短パルスレーザは、パルス幅がナノ秒(10−9秒)よりも小さいパルスレーザを発振し得る各種のレーザ発振装置を用いて照射することができる。例えば、市販の超短パルスレーザ描画装置を用いることで簡便にレーザ照射を行うことができる。
ここに開示される技術においては、図2に示されるように、基材に供給された金属酸化物ナノ粒子含有液への超短パルスレーザの照射条件を調整することにより、(A)金属部分と、(B)金属酸化物部分と、を異なる構成のものとして形成する。超短パルスレーザが照射された後の金属酸化物ナノ粒子含有液には、(A)金属部分と、(B)金属酸化物部分との他に、(C)金属酸化物ナノ粒子含有液の未反応部分とが存在する。ここで、(C)未反応部分とは、レーザ硬化性樹脂が硬化しなかった金属酸化物ナノ粒子含有液の供給部分である。この(C)未反応部分を適切な溶媒で洗い流すなどして除去することで、(A)金属部分と(B)金属酸化物部分とからなる複合微細構造体を得ることができる。この洗浄に用いる溶媒には、例えば、上記金属酸化物ナノ粒子含有液に使用することのできる分散媒等を好適に用いることができる。あるいは、(C)未反応部分が形成されないよう、金属酸化物ナノ粒子含有液の全体で少なくともレーザ硬化性樹脂が硬化する条件で超短パルスレーザを照射し、複合微細構造体を製造してもよい。このようにして得られる複合微細構造体は、(A)金属部分と(B)金属酸化物部分とがマイクロメートルオーダーの寸法で極めて精度よく形成されたものであり得る。
また、ここに開示される技術によると金属酸化物ナノ粒子の還元の程度を詳細に制御し得ることから、(B)金属酸化物部分、(B’)第2金属酸化物部分および(B”)第3金属酸化物部分を分けて説明した。しかしながら、(B)金属酸化物部分と(B’)第2金属酸化物部分とは、いずれも同じ金属酸化物に基づく物性を備え得ることから、必ずしも明瞭に区別する必要はない。例えば、複合微細構造体の用途等に応じて必要な場合に区別すればよい。また、(B”)第3金属酸化物部分についても、例えば、複合微細構造体の用途等に応じて(B)金属酸化物部分と区別しても良いし、区別しなくても良い。以下、必要な場合を除き、金属酸化物部分(B)〜(B”)を区別することなく説明を行う。
2HO(CH2)2OH → 2C2H4O+H2O↑ …(1)
2C2H4O + CuO
→ C4H6O2 + 2H+ +2e− + CuO
→ Cu + H2O …(2)
このような金属ナノ粒子の溶融が生じるような場合は、加熱溶融された金属ナノ粒子から、周囲へと熱伝導が生じ得る。かかる熱伝導により、(A)金属部分の周辺に、金属酸化物ナノ粒子は熱還元されないものの、熱硬化性樹脂が硬化する領域が形成され得る。これにより、(B)金属酸化物部分を形成することができる。
そして、金属酸化物ナノ粒子がより低次の酸化物を形成し得るとき、金属酸化物ナノ粒子が金属(ゼロ価)にまでは還元(例えば熱還元)されないものの、当該低次の金属酸化物にまで熱還元されるよう金属酸化物ナノ粒子を加熱することができる。これにより、(B”)第3金属酸化物部分を形成することができる。かかる(B”)第3金属酸化物部の形成に必要なパルスエネルギー量は、元の金属酸化物および低次の金属酸化物の組成や標準生成自由エネルギー、体積、環境温度等を基に算出することができる。
なお、超短パルスレーザを用いる場合であっても、さらに過剰のエネルギーを供給すると、金属酸化物ナノ粒子は急激に加熱溶融されて突沸状態となり得る。かかる突沸部分は冷却されると第2金属酸化物部分と見なせるが、突沸により寸法精度が大きく乱れ得る。このような状態は、ここに開示される複合微細構造体において好ましくない形態であり得る。したがって、金属酸化物ナノ粒子が急激に加熱溶融される程度の過剰なパルスエネルギーを供給することは好ましくないと言える。
なお、下記の実施形態において、対象とする金属酸化物ナノ粒子ごとに、(A)金属部分、(B)〜(B”)金属酸化物部分および(C)未反応部分とを形成し得る条件の一例を示している。当業者であれば、かかる開示を基に、(A)金属部分、(B)〜(B”)金属酸化物部分および(C)未反応部分を造り分ける超短パルスレーザの照射条件を適宜決定することができる。
(実施形態1)
本実施形態では、マイクロ流体デバイスに使用することができるマイクロタービンを作製した。図4(a)は、このマイクロタービン本体の構成を説明する斜視図である。このマイクロタービン本体(ヘリカルコイル)の図は、例えば、CAD等により3次元的な形状を示す3Dデータとして作成することができる。また、例えば、この3DデータはCAD等により、所定の断面方向にスライスしたスライスデータに変換することができる。このスライスデータは、例えば、STL形式である。かかるスライスデータに基づき精密レーザ描画装置を走査することで、マイクロタービン本体の断面形状に対応したレーザ描画を行うことができる。なお、この図4(a)では、タービン本体の形状を解りやすく示すために、タービンの回転の軸となる軸部は省略して示している。実際には、このマイクロタービンの本体に、中心の貫通孔に嵌りあう直径を有する円柱状の軸部が組み合わせられる。ここで、例えば図示したマイクロタービン本体を磁性材料で構成し、軸部を非磁性材料で構成することで、電磁誘導式発電用のマイクロタービンを構築することができる。
(A)マイクロタービン本体を形成するための超短パルスレーザの照射条件は、大気中、波長780nm,パルス幅120fs,繰返し周波数80MHzの条件にて発振したレーザを、開口数0.75の対物レンズを用いてスポット径1μmに集光するとともに、走査速度1300μm/s、パルスエネルギー0.24nJとした。
(B)マイクロタービンの軸部を形成するための超短パルスレーザの照射条件は、大気中、波長780nm,パルス幅120fs,繰返し周波数80MHzの条件にて発振したレーザを、開口数0.75の対物レンズを用いてスポット径1μmに集光するとともに、走査速度1300μm/s、パルスエネルギー0.06nJとした。
本実施形態では、3次元マイクロワイヤを作製した。図5Aは、この3次元マイクロワイヤの構造を説明する(a)斜視図と、積層造形法を利用してこの3次元マイクロワイヤを製造する際の積層パターンを説明する(b)断面模式図である。図5Aに示すように、本実施形態では、金属製のマイクロワイヤを、当該金属の酸化物ナノ粒子とレーザ硬化性樹脂との混合硬化物でコーティングした3次元マイクロワイヤを作製する。
まず、金属酸化物ナノ粒子としては平均粒径が50μmのCuOナノ粒子を、分散媒兼還元剤としてエチレングリコール(EG)を、レーザ硬化性樹脂としてポリビニルピロリドン(PVP)を用いた。そしてこれらを、CuOナノ粒子:EG:PVPの割合が質量比で60:27:13となるように配合し、超音波撹拌機にて混合することでベース溶液を調製した。このベース溶液をガラス基板上にスピンコート法により約8μmの膜厚で均一に塗布し、このベース溶液塗膜上に、所望の3Dワイヤ構造に対応する積層パターンとなるよう、超短パルスレーザをパターンで照射した。
(B)コーティング部分を形成するための超短パルスレーザの照射条件は、大気中、波長780nm,パルス幅120fs,繰返し周波数80MHzの条件にて発振したレーザを、開口数0.75の対物レンズを用いてスポット径1μmに集光するとともに、走査速度50μm/s、パルスエネルギー0.1nJとした。
以下、各例において(A)金属部分と(B)金属酸化物部分との形成について詳細に検討することで、(A)金属部分と(B)金属酸化物部分との作り分けの手法について説明する。
(例1)
金属酸化物ナノ粒子として、平均粒子径が50nm以下の酸化銅(CuO)ナノ粒子を用意した。分散媒および還元剤としてエチレングリコール(EG)を、レーザ硬化性樹脂として熱硬化性ポリビニルピロリドン(PVP)を用いた。そしてこれらを、CuOナノ粒子:EG:PVPの割合が質量比で60:27:13となるように配合し、超音波撹拌機にて混合することでベース溶液を調製した。
以上のことから、CuOナノ粒子に超短パルスレーザを照射することで、熱的過程により細線状の微細構造を形成できることがわかった。
次に、上記例1における超短パルスレーザのスポット径を1μmから23μmに拡大するとともに、走査速度を20〜100μm/sと遅くし、その他の条件は例1と同様にして、CuOナノ粒子のベース溶液を用いた細線パターンの直接描画を行った。そして、形成された細線パターンの線幅を測定し、パルスエネルギーと線幅との関係を図8に示した。また、図9に、(a)パルスエネルギーが0.36nJで走査速度が100μm/sの場合に形成された微細構造体と、(b)パルスエネルギーが1.2nJで走査速度が20μm/sの場合に形成された微細構造体とについての観察像を示した。
すなわち、本例では、例1よりも走査速度を遅くしたにもかかわらず、パルスエネルギーが0.36nJと少なく、走査速度が50および100μm/sの場合については線幅が約5μmと、例1のいずれのサンプルよりも細くなることが確認された。なお、図9(a)からもわかるように、パルスエネルギーが0.36nJの場合の線幅である5〜10μmとの値は、照射した超短パルスレーザのスポット径よりも小さく、レーザスポットのほぼ中心付近(走査線上)に微細構造体が形成されている。そして超短パルスレーザが複数回照射される部位であっても、レーザスポットの周縁部には微細構造体は形成されていない。すなわち、本例のレーザ照射条件では、レーザの照射スポット内でのレーザ光の強度分布とレーザ走査速度とにより調整されるCuOナノ粒子への投入エネルギーが、パターン形成が可能か否かの閾値(境目)を含んでいることを示している。
以上のことから、超短パルスレーザによる大気中の金属酸化物(ここではCuO)ナノ粒子の還元において、寸法が5μm程度の微細構造を形成できることがわかった。また、この寸法は、レーザの投入エネルギーを、例えば描画速度やレーザ出力で調整することで調整可能であり、高効率に金属酸化物の還元および描画が可能となることが確認できた。
そこで、走査速度とパルスエネルギーとを様々に変化させ、その他の条件は上記の例1と同様(スポット径は1μm)にして、CuOナノ粒子の還元による細線パターンからなる微細構造体の形成を試みた。そして微細構造体が形成できた場合には、XRDによりかかる微細構造の組成を調べた。その結果を、下記の表1に示した。
なお、表1中の表記は、以下を意味する。
「×」は、CuOナノ粒子による微細構造が形成されず、EGにより洗い流されてしまったことを示す。
「CuO-rich」は、XRD回折ピークがほぼCuOに帰属されたものの、Cu2Oに帰属されるピークも検出されたことを示す。すなわち、この条件では主として(B)金属酸化物部分であって、(B”)第3金属酸化物部分が形成されることを示す。
「Cu2O-rich」は、XRD回折ピークがほぼCu2Oに帰属されたものの、Cuに帰属されるピークも検出されたことを示す。すなわち、この条件では主として(A)金属部分が形成されるが、この金属部分はCu2Oを主体とする相であることを示す。
「Cu-rich」は、XRD回折ピークがほぼCuに帰属されたものの、Cu2Oに帰属されるピークも検出されたことを示す。すなわち、この条件では主として(A)金属部分が形成され、金属化がより適切に行われたことを示す。
「Cu2O+Cu」は、XRD回折ピークにおいてCu2OとCuとに帰属されるピークがほぼ同程度の割合であったことを示す。すなわち、この条件では主として(A)金属部分が形成されることを示す。
「CuO-rich(溶融)」は、XRD回折ピークは上記「CuO-rich」と同じであるが、ナノ粒子が溶融して線幅の管理が困難であったことを示す。すなわち、この条件では主として(B)金属酸化物部分であって、(B’)第2金属酸化物部分が形成されることを示す。
上記例1において、パルスエネルギーを1.2nJ、スポット径を1μm、走査速度を500μm/sと1000μm/sとの2通りとし、その他の条件は例1と同様にして、細線パターンの組み合わせからなる微細構造体を作製した。かかる条件によると、それぞれ、主としてCu2O−richまたはCu−richからなる組成の微細構造体を作製することができる。またこのとき、それぞれの組成について、細線を隙間なく描画してゆくことで、長さ100μm×幅160〜600μmの3通りの寸法の帯状の微細構造体を形成した。この複合微細構造体は、主として(A)金属部分として分類される相から構成され、幅方向の両端部に(B)金属酸化物部分を備えている。
このようにして形成した微細構造体の長さ方向の両端に抵抗測定用の電極を設置し、2点法による電気抵抗を測定した。その結果を図10に示した。
次に、150μm×150μmの正方形状の複合微細構造体を2通りの条件で形成し、それらの複合微細構造体の抵抗温度特性を評価した。具体的には、図14(a)に示すように、ガラス基板上にリソグラフィ法によりCu薄膜を形成して、電極間距離が100μmの2つのCu電極を作製した。そして、2つのCu電極に架かるように、150μm×150μmの描画パターンを下記の条件(1),(2)に示すレーザ照射条件にてそれぞれ描画し、複合微細構造体(1),(2)を形成した。なお、条件(1)は金属部分であるCu−rich組成を主体とする複合微細構造物が形成される条件である。このCu−rich組成では、Cuが50%以上含まれる相が主体となる。また、条件(2)は金属部分(例えば半導体主体部分等として把握される。)であるCu2O−rich組成を主体とする複合微細構造物が形成される条件である。Cu2O−rich組成は、Cu2Oが50%以上含まれる相が主体となる。いずれの複合微細構造体においても、正方形状の(A)金属部分の周縁には、(B)金属酸化物部分が付随的に形成されていた。参考のため、条件(2)にて形成した複合微小構造体のSEM観察像を、図14(b)に示した。そして複合微細構造体(1),(2)のCu電極にPtリード線を接続することで、評価用の微小素子(1),(2)を作製した。
スポット径:1μm
走査速度:500μm/s
条件(2);パルスエネルギー:1.2nJ、
スポット径:1μm
走査速度:1000μm/s
図15(a)に示すように、この例で得られたCu−rich組成の複合微細構造体(1)の抵抗温度係数は約1.0×10-3/℃であった。この値はCuの抵抗温度係数(理論値)には一致しないものの、金属材料にみられる正の抵抗温度係数を示すことが確認された。このことから、この複合微細構造体(2)は、例えば、配線,電極等の導電性部材等として利用し得ることがわかった。一方、図15(b)に示すように、Cu2O−rich組成の複合微細構造体(2)の抵抗温度係数は約−15×10-3/℃であり、ここに開示される技術においては「金属部分」として分類されるが、半導体材料にみられる大きな負の抵抗温度係数を示すことが確認された。このことから、この複合微細構造体(2)は、例えば、30℃〜70℃程度の低温領域で高感度な温度センサとして利用し得ることがわかった。なお、図14(a)(b)に示す微小素子(2)において、本例でリソグラフィ技術により作製したCu電極部分を、条件(1)によるレーザ照射により形成し得ることは当業者に理解され得る。このことから、温度センサのより大部分を、ここに開示される複合微細構造体により簡便に製造し得ることがわかった。またこのような複合微細構造体は、加速度センサ、流量センサ、応力センサ等としても利用し得ることは当業者であれば理解できる。
次いで、CuOナノ粒子に代えて、平均粒径が50nmのNiOナノ粒子を用い、微細構造体の形成を試みた。分散媒および還元剤としてEGを、レーザ硬化性樹脂としてPVPを用いた。そしてこれらを、NiOナノ粒子:EG:PVPの割合が質量比で46.9:42.9:10.2となるように配合し、超音波撹拌機にて混合することでベース溶液を調製した。このベース溶液をガラス基板上にスピンコート法により約9μmの膜厚で均一に塗布し、このベース溶液塗膜上に超短パルスレーザを微細なパターンで照射した。超短パルスレーザは、大気中、波長780nm,パルス幅120fs,繰返し周波数80MHzの条件にて発振したレーザを、開口数0.75の対物レンズを用いてスポット径1μmに集光するとともに、100〜1500μm/sの走査速度でパルスエネルギーを下記の表2に示す6通りに変化させて、所定の描画パターンにて照射した。超短パルスレーザを照射後のガラス基板は、EGで洗い流すことで、未反応のベース溶液を除去した。
なお、表2中の表記は、以下を意味する。
「×」は、NiOナノ粒子による微細構造が形成されず、EGにより洗い流されてしまったことを示す。
「NiO」は、XRD回折ピークがほぼNiOに帰属されたことを示す。すなわち、この条件では主として(B)金属酸化物部分が形成されることを示す。
「NiO+Ni」は、XRD回折ピークにおいてNiOとNiとに帰属されるピークがほぼ同程度の割合であったことを示す。すなわち、この条件では主として(A)金属部分が形成されることを示す。
「NiO−rich(溶融)」は、XRD回折ピークがほぼNiOに帰属されたものの、Niに帰属されるピークも検出され、さらにナノ粒子が溶融して線幅の管理が困難であったことを示す。すなわち、この条件では主として(A)金属部分ではあるが、再酸化部分を含む金属部分が形成されることを示す。
また、微細構造が形成された場合には、走査速度とパルスエネルギーとの調整により、かかる微細構造の組成とその割合の制御が可能であることも確認された。すなわち、金属酸化物(ここではNiO)と、その還元物(Ni)との割合を制御して微細構造体を形成できることがわかった。
また、XRD分析の結果同じNiOと同定されても、未還元の状態のNiOは十分に加熱されていないことから、その周囲にPVPが存在して微細構造体の構築に寄与していると考えられる。一方の、再酸化された状態のNiOは十分に加熱された状態であるため、出発材料のNiOナノ粒子が互いに溶着または焼結し、ベース溶液に含まれていたPVPは消失されていると考えられる。
例5のパルスエネルギーが0.24nJの場合に加えて、パルスエネルギーが0.48nJの場合についても走査速度をより細かく変化させ、その他の条件は上記の例5と同様にして、NiOナノ粒子の還元による細線パターンからなる微細構造体の形成を試みた。そして形成された微細構造体の線幅を測定し、その結果を図12に示した。
図12に示されるように、NiOナノ粒子の還元に際して、パルスエネルギーが0.24nJおよび0.48nJの場合は、走査速度に大きく依存することなく線幅が安定して細くなることがわかった。例えば、走査速度が100μm/sと500μm/sとではNiOナノ粒子に照射される超短パルスレーザ量が全く異なるのに対し、線幅は約15μm程度以下を維持しており、細い線幅の微細構造体が安定して得られることがわかった。これは、一回のパルスレーザで供給されたエネルギーが少ないためにNiOナノ粒子の加熱量も抑制されており、次のパルスレーザが照射されたときには一旦加熱されたNiOナノ粒子が冷却されて、温度の集積および雪崩的な蓄熱が起らないためであると推察される。
本例では、特に、パルスエネルギーが0.24nJであれば、走査速度が1500μm/sであっても100μm/sの場合と線幅に顕著な違いが見られないことがわかった。一方の0.48nJでは、走査速度が300μm/s程度以下では過剰なエネルギーが供給されて線幅が広がる傾向が見られるが、400μm/s以上では走査速度に依らずに線幅が安定して保たれることがわかった。また、このように線幅が安定しているとき、その線幅はパルスエネルギーが多い方が太いと考えられる。
さらに、金属酸化物ナノ粒子として、平均粒径が20nmのTiO2ナノ粒子を用い、微細構造体の形成を試みた。分散媒および還元剤としてEGを、レーザ硬化性樹脂としてPVPを用いた。そしてこれらを、TiO2ナノ粒子:EG:PVPの割合が質量比で30:63.5:6.5となるように配合し、超音波撹拌機にて混合することでベース溶液を調製した。このベース溶液をガラス基板上にスピンコート法により約7μmの膜厚で均一に塗布し、このベース溶液塗膜上に超短パルスレーザを微細なパターンで照射した。超短パルスレーザは、大気中、波長780nm,パルス幅120fs,繰返し周波数80MHzの条件にて発振したレーザを、開口数0.75の対物レンズを用いてスポット径1μmに集光した。なお、超短パルスレーザは、パルスエネルギーを1.0nJ、1.1nJまたは1.2nJとし、走査速度を30μm/sとして、所定の描画パターンにて照射した。また、パルスエネルギーを1.1nJとしたときについては、走査速度を20および40μm/sと変化させた条件でも、微細構造体の形成を行った。超短パルスレーザを照射後のガラス基板は、EGで洗い流すことで、未反応のベース溶液を除去した。
なお、形成された微細構造体の組成をXRD分析により確認したところ、パルスエネルギーを1.0nJ,走査速度30μm/sとして得られた構造体の組成はTiO2の単相からなり、TiO2ナノ粒子の還元は行われておらず、レーザ硬化性樹脂であるPVPが硬化して構造体が形成されたものであることがわかった。すなわち、ここに開示される、金属部分と金属酸化物部分とを含む微細構造体は形成されていなかった。一方、パルスエネルギーを1.1nJおよび1.2nJとして得られた構造体の組成はTiOとTiO2とが含まれており、少なくとも一部のTiO2ナノ粒子がTiOに還元され互いに結合して微細構造体を形成していることがわかった。すなわち、還元部分と非還元部分とからなる微細複合構造体が製造されたといえる。TiO2は、金属酸化物の中でも標準生成自由エネルギーが小さく、還元され難い性質を有する。したがって、比較的遅い走査速度で安定して還元を生じさせることができ、線幅の細い微細構造体を安定して形成できることが確認された。
さらに、金属酸化物ナノ粒子として、CuがコアでCuOがシェルのCu/CuOコアシェルナノ粒子(Ionic Liquids Technologies Gmbh社製,粒径<50nm)を用い、微細構造体の形成を試みた。分散媒および還元剤としてEGを、レーザ硬化性樹脂としてPVPを用いた。そしてこれらを、コアシェルナノ粒子:EG:PVPの割合が質量比で60:27:13となるように配合し、超音波撹拌機にて混合することでベース溶液を調製した。このベース溶液をガラス基板上にスピンコート法により約7μmの膜厚で均一に塗布し、このベース溶液塗膜上に超短パルスレーザを微細なパターンで照射した。超短パルスレーザは、大気中、波長780nm,パルス幅120fs,繰返し周波数80MHzの条件にて発振したレーザを、開口数0.75の対物レンズを用いてスポット径1μmに集光した。なお、超短パルスレーザは、パルスエネルギーを0.01nJ、0.05nJ、0.6nJまたは1.2nJの4通りとし、走査速度を50〜2000μm/sの6通りとして、所定の描画パターンにて照射することで、微細構造体の形成を行った。超短パルスレーザを照射後のガラス基板は、EGで洗い流すことで、未反応のベース溶液を除去した。
「有」は、XRD回折ピークにおいてCuOに帰属されるピークが検出された条件であることを示す。なお、具体的に示していないが、「有」で示された条件は、Cuに帰属されるピークが検出されたものと、検出されなかったものとを含む。Cuに帰属されるピークが検出されなかったのは、走査速度が50μm/sでパルスエネルギーが1.2nJの条件である。
「無」は、XRD回折ピークにおいてCuOに帰属されるピークが検出されなかったことを示す。
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
Claims (18)
- 金属酸化物ナノ粒子を含む金属酸化物部分と、
前記金属酸化物ナノ粒子が還元された金属が互いに直接結合されてなる金属部分と、
を有しており、該金属酸化物部分と該金属部分とは、互いに異なる領域を構成しており、
前記金属酸化物部分はレーザ硬化性樹脂を含み、
前記金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一部が前記レーザ硬化性樹脂により互いに結合されている第1金属酸化物部分を含み、
前記金属酸化物部分および前記金属部分が一体化されている、複合微細構造体。 - 前記金属酸化物ナノ粒子は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびチタン(Ti)からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素 の酸化物を含む、請求項1に記載の複合微細構造体。
- 前記金属酸化物部分および前記金属部分の少なくともいずれかの平面における幅もしくは厚みの寸法が100マイクロメートル以下である、請求項1または2に記載の複合微細構造体。
- 前記金属酸化物部分は、
前記金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一部は互いに直接結合されている第2金属酸化物部分を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合微細構造体。 - 前記第1金属酸化物部分と前記第2金属酸化物部分との合計に占める、前記第1金属酸 化物部分の割合は50体積%以上である、請求項4に記載の複合微細構造体。
- 前記金属酸化物ナノ粒子は、少なくとも一部に金属酸化物を含むナノ粒子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合微細構造体。
- 前記金属酸化物ナノ粒子は、コア粒子の表面の少なくとも一部に金属酸化物からなるシェルを含むコアシェルナノ粒子である、請求項6に記載の複合微細構造体。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合微細構造体を含むマイクロタービン部品であって、
歯車形状のマイクロタービン本体と、前記マイクロタービン本体の回転軸となる軸部と、を備え、
前記マイクロタービン本体は、ニッケルを含む前記金属部分により構成されるとともに、
前記軸部は、酸化ニッケルを含む前記金属酸化物部分により構成されている、マイクロタービン部品。 - 請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合微細構造体を含むマイクロ配線であって、
断面径が100マイクロメートル以下で線状のマイクロワイヤ部分と、前記マイクロワイヤ部分の表面を被覆するコーティング部分と、を備え、
前記マイクロワイヤ部分は、銅を含む前記金属部分により構成されるとともに、
前記コーティング部分は、酸化銅を含む前記金属酸化物部分により構成されている、マイクロ配線。 - 請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合微細構造体を含む温度センサであって、
センサ部分と、前記センサ部分の周縁に形成される縁部と、を備え、
前記センサ部分は、銅および酸化銅(I)を含む前記金属部分により構成されるとともに、
前記縁部は、酸化銅(II)を含む前記金属酸化物部分により構成されている、温度センサ。 - 請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合微細構造体を含む物品。
- 金属酸化物ナノ粒子およびレーザ光の照射により硬化するレーザ硬化性樹脂を含む金属 酸化物ナノ粒子含有液を用意すること、
基材の表面に前記金属酸化物ナノ粒子含有液を供給すること、
前記基材の表面に供給された前記金属酸化物ナノ粒子含有液に超短パルスレーザを照射すること、を含み、
前記超短パルスレーザの照射により、
前記レーザ硬化性樹脂が硬化された樹脂部分と前記金属酸化物ナノ粒子とを含む金属 酸化物部分と、
前記金属酸化物ナノ粒子が還元されて互いに結合されてなる金属部分と、
を形成し、
ここで、前記金属酸化物部分の形成において前記金属酸化物ナノ粒子に供給されるパルスエネルギー量と、前記金属部分の形成において前記金属酸化物ナノ粒子に供給されるパルスエネルギー量とが相互に異なるように調整して、前記パルスレーザ照射によって前記金属部分と前記金属酸化物部分とを造り分けることを特徴とする、複合微細構造体の製造 方法。 - 前記金属酸化物ナノ粒子は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびチタン(Ti)の酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項12に記載の製造方法。
- 前記レーザ硬化性樹脂は、ポリビニルピロリドンを含む、請求項12または13に記載の製造方法。
- 前記金属酸化物ナノ粒子含有液は、さらに、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ギ酸、過酸化水素水およびトルエンからなる群から選択される少なくとも1種の還元剤を含む、請求項12〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記金属酸化物ナノ粒子含有液は、さらに、ポリビニルピロリドンおよびシリコーン樹脂の少なくとも一方の分散剤を含む、請求項12〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記金属酸化物ナノ粒子は、少なくとも一部に金属酸化物を含むナノ粒子である、請求項12〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記金属酸化物ナノ粒子は、コア粒子の表面の少なくとも一部に金属酸化物からなるシェルを含むコアシェルナノ粒子である、請求項17に記載の製造方法。
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